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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成19ネ733損害賠償請求控訴事件 判例 不正競争防止法
平成17ワ27477損害賠償請求事件 平成18ワ7539損害賠償請求事件 判例 不正競争防止法
平成18ワ14569不正競争行為差止請求事件 平成18ワ20189損害賠償請求事件 判例 不正競争防止法
平成17ワ23171損害賠償等請求事件 判例 不正競争防止法
平成20ネ245製造販売差止等請求控訴事件 判例 不正競争防止法
関連ワード 記憶 /  差止請求(差止) /  逸失利益 /  因果関係 /  利益額(利益の額) /  弁護士費用 /  侵害 /  代理人 /  秘密管理(秘密管理性) /  秘密であると認識 /  秘密として管理 /  秘密保持義務 /  有用性 /  営業上の情報 /  非公知性 /  営業秘密 /  2条1項7号 /  損害賠償 /  損害額 /  推定 / 
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事件 平成 20年 (ワ) 853号 損害賠償請求事件
東京都渋谷区
原告株式会社ダンス・ミュージッ ク・レコード
同 訴訟代理人弁護 士西川英樹東京都世田谷区
被告A 長野市
被告B
上記両名訴訟代理人弁護士臼井慶宜
同 飛松純一
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2008/11/26
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求被告らは,原告に対し,連帯して金107万0578円及びこれに対する平成20年2月20日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要本件は,レコード,CD等のインターネット通信販売業を営む原告が,原告の元従業員である被告Aにおいて,原告を退職した後,競業会社に就職し,原2告在職中に得た商品の仕入先情報を利用して業務を行っていることが,原告及び被告A間の秘密保持に関する合意に違反する,原告及び被告A間の競業避止に関する合意に違反する,又は,不正競争防止法2条1項7号所定の不正競争行為に該当するとして,被告Aに対し,債務不履行又は不正競争防止法違反に基づき(上記各請求は,選択的併合の関係にある,被告Bに対し,原告及び 。)被告B間の身元保証契約に基づき,両被告連帯して,損害金合計107万0578円 弁護士費用30万円を含む及びこれに対する訴状送達の日の翌日で ( 。)ある平成20年2月20日から支払済みに至るまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1前提となる事実(争いがない事実以外は証拠等を末尾に記載する )。
(1)当事者等ア原告は,レコードの企画,製作,販売及び輸入に関する業務等を扱う株式会社であり,主たる事業として,レコード,CD等のインターネット通信販売業務及び携帯電話用サイトでの通信販売業務を行ってる(弁論の全趣旨 。)イ被告Aは,平成11年1月,原告に就職し,その本社において,主として,レコード,CD等のインターネット通信販売業務,携帯電話用サイトでの通信販売業務及びレコード,CD等の仕入業務に携わっていた。
ウ被告Bは,被告Aの父である。
(2)原告及び被告A間における秘密保持に関する合意及び競業避止に関する合意の各締結ア被告Aは,平成15年9月19日,原告に対し,次の条項を含む「誓約書 と題する書面を差し入れて 原告との間で 秘密保持に関する合意 以 」 ,,(下「本件秘密保持合意1」という )を締結した(甲2,弁論の全趣旨 。 。 )「6.業務上知り得た会社の機密事項,工業所有権,著作権及びノウハウ等の知的所有権は,在職中はもちろん退職後にも他に一切漏らさないこ3と 」。
イ被告Aは,平成18年9月14日,原告に対し,次の各条項を含む「秘密保持に関する誓約書」と題する書面を差し入れて,原告との間で,秘密保持に関する合意(以下「本件秘密保持合意2」という。また,本件秘密保持合意1と本件秘密保持合意2とを併せて「本件各秘密保持合意」という )及び競業避止に関する合意(以下「本件競業避止合意」という )を 。 。
締結した(甲3,弁論の全趣旨 。)「3.退職後の秘密保持義務私は,貴社を退職後も,機密情報を自ら使用せず,又,他に開示いたしません。
4.競業避止義務私は,退職後も2年間は貴社と競業する企業に就職したり役員に就任するなど直接間接を問わず関与したり,あるいは競業する事業を自ら開業したり等,一切しないことを誓約いたします 」。
(3)原告,被告B間における身元保証契約の締結原告と被告Bとは,平成15年9月19日,被告Bを被告Aの身元保証人とし,存続期間を5年間とする身元保証契約を締結した(甲9,弁論の全趣旨 。)(4)被告Aの転職ア被告Aは,原告に対し,平成18年10月14日,ある会社から既に内定をもらっているため,平成19年1月15日付けで退職したい旨を申し出た。その後,被告Aは,同日まで原告に出勤し,以降は有給休暇を取得して,同年2月15日,原告を退職した。
イ被告Aは,主として携帯電話のモバイルコンテンツ事業を行う株式会社エムアップ以下エムアップというに就職しその具体的な時期に (「」。)(ついては,当事者間に争いがある,現在,同社において,レコード,C 。)4D等のインターネット通信販売業務及び携帯電話用サイトでの通信販売業務を行っている。
2争点(1)原告管理に係る商品仕入先情報(以下「本件仕入先情報」という )が,。
本件各秘密保持合意1における「機密事項」若しくは本件秘密保持合意2における「機密情報 (以下,これらを併せて「本件機密事項等」という )又 」 。
は不正競争防止法における「営業秘密」に該当するか(争点1)(2)被告Aの行為が本件各秘密保持合意に基づく秘密保持義務又は不正競争防止法に違反するか(争点2)(3)被告Aの行為が本件競業避止合意に基づく競業避止義務に違反するか 争(点3)(4)本件競業避止合意が公序良俗に反して無効であるか(争点4)(5)損害発生の有無及びその額(争点5)3争点についての当事者の主張(1)争点1 本件仕入先情報が 本件機密事項等又は不正競争防止法における (,「営業秘密」に該当するか)について(原告の主張)ア本件仕入先情報の内容について, , 本件仕入先情報は 原告で扱う商品を仕入先から仕入れるために必要な仕入先の名称 個人名又は法人名住所又は所在地 電話番号 ファクシ (),,,ミリ番号,仕入先の担当者の氏名及び電子メールアドレス並びに取扱商品の特徴(どの仕入先からどのような商品を仕入れることができるかという情報)などを,その内容とするものである。
イ本件仕入先情報の本件機密事項等該当性について(ア)被告らは,本件仕入先情報が,インターネットや商品の表示等を通,, じて広く世間一般に公開されているものであることから 秘密性を欠き5本件各秘密保持合意によって保護されるものではない旨主張する。
しかしながら,インターネット上には,無数のサイトが存在し,求めるサイトにたどり着くためには,的確な検索を行う必要があるところ,前提とする情報を把握していない状態から目的のサイトにたどり着くことは,およそ不可能である。本件の場合も,被告Aが,Lasgo Chrysalis, Ltd. 以下 Lasgo というや株式会社アーティマージュ 以下 ア (「」。) (「ーティマージュ というといった具体的な仕入先業者名を知らなかっ 」。)たとしたら,その会社のホームページにたどり着くことは,およそ不可能であったといえる。実際,被告Aは,原告に所属していた当時,それまでに原告が開拓していた仕入先業者名を把握していたからこそ,エムアップの社員となった後も,その情報を用いて仕入先業者にアプローチできたのである。
ただし,原告の仕入先業者は,信頼関係のある原告であるからこそ取引に応じるのであって,被告Aがエムアップの一従業員としてアプローチをしたとしても,仕入先業者が承諾をすることは困難であったといえる。そこで,被告Aは,原告が承諾している旨の虚言を呈して仕入先業者にアプローチをし,エムアップの仕入先を開拓していったのである。
このように,原告が保持している本件仕入先情報は,それ自体,レコード販売,輸入等の業務を行うに当たって,客観的に非常に高い価値を有する情報であるとともに,原告との結びつきにおいても,高い付加価値を有する秘密情報であることから,本件機密事項等に該当するものである。
(イ)被告らは,エムアップが,アーティマージュとの間で,平成18年4月から,コンテンツ配信事業に関する取引関係を有していたとして,本件仕入先情報の機密性を否定するが,レコード販売,輸入等の業務に携わった経験を有する被告Aがエムアップに入社することがなければ,6エムアップ,アーティマージュ間の取引が開始されることはなかったといえる。したがって,被告ら主張の事実をもって,本件仕入先情報が秘密性を帯びなくなると評価することはできない。
ウ本件仕入先情報の「営業秘密」該当性について本件仕入先情報は,次のとおり,不正競争防止法2条6項が規定する営業秘密の要件を満たす。
(ア)秘密管理性本件仕入先情報は,原告のサーバー内のファイルにおいて一括管理されており,それにアクセス可能な者は,専用のユーザーID及びパスワードを与えられている原告従業員のみであった。そして,原告においては,上記ユーザーID及びパスワードを,ウィンドウズのアクティヴディレクトリーで管理し,従業員が退職する際には,それを削除している, 。 ため 退職後の従業員が本件仕入先情報にアクセスすることはできない,, ,, また 本件仕入先情報は 紙の形でも保管されているが 原告の本社渋谷店及び大阪店は,警備会社による機械警備下にあり,部外者が社内の紙情報を持ち出すことはできない。
(イ)有用性本件仕入先情報は,客観的に見て,原告が主たる事業として行っているレコード,CD等の通信販売業務に必要不可欠な情報であり,これを用いることで,効率的経営を可能にすることができる。
確かに,本件仕入先情報は,一般人にとってみれば,およそ全く無価値な情報でしかないが,原告にとっては,半ば独占的に管理,利用することで,その事業の発展に資するものであるから,相対的に高い価値を有している情報といえる。
(ウ)非公知性本件仕入先情報は,原告が,18年間にわたって行ってきた輸入販売7業務における営業活動を通じ,国内及び海外の取引先として1社ずつ開拓してきたものである。その数は,海外で約200弱,国内で約300,,,,,, 弱にのぼる上 海外の仕入先は アメリカ イギリス カナダ ドイツフランス,イタリア,オーストリア,オーストラリア等各国にわたっている。
このような本件仕入先情報は,クラブミュージックのレコード,CD等の商材を取り扱わない者が入手することは非常に困難であり,かつ,被告Aが原告を退職するまでは,原告が,上記(ア)の態様で,独占的に管理していたものであって,原告の従業員も,原告の管理下以外では,それを入手できない状況にあった。
また,本件仕入先情報が,インターネットや商品上の表示として公開されているとしても,一般人は,あくまで1つの名称の表示としての認識を有するのみであり,仕入先情報であるという認識を抱くのは,原告のみであるから,非公知性が失われるものではない。
エしたがって,本件仕入先情報は,本件機密事項等に該当するとともに,不正競争防止法上の「営業秘密」にも該当するものである。
(被告らの主張)ア本件仕入先情報の本件機密事項等該当性について原告が仕入先として挙げるLasgo及びアーティマージュについては それ,らのホームページや他の音楽業界関係のウェブサイト上で,住所,電話番号,ファクシミリ番号等が公開され,担当者と電子メールでコンタクトを取ることができるようにもなっている。
また Lasgoやアーティマージュの商品は 多数の一般店舗で取り扱われ , ,, 。, ており その商品を原告が独占的に供給しているわけでもない そもそも両社としても,取引上,自社の商品を取り扱ってくれるレコード店舗(当然 原告やエムアップが含まれるに自社の名前を認知してもらい 商品 , 。) ,8を買ってもらうことこそ重要であり,自社に関する情報を秘匿しておく理由など全く存在しないのである。
このように,本件仕入先情報とは,結局のところ,インターネット等を通じて広く世間に公開されているものであり,その情報としての性格も,全く秘密性を有さず,レコードの販売を業としない一般人でも容易に取得することが可能なものである。
,, ,, なお エムアップは アーティマージュとの間で 平成18年4月からコンテンツ配信事業に関する取引があり,原告が保有していたという本件仕入先情報に秘密性が認められないことは,明らかである。
したがって,本件仕入先情報は,本件各秘密保持合意によって保護されるべき本件機密事項等に該当しない。
イ本件仕入先情報の不正競争防止法上の「営業秘密」該当性について(ア)秘密管理性秘密管理性の要件を充足するには,当該営業秘密について従業員及び外部者から認識可能な程度に客観的に秘密の管理状態を維持していること及び当該情報にアクセスできる者が制限されていることが必要である。
しかしながら,本件仕入先情報は,それ自体にパスワード等が設定されておらず,アルバイトを含む原告の従業員間で共用しているパソコンにユーザーID及びパスワードを使ってログインしさえすれば,誰でも自由に閲覧することが可能な状態にあった。したがって,従業員及び外部者から認識可能な程度に客観的に秘密の管理状態を維持しているとはいえない。
また,本件仕入先情報は,上記のように,アルバイトを含む原告の従業員であれば誰でもこれを閲覧できたのであるから,当該情報にアクセスできる者が制限されているともいえない。
9したがって,本件仕入先情報は,秘密管理性の要件を充足しない。
(イ)有用性有用性の要件を充足するためには,その情報が客観的に有用であることが必要である。
,,,, しかしながら 本件仕入先情報は 上記アのとおり インターネット商品ジャケット上の表示等を通じて,広く世間に公開されているものであり,レコードの販売を業としない一般人でも容易に取得することが可能なものである。
また,被告Aが現在勤務するエムアップの仕入先(全部で20社足らずであるは いずれも自社の連絡先等の情報をインターネットで公開 。) ,しており,仕入先によっては,商品のジャケットに自社のアドレスや連絡先を表示しているものさえある。実際,エムアップが海外商品を仕入れている国内レコード店業者の中には,海外の仕入先に関する連絡先を進んで開示してくる業者すら存在する。
これらからすると,本件仕入先情報は,原告が独占的に管理することで経営の効率化に資する性質のものなどでは一切なく,仕入先自身が広くインターネット,商品ジャケット上の表示等で積極的に公開している情報であり,誰でも容易に入手が可能であったことから,原告の事業活動にとって客観的に有用であったとはいえない。
したがって,本件仕入先情報は,有用性の要件も充足しない。
(ウ)非公知性本件仕入先情報は,上記(イ)のように,インターネット,商品ジャケット上の表示等を通じて,広く世間に公開されていたものであり,非公知性の要件も充足しない。
(2)争点2 被告Aの行為が本件各秘密保持合意に基づく秘密保持義務又は不 (正競争防止法に違反するか)について10(原告の主張)被告Aは,エムアップに就職後の平成19年5月中旬ころから,同社において,原告が主たる事業として行っているレコード,CD等のインターネット通信販売業務活動及び携帯サイトでの通信販売業務を新たに手掛け,現在も,継続的に行っている。
しかも,エムアップが,被告Aの就職直後,上記通信販売業務活動を新たに手掛けるに至っていることからすれば,被告Aが,原告在職中に得た本件仕入先情報を始めとする知識やノウハウを基に,当該業務活動の基礎を構築し,仕入先を開拓した上で,当該業務活動立ち上げの中枢的役割を担っていたことは,明らかである。
(被告らの主張)アエムアップのレコード等の通信販売業務における仕入先は,20社足らずであるところ,被告Aは,これらの仕入先へのコンタクトに際し,本件仕入先情報を用いたことはなく,本件各秘密保持合意に基づく秘密保持義務及び不正競争防止法に違反した事実はない。
イ従業員の地位及び職務が秘密保持義務を課すのにふさわしいものであるかどうかが秘密保持義務の肯否の重要な要素となるところ,被告Aは,原告の通販部(後のeコマース事業部)において,名目上は「課長代理」になった時期があるというものの,その後,主任に降格された者であり,部下に当たるような従業員もほとんどおらず,秘密保持義務を課すのにふさわしい地位,役職にあったとはいえない。
したがって,仮に,被告Aが本件仕入先情報を用いたとしても,その行為が本件各秘密保持合意に基づく秘密保持義務違反に該当する余地はない。
( ) (3)争点3 被告Aが本件競業避止合意に基づく競業避止義務に違反するかについて11(原告の主張)ア被告Aによる競業避止義務違反行為本件競業避止合意においては,被告Aが退職後2年間は競業避止義務を負うとされているにもかかわらず,被告Aは,平成19年2月15日をもって原告を退職後,同年5月中旬ころから,エムアップにおいて,原告が主たる事業として行っているレコード,CD等のインターネット通信販売業務活動及び携帯電話用サイトでの通信販売業務を新たに手がけ,現在も継続的に行っている。
イ被告Aの競業行為の悪質性原告は,平成18年10月14日,被告Aから,平成19年1月15日。,,, 付けで退職したい旨の連絡を受けた そして 被告Aは 上記15日以降有給休暇を取得し,原告からの給与の支給を受けつつ在職を続け,同年2月15日付けで退職した。
その後,被告Aは,退職に先立つ平成18年2月上旬ころから,本件仕入先情報を用いて原告の仕入先にアプローチして,商品を購入するに至っている。
,,, , かかる事実から 被告Aは 原告に在職中に 既にエムアップに所属し原告から持ち出した本件仕入先情報を駆使して,次々と仕入先にアプローチし,以後も継続的に仕入れを取り付けていたことが強く推定される。
さらに,被告Aは,原告が開拓した複数の仕入先業者に対して取引を開始したい旨を連絡した際に,エムアップに所属して取引を行うことについて原告から了承を得ているなどと虚言を呈してアプローチしており,その行為態様は,非常に悪質である。
(被告らの主張)被告Aの行為が競業避止義務に違反するとの主張は争う。
(4)争点4(本件競業避止合意が公序良俗に反して無効であるか)について12(被告らの主張)ア退職後の競業避止義務に関する合意が有効と認められるためには,?@従業員の地位の高さ及び職務内容,?A使用者の正当な秘密及び知識の保護を目的とすること,?B対象職種,期間及び地域からみて,不当に広範にわたらないこと,?C代償の存否及び内容という4つの要件を充たすことが必要である。
イしかしながら,本件競業避止合意は,次のとおり,上記の各要件に欠ける。
(ア)要件?@について被告Aは,原告の通販部において,原告から一方的に降格を通告されるまで,自らが「課長代理」という名目を与えられていたことすら認識していなかったものであり その降格により得た立場は主任 にすぎ , ,「」ない。しかも,いずれの地位にあるときも,被告Aより上の役職の者がいた状態で,かつ,一貫して部下と呼べる者もほとんどいない状況であった。
また,その職務内容は,アルバイトを含む原告の従業員間で共用しているパソコンにログインしさえすれば誰でも自由に閲覧することが可能であり,かつ,一般に広く公開されている情報である本件仕入先情報を用いて,仕入れ及び通信販売を行うものであり,原告の機密情報に関与するようなものでは全くなかった。
(イ)要件?Aについて原告が主張するように,本件競業避止合意が本件仕入先情報を原告の秘密として保護するためのものだとすれば,当該情報が,上記のとおり一般に広く公開され,誰でも知り得るものである以上,本件競業避止合意について,原告の正当な秘密及び知識の保護を目的とするものであるということはできない。
13(ウ)要件?Bについて本件競業避止合意は 競業が禁止される対象職種に関し秘密保持に , ,「関する誓約書 と題する書面の第4項において貴社と・・・競業する 」 ,「事業」と抽象的に規定するのみである。
また,競業が禁止される期間については,2年間とされており,これ, 。 は 流行り廃りの変遷が激しい音楽業界においては著しく長期間であるさらに,競業が禁止される地域も無限定である。この点,原告は,通信販売という性質上,地域を限定すること自体が不自然である旨主張するが,原告の行っている業務が通信販売に限られるものではない以上,そのような反論は当たらない。
したがって,本件競業避止合意は,不当に広範にわたる競業避止義務を課すものというべきである。
(エ)要件?Cについて被告Aは,本件競業避止合意によって,上記?Bのような広範にわたる義務を負わされるにもかかわらず,その代償としての手当て,退職金等は,全く支払われていない。
この点,原告は,退職金の支給規定がないことの代替措置として役職手当てを支給している旨主張するが,この要件で要求されるのは,競業避止義務を負う代償としての退職金の上積みを始めとする金銭等の支給である上,被告Aの得ていた役職手当ては,月額で1万5000円から, , 3万円程度であって 上記のような広範な競業避止義務の代償としては不十分である。
,,() ウ以上によれば 本件競業避止合意は 職業選択の自由 憲法22条1項侵害し,公序良俗に反するといえ,民法90条により無効である。
(原告の主張)ア退職した従業員が競業避止義務を負う前提として,被告が主張する?@な14いし?Cの要件が必要であるとしても,次のとおり,本件競業避止合意は,それらを充たす。
(ア)要件?@について被告Aは,平成12年4月16日,原告の従業員として登用され,通販部の責任者を務めており,平成18年8月から同年12月にかけて,同部署の2名の従業員が退職した後には,単独で同部署の責任者を務めていた。具体的には,被告Aは,4,5名のアルバイトに対して業務の指揮を行う立場にあり,複数名の部下が常に存在する状況にあって,アルバイトの採用や評価を行い,業務月例ミーティングに参加し,部署の問題解決や改善を行うなどしていた。
また,被告Aは,平成14ないし15年ころから,原告において,並行して商品仕入業務を開始し,本件仕入先情報を用いて,原告が既に取引を行っていた国内外の仕入先業者から,商品の仕入れを継続的に行っていた。その際,被告Aは,原告が厳重に管理していた本件仕入先情報のすべてを閲覧し,自らの裁量で仕入先にアプローチすることが可能であった。
(イ)要件?Aについて原告は,全従業員から「秘密保持に関する誓約書」と題する書面に署名及び押印をしてもらったが,それは,本件仕入先情報や個人情報などの秘密情報の保護を図るためであった。このように,それぞれが所属している部署で取り扱う秘密情報の漏洩を防止するために,全従業員から上記書面に署名及び押印をしてもらうこと自体は,むしろ,原告の正当な利益保護のために必要不可欠である。
,, ,, しかも 原告は 18年間という長期間にわたって 海外約200弱国内約300弱にものぼる仕入先業者を1社ずつ開拓してきたものであるから,これらの業者に関する本件仕入先情報は,原告が企業として継15続的に事業を営んでいくに当たり,客観的に非常に高い付加価値を有するものであって,原告が保持すべき固有の利益に他ならない。
(ウ)要件?Bについて本件競業避止合意によって競業避止義務が課される対象職種は,原告の取扱業務である,レコード,CD等の企画,制作,販売及び輸入に関する業務に限定されるのであり,2年という期間は,一般に個人の職業選択の自由を侵害するほど長期間であるとは到底いい難い。また,通信販売という性質上,地域を限定して競業避止義務を課すこと自体,不自然である。
被告らは,音楽業界の流行り廃りの変遷が激しいことを根拠に,2年間という期間が長すぎる旨主張するが,原告は,流行り廃りがあることを見越して,多数の仕入業者を開拓してきているのであり,その期間は適切である。また,対象となる職種についても,原告が行っているレコード,CD等の仕入れ及び販売業務に限るのであるから,極めて狭い範囲に絞り込まれているというべきである。
(エ)要件?Cについて原告では,就業規則上,退職金の支給規定はなく,被告Aを含め,他の職員一般に退職金を支給していないが,その代替措置として,従業員には,役職に応じて役職手当てを支給していた。
そして,本件競業避止合意によって被告Aが負担すべき競業避止義務は,対象がレコード,CD等の仕入及び販売業務に絞り込まれており,期間も2年間と短いことからすると,高価な代償を支払うに値するほど厳しいものではないと評価すべきであり,上記役職手当ては,代償として十分すぎるものである。
イ以上からすると,本件競業避止合意は,被告Aの職業選択の自由を不当に侵害するものではなく,原告が長年にわたり開拓した仕入先に関する情16報という客観的財産を保護するものであり,十分合理性がある。
(5)争点5(損害の有無及びその額)について(原告の主張)ア原告の売上高は,エムアップが販売しているものと同じ商品について,減少しているところ,これについては,少なく見積もっても,各商品につ,, きレコード又はCD1枚分の売上高が減少しているといえ その合計額は220万1652円である。
そして,原告の各商品については,少なく見積もっても,35パーセントの粗利益があるため,原告は,同粗利益に相当する金額の損害を被ったものである。
したがって,被告Aの行為による原告の逸失利益の額は,77万0578円(=220万1652×0.35)である。
イまた,被告Aの行為と相当因果関係のある弁護士費用は,30万円を下らない。
ウよって,原告が被った損害の額は,合計107万0578円である。
(被告らの主張)原告が業とするアナログレコードの販売は,原告とエムアップが2社で独占しているものではなく,そもそも,日本国内では,アナログレコード販売事業自体が衰退してきているのである。したがって,原告の売上高及び粗利益の減少と,被告Aがエムアップに移籍したこととは,因果関係がない。
また,原告は,エムアップが取り扱っている各商品につき1枚ずつ売上高が減少したとして,損害額を算定しているが,その商品の中には,原告が取り扱っていない商品も多数含まれている。
第3争点に対する判断1争点1 本件仕入先情報が 本件機密事項等又は不正競争防止法における 営 (, 「業秘密」に該当するか)について17(1)不正競争防止法における「営業秘密」該当性についてア不正競争防止法における 営業秘密 といえるためには秘密として管 「」,「」()()。, 理されている こと 秘密管理性 が必要である 同法2条6項そしてこのような秘密管理性が要件とされているのは,営業秘密が,情報という無形なものであって,公示になじまないことから,保護されるべき情報とそうでない情報とが明確に区別されていなければ,その取得,使用又は開, , 示を行おうとする者にとって 当該行為が不正であるのか否かを知り得ずそれが差止め等の対象となり得るのかについての予測可能性が損なわれて,情報の自由な利用,ひいては,経済活動の安定性が阻害されるおそれがあるからである。
このような趣旨に照らせば,当該情報を利用しようとする者から容易に認識可能な程度に,保護されるべき情報である客体の範囲及び当該情報へのアクセスが許された主体の範囲が客観的に明確化されていることが重要であるといえる。したがって,秘密管理性の認定においては,主として,当該情報にアクセスした者に当該情報が営業秘密であると認識できるようにされているか,当該情報にアクセスできる者が制限されているか等が,その判断要素とされるべきであり,その判断に当たっては,当該情報の性質,保有形態,情報を保有する企業等の規模のほか,情報を利用しようとする者が誰であるか,従業者であるか外部者であるか等も考慮されるべきである。
イ上記前提となる事実,証拠(甲11,乙1ないし3,5。枝番号が付されたものを含む及び弁論の全趣旨によれば 本件仕入先情報の管理に関 。) ,し,次の事実が認められる。
(ア)本件仕入先情報には 仕入先業者の名称 個人名又は法人名住所 ,(),又は所在地,電話番号,ファクシミリ番号,仕入先の担当者の氏名及び電子メールアドレス,取扱商品の特徴(どの仕入先からどのような商品18を仕入れることができるかという情報)等の情報が含まれているとされる(ただし,その具体的内容は明らかにされていない。。)(イ)本件仕入先情報に含まれる事項には,インターネット上の仕入先のホームページ及び音楽情報を掲載したサイトにおいて公開されているものも存在し,また,販売されている商品のジャケットにそれが記載されている場合もある。
(ウ)原告は,本件仕入先情報をサーバー内にファイルの形で保管しており,それにアクセスするには,アルバイトを含む従業員各人に与えられた,パソコンのユーザーID及びパスワードが必要である。
(エ)原告は サーバー クライアントPC 共有のパソコンネットワ ,,(),ーク並びに各人のユーザーID及びパスワードを,ウィンドウズ・アクティブディレクトリーという仕組みで一括管理しており,従業員が退職する際には,そのユーザーID及びパスワードを即時に削除している。
(オ)原告のサーバー内にある本件仕入先情報を記録したファイル自体には,閲覧にプロテクトをかける等の保護手段が施されていない。
(カ)原告は,本件仕入先情報を紙に印刷等した形でも保管しているが,それが存在する原告の本社,渋谷店及び大阪店は,いずれも,警備会社の機械警備の下にある。
(キ)原告においては,その業務上,本件仕入先情報を用いることが多々あるため,仕入担当者以外であっても,アルバイトを含め,原告の従業員であれば,本件仕入先情報を閲覧することが可能である。また,パソコンからアクセスした本件仕入先情報のプリントアウトや本件仕入先情報が印刷された紙の持ち出しについても,特段の制約は設けられていなかった。
(ク)原告は 全従業員との間において秘密保持に関する契約書 と題 , ,「 」する書面に署名及び押印させる形で,本件秘密保持合意2と同内容の秘19密保持契約を締結している。
(ケ)原告は,従業員に対して,本件仕入先情報が原告の営業秘密に当た, 。 ることについて 注意喚起をするための特段の措置は講じていなかった以上の各事実が認められ,これらの認定を覆すに足りる的確な証拠はない。
ウ上記イの認定事実によれば,本件仕入先情報は,仕入先業者の名称,住所などという一般的基準によってのみ規定されるものであり,その具体的内容は明らかとされていないから,当該情報の内容,範囲等が明確に特定されているとはいい難いが,その点を措くとしても,原告においては,アルバイトを含め従業員でありさえすれば,そのユーザーIDとパスワードを使って,サーバーに接続されたパソコンにより,本件仕入先情報が記載されたファイルを閲覧することが可能であって,そのファイル自体には,情報漏洩を防ぐための保護手段が何ら講じられていなかった上,従業員との間で締結した秘密保持契約も,その対象が抽象的であり,本件仕入先情報がそれに含まれることの明示がされておらず,その他,原告において,従業員に対して,本件仕入先情報が営業秘密に当たることについて,注意喚起をするための特段の措置も講じられていなかったというのである。このような管理状況に加え,本件仕入先情報の内容の多く(名所,住所又は所在地,電話番号,ファクシミリ番号など)が,インターネット等により,,,, 一般に入手できる情報をまとめたものであり また 本件証拠上 原告に個々の仕入先を秘匿しなければならない事情も窺われないことから,本件仕入先情報は,その性質上,秘匿性が明白なものとはいい難いこと等を考慮すれば,本件仕入先情報を用いて日常業務を遂行していた原告の従業員にとって,それが外部に漏らすことの許されない営業秘密として保護された情報であるということを容易に認識できるような状況にあったということはできず,他に秘密管理性を基礎づける事実を認めるに足りる証拠はな20い。
したがって,本件仕入先情報については,秘密管理性を欠くというべきであり,他の要件について検討するまでもなく,不正競争防止法上の「営業秘密」に該当すると認めることはできない。
(2)本件機密事項等該当性について,,「」 ア本件仕入先情報は 上記(1)のとおり 不正競争防止法上の 営業秘密に当たらないから,従業員が,本件仕入先情報を利用することは,不正競, ,, 争防止法上違法となるものではないが そのような場合であっても 別途当事者間で,秘密保持契約を締結しているときには,従業員は,当該契約の内容に応じた秘密保持義務を負うことになる。
イそこで,検討するに,従業員が退職した後においては,その職業選択の自由が保障されるべきであるから,契約上の秘密保持義務の範囲については,その義務を課すのが合理的であるといえる内容に限定して解釈するのが相当であるところ,本件各秘密合意の内容は,上記前提となる事実で認定したとおりであり,秘密保持の対象となる本件機密事項等についての具体的な定義はなく,その例示すら挙げられておらず,また,本件各秘密保持合意の内容が記載された「誓約書」と題する書面及び「秘密保持に関する誓約書」と題する書面にも,本件機密事項等についての定義,例示は一切記載されていないことが認められる(甲2,3)から,いかなる情報が本件各秘密合意によって保護の対象となる本件機密事項等に当たるのかは不明といわざるを得ない。
しかも 前記(1)で検討したとおり 原告の従業員は 本件仕入先情報が , ,,外部に漏らすことの許されない営業秘密として保護されているということを認識できるような状況に置かれていたとはいえないのである。
このような事情に照らせば,本件各秘密保持合意を締結した被告Aに対し,本件仕入先情報が本件機密事項等に該当するとして,それについての21秘密保持義務を負わせることは,予測可能性を著しく害し,退職後の行動を不当に制限する結果をもたらすものであって,不合理であるといわざるを得ない。したがって,本件仕入先情報が秘密保持義務の対象となる本件機密事項等に該当すると認めることはできない。
(3)小括そうすると,本件仕入先情報は,不正競争防止法上の「営業秘密」及び本件機密事項等のいずれにも該当せず,よって,被告Aは,不正競争防止法及び本件各秘密保持合意に基づく秘密保持義務のいずれについても,それらに違反したものとは認められない。
2争点3(被告Aが本件競業避止合意に基づく競業避止義務に違反するか)について(1)上記前提となる事実のとおり 原告の主たる事業は レコード CD等の ,,,インターネット通信販売業務活動及び携帯電話用サイトでの通信販売業務であり,原告及び被告A間において,本件競業避止合意がされていたところ,被告Aにおいて,携帯電話のモバイルコンテンツ事業を主たる業とするエムアップに転職し,同社において,レコード,CD等のインターネット通信販売業務及び携帯電話用サイトでの通信販売業務を行うに至っているのであるから,このような被告Aの行為が本件競業避止合意に違反するのか否かが問題となる。
ただし,退職後の競業避止に関する合意は,従業員の就職及び職業活動それ自体を直接的に制約するものであり,既に検討した秘密保持義務と比較しても,退職した従業員の有する職業選択の自由に対して極めて大きな制約を及ぼすものであるといわざるを得ない。そのため,上記の合意によって課される従業員の競業避止義務の範囲については,競業行為を制約することの合理性を基礎づけ得る必要最小限度の内容に限定して効力を認めるのが相当である。そして,その内容の確定に当たっては,従業員の就業中の地位及び業22務内容,使用者が保有している技術上及び営業上の情報の性質,競業が禁止される期間の長短,使用者の従業員に対する処遇や代償の程度等の諸事情が考慮されるべきであり,特に,転職後の業務が従前の使用者の保有している特有の技術上又は営業上の重要な情報等を用いることによって行われているか否かという点を重視すべきであるといえる。
(2)上記前提となる事実証拠甲6ないし811乙5枝番号が付され ,(,,。
たものも含む )及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 。
ア被告Aは,平成11年1月に原告に入社したが,平成12年4月16日まではアルバイトであり,正社員となってからは,通販部に所属し,主として,レコード,CD等の商品の通信販売業務,携帯電話用サイトでの通信販売業務,同商品の仕入業務等に携わっており,必要に応じて本件仕入先情報を閲覧し,それを利用して業務を行っていた。
イ原告の通販部には,被告Aが在職していた期間,商品仕入業務担当者が10名以上おり,被告Aは,原告が扱っている音楽ジャンルのうち,商品数及び種類の最も少ない部類に属するジャンルを担当していた。
ウ被告Aは,原告の通販部において,当初,責任者の補佐役を務め,その後,上司の下にあってアルバイトを取りまとめる地位に就いたり,アルバイトの採用に関わったり,業務月例ミーティングに出席したりはしたものの,所属部署の責任を単独で負うような地位に就いたことはなかった。
エ被告Aは,本件各秘密保持合意に基づく秘密保持義務及び本件競業避止合意に基づく競業避止義務を負うことの代償として,金銭等の給付を受けていない。
この点,原告は,役職手当ての支給が上記代償である旨主張するが,その支給と上記各義務を負担することの対応関係を認めるに足りる証拠はなく,原告の同主張は理由がない。
オ被告Aは,原告を正式に退職する前の平成19年2月上旬ころから,原23告の仕入先であるLasgoの担当者に対して電子メールを送信し 取引を始め ,たい旨を申し入れるなどしていた。
この点,被告Aは,その作成に係る陳述書(乙5)において,上記の事実について否認しているが,その根拠としては,担当者の誤解か記憶違いであると述べられているのみで,客観的な裏付けは何ら存在しないのであるから,同陳述書の当該部分を信用することはできない。
カ被告Aは,同月21日にエムアップに入社してしばらくは,同社のアパレル通販サイト企画進行を担当していたが,その後,同社におけるレコードの通信販売業務も担当するようになり,自ら仕入先と接触して,商品の仕入れを行うなどしている。
キ原告とエムアップとでは,その取り扱っているCD,レコード等の商品の範囲が,一定程度重なっており,それらの商品の仕入先も競合しているが,同様の商品は,一般の大手のレコード店等においても取り扱われている。
, 。 以上の各事実が認められ これらの認定を覆すに足りる的確な証拠はない(3)上記(2)の認定事実及び上記1で検討した事情によれば,次のようにいうことができる。
被告Aは,原告在職中に,CD,レコード等の仕入及び販売業務に携わっていたことから,同被告がエムアップで行ってきた業務のうち,原告の業務と競合し得る部分は,レコードの通信販売業務であるところ,同被告は,その種の業務を行うに際して,原告就業中の日常業務から得た一般的な知識,経験,技能や,その業務を通じて有するようになった仕入先担当者との面識などを利用し得たにすぎないものと考えられ,本件全証拠によっても,被告Aが原告の保有している特有の技術上又は営業上の重要な情報等を用いてエムアップの業務を行っていると認めることはできない。
この点,原告は,被告Aが原告から持ち出した本件仕入先情報を駆使して24原告の仕入先にアプローチしてきたことが強く推定されるとし,そのことを競業避止義務違反の根拠として主張する。
しかしながら,本件仕入先情報は,前記1のとおり,営業秘密として管理,「」, されているとはいえないから 不正競争防止法上の 営業秘密 に該当せずかつ,本件各秘密保持合意の対象ともならない情報である上,その内容自体は,具体的に特定されておらず,これを利用することにより,仕入業務等において,原告に対して優位に立てるというものでもなく,また,同情報は,インターネットや商品における表示等から認識し得るものであって,被告Aとしては,原告における業務を通じて知った仕入先の名称から,インターネットを通じて検索し,仕入先に接触することが可能なのであるから,原告特有の技術上又は営業上の重要な情報等ということはできず,原告の主張する上記事情は,競業行為を制約することの合理性を基礎づけ得るものとはいえない。
そうすると,被告Aが,原告在職中に,その業務の中枢に関わる重要な地位に就いていたともいえず,携わっていた業務の内容も,商品の仕入,販売等に関する業務を自ら行うほか,アルバイトの取りまとめ等を行う程度のものであって,単独で責任を負うような立場にもなかったこと,本件競業避止合意に基づいて退職後の競業避止義務を負うことについて,何らの代償措置も講じられていなかったことなどの事情も併せ検討すれば,同義務を負う期間が2年間とさほど長くないことを考慮しても,被告Aがエムアップにおいて実施している業務の内容は,本件競業避止合意の対象に含まれるとは認められないというべきである。
これに対し,原告は,被告Aが,原告に在職していた時期から,既に,エムアップの業務として原告と競合する仕入先に接触をもっていたことや,その際,エムアップに所属して取引を行うことについて原告から了承を得ているなどと虚言を呈していたことを,被告Aの行為の悪質性を基礎づける事情25として主張する。
しかしながら,後者の事情については,これを認めるに足りる的確な証拠が存在せず,また,前者の事情についても,退職直前の有給休暇期間中に行われたものと認められることなどに照らし,上記の判断を覆すに足りるものではない。
(4)小括そうすると,被告Aのエムアップにおける業務は,本件競業避止合意の対象に含まれず,よって,被告Aは,本件競業避止合意に違反したものとは認められない。
第4結論以上の次第で,その余の点について判断するまでもなく,原告の被告らに対,。 する請求はいずれも理由がないから棄却することとし 主文のとおり判決する
裁判長裁判官 清水節
裁判官 佐野信