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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成19ワ11899不正競争行為差止等請求事件 判例 不正競争防止法
平成29ワ14637 商標権侵害行為差止等請求事件 判例 商標
平成18ワ10470不正競争行為差止等請求事件 判例 不正競争防止法
平成21ワ33872商標権侵害差止等請求事件 判例 商標
平成20ワ12092損害賠償等請求事件 判例 不正競争防止法
関連ワード 周知表示混同惹起行為(2条1項1号) /  顧客吸引力(グッドウィル) /  周知性 /  広く認識 /  需要者 /  全国的に周知 /  顧客層 /  混同行為 /  信義則 /  商品等表示 /  他人性 /  他人の商品 /  類似性(類似) /  混同のおそれ(混同) /  誤認混同 /  過失 /  共同不法行為 /  因果関係 /  権利濫用(権利の濫用) /  弁護士費用 /  信用回復措置 /  デザイン /  ただ乗り(フリーライド) /  著名表示(著名性) /  代理人 /  代表者 /  デッドコピー /  混同のおそれ(混同) /  保有者 /  品質等誤認表示(誤認) /  損害賠償 /  損害額 /  販売数量 / 
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事件 平成 21年 (ワ) 16809号 損害賠償請求事件
平成 21年 (ワ) 33956号 損害賠償請求事件
静岡市<以下略>
本訴原告(反訴被告) 株式会社クジラ
同訴訟代理人弁護士加藤静富 愛知県海部郡<以下略>
本訴被告(反訴原告)株式会社中村 愛知県豊田市<以下略>
本訴被告 A
上記両名訴訟代理人弁護士名嶋聰郎
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2010/04/23
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本訴被告(反訴原告)株式会社中村及び本訴被告Aは,本訴原告(反訴被告)に対し,各自140万円及びこれに対する平成20年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 本訴原告(反訴被告)のその余の本訴請求をいずれも棄却する。
3 本訴被告(反訴原告)株式会社中村の反訴請求を棄却する。
4 訴訟費用は,本訴原告(反訴被告)と本訴被告(反訴原告)株式会社中村との間においては,本訴,反訴を通じてこれを6分し,その5を本訴原告(反訴被告)の負担とし,その余は本訴被告(反訴原告)株式会社中村の負担とし,本訴原告(反訴被告)と本訴被告Aとの間においては,これを10分し,その9を本訴原告(反訴被告)の負担とし,その余は本訴被告Aの負担とする。
5 この判決の第1項は,仮に執行することができる。
-2-
事実及び理由
請求
1本訴(1) 本訴被告(反訴原告)株式会社中村及び本訴被告Aは,本訴原告(反訴被告)に対し,各自1591万2588円及びこれに対する平成20年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 本訴被告(反訴原告)株式会社中村及び本訴被告Aは,本訴原告(反訴被告)に対し,本判決確定の日の翌日から30日間,別紙謝罪文目録記載の謝罪広告を本訴原告(反訴被告)がインターネット楽天モール上に主催する店舗「元気健康本舗 」のホームページに掲載せよ。 genki212反訴本訴原告(反訴被告)は,本訴被告(反訴原告)株式会社中村に対し,128万9500円を支払え。
事案の概要
1 本訴事件は,本訴被告(反訴原告)株式会社中村(以下「被告会社」という。)及び本訴被告A(以下「被告A」という。)が本訴原告(反訴被告。以下「原告」という。)の商品等表示として周知性を有する別紙標章目録記載の標章(以下「本件標章」という。)を付した商品(樹液シート)を共同で販売したことが主位的には不正競争(不正競争防止法2条1項1号)に,予備的には民法上の一般不法行為に該当するとして,原告が,被告らに対し,連帯して,不正競争防止法4条(予備的に民法719条1項)に基づく損害賠償請求として,損害金元金合計1591万2588円及びこれに対する不正競争又は不法行為の後である平成20年4月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,不正競争防止法14条に基づく信用回復措置として,インターネットモール(楽天モール)上の原告店舗(元気健康本舗 )のホームページに別紙謝罪文目録記載の謝罪広告を30日 genki21間掲載することを求める事案である。
反訴事件は,被告会社が原告との取引関係の終了に伴い在庫品(本件標章の付された樹液シート)を売却処分することについて,原告が合意ないし承諾していたにもかかわらず,その後,原告が上記売却の中止を求めるなどしたため,被告会社による在庫品の処分ができなくなったとして,被告会社が,原告に対し,債務不履行又は不法行為による損害賠償請求として,在庫品相当額128万9500円の支払を求める事案である。
2 前提となる事実(証拠等を掲記した事実を除き,当事者間に争いがない。)(1) 当事者ア 原告は,インターネットでの広告業務等を目的として昭和62年5月15日に設立された株式会社である。(弁論の全趣旨)イ 被告会社は,健康関連商品の開発,製造,販売等を目的として昭和59年11月9日に設立された株式会社であり,これらの商品を自社ブランドで販売するほか,他社にOEM( )供給し Original Equipment Manufacturingている。(甲3)ウ 被告Aは,肩書地において「竹工房華炭」という屋号で竹酢液関連商品の製造,販売を行っている者である。
(2) 原告は,平成13年1月30日ころ,インターネットモールの一つであるgenki21 http://www.rakuten. 楽天市場にインターネット店舗「元気健康本舗 」()を立ち上げ,同年4月ころから,同店舗(以下「原告店 ne.jp/gold/genki21/舗」という。)において,樹液シート(粉末の竹酢,木酢等をシートで包み,貼り付けた部分から老廃物である体液を吸い出す健康シートで,ノーマルタイプのものと唐辛子入りタイプのものとがある。)の販売をしていたが,遅くとも平成14年初めころから,上記樹液シートに本件標章を付して販売するようになった。(甲1,2,7,20,原告代表者本人)なお,上記樹液シートは,被告会社が製造し,これを購入した有限会社名翔(以下「名翔」という。)が袋詰め等して有限会社ロータスAki(以下「ロータスAki」という。)に卸したものを原告が仕入れていたものである。(甲29,証人B。なお,名翔及びロータスAkiが原告の代理店か否か争いがある。)(3) 原告は,平成19年11月までに,上記樹液シートの供給元(OEM供給元)を被告会社とは別の製造業者に変更した。(甲7,29)(4) 被告Aは,平成19年10月ころまでに,楽天市場オークション,ヤフーオークション及びビッダーズオークションに「樹液ドットコム」というインターネット商店を出店し,被告会社の委託を受けて,本件標章を付した樹液シート(上記(3)のとおり,原告がOEM供給元を被告会社とは別の製造業者に変更したことによって,被告会社の元に残った在庫品)を廉価で販売するようになったが(以下,この販売を「本件販売」という。),平成20年4月ころ,上記出店を削除した。(甲4〜7,10)3争点(1) 本件標章は被告会社にとって「他人の」商品等表示か(本訴)(2) 本件標章は原告の商品等表示として需要者の間に広く認識されていたか(本訴)(3) 本件販売について不正競争の成否(本訴主位的請求)(4) 本件販売について一般不法行為の成否(本訴予備的請求)(5) 原告による債務不履行・不法行為の成否(反訴)(6) 原告による本訴請求は,権利の濫用に該当するか(本訴)(7) 損害ア 原告の損害(本訴)イ 被告会社の損害(反訴)(8) 信用回復措置の要否(本訴)4 争点に関する当事者の主張(1) 争点(1)(本件標章は被告会社にとって「他人の」商品等表示か〔本訴〕)についてア 被告ら(ア) 不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争に該当するためには,その商品等表示が他人のものであること(商品等表示の「他人性」)が必要であるが,この「他人性」は,法的概念として規範的概念であり,不正競争防止法の制度趣旨との関係において規範的評価を受けるものであって,形式的には「他人性」を具備するとみられる場合であっても,規範的,価値的にみて「他人性」を欠くと評価される場合がある。
例えば,他人が使用する商品等表示周知性の形成,獲得に協同,協力,貢献をした者が当該商品等表示を使用する場合には,他人が営々として形成した周知商品等表示ただ乗り(フリーライド)するダーティな行為とは本質的に異なるから,不正競争防止法の趣旨からして,規範的に「他人性」を欠くものと評価するのが正当である。東京高等裁判所平成16年(ネ)第2000号平成17年3月16日判決(アザレ事件判決)においても,共同事業関係の解消に伴い,法人格が異なる他人の商品等表示を使用した行為について「不正競争防止法2条1項1号所定の『他人の』表示に当たらない」として,不正競争の成立が否定されている。
(イ) 本件において,本件標章に対して一定の信頼が形成され,市場において高い評価が与えられていたとしても,その基礎は,本件標章の表示そのものではなく,その表示の下に販売されていた製品の評価(より具体的には,製品の品質,効果など,製品自体の実質的価値)にあったというべきである。
しかるところ,上記製品(樹液シート)は,被告会社が幾多の投資,研究を重ね,開発,改良の努力をしてきたもので,被告会社は,その技術について取得した実用新案権(登録第3110497号。なお,既に実用新案技術評価を受けており,その権利行使の前提条件も備えている。)を駆使して,原告に上記製品を供給してきたのである。また,被告会社は,本件標章を付した包装紙のデザインを担当したほか,その他の点においても,この種製品の専門家として原告にアドバイスをしてきたのであり,原告は,被告会社による上記のような商品開発,商品供給に全面的に依存して,利益を上げてきたものである。
(ウ) このように,被告会社は,本件標章に対する顧客の信頼,顧客吸引力の形成の源泉であったのであり,上記製品の実質的価値に対する信頼の基礎を主体的に形成してきたのであるから,不正競争防止法の趣旨に照らし,本件標章は,被告会社にとって「他人の」商品等表示に当たらないものと評価するのが相当である。
イ原告被告会社と原告は,単なるOEM製品の製造,供給者と製品メーカーの関係であり,原告が原告製品を販売する際,当該製品が被告会社の優れた技術力により開発されたものである(被告会社の実用新案製品である)とか,パッケージデザインが被告会社により著作されたものであるなど,被告会社の名前を出して宣伝広告をしたことはなく,これに依拠したこともない(なお,樹液シートは,静岡県富士市の株式会社花工房三皇が約10年前に開発して売り出したのが最初であり,その後,被告会社を初めとして,類似品を販売する業者が続出したもので,被告会社が独自に開発したものではない。)。原告は,飽くまでも自社製品を販売してきたもので,被告会社から共同(協同)事業者であるなどといわれる筋合いはない。
そもそも,OEM製造された商品は,相手先独自の商品であり,これを販売する権利は独占的に相手先にあるのであって,相手先の許諾も受けずに勝手にこれを販売することが,相手先商品との混同を生じさせるものとして,不正競争又は不法行為に該当することは当然である。
(2) 争点(2)(本件標章は原告の商品等表示として需要者の間に広く認識されていたか〔本訴〕)についてア原告(ア) 不正競争防止法2条1項1号の「需要者の間に広く認識されている」という要件(周知性)は,あまり厳格に考えるべきものではなく,不正競争としての混同行為から守られるべき「保護に値するある程度の事実状態」が形成されていれば足りると一般に解されている。
したがって,ネット店舗という新たな形態の市場において,ある商品等表示が同号の「周知性」を獲得しているかどうかは,そのネット市場において,当該商品等表示について「保護に値するある程度の事実状態」が形成されているかどうかを,ネット市場の特殊性,すなわち,?アクセスの特殊性(キーワードでアクセスするという特殊性),?店舗形成の特殊性(同じキーワードでもいかに多数のアクセスを優先的に獲得するかというネット戦略上の特殊性),?宣伝方法の特殊性(顧客のメールアドレスをできるだけ多く獲得してリピーター客を増やすための広告・宣伝方法の特殊性),?混同が生じる場合の特殊性(キーワード検索による混同の容易性)等を考慮して判断することになる(この点,被告らは,市場における他の競合企業との数量的な比較やシェアなどを問題にしているが,筋違いである。)。
(イ) 原告は,平成13年1月30日に楽天市場で原告店舗を立ち上げ,本件樹液シート商品を中心とするショップ展開をしてきたが,原告店舗の立上げ以降,ネット上の検索サイトに広告を出したり,ネットモール商店で景品の提供等を行うなどの方法により数多くのメールアドレスを取得し,取得したメールアドレスに定期的にメールマガジンを配信することによって,ネットショップとそこで出品される商品の宣伝に努めてきた。その結果,原告店舗は,?ネットモール大手の楽天が発行する「楽天マガジン」2002年2月号の「いい店みつけた!」コーナーで取り上げられ,?翌3月号では「8000店舗12ジャンルから選ばれた優秀店を総力取材全22店舗」として「楽天ショップ・オブ・ザ・イヤー2001」の1店舗に選ばれた。また,原告店舗は,?月刊ガイア2002年9月号の「ガイアインタビュー」コーナーで,?就職ガイド誌「JOB」2002年9月19日号の「チャレンジ元気企業ここにアリ!」コーナーで,それぞれ記事として取り上げられ,?平成15年3月18日の静岡新聞に掲載されたNTT西日本の全面広告において,掲載4企業の一つとして紹介された。その他,?月刊誌「頭で儲ける時代」2004年5月号で「楽天の共同購入で樹液シートが12週連続1位 発売開始後4年で900万枚売る」と題して,原告店舗に関する特集記事が組まれ,?2004年版「ヒット商品全ガイド」にも,前年のヒット商品330品目中の一つとして原告の「薬草 樹液シーgenki21トEX」が取り上げられた。
そして,原告は,実際に注文をした顧客がリピーター客として定着するよう,優良な商品を時間内に確実に配送する商品保管,配送システムの確立,電子メールによる商品相談にいつでも応じることのできる体制の確立等の努力を重ねた結果,原告店舗の総売上げ(全額がネットショップの売上げである。)は,平成18年度(20期)が1億9800万円,平成19年度(21期)が1億4900万円に上っており(なお,売上げに占める顧客の8割以上がリピーター客である。),被告らによる不正競争の影響が一番大きかったと考えられる平成19年10月から平成20年5月までの間の時期でさえ,原告の樹液シート商品の売上げは,我が国において圧倒的に多く利用されているショッピングサイトである「楽天市場」のフットケア用品ジャンルにおいて,常にトップであった(甲25の1〜14)。
さらに,原告店舗には,平成18年度(20期),平成19年度(21期)とも,年間10万3500人前後が平均年4回程度(年間延べ45万人前後)アクセスしており(顧客数,アクセス数とも21期が微増),平成19年8月ころには,大手検索サイトである 及びYahoo!において,「樹液シート」又は「樹液シート 格安」による検 Google索結果が1位になっている(なお,原告は,検索エンジン最適化〔SEO〕技術を利用しておらず,過去に利用したこともない。)。
(ウ) 以上のとおり,原告の樹液シートは原告店舗へのアクセス数のみならず販売額においても各ショッピングサイトにおいて常にトップの売上げを上げるなど,原告店舗は一定の安定したマーケットを有したネットショップとして定着していたのであって,本件標章は,平成19年時点において,顧客の間でよく知られた状態にあった。
そして,これらの顧客は,キーワード「 」により容易に原告 genki21店舗や原告の商品にアクセスできるネット市場環境が整っており,他人がこれらの営業表示,商品表示を盗用した商品を別のネットショップで販売すれば,原告の顧客は,これらショップにも容易にアクセスすることができることになるから,原告商品との混同を生じる可能性が大きい。
したがって,本件標章については,不正競争防止法上,他人による混同行為からの「保護に値するある程度の事実状態」が形成されているということができるから,「周知性」を獲得していることは明らかである。
イ 被告ら(ア) 原告は,本件標章の周知性について,全国規模であると主張するのか,一地域に限定的なものと主張するのか,あるいは,インターネット市場全般において周知であると主張するのか明らかにしておらず,その主張はあいまいで,基本的に失当である。
仮に,原告が本件標章についてインターネット上全般的に周知である旨主張しているとすれば,今日,インターネット市場は巨大な規模に発展しており(インターネット調査機関サイトによると,ネットショップ,ブログ販売サイト数は300万〜400万とされている。),インターネット市場の一つである「楽天市場」に限っても,その規模は,出店数約10万店舗,商品総数約4900万点,1日の売上げ約29億円という巨大なものであり,原告の販売していた樹液シートは,この約4900万点の商品の一つにとどまるとともに,その売上げも日額7万円程度にすぎない。また,樹液シートについてみると,楽天市場における出品数は1355件,販売店数は277店舗( においては712店 Yahoo!舗)にも達しており,原告による販売規模がいかに小さいかが明らかである。この膨大なサイトの中で「周知性」を獲得したと判断できる基準すら不明であるが,少なくとも,それが容易であるといい難いことは明らかであり,本件標章が原告の商品等表示として需要者の間に広く認識されていたと認められないことは,この点からも明白である。
ちなみに,被告会社自身,竹炭健康志向商品の開発業者として,これを独自ブランドで販売しており,平成15年度から平成19年度にかけて,その売上総額は,毎年4億円超から5億5000万円に達している。
このうち,原告に対する販売量は微々たるもの(最も多い平成17年度でも4%であり,その他の年度においては1〜2%である。)にとどまっており,被告会社のその他の取引先(T社につき37〜49%,M社につき25〜45%,I社につき2〜13%)と比較しても,あるいは,この種製品の市場規模に照らしても,本件標章が原告の商品等表示として周知性を獲得していたとは考え難い。
(イ) 原告は, や における検索結果の順位について主張する Yahoo! Googleが,現在,検索エンジンにおける検索結果最適化技術(SEO技術)は商業化され,技巧的に作為されている上,検索結果の順位は売買されている(検索サイト業者に広告料を支払えば,一定期間,上位に掲載されるようになっている。)のであるから,検索結果の上位性が直ちに周知性の指標であるとはいえない。また,検索結果の順位は,検索用語によっても大きく影響を受けるものであり,例えば,「樹液シート 格安」に代えて「樹液シート 激安」,「樹液シート 人気」,「樹液シートデトックス」などの用語で検索すると,原告店舗は上位に表示されないのであって,「樹液シート 格安」という特殊な切り口で上位に表示されるからといって,本件標章の周知性の根拠とはならない。
さらに,原告は,本件標章を付した樹液シートの販売額のランクが一定期間1位であった(甲25の1〜14)と主張するが,楽天市場というネット空間において性質が異なるいくつもの販売チャンネルがある中で,「共同購入」という特殊な販売形態(購入数量が多くなるほど単価を安くする販売方法)による販売額が1位になったというにすぎないものである上,楽天市場における天文学的な商品群中「フットケア用品」というジャンル(「ダイエット・健康・介護」>「健康用品」>「リラックス用品」>「フットケア用品」という階層関係にあり,「フットケア用品」にたどり着くことも容易とはいえない。)に分類される商品の中での順位について論じているにすぎないもので,本件標章の周知性を裏付けるものとはいえない。
なお,原告店舗へのアクセス数は,ウィンドウショッピングのようにクリックして原告店舗に立ち寄った者を含む総数を意味するにすぎないもので,本件標章を付した製品の購入者数を意味するものでないばかりか,原告店舗にアクセスした者が本件標章を志向していたかどうかも不明である。すなわち,樹液シートに関係するサイトだけでも100万件にも達している中で,樹液シートに関心を持つ者が関連したサイトを次々と検索して比較検討する過程において,たまたま原告のサイトをクリックしたにすぎないということが相当数含まれているはずであるから,原告店舗へのアクセス数を本件標章の周知性の指標とすることには無理があるというべきである。
また,原告店舗が紹介された雑誌等(7点)についても,発行部数が明らかでない上,各誌とも原告店舗を1回だけ取り上げたことがあるにすぎないのであって,これによって本件標章が周知性を獲得したとはいえない。
(ウ) 原告は,不正競争防止法2条1項1号の「需要者の間に広く認識されている」という要件(周知性)について,不正競争としての混同行為から守られるべき「保護に値するある程度の事実状態」が形成されていれば足りると主張するが,独自の見解であり,一般的な解釈ではない。さらに,原告の見解を前提としても,そもそも「保護に値するある程度の事実状態」とは何なのかがあいまいである上,原告は,本件訴訟において,原告店舗を展開するに当たってどのような努力をしたかということを説明するのみで,ネット市場において周知性が獲得されることとの関係で法的に意味のある主張をしていない。
(3) 争点(3)(本件販売について不正競争の成否〔本訴主位的請求〕)についてア原告被告会社及び被告Aが原告の商品等表示として周知性を有する本件標章を付した商品(樹液シート)を共同で販売したことは,不正競争防止法2条1項1号の不正競争に該当する。
イ 被告ら争う。
(4) 争点(4)(本件販売について一般不法行為の成否〔本訴予備的請求〕)についてア原告(ア) 被告らは,共謀して,平成19年10月から平成20年4月まで,原告が平成13年以来楽天市場オークション,ヤフーオークション及びビッダーズオークションに出店して販売し,その当時各ショッピングサイトにおけるフットケア商品ジャンルにおいて最上位の売上げにあった原告の樹液シート商品をデッドコピーした樹液シート商品を,上記各ショッピングサイトのオークションサイトに出品して本件販売をした。
これは,原告商品の著名性,原告商品に対する消費者の信頼にただ乗りする違法行為であり,被告らは上記行為が違法であることを知りながら,又は過失によりこれを知らないで行ったものである。
したがって,被告らの上記行為は,民法上の一般不法行為を構成する。
(イ) 原告は,名翔及びロータスAkiと被告会社との間でどのようなやり取りがあったか知らないが,本件販売について承諾したということはあり得ない。
名翔及びロータスAkiは,原告とは独立した商取引の当事者であって,原告の代理店(代理人)ではなく,原告が名翔及びロータスAkiに代理権を授与したこともない。
また,原告は,名翔及びロータスAkiが原告の代理店(代理人)であることについて自白したこともない。
イ被告ら(ア) 一般不法行為の成立は争う。
(イ) 被告らは,原告代理人である代理店会社との間で協議し,在庫処分の了解を得ており,本件販売には違法性がない。
すなわち,被告会社は,原告との取引関係を解消するに際し,平成19年6月ころ,原告の代理店(代理人)である名翔及びロータスAkiと在庫品の処理について話し合いを行い,名翔及びロータスAkiから,本件販売について承諾を得,この承諾を受けて,被告会社が被告Aに委託して本件販売を始めたものである。原告は,最終準備書面において,名翔及びロータスAkiが原告の代理店(代理人)ではない旨の主張をしているが,訴状において,名翔及びロータスAkiが原告の代理店(代理人)であることを前提として,原告と被告会社との間にOEM供給契約が存在する旨の主張をしていたのであるから,名翔及びロータスAkiが原告の代理店(代理人)であることについては裁判上の自白が成立しており,これに反する原告の上記主張は,自白の拘束力に反する上,時機に後れた攻撃防御方法として許されない。また,実体的にみても,名翔及びロータスAkiは,飽くまでも原告のために被告会社に樹液シートの製造を委託し,原告のためにこれを買い取っていたのであるから,両社が原告の代理店であり,上記在庫品の処分についても代理権を有していたことは真実である。
(5) 争点(5)(原告による債務不履行・不法行為の成否〔反訴〕)についてア 被告ら原告と被告会社との間においては,樹液シートのOEM供給が長く継続しており,成文化されてはいないが,「本件商品を安定して継続的に供給する趣旨のOEM商品供給に関する基本契約」(以下「本件基本契約」という。)が成立していたところ,原告の発注量は大量であり,被告会社がこれに応じて安定供給を続け,原告との取引関係を維持するためには,常に相当量の適正在庫を確保しておくことが不可欠であった。
このように,本件基本契約を維持するために常に相当量の在庫を確保しておくことが不可欠である以上,契約解消の場面においてこの負担を公平に清算させるためには,他に合意が存在しない限り,在庫保有者側に処分権があると解するのが最も合理的であり,実際,契約書に成文化される場合にも,その趣旨の条項が置かれることが多い。
原告と被告会社との間においては,上記のとおり,成文化された合意は存在しないが,当事者の意思解釈として,上記の趣旨の黙示の合意(継続的安定供給に備えての在庫品については,原告がこれを引き取らない場合,供給元である被告会社が一定期間に限って処分することを容認する旨の黙示の合意)があったものと考えるのが相当である。
また,上記(4)のとおり,被告会社は,原告との取引関係を解消するに際し,平成19年6月ころ,原告の代理店(代理人)である名翔及びロータスAkiと在庫品の処理について話し合いを行い,名翔及びロータスAkiから,本件販売について承諾を得,この承諾を受けて,被告会社が被告Aに委託して本件販売を始めたところ,原告が黙示の合意ないし上記承諾を無視して本件販売の中止を要求した(債務不履行又は不法行為)ため,被告会社による在庫品の処分が不可能となり,後記(7)イのとおり,被告会社に在庫品価額に相当する損害が発生した。
イ原告否認ないし争う。
原告と被告会社との間には,ロータスAki及び名翔を介しての間接的な取引関係(OEM供給関係)が存在するのみであり,直接の契約関係(本件基本契約)は成立していない。また,前記のとおり,ロータスAki及び名翔は,原告の代理店(代理人)ではない。
なお,被告会社は,本件基本契約を維持するためには常に相当量の在庫を確保しておくことが不可欠である旨主張するが,在庫の調整は原告において行うことであり,被告会社としては,原告の注文を受けてから充填作業をすることで原告の注文に対応することが十分に可能であったはずである。
また,本件基本契約の終了に当たって,在庫処分する権利を留保していたなどの被告らの解釈は,商常識に反するもので,主張自体失当である。
(6) 争点(6)(原告による本訴請求は,権利の濫用に該当するか〔本訴〕)についてア 被告ら本件販売について,原告による明示又は黙示の承諾がいずれもなかったとしても,本件基本契約のように商品を継続的に安定して供給する趣旨のOEM商品供給契約においては,信義則上,その解消時には,継続的安定供給に備えて準備していた在庫品について,一定期間内に限り,その処分が許容されていると解すべきである。
本件販売は,信義則上認められる短期間のやむを得ない在庫品処分行為であり,それは「他人が形成した信用にただ乗りして不当な利益を図ること」を禁じて適正・公正な自由競争市場を形成することを目的としている不正競争防止法との関係では,その規制対象の範囲外の行為である。
したがって,本訴において,原告が被告らに対し,本件販売が違法であるとして損害賠償を請求するのは,権利の濫用である。
イ原告否認ないし争う。
被告らによる本件販売は,本件標章に対する消費者の信頼にただ乗りするもので,原告による承諾がない以上,違法(不法行為)であり,原告の本訴請求が権利の濫用であるとはいえない。
(7)ア 争点(7)ア(原告の損害〔本訴〕)について(ア) 原告原告は,被告らの不正競争又は不法行為により,以下の損害を受けた。
a ネット店舗の信用毀損及びその回復のための損害 1000万円(a) 顧客がインターネットを検索して特定店舗の特定の商品を買う場合,通常,その特定店舗,特定商品を意図的に検索して購入するものであり,どのインターネットモールの販売においても,繰り返し注文をする顧客がその売上げの主要部分を占めている。その顧客と当該店舗ないしその商品との間には深い信頼関係が築かれていることが通常の商店における取引以上に重要な要素となっており,実際,原告店舗の顧客の8割以上は,リピーター顧客である。
インターネットに開設する店舗がリピーター顧客を獲得するまでには,?ネット上の検索サイトに広告を出したり,ネットモール商店で景品の提供等をすることにより,数多くのメールアドレスを取得する過程,?取得したメールアドレスへ定期的にメールマガジンを配信して商品の宣伝等をする過程,?実際に注文した顧客に対して優良な商品を適切なサービスとともに提供してその信頼を獲得する過程など,膨大な投資と手間をかけることが必要である。
被告らの行為により,原告の顧客において,原告に内部分裂等何か問題が発生したのではないか,「 」樹液シートはそんな genki21に安売りできる商品なのか(今まで高すぎる値段で売っていたのではないか)などの疑問が生じることは必至であり,せっかく築かれていたリピーター客と原告店舗ないし商品との間の信頼関係,すなわち,原告店舗の信用は著しく傷つけられた。その信用毀損による損害額は500万円を下らない。
(b) 原告は,被告らの不正競争又は不法行為により,300名のリピーター客を失った。これを回復するためには,新たに少なくとも3000個のメールアドレスを取得し,これに対して上記のような働きかけを行って,新たなリピーター客に育てる必要があるが,そのために必要な宣伝,広告,人手に要する費用は,少なく見積もっても合計500万円は下らない。
b 販売減少による損害 451万2588円(a) 上記2(4)のとおり,被告らは,平成19年10月から平成20年4月まで,上記の不正競争又は不法行為を行っていたが,被告らによる不正競争又は不法行為の結果が反映され始めた平成19年11月から平成20年3月まで(5か月間)の原告の樹液シートの売上げ(PC共同購入システムによるもの)を前年度の同期間(平成18年11月から平成19年3月まで)のそれと比較すると,後者が1220万5230円であるのに対し,前者は764万7060円にとどまっており,この5か月間の売上げが前年度比で455万8170円(月額平均91万1634円)減少した。
(b) 被告らによる不正競争又は不法行為が終了した後,原告の売上げが回復するまでには1年間を要するところ,原告の売上げは徐々に(1次関数的,直線的に)回復するものとして,原告の売上回復過程で受ける販売減少額の合計は,次式のとおり,546万9804円である。
911,634円/月×12月/2=5,469,804円(c) 上記(a),(b)の合計額1002万7974円が被告らの不正競争又は不法行為による原告の樹液シートの販売減少額であるところ,原告の樹液シートの販売額の50%が仕入れ価格であり,その他,楽天株式会社に対して共同購入システム利用料金として最大5%の手数料を支払う必要があるから,少なくとも上記販売減少額に45%を乗じた金額(451万2588円)が,原告が販売減少により受けた損害額ということになる。
c 弁護士費用 140万円被告らの不正競争又は不法行為による原告の上記損害の回復をするために要した弁護士費用のうち140万円が,被告らの不正競争又は不法行為と相当因果関係のある損害として認定されるべきである。
(イ) 被告ら否認ないし争う。
原告は,ネット店舗の信用毀損及びその回復のための損害が各500万円であると主張するが,その具体的積算根拠が一切不明である上,被告らの行為との間に相当因果関係があることについての具体的主張も欠けており,主張自体失当である。
また,原告商品の売上げが減少したとしても,その原因は,原告が仕入先を被告会社から別の業者に変更したことにより,原告商品の品質が低下し,客離れを起こしたことにあると考えるのが最も自然である。
「樹液ドットコム」というインターネット商店(オークションであり,「共同購入」という原告の販売チャンネルとは需要者層が異なる。)において被告Aが販売した樹液シートの総額は31万4400円にすぎないもので,これによって原告の主張するような売上げの減少があったとは考えられない。
そもそも,商品の売上げは,その品質,性状のほか,消費者の好みの変化,流行の変化,景気の動向,宣伝量,宣伝方法の変化などの様々な理由で変化し得るものであるにもかかわらず,原告は,このような事情の存在については一切触れず,短絡的に,自社の売上額の変化をすべて被告らの在庫処理のせいにしているにすぎないのであって,被告らの行為と原告の損害との間に相当因果関係があることについての具体的主張が欠けている。
イ 争点(7)イ(被告会社の損害〔反訴〕)について(ア) 被告会社a 被告会社は,原告から本件販売の中止を求められ(債務不履行又は不法行為),在庫品の処分をすることが不可能になった。
その後,被告会社は,製品の品質劣化を避けるため,確保していた内容物を他の商品に転用するなどして損害の拡大を防いだが,最終的に次の数量の在庫品を抱えることとなった。
(a) 商品在庫? 「クジラ樹液シートノーマル」 2万4000枚? 「クジラ樹液シート唐辛子」 1万7000枚(b) 包装紙ロール在庫? 「クジラ樹液シートノーマル」用 9000m? 「クジラ樹液シート唐辛子」用 8000mb 上記a(a)の商品在庫について,1枚当たりの卸値は,?クジラ樹液シートノーマルが21.5円,?クジラ樹液シート唐辛子が22.5円であり,また,上記a(b)の包装紙ロールについて,1メートル当たりの卸値は,いずれも23円である。
c 上記a,bによれば,被告会社が受けた損害額は,商品在庫につい24,000 21.5 17,000 22.5 て合計89万8500円(= 枚× 円/枚+ 枚×9,000 円/枚),包装紙ロール在庫について合計39万1000円(=m× 円/m+ m× 円/m)であるから,その合計額は,1 23 8,000 2328万9500円である。
(イ) 原告否認ないし争う。
(8) 争点(8)(信用回復措置の要否〔本訴〕)についてア原告原告は,被告らの不正競争行為によって営業上甚大な信用毀損をされたから,被告らに対し,不正競争防止法14条に基づき,その信用回復の措置を請求する。
その信用回復のためには,少なくとも,被告らに対し,本訴判決確定後,別紙謝罪文目録記載の文章を原告店舗のホームページに1か月間掲載させる必要がある。
イ 被告ら否認ないし争う。
当裁判所の判断
1 争点(1)(本件標章は被告会社にとって「他人の」商品等表示か〔本訴〕)について被告らは,本件標章の付された樹液シート(以下「本件樹液シート」という。)について,この種商品の専門家である被告会社が幾多の投資,研究を重ねて考案した実用新案権(登録第3110497号)を実施して製造したものであり,その包装紙のデザインも担当するなどして,本件標章に対する顧客の信頼や顧客吸引力を主体的に形成してきたものであるから,本件標章は被告会社にとって「他人の」商品等表示であるとはいえない旨主張する。
しかしながら,不正競争防止法2条1項1号は,自己の商品,営業を他人の商品,営業と誤認混同させる行為,すなわち商品主体,営業主体の混同を生じさせる行為を「不正競争」として規制するものであり,当該商品の製造に用いられた技術やアイディア等を保護するものではないから,被告会社がその実用新案権や専門知識を駆使して本件樹液シートを製造しており,被告会社の有する技術が本件樹液シートに具現化されていたとしても,それだけで本件標章が被告会社の商品等を表示する標章となるものではない(なお,本件樹液シートが上記実用新案に係る考案を実施したものであることについては,立証がない。)。同号における「他人」とは,商品等表示の主体として,当該商品の製造,販売等の業務に主体的に関与する者を指称するものであり,当該表示を付した商品の品質等を管理し,販売価格や販売数量を自ら決定する者がこれに該当するものと解されるところ,証拠(甲1,7,原告代表者本人)及び弁論の全趣旨によれば,本件において,自己の判断と責任において本件標章の付された商品を市場に置き,消費者の間において本件標章に化体された信用の主体として認識され得る立場にあったのは原告であると認められる。他方,被告会社は,名翔からの注文に応じて本件標章の付された樹液シート(袋詰めされる前の半製品)を製造し,これを名翔に卸売りしていたにすぎないもので(証人B,同C),本件全証拠を検討しても,本件標章が被告会社の出所であることを需要者に認識させるような態様で使用されていたとは認められないから,被告会社にとって,本件標章は「他人の」標章に当たるというべきである。
なお,被告らは,東京高等裁判所平成16年(ネ)第2000号平成17年3月16日判決(アザレ事件判決)について言及するが,同判決は,ある商品等表示について周知性を獲得した企業グループが分裂し,その後,同グループ内のある事業者が当該商品等表示を使用したという事案に関するもので,本件とは前提となる事実関係を全く異にしているから,本件には当てはまらないというべきである。
2 争点(2)(本件標章は原告の商品等表示として需要者の間に広く認識されていたか〔本訴〕)について(1) 原告は,?原告店舗における本件樹液シートの販売額及びそのランキング,?原告店舗へのアクセス数,?インターネット検索サイトにおける原告店舗の検索結果,?雑誌等における原告店舗の紹介状況等を理由として,本件販売当時,本件標章が原告の商品等表示として需要者の間に広く認識されていた旨主張するので,以下,その主張の当否について検討する。
なお,証拠(甲4〜6)及び弁論の全趣旨によれば,本件販売はインターネット上の日本語のオークションサイト(楽天市場オークション,ヤフーオークション,ビッダーズオークション)で行われたもので,日本全国の需要者を販売対象としていたものであることが認められるから,本件販売が不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争に該当するというためには,基本的に,本件標章が全国的に周知であったこと(需要者の間に広く認識されていたこと)を必要とするものと解するのが相当であり,以下の検討においても,このことを前提として判断する。
(2)ア 原告は,原告店舗の総売上げについて,平成18年度(20期)が1億9800万円(甲12),平成19年度(21期)が1億4900万円(甲13)であり,本件販売による影響が最も大きかったと考えられる平成19年10月から平成20年5月までの期間でさえ,本件樹液シートの売上げは,「楽天市場」のフットケア用品ジャンルにおいて,常にトップであった(甲25の1〜14)旨主張する。
しかしながら,原告店舗の総売上額は,本件樹液シートの売上げに限定されるものではないところ(甲14によれば,本件樹液シートの売上げは,平成18年度が約8088万円,平成19年度が約7159万円であり,原告店舗の総売上に占める割合は,いずれも50%に満たない。),本件樹液シート以外の商品にも本件標章が原告の商品等表示として付されていたものかどうかは明らかではない。仮に,原告店舗において販売されていた商品のすべてに本件標章が付されていたとしても,インターネット通販の市場規模は,平成20年度において8兆円を超え,コンビニエンスストア(約7兆9000億円),百貨店(約7兆2000億円)をも上回るものとされていること(乙40の3・3頁)にかんがみると,原告店舗の総売上高が本件標章に周知性を獲得させるほど高いものであると即断することはできない。
また,本件樹液シートの売上げランキング(甲25の1〜14)についても,楽天市場の「共同購入」という販売形態(販売数量に応じて商品単価を逓減させる販売方法。乙35)において,多数の商品群のうちの「フットケア用品」というジャンル(なお,「ダイエット・健康・介護」>「健康用品」>「リラックス用品」>「フットケア用品」という階層関係にあり,当然のことながら,下の階層に行けば行くほど,該当する商品数は大きく絞り込まれることになる。)の中で1位になったというにすぎないものであるから,その結果を過大に評価することは相当ではない。現に,被告会社は,本件樹液シートと同種の製品を自社ブランドでも販売しているところ(乙5,12),その売上高は年間4億円から5億円超にも達しているのであって(乙12,乙38の1,弁論の全趣旨),これとの比較からしても,本件樹液シートについて,本件標章の周知性を基礎づけるほどの売上げがあったものと認めるには足りない。
イ 次に,原告は,原告店舗には平成18年度(20期),平成19年度(21期)とも年間10万3500人前後が平均年4回程度(年間延べ45万人前後)アクセスしている(甲14)と主張するが,これらの者すべてが本件標章をキーワードとして原告店舗にアクセスしているわけではないから,アクセス数の多寡が本件標章の周知性と直結するとは必ずしもいい難い上,楽天の会員数が5000万人を超え,その出店数も10万を超える状況(乙40の1〜3)を前提とすれば,原告店舗に上記のような数のアクセスがあったからといって,それによって本件標章の周知性を基礎づけるには足りないというべきである。
ウ 原告は,平成19年8月ころ, 及び において「樹液シー Yahoo! Googleト」又は「樹液シート 格安」による検索をしたところ,原告店舗が最上位に表示された(甲22,23)旨の主張をするが,検索サイトにおける検索結果の順位は,検索用語として何を設定するかによって大きく変動し得るものであり,実際,「樹液シート 格安」に代えて,「樹液シート激安」,「樹液シート デトックス」,「足裏 樹液シート」などの用語で検索すると,原告店舗は最上位には表示されない(上位にすら表示されないこともある。)のであるから(乙15,17,18,21,23,24,原告代表者本人),このような検索結果の順位をもって本件標章が周知であるというには,根拠が薄弱であるといわざるを得ない。
なお,「樹液シート」単独の検索結果(甲23)については,その体裁からして,原告店舗が表示されているのは有料の広告スペース欄である疑いがあり(原告代表者自身,その本人尋問において,その可能性を肯定する供述をしている。),その証拠価値は限定的なものにとどまるから,上記の認定を左右するものではない。
エ さらに,原告は,原告店舗が複数の雑誌の記事(?「楽天マガジン」2002年2月号の「いい店みつけた!」〔甲15〕,?「楽天マガジン」2002年3月号の「楽天ショップ・オブ・ザ・イヤー2001」〔甲16〕,?月刊ガイア2002年9月号の「ガイアインタビュー」〔甲17〕,?就職ガイド誌「JOB」2002年9月19日号の「チャレンジ元気企業ここにアリ!」〔甲18〕,?月刊誌「頭で儲ける時代」2004年5月号の「楽天の共同購入で樹液シートが12週連続1位 発売開始後4年で900万枚売る」〔甲20〕,?2004年版「ヒット商品全ガイド」〔甲21〕)で紹介されたほか,?平成15年3月18日の静岡新聞に掲載されたNTT西日本の全面広告(甲19)中の掲載4企業の一つとして紹介された点を指摘する。
しかしながら,上記甲15,16,18,21には,本件標章を付した樹液シートないしその包装の写真が掲載されているが,いずれの写真も大きいものではなく,本件標章はかろうじて認識し得るにすぎない。上記甲17,19,20には,原告を紹介する記事と併せて本件標章が掲載されているが,甲19においてはごく小さくかろうじて認識し得るにすぎず,甲17,20においてもさほど目立つ態様のものではない。そして,原告店舗を紹介した雑誌等(なお,本件全証拠によっても,その発行部数等は明らかでない。)の記事は,上記?〜?の7点にほぼ限られる上,そのうちの半数弱(上記?〜?)については,原告自身が広告料を支払って掲載したにすぎないものなのであるから(原告代表者本人),これらの記事の掲載をもって,本件標章の周知性を基礎づけることはできないというべきである。
(3) その他,本件全証拠を総合しても,本件販売当時,本件標章が原告の商品等表示として周知であったことを認めるに足りないから,原告の上記(1)の主張は採用することができない。
3 争点(3)(本件販売について不正競争の成否〔本訴主位的請求〕)について上記2のとおり,本件販売当時,本件標章が原告の商品等表示として周知であったことを認めることはできないから,その余の点について判断するまでもなく,原告の不正競争防止法に基づく損害賠償請求(主位的請求)は理由がない。
4 争点(4)(本件販売について一般不法行為の成否〔本訴予備的請求〕)について(1) 被告らは,本件販売について,原告の代理店(代理人)であった名翔又はロータスAkiが承諾していた旨の主張をする。
被告らの主張する代理店の意味は必ずしも明らかではないが,少なくとも本件販売に関し,原告を代理する権限を有するものとして主張する趣旨と解される。そして,名翔又はロータスAkiが原告を代理する権限を有するためには,その代理権を取得するための原因(代理権授与行為)が必要であるが,被告らはその原因となる事実を主張,立証しない。特に,本件販売は,定型的に行われる通常の取引行為とは異なり,被告会社との直接又は間接の取引関係(OEM供給関係)をどのように終了させ,清算するかという,原告にとって重要な経営判断を伴うものなのであるから,その承諾の効果が原告に帰属するためには,原告から代理店に対する特別の授権があってしかるべきであるが,本件全証拠を検討しても,名翔又はロータスAkiが原告からどのような事項についてどのような範囲で代理権等の権限を授与されていたのかについて立証はない。したがって,仮に名翔又はロータスAkiが本件販売について承諾をしたとしても,その効果が原告に帰属するものということはできず,被告らの上記主張は,採用することができない。
なお,原告は,訴状において「原告が被告会社から本件樹液シートのOEM供給を受けてきた」という趣旨の主張をしているが,その趣旨は多義的に解釈できるものであり,必ずしも,名翔及びロータスAkiの代理権の存在を前提として,原告と被告会社との間の直接の契約関係(本件基本契約)の成立を先行して自白したものとは解されない。むしろ,その後の原告の主張,立証等,本件訴訟の経緯(弁論の全趣旨)にかんがみれば,原告は,名翔及びロータスAkiが原告の代理店であることや,原告と被告会社との間で本件基本契約が成立したことを争っていることが明らかであるから,名翔及びロータスAkiの代理権の存在や本件基本契約の成立について,裁判上の自白が成立したとは認められない。また,名翔及びロータスAkiの代理権の存在や本件基本契約の成立を否認する原告の主張は,従前の原告の主張の趣旨を明らかにするにすぎないもので,新たな攻撃防御方法を提出するものではないから,かかる原告の主張が民事訴訟法157条1項により許されないということもできない。
(2) 本件販売は,前記第2の2(4)のとおり,被告Aが,平成19年10月ころまでに,楽天市場オークション,ヤフーオークション及びビッダーズオークションに「樹液ドットコム」というインターネット商店を出店し,被告会社の委託を受けて,本件標章を付した樹液シート(原告がOEM供給元を被告会社とは別の製造業者に変更したことによって,被告会社の元に残った在庫品)を廉価で販売したというものである。そして,本件標章に化体された信用の主体として認識され得る立場にあったのは原告であり,他方,被告会社は,名翔からの注文に応じて本件標章の付された樹液シート(袋詰めされる前の半製品)を製造し,これを名翔に卸売りしていたにすぎないもので,被告会社にとって,本件標章は「他人の」標章に当たるものであることは上記1に認定判断したとおりである。
そうすると,被告らによる本件販売は,OEM供給先である原告の信用が化体された本件標章が付された樹液シート在庫品の残りを被告らが原告に無断で販売したというもので,OEM商品の横流しともいうべき行為であり,公正な競業秩序を破壊する著しく不公正な行為と評価できるから,民法上の一般不法行為(共同不法行為)を構成するものと認めるのが相当である。
したがって,被告らは,これによって発生した原告の損害を賠償する責任があるというべきである。
5 争点(5)(原告による債務不履行・不法行為の成否〔反訴〕)について(1) 被告らは,原告と被告会社との間には本件樹液シートのOEM供給に関する基本契約(本件基本契約)が成立しているところ,同契約関係を維持するためには,被告会社において,常に相当量の在庫を確保しておく必要があったから,同契約関係の終了時においては,反対の合意がない限り,在庫保有者による処分を容認する旨の黙示の合意があった旨,あるいは名翔及びロータスAkiから本件販売について承諾を得た旨の主張をする。
しかしながら,前記第2の2(2)のとおり,本件樹液シートは,被告会社が製造し,これを購入した名翔が袋詰め等してロータスAkiに卸したものを原告が仕入れていたものであるが,被告会社は,名翔名義での注文を受けて製造した樹液シートを名翔に納品し,他方,名翔は,被告会社に対し,名翔の名義と計算でその代金を支払っていたもので,このような取引関係は,名翔とロータスAkiとの間,ロータスAkiと原告との間でも同様であったと認められる(甲29,証人B,証人C)。すなわち,本件において,被告会社,名翔,ロータスAki及び原告は,いずれも独立した経済主体(商人)として上記一連の取引に関与していたものである。そして,名翔又はロータスAkiが原告から代理権等の権限を授与されていたと認めることができないことは上記4のとおりであり,名翔又はロータスAkiの取引の法的効果が原告に直接帰属するということはできないから,原告と被告会社との間に直接の契約関係(本件基本契約)が存在するとは認められない。
したがって,同契約の存在を前提とする被告らの上記主張(在庫処分を容認する旨の黙示の合意)は理由がない。
また,名翔及びロータスAkiから本件販売について承諾を得たとしても,その法的効果が原告に及ばないことは上記4(1)のとおりであるから,名翔及びロータスAkiの承諾を理由とする被告らの上記主張(本件販売についての承諾)も理由がない。
(2) 上記(1)のとおり,本件販売について,被告会社の主張する原告の合意ないし承諾があったとは認められないから,これを前提とする被告会社の反訴請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。
6 争点(6)(原告による本訴請求は,権利の濫用に該当するか〔本訴〕)について被告らは,本件基本契約のようなOEM商品供給契約においては,原告の承諾の有無にかかわらず,信義則上,一定限度において在庫品を処分することが許容されていると解すべきであり,それにもかかわらず,本件販売が不正競争又は不法行為に当たるとして損害賠償請求することは権利の濫用として許されない旨の主張をする。しかし,本件基本契約の成立が認められないことは前示のとおりであるから,被告らの主張は,その前提において失当である。
その他,本件全証拠を検討しても,原告による本訴請求が権利の濫用と目されるような事情は認められないから,被告らの主張は理由がない。
7 争点(7)ア(原告の損害〔本訴〕)について(1) 原告店舗の信用毀損による損害 80万円ア 前記第2の2(4)のとおり,被告らは,少なくとも平成19年10月ころから平成20年3月末までの間,被告Aの開設した「樹液ドットコム」と称するインターネット商店(オークションサイト)において,本件標章の付された樹液シートを廉売(甲4によれば「激安販売」,「超格安にご提供」)したものであるが,これによって,従前,原告店舗において本件樹液シートを購入していた顧客は,原告に内部分裂等何か問題が発生したのではないかという疑念や,原告店舗において販売されている樹液シートの値段が高すぎるのではないかという不信感を抱くなど,原告店舗と顧客との間で形成されていた信頼関係(原告に対する信用)が傷つけられたものと推認することができる。
したがって,被告らは,不法行為による損害賠償として,上記信用毀損により原告に発生した損害を賠償する責任があるところ,被告らによる本件販売の態様や期間,その他,本件に現れた一切の事情を考慮すれば,上記信用毀損による原告の損害は,80万円と評価するのが相当である。
イ なお,原告は,本件販売によって,300名前後のリピーター客を喪失した旨主張し,原告代表者作成の陳述書(甲7)にもこれに沿う記載があるが,原告の上記主張の根拠が必ずしも明らかでなく,顧客リスト等による客観的な裏付けもされていないから,原告の上記主張を前提とする損害(喪失した顧客数を回復するために要する宣伝,広告等の費用として合計500万円)については,認めることができない。
(2) 販売減少による損害 45万円ア 原告は,平成19年10月から平成20年3月までの本件樹液シートの販売額の減少(前年同期比で455万8170円)は被告らによる本件販売にのみ起因するものであることを前提として原告の損害額を算定しているが,本件樹液シートの売上げは,景気の動向や市況(商品の流行状況)等によっても大きく左右されるものであり,現に,同種商品を取り扱う被告会社においても年間売上高は漸減傾向にある(乙38の1,2)のであるから,本件樹液シートの販売額が減少した原因を本件販売行為にのみ求めることはできないのであって,原告による損害の算定は失当である。
ところで,被告らによる本件樹液シートの販売額,販売数量は必ずしも明らかではないが,被告A自身,その開設したインターネット商店(樹液ドットコムと称するオークションサイト)において,本件樹液シートを6万枚以上販売したことを自認しているのであるから(甲5の5枚目),本件販売による原告の損害(販売減少による損害)については,本件樹液シートの販売数量が少なくとも6万枚あったものと認めてこれを算定するのが相当である。
被告Aの開設するインターネット商店はオークションサイトであり,原告店舗(楽天市場というインターネットモール上の店舗)と顧客層が完全に重なり合うとはいえないものの,いずれもインターネット上において本件樹液シートを購入しようとする需要者であるという点では競合するものであるから,控え目にみても,被告らによる本件販売がなければ,被告らの販売した樹液シートのうち少なくとも2万枚程度は,原告店舗における売上げを減少させたのではないかと推認される。
原告店舗において本件樹液シートを共同購入する場合,3セット以上を購入すれば,1セット(50枚入り)当たりの販売価格は2500円になること(乙35)から,本件樹液シートの1枚当たりの単価は50円ということになる。そして,本件樹液シートの販売による利益率は45%であると認められる(弁論の全趣旨)から,本件販売による原告の損害(販売減少による損害)額は,次式のとおり,45万円となる。
円枚× 枚× = 円 50 / 20,000 0.45 450,000イ 原告は,被告らによる本件販売(不法行為)の終了後についても,売上げの回復には1年間(平成21年3月末まで)を要するとして,その間の販売減少に基づく損害についても賠償されるべきであると主張するが,本件販売終了後の本件樹液シートの売上高が証拠上不明である上,仮に,本件販売終了後においても売上高の減少が認められるとしても,前記認定のとおり,本件樹液シートの売上げは,景気の動向や市況(商品の流行状況)等によっても大きく左右されるものであるから,その売上高の減少が本件販売に起因することについて,十分な立証がないというべきである。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(3) 弁護士費用 15万円原告は,弁護士を選任して本件訴訟を追行しているところ,本件事案の難易や上記(1),(2)の認容額,その他諸般の事情を斟酌すると,その弁護士費用のうち15万円が被告らによる不法行為と相当因果関係のある損害と認められる。
(4) 上記(1)〜(3)のとおり,本件販売により原告が受けた損害は,合計140万円であると認められる。
8 争点(8)(信用回復措置の要否〔本訴〕)について前記2のとおり,本件標章が原告の商品等表示として周知のものであったとまでは認められず,本件販売が不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争に該当するとは認められない以上,同法14条に基づく信用回復措置の請求についても理由がないことに帰する。
結論
以上によれば,原告の本訴請求は,主文第1項の限度で理由があるからその限度で認容するが,その余は理由がないからこれを棄却することとし,被告会社の反訴請求は,いずれも理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 岡本岳
裁判官 鈴木和典
裁判官 中村恭