審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成15ワ7411不正競争行為差止等請求事件 | 判例 | 不正競争防止法 |
平成18ワ14569不正競争行為差止請求事件 平成18ワ20189損害賠償請求事件 | 判例 | 不正競争防止法 |
平成17ワ27477損害賠償請求事件 平成18ワ7539損害賠償請求事件 | 判例 | 不正競争防止法 |
関連ワード | 類似性(類似) / 外観 / 模倣 / 差止請求(差止) / 営業上の利益 / 侵害 / 競業関係 / 代理人 / 秘密管理(秘密管理性) / 秘密であると認識 / 秘密として管理 / 有用性 / 営業上の情報 / 非公知性 / 営業秘密 / 2条1項4号 / 2条1項7号 / 保有者 / 不正取得行為 / 品質等誤認表示(誤認) / 不正の利益を得る目的(図利目的) / 損害賠償 / |
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事件 |
平成
15年
(ワ)
16407号
不正競争行為差止等請求事件
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原告A 原告訴訟代理人弁護士 笹原桂輔 同 笹原信輔 同 富田寛之 同 栢割秀和 同 十亀正嗣 被告B 被告C 被告ら訴訟代理人弁護士 相原佳子 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2004/09/30 |
権利種別 | 不正競争 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求の趣旨
1 被告らは,別紙顧客名簿目録記載の者らに対し,面会を求め,電話をし,または郵便物を送付するなどして,被告らとの間でペットトリミング等の美容を行う旨の契約及び同契約に付随する営業行為を行ってはならない。 2 被告らは,別紙顧客名簿目録記載の者らから,来店を受け,または電話を受けるなどして,被告らとの間で,ペットトリミング等の美容を行う旨の契約及び同契約に付随する営業行為を行ってはならない。 3 被告らは,その所持する別紙顧客名簿目録記載の顧客の氏名,住所,電話番号,ペットの種類及び愛称が記載された「顧客名簿」並びに別紙「ペットサロンムーお客様カード」と題する用紙に顧客氏名,紹介者,住所,電話,ペット愛称,種類,性別,誕生日及び備考情報が記載された「情報カード」を廃棄せよ。 4 被告らは,原告に対し,連帯して3600万円を支払え。 |
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事案の概要
本件は,ペットサロン「ムー」を経営している原告が,原告の元従業員である被告らに対し,原告の営業秘密に該当する「顧客名簿」及び「情報カード」に記載された各顧客情報を,被告らが新たに開店したペットサロン「ココ」の営業活動に使用したと主張して,また,原告経営の前記「ムー」在職中からこれと競業関係に立つ前記「ココ」の開店準備行為を行い,前記顧客情報を入手するなどの不正行為を行って,原告の得意先に対し勧誘を行い,その得意先を奪取したなどと主張して,不正競争防止法2条1項7号又は4号,3条1項,2項に基づき,不正競争行為の差止めを(請求の趣旨第1項ないし第3項),また,第1次的に不正競争防止法2条1項7号又は4号,4条,第2次的に民法416条,第3次的に民法709条(一般不法行為)に基づき,損害賠償として3600万円の連帯支払(請求の趣旨第4項)をそれぞれ求めるという事案である。 1 前提となる事実(当事者間に争いがない。) (1) 当事者 原告は,平成3年6月から,東京都文京区(以下略)において,ペットサロン「ムー」(以下「原告店舗」という。)を経営している者である。 被告Bは,平成3年6月の原告店舗開店時から原告店舗で稼働し,平成15年5月6日付けで退職した者である。 被告Cは,平成5年4月から原告店舗で稼働し,平成15年5月6日付けで退職した者である。 (2) 被告らによるペットサロンの開店 被告らは,平成15年5月16日,東京都文京区(以下略)において,ペットサロン「ココ」(以下「被告ら店舗」という。)を開店した。 2 本件における争点 (1) 原告店舗における「顧客名簿」及び「情報カード」が,不正競争防止法2条4項の営業秘密に該当するか(争点1)。 (2) 被告らが,前記(1)の営業秘密を使用し,それが不正競争防止法2条所定の不正競争行為に該当するか(争点2)。 (3) 原告と被告らとの間に,雇用契約における付随義務として競業避止義務が生じ,被告らがこれに違反したか(争点3)。 (4) 被告らについて,原告に対する一般不法行為が認められるか(争点4)。 (5) 損害の発生及びその額(争点5) 3 争点に関する当事者の主張 (1) 争点1(原告店舗における「顧客名簿」及び「情報カード」が,不正競争防止法2条4項の営業秘密に該当するか)について (原告の主張) ア 営業秘密の対象 原告は,原告店舗の営業秘密として,(ア)顧客名簿(以下「本件顧客名簿」という。)及び(イ)個々の顧客情報が記載された「ペットサロンムーお客様カード」と題する文書類(以下「本件情報カード」という。)を保有する。 (ア) 本件顧客名簿は,B5サイズ(見開きでB4サイズ)のノートに,顧客番号,顧客の氏名,住所,電話番号,ペットの種類及び愛称が記載されたものである。 (イ) 本件情報カードは,別紙「ペットサロンムーお客様カード」と題する用紙に,顧客番号,当初の契約年月日,顧客名,紹介者,住所,電話番号,ペット愛称,種類・性別,誕生日,備考欄,トリミング等を行った年月日,料金,トリミング内容及び個々のペットの個別的な特徴を記載する欄が設けられたものである。本件情報カードは,A4版クリアファイル帳8冊の中のビニールファイル内に顧客ごとに保管されている。 イ 秘密管理性 本件顧客名簿及び本件情報カードは,原告店舗1階入口から見て右側のレジ台下の扉の内側に常時保管されていたものであり,その扉には鍵がかかっており,顧客からはレジ台があるため,見えない状況下にて保管されていた。 そして,レジをはじめ,受付カウンターには,原告が指名した店長クラスのベテラン従業員しか立ち入らせなかったので,一般の従業員は本件顧客名簿及び本件情報カードに手を触れることができなかった。 さらに,原告の事業形態をみると,原告及び原告の信頼の下に任された店長クラスの一部の従業員のみが,毎日,本件顧客名簿及び本件情報カードを見て,そこに記載されている情報に基づいて,当日にトリミングの予定が入っている顧客の名前と人数及び送迎の順番や時間帯を確認して,4,5人いる各従業員に対して当日の業務内容を指示していたものであって,本件顧客名簿及び本件情報カードは,原告や一部の店長クラス以外の従業員が日常の業務において見ることを予定していないものであった。 したがって,本件顧客名簿及び本件情報カードの保管状況及びその性質,原告の事業形態に鑑みると,従業員,部外者に対し,営業秘密であると認識させるのに十分なものであり,秘密管理性が肯定されるものである。 ウ 有用性 特にトリミング関係の記載は,重要な情報である。すなわち,トリミングとはペットに対する非常にデリケートな仕事であって,トリミングに関する事故や顧客とのトラブルはペットサロンではしばしば生じ得るものである。そこで,上記のような事故やトラブルを未然に防止するためには,本件情報カードにおいて,その都度,ペットの特徴やトリミングの内容を確認する必要がある。原告店舗では,毎回のトリミング行為に際し,必ず本件情報カードを検索し,前回までのトリミング情報を確認していたものであり,継続的な顧客に対するサービス活動を行うに当たって,原告の考案した本件情報カードの存在は不可欠である。 また,原告店舗の顧客の多くは,送迎サービスを利用しており,顧客の氏名,住所及び連絡先が記載された本件顧客名簿は必要不可欠なものである。 エ 非公知性 本件顧客名簿及び本件情報カードは,原告店舗の内部でしか使われておらず,その記載内容は非公知である。 (被告らの主張) ア 秘密管理性 本件情報カードは,クリアファイルに番号順に入れてあり,そのファイルはレジの下の棚に並べてあり,扉も鍵も一応あったが,施錠はもとより,扉さえ閉めていないことが多かった。 また,本件顧客名簿や本件情報カードは,レジのある受付カウンターに置いてあり,本件情報カードは新人スタッフこそがチェックしなくてはならないものであった。つまり,一般従業員全員が普通に手にしていたものであって,特段秘密のものではない。 イ 有用性 トリミングに関する情報が,原告や新規スタッフにとって不可欠であることは認めるが,被告らにとっては何ら必要性を有するものではない。本件顧客名簿や本件情報カードについては,トリミング等の業務に関知していない他のスタッフらが新たに担当する際には,これらを見て送迎したり,施術を継続することに利用したりしていたのであろうが,被告らには特別必要なものではないし,実際持ち出したりしていない。 ウ 非公知性 知らない。 (2) 争点2(被告らが,前記(1)の営業秘密を使用し,それが不正競争防止法2条所定の不正競争行為に該当するか) (原告の主張) 被告らは,原告店舗の従業員として,原告から本件顧客名簿及び本件情報カード記載の各営業秘密を示されてその内容を知る立場にあった。そして,不正の競業その他不正の利益を得る目的で,またはその保有者である原告に損害を加える目的で,前記各営業秘密を用いて,原告店舗の顧客に対し被告ら店舗への勧誘を行ってその顧客を奪い,原告の営業上の利益を侵害したものである(不正競争防止法2条1項7号)。 また,被告らは,原告に無断で,本件顧客名簿及び本件情報カード記載の各営業秘密を書き写しあるいはコピーして持ち出すという不正取得行為を行い,それによって取得した前記各営業秘密を用いて,原告店舗の顧客に対し被告ら店舗への勧誘を行ってその顧客を奪い,原告の営業上の利益を侵害したものである(同法2条1項4号)。 (被告らの主張) 被告らが,本件顧客名簿及び本件情報カード記載の各情報を用いて原告店舗の顧客に対する勧誘を行ったとの主張は否認する。被告らは,前記各情報を使用していない。 被告らが本件顧客名簿及び本件情報カード記載の各情報を書き写しあるいはコピーして持ち出したとの主張は否認する。 (3) 争点3(原告と被告らとの間に,雇用契約における付随義務として競業避止義務が生じ,被告らがこれに違反したか) (原告の主張) 従業員は,雇用契約上,労務の提供の義務のみならず,使用者の正当な利益を,信頼関係を破壊するような態様で侵害してはならないという付随的な義務をも負う。そして,商法41条,48条等は,支配人その他の商業使用人等につき競業避止義務を課しているが,その趣旨は,雇用における労務者一般に広く類推されるべきである。したがって,従業員が競業避止義務に違反して使用者に損害を与えた場合には,債務不履行として損害を賠償すべきである。 本件において,被告らは,原告店舗在籍中から競合関係に立つ被告ら店舗の開店準備行為を行ってきたのであり,雇用契約上の競業避止義務に違反する。 (被告らの主張) 原告の主張は争う。被告Bは原告店舗の店長職にあったものではなく,支配人その他の商業使用人と同等の競業避止義務を負うものではない。また,被告らは,原告に在籍していた当時,その勤務時間内に被告ら店舗の開店準備行為を行っていない。 (4) 争点4(被告らについて,原告に対する一般不法行為が認められるか) (原告の主張) 次のアないしウ記載の各事実を考慮すれば,被告らは,原告店舗在職中から同業であるペットサロンの競業行為をすることを企図した上,退職後に競業事務所である被告ら店舗を設けて競業行為を行い,原告店舗の顧客を勧誘して前の就業先であった原告店舗の取引先の顧客を奪う行為をしたことが認められるのであるから,被告らの行為は,自由競争の範囲を逸脱した違法な行為として一般不法行為を構成する。 ア 被告らは,原告店舗在職中から被告ら店舗設立を計画していたこと (ア) 被告らの退職の経緯 被告Bは平成3年6月の原告店舗開店時から約12年間,被告Cは約10年間の長期にわたり,原告の下で原告店舗の従業員として稼働してきたが,被告らは,平成15年3月になって,突然,原告店舗を辞めると言い出した。 原告は,被告らを慰留したが,2人とも多忙のため疲れたと主張して退職を強く希望したため,原告は被告らの退職希望を受け入れ,被告らは,同年5月6日をもって任意退職した。 被告らは,原告店舗を退職するに当たり,今後については,被告Bは宅急便の仕事をする,被告Cはしばらくのんびりと新たな仕事先を探す等と言って,原告に対しては,同業である被告ら店舗を開店することを一切秘していた。 (イ) 被告ら店舗の開店準備行為 しかし,被告らは,原告店舗を辞めることを決意したのと同時に,共同で被告ら店舗を開くことを決めていた。 被告らは,被告Cの父親が不動産業をしていることから,同人にペットサロンを開く場所を探してもらうことを依頼した。このように,被告らは,まだ原告店舗に勤務中の平成15年4月には既に本格的に被告ら店舗開業のための物件を探すようになっていた。 そして,被告らは,ペットサロン用の店舗を探すに当たり,東京都文京区内の賃貸物件に的を絞り,被告Cの父親を介して,根津,千駄木,本駒込,巣鴨等でこれを探した。そして,原告店舗から距離にしてわずか500メートル程度の同じ国道17号線沿いにある東京都文京区(以下略)の物件を選び,被告ら店舗を開店する準備を始めた。 しかし,この東京都文京区内には,原告店舗の取引先顧客約900人のうち85パーセント以上の顧客が存在し,被告らが同区内のどの地域で被告ら店舗を開店することになったとしても,原告店舗の顧客と競業することになることは明らかである。 そして,被告らは,原告店舗を退職してわずか10日後の平成15年5月16日,被告ら店舗を開店した。 このように,被告らは,まだ原告店舗に在籍していた平成15年3月には,既に原告と同業のペットサロンを,原告の取引先顧客の85パーセント以上を占める東京都文京区内に開店することを決めていた。そして,原告店舗所在地から距離にしてわずか500メートルの場所で,しかも,原告店舗を退職してわずか10日後に被告ら店舗を開店しているのであって,原告店舗在籍中に既に競業行為をすることを企図して原告店舗を退職したことが明らかである。 (ウ) 被告らが東京都文京区内に被告ら店舗を開店した理由 被告らは,トリマーとして10年以上働いてきたことから土地勘のある東京都文京区を選び,根津,千駄木,本駒込,巣鴨等で物件を探したと述べる。 しかし,原告店舗の取引先顧客の85パーセント以上が同区内に存在し,しかも,その顧客はほぼ同区内全域に渡って存在しており,被告らが10年以上の間,同区(以下略)所在の原告店舗でトリマーとして勤務してきた事実を考慮すれば,被告らは文京区内における原告店舗の取引先顧客の全員の名前と所在地を知っていたはずであり,同区内でペットサロンを開設すれば,必ず原告店舗の取引先顧客と競業することになることを当然認識していたはずである。 したがって,被告らの述べる事情は,原告との間でペットサロンを競業することを企図していなかったことの理由には到底ならない。 イ 被告らは,原告店舗の営業形態をそっくり真似て営業を開始し,原告店舗の顧客情報を利用する等して,原告店舗の取引先顧客を被告ら店舗に勧誘したこと (ア) 原告店舗と被告ら店舗の類似性 被告ら店舗は,@ペット美容を中心に,Aペットの送迎を行い,B動物病院とのタイアップによりシャンプー,薬品等を動物病院から取り寄せ,C人間用の浴槽に高さ調節のための台を重ねて使用し,部屋の間取りを模倣し,オリジナルリボンまで盗用するなど,原告店舗と同様の営業形態であって,原告が原告店舗において現在まで蓄積してきた営業形態・ノウハウをそっくり真似て営業を開始した。 原告店舗の主な特徴は,上記のとおり,ペット売りはせずに,ペットの美容(トリミング)とペットホテルを中心とするところにある。 このようなサービスは,原告店舗が独自に考えたサービスであって,当時,他店においてはどこも行っていないシステムであった。そして,それらのサービスや経営手段,顧客との対応などペットサロンを経営する上での詳細なノウハウは,専門学校で教えてもらうものではなく,また,専門学校を出たばかりの者が自然とすぐに身に付けられるようなものでもなく,被告らが実際に原告店舗で勤務し,原告から長年時間をかけて一から経営ノウハウを伝授されて教わったものである。 しかも,被告らは,原告が独自に発案・作成した本件情報カードを,原告の承諾なしにその内容をコピーし,それに記載されていた顧客の情報を原告に無断で使用して,原告店舗の取引先顧客を勧誘し,少なくとも164件にも上る原告店舗の取引先顧客を奪っていった。 したがって,被告らは,原告店舗の営業形態をそっくり真似て被告ら店舗の営業を開始したことが明らかである。 (イ) 原告店舗におけるドックバス(犬の浴槽)の特徴 一般の多くのペットサロンでは,浅くて幅の長いトリミング専用のドッグバス(犬の浴槽)を使用している。しかし,このドッグバスの構造では,バスの深さが浅いためにシャンプー中にペットが動き回りやすく,また,高さの調節ができないために大型犬の場合はドックバスから飛び出しやすく,小型犬の場合は浴槽の奥深くでシャンプーをしなくてはならないため,トリマーにとってはシャンプーがしにくい構造となっている。そこで,原告店舗では,一般のドッグバスを使用せず,人間が入る浴槽に台を重ねて使用している。これによれば,浴槽が深いためペットが動き回ることを防止し,また,高さを調節できるために大型犬,小型犬それぞれの犬の大きさに高さを調節してトリマーがシャンプーをしやすいようにすることができる。これは,原告が独自に考案した特別なドッグバスであり,他のペットサロンでは見ることができない。 (ウ) トリミング中心の経営に不可欠な本件顧客名簿と本件情報カードの不正使用 原告は,トリミングとペットホテルのみでペットサロンを経営している。これは,通常のペットサロンでは,ほとんどあり得ないことである。 つまり,ペットサロンを経営していくためには,通常,トリミングとホテルだけでは不可能であり,その他にもペット売りを兼業することで経営していけるのが現状なのである。原告がペット売りをしないでペットサロンを経営していけるのは,原告が独自に考案した本件顧客名簿に基づき,顧客に対して送迎サービスを行い,また,同様に独自に考案した本件情報カードに基づき各ペットの体質,性格に応じた顧客本位のトリミングサービスを行ってきたからであって,それにより原告が顧客からの信頼を得てきたからである。 したがって,通常のペットサロンがトリミングとホテルのみでペットサロンを開業するのは,特別なノウハウを身に付けているとか,既に顧客網が確立されているなどの特別な事情がない限りは無理なことなのである。実際にも過去に地下鉄都営三田線白山駅近くでペットサロンが2店舗開業したことがあったが,その2店舗とも3年以内に閉店してしまっている。このように通常のペットサロンがペット売りを行ったとしても,新たに一から顧客獲得をしてペットサロンを経営することは相当困難なことなのである。 しかし,被告らは,トリミングとホテルのみで,しかも,原告店舗の近くにおいて,原告店舗と全く同様の営業形態でトリミングのペットサロンを開設し,しかも,後述するとおり,本件顧客名簿に基づいて原告店舗の顧客を勧誘し,原告店舗と同じような送迎サービスを行ったのである。 被告らがこれまでトリミングのみで営業を続けることが可能であったのも,被告らが,一から顧客獲得の努力をせずに,原告店舗の近くでペットサロンを開設し,原告の同意なくして本件顧客名簿と本件情報カードに記載された情報を勝手に冒用して原告の営業ノウハウを利用してきたからである。 なお,被告らは,原告店舗では,専ら送迎業務を専門としていたのであり,トリミングは他の従業員が担当していた。したがって,原告店舗の顧客らが被告らのトリミングの技術を高く信頼していたということはあり得ない。 (エ) 被告ら店舗への勧誘活動 a 被告らは,被告ら店舗の開店の期間ないしその後において,原告店舗の取引先顧客に「開店のお知らせ」と題する被告ら店舗の開設を知らせるチラシ(甲2)を配布した。また,原告店舗の上得意客を戸別訪問して,被告らの独立により新店舗を開設することを告げるなどして宣伝活動を行っていた。このように,被告らは,原告店舗の既存の取引先顧客に対して,複数の手段によって原告に知られることのないように無断で宣伝勧誘活動を行っていたことが明らかである。 そして,被告らは当初,被告ら店舗に店名や電話番号等を記載した看板を掲げることもなく,外部に目立たないようにひっそりと被告ら店舗の営業をしていた。被告らは,被告ら店舗の開店に伴い,新たに一から自らの顧客を獲得しようとする意思もなければ,新規顧客獲得の努力もすることなく,ただ,原告に被告ら店舗の開店の事実や店舗の所在地を知られないようにして,原告に隠れて原告店舗の固定顧客を奪取しようとしていたことが明らかである。 b 被告らは,本件顧客名簿ないし本件情報カードを書き写しあるいはコピーしていた。すなわち,原告は,被告らが退職してから3日後の平成15年5月9日,原告店舗付近において,被告らが本件顧客名簿を手に持ち,原告店舗の顧客に対し,勧誘・営業活動をしていたのを目撃している。また,原告の夫であるDは,被告らが原告店舗付近において,原告店舗の顧客に対して勧誘活動をしている姿を再三にわたって目撃している。そして,その顧客の中には,被告らから,生活のためにはどうしても被告らの顧客になってもらわないと困る等と言われて,被告らの強引な勧誘を断ることができず,原告店舗から被告ら店舗に替えざるを得なかったと原告らに供述して,ペットサロンを替えた経緯を率直に述べた顧客もいたのである。 ウ 原告店舗の既存の取引先顧客が被告ら店舗に移転したこと (ア) 原告の原告店舗における今日までの様々な営業努力,固定得意客の獲得により,原告の売上げは,平成8年以降,最低でも月平均150万円を下ることはなかった。 しかし,被告らが被告ら店舗を開設した平成15年5月中旬以降,原告店舗予約客からのキャンセルが相次いで生じ,その結果,原告は164件の取引先顧客を被告らが経営する被告ら店舗に奪取されることになり,そのため,原告店舗では,月額当たり100万円程度の売上減が生じた。 (イ) そして,被告らが奪取した原告店舗の取引先顧客は,そのほとんどが,次回に原告店舗でのトリミング予約をしていた者らであった。被告らが,原告店舗の上得意客を奪ったことは明らかである。 (被告らの主張) ア 原告店舗においては,スタッフ4人で業務に従事していたところ,平成14年12月にEが退職させられ,平成15年1月にFが出勤しなくなった。そのため,被告らは多忙を極めた。 被告らは,勤務環境が過酷であり,賃金も非常に低いことから,同年3月に退職を申し出た。これに対し,原告からは格段の慰留もなかった。また,失業保険にも入っておらず,退職金もなかった。 被告らは,10年にもわたり,雇用されても十分な対価が支払われず,長期間低賃金で労働することを強いられてきたとさえ言い得る状況から脱却したく,被告ら自らの技術をもってペットサロンの開業を決意したにすぎない。 イ 被告らは,同年4月に入ってから,被告Cの父親であるGを通じて,同人の知人の不動産業を営む三栄ベストプランニング株式会社(東京都港区(以下略))のH社長に頼み,ペットサロンに適当な物件を探してもらった。被告らには有給休暇のようなものはなく,新規物件を見に行くことができなかったため,Gが被告らの意向を受けて,同年4月以降に,巣鴨,根津,千駄木,本駒込,千石等の候補地の賃貸物件を見て回った。そして,ペットサロンが可能であること,大型犬にも対応できるエレベータがあること等の条件を満たす適当な物件を探し,同年4月28日付けで被告ら店舗を賃借した。また,シャンプー等のトリミングのための設備等を搬入したのは,同年5月8日であり,その他営業上の備品や必要設備を整えたのは同年5月半ば近くであった。 結局,被告らは,退職した同年5月6日まで通常どおり原告店舗の仕事に従事しており,原告に何ら損害を与えていない。特に同年4月後半から,被告ら店舗の開業準備のための物件探しに着手はしているが,それは被告らの親族に依頼してのことであり,原告に損害を与えたりしていない。 ウ 被告らは,原告の業務上や技術上の秘密と評価できるものを利用していない。また,本件顧客名簿を持ち出したりしていないし,原告店舗の勤務中にその顧客に対し,事前に開業を知らせて新規のペットサロンへの勧誘などもしていない。 被告らは,送迎を頻繁にしていた固定客の一部に対し,退職の挨拶をしたことはある。しかし,本件顧客名簿ないし本件情報カードを書き写したり,コピーしたりしていない。また,被告らが本件顧客名簿を手に持って勧誘していたとの主張は,否認する。原告や原告の夫が被告らによる勧誘の現場を目撃したとの主張は,否認する。 エ トリマーの仕事は,技術者の技術に客がつくのであって,顧客らが被告らのトリミングを希望したことから客がついてきたにすぎない。 被告らが送迎担当であって,トリミングをしていなかったとの主張は否認する。そもそも,平成15年1月27日から新人が入店する同年3月末までは,被告ら2名しか従業員がいなかったのである。原告はトリミングをしないし,店に顔を出すことも稀であった。 オ 確かに,被告らが,結果的に東京都文京区内にペットサロンを開業したことは事実である。そして,本件顧客名簿に掲載された一部の者については,被告らによるペットサロンの開業がその知るところとなったこと,そして,被告らの人柄やその技術を高く信頼する客の要望に応じて,トリミング等の業務を遂行していることはあるが,これらは,「その手段,態様において,社会的相当性を逸脱するほど著しく不当」な行為をしたとは到底評価し得ないものである。 (5) 争点5(損害の発生及びその額)について (原告の主張) 原告は,予約されていた得意先の予約キャンセル続出という状況に陥っており,この売上減少は月額100万円を下らない。原告は,その結果,3年分の得べかりし売上げを失ったと考えられ,その損害は3600万円を下らない。 (被告らの主張) 否認する。 (6) 請求のまとめ よって,原告は,被告らに対し, ア 不正競争防止法2条1項7号又は4号,3条1項,2項に基づき,本件顧客名簿及び本件情報カード記載の各営業秘密を用いた営業行為の差止め並びに前記各営業秘密の記載された「顧客名簿」及び「情報カード」の廃棄を求め(争点1,2), イ 第1次的に不正競争防止法2条1項7号又は4号,4条に,第2次的に民法416条に,第3次的に民法709条に基づき,損害賠償として3600万円の連帯支払を求める(争点1ないし5)。 |
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当裁判所の判断
1 本件顧客名簿及び本件情報カードが,不正競争防止法2条4項の営業秘密に該当するか(争点1) (1) 甲6ないし8,乙21,22及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる(甲6の記載のうち,下記認定事実に反する部分は採用できない。)。 ア 本件顧客名簿は,B5サイズ(見開きでB4サイズ)のノートに,顧客番号,顧客の氏名,住所,電話番号,ペットの種類及びその愛称が記載されたものである。 本件情報カードは,別紙「ペットサロンムーお客様カード」と題する用紙に,顧客番号,当初の契約年月日,顧客名,紹介者,住所,電話番号,ペット愛称,種類・性別,誕生日,備考欄が設けられるとともに,20コマから成るメモ欄(トリミング等を行った年月日,料金,トリミング内容及び個々のペットの個別的な特徴を記載する欄)が設けられたものである。本件情報カードは,A4版クリアファイル帳8冊の中のビニールファイル内に顧客ごとに保管されている。 イ 本件顧客名簿や本件情報カードは,原告店舗の入口を入って右側にある受付カウンター(レジ台)の棚に備え置かれている。同棚は一般顧客からは見えない位置にあり,その棚には扉も鍵もあるが,常時施錠されているわけではなく,扉さえ閉めていないことが多かった。また,本件情報カードは,被告ら在籍当時,一部の限られた従業員しか見ることができないような厳格な管理下におかれているものではなかった。 (2) 不正競争防止法は,営業秘密を「秘密として管理されている生産方法,販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって,公然と知られていないものをいう」と定めるところ(同法2条4項),「秘密として管理されている」(いわゆる秘密管理性)というには,当該情報にアクセスした者に当該情報が営業秘密であることを認識できるようにしていること,当該情報にアクセスできる者が制限されていることを要するというべきである。 本件でこれをみると,本件顧客名簿及び本件情報カードは,その外観において「部外秘」等の記載によって営業秘密性が表示されているということはなく,また,保管場所に施錠したり,立ち入ることができる者を制限するなどしてアクセスできる者が一部の従業員に限定されているということもなかった。したがって,本件顧客名簿及び本件情報カードは,不正競争防止法にいう営業秘密に該当するだけの秘密管理性を備えていないというべきである。 (3) この点につき,原告は,本件顧客名簿及び本件情報カードは,顧客から見えないレジ台下の扉の内側に常時保管され,その扉には鍵がかかっていた旨,レジをはじめ,受付カウンターには,原告が指名した店長クラスのベテラン従業員しか立ち入らせなかったので,一般の従業員は本件顧客名簿及び本件情報カードに手を触れることができなかった旨主張し,甲6(原告本人作成の陳述書)にはこれに沿う記載がある。しかし,本件顧客名簿及び本件情報カードに記載されている内容は日々の業務に必要な事項であり,原告店舗の規模に照らせば,特定の従業員しか閲覧できないような管理が行われていたとは考え難いこと,原告は,ここ数年,原告店舗での日々の運営を被告Bに任せていた旨述べており,この点に照らすと本件情報カード等の管理の実態を原告が把握していたのか疑問であることなどの点に加えて,乙21,22の記載内容に照らせば,甲6の前記記載部分は容易に採用できず,他に原告主張事実を認めるに足りる的確な証拠はない。 (4) したがって,本件顧客名簿及び本件情報カードが不正競争防止法にいう営業秘密に該当するとは認められないのであるから,その余の点について判断するまでもなく,同法に基づいて,その使用差止め及び損害賠償を求める原告の請求は理由がない。 なお,本訴において,原告は,請求の趣旨第2項として「被告らは,別紙顧客名簿目録記載の者らから,来店を受け,または電話を受けるなどして,被告らとの間で,ペットトリミング等の美容を行う旨の契約及び同契約に付随する営業行為を行ってはならない。」旨の判決を求めているが,このような請求は,被告ら店舗の営業を何らかの方法により知った顧客が自発的に被告ら店舗に来店し,あるいは電話をしたような場合においても,被告らがこれに対応することを禁ずることを求めるものであり,不正競争防止法上の請求権を超える保護を裁判所に対して求めるものといわざるを得ず,請求原因事実の存否にかかわらず,許されないものというべきである。 2 原告と被告らとの間に,雇用契約における付随義務として競業避止義務が生じ,被告らがこれに違反したか(争点3) (1) 甲1,2,3の1ないし6,4の1ないし6,5の1ないし6,6ないし8,9の1,2,10,乙1ないし18,21ないし27に弁論の全趣旨を総合すれば,次の各事実が認められる(甲6,乙21,22の記載のうち,下記認定事実に反する部分は採用できない。)。 ア 原告は,平成元年ころ,それまで勤務していた商社を退職し,妹が東京都墨田区(以下略)で開設した動物病院とペットサロン「ムー」をアルバイトとして手伝うようになった。そして,平成3年6月30日,原告店舗を開設した。 被告Bは,平成3年当時,東京愛犬高等美容学園という名称の専門学校に通学していたが,前記墨田区所在のペットサロン「ムー」の従業員募集に応募し,原告店舗の開設時から,原告店舗に勤務するようになった。また,平成5年4月,前記専門学校出身の被告Cが,原告店舗に勤務するようになった。 原告は,平成10年ころから,別の会社の仕事が忙しくなってきたこともあり,被告Bらに原告店舗の日々の業務運営を任せていた。 原告店舗は,平成12年から平成14年にかけて,年間約2000万円の売上げを計上していた。原告店舗の顧客の大半は,東京都文京区内に居住している。 イ 原告店舗においては,平成15年1月下旬ころ,スタッフが事実上,被告ら2名のみとなり,被告らは多忙を極めた。被告らは,そうしたなかで,勤務に見合った給与が支給されているとは思えず,今後,勤務条件が改善される見込みも乏しいと感じたことなどから,同年3月ころ,原告に退職の希望を伝え,同年5月6日,原告店舗を任意退職した。 被告らは,同年4月ころ,不動産業を営んでいる被告Cの父親に依頼して,東京都文京区内の根津,千駄木,本駒込,巣鴨等でペットショップを開店できるテナントを探し始めた。そして,原告店舗と同じ国道17号線沿いで約500メートル離れた所にある物件を選び,同所に被告ら店舗を開店することにした。 被告らは,原告店舗を退職した10日後の同年5月16日,被告ら店舗を開店した。被告らは,原告店舗を退職する前後を通じ,ペットショップを原告店舗の近隣で新たに開店する意向であることを原告に告げることはなかった。 ウ 原告店舗の営業は,@ペットの小売りではなく,ペットの美容(トリミング)とペットホテルを中心に,A業務用のワゴン車によるペットの送迎サービスを行い,B原告の実妹の経営する動物病院とのタイアップにより,店舗内を衛生に保つとともに,個々のペットの状態に応じたシャンプー,薬品等を動物病院から取り寄せて使用し,C一般のドックバス(犬の浴槽)を使用せずに,人間用の浴槽に台を重ねた浴槽をドックバスとして使用するなどの特徴を有している。 被告ら店舗も,前記各特徴を概ね備えている。 エ 被告らは,被告ら店舗の開店の期間ないしその後において,「開店のお知らせ」と題する被告ら店舗の開設を知らせるチラシ(甲2)を配布した。 オ 被告ら店舗の顧客の中には,被告ら個人との人的信頼関係を理由として,原告店舗から被告ら店舗に店を替えたと述べる者が少なからず存在する(乙1ないし18,23ないし25)。 (2) 原告は,被告らが原告の従業員として,使用者の正当な利益を,信頼関係を破壊するような態様で侵害してはならないという付随的な義務を負い,また,商法41条,48条等の趣旨は,雇用における労働者一般に広く類推されるべきであって,したがって,原告店舗在籍中から競合関係に立つ被告ら店舗の開店準備行為を行ってきた被告らは,雇用契約上の競業避止義務に違反する旨主張する。 しかしながら,商法41条は,一定の営業所の営業に関して全権を授与され,営業主の営業上の秘密等を熟知しているという支配人の特性にかんがみ,同法48条は,営業主との代理商契約に基づく代理商の特殊な地位にかんがみ,それぞれ競業避止義務を負うものと規定しているものであり,このような趣旨に照らせば,原告の主張するようにこれらの規定を単なる従業員に安易に類推適用することは,許されないというべきである。 加えて,本件においては,前記(1)認定の事実関係を前提に検討判断すると,被告らは原告店舗に在職していた期間中に,新たに開店する店舗に適した物件を親族に依頼して探してもらっていたにとどまり,労働時間中に被告ら店舗の開店準備行為や原告店舗の顧客に対する勧誘行為を行っていた事情は認められないものであるから,雇用契約上,雇主に対して負担する義務に違反するような行為が被告らにあったということはできない。 (3) この点に関し,原告は,被告らが,原告店舗の上得意客をことさらに戸別訪問して,被告らの独立により新店舗を開設することを告げる等の宣伝活動を行った旨,本件顧客名簿ないし本件情報カードを書き写しあるいはコピーしていた旨主張し,甲6(原告本人作成の陳述書)の記載中にはこれに沿う部分がある。しかし,甲6の記載内容は,これを裏付ける客観的な証拠に乏しく,むしろ乙21,22,27の記載内容に照らせば,前記甲6の記載部分は容易に採用できず,他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。 (4) したがって,被告らが,雇用契約における付随義務としての競業避止義務に違反したとして,損害賠償を求める原告の請求は理由がない。 3 被告らについて,原告に対する一般不法行為が認められるか(争点4) (1) 前記2(1)における認定事実を前提に,被告らの行為について,原告に対する一般不法行為が成立するかどうかを検討する。 被告らは,原告店舗を退職するとほとんど同時に,原告店舗の近隣に被告ら店舗を開店したものであり,原告店舗と商圏が競合し,原告店舗の顧客の一部が利用店舗を被告ら店舗に変更するであろうことを承知しながら,被告ら店舗を開設したというべきである。しかし,被告らが原告にことさら損害を加える意図で,原告店舗を退職の上,被告ら店舗を開店したわけではないこと,原告が原告店舗の特徴として述べる点は,これが原告店舗のセールスポイントであるとしても,顧客等にとって外部から一見して明らかな営業形態であったり,そうでないものも法律上保護された営業ノウハウとまでは言い難いこと,ペットサロンについては,個々の従業員の接客態度や理容技術に着目して顧客が店舗を選別している面があり,原告店舗から被告らが退職・独立したことにより,自らの主体的な判断により利用店舗を変更した顧客も少なくないと考えられること,被告らが原告店舗と被告ら店舗との同一性を誤認させるような宣伝,勧誘活動を行ったとは認め難いことに照らせば,被告らの行為が,取引秩序上,自由競争の範囲を逸脱したおよそ許されない行為であるとまではいえず,被告らの行為をもって一般不法行為に該当するということはできない。 (2) この点につき,原告は,原告が,被告らが退職してから3日後の平成15年5月9日,原告店舗付近において,被告らが本件顧客名簿を手に持ち,原告店舗の顧客に対し,勧誘・営業活動をしていたことを目撃し,また,原告の夫であるDが,被告らが原告店舗付近において,原告店舗の顧客に対して勧誘活動をしている姿を再三にわたって目撃した旨主張する。しかし,本件顧客名簿等はそもそも不正競争防止法にいう営業秘密に該当するものでない上に(前記1),平成15年11月20日付けの原告本人の陳述書(甲6)には,この点についての具体的な記載はなく,そのほかに,原告の前記主張を認めるに足りる的確な証拠はない。 (3) したがって,被告らの行為が一般不法行為に該当するとして,損害賠償を求める原告の請求も,また理由がない。 4 結論 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は,いずれも理由がないから,棄却すべきものである。 よって,主文のとおり,判決する。 |
裁判長裁判官 | 三村量一 |
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裁判官 | 古河謙一 |
裁判官 | 吉川泉 |