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事件 平成 22年 (ワ) 16066号 販売行為差止等(不正競争防止法)請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 大阪地方裁判所 
判決言渡日 2012/09/20
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
判例全文
判例全文
平 成24年9月20日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

平成22年(ワ)第16066号 販売行為差止等(不正競争防止法)請求事件

口頭弁論終結日 平成24年7月2日

判 決

原 告 株式会社大廣製作所

同訴訟代理人弁護士 後 藤 秀 継

同 田部井 大 輔

同 玉 置 健

同訴訟代理人弁理士 竹 内 祐 二

被 告 株 式会社ビューティガレージ

同 訴訟代理人弁護士 川 畑 大 輔

同 谷 中 俊 介

同補佐人弁理士 松 下 昌 弘

主 文

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

1 被告は,別紙被告製品目録記載のヘアードライヤーを販売し,使用し,譲

渡し,貸し渡し,又はその譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない。

2 被 告は,原告に対し,金3200万円及びこれに対する平成22年11月

26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

1 本件は,かつて後記本件意匠権を有しており,かつ別紙原告製品目録記載

のヘアードライヤー(以下「原告製品」という。)の製造販売を行う原告が,

別紙被告製品目録記載のヘアードライヤー(以下「被告製品」という。)の
販 売等を行う被告に対し,下記請求をした事案である(なお,損害賠償請求

については,意匠権侵害に基づく請求と不正競争防止法違反に基づく請求は,

損害が重なる限度で選択的に請求されているものと解する。 。




(1) 意匠権侵害に基づく損害賠償請求

被告製品の販売等が,後記本件意匠権を侵害することを理由とする,意

匠権侵害の不法行為(民法709条)に基づく金1600万円及びこれに

対する不法行為の後である平成22年11月26日から支払済みまで年

5分の割合による遅延損害金の損害賠償請求

(2) 不正競争防止法違反に基づく差止損害賠償請求

被告製品の販売等が,不正競争防止法2条1項1号の不正競争に該当す

ることを理由とする,同法3条1項に基づく被告製品の販売等の差止請求

並びに,同法4条に基づく金3200万円及びこれに対する不法行為の後

である平成22年11月26日から支払済みまで年5分の割合による遅

延損害金の損害賠償請求

2 判断の基礎となる事実

以下の事実は,当事者間に争いがないか,掲記の証拠及び弁論の全趣旨に

より容易に認定できる。

(1) 当事者

原告は,理美容器具等の製造販売を目的とする会社である。

被 告は,理美容用品・機器の販売等を目的とする会社であり,理美容用

品・機器の中古品販売事業も行っている。

原 告製品の製造販売

原 告は,平成4年5月から,原告製品を製造販売している。原告製品の

構成は,別紙原告製品写真及び図面記載のとおりである。

な お,原告製品については,平成22年6月頃,量産体制は終了し,そ
の 後は受注生産とされている(甲51)。

本 件意匠権

原 告は,次の意匠権(以下「本件意匠権」といい,その登録意匠を「本

件意匠」という。)を有していた。なお,本件意匠権は,平成21年3月

25日,存続期間満了により消滅した。

な お,意匠に係る物品のヘアードライヤーとは,理美容器具の一種であ

り,ヘアサロンにおいて,理美容師が利用客に対し,パーマ,カラーリン

グ,ドライなどを行った際,その浸透ないし乾燥を促進するために使用す

る機器の総称である。

登 録 番 号 第900962号

出 願 日 平成3年12月11日

登 録 日 平成6年3月25日

意 匠に係る物品 ヘアドライヤ本体

登 録 意 匠 別紙本件意匠公報記載のとおり

被 告製品の販売

被 告は,平成18年から,被告製品を販売している。被告製品の構成は,

別紙被告製品写真記載のとおりである(以下,被告製品に係る意匠を「被

告意匠」という。 。


3 争点

意 匠権侵害に基づく請求

被 告意匠は本件意匠に類似するか(争点1)

(2) 不正競争防止法違反に基づく請求

ア 原 告製品の形態は,周知商品等表示(不正競争防止法2条1項1号

に該当するか(争点2−1)

イ 被 告製品の形態は原告製品の形態に類似するか(争点2−2)

ウ 原 告製品と被告製品との混同のおそれがあるか(争点2−3)
エ 原 告に,営業上の利益侵害され,又は侵害されるおそれがあるか(争

点2−4)

原 告の損害額(争点3)

第3 争点に係る当事者の主張

1 争 点1(被告意匠は本件意匠に類似するか)について

【 原告の主張】

本 件意匠の要部

ア 需 要者・取引者について

本 件意匠に係る物品(ヘアードライヤー)の需要者・取引者は,ヘア

サロンの経営者・従業員のほかに,ヘアサロンの利用客も含まれる。

イ 使 用態様について

ヘ アードライヤーは,洗った頭髪を乾燥させたり,温風でパーマ液の

浸透を促進したりするための美容器材である。したがって,注目される

本質的部分は,本来の機能を発揮するヒーター部とこれを支えるシェー

ド部である。

ウ 従 来の意匠と比較した特徴

本 件意匠は,従来のヘアードライヤー(円筒シェード固定タイプ,複

数シェード点在固定タイプ,環状シェード回転タイプ)と比較すると,

ヒーター部(左右に分かれたシェードの下側両端部に横長の略長方形の

保護ネットに被われた細長の円柱形のパークヒーターが2基ずつ舟底

のように削られたシェードの底面にセットされている部分)とこれを支

えるシェード部に特徴がある。

こ れらの部位はファッショナブルな独特の形状で,使用時には,シェ

ード部が360度回転することにより,洗った頭髪を熱風で乾燥させた

り,又は,パーマ液の浸透を促進させたりする。

エ 要 部について
本 件意匠の要部は,ヒーター部とこれを支えるシェード部の形状にあ

る。操作盤(制御部)が設けられた支持部やモーターカバーである円柱

部の形態は要部ではない。

本 件意匠と被告意匠との類否

ア 本 件意匠の構成

本 件意匠のうち,要部に関する具体的構成は以下のとおりである。

ア 側 面視において,シェード部は円型のオゾン噴出口の縦中心線を

基点として,略帯状のシェードが左右に「逆への字状」と「への字状」

に分かれており,全体としてブーメランのような形を構成する。

シ ェードの両端部の下側には横長の略長方形で網状の保護ネット

が装着され,上側には略台形状のシェードフィルター(放熱口)が接

着されている。

イ 底 面視において,シェード部の両端部の底面は,舟底のように削

られ,その上に,網状の保護ネットに被われた略長方形のケーシング

(断熱用耐熱樹脂)がセットされた形を構成している。

ウ 上 記 イ の 各ケーシングには,別紙原告製品写真及び図面記載「3

ブーメランヒーター部略図」のとおり,細長い円筒形のパークヒータ

ーが2基,棒状のPTCヒーターが1基と,これに対応する溝が設け

られている。

エ シ ェード部は,その中心の上部にあるモーターを軸として,投ぜ

られたブーメランのような軌道で360度回動する。これに従って,

シェード部の下側両端部にセットされた各ヒーターも同様の軌道で

回動することにより,従来のヘアードライヤーにはない美感と毛髪に

付着する薬液を効率よく乾かす機能を有している。

イ 本 件意匠と被告意匠との対比

ア 被 告意匠は,以下のとおり,本件意匠の構成上の特徴(要部)の
全 てを備えている。

a 被 告意匠は,側面視において,円型のオゾン噴出口の縦中心線を

基点として,略帯状のシェードが左右に「逆への字状」と「への字

状」に分かれており,全体としてブーメランのような形を構成する

点,シェード部の両端部の下側には横長の略長方形で網状の保護ネ

ットが装着され,上側には略台形状のシェードフィルターが接着さ

れている点において,本件意匠と同じである。

b 被 告意匠は,底面視において,シェード部の両端部の底面は,舟

底のように削られ,その上に,網状の保護ネットに被われた略長方

形のケーシング(断熱用耐熱樹脂)がセットされた形を構成する点

において,本件意匠と全く同じである。

c 被 告意匠は,別紙原告製品写真及び図面記載「3 ブーメランヒ

ーター部略図」のように,細長い円筒形のパークヒーターが2基,

棒状のPTCヒーターが1基と,これに対応する溝が設けられてお

り,本件意匠と全く同じである。

d 被 告意匠は,シェード部が,その中心の上部にあるモーターを軸

として,投ぜられたブーメランのような軌道で時計まわりに360

度回動し,これに従って,シェード部の下側両端部にセットされた

各ヒーターも同様の軌道で回動する点において,本件意匠と同じで

ある。

な お,各ヒーターの名称や回動の方向(時計回りか否か)につい

ての違いは,本質的なものではない。

イ 一 方,本件意匠と被告意匠は,以下の差異点を有する。

本 件意匠のシェード部は,両端が直線的であるのに対し,被告意匠

のシェード部は,両端がやや曲線的であり,その中央にピックのよう

な切り込みがある。
ま た,本件意匠のシェード部は,中央から左右の両端までの幅がほ

ぼ均一で,上蓋部分もほぼ同一幅でその下部を被っているのに対し,

被告意匠のシェード部は,中央よりも左右の両端の方が幅広くなって

おり,上蓋部分は均一な幅を有するものの下部より外側にはみ出して

いる。

ウ 類 否について

本 件意匠と被告意匠の共通点は,いずれも両意匠の類否判断を左右す

る主要部にかかるものであり,かつ看者の注意を最も強く惹く点であっ

て,看者に類似印象を強く与えるものである。

こ れに対し,差異点は,何れも部分的,あるいは非本質的なもの(設

計上の変更事項)であって,共通点により惹起される類似印象を打ち

壊し,両者を別異のものとする程,視覚的に顕著なものではない。

エ 小括

し たがって,被告意匠は本件意匠と類似する。

【 被告の主張】

本 件意匠の構成

ア 基 本的構成態様

A シェード部

右側面視において,左上側に位置する部分(以下「第1シェード」

という。)と,第1シェードと線対称の形状を有し右下側に位置する

部分(以下「第2シェード」という。)とが一体的に形成されたシェ

ード部

B 円柱部

シェード部の上面中央に設けられた円柱部

C 支持部

円柱部を介してシェード部を支持する支持部
D 取 っ手部

支持部の下端部に設けられた取っ手部

イ 具体的構成態様

本件意匠は,上記基本的構成態様につき,以下の具体的構成態様を備

えている。

A シェード部について

(ア) 平面視において,第1シェードと第2シェードの左右方向の巾

は略均一であり,第1シェードの縁と第2シェードの縁は,巾方向

へ直線状に延びている。

(イ) 第1シェードと第2シェードの下面にはそれぞれヒーター部

が設けられている。

右側面視において,第1シェードのヒーター部は,水平方向に対

して反時計回りの向きに略20度傾斜している。また,第2シェー

ドのヒーター部は,垂直方向に対して反時計回りの向きに略20度

傾斜している。

(ウ) 第1シェードと第2シェードの各上面には,巾方向に延びたス

トライプ状の7本の放熱口が形成されており,その長さは同じであ

る。

(エ) ヒーター部に設けられた略矩形の網状の保護ネットは,その矩

形領域の内側にシェード部の長手方向に沿って等間隔に配置され

た6本のラインと,それに直交して等間隔に配置された3本のライ

ンを備えている。

(オ) 第1シェードと第2シェードの結合部の底面側の中央付近には,

直径がシェード部の巾の略1/4の円パターンが形成されている。

B 円柱部について

(ア) 円柱部の下側面は,シェード部の上面の中央部に結合している。
(イ) 円柱部の上側は,丸みを帯びた曲面を形成している。

(ウ) 円柱部の側面の略中間付近は,支持部に結合している。

C 支持部について

(ア) 右側面視において,支持部は,正面方向へ2段階に折れ曲がっ

ており,これらの屈曲部を境目とする3つのブロックから構成され

る(以下,上から順に「第1支持部」,「第2支持部」,「第3支

持部」という。)。

(イ) 第1支持部は,円柱部の側面に対して,円柱部の軸方向と垂直

な向きから結合し,第2支持部は,第1支持部に対して略120度

の内角で時計回り方向に屈曲し,第3支持部は,第2支持部に対し

て略160度の内角で時計回り方向に屈曲している。

(ウ) 第1支持部の中央付近には,蛇腹部が設けられている。

平面視において,第1支持部の巾は,円柱部の結合部側から第2

支持部側に向けて広がっている。

(エ) 第2支持部および第3支持部の長手方向に直交した断面は略

矩形である。

(オ) 第2支持部の背面に設けられた制御部には,矩形領域内の上側

に2つの矩形パターンが形成され,下側にも2つの矩形パターンが

形成されている。また,上側と下側の矩形パターンで挟まれた領域

には,略18個の細かい点パターンが不規則に形成されている。

D 取っ手部について

底面視において,第3支持部の端面には,取り付け具を介して略矩

形に曲げられたリング状の取っ手部が連結している。

被 告意匠の構成

ア 基 本的構成態様

a シェード部
右 側面視において,左上側に位置する第1シェードと,第1シェー

ドと線対称の形状を有し右下側に位置する第2シェードとが一体的

に形成されたシェード部

b 円柱部

シェード部の上面中央に設けられた円柱部

c 支持部

円柱部を介してシェード部を支持する支持部

d 取っ手部

支持部の下端部に設けられた取っ手部

イ 具体的構成態様

被告意匠は,上記基本的構成態様につき,以下の具体的構成態様を備

えている。

a シェード部について

(ア) 第1シェードと第2シェードの左右方向の巾は,各シェードの

屈曲部と先端部の中間付近に近づくにつれて太くなっており,第1

シェードの縁と第2シェードの縁は,円弧状である。

(イ) 右側面視において,第1シェードのヒーター部は地表から水平

であり,第2シェードのヒーター部は地表から垂直の関係にある。

(ウ) 第1シェード及び第2シェードの上面には各シェードの巾方

向に延びたストライプ状の9本の放熱口が形成されており,その巾

方向の長さは,円柱部に近づくにつれて徐々に長くなっている。

(エ) ヒーター部に設けられた略矩形の保護ネットは,その矩形領域

も内側にシェード部の長手方向に沿って等間隔に配置された27

本のラインと,それに直交して等間隔に配置された4本のラインと

を備えている。

(オ) 第1シェードと第2シェードとの結合部の底面側の中央付近
に は,シェード部の巾の略半分の直径の円形のオゾン噴出口が形成

されている。オゾン噴出口には,同心円の4本の円形の保護部材と,

外周から中心に向けて延びる左右上下対称の4本の保護部材とが

設けられている。

(カ) 両シェードは,所定の位置に固定された円柱部の中心軸を中心

に時計回りに回転する(乙24の6)。

b 円柱部について

(ア) 円柱部の下面は,シェード部の上面の中央部に結合している。

(イ) 円柱部の上面は,支持部に結合している。

(ウ) 円柱部が被告意匠全体で占める割合は非常に小さく,被告意匠

全体の印象に与える影響は小さい。

c 支持部について

(ア) 支持部は,円柱部を上側から保持する保持部と,保持部の下方

に位置し保持部と一体的に形成されて垂直方向に延びる下方支持

部とで形成されている。

(イ) 右側面視において,保持部の円柱部側は,円柱部の中心軸と直

交したラインを形成している。また,保持部は,上記直交したライ

ンの上側端部から,下方支持部の垂直に延びる右側ラインに向けて

滑らかな曲線を形成し,当該曲線の最上位置付近に,滑らかな曲線

からなる凸部が形成されている。

また,保持部は,上記直交したラインの下端部から,下方支持部

の垂直に延びる左側ラインに向けて滑らかな曲線を形成している。

(ウ) 右側面視において,下方支持部は,下方から上方へ向かうにつ

れて徐々に厚みを増している。保持部は,下方から上方へ向うにつ

れて厚みを増しながら,正面方向に緩やかに傾いている。

(エ) 正面視において,保持部の巾が下方支持部より広くなっており,
上 側の端が丸みを帯びていることから,支持部の外形は「さじ」を

立てたような形状となっている。

(オ) 下方支持部の背面に設けられた制御部には,矩形領域の上側に

2つの矩形の液晶表示部が設けられている。

また,上記液晶表示部の下方には,横1列に4個の直径略10m

mの円型のスイッチが設けられている。上記4個の円型スイッチの

下方には,3×3のマトリクス状の9個の直径略17mmの円型の

スイッチと,3×3のマトリクスの右下のスイッチの下に1個の同

一直径の円型のスイッチが設けられている。3×3のマトリクスの

右下のスイッチと,その下の1個のスイッチは,オレンジ色であり,

それ以外のスイッチは薄緑色である。上記1個の円型スイッチの左

斜め下に,「Beauty Call」の文字パターンが表記され

ている。

d 取っ手部について

底面視において,支持部の端部にはいかり型の取っ手部が設けられ

ている。

類 否について

ア 要 部について

本 件意匠の要部は,以下のとおり,シェード部,円柱部,支持部及び

取っ手部からなる全体形態である。

ア 取 引者・需要者

本 件意匠に係る物品(ヘアードライヤー)は,通常,ヘアサロンに

おいて,利用客に使用する目的で購入される。

し たがって,取引者・需要者は,主としてヘアサロンの経営者・従

業者である。

イ 用 途・使用態様
ヘ アードライヤーは,ヘアサロンの従業者が利用客にパーマをかけ

たり,毛髪を染めたりするときに用いるものである。通常は店舗の隅

などに置かれており,必要がある場合に,その都度,所定の位置に動

かして使用される。

具 体的な使用態様としては,ヘアサロンの従業者が,制御部のパネ

ル内に設置されているスイッチを押して,諸機能を作動させる(甲8,

乙7)。

ウ 要 部について

以上を前提に,本件意匠の要部について検討すると,スイッチが設

けられた支持部及び制御部のパネルを操作するときに操作者の正面

に位置する円柱部は,取引者・需要者の注意を最も惹きやすい部分で

ある。また,取っ手部は,操作者が実際に当該製品を使用する際に,

必ず触れるため,取引者・需要者の注意を惹きやすい部分である。

そして,ヒーターを用いて乾燥処理を行う際,人の頭部と一定の間

隔をおいてシェード部のヒーターが位置するように目視でシェード

部の位置を決めることから,シェード部は取引者・需要者の注意を惹

きやすい部分である。

したがって,本件意匠の要部は,単にシェード部のみならず,シェ

ード部,円柱部,支持部及び取っ手部からなる全体形態である。

(エ) 原告の主張に対する反論

原告は,シェード部のブーメランのような形状を要部と主張するが,

シェード部の第1シェードと第2シェードが一体的に形成された形

態は,本件意匠の出願前に公知であり(乙12),本件意匠のみが備

える特徴的な形態ではない。

また,原告は,ヒーター部も要部と主張するが,ヒーター部は,本

件意匠の正面図および底面図において,保護ネットの背後にあって,
注 視してようやく認識されるものであり,また,その形状も極めてシ

ンプルで,要部とはなりえない(なお,ヒーター部の形態は,本件意

匠と被告意匠とで同一ではない。)。

イ 差異点についての評価

(ア) シェード部の態様

本件意匠のシェード部は,ゴツゴツとした荒削りで男性的な印象

与える美感を表出している。

これに対し,被告意匠のシェード部は,シルエットの曲線が全体的

に緩やかであるため,滑らかな女性的な印象を与える美感を表出して

いる。

(イ) 円柱部の態様

本件意匠の円柱部は,上側は上方に突出し,やや丸みを帯びた曲面

を形成している。そして,当該やや丸みを帯びた曲面は,本件意匠の

最も高い位置にあり,正面,背面,平面,右側面および左側面の5方

向から見え,看者の注意を特に惹く要部である。

これに対し,被告意匠の円柱部は,厚みが薄く,正面視,背面視,

平面視,底面視からは見えず,被告製品の全体形態に与える影響は小

さい。また,被告製品の円柱部の端部には丸みを帯びた曲面はない。

(ウ) 支持部の態様

本件意匠の支持部は,第1支持部に対して第2支持部が屈曲し,第

2支持部に対して第3支持部が屈曲している。また,第2支持部及び

第3支持部の断面は略矩形である。さらに,第1支持部には蛇腹部分

が設けられている。そのため,本件意匠の支持部は,外形が不連続に

折れ曲がり,ゴツゴツとした荒削りで男性的な印象を与える美感を表

出している。また,全体的に下側にうつむいた印象を与える。

これに対し,被告意匠の支持部は,シルエットの曲線が連続的かつ
緩 やかであるため,滑らかな女性的な印象を与える美感を表出してい

る。また,支持部の外形は「さじ」を立てたような形状で,全体的に

姿勢が真っ直ぐに延びた印象を与える。

(エ) 取っ手部の態様

本件意匠の取っ手部は,矩形のリング状であるのに対し,被告意匠

の取っ手部はいかり型である。

ウ 小括

以上述べた差異点は,いずれも看者に全く異なる印象を与えるもので

あって,意匠全体の美感に影響を与える。

したがって,被告意匠は本件意匠に類似しない。

2 争点2−1(原告製品の形態は,周知商品等表示(不正競争防止法2条

項1号)に該当するか)について

【原告の主張】

(1) 原告製品の形態が特別顕著なものであること

ア ヘアードライヤーの形態は,元々は利用客が頭の上からすっぽり被る

「円筒シェード固定タイプ」が主流であり,その後,頭部の上・後・左

右に位置する発熱体を固定した「複数シェード点在固定タイプ」が登場

し,昭和63年10月には,タカラベルモント株式会社(以下「タカラ

ベルモント社」という。)が独自開発した利用客の頭の上でリング状の

ヒーター部が回転揺動する「環状シェード回転タイプ」が登場した。原

告製品が販売されるようになった平成4年頃は,このような各種タイプ

のヘアードライヤーが競い合う状況にあった。

イ 原告製品は,利用客にとっては,圧迫感やまとわりつく感じを与えず

に解放感,自由感をもたらすと共に,ヒーター部の回転により頭髪を均

一にムラなく加熱でき,かつ動作時の必要空間が小さいために美容師の

作業性を向上できるなど,機能性に優れている。また,独創的な形態と
シ ェードの動きが相まって,斬新でファッション性,デザイン性に富み,

しかもシェード部は作動終了時に縦の位置で止まるため,設置場所をと

らず省スペースである。

このように,原告製品は,その独創的な形態とシェードの回転の動き

によって,他のヘアードライヤーとは明白に識別し得る独特の特徴を有

する。

(2) 周知性について

需要者(購入者)について

ヘアードライヤーの購入者は,美容室であるところ,平成21年度ま

での各年度の美容所施設数及び従業美容師数は,別紙美容所施設数・従

業美容師数のとおりである。

なお,原告製品は理容室に販売されることもあるが,その数は僅少で

ある(原告は,美容室における周知性を主張するものであり,理容室は

その対象に含めない。 。


イ 原告製品の宣伝について

(ア) 原告は,理美容器具メーカーとして飛躍的発展を遂げ,タカラベ

ルモント社に次ぐ業界2位を占めるに至っており,平成4年度の売上

高は78億円に達している。

(イ) 原告では,特約代理店を介する取引が基本であるが,原告自らも,

東京や大阪の中心部に数百坪のフロアを持つショールームを有する

ほか(甲42〜48),その他の都市にも相当規模のショールームを

保有しており,理美容店関係者に実際に原告製品を体験してもらうな

どの宣伝も行っている。

(ウ) 原告は,平成4年から平成7年までの間,原告製品を掲載したカ

タログやチラシを作成,配布し(甲16〜23),また,平成7年に

は暑中見舞いはがきに原告製品の写真を掲載するなどして(甲24),
全 国各地のヘアサロン等に強力な宣伝を行った。また,平成8年から

平成21年までの間も,ほぼ毎年,チラシやカタログ等を作成,配布

して,広告宣伝活動を続けている(甲25〜38)。

原告製品が掲載されたチラシやカタログの印刷部数は,各7万部で

ある(なお,平成7年の暑中見舞いのはがき(甲24)及び平成21

年2月作成のカタログ(甲38)の印刷部数は,約3万部である。 。


これらは,原告の本店,支店,営業所,ショールームなど(全国に

合計20か所)を経由して,全国各地のディーラー(約560社)を

通じ,又はディーラーの営業に同行した原告の社員によって,全国各

地のヘアサロンに配布されているほか,原告が開催する展示会(支店,

展示場のある営業所で年2回程度),商談会において来場者にも配布

されている。

(エ) さらに,原告は,美容関係の業界誌にも,平成5年3月,平成6

年9月,平成10年1月に原告製品の広告を掲載した(甲5〜7)。

ウ 原告製品の販売実績について

(ア) 原告製品の年度別の出荷販売台数は別紙原告製品販売実績記載の

とおりであり,その販売先は,全国各地に及んでいる(甲40,41。

なお,上記販売実績には海外向けに販売した分も含むが,その数は僅

少である。 。


(イ) ヘアードライヤーは10年程度で買換えがなされるところ,美容

所施設が1施設当たり1台のヘアードライヤーを保有していると仮

定して,平成4年度から平成7年度の原告製品の市場占有率を計算す

ると,おおよそ以下のとおりである(別紙美容所施設数・従業美容師

数参照)。なお,実際には,一つの経営主体が複数の施設を保有する

こともあり,経営主体数を基準に市場占有率を計算すると,その数字

は上昇する。
年度 美容所施設数(件) 販 売台数(台) 市場占有率

平 成4年 18,858 4 ,332 2 3.1%

平 成5年 18,997 3 ,841 2 0.3%

平 成6年 19,211 3 ,337 1 7.4%

平 成7年 19,391 2 ,418 1 2.5%

エ 小括

以上のとおり,原告製品は,遅くとも平成7年には,その独創的な形

態により商品等表示として出所識別性を取得し,需要者の間で原告の製

造販売する製品として広く認識されるに至った。
【被告の主張】

(1) 原告製品の形態に特別顕著性がないこと

原告製品のシェード部の形態は,原告製品の販売開始時に,既に公知で

あり(乙12),ヒーター部を回転させる構造を備えたヘアードライヤー

も,既に公知であった(乙13〜16)。このように,シェード形態を採

用すること,あるいはヒーター部を回転させることは公知に属するもので

あり,原告製品の商品等表示を基礎付けるものではない。

原告製品の形態は,ヘアードライヤーの機能を実現するために必要な形

態であって顕著な特異性はない。

(2) 原告製品の形態に周知性がないこと

需要者について

原告は,需要者として美容室のみを対象にするが,実際には,理容室

も顧客となることから,理容室も含める必要がある(乙38,39参照)。

イ 原 告製品の宣伝について

(ア) 原告は,カタログやチラシ,雑誌等による宣伝を主張するが,こ

れらの媒体の発行部数や掲載に要した費用等は不明である。また,雑

誌及びカタログへの掲載は,理美容関連の製品を販売する上で極めて
一 般的なものであり,この点をもって,強力な宣伝があったとはいえ

ない。

さ らに,原告は,販売当初こそ原告製品独自のパンフレットを作成

しているが(甲16,17),その後は,期間限定の商談会やセール

のチラシ(甲21,23,25〜27,29,30),暑中見舞いは

がき(甲24),総合カタログの一部(甲18〜20,甲31〜38)

において掲載されていたにすぎない。

(イ ) ま た,原告では,代理店の営業社員が系列のヘアサロンを回って

販売するルート営業が行われており,期間限定のセール等も,代理店

及びその取引先に対して行われるにすぎない。

こ のような営業方法からすれば,原告製品は,代理店及びその取引

先においてのみ認知されていたにすぎず,業界全体に周知されていた

とはいえない。

ウ 原 告製品の販売実績について

(ア ) 原 告は,原告製品の販売台数について,年度別出荷実績(甲40)

及び出荷販売台帳(甲41)を根拠にするが,これらには海外への出

荷分も含まれており,同出荷分は除外されるべきである。

(イ ) ま た,原告は,ヘアードライヤーの買換えまでの期間を10年程

度として市場占有率を計算するが,ヘアードライヤーの標準使用期間

は7年であり(乙40,41参照),買換えまでの期間を10年とす

ることに根拠はない。

エ 強 力な競合商品が存在することについて

ヘ アードライヤー(回転タイプのもの)については,タカラベルモン

ト社の「ローラーボール」が圧倒的なシェアを占めている(被告での中

古品販売においても60%以上のシェアを占めている。乙28)。

オ 原 告製品の周知性は認められないことについて
以 上の点からすれば,原告製品の形態に周知性は認められない。

な お,仮に,平成7年の時点では,原告製品の形態に周知性が認めら

れるとしても,以下の事情からすれば,遅くとも平成19年11月以降

は,周知性が失われたというべきである。

(ア ) 原 告は,平成12年8月に「わくわく21」の販売を開始してか

らは,同製品を主力商品として扱うようになった(乙29)。

そ の結果,平成19年から平成22年において,原告製品の販売台

数は僅かである。すなわち,例えば,平成19年度は,理美容室の施

設数35万6341店に対し,原告製品の販売台数は180台(海外

販売分も含む。)である。また,理美容関連の製品の中古市場で最大

の販売実績を誇る被告の中古品販売実績(乙28)によると,平成1

9年11月から平成22年11月までの間,ヘアードライヤーの中古

品を合計959台販売しているが,そのうち原告製品は72台(約7.

5%)であり,ローラーボール,わくわく21に次ぐ3番手以下の販

売台数である(1か月当たり2,3台程度しか販売されていない。 。


(イ ) 他 方,被告は,平成17年以降毎年,被告製品をカタログやウェ

ブサイトで紹介している(乙24)。また,平成15年から平成17

年頃には,株式会社アトリエワールドが,被告製品と全く同一形態の

製品を「IR−U」の名称で販売していたほか(乙17,18),株

式会社ヤマグチリペアラー等も,相当以前から,「IR−U」又は「ビ

ューティコール」の名称で,同一形態の製品を販売していた(乙20

〜23)。

そして,原告は,これらの販売を認識しながらも,本件訴訟に至る

まで,何らの措置をとっていない。

(ウ) さらに,現在,カラーリングやパーマ,ヘアーケアを目的する機

器としては,まったく新しくミスト型の製品も販売されるなどしてお
り ,必ずしもすべての理美容室にヘアードライヤーが存在する状況で

はない。

(エ ) 以 上のような事情からすれば,遅くとも平成19年11月以降に

ついて,原告製品の形態の周知性は認められない。

3 争点2−2(被告製品の形態は原告製品の形態に類似するか)について

【 原告の主張】

(1) 原告製品の形態及びその要部

ア 原告製品は,シェード部とその中心から左右両端に設けられたヒータ

ー部及びこれらの支持部材であるモーター部(円柱部)とこれに続く支

持部,並びにこれら全体を支えるスタンド部からなる。

イ ヘアードライヤーの性質,目的,用途,使用態様等によれば,原告製

品の形態のうち,もっとも注意を惹く印象的な部分は,その中心機能を

果たすヒーター部とこれを支えるシェード部である(上記1【原告の主

張】(1)参照)。

他方,支持部材であるモーター部(円柱部)とこれに続く支持部は,

シェード部の回動を支援,制御する裏方の役回りを果たすにすぎず,原

告製品の特徴を表すものではない。また,スタンド部は,従来のヘアー

ドライヤーにも存在する普遍的なものであって,需要者の注意を特別に

惹くものではない。

(2) 原告製品と被告製品の形態の主な共通点

原告製品と被告製品は,いずれも帯状シェード回転タイプのヘアードラ

イヤーである。

そして,その枢要部であるヒーター部の形態も,以下のとおり,同じで

ある。

ア 両製品のヒーター部は,いずれもケーシングの中に2種類のヒーター

が内蔵されている。
イ 両 製品のケーシングの寸法(縦横高さ)は同じであり,その形状も,

穴の位置や凹凸の具合,保護ネットの引っ掛かりの位置,止め具の形状

が全く同じである。

ウ 両製品のケーシングに内蔵されている部材の種類,形状,配置等も全

く同じである。すなわち,ヒーターは,同じサイズのセラミックの発熱

体であるバークヒーター2本が同じ間隔で並行に配置されており,その

後ろに同じ形状の反射板が設置され,放熱が反射する構造になっている。

そして,上記バークヒーター2本の間に蛇腹状(アコーディオン構造)

の発熱体が配置され,その背部からファンにより風を当てて送られ,風

がこの蛇腹状の面状の発熱体(PTCヒーター)に触れて温風となって

吹き出して顧客の頭髪を乾燥させる構造となっている。また,このPT

Cヒーターは,同じ模様の蛇腹状(アコーディオン構造)で,同じ寸法

で,同じ位置に配置されている。また,このケーシングを前面で覆う保

護ネットも,縦横高さの寸法,形状,模様,桟の本数,線の太さ,長さ

も全く同じである。

(3) 原告製品と被告製品の形態の主な差異点

これに対して,原告製品と被告製品の形態には,以下のような差異点が

ある。

ア シェード部の両先端の形状は,原告製品は角張っているが,被告製品

は丸みを帯びている。

イ 支持部材であるモーター部の形状は,原告製品は略先端部半球状の円

筒形状であるが,被告製品は全体が略半球形状である。また,原告製品

は,モーター部(円柱部)の円筒の側面に接する支持部の先端に蛇腹を

設けているが,被告製品はモーター部と支持部が一体となっている。

(4) 原告製品と被告製品の形態の比較

ヘアードライヤーのうち一番注目を浴びる主要な部分は,その心臓であ
る ヒーター部とこれを支えるシェード部であり,原告製品と被告製品は,

当該部分のその構造,形状において同一又は類似であり,差異点は設計上

の微細な変更にすぎない。

また,原告製品と被告製品は支持部材の形状に差異があるが,これらは,

帯状シェード回転タイプのヘアードライヤーとしての,枢要部以外の細部

の相違に過ぎない。なお,被告製品の支持部材の形状は,ローラーボール

(甲11)のヒーター部を支える支持部材の形状とほぼ同一又は類似であ

り,被告製品としての印象を強くもたらすものではない。

(5) 小括

したがって,被告製品の形態は,原告製品の形態と類似する。

【被告の主張】

(1) 原告製品の構成態様

ア 基本的構成態様

原告製品は,基本的構成態様として,シェード部,円柱部,支持部,

取っ手部(上記1【被告の主張】(1)ア参照)に加え,脚部の固定部を

備える。

イ 具体的構成態様

原告製品の具体的構成態様は,上記1【被告の主張】(1)イに加えて,

以下のとおりである。

(ア) シェード部

第1シェード及び第2シェードの各先端部に丸みを帯びた赤色の

ランプが設けられている。

シェード部は,円柱部の中心軸を中心に反時計回りに回転し,回転

中に赤色のランプが点滅する。このとき,シェード部は,円柱部を揺

動させながら回転する(甲5)。

第1シェードと第2シェードの各上面には,巾方向に延びたストラ
イ プ状の9本の放熱口が形成されており(なお,本件意匠の放熱口は

7本である。),その長さは同じである。

(イ) 支持部

第2支持部の背面に設けられた制御部には,矩形領域の上側に2つ

の矩形の液晶表示部が設けられている。

また,上記液晶表示部の下方には,4×4のマトリクス状に直径略

12mmの円型のスイッチが設けられている。上記4×4のマトリク

ス状のスイッチの下方には,2つの矩形パターンが設けられ,左側の

矩形パターンには「Boomerang」の文字が形成され,右側の

矩形パターンの中央には直径略12mmの円型のスイッチが設けら

れている(乙4)。

(ウ) 固定部

固定部は,5本の脚部を有している。また,各脚部の端部に取り付

けられた移動ローラは,所定の間隔を隔てて配置され同軸で回転する

2つの円盤状の車輪と,これらの車輪の上方を覆う傘部とを備えてい

る(乙4)。

(2) 被告製品の構成態様

ア 基本的構成態様

被告製品は,基本的構成態様として,シェード部,円柱部,支持部,

取っ手部(上記1【被告の主張】(2)ア参照),脚部の固定部を備える。

イ 具体的構成態様

被告製品の具体的構成態様は,上記1【被告の主張】(2)イに加えて,

以下のとおりである。

固定部は,4本の脚部を有している。また,各脚部の端部に取り付け

られた移動ローラは,シルバーの球体の表面にリング状の黒色のゴム輪

をはめ込んだ形態を有している。
( 3) 類否について

ア 要部について

原告製品の要部は,シェード部,円柱部,支持部,取っ手部及び固定

部からなる原告製品の全体形態であるといえる(上記1【被告の主張】

(3)ア参照)。なお,固定部の脚部は,原告製品の全体形態の中で比較

的大きな割合を占めるため,取引者・需要者の注意を惹きやすい部分で,

原告製品の主要部であるといえる。

イ 差異点の評価

(ア) シェード部の態様

原告製品のシェード部は,ゴツゴツとした荒削りで男性的な印象

与える美感を表出している。これに対し,被告製品のシェード部は,

シルエットの曲線が全体的に緩やかであるため,滑らかな女性的な印

象を与える美感を表出している(上記1【被告の主張】(3)イ(ア))。

また,原告製品の各シェードの先端には回転中に点灯する赤色のラ

ンプが設けられ,被告製品のシェードとは全く異なる印象を看者に与

えている。

さらに,原告製品のシェード部は,円柱部を揺動させながら回転す

る(甲5)。これに対し,被告製品のシェード部は,所定の位置に固

定された円柱部の中心軸を中心に時計回りに回転する。このようなシ

ェード部の回転の違いによって,原告製品と被告製品とは全く異なる

印象を看者に与えている。

(イ) 円柱部の態様

原告製品の円柱部は,上側は上方に突出し,やや丸みを帯びた曲面

を形成している。そして,当該やや丸みを帯びた曲面は,原告製品の

最も高い位置にあり,正面,背面,平面,右側面および左側面の5方

向から見え,看者の注意を特に惹く要部である。これに対し,被告製
品 の円柱部は,厚みが薄く,正面視,背面視,平面視,底面視からは

見えず,被告製品の全体形態に与える影響は小さい。また,被告製品

の円柱部の端部には丸みを帯びた曲面はない(上記1【被告の主張】

(3)イ(イ))。

(ウ) 支持部の態様

原告製品の支持部は,外形が不連続に折れ曲がり,ゴツゴツとした

荒削りで男性的な印象を与える美感を表出している。また,全体的に

下側にうつむいた印象を与える。これに対し,被告製品の支持部は,

シルエットの曲線が連続的かつ緩やかであるため,滑らかな女性的な

印象を与える美感を表出している。また,支持部の外形は「さじ」を

立てたような形状で,全体的に姿勢が真っ直ぐに延びた印象を与える

(上記1【被告の主張】(3)イ(ウ))。

また,原告製品と被告製品とでは,制御盤のパネルの形態が大きく

異なり,全く異なる印象を看者に与えている。当該パネルは,操作者

が操作を行う際に目視される部分であり,看者の注意を特に惹く要部

である。

(エ) 取っ手部の態様

原告製品の取っ手部は,矩形のリング状であるのに対し,被告製品

の取っ手部はいかり型である(上記1【被告の主張】(3)イ(エ))。

(オ) 固定部の態様

原告製品と被告製品とでは,脚部の数が異なるとともに,移動ロー

ラの形態が大きく異なり,全く異なる印象を看者に与えている。

ウ 小括

以上述べた差異点は,商品等表示という観点から製品全体の美感に影

響を与えるものである。

したがって,被告製品の形態は,原告製品の形態に類似しない。
4 争 点2−3(原告製品と被告製品との混同のおそれがあるか)について

【 原告の主張】

(1) 原告製品の形態が周知商品等表示に該当し,被告製品の形態がこれと

類似すること(上記2,3の各【原告の主張】)からすれば,両者の間に

混同が生じていたといえる。

(2) また,被告代表者は,平成7年頃から被告を設立する平成18年10月

までの間,当初は個人で,平成11年2月以降は自らが代表を務める有限

会社シュウワークプロダクツにおいて,原告製品のみを取り扱っていたが,

被告設立後に,安価な被告製品の取扱いを始め,次第に販売の中心を被告

製品に移していったものである。

このような取引の実情をみても,原告製品と被告製品との間には,混同

が生じていたといえる。

【被告の主張】

原告製品と被告製品とでは,その形態が異なる上,以下の点からすれば,

原告製品と被告製品とに混同は生じない。

(1) 原告製品は「ブーメラン(Boomerang)」,被告製品は「ビューティコ

ール(Beauty Call)」とその名称は全く異なるところ,これらの名称は,

各製品自体に付されると共に,各製品の広告等にも表示されている(乙2

4)。また,原告製品と被告製品は価格も大きく異なっている。

(2) 被告は,原告製品の中古品を販売しているが,原告製品と被告製品が

同一のものであるかのような売り方はしておらず,各ショールームでもイ

ンターネット上でも,顧客が多数の理美容品関連の製品を並べて,比較検

討して購入できるようにしている(乙35,37)。顧客から誤って購入

した旨のクレーム等を受けたこともない。

な お,原告は,被告製品は,原告製品の代用品として購入されていると

主張するが,被告製品の販売を開始したのは,原告製品の販売台数が減少
し た後の平成18年であり,被告製品の販売開始と原告製品の販売減少と

因果関係はない。

5 争 点2−4(原告に,営業上の利益侵害され,又は侵害されるおそれが

あるか)について

【 原告の主張】

原告は,原告製品について,金型を保有しており受注生産できる態勢にあ

るのであって,製造廃止になっているわけではない。

したがって,被告製品の販売等により,営業上の利益侵害され,又は侵

害されるおそれがある。

【被告の主張】

原告製品は,仮に受注生産を行っているとしても,実質的にはほとんど販

売されていない。

したがって,原告製品は,現時点では市場に流通しているとはいえず,原

告に,営業上の利益侵害され,又は侵害されるおそれがあるとはいえない。

6 争 点3(原告の損害額)について

【 原告の主張】

(1) 被告は,被告製品を,平成19年11月15日から平成21年3月2

5日(本件意匠権の存続期間の満了日)までの間に少なくとも400台,

平成21年3月26日から同22年11月15日までの間に少なくとも

400台販売した。

(2) 被告における被告製品1台当たりの販売による利益は,少なくとも4

万円である。

(3) したがって,被告が平成19年11月15日から平成21年3月25

日までの間に被告製品の販売によって得た利益は,金1600万円を下る

ことはなく,意匠法39条2項により,同金額が,意匠法侵害の不法行為

に基づく損害額と推定される。
ま た,被告が平成19年11月15日から平成22年11月15日まで

の間に被告製品の販売によって得た利益は,金3200万円を下ることは

なく,不正競争防止法5条2項により,同金額が,不正競争防止法違反に

基づく損害額と推定される。

【被告の主張】

事実関係は否認し,主張は争う。

第4 当裁判所の判断

1 意 匠権侵害に基づく請求(争点1)について

本 件意匠の構成

証 拠(甲1)及び弁論の全趣旨によれば,本件意匠は,別紙本件意匠公

報に記載のとおりであり,意匠に係る物品を「ヘアドライヤ本体」とする

もので,その構成態様は,次のとおりと認められる。

なお,原告は,本件意匠の構成について,以下に加えて,ヒーター部に

つき原告製品の当該構成(別紙原告製品写真及び図面3参照)に基づき詳

細に主張するが,当該構成は,本件意匠公報から明らかではないため,本

件意匠の構成態様と認めることはできない(意匠法24条1項)。

ア 基本的構成態様

A シェード部(ヒーター部を備えたシェード型の部分)

@ 略 薄板状体を側面視略倒「亀甲括弧」状に折り曲げた態様である(以

下,折り曲げた部分のうち,右側面図において左側に位置する部分

を「第1シェード部」,右側に位置する部分を「第2シェード部」

という。 。


A 第 1シェード部及び第2シェード部の各平面視形状は,いずれも略

矩形状である。

B シ ェード部は,円柱部の軸を中心に左右対称であり,第1シェード

部は及び第2シェード部は,上記軸に対して,それぞれ約45度の
角 度に傾斜している。

C 第 1シェード部及び第2シェード部の背面側には,側面視略くさび

型状の膨出部が,正面視の横幅をシェード部の横幅よりやや狭くす

る態様で形成されている。

B 円柱部(シェード部の背面側の中央と接合する略円柱状の部分)

@ 円柱部の頂面はなだらかな略凸湾曲面状である。

A 円柱部の軸は,スタンドの戴置面に対し,約70度傾斜している。

C 支持部(シェード部を支持する部分)

@ 平 面視略矩形状の略厚板状体を側面視略倒「への字」状に折り曲げ

た態様である(以下,折り曲げた部分のうち,円柱部と接合する短

い部分を「第1支持部」,スタンド側に位置する長い部分を「第2

支持部」という。なお,第2支持部は,第1支持部に対して略12

0度の角度を有しており,第2支持部は途中でわずかに屈曲してい

る。 。


A 円 柱部の側面の中央と接合している。

D 取っ手部(支持部の下方に設けられた取っ手部分)

底面視で略矩形のリング状である。

イ 具体的構成態様

A シェード部について

@ シ ェード部の内側の中央には「オゾン送風口」が,第1シェード部

及び第2シェード部には,それぞれ内側に「ヒーター部」,背面側

に「放熱口」がある。

A オ ゾン送風口は,円形である(なお,直径はシェード幅の略4分の

1である。 。


B ヒ ーター部には,縦6本及び横3本の格子で構成される網状格子が

取り付けられ,その中に,ヒーター収納部として,比較的長めの矩
形 枠が2つ及びそれに挟まれた短めの矩形枠が1つある。

C 放 熱口は,略正方形状の横桟状孔部である。

C 支持部について

@ 第 1支持部は,底面側に膨出部が形成され,その中央は蛇腹状であ

る。

A 第 2支持部の背面側の中央には「制御部」があり,その下には「放

熱口」がある。

B 制 御部は略矩形状で,上端と下端に大きめの略矩形状のスイッチが

2個ずつ,それらの間に小さいスイッチが約18個配置されている。

C 放 熱口は,横長矩形状の横桟状孔部が形成されている。

(2) 被告意匠の構成

証拠(乙1〜3,5,6,甲56〜60)及び弁論の全趣旨によれば,

被告意匠は,ヘアードライヤー(本体)であって,その構成態様は次のと

おりと認められる。

ア 基本的構成態様

A シェード部

@ 略 薄板状体を側面視略倒「亀甲括弧」状に折り曲げた態様である(以

下,折り曲げた部分のうち,右側面図において左側に位置する部分

を「第1シェード部」,右側に位置する部分を「第2シェード部」

という。 。


A 第 1シェード部及び第2シェード部の各平面視形状は,いずれも側

面側が略円弧状に膨出した略「卵形」状である。

B シ ェード部は,円柱部の軸を中心に左右対称であり,第1シェード

部及び第2シェード部は,上記軸に対して,それぞれ約45度の角

度に傾斜している。

C シ ェード部は,平面視外周部に縁部を設けると共に,背面側が全体
に 肉厚状に膨出している。

B 円柱部

@ 円 柱部の頂面の形状は不明である。

A 円 柱部の軸は,スタンドの戴置面に対し,約45度の角度である。

C 支持部

@ 円 柱部の頂面を内蔵する,頭部が大きい略半球状で下窄まり状の,

倒立したひしゃく形状である。支持部の略半球状の頭部に細幅な畝

状の凸部が形成されている。

A 円 柱部とは,その頂面を内蔵する形で接合している。

D 取っ手部

底面視でT字状である。

イ 具体的構成態様

A シ ェード部について

@ シ ェード部の内側の中央には「オゾン送風口」が,第1シェード部

及び第2シェード部には,内側に「ヒーター部」,背面側に「放熱

口」がある。

A オ ゾン送風口は,円形である(なお,直径はシェード幅の略2分の

1である。 。


B ヒ ーター部は,外枠を除き,縦4本及び横約27本の格子で構成さ

れる網状格子が取り付けられ,その中に,ヒーター収納部として,

比較的長めの矩形枠が2つ及びそれに挟まれた短めの矩形枠が1

つある。

C 放 熱口は,略台形状の横桟状孔部である。

C 支持部について

@ 支 持部の背面側の中央には「制御部」があり,その下には「放熱口」

がある。
A 制 御部は略矩形状で,3列3段に配列された小円形状のスイッチが

主として配置されている。

B 放 熱口は,横長矩形状の横桟状孔部が形成されている。

本 件意匠の要部について

ア 要 部について

登 録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は,需要者の視

覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものである(意匠法24条

項)。

し たがって,その判断にあたっては,意匠に係る物品の性質,用途,

使用態様,さらには公知意匠にない新規な創作部分の存否等を参酌して,

需要者の注意が惹き付けられる部分を要部として把握した上で,両意匠

が要部において構成態様を共通にするか否かを中心に観察し,全体とし

て美感を共通にするか否かを判断すべきである。

需要者について

本 件意匠及び被告意匠は,いずれもヘアードライヤーに関するもので

あり,その需要者は理美容業者である。

ウ 使 用態様について

ア ヘ アードライヤーは,理美容室において,利用客に対し,パーマ

や毛染めをするときに薬液の浸透を促進させたり,濡れた髪を乾燥さ

せたりするために用いられる器具である。

使 用時には,理美容椅子に座った利用客の側に設置され,利用客の

頭部を覆う高さにシェード部の位置が調節され,その後制御部を操作

して通電することにより,第1支持部を軸として,シェード部及び円

柱部が左右に90度ずつ回動するとともに,円柱部を軸として,シェ

ード部が左右に90度ずつ回動し,2つのヒーター部から吹き出す熱

風が利用客の頭髪に当たることにより,薬液の浸透や乾燥が行われる
こ とになる(甲1「説明」 「使用状態を示す参考図1・2」参照)
, 。

イ 理 美容室において,使用しないときは,店舗の隅などに置かれて

おり,使用の必要が生じたときに,利用客のもとに移動して使用され

るのが通常である(弁論の全趣旨)。

エ 公 知意匠について

本 件意匠権の出願以前において,ヘアードライヤーの意匠には,@シ

ェード部が円筒型で,これを利用客の頭部に被せて使用する形態のもの

(甲14),Aヒーター部が利用客の頭部の上,左右,後ろなどに点在

した形態のもの(甲13),Bシェード部が環状の形態のもの(甲11。

タカラベルモント社のローラーボール)などがあった。

一 方,本件意匠のように,略薄板状体を側面視略倒「亀甲括弧」状に

折り曲げた態様のシェード部を,円柱部の軸を中心として左右対称にな

るように配置し,これを回動させて使用する形態のものは見当たらない。

オ 本 件意匠の要部

ア 本 件意匠は,上記 ア のとおり,シェード部,円柱部,支持部及

び取っ手部から構成されるところ,このうちシェード部,円柱部及び

支持部は,本件意匠の全体において少なくない割合を占めており,意

匠全体の骨格を構成している。

こ れらの部分について,例えば,正面側から見ると主にシェード部

及び円柱部が,背面側から見ると主に支持部が中心的に看取されるが,

ヘアードライヤー本体は,上記ウのとおり,使用時には,理美容室の

利用客の近くに設置され,正面,背面,左右側面の各方向から立体的

に観察されることになるし(シェード部の位置調節や,制御部の操作

の際にも,特定方向からの観察に限定されるものではないといえる。 ,


また,使用しないときは,理美容室の隅などに置かれ,このときも,

特定方向からの観察に限定されるものではない。
そ うすると,本件意匠のうち需要者の注意が惹き付けられる部分

(要部)は,シェード部,円柱部及び支持部の具体的な形状にあると

いうべきであるが,取っ手部については,意匠全体の骨格を構成する

ものとはいえず,要部とはいえない。

ま た,上記形状のうち,シェード部の「オゾン送風口」 「ヒーター


部」 「放熱口」の具体的形状,支持部の「制御部」
, 「放熱口」の具体

的形状は,意匠全体の骨格を構成するものではなく,要部には含まれ

ない。

イ 原 告は,本件意匠の要部は,公知意匠との比較,機能的な意義か

らヒーター部とこれを支えるシェード部に限定される旨主張する。

確 かに,原告の主張するとおり,本件意匠のシェード部の形状(略

薄板状体を側面視略倒「亀甲括弧」状に折り曲げた態様)は,上記エ

の各公知意匠のシェード部(円筒型,点在型,環状型)とは異なるも

のであるが,各公知意匠と異なる形状をとっているのは,シェード部

のみならずシェード部を支持する部分(本件意匠のうち円柱部及び支

持部に対応する部分)についても同様であり(甲11,13,14),

公知意匠との比較において,本件意匠の要部をシェード部に限定すべ

きということはできない。

ま た,原告は,ヘアードライヤーの機能を発揮するのはヒーター部

とこれを支えるシェード部であるため,要部はかかる部分に限定され

ると主張するが,そもそも意匠の類否は,需要者の視覚を通じて起こ

させる美感に基づいて検討されるのであることからすれば(意匠法2

4条2項),当該物品の機能を発揮する部分であることのみをもって,

意匠の要部を判断すべきではないといえるし,本件意匠においては,

シェード部,円柱部及び第1支持部の動きが一体となって,機能を発

揮しているというべきであるから,いずれにしても本件意匠の要部を
ヒ ーター部及びシェード部に限定すべきということはできない(なお,

本件意匠のシェード部は,上記 ウ のとおり使用時に独創的な動きを

することが認められるが,このような動き自体も円柱部及び第1支持

部と一体となって実現されていることからすれば,やはり,本件意匠

の要部をシェード部に限定すべき理由にはならない。 。


し たがって,本件意匠の要部がヒーター部とこれを支えるシェード

部に限定される旨の主張には理由がない。

類 否について

ア 本 件意匠及び被告意匠の共通点及び差異点

本 件意匠と被告意匠は,いずれもシェード部,円柱部,支持部,取っ

手部を有するほか,以下の共通点及び差異点を有する。

ア 共 通点

A シ ェード部

@ 側 面視形状(基本的構成態様)

い ずれも略薄板状体を側面視略倒「亀甲括弧」状に折り曲げた

態様である。

ま た,いずれも円柱部の軸を中心に左右対称であり,第1シェ

ード部及び第2シェード部は,上記軸に対して,それぞれ約45

度の角度に傾斜している。

A 構 造(具体的構成態様)

い ずれもシェード部の内側の中央には「オゾン送風口」が,第

1シェード部及び第2シェード部には,内側に「ヒーター部」,

背面側に「放熱口」がある。

B オゾン送風口,ヒーター部及び放熱口の形状(具体的構成態様)

い ずれも「オゾン送風口」は円形,
「ヒーター部」は格子状,
「送

風口」は矩形状の横桟状孔部である。
C 支 持部

@ 構 造(具体的構成態様)

い ずれも支持部の背面側の中央には「制御部」があり,その下

に「放熱口」がある。

A 制 御部及び放熱口の形状(具体的構成態様)

い ずれも「制御部」は略矩形状で,複数のスイッチが配置され

ており,「放熱口」は横長矩形状の横桟状孔部である。

イ 差 異点

A シ ェード部

@ 平 面視形状(基本的構成態様)

本 件意匠は略矩形状であるのに対し,被告意匠は側面側が略円

弧状に膨出した略「卵形」状である。

A 背 面側の形状(基本的構成態様)

本 件意匠は第1シェード部及び第2シェード部の背面側には,

側面視略くさび型状の膨出部が,正面視の横幅をシェード部の横

幅よりやや狭くする態様で形成されているのに対し,被告意匠は

平面視外周部に縁部を設けると共に,背面側が全体に肉厚状に膨

出している。

B ヒ ーター部の具体的形状(具体的構成態様)

本 件意匠は縦6本及び横3本の格子状であるのに対し,被告意

匠は外枠を除き縦4本及び横約27本の格子状である。

C 放 熱口の具体的形状(具体的構成態様)

本 件意匠は略正方形状であるのに対し,被告意匠は略台形状で

ある。

B 円 柱部

@ 形 状(基本的構成態様)
本 件意匠はなだらかな略凸湾曲面状の頂面が露出しているの

に対し,被告意匠では円柱部の頂面が支持部に内蔵され,その形

状は不明である。

A 円 柱部の長さ(基本的構成態様)

本 件意匠と比較して,被告意匠では,シェード部と支持部とを

接続する短い円柱でしかない。

B 円 柱部の軸のスタンド戴置面に対する角度(基本的構成態様)

本 件意匠は約70度であるのに対し,被告意匠は約45度であ

る。

C 支 持部

@ 形 状(基本的構成態様)

本 件意匠は,平面視略矩形状の略厚板状体を側面視略倒「への

字」状に折り曲げた態様であるのに対し,被告意匠は,頭部が大

きい略半球状で下窄まり状の倒立したひしゃく形状である。

A 円 柱部との接合態様(基本的構成態様)

本 件意匠は,円柱部の側面の中央において支持部と接合するの

に対し,被告意匠は,支持部が円柱部の頂面を内蔵する形で接合

している。

B 制 御部の具体的形状(具体的構成態様)

本 件意匠は,上端と下端に大きめの略矩形状のスイッチが2個

ずつ,それらの間に小さいスイッチが約18個配置されているの

に対し,被告意匠は,3列3段に配列された小円形状のスイッチ

が主として配置されている。

D 取 っ手部(基本的構成態様)

本 件意匠は底面視で略矩形のリング状であるのに対し,被告意匠

は底面視でT字状である。
イ 類 否の判断について

ア 本 件意匠と被告意匠は,上記アのとおり,シェード部の側面視

形状(上記ア ア A @)及び構造(上記ア ア A A),支持部の構造

(上記ア ア C @),シェード部のうちオゾン送風口,ヒーター部及

び放熱口の形状(上記ア ア A B),支持部のうち制御部及び放熱口

の形状(上記ア ア C A)において共通する一方で,シェード部の

平面視形状及び背面側の形状(上記ア イ A @, ,
A) 円柱部の形状,

長さ,角度,支持部の形状及び支持部と円柱部の接合態様(上記ア

イ B @,A,B,C@,A),シェード部のうちヒーター部及び放

熱口の具体的形状(上記ア イ A B,C),支持部のうち制御部の具

体的形状(上記ア イ C A),取っ手部の形状(上記ア イ D )にお

いて異なっている。

イ こ のうち,円柱部の形状,角度及び支持部の形状及び支持部と

円柱部との接合態様についての差異点は本件意匠の要部に関する

ものであり,このような差異点によって,本件意匠は,より凹凸の

多く角張った印象を与えるのに対し,被告意匠は,より丸みを帯び

た滑らかな印象を与える。また,円柱部は,本件意匠では独立した

存在として強い印象を与えるのに対し,被告意匠ではシェード部と

支持部を接合する短い部分にすぎず,格別の印象を与えない。

ウ シ ェード部について,本件意匠と被告意匠は,その形状及び構

造に一定の共通点がみられるものの,上記 の とおり本件意匠の要

部はシェード部の形状に限られるものではなく,上記 ア の 差異点

がもたらす印象の違いは大きいというべきであるから,シェード部

の共通点がこれを凌駕するような共通の美感を生じさせるとは認

められない。むしろ,シェード部の具体的形状をみると,本件意匠

は略矩形状でより角張った印象を与えるのに対し,被告意匠は略
「 卵形」状でより丸みを帯びた印象を与えており,円柱部及び支持

部の形状の差異点によって生じる両意匠の印象の違いと同様の,異

なった印象を与えるものといえる。

し たがって,シェード部についての一定の共通点があるとしても,

全体として,両意匠に共通の美感が生じるとはいえない。

エ そ のほか,シェード部のうちオゾン送風口,ヒーター部及び放

熱口,支持部のうち制御部及び放熱口,取っ手部の形状については,

いずれも本件意匠の要部ではなく,これらについての共通点及び差

異点が,両意匠の全体の印象に影響するものではない。

(オ) 以上のとおり,本件意匠と被告意匠は,需要者に異なる印象

与え,その美感を異にするというべきであるから,本件意匠が被告

意匠に類似するとはいえない。

( 5) 小括

したがって,原告の意匠権に基づく請求は,その余の点について検討す

るまでもなく,理由がない。

2 不 正競争防止法違反に基づく請求(争点2)について

争 点2−1(原告製品の形態は,周知商品等表示(不正競争防止法2条

1項1号)に該当するか)について

ア 商 品形態の商品等表示該当性

商 品の形態は,本来的には,商品としての機能・効用の発揮や商品の

美観の向上等のために選択されるものであり,商品の出所を表示する目

的を有するものではない。

し かし,特定の商品の形態が独自の特徴を有し,かつ,この形態が長

期間継続的かつ独占的に使用されるか,又は短期間でも強力な宣伝等が

伴って使用されることにより,その形態が特定の者の商品であることを

示す表示であると需要者の間で広く認識されるようになった場合には,
当 該商品の形態が,不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示

として保護されることがあり得ると解される。

イ 原告製品の形態の商品等表示該当性について

ア 商 品形態の特別顕著性について

原 告製品の形態は,シェード部が略薄板状体を側面視略倒「亀甲括

弧」状に折り曲げた態様で,これを回動させて使用される。

掲 記の各証拠によれば,原告製品の販売が開始された平成4年当時,

ヘアードライヤーの形態としては,@ヒーター部を備えたシェード部

が円筒型で,これを利用客の頭部に被せて使用する形態(甲14),

Aヒーター部が利用客の頭部の上,左右,後ろなどに点在した形態の

もの(甲13),Bヒーター部を備えたシェード部が環状の形態(甲

11。タカラベルモント社のローラーボール)などがあったものの,

原告製品のように,ヒーター部を備えたシェード部が帯状であり,こ

れを回動させることによって使用するものは,存在していなかったこ

とが認められる。

し たがって,原告製品の上記形態は,独自の特徴を有するものであ

ったといえる。

イ 周 知性について

a 事 実関係

掲記の各証拠及び弁論の全趣旨によると,原告製品の販売,広告

宣伝等については,以下の事実が認められる。

需 要者

ヘ アードライヤーの需要者は理美容業者である。平成5年度以

降の理容所及び美容所の施設数は,別紙理美容所施設数記載のと

おりで,33万件ないし35万件台である。

な お,原告は,日本国内の美容室のみにおける周知性を主張す
る が,理容室と美容室を区別することについて,合理的な理由が

主張されているわけではなく,理美容室業者を需要者と見るのが

相当である。

ヘ アードライヤーは,おおむね7〜10年程度で買換えがされ

る(弁論の全趣旨)。

原 告製品の販売

原 告製品の販売台数は,別紙原告製品販売実績記載のとおりで

ある(甲40,41。なお,上記販売実績には海外向けに販売し

た分も含まれている。 。


原告製品が多く販売されていたのは,平成4年度から平成6年

度までの3年間(4332台,3841台,3337台)であり,

平成12年度までは,毎年2000台前後を販売していたものの,

その後は数百台程度となり,平成18年度以降は200台未満で

ある。

(c) 原告製品の広告宣伝

原告は,原告の代理店を介しての取引を基本にしつつ,全国各

地にショールームを開設し,需要者である理美容業者に原告製品

を実際に体験してもらう等している。

また,原告製品については,平成4年から平成21年までの間,

原告製品を紹介するチラシ(甲16,17,28)が作成・配布

されたほか,原告の理美容品カタログ(甲18〜20,22,3

1〜38),展示会やフェア開催のチラシ(甲21,23,25

〜27,29,30)などで原告製品が紹介されていた。

ま た,原告製品については,平成5年3月,平成6年9月,平

成10年1月に,美容関係の業界誌に広告が掲載された(甲5〜

7)。
(d) 原告製品と同一の機能を有する製品の販売

原告製品と同様に,ヒーター部を備えたシェード部が帯状であ

り,これを回動させることによって使用するヘアードライヤーに

ついては,平成13年以降,韓国のロイヤル社が製造した「ビュ

ーティコール」(被告製品と同一形態である。)が,日本に輸入さ

れるようになった(甲39,乙19)。

同製品は,平成15年から平成17年頃,株式会社アトリエワ

ールドが「IR−U」の名称で販売しており(乙17,18),

株式会社ヤマグチリペアラーなどの販売業者も,「IR−U」又

は「ビューティコール」の製品を取り扱っていた(乙20〜23)。

被告も,平成18年に被告製品の販売を開始し,同社のカタログ

において製品の広告宣伝を行う等している(乙24)。

原告は,これらの販売を認識しながらも,本件訴訟に至るまで,

特段の措置をとっていない(弁論の全趣旨)。

b 検討

以 上を踏まえて,被告製品の販売が開始された平成18年当時の

原告製品の形態の周知性について検討する。

原 告は,平成4年から平成7年当時,原告製品の販売を重点的

に行っており,そのための営業活動を行っていたといえる(甲5,

6,16〜24等参照)。

し かしながら,その販売台数は,販売当初の平成4年度は40

00台であったものの,その後はおおむね減少しており,平成1

3年度以降は数百台程度となっている。理美容所の施設数が33

万件ないし35万件台であったことからすれば,ヘアードライヤ

ーが7〜10年程度で買い換えられる製品であることも踏まえ

たとしても,その販売台数を特別多いと評価することはできず,
原 告製品は,販売当初こそ市場において一定の評価を得たものの,

その後,当該評価が定着するに至ったとまではいい難い。

ま た,チラシやカタログについても,平成4年から平成7年に

かけては,原告製品に主眼を置いたカタログ等が使用されたが,

その後は,原告製品を他の理美容品と共に紹介するチラシ等が使

用されているにすぎないことからすれば,これをみた需要者・取

引者が,原告製品を特に意識して認知していたということはでき

ない(特に,平成7年以降は,原告が製造販売する他のヘアード

ライヤーである「ビビアン」 「エクセル」 「わくわく21」など
, ,

と共に紹介されている。 。さらに,新製品として原告製品を紹介


するチラシも作成配布されていたことが認められるが,これらは

販売開始当初の限定された時期に配布されたにすぎないといえ

ることからすれば,その後の周知性を基礎付けるものということ

はできない。

さ らに,平成15年以降,原告製品と同様の商品(ヒーター部

を備えたシェード部が帯状であり,これを回動させることによっ

て使用するヘアードライヤー)が韓国から輸入されるようになっ

ており,平成18年当時は,既に輸入販売が開始されてから3年

が経過していたことになる。

以 上によれば,被告製品が販売されるようになった平成18年

当時,原告製品の形態が,原告の商品等表示として,需要者の間

広く認識されていたと認めることはできない。

原 告は,原告製品の形態は,平成7年頃に周知性を獲得し,そ

れがその後も失われていないと主張するようであるが,平成7年

当時,3年程度の販売実績しかなく,その後の販売台数の低下は

上記のとおりであることからすれば,仮に平成7年頃に一定の周
知 性があったとしても,平成18年の時点でそれがあったという

ことはできない。

ウ 小括

し たがって,被告が,平成18年以降,被告製品を販売したことが,

不正競争防止法2条1項1号の不正競争に当たるとはいえない。

ま とめ

以 上のとおりであって,原告の不正競争防止法違反に基づく請求は,そ

の余の点について検討するまでもなく理由がない。

3 結論

以 上によれば,原告の請求にはいずれも理由がない。よって,主文のとお

り判決する。



大阪地方裁判所第21民事部



裁判長裁判官 谷 有 恒




裁判官 松 川 充 康




裁判官 網 田 圭 亮
(別 紙)



原告製品目録



「ブーメラン」という名称のヘアードライヤー



以 上
(別 紙)



被告製品目録



「ビューティコール」という名称のヘアードライヤー



以 上