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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成13ワ8485損害賠償請求事件 判例 不正競争防止法
平成16ワ25297営業行為差止請求事件 判例 不正競争防止法
平成17ワ23171損害賠償等請求事件 判例 不正競争防止法
平成19ワ4916不正競争行為差止等請求事件 平成20ワ3404不正競争行為差止等請求事件 判例 不正競争防止法
平成17ワ2682損害賠償請求事件 判例 不正競争防止法
関連ワード 顧客層 /  類似性(類似) /  外観 /  記憶 /  商業登記 /  差止請求(差止) /  営業上の利益 /  過失 /  共同不法行為 /  因果関係 /  組成した物 /  利益額(利益の額) /  弁護士費用 /  侵害 /  代理人 /  代表者 /  秘密管理(秘密管理性) /  秘密として管理 /  有用性 /  営業上の情報 /  非公知性 /  商品形態模倣行為(2条1項3号) /  営業秘密 /  2条1項4号 /  2条1項5号 /  不正取得行為 /  損害賠償 /  推定 / 
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事件 平成 13年 (ワ) 10308号 営業秘密侵害行為差止等請求事件
平成 14年 (ワ) 2833号 同請求事件
原告(反訴被告) ニュー・クリエイト株式会社
訴訟代理人弁護士 畑郁夫
同 魚住泰宏
同 牟禮大介
補佐人弁理士 曽々木太郎
被告(反訴原告) 株式会社ジーティー・ジャパン
被告A
被告B
上記3名訴訟代理人弁護士 大澤郁夫
上記3名補佐人弁理士 前田弘
同 今江克実
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2003/02/27
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告(反訴原告)株式会社ジーティー・ジャパンは、別紙営業秘密目録記載の電子データを使用して、セラミックコンデンサー積層機及び印刷機を製造し、販売してはならない。
2 被告A及び被告Bは、別紙営業秘密目録記載の電子データを使用してはならない。
3 被告(反訴原告)株式会社ジーティー・ジャパンは、別紙営業秘密目録記載の電子データを使用して製造したセラミックコンデンサー積層機及び印刷機を廃棄せよ。
4 被告ら3名は、別紙営業秘密目録記載の電子データ及び同電子データを印刷した設計図を廃棄せよ。
5 被告ら3名は、原告(反訴被告)に対し、連帯して金4100万円及びこれに対する平成13年10月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6 原告(反訴被告)の被告ら3名に対するその余の請求を棄却する。
7 被告(反訴原告)株式会社ジーティー・ジャパンの反訴請求を棄却する。
8 訴訟費用は、本訴反訴を通じてこれを6分し、その1を原告(反訴被告)の負担とし、その余を被告ら3名の負担とする。
9 この判決は、第1ないし第5項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1(1) 本訴請求の趣旨 @ 主文第1ないし第4項同旨 A 被告ら3名は、原告(反訴被告)に対し、連帯して金5000万円及びこれに対する平成13年10月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
B 訴訟費用は被告ら3名の負担とする。
C 仮執行宣言 (2) 本訴請求の趣旨に対する答弁 @ 原告(反訴被告)の請求をいずれも棄却する。
A 訴訟費用は原告(反訴被告)の負担とする。
2(1) 反訴請求の趣旨 @ 原告(反訴被告)は、被告(反訴原告)株式会社ジーティー・ジャパンに対し、金200万円及びこれに対する平成14年4月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
A 訴訟費用は原告(反訴被告)の負担とする。
B 第@項につき仮執行宣言 (2) 反訴請求の趣旨に対する答弁 @ 被告(反訴原告)株式会社ジーティー・ジャパンの反訴請求を棄却する。
A 訴訟費用は被告(反訴原告)株式会社ジーティー・ジャパンの負担とする。
当事者の主張
(本訴) 1 請求原因 (1) 当事者 ア 原告(反訴被告。以下「原告」という。)は、昭和63年5月12日設立された、セラミックコンデンサー積層機及び印刷機の製造販売を主な事業とする株式会社である。
イ 被告B(以下「被告B」という。)は、平成7年3月30日、原告に入社し、入社以降、セラミックコンデンサー積層機及び印刷機を始めとする各種機械の組立図及び部品図の作成、組み立てられた各種機械の調整の業務に従事していたが、平成11年8月27日、原告を退社した。
ウ 被告A(以下「被告A」という。)は、平成10年9月21日、原告に入社し、入社以降、セラミックコンデンサー積層機及び印刷機を始めとする各種機械の電気設計図の作成、組み立てられた各種機械の試運転業務に従事していたが、
平成11年8月27日、原告を退社した。
エ 被告(反訴原告)株式会社ジーティー・ジャパン(以下「被告会社」という。)は、平成9年11月7日、商号を「株式会社アール・シー・シー」として設立され、土木工事や造園工事の設計、施工、請負及びコンサルタント等を主な事業としていたが、平成11年9月9日、商号を現在の商号に変更するとともに、その商業登記簿上の目的に、「電子部品製造機械の企画開発、設計、加工、販売及び輸出入」並びに「電子部品製造機械のレンタル、リース及びコンサルタント」を加え、同月から、被告A及び被告Bを雇用してセラミックコンデンサー積層機及び印刷機の設計を行わせ、その製造販売を行っている。
(2) 営業秘密 ア 情報 原告は、昭和63年の設立時からセラミックコンデンサー積層機及び印刷機の製造販売を行っており、平成11年8月の時点で、合計約6000枚に上るセラミックコンデンサー積層機及び印刷機の設計図を、ハード及びCAD(Computer Aided Design)による電子データの形で保有していた。別紙営業秘密目録記載の電子データ(以下「本件電子データ」という。)は、この設計図の電子データである。
訴訟上営業秘密の特定については、そのすべてを開示する必要はなく、
別紙営業秘密目録記載の程度をもって足りる。
有用性 本件電子データに係る設計図は、1機種当たり数百から千数百点に及ぶ各部品について、形状、寸法、選定及び加工に関する情報などが記載されており、
そこには、精緻で高性能のセラミックコンデンサー積層機及び印刷機を製造するための技術的なノウハウが示されている。本件電子データをCADソフトによって活用することにより、顧客の個別の注文に応じたセラミックコンデンサー積層機及び印刷機の設計図を作成し、それに基づいて容易かつ効率的に短時間にセラミックコンデンサー積層機及び印刷機を製作することができる。
原告は、昭和63年の設立当初は従業員2名の小規模な会社であったが、努力の末に生み出されたアイデアと工夫を、多額の開発費用と時間をかけて本件電子データに結集させ、設計技術を向上させ、その結果、セラミックコンデンサー積層機の販売は、平成11年度には販売台数31台、売上額9億7000万円となり、原告の総売上額の65パーセントを占めるようになり、販売先は、日本国内のほか海外に及び、平成11年8月当時、従業員数は10名となった。
したがって、本件電子データは、原告の主な事業であるセラミックコンデンサー積層機及び印刷機の製造販売に有用な技術上又は営業上の情報に当たる。
秘密管理性 (ア) 本件電子データは、平成11年8月当時、原告において、メインコンピュータのサーバーにおいて集中して保存されていた。当時、設計業務に携わっていたのは、被告A、被告Bを含む6名の従業員及び設計補助の女性従業員2名であった。これらの従業員は、メインコンピュータと社内だけに限ってLAN接続されたコンピュータ端末機を使用し、設計業務に必要な範囲内でのみメインコンピュータのサーバーに保存されている本件電子データにアクセスし、その時々に必要な電子データのみを各コンピュータ端末機に取り出して設計業務を行っていた。
原告は、本件電子データを始めとする技術情報が外部へ漏洩するのを防止するため、メインコンピュータのサーバー及び各コンピュータ端末機を外部に接続せず、インターネット、電子メールの交換など外部との接続は、別の外部接続用コンピュータ1台のみを用いて行っていた。
原告においては、本件電子データのバックアップをDATテープによって行っていたが、このバックアップ作業は、設計部門の総括責任者と営業部門の総括責任者だけに許可されており、バックアップ作業を行うに当たっては、特定のユーザーIDとパスワードをメインコンピュータに入力することが必要であった。
バックアップを取ったDATテープは、設計部門の総括責任者の机上にあるキャビネットの中に施錠して保管していた。
(イ) 本件電子データは、その情報の種類性質から、技術者であれば営業秘密であることを容易に認識し得る。
原告は、平成11年8月当時、従業員総数10名の小企業であり、情報管理の程度や態様を大規模企業と同様に厳格に要求するのは現実的ではなく、原告のような小企業においては、一応相当の情報管理さえされていれば、秘密管理性の要件は充足されるといえる。
(ウ) したがって、本件電子データについて秘密管理性の要件は充足されている。
非公知性 原告は、セラミックコンデンサー積層機及び印刷機が円滑に稼働するように、多数の汎用部品の中から使用部品を選定した上、選定した部品に独自の加工を施して、所定の形状、寸法としており、本件電子データには、各部品の形状、寸法、選定及び加工に関する技術情報が集積されている。これらの技術情報は、原告が独自に形成、蓄積してきたものであり、いかなる刊行物にも記載されていないし、公然と知られていない。
本件電子データに係る設計図は、単なる汎用品としての部品の形状、寸法等を記載したものではない。
原告の製造販売したセラミックコンデンサー積層機及び印刷機についてリバースエンジニアリングを行うには膨大な時間と費用を要するし、リバースエンジニアリングによっては、本件電子データのすべてを得ることはできず、本件電子データに係る情報は、リバースエンジニアリングによって得られる情報と比べて、
多様性、精度及び利用価値において全く異なる。原告がセラミックコンデンサー積層機及び印刷機を製造販売しても、本件電子データが開示されたことにはならない。
オ したがって、本件電子データは、原告の営業秘密に当たる。
(3) 営業秘密の不正取得等 ア(ア) ボールネジ図面 被告会社の従業員となった被告Bは、平成11年10月7日、坂本工機株式会社(以下「坂本工機」という。)に対し、セラミックコンデンサー積層機を構成するボールネジについて、その図面(以下「被告ファックスボールネジ図面」という。)をファックスにより送付し、見積りを依頼した(甲第4号証の3は、坂本工機の担当者が後に原告に送付した「被告ファックスボールネジ図面」である。)。
本件電子データを構成するボールネジの図面の電子データを印刷した図面(甲第5号証の1は、平成11年8月当時に原告が使用していたプリンターによって印刷したものであり、甲第5号証の2は、原告が現在使用しているプリンターによって印刷したものである。以下、これらをまとめて「原告ボールネジ図面」という。)を被告ファックスボールネジ図面と比較すると、設計技術上、画一的な設計を要せず、自由設計が許される部分を含めてすべて一致している。
被告らは、セラミックコンデンサー積層機を製造するに当たり、本件電子データを不正に使用して被告ファックスボールネジ図面を作成しているから、
その後に独自開発を行うことなどあり得ない。
(イ) エアーシャフト図面 被告会社の従業員となった被告Bは、平成11年10月12日、ニューマチック工業株式会社(以下「ニューマチック工業」という。)に対し、セラミックコンデンサー積層機を構成するエアーシャフトについて、その図面(以下「被告ファックスエアーシャフト図面」という。)をファックスにより送付して、見積りを依頼した(甲第7号証の2は、ニューマチック工業の担当者が後に原告に送付した「被告ファックスエアーシャフト図面」である。)。
本件電子データを構成するエアーシャフトの図面の電子データを印刷した図面(甲第8号証の1は、平成11年8月当時に原告が使用していたプリンターによって印刷したものであり、甲第8号証の2は、原告が現在使用しているプリンターによって印刷したものである。以下、これらをまとめて「原告エアーシャフト図面」という。)を被告ファックスエアーシャフト図面と比較すると、設計技術上、画一的な設計を要せず、自由設計が許される部分を含め、転籍した技術者がかつての経験と記憶のみで再現できる範囲を超えて一致している。
被告A及び被告Bが、原告ボールネジ図面及び原告エアーシャフト図面に係る電子データをたまたま所持していたというのは不自然である。
(ウ) 設計期間 被告A及び被告Bが平成11年8月27日に原告を退社した後、被告Bがボールネジ、エアーシャフトの見積りを依頼するまでの期間は約40日である。しかし、セラミックコンデンサー積層機の設計は、最初から行うと、セラミックコンデンサー積層機に詳しい者が担当しても2人で少なくとも3か月はかかり、
電気関係についても、1人で設計をすると少なくとも1か月半はかかるから、被告A及び被告Bの経歴、年齢に照らして、同被告らがそのような短期間に独自にセラミックコンデンサー積層機の設計を行うのは不可能である。
(エ) 原告機械と被告機械の類似性 セラミックコンデンサー積層機の機械の構造、各装置の配置方法、部品の形状及び寸法は、セラミック生シートに印刷された素材をカットし、シートを剥離した上で積層を行うという機能を実現する限り、設計者が自由に決定することができ、これらは、実際上も機種によって異なり、一致又は酷似することにつき必然性はない。また、セラミックコンデンサー積層機には、製品を貼り付けるためのステンレス板を使用していないものがあり、ステンレス板の形状及び寸法は、製品の寸法によって限定されることはない。
しかし、被告会社のセラミックコンデンサー積層機の機械の構造、部品の形状及び寸法は、原告のセラミックコンデンサー積層機に一致又は酷似している。製品を貼り付けるためのステンレス板の部品の形状は、被告会社のセラミックコンデンサー積層機と原告のセラミックコンデンサー積層機とで完全に一致する。
(オ) 被告Aの行動 被告Aには、次のとおり、原告退職前に設計図面の不正取得をうかがわせる不審な行動があった。
a 平成11年8月24日、被告Aは、原告社内のネットワークに接続されている端末パソコンにノートパソコンをケーブルで接続して長時間にわたって操作していた。同月25日、被告Aは、ノートパソコンを所持して徒歩で帰宅し、
自動車で送る旨の原告代表者の申出を断った。
b 平成11年10月30日ごろ、原告社内の被告Aが使用していたデスクに設置されていたパソコンに、データをコピーするためのケーブルが接続されているのが見つかった。
(カ) 本件電子データの一括取得 a セラミックコンデンサー積層機及び印刷機は、多数の部品が組み合わされて互いに協働して初めて所期の性能を発揮し得るから、設計図の一部だけでは意味はなく、機械全体の設計図がなければ利用価値はほとんどない。原告ボールネジ図面及び原告エアーシャフト図面だけを流用し、その他の大多数の部品を独自に設計するようなことはあり得ない。
b 本件電子データに係る合計約6000枚に及ぶ設計図を一括して取得するには、ハード図面をコピー機でコピーするよりも、電子データを電子記憶媒体に複製して取得する方が、密行性や迅速性の点ではるかに容易であり、また、改造や新規設計の際にそのまま利用できることから情報としての価値も大きい。その上、被告ファックスボールネジ図面と原告ボールネジ図面、被告ファックスエアーシャフト図面と原告エアーシャフト図面を比較すると、記載されている情報内容のすべてが同一であるにもかかわらず、文字のフォントや書体など、コンピュータ又はプリンターの設定次第で変化する部分だけが異なっている。
本件電子データは、DATテープ1本を用いれば、そのすべてを数分程度で簡単に複製することができ、ごく一部の図面をわざわざ選り分けて複製するよりも、全部を複製する方がはるかに容易である。
そして、被告らが、本件電子データを取得した後、独自に設計図をすべて作成し直したということは考えられない。
c したがって、合計約6000枚に及ぶセラミックコンデンサー積層機及び印刷機の設計図に係る本件電子データのすべてが不正に取得され、使用されている。
原告のセラミックコンデンサー積層機であるNCG-3000の技術に係る特許公報と被告会社のセラミックコンデンサー積層機であるGS-300の技術に係る公開特許公報を比較することは、原告の営業秘密である本件電子データの不正取得、不正使用の主張に対する反論とはならない。被告会社の特開2001-223144号公開特許公報、特開2001-223131号公開特許公報記載の各発明の出願は、構造上も技術上もセラミックコンデンサー積層機のごく一部にすぎない不良品排除に関する仮圧着機構部分につき、原告の特許を回避するために行われたものである。原告のNCG-3000と被告のGS-300の構造が完全に同一でなかったとしても、基本的なコンセプトは共通で、異なる部分は、セラミックコンデンサー積層機の全体のうちごく一部であり、しかも、異なる部分は、
本件電子データを改変することにより設計図を作成した上で改変したものであって、本件電子データを利用したことによる成果物にすぎない。被告会社が製造販売しているセラミックコンデンサー積層機及び印刷機の個々の部品の構造、寸法が、
本件電子データに係る図面に記載された構造、寸法と異なっていたとしても、本件電子データは、顧客の注文に応じてCADソフトにより寸法を容易に改変することができ、むしろそのことが営業秘密としての有用性であるから、被告会社が製造販売しているセラミックコンデンサー積層機及び印刷機は、原告の営業秘密である本件電子データを不正に使用して生じた成果物である。
イ 上記ア(ア)ないし(カ)の事実によれば、被告らが、原告の営業秘密である本件電子データを、次のとおり不正に取得又は使用していることが明らかである。
(ア) 被告A及び被告Bによる不正競争 被告A及び被告Bは、原告の営業秘密である本件電子データを、原告に無断で複製して取得し、これを自ら使用し、又は被告会社に開示した(不正競争防止法2条1項4号)。
これらの不正競争を行うにつき、被告A及び被告Bには故意があった。
(イ) 被告会社による不正競争 被告会社は、被告A及び被告Bが、原告の営業秘密である本件電子データを原告に無断で複製して不正に取得したことを知りながら、被告A及び被告Bから、原告の営業秘密である本件電子データを取得し、本件電子データを使用してセラミックコンデンサー積層機及び印刷機の製造販売を行っている(不正競争防止法2条1項5号)。
これらの不正競争を行うにつき、被告会社には故意があった。
(4) 営業上の利益侵害 原告は、被告らが原告の営業秘密である本件電子データを不正に取得、使用したことにより、営業上の利益侵害されており、今後も侵害されるおそれがある。
(5) 損害 ア 被告会社は、原告の営業秘密である本件電子データを使用して、平成11年9月から本訴提起時である平成13年10月2日までに、少なくともセラミックコンデンサー積層機4台及び印刷機3台を製造販売し、これにより少なくとも合計1億7400万円の売上を上げた。利益率は売上額の35パーセントを下らないから、被告会社が上げた利益は、6090万円を下らない(6090万円=1億7400万円×0.35)。
不正競争防止法5条1項により、被告会社が上げた利益の額である6090万円が、原告が受けた損害の額と推定される。
原告は、上記6090万円の内金である4545万円を請求する。
イ 原告は、仮処分、証拠保全及び本訴の追行を弁護士及び弁理士に委任せざるを得ず、被告らの不正競争と相当因果関係の範囲内にある弁護士費用及び弁理士費用の合計は、500万円を下らない。
原告は、上記500万円の内金である455万円を請求する。
ウ したがって、原告は、損害の内金として、合計5000万円(5000万円=4545万円+455万円)を請求する。
(6) 結論 よって、原告は、被告らに対し、次のとおり請求する。
ア 被告A及び被告Bに対し、不正競争防止法2条1項4号3条1項に基づき、本件電子データの使用の差止めを求め、同法3条2項に基づき、本件電子データ及び本件電子データを印刷した設計図の廃棄を求める。
イ 被告会社に対し、不正競争防止法2条1項5号3条1項に基づき、本件電子データを使用してセラミックコンデンサー積層機及び印刷機を製造販売することの差止めを求め、同法3条2項に基づき、本件電子データ及び本件電子データを印刷した設計図の廃棄、本件電子データを使用して製造したセラミックコンデンサー積層機及び印刷機の廃棄を求める。
ウ 被告らに対し、不正競争防止法4条5条1項に基づき、連帯して5000万円及びこれに対する不正競争の後である平成13年10月13日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
2 請求原因に対する認否及び反論 (1)ア 請求原因(1)(当事者)アの事実のうち、原告が、セラミックコンデンサー積層機及び印刷機の製造販売を主な事業とする会社であることは認め、その余は不知。
イ 請求原因(1)イの事実は認める。
ウ 請求原因(1)ウの事実は認める。
エ 請求原因(1)エの事実のうち、被告会社が被告A及び被告Bを雇用してセラミックコンデンサー積層機及び印刷機の設計を行わせ、その製造販売を開始したのが平成11年9月であることは否認するが、その余は認める。
(2)ア 請求原因(2)(営業秘密)ア(情報)の事実のうち、原告がセラミックコンデンサー積層機及び印刷機の製造販売を行っていることは認め、その余は不知。
別紙営業秘密目録は、原告のセラミックコンデンサー積層機及び印刷機に使用されている部品の図面番号のみが特定されている単なる部品目録にすぎないものであり、技術内容のどこに意味があるのか不明であり、何が営業秘密に該当する技術情報かが全く特定されていない。
イ 請求原因(2)イ(有用性)の事実は不知であり、主張は争う。
ウ(ア) 請求原因(2)ウ(秘密管理性)(ア)の事実のうち、平成11年8月当時、原告において、被告A及び被告Bが設計業務に携わっていたことは認め、その余は不知。
(イ) 請求原因(2)ウ(イ)の事実は否認し、主張は争う。
(ウ) 請求原因(2)ウ(ウ)の主張は争う。
エ(ア) 請求原因(2)エ(非公知性)の事実は否認し、主張は争う。
(イ) 原告ボールネジ図面及び原告エアーシャフト図面記載の各部品を備えたNCG-3000を始めとする原告のセラミックコンデンサー積層機及び印刷機は、相当台数が、秘密保持契約なしに販売されており、それらに関する技術情報は、リバースエンジニアリングを行うことにより知り得るから、不特定人の認識し得る状態にあり、公知となったものである。原告は、本件電子データのうち非公知の情報を特定すべきである。
原告のNCG-3000等のセラミックコンデンサー積層機は、印捺操作を主体とする模様染めを行う捺染機を原型としたものである。捺染機は、布帛を巻出しロールから張り付けロールなど複数のロールを介して巻き取りロールに至る搬送路に沿って搬送しつつ捺染する装置であり、セラミックコンデンサー積層機は、この布帛の搬送及び捺染の技術を転用したものであり、セラミック生シートが貼付されたフィルムが布帛に相当し、このフィルムを搬送路に沿って搬送しつつセラミック生シートをフィルムから剥離して積層する装置である。各種のロールの配置は、装置の機能目的によって定まり、捺染機とセラミックコンデンサー積層機とでは、機能目的の相違によりロールの配置等が異なるにすぎない。捺染機に関する技術は、明治、大正時代から開示され、昭和40年以前で既に90件が特許出願された従来よりの周知慣用の技術である。したがって、原告のセラミックコンデンサー積層機に関する技術は、常識化された公知技術の転用に相当する。
セラミックコンデンサー積層機は、原告の設立以前から存在し、セラミックメーカー各社及びセラミックコンデンサーの製造販売会社は、セラミックコンデンサーの製造について多数の特許出願を行い、昭和59年12月14日から平成11年4月9日までの間に、192件の特許出願が出願公開されており、セラミックコンデンサーの製造技術は周知慣用の技術であり、原告のセラミックコンデンサー積層機は、原告のオリジナル装置ではなく、当業者であれば容易に製作し得る程度のものにすぎない。原告代表者は、従前、捺染機及びセラミックコンデンサー積層機の製造企業に勤務し、そこで得た知識に基づいてNCG-3000等の装置を作り出したにすぎない。そうであるとすると、セラミックコンデンサー積層機は、3か月もあれば基本設計することは十分に可能である。
原告は、特許第2829910号、特許第2829911号の各特許権を有しており、特許第2829910号の特許発明の技術内容は、平成9年8月12日の出願公開(特開平9-207114号公開特許公報)により公開され、特許第2829911号の特許発明の技術内容は、平成9年9月2日の出願公開(特開平9-225924号公開特許公報)により公開されている。本件電子データに係る技術内容のうち、これらの出願公開によって開示された技術情報は、営業秘密に該当しない。
原告は、平成12年4月4日、被告らを債務者として当庁平成12年(ヨ)第20029号製造販売等禁止仮処分命令申立事件(以下「前仮処分事件」という。)を申し立て、被告会社による特許権侵害及び不正競争防止法2条1項3号の不正競争を主張したが、その申立書に添付された別紙機械目録の図1には原告のセラミックコンデンサー積層機(NCG-3000)の全体図が、図3にはその仮圧着装置の組立図が開示されており、図3において引出線をもって示されている図面番号、例えば図面左上部の45/1388は、別紙営業秘密目録におけるNCG-3000の本圧着プレス欄の「45-1388 押エ板」に該当するから、原告のセラミックコンデンサー積層機及び印刷機に関する技術は、公知の技術情報である。
したがって、本件電子データは、非公知性の要件を充足しない。
オ 請求原因(2)オの主張は争う。
(3)ア(ア) 請求原因(3)(営業秘密の不正取得等)ア(ア)(ボールネジ図面)のうち、被告会社の従業員となった被告Bが、平成11年10月7日、坂本工機に対し、セラミックコンデンサー積層機を構成するボールネジについて、被告ファックスボールネジ図面をファックスにより送付し、見積りを依頼したこと、原告ボールネジ図面を被告ファックスボールネジ図面と比較すると、設計技術上、画一的な設計を要せず、自由設計が許される部分を含めてすべて一致していることは認め、
甲第4号証の3が、坂本工機の担当者が後に原告に送付した被告ファックスボールネジ図面であること、甲第5号証の1が、平成11年8月当時に原告が使用していたプリンターによって印刷したものであり、甲第5号証の2が、原告が現在使用しているプリンターによって印刷したものであることは、不知であり、その余の事実は否認し、主張は争う。
(イ) 請求原因(3)ア(イ)(エアーシャフト図面)のうち、被告会社の従業員となった被告Bが、平成11年10月12日、ニューマチック工業に対し、セラミックコンデンサー積層機を構成するエアーシャフトについて、被告ファックスエアーシャフト図面をファックスにより送付し、見積りを依頼したこと、原告エアーシャフト図面を被告ファックスエアーシャフト図面と比較すると、設計技術上、画一的な設計を要せず、自由設計が許される部分を含め、転籍した技術者がかつての経験と記憶のみで再現できる範囲を超えて一致していることは認め、甲第7号証の2が、ニューマチック工業の担当者が後に原告に送付した被告ファックスエアーシャフト図面であること、第8号証の1が、平成11年8月当時に原告が使用していたプリンターによって印刷したものであり、甲第8号証の2が、原告が現在使用しているプリンターによって印刷したものであることは不知であり、その余の事実は否認し、主張は争う。
被告A及び被告Bは、原告においてセラミックコンデンサー積層機の開発、製造に従事する過程で、原告ボールネジ図面及び原告エアーシャフト図面に相当する図面をたまたま所持しており、被告Bは、その図面を見積りに使用した。
退職した従業員が退職後も従前従事した職務に関する書類をたまたまごく一部所持していることは通常あり得ることであり特に異常なことではないから、被告A及び被告Bが部品全体のごく一部である汎用的な部品2点の図面の電子データを所持していることは、何ら不自然ではない。
原告ボールネジ図面及び原告エアーシャフト図面は、セラミックコンデンサー積層機に通常使用される汎用部品の図面であり、型番さえ分かれば容易に入手可能なもので、非公知性の要件を具備せず、原告において部外秘とされ又は特定の場所に保管されるなど秘密として管理されていたものではなく、それが事業活動に使用されることによって費用の節約や経営効率の改善に役立つことはなく、有用性もない。
原告ボールネジ図面に記載されたボールネジ、原告エアーシャフト図面に記載されたエアーシャフトは、NCG-3000が製造販売されたことによって公知となっているから、これらの図面に類似した図面を被告らが保有しているとしても、本件電子データを不正取得したことにはならない。
被告のGS-300に使用されているボールネジは、NSK(日本精工株式会社)製のRS2010A06であり、中央部のネジ部の片側にキー溝を有する小径軸部が形成される一方、ネジ部の他の片側にM15のネジを有する小径ネジ部が形成されるとともに、その小径ネジ部にピンが形成されたものである。そして、当該ボールネジは、全長が508mm、ネジ部の長さが420mm、ネジ部の外径(直径)が20mm、小径軸部の長さが53mm、小径ネジ部の長さが26mm、ピンの長さが9mmである。これに対し、原告のNCG-3000に使用されているボールネジ(原告ボールネジ図面記載のボールネジ)は、中央部のネジ部に螺合する螺合部材が設けられ、そのネジ部の片側にキー溝を有する小径軸部が形成される一方、ネジ部の他の片側にネジ及びキー溝を有する小径ネジ部が形成されるとともに、その小径ネジ部にピンが形成されたものである。そして、当該ボールネジは、全長が520mm、ネジ部の長さが406mm、ネジ部の外径が不明、小径軸部の長さが64mm、小径ネジ部の長さが26mm、ピンの長さが24mmである。このように、被告のGS-300に使用されているボールネジは、原告のNCG-3000に使用されているボールネジとは、その構造、形状及び寸法が全く異なる。
被告会社のセラミックコンデンサー積層機に使用されたボールネジは汎用品に相当程度加工されており、エアーシャフトは、汎用品にわずかの加工しか施されておらず、いずれの図面も、原告ボールネジ図面及び原告エアーシャフト図面とは異なる。
(ウ) 請求原因(3)(ウ)(設計期間)のうち、被告A及び被告Bが平成11年8月27日に原告を退社したことは認め、その余の事実は否認し、主張は争う。
(エ) 請求原因(3)ア(エ)(原告機械と被告機械との類似性)の事実のうち、製品を貼り付けるためのステンレス板の部品の形状が、被告会社のセラミックコンデンサー積層機と原告のセラミックコンデンサー積層機とで完全に一致することは認め、その余は否認する。
機械製品が目的、機能及び作用を同じくする場合、一義的に定まる構造及び形状が存在することは、明白な事実であり、セラミックコンデンサー積層機は、目的、機能及びセラミック生シートを積層する工程が同じであるから、その構造及び形状は自ずと定まるし、受注生産であるから、顧客の要望する機能及び作用が同じであれば、当然、構造及び形状は同じとなる。セラミックコンデンサー積層機は、原告、被告会社及びそれ以外のメーカー製造のものも、すべて外観類似している。また、規格で寸法が決定されている部品を配置した場合には、外形が酷似する場合がある。
原告が原告のセラミックコンデンサー積層機と被告会社のセラミックコンデンサー積層機の間で一致しているとする外形の輪郭は、原告が有する特許権に係る特許第2829910号特許公報の図2、特許第2829911号特許公報の図3に示されており、原告の出願に係る特開平10-284346号公開特許公報の図1、特開平10-233337号公開特許公報の図8においても、同様なロールの配置構造等が開示されている。セラミックコンデンサー積層機を製造販売する太陽誘電株式会社が出願したセラミックに関する特許で平成5年以降に出願公開されたものは355件に上り、そのうち、特開平9-48019号公開特許公報、
特開平9-183111号公開特許公報及び特開平10-71611号公開特許公報に開示されているように、コンベア装置、巻出装置及び巻取装置等は、いずれも複数のローラーを用いた構成となっている。これらのコンベア装置、巻出装置及び巻取装置等の構造は、特許出願によって広く大衆に開示されたものであって、明細書に記載された技術内容のうち特許請求の範囲に記載されなかったものは、出願前に既に公知であるか、又は出願者が特許権取得を放棄し、自由な実施を許容したものである。原告が原告のセラミックコンデンサー積層機と被告会社のセラミックコンデンサー積層機の間で一致しているとするコンベア装置、サンクションロール装置などの技術事項は、自由な実施が許容されたものである。特に原告のNCG-3000は、原告が昭和63年より製造販売している主力商品であり、販売台数も多数に上っており、その構造及び形状は、公知となったものであり、何人も自由に実施し得る。したがって、原告のセラミックコンデンサー積層機であるNCG-3000と被告会社のセラミックコンデンサー積層機の構造、部品の形状及び寸法が一致又は酷似していることは、何ら違法ではなく、図面の不正取得の根拠とはなり得ない。
積層されるセラミック生シートのサイズは、通常、150ミリ四方であるから、製品を貼り付けるためのステンレス板の部品の形状が一致するのは当然である。
(オ) 請求原因(3)ア(オ)(被告村野の行動)前文の主張は争い、aの事実は否認し、bの事実は不知である。
(カ) 請求原因(3)ア(カ)(本件電子データの一括取得)aないしcのうち、セラミックコンデンサー積層機及び印刷機の設計図の一部だけでは意味がなく、機械全体の設計図がなければ利用価値がほとんどないことは認め、その余の事実は否認し、主張は争う。
同一のプリンターによっても異なる書体で電子データをプリントアウトすることは十分に可能であるから、原告ボールネジ図面と被告ファックスボールネジ図面、原告エアーシャフト図面と被告ファックスエアーシャフト図面の間で記載されている情報内容が同一で文字のフォントや書体が異なることをもって、電子データが不正取得されたことの根拠とすることはできない。
原告のセラミックコンデンサー積層機であるNCG-3000は、原告の特許第2829910号、特許第2829911号の各発明の実施品であるのに対し、被告会社のセラミックコンデンサー積層機であるGS-300は、被告会社の出願に係る特開2001-223144号公開特許公報、特開2001-223131号公開特許公報記載の各発明の実施品であり、被告のGS-300は、原告のNCG-3000と、構成、作用及び効果を異にする。すなわち、被告のGS-300は、特許第2829910号の特許請求の範囲請求項1記載の発明の構成要件の一部である「上下押さえ台の一方を回動中心廻りに回動自在に支持する球面支持手段」を備えず、上分割体を3つの小形油圧シリンダにより3点で支持するようにしたものであり、面支持とは全く異なる解決手段を講じたものであって、3つの小形油圧シリンダに接続された油圧系統の圧油の移動により小形油圧シリンダが伸張又は収縮し、上押さえ台と下押さえ台との加圧面を平行にするものである。また、被告のGS-300は、特許第2829911号の特許請求の範囲請求項1記載の発明の構成要件の一部である「上下押さえ台を加圧してセラミック生シートを積層するための加圧力が上記位置補正手段におよぶのを回避する加圧力吸収手段」を備えず、下押さえ台に作用する加圧力には、摺動メタル及びモーター駆動力によって対処している。被告のGS-300において、位置補正手段であるサーボモーター140及びネジ軸141と、ウォーム130、ウォームギア131、ウォームモータ132及び軸134とは、直線移動台120と回転台110と昇降台100との間に設けられている。そして、直線移動台120は、回転台110に摺動メタル122を介して直接に載置され、また、回転台110は、昇降台100に摺動メタル111を介して直接に載置されている(乙第5号証参照)。このように、被告会社のセラミックコンデンサー積層機は、原告のセラミックコンデンサー積層機とは、構造、形状、寸法が異なり、本件電子データを使用して製造されたものではない。
イ 請求原因(3)イ前文、(ア)(被告A及び被告Bによる不正競争)、(イ)(被告会社による不正競争)の事実は否認し、主張は争う。
被告らが6000枚以上の図面に係る本件電子データを不正取得したということの根拠は何ら存在しない。不正取得とは、窃取、詐欺、脅迫等の刑罰法規に該当する行為又はそれと同等の違法性を有する行為をいうと解されるが、被告ファックスボールネジ図面、被告ファックスエアーシャフト図面は、それぞれ原告ボールネジ図面、原告エアーシャフト図面と似通ってはいるが、書体等は異なり、被告ファックスボールネジ図面、被告ファックスエアーシャフト図面に係る電子データは、本件電子データそのものではない。
また、仮に本件電子データが営業秘密に該当するとしても、わずか2枚の部品図面をたまたま被告らが所持していたことから、6000枚以上の設計図に係る本件電子データの不正取得を推認することは、あまりに非常識であり不合理である。
(4) 請求原因(4)(営業上の利益侵害)の事実は否認し、主張は争う。
(5)ア 請求原因(5)(損害)アの事実は、被告会社が、平成11年9月から本訴提起時である平成13年10月2日までに、セラミックコンデンサー積層機4台及び印刷機2台を製造販売し、その売上が1億4800万円であり、利益率が25パーセントであるとの限度で認め、その余の事実は否認し、主張は争う。
イ 請求原因(5)イの事実は否認し、主張は争う。
ウ 請求原因(5)ウの主張は争う。
(反訴) 1 反訴請求原因 (1) 原告は、平成12年4月4日、被告らを債務者として前仮処分事件を申し立て、被告らによる特許権侵害及び不正競争防止法2条1項3号の不正競争を主張した。前仮処分事件については、却下されることが明白になり、原告は、同年7月28日、前仮処分事件を取り下げた。
原告は、前仮処分事件を取り下げた後約1年3か月後の平成13年10月2日、本訴及びその保全処分である当庁平成13年(ヨ)第20062号不正競争防止法に基づく差止請求仮処分命令申立事件(以下「現仮処分事件」という。)を提起した。
(2) 本訴及び現仮処分事件の請求原因は、被告A及び被告Bが、原告の営業秘密である本件電子データを不正に取得し、これを自ら使用し、又は被告会社に開示したこと、被告会社が、被告A及び被告Bから本件電子データを取得し、これを使用してセラミックコンデンサー積層機及び印刷機の製造販売を行っていることなどである。本訴及び現仮処分事件の請求原因事実は、前仮処分事件の取下げ後生じた事実ではなく、原告が通常用いるべき注意を尽くしていたならば容易に認識し、主張することができた事実であるし、前仮処分事件の請求原因事実とは社会的に1個の事実と評価される。
本案訴訟であれば、被告は、原告の取下げを不同意とすることにより終局判決を得ることができ、不当な訴訟を回避することができるが、保全手続では、債務者は、仮処分の申立てが取り下げられると、不当な訴訟を回避することができず、応訴を強いられることにより、有形無形の損害を受ける。
被告会社は、原告の故意又は過失により、本来1個の訴訟手続で解決されるべき紛争を、前仮処分事件と、本訴及び現仮処分事件の2個の法的手続に分断され、防御のために不当な応訴を強いられた。本訴及び現仮処分事件の提起は、被告会社に対する悪質な嫌がらせであり、被告会社の事業に対する妨害であって、不法行為を構成する。
被告会社は、本訴及び現仮処分事件の弁護士費用として、着手金100万円を支払い、報酬として100万円を支払うことを約した。
(3) よって、被告会社は、原告に対し、不法行為に基づく損害賠償として、200万円及びこれに対する不法行為の後である平成14年4月11日(反訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
2 反訴請求原因に対する認否 (1) 反訴請求原因(1)の事実のうち、前仮処分事件について却下されることが明白になったことは否認し、その余は認める。
(2) 反訴請求原因(2)のうち、本訴及び現仮処分事件の請求原因が、被告A及び被告Bが原告の営業秘密である本件電子データを不正に取得し、これを自ら使用し又は被告会社に開示したこと、被告会社が被告A及び被告Bから本件電子データを取得し、これを使用してセラミックコンデンサー積層機及び印刷機の製造販売を行っていることなどであることは認め、本訴及び現仮処分事件の請求原因事実が、
前仮処分事件の取下げ後生じた事実ではないことは認め、被告会社が本訴及び現仮処分事件の弁護士費用として着手金100万円を支払い、報酬として100万円を支払うことを約したことは不知であり、その余の事実は否認し、主張は争う。
本訴及び現仮処分事件は、実体法所定の請求権に基づいた正当な権利行使であり、前仮処分事件とは訴訟物を異にするから、紛争の蒸し返しではない。原告には、前仮処分事件において、本訴及び現仮処分事件におけるような不正競争防止法2条1項4号、5号及び3条に基づく請求を行う義務はない。前仮処分事件と本訴及び現仮処分事件とは、訴訟物を異にし、攻撃防御方法の対象を全く異にするから、これらの請求を同時に行うか各別に行うかによって、被告会社の応訴活動に相違はなく、前仮処分事件と別個に本訴及び現仮処分事件を提起することが被告に不利益を与えることはない。提訴者が訴権を行使すると、通常、相手方は応訴せざるを得ないが、それは、法制度上訴権の行使を保障していることの結果であって、提訴者の正当な訴権の行使を違法とすることはできない。したがって、本訴及び現仮処分事件の提起は適法であり、不法行為を構成しない。
理 由
本訴
1(1) 当事者 ア 請求原因(1)(当事者)アの事実のうち、原告が、セラミックコンデンサー積層機及び印刷機の製造販売を主な事業とする会社であることは、当事者間に争いがない。
甲第1号証によれば、原告は、昭和63年5月12日設立されたことが認められる。
イ 請求原因(1)イの事実は、当事者間に争いがない。
ウ 請求原因(1)ウの事実は、当事者間に争いがない。
エ 請求原因(1)エのうち、被告会社が、平成9年11月7日、商号を「株式会社アール・シー・シー」として設立され、土木工事や造園工事の設計、施工、請負及びコンサルタント等を主な事業としていたが、平成11年9月9日、その商業登記簿上の目的に、「電子部品製造機械の企画開発、設計、加工、販売及び輸出入」並びに「電子部品製造機械のレンタル、リース及びコンサルタント」を加え、
その後、被告A及び被告Bを雇用してセラミックコンデンサー積層機及び印刷機の設計を行わせ、その製造販売を行っていることは、当事者間に争いがない。
後記(3)ア(ア)のとおり、被告Bが、平成11年10月7日、坂本工機に対し、被告ファックスボールネジ図面をファックスにより送付して見積りを依頼したことは、当事者間に争いがなく、後記(3)ア(イ)のとおり、被告Bが、同月12日、ニューマチック工業に対し、被告ファックスエアーシャフト図面をファックスにより送付して見積りを依頼したことは、当事者間に争いがなく、これらの当事者間に争いのない事実と被告B本人尋問の結果によれば、被告会社は、遅くとも平成11年10月初めごろには、被告A及び被告Bを雇用し、セラミックコンデンサー積層機及び印刷機の設計を開始していたものと認められる。
(2) 営業秘密 ア 情報 (ア) 請求原因(2)(営業秘密)ア(情報)の事実のうち、原告がセラミックコンデンサー積層機及び印刷機の製造販売を行っていることは、当事者間に争いがない。
甲第1、第2号証、第5号証の1、2、第6号証、第8号証の1、
2、第27号証によれば、原告が、昭和63年の設立時からセラミックコンデンサー積層機及び印刷機の製造販売を行っており、平成11年8月の時点で、合計約6000枚に上るセラミックコンデンサー積層機及び印刷機の設計図を、ハード及びCAD(Computer Aided Design)による電子データの形で保有していたこと、本件電子データがこの設計図の電子データであることが認められる。
不正競争防止法2条1項4号、5号所定の営業秘密の不正取得等による不正競争の成否を判断するに当たって、営業秘密が特定されているというためには、そのすべてを開示する必要はなく、有用性秘密管理性非公知性という同法2条4項所定の要件の充足の有無を判断することができ、かつ、同法2条1項4号、5号所定の不正取得等の有無を判断する前提として、その不正取得行為等の対象として客観的に把握することができる程度に、具体的に特定されていれば足りるものというべきである。
本件電子データは、合計約6000枚に上るセラミックコンデンサー積層機及び印刷機の設計図の電子データであるが、別紙営業秘密目録記載のとおり特定されることにより、その範囲は客観的に画され、不正競争防止法2条4項所定の要件の充足の有無を判断することができ、同法2条1項4号、5号所定の不正取得行為等の対象として客観的に把握することができるものと認められる。
したがって、本件電子データは、不正競争防止法2条1項4号、5号所定の営業秘密の不正取得等による不正競争の成否を判断するに当たって、営業秘密として特定されているということができる。
(イ) 被告らは、別紙営業秘密目録は、技術内容のどこに意味があるのか不明であり、何が営業秘密に該当する技術情報かが全く特定されていない旨主張する。
しかし、不正競争防止法によって保護される営業秘密としての情報は、必ずしも、特許発明のような技術思想である必要はないし、特許要件のような新規性、進歩性が要求されるものではないから、被告らの上記主張は、失当である。
有用性 甲第1、第2号証、第5号証の1、2、第6号証、第8号証の1、2、
第27号証及び弁論の全趣旨によれば、本件電子データに係る設計図は、1機種当たり数百から千数百点に及ぶ各部品について、形状、寸法、選定及び加工に関する情報などが記載されており、そこには、精緻で高性能なセラミックコンデンサー積層機及び印刷機を製造するための技術的なノウハウが示されていること、本件電子データをCADソフトによって活用することにより、顧客の個別の注文に応じたセラミックコンデンサー積層機及び印刷機の設計図を作成し、それに基づいて容易かつ効率的に短時間にセラミックコンデンサー積層機及び印刷機を製作することができること、原告は、昭和63年の設立当初は従業員2名の小規模な会社であったが、アイデアと工夫を、多額の開発費用と時間をかけて本件電子データに結集させ、設計技術を向上させ、その結果、セラミックコンデンサー積層機の販売は、平成11年度には販売台数31台、売上額9億7000万円となり、原告の総売上額の65パーセントを占めるようになり、販売先は、日本国内のほか海外に及び、平成11年8月当時、従業員数は10名となったことが認められる。
これらの認定事実によれば、本件電子データは、原告の主な事業であるセラミックコンデンサー積層機及び印刷機の製造販売に有用な技術上又は営業上の情報に当たるものと認められる。
秘密管理性 請求原因(2)ウ(ア)の事実のうち、平成11年8月当時、原告において、
被告A及び被告Bが設計業務に携わっていたことは、当事者間に争いがない。
甲第5号証の1、2、第6号証、第8号証の1、2、第15号証、第27号証及び弁論の全趣旨によれば、本件電子データは、平成11年8月当時、原告において、メインコンピュータのサーバーにおいて集中して保存されていたこと、
当時、被告会社の従業員は全部で10名であり、設計業務に携わっていたのは、被告A、被告Bを含む6ないし8名の従業員であったこと、これらの従業員は、メインコンピュータと社内だけに限ってLAN接続されたコンピュータ端末機を使用し、設計業務に必要な範囲内でのみメインコンピュータのサーバーに保存されている本件電子データにアクセスし、その時々に必要な電子データのみを各コンピュータ端末機に取り出して設計業務を行っていたこと、原告は、本件電子データを始めとする技術情報が外部へ漏洩するのを防止するため、メインコンピュータのサーバー及び各コンピュータ端末機を外部に接続せず、インターネット、電子メールの交換など外部との接続は、別の外部接続用コンピュータ1台のみを用いて行っていたこと、原告においては、本件電子データのバックアップをDATテープによって行っていたが、このバックアップ作業は、設計部門の総括責任者と営業部門の総括責任者だけに許可されており、バックアップ作業を行うに当たっては、特定のユーザーIDとパスワードをメインコンピュータに入力することが必要であったこと、バックアップを取ったDATテープは、設計部門の総括責任者の机上にあるキャビネットの中に施錠して保管していたことが認められる。
ところで、不正競争防止法2条4項所定の秘密管理性の要件を充足するためには、当該情報にアクセスした者に当該情報が営業秘密であることを認識できるようにしていること、当該情報にアクセスできる者が制限されていることなどが必要であり、要求される情報管理の程度や態様は、秘密として管理される情報の性質、保有形態、企業の規模等に応じて決せられるものというべきである。
本件電子データについては、上記のとおり、設計担当の従業員のみがアクセスしており、設計業務には、社内だけで接続されたコンピュータが使用され、
設計業務に必要な範囲内でのみ本件電子データにアクセスし、その時々に必要な電子データのみを取り出して設計業務が行われていた。また、本件電子データのバックアップ作業は、特定の責任者だけに許可されており、バックアップ作業には、特定のユーザーIDとパスワードが設定され、バックアップを取ったDATテープは、設計部門の総括責任者の机上にあるキャビネットの中に施錠して保管されていた。そして、原告の従業員は全部で10名であったから、これらの本件電子データの取扱いの態様は、従業員の全員に認識されていたものと推認される。このような事情に照らせば、本件電子データは、当該情報にアクセスできる者が制限され、アクセスした者は当該情報が営業秘密であることを認識できたということができる。
そして、本件電子データが、原告の設計業務に使用されるものであり、設計担当者による日常的なアクセスを必要以上に制限することができない性質のものであること、本件電子データはコンピュータ内に保有されており、その内容を覚知するためには、原告社内のコンピュータを操作しなければならないこと、原告の規模等も考慮すると、本件電子データについては、不正競争防止法2条4項所定の秘密管理性の要件が充足されていたものというべきである。乙第21号証のうち、この認定に反する部分は、採用することができない。
非公知性 (ア) 甲第5号証の1、2、第6号証、第8号証の1、2、第27号証によれば、原告は、セラミックコンデンサー積層機及び印刷機が円滑に稼働するように、多数の汎用部品の中から使用部品を選定した上、選定した部品に独自の加工を施して所定の形状、寸法としていること、本件電子データに係る設計図は、単なる汎用品としての部品の形状、寸法等を記載したものにとどまるものではなく、本件電子データには、各部品の形状、寸法、選定及び加工に関する技術情報が集積されていること、これらの技術情報は、原告が独自に形成、蓄積してきたものであり、
刊行物に記載されておらず、公然と知られていないことが認められる。
(イ)a 被告らは、原告ボールネジ図面及び原告エアーシャフト図面記載の各部品を備えたNCG-3000を始めとする原告のセラミックコンデンサー積層機及び印刷機は、相当台数が、秘密保持契約なしに販売されており、それらに関する技術情報は、リバースエンジニアリングを行うことにより知り得るから、不特定人の認識し得る状態にあり、公知となったものである旨主張する。
しかし、前記ア(ア)のとおり、本件電子データは、合計約6000枚に上るセラミックコンデンサー積層機及び印刷機の設計図に係るものであり、前記イのとおり、本件電子データに係る設計図は、1機種当たり数百から千数百点に及ぶ各部品について、形状、寸法、選定及び加工に関する情報などが記載され、そこには、精緻で高性能のセラミックコンデンサー積層機及び印刷機を製造するための技術的なノウハウが示されており、本件電子データは、CADソフトによって活用し得ることにより、高い有用性を有しているものである。このような本件電子データの量、内容及び態様に照らすと、原告のセラミックコンデンサー積層機及び印刷機のリバースエンジニアリングによって、本件電子データと同じ情報を得るのは困難であるものと考えられ、また、仮にリバースエンジニアリングによって本件電子データに近い情報を得ようとすれば、専門家により、多額の費用をかけ、長期間にわたって分析することが必要であるものと推認される。
したがって、本件電子データは、原告のセラミックコンデンサー積層機及び印刷機の相当台数が秘密保持契約なしに販売されたことによって公知になったとはいえない。
b 被告らは、原告のセラミックコンデンサー積層機に関する技術は、
捺染機に関する公知技術の転用に相当する旨、原告のセラミックコンデンサー積層機は、原告のオリジナル装置ではなく、当業者であれば容易に製作し得る程度のものにすぎず、セラミックコンデンサー積層機は、3か月もあれば基本設計することは十分に可能である旨主張する。また、本件電子データのうち、原告が特許第2829910号、特許第2829911号の出願公開(特開平9-207114号公開特許公報、特開平9-225924号公開特許公報)によって公開した技術情報は、営業秘密に該当しない旨主張する。
しかし、前記ア(ア)のとおり、本件電子データは、セラミックコンデンサー積層機及び印刷機の設計図に係るものであり、前記イのとおり、本件電子データに係る設計図には、セラミックコンデンサー積層機及び印刷機の各部品の形状、寸法、選定及び加工に関する情報などが記載されており、それらが営業秘密の内容をなすものである。捺染機に関する公知技術がそのような情報に係るものであることを認めるに足りる証拠はない。また、不正競争防止法は、営業秘密に特許要件のような新規性、進歩性を要求するものではない(同法2条4項の定める営業秘密の要件としての「公然と知られていない」というのは、特許法の要求する特許要件としての新規性と同じではない。)から、本件電子データについて、営業秘密に要求される有用性秘密管理性非公知性などの要件が充足されていれば、原告のセラミックコンデンサー積層機に具現された技術思想が特許要件としての新規性、
進歩性を備えているかどうかにかかわらず、本件電子データは、営業秘密として保護されるというべきである。さらに、乙第12号証(特開平9-207114号公開特許公報)によれば、特許第2829910号(その特許公報は乙第8号証)の出願公開によって公開された技術思想は、セラミック生シートを多層に積層するのに、積層時の位置ずれを回避し、セラミック生シートを位置精度を高めて積層するという課題を解決するための、別紙請求項目録(1)記載のセラミック生シートの積層装置であることが認められ、乙第13号証(特開平9-225924号公開特許公報)によれば、特許第2829911号(その特許公報は乙第9号証)の出願公開によって公開された技術思想は、セラミック生シートの複数枚を搬入毎に高圧にて積層するものでありながら、搬入毎のセラミック生シートの位置ずれを補正するための構成を合理的な手段によって簡素化し、微妙な補正を可能にするとともに、装置全体を大幅に小型化し、コストダウンを図るという課題を解決するための、別紙請求項目録(2)記載のセラミック生シートの積層装置であることが認められ、これらの技術思想は、本件電子データに係るセラミックコンデンサー積層機及び印刷機の各部品の具体的な形状、寸法、選定及び加工に関する情報などの技術情報とは異なる。上記各公開特許公報の実施例や図面によって、セラミックコンデンサー積層機の形状や構造が示されている部分があるが、そのような部分についても、本件電子データに係る設計図(例えば甲第5号証、第8号証の各1、2)のように各部品の詳細な形状までは明らかにされていないし、具体的な寸法、選定及び加工に関する情報は明らかにされていないから、本件電子データが公知になっているとはいえない。したがって、被告らの上記主張は、採用することができない。
c 被告らは、前仮処分事件の申立書に添付された別紙機械目録の図1には原告のセラミックコンデンサー積層機(NCG-3000)の全体図が、図3にその仮圧着装置の組立図が開示されており、図3において引出線をもって示されている図面番号、例えば図面左上部の45/1388は、別紙営業秘密目録におけるNCG-3000の本圧着プレス欄の「45-1388 押エ板」に該当するから、原告のセラミックコンデンサー積層機及び印刷機に関する技術は、公知の技術情報である旨主張する。
乙第1号証、第4号証によれば、前仮処分事件の申立書の別紙機械目録の図1には原告のセラミックコンデンサー積層機(NCG-3000)の全体図が、図3にはその仮圧着装置の組立図が開示されており、図3において引出線をもって示されている図面番号、例えば図面左上部の45/1388は、別紙営業秘密目録におけるNCG-3000の本圧着プレス欄の「45-1388 押エ板」に該当することが認められる。そして、上記の図1、図3によって、原告のセラミックコンデンサー積層機(NCG-3000)の全体の構造や仮圧着装置の構造は、ある限度で一応示されているともいえる。しかし、これによっては、セラミックコンデンサー積層機の各部品について、本件電子データに係る設計図のように詳細な形状までは明らかにされていないし、具体的な寸法、選定及び加工に関する情報は明らかにされていないから、本件電子データが公知になっているとはいえない。したがって、被告らの上記主張は、採用することができない。
オ 以上によれば、本件電子データは、不正競争防止法2条4項所定の営業秘密に該当するものと認められる。
(3) 営業秘密の不正取得等 ア(ア) ボールネジ図面 請求原因(3)(営業秘密の不正取得等)ア(ア)(ボールネジ図面)のうち、被告会社の従業員となった被告Bが、平成11年10月7日、坂本工機に対し、被告ファックスボールネジ図面をファックスにより送付し、見積りを依頼したこと、原告ボールネジ図面を被告ファックスボールネジ図面と比較すると、設計技術上、画一的な設計を要せず、自由設計が許される部分を含めてすべて一致していることは、当事者間に争いがない。甲第6号証、第27号証によれば、甲第4号証の3が、坂本工機の担当者が後に原告に送付した被告ファックスボールネジ図面であること、甲第5号証の1が、平成11年8月当時に原告が使用していたプリンターによって印刷したものであり、甲第5号証の2が、原告が現在使用しているプリンターによって印刷したものであることが、認められる。
(イ) エアーシャフト図面 請求原因(3)ア(イ)(エアーシャフト図面)のうち、被告会社の従業員となった被告Bが、平成11年10月12日、ニューマチック工業に対し、セラミックコンデンサー積層機を構成するエアーシャフトについて、被告ファックスエアーシャフト図面をファックスにより送付し、見積りを依頼したこと、原告エアーシャフト図面を被告ファックスエアーシャフト図面と比較すると、設計技術上、画一的な設計を要せず、自由設計が許される部分を含め、転籍した技術者がかつての経験と記憶のみで再現できる範囲を超えて一致していることは、当事者間に争いがない。甲第6号証、第27号証によれば、甲第7号証の2が、ニューマチック工業の担当者が後に原告に送付した被告ファックスエアーシャフト図面であること、第8号証の1が、平成11年8月当時に原告が使用していたプリンターによって印刷したものであり、甲第8号証の2が、原告が現在使用しているプリンターによって印刷したものであることが認められる。
(ウ) 設計期間 請求原因(3)ア(ウ)(設計期間)のうち、被告A及び被告Bが平成11年8月27日に原告を退社したことは、当事者間に争いがない。前記(ア)のとおり、被告Bが坂本工機に対して被告ファックスボールネジ図面を送付して見積りを依頼したのは、平成11年10月7日であり、前記(イ)のとおり、被告Bがニューマチック工業に対して被告ファックスエアーシャフト図面を送付して見積りを依頼したのは、同月12日であるから、これらは、被告A及び被告Bが同年8月27日に原告を退社してから約40日後であったことが認められる。
他方、甲第2号証、第5号証の1、2、第6号証、第8号証の1、
2、第27号証及び弁論の全趣旨によれば、セラミックコンデンサー積層機は、1機種当たり数百から千数百点に及ぶ部品からなり、各部品について選定、加工を行う必要があり、セラミックコンデンサー積層機の設計は、最初から行うと、セラミックコンデンサー積層機に詳しい者が担当しても2人で少なくとも3か月はかかり、電気関係についても、1人で設計をすると少なくとも1か月半はかかることが認められ、被告B本人尋問の結果のうち、この認定に反する部分は、信用することができない。
(エ) 原告機械と被告機械との類似性 請求原因(3)ア(エ)(原告機械と被告機械との類似性)の事実のうち、
製品を貼り付けるためのステンレス板の部品の形状が、被告会社のセラミックコンデンサー積層機と原告のセラミックコンデンサー積層機とで完全に一致することは、当事者間に争いがない。
しかし、甲第18号証、被告B本人尋問の結果(製品を貼り付けるためのステンレス板(キャリアプレート)は顧客の規格に合わせてわざと原告と同じとした旨供述している部分)及び弁論の全趣旨によれば、ステンレス板の形状及び寸法は、製品の寸法によって限定されることはないことが認められる。
また、甲第6号証、第17、第18号証、第27号証によれば、セラミックコンデンサー積層機の機械の構造、各装置の配置方法、部品の形状及び寸法のうちには、セラミック生シートに印刷された素材をカットし、シートを剥離した上で積層を行うという機能を実現する限り、設計者が自由に決定することができる部分があること、セラミックコンデンサー積層機の機械の構造、各装置の配置方法、部品の形状及び寸法は、実際上、機種によって異なる場合があることが認められる。
しかるところ、甲第9、第10号証、第16号証、第18号証によれば、原告のセラミックコンデンサー積層機と被告会社のセラミックコンデンサー積層機は、部品の形状、寸法、取付位置を一致又は酷似させなければならない技術上の必要性がなく、設計者が自由に決めることができる部分について、別紙比較目録記載のように多くの点で一致又は酷似することが認められる。
(オ) 被告Aの行動 甲第6号証、第27号証によれば、原告代表者は、被告Aが、平成11年8月24日、原告社内のネットワークに接続されている端末パソコンにノートパソコンをケーブルで接続して長時間にわたって操作しているのを目撃したこと、
同月25日、ノートパソコンを所持して徒歩で帰宅し、自動車で送る旨の原告代表者の申出を断ったこと、同年10月30日ごろ、原告社内の被告Aが使用していたデスクに設置されていたパソコンに、データをコピーするためのケーブルが接続されているのが見つかったことが認められる。
上記認定の事実からすれば、被告Aが平成11年8月24日又は25日に本件電子データを複製したことや、同年10月30日ごろ原告社内で見つかったケーブルを使用して本件電子データを複製したことの可能性は否定し得ないものの、上記の被告Aの行動や同被告のパソコンの状況によってそれらの事実を断定するのは無理があるというべきである。ただし、被告B及び被告Aがその気になれば、本件電子データを原告に無断で複製する機会は十分あったことは肯定することができる。
(カ) 本件電子データの一括取得 請求原因(3)ア(カ)(本件電子データの一括取得)aないしcのうち、
セラミックコンデンサー積層機及び印刷機の設計図の一部だけでは意味がなく、機械全体の設計図がなければ利用価値がほとんどないことは、当事者間に争いがない。
被告B本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、本件電子データは、長くとも約15分でそのすべてをDATテープなどに複製することが可能であること、本件電子データがあれば、CADソフトにより形状や寸法を簡単に変更して設計図を作成できることが認められる。このような事実に鑑みると、本件電子データに係る合計約6000枚に及ぶ設計図を一括して取得するには、ハード図面をコピー機でコピーするよりも、電子データを電子記憶媒体に複製して取得する方が、密行性や迅速性の点ではるかに容易であり、また、改造や新規設計の際にそのまま利用できることから情報としての価値も大きいこと、本件電子データは、ごく一部の図面をわざわざ選り分けて複製するよりも、全部を複製する方が容易であることが認められる。
甲第4号証の3、第5号証の1、2、第7号証の2、第8号証の1、
2によれば、被告ファックスボールネジ図面と原告ボールネジ図面、被告ファックスエアーシャフト図面と原告エアーシャフト図面を比較すると、部品の形状、寸法、仕上げ記号など記載されている情報内容のすべてが同一であるにもかかわらず、文字のフォントや書体など、コンピュータ又はプリンターの設定次第で変化する部分だけが異なっていることが認められる。
イ(ア) 前記(1)(当事者)アないしエの事実、前記(3)(営業秘密の不正取得等)ア(ア)の事実(被告ファックスボールネジ図面と原告ボールネジ図面の一致など)、(イ)の事実(被告ファックスエアーシャフト図面と原告エアーシャフト図面の一致など)、(ウ)の事実(セラミックコンデンサー積層機の設計には少なくとも3か月、電気関係の設計については少なくとも1か月半の期間がかかる一方で、
被告A及び被告Bが原告を退社してから見積りを依頼するまでの期間が約40日であったことなど)、(エ)の事実(原告のセラミックコンデンサー積層機と被告会社のセラミックコンデンサー積層機は、設計者が自由に決めることができる部分も含めて、多くの点で一致又は酷似することなど)、(カ)の事実(セラミックコンデンサー積層機及び印刷機の設計図は機械全体の設計図がなければ利用価値がほとんどないこと、本件電子データは容易に複製できること、被告ファックスボールネジ図面と原告ボールネジ図面、被告ファックスエアーシャフト図面と原告エアーシャフト図面を比較すると、情報内容が同一であるにもかかわらず文字のフォント等だけが異なっていることなど)を総合すると、被告A及び被告Bは、原告を退社する際に、本件電子データを原告に無断で複製して取得し、これを自ら使用し、又は被告会社に開示し、被告会社は、遅くとも平成11年10月初めごろには、被告A及び被告Bから、原告の営業秘密である本件電子データを取得し、同被告らを雇用し、
本件電子データを使用してセラミックコンデンサー積層機及び印刷機の設計を開始し、その後、セラミックコンデンサー積層機及び印刷機の製造販売を行っているものと推認することができる。そして、上記事実に照らせば、被告A及び被告Bには、このような不正競争を行うにつき故意があったものと認められる。
また、被告Bは、その本人尋問において、被告会社は休眠会社であったが、被告会社代表者、被告A及び被告Bの3人の間で、被告会社代表者が出資し、原告を退社した被告Aおよび被告Bが一緒にセラミックコンデンサー積層機を製造販売することが決まった旨供述しており、前記(1)エのとおり、平成11年9月9日、被告会社の商業登記簿上の目的に「電子部品製造機械の企画開発、設計、加工、販売及び輸出入」並びに「電子部品製造機械のレンタル、リース及びコンサルタント」が加えられたことも合わせて考えると、それまで精密機械の製造と関係のなかった被告会社代表者は、被告A及び被告Bと接触した直後に、セラミックコンデンサー積層機及び印刷機の製造販売への出資を決したことが認められる。そして、弁論の全趣旨によれば、セラミックコンデンサー積層機及び印刷機は、顧客層がセラミックコンデンサーメーカーなどに限られた、どちらかといえば特殊な機械であることが認められる上、被告Bは、その本人尋問において、原告の顧客に被告会社のセラミックコンデンサー積層機を販売するためにステンレス板の形状を同じくした旨述べている。これらの認定事実及び証拠に鑑みると、被告A及び被告Bは、被告会社代表者に対し、原告の営業秘密である本件電子データを用いて短期間に原告と同様なセラミックコンデンサー積層機及び印刷機を完成し、これを原告の顧客であった者に販売することにより利益を上げられる旨申し向けて出資を要請し、被告会社代表者がそれに応じて出資をしたことが推認される。したがって、被告会社は、本件電子データを取得するに当たり、被告A及び被告Bが、原告の営業秘密である本件電子データを原告に無断で複製して不正に取得したことを知っていたものと推認され、また、不正競争を行うにつき故意があったものと推認される。
(イ)a 被告らは、被告A及び被告Bが、原告においてセラミックコンデンサー積層機の開発、製造に従事する過程で、原告ボールネジ図面及び原告エアーシャフト図面をたまたま所持しており、被告Bが、その図面を見積りに使用した旨、また、退職した従業員が退職後も従前従事した職務に関する書類をたまたまごく一部所持していることは通常あり得ることであり特に異常なことではないから、
被告A及び被告Bが部品全体のごく一部である汎用的な部品2点の図面を所持していることは、何ら不自然ではない旨主張し、乙第21号証(被告Bの陳述書)及び被告B本人尋問の結果中には、その主張に沿う陳述がある。
しかし、使用者の営業秘密に該当する書類等は、業務遂行に必要な限度で従業者に所持が許されているものであり、少なくとも労働契約上、退職時にその書類等を使用者に返還する義務があるというべきである。そして、原告ボールネジ図面及び原告エアーシャフト図面は、本件電子データに係る設計図の一部であり、本件電子データと同様に原告の営業秘密に該当すると認められるから、原告ボールネジ図面及び原告エアーシャフト図面は、退職時に使用者である原告に返還すべきものであり、退職後もそれらを所持することにつき正当な根拠があるとは認められない。また、退職した従業員が退職後も従前従事した職務に関する書類をたまたまごく一部所持していることが通常あり得ることであるとか、特に異常なことではないとする根拠も認められない。被告B本人尋問の結果中には、原告ボールネジ図面及び原告エアーシャフト図面を含めて原告のセラミックコンデンサー積層機の部品図面で同被告が原告退職後に所持していたものは4、5枚にすぎず、技術屋が自分のした仕事に関する図面を2、3枚持っているのは当たり前であるなどと供述する部分があるが、その供述内容は自然で合理的なものとはいえず、信用することができない。したがって、被告A及び被告Bが退職後も原告ボールネジ図面及び原告エアーシャフト図面を所持することについて合理的な理由があったとはいえないし、被告A及び被告Bがたまたまごく一部の図面を所持していたにすぎないとは考えられないから、被告らの上記主張は、採用することができない。
b 被告らは、被告会社のセラミックコンデンサー積層機(GS-300)に使用されているボールネジ及びエアーシャフトは、原告のセラミックコンデンサー積層機(NCG-3000)に使用されているボールネジ及びエアーシャフトと異なる旨主張し、被告会社のセラミックコンデンサー積層機(GS-300)に使用されているボールネジの図面(乙第10号証、第22号証)及びエアーシャフトの図面(乙第23号証)と称するもの、このボールネジの図面と原告ボールネジ図面の異同を記載した対照表(乙第11号証)を証拠として提出する。
しかし、被告Bが、原告ボールネジ図面、原告エアーシャフト図面とそれぞれ情報内容の一致する被告ファックスボールネジ図面、被告ファックスエアーシャフト図面を送付して見積りを依頼していることなどからして、被告会社のセラミックコンデンサー積層機には、原告のセラミックコンデンサー積層機と同じボールネジ及びエアーシャフトが使用されていたものと推認される。また、仮に乙第10号証、第22、第23号証のようなボールネジ及びエアーシャフトが被告会社のセラミックコンデンサー積層機に使用されているとしても、本件の経緯に鑑みれば、被告会社のセラミックコンデンサー積層機は、ボールネジ及びエアーシャフト以外については、本件電子データを用いて製造されており、ボールネジ及びエアーシャフトは、被告ファックスボールネジ図面及び被告ファックスエアーシャフト図面との一致を避けるために後日変更されたものと推認される。したがって、被告らの上記主張及び乙第10号証、第22、第23号証によって、前記(ア)の認定が覆されることはないというべきである。
c 被告らは、セラミックコンデンサー積層機は、目的、機能及びセラミック生シートを積層する工程が同じであるから、その構造及び形状は自ずと定まるし、受注生産であるから、顧客の要望する機能及び作用が同じであれば、当然、
構造及び形状は同じとなる旨、セラミックコンデンサー積層機は、原告、被告会社及びそれ以外のメーカー製造のものも、すべて外観類似している旨、規格で寸法が決定されている部品を配置した場合には、外形が酷似する場合がある旨主張する。
しかし、前記ア(エ)のとおり、セラミックコンデンサー積層機の機械の構造、各装置の配置方法、部品の形状及び寸法は、実際上、機種によって異なる場合がある。また、原告のセラミックコンデンサー積層機と被告会社のセラミックコンデンサー積層機は、部品の形状、寸法、取付位置を一致又は酷似させなければならない技術上の必要性がなく、設計者が自由に決めることができる部分について、別紙比較目録記載のように多くの点で一致又は酷似しており、これは、単にセラミックコンデンサー積層機としての目的、機能及びセラミック生シートの積層工程が同じであること、又は顧客の要望する機能及び作用が同じであることによってもたらされる必然的な一致を優に超えるものというべきであるから、このような一致又は酷似は、本件電子データの不正取得及び不正使用を裏付けるものというべきである。
d 被告らは、原告が原告のセラミックコンデンサー積層機と被告会社のセラミックコンデンサー積層機の間で一致しているとする形状、構造、技術事項等が特許公報等によって開示されている旨、原告のセラミックコンデンサー積層機であるNCG-3000の構造、形状等は公知となっているから、被告会社のセラミックコンデンサー積層機の構造、部品の形状及び寸法がそれと一致又は酷似していることは、何ら違法ではなく、図面の不正取得の根拠とはなり得ない旨主張する。
しかし、別紙比較目録記載の多岐にわたる一致点のすべてが、特許公報等によって開示されているものとは認められないし、本件においては、原告のセラミックコンデンサー積層機と被告会社のセラミックコンデンサー積層機の間に一致点があることについて特許権侵害などを問題としているのではなく、その一致をもって、他の認定事実とともに、本件電子データの不正取得、不正使用を裏付ける間接事実とするものであるから、被告らの上記主張は、失当である。
e 被告らは、同一のプリンターによっても異なる書体で電子データをプリントアウトすることは十分に可能であるから、原告ボールネジ図面と被告ファックスボールネジ図面、原告エアーシャフト図面と被告ファックスエアーシャフト図面の間で記載されている情報内容が同一で文字のフォントや書体が異なることをもって、電子データが不正取得されたことの根拠とすることはできない旨主張する。そして、被告Bは、その本人尋問において、就業時間終了後、原告会社にだれもいなくなったときにソフトを原告会社のコンピュータに入れて操作性等を実験した際に、フォントなどを変えて被告ファックスボールネジ図面、被告ファックスエアーシャフト図面等を出力した旨供述する。
しかし、被告Bの供述は、どのようなソフトを使用したのか、いつ、どのような図面を出力して何枚所持していたのかなどの点について曖昧である上、少数の図面だけを、フォントなどをわざわざ変えた上で出力して所持する合理的な理由があったとは認められず、被告Bの供述は、信用することができない。むしろ、同じ電子データを原告会社のコンピュータ及びプリンターと異なる機種のコンピュータ及びプリンターによって出力したことによって、被告ファックスボールネジ図面、被告ファックスエアーシャフト図面の文字のフォントや書体が異なったと考える方が自然であり、本件の経緯に合致しているものと認められる。したがって、被告らの上記主張は、採用することができない。
f 被告らは、原告のセラミックコンデンサー積層機であるNCG-3000は、原告の特許第2829910号、特許第2829911号の各発明の実施品であるのに対し、被告会社のセラミックコンデンサー積層機であるGS-300は、被告会社の出願に係る特開2001-223144号公開特許公報、特開2001-223131号公開特許公報記載の各発明の実施品であり、被告のGS-300は、原告のNCG-3000と、構成、作用及び効果を異にする旨、被告会社のセラミックコンデンサ-積層機は、原告のセラミックコンデンサー積層機とは、構造、形状、寸法が異なり、本件電子データを使用して製造されたものではない旨主張し、乙第5号証(「GS-300シート積層機の説明」と題する書面)、
第6号証(特開2001-223144号公開特許公報)、第7号証(特開2001-223131号公開特許公報)を証拠として提出する。
乙第5ないし第7号証によれば、被告会社の出願に係る特開2001-223144号公開特許公報、特開2001-223131号公開特許公報記載の各発明は、積層セラミックコンデンサー等の製造過程で使用されるシート積層機の圧着機構に関するものであり、「GS-300シート積層機の説明」と題する書面(乙第5号証)も、その点に関する説明を主に記載したものであることが認められる。しかし、乙第5ないし第7号証及びその他の証拠によっても、被告会社の製造販売するセラミックコンデンサー積層機に、実際に、乙第5ないし第7号証に記載された圧着機構が使用されているのかどうか明らかではない。また、仮に、被告会社の製造販売するセラミックコンデンサー積層機に、実際に、乙第5ないし第7号証に記載された圧着機構が使用されているとしても、本件の経緯に鑑みれば、
当該圧着機構の設計に当たって本件電子データが使用された可能性があるし、当該圧着機構は、セラミックコンデンサー積層機の一部にすぎず、少なくともその余の多くの部分は、本件電子データを用いて製造されたものと推認されるから、被告らの上記主張及び提出証拠によって、前記(ア)の認定が覆されることはないというべきである。
g 被告らは、仮に本件電子データが営業秘密に該当するとしても、わずか2枚の部品図面をたまたま被告らが所持していたことから、6000枚以上の設計図に係る本件電子データの不正取得を推認することは、あまりに非常識であり不合理である旨主張する。
しかし、前記(ア)のとおり、諸般の証拠及び認定事実を総合して、
被告らによる本件電子データの不正取得、不正使用の事実が認定されるものであり、被告らが被告ファックスボールネジ図面及び被告ファックスエアーシャフト図面を所持していたことは、有力な間接事実ではあるものの、それだけによって、本件電子データの不正取得、不正使用の事実を認定するものではないから、被告らの上記主張は、失当である。
(4) 営業上の利益侵害 前記(3)イ(ア)のとおり、被告らが原告の営業秘密である本件電子データを不正に取得、使用したことが認められ、被告らのこのような不正競争により、原告が営業上の利益侵害されたこと、及び今後も侵害されるおそれがあることが認められる。
(5) 損害 ア 請求原因(5)(損害)アの事実は、被告会社が、平成11年9月から本訴提起時である平成13年10月2日までに、セラミックコンデンサー積層機4台及び印刷機2台を製造販売し、その売上が1億4800万円であり、利益率が25パーセントであるとの限度で、当事者間に争いがない。
原告は、上記期間に被告会社はセラミックコンデンサー積層機4台及び印刷機3台を製造販売し、少なくとも1億7400万円の売上を上げ、利益率は35パーセントを下らないから、被告会社が上げた利益は6090万円を下らない旨主張し、甲第27号証には、それに沿う記載があるが、これは原告による推測を述べたもので、特段の裏付けがあるわけではなく、同号証によっては、上記当事者間に争いがない範囲を超える部分について認めることはできず、他に、これを認めるに足りる証拠はない。
そうであるとすると、被告会社が上げた利益は、3700万円(3700万円=1億4800万円×0.25)であることが認められ、不正競争防止法5条1項により、この額が、原告が受けた損害の額と推定され、この推定を覆すに足りる証拠はない。
イ 本件の事案の性質、審理の経過など諸般の事情に鑑みると、被告らの不正競争と相当因果関係の範囲内にある弁護士費用及び弁理士費用の合計は、400万円と認めるのが相当である。
ウ したがって、原告の損害賠償請求は、4100万円(4100万円=3700万円+400万円)の限度で理由がある。
なお、前記(3)イ(ア)の認定事実によれば、被告らの不正競争は、関連共同性があり、共同不法行為を構成するものと認められるから、原告は、被告らに対し、損害賠償として連帯して4100万円の支払を請求することができる。
(6) 結論 以上によれば、原告の本訴請求は、次のアないしウの限度で認められ、その余は理由がない。
ア 原告は、被告A及び被告Bに対し、不正競争防止法2条1項4号3条1項に基づき、本件電子データの使用の差止めを求めることができる。また、本件電子データは、侵害の行為を組成した物に当たり、本件電子データを印刷した設計図は、侵害の行為により生じた物に当たるから、同法3条2項に基づき、本件電子データ及び本件電子データを印刷した設計図の廃棄を求めることができる。
イ 原告は、被告会社に対し、不正競争防止法2条1項5号3条1項に基づき、本件電子データを使用してセラミックコンデンサー積層機及び印刷機を製造販売することの差止めを求めることができる。また、本件電子データは、侵害の行為を組成した物に当たり、本件電子データを印刷した設計図並びに本件電子データを使用して製造したセラミックコンデンサー積層機及び印刷機は、侵害の行為により生じた物に当たるから、同法3条2項に基づき、本件電子データ、本件電子データを印刷した設計図並びに本件電子データを使用して製造したセラミックコンデンサー積層機及び印刷機の廃棄を求めることができる。
ウ 原告は、被告らに対し、不正競争防止法4条5条1項に基づき、連帯して4100万円及びこれに対する不正競争の後である平成13年10月13日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。
反訴
1 反訴請求原因(1)の事実のうち、原告が、平成12年4月4日、被告らを債務者として前仮処分事件を申し立て、被告らによる特許権侵害及び不正競争防止法2条1項3号の不正競争を主張したこと、原告が、同年7月28日、前仮処分事件を取り下げたこと、原告は、前仮処分事件を取り下げた後約1年3か月後の平成13年10月2日、本訴及びその保全処分である現仮処分事件を提起したことは、当事者間に争いがない。
2 反訴請求原因(2)のうち、本訴及び現仮処分事件の請求原因が、被告A及び被告Bが、原告の営業秘密である本件電子データを不正に取得し、これを自ら使用し又は被告会社に開示したこと、被告会社が被告A及び被告Bから本件電子データを取得し、これを使用してセラミックコンデンサー積層機及び印刷機の製造販売を行っていることなどであること、本訴及び現仮処分事件の請求原因事実が前仮処分事件の取下げ後生じた事実ではないことは、当事者間に争いがない。
3 保全命令の申立てを債務者の同意なくして取り下げ得ることは、民事保全法18条の定めるところであり、保全命令の申立てが取り下げられた場合に、債務者が保全命令の申立てに応じて訴訟活動を行わなければならなかったという手続上の負担は通常は保護されないというのが法の予定するところというべきである。そして、前仮処分事件の取下げによって、被告らが、通常の手続上の負担を超えて特段の損害を被ったことを認めるに足りる証拠はない。したがって、前仮処分事件の取下げが違法であるということはできない。
本訴及び現仮処分事件について、原告の主張する権利が事実的又は法律的根拠を欠き、原告がそのことを知りながら又は容易に知り得るのにあえて本訴及び現仮処分事件を提起したという事情は、認められない。また、前仮処分事件と、本訴及び現仮処分事件は、当事者や背景事情に共通点があるとしても、訴訟物を異にし、主張立証の対象や攻撃防御の対象となるべき事実の内容が異なるから、前仮処分事件の後に本訴及び現仮処分事件を提起することによって、前仮処分事件と同時に本訴及び現仮処分事件の主張をする場合に比べて被告らの応訴の負担が特に重くなったと認めることはできないし、本訴及び現仮処分事件が前仮処分事件の不当な蒸し返しであるとはいえず、また、前仮処分事件の際に本訴及び現仮処分事件と同様の主張をすべき義務が原告にあったとする根拠はない。したがって、本訴及び現仮処分事件の提起が違法であるということはできない。
以上によれば、本訴及び現仮処分事件の提起が不法行為を構成することはなく、被告会社の反訴請求は、理由がない。
結語
よって、原告の本訴請求は、主文第1ないし第5項掲記の限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、被告会社の反訴請求は失当であるからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 中平健
裁判官 前田郁勝