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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成17ワ23171損害賠償等請求事件 判例 不正競争防止法
平成13ワ2935営業秘密使用禁止等請求事件 判例 不正競争防止法
昭和60ワ4131秘密保持義務存在確認等請求事件 判例 不正競争防止法
平成16ワ25297営業行為差止請求事件 判例 不正競争防止法
平成17ワ12938不正競争行為差止等請求事件 判例 不正競争防止法
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事件 平成 13年 (ワ) 26301号 損害賠償等請求事件
原告 メディカルサイエンス株式会社
原告 株式会社アートコネクシヨン
原告ら訴訟代理人弁護士 佐藤忠雄
同 森利明
被告 ワールド・ウィンドウ株式会社
被告A
被告B
上記被告ら訴訟代理人弁護士 御器谷 修
同 島津守
同 梅津有紀
被告C
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2003/05/15
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告Cは,原告メディカルサイエンス株式会社に対し,2716万9877円及びこれに対する平成14年2月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 同被告は,原告株式会社アートコネクシヨンに対し,292万7512円及びこれに対する前同日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 同被告は,原告メディカルサイエンス株式会社に対し,200万円及びこれに対する前同日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 同被告は,原告メディカルサイエンス株式会社の主宰に係る顧客会員組織「氣づきの会」の会員に対し,書面の送付・頒布,電話,面会等によって接触し,同被告が主宰する団体組織への入会勧誘並びに別紙物件目録記載(1)及び(2)の商品の販売活動をしてはならない。
5 同被告は,別紙物件目録記載(2)の商品及びその広告に,別紙表示目録記載の表示をし,又は同目録記載の表示をした上記商品を販売してはならない。
6 同被告は,原告メディカルサイエンス株式会社の主宰に係る顧客会員組織「氣づきの会」の会員及び第三者に対し,原告両社及びその代表者であるDについて,商品「ブレインプラーナ」はDが開発したものではないこと,原告両社には同商品の在庫がなく会員に不良品を販売していること,原告両社が近く倒産すること,原告両社及びDが詐欺的な商売をしていること,その他これに類する陳述を告知・流布してはならない。
7 原告らの被告Cに対するその余の請求を棄却する。
8 原告らの,被告A,被告B及び被告ワールド・ウィンドウ株式会社に対する請求を,いずれも棄却する。
9 訴訟費用は,原告らと被告A,被告B及び被告ワールド・ウィンドウ株式会社との間に生じた分を原告らの負担とし,原告らと被告Cとの間に生じた分を同被告の負担とする。
事実及び理由
請求の趣旨
1 被告らは,原告メディカルサイエンス株式会社に対し,連帯して,2716万9877円及びこれに対する平成14年2月25日(被告ら全員に対して訴状が送達された日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告らは,原告株式会社アートコネクシヨンに対し,連帯して,292万7512円及びこれに対する前同日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告らは,原告メディカルサイエンス株式会社に対し,連帯して,500万円及びこれに対する前同日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告Aは,原告アートコネクシヨン株式会社に対し,417万9840円及びこれに対する平成12年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 被告Bは,原告アートコネクシヨン株式会社に対し,16万2000円及びこれに対する平成12年9月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6 被告らは,原告メディカルサイエンス株式会社の主宰に係る顧客会員組織「氣づきの会」の会員に対し,書面の送付・頒布,電話,面会等によって接触し,被告らが主宰する団体組織への入会勧誘並びに別紙物件目録記載(1)及び(2)の商品の販売活動をしてはならない。
7 被告らは,別紙物件目録記載(1)の商品を,訴外Eから仕入れてはならない。
8 被告らは,別紙物件目録記載(2)の商品を,訴外BioSynergy社及び同KLAMATH BLUE GREEN社から仕入れてはならない。
9 被告らは,別紙物件目録記載(2)の商品及びその広告に,別紙表示目録記載の表示をし,又は同目録記載の表示をした上記商品を販売してはならない。
10 被告らは,原告メディカルサイエンス株式会社の主宰に係る顧客会員組織「氣づきの会」の会員及び第三者に対し,原告両社及びその代表者であるDについて,商品「ブレインプラーナ」はDが開発したものではないこと,原告両社には同商品の在庫がなく会員に不良品を販売していること,原告両社が近く倒産すること,原告両社及びDが詐欺的な商売をしていること,その他これに類する陳述を告知・流布してはならない。
事案の概要
原告メディカルサイエンス株式会社(旧商号「氣づきの会株式会社」。平成12年10月25日に現商号に変更。以下,商号変更の前後にかかわらず,「原告メディカル」という。)は,健康器具の輸出入及び販売並びに健康食品等の輸出入及び販売を業とする会社であり,会員組織型訪問販売事業を行っている。原告株式会社アートコネクシヨン(以下「原告アート」という。)は,健康器具及び健康食品等の販売を業とする会社であり,取扱商品の企画,製造委託管理,輸入,卸業務を行っている。被告A及び被告Bは,いずれも原告アートの従業員であった者であり,同原告を退職して,被告ワールド・ウィンドウ株式会社(以下「被告会社」という。)の取締役となった。被告Cは,原告メディカルの主宰する顧客会員組織「氣づきの会」(以下,原告メディカルとの混同を避けるため,会員組織のことを指す場合にのみ「氣づきの会」という。)の会員であった者である。
本件における原告らの請求の内容は,次のとおりである。
(1) 原告らは,被告らが,原告らの営業秘密である「氣づきの会」の会員情報を不正に取得し,原告らから示された同情報を不正の利益を得る目的で開示・使用し,あるいは不正開示された同情報を使用して,同会員らに対して商品の購入の勧誘等をしたなどと主張して,被告会社に対しては不正競争防止法2条1項7号,被告A及び被告Bに対しては不正競争防止法2条1項7号又は原告アートとの間の雇用契約違反,被告Cに対しては不正競争防止法2条1項4号,8号に基づき,請求の趣旨第6項の差止請求をしている。
(2) 原告らは,被告らが,原告らの営業秘密である原告両社の商品である健康器具の仕入先の情報及び健康食品の仕入先の情報につき,原告らから示された同情報を不正の利益を得る目的で開示・使用し,あるいは不正開示された同情報を使用して,被告会社において同一の商品を仕入れたなどと主張して,被告会社,被告B及び被告Cに対しては不正競争防止法2条1項8号,被告Aに対しては不正競争防止法2条1項7号又は原告アートとの間の雇用契約違反に基づき,請求の趣旨第7項,第8項の差止請求をしている。
(3) 原告らは,被告らが,原告両社の健康食品とは品質の異なる健康食品につき原告両社の健康食品と同じ成分表示を施して品質を誤認させたとして,被告らに対して,不正競争防止法2条1項13号に基づき,請求の趣旨第9項の差止請求をしている。
(4) 原告らは,被告らが,氣づきの会の会員らに,原告両社及びその代表者Dの営業上の信用を害する虚偽の事実を告知・流布したとして,被告らに対して,不正競争防止法2条1項14号に基づき,請求の趣旨第10項の差止請求をしている。
(5) 原告メディカルは,被告らの上記(1)ないし(3)記載の各不正競争行為を理由として,被告会社及び被告Cに対しては不正競争防止法4条又は民法709条,被告A及び被告Bに対しては不正競争防止法4条,民法709条又は商法266条ノ3第1項に基づき,請求の趣旨第1項の損害賠償請求をしている。
(6) 原告アートは,被告らの上記(1)ないし(3)記載の各不正競争行為を理由として,被告会社及び被告Cに対しては不正競争防止法4条又は民法709条,被告A及び被告Bに対しては不正競争防止法4条,民法709条又は商法266条ノ3第1項に基づき,請求の趣旨第2項の損害賠償請求をしている。
(7) 原告メディカルは,被告らの上記(4)の不正競争行為を理由として,被告らに対して,名誉信用毀損による損害として請求の趣旨第3項の損害賠償請求をしている。
(8) 原告アートは,被告A及び被告Bに対して,退職金の返還及びこれに対する退職日の翌日以降の利息として,請求の趣旨第4項,第5項の金員支払請求をしている。
1 争いのない事実 (1) 原告メディカルは,気の波動を利用した健康器具(装置)の輸出入及びその販売並びに海藻・川藻・薬草等の自然栄養素を補強した健康食品等の輸出入及びその販売等を目的として設立された株式会社であり,会員組織型訪問販売事業を行っている。原告アートは,健康器具及び健康食品の販売等を業とする株式会社である。
(2) 被告Aは,以前,原告アートに勤務して,平成5年2月10日から平成11年6月20日までは同原告の取締役であった者であり,平成12年7月末日に同原告を退職した。被告Bは,平成10年12月10日から,原告アートの従業員となった者であるが,平成12年8月末日に同原告を退職した。上記被告両名は,いずれも被告会社の取締役を務めていたが,被告Bはその後取締役を退任した。被告会社は,健康食品の販売及び輸出入等をその業務の一部とする会社で,平成12年10月17日,ゼィー・ディー商事有限会社を組織変更して設立された。
(3) 原告両社は,健康器具「ブレインプラーナ」及びそのシリーズ(以下「原告商品1」という。)を販売している。平成9年3月,原告メディカルは,アメリカのKLAMATH BLUE GREEN社(以下「KBG社」という。)から,健康食品「ブルーグリーン」(2種,4アイテム。以下「原告商品2」という。)を輸入し,販売を開始した。
(4) 原告両社の代表者であるDは,平成6年8月,顧客会員組織である氣づきの会を発足させ,全国各地で説明会を開いて会員を集めた。原告両社は,同会による連鎖販売取引を行ってきた。氣づきの会においては,会員の購入又は販売実績,会員育成実績に応じて,一定割合のロイヤリティが支払われることが規約に定められていた。上記の活動の中で,原告両社は氣づきの会の会員情報を保有するようになった。
(5) 被告会社は,別紙物件目録(1)記載の商品(以下「被告商品1」という。)を,訴外E(あるいは同人の経営する会社)から仕入れて販売している。また,被告会社は,被告Aから訴外BioSynergy社(以下「BIO社」という。)の存在を知らされ,同社から健康食品「ブルーグリーン」を仕入れて,別紙物件目録記載(2)の商品名(以下「被告商品2」という。)で販売した。
2 争点 (1) 原告らの主張する,@氣づきの会の会員情報,A原告商品2の仕入先であるKBG社及びBIO社の情報,B原告商品1の仕入先であるEの情報が,不正競争防止法2条4項営業秘密に当たるか(争点1)。
(2) 上記(1)記載の@会員情報及びA仕入先情報につき,被告らがこれを不正に取得し,原告らから示された同情報を不正の利益を得る目的で開示・使用し,あるいは不正開示された同情報を使用した行為が認められるか(争点2)。
(3) 被告らによる,被告会社の販売する被告商品2の品質を誤認させる不正競争行為が認められるか(争点3)。
(4) 被告らによる,原告両社及び原告両社代表者の信用を害する虚偽の事実の告知等が認められるか(争点4)。
(5) 被告A及び被告Bの就業規則違反の行為が認められるか(争点5)。
(6) 被告らの一般不法行為が認められるか(争点6)。
(7) 原告両社の損害(争点7)
争点に関する当事者の主張
1 争点1(@氣づきの会の会員情報,A原告商品2の仕入先であるKBG社及びBIO社の情報,B原告商品1の仕入先であるEの情報が,不正競争防止法2条4項営業秘密に当たるか)について (1) 原告らの主張 ア 原告両社の取扱商品について 原告両社が現在顧客会員組織「氣づきの会」を通じて販売している商品は,@体内のバランスを調整し,気エネルギーを充実させ,遺伝子を強化する小型振動機器である「ブレインプラーナX」及び「ブレインプラーナXスパー」(以上,原告商品1),A約100種類の栄養素を持ち,分子構造が血液と同じヘモグロビン構造をしている天然栄養素食品(藍藻類)である「ブルーグリーンアルジー100」(カプセル状)及び「ブルーグリーンアルジー100」の絞り汁をベースに3種の天然ハーブ(イチョウの葉・ゴトコラ・フォーティ)を付加した脳の総合栄養食品である「ブルーグリーンブレイン24」(舌下吸収の液体タイプ)(以上,原告商品2)並びにBその付属部品及び複合商品である。
イ 原告商品1開発及び販売の経緯 原告両社代表者Dが原告商品1を開発し,原告両社において販売するに至った経緯は次のとおりである。
(ア) Dは,平成3年,中国滞在中に,耳の反応点を使った小型機器(魔針)を紹介され,魔針を日本国内で販売しようとして市場実験を行った。
(イ) 平成4年,Dは,知人から台湾製の複合波発振機を使用して中国の工場で製造されている複合波発振製品があることを紹介され,商品効用が優れていると判断し,原告アートにおいて,この商品を独自開発することにした。
(ウ) Dは上記開発に当たり,被告Aから,上海の開発元に開発・製造依頼をすることを提案され,被告AからEの紹介を受けて,原告商品1の第1号機「マジックニードルT」として,Eに,中国の製造会社から調達して日本に輸出してもらい,平成5年から市場実験を兼ねたテスト販売(卸販売)を開始した。
(エ) Dは,平成6年11月16日,これにつき,耳のツボ自動探測による刺激装置として実用新案登録を受けた(登録第3007267号)。
(オ) 平成7年,Dは,「マジックニードルU」を開発し,Eの工場で独自に製造するとともに,「マジックニードルT」の販売を中止し,「マジックニードルU」の販売に切り替えた。
(カ) 平成8年12月,「マジックニードルU」を性能アップさせた「ブレインプラーナX」を販売開始した。さらに,平成10年12月,「ブレインプラーナX」の性能アップ版として,「ブレインプラーナXスパー」を販売アイテムに追加した。
ウ 原告商品2販売の経緯 原告両社が原告商品2を販売するようになった経緯は次のとおりである。
(ア) 平成8年10月23日,原告メディカルは,アメリカのKBG社との間で,原告商品2(液体・カプセル)につき独占販売契約を締結した。
(イ) 平成9年3月,原告メディカルは,KBG社から,原告商品2(2種・4アイテム)を輸入し,販売を開始した。
(ウ) 平成9年10月,原告アートは,原告商品2の仕入先としてアメリカのBIO社を追加し,KBG社からは同商品の液体のものを,BIO社からは同商品のカプセルのものを,それぞれ輸入するようになり,BIO社との間で,口頭により,同商品につき日本での独占販売契約を締結した。
(エ) 平成13年2月1日,原告アートは,BIO社との間で,原告商品2につき,日本を含むアジア圏の独占販売契約を書面で締結した。
エ 原告メディカルの販売形態 Dは,本件商品の販売を合法的な連鎖販売取引によって行うこととし,平成6年8月,顧客会員組織である「氣づきの会」を発足させた。平成8年9月には,原告メディカルを設立し,商品販売部門を独立させた。
氣づきの会は,平成12年7月,販売プログラムを変更したが,このプログラム変更に携わったのが,被告3名及び被告Aの夫である被告会社代表者,その他有力なトップ会員であり,同被告らは,これにより原告両社の販売組織及び販売方法に関する情報を入手した。
氣づきの会の会員数は,平成7年には500名,平成8年には1500名,平成10年には3000名,平成12年には6000名と急増したが,被告らの共謀による妨害行為により,平成12年7月より会員数が減少するようになり,現在は1750名まで減少した。
オ 原告両社の営業秘密 (ア) 会員情報 a 有用性 連鎖販売取引においては,会員組織は財産である。よって,会員情報は,その情報自体が事業活動に使用・利用されるものであり,事業活動に有用な営業上の情報といえる。
b 非公知性 会員情報については,原告両社は,会員を含めて一切外部に公表しておらず,一般には全く知られていないものである。
c 秘密管理性 氣づきの会の会員情報については,原告両社は,社内のパソコンで管理し,会員等から他の会員についての情報の照会があっても,個人情報なので一切回答しない旨の社内ルールを定めていた。また,原告両社は,パソコンで管理していた会員情報を,営業事務の従業員のみが2回のパスワードを入れることによって初めて見ることができる体制をとっていた。また,原告両社は,就業規則において,従業員に対して会社の秘密保持義務を課し,その違反者に対しては,一定の制裁処分をとる旨定めていた。
A パソコンによる会員情報の管理 パソコンによる会員情報の管理は,平成10年6月から稼動しており(甲53の「顧客マスター」のデータベースの作成日時が,平成10年6月25日であることから明らかである。),その後は,パソコンで管理していた会員情報に基づいて,受注伝票をコンピュータで出力していた(甲25ないし28)。この会員情報に販売管理情報をリンクさせたのが,「顧客マスター」を更新した平成12年2月である。
@ 平成12年8月当時,原告両社の事務所には,3台のパソコンがあり,まずパソコンを立ち上げるのに,3台それぞれに異なるパスワードが必要であり,パソコンを立ち上げた後,会員情報のデータにアクセスするためには,改めて起動のときとは別のパスワードを入力する必要があった。この2種類のパスワードを知っていたのは,当時の営業事務の従業員4名と,原告メディカルの経理のコンピューター処理及びあらゆるデータ管理分析を同原告から委託されていた,被告会社の代表者に限られていた。このパスワードは営業事務の従業員に個別に与えられており,他の従業員が,そのパスワードを知ることはできなかった。原告両社は,情報管理のために,各端末ごとに違うパスワードを2回入力しなければならないシステムを,わざわざ費用をかけて作ったのであり,パスワードは会社にいる従業員全員にとって,これを知り得る状況になかった。
A 商品管理の従業員は,営業事務とは全く別の部屋で作業し,その作業内容も,主に商品の梱包・発送であり,会員情報を知る必要がなかった。まれに,会員情報を知る必要があるときも,商品管理の従業員のうちの1人(I)が,営業事務の従業員に尋ねて,確認していた。営業事務の従業員は,いつもパソコンのあるデスクで仕事をしていたので,商品管理の従業員が,自らパソコンを操作することは一切なかった。
B パソコンで管理していた情報は,紙媒体の会員登録申請書の情報以外にも,商品の注文状況,その会員が紹介した会員の名前,その月のロイヤリティーなども含まれており,これらの情報は,連鎖販売取引を行っている原告両社にとって,極めて重要な会員情報であった。
B 紙媒体による会員情報の管理 紙媒体による会員情報は,ファイルに入れて,営業事務の従業員付近の,目の届く書棚に置かれていた。前記のとおり,商品管理の従業員は,担当業務の内容から,会員情報を知る必要がなかったし,まれに必要があっても,営業事務の従業員に聞いて確認する取扱いであった。よって,商品管理の従業員は,営業事務の従業員に気づかれずに,同ファイルを見ることはできなかったし,業務内容から,勝手に同ファイルを見る必要も全くなかった。
C 原告両社の会員情報管理 前記のように,原告両社においては,会員情報は営業上の秘密であったことから,会員情報についての照会には一切回答しない旨の社内ルールが定められており,会員に対して,会員情報を提供したことはなかった。ただ,平成13年の2月及び3月に,氣づきの会の普及に大変熱心な会員からのたっての要望があり,会員名簿を貸したことがあった。ただし,この際には,当該会員から借用書を徴求し,同借用書で「他の人へ,名簿の内容を伝えたり,貸与やコピーをすること」をしない旨約束させている。会員名簿の借用は,過去に2回だけ,地域の非常に熱心な会員に対して,誓約書と社長承認という厳格な手続を踏んで,極めて限定的に行ったものであり,原告両社の厳格な会員情報管理体制を明確に示している。
(イ) 仕入先の情報 原告商品1の仕入先Eは,原告アート以外の取引先に製品を供給しない旨契約していた。原告商品2は,Dが友人を通じて情報を得て,アメリカヘ行って交渉した結果,BIO社及びKBG社から仕入れることとなったものである。原告アートはBIO社との間で,日本を含むアジア圏での独占販売契約を締結し,原告メディカルはKBG社との間で,日本における独占販売契約を締結していた。
a 有用性 仕入先の情報も,原告商品1及び2が特殊な商品であること,原告両社は,当該仕入先から,独占的に当該商品の供給を受ける権利を有していることから,事業活動に有用な営業上の情報といえる。
b 非公知性 E,BIO社及びKBG社の連絡先は,原告両社内でもごく限られた人しか知らず,一般には全く知られていないものである。
c 秘密としての管理 原告アートが,原告商品1の製造を依頼していたEの連絡先(住所・電話番号)は,原告両社では,被告Aのみが知っており,また原告両社が原告商品2を仕入れていたBIO社及びKBG社の連絡先(住所・電話番号)も,Dと被告Aのみが知っており,上記連絡先は,原告両社のトップシークレットとされていた。
(2) 被告ら(ただし,被告Cを除く。)の主張 ア 原告らの主張オ(ア)について (ア) パソコンによる会員情報の管理 原告メディカルがパソコンによる会員情報の一元的管理の体制を整えたのは,平成12年4月のことであるが,この時点において,パソコン起動の際にはパスワードを入力するが,会員情報自体を閲覧するのにパスワードによる保護はされていなかった。同年8月ころまでは,同社における会員情報管理システム(KDK2)は試運転状況にあり,パスワードが設定されたのは,同年8月ころであったはずである。この時点において,被告Aは原告アートを退職していたため,同システムを利用したことはほとんどない。被告Bも同月に原告アートを退職しており,同様である。
原告両社が,原告メディカルの経理のコンピューター処理及びあらゆるデータ管理分析を,被告会社(当時ゼィー・ディー商事有限会社)に委託したというのは,Dが販売実績の分析を委託した,という限度では正しく,またその際会員情報の一部が示されたことは事実であるが,その情報は委託された業務が終了した時点ですべて原告両社に返還しており,その情報を被告らが保管して使用したという事実はない。
(イ) 紙媒体による会員情報の管理 会員情報は,パソコンで管理するほか,事務所内のファイルにも保存されており,平成12年8月当時,パソコンが使いづらかったこともあり,紙媒体の会員情報ファイルが頻繁に使用されていた。その保管棚には,扉が付いておらず,当然施錠もなく,会員情報は,甲32の写真よりも杜撰な状況で保管されていた。このため,当時10人程度いた従業員の誰もが同ファイルを閲覧することができた。
商品管理の従業員たちも,営業事務の手伝いをすることがあり(入金確認等),この際,当然に,会員情報を閲覧することがあった。また,商品の発送作業自体,会員情報の閲覧なしには不可能な作業である。これらの際,原告らが主張する営業事務でない従業員も,営業事務の従業員に断ることなく閲覧をしていた。ファイルのコピー及び持ち帰りについても特に禁じられることはなかった。
(ウ) 会員間で会員情報が知られていたこと さらに,氣づきの会のように,連鎖販売取引に関わる者にとっては,会員が個人同士で相互紹介をすることが常態であった。したがって,会員同士の間で会員情報が知られていた可能性は十分ある。会員や第三者から会員情報について照会があった場合でも,それらに一切応答しないという規則はなく,個別の事案ごとの対応がされていた。
上記のとおり,原告メディカルの主宰する氣づきの会の会員情報は,営業秘密として管理されていたとはいえない。
イ 同オ(イ)について 原告商品2は一般的な商品であることは原告らが認めるところであり,特殊な商品ではない。BIO社及びKBG社の連絡先はいずれもホームページで公開されており,秘密とはいえない。
マジックニードル及び原告商品1は,もともと被告AがEと知人であったことから初めて輸入が可能となったものであり,Eの連絡先が原告両社の秘密であるとはいえない。
2 争点2(@会員情報及びA仕入先情報につき,被告らがこれを不正に取得し,原告らから示された同情報を不正の利益を得る目的で開示・使用し,あるいは不正開示された同情報を使用した行為が認められるか)について (1) 原告らの主張 ア 被告らの行為-会員情報について (ア) Dは,平成11年の初旬に,当時,原告アートの取締役であった被告Aの勧めにより,原告メディカルの経理のコンピューター処理及びあらゆるデータ管理分析を,被告Aの夫が代表者で,被告Aも取締役であった被告会社に委託した。これにより,氣づきの会の会員情報は,被告会社に示された。
(イ) 被告Aは,原告アートの従業員・取締役として,原告両社の経理業務全般を担当し,これにより,氣づきの会の会員情報を得た。
(ウ) 被告Bは,原告アートの従業員として,原告両社の営業事務を担当し,これにより,氣づきの会の会員情報を得た。
(エ) 被告Cは,氣づきの会の会員であったが,被告A及び被告Bが,原告アートを退職した後に,被告会社,被告A及び被告Bから氣づきの会の会員情報を取得した。その際,被告Cは,被告会社,被告A及び被告Bの不正開示行為であることを十分認識していた。また,被告Cは,Dの説明会の参加者(氣づきの会の会員及び新規の者)が,会場の入口で記入した住所・氏名・連絡先を記入した名簿を,各地の説明会において,原告両社及びDに無断で,写し取った。
(オ) 被告らは,氣づきの会の会員情報を利用して,同会員に「同じものが安く入手できる」と言ったり,原告両社及びDの誹謗中傷を流し,原告と全く同じ商品(被告商品1)及び類似の商品(被告商品2)の購入の勧誘をした。
イ 被告らの行為-仕入先の情報について@ (ア) 被告Aは,原告アートを退職する直前の平成12年7月20日ころ,Dに対し,「原告商品1の輸入を止めてみせる。もし,従来どおりの輸入がしたいなら,定価の10パーセントの手数料を私に払うこと。そうしなければ私が日本で1万円で売る。この機器は,私とEが作った物であり,社長はただ売っていただけである。」と述べて脅迫するとともに,営業秘密である仕入先情報を利用して,Eに対し,原告商品1の原告両社への供給を,被告Aを通じて行うように働きかけた。なお,被告Aの働きかけの結果,Eも,原告アート以外の取引先には製品を供給しない旨契約していたにもかかわらず,Dに対し,被告Aを通さなければ取引しないと述べた。
(イ) 被告A又は同被告から上記仕入先情報を取得した被告会社は,Eから被告商品1を仕入れて,これを販売している。被告会社が販売している上記商品は,被告AがDの決裁なしに無断でEに発注して製造され,原告アートが引取りを拒絶した商品であり,原告商品1と全く同一の商品である。
(ウ) 被告B及び被告Cも,被告Aから営業秘密である上記仕入先情報を取得した。被告会社,被告B及び被告Cが,被告Aより,上記製造・仕入先情報を取得した際,被告会社,被告B及び被告Cは,被告Aの不正開示行為であることを十分認識していた。
ウ 被告らの行為-製造・仕入先の情報についてA (ア) 被告Aは,平成12年7月31日に,原告アートを退職したが,遅くとも,退職直後の同年8月までに,被告会社に対し,営業秘密である原告商品2の仕入先であるBIO社及びKBG社の連絡先(住所・電話番号)を不正に開示した。
(イ) 被告会社は,被告Aから上記営業秘密を取得し,平成12年8月にBIO社に連絡を取り,同年11月には,原告商品2(カプセル)1075本を発注し,さらに,平成13年4月5日,同社に原告商品2を1056本発注した。
(ウ) 被告B及び被告Cも,上記営業秘密を取得した。被告会社,被告B及びCは,仕入先情報を取得した際,被告Aの不正開示行為であることを十分認識していた。原告商品2に関しては,原告アートがBIO社とアジア圏における独占販売契約を締結しているため,被告会社は,アメリカ在住の被告Aの兄を経由して仕入れた。
(2) 被告ら(ただし,被告Cを除く。)の主張 原告らの主張はすべて否認する。
ア 被告らは,独自の会員網を通じて商品販売活動をしているものであり,原告両社の会員網を利用していない。
イ 被告らは,現在BIO社及びKBG社から商品を仕入れておらず,差止請求は訴えの利益を欠く。
3 争点3(被告らによる,被告会社の販売する被告商品2の品質を誤認させる不正競争行為が認められるか)について (1) 原告らの主張 被告らは,被告商品2及びその広告において,同商品の成分について,別紙表示目録記載の表示をしている。しかしながら,同商品の成分及びその含有量は,別紙表示目録記載の成分及びその含有量とは,全く異なるものである。すなわち,別紙表示目録の内容は,原告アートが扱う原告商品2の成分表をそのまま盗用したものであるが,同成分表は,原告アートが,同社が扱う原告商品2の成分を,専門機関に委託して分析してもらって,そのうえで作成したものである。一方,被告商品2の仕入単価(7ドル52セント)は,原告商品2の仕入単価(14ドル35セント)の2分の1程度であり,また被告会社(実際に連絡したのは被告A)は,BIO社に注文する際に,「200tの號珀色のビンに,1カプセル220rで240粒(原告商品2と外見・仕様が全く同じ)であれば,品質は悪くてもよい,できるだけ安い物を頼む」と述べたことから,被告商品2が,原告商品2と同等の品質を有していないことは,明白である。にもかかわらず,被告らは,被告商品2に,原告商品2と全く同じ成分表示を付しているのであり,商品の品質を誤認させる表示をしていることは,明白である。
(2) 被告ら(ただし,被告Cを除く。)の主張 原告らの主張はすべて否認する。
被告らが現在仕入れている被告商品2の表示に誤りはなく,何らの誤認惹起行為はない。被告会社が過去に一度だけBIO社から仕入れた被告商品2の品番は,原告商品2の品番と同一である50536であり,原告両社と被告会社が同一の商品を仕入れていたことは明らかである。したがって,被告会社が販売していた被告商品2の成分表示が原告らと同一であったのは当然である。被告会社が7ドル余で同商品を仕入れたのは,BIO社との交渉によるものであり,仕入値が異なることから原告両社が注文した商品と被告会社が注文した商品とが異なるものとはいえない。また,被告会社は,米国所在のBIO社から,米国内宛で同商品の配送を依頼しており,運送費の面でも原告両社との差が存するのは当然である。なお,商品の単価について,原告両社は,訴状では14ドル35セントと主張する一方,乙10では12ドル33セントとなっており,また,通関に際しては,原告アートは3ドルから3ドル50セントとして申請しており(乙13),原告らがどのような根拠から上記主張をするのか,また実際の購入価格がいくらであったのか定かでない。
4 争点4(被告らによる,原告両社及び原告代表者の信用を害する虚偽の事実の告知等が認められるか)について (1) 原告らの主張 被告Aは,平成12年7月末に原告アートを退職したために同原告がEからの原告商品1の仕入れが困難になったことを奇貨として,自ら原告商品1の販売を計画し,その販売先として同商品が広く知れ渡っている氣づきの会の会員に販売することを企て,同時に原告商品2類似の商品も販売する計画を立て,同年8月に,原告アートの仕入先であるBIO社に対して商品の供給を要請した。そして,被告Bが原告アートを退職した直後の同年9月から,被告Aは,販売体制を整備し,氣づきの会の会員に具体的に接近した。同年10月に,被告Aらは,氣づきの会を脱会させられた被告Cと組み,原告両社と同様の販売システムを作り,商品の準備や会社の商号変更等を行った。同年11月,原告商品2が入庫し,氣づきの会の会員に対する販売計画を実行に移した。被告らは,上記の動きの中で,氣づきの会の会員に対して,原告両社及びその代表者であるDについて,原告商品1はDが開発したものではないこと,原告両社には原告商品1の在庫がなく会員に不良品を販売していること,原告両社が近く倒産すること,原告両社及びDが詐欺的な商売をしていること,その他これに類する原告両社及び両社の代表者であるDの営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し,又は流布した。
なお,Dが開発した原告商品1は,複合波の発振を特徴としており,被告らが他者が開発したと称する単一波を発振するものとは異なる。
(2) 被告ら(ただし,被告Cを除く。)の主張 原告らの主張はすべて否認する。
マジックニードルは,Dが開発をしたものではない。D自身も,同製品販売の初期の段階では,これを単に「輸入」しているにすぎないことを自認している(乙6)。したがって,「マジックニードルはDが開発したものではない」旨の発言は虚偽の事実の告知とはいえない。この点,原告らは,Dが開発した原告商品1は複合波の発振を特徴としており,単一波を発振するものとは異なると主張するが,マジックニードルとの差は明確でない。なお,原告らが挙げる,原告アートとEとの契約書(甲19,20)は,マジックニードルに関する何の記載もなく,Dがこれを開発した証明にはならない。むしろ,Eは,Dが同商品を開発したことを否定している。
5 争点5(被告A及び被告Bの就業規則違反の行為が認められるか)について (1) 原告らの主張 原告両社では,平成12年5月に,当時の原告両社の従業員全員に就業規則を配布すると同時に,同規則どおりの残業・休日出勤,出張等の手当等の支払を始めた。
被告Aは原告アートの取締役として,被告Bは同原告の従業員として,いずれも「会社の業務上の機密及び会社の不利益となる事項を他に漏らしたり,機密を流用したりし,会社が不利益になるような行為を行わない(退社後においても同様である)」(原告アート就業規則31条4項)という義務を負っており,被告A及び被告Bの上記1ないし4の行為は,原告アートの就業規則に違反し,雇用契約に違反する行為である。
(2) 被告A及び被告Bの主張 原告らの主張は否認する。就業規則については,被告A及び被告Bは,その内容はおろか存在についてさえ知らされていなかった。
6 争点6(被告らの一般不法行為が認められるか)について (1) 原告らの主張 ア 原告両社の代表者であるDは,自ら考案した理論と,自ら開発・仕入れた商品を基に,全国各地で説明会を開催し,D自身やその理論及び商品に共感し,信頼を寄せた人々を氣づきの会の会員としてまとめ,原告両社は,その会員組織を通じて,商品を販売してきた。
イ 被告会社は,原告両社の経理関係のコンピューター処理を受託し,被告Aは原告アートの取締役であり,被告Bも原告アートの営業事務職であり,被告Cは氣づきの会の有力会員であり,被告らは,いずれも,D及び原告両社と一緒になって,氣づきの会及び原告両社の経営・運営を行ってきた者であり,Dが最も信頼をおいて業務を任せてきた者であった。
ウ しかるに,被告らは,原告両社及び氣づきの会について知っていることを利用して,原告両社の仕入先に手を回し,原告両社に独占販売権があることを十分認識しながら,原告両社の取扱商品と全く同じ商品(被告商品1),及び類似の商品(被告商品2)の入手経路を確保した。被告商品1については,被告らは入手した商品の内容には一切手を加えず,外観の商品名等の表示のみ変更し,付属品(耳ゴム・ケーブルコード等)も原告商品1と全く同じセットの仕方をし,さらに商品のパッケージについても,その形,大きさから商品の仕切方まで原告商品1と全く同じである。被告商品2については,上記3で述べたとおり,被告らは,成分表示を盗用して品質を偽るとともに,カプセルの大きさ(220r),1ビンの中のカプセルの数(240粒)及びビンの大きさ・色はすべて原告商品2と全く同じである。
エ 被告らは,氣づきの会と同様の組織を作り,上記4で述べたとおり,氣づきの会の会員等にD及び原告両社の誹誇中傷を行い,さらに,原告両社の取扱商品と同じ商品を廉価で販売する旨の甘言を弄し,動揺した同会の会員を,被告会社の会員として横取りし,もって,原告両社の売上げを減少させ,原告両社に損害を与えた。
オ 被告Cは,次の行為によって,原告両社の売上げを減少させ,原告両社に損害を与えた。@平成12年11月27日の告発をきっかけに,氣づきの会の会員に対し,新聞記事を題材に「氣づきの会被害者の会結成のお知らせ」なる怪文書を作成して流布し,会員の不安と動揺を煽り,会員の横取りを始めた。A平成13年3月下旬,渋谷のハローワークに原告メディカルの新聞記事や誹謗中傷文書を持参し,原告メディカルの求人を取り下げるようにクレームを出し,営業妨害をした。B同月29日,氣づきの会の会員に対し,Dが在宅起訴された報道新聞やインターネット記事をFAXや電話で配布し,更なる営業妨害をした。C各地で説明会を開催し,自分が主宰する「融和の会」に入会を働きかけ,氣づきの会の会員を横取りし,被告会社の商品を継続的に販売した。
カ 商法266条ノ3第1項による責任 被告A及び被告Bは,被告会社の取締役であるところ,被告A及び被告Bは,被告会社が上記不正競争行為及び不法行為を行えば,原告両社が損害を被ることを十分認識しながら,被告会社の業務を執行した。
(2) 被告ら(ただし,被告Cを除く。)の主張 原告らの主張はすべて否認する。
7 争点7(原告らの損害)について (1) 原告らの主張 ア 原告両社の経常利益は,被告Aが原告アートを退職し,営業妨害行為をするようになった平成12年11月以降,極端に低落した。
(ア) 原告メディカルが被った損害は下記のとおりである。
平成12年8月期(8月決算)の経常利益5976万1219円‥@ 平成13年8月期の経常利益▲1786万7003円(損益)‥‥A 経常利益の減少額(@-A)7762万8222円‥‥B 上記減少額Bのうちの3割は,氣づきの会会員の自動脱会(会員は1年間商品を購入しないと自動的に脱会となる)によるもので,これを除いたうちの5割が被告らの影響である。
B×0.7×0.5=2716万9877円 (イ) 原告アートが被った損害は下記のとおりである。
平成12年3月期(3月決算)の経常利益1074万0167円‥C 平成13年3月期の経常利益237万5846円‥‥D 経常利益の減少額(C-D)836万4321円‥‥E 上記減少額Eのうちの3割は,氣づきの会会員の自動脱会(会員は1年間商品を購入しないと自動的に脱会となる)によるもので,これを除いたうちの5割が被告らの影響である。
E×0.7×0.5=292万7512円 イ 虚偽事実流布による損害 上記4の被告らによる虚偽事実流布(誹謗中傷)により,原告メディカルは名誉信用を毀損され,損害を被った。上記損害に対しては,500万円をもって慰謝すべきである。
ウ 退職金の返還請求 被告Aは原告アートの取締役として,被告Bは同原告の従業員として,いずれも会社の業務上の機密及び会社の不利益となる事項を他に漏らしたり,機密を流用したり,会社の不利益になるような行為を行わない義務(退職後も同様)を負う(就業規則31条4項)。よって,同被告らが原告両社の会員情報,仕入先情報を利用して,原告両社の取扱商品と全く同じ商品(被告商品1)及び類似の商品(被告商品2)を販売し,原告両社に損害を与えたことは,「従業員が退職後,故意によって会社に損害を与えた場合」(同規則57条)に当たり,原告アートは退職金の返還を求め得る(同規則同条)。よって,同原告は,@被告Aに対し,同社が同被告に対して支払った退職金417万9840円の,A被告Bに対し,同社が同被告に対して支払った退職金16万2000円の返還を求める。
エ 金員請求のまとめ @原告メディカルは,被告A及び被告Bに対し,不正競争防止法4条,民法709条又は商法266条ノ3第1項に基づく損害賠償金として,被告会社及び被告Cに対し,不正競争防止法4条又は民法709条に基づく損害賠償金として,連帯して2716万9877円及びこれに対する平成14年2月25日(被告ら全員に訴状が送達された日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払,A原告アートは,被告A及び被告Bに対し,不正競争防止法4条,民法709条又は商法266条ノ3第1項に基づく損害賠償金として,被告会社及び被告Cに対し,不正競争防止法4条又は民法709条に基づく損害賠償金として,連帯して,292万7512円及びこれに対する前同日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払,B原告メディカルは被告らに対し,連帯して,虚偽事実流布による名誉信用毀損を理由とする損害賠償として500万円及びこれに対する前同日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払,C原告アートは被告Aに対し,退職金417万9840円の返還及びこれに対する退職日の翌日である平成12年8月1日から支払済みまで年5分の割合による利息の支払,D原告アートは被告Bに対し,退職金16万2000円の返還及びこれに対する退職日の翌日である平成12年9月1日から支払済みまで年5分の割合による利息の支払をそれぞれ求める。
(2) 被告ら(ただし,被告Cを除く。)の主張 原告らの主張は,すべて否認する。
被告Cに対する請求についての当裁判所の判断
被告Cは,適式の呼出しを受けながら,本件口頭弁論期日に出頭しないし,答弁書その他の準備書面も提出しない。
したがって,本件訴訟において原告らが主張する請求原因事実(前記第2,1(争いのない事実)記載の事実及び第3(争点に関する当事者の主張)における原告ら主張事実)について,被告Cは,これを争うことを明らかにしないものであるから,これを自白したものとみなす。
そこで,上記の請求原因事実に基づき判断するに,同事実によれば,被告商品1及び2については,被告会社が訴外E(あるいは同人の経営する会社)又はBIO社から仕入れているか,あるいは仕入れたことがあるというにとどまり,被告Cが自ら仕入れているか,あるいは仕入れたことがあるというものではない。そうすると,被告Cに対して,被告商品1及び2の仕入行為の差止めを求める請求(請求の趣旨第7項,第8項)は,差止めの利益を欠くものであり,理由がない。
また,虚偽事実の流布行為による名誉信用毀損を理由とする損害賠償500万円の請求(請求の趣旨第3項)については,上記請求原因事実記載の侵害行為の態様等の事情に照らし,信用毀損による損害として200万円の限度でこれを認める。
そして,上記請求原因事実によれば,原告らの被告Cに対するその余の請求は,理由がある(ただし,いずれも不正競争防止法上の請求につき,理由があるものと認める。)。
その余の被告らに対する請求についての当裁判所の判断
1 本件における事実関係等 前記当事者間に争いのない事実に証拠(甲1ないし5,甲9ないし11,甲14,甲17,甲19ないし29,甲46ないし50,甲53,甲58,乙1ないし7,乙9ないし12,証人F,原告両社代表者本人,被告A,被告B及び被告会社代表者各本人。書証の枝番号は省略する。)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の各事実が認められる。
(1) 原告メディカルは,旧商号を「氣づきの会株式会社」といい,「気」の波動を利用した健康器具(装置)の輸出入及びその販売並びに海藻・川藻・薬草等の自然栄養素を補強した健康食品等の輸出入及びその販売等を目的として設立された会社である。原告メディカルは,会員組織型訪問販売事業を行っており,同原告の主宰する顧客会員組織は「氣づきの会」という。原告アートは,健康器具及び健康食品等の販売を業とする会社であり,取扱商品の企画,製造委託管理,輸入,卸業務を行っている。原告メディカルと原告アートの事務所は同一場所にあり,代表者も同一で,原告両社の事務は峻別されていない。
原告両社の代表者であるDは,その事実はないにもかかわらず,東京大学物理学科を卒業して,NASA(アメリカ航空宇宙局)の研究員(あるいはNASAの関連研究施設研究員)であったと自称しており,このような言動をもって氣づきの会の会員に信用させ,会員から信頼や尊敬を集めていた。Dに対する信頼が,同会の会員を会員としてつなぎ止めることに大きく影響していた。
(2) 被告A及び被告Bは,いずれも原告アートの従業員であった者である。被告Aは,平成4年,アルバイト従業員として原告アートに入社し,平成5年2月10日から平成11年6月20日までは同原告の取締役であった。同被告は,平成12年7月末をもって同社を退職した。被告Bは,平成10年12月から平成12年8月まで同原告に勤務した。上記被告両名は,同原告を退職後,被告会社の取締役となったが,被告Bは現在は取締役を退任している。
被告会社は,平成10年5月15日,ゼィー・ディー商事有限会社として設立され,平成12年10月17日,組織変更により現在の被告会社となった。被告会社は,健康器具や健康食品の販売及び輸出入等のほか,上下水道の管理,設備工事等をその業務として行っている。
被告Cは,氣づきの会の会員であった者である。
(3) 被告Aは,原告メディカルが会員組織型訪問販売事業を行っていることから,原告アートにおいて,金銭の出納やロイヤリティ(会員組織において,会員の購入又は販売実績,会員育成実績に応じて,一定割合で会員に支払われる金銭)の計算や電話応対等の事務をしていた。被告Bは,ロイヤリティ計算や電話応対等の事務をしていた。原告両社は,上記(1)のとおり,Dの存在が非常に大きい会社であり,取締役会等も開催されることはほとんどなかった。被告Aは取締役といっても,実際に経営に関与することはなく,出納の責任者の立場にあったが,手当等もDのいうままに支払をしていた。
被告Aの夫は被告会社の代表者である。同人は,コンピュータの専門家ではないが,表計算のソフトウェア等の知識があることから,被告会社は,原告メディカルのポイントの入力や売上の集計等を請け負っていた。
(4) 原告メディカルの主力商品に,「気」の波動を利用した健康器具(装置)であるという原告商品1及びそのシリーズと,アメリカのクラマス湖に生えている藻から作ったという健康食品「原告商品2」(2種,4アイテム)がある。原告商品1は,中国で製造されており,原告メディカルはこれを輸入して販売していた。
この商品あるいはその基となる装置「マジックニードル」(中国名「魔針」)を開発したのは,中国のJ教授であった。そして,この商品の製造を行っているのは,中国のEという者で,被告Aの以前からの知人であった。原告メディカルがこの商品をEから輸入することになったのは,被告AがEを知っていたことから,Dが被告AからEの紹介を受けたことによるものであった。
原告商品2と同種の,クラマス湖に生えている藻から作られた健康食品は,同商品の製造元であるBIO社あるいはKBG社以外でも作られている,アメリカでは一般的な商品である。
(5) 原告メディカルは,平成12年6月ころ,脱税で国税局の査察を受け,平成13年3月ころ,東京地方検察庁により略式起訴された。この査察を受けた際には,Dはもちろん,被告Aも,国税局の事情聴取を受けた。さらに,原告メディカルから上記(3)のように同原告のポイントの入力や売上の集計等を請け負っていた被告会社にも国税局の事情聴取があった。このような国税局の査察があったことやDに対する不信感を抱いたことから,被告Aは上記査察の翌月の平成12年7月をもって原告アートを退職し,被告Bも,その翌月の8月をもって退職した。退職時に,被告Aは417万9840円,被告Bは16万1000円の,それぞれ退職金の支払を受けた。
被告Aは,原告アートを退職する際,既に夫が経営する被告会社の取締役であったので,そのまま被告会社の取締役として現在に至っている。被告Bも,同原告を退職する際には,特に進路の当てはなかったが,被告会社に入り,取締役となった。被告会社では,平成13年3月ころから,健康器具の販売等を,会員制販売の方法で始めた。
被告会社が販売する健康器具は,別紙物件目録記載(1)の商品であり,Eから仕入れて販売している。被告商品1は,被告Aが原告アート在籍中にEに発注したが,同原告が引き取らなかった商品で,原告商品1と全く同一の商品である。また,被告会社では,被告AがBIO社の存在を知っていたことから,同社から上記(4)のような健康食品を仕入れて,被告商品2の商品名で販売したことがある。現在は,被告会社は,BIO社からは仕入をしておらず,他社から,同様なクラマス湖に生えている藻から作られた製品を仕入れて,販売している。
2 争点1(原告らの主張する,@氣づきの会の会員情報,A原告商品2の仕入先であるKBG社及びBIO社の情報,B原告商品1の仕入先であるEの情報が,不正競争防止法2条4項営業秘密に当たるか)について (1) 営業秘密として認められるための要件について 不正競争防止法2条4項は,営業秘密として保護されるための要件として,(一)営業秘密として管理されていること,(二)事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であること,(三)公然と知られていないこと,を掲げている。そこで,本件において原告らが営業秘密と主張する,@氣づきの会の会員情報,A原告商品2の仕入先であるKBG社及びBIO社の情報,B原告商品1の仕入先であるEの情報が,上記要件を満たすかどうか検討する。
(2) 氣づきの会の会員情報について ア 原告メディカルのような会員制訪問販売事業において,顧客データは,顧客の住所氏名,電話番号,性別,商品の売上(又は購入)実績といった内容を記したものである。この種の事業において,このようなデータは,会員組織を有効に維持して売上を確保するために有用な情報であると認められる。また,このような情報は,その内容の優劣が同種組織との間の競争において有利な地位を占める上で大きな役割を果たすものであることから,一般に,各組織ごとに独自のものとして保有され,他に公開されないものである。
イ 次に,秘密として管理されているというためには,当該情報にアクセスした者に当該情報が営業秘密であることを認識できるようにしていること,当該情報にアクセスできる者が制限されていることが必要である。そこで,本件について検討するに,氣づきの会の会員情報の管理方法は,証拠(甲25ないし37,証人F,原告両社代表者本人,被告A,被告B及び被告会社代表者各本人)及び弁論の全趣旨によれば,次のようなものであった。すなわち,被告Bが原告アートに従業員として在職していた平成12年8月ころまでは,会員情報は,原告両社(上記1(1)のとおり,原告両社の事務は峻別されていない。)の2台ほどのコンピュータに,データが収録されて,これを使用して会員情報の管理が行われていた。同年4月ころ,「KDK2システム」というコンピュータによる会員情報等管理システムが新たに導入されたが,被告Bが在職していた同年8月ころまでは,システムの導入当初ということもあり,頻繁に画面の設定が変わるので,使いづらいものであった。上記のころ,原告両社には,10人くらいの従業員がいたが,原告両社の事務を担当する3ないし4名の従業員がこのシステムを操作していた。同システムでは,コンピュータを立ち上げるにはパスワードが必要であったが,パスワードは上記のようなシステムの導入当初ということもあって,付箋に記載されてコンピュータに貼ってあったため,従業員は,上記事務担当者以外の,商品発送に関わる者も含め,全員がパスワードを知っていた。また,コンピュータが立ち上がった後は,事務所に居合わせた者は,誰でもその画面で会員情報を見ることができた。
ウ さらに,前記平成12年4月以前におけるコンピュータによる管理システムは,不十分なものだったこともあり,会員登録の際に提出される会員の情報を記載した登録申請書の紙片(甲34はその書式である。)を見て事務処理をすることがしばしばであった。この点は,上記「KDK2システム」導入後の,システムが不安定な時期においても同様である。この紙片は,原告両社の事務所の鍵も掛けていない棚や,出窓のところや段ボール箱に入れられて無造作においてあり,従業員その他,事務所に居合わせた者は,誰でも見たり持ち出したりすることが可能であった。そのほか,会員は,地方で講演会を開くときなどに,原告両社の事務担当者からその地方の会員の名簿の写しをもらってそれらに案内状を出したり,原告両社の事務所に電話をして,従業員から会員名を教えてもらったりすることが可能であった。
エ 上記の認定事実からすれば,原告両社では,特に紙片の形で存在する会員情報(登録申請書)について,その管理の仕方は無造作といわざるを得ず,これにアクセスできる者は特に制限されておらず,事務所にいる者であれば誰でも見たり持ち出したりすることができ,また,電話での問い合わせにも特に制限なく会員情報が伝えられ,これらの者との間に秘密保持契約も締結されていなかったのであるから,秘密としての管理がされていたと認めることはできない。したがって,原告両社の会員情報は,不正競争防止法にいう営業秘密の要件を備えているということはできない。
(3) 原告商品2の仕入先であるKBG社及びBIO社の情報について 証拠(乙8の1及び2)によれば,原告商品2の仕入先であるKBG社及びBIO社は,いずれも,インターネットホームページを持ち,そこでネット販売を受け付けていること,電話番号もそこに掲載していることが認められる。したがって,これら両社の情報は非公知のものといえず,不正競争防止法にいう営業秘密とはいえない。
原告ら代表者本人は,この点につき,原告両社が格別な条件で仕入れることのできる連絡先が営業秘密であると述べるが,いかなる条件で仕入れることができるかは,取引に入ってからの交渉等によるものであり,仕入先の情報が営業秘密であるか否かとは関わりがない。原告らの主張は理由がない。
(4) 原告商品1の仕入先であるEの情報について 上記1において認定した事実によれば,原告両社において,原告商品1の仕入先であるEの情報は,被告AがEと知人であったことから得られたものである(この点は,原告らも自認するところである。)。被告Aは,原告アートでの職務を通じてEを知ったものではなく,以前からの知り合いであったものを,原告両社に情報提供し,それによりEと原告両社との取引が始まったものである。したがって,原告らの主張どおり,仕入先であるEの情報が有用かつ非公知なものであるとしても,被告Aないし同被告からこれを開示された者との関係において,同情報が原告らの営業秘密ということはできない。
以上によれば,原告らの主張する,@氣づきの会の会員情報,A原告商品2の仕入先であるKBG社及びBIO社の情報,B原告商品1の仕入先であるEの情報は,不正競争防止法にいう営業秘密として原告らが保護を受け得るものではない。したがって,争点2について判断するまでもなく,不正競争防止法上の営業秘密を理由とする原告らの請求は,いずれも失当である。
3 争点3(被告らによる,被告会社の販売する被告商品2の品質を誤認させる不正競争行為が認められるか)について 証拠(甲4の39,甲5の35,被告A本人)によれば,原告商品2と被告商品2において,商品に成分として表示されている内容は全く同一であるが,これは,被告会社では独自に成分分析をしたわけではなく,被告Aが,原告商品2と同じクラマス湖の100%アルジー(藻)であり,等級による差などはないから,原告商品2と同じ表示でよいと考えてそのように表示をしたことによるものと認められる。
他方,原告らが被告商品2の実際の成分及びその含有量が別紙表示目録記載の成分及びその含有量と異なると主張する理由は,@被告会社がBIO社に注文した際に,平成12年12月5日に被告会社宛てに発送された被告商品2の成分は甲52の1のとおりで,上記目録記載のものとは異なること,A被告商品2の仕入単価(7ドル52セント)が,原告商品2の仕入単価(14ドル35セント)の2分の1程度であること,B被告会社の担当者である被告Aは,BIO社に注文する際に,「200tの號珀色のビンに,1カプセル220rで240粒(原告の商品と外見・仕様が全く同じ)であれば,品質は悪くてもよい,できるだけ安い物を頼む」と述べた,というものである。
しかしながら,BIO社が被告会社宛発送された被告商品2の成分について記したという書面(甲52の2)におけるBIO社代表者の署名は,同社と原告アートの間の独占販売契約書(甲8)や,同人の書簡(甲46)における署名と一見して異なるものであり,この点に照らすと,原告らが根拠として挙げる同書証(甲52の2)については真正に作成されたものかどうか疑問があり,これをにわかに信用することができない。また,そもそも同書簡が,被告商品2の成分を実際に分析した結果を記したものかどうかも明らかでない。そして,実際に販売されている被告商品2を入手したうえでその成分を分析した結果は,本件証拠中に存在しない。
さらに,上記BIO社代表者の書簡(甲46)にも,被告会社の担当者が,廉価なものを望む旨述べたことは記載されているものの,この担当者が「原告らの商品と外見・仕様が全く同じ)であれば,品質は悪くてもよい」旨述べた事実は,本件全証拠を総合しても認められない。また,原告商品2の価格も,12ドル33セント(乙10),14ドル35セント(原告両社代表者),通関時には3ないし3ドル50セント(乙13。この点,原告両社代表者は脱税行為をしたものと述べる。)などと必ずしも定かでなく,原告商品2との価格差を根拠とすることはできない。かえって,原告商品2と被告商品2とではBIO社におけるアイテムナンバーが同一であることからすれば,両者は同一の商品と考える方が自然である。
以上を総合すれば,原告商品2と被告商品2との成分が異なっており,被告会社において被告商品2の成分を誤認させる表示をしていると認めるに足る証拠はないというべきである。
4 争点4(被告らによる,原告両社及び原告両社代表者の信用を害する虚偽の事実の告知等が認められるか)について 原告らは,被告らが共同して,氣づきの会の会員に対して,原告両社及びその代表者であるDについて,原告商品1はDが開発したものではないこと,原告両社には原告商品1の在庫がなく会員に不良品を販売していること,原告両社が近く倒産すること,原告両社及びDが詐欺的な商売をしていること,その他これに類する原告両社及び両社の代表者であるDの営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し,又は流布したと主張する。
しかしながら,本件全証拠を総合しても,被告A,被告Bあるいは被告会社の関係者が上記のような事実を告知し,又は流布した事実を認めることはできない。
(1) 氣づきの会の会員から,被告らがDを誹謗する内容の事実の告知があったことあるいは被告会社の会員組織に氣づきの会の会員を勧誘しようとしたことの証拠として提出された甲11の1ないし5,甲11の8ないし11には,被告Cが上記のような事実を会員に述べた旨の記載があるが,これと被告A,被告B,あるいは被告会社の関係者との共同関係を認めるべき証拠はない。
(2) 証拠(甲11の6及び7,甲55,証人F)によれば,平成13年4月26日ころ,既に原告アートを退職していた被告A及び被告Bと,氣づきの会の会員であるF,G,Hらが喫茶店で面談し,原告両社のこと,その商品のことや氣づきの会,Dのことなどについて,上記被告両名がこれら会員に対し,4時間近くにわたって述べた事実が認められる。しかしながら,そこで述べられている内容は,甲11の7から明らかなように,退職した従業員が自分のいた会社を振り返っていろいろな問題点があったことを述べているにすぎず,原告両社を誹謗するような内容とは認められない。すなわち,その際の被告A及び被告Bの発言が,原告商品1はDが開発したものではないこと,原告両社には原告商品1の在庫がなく会員に不良品を販売していること,原告両社が近く倒産すること,原告両社及びDが詐欺的な商売をしていること,その他これに類する事実を含んでいたとは認められない(なお,上記会員らを被告会社の会員組織に勧誘したような事実も認められない。)。
ただし,甲11の6及び甲55には,このような内容の記載があるが,テープ起こしをして作成した文書であることが明らかな甲11の7に記載されていない内容が甲11の6及び甲55には記載されているのは,自己の主観が強く入った記載である可能性が高く,甲11の7に比して甲11の6及び甲55は措信できない。
(3) その他,被告A,被告Bあるいは被告会社の関係者が,何らかの機会に,原告両社を誹謗する虚偽の事実を他社に述べたことをうかがわせる証拠は存在しない。
したがって,被告A,被告Bあるいは被告会社の関係者が,上記のような事実を告知し,又は流布した事実は認められない。
5 争点5(被告A及び被告Bの就業規則違反の行為が認められるか)について (1) 原告らの上記請求は,原告両社の就業規則に,「会社の業務上の機密及び会社の不利益となる事項を他に漏らしたり,機密を流用したりし,会社が不利益になるような行為を行わない(退社後においても同様である)」(同社就業規則〔甲15,甲16〕31条4項)旨の規定があることを根拠とする。そして,上記規則中の退職金規程には,「就業規則第46条(懲戒解雇事由)に定める懲戒規定に基づき懲戒解雇された者」及び「退職後,支給日までの間において在職中の行為につき懲戒解雇に相当する事由が発見された者」に対する退職金不支給又は減額,支給後に上記事由が発見された場合に会社が退職金の返還を求めることができると規定されている(同規定4条)。
(2) 就業規則中の秘密保持等の義務の規定は,上記のような厳しい制裁を伴い得るものである。そうすると,上記「会社の業務上の機密及び会社の不利益となる事項」には,機密としての保護に値するものという見地から,公知の事実や,不正競争防止法上の営業秘密その他の規定により保護を受け得ないものは含まれないものと解するのが相当である。
既に認定したように,本件において,原告両社の主張する営業秘密は,原告両社の営業秘密として,不正競争防止法上の保護を受け得るものとはいえない。
また,上記被告両名が,原告両社や代表者の信用を毀損したり,そのうえで,原告アートに在職中に知り得た会員情報等を用いて,氣づきの会の会員を勧誘したり,被告商品2につき原告商品2と品質が同じであるという誤認をさせる表示を行ったことを認めるべき証拠は存しない。さらに,上記4に認定したとおり,同会の会員と上記被告両名の面談の機会も,会員であってもともと被告Bなどと面識のあったHからの働きかけで実現したものであることが証拠(被告B本人)により認められるから,上記被告両名が原告アートに在職中に知り得た会員情報等を用いたことも認められない。加えて,この面談の際に上記被告両名がDについて述べた事柄も,公知の事実の域を出ない。
上記によれば,原告らの上記請求は理由がない。
6 争点6(被告らの一般不法行為が認められるか)について ここで原告らが,被告らの一般不法行為として主張するところは,要するに,@被告らが原告両社について知悉していることを利用して,原告両社の仕入先に手を回し,原告両社が独占販売権を有することを十分認識しながら,原告商品1と全く同一の商品である被告商品1を原告商品1とそっくりそのままのパッケージ等で販売し,また原告商品2と類似の商品である被告商品2を成分表示を偽って販売したこと,A氣づきの会と同様の組織を作り,氣づきの会の会員等にD及び原告両社の誹誇中傷を行い,さらに,原告商品1及び2と同じ商品を廉価で販売する旨の甘言を弄し,動揺した同会の会員を自分達が作った組織である被告会社の会員とし,氣づきの会の会員を横取りして,原告両社に損害を与えた,という点にあり,既に判示した点と重複するものである。
(1) まず上記@については,既に判示したように,被告らが,被告商品2の品質を誤認するような表示をしたとは認められない。さらに,証拠(甲7,甲8,甲19)から,原告両社が同社らの取扱商品に関しいずれも独占販売権を有すると一応認められるとしても,それ自体は原告両社と供給者との間の債権的契約にすぎないものである。したがって,第三者が当該供給者から商品の供給を受けた結果,供給者において同契約に反する結果となったとしても,供給者の独占的被供給者に対する債務不履行となることはあっても,第三者の行為が直ちに不法行為を構成するものではないというべきである。独占的供給契約が締結されているような場合に,第三者が供給者に働きかけて供給を受ける行為が債権侵害の不法行為を構成するためには,供給者に働きかける行為が詐欺・強迫のような態様であったり,不正競争行為として規制されるものであるなど,通常の取引行為を著しく逸脱した行為であることを要すると解すべきである。ところが,本件において,そのような事情は格別見出されない。すなわち,原告商品1については,既に認定したように,もともと供給者であるEは被告Aの知人であり,原告両社から引き取りを拒まれた商品であることから,被告会社において販売することになったものである。また,原告商品2についても,既に認定したように,その供給元であるBIO社,KGB社とも,ホームページを開設し,通信販売を行っているし,証拠(甲45)によれば,KBG社は日本市場における販売代理店を募集しているような状況である(甲46にしても,BIO社に対し,被告会社の担当者が日本で販売することを自ら述べなかったというにすぎない。)。したがって,被告会社が被告商品1及び2を仕入れた行為は,通常の取引行為に属するものと認めるのが相当である。被告らが@の不法行為を行ったという原告らの主張は,採用できない。
(2) 次に,Aについては,既に判示したように,被告らが原告両社やその代表者であるDの営業上の信用を害する虚偽の事実を告知・流布した事実も,氣づきの会の会員に対して勧誘を行い,これを横取りして被告会社の会員組織に入会させた事実も認められない。よって,被告らがAの不法行為を行ったという原告らの主張も,採用できない。
以上によれば,原告らの主張する被告らの一般不法行為もまた,これを認めるに足りない。
7 まとめ 上記によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告らの被告A,被告B及び被告会社に対する請求は,いずれも理由がない。
結論
以上によれば,原告らの被告Cに対する請求については,理由があるが(ただし,請求の趣旨第7項,第8項の被告商品1及び2の仕入れの差止請求については理由がなく,同3項の名誉信用毀損による損害賠償500万円の請求については200万円の限度でこれを認める。),その余の被告らに対する請求は,いずれも理由がない。なお,仮執行の宣言については,相当でないから,これを付さない。
よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 三村量一
裁判官 青木孝之
裁判官 吉川泉