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事件 平成 20年 (ワ) 8763号 不正競争行為差止等請求事件
原告P1
訴訟代理人弁護士苗村博子
同 中島康平
被告P2
被告P3
被告P4
上記被告ら3名訴訟代理人弁護士 財前昌和
被告P5
被告P6
上記被告ら2名訴訟代理人弁護士 吉井昭
同 今泉純一
同 久保田有子
同 香川朋子
同 宮藤幸一
同 崔博明
同 横山英一
同 江村純子
同 檜山洋子
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2010/10/21
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 1原告の請求をいずれも棄却する。
- 2 -2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求【主位的請求】1被告P5,被告P2,被告P3及び被告P4は,別紙顧客目録記載の者に対し,面会を求め,電話をし又は郵便物を送付するなどして,不動産の売買若しくは交換又は不動産の売買,交換若しくは賃貸借の代理若しくは媒介,これらの契約締結方の勧誘又はこれらの契約に付随する営業行為をしてはならない。
2被告P5,被告P2,被告P3及び被告P4は,不動産の売買若しくは交換又は不動産の売買,交換若しくは賃貸借の代理若しくは媒介,又はこれらの契約に付随する情報の提供を求めて被告P5,被告P2,被告P3及び被告P4宛に訪問,電話連絡又は郵便物の送付などをしてくる別紙顧客目録記載の者に対し,不動産の売買若しくは交換又は不動産の売買,交換若しくは賃貸借の代理若しくは媒介,これらの契約締結方の勧誘又はこれらの契約に付随する営業行為をしてはならない。
3被告P5,被告P2,被告P3及び被告P4は,別紙営業秘密目録1記載の営業秘密を不動産の売買若しくは交換又は不動産の売買,交換若しくは賃貸借の代理若しくは媒介に使用し,又はこれを開示してはならない。
4被告P5,被告P2,被告P3及び被告P4は,別紙顧客目録記載の住所及び氏名を記載した紙媒体並びに別紙顧客目録記載の住所及び氏名のデータを記録したフロッピーディスク,コンピュータのファイル等の磁気媒体を廃棄せよ。
5被告P5,被告P2,被告P3及び被告P4は,別紙営業秘密目録1記載の営業秘密を記載した紙媒体並びに別紙営業秘密目録1記載の営業秘密を記録したフロッピーディスク及びコンピュータのファイル等の磁気媒体を廃棄せよ。
6被告らは,原告に対し,連帯して1212万7500円及びこれに対する被告P5,被告P3及び被告P2は平成20年7月16日から,被告P4は平成20年7月17日から,被告P6は平成20年7月20日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
【予備的請求】1主位的請求第3項の予備的請求被告P5,被告P2,被告P3及び被告P4は,別紙営業秘密目録2記載の営業秘密を,不動産の売買若しくは交換又は不動産の売買,交換若しくは賃貸借の代理若しくは媒介に使用し,又はこれを開示してはならない。
2主位的請求第5項の予備的請求被告P5,被告P2,被告P3及び被告P4は,別紙営業秘密目録2記載の営業秘密を記載した紙媒体並びに同目録2記載の営業秘密を記録したフロッピーディスク及びコンピュータのファイル等の磁気媒体を廃棄せよ。
第2事案の概要本件は,不動産の売買等を営む原告が,原告の元従業員である被告P2,被告P3及び被告P4(以下,同被告ら3名を併せて「被告P2ら」という )。
において,原告と同種の事業を営む被告P6が代表取締役を務める被告P5の販売する不動産の売買等の勧誘等を行っていることなどについて,被告らに対して下記の各請求をした事案である。原告の被告P2らに対する下記(1)ア及びイの各差止め及び廃棄請求並びに下記(1)アないしエの各損害賠償請求は,いずれも選択的請求である。
記(1)被告P2らに対する請求ア不正競争防止法に基づく請求被告P2らが,原告から不正競争防止法2条6項所定の「営業秘密」に該当する原告の顧客情報を持ち出し,その情報を用いて不動産の売買等の勧誘等をするために被告P5に開示した行為につき,前者が不正競争防止法2条1項4号所定の不正競争に,後者が同条7号所定の不正競争に該当することを理由とする下記請求記?不正競争防止法3条1項に基づく別紙顧客目録記載の者に対する営業行為及び原告の顧客情報(主位的に別紙営業秘密目録1記載の顧客情報,予備的に別紙営業秘密目録2記載の顧客情報)の使用等の差止請求(主位的請求の第1項ないし第3項,予備的請求の第1項)?不正競争防止法3条2項に基づく別紙顧客目録記載の顧客の住所及び氏名を記載した紙媒体等及び原告の顧客情報(主位的に別紙営業秘密目録1記載の顧客情報,予備的に別紙営業秘密目録2記載の顧客情報)を記載した紙媒体等の廃棄請求(主位的請求の第4項及び第5項,予備的請求の第2項)?不正競争防止法4条に基づく損害金1212万7500円及びこれに対する不正競争の日の後である訴状送達の日の翌日(被告P2及び被告P3は平成20年7月16日,被告P4は平成20年7月17日)から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求(主位的請求の第6項)イ誓約書に基づく秘密保持合意又は就業規則上の退職後の秘密保持規定に基づく請求被告P2らが原告の顧客情報を用いて不動産の売買の勧誘等をしている行為が,原告と被告P2らとの間の誓約書に基づく秘密保持合意又は就業規則上の退職後の秘密保持規定に違反することを理由とする下記請求記?誓約書に基づく秘密保持合意又は就業規則上の退職後の秘密保持規定に基づく別紙顧客目録記載の者に対する営業行為及び原告の顧客情報(主位的に別紙営業秘密目録1記載の顧客情報,予備的に別紙営業秘密目録2記載の顧客情報)の使用等の差止請求(主位的請求の趣旨第1項ないし第3項,予備的請求の趣旨第1項)?誓約書に基づく秘密保持合意又は就業規則上の退職後の秘密保持規定に基づく,別紙顧客目録記載の住所及び氏名を記載した紙媒体等及び原告の顧客情報(主位的に別紙営業秘密目録1記載の顧客情報,予備的に別紙営業秘密目録2記載の顧客情報)を記載した紙媒体等の廃棄請求(主位的請求の第4項及び第5項,予備的請求の第2項)?誓約書に基づく秘密保持合意又は就業規則上の退職後の秘密保持規定に違反したことを理由とする債務不履行に基づく損害金1212万7500円及びこれに対する催告の日(訴状送達の日)の翌日(被告P2及び被告P3は平成20年7月16日,被告P4は平成20年7月17日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求(主位的請求の第6項)ウ就業規則上の退職後の競業避止義務に基づく請求被告P2らが原告退職後に不動産の売買の勧誘等をしている行為が,原告の就業規則上の退職後の競業避止規定に違反することを理由とする,債務不履行に基づく損害金1212万7500円及びこれに対する催告の日の翌日(訴状送達の日の翌日,被告P2及び被告P3は平成20年7月16日,被告P4は平成20年7月17日)から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求(主位的請求の第6項)エ不法行為に基づく請求被告P2らが原告退職後に不動産の売買の勧誘等をしている行為は,社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法な態様の競業行為であり,不法行為に該当するとして,不法行為に基づく損害金1212万7500円及びこれに対する不法行為の後の日である訴状送達の日の翌日(被告P2及び被告P3は平成20年7月16日,被告P4は平成20年7月17日)から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求(主位的請求の第6項)(2)被告P5に対する請求被告P5が被告P2らによる原告の顧客情報の不正取得を知って,又は図利加害目的で開示していることを知りながら,当該顧客情報を取得し,その営業に使用している行為は,不正競争防止法2条1項5号又は8号の不正競争に該当することを理由とする下記請求記?不正競争防止法3条1項に基づく別紙顧客目録記載の者に対する営業行為及び原告の顧客情報(主位的に別紙営業秘密目録1記載の顧客情報,予備的に別紙営業秘密目録2記載の顧客情報)の使用等の差止請求(主位的請求の趣旨第1項ないし第3項,予備的請求の趣旨第1項)?不正競争防止法3条2項に基づく別紙顧客目録記載の住所及び氏名を記載した紙媒体等及び原告の顧客情報(主位的に別紙営業秘密目録1記載の顧客情報,予備的に別紙営業秘密目録2記載の顧客情報)を記載した紙媒体等の廃棄請求(主位的請求の趣旨第4項及び第5項,予備的請求の趣旨第2項)?不正競争防止法4条に基づく損害金1212万7500円及びこれに対する不正競争の日の後である平成20年7月16日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求(主位的請求の趣旨第6項)(3)被告P6に対する請求被告P5が上記(2)の不正競争により原告に与えた損害について,被告P6は同社の代表取締役として会社法429条に基づく責任を負うとして,損害金1212万7500円及びこれに対する不正競争の日の後である平成20年7月20日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求(主位的請求の趣旨第6項)1判断の基礎となる事実(末尾に証拠等のない事実は当事者間に争いがないか,弁論の全趣旨により容易に認められる事実である )。
(1)当事者ア原告は,平成3年12月に設立された,不動産の売買,賃貸,管理及び媒介等を目的とする株式会社であり,主として投資用マンションの販売業務を行っている。
イ被告P5は,平成17年7月に設立された,不動産の売買等を業とする株式会社である。
ウ被告P6は,被告P5の代表取締役であり,原告の元従業員である。
エ被告P2は,平成14年4月に原告に入社して営業に従事し,平成17年4月には原告のグループ会社であるP7に転籍したが,平成19年1月には原告に戻り,同年4月からは後記退職時まで第1営業部の課長を務めていた者である (甲87の1,丙1) 。
オ被告P3は,平成14年4月に原告に入社して営業に従事し,その後,原告のグループ会社であるP8及びP7に転籍したことがあったが,平成19年1月には原告に戻り,同年10月からは後記退職時まで第2営業部の課長を務めていた者である (甲87の2,丙2) 。
カ被告P4は,平成9年4月に原告に入社して営業に従事し,その後,原告のグループ会社であるP7に転籍したことがあったが,平成19年2月には原告に戻りそのころから後記退職時まで第2営業部次長を務めていた者である (甲87の3,丙3) 。
( )被告P2らの退職2被告P4は,平成20年3月2日深夜,無人の原告事務所に赴いて上司の机の上に退職届を置き,その後は原告に出社していない。
被告P2及び被告P3は,平成20年3月6日深夜,無人の原告事務所に赴いて上司の机の上に退職届を置き,その後は原告に出社していない。
( )原告営業部3原告の営業部は第1営業部と第2営業部に分かれ,さらに第1営業部は第1課,第2課に,第2営業部は第3課,第5課に分かれており,各課にはヘッドと呼ばれるリーダーが1名いて,ヘッドの下に一般の営業従業員が配属されていた。被告P2らが原告を退職した当時,各課のヘッドは,第1課は第2営業部部長のP9,第2課は被告P4,第3課は被告P2,第5課は被告P3であった。また,営業部に属する従業員はヘッドを含め合計で20名程度であった (甲6,証人P9)。
( )被告P2らと被告P5の関係4被告P2らは,原告を退職した後,被告P5が販売するP10(以下「本件マンション」という )の販売業務に携わっていた。 。
2争点(1)不正競争防止法に基づく請求ア別紙営業秘密目録1又は同目録2に記載の原告の顧客情報(以下,順に「本件顧客情報1「本件顧客情報2」といい,併せて「本件顧客情 」,報」という )は不正競争防止法2条6項にいう「営業秘密」に該当する 。
か(争点1)イ被告P2らは不正競争防止法2条1項4号又は7号の不正競争をしたか(争点2)ウ被告P5は不正競争防止法2条1項5号又は8号の不正競争をしたか(争点3)エ被告P6は会社法429条に基づく責任を負うか(争点4)(2)誓約書に基づく秘密保持合意,就業規則上の退職後の秘密保持規定又は就業規則上の退職後の競業避止規定に基づく請求ア原告と被告P2らとの間で誓約書に基づく秘密保持合意が成立したか(争点5)イ退職後の秘密保持規定及び競業避止規定を追加した原告の就業規則の変更は有効か(争点6)ウ被告P2らは誓約書に基づく秘密保持合意又は就業規則上の退職後の秘密保持規定に違反したか(争点7)エ被告P2らは就業規則上の退職後の競業避止規定に違反したか(争点8)(3)被告P2らの営業行為が原告に対する不法行為に該当するか(争点9)(4)原告の損害額(争点)10第3争点に関する当事者の主張1争点1(本件顧客情報が不正競争防止法2条6項にいう「営業秘密」に該当するか)について【原告の主張】原告は,本件顧客情報を,契約者台帳及び磁気情報(ASデータ)によって管理し保有している。
(1)秘密管理性ア契約者台帳の「無断複製・持出厳禁」の表示原告は,平成17年4月以降,本件顧客情報が記載された契約者台帳の右上余白部分に「無断複製・持出厳禁」と明記している。
イ就業規則及び誓約書(ア)就業規則の規定原告の就業規則には,社員の服務の心得として「会社の業務上の機密事項及び会社の不利益となるような事項を他に漏らさないこと (59」条4号 ,退職後の責務として「退職又は解雇された者は,在職中に知 )」 。 り得た機密を他に漏らしてはならない (31条2項)との規定がある被告P2らは,原告入社時,就業規則を遵守する旨の誓約書をそれぞれ原告に提出している。
(イ)誓約書の提出被告P2及び被告P3は,平成17年4月1日付けの秘密保持に関する誓約書をその当時勤務していた原告のグループ会社に提出し,業務の遂行及びこれに関連して知った原告及び原告の取引先の経営上,技術上及び営業上の一切の情報について,在職中及び退職後の業務外の目的での使用等の不正使用・原告管理外への開示を行わないこと,取扱いに関する指示を守りこれらの秘密を保持すること,これらの情報が含まれた書類等を原告の指示に従って管理すること,退職時には全て返還すること等を約した。
なお,被告P4は誓約書を差し入れていないが,それは,被告P4が当時既に課長職に就いている管理職であり,むしろ従業員に誓約書の提出を命令する立場にあったからにすぎず,被告P4は誓約書記載の情報の重要性について一般の従業員以上に知悉していた。
(ウ)就業規則及び誓約書の秘密保持義務の対象原告のような自社分譲マンションの販売を主たる事業とする会社の営業部においては,顧客情報が最も重要であって,これを外部に漏洩してはならないことはその性質上当然であり,このことは原告の営業部で稼働する従業員(以下「営業部従業員」という )にとっても常識に属す 。
る事柄である。加えて,原告は,契約者台帳に「無断複製・持出厳禁」と明記し,本件顧客情報が就業規則上の「機密」又は誓約書上の「秘密」に当たることを客観的に認識できるよう措置を講じていた。
したがって,本件顧客情報が就業規則及び誓約書に基づく秘密保持義務の対象となることは明らかである。
ウ営業部における管理状況(ア)契約者台帳は,複写式3枚綴となっており,顧客との契約成立後直ちに担当する営業部従業員が所定事項を記入した上,役員の決裁を経て,売買契約書等の書類とともに,まず営業管理課へ渡され,そこで3枚のうち1枚が分離される。その後,契約者台帳は,営業管理課から経理課へ渡され,そこで,さらに1枚が分離され,最後の1枚は経理課からローン課へと渡される。
営業部従業員は,自らが担当している顧客の契約者台帳につき1部のみコピーして,そのコピーを時系列にファイリングして保持し,営業活動に用いる。ヘッドは,このほかに退職した従業員が担当していた顧客の契約者台帳ファイルを引き継ぎ管理している。
原告の営業部において,他の従業員が契約者台帳を閲覧するのは,ヘッドが課員のヘルプをする場合や部下の教育のために閲覧させる場合であり,いずれも業務に必要な場合に担当者の承諾のもとで行なわれる。
営業部従業員は,退社時には契約者台帳ファイルを机の施錠可能な引出しに収納する。
(イ)原告の社内ルールでは,契約者台帳を社外に持ち出してはならず,また,外部に商談に行く場合,外出の際どうしても顧客に連絡する必要がある場合又は営業部の休日にしか連絡できない顧客に連絡する必要がある場合には,ヘッドの判断で契約者台帳の該当部分をコピーすることがあるが,それ以外にはコピーが禁止されていた。
コピーした契約者台帳や後記のASデータをプリントアウトしたものは,使用後,シュレッダーにかけて廃棄することになっていた。このことは,営業部において,ヘッドが部下に口頭で指導していたほか,平成17年初めから4月にかけて,原告のオーナーであるP11が直接繰り返し指示するなどしており,シュレッダーも1台から5台に増設された。
エ他部署における管理状況(ア)営業管理課営業管理課では,契約者台帳を営業部から受け取ると,契約者台帳に記載された本件顧客情報を当日又は翌日に全てコンピュータ・サーバ内に入力し,データベース化する(同データはASデータと称されている。
以下,同データを「ASデータ」という。入力作業が翌日になる場 。)合には,営業管理課のP12係長が契約者台帳を机の引出しに施錠して保管する。営業管理課では,入力作業が終了すると直ちに営業部から受け取った契約者台帳をシュレッダーにかけて廃棄する。
(イ)経理課経理課では,保有している契約者台帳を,物件全戸につき決済が終了するまでは,経理課の担当主任1名が机の施錠可能な引出しに収納して保管している。キャビネットの鍵は,担当主任1名のみが管理している。
その後,半年程度が経過すると,経理課では,契約者台帳をシュレッダーにかけて廃棄する。
(ウ)ローン課における管理状況ローン課では,決済未了の間は,担当係長2名の机の施錠可能な引出しに収納して保管し,決済が終了すると,書庫スペースのキャビネットに施錠して,契約者台帳を保管している。キャビネットの鍵は,担当係長2名のみが管理している。
オ磁気情報の管理状況営業管理課によって入力されたASデータは,コンピュータ・サーバ内に格納される。ASデータは,限られた従業員に割り振られたユーザーIDとパスワードを入力してサインオンしない限り閲覧することはできず,サインオンすることによってASデータを閲覧することができるのは,原告では総務部総務課の情報システムを担当しているP13主任,経理課,ローン課,営業管理課及び建設部のうちアフターサービスを担当する従業員といった業務の遂行にASデータの閲覧が必要な一部の従業員に限られ,その他の従業員はASデータを閲覧することはできない。
また,ASデータを閲覧する際にも,個人情報の取扱いに注意するよう画面上で注意喚起がされた上で,閲覧記録がテキストデータで保存され,誰が,いつ,どのパソコンでASデータのどの部分を閲覧したか特定することができる。そして,ASデータは,ASデータが閲覧できる従業員に割り振られたデスクトップパソコンでしか閲覧できず,ASデータを他の記録媒体に保存することはできない。
そして,プリントアウトについては原則として禁止されており,仮に行なう場合でも1画面ごとに画面印刷の方法でしか行うことができず,その方法も教示されない。
さらに,営業部のヘッドが,顧客の連絡先又は書類の郵送先を確認する場合に,ASデータのプリントアウトを要求することがあったが,その場合であっても,ヘッドは,プリントアウトされたASデータを使用後,シュレッダーにかけて廃棄していた。
なお,会計事務所のスタッフがASデータを閲覧する場合もあるが,その場合にも,原告は個人情報の保護に必要な措置を講じる旨誓約する内容の誓約書を提出させている。
カ外部からのアクセス遮断原告の顧客情報は,12階及び13階の執務フロアに存在するため,内部からの持出しを禁止するとともに,外部からの訪問者については全て12階の総合案内及びその左右に設けられた応接室で対応することとし,12階及び13階の執務フロアへの外部者の立入を原則禁止し,やむを得ず外部者が入室する場合も誓約書を徴求することとした。
キその他の顧客情報の管理状況(ア)見込みノート原告では,特にヘッド以下の営業部従業員が新規顧客開拓のために頻繁に見込みノートを使用しており,業務時間中は,各営業部従業員の机の上に置いて勧誘電話を行いながら会話内容等を記入するなどして使用しているのが常態であるが,退社時には各営業部従業員の机の引き出しに収納する。なお,原告営業部の従業員は,退職した従業員の見込みノートなどの長期間使用していない見込みノートを段ボール箱に収納し,各自の使用している机の下に収納している。
また,見込みノートは,特に新規顧客開拓のために使用される原告の重要な営業情報が記載されており,将来の顧客となり得る人物の電話番号などの情報が記載されていることから,原告では,営業部各課のヘッドが,各課従業員に対し,新人研修時や営業部配属時の研修時の教育だけでなく,日々の業務や朝礼の中で原告社外への持出禁止を指導していた。
加えて,見込みノートは,就業規則及び誓約書に基づく秘密保持義務の対象であり,原告社内からの持出が禁止される文書に該当する。
(イ)契約報告用紙,数字ノート及びホワイトボードa原告営業部では,見込み客から物件購入の申込みを受けた時点で,各営業部従業員が契約報告用紙と呼ばれる回覧文書を作成する。
契約報告用紙には,?物件購入の申込日,?重要事項を説明した日,?契約成立日,?物件購入希望者の氏名,性別,年齢,年収,居住地域,職業,?勧誘のきっかけとなった資料,?販売物件名,販売価格,?担当した営業部従業員名,電話勧誘を行った営業部従業員名,顧客と交渉を行った営業部従業員名が記載される。
契約報告用紙への記入が終了すると,営業部各課に1枚ずつ配布され,課長から順番に営業部従業員に回覧がなされる。
b各営業部従業員は,契約報告用紙を回覧して,各自が所持する数字ノートと呼ばれるノートに,?顧客の名字,?担当した営業部従業員名,?電話勧誘を行った営業部従業員名,?交渉を行った営業部従業員名,?販売価格,?当該担当営業部従業員がその月に販売した戸数とその販売価格合計額,?当該担当営業部従業員の半期で販売した戸数と販売価格合計額,?販売物件名及び部屋番号,?担当者の営業部従業員が所属する課及び部全体で販売した物件数と販売価格を記載するが,氏名,職業,居住地域等は記載されない。
そして,最後に閲覧した営業部従業員は,契約報告用紙をシュレッダーにかけて廃棄する。
cさらに,営業部に設置されたホワイトボードにも契約情報が記載されるが,顧客の連絡先は記載されず,その住所も都道府県までしか記載されない。また,その情報は1か月ごとに更新される。
(ウ)原告では,情報漏洩防止のため,営業部従業員が個人の携帯電話に顧客の電話番号を登録することを一切禁止していた。
ク以上のような原告における本件顧客情報の管理状況からすれば,原告において,本件顧客情報にアクセスできる者を制限し,アクセスした者に本件顧客情報が営業秘密であることを認識できるようにしていることは明らかである上,本件顧客情報が原告の営業活動に使用されるものであって,営業部における日常的なアクセスを必要以上に制限することができない性質のものであること,当時の従業員が約20名という原告営業部の規模等にかんがみれば,本件顧客情報は秘密管理性の要件を充足しているというべきである。
( )有用性2本件顧客情報は,不動産投資に関心を持ち実際に原告との間で成約に至った顧客に関する情報であり,これら顧客は原告の将来の見込み客として成約に至る可能性が高いグループであるから,本件顧客情報を用いた営業活動は,無差別に行う顧客勧誘に比して,成約率が飛躍的に上昇する。
したがって,本件顧客情報は,不動産の販売等という事業活動に有用な営業上の情報に該当する。
( )非公知性3本件顧客情報は,原告において秘密として保管され,第三者への開示が禁止されているものであるから,公然と知られているものではない。
( )以上のとおり,本件顧客情報は,秘密管理性,有用性及び非公知性を備え4ているから,不正競争防止法2条6項所定の「営業秘密」に該当する。
【被告らの主張】( )契約者台帳の管理状況1原告の営業部従業員は,自分が保管する契約者台帳のファイルを自分の机の上に他の書類と一緒に置き,他の従業員から求められれば自由に閲覧させていた。営業部従業員は,退社時にも契約者台帳を自分の机の上に置いたままの状態にしており,原告が主張するような机の施錠可能な引出しに収納して退社しているという状況ではなかった。
したがって,約30名の営業部従業員は,容易にすべての契約者台帳を手に取ることが可能であった。さらに,営業部の執務室と同じフロアにいる原告の従業員であれば,営業部の執務室に容易に入室することができたから,営業部のフロアに入ることができる従業員は,契約者台帳に容易にアクセスすることができた。
( )契約者台帳のコピーの社外への持ち出し2原告では,営業部従業員が営業のために顧客のもとに赴く場合,出張先から顧客に電話する場合,終業後や休日に顧客に電話する場合など,営業部従業員は自由に契約者台帳ファイルの必要部分をコピーして社外に持ち出していた。
契約者台帳には「無断複製・持出厳禁」との不動文字の記載があるが,実際の取扱いはこれとは異なり,従業員が必要と考えれば自由にコピーをしてそれを持ち出すことが許されていた。コピーを持ち出す場合にヘッドの許可を得る必要もなく,コピーを直ちに廃棄する扱いにもなっていなかった。
( )見込みノートの管理状況3原告の営業部従業員は,営業活動をして販売の見込みがあると考えた顧客について,氏名,住所,電話番号等を記載した見込みノートを作成するよう指示を受けていたが,その見込みノートは机の上や机の周りに置いた段ボールの中に置き放しにしており,退職した従業員が在職中に作成した見込みノートについても,室内に置き放しにされていた。このように,原告においては,見込みノートは厳格に管理されておらず,その扱いはずさんであった。
( )原告における顧客情報の公開4原告では,営業成績が上がっていない従業員や経験の浅い従業員の研修のために,契約者台帳や見込みノートを閲覧させていた。契約者台帳や見込みノートは営業部の全従業員に共有され,公知の情報となっていた。
また,原告では,営業部従業員が契約をまとめると直ちに契約報告用紙に顧客の名前,年齢,年収等を記入するよう指示していたが,記入後の契約報告用紙はコピーして営業部従業員全員に配布するとともに,同じ内容を営業部の部屋にあるホワイトボードに記入し,営業部従業員全員に公開していた。
さらに,原告の全営業部従業員は,他の従業員の契約報告用紙の内容を,自己が保管する数字ノートに記入するよう義務づけられていた。
( )営業部従業員の携帯電話への顧客の電話番号の登録5原告では,社外にいるときや勤務時間外であっても時間があるときは営業活動をするよう従業員に命じていたのであるから,むしろ顧客や見込み客に携帯電話で連絡をすることを積極的に指示しており,顧客情報を従業員個人の携帯電話に登録することを禁止していなかった。
( )不動産登記簿等による顧客情報の公開6原告の契約者台帳に記載の顧客情報のうち,氏名及び住所や過去の物件購入例やローン額は不動産登記簿上に公開されており,電話番号もそのほとんどが公開されている。そして,原告のウェブサイトにおいて公開されている情報から不動産を特定することはできる。
( )以上のとおり,原告においては,顧客に関する情報は秘密として扱われて7おらず,むしろ,営業成績を上げるための情報として営業部従業員全体に公開されていたのである。したがって,契約者台帳その他に記載された顧客情報は,原告においては営業部従業員全体,さらにはその他の従業員においても自由に知りうる状態にあり,不動産登記簿等による公開もされていたのであるから,非公知性はなく,秘密として管理もされていなかった。
2争点2(被告P2らが不正競争防止法2条1項4号又は7号の不正競争をしたか)について【原告の主張】( )契約者台帳をコピーする機会の存在1原告の事務所があるP14の管理会社の管理記録によれば,平成20年3月2日及び同月6日の夜中,被告P2らが無人の原告事務所に立ち入って1時間以上も滞在していたことがわかる。したがって,被告P2らには契約者台帳をコピーする十分な時間があった。なお,契約者台帳ファイルは時系列でファイリングされるところ,被告P2及び被告P3の契約者台帳ファイルは時系列順に綴られておらず,同被告らが契約者台帳をファイルから外したことがうかがえる。
( )被告P2らによる原告の顧客への連絡及びマンションの販売2被告P2らは,原告を退職した後,遅くとも平成20年3月21日から,被告P5の販売に係る本件マンションの販売業務に従事することになった。
そして,被告P2及び被告P3は,原告在籍当時に担当していた原告の顧客に連絡をとって勧誘を行い,平成20年4月ころから原告の顧客6名が本件マンションを購入している。
なお,被告P2らが原告在籍中に契約を成立させた案件のうち,手付放棄による解除等により決済に至らなかった案件は,被告P2らが原告を退職する前の事業年度では11件であったが,原告退職後の事業年度では22件と急増している。このことは,被告P2らが原告の顧客に接触して原告との契約を解除させたことを推認させる事実である。
( )被告による契約者台帳のコピーの保持の発覚等3平成20年5月27日に近畿日本鉄道株式会社近鉄難波駅(以下「近鉄難波駅 )で発見された被告P2所有のセカンドバッグには,同被告が原告在 」職時に担当していた顧客である別紙顧客目録記載1()の顧客の契約者台帳44のコピーが4枚入っており,原告の顧客の氏名及び携帯電話番号が記載されたメモも残されていた。また,被告P2らは,顧客の氏名及び電話番号を携帯電話に登録して持ち出している。
( )被告P2らによる事前の協議4被告P4は,平成20年3月2日に原告事務所に退職届を放置して一度も出社しておらず,被告P2及び被告P3も,同月6日に原告事務所に退職届を放置して一度も出社していない。被告P2らは,3営業日以内に同様の手法で退職しており,退職届の文面及び構成もほぼ同一の内容であるから,被告P2らが事前に協議していたことは明らかである。
( )被告P2らは,以上のように?原告に無断で本件顧客情報が記載された5契約者台帳をコピーしてそのコピーを取得する方法,?原告の本件顧客情報のうち氏名及び電話番号を紙に記載して持ち出す方法のほか,?顧客の氏名及び電話番号を携帯電話に登録して持ち出す方法で取得し,原告退職後,本件マンションの販売等の業務に使用している。
被告P2らは,原告の意思に反して本件顧客情報を取得したのであるから,「不正の手段により営業秘密を取得」したことになり,かかる行為は不正競争防止法2条1項4号所定の不正競争に該当する。
また,そうでなくとも契約者台帳に記載された本件顧客情報は,原告が被告P2らに示したものであり,被告P2らが原告と競業関係にある被告P5の営業のためにこれを開示しているから 「不正の競業その他の不正の利益 ,を得る目的で・・・その営業秘密を・・・開示」していることになり,被告P2らのかかる行為は同法2条1項7号所定の不正競争にも該当する。
【被告らの主張】( )被告P2らは,契約者台帳その他に記載された顧客情報を不正に入手して1おらず,不正に使用・開示もしていない。また,以下のとおり,原告が主張する事実も,何ら被告P2らによる不正競争を推認させるものではない。
( )被告P2のセカンドバッグ内に別紙顧客目録記載1()の顧客の契約者台2 44帳のコピーが入っていた経緯近鉄難波駅で発見された被告P2のセカンドバッグの中には,確かに別紙顧客目録記載1()の顧客の契約者台帳のコピーが入っていたが,それは,44被告P2において,原告在職中に別紙顧客目録記載1()の顧客の契約者台 44帳のコピーを業務のためにセカンドバッグに入れており,そのことを忘れて退職時に原告に返却せずにそのままにしていたからである。
( )被告P2及び被告P3が原告在職中に担当していた顧客が本件マンション3を購入した経緯被告P2らは,原告在職中,業務のために一部の顧客の電話番号を携帯電話に登録していたが,原告では顧客の電話番号を個人の携帯電話に登録することは禁止されていなかった。
そして,被告P2及び被告P3は,原告退職後,自己の携帯電話に登録していた電話番号を利用して,個人的に親しくしていた顧客に対して退職したことを伝えるために電話をし,その際に,本件マンションの販売に協力する予定であることを伝え,何人かの顧客に本件マンションを購入してもらっただけであり,契約者台帳をコピーして持ち出して営業活動をした事実はない。
( )原告との契約を解除した顧客について4原告は,被告P2らが原告を退職した後,被告P2らが担当していた顧客の多くが原告との契約を途中解約しているとして,このことから被告P2らの退職後の働きかけがなされたことが推認されるという趣旨の主張をする。
しかし,原告作成に係る手付放棄解除リスト(甲59,60)を見るとわかるように,被告P2らが担当していた顧客だけでなく,他の従業員が担当していた顧客が解約したケースも多数あるから,原告の主張は失当である。
( )被告P2らが原告を退職した経緯5原告は,被告P2らが事前に協議をして原告を一斉に退職しており,このことから被告P2らによる不正競争が推認されると主張する。
被告P2らは,平成20年3月に相次いで原告を退職しているが,それ以前から,原告での厳しいノルマ,上司の従業員に対する暴言・暴力,休暇がほとんど取れない勤務状況,飲酒の強要などに不満を抱き退職したいと考えていた。
そして,被告P4は,原告のオーナーであるP11から暴行を受けたことがきかっけで退職することを決意し,平成20年3月2日の深夜に原告事務所に行き,退職届を上司の机に置いて翌日から出社しないようになった。
被告P2は,被告P4が退職すれば自分たちに対するノルマが一層厳しくなると考えたことに加え,被告P4が上司の暴力が原因で退職したと思われるのに当該上司が何ら反省していないことから,原告ではやっていけないと思うようになり,退職することを決意し,平成20年3月6日深夜に原告事務所に行き,退職届を上司の机に置いて翌日から出社しないこととした。
被告P3は,被告P2から事前に退職する意思を伝えられ,被告P2と同様の不安を感じ,被告P2と同じ平成20年3月6日深夜に原告事務所に行き,退職届をP15の机の上に置いて翌日から出社しないこととした。
このように,被告P2らは,それぞれ別々に退職を決意したのであり,あらかじめ相談をして一斉に退職したわけではない。
( )被告P5と業務提携契約を締結した経緯6被告P2らは,原告を退職した後,被告P5と業務提携契約を締結して本件マンションの販売に協力しているが,これは,被告P2らが別々に退職した後に相談して決めたことであり,原告を退職した時点では,3人で一緒に不動産販売業を行うことなど考えていなかった。したがって,被告P2らが,原告を退職する後に不動産販売業に従事することを予定して,原告の契約者台帳をコピーして持ち出すことはあり得ない。
3争点3(被告P5が不正競争防止法2条1項5号又は8号の不正競争をしたか)について【原告の主張】( )被告P5は,平成17年7月に原告の営業部従業員であった被告P6らに1よって設立された後,他社販売物件の仲介や販売代理の事業を営んできたが,平成19年秋ころから,P16から本件マンションを購入することを検討し,平成20年1月中には契約内容がほぼ決定し,同年3月6日には正式に契約締結に至った。本件マンションは被告P5にとって初めての自社物件であり,被告P5は,販売実績を上げたいという強い意思を有していた。そして,被告P5は,被告P2らのために被告P5の分室となる部屋を賃借し,本件マンション1室(販売価格2000万円弱)の成約報酬として400万円程度を支払っていた。
以上に加え,被告P5の代表者である被告P6は,原告の元営業部従業員であり,本件顧客情報がマンション販売勧誘の成約率を向上させる有用な情報であることを熟知していたことからすれば,被告P6は,被告P2らが原告を退職する前後から,被告P2らと接触し,遅くともその際,被告P2らが本件顧客情報を保有していることを知り,被告P5において,これを本件マンションの販売に利用したいという強い動機をもって,被告P2らに高額報酬を支払い,また,被告P2らの便宜を図り,被告P2らを通じて本件顧客情報を本件マンションの販売に使用していたと推認することができる。
( )被告P5は,被告P2らによる本件顧客情報の不正取得を知りながら,被2告P2らから本件顧客情報の開示を受け,被告P2らを通じて本件顧客情報を使用して本件マンションを販売しているのであるから,かかる被告P5の行為は不正競争防止法2条1項5号所定の不正競争に該当する。
また,被告P5は,被告P2らが図利加害目的で本件顧客情報を開示したことを知りながら,本件顧客情報を被告P2らを通じて取得して使用しているのであるから,かかる被告P5の行為は同法2条1項8号所定の不正競争にも該当する。
【被告P5らの主張】被告P5は,被告P2らから,原告の顧客情報を開示されたことはない。
被告P2らが原告在職中に担当していた顧客が,被告P2らの紹介により,被告P5が扱っていた本件マンションを購入しているが,被告P5は,被告P2らから,購入者が原告の顧客であることを知らされていない。
また,被告P2らは,被告P5に雇用されていたわけではないから,仮に,被告P2らが原告の営業秘密を持ち出したとしても,被告P5が当該営業秘密を取得したことにはならない。
4争点4(被告P6は会社法429条に基づく責任を負うか)について【原告の主張】被告P6は,被告P5の代表取締役として,被告P5が不正競争防止法2条1項5号又は8号に違反して本件顧客情報を使用して不動産の販売等の営業活動を行うことを防止する義務を負っていた。
しかるに,被告P5は,上記のとおり,不正競争を反復して行い,被告P6もこれに主体的に関与していたのであるから,被告P6は,代表取締役としての注意義務を果たしておらず重大な任務懈怠がある。
【被告P6の主張】被告P6は,被告P2らがどのような情報や資料に基づき顧客の勧誘をしているか把握しておらず任務懈怠行為は一切ない。
5争点5(原告と被告P2らとの間で誓約書に基づく秘密保持合意が成立したか)について【原告の主張】( )被告P2及び被告P3と原告との間の誓約書に基づく秘密保持合意の成立1被告P2及び被告P3は,平成17年4月1日付けの秘密保持に関する誓約書をその当時の勤務先である原告のグループ会社に提出し,就業規則その他の社内規定及び指示を遵守することのほか,業務の遂行及びこれに関連して知った原告及び原告の取引先の経営上,技術上及び営業上の一切の情報について,在職中及び退職後の業務外の目的での使用等の不正使用・原告管理外への開示を行わないこと,取扱いに関する指示を守りこれらの秘密を保持すること,本件情報が含まれた書類等を原告の指示に従って管理すること,退職時には全て返還すること等を約した。
誓約書の徴求は,原告を含むグループ会社全体で行われたものであり,原告に採用された被告P2及び被告P3が,一時的に転籍していた原告のグループ会社(被告P2はP17(現P7 ,被告P3はP8)との関係でのみ )秘密保持義務を負うと認識していたとは到底考えられない。かえって,その後の異動後も当然かかる義務を負担すると認識していたと考えられ,原告もそのように考えていたのであるから,被告P2及び被告P3と原告との間においても,黙示的に秘密保持合意が成立したものである。
( )被告P4と原告との間の誓約書に基づく秘密保持合意の成立2被告P4は誓約書を差し入れていないが,それは当時,被告P4は既に課長職に就いている管理職であって,むしろ従業員に誓約書の提出を命令する立場にあったからである。被告P4は,誓約書記載の情報の重要性について一般の従業員以上に知悉しており,誓約書の内容に自分も拘束されると認識していたはずである。したがって,原告が被告P4に対して誓約書の徴求を指示し,被告P4がこれに応えて部下から誓約書を徴求してこれを原告に提出するという過程において,原告と被告P4との間において,黙示的に誓約書の内容の秘密保持合意が成立したというべきである。
( )秘密保持合意の有効性3上記誓約書には,秘密保持義務の対象となる情報に関し 「取り扱いに関,。 , する指示を守りこれらの秘密を保持します 」と記載されていることからも誓約書に記載された情報はおよそ原告の業務に従事する際に知り得たすべての情報をいうのではなく,その中で職務上知り得た原告の秘密情報をいうものと合理的に解釈することができる。
そして,誓約書の秘密情報の記載や就業規則上の「在職中に知り得た機密」の記載のように,秘密の内容が包括的な記載であったとしても直ちに無効とされるわけではなく,秘密の特定が主張立証されれば足りると解されるところ,原告は,本件において,秘密の内容を本件顧客情報として特定して主張立証している。また,原告は,本件顧客情報が記載された契約者台帳には「無断複製・持出厳禁」の表示を行なうことにより,ASデータについては個人情報の取扱いに注意するよう画面上で必ず注意喚起することで,現実に本件顧客情報が秘密に当たることを客観的に認識できるような措置を講じていた。
さらに,本件顧客情報は,自社マンションの販売等を行う原告にとって,経営の根幹に関わる重要な情報であり,これを自由に使用,開示されれば,容易に競業他社の利益又は原告の不利益を生じさせるものである。そして,被告P2らは,原告営業部従業員として,本件顧客情報を直接取り扱いその内容を熟知していたのであるから,秘密保持を義務づけられてもやむを得ない立場にあった。
したがって,このような本件顧客情報の性質,価値及び被告P2らの退職前の地位に照らせば,被告P2らに原告退職後の秘密保持義務を課すことは合理的といえる。
【被告P2らの主張】( )原告と被告P2らとの間で秘密保持合意が成立していないこと1被告P2が署名した誓約書(甲24)及び被告P3が署名した誓約書(甲25)は,いずれも原告とは別の会社を宛先とするものであるから,これらの誓約書を根拠に,被告P2及び被告P3に原告に対する秘密保持義務を課すことはできない。
ましてや,誓約書を書いていない被告P4に対して秘密保持義務を課すことはできない。
( )誓約書の内容的効力2従業員は退職した後においては転職の自由・職業選択の自由が保障されるべきであるから,合意によって秘密保持義務を定めた場合であっても,それが退職した従業員の転職・職業選択の自由に対して大きな制約となる場合には無効とすべきであるし,仮に有効とする場合であっても,秘密保持義務を負う範囲を,その義務を課すのが合理的といえる内容に限定して解釈するのが相当である。
仮に,原告と被告P2らとの間で秘密保持合意が成立したとしても,上記誓約書は「業務の遂行中に若しくはこれに関連して知り得た,貴社又は貴社の取引先の経営上,技術上,営業上その他一切の情報」という極めて広範囲な事項を秘密保持の対象としており,原告在職中に知ったすべての情報が秘密保持の対象となるかのような無限定かつ広範な規定となっている。
そうすると,上記誓約書によって被告P2らに秘密保持義務を負わせることは,予測可能性を著しく害し,退職後の行動を不当に制限する結果をもたらすものであるから,上記誓約書に係る合意は無効というべきである。
仮に,上記誓約書の内容を有効とする場合であっても,不正競争防止法2条6項所定の営業秘密に該当するものに限り,従業員に対して退職後の秘密保持義務を課したものと限定して解釈すべきである。
6争点6(退職後の秘密保持規定及び競業避止規定を追加した就業規則の変更は有効か)について【原告の主張】( )周知手続の履践1原告は,平成18年4月の就業規則の改訂の際 「退職者は,在職中に知 ,り得た機密を他に漏らしてはならない (31条2項)という秘密保持規定, 」「退職後2年以内は会社営業地域内での競業行為は行わないこと (59条」16号)という競業避止規定を追加した。
原告は,平成18年4月の就業規則の改定に際して,意見聴取の手続を履践するとともに,原告総務部が原告の全従業員が参加する全体朝礼で説明し,改定した就業規則を社内掲示板に掲示するなどした。
原告では,全従業員に就業規則のコピーを配布することまではしていないが,原告営業部のヘッドには,平成18年10月に就業規則のコピーを交付してこれを周知していた。
( )内容の合理性2ア秘密保持規定原告の就業規則上の「在職中に知り得た機密」という記載は,秘密の内容が包括的ではあるが,直ちに無効とされるものではなく,秘密の特定が主張立証されれば足りると解されるところ,原告は,本件において,秘密の内容を本件顧客情報として特定して主張立証している。
そして,本件顧客情報が記載された契約者台帳には「無断複製・持出厳禁」の表示をし,ASデータについては個人情報の取扱いに注意するよう画面上で必ず注意喚起することで,現実に本件顧客情報が秘密に当たることを客観的に認識できるような措置を講じていた。
加えて,本件顧客情報は,自社マンションの販売等を行う原告にとって,経営の根幹に関わる重要な情報であり,これを自由に使用,開示されれば,容易に競業他社の利益又は原告の不利益を生じさせるものである。被告P2らは,原告の営業部従業員として,本件顧客情報を直接取り扱いその内容を熟知していたのであるから,秘密保持義務を課されてもやむを得ない立場であった。
したがって,就業規則の変更によって労働者に退職後の秘密保持義務を課すことには合理性がある。
イ競業避止規定(ア)被告P2らの退職前の地位被告P2らは,原告の営業部従業員として,本件顧客情報を直接取り扱い,その内容を熟知していた。また,被告P2らはいずれもヘッドであり,ヘッドになれば退職者の契約者台帳を引き継ぎ,買い増しの勧誘が増えるから,より多くの本件顧客情報を直接取り扱うことになる。
(イ)原告に正当な利益があること被告P2らが本件顧客情報を使用するなどして競業を行なえば,本件顧客を奪取することは容易であるから,競業の禁止はかかる事態の発生を防止するためのものであり,競業避止義務の目的は,原告の営業上の秘密の保持及び顧客の確保にあり,原告の正当な利益の保護を目的とするものである。
特に,被告P2らは,原告営業部のヘッドとして,営業上の秘密を直接取り扱い,また,多くの原告の顧客と直接接することで人的関係が築かれるような立場にあったのであるから,被告P2らに競業避止義務を課すことは目的との関係において十分に理由がある。
(ウ)競業が禁止される業務・期間・地域競業避止義務により競業が禁止される職種は原告の営業目的である不動産業に限定されており,また,原告が差止めを求めているのは,別紙顧客目録記載の原告顧客に対する営業活動のみであり,相当の限定がなされている。
制限期間も2年間と比較的短期である。
地域的にも原告の営業地域内に限定されているところ,投資用マンションの販売を主たる業務内容とする原告の業務の性質上,遠方の顧客とも人的関係が構築され,また,当該顧客の情報が原告の営業上の秘密となるのであるから,営業上の秘密保持及び顧客確保という競業避止義務の目的達成のためには「会社営業地域内」という地域的制限もやむを得ない。
(エ)従業員に対する処遇,代償措置原告は,被告P2らが退職する直前の平成19年,被告P4に対しては1982万8102円(ただし,平成19年1月は当時在籍していたP7において支給された,被告P2に対しては2198万2840 。)円,被告P3に対しては2292万4662円の給与をそれぞれ支給しており,被告P2らに対して相応の処遇をしてきた。
原告は,上記のような給与を支払っており,営業部以外の部署のヘッドクラスの従業員(いずれも課長職)の年間給与支給額は1000万円に満たず,営業部のヘッドクラスの被告P2らの給与は格段に高額であった。
したがって,被告P2らが原告において厚遇を受けていたことそれ自体は事実であるし,また,営業部以外の部署の同程度の役職者との格段の給与額の差と営業部のヘッドクラスの従業員が本件顧客情報を直接取り扱い原告顧客と直接接することで人的関係が築かれるような立場にあったことにかんがみれば,被告P2らの給与のうち営業手当(営業手当は,業績に応じた歩合ではなく固定給として支給されていたものであり,まさに被告P2らの原告営業部における地位に応じて一定の金額を支給していたものである )等に競業禁止に対する代償の趣旨を読み取るこ 。
とも十分に可能である。さらに,原告は,別紙顧客目録記載の原告顧客に対する競業の制限のみを求めているにすぎないから,その限りにおいて,代償措置は不要である。
(オ)上記(ア)ないし(エ)に記載の諸事情にかんがみれば,原告就業規則における退職後の競業制限が合理性を有することは明らかである。
したがって,被告P2らは,原告退職後の競業避止義務を負っていた。
【被告P2らの主張】( )周知手続が履践されていないこと1ア原告が主張する秘密保持義務及び競業避止義務を定めた就業規則は,平成18年4月1日に改正・施行されているが,それ以前の就業規則には退職後の秘密保持義務や競業避止義務を定めた規定は存在せず,就業規則改正に当たって上記各義務を定める規定を設けることを被告P2らに周知していない。
イこの点,原告は,原告の全従業員が参加する全体朝礼で説明し,改定した就業規則を社内掲示板に掲示した,平成18年10月には原告営業部の就業規則のコピーを交付してこれを周知したと主張する。
しかし,原告では,毎月回月初めに朝礼があり,各部署では毎日朝礼1が行われていたが,被告P2らは,これらの朝礼に参加した際,就業規則の説明を受けたことはなく,社内掲示板に就業規則の変更内容が掲示されたことも一度もない。
また,時期を問わず,原告営業部のヘッドが,原告から就業規則のコピーを交付されたこともない。
なお,改定後の就業規則は平成18年4月1日から施行されているにもかかわらず,施行から半年が経過した平成18年10月になってヘッドに配布することなど考え難いし,被告P2は,平成18年10月当時,P17の従業員であり,原告の従業員ではなかったから,この時期に原告の就業規則のコピーを配布されることはあり得ない。
( )秘密保持規定及び競業避止規定の内容が不合理であること2ア秘密保持規定について秘密保持義務を定めた就業規則31条2項は「退職又は解雇された者は,在職中に知り得た機密を他に漏らしてはならない 」という極めて漠然と 。
した規定であり,秘密保持の対象となる機密事項等についての具体的な定義はなく,その例示すら掲げられていない。
上記5【被告P2らの主張】の個所で主張したとおり,従業員の転職の自由・職業選択の自由の保障の観点からすれば,秘密保持の対象が不明確な就業規則31条2項は無効とすべきであり,仮に有効であっても,不正競争防止法2条6項所定の営業秘密に該当するものに限り,従業員に対して退職後の秘密保持義務を課したものと限定して解釈すべきである。
イ競業避止規定について退職後の競業避止に関する規定は,従業員の就職及び職業活動それ自体を直接的に制約するものであり,秘密保持義務と比較しても,退職した従業員の有する職業選択の自由に対して極めて大きな制約を及ぼすものである。
原告の就業規則59条16号の内容は,不正競争防止法2条6項所定の「営業秘密」を不正に使用して競業を行う場合にとどまらず,不正使用に当たらない方法・態様での競業まで一律に禁止するものであり,また,競業を禁止する場所的範囲には全く限定がなく,日本全国がその対象となっている(就業規則上は「会社営業地域内」となっているが,日本全国が原告の営業地域である。原告の就業規則は,原告の従業員に対して,退 。)職後2年間日本中の全ての地域において不動産販売営業を行うことを禁止するという極めて広範囲の競業を禁止するものであり,退職した従業員の職業選択の自由,転職・再就職の自由を大幅に制限するものである。
そして,被告P2らは,一方的に上記のような競業避止義務を課せられているが,原告は,転職・職業選択の自由が制限されることの代償措置を取っていない。それどころか,原告は,無断欠勤・引継未了を口実として,被告P2らに対する退職金の支払を拒否しており,代償措置どころか制裁措置をとっているのである。
したがって,就業規則上の退職後の競業避止規定は公序良俗に反し無効であり,仮に有効であるとしても,不正競争防止法2条6項所定の営業秘密を使用するような態様の競業だけを禁止しているものと限定的に解釈すべきである。
7争点7(被告P2らは誓約書に基づく秘密保持合意又は就業規則上の秘密保持規定に違反したか)について【原告の主張】被告P2らは,原告在籍中に知った秘密である本件顧客情報を使用して原告と競業する本件マンションの勧誘活動等の営業活動を行っているから,これらの行為は,秘密を使用する点で誓約書に基づく秘密保持合意又は就業規則上の秘密保持規定に違反する行為である。
【被告P2らの主張】上記5【被告P2らの主張】( )及び上記6【被告P2らの主張】( )ア記載2 2のとおり,誓約書に基づく秘密保持合意及び就業規則上の秘密保持規定は,不正競争防止法2条6項所定の営業秘密を漏洩したり使用したりする行為に限り禁止しているものと解した場合に限り有効と解する余地があるところ,被告P2らは,原告の営業秘密を漏洩したり使用したことはないから,これらの合意あるいは規定に基づく義務に違反したことにはならない。
8争点8(被告P2らは就業規則上の退職後の競業避止規定に違反したか)について【原告の主張】被告P2らは,退職後に原告と競業する本件マンションの勧誘活動等の営業活動を行っているから,これらの行為は,就業規則上の退職後の競業避止規定に違反する行為である。
【被告P2らの主張】上記6【被告P2らの主張】( )イ記載のとおり,就業規則上の退職後の競2業避止規定は,不正競争防止法2条6項所定の営業秘密を漏洩したり使用したりする行為に限り禁止しているものと解した場合に限り有効と解する余地があるところ,被告P2らは,原告の営業秘密を漏洩したり使用したことはないから,競業避止規定に基づく義務に違反したことにはならない。
9争点9(被告P2らの行為が不法行為に該当するか)について【原告の主張】元従業員らの競業行為が,社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法な態様で元雇用者の顧客を奪取したとみられるような場合には,その行為は元雇用者に対する不法行為に当たるというべきところ,以下の各事実に照らし,被告P。 2らが原告退職後にした一連の営業活動は,原告に対する不法行為を構成する( )被告P2らが担当していた顧客の多くが原告との契約を解約していること1被告P2らが退職届を放置して出社しなくなった以降,別紙解約状況一覧表のとおり,被告P2らが担当し,又はヘルプとして電話交渉や面談交渉に関与していた顧客と原告との間の契約が解除に至る件数が倍増した。
( )被告P3の別紙解約状況一覧表記載17番の顧客(以下「17番の顧客」2という )に対する営業活動。
17番の顧客は,原告との間で物件の購入契約を締結していたが,被告P3からの勧誘活動により他社の物件を購入したため,原告との間の契約を解除した。
そして,被告P3は,17番の顧客を勧誘するに際し,原告について「賃貸事業に関して持ち出しが出ているし,大変なことになっている」など,原告グループのP18の賃貸管理に関し,入居者が決まらずに賃料が得られないにもかかわらず顧客に保証賃料を支払う状態が続いており,原告グループの経営状態に問題がある旨の発言をして原告との契約の解消を勧めている。
加えて,被告P3は,ヘッドの立場にありながら,突如として決済が集中する最中である平成20年3月6日に退職届を机上に放置して以後出社を拒否して何らの業務の引継ぎも行わなかった。
以上のとおり,被告P3の17番の顧客に対する営業行為は,?既に原告が契約を締結した顧客に原告との契約を解除させて,その結果生じた顧客の資金余力を自己の営業活動に利用している点,?原告の顧客情報を用いている点,?原告グループの信用をおとしめている点,?退職の時期を考慮することもなく,また,相当期間の告知も引継ぎもなく突如として一斉に原告を退職して競業行為を営むという点において,自由競争の範囲を逸脱しており,違法である。
なお,被告P3の陳述書(丙15)の記載によっても,被告P3の営業活動は,上記?,?及び?の点において,自由競争の範囲を逸脱していることは明らかであるから,違法性を有するものである。
( )被告P3の別紙解約状況一覧表記載8番の顧客(以下「8番の顧客」とい3う )に対する営業活動,被告P2の別紙解約状況一覧表記載12番の顧客 。
(以下「12番の顧客」という )に対する営業活動。
被告P3の8番の顧客に対する営業活動及び被告P2の12番の顧客に対する営業活動は,被告P3の17番の顧客に対する営業活動と上記( )?,2?及び?の点において同一であるから,違法であることは明らかである。
( )被告P2らのその余の原告顧客に対する営業活動4被告P2及び被告P3が,別紙解約状況一覧表に記載の顧客のうち8番,12番及び17番の顧客以外の顧客に対しても,上記( )?,?及び?の態2様で競業行為を行っていたことは容易に推認できる。また,被告P4が,被告P2及び被告P3と一貫して行動をともにして同一場所で同一業務に従事していること,被告P4が原告在職中に関与していた未決済契約の解約数も相当数存在することからすれば,被告P4が被告P2及び被告P3と同様の態様で競業行為をしていたことも合理的に推認できる。
したがって,8番,12番及び17番の顧客に対しても,被告P2らが違法な態様で競業行為をしていることは明らかである。
( )以上のとおり,被告P2らの競業行為が,社会通念上自由競争の範囲を逸5脱した違法な態様であることは明らかであるから,原告との関係で不法行為を構成する。
そして,被告P2らが,原告への出社拒否後一貫して行動を共にし,同一場所で同一業務に従事して競業行為に及んでいることに照らせば,被告P2らによる競業行為が客観的に共同してなされたことは明らかであって,共同不法行為を構成する。
【被告P2らの主張】( )原告退職後の被告P2らの活動状況1被告P2らは,原告退職後に一緒に仕事をするようになったが,個人として事業をするよりも会社組織にした方が取引先から信用してもらえると考え,平成20年8月6日,P19を設立し,被告P4を代表取締役,被告P2及び被告P3を従業員とした。ところが,被告P3は,被告P4及び被告P2とは別に仕事をするようになり,平成20年9月26日,P19を退職した。
その後,被告P3は,個人で事業を行い,平成20年11月11日にはP20を設立して事業をしており,平成20年9月以降は被告P4及び被告P2とは一緒に仕事をしていない。
( )被告P3の17番の顧客に対する営業活動 2ア被告P3は,原告在職当時,17番の顧客と親しくしており,個人の携帯電話の番号を17番の顧客に教えて連絡を取り合っていたものであり,平成20年3月に原告を退職した後,他の親しい顧客と同様に17番の顧客にも電話をして退職したことを伝えている。
被告P3は,P19を退職した後,P21の販売に関与するようになり,個人の携帯電話に登録していた顧客に営業の電話をかけるなどし,平成20年10月には17番の顧客にも電話をかけた。
このように,被告P3は,原告の営業秘密を利用して営業活動をしたわけではない。
イ被告P3は,17番の顧客にP21の購入を持ちかけたところ,17番の顧客から,原告との間の契約を決済しなければならないので,P21の物件を買う余裕がないと言われたため,P21の物件の方が投資物件として有利だという話をしている。
しかし,他社の物件よりも顧客にとって有利であることをアピールしたり,顧客に購入してもらうために値引きをすることは社会一般の営業において頻繁に行われるものであり,自由競争の範囲内として社会通念上許されるものである。また,17番の顧客は,手付を放棄して原告との契約を解約することが契約上権利として認められているのであるから,17番の顧客が自ら利害得失を判断し,原告との契約を解除して被告P3の勧める物件を購入することを決めたとしても問題はない。
ウしたがって,被告P3は 「原告の営業秘密に係る情報を用いたり,原 ,告の信用をおとしめたりするなどの不当な営業活動」は行っておらず,被告P3の営業活動は自由競争の範囲内として社会通念上認められるものである。
( )別紙解約状況一覧表について3原告は,被告P2らが退職した後,被告P2らが担当ないしヘルプとして関与した契約の多くが解約された(別紙解約状況一覧表)と主張し,それを根拠として,被告P2らが不当な競業行為を行っていると主張する。
しかし,原告作成の別紙解約状況一覧表に記載された顧客のうち,被告P2らが原告退職後に接触したのは8番,12番及び17番の顧客だけであるから,別紙解約状況一覧表に記載された延べ22人の顧客のうち残り19人については,顧客が原告との契約を解約したとしても,それは被告P2らとは関係のない事情によるものである。
また,サブプライムローン問題が原因となって平成20年9月15日にリーマン・ブラザーズが破綻したことに端を発し,日本を含めた世界中が金融危機となり,投資用不動産の販売も低迷しているから,別紙解約状況一覧表に記載された解約案件のうち平成20年9月15日以降のものの多くは,顧客が投資用不動産を購入することに不安を感じて契約を解約したと考えるのが自然である。
加えて,別紙解約状況一覧表は,原告が恣意的に作成した資料であり,被告P2ら以外の従業員の契約案件の解約率と比較することもできないのであるから,同表をもって,被告P2らが不当な競業行為をしたことを根拠付けるものということはできない。
10争点10(原告の損害)について【原告の主張】( )被告らの不正競争による損害1ア被告P2ら及び被告P5は,本件顧客情報を用いて,本件マンションの505号室,506号室,601号室,604号室,606号室及び906号室を原告の顧客6名に販売して利益を得ているところ,これら6物件の販売価格の合計は1億0740万円を下回ることはない。
イ投資用マンションのマンションデベロッパーが販売業者に販売業務を委託した場合,販売業者に支払う販売手数料を考慮しても,利益率10パーセントは確保できるから(甲86 ,被告P5が得た利益の額は1074 )万円(1億0740万円×10パーセント)を下回ることはない。
また,被告P2らは,1件につき約400万円の報酬を得ているところ,被告P2らは専ら電話等による勧誘のみを行っていたのであって,かかる業務に要する費用は執務している分室の家賃,電話勧誘に要する通信費等の固定費しかないから,被告P2らが得た報酬から控除されるべき経費はない。
そうすると,被告P2らが得た利益の額は2400万円(400万円×6件)を下回ることはない。
したがって,被告P5及び被告P2らは,不正競争によって,合計3474万円の利益を得ているから,不正競争防止法5条2項により,原告は同額の損害を被ったことになる。
( )被告P2らの債務不履行(秘密保持合意,就業規則上の退職後の秘密保持2規定又は就業規則上の退職後の競業避止規定違反)又は不法行為により原告が受けた損害ア販売利益別紙解約状況一覧表は,原告及びP17が顧客との間で締結した投資用マンションの販売契約のうち,被告P2らが担当していた顧客(同表の区分A)又はヘルプとして電話交渉や面談交渉に関与していた顧客(同表の区分B)に係る契約で,平成20年3月から平成21年2月までの間に解除されたものを整理したものである。同表からわかるように,これらの顧客に係る契約が決済に至っていれば,原告は合計2億9247万1000円の販売収入を得られたはずであり,これに事業収支上の利益率を乗じて販売利益を算出すると8057万4211円となる。
イ損益相殺別紙解約状況一覧表のとおり,原告は,同表に記載された顧客に係る契約が決済に至らなかったことにより販売利益を喪失したが,一方で手付等の没収により合計2270万円を取得した。
ウ被告P2らの不当な勧誘によって解除に至った契約数被告P2らが原告への出社を拒否した以降,A,Bに区分される顧客からの解除が急増しており,原告の顧客が被告P2らから不当な勧誘を受けたと容易に推認できるが,被告P2らからの勧誘を受けずに解除に至った案件も存すると思われる。
しかし,被告P2らが関わった契約の解除件数は,被告P2らが退職する前の1年間は11件であったが,被告P2らが退職した後には22件に倍増している。一方で,被告P2らが関与していない顧客からの解除は前年と同様の3件にすぎないのであるから,前年の解除数から増加した11件については,被告P2らの不当な勧誘によって解除された件数であると考えられるが,少なくともその半数である5件は被告P2らの不当な勧誘によって解除されたものというべきである。
エ被告P2らの不当な勧誘による原告の販売利益の喪失上記5件のうち,別紙解約状況一覧表の17番の顧客は被告P2らから不当な勧誘を受けていたことは明らかであり,また,被告P2らから勧誘を受けて本件マンションを購入した同表の8番及び12番の顧客については,原告との未決済契約についても被告P2らから勧誘を受けてこれを解除するに至ったと合理的に推認できるが,これを除く2件を特定するのは不可能である。
そこで,当該2件に係る原告の逸失利益の算定にあたっては,同表の8番,12番及び17番の逸失利益を控除した逸失利益の平均額をもって1件当たりの逸失利益とするのが合理的であり,1件当たりの逸失利益は263万6580円となる。
以上のような逸失利益額の算定は,販売利益の喪失という損害の性質にかんがみれば民事訴訟法248条に照らしても肯定されるべき方法である。
したがって,原告の逸失利益の総額は,1305万2343円となる(316万6268円[8番の顧客]+272万2132円[12番の顧)。 客]+189万0783円[17番の顧客]+263万6580円×2( )弁護士費用3上記原告の損害額に照らせば,原告が原告訴訟代理人に委任して本件訴訟を提起せざるを得なくなった弁護士費用は347万円を下らない。
( )まとめ4ア不正競争防止法に基づく請求被告P5及び被告P2らの不正競争により原告が受けた損害の額は上記( )及び( )の合計である3821万円となるから,原告は,被告らに対し,13本件訴訟において,連帯して上記損害金のうち1212万7500円の支払を求める。
イ債務不履行又は不法行為に基づく請求被告P2らの債務不履行又は不法行為により原告が受けた損害の額は上記( )及び( )の合計である1652万2343円となるから,原告は,本23件訴訟において,被告P2らに対し,連帯して上記損害金のうち1212万7500円の支払を求める(上記アの請求とは選択的請求 。)【被告らの主張】争う。
第4当裁判所の判断1争点1(本件顧客情報は不正競争防止法2条6項所定の「営業秘密」に該当するか)について( )証拠(甲53,丙1〜3,証人P9,被告P2,被告P4)によれば,?1原告における投資用マンション販売のための営業活動には,原告が入手した特定の職業に従事する者の名簿,あるいは卒業者名簿等に基づき手当たり次第に電話をかけて購入勧誘を行い,興味を持った顧客候補と個別に交渉を行って契約に至るという場合と,原告から投資用マンションを購入した実績のある顧客の情報を記録した契約者台帳ファイルを利用して,同台帳ファイルに掲載された顧客に投資用マンションの買い増しを勧誘して契約に至るという場合があること,??の後者の契約者台帳ファイルは,?の前者の営業により投資用マンションを購入するに至った顧客の契約者台帳が蓄積されたものであること,?したがって,営業に利用する契約者台帳ファイルには,かつて自ら新規に開拓した顧客の情報と,前任者等から引き継いだ顧客の情報とが含まれていること,換言すれば,営業部従業員にとって日常の営業に利用する顧客情報には,自らの営業活動で取得し会社にも提供した顧客情報と,原告から示されて初めて接した顧客情報の2種類が存すること,以上の事実が認められる。
原告は,この営業活動において用いられている契約者台帳ファイルに含まれている本件顧客情報を不正競争防止法2条6項所定の「営業秘密」であると主張している。
( )原告が,その主張にかかる「営業秘密」を保有するに至る過程は次のとお2り,見込みノート,契約報告用紙,契約者台帳の段階を経て,最終的には営業部従業員の手もとにある契約者台帳ファイル,ローン課で保存される契約者台帳と原告のコンピュータにASデータの形で蓄積されていたものと認められるが,その各段階における,各記録媒体の作成,管理及び利用状況等は,次のとおりである。
ア見込みノート(ア)証拠(甲51,甲53,丙1〜3,証人P9,被告P2)及び弁論の全趣旨によれば,見込みノートの作成,管理及び利用状況等は次のとおりであると認められる。
?原告の営業部従業員は,新規顧客の開拓に当たり,名簿等に基づいて電話をかけ投資用マンションの購入勧誘を行うが,その際,勧誘に興味を示した相手(原告では「見込み客」と呼んでいる )一人に対。
して1枚の見込みノートと呼ばれる書類を作成することを指示されている。なお,営業部従業員は,1日300人から500人くらいに電話をかけて営業活動を行うが,そのうち上記の見込みノート作成に至るのは10人程度である。
?見込みノートを作成した営業部従業員は,それに基づき当該見込み客に対して購入勧誘の営業活動を続け,見込み客に営業をするため社外に出張する際には,当該見込み客の情報を記載した資料として見込みノートを社外に持ち出すこともある。
?見込みノートには,見込み客についての営業秘密目録2記載?ないし?に該当する情報を記載する欄が設けられており,営業部従業員は,当該見込み客に対する営業活動を継続しながら(購入契約が成立するか,勧誘を拒絶されるまで継続される,見込み客から聴取した上 。)記各欄に該当する営業秘密目録2記載?ないし?の情報を当該見込みノートに加筆していく扱いとなっている。
?見込みノートは,当該見込み客との間での契約成立後も会社としてまとまった形で管理されることはなく,当該営業部従業員において保管し続け,当該従業員が異動ないし退職した場合には,その従業員が保管していた見込みノートは他の営業部従業員に引き継がれる。
(イ)原告は,見込みノートの管理に関し,原告営業部各課のヘッドが,各課従業員に対し,新人研修時や営業部配属時の研修時の教育だけでなく,日々の業務や朝礼の中で原告社外への持出禁止を指導していたと主張する。
しかし,そのように管理指導していたのが事実であれば,その趣旨の規定があったり,また何らかの形で文書化されていてもおかしくないはずだが,原告から,その点の主張立証はない。とりわけ研修時にも指導したというのであれば,その機会に研修用資料等が配布されるであろうから,その資料中にその旨記載した文書等が含まれているはずであるが,その点についての立証もされていない。かえって,原告の第2営業部長のP9自身,営業部従業員が原告の社外で顧客と会う際には見込みノー), トのコピーを持って行くことがある旨証言しているし(速記録20頁被告P2らも,原告では,見込みノートは契約者台帳と同様にそのコピーを持って営業に出かけるよう従業員に命じられていた旨陳述している(丙1〜3)のであるから,原告の上記主張は採用できない。
イ契約報告用紙証拠(甲26,甲52,甲53,丙8〜11)及び弁論の全趣旨によれば,契約報告用紙の作成,管理及び利用状況等は次のとおりであると認められる。
?原告の営業部従業員は,見込み客に対する営業活動を続け,見込み客から物件の購入の申込みを受けた時点で,当該見込み客についての営業秘密目録2記載?,?に該当する情報のほか,顧客の性別,年齢,居住地域(都道府県まで)についての情報と,当該見込み客から購入申込みを受けた物件についての,申込日,重要事項を説明した営業部従業員,契約成立日,職業,勧誘のきっかけとなった資料,販売物件名,販売価格,担当した営業部従業員,電話勧誘をした営業部従業員,顧客と交渉をした営業部従業員を記載する欄が設けられた契約報告用紙を作成して提出する(契約報告用紙には,当該購入申込みが新規の取引か,既に取引のある顧客からの買増しの取引か明記する欄も設けられている。。)?営業部従業員によって作成提出された契約報告用紙は,営業部の各課に1枚ずつ配布され,ヘッドから順番に営業部従業員に回覧され,回覧を受けた営業部従業員は,各自が所持する数字ノートと呼ばれるノートに,顧客の名字,担当した営業部従業員,電話勧誘をした営業部従業員,顧客と交渉をした営業部従業員,担当営業部従業員がその月に販売した物件数と販売価格合計額,担当営業部従業員が半期で販売した物件数と販売価格合計額,販売物件名,部屋番号,担当営業部従業員が所属する課及び営業部全体で販売した物件数と販売価格合計額を記入する。
?契約報告用紙の情報は,?の回覧時に社内のホワイトボードにも書き出される。
なお契約報告用紙に記載され,回覧に供される顧客の情報は,本件顧客情報のうち,顧客の氏名だけであるため,他の営業部従業員は,この情報から直ちに当該顧客に営業活動をすることはできないものと考えられる。
したがって,契約報告用紙の作成回覧等の上記扱いは,個々の営業部従業員の販売活動の状況をほかの営業部従業員に知らせ,営業部従業員間の競争を促進し,もって原告としての営業活動を活性化させようとしているものとみられる。
ウ契約者台帳(ア)証拠(甲3,甲10,甲15〜17,証人P9)及び弁論の全趣旨によれば,契約者台帳の作成,管理及び利用状況等は次のとおりであると認められる。
?営業部従業員は,物件購入の申込みを受けて契約成立に至った場合には,営業秘密目録2記載?ないし?の情報を記入する欄が設けられた複写式の3枚綴からなる契約者台帳を作成する。
なお,原告における営業部従業員による営業活動で,新規に契約が成立し,契約者台帳作成に至るのは,見込みノートを作成した見込み客10人のうち一人程度である。
?営業部従業員は,作成した上記契約者台帳に基づき役員の決裁を経て,当該3枚綴の契約者台帳を売買契約書等の書類とともに営業管理課へ渡し,そこで3枚のうち1枚が分離され,その後,営業管理課から経理課へ渡され,そこで,さらに1枚が分離され,最後の1枚は経理課からローン課に渡される。営業管理課では,契約者台帳を利用してASデータの入力を行う。その後,営業管理課ではASデータへの入力終了後,経理課では半年くらいが経過した後,それぞれ分離され渡された契約者台帳はシュレッダーで廃棄される。ローン課では,決算終了後,契約者台帳は書庫スペースの施錠されたキャビネットで保管される。他方,担当した営業部従業員は,今後の営業に用いるため,契約者台帳のコピーを1部作成し,手もとのファイルに綴って保管する。
?営業部従業員は,自らの契約者台帳ファイルのほか,退職従業員等の契約者台帳を引き継いで管理しているため,契約者台帳ファイル中には,自ら取引をした顧客についての契約者台帳のコピーにより構成される契約者台帳ファイルと,他の営業部従業員と取引した実績のある顧客の契約者台帳ファイルがあることになる。
?平成17年ころ,原告の営業部従業員が契約者台帳ファイルを社外に持ち出して紛失したことがあったので,営業部従業員が個別に保管していた契約者台帳ファイルを鍵付きの棚でまとめて保管し,その鍵を営業部の課長が管理するという運用に改められたことがあったが,そのような管理方法では,課長不在時に営業に支障が生じることから,しばらくして契約者台帳ファイルを各営業部従業員が個別に保管する運用に戻され,被告P2らが退職した当時も同様の扱いが続いていた。
?なお原告では,個人情報の保護に関する法律(以下「個人情報保護法」という )が施行された平成17年4月以降,契約者台帳の書式 。
の右上余白部分には「無断複製・持出厳禁」と記載されるようになったが,営業部従業員が各自契約者台帳ファイルの形で保管している,それ以前の契約者台帳のコピーについては,何らそのような記載をする処置はなされなかった。
(イ)原告は,社内ルールでは契約者台帳を社外に持ち出してはならないこととされ,また契約者台帳をコピーすることも禁止され,外部に商談に行く場合や外出の際にどうしても顧客に連絡する必要がある場合や,営業部の休日にしか連絡できない顧客に連絡する必要がある場合にだけ,ヘッドの判断で該当部分をコピーすることが許されていたと主張し,原告のP9部長は,営業部従業員が原告の社外で顧客と会うときは契約者台帳をコピーして持参することがあるが,その都度ヘッドの許可が必要であり,営業部従業員が帰社した際にはその都度ヘッドがシュレッダーにかけて廃棄するよう指導していたと証言する。
しかし,原告が主張するようなルールがあり,それが厳守されていたのなら,そのようなルールを原告の営業部従業員に周知するために何らかの規定があったり文書化されているはずと考えられるが,そのような資料は証拠として提出されておらず,その点でP9の上記証言は客観的な裏付けを欠くものであって信用性に欠けるといわざるを得ない。むしろ,そのような明確な定めがない一方,契約者台帳ファイルは営業部従業員が個人ごとに管理しており,証拠(丙1〜3)によれば,その営業部従業員には厳しいノルマが課せられ,終業時間後や休日でも営業活動をして成績を上げるよう求められていたことが認められるから,営業部従業員が営業活動のために契約者台帳ファイルをコピーして外部に持ち出すことは自由であったと考えるのが自然であり,したがって契約者台帳ファイルから必要部分をコピーして社外に持ち出すことは自由に認められていたとする被告P2らの陳述(丙1〜3)は十分信用でき,これと異なる証人P9の証言は信用できず,その旨をいう原告の上記主張は採用できない(なお,後記2( )イで検討する被告P2が原告退職後も 4セカンドバッグ内に原告の契約者台帳のコピーを入れたままであった事実は,むしろ原告における契約者台帳ファイルの上記取扱いを裏付けているものである。。)エASデータ証拠(甲15,甲55,甲56)及び弁論の全趣旨によれば,ASデータへの入力,管理及び利用状況等は次のとおりであると認められる。
(ア)上記ウ(ア)?で作成される3枚綴の契約者台帳は,原告社内で,営業管理課,経理課,ローン課で一部ずつ分離されるが,営業管理課では,これを利用して,契約者台帳に記載されている顧客情報(営業秘密目録2記載?ないし?)をパソコンの情報管理システムに入力して管理し,このデータは,原告社内では「ASデータ」と称されている。
(イ)ASデータは,従業員に割り当てられたユーザーID及びパスワードを入力して情報管理システムにサインオンしなければ閲覧することはできないよう設定されているが,このユーザーID及びパスワードが割り振られているのは経理課,ローン課及び営業管理課の従業員と建設部のうちアフターサービスを担当している一部の従業員だけであり,他の従業員には割り当てられていない。
またASデータは,平成17年ころから,パソコンから出力して外部の磁気媒体に記憶させることができないよう設定されていた。
(ウ)ASデータの出入力は,以上のとおり原告社内の限られた者しか取り扱っていないが,営業部従業員が顧客の連絡先等の情報を把握するために必要がある場合には,営業部従業員の求めに応じて営業管理課の従業員が顧客のASデータをプリントアウトしたものを渡すことがある。
(3)営業部従業員による個人の携帯電話の使用について証拠(丙1〜3,被告P4,同P2,同P3)及び弁論の全趣旨によれば,原告においては,営業部従業員がそれぞれ顧客に営業活動をする際,社外で顧客と会うための実際の必要性のほか,顧客とのより親密な信頼関係を築くため,顧客に連絡先として個人所有の携帯電話の電話番号を教え,また各個人の携帯電話に顧客を登録し,これを用いて当該顧客と連絡を取り合い営業をするということが頻繁にされていたことが認められる(ただし,被告P4のように,これを嫌って顧客との連絡に個人の携帯電話を原則的には使用しなかった者もいることも認められる。また,前掲証拠によれば,原告で 。)は,各ヘッドには営業用の携帯電話が一人台で用意され貸与されていたが,1ヘッドではない営業部従業員には複数人に1台の割合の携帯電話しか貸与用に用意されていなかったこと,しかしヘッドである被告P2及び被告P3とも,貸与された原告の携帯電話ではなく,個人の携帯電話で連絡を取り合うほど懇意にしていた顧客が10人程度はいたことが認められる。
原告は,情報漏洩防止のため,営業部従業員が個人の携帯電話に顧客の電話番号を登録することを一切禁止していたと主張し,原告の第2営業部部長の証人P9もこれに沿う証言をする。
しかし,前掲証拠によれば,一般の営業部従業員は,物件購入の勧誘のため社外で顧客と会うことが避けられず,そのような場合,携帯電話で連絡が取れるようにしておかなければ営業に支障が生じることは明らかであるし,また営業活動の延長として,営業部従業員が,顧客とカラオケに行ったりするような付き合いをしていたという事実さえ認められるのであるから,原告において社員用に用意されていた貸与用の携帯電話は上記認定の限度にとどまることもあわせ考えると,原告において,個人の携帯電話に顧客の電話番号を登録することが禁止されていたとしても(個人情報保護法対応のため,同法施行時に,原告から営業部従業員の質問に対し,その趣旨の回答がされた可能性は否定できない,実際には,営業部従業員がその禁止に違反し 。)て個人の携帯電話に顧客の電話番号を登録して顧客と連絡を取り合うことは事実上容認されていたものと推認するのが相当である。なお,証人P9,同P22は,営業部従業員と顧客が個人的に親密になることの弊害をるる証言するが,原告においては,営業部従業員には厳しいノルマが課せられ,また販売実績はその収入に直結するのであるから,営業部従業員が顧客と個人的に親密な関係を構築しようとするのは極く自然な成り行きであって,そのため営業部従業員が顧客と個人の携帯電話で連絡を取り合うことも当然あったものと考えられる。またその結果は,原告の営業実績に結びつく以上,顧客間の不公平などの弊害をいう上記各証言は実態を伴ったものとは思われず信用できない。
( )原告会社における秘密管理についての定め等について4ア(ア)証拠(甲88)によれば,平成15年4月1日に施行された就業規則(後記5で検討する平成18年4月の変更前のもの)には,従業員の禁止事項を定める29条の2号に「別に定める業務上の秘密事項及び会社の不利益となる事項を,社外に漏らすこと」が規定されていたことが認められる。しかし,同規定の「別に定める業務上の秘密事項」が定められていた事実を認めるに足りる証拠はない(なお,原告は同規定に基づいて何ら具体的な主張立証をしない。。)(イ)証拠(甲36)及び弁論の全趣旨によれば,原告では,個人情報保護法施行日である平成17年4月1日,管理職に命じて,従業員に以下の内容の記載がある誓約書を提出させた事実が認められ,したがって,これによれば,原告内において上記誓約書を原告に提出した従業員は,以下の内容の秘密保持義務を原告に対して負っているものと認められる。
「私は,貴社の従業員として従業するに際し,下記の事項を遵守することを誓約いたします。
記2私は,在職中はもとより,退職した後も,業務の遂行中に若しくはこれに関連して知り得た,貴社又は貴社の取引先の経営上,技術上,営業上その他一切の情報(すべての個人情報を含み,以下「本件情報」という)を,業務の目的に使用するなどの不正使用(アクセス権限を越えた情報システムの使用を含む)や,本件情報を知る必要がある貴社の役員又は貴社の従業員以外の者には開示しないことはもとより,取り扱いに関する指示を守りこれらの秘密を保持します 」。
(ウ)原告のみならず原告のグループ各社においても,平成17年4月1日当時,在籍する従業員に上記(イ)の誓約書を勤務先の会社に提出させているが,原告が,その後にそのグループ各社から原告に転籍してきた従業員に対して,あらためて上記誓約書を原告宛に提出させた事実をうかがわせる証拠はない。
(エ)証拠(甲40の1)によれば,原告は,平成18年4月に就業規則を変更し,同就業規則59条?には在職中の秘密保持義務が定められていることが認められるが,その変更された就業規則が従業員に対して法的規範としての拘束力を生じないことは後記5であわせて認定判断するとおりである。
イ原告は,そのほか営業秘密の管理等について業務上の指導や,研修時の指導をしていた旨を主張しているが,それらの事実をいずれも認めることができないことは上記( )の関係箇所で認定したとおりである。したがっ3て,原告従業員が,原告に対して負う秘密保持義務は,上記ア(イ)の誓約書提出によるもののみとなる(なお,上記ア(ウ)の原告グループ各社の従業員の誓約書提出の効果については,後記4で認定判断する。。)( )検討5ア不正競争防止法2条6項所定の営業秘密として保護されるためには,主張にかかる営業秘密が 「有用な営業情報」であって(有用性「公然と , ),知られて」おらず(非公知性 ,しかも「秘密として管理されている」こ )と(秘密管理性)が必要があるところ,原告主張に係る営業秘密は別紙営業秘密目録1,2とも,既に原告から投資用マンションを購入した実績のある顧客の情報を蓄積したものであり,これらの顧客のうちには投資用マンションを複数購入している者も含まれているのであるから,単なる氏名と電話番号だけからなる営業秘密目録1記載の顧客情報であっても,投資用マンションの購入勧誘する営業先として有用な営業情報であると認められるし,これに勤務先や年収,既に購入した物件の概要など,営業をする上でさらに有益な情報が加わった営業目録2記載の顧客情報も「有用な営業情報」であることは当然,同様に認めることができる。
イまた,これらの顧客情報が公然と知られた形で存在しないことは明らかであるから,営業秘密目録1,2記載の顧客情報とも「公然と知られて」いないという要件を満たすものと認められる(原告が販売を手がけた投資用マンションの登記事項証明書を入手すれば,顧客となった者の氏名,住所は特定することができるが,それから直ちに電話番号が明らかになるわけではなく,さらに勤務先や年収などの情報を知る方法は存しないから,営業秘密目録1,2記載の営業情報中に一部,不動産の登記事項証明書から得られる情報が含まれていたとしても,これをもって「公然と知られて」いないとの要件が充足できないことにはならない。。)ウ(ア)しかし,以下に詳述するとおり,上記( )ないし( )で認定してきた14諸事実に照らし,これらの情報は,被告P2らなどの従業員との関係で秘密として管理されていたとはいえないことから,不正競争防止法2条6項にいう「営業秘密」であると認めることはできないといわなければならない。
そもそも,不正競争防止法で「営業秘密」として保護されるために秘密管理性が要件とされているのは,営業秘密として保護の対象となる情報とそうでない情報とが明確に区別されていなければ,事業者が保有する情報に接した者にとって,当該情報を使用等することが許されるか否かを予測することが困難となり,その結果,情報の自由な利用を阻害するだけでなく,従業員の職業選択・転職の自由を過度に制限することになりかねないからである。とりわけ本件において営業秘密として問題とされる原告の顧客情報は,予め事業者である原告のもとにすべてあって従業員に示すことになる顧客情報だけではなく,従業員が日々の営業活動において取得して原告に提供することにより原告が保有し蓄積する顧客情報となるものも含まれている。その上,その顧客情報を利用した営, 業活動においては,従業員が特定の顧客との関係で個人的な親交を深め。 その関係が会社を離れた個人的な交際関係も同然となる場合も生じ得るそうすると,そのような情報を含む顧客情報をもって,退職後に使用が許されなくなる事業者の「営業秘密」であると従業員に認識させ,退職従業員にその自由な使用を禁ずるためには,日々の営業の場面で,上記顧客情報が「営業秘密」であると従業員らにとって明確に認識できるような形で管理されてきていなければならず,その点は,実態に即してより慎重に検討される必要がある。
(イ)これを本件についてみると,営業部従業員が用いる契約者台帳ファイルのうち退職従業員等から引き継ぐものは,これによって当該ファイルに含まれる顧客情報が原告から各営業部従業員に示されることになるが,その際に特別な注意が与えられるとか,管理に関する特別な指示がされるなどの特別の手当がされていた様子はうかがえず,この点についての原告からの主張立証はない(なお,被告P2の供述(速記録28頁)によれば,契約者台帳ファイルをいきなり交付され,それに基づいて電話勧誘の営業をするよう指示されていただけという様子がうかがえる。そして,日々,営業の場面で顧客情報を取り扱う営業部従業員は, 。)平成17年4月1日には秘密保持を約する誓約書を原告に差し入れてそれ以降は秘密保持義務を負っているといえるが,それ以前に秘密保持義務を負っていたことを示す事実はなく,また後記4で検討するようにヘッドである被告P4との間では明示的に秘密保持義務を負わせる合意はなされておらず,また平成17年4月1日以降に原告に転籍してきた被告P2らのような転籍者については,秘密保持義務を負わせるための手当は何らなされていないから,結局,営業部従業員に誓約書を提出させた行為も,これによって営業部従業員との関係で秘密保持契約の締結が万全になされたとは言い難い。その上,平成18年4月1日に就業規則を改定して定めた秘密保持規定も後記5で検討するとおり,法的拘束力を有しないから,そうであれば,原告は,平成17年4月1日より前はもとより,それ以降も秘密保持義務を従業員に十分徹底することなく,営業秘密であると主張する顧客情報をすべて含んでいる契約者台帳ファ。 イルの管理を個々の営業部従業員に任せていたといわなければならないそして,それぞれの責任で契約者台帳ファイルを管理する営業部従業員は,その営業の必要に応じて契約者台帳のコピーをとって社外に持ち出したりすることがあり,またその後の廃棄処理も原告全体として定まった扱いがされていた様子がうかがえないから,その契約者台帳ファイルの管理は,原告の手もとを離れてしまっていたといわざるを得ない。
なお,平成17年4月以降の契約者台帳の書式には 「無断複製・持,出厳禁」との記載がされていたが,それ以前のものに,同じ文言のスタンプを押捺するなどの処理はされておらず,そのため営業部従業員が管理する契約者台帳ファイル内には,その記載があるものとないものが混在している形になっていたのであるから,営業上,コピーが自由にされていた実態にあることもあわせ考えると,その書式中の 「無断複製・,持出厳禁」との記載にかかわらず,それが原告従業員の間で厳守すべきものと十分認識されていたとは言い難い。
(ウ)営業部従業員が営業活動により取得する顧客情報については,見込みノート作成段階で,多くは営業秘密目録2記載?ないし?の顧客情報までが取得されることから,当該営業部従業員は原告に提供する前段階でそれらの情報に接することになる。しかし,この見込みノートそのものには,平成17年4月以降も「無断複製・持出厳禁」との記載がされた様子はなく,他方で,当該見込み客との営業活動では,営業部従業員が,自己の判断で自由にコピーを取って営業の場に持参していたのであるから,そもそも見込みノート段階で,そこに含まれる顧客情報を原告が営業秘密として管理しようとしていた様子はうかがえない。
そして,新規開拓の営業により契約締結に至った場合には,当該顧客情報は契約者台帳の形でまとめられて原告に提供されることになるが,営業部従業員の手もとにはそのコピーが一部残され,その扱いは,前に検討した前任者から引き継いだ契約者台帳ファイルのそれと同じであるから,営業部従業員との秘密保持契約が徹底されていなかったことを考えると,営業部従業員にとっては,もともと自らの営業努力で取得した顧客情報であることもあって,それが原告が管理する営業秘密であるとの認識を十分持ちえないとしても無理はないといわなければならず,他方,原告においても,原告の管理する営業秘密であることを明らかにして,その旨の認識を営業部従業員に与えようとする態勢が十分ではなかったといわなければならない(そのほか証拠(甲34の1・2)によれば,被告P2は,後記2( )イで検討するセカンドバッグの内容物である4契約者台帳のコピーを警察から受け取らない姿勢を原告に示していた事実が認められるが,これは,コピーの用紙自体は原告の財産であるという事実に加え,その当時,既に被告P2と原告間で本件紛争が起きていたという背景から理解すべきであって,これにより被告P2が契約者台帳のコピー持ち出しが禁止されていたことの認識を示すものと評価するのは相当ではない。。)(エ)なお確かに,営業秘密目録2記載の営業情報をすべて包含する契約, 者台帳の形で原告が保有するに至った本件顧客情報は,原告においてはローン課で保存されるほか,ASデータの形で管理されて,ASデータについてのアクセス方法が制限されるなど,営業秘密としての体裁を整, えて管理されていたということができる。しかしながら,上述のとおり原告においては,上記の形で蓄積保存されるとは別途に,当該顧客情報は,営業部従業員に示され,あるいは営業部従業員がその営業活動の中で自ら取得するとともに,契約者台帳ファイルという形で個々人で管理しているから,その段階において営業秘密としての管理がされているとは認められず,したがってローン課において,あるいはASデータとして顧客情報を管理することに万全が期されたとしても,これをもって主張にかかる顧客情報が営業秘密として管理されていたということはできない。
エ以上によれば,顧客の氏名及び電話番号からなる本件顧客情報1のみならずその他の情報を含む本件顧客情報2は,原告においてそれらの情報を日々利用して営業活動に携わる営業部従業員にとって,退職後に使用が許されなくなる事業者の「営業秘密」であると明確に認識できるような形で十分な管理がされていたとはいえないから,いずれも不正競争防止法2条6項所定の営業秘密に該当するとは認められない。
したがって,不正競争防止法に基づく原告の被告P2らに対する請求はその余の判断に及ぶまでもなく理由がない。
2争点2(被告P2らが不正競争防止法2条1項4号又は7号の不正競争をしたか)について( )原告主張にかかる営業秘密は,不正競争防止法2条6項所定の要件をみた1すものと認められないことは上記1で認定判断したとおりであるが,なお事案に鑑み,被告P2らによって原告の主張する営業秘密についての不正取得行為がなされたのか検討する。この争点につき,原告は,被告P2らは,?顧客の氏名及び電話番号を個人の携帯電話に登録する方法,若しくは?顧客情報を紙媒体にメモして持ち出す方法により営業秘密目録1記載の顧客情報を,または?各自の契約者台帳ファイルをコピーして持ち出すことにより営業秘密目録2記載の顧客情報を不正に取得した旨主張している。
( )最初に?の方法による顧客情報の取得について検討するに,?の携帯電話2に顧客の氏名及び電話番号を登録する方法については,被告P2及び被告P3が一定数の顧客を原告退職後も携帯電話に登録したままであったことは同人らも認めるところであるが,原告において,営業部従業員が顧客とカラオケや食事をともにする場合も含めて交友関係を深めて信頼関係を構築していたこと,そのような関係に至らなくとも,社外での営業活動の際には個人の携帯電話で顧客と連絡を取り合っていたことなどは,上記1( )3のとおりであり,携帯電話に登録されていた顧客の電話番号は,その限度で登録されていたものと認められ,これをもって顧客情報を不正に取得したということはできない。そして,これを超えて被告P2らが,そのような関係にも至らない顧客の氏名及び電話番号を顧客情報取得を目的として携帯電話に登録していた事実を認めるに足りる証拠はない。
したがって,被告P2らが,上記?の方法で,原告の営業秘密である別紙営業秘密目録1記載の顧客情報を不正に取得したとは認められない。
( )?の方法については,原告退職後の平成20年5月に近鉄難波駅で発見さ3れた被告P2のセカンドバッグ内に顧客の氏名と携帯電話番号等を記載した紙のメモ(甲30の1・2)があったことから,被告P2が,原告の顧客の氏名及び電話番号を記載したメモを所持していた事実自体は認められる。しかしながら,証拠(丙1,被告P2)によれば,同メモには顧客以外に被告P2の祖母の氏名も記載されていたというのであり,メモの余白部分には,ローンの金利や,家賃収入について検討した記載も認められるから,同メモは,被告P2が供述するように原告在職中に営業活動として情報提供を受けて記載したものや,自らの備忘録として記載したものにすぎず,これによって被告P2が原告の顧客情報を取得する目的で紙媒体に顧客の氏名及び電話番号等を書き取っていたものとは認められない。また,被告P2の供述及び上記認定した契約者台帳ファイルについてのコピーの扱いなどによれば,原告において営業部従業員が,このような形で顧客の氏名及び電話番号をメモして営業に活用することは容認されていたものと認められるから,いずれの観点からも,このメモ書きの存在によって被告P2が原告主張にかかる上記?のような営業秘密の不正取得をしていたことを推認することはできない。またそうであれば,具体的な手掛かりが一切無いその余の被告P3及び被告P4についても同様である。
( )ア最後に?の行為の点について検討するに,被告P2らが,退職時までに,4それぞれ担当する顧客の契約者台帳ファイルをコピーして持ち出した事実を認めるに足りる直接的証拠はないが,原告は,?’被告P2らは退職について事前に協議しており,退職の直前,無人の原告事務所に深夜浸入し,その機会に契約者台帳ファイルをコピーする時間もあり,同ファイルに外された跡があること,?’そして被告P2らは,原告退職後間もなく本件マンションの販売を手がけ,原告の顧客に営業して契約締結にも至っていること,?’被告P2が原告を退職した後である平成20年5月に近鉄難波駅に置き忘れられていた被告P2のセカンドバッグ内に原告の顧客である別紙顧客目録記載1()の顧客の契約者台帳44のコピーが残されていたことなど,以上の事実からすると,被告P2らが,契約者台帳ファイルをコピーして持ち出したことが推認される旨主張している。
イ確かに?’で指摘されるように,原告退職後の被告P2が原告の契約者台帳のコピーを所持していた事実があるが,証拠(甲6,甲27の1〜4,甲37の1〜4,丙〜6,証人P22,被告P2)によれば,?4”当該契約者台帳は被告P2が担当していた別紙顧客目録記載1()の 44顧客のものであり,同人は被告P2が担当となった後に4件の買い増しをし,その結果,被告P2退職時には契約者台帳は8枚になっていたはずであるのに,セカンドバッグのなかにあった契約者台帳のコピーは,被告P2が担当を引き継ぐ前の4枚しかなかったこと,?”被告P2のセカンドバッグ内には,被告P2の平成18年度,19年度の住民税の資料,上記メモ書きのほか,被告P2の原告係長時代(平成17年ころ)の名刺さえもが多数残されていたこと(これによりセカンドバッグの持主が被告P2であることが特定され原告にも連絡されている )が認。
められるから,セカンドバッグ内の契約者台帳のコピーは,被告P2が供述するとおり,被告P2が原告在職時に営業活動のためコピーをとって持ち出していたものが,そのまま残っていたものと認めるのが相当である。
ウまた?’で指摘されているように,証拠(被告P2,同P3)によれば,被告P2らは,原告退職後,ほぼ直ちに3人で共同して原告と競業する不動産販売を手がけるようになり,現に被告P5の販売する本件マンションの販売も成功していることが認められる。しかしながら,前掲証拠によれば,被告P2らが原告退職後の早い時期に販売に成功した顧客は,被告P2及び被告P3が原告在職中から交友を重ねて個人的信頼関係を築いていた顧客であり,それらの顧客については,原告在職中からお互いに携帯電話番号を教えあう付き合いをしていたため,原告退職に伴い別途に連絡先を知るための手段を確保する必要性なかったと認められるから,原告が指摘する?’の事実関係から,被告P2らが,契約者台帳ファイルをコピーして持ち出したものと推認することはできない。
なお,原告は,被告P2らの退職後,原告では手付放棄による解除が増えたとして,これを被告P2らの営業活動と関係があるように主張するが,その主張が認められないことは,後記6で検討するとおりであって,これによっても被告P2らが契約者台帳ファイルをコピーして持ち出したことは推認できない。
エ(ア)最後に?’の事実関係についても検討するに,確かに証拠(甲78〜82)によれば,?”被告P4は平成20年3月2日の午前4時近くに原告事務所に入室して1時間半近く滞在した後,退職届を机上に置き,以後,原告に出社していないこと,?”被告P3及び被告P2は,いずれも同月6日の午前2時過ぎ以降に原告事務所に入室して,それぞれ退職届けを机上において以後,原告に出社していないこと,?”セキュリティカードの記録によれば,同日は,被告P3のセキュリティカードを利用して入室した者が同日の午前2時45分から午前2時56分までの11分間滞在し,その2分後である同日午前2時58分に被告P2のセキュリティカードを利用した者が入室し,同日午前4時44分までの1時間46分間滞在していたこと,以上の事実が認められるから,この滞在時間帯に各自が管理している契約者台帳ファイルをコピーすることは十分可能であったと認められる。
(イ)しかしながら,そもそも被告P2らが原告を退職するに当たり,このような深夜の時間帯に退職届を出さなければならなかったのは,証拠(証人P9,被告P4,被告P2)によれば,原告においては,営業部従業員にノルマが厳しく課せられ,営業成績が上がらない者には,その営業の様子をビデオ撮影するという精神的苦痛が与えられたり,上司によって暴力が振るわれるなどの違法な行為がなされ,退職届を提出しても,逆にその撤回を強要されかねない雰囲気があったことから,被告P2らとしては,退職届を深夜に提出して,その後連絡を絶つという方法しか取りえなかったからであると認められる。そして,被告P2らの退職が連続したのは,以上のような原告における勤務状況に加え,被告P4がまず原告のオーナーであるP11による酷い暴行を受けて退職し,その結果,かねてから退職も考えていた被告P2及び被告P3が,ヘッドの一人が欠けることによりノルマがさらに厳しくなることを嫌って退職に踏み切ったものと認められる。
すなわち,被告P2らがほぼ同時期に退職したことは事実であるが,それは,もともと原告に不満があったなかで原告のオーナーによる被告P4に対する酷い暴力があったことが引き金になって起きた結果であると認められるから,その後,被告P2らが共同して不動産販売にかかわるようになっていたとしても,それが退職前に予め計画された行動とは認められない(なお,原告は,被告P2らの退職届(甲5,甲7,甲8)の文面及び構成の類似性を指摘するが,その類似点は,一般的な退職届のそれにすぎず,むしろ三者の退職届は微細な点で異なっているから,上記類似性は,被告P2らの三者が原告退職を予め共謀していた事実を推認する根拠にはならない。。)したがって,被告P2らが一斉退職を共謀していただろうという推認から,さらに被告P2らが原告の顧客名簿を持ち出して原告と競業することまで予め計画し,それを実行したように推認することはおよそできない。
(ウ)また,そもそも被告P2らが,現実にそのような行為をしたことを直接的に示す証拠はないし,原告が指摘する契約者台帳ファイルが時系列で綴られていないから外された跡があるとの推認も,もともと契約者台帳ファイルがコピーされて営業活動で利用がされていたという事実からすると,コピーして持ち出した事実を推認する上では決定的な決め手になるとは考えられない(全部まとめてコピーするなら,むしろ綴順は崩れることがないから,原告の推認根拠は弱いといわなければならない。。)そして何より,被告P2らが契約者台帳ファイルをコピーして持ち出して被告P2らとは個人的にはさほど親しくない顧客ら多数に対して新たな営業活動がされていたのなら,それらの顧客から原告に対して顧客情報流出等の点で苦情あるいは少なくとも情報がもたらされたであろうと考えられるが,そのような情報がもたらされたとの主張立証はなく,かえって証拠(証人P22・速記録6頁)によれば,原告の調査にもかかわらず退職後の被告P2らから連絡を受けたとする原告の顧客は少数にとどまっていたことが認められるから,被告P2らが,個人的な関係がある顧客以外に,原告からコピーして持ち出した契約者台帳ファイルを利用して営業活動をしているとは認められない。
(エ)以上のとおり,被告P2らが原告事務所に深夜入室するなど,その行動には不審な点があることは否めないが,退職届を提出することによって深夜に社内に入室したことを原告に対して明らかにしながら,その際に契約者台帳ファイルをコピーするという窃盗行為を働くというのは不自然ともいえるし,また退職に伴い私物を整理していたとの陳述(丙13ないし丙15)を直ちに排斥できるものではないから,上記検討した事実関係を総合してみても,やはり被告P2らが原告の契約者台帳ファイルをコピーして持ち出したと推認することは困難というべきである。
3争点3(被告P5は不正競争防止法2条1項5号又は8号の不正競争をしたか)及び争点4(被告P6は会社法429条に基づく責任を負うか)について上記1,2の認定判断を前提とすれば,争点3及び4について検討するまでもなく,被告P2らの不正競争行為を前提とする被告P5に対する請求及びそれを前提とする被告P6に対する請求は理由がない。
4争点5(原告と被告P2らとの間で誓約書に基づく秘密保持合意が成立したか)について( )平成17年4月1日に原告従業員が秘密保持義務を含む誓約書を原告に提1出したことは上記1( )ア(イ)のとおりであり,証拠(甲24,甲25,甲 441,被告P4)によれば,?その当時,被告P2は,原告のグループ会社であるP17(平成19年1月にP7に商号を変更 )に勤務し,被告P。
3は,原告のグループ会社であるP8に勤務していたが,上記同日,それぞれの勤務先会社に対し,上記誓約書と同内容の誓約書を提出したこと,?そのほか,原告グループ各社では,従業員から上記と同内容の誓約書を一斉に提出させたが,これは平成17年4月1日に個人情報保護法が施行されることに伴う情報管理体制強化の一環であること,?被告P4は,その当時,原告の課長であり,上記同日,部下従業員から誓約書を徴求する役割を担ったが,被告P4自らは,誓約書を原告宛に作成提出しなかったこと,以上の事実が認められる。
( )原告は,以上の事実関係を前提に,原告と被告P2らとの間で誓約書記載2の保持義務の合意が成立した旨主張する。
しかしながら,P17及びP8は,原告のグループ会社であるけれども,原告とは法人格が異なる会社であるから,被告P2がP17に,被告P3がP8に上記誓約書を提出したことによって,同被告らと原告との間で上記( )の内容の秘密保持合意が成立したと認めることはできない。
1なお,原告及びそのグループ各社との間では,従業員の転籍が頻繁に行われていた様子がうかがえるから,各従業員からは原告及びそのグループ各社が一体のものとして認識されていたと推認され,その点からは,原告が主張するように,被告P2及び被告P3においては,上記誓約書の趣旨が原告及びそのグループ会社全体の関係での義務を定めたものと認識していた可能性は否定できない。しかし,仮に同被告らがそのような認識を有し,又原告もそのように考えていたとしても,原告とそのグループ会社は別法人である以上,そのような認識に基づいて法的な権利義務関係が生じるものと解する余地はない。
また,被告P4については,原告の課長として,部下である従業員から誓約書を徴求しているが,これによって誓約書記載の義務を原告に対して負うのは,その誓約書に署名押印をして作成した各従業員であって,被告P4が課長であるとしても,その徴求手続にかかわることによって原告に対して誓約書記載の意思表示をしたと直ちに解されるわけではないから,これによって被告P4と原告との間に,誓約書記載の秘密保持合意が成立したと認めることはできない。
( )したがって,原告と被告P2らとの間に原告が主張する秘密保持合意が成3立したとは認められないから,秘密保持合意がされたことを前提とする原告の被告P2らに対する請求は理由がない。なお,仮に被告P4については,その原告内の役職及びその役職に基づいて部下から誓約書を徴求したという事実にかんがみて,その際,上記誓約書の秘密保持義務を原告に対して負う旨の合意が黙示的にされたと認める余地がないではないが,仮にそうであったとしても,後記6で検討するとおり,原告退職後に,被告P4が原告の顧客に連絡をとった事実をうかがわせる証拠はないから,被告P4が秘密保持義務に違反した事実は認められず,したがって,その債務不履行を理由とする損害賠償請求は成り立つ余地がない。
5争点6(退職後の秘密保持規定及び競業避止規定を追加した原告の就業規則の変更は有効か)について( )証拠(甲40の1)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,平成18年4月,1就業規則に下記の各規定を追加する変更をしたこと,同変更前の原告の就業規則中には,退職後の秘密保持規定と競業避止義務を定めた規定は存在しなかったことが認められる(就業規則中に在職中の秘密保持規定は存在したが,対象となる秘密が定められていなかったことは,上記1( )ア(ア)のとおり4である。。)記(退職後の責務)第31条2.退職又は解雇された者は,在職中に知り得た機密を他に漏らしてはならない。
(服務の心得)第59条社員は職場の秩序を保持し,業務の正常な運営を図るため,次の事項を守らなければならない。
?退職後2年以内は会社営業地域内での競業行為は行わないこと( )ところで,就業規則を変更するためには,使用者は,労働者の過半数で組2織する労働組合がある場合においてはその労働組合,労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならず(労働基準法90条1項 ,また変更された就業規則が法 )的規範としての性質を有するものとして,拘束力を生ずるためには,その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要する(平成15年10月10日最高裁第2小法廷判決・最高裁判所集民事211号1頁 。)この点につき原告は,上記( )の就業規則の変更について,労働者の過半1数を代表する者の意見聴取の手続を履践するとともに,原告総務部担当者が変更後の就業規則を原告の全従業員が参加する全体朝礼で説明し,社内掲示板に掲示するほか,原告営業部のヘッドには平成18年10月に就業規則のコピーを交付して,その内容を周知させる手続を採ったと主張するところ,確かに,証拠(甲84)によれば,原告が大阪中央労働基準監督署に提出した変更後の就業規則には,P9が労働者代表として署名押印した意見書が添付されていることが認められ,また原告の専務取締役のP15の陳述書(甲86)には,上記主張に沿った周知手続を履践した旨の記載がある。
しかしながら,上記意見書を作成したP9が労働者の過半数を代表する者に該当することを認めるに足りる的確な証拠はないから,そもそも労働基準法90条1項の手続が履践されたとは認められない。
また,上記主張にかかる周知手続についても,実際にこれらの手続がされたのであれば,朝礼での説明用の資料,掲示板に掲示する文書等が作成され,これらを証拠として提出することは容易なはずであるが,本件においてはこれらの資料は証拠として提出されておらず,従業員である被告P2らはみな揃ってこれを否定する供述をするのであるから,上記P15の陳述書は客観的な裏付けを欠き信用できないといわなければならない。
そうすると,原告において,上記( )の変更された就業規則は,法的規範1の性質を有するものとして従業員に対する拘束力を生じているとは認められないから,変更後の就業規則の秘密保持規定及び競業避止規定は効力を有するとはいえない。
( )したがって,上記変更後の就業規則上の秘密保持規定及び競業避止規定の3各規定に違反することを理由とする原告の請求はその余の判断に及ぶまでもなく理由がない(なお,上記変更後の就業規則には,退職後の秘密保持規定を定めた31条2項のほか (服務の心得)59条に「?会社の業務上の機 ,密事項及び会社の不利益となるような事項を他に漏らさないこと」として,在職中の秘密保持規定を定めた規定も存するが,この規定が効力を有するものと認められないことは,上記認定説示したところと同様である。。)6争点8(被告P2らの行為が不法行為に該当するか)について( )本件において,被告P4は平成20年3月2日に原告を退職し,被告P2 1及び被告P3は同月6日に原告を退職し,その後,3人で一緒に不動産販売の仕事に携わるようになり,同月21日には,被告P4が被告P5との間で同社の販売物件である投資用マンションである本件マンションの5階及び6階の販売業務提携契約を締結し,被告P2ら3人がその販売業務に携わるようになった事実が認められ(争いがない ,この被告P2らの行為は原告と )の競業行為に当たる。
( )被告P2らが原告に対する関係で退職後の競業避止義務を負わないことは2既に上記5で認定判断したところであるが,原告は,被告P2らが原告を一斉に退職した後にした競業行為は,自由競争を逸脱した違法行為であり,原告に対する不法行為を構成する旨主張し,被告P2らが,本件マンションを購入させるために原告との間で既に契約締結段階に至っている顧客らに対して契約を解除するよう働き掛け,その結果,別紙解約状況一覧表に記載の顧客から契約を解除されて原告が損害を被ったと主張する。
しかしながら,別紙解約状況一覧表記載の顧客のうち,被告P3が8番及び17番の顧客に対し,また被告P2が12番の顧客に対して営業活動をしたという事実は被告P2らも自認するところであるが,それ以外の顧客が解約に至ったことが被告P2らの営業活動の結果であることはもとより,被告P2らがそれらの顧客に営業活動を行った事実を認めるに足りる的確な証拠はない。
原告は,被告P2らの退職後,手付放棄による契約解除が増加したとして(前年比較で11件から22件 ,これは原告退職後被告P2らが当該顧客 )に勧誘などの営業活動をした結果であるように主張するが,被告P2らの退職前から手付を放棄して契約を解除する顧客が一定数いる以上,被告P2ら退職後に手付放棄により契約解除に至る顧客が有意に増加したか否かは,原告に残った他の営業部従業員の契約締結状況との関係で比較検討されなければわからないし(その主張立証は容易であると思われるが,原告はその点の主張立証をなさない,また原告が主張する契約を解除した顧客のうち, 。)別紙解約状況一覧表13ないし22の顧客は,平成20年9月15日のいわゆるリーマンショック以前に契約を締結し,その後に手付放棄により契約を解除したものであるから,リーマンショックによる金融不況の影響があることも想像できる。また,被告P2らが担当した顧客からすると,契約締結に至るまで密に連絡を取り合っていたはずの担当営業部従業員が原告を退職したことは,その後の物件の管理の問題もあって契約関係を維持していくことを躊躇させて手付放棄による解除を決断させる要因になるとも考えられる(甲115の3によれば,被告P3の退職から信頼関係が破壊されたとして原告との契約を解除した顧客の存在が認められるが,被告P3の退職の経緯が上記2( )エで認定したとおりである以上,これをもって被告P3の責任4とみることはできない。。)そうすると,被告P2らの退職後に手付放棄による契約解除の数が,前年に比べて増加していたとしても,これをもって被告P2らの営業活動の影響であると推認し,同人らの営業活動の違法性を基礎づける事情とみなすことはできない。
( )また上述のとおり,別紙解約状況一覧表記載の顧客のうち,被告P3が83番及び17番の顧客に営業活動をなし,被告P2が12番の顧客に対して営業活動をなしていたことは被告P2らも自認するところであるが,それらの営業活動の結果,これらの顧客が原告との契約を解約するに至ったとしても,以下に検討するとおり,これをもって不法行為を構成するような違法行為がされたということはできない。
ア被告P3の8番の顧客に対する営業活動について(ア)証拠(甲68の1・2,甲73,丙2)及び弁論の全趣旨によれば,原告からP23の209号室を購入する契約を締結して手付を交付していた8番の顧客が,被告P3から本件マンション購入勧誘の営業を受け,平成20年4月22日,被告P5から本件マンションの606号室について売買契約を締結するとともに,同年7月10日にP23の209号室の売買契約を手付70万円を放棄して解除した事実が認められる。
(イ)しかし前掲証拠によれば,原告が8番の顧客に電話をかけることができたのは,原告在職時から営業担当として,個人的な交際があったからと認められ,営業秘密を不正に取得したという類の違法性は認められない。また,8番の顧客は,被告P5の物件を購入した後,手付を放棄することにより,原告との売買契約を解除しているが,そもそもその間には3か月近くの期間が経過しているから,その間に8番の顧客自身の資金計画に変更を生じさせる出来事が起きた可能性を否定できず,したがって被告P5から物件を購入することと原告との売買契約の解除との間に直ちに因果関係は認められない。また,仮に因果関係が認められるとしても,2つの物件の売買契約のうち,いずれを購入するかを判断するのは飽くまで買主である8番の顧客自身であって,いずれか一方を選択する判断が不合理であると認めるに足りる証拠ない以上,手付放棄による契約解除権は8番の顧客の権利であることも考えると,8番の顧客が,被告P3の勧誘した被告P5の物件を購入した結果,既に契約締結済みの原告との売買契約を解除することになったとしても,それをもって被告P3が違法な営業活動をしたということはできない。なお,被告P3の8番の顧客に対する営業活動において不当な言辞をろうした営業活動がされた事実を認めるに足りる証拠もない。
(ウ)したがって,被告P3の8番の顧客に対する営業活動が不法行為を構成するものとは認められない。
イ被告P2の12番の顧客に対する営業活動について(ア)証拠(甲61,甲72,丙1)及び弁論の全趣旨によれば,原告からP23を購入する契約を締結して手付を交付していた12番の顧客が,被告P2から本件マンション購入勧誘の営業を受け,平成20年4月22日,被告P5から本件マンションの506号室について売買契約を締結するとともに,同年8月24日ころ,原告と売買契約を締結していたP23の908号室の売買契約を手付130万円を放棄して解除したとの事実が認められる。
(イ)しかし前掲証拠によれば,原告が12番の顧客に電話をかけることができたのは,原告在職時から担当営業部従業員として,個人的な交際があったからと認められ,営業秘密を不正に取得したという類の違法性は認められない。また,12番の顧客は,被告P5の物件を購入した後,手付を放棄することにより,原告との売買契約を解除しているが,そもそもその間には5か月以上の期間が経過しているから,その間に12番の顧客自身の資金計画に変更を生じさせる出来事が起きた可能性を否定できず,したがって被告P5から物件を購入することと原告との売買契約の解除との間に因果関係を認めることは,上記アの8番の顧客についてよりも困難である。また,仮に因果関係が認められるとしても,2つの物件の売買契約のうち,いずれを購入するかを判断するのは飽くまで買主である12番の顧客自身であって,もともと,手付放棄による契約解除権は12番の顧客の権利であることも考えると,12番の顧客が,被告P2の勧誘した被告P5の物件を購入することにより,既に契約締結済みの原告との売買契約を解除することになったとしても,それをもって被告P2が違法な営業活動をしたということはできない。なお,被告P2の12番の顧客に対する営業活動において不当な言辞をろうした営業活動がされた事実を認めるに足りる証拠もない。
(ウ)したがって,被告P2の12番の顧客に対する営業活動が不法行為を構成するものとは認められない。
ウ被告P3の17番の顧客に対する営業活動について(ア)証拠(甲96,111の5,124,丙15)及び弁論の全趣旨によれば,被告P3は,平成20年10月ころ,17番の顧客に電話をかけて中古物件であるP21の購入を勧誘し,その結果,平成20年11月4日,17番の顧客が既に原告と契約を締結していた原告の販売物件であるP23の407号室の売買契約を契約手付130万円を放棄することにより解除し,そのかわり同手付相当額の値引きを受けることにより,同月6日,被告P3の仲介によって,P21の605号室を購入した事実が認められる。
(イ)まず上記営業活動のうち,被告P3が,17番の顧客に対して電話連絡ができた点については,被告P3が17番の顧客の連絡先を原告から不正な方法で取得したからではなく,被告P3が原告において稼働時に,17番の顧客を顧客として担当して個人的な交際もあったため,その電話番号を携帯電話に登録したままになっていたからであると認められ,またもともと上記情報は不正競争防止法上の営業秘密ではないから,その点について違法性は認められない。
(ウ)また手付放棄による契約解除は,買主の権利でもあるし,他方,物件の販売を勧誘する事業者が,顧客に物件を販売するために値引きを提示する行為が違法であるといえない以上,17番の顧客の手付放棄による契約解除権行使を値引き提示が促進した面があったとしても,そのことをもって直ちに違法であるとはいえない。
(エ)なお原告は,被告P2が17番の顧客にP21の605号室の購入を勧めた際に,原告の信用をおとしめるような発言をした旨主張するところ,17番の顧客作成の陳述書(甲96)には,被告P2が,原告においては,賃貸事業に関して持ち出しが出ているし,大変なことになっているなど,その経営状態に問題がある旨の発言をしていたとの内容の記載がある。しかし,17番の顧客は,その陳述にかかる被告P2の発言内容によって手付を放棄して原告との契約を解除する判断をしたとしながら,その発言内容を原告に全く確認しようとした様子は認められず,その点で不自然であるし,また陳述書によれば,17番の顧客は被告P2を厚く信頼していたと思われるが,平成21年9月以降,被告P3の営業で過去に購入したマンション物件について賃料支払が滞ってトラブルになり,被告P3との関係が悪化し,同人に対して不満や嫌悪の感情を抱いている様子がうかがえるから,上記陳述書における被告P2が原告の経営状態に問題があると発言したとの記載内容は,その表現ぶりが誇張されている疑いはぬぐえない。そうすると,陳述書による立証しかない本件においては,同陳述書の記載内容をそのまま採用することは困難であるといわなければならない。
(オ)そうすると,被告P2の17番の顧客に対する営業活動は,結果として17番の顧客による原告との契約解除という結果をもたらしているが,主張にかかるような発言がされたとは認められず,その他にその営業方法自体に具体的に違法性を指摘すべき事由が認められないから,被告P2の17番の顧客に対する上記営業行為が不法行為を構成するとは認められない。
(4)また原告は,被告P2らが原告を一斉に退職した経緯も被告P2らの行為の違法性を基礎付ける事実であるように主張しているが,そもそも被告P2らが原告を同時期に退職するに至った経緯は,上記2(4)エで認定判断したとおりであり,結局,原告における労働環境は,従業員である被告P2らをして退職届を提出して円満に退職することすら困難を感じなければならないようなものであったといえるのであるから,その原告が,P11の暴行に端を発して始まった被告P2らの一斉退職をもって不法行為を構成する事情の一つであると主張することは失当であるといわなければならない。
(5)したがって,被告P2らの営業活動が不法行為に該当することを理由とする原告の請求はその余の判断に及ぶまでもなくいずれも理由がない。
第5結語以上によれば,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がないからすべて棄却することとして,主文のとおり判決する。
追加
別紙顧客目録1被告P2が原告において担当していた顧客氏名住所(1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)(8)(9)(10)(11)(12)(13)(14)(15)(16)(17)(18)(19)(20)(21)(22)(23)(24)(25)(26)(27)(28)(29)(30)(31)(32)(33)(34)(35)(36)(37)(38)(39)(40)(41)(42)(43)(44)(45)(46)(47)(48)(49)(50)(51)(52)(53)(54)(55)(56)(57)(58)(59)(60)(61)(62)(63)(64)(65)(66)(67)2被告P3が原告において担当していた顧客氏名住所(1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)(8)(9)(10)(11)(12)(13)(14)(15)(16)(17)(18)(19)(20)(21)(22)(23)(24)(25)(26)(27)(28)(29)(30)(31)(32)(33)(34)(35)(36)(37)(38)(39)(40)(41)(42)(43)(44)(45)(46)(47)(48)(49)(50)(51)(52)(53)(54)(55)(56)(57)(58)3被告P4が原告において担当していた顧客氏名住所(1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)(8)(9)(10)(11)(12)(13)(14)(15)(16)(17)(18)(19)(20)(21)(22)(23)(24)(25)(26)(27)(28)(29)(30)(31)(32)(33)(34)(35)(36)(37)(38)(39)(40)(41)(42)(43)(44)(45)(46)(47)(48)(49)(50)(51)(52)(53)(54)(55)(56)(57)(58)(59)(60)(61)(62)(63)(64)(65)(66)(67)(68)(69)(70)(71)(72)(73)(74)(75)(76)(77)(78)(79)(80)(81)(82)(83)(84)(85)(86)(87)(88)(89)(90)(91)(92)(93)(94)(95)(96)(97)(98)(99)(100)(101)(102)(103)(104)(105)(106)(107)(108)(109)(110)(111)(112)別紙営業秘密目録1(1)原告顧客情報ただし,被告P2が原告において担当していた別紙顧客目録1記載の原告顧客に関する下記情報(2)原告顧客情報ただし,被告P3が原告において担当していた別紙顧客目録2記載の原告顧客に関する下記情報(3)原告顧客情報ただし被告P4が原告において担当していた別紙顧客目録3記載の原告顧,客に関する下記情報記?氏名?電話番号別紙営業秘密目録2(1)原告顧客情報ただし,被告P2が原告において担当していた別紙顧客目録1記載の原告顧客に関する下記情報(2)原告顧客情報ただし,被告P3が原告において担当していた別紙顧客目録2記載の原告顧客に関する下記情報(3)原告顧客情報ただし被告P4が原告において担当していた別紙顧客目録3記載の原告顧,客に関する下記情報記?氏名?生年月日?現住所?電話番号?勤務先?勤務先住所?勤続年数?役職?年収?家族構成?住居形態?購入した物件の面積,契約年月日,売買代金?購入した物件の家賃,管理費等?特記事項
裁判長裁判官 森崎英二
裁判官 北岡裕章
裁判官 山下隼人
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