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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成27ネ10070 不正競争行為差止等請求控訴事件 判例 不正競争防止法
平成26ワ29417 不正競争行為差止等請求事件 判例 不正競争防止法
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事件 平成 26年 (ワ) 25645号 不正競争行為差止等請求事件
東京都港区<以下略>
原告株式会社メテックス
同訴訟代理人弁護士 木下洋平
同 補 佐人弁理士亀卦川巧 新潟県燕市<以下略>
被告 株式会社アオヤギコーポレーション
同訴訟代理人弁護士 渡邊髟v
同 小金澤俊裕
同訴訟代理人弁理士 近藤彰
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2015/11/11
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は,別紙物件目録記載の商品を譲渡し,引き渡し,譲渡若しくは引渡しのために展示し,輸出し,輸入し,若しくは電気通信回線を通じて提供してはならない。
2 被告は,別紙物件目録記載の商品を廃棄せよ。
3 被告は,原告に対し,200万円及びこれに対する平成26年10月8日から支払済みまで年5分の割合の金員を支払え。
事案の概要等
1 本件は,原告が,被告に対し,(1)@主位的には,被告の販売に係る別紙物 1 件目録記載の防災用キャリーバッグ(以下「被告商品」という。)は,原告の販売に係る 防災用キャリーバッグ( 商品 名 「EX.48サバイバルローラーバッグパワーグランデ」。平成23年9月1日から販売開始。以下「原告商品」という。)の形態を模倣したものであり,被告による被告商品の販売は,不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為に該当すると主張して,A予備的には,原告商品の形態は,遅くとも平成25年11月頃までに,原告の商品等表示(商品又は営業を表示するもの)として需要者の間に広く認識されている状態に至っているところ,被告商品の形態は,原告商品の形態類似し,原告商品と混同を生じさせるから,被告による被告商品の販売は,同項1号の不正競争行為に該当すると主張して,平成25年11月から平成26年6月までの8か月間の被告商品の販売につき,同法5条2項に基づき,不法行為による損害賠償金200万円及びこれに対する平成26年10月8日(不法行為後である訴状送達の日の翌日)から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める(前記第1の3)とともに,(2)上記(1)のAに掲げたとおり,被告が被告商品を譲渡し,引き渡し,譲渡若しくは引渡しのために展示し,輸出し,輸入し (以下,これらの行為をまとめて「譲渡等」という。),若しくは電気通信回線を通じて提供することは,同法2条1項1号の不正競争行為に該当する旨主張して(原告は,上記のとおり,被告商品を「電気通信回線を通じて提供」することの差止めを求めているが,有体物である被告商品が「電気通信回線を通じて提供」されるおそれがあるとする理由は,明らかでない。),同法3条に基づき,上記各行為の差止め及び被告商品の廃棄を求めた(前記第1の1及び2)事案である。
2 争いのない事実 (1) 当事者 原告は,昭和57年に設立され,防災用品,キッチン用品,健康・医療・美容関連用品,ファッション製品及びスポーツ・アウトドア用品等を含む家庭用品,日用品雑貨及び一般消費者製品の企画・輸出入・販売等をしている株式会社である。
2 被告は,昭和61年に設立され,防災用及びキッチン用品等を含む日用雑貨品の販売及び輸出入等をしている株式会社である。
(2) 原告商品 原告は,平成23年9月1日,原告商品の販売を開始した。
(3) 被告商品 被告は,遅くとも平成25年11月頃以降,被告商品を販売している(被告商品が同月頃より前から販売されていたか否か,特に被告商品の販売開始が原告商品の販売開始前であるか否かについては,争いがある。)。
3 争点 (1) 被告商品は原告商品の形態模倣したものといえるか(争点1) (2) 原告商品の形態は原告の商品等表示として周知となっており,被告商品の譲渡等は原告商品と混同を生じさせる行為であるといえるか(争点2) (3) 被告による被告商品の譲渡等は不正目的のない先使用(不正競争防止法19条1項3号)であるといえるか(争点3) (4) 原告の損害の有無及びその額(争点4)
争点に対する当事者の主張
1 争点1(被告商品は原告商品の形態模倣したものといえるか)について 【原告の主張】 (1) 原告商品の開発経緯等 原告は,平成19年頃から,水を内部に直接貯めることができる貯水タンクを備えることを特徴とする商品を販売していたが,平成23年3月頃,ユーザーの声(ヘルメットを入れられる収納部が欲しい,ペットボトルを簡便に出し入れしたい等の意見)を元に,上記商品の改良品として,多くの労力を掛けて,原告商品を独自に開発した。
原告商品は,本体上部及び側面に,本体の収納スペースとは別の収納スペースとして,本体上部収納部及び本体左側面・右側面収納部を設け,本体上部収納部の表 3 面には,雑誌・ペットボトル等を挟みやすいようにゴム紐を螺旋状に掛け,肩掛け及び背中に背負うことも可能にした独自のデザインを採用したものである。
原告商品は,テレビ放送を主体とした通信販売業者である株式会社QVCジャパン(以下「QVC」という。)向けに開発され,同年9月1日から,QVCによるテレビ放映を通じた通信販売により販売が開始された。
(2) 被告商品の形態が原告商品の形態と実質的に同一であること ア 原告商品の形態は,別紙「原告商品『Ex.48サバイバルローラーバッグ パワーグランデ』」の「正面」,「背面」,「右側面」,「左側面」,「背面(持ち手伸長時)」,「内部」及び「底面」の各写真に示されるとおりであり,被告商品の形態は,別紙「被告商品『3WAY防災キャリーバッグ』」の「正面」,「背面」,「右側面」,「左側面」,「背面(持ち手伸長時)」,「内部」及び「底面」の各写真に示されるとおりである(甲28)。
そして,原告商品の構成態様は,別紙「原告商品と被告商品の各構成態様」の「原告商品」欄(以下,同欄記載の各構成態様を「構成態様A―1」などということがある。)に記載のとおりであり,原告商品の形態と対比されるべき被告商品の構成態様は,同別紙の「被告商品」欄(以下,同欄記載の各構成態様を「構成態様a―1」などということがある。 )に記載のとおり(ただし,構成態様a-2及び構成態様d-2は除き,構成態様g-1は冒頭の「全体は暗赤色を基調とし,」を「全体は赤色を基調とし,」と読み替える。)である。
イ 不正競争防止法2条1項3号にいう「模倣」の判断に際しては,同項1号のように混同を生じさせることが要件とされていないことから,対比的に観察すべきである。
上記の点を前提として,原告商品と被告商品の構成態様についてみると,構成態様A-1と構成態様a-1,構成態様Bと構成態様b,構成態様Cと構成態様c,構成態様D-1とd-1,構成態様Eと構成態様e,構成態様Fと構成態様f,構成態様G-1と構成態様g-1がそれぞれ共通しており,内部構造である構成態様 4 Hと構成態様hもほぼ同一である。
被告が原告商品と被告商品の構成態様の相違点として挙げるところは,わずかな寸法の差,微細な構成の有無,細部の色使いの差などにすぎない。被告は,防災用バッグの形態として様々な選択肢があるにもかかわらず,あえて被告商品の形態のほとんど全てに原告商品と同一の形態を採用しており,これは,被告が原告の競争上の成果にただ乗りしていることに他ならない。各部の寸法を変更する程度のことは極めて容易であり,何ら創作性もなく,開発に費用,時間,努力を要するものではない。
このように,被告商品は,上述した原告商品の特徴的形態の組合せをそのまま備えているから,被告商品の形態は,原告商品の形態と実質的に同一であるといえる。
商品の形態が当該商品の機能を確保するために不可欠な形態であるか否か,ありふれた形態であるか否かの判断に当たっては,同種の商品の機能・効用を発揮するため不可避的に採らざるを得ないような形態であるか否かという点に着目すべきである。
そして,リュック・キャリーバッグ型の商品において,その機能・効用を発揮するため不可避的に採らざるを得ないような形態は,箱状の本体,本体に取り付けられる取っ手,本体下部の車輪などに係る形態であり,その余は,任意に選択できる。
したがって,原告商品と被告商品が共通する部分が商品機能を確保するために不可欠な形態であるという被告の主張は,理由がない。
(3) 被告が原告商品に依拠したこと 原告商品は,被告商品が販売される前から市場において流通し,テレビ全国放送,インターネット等を通じて,大々的に宣伝広告されていることから,同業者である被告は,原告商品の形態を知り得る立場にあったところ,上記(2)のとおり,被告商品は,原告商品の形態と酷似している。そして,上記のような酷似性は,偶然には生じない。
この点,被告は,被告商品の販売開始時期が平成23年3月頃であると主張する。
5 しかし,被告が,被告商品の販売開始時期を裏付けるものとして,本件訴訟に提出した書証(インボイス,証明書)は,偽造や改ざんの疑いがあり,信ぴょう性に欠けるものであり,このような証拠に基づく被告の主張は,理由がなく,むしろ,被告が原告商品に依拠した事実を推認させるものである。
(4) 小括 以上より,被告商品は,原告商品の形態模倣した商品(不正競争防止法2条1項3号)であるといえる。
【被告の主張】 (1) 被告が原告商品に依拠したものでないこと 被告は,平成22年10月23日,中国・杭州で開催された展示会において,被告商品の元になる商品を見つけた。そこで,被告は,付属タンク部分の水漏れ,背綿について改良を指示した。同年12月6日,中国から被告商品のサンプル2個が出荷され,同月20日頃,被告に届いた。
その後,平成23年3月7日にも,被告商品が69個出荷され,同月20日頃,被告に届いた。被告は,同月24日,これらを取引先に販売した。
このように,原告が原告商品の開発を始めたとする平成23年3月頃には,既に被告商品のサンプルが作成されていたばかりか,販売までされているのであるから,被告が原告商品に依拠したものでないことは,明らかである。
(2) 被告商品の形態が原告商品の形態と実質的に同一であるといえないこと ア 原告商品及び被告商品の形態(構成態様)は,別紙「原告商品と被告商品の各構成態様」の「原告商品」欄及び「被告商品」欄にそれぞれ記載のとおり(ただし,構成態様A-2,a-2については,下記イにおいて,寸法図を示して主張するとおり,読み替える。)である。
イ 原告商品と被告商品の構成態様についてみると,原告主張の共通点のうち,構成態様A-1と構成態様a-1,構成態様Bと構成態様b,構成態様Cと構成態様c,構成態様D-1とd-1,構成態様Eと構成態様eは,防災用バッグとして 6 一般的であり,特徴的なものではない(この点は,後記ウにおいて,改めて言及する。)。
また,原告商品と被告商品の構成態様A-2と構成態様a-2,構成態様D-2と構成態様d-2,構成態様G-1,G-2と構成態様g-1を対比すれば,原告商品と被告商品とは,一見して,全体の縦横比が相違している(被告において,原告商品と被告商品とを防災用品を収納した状態で計測したところ,下記寸法図に示されるとおり,その寸法,本体部分の縦横比,本体前面収納部及び左右側面収納部の突出寸法の相違から,一見して全体の縦横比が相違することが見てとれる。)ばかりか,ゴム紐部分の目立ち方が相違するし,赤色の色合いの相違と黒色部分の使用箇所も相違する。
[寸法図:単位cm] <原告商品> <被告商品> したがって,原告商品と被告商品は,その相違部分が商品の全体的形態に与える影響が大きく,上記相違部分が商品全体から見て些細なものにとどまると評価することはできない。すなわち,原告商品と被告商品とは,取引者及び需要者が同一商品と間違うほど酷似しているものではなく,「実質的に同一の形態」(不正競争防 7 止法2条5項)であるとはいえない。
ウ 不正競争防止法2条1項3号にいう「商品の形態」は,「商品の機能を確保するために不可欠な形態」(いわゆる機能的形態)であってはならず,また,「ありふれた形態」でないことをも要すると解されるところ,原告が,原告商品の特徴的形態として主張する各構成態様は,いずれもありふれた形態にすぎない。また,これらのうち,構成態様H,構成態様hは,商品の機能を確保するために不可欠な形態である(なお,被告商品の構成態様hは,別途,貯水タンクを商品として組み入れていることに対応しているのに対し,原告商品の構成態様Hは,貯水タンクを収納するための防水措置にすぎない。)。
(3) 小括 以上より,被告商品は,原告商品の形態模倣したものとはいえない。
2 争点2(原告商品の形態は原告の商品等表示として周知となっており,被告商品の譲渡等は原告商品と混同を生じさせる行為であるといえるか)について 【原告の主張】 (1) 原告商品の販売開始時期である平成23年9月1日以前は,貯水タンク付防災用リュック・キャリーバッグ兼用型の商品の分野において,原告商品のような形態,すなわち,正面視で,本体,ゴム紐が螺旋状に掛けられた本体上部収納部,本体前面収納部,本体左側面収納部,本体右側面収納部を備え,全体は赤色を基調とし,本体上部収納部の逆U字形のファスナより内側の区画が黒色であり,本体前面収納部の前面側に左右方向に1本の銀色の反射素材が設けられているという防災用キャリーバッグは,存在しなかった(なお,特別顕著性の問題は,自他商品等の識別力を発揮し得るか否かの問題であり,周知性の問題とは別であるから,原告商品と比較される他の商品は,原告商品の販売開始時点において,存在している必要がある。)。
また,原告商品は,上記特定の構成態様が相俟って特徴的形態を成しており,その点に自他識別力がある。すなわち,原告商品の自他商品識別力は,特定の構成が 8 組み合わされることにより,発揮されているものである。
このように,原告商品の形態は,貯水タンク付防災用リュック・キャリーバッグ兼用型の商品の分野で,原告商品の販売開始時点において,独自の特徴といえるものであって,自他商品の識別力があるといえる。
したがって,原告商品の形態は,他の同種商品とは異なる顕著な特徴(特別顕著性)を有しており,不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当する。
(2) 原告商品は,平成23年9月1日に販売を開始した後,多岐にわたる販売方法により,日本国内で約4万3000個販売され,平成24年及び平成25年には,年間1万5000個ないし2万個という膨大な売上数量を記録している。
原告商品は,定期的にテレビ放送により紹介・販売され,インターネットでの宣伝広告,展示会への出展,通信カタログ販売による宣伝広告などを通じて,その特徴的形態は,遅くとも被告が被告商品の販売を開始した時期である平成25年11月頃までの間に,原告商品たることを識別する出所表示機能を備えるに至り,現在も,その出所表示機能を備えている。
(3) 需要者の間に混同を惹き起こすか否かの判断に当たっては,隔離的観察方法によるべきである。原告商品と被告商品は,いずれも防災用のキャリーバッグであり,その需要者は完全に一致する。また,原告商品と被告商品の構成態様はほとんど一致し,相違点は寸法及び細部の構成と色使い程度である。この相違により,原告商品がやや縦長,被告商品がやや横長の印象を受けるとしても,被告商品は,周知な商品等表示に該当する原告商品の特徴的形態を完全に備えるものであるから,両者は類似しており,需要者たる一般消費者が原告商品と被告商品とを混同するおそれがあるといえる。
【被告の主張】 (1) 商品の形態が不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当するためには,商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴(特別顕著性)を有していることを要すると解される(知財高裁平成24年(ネ)第1006 9 9号・平成24年12月26日判決参照)。
しかるに,原告の主張に係る原告商品の形態(構成態様)は,個々の構成態様についても,全体としての構成態様についても,需要者が予想できる形態選択の範囲内のものにすぎない。すなわち,原告の主張に係る原告商品の形態の特徴点は,防災用バッグを販売するに当たり,当然に検討すべき事柄であり,原告は,これらを単に組み合わせたにすぎない。そもそも,防災用キットは,種々の防災用品と収納運搬部材の組合せであり,採用されている収納運搬部材に「リュック型」,「キャリー型」,「キャリー付リュック型」があることは,従前から知られているところであるから,防災用キットに「キャリー付リュック型」の収納運搬部材が採用されたとしても,商品形態上,顕著な特徴があるとはいえない。
このように,原告商品の形態は,特別顕著性を有しているとはいえないから,同号にいう「商品等表示」に該当しない。
(2) 原告商品の販売期間は,短期間であり,その広告方法も極めて強力なものではなく,販売個数も爆発的な販売実績であるとはいえない。
したがって,仮に,原告商品の形態が原告の商品等表示であるとしても,「需要者の間に広く認識されているもの」とはいえない。
(3) 原告商品と被告商品の形態を対比すると,原告商品は,左右側面収納部が薄く,ポケット様で,全体が周囲の張り出しの少ない縦長のコンパクトな商品である印象を受けるのに対し,被告商品は,側面収納部を通常のリュックサックのように大きく突出させ,通常のリュックサックでは採用されていない大きく突出した前面収納部を備えた特異な形態で,全体が横長の商品又は腹ボテな印象を受ける。
このように,両者は,別異の商品であるとの印象を受けるから,その形態が「類似」するとはいえないし,同一の商品主体に係る商品であると認識されること(混同)はない。
(4) 以上より,原告商品の形態は,原告の商品等表示であるとは認められないし,周知性を獲得したということもできないし,被告商品はこれと類似するものではな 10 く,混同も生じない。
3 争点3(被告による被告商品の譲渡等は不正目的のない先使用〔不正競争防止法19条1項3号〕であるといえるか)について 【被告の主張】 被告は,前記1において主張したとおり,原告が原告商品を開発したと主張する平成23年3月頃には,既に,被告商品を販売していた。被告は,東日本大震災のために,被告商品を継続的に販売できない状況が続いたが,平成24年6月6日ないし同月8日には,東京ビッグサイトにおいて開催された「Interiorlifestyle Tokyo2012」に出品し,それ以降,被告商品を展示会に出品するようになった。そして,同年9月13日,同年12月25日には,取引先にサンプルを送付し,平成25年1月18日以降,取引先に対する販売を継続している。
このように,被告は,原告商品の開発時頃(すなわち,原告商品の販売開始前)から,被告商品を輸入し,これを販売していたのであって,被告商品の譲渡等につき,被告に不正な目的はない。
したがって,仮に,平成25年11月頃,原告商品の形態が原告の商品等表示として周知性を獲得していたとしても,不正競争防止法19条1項3号により,同法2条1項1号の適用はない。
【原告の主張】 否認し,又は争う。
4 争点4(原告の損害の有無及びその額)について 【原告の主張】 被告による被告商品の販売は,不正競争防止2条1項3号の不正競争行為(主位的主張)又は同項1号(予備的主張)の不正競争行為に該当するところ,被告は,平成25年11月から平成26年6月までの8か月間に,被告商品を合計800個(1か月当たり100個)販売した。被告商品の販売価格は,8000円(税抜) 11 であり,被告は,被告商品1個当たり2500円の利益を得ているから,上記不正競争行為による被告の利益額は,200万円(=2500×800)となる。
したがって,原告は,被告に対し,同法5条2項に基づき,損害賠償として200万円(附帯請求として平成26年10月8日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金)の支払を求めることができる。
【被告の主張】 争う。
当裁判所の判断
1 認定事実 前記争いのない事実,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1) 原告商品の譲渡等について ア 原告商品は,防災用の防災用品を収納運搬するためのリュック・キャリー兼用型の防災用バッグであり,災害時に本体部分に水を貯めて運搬することができるよう,貯水用の箱型のビニールバッグを取り付け,本体内部にはアルミ製の素材で覆われた防水措置を施したことを特徴とした防災用バッグであり,その形態は,概ね,別紙「原告商品『Ex.48サバイバルローラーバッグ パワーグランデ』」の「正面」,「背面」,「右側面」,「左側面」,「背面(持ち手伸長時)」,「内部」及び「底面」の各写真に示されるとおりである(甲1,3ないし11,28,弁論の全趣旨)。
イ 原告商品は,平成23年9月1日にその販売が開始され,QVCによるテレビ放送を通じての平成27年4月までの出荷数量実績は,合計3万4238個であった(甲26,27の1ないし8,弁論の全趣旨)。
原告商品は,インターネット上のウェブサイト(原告が運営管理するウェブサイト,QVCが管理運営するウェブサイト,JALショッピングサイト,ANAショッピングサイト,楽天市場のウェブサイト及びアマゾンのウェブサイト)において, 12 バッグ単体か,避難時の必需品を集めた防災用品をセットにした形で販売されている(甲4ないし9)。
さらに,原告商品は,カタログによる販売も行われており,タカシマヤ通信販売では,平成24年9月1日の特集で防災の日にちなんだ商品として紹介され(甲10),株式会社JALUXのカタログ通信販売のカタログ「JAL WorldShopping Club」では,平成25年の人気アイテムベスト50の中の一つとして紹介されている(甲11)。
なお,原告代表者の陳述書(甲1)には,展示会への出品に関する記載があるが,客観的な裏付けは示されていない(甲22の1ないし24の3には,原告商品をうかがわせる記載は見当たらない。)。
(2) 被告商品の譲渡等について ア 被告商品は,防災用の防災用品を収納運搬するためのリュック・キャリー兼用型の防災用バッグであり,災害時に貯水した給水口付水タンクを本体内部に収納することができ,本体内部はアルミ製の素材で覆われている。その内部構造を除いた外観に係る形態は,概ね,別紙「被告商品『3WAY防災キャリーバッグ』」の「正面」,「背面」,「右側面」,「左側面」,「背面(持ち手伸長時)」及び「底面」の各写真に示されるとおりである(甲12,13,28,弁論の全趣旨)。
なお,原告は,被告商品の内部構造について,箱型のビニール製容器が面ファスナで取り付けられるようにされていることを前提としているが,被告商品(別紙「物件目録」記載の商品。商品名で特定されている。)のうち,このような内部構造を有するものがいつ発売されたのかは,当事者双方の主張及び本件証拠を検討しても,定かではない。すなわち,原告は,被告商品の形態につき,別紙「被告商品『3WAY防災キャリーバッグ』」の「正面」,「背面」,「右側面」,「左側面」,「背面(持ち手伸長時)」,「内部」及び「底面」の各写真に示されるとおりである旨主張している(訴状8,9頁及び別紙図面1)が,被告商品の内部構造については,平成25年10月2日ないし同月4日に開催された「危機管理産業展 13 2013」に出展されていたとされる被告商品を紹介した原告の入手に係るチラシ(甲12)には,給水口の付いたタンク型になった水入れタンクを本体内部に収納できる形の防災用バッグが掲載されており,被告商品を紹介したその余の書証(甲13,乙1の1ないし10)にも,同様に水タンクを本体内部に収納した型のバッグが掲載されているところであって,被告商品の販売が開始されたと原告が主張する平成25年11月時点において,被告商品(別紙「物件目録」記載の商品。商品名で特定されている。)であって,原告主張の内部構造を有するものが販売されていたことを裏付ける証拠はなく,その前後の時点においても,被告商品であって,原告主張の内部構造を有するものが販売されたことを裏付ける証拠は,見当たらない。
イ 被告商品であって,給水口の付いたタンク型になった水入れタンクを本体内部に収納できる形のものは,平成24年10月10日発行の「月刊ぎふと特別号」において,「『3WAY防災バッグ シングルセット』は,小さくても収納力バツグン。シンプルデザインで,普段使いもOK。・・・反射テープ付で夜でも目立ち,水タンクはジャバラ式で,不要の際はコンパクトにできる。」などと写真入りで紹介され,同月17日ないし同月19日に開催される「The 46th International Premium Incentive Show Autumn 2012」に出展予定であることが掲載されているところであり(乙10),また,平成25年10月2日ないし同月4日に東京ビッグサイトで開催された「危機管理産業展2013」の被告用展示ブースで展示・販売され(甲1,12,弁論の全趣旨),その後も,継続して販売されていることがうかがわれるところである(甲13,弁論の全趣旨)。
2 争点1(被告商品は原告商品の形態模倣したものといえるか)について (1) 不正競争防止法2条1項3号は,他人の商品の形態を模倣した商品の譲渡等を不正競争行為とするところ,「商品の形態」とは,「需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形状並び 14 にその形状に結合した模様,色彩,光沢及び質感」(同条4項)をいい,「模倣」とは,「他人の商品の形態に依拠して,これと実質的に同一の形態の商品を作り出すこと」をいうとされている(同条5項)。
そして,同号が「商品の形態」を法的に保護しようとする趣旨は,他人が資金,労力を投下して商品化した商品の形態を他に選択肢があるにもかかわらずことさら模倣した商品を,自らの商品として市場に提供し,その他人と競争する行為は,模倣者においては商品化のための資金,労力や投資のリスクを軽減することができる一方で,先行者である他人の市場における利益を減少させるものであり,事業者間の競争上不正な行為として位置付けるべきものとしたことにあると解されるから,同号によって保護される「商品の形態」とは,商品全体の形態をいい,必ずしも独創的なものであることを要しないが,他方で,商品全体の形態が同種の商品と比べて何の特徴もないありふれた形態である場合には,特段の資金や労力をかけることなく作り出すことができるものであるから,このようなありふれた形態は,そもそも,同号により保護される「(他人の)商品の形態」に該当しないと解すべきである。
また,同号は,「当該商品の機能を確保するために不可欠な形態」について,同号による保護から除外される旨を規定しているが,その趣旨は,商品としての機能及び効用を果たすために不可避的に採用しなければならない商品形態を特定の者に独占させることは,商品の形態ではなく同一の機能及び効用を有するその種の商品そのものの独占を招来することとなり,事業者間の自由な競争を阻害することになりかねないことから,かかる形態を同号の「商品の形態」から除外したものと解される。
そして,「実質的に同一の形態」であるか否かは,当該商品の需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識できる,同種の商品の属する分野や同種の商品の形状の特徴との比較等を考慮して判断すべきである(この点,本件では,原告商品と被告商品は,いずれも防災用品を収納運搬する防災用バッグであるから, 15 需要者は,その収納力や扱いやすさ,どのような物を,どのくらいの量収納できるか〔耐久性も含む〕を考慮した商品の形状,その形状に結合した模様,色彩に着目するものと解される。)。
(2) 以上を前提に,原告商品の形態と被告商品の形態が実質的に同一であるといえるか否かについて検討する。
ア まず,前記争いのない事実,前記認定事実及び弁論の全趣旨によれば,原告商品と被告商品の形態の共通点は,@ 正面視で,本体,本体上部収納部,本体前面収納部,本体左側面収納部,本体右側面収納部を備えている点(構成態様A-1及び構成態様a-1),A 本体の背面側には,キャリー用の持ち手及びこれを左右方向に覆う背当て部材が配設され,上下方向に2本の背負い用ベルトが左右方向に間隔を空けて設けられ,本体左側面収納部の上部と本体右側側面収納部の上部には,肩掛け用ベルトが取り付けられている点(構成態様Bの一部と構成態様b),B 本体と本体上部収納部との境には,正面側から背面側で続くファスナが,本体上部収納部には,本体との境から本体上部収納部の上部背面側に亘って逆U字形のファスナが,本体前面収納部,本体左側面収納部,本体左側面収納部,本体右側面収納部の上部約半分の位置には,それぞれ,各々の側面及び上面に沿うように逆U字形のファスナが設けられている点(構成態様Cと構成態様c),C 本体上部収納部の逆U字形のファスナより内側の区画には,本体との境の中央部とそこから本体上部収納部の上部に亘る左右の3箇所において,ゴム紐が螺旋状にかけられている点(構成態様D-1と構成態様d-1),D 本体左側面収納部,本体右側面収納部のそれぞれの側面の下半分には,ネット状ポケットが設けられていること(構成態様Eと構成態様e),E 本体の底面には,背面側の2箇所に2本のローラ,正面側には2箇所に足が設けられている点(構成態様Fと構成態様f),F ファスナ部と本体上部収納部の逆U字形のファスナより内側の区画が黒色であり,本体前面収納部の前面側には,左右方向に1本の銀色の反射素材が設けられている点(構成態様G―1及び構成態様g-1の一部),G 本体内部の収納部分はアルミ 16 製の素材で覆われている点(構成態様Hと構成態様hの一部)に認められる。
一方,原告商品と被告商品の形態の相違点は,T 寸法の相違,とりわけ本体前面収納部の突出幅及び左右側面収納部の突出幅が異なる点(原告商品と比較して,被告商品は,これらの突出幅が相当程度大きい。),U 原告商品では,本体と本体上部収納部の境部分に2本の背負い用ベルトが取り付けられ,その間に,取手用ベルトが設けられているが,被告商品では,本体と本体上部収納部の境より下の本体部分に2本の背負い用ベルトが取り付けられ,その間に取手用ベルトは設けられておらず,キャスターの引き手部分が設けられている点,V 本体上部収納部にかけられたゴム紐の色が,原告商品は灰色であるのに対し,被告商品は黒色に白点の斑模様である点,W 原告商品は,全体が明赤色を基調としているのに対し,被告商品は暗赤色を基調としている点,X 背負いベルト,肩掛けベルト,側面ネット状ポケットが,原告商品では本体の赤色と同一色であるのに対し,被告商品では,本体の赤色と異なっている点にある。
イ そして,証拠(乙11の2,11の6)及び弁論の全趣旨によれば,防災用品を収納運搬する防災用バッグの形状として,需要者が着目する商品の形状の点に照らすと,共通点である上記アの@,BないしDの点は,被告商品が販売されたと原告が主張する平成25年11月頃の時点において,収納力や扱いやすさを高めるための商品の形態としてはありふれた形態と認められ,また,上記アのA及びEの点については,リュック・キャリー兼用型の防災用バッグであればその機能に不可欠な形態といえる。また,上記アのFの点については,逆U字形のファスナより内側の区画が黒色である点についてはバッグの形状に結合した色彩としてありふれたものと認められ,反射板は安全性を確保するための必要な機能であって,これを目立つ位置であるバッグの正面部分に左右一直線に設けることはありふれているというべきである。
一方,原告商品に比べ,被告商品は,本体の形状,前面収納部及び側面収納部の大きさにおいて,上記相違点Tのとおりの差異があり,この形状の差異により,全 17 体としてその形状が原告商品においては縦長ですっきりとした印象を与えるのに対し,被告商品においては横長ででっぷりとした印象を与える。また,原告商品と被告商品を様々な角度から撮った写真(甲28)によれば,原告商品は,被告商品に比べて,その材質や縫製状態の点においてしっかりとした高品質のものであることが明らかであって,このような差異は,収納力や扱いやすさ,丈夫さといったバッグの特徴的部分における顕著な差異と認めることができる。
以上のとおり,原告商品と被告商品の形態の共通点は,ありふれた形態であるか,防災用バッグの機能に不可欠な形態であるといえ,他方で,需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識できる形状として,収納部分の大きさの差異や素材,縫製状態の点において顕著な差異がある以上,他の共通点をすべて組み合わせた点が共通するとしても,原告商品と被告商品の形態が実質的に同一であるとは,認められない。なお,本体内部の構造において,上記アのGの点のとおり,アルミ製の覆いをすることは,防災用バッグの機能として不可欠な形態であるとはいえず,ありふれた形態であるとも認められないとしても,外部の形状に顕著な差異がある以上,内部構造の一部において共通する上記の点を加えて商品全体としての形状を対比したとしても,実質的に同一であるとは認められない。
ウ 原告は,前記アの共通点のほか,本体の内部が保冷素材で覆われ,箱型のビニール製容器が面ファスナで取り付けられるようにされている点も掲げるが,前記1(2)アにおいて認定したとおり,被告商品であって,箱型のビニール製容器が面ファスナで取り付けられている内部構造を有したものは,いつ発売されたものか,現に販売されているのかどうかが明らかでない。そして,被告商品であって,販売されていることが裏付けられる水タンク付のものと原告商品を比較してみると,両者は,本体内部に水を入れて運搬が可能な防災用バッグである点で共通するとしても,貯水する部分が単なる箱型なのか,給水口からの給水も可能となるタンク型であるのかでは,その形状に顕著な差異があるものといわざるを得ない。被告商品であって,水タンク型のものは,本体内部にアルミ製の覆いが施されている点におい 18 て,原告商品と共通しているとしても,上記の貯水部分の形状が異なることにより,内部構造の点においても,実質的に同一であるとはいえないことは明らかである。
エ 以上のとおり,原告商品と被告商品の形態は,実質的に同一であるとはいえないし,原告の主張に係る構成態様hについては,被告商品であって,そのような内部構造を備えたものの販売時期,その存在がいずれも明らかではないから,原告の主張は,採用することができない。
(3) なお,被告は,原告商品が販売される前から被告商品を輸入していた旨主張し,これを裏付けるべく書証(乙5の1の1ないし8の2)を提出するが,これらについては,原告が主張するように,その信ぴょう性が明らかでないといわざるを得ない。
しかし,被告が,原告商品の形態に依拠して,被告商品を作り出したとする点について,原告は,単に,被告が原告商品に接し得る機会があったことを主張するのみであって,被告が被告商品の販売開始に先立って原告商品に接したことの立証はなく,また,後述のとおり,原告商品の形態が平成25年11月頃までに周知性を獲得したとの立証があるとはいえないから,被告商品が原告商品の形態に依拠して作り出されたと直ちに認めることは,困難であるといわざるを得ない。
3 争点2(原告商品の形態は原告の商品等表示として周知となっており,被告商品の譲渡等は原告商品と混同を生じさせる行為であるといえるか)について (1) 不正競争防止法2条1項1号は,他人の周知な商品等表示と同一又は類似商品等表示を使用することをもって不正競争行為と定めたものであるところ,その趣旨は,周知な商品等表示の有する出所表示機能を保護するため,周知な商品等表示に化体された他人の営業上の信用を自己のものと誤認混同させて顧客を獲得する行為を防止することにより,事業者間の公正な競争を確保することにあると解される。
そして,同号にいう「商品等表示」とは,「人の業務に係る氏名,商号,商標,標章,商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するもの」をいうとこ 19 ろ,商品の形態は,商標等と異なり,本来的には商品の出所を表示する目的を有するものではないが,商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有するに至る場合がある。
このように商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有し,同号にいう「商品等表示」に該当するためには,@商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性),かつ,Aその形態が特定の事業者によって長期間独占的に使用され,又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により,需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっていることを要すると解するのが相当である(知財高裁平成24年(ネ)第10069号・平成24年12月26日判決参照)。
(2) 原告は,原告商品の形態特別顕著性を有する根拠として,「本体,ゴム紐が螺旋状に掛けられた本体上部収納部,本体前面収納部,本体左側面収納部,本体右側面収納部を備え,全体は赤色を基調とし,本体上部収納部の逆U字形のファスナより内側の区画が黒色であり,本体前面収納部の前面側に左右方向に1本の銀色の反射素材が設けられている」ことを主張する。
しかし,原告商品が,防災用バッグであるとすれば,上部に収納部,左右側面に収納部を備えることは,防災用バッグとして防災用品を収納できるようにするために必要不可欠な構成というべきであって,これらの形態が客観的に他の同種商品と異なる顕著な特徴を有しているといえないことは,明らかである。
一方,ゴム紐が螺旋状に掛けられた本体上部収納部を設けること,本体上部収納部の逆U字形のファスナより内側の区画を黒色とし,本体全体については赤色を基調とすること,本体前面収納部の前面側に左右方向に1本の銀色の反射素材を設けることについてみても,本体にゴム紐を螺旋状に掛けた赤色の防災用バッグ(リュック型)は平成23年10月においてみられること(乙11の6),バッグ表面の左右方向に反射素材を設けた防災用バッグ(リュック・キャリーバッグ兼用型)の商品も平成24年3月においてみられること(乙11の2)等に照らすと,上記の 20 原告が特徴的と主張する箇所をすべて組み合わせることは,防災用バッグの需要者において,他の同種商品と異なる顕著な特徴として格段の強い印象が生じるものとはいえない。
したがって,原告商品の形態が,客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有するということはできない。
原告は,原告商品の同種商品は貯水タンク付リュック・キャリーバッグ兼用型の商品とみるべきで,この種の商品においては,原告商品の形態商品等表示性が肯定されるべきである旨主張する。
しかし,原告が特別顕著性を主張する各箇所の中に,貯水タンク付であることは含まれておらず,「原告は原告商品の商品等表示に係る特徴的形態に『貯水タンク』を含めた主張をしていない。」(原告第1準備書面9頁)旨述べているとおり,原告商品に貯水タンクが設けられていることを他の商品と異なる顕著な特徴として主張せず,バッグの外観による形態のみについて特別顕著性を有する旨を明確に主張している。
したがって,特別顕著性の有無の判断に際し,貯水タンク付の商品に限定すべき理由はない。
また,原告は,単なる防災用バッグではなく,リュック・キャリーバッグ兼用型の商品としてみるべきと主張する一方で,原告商品の特徴的形態として,リュック・キャリー兼用の形態であることを主張していない。しかも,防災用品を収納し運搬する物として,リュック・キャリー兼用型であることが,他の同種商品と異なる顕著な特徴であることを裏付ける証拠も明らかでなく,原告の上記主張は採用できない。
以上によれば,原告商品のうち,原告商品の特徴的形態と主張する部分が被告商品の形態と共通するとしても,防災用バッグに必要な構成であるか,他の同種商品にもみられる構成又はその組合せであるから,原告商品の形態は,客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴であるということはできず,これをもって不正競争防 21 止法2条1項1号所定の「商品等表示」に該当するということはできない。
(3) 仮に,原告の主張する構成の組合せ自体をもって,特別顕著性を認める余地があるとしても,前記認定事実の下では,遅くとも平成25年11月頃に原告商品の形態周知性を獲得していたとの原告主張を採用することは,困難である。
すなわち,原告商品が,QVCによるテレビ放送で繰り返し放送され,QVCを通じての販売数が3年間半余りの間に約3万5000個を売り上げたことは認められるものの,これが防災用品の販売としての市場の中でどの程度の占有率を占めるのかについては明らかでないこと,株式会社JALUXのカタログ通信販売で,平成25年の人気アイテムベスト50カタログの掲載として選ばれたことが認められるものの,当該カタログの発行部数も明らかでなく,通信販売による原告商品のシェア率は明らかでないこと,他のカタログ掲載は1誌のみであること,インターネットによる販売は,今やあらゆる商品で行われており,インターネットによる販売という事実だけを周知であることの有力な考慮要素とすることはできず,原告商品の使用者の多数が原告商品の形態上の特徴として,原告が主張する特徴的形態を掲げ,相当程度他の同種製品と区別して認識されていることも,証拠上明らかとはいえないこと,原告が原告商品の構成全体としての特徴を宣伝広告の対象とした実績も,証拠上認められないこと,防災用品の取引実情において,原告が主張する原告商品の特徴的形態に着目して取引をするものとも認められないこと,原告から提出された「価格.com」のウェブサイト(甲16)によれば,防災セットの人気ランキングとして原告商品が15位に位置付けられているとしても,同ウェブサイトは平成27年1月6日から同月12日までのランキングの集計結果であり,原告が主張する平成25年11月頃の周知性を立証するものではないことなどからすれば,本件全証拠を考慮しても,原告商品の形態が,原告の商品表示として,防災用バッグの取引者や需要者において広く認識され,少なくとも平成25年11月頃までに周知性を獲得していたと認めるには不十分であるといわざるを得ない(なお,本件口頭弁論終結の時点においても,周知性の獲得を認めるには足りない。)。
22
結論
以上によれば,原告の請求は,その余の点につき判断するまでもなく,いずれも理由がないから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 嶋末和秀
裁判官 鈴木千帆
裁判官 天野研司