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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成22ネ10088不正競争行為差止等請求控訴事件 判例 不正競争防止法
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平成18ワ27454不正競争行為差止等請求事件 判例 不正競争防止法
平成21ワ31686不正競争行為差止等請求事件 判例 不正競争防止法
平成21ワ16809損害賠償請求事件 平成21ワ33956損害賠償請求事件 判例 不正競争防止法
関連ワード 周知表示混同惹起行為(2条1項1号) /  周知性 /  広く認識 /  登録商標 /  需要者 /  商品等表示 /  出所識別機能 /  他人の商品 /  他人の営業 /  類似性(類似) /  外観 /  印象 /  混同のおそれ(混同) /  適用除外 /  商品の形態(商品形態) /  模倣 /  技術的機能 /  差止請求(差止) /  営業上の利益 /  過失 /  利益額(利益の額) /  デザイン /  侵害 /  特別顕著性 /  代理人 /  代表者 /  混同のおそれ(混同) /  商品形態模倣行為(2条1項3号) /  損害賠償 /  損害額 /  推定 /  販売数量 / 
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事件 平成 20年 (ワ) 25956号 不正競争行為差止等請求事件
東京都渋谷区<以下略>
原告素数株式会社
訴訟代理人弁護 士綱取孝治
同 高井信也
訴訟代理人弁理 士旦武尚奈良市<以下略>
被告有 限会社せいらく
訴訟代理人弁護 士澤由美
訴訟代理人弁理 士井内龍二
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2010/09/17
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 1被告は,別紙被告商品目録記載の商品を譲渡し,引き渡し,又は譲渡若しくは引渡しのために展示してはならない。
2被告は,原告に対し,183万6180円及びこれに対する平成20年9月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の請求を棄却する。
4訴訟費用は,これを5分し,その3を被告の負担とし,その余は原告の負担とする。
5 この判決の第2項は,仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
1 主文第1項と同旨2被告は,原告に対し,3996万円及びこれに対する平成20年9月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は,別紙原告商品目録記載の角質除去具(以下「原告商品」という。)を販売する原告が,別紙被告商品目録記載の角質除去具(以下「被告商品」という。)を販売する被告に対し,被告商品の形態は原告の商品等表示として周知な原告商品の形態類似し,被告商品の販売は原告商品との混同を生じさせるものであり,また,被告商品は原告商品の形態模倣した商品であるから,被告による被告商品の販売は,不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項1号又は3号の不正競争行為に当たる旨主張して,不競法3条1項に基づき,被告商品の譲渡等の差止めを求めるとともに,同法4条に基づき,損害賠償を求めた事案である。
1争いのない事実等(証拠の摘示のない事実は,争いのない事実又は弁論の全趣旨により認められる事実である。)(1) 当事者ア原告は,美容機器及び美容用品,医療機器及び医療用具,健康機械器具の製造,販売等を目的とする株式会社である。
イ被告は,ギフト用品(文房具,家電製品,タオル),スポーツ用品,衣料品,喫煙具,車両用部品,時計,家庭用品雑貨の販売及び輸出入等を目的とする特例有限会社である。
(2) 原告商品ア原告は,平成18年9月26日から,原告商品(商品名・「SCRATCH」)を販売している(甲5,34,35,39の1,40の1)。
イ原告商品は,別紙原告商品目録記載の写真及び別紙原告商品図面記載の各図面のとおりの形態を有する。
すなわち,原告商品(検甲1,2)は,直径約4ミリメートル,長さ約7.5センチメートルのステンレス製でシルバー色の円筒管(以下「原告円筒管」という。)と,その内部に原告円筒管の内周径とほぼ同じ直径で,長さが原告円筒管より約1.5センチメートル長い樹脂製で黒色の付属スティック(以下「原告スティック」という。)とが組み合わされており,原告円筒管の両端は,それぞれ開口して,その各先端部分の円周に沿って断面略三角形の刃が設けられている。
原告商品は,原告円筒管を持って刃の部分を皮膚に対して垂直に当てて擦ることにより足や手の角質を削り取って除去し,原告円筒管に溜まった角質は原告スティックを挿入することにより押し出して除去するという方法で使用される。
(3) 被告商品ア被告は,平成19年11月26日から,被告商品(商品名・「夢見るかかとちゃん」)を販売している。
イ被告商品は,別紙被告商品目録記載の写真及び及び別紙被告商品図面記載の各図面のとおりの形態を有する。
すなわち,被告商品(検甲3)は,直径約5ミリメートル,長さ約7センチメートルのステンレス製でシルバー色の円筒管(以下「被告円筒管」という。)と,その内部に被告円筒管の内周径とほぼ同じ直径で,長さが被告円筒管より約1センチメートル長い樹脂製で白色の付属スティック(以下「被告スティック」という。)とが組み合わされており,被告円筒管の両端は,それぞれ開口して,その各先端部分の円周に沿って断面略三角形の刃が設けられている。
被告商品は,被告円筒管を持って刃の部分を皮膚に対して垂直に当てて擦ることにより足や手の角質を削り取って除去し,被告円筒管に溜まった角質は被告スティックを挿入することにより押し出して除去するという方法で使用される。
2 争点本件の争点は,次のとおりである。
(1) 不競法2条1項1号の不正競争行為の成否(争点1)ア原告商品の形態が原告の周知の商品等表示といえるか(争点1-1)。
イ 被告商品の形態が原告商品の形態類似するか(争点1-2)。
ウ被告商品の販売は原告商品との混同を生じさせる行為に当たるか(争点1-3)。
(2) 不競法2条1項3号の不正競争行為の成否(争点2)ア原告商品の形態模倣した商品に関する不競法2条1項3号の不正競争行為について,原告が差止請求及び損害賠償請求の請求主体となり得るか(争点2-1)。
イ 被告商品は原告商品の形態模倣したものか(争点2-2)。
ウ原告商品の形態は,不競法2条1項3号の「商品の形態」から除かれる「当該商品の機能を確保するために不可欠な形態」(同号括弧書き)に該当するか(争点2-3)。
エ被告商品の販売について,不競法19条1項5号イの適用除外(「日本国内において最初に販売された日から起算して3年を経過」)が認められるか(争点2-4)。
(3) 原告の損害額(争点3)
争点に関する当事者の主張
1 不競法2条1項1号の不正競争行為の成否(争点1)(1) 争点1-1(原告商品の形態の周知商品等表示該当性)についてア 原告の主張商品の形態が,?同種の商品と識別し得る独自の特徴を有し(特別顕著性),かつ,?長期間継続的かつ独占的に使用されるか,又は短期間でも強力な宣伝等が伴って使用されたような場合には(周知性),当該形態が当該商品の技術的機能に由来する必然的,不可避的なものでない限り,周知の「商品等表示」(不競法2条1項1号)に該当するというべきである。
原告商品の形態は,次のとおり,上記要件を満たすから,原告の周知の商品等表示に該当する。
(ア) 特別顕著性a特別顕著性の有無は,従前類似・同一の形態の商品が商品化され,市場に流通していたか否かという観点を中心に当該商品の形態の新規性・独自性の有無から判断すべきである。
原告商品が販売される以前に存在した角質除去具の形態としては,ヘアブラシ様のもの,靴べら様のもの,野菜の皮むき器に類似する形態のものなどがあった。
これに対し原告商品の形態は,?ステンレス製のシルバー色で鉛筆やペンよりも細長い小径の円筒管を基調とする点,?円筒管の両端部を開口として先端部分の円周に沿って角質除去用の刃を有する点,?円筒管に溜まった角質を押し出して除去するための樹脂製スティックが円筒管内に挿入されている点,?スティックの一部が円筒管の一端からはみ出して見える点などの特徴が見られ,これらの特徴から全体としてシャープでコンパクトな印象を受けるものといえる。
このような原告商品の形態は,従前の角質除去具と識別し得る際立った新規性と特異性を有するというべきである。
そして,角質除去具のような美容雑貨がヒットする要因としては,その機能が優れていることのみならず,そのデザインも含めた形態が美しく,かつ,新規であることが考えられ,原告商品が後記のとおりヒット商品として定着したのは,需要者から原告商品の形態の美しさや新規性が評価されたからである。このことは,多くの雑誌やテレビ番組などにおいても,「コンパクトな円筒形」,「付属のスティックで角質を押し出す」などのように,原告商品の形態上の特徴について言及されていることからも裏付けられる。
したがって,原告商品の形態は,従前の角質除去具にはなかった形態上の特徴を有しており,特別顕著性を有するものであることが明らかである。
b被告は,後記のとおり,原告が原告商品を販売するよりも先に,STT Tech Inc.(以下「STT社」という。)によってインターネット販売されていた「SCRAPE IT」は,原告商品と全く同一の商品形態を有しているから,一般需要者において,商品形態から原告商品と「SCRAPE IT」を峻別することはできない旨主張する。
しかし,原告は,米国法人であるSTT社が米国国内で販売していた「SCRAPE IT」を,「SCRATCH」の商品名で日本国内で独占販売したものであるから,「SCRAPE IT」と原告商品の商品形態が同一であるのは当然であり,そのことが原告商品の識別性を妨げる理由とはならない。STT社がインターネットによる「SCRAPE IT」の販売を開始したのは,原告が原告商品の販売を開始した平成18年9月26日以降のことである。このことは,STT社のホームページ(乙2)に「□2006 STT Tech Inc.All rights reserved.」と記載されており,STT社が上記ホームページを立ち上げたのが2006年(平成18年)であることからも裏付けられる。上記ホームページ中に「SCRAPE IT」の購入者による2003年(平成15年)12月26日付けの感想コメントが掲載されているが,当該コメントから,当該購入者がインターネットにより「SCRAPEIT」を購入したことが明らかとなるものではない。
また,STT社のホームページ(乙1,2)は,英語のみで表記されており,日本人の購入者向けの措置は施されていないから,STT社は,インターネット販売の主な仕向地として日本を予定しておらず,日本国内において販売しているとはいえない。
さらに,原告が原告商品の販売を開始する前に,原告商品と同一の商品形態を有する商品が日本国内において販売されていた事実は存しない。
したがって,被告の上記主張は失当である。
(イ) 周知性a原告商品は,以下に述べるとおり,平成18年9月26日の販売開始以来,日本全国の各種販売店で販売され,インターネットや通信販売でも販売されてきた結果,販売開始後短期間で消費者の注目を集めるところとなり,マスメディア(テレビ,雑誌等)でも取り上げられることとなって,平成19年のヒット商品となった。
(a) 販売数原告商品は,平成18年9月26日の販売当初よりヒット商品として多数販売されてきたが,平成19年2月ないし3月ころから,その販売数が飛躍的に増加し,月ごとの販売数は,平成19年5月が約12万8000本,同年6月が約11万7000本,同年7月が約12万2000本,同年8月が約12万1000本と,同年5月から8月までは毎月10万本を超え,破格の売上げを記録した。その後は,月ごとの販売数が10万本を超えることはなかったものの,堅調な販売数を維持し,総販売数は,平成19年7月に50万本を超えて以降,同年10月には80万本,平成20年1月には100万本を突破し,平成21年7月末日時点で約134万本に達している。
原告商品のような美容雑貨は,通常,月300から500個程度の販売数のものが多数であり,売れ筋商品とされるものでも月1000個程度(年間1万個程度)の販売数が通常である。美容雑貨の中でも,特にフットケア商品は,一般的に他の美容雑貨よりも市場が限定され,販売数は少ないものといえるが,原告商品は,フットケア商品でありながら,上記のとおりの販売数を記録したのであって,この種の商品として極めて大きなヒットを記録したものといえる。
(b) テレビ放送原告商品は,次のとおり,テレビ放送の中で紹介されている。
全国ネット局においては,株式会社フジテレビジョン(以下「フジテレビ」という。)の「めざましテレビ」で発売開始間もない平成18年11月と平成19年5月に紹介されたほか,株式会社東京放送(以下「TBS」という。)の「はなまるマーケット」で平成19年7月に,「世界バリバリバリュー」で同年11月に,「がっちりマンデー」で同年12月にそれぞれ紹介された。また,日本テレビ放送網株式会社(以下「日テレ」という。)の情報番組でも平成19年2月から11月まで合計33回にわたって紹介された。
さらに,地方局においても,株式会社テレビ西日本,関西テレビ放送株式会社,札幌テレビ放送株式会社等の番組において,平成18年11月から平成20年2月まで合計7回にわたって紹介された。
そのほかに,CS放送等のテレビショッピングの専門チャンネルである「ショップチャンネル」においても,平成19年1月から平成20年4月まで多数回にわたり紹介されている。
(c) 新聞,雑誌等への掲載原告商品は,平成18年10月から平成19年11月26日までに54回,それ以降平成20年4月までに20回と,多数回にわたって新聞,雑誌等に写真付きで掲載されている。
その中でも,原告商品は,「日経TRENDY12月号」(甲27の51)において,2007年(平成19年)のヒット商品ベスト30のうちの一つとして掲載されている。
(d) インターネットへの掲載原告商品は,インターネットの各種ホームページ等でも写真付きで掲載されている。
すなわち,日経トレンディのホームページで2007年(平成19年)のヒット商品として掲載されたほか,日経WagaMagaのホームページでも掲載された。
また,原告商品は,原告自身のホームページのほか,楽天市場等でインターネットショップを営む各店舗のホームページにおいて,写真付きで掲載されて販売されている。
さらに,複数の芸能人や著名人のブログにおいても,原告商品が写真付きで紹介されている。
(e) 店頭での販売原告商品の各店舗での販売状況を示した写真(甲41の1ないし41の50)によれば,原告商品については,各店舗での商品陳列,ディスプレイの仕方自体によって,店頭販売用説明映像(甲42)と相まって,宣伝効果を上げていることが認められる。
また,原告商品は,流行に敏感な需要者を多数集客する東急ハンズ,ロフト,キディランド等のいわゆるセレクトショップでも販売されているが,これらのセレクトショップの取扱商品は,売れ行きが落ちれば短期間で店頭から姿を消すところ,原告商品は,販売開始から現在まで,これらのセレクトショップにおける販売を継続している。
(f) その他原告は,毎年2回,2月と9月に行われる東京インターナショナルギフトショーにおいて,平成18年9月から平成20年2月まで合計4回にわたって,原告商品を出品している。
b以上を総合すれば,原告商品は,遅くとも,原告商品の月ごとの販売数が10万本を超え続けていたピーク時(平成19年5月から8月までの4か月間)の中間点を経過した平成19年7月初めころには,その需要者である女性を中心とした一般消費者の間で広く認識され,その結果,原告商品の前記(ア)aのような特徴的形態は,原告の商品であることを示す「商品等表示」(不競法2条1項1号)として周知となり,その状況は,現在に至るまで継続しているものといえる。
イ 被告の反論(ア)原告商品の形態は,他の同種商品と一瞬にして一般需要者が識別できるほどの特徴的商品形態を何ら有していない。原告商品の形態は円筒形状の金属製のパイプ状のものとしか一般需要者には写らない。
しかも,原告が原告商品を販売するよりも先に,STT社によってインターネット販売されていた「SCRAPE IT」は,原告商品と全く同一の商品形態を有しており,一般需要者が,商品形態から原告商品と「SCRAPE IT」を峻別することはできない。「SCRAPE IT」が原告商品の販売開始前にインターネット販売されていたことは,STT社のホームページに「SCRAPE IT」の販売広告が掲載されていること(乙1),同ホームページ中に「SCRAPEIT」の購入者による2003年(平成15年)12月26日付けの感想コメントが掲載されていること(乙2)から明らかであり,また,インターネットによる販売は,通常は世界同時の販売とみなすことができ,「SCRAPE IT」の上記インターネット販売が日本国内への販売のみを特に避けて行っていたとする事情も見当たらないから,「SCRAPE IT」は,日本国内においても販売されていたというべきである。なお,米国製品は英語で広告され,日本語による翻訳文が付されないのが通常であり,STT社のホームページが英語表記であることは,上記事情に当たらない。
さらに,原告商品が販売されるかなり以前から,円筒形状の金属製のパイプの端部に刃物部分が形成された商品は数多く出回っており(乙4ないし10,22ないし25,検乙2ないし5),原告商品の商品形態には新規性は存せず,これらの商品と原告商品との峻別も一般需要者に期待することはできない。
原告商品の形態自体が商品等表示に該当するということは,原告商品を手に取ってその形態を見た需要者が,それを原告商品であると認識することを意味するが,上記の状況からすれば,かかる認識が需要者に生ずる余地はない。
(イ)また,原告商品は厳重にパッケージングされており,商品本体だけでバラ売りされていた事実は確認されておらず,通常,需要者が原告商品の形態を認識しにくい状態で販売されている。
そして,原告商品は,長年大量にテレビコマーシャル等で宣伝広告が行われてきた商品ではなく,一般需要者が原告商品の形態を直接的に目にする機会はほとんどなかったというべきであるから,原告商品の形態自体が商品等表示としての機能を獲得しているとされる余地はない。
(ウ)以上のとおり,原告商品の形態自体が,不競法2条1項1号の「商品等表示」に該当しないことは明らかである。
(2) 争点1-2(商品形態類似性)についてア 原告の主張原告商品と被告商品の各形態を比較すると,前記(1)ア(ア)a?ないし?の各点において形態が一致し,両者の全体的な形状やバランスも外観上一致することが分かる。
また,このように全体的な形状やバランスが外観上一致することから,原告商品と被告商品の各形態から受ける印象,すなわち全体としてシャープでコンパクトな印象を受ける点においても共通するものといえる。
加えて,原告商品の形態が他の角質除去具と識別し得る際だった新規性と特異性を有することからすれば,角質除去具を使用してきた一般需要者からみても,原告商品と被告商品とがその形態において同一との認識を持つことは確実といえる。
したがって,被告商品の形態が原告商品の形態類似することは明らかである。
イ 被告の主張原告商品と被告商品の各形態を比較すると,被告円筒管は,原告円筒管に比べ,太くて短い上に,ステンレス部分の厚み,刃先の角度,刃先の有効長においても異なっており(乙11),また,被告スティックと原告スティックを比べると,被告スティックの方が短い上に,その色も,原告スティックが黒色なのに対し,被告スティックは白色である点で異なっている。
このように原告商品の形態と被告商品の形態は,大きく異なっているから,被告商品の形態は原告商品の形態類似していない。
(3) 争点1-3(混同のおそれの有無)についてア 原告の主張前記(1)ア及び(2)アで述べたとおり,被告商品の形態が,原告の商品等表示として周知な原告商品の形態とほとんど同一と言ってよいほど共通することからすると,被告による被告商品の販売は,取引者又は需要者において,原告商品との混同を生じるさせる行為に当たることは明らかである。
したがって,被告による被告商品の販売は,不競法2条1項1号の不正競争行為に該当する。
イ 被告の反論原告の主張は争う。
2 不競法2条1項3号の不正競争行為の成否(争点2)(1) 争点2-1(請求主体としての適格性)についてア 原告の主張原告は,以下のとおり,米国で製造され,日本に輸入された原告商品の日本国内における独占的販売権者であるから,原告商品の形態模倣した商品の販売に関し,不競法2条1項3号の不正競争行為に対する差止請求(同法3条1項)及び損害賠償請求(同法4条)の主体となる。
(ア)原告商品は,米国フロリダ州所在のSTT社の代表者であるA(以下「A」という。)が考案し,STT社が米国において「SCRAPE IT」の商品名で製造,販売を開始した商品を,アイ・ネクストジーイー株式会社(以下「アイネクスト社」という。)が,同商品に関するSTT社の米国以外の地域における総代理店であるE.N.P.Co.(以下「ENP社」という。)を通じて日本に輸入し,それらを原告がアイネクスト社から購入して,「SCRATCH」の商品名で日本国内で販売しているものである。
STT社,ENP社及びアイネクスト社は,原告商品につき,STT社が製造して同社が米国国内での独占的販売権を有し,ENP社が米国及び日本を除く地域における販売権と日本向けの輸出権を有し,アイネクスト社がENP社からの輸入権と日本国内での独占的販売権を有する旨の合意(以下「三社間合意」という。)をした。
また,アイネクスト社と原告は,アイネクスト社がENP社を通じてSTT社から購入する上記商品について,アイネクスト社は,原告の登録商標である「SCRATCH」の商標付きでSTT社に製造させた上で原告に供給すること(この製造に係る商品が原告商品である。),原告は,買受価格を1本当たり800円とし,年間最低12万本をアイネクスト社から購入すること,原告が日本国内での独占的販売権を有することなどを合意(以下「二社間合意」という。)した。
以上の各合意は,平成18年9月ころ,口頭で成立したが,平成19年7月1日に二社間合意についての契約書(甲4。以下「甲4の契約書」という。)が,同月下旬ころに三社間合意についての契約書(甲48。以下「甲48の契約書」という。)がそれぞれ作成された。
したがって,原告は,原告商品の日本国内における独占的販売権者である。
(イ)また,ある商品の独占的販売権者は,独占権を得るために,その商品を商品化した先行者に相応の対価を支払っているのが常であり,先行者は商品化のための資金,労力を,商品の独占の対価の形で回収していることになるから,独占的販売権者を不競法2条1項3号によって保護される主体とし,その者に商品形態の独占を維持させることは,商品化するための資金,労力を投下した成果を保護するという点において,同号の立法趣旨に適合するものである。
原告は,アイネクスト社から,原告商品を1本当たり800円で買い受けているが,原告商品の実際の製造単価は1本当たり180円程度であり,その差額である620円は,実質的には原告がSTT社ら先行者に対して支払う独占的販売権の対価としての意味を有している。そして,原告は,平成18年9月ころの時点において,年間12万本以上の購入を約しているから,年間7440万円以上の上記対価の支払を約したということができる上,実際に,平成21年7月末日時点までに,原告商品を134万本以上販売したから,総額8億3080万円以上の上記対価を支払ったことになる。
このように独占権を得るために商品化した先行者に8億円以上の対価を支払った原告を不競法2条1項3号によって保護される主体と扱って,原告に原告商品の商品形態の独占を維持させることは,商品化するための資金,労力を投下した成果を保護するという点において,同号の立法趣旨にも適合するというべきである。
イ 被告の主張(ア)不競法2条1項3号が,他人の商品の形態を模倣した商品の譲渡等を不正競争行為とした趣旨は,他人が資金・労力を投下して開発・商品化した商品の形態につき,他に選択肢があるにもかかわらず殊更これを模倣し,自らの商品として市場に置くことを競争上不正な行為として位置付けることにより,先行者の開発利益を模倣者から保護することにある。このような法の趣旨にかんがみれば,不競法2条1項3号の不正競争行為に対する差止請求及び損害賠償請求の請求主体となる者は,形態模倣の対象とされた商品を自ら開発・商品化して市場に置いた先行開発者であると解すべきである(東京地裁平成11年1月28日判決,東京地裁平成18年4月26日判決参照)。
これに対し,形態模倣の対象とされた商品の独占的販売権者について上記各請求の請求主体となることを認めた裁判例(大阪地裁平成18年3月30日判決等)もあるが,上記のような法の趣旨からすれば,不競法2条1項3号に係る請求主体は商品を自ら開発・商品化した者に限るとするのが論理的な帰結であるし,開発者との契約に基づいて生じる独占的販売権者の地位がなにゆえ第三者との関係でも不競法上の差止請求権及び損害賠償請求権によって保護されるべき固有の地位となるのかが不明である。
したがって,「独占的」であったとしても,開発者ではない一販売者には,上記各請求の請求主体性は認められないと解すべきであるから,原告が原告商品の日本国内における独占的販売権者であることを根拠として,原告商品の形態模倣した商品の販売に関し,不競法2条1項3号の不正競争行為に対する差止請求及び損害賠償請求の請求主体となるとする原告の主張は理由がない。
(イ)また,そもそも,本件においては,原告が原告商品の独占的販売権者であるとの事実を認めることができない。
すなわち,原告が,原告商品の日本国内における独占的販売権を有することの根拠として提出する契約書は,三社間合意に係る甲48の契約書と二社間合意に係る甲4の契約書のみであり,STT社と原告との間で直接に独占的販売契約が締結されているという事実はない。
そして,甲4の契約書では,「甲(アイネクスト社)は,乙(原告)に対し,日本における「たことり」の独占販売を許諾する。」(1条2項)とあり,原告がアイネクスト社から「たことり」(「SCRAPE IT」)の日本国内における独占的販売権を付与されたものとされているが,他方,甲48の契約書では,「この契約は代理店(アイネクスト社)によって譲渡できないものとし,又,代理店は,事前にSTTの文書による同意なしで,この契約で生ずる義務を委任,又は下請に出したりできないものとする。」(21条)とあり,アイネクスト社がSTT社から与えられた上記独占的販売権を他者に付与できるものとはされていない。また,他にSTT社が原告に独占的販売権を認める旨の契約書や同意書等は存在せず,原告主張の口頭による合意の事実もないから,原告が商品開発者であるSTT社から原告商品についての日本国内における独占的販売権を付与されたとの事実を認めることはできないというべきである。
したがって,仮に,独占的販売権者にも不競法2条1項3号に係る請求主体性が認められるとの見解に立ったとしても,原告は,原告商品の形態模倣した商品の販売に関し,不競法2条1項3号の不正競争行為に対する差止請求及び損害賠償請求の請求主体とはならない。
(2) 争点2-2(模倣の有無)についてア 原告の主張(ア) 商品形態の実質的同一性前記1(2)アで述べたところからすれば,原告商品の形態と被告商品の形態とが実質的に同一であることは明らかである。
(イ) 依拠性原告商品の形態は,他の角質除去具と識別し得る際だった新規性と特異性を有すること,かかる新規性と特異性を有する原告商品の形態と被告商品の形態とに高度の同一性が認められること,被告商品の販売が,原告商品の販売開始(平成18年9月26日)から約1年2か月後(平成19年11月26日)に開始されていること,原告製品が短期間に強力に宣伝・販売されたこと,原告の同業者である被告が,ヒット商品となった原告商品を知らなかったはずはないことなどからすると,被告商品が原告商品の形態に依拠して作り出されたことは明らかである。
(ウ)したがって,被告商品は,原告商品の形態模倣(不競法2条5項)した商品といえるから,被告による被告商品の販売は,不競法2条1項3号の不正競争行為に該当する。
イ 被告の主張(ア) 商品形態の実質的同一性の主張に対し前記1(2)イで述べたとおり,原告商品の形態と被告商品の形態は,大きく異なっているから,実質的に同一であるとはいえない。
(イ) 依拠性の主張に対し被告は,平成18年春ころ,被告商品のおおまかな形態の着想を独自に得て,その後,材質の選定,試作品の製作などの試行錯誤を繰り返し,平成19年11月26日にようやく被告商品の販売を開始するに至ったものである。被告が上記の着想を得た平成18年春ころには,いまだ原告商品は販売されておらず,被告商品の開発の仕上げの段階で,ようやく原告商品を市場で見かけるようになったにすぎない。
しかも,原告が主に美容,健康,ダイエット関連の商品を扱っているのに対し,被告は主に玩具,バラエティー雑貨を扱っており,原告と被告とでは,扱う商品の種類が異なり,市場が競合することはないため,被告が原告商品を意識する機会はなかった。
以上のとおり,被告が原告商品の形態に依拠して被告商品を開発した事実はない。
(ウ)したがって,被告商品は,原告商品の形態模倣した商品とはいえない。
(3) 争点2-3(不競法2条1項3号括弧書き該当性)についてア 被告の主張原告商品は,極めて単純な「当該商品の機能を確保するために不可欠な形態」(不競法2条1項3号括弧書き)のみからなるものである。
すなわち,原告商品は,角質を除去するための刃先部分,手で把持するための円筒形状部分のみしか構成要素として備えておらず,これらは,いずれも角質を除去するという原告商品の機能を確保するために不可欠な形態であるから,原告商品の形態は,不競法2条1項3号によって保護される「商品の形態」に該当しない。
イ 原告の主張原告商品の形態は,それまでの角質除去具には見られない新規なものであるから,角質除去具としての機能を確保するために不可欠なものでないことは明らかである。
(4) 争点2-4(不競法19条1項5号イの適用除外の有無)についてア 被告の主張前記1(1)イ(ア)で述べたように,STT社が,遅くとも2003年(平成15年)12月26日に,「SCRAPE IT」のインターネットによる販売を開始したことによって,原告商品についての日本国内における販売が開始されたものである。
したがって,被告が被告商品の販売を開始した平成19年11月26日の時点において,原告商品は日本国内において最初に販売された日から起算して既に3年を経過した商品であったから,仮に被告商品が原告商品の形態模倣したものであったとしても,被告による被告商品の販売は,不競法19条1項5号イの適用除外行為に該当し,同法3条1項に基づく差止請求及び同法4条に基づく損害賠償請求は認められない。
イ 原告の主張STT社は,平成18年1月までの時点では,米国国内でのみ「SCRAPE IT」を販売し,その販売数量は累計1000本程度にすぎなかった。
前記1(1)ア(ア)bで述べたとおり,STT社がインターネットによる「SCRAPE IT」の販売を開始したのは,原告が原告商品の販売を開始した平成18年9月26日以降のことである。
また,不競法19条1項5号イは,同法2条1項3号による商品形態の保護期間の起算点を日本国内における販売開始日と定めるところ,インターネットを通じた通信販売が「日本国内における販売」に当たるか否かについては,仕向地が日本国内であることや広告が日本語でされていることなどを勘案して,実質的に日本国内市場に向けた販売といえるか否かによって判断するというのが立法者意思と解される。
しかるところ,前記1(1)ア(ア)bで述べたとおり,STT社は,「SCRAPE IT」のインターネット販売の主な仕向地として日本を予定していないから,上記インターネット販売をもって,「日本国内における販売」と評価することはできない。
したがって,原告商品の日本国内における販売開始の時期は,原告が原告商品の販売を開始した平成18年9月26日であり,被告が被告商品の販売を開始した平成19年11月26日の時点において,原告商品が日本国内において最初に販売された日から起算して3年を経過した商品であったとはいえないから,被告による被告商品の販売は,不競法19条1項5号イの適用除外行為に該当するものではない。
3 原告の損害額(争点3)(1) 原告の主張ア被告による被告商品の販売が,不競法2条1項1号又は3号の不正競争行為に該当することは,前記1(3)ア及び2(2)アで述べたとおりである。
被告が,故意又は過失によって上記不正競争行為を行い,その結果,原告の原告商品の販売に係る営業上の利益侵害していることは明らかであるから,被告は,不競法4条に基づき,原告が受けた損害を賠償すべき義務を負うものである。
被告は,平成19年11月26日の販売開始から平成20年8月末日までの約9か月間に,被告商品を1本当たり1480円の価格で合計9万本販売して,合計1億3320万円を売り上げ,その30パーセントに当たる3996万円の利益を受けたものと考えられる。
したがって,被告が受けた上記利益の額3996万円は,不競法5条2項により,被告の上記侵害の行為により原告が受けた損害の額と推定される。
イ以上によれば,原告は,被告に対し,不競法4条に基づく損害賠償として3996万円及びこれに対する平成20年9月23日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。
(2) 被告の主張原告の主張のうち,被告商品の売上げ等(前記(1)ア)については,被告が,平成19年11月26日から平成20年8月末日までの間に,被告商品を合計9545本販売し,その売上額が合計582万7440円であり,粗利益の額が183万6180円であるとの限度で認め,これを超える売上げ及び利益があったことは否認する。
その余の原告の主張は争う。
当裁判所の判断
1 不競法2条1項1号の不正競争行為の成否(争点1)(1) 争点1-1(原告商品の形態の周知商品等表示該当性)についてア原告は,原告商品の形態は,原告の周知の商品等表示(不競法2条1項1号)に該当する旨主張する。
ところで,不競法2条1項1号は,不正競争行為として,「他人の商品等表示(人の業務に係る氏名,商号,商標,標章,商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似商品等表示を使用し,又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し,引き渡し,譲渡若しくは引渡しのために展示し,輸出し,輸入し,若しくは電気通信回線を通じて提供して,他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為」を規定している。
同号は,他人の商品表示(商品を表示するもの)又は他人の営業表示(営業を表示するもの)であって,「需要者の間に広く認識されている」もの,すなわち,他人の周知の商品表示及び営業表示(他人の周知の商品等表示)を保護するため,商品主体の混同を生じさせる行為及び営業主体の混同を生じさせる行為を不正競争行為として禁止する趣旨の規定であり,同号の商品表示は,商品の出所を他の商品の出所と識別させる出所識別機能を有するものであることを要すると解される。
商品の形態は,本来的には商品の機能・効用の発揮や美観の向上等の見地から選択されるものであり,商品の出所を表示することを目的として選択されるものではないが,特定の商品の形態が,他の同種の商品と識別し得る独自の特徴を有し,かつ,その形態が長期間継続的・独占的に使用され,又は短期間でも効果的な宣伝広告等がされた結果,出所識別機能を獲得するとともに,需要者の間に広く認識されるに至ることがあり得るというべきである。
このような商品の形態は,不競法2条1項1号他人の商品表示として需要者の間に広く認識されているものといえるから,同号によって保護される他人の周知の商品等表示に該当するものと解される。
そこで,まず,原告商品の形態が,被告商品の販売が開始された平成19年11月26日の時点において,原告の周知の商品等表示(商品表示)となっていたかどうかについて検討する。
イ 原告商品の形態の独自性について(ア)原告商品(検甲1,2)によれば,原告商品は,?角質除去具としての本体部分(原告円筒管)が直径約4ミリメートルの「極細」で,長さ約7.5センチメートルの「コンパクトな円筒管」である点,?原告円筒管の材質がステンレス製で,光沢のあるシルバー色である点,?原告円筒管の両端部を開口として,各先端部分の円周に沿って角質除去のための刃が設けられている点,?樹脂製スティック(原告スティック)が原告円筒管内に挿入され,原告スティックの一部が原告円筒管からはみ出して見える点において,形態上の特徴があり,その中でも,角質除去具としての本体部分における上記?及び?の特徴は,これによって,原告商品に全体としてシャープでシンプルな印象を与えるという点において,特に看者の注意を惹く特徴であるものと認められる。
他方,証拠(甲7の1ないし5)及び弁論の全趣旨によれば,原告が原告商品の販売を開始した平成18年9月26日以前に,我が国で販売されていた美容用の角質除去具の商品としては,全体の形状が,ブラシ様のもの(甲7の1,4),平板で細長い棒状のもの(甲7の2,3,5),野菜等のピーラー(皮むき具)様のもの(甲7の3)で,いずれも角質を擦り取るためのやすり部と把持部からなるものがあったことが認められるが,原告商品のように,極細でコンパクトな円筒管形状のものが販売されていたことをうかがわせる証拠はない。
加えて,原告商品は,美容用の角質除去具という商品の性質上,美容に関心の高い女性を中心とした一般消費者をその需要者とするものと認められ,これらの需要者が原告商品のような美容器具を購入するに当たっては,その機能のみならず,外形的なデザインの美しさや新しさにも着目する傾向が強いと考えられるところ,後記ウで述べるとおり,原告商品が販売開始後短期間のうちにヒット商品となったという事情をも考慮すれば,原告商品の上記形態は,原告が原告商品の販売を開始した平成18年9月26日当時,他の同種商品(角質除去具)には見られない独自の特徴であったということができる。
(イ)これに対し被告は,原告が原告商品を販売する以前から,原告商品と同様の形態を有するSTT社製の「SCRAPE IT」が販売されていたことのほか,円筒形状の金属製のパイプの端部に刃物部分が形成された商品は数多く出回っていたとして,原告商品と同様又は類似の形態を有する複数の商品等(乙4ないし10,22ないし25,検乙2ないし5)が存在していたことなどを指摘し,原告商品の形態に独自性があることを争っている。
しかしながら,以下のとおり,被告が指摘する商品等の存在によっても,原告商品の形態の独自性が否定されるものとはいえない。
aSTT社製の「SCRAPE IT」について(a)前記争いのない事実等(前記第2の1)と証拠(甲4の1及び2,48,51の1ないし13,52,54,56,59の1ないし58,検甲1,2,原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば,原告商品は,米国フロリダ州所在のSTT社の代表者であるAが考案し,STT社が米国において「SCRAPE IT」の商品名で製造,販売する商品を,アイネクスト社が同商品に関するSTT社の米国以外の地域における総代理店であるENP社を通じて日本に輸入し,それらを原告がアイネクスト社から購入して,「SCRATCH」の商品名で平成18年9月26日から日本国内において販売していること,原告商品のパッケージには,「発売元」として原告が表示されていること,原告が原告商品の販売を開始する前の平成18年1月の時点では,STT社による「SCRAPE IT」の販売数量は合計1000本程度であり,その販売場所は米国国内の美容サロン(エステ店)での店頭販売のみであったことが認められる。
そして,本件においては,原告による原告商品の販売が開始される前はもちろん,それ以後においても,原告が原告商品として販売するもの以外に,原告商品と同一の商品であるSTT社製の「SCRAPE IT」が,STT社又はそれ以外の者によって日本国内において販売され,商品として一般に出回っていたとの事実を認めるに足りる証拠はない。
(b)この点について被告は,STT社のホームページ上に,「SCRAPE IT」のインターネット販売に係る広告が掲載されていること(乙1,2),当該インターネット販売が日本国内への販売のみを特に避けて行っていたとする事情も見当たらないことから,STT社による上記インターネット販売によって,「SCRAPE IT」が原告による原告商品の販売開始前に日本国内においても販売されていた旨主張する。
しかしながら,STT社の上記ホームページは,英語のみで表記されたものであり,上記インターネット販売の仕向地に日本が含まれるか否かは乙1,2からは明らかでないこと,他方,現に,日本国内において「SCRAPE IT」のインターネットを通じた購入が行われていることを具体的にうかがわせる証拠もないことからすれば,STT社によって「SCRAPE IT」の日本国内へのインターネット販売が行われていたか否か,その規模等の詳細はおよそ不明というほかない。
したがって,少なくとも,STT社による上記インターネット販売によって,「SCRAPE IT」が,日本国内において,商品として一般に出回っていたといえる程度に販売されていたとの事実は認めることはできないというべきであるから,被告の上記主張は失当である。
b乙4ないし10について原告商品の形態に独自性があるか否かの判断は,原告商品の需要者である美容に関心の高い女性を中心とした一般消費者の認識を基準として行われるべきものであるから,当該判断に当たって比較されるべき他の同種商品の形態とは,これらの需要者において通常認識し得る商品についての形態でなければならないというべきである。
しかるに,被告が指摘する乙4(特公平4-42014号公報),乙5(特公平4-80694号公報),乙6(特公平7-108299号公報),乙7(特開平11-47142号公報),乙8(実用新案登録第3134240号公報),乙9(特開2002-10944号公報)及び乙10(米国特許出願公開第2005/0075651号明細書)は,いずれも,上記の需要者が通常目に触れるとは考え難い公開特許公報等の専門的な資料であり,これらの資料に示された物品の形態が原告商品の形態類似していたとしても,そのことが原告商品の形態の独自性を否定する事情とならないことは明らかである。
加えて,乙4ないし7に示された物品は,いずれも,円筒状の刃先を持つ「医療用皮膚切除具」であり,一般消費者が自ら用いる美容用の角質除去具である原告商品とは,明らかに商品の種類を異にし,その需要者も異なるものであるから,この点からも,これらの物品の形態いかんが原告商品の形態の独自性を否定する事情とはならない。
また,乙9に示された物品は,原告商品と同種の「皮膚の角質層除去具」ではあるものの,そこに示された物品の形状は,球形の握り部と二重の環状の刃からなるものであって,原告商品の形態とは明らかに異なるものであるから,この点からも,当該物品の形態が原告商品の形態の独自性を否定する事情とはならない。
さらに,乙10(甲4の2と同じ)は,STT社の代表者Aが特許出願をした発明に係る米国特許出願公開明細書であって,その発明品である「たことり」(Callus Remover)は,正に「SCRAPE IT」あるいは原告商品そのものであるから,乙10が原告商品と同様又は類似の形態を有する商品が存在していたことの根拠となるものではない。
c乙22ないし25及び検乙2ないし5について被告は,原告商品と同様の形態を有する商品として,?カイインダストリーズ株式会社が販売する皮膚科用製品の一部(乙22),?「男足」という商品名の角質除去具(乙23,検乙3),?「HEEL HORNY PEEELER」(ヒールホーニーピーラー)という商品名の角質除去具(乙24,検乙2),?「ジェイアンドエイチ Purity(ピュリティ) ボディケアセット」という商品名のセット商品に含まれる角質除去具(乙25,検乙5),?「Pure Slick」という商品名の角質除去具(検乙4)が存在することを指摘する。
しかしながら,まず,上記?の商品は,医療用皮膚切除具と認められるものであり,前記bで述べたとおり,原告商品とは,明らかに商品の種類を異にし,その需要者も異なるものであるから,当該商品の形態いかんが原告商品の形態の独自性を否定する事情とはならない。
次に,上記?ないし?の各商品は,いずれも円筒形状の金属製のパイプの端部に刃物部分が形成された角質除去具であることが認められるものの,これらの商品の販売が開始された時期を示す証拠がなく,これらの商品が原告商品の販売が開始された平成18年9月26日の時点で販売されていたとの事実を認めることはできないから,これらの商品の存在が,原告商品の形態の独自性を否定する事情とはなり得ないというべきである。
(ウ)以上の検討によれば,原告商品の前記(ア)の形態は,原告が原告商品の販売を開始した平成18年9月26日当時,他の同種商品(角質除去具)には見られない独自の特徴を有する形態であったものと認められる。
ウ 原告商品の形態周知性について証拠(甲5,8ないし15,26ないし32,34ないし37,41(枝番のあるものは枝番を含む。特に枝番を明示しない限り,以下同じ。),検甲1,2,原告代表者)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。
(ア) 原告商品の販売状況原告商品は,原告によって,平成18年9月26日から販売されるようになり,同年10月以降徐々に販路が拡大し,全国のスーパーマーケット,ドラッグストア,ディスカウントショップ(ドン・キホーテなど),セレクトショップ(東急ハンズ,キディランドなど)等での店頭販売のほか,インターネット,カタログ,テレビによる通信販売が広く行われるようになっていった。
平成18年10月から平成19年11月までの原告商品の販売数の推移を,月ごとの出荷数を基準にみると,平成18年10月から平成19年1月にかけての出荷数は1万本台で推移していたが,同年2月には3万本台となり,更に月を追うごとに出荷数が大きく増加して,同年5月には12万本台に達し,その後も同年8月までは12万本前後を維持し,同年9月から11月にかけても3万本台から8万本台の出荷数を維持している。
また,原告商品の累積出荷数をみると,平成19年7月の時点で50万本を超え,平成19年11月の時点では約89万本に達している。
(イ) 原告商品の雑誌・新聞等への掲載a原告商品は,平成18年9月26日の販売開始以来平成19年11月26日ころまでの間に,原告を発売元とする商品として,業界新聞,地方新聞,地方版の雑誌のほか,全国的に広く発行されている雑誌や一般新聞においても,広告や紹介記事が頻繁に掲載されてきた(上記期間内における広告,記事の掲載数は,約50件に及ぶ。)。そして,これらの多くにおいては,原告商品の形態がおおむね認識し得るような写真が掲載されている。
特に,原告自らが行った広告をみると,平成19年7月から同年11月にかけて,原告商品について,以下の(a)ないし(j)のような全国的に広く発行されている女性向けの雑誌において,裏表紙の一面にわたって原告商品を大きな写真付きで紹介するとともに,「大ヒット記録50万本突破!」などと原告商品がヒット商品であることを強調する宣伝文句を付した広告が繰り返し行われている。
(a)平成19年7月31日発行の雑誌「女性自身」(発行部数約32万部・甲28)7月31日号(甲27の28)(b)平成19年8月14日発行の雑誌「週刊女性」(発行部数約23万部・甲28)8月14日号(甲27の30)(c)平成19年9月1日発行の雑誌「saita」(発行部数約35万部・甲28)2007年9月号(甲27の31)(d)平成19年9月1日発行の雑誌「ar(アール)」(発行部数約7万9000部・甲28)2007年9月号(甲27の32)(e)平成19年9月5日発行の雑誌「はんど&はあと」(発行部数約7万9000部・甲28)2007年10月号(甲27の41)(f)平成19年10月1日発行の雑誌「Mart」(発行部数約6万7000部・甲28)2007年10月号(甲27の36)(g)平成19年10月1日発行の雑誌「サンキュ!」(発行部数約33万部・甲28)2007年10月号(甲27の38)(h)平成19年10月1日発行の雑誌「すてきな奥さん」(発行部数約14万部・甲28)2007年10月号(甲27の40)(i)平成19年10月1日発行の雑誌「Body+(ボディプラス)」(発行部数約6万部・甲28)2007年10月号(甲27の43)(j)平成19年11月1日発行の雑誌「saita」(発行部数約35万部・甲28)2007年11月号(甲27の44)bまた,原告商品に関する紹介記事の中には,以下のとおり,原告商品を注目商品あるいはヒット商品として,写真付きで紹介するものが多数含まれている。
(a)平成19年2月5日発行の雑誌「Chou Chou(シュシュ)」(発行部数約7万8000部・甲28)2007年No.3において,原告商品が,「ガサガサかかとや足裏の角質がボロボロと落ちると話題沸騰中の「スクラッチ」。」と紹介されている(甲27の6)。
(b)平成19年6月1日発行の東急カード会員向けの会員誌「Qualite」(発行部数約4万部・甲30の5)2007年6月号において,原告商品が,流行発信ショップ「ranKing ranQueen」における「今月のPick Up Rankingかかとケア編」のランキング第1位の商品として紹介されている(甲27の19)。
(c)平成19年6月15日発行の健康美容商材のバイヤー向けの情報誌「シイレ」(発行部数約5万部・甲30の7)2号において,原告商品が,流行発信ショップ「ranKing ranQueen」の健康グッズベスト20におけるランキング第5位の商品として紹介されている(甲27の24)。
(d)平成19年7月10日発行の雑誌「女性自身」(発行部数約32万部・甲28)7月10日号において,原告商品が,東急ハンズ池袋店の人気商品の一つとして紹介されている(甲27の23)。
(e)首都圏,仙台市,大阪市に展開するドラッグストア「Tomod's」が発行する情報誌「TOMOKO」(発行部数約9万部・甲30の8)2007年7月号において,原告商品が,「Tomod's」の優秀小物のランキング第1位の商品として紹介されている(甲27の25)。
(f)平成19年8月1日発行の雑誌「ViVi」(発行部数約35万部・甲28)2007年8月号において,原告商品が,「激売れコスメRanking」と題する特集の中で,名古屋の東急ハンズの「Hits Best3」のうちの第2位の商品として紹介されている(甲27の22)。
(g)平成19年8月1日発行の雑誌「ar(アール)」(発行部数約7万9000部・甲28)2007年8月号において,原告商品が,「ガサガサかかとや足裏の角質がボロボロと落ちると話題沸騰中のアイテム。」と紹介されている(甲27の27)。
(h)平成19年9月3日発行の雑誌「Chou Chou(シュシュ)」(発行部数約7万8000部・甲28)2007年No.18において,原告商品が,「TV通販の人気商品」,「深夜のTV通販や店頭で話題の角質ケア「スクラッチ」」と紹介されている(甲27の33)。
(i)平成19年11月24日付けの「朝日新聞土曜版be」(発行部数約800万部・甲28)において,原告商品が,「クリーンヒット」商品として取り上げられ,「出荷数は1年で約80万本に達した。」などと紹介されている(甲27の54)。
(ウ) テレビ放送原告商品は,平成18年9月の販売開始以来平成19年11月26日までの間に,以下のとおり,テレビ放送においても,宣伝や紹介がされ,その形態が映像で紹介されている。
a全国ネット局の情報番組等(a)平成18年11月17日に放送された朝の情報番組「めざましテレビ」(フジテレビ)において,原告商品が,ドラッグストアにおける美容雑貨の売れ筋第1位の商品として紹介されている(甲12,15の1)。
平成19年5月8日に放送された「めざましテレビ」において,原告商品が,フットケア商品の売れ筋第3位の商品として紹介されている(甲12,15の1)。
(b)平成19年7月11日に放送された朝の情報番組「はなまるマーケット」(TBS)において,原告商品が,フットケアグッズの売れ筋第1位の商品として紹介されている(甲12,15の1)。
(c)平成19年2月から11月にかけて放送された深夜の通販番組「気になる通販ランキングポシュレデパート深夜店」(日テレ)において,多数回にわたり通信販売商品として宣伝され,販売されている(甲12,14の1,2)。
b地方局の情報番組原告商品は,平成18年11月から平成19年7月にかけて,地方局の情報番組においても,売れ筋商品などとしてたびたび紹介されている(甲12,15の1,2)。
cショッピング専門チャンネル原告商品は,CS放送,ケーブルテレビ等で放送されている24時間生放送のショッピング専門チャンネル「ショップチャンネル」(視聴可能世帯数約2200万世帯・甲23)において,平成19年1月26日以降同年11月に至るまで,多数回にわたり通信販売商品として宣伝され,販売されている(甲12,13の1ないし5,14の1)。
(エ) その他の事情原告商品が全国的なヒット商品として一般に認識されていたことを示す事情として,以下のような事実がある。
a平成19年12月1日発行の流行情報誌「日経TRENDY」(発行部数約23万部・甲28)2007年12月号で発表された,同誌が選ぶ「2007年ヒット商品ベスト30」において,原告商品は,「「角質取り」という非常にニッチな商品が,1年間で異例の80万を販売。角質をこすると,ごっそり取れる様子を映像で訴求し,女性たちを捉えた」との理由から,第24位にランクされた(甲27の51)。
b平成19年12月1日発行の総合経営誌「日経ベンチャー」(発行部数約7万部・甲28)で発表された,同誌が選ぶ「2007年ヒット商品番付」において,原告商品は,「西前頭2枚目」にランクされた(甲27の55)。
cドラッグストア業界の業界紙「DRAG topics」(発行部数約6万8000部・甲28)平成19年12月24日・31日合併号で発表された,同業界関係者らの投票によって決定される「第20回ヒット商品賞(バラエティー部門)」において,原告商品は,第10位にランクされた(甲27の59,67,71)。
エ 小括(ア)前記イ及びウを総合すると,原告商品は,その販売が開始された平成18年9月26日当時,前記イ(ア)の形態において,同種商品と識別し得る独自の特徴を有していたものであり,かつ,販売開始後平成19年11月26日ころまでの約1年2か月の間に,多くの全国的な雑誌,新聞,テレビ番組等で繰り返し取り上げられて,原告商品の形態が写真や映像によって紹介されるなど効果的な宣伝広告等がされるとともに,原告商品の販売数も販売開始当初から飛躍的に増加し,平成19年11月の時点では約89万本に達し,美容雑貨の全国的なヒット商品としての評価が定着するに至ったものと認められる。
上記認定事実によれば,原告商品の上記形態は,遅くとも平成19年11月26日ころまでには,全国の美容雑貨関係の取引業者及び美容に関心の高い女性を中心とした一般消費者の間において,特定の営業主体の商品であることの出所を示す出所識別機能を獲得するとともに,原告商品を表示するものとして需要者である上記取引業者及び一般消費者の間に広く認識されるに至ったものと認めるのが相当である。
したがって,原告商品の上記形態は,原告の周知の商品等表示(不競法2条1項1号)に該当するというべきである。
(イ)これに対し被告は,原告商品は厳重にパッケージングされており,商品本体だけでバラ売りされていた事実は確認されておらず,通常,需要者が原告商品の形態を認識しにくい状態で販売されていること,原告商品は,長年大量にテレビコマーシャル等で宣伝広告が行われてきた商品ではなく,一般需要者が原告商品の形態を直接的に目にする機会はほとんどなかったことからすれば,原告商品の形態自体が商品等表示としての機能を獲得しているとされる余地はない旨主張する。
しかしながら,?原告商品(検甲1,2)のパッケージには,透明窓が付いており,そこから原告商品を確認できる上に,同パッケージには,原告商品の使用方法を説明する写真が掲載されており,そこからも原告商品の形態が確認できること,?雑誌,新聞,テレビ番組等においても,原告を発売元とする商品として,原告商品の形態の写真や映像付きで原告商品の広告・紹介がされていること(前記ウ)に照らすならば,原告商品について,需要者がその形態を認識しにくい状態で販売されているということはできない。
また,商品形態が商品表示として出所識別機能を獲得するには宣伝広告が必ず長期に及ばなければならないというものではなく,商品の販売開始から短期間であっても効果的な宣伝広告等がされた結果,当該商品の形態出所識別機能を獲得するとともに,需要者の間に広く認識されるに至ることがあり得るというべきであり,原告商品は,このような場合に当たるものと認められる。
したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
(ウ)なお,証拠(甲8ないし17,26,27,36,37,41,58)及び弁論の全趣旨によれば,?原告商品は,平成19年11月26日以降においても,店頭販売やインターネット等を通じた通信販売によって継続的に販売されており,平成19年11月の時点で約89万本であった累計出荷数量が,平成20年5月には約120万本,平成21年7月には約134万本に達するなど,かなりの販売数を維持していること,?原告商品の雑誌等への掲載や「ショップチャンネル」等での紹介についても,少なくとも平成20年4月ころまでは継続的に行われていることが認められるから,原告商品の前記イ(ア)の形態は,本件口頭弁論終結時(平成22年6月17日)においてもなお,原告の周知の商品等表示(商品表示)としての機能を維持し続けているものと認めるのが相当である。
(2) 争点1-2(商品形態類似性)についてア前記(1)イ(ア)及び被告商品(検甲3)によれば,被告商品は,?角質除去具としての本体部分(被告円筒管)が「極細」で(直径約5ミリメートル),「コンパクトな円筒管」(長さ約7センチメートル)である点,?被告円筒管の材質がステンレス製で,光沢のあるシルバー色である点,?被告円筒管の両端部を開口として,各先端部分の円周に沿って角質除去のための刃が設けられている点,?樹脂製スティック(被告スティック)が被告円筒管内に挿入され,被告スティックの一部が被告円筒管からはみ出して見える点において,原告商品の前記(1)イ(ア)の形態と共通する形態上の特徴を備えており,上記?及び?の特徴から,看者に全体としてシャープでシンプルな印象を与えるという点においても共通するものと認められる。
イ他方,被告は,原告商品と被告商品との形態上の相違点として,?円筒管の太さと長さ,?ステンレス部分の厚み,?刃先の角度,?刃先の有効長,?スティックの長さと色を指摘する。
確かに,原告商品と被告商品の各寸法等を測定した結果を示した「検査証明書」(乙11)等によれば,原告商品と被告商品との間に上記?ないし?に係る相違があることが認められるものの,いずれも微細な寸法の違いや色の違いにすぎず,需要者らの注意を惹かない些細な相違点にすぎないものというべきであり,原告商品及び被告商品を全体としてみれば,上記相違点をもって原告商品及び被告商品における前記アの形態上の共通点を凌駕するものとはいえない。
したがって,被告商品の形態が原告商品の形態類似するものであることは,優にこれを認めることができる。
(3) 争点1-3(混同のおそれの有無)前記(1)のとおり,原告商品の形態は原告の周知の商品表示としての機能を有しており,他方,前記(2)のとおり,被告商品の形態が原告商品の形態類似することからすれば,需要者である美容に関心の高い女性を中心とした一般消費者において,被告商品と原告商品との混同を生じるおそれがあるものと認められる。
なお,証拠(甲36,37,41,46,47,58)によれば,原告商品が店頭販売及び通信販売のいずれにおいても税込価格2940円で販売されているのに対し,被告商品のインターネットによる通信販売の価格をみると,税込価格で1480円から1785円と原告商品よりも低い価格で販売されていることが認められるが,この程度の販売価格の差異があるからといって,上記認定が左右されるものではなく,他にこれを左右する証拠はない。
(4) まとめ以上によれば,被告商品を販売する被告の行為は,不競法2条1項1号の不正競争行為に当たるものと認められる。
そして,原告は,被告の上記不正競争行為によって,原告商品の販売に係る営業上の利益侵害されているものであるから,不競法3条1項に基づき,被告に対し,被告商品の譲渡,引渡し,又は譲渡若しくは引渡しのための展示の差止めを請求することができる。
2 原告の損害額(争点3)(1)前記1(1)によれば,原告商品の前記1(1)イ(ア)の形態は,被告商品の販売が開始された平成19年11月26日の時点において原告の周知の商品等表示(商品表示)となっていたということができるから,被告は,被告商品の販売行為が不競法2条1項1号の不正競争行為に当たり,これによって原告の原告商品の販売に係る営業上の利益侵害することを知っていたか,少なくとも知らなかったことにつき過失があったものと認められる。
したがって,被告は,原告に対し,不競法4条に基づき,上記侵害行為によって原告が受けた損害を賠償する責任を負うというべきである。
(2)原告は,被告が,平成19年11月26日から平成20年8月末日までの間に,被告商品を,1本当たり1480円の価格で合計9万本販売して,合計1億3320万円を売り上げ,その30パーセントに当たる3996万円の利益を受けた旨主張する。
このうち,被告が,上記期間内に,被告商品を合計9545本販売し,合計582万7440円を売り上げ,183万6180円の利益(粗利益)を受けたことは,被告が自認するところであり,当事者間に争いがない。
他方,被告が,被告商品の販売によって上記利益の額を超える額の利益を受けたことを認めるに足りる証拠はない。
そうすると,本件において,被告が被告商品の販売によって受けた利益の額として認定し得るのは,上記のとおり当事者間に争いのない183万6180円の限度にとどまるものであり,その金額が,不競法5条2項により,被告の上記侵害行為によって原告が受けた損害の額と推定されるものである。
3 結論以上の次第であるから,その余の点について判断するまでもなく,原告の被告に対する本訴請求のうち,被告商品の譲渡等の差止請求に係る部分は理由があるからこれを認容することとし,損害賠償請求に係る部分は,183万6180円(前記2(2))及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成20年9月23日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容することとし,その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官 大西勝滋
裁判官 石神有吾