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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成19ワ11136不正競争行為差止等請求事件 判例 不正競争防止法
平成21ワ16809損害賠償請求事件 平成21ワ33956損害賠償請求事件 判例 不正競争防止法
平成28ワ25472 不正競争行為差止請求事件 判例 不正競争防止法
平成20ワ25956不正競争行為差止等請求事件 判例 不正競争防止法
関連ワード 周知表示混同惹起行為(2条1項1号) /  周知性 /  広く認識 /  需要者 /  顧客層 /  商品等表示 /  出所表示性(出所表示) /  他人の商品 /  類似性(類似) /  外観 /  印象 /  離隔的 /  混同のおそれ(混同) /  商品の混同 /  出所の混同 /  自他商品識別力 /  誤認混同 /  商品の形態(商品形態) /  模倣 /  差止請求(差止) /  営業上の利益 /  過失 /  利益額(利益の額) /  侵害 /  特別顕著性 /  代理人 /  代表者 /  商品表示性 /  識別力 /  混同のおそれ(混同) /  商品形態模倣行為(2条1項3号) /  品質等誤認表示(誤認) /  損害賠償 /  推定 /  販売数量 /  具体的態様 / 
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事件 平成 21年 (ワ) 31686号 不正競争行為差止等請求事件
金沢市〈以下略〉
原告夢らく商事株式会社
同訴訟代理人弁護士 中町昭人
同 岩瀬吉和
同 今井裕貴
同 補佐人弁理士木森有平
同 浅香小 百合
同 浅野典子金沢市〈以下略〉
被告 株式会社箔一
同訴訟代理人弁護士 田倉整
同 田倉保
同 補佐人弁理士大滝均
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2011/02/25
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求1被告は,別紙被告商品目録記載1及び2の商品を製造し,販売し,引き渡し,輸出し,販売若しくは引渡しのために展示してはならない。
2被告は,前項記載の商品を廃棄せよ。
3被告は,原告に対し,2000万円及びこれに対する平成21年4月9日か2ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要1本件は,原告が,被告に対し,?原告が商品名を「KINPAK」として販売する金箔を素材とした美顔パック(以下「原告商品」という。)の形態は需要者の間に広く認識されている商品等表示に該当し,被告が別紙被告商品目録記載1及び2の美顔パック(以下,併せて「被告商品」という。)を販売する行為は不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項1号の不正競争に該当すると主張して,(a)同法3条に基づき,被告商品の製造等の差止め及び廃棄,並びに(b)同法4条,5条2項に基づき,損害賠償金2000万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成21年4月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払,又は?上記?(b)の請求と選択的に,被告が製造販売する被告商品の形態は原告の販売する原告商品の形態模倣したものであり,被告が被告商品を販売する行為は不競法2条1項3号の不正競争に該当すると主張して,同法4条,5条2項に基づき,上記?(b)と同額の損害賠償金及び遅延損害金の支払を求める事案である。
2前提となる事実(証拠等を掲記した事実を除き,当事者間に争いがない。)(1) 当事者ア原告は,服飾雑貨,日用品雑貨,美術工芸品及び衣料品の販売並びにインターネットを利用した通信販売業務等を目的とする株式会社である。(弁論の全趣旨)イ被告は,箔加工品,美術工芸品,化粧用脂取加工紙の製造及び販売等を目的とする株式会社である。
(2) 原告商品の販売及びその形態 原告は,平成18年12月末ないし平成19年1月頃から,原告商品を販売している。原告商品の形態は,別紙商品形態目録記載1のとおりである。
(甲123の1〜14,検証の結果〔検甲1〕,弁論の全趣旨)3(3) 被告商品の製造販売及びその形態 被告は,遅くとも平成19年12月頃から,別紙被告商品目録記載2の商品(以下「被告商品2」という。)を製造販売している。
被告商品の形態は,いずれも別紙商品形態目録記載2のとおりである(別紙被告商品目録記載1の商品(以下「被告商品1」という。)と被告商品2の形態は同一である。)。
(甲124の1〜14,検証の結果〔検甲2〕,弁論の全趣旨)3争点(1) 被告は被告商品1を製造販売したか(争点1)(2) 不競法2条1項1号の不正競争の成否(争点2)ア原告商品の形態は周知の商品等表示といえるか(争点2-?)イ被告商品の形態と原告商品の形態との類否,誤認混同のおそれの有無(争点2-?)(3) 不競法2条1項3号の不正競争の成否(争点3)ア原告は不競法2条1項3号に基づく請求の請求主体性を有するか(争点3-?)イ原告商品の形態は不競法2条1項3号で保護される形態といえるか(争点3-?)ウ被告商品の形態は原告商品の形態模倣したものといえるか(争点3-?)(4) 損害及びその額(争点4)4争点に関する当事者の主張(1) 争点1(被告は被告商品1を製造販売したか)について〔原告の主張〕 被告は,遅くとも平成19年11月頃から,被告商品1を製造販売している。
4〔被告の主張〕 原告の主張は否認する。
(2) 争点2-?(原告商品の形態は周知の商品等表示といえるか)について〔原告の主張〕ア原告商品の形態商品等表示性(ア) 原告商品の形態は,別紙商品形態目録記載1のとおり,?ほぼ人の顔の大きさの丸みを帯びた四角形状の薄い金箔を,?目と口の部分を横長楕円型にくり抜き鼻の輪郭に沿って切れ込みを入れ,?台紙の上に接着させ,?金箔の上に薄紙を載せたという特徴的な外観を有するものである。
24金の金箔パックは,血流促進や肌の活性化の効果があるとして美容に用いられているが,従来は数?から十数?角のものしかなかった。
極めて純度の高い金(24金)を材料に用いた原告商品は,その大きさ,仮面のような形状,豪華な色彩,光沢及び質感により,需要者に対して他の商品にない高級感,ぜい沢感といった格別の印象を与えるものであって,かかる原告商品の形態は,同種商品と比べて極めて特徴的なものである。
(イ) 原告商品の実質的機能は,金という特殊な金属素材が持つといわれる整肌効果・美肌効果であって,この機能を確保するための商品形態としては,原告商品とはサイズや形状の異なるエステ箔を含め,多種多様な選択肢が存在し得る。したがって,原告商品の形態は,商品の実質的機能を達成するための構成に由来する形態や,同種の商品に共通してその特有の機能及び効用を発揮するために不可避的に採用せざるを得ない形態には該当しない。
(ウ) 原告商品の形態は,原告の独創的な着想から生まれた同種商品の中でも明らかに新規でユニークなものであり,平成18年12月末の販売開5始以来3年以上の長期間にわたり,原告はこの商品形態を日本国内において継続的かつ独占的に使用してきた。その間,原告の社名と並んで原告商品と原告商品の形態が無数の新聞,雑誌,テレビ,インターネット,展示会,パンフレット及びその他各種マスメディアに繰り返し露出した結果,原告商品の形態が原告(又はその会社名までは明確に認識していなくとも特定ないし同一の営業主体)が販売する商品の形態であるという自他識別機能が十分に形成され定着している。
(エ) 以上より,原告商品の形態が不競法2条1項1号商品等表示に該当することは明らかである。
イ原告商品の形態周知性(ア) 原告商品は,金箔作りという金沢の伝統技術を生かしたこと,従来にないサイズ,形態の金箔パックとしてのインパクトの強さ,原告の女性代表者の発案によるものであること等から発売前より話題を呼び,世界初の顔全体を覆うマスク型金箔パックとして,各種女性誌,情報雑誌,新聞,テレビといった数多くの媒体に取り上げられており,インターネットにおける話題性も大きい。
(イ) 原告は,原告商品について,海外を含む各種展示会やフェアへの出展,テレビを含む各種媒体の数多くの取材対応等,原告商品の積極的な販売宣伝活動を行っている。
(ウ) 原告商品は,原告により又は他の業者を介して,店舗販売,通信販売及びインターネットサイトでの販売といった流通方法により,日本全国のエステサロンやホテル,一般消費者に販売されており,平成18年12月末の販売開始から平成22年2月5日までの累積の売上総額は5192万8529円,累積売上枚数は1万5587枚である(販売開始から平成21年5月までの売上総額は3505万2409円,累積売上枚数は1万0421枚であり,販売開始から平成22年3月20日までの6国内売上総額は4721万1626円である。)。
(エ) 以上から,遅くとも平成19年5月頃には,原告商品の形態は,日本全国において広くその需要者である金箔エステサロンや最終消費者である美容・健康志向の強い成人女性の認識を得,周知性を獲得している。
〔被告の主張〕ア原告商品の形態商品等表示性(ア) 原告が原告商品の形態の?として主張する「接着」は,需要者にとって外部構造としても内部構造としても知覚によって認識することができない製造方法であるから,そもそも商品の形態ではない。
(イ) 原告商品は,従来の顔パックと共通する基本的構成態様を持ち,かつ,複数存在してきた具体的態様の選択肢を適宜選択したものにすぎず,何ら特徴的なものではなく,原告商品の形態は,顔パックの一種としてありふれたものである。大型でも小型でも,通常金箔は四角形に近い形状で製造されており,かつ,金箔を台紙に一時的に移して金箔の上に薄紙を載せることは,金箔を素材とする化粧品としては当然のことである。
また,原告が主張する原告商品の商品形態は,顔パックという商品の実質的機能を達成するための構成に由来する形態であって,同種商品に共通してその特有の機能及び効用を発揮するために不可避的に採用せざるを得ない形態にすぎないから,他の同種商品と比べて何ら特徴的なものではない。
(ウ) 原告商品の商品形態は他の同種商品にない特徴的なものではないから,仮にその広告,宣伝,展示,販売等が継続して行われてきたとしても,原告商品の形態が独立して自他商品識別力を獲得することはなく,商品表示性を欠き,周知性を獲得する余地もない。
すなわち,商品形態が不競法2条1項1号の「商品等表示」性を有するためには,その前提として商品の形態が他の商品と識別し得る独特の7特徴を有することが必要であるが,原告商品の形態は何ら独特の特徴を有していない。そして,その商品形態が他の同種商品と比べありふれたものである場合には,永年使用され又は強力に広告宣伝等がされたとしても,商品等表示として周知性を獲得することはできないから,そもそも特別顕著性のない原告商品の形態については,商品等表示として周知性を獲得することはない。
イ原告商品の形態周知性(ア) 原告は,原告商品の周知性獲得時期を遅くとも平成19年5月頃と主張するが,平成19年5月までの販売数量も年別,月別の販売数量も開示していない。原告は,平成18年12月末の販売開始から平成21年5月までの約29か月で1万0421枚を販売したと主張するから,これを約5か月分(平成18年12月から平成19年4月)に換算すると1796枚であり,1か月359枚にすぎないことになる。このような販売量では周知性を獲得したものということはできない。
また,原告が主張する売上総額は,その販売先や根拠となる資料(販売伝票や納品書等具体的な販売を示す証拠)が一切開示されておらず,単に合計額だけを提示したものであって信憑性はない。
(イ) 原告は,原告商品の商品形態をもって商品等表示であると主張しているのであるから,原告商品の形態が示されていない又は正確に認識することができない証拠は,周知性の証拠になり得ない。また,原告商品を展示会に出展したとしても,現実にどれだけの商談が成立したのかが重要であり,単に出展したというだけでは周知性の証拠になり得ない。しかも,金箔顔パックは化粧品であるから,一般消費者を需要者層と,エステ店など化粧に関連する店舗を仕入層とみることができ,化粧品の需要者との関連性のない展示会に展示しても周知性の証拠にはなり得ない。
(3) 争点2-?(被告商品の形態と原告商品の形態との類否,誤認混同のおそ8れの有無)について〔原告の主張〕ア被告商品の形状は,?ほぼ人の顔の大きさの丸みを帯びた四角形状の薄い金箔を,?目と口の部分を横長楕円型にくり抜き鼻の輪郭に沿って切れ込みを入れ,?台紙の上に接着させ,?金箔の上に薄紙を載せたものであり,その形状に結合した,金色で光をよく反射する24金独特の煌びやかな光沢を持ち,薄く延ばした金箔独特の繊細な質感を有しており,原告商品の形態の特徴を全て兼ね備えている。子細に比較すると,被告商品の大きさは原告商品より一回り小さいが(原告商品が約20?四方であるのに対し,被告商品は約18?四方),この違いは僅かな相違,改変である。
以上から,形状に僅かな差異があったとしても,需要者離隔的かつ全体的に観察したときに,被告商品の形態が原告商品の形態類似することは明らかである。
イ原告商品と被告商品の商品形態は酷似することから,被告が被告商品を販売すると,対象となる顧客層やエステサロン等の取引者,流通経路が共通するという取引の実情から,需要者出所の混同を生じさせるおそれがあることは明らかである。
〔被告の主張〕ア各種の顔パック製品は,顔パックとしての基本的構成態様を維持しながら,各種の具体的形態によって商品の差別化を図っているものであるが,原告商品は顔パックの一種であるから,顔パックの基本的構成態様は類否判断における比較の対象とならない。原告商品の形態と被告商品2の形態は,その具体的形態を比較すると,目の部分の開放部分の形状,鼻の部分の切り込み部分の形状,周辺部からの切り込みの有無やその数,商品自体の大きさ,全体の形状等の具体的な形態において異なっており,類似するということはできない。
9イ原告商品の形態自他商品識別力が弱く,また,被告は被告商品2につき原告商品と異なる商品名,異なる外箱の色,模様,異なる価格帯を採用することにより自他商品の混同を防止する措置を採っていることから,原告商品の形態と被告商品2の形態につき,仮に混同の可能性があるとしても,混同のおそれは解消されており,誤認混同のおそれはない。
(4) 争点3-?(原告は不競法2条1項3号に基づく請求の請求主体性を有するか)について 〔原告の主張〕 ア顔全体を覆うことができる大きさの24金の一枚物の大判金箔による顔パックという原告商品の基本コンセプトは,原告の代表取締役の経験と試行錯誤の中から生まれたものであり,原告は,石川県エコ・カルチャー協同組合(以下「エコ協同組合」という。)等の多くのサポーターの支援を得ながら,24金の大判金箔を安定的に適正なコストで生産するための新技術の開発,体制の確立,台紙の選択と接着剤の開発等の多くの課題を粘り強く克服し,多大な資金と労力を投入して原告商品を開発し,上記コンセプトを実現したものであるから,原告が不競法2条1項3号に基づく請求の請求主体性を有することは明らかである。
原告商品のパッケージやパンフレットには,総販売元として原告が表示され,現に原告商品の販売は原告が行っており,原告にその売上げと利益が直接帰属している。また,原告商品がマスメディア等で紹介される際も,常に原告の名前が表示されており,原告が原告商品を開発した旨が明示されているものもある。このように,原告商品が原告の名で販売され,マスメディアにおいても原告商品が原告の商品として紹介されているのは,正に原告が原告商品を開発し,製造販売している主体であるからこそである。
イ被告は,原告商品に係る補助金交付申請書(甲88)にエコ協同組合の名前が記載されていることをもって原告は原告商品の開発主体ではないと10主張するが,エコ協同組合は,組合員へのサポートの一環として補助金申請が認められやすいように名前を貸しているにすぎないため,およそ商品自体の開発主体とはいえないし,その当然の結果として,原告商品が原告の商品であるとするマスメディアの報道に関して,エコ協同組合から自らが開発主体であるとの異議等が述べられたことは一切ない。
〔被告の主張〕ア大型金箔を使った顔パック製品は,原告商品の販売開始前である平成18年半ばには販売されており,また,原告は金沢の金箔職人の技術に拠らなければ原告商品を製品とすることができなかったことを認めているのであるから,原告が原告商品を自ら開発したということはできず,原告は単に原告商品の販売を担当しているにすぎないものというべきである。
また,エコ協同組合が作成した要望書(乙5)には,原告商品につき「当組合の企画開発商品」と記載されており,同協同組合が企画開発した旨記載されているが,原告と共同開発したとは記載されていない。この書面の発送人の代表者であるAは原告の会長であり,原告商品の企画開発の事情に詳しいはずであるが,エコ協同組合の理事長として,「当組合の企画開発商品」と記載していることから,原告が原告商品の開発主体ではないことを認識していたものといえる。
以上から,原告は原告商品の開発行為を行ったということはできず,不競法2条1項3号に基づく請求の請求主体性を認めることはできない。仮に,原告が主張するように資金と労力の投下があったとしても,それは原告商品の形態を開発,商品化することに関してではなく,金沢の金箔業者によって開発,商品化された原告商品を,自らが日本国内で販売するに当たっての販路の開拓,拡大に関してのものというべきであるから,原告は不競法2条1項3号の請求主体にはなり得ない。
イ原告の主張が,従来から存在している各種の素材で作られた顔パックに11おいて,金箔を素材として選択するというアイデアを提供したという事実のみをもって「開発」に該当するというものであれば,それだけでは不競法2条1項3号による請求をすることはできない。同号は,相当の労力や経費をかけて作られたこれまでにない商品の形態を保護するものであって,単なるアイデアのみを保護するものではないからである。
(5) 争点3-?(原告商品の形態は不競法2条1項3号で保護される形態といえるか)について 〔原告の主張〕 ア原告商品は,?ほぼ人の顔の大きさの丸みを帯びた四角形状の薄い金箔を,?目と口の部分を横長楕円型にくり抜き鼻の輪郭に沿って切れ込みを入れ,?台紙の上に接着させ,?金箔の上に薄紙を載せたという特徴的な外観を有するものであって,需要者に強い印象を与える特徴的な形状,色彩,光沢及び質感を有しており,このような原告商品の形態が不競法2条1項3号の「商品の形態」に当たる。
イ被告は,従来の顔パック製品の形態と比較して,原告商品の形態には特段の形態的特徴が認められないと主張するが,そもそも原告商品は従来の顔パック製品の一種ではなく,被告の主張は前提を誤ったものである。
すなわち,従来の顔パック製品は,いずれも「シートマスク」と呼ばれるタイプのものであり,目的によって異なる種類の専用の特殊な美容液を,繊維やその他の液体吸収性の高い素材でできた「シート」にあらかじめ吸収させてパッケージ化した製品である。これに対し,原告商品は,金箔を台紙から顔に移すために顔に何らかの液体を付けるものの,当然ながら金箔自体が液体の吸収性を有するものではないため,顔に移った後の金箔が美容液等を保持することはほとんどなく,顔面の肌に作用する機能は基本的に金箔のみが担っている。したがって,原告商品はその機能面からみると,金箔のみから成り立っており,目的に応じた専用の美容液も液体吸収12性の高いシートも商品に含んでいないことから,シートマスクや従来の顔パック製品とは商品の構成や目的,機能を全く異にする別の製品とみるべきである。
ウ原告商品は,金の性質を利用した整肌効果,美肌効果等という共通の機能を持つ各種の金箔美容商品(化粧水,美容液,保湿クリーム,マッサージ・パック,石けん,メイク落とし等)に属する商品であり,中でもいわゆる「エステ箔」のうちの大判タイプと位置付けることができるものであるが,金箔美容エステサロンにおいては,原告商品と並んで,通常サイズのエステ箔や花びらないし削りくず状の金箔を使用した金箔エステサービスが行われていることからすると,金箔美容商品には様々な形態があり,原告商品の形態は,金の性質を利用した整肌効果,美肌効果等という「当該商品の機能を確保するために不可欠な形態」ということはできず,原告商品の形態は不競法2条1項3号により保護される形態である。
〔被告の主張〕ア原告が原告商品の形態の?として主張する「接着」は,需要者にとって外部構造としても内部構造としても知覚によって認識することができない製造方法であるから,そもそも商品の形態ではない。
イ原告商品は,従来の顔パックと共通する基本的構成態様を持ち,かつ,複数存在する具体的態様の選択肢を適宜選択したものにすぎず何ら形態上の特徴はない。その上,素材として金箔を選択する以上,金箔を台紙に一時的に移して金箔の上に薄紙を載せることは,金箔を素材とする化粧品としては当然のことである。しかも,大型の金箔は通常四角形に近い形状をしており,その色彩,光沢及び質感も,素材が金箔であることから,金色で,金箔としての光沢及び質感のものになることは当然であって,何ら特徴的なものではない。原告商品も被告商品2も化粧水や美容液による美顔効果を狙ったものであるから,従来の顔パックと市場において競合するも13のである。
したがって,原告商品の形態は,特段の特徴もなく同種の商品に共通する通常のありふれた形態であって,不競法2条1項3号により保護される商品形態には当たらない。
(6) 争点3-?(被告商品の形態は原告商品の形態模倣したものといえるか)について 〔原告の主張〕 ア被告は,被告商品の開発前に原告商品を入手し,それを調査,分析した上で被告商品を開発したものであるから,被告商品の形態は原告商品の形態に依拠して作り出されたものといえる。被告商品1は,被告が原告商品に依拠してその形態を模倣して開発した商品が株式会社アーライン(以下「アーライン」という。)に譲渡され,「華麗美人」という商品名で販売されたものである。
イ原告商品と被告商品は,いずれも横長の楕円形に目と口に当たる部分をくり抜いた形状をしており,また,いずれも丸みを帯びた台形の形に鼻に当たる部分に切れ込みを入れた形状をしている。そして,被告商品の方が原告商品よりもやや小ぶりだがほぼ同サイズであり,両商品ともに,ほぼ人の顔の形に沿った外周,大きさである。さらに,被告商品は,原告商品と同様,金色で,光をよく反射する24金独特の煌びやかな光沢を持ち,薄く延ばした金箔独特の繊細な質感を有している。つまり,被告商品は,?ほぼ人の顔の大きさの丸みを帯びた四角形状の薄い金箔を,?目と口の部分を横長楕円形にくり抜き鼻の輪郭に沿って切れ込みを入れ,?台紙の上に接着させた形状と,その形状に結合した独特の色彩,光沢,質感という原告商品の形態の特徴を全て兼ね備えている。
他方,被告商品は,目と口の部分の楕円形が原告商品に比べ若干横に細長く,また,鼻の部分の切れ込みが少し大きく,外周が原告商品より一回14り小さく(原告商品が約20?四方であるのに対し,被告商品は約18?四方),外周部分に目に見えない程度の細い切れ込みが入っているという形状上の相違点があるが,いずれも商品の全体的形態に与える変化に乏しく,商品全体から見てささいな相違にとどまるものであり,かかる程度の僅かな相違点や改変は,当業者たる箔業者であれば容易に着想して作り出すことが可能なものである。
以上からすると,被告商品の形態は原告商品の形態と実質的に同一であるといえる。
〔被告の主張〕ア被告商品2の形態は,原告商品が販売される前である平成15年頃から他の顔パックに使われていた金型により作成された形態であるから,原告商品の形態に依拠するものではない。
イ各種の顔パック製品は,顔パックとしての基本的構成態様を維持しながら,各種の具体的形態によって商品の差別化を図っているものであるが,原告商品は顔パックの一種であるから,顔パックの基本的構成態様は実質的同一性の判断に用いることができない。原告商品の形態と被告商品2の形態は,その具体的形態を比較すると,目の部分の開放部分の形状,鼻の部分の切り込み部分の形状,周辺部からの切り込みの有無やその数,商品自体の大きさ,全体の形状等の具体的な形態において異なっており,実質的に同一であるということはできない。
(7) 争点4(損害及びその額)について 〔原告の主張〕 被告は,遅くとも平成19年11月頃から被告商品の販売を開始しており,同年11月から本訴訟提起までの被告商品の売上金額は,少なくとも4000万円を下らない。また,被告の利益率は少なくとも50パーセントを下らないと推定されることから,上記の不正競争により被告が得た利益の額は215000万円を下らない。
被告は,故意又は過失により,上記の不正競争を行い原告の営業上の利益侵害しており,原告が被った損害の額は2000万円を下らないものと推定される。
〔被告の主張〕 原告の主張は否認ないし争う。
第3当裁判所の判断1争点1(被告は被告商品1を製造販売したか)について 原告は,被告は遅くとも平成19年11月頃から被告商品1を製造販売していると主張する。
証拠(甲7〜9,乙15の1〜3)によれば,平成19年11月頃,被告の取引先であるアーラインが「華麗美人」の商品名で被告商品1を販売したことが認められるところ,上記商品は,アーラインが被告からサンプルとして入手した被告商品2を流用して「華麗美人」(被告商品1)として販売したものであることがうかがわれる。しかしがなら,アーラインは,被告の取引先ではあるものの,被告とは別の株式会社であり,被告が,アーラインによる上記販売を当時から認識していたことを認めるに足りる証拠はない。そして,本件全証拠を検討しても,被告が自ら被告商品1を販売したとの事実を認めることはできない。
よって,原告の,被告による被告商品1の販売が不競法2条1項1号又は3号の不正競争であるとする請求は,いずれもその余の点について検討するまでもなく理由がない。
2争点2-?(原告商品の形態は周知の商品等表示といえるか)について(1) 商品の形態は,一次的には商品の特性そのものであるが,二次的には商品の出所を表示する機能をも併有し得るというべきであり,商品の形態が他の同種商品と識別し得る独特の形態である場合には,商品出所表示機能を有し16不競法2条1項1号商品等表示に該当する場合がある。そして,商品等表示に該当する商品形態が長年使用され又は強力に広告宣伝等がされたことにより,商品等表示として周知性を獲得した場合には,当該商品形態は同号による保護を受けることができるが,他方,当該商品形態が他の同種商品と比べてありふれたものである場合には,長年使用され又は強力に宣伝広告等がされたとしても,商品等表示として周知性を獲得することはできない。
そこで,まず原告が被告商品の販売開始時期であると主張する平成19年11月当時において,原告商品の形態商品等表示として周知性を獲得したといえるか否かについて検討する。
(2) 証拠(甲123の1〜14,検証の結果〔検甲1〕)によれば,原告商品は,顔パック(なお,原告は,原告商品は従来の顔パック製品の一種ではないとも主張するが,同主張が採用できないことは後記3(2)のとおりである。)であり,別紙商品形態目録記載1のとおり,?薄く延ばした金箔を素材とした点,?全体形状が約22?四方の丸みを帯びた略四角形状である点,?中心部で顔に載せたときの鼻の位置に当たる部分に鼻の輪郭に沿った切れ込みがある点,?この切れ込みの上部で顔に載せたときの目の位置に当たる部分(左右対称に2か所)が,長径約5?,短径約3.5?の横長楕円形状にくり抜かれている点,?上記切れ込みの下部で顔に載せたときの口の位置に当たる部分が,長径約6?,短径約2.5?の横長楕円形状にくり抜かれている点,?金色の光沢があり,薄く延ばした金箔独特の質感を有する点,以上の各点に形態上の特徴があるものと認められる。
他方,原告商品の販売開始時期である平成18年12月末ないし平成19年1月以前から,我が国において,スキンケア用品として顔パック製品が販売されており,顔パックには顔面全体を1枚の薄い膜状のもので覆うタイプのもの(シートタイプ)があったことが認められる(甲87,弁論の弁趣旨)。
そして,このタイプの顔パックの形状としては,呼吸や視野を確保しつつ水17分を含んだ1枚の膜状のもので顔面全体を覆うことによってパックをするという商品の性質,機能から,a.全体形状を顔の輪郭に合わせた丸みを帯びた略四角形状とし,b.中心部で顔に載せたときの鼻の位置に当たる部分に鼻の輪郭に沿った切れ込みを入れ,c.顔に載せたときの目の位置に当たる部分(左右対称に2か所)を目の形状に合わせて横長楕円形状にくり抜き,d.顔に載せたときの口の位置に当たる部分を口の形状に合わせて横長楕円形状にくり抜いた形状が,一般的な形状であったと認められる(甲87,弁論の全趣旨。各顔パック製品の販売開始時期は不明であるが乙7参照。)。
そうすると,原告商品と同種の商品である,顔面全体を1枚の薄い膜状のもので覆うタイプ(シートタイプ)の顔パックの形状は,全体の大きさ,目や口のくり抜き部分の大きさや形状等に若干の相違は認められるものの,その基本的な形状は,上記で認定した原告商品の形態上の特徴点のうち?〜?の各点を共通にするものであると認められる。したがって,原告商品の形態上の特徴点のうち?〜?は,他の同種商品と識別し得る独特の形態であると認めることはできない。
次に,上記で認定した原告商品の形態上の特徴のうち,?薄く延ばした金箔を素材とした点,及び?金色の光沢があり薄く延ばした金箔独特の質感を有する点について検討する。シートタイプの顔パックの素材としては,美容液を吸収させるため,繊維やその他の液体吸収性の高い「シート」を採用するのが一般的であるが,原告商品の販売開始時(平成18年12月末ないし平成19年1月)より前の平成18年5月から,タイ王国バンコク市所在のSPゴールド&ビューティー・プロダクツが「SP GOLD MASK 24K GOLD」の商品名で金箔を素材とした顔パック商品を販売していたことが認められる(乙1の1〜4)。また,顔パックとして成形されたものではないが,顔のパックに使用する金箔(いわゆる「エステ箔」)が原告商品の開発以前から存在したことは,原告の自認するところである。そして,顔パックの素材として18金箔を採用した場合には,その商品が金色の光沢や,薄く延ばした金箔独特の質感を有することは当然のことであるから,上記?,?の各点も,独特の形態であるとまではいえない。
原告は,極めて純度の高い金(24金)を材料に用いた原告商品は,その大きさ,仮面のような形状,豪華な色彩,光沢及び質感により,需要者に対して他の商品にない高級感,ぜい沢感といった格別の印象を与えると主張するが,仮面のような形状は,すなわち,上記特徴点のうち?〜?に相当する形状であり,これを独特の形態と認めることができないことは上記のとおりである。また,豪華な色彩,光沢及び質感についても,素材として金箔を採用したことによる金箔独特の質感をいうものにすぎず,素材として金箔を採用したということ自体は,パック素材の選択という機能及び効用に関わる事項であるところ,従来からパックに金箔(いわゆる「エステ箔」)が使用されていたことは上記のとおりであるから,これらの点を捉えて独特の形態ということはできない。したがって,原告の上記主張は採用することができない。
また,原告は,四角形状の薄い金箔が台紙の上に接着され,金箔の上に薄紙を載せたという点も原告商品の形態の特徴であると主張する。しかし,素材として金箔を選択する場合に金箔を台紙に置いてその上に薄紙を載せることは,金箔を素材とする以上,その保護のため当然のことであり,台紙や薄紙による包装自体,独特の形態とは認められない。また,金箔が台紙の上に接着された点についても,これが商品の形状に表れる特徴となっているとは認められないから,商品の形態ということはできない。したがって,原告の上記主張も採用することができない。
以上のとおり,原告商品の形態である上記?〜?の各点は,いずれもそれだけで他の同種商品と識別できるだけの形態的特徴であるとは認められず,かつ,これらを組み合わせたとしても,独自の形態的特徴を有するに至るも19のとは認められない。
(3) 原告は,平成18年12月末の販売開始以来3年以上の長期間にわたり,原告商品の商品形態を日本国内において継続的かつ独占的に使用し,その間,原告の社名と並んで原告商品の形態が各種マスメディアに繰り返し露出した結果,原告商品の形態は,日本全国において広くその需要者である金箔エステサロンや最終消費者である美容・健康志向の強い成人女性の認識を得,周知性を獲得したと主張する。
アそこで,まず原告が請求する損害賠償請求期間の始期である平成19年11月時点における,原告商品の商品形態周知性について検討する。
(ア) 新聞・雑誌記事 a平成18年12月14日付け北陸中日新聞には,「お肌生き生き金箔のパック商品企画の「夢らく商事」(金沢市)は,二四Kの金箔(きんぱく)を使ったフェイスパック「金パック」を商品化した。」との記事とともに,原告商品の写真が掲載されているが,写真中の原告商品自体は約5?四方の小さなもので,それほど目立つものではない。(甲3)b平成19年2月28日付け日経流通新聞第20面には,「金パックで肌に箔箔(はく)付きの美しさ?昔から美容目的に利用されてきた「金」に着目し,顔全体を覆う24金パック,その名も「KINPAK(キンパック)」……開発したのは金箔を用いた商品を企画販売する「夢らく商事」」との記事が掲載されているが,同記事に掲載された写真からは原告商品の形態を認識することはできない。(甲20)c株式会社祥伝社発行の「からだにいいこと」平成19年3月号10頁には,「KINPAK(金パック)顔全体を包む特大サイズの24金パックは世界初!……/夢らく商事」との記事とともに,原告商品の写真が掲載されているが,その写真は直径約2?の小さなもので,目20立つものではない。(甲15)d平成19年3月22日付け日本流通産業新聞第6面には,「取扱簡単な金箔パック素人でも簡単に使用でき,顔全体をカバーできる特大サイズの金箔パックが『KINPAK(キンパック)』……販売元=夢らく商事」との記事とともに,原告商品の写真が掲載されているが,その写真は白黒で約4?四方のもので,目立つものではない。(甲6)e平成19年3月23日付けフジサンケイビジネスアイ第15面には,「純金パックで顔のケアを石川県金沢市の伝統工芸として知られる金箔を使った24金の美容パック「KINPAK(きんぱく)」が発売され,話題を呼んでいる。発売元は商品企画の「夢らく商事」(金沢市)。
純度99.99%の金パックは全国のエステサロンやホテルで使われる。」との記事が掲載されているが,同記事には原告商品の形態は掲載されていない。(甲21)f株式会社JTBパブリッシング平成19年4月1日発行の「るるぶ情報版中部6るるぶ金沢 能登 加賀’07〜’08」141頁には,「注目のみやげ純金で肌に潤いとハリを!……肌が潤い,ハリと透明感が蘇ると話題沸騰中!夢らく商事(株)……新発売の純度99.99%のフェイシャルマスク「KINPAK」」との記事が掲載され,原告商品の写真が掲載されているが,その写真は約3?四方の小さなもので,目立つものではない。(甲19)g株式会社マガジンハウス発行の「BOAO」平成19年6月号151頁には,「「夢らく」のKINPAK度肝を抜かれる存在感!世界初のキンパックで肌に“箔”,つけちゃおう。……ツタンカーメンも真っ青な真っ金美女,一丁あがり!」との記事とともに,実物大の原告商品の写真が掲載されている。(甲4)h平成19年8月12日付け北國新聞第2面には,「金箔で顔すっぽ21り開発物語……夢らく商事(金沢市)」の記事とともに,原告商品の写真が掲載されているが,写真中の原告商品自体は約3?四方の小さなもので,目立つものではない。(甲5)(イ) 展示会等原告は,?平成19年2月13日から2月16日まで東京都で開催された「第63回東京インターナショナルギフト・ショー」(甲39の1,2),?同年2月28日から3月1日まで東京都で開催された「2007全国異業種交流・新連携フェア」(甲40),?同年3月13日から3月16日まで東京都で開催された「第35回国際ホテル・レストラン・ショー」(甲41),?同年4月4日から4月10日まで高島屋横浜店で開催された「第26回加賀・能登・金沢の名品展」(甲42),?同年5月17日から5月19日まで金沢市で開催された「第20回石川県中小企業技術展」(甲44の1,2),?同年9月19日に金沢市で開催された「しんきんビジネスフェア北陸ビジネス街道2007」(甲47の1,2),?同年10月11日に富山市で開催された「第3回FITネット商談会」(甲49),?同年10月19日に京都市で開催された「2007全国異業種交流・新連携フォーラム in 京都」(甲50),及び?同年10月31日から11月2日に東京都で開催された「中小企業総合展2007in Tokyo」(甲51)に出展したことが認められるが,これらの展示会等において,原告商品がどのように広告宣伝され,どのような評判を得たのかは,明らかではない。
(ウ) テレビ平成19年4月28日放送のテレビ金沢の情報番組「Smile!」において,「ビューティーを母の日に贈ろう!」というテーマで原告商品が紹介されたことが認められる。(甲43の1,2)イ以上に認定したところによれば,平成19年11月時点において,原告22商品は雑誌等に取り上げられたことがあるものの,その多くは,原告商品の写真が掲載されても,目立つようなものではなく,また,テレビ放送にしても,地方局において1回取り上げられたにすぎない。展示会等への出展については,そこにおいて原告商品が具体的にどのように展示され,どのような評判を得たのかは明らかではない。そして,原告商品に対するマスメディア等の扱いについての上記のような状況は,平成19年11月以後においても,各段の変化があったとは認められない。
(4) 以上に検討したところによれば,原告商品の商品形態は,他の同種商品と識別できるだけの形態的特徴を有するものとは認められず,かつ,その商品形態が強力に宣伝広告等され,あるいはマスメディア等に繰り返し露出したとまでは認められない上,平成19年12月頃からは同様の商品形態を有する被告商品2の販売も開始されたのであるから,損害賠償請求期間の始期である平成19年11月から差止請求についての基準時である本件口頭弁論終結時までの間において,原告商品の商品形態が,原告の業務に係る商品であることを示す商品等表示として需要者の間に広く認識されるに至ったものとは認め難い。
よって,原告の不競法2条1項1号の不正競争に基づく請求は,その余の点につき検討するまでもなく理由がない。
3争点3-?(原告商品の形態は不競法2条1項3号で保護される形態といえるか)について(1) 不競法2条1項3号は,他人の商品の形態を模倣した商品の譲渡行為等を不正競争とする一方,その括弧書きにおいて,当該商品の機能を確保するために不可欠な形態については同号による保護から除外される旨を規定する。
これは,商品としての機能及び効用を果たすために不可避的に採用しなければならない商品形態を特定の者に独占させることは,商品の形態ではなく,同一の機能及び効用を有するその種の商品そのものの独占を招来することと23なり,事業者間の自由な競争を阻害することになりかねないため,同種の商品の基本的な機能や効用を果たすために不可欠な形態については,同号の「商品の形態」から除外したものと解するのが相当である。
(2) 原告は,原告商品は,?ほぼ人の顔の大きさの丸みを帯びた四角形状の薄い金箔を,?目と口の部分を横長楕円型にくり抜き鼻の輪郭に沿って切れ込みを入れ,?台紙の上に接着させ,?金箔の上に薄紙を載せたという特徴的な外観を有するものであって,需要者に強い印象を与える特徴的な形状,色彩,光沢及び質感を有しており,このような原告商品の形態が不競法2条1項3号の「商品の形態」に当たると主張する。
原告商品は,スキンケア用品としての顔パック(フェイスパック)のうち,顔面全体を1枚の薄い膜状のもので覆うタイプのもの(シートタイプ)と認められるが(甲87,弁論の全趣旨),このタイプの顔パックは,呼吸や視野を確保しつつ1枚の膜状のもので顔面全体を覆うことによってパックをするという商品の性質,機能から,a.全体形状を顔の輪郭に合わせた丸みを帯びた略四角形状とし,b.中心部で顔に載せたときの鼻の位置に当たる部分に鼻の輪郭に沿って切れ込みを入れ,c.顔に載せたときの目の位置に当たる部分(左右対称に2か所)を目の形状に合わせて横長楕円形状にくり抜き,d.顔に載せたときの口の位置に当たる部分を口の形状に合わせて横長楕円形状にくり抜いた形状を不可避的に採用することになる(甲87,乙1の1,7,8の1〜6,24の1〜4,弁論の全趣旨)。
そうすると,原告が主張する原告商品の形態のうちの?の「ほぼ人の顔の大きさの丸みを帯びた四角形状」及び?の「目と口の部分を横長楕円型にくり抜き鼻の輪郭に沿って切れ込みを入れ」は,同種の商品の基本的な機能や効果を果たすために不可欠な形態であるから,不競法2条1項3号で保護される「商品の形態」には当たらない。また,?及び?の「金箔」は,パックの素材として「金箔」を選択したという機能及び効用に関わる事項であると24ころ,従来からパックに金箔(いわゆる「エステ箔」)が使用されていたことは上記2(2)のとおりであり,このような一般的な素材の選択自体を不競法2条1項3号の「商品の形態」ということはできない。?の「台紙」及び?の「薄紙」は,素材として金箔を採用したことから,商品を保護するため,すなわち,商品としての機能及び効用を果たすために不可避的に採用しなければならないと認められるから,不競法2条1項3号による保護から除外されるというべきである。そして,?の「接着」は,これが商品の形状に表れる特徴となっているとは認められないから,不競法2条1項3号の「商品の形態」ということはできない。
原告は,原告商品が特徴的な色彩,光沢及び質感を有していることも「商品の形態」であると主張するが,これは素材として金箔を採用したことによる金箔独特の色彩,光沢及び質感をいうものにすぎず,素材として金箔を採用すること自体はパック素材の選択という商品の機能及び効用に関わる事項であり,素材として金箔を採用すれば不可避的に金箔独特の色彩,光沢及び質感を有することになるから,これらの点も不競法2条1項3号による保護から除外されるというべきである。
また,原告は,原告商品は従来の顔パック製品の一種ではなく,金の性質を利用した整肌効果等の機能を持つ各種金箔美容商品に属する商品であり,金箔美容商品には様々な形態があるため,原告商品の形態は当該商品の機能を確保するために不可欠な形態とはいえないと主張するが,原告商品が金箔を素材とする美顔パックであり,スキンケア用品としての顔パック(フェイスパック)の一種であることは,上記2(3)ア(ア)の新聞・雑誌記事における紹介や,原告自身がこのことを前提に原告商品のプレゼンテーションをしている(甲87)ことなどから明らかであり,原告の上記主張を採用することはできない。
(3) 以上によれば,原告が主張する原告商品の形態は,不競法2条1項3号で25保護される「商品の形態」に当たると認めることはできない。
よって,原告の不競法2条1項3号の不正競争に基づく請求は,その余の点について検討するまでもなく理由がない。
4結論以上のとおり,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 岡本岳
裁判官 坂本康博
裁判官 寺田利彦