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関連審決 無効2001-35280
審判1999-35388
関連ワード 考案 /  図面 /  構造 /  組合せ /  設定登録 /  進歩性(3条2項) /  きわめて容易 /  請求項 /  容易に想到 /  公知技術 /  特定 /  明細書 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 128号 審決取消請求事件
原告 共同カイテック株式会社
訴訟代理人弁護士 高橋隆二
被告 株式会社ライオン事務器
訴訟代理人弁理士 牛木理一
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/03/17
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2001-35280号事件について平成14年2月4日にした審決を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,下記ア記載の実用新案登録の実用新案権者,被告は,その実用新案登録の請求項1に係る考案(以下「本件考案」という。)についての実用新案登録(以下「本件実用新案登録」という。)の無効審判(平成11年審判第35388号及び無効2001-35280号,以下それぞれ「前件無効審判」及び「本件無効審判」という。)の請求人であり,その経緯は下記イ及びウのとおりである。
ア 実用新案登録第2534671号「配線用フロアパネル」 実用新案登録出願 平成3年12月2日 設定登録 平成9年2月13日 イ(前件無効審判関係) 平成11年7月30日 無効審判請求(平成11年審判第35388号) 平成13年4月 3日 請求不成立審決(以下「前件審決」という。) 同 年6月27日 前件審決の確定登録 ウ(本件無効審判関係) 平成13年6月29日 無効審判請求(無効2001-35280号) 平成14年2月 4日 本件実用新案登録を無効とする旨の審決(以下 「本件審決」という。) 同 年2月15日 原告への審決謄本送達 2 本件考案の要旨 略方形パネル(P)を配線経路(3)が直交して形成されるように設け,その配線経路(3)の底に床面不陸に追従する不陸追従部(2)を有し,該配線経路の直線部分と交差部分の上面開口縁に設けた段部(5)に直線部カバー板(4A)および交差部カバー板(4B)を落とし込み式に嵌めて配線経路(3)の上面開口を覆うことによって上面を平らに構成し,交差部カバー板(4B)の裏側を支える第1の支持部(7)を配線経路の交差部分の底に有するとともに,直線部カバー板(4A)の裏側を支える第2の支持部(7)を,不陸追従部(2)の配線経路幅方向略中央近傍であって,前記第1の支持部(7)と並んで配線経路を二経路に略区分するように,前記パネル(P)と一体成形により小柱状,または衝立状に,配線横切り可能な一定間隔をあけて複数個連続配置し,且つ,第1および第2の支持部(7)の頂部(7B)は,前記直線部カバー板(4A)および交差部カバー板(4B)の裏側を一定の面積で支える略平坦面に形成されていることを特徴とする配線用フロアパネル。
3 前件審決及び本件審決の理由 (前件無効審判及び本件無効審判で提出され,審理の対象とされた証拠は,別紙「関係刊行物一覧表」記載のとおりである。以下,同表掲記の刊行物は同表「刊行物」欄の表記に従って「刊行物1」などという。) (1) 前件審決 前件審決は,刊行物3を主たる引用例として本件考案との対比を行い,下記の3点の相違点を認定した上,相違点1については,刊行物3記載の考案と刊行物5,6記載の各考案との組合せに係る容易想到性を肯定する一方,相違点2,3については,各刊行物に何ら記載されておらず,示唆するところもないとして容易想到性を否定し,請求人(被告)の主張する理由及び証拠によっては本件実用新案登録を無効とすることはできないとした。
ア 相違点1 本件考案においては,「交差部カバー板(4B)の裏側を支える第1の支持部(7)を配線経路の交差部分の底に有」するのに対し,刊行物3のものにおいては,このような構成を有していない点。
イ 相違点2 本件考案においては,「直線部カバー板(4A)の裏側を支える第2の支持部(7)を,不陸追従部(2)の配線経路幅方向略中央近傍であって,前記第1の支持部(7)と並んで配線経路を二経路に略区分するように,前記パネル(P)と一体成形により小柱状,または衝立状に,配線横切り可能な一定間隔をあけて複数個連続配置」するのに対し,刊行物3のものにおいては,このような構成を有していない点。
ウ 相違点3 上記相違点1及び2に関連して,本件考案においては,「第1および第2の支持部(7)の頂部(7B)は,前記直線部カバー板(4A)および交差部カバー板(4B)の裏側を一定の面積で支える略平坦面に形成されている」のに対し,刊行物3のものについては,第1及び第2の支持部そのものの構成がないことから,当然のこととしてこのような構成を有していない点。
(2) 本件審決 本件審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,刊行物3を主たる引用例として本件考案との対比を行い,上記(1)ア〜ウと同一内容の3点の相違点を認定した上,@ 相違点1について,刊行物3記載の考案と刊行物5,6記載の各考案との組合せに係る容易想到性を肯定し,A 相違点2について,刊行物3記載の考案と刊行物1記載の考案及び刊行物4,7,8によって認められる周知技術である「配線用の床構成部材において,異種配線の混触防止,配線付設経路の変更容易を図るため,配線経路を区分する衝立状の支持部材に切欠を設けること」(審決謄本11頁8行目以下)(以下「周知技術A」ということがある。)との組合せに係る容易想到性を肯定し,B 相違点3について,刊行物3記載の考案と刊行物1,5〜7によって認められる周知技術である「カバー板の裏面を一定面積で支える略平坦面に形成した支持部」(同頁下から5行目以下)(以下「周知技術B」ということがある。)との組合せに係る容易想到性を肯定し,本件実用新案登録は,実用新案法3条2項の規定に違反してされたものであるから,同法37条1項の規定により無効とすべきものとした。
なお,本件無効審判では,審判請求人である被告において,別紙「関係刊行物一覧表」掲記の刊行物のほか,意匠登録第880856号公報(本件無効審判甲9),未来工業株式会社発行のカタログ「OAフロアの本因坊 碁VAN」(同甲10),日経BP社発行の「日経ニューマテリアル」1992年8月3日号(同甲11),株式会社インテリアタイムス社発行の「床の総合専門誌 ゆか monthly」1991年5月1日号,同年7月1日号,同年11月1日号(同甲12〜14)が提出されたが,これらについては,本件審決において判断が示されていない。
原告主張の審決取消事由
本件審決は,本件実用新案登録の無効審判において,先に請求不成立の確定審決である前件審決の登録がされた後に,これと「同一の事実及び同一の証拠」に基づいて,前件審決と相反する実体的な判断をしたものであるから,一事不再理の原則を定める実用新案法41条,特許法167条の規定に違反し(取消事由1),また,本件考案と刊行物3記載の考案との各相違点についての判断を誤った(取消事由2)ものであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(一事不再理の原則の違反) 本件審決は,上記第2の3のとおり,前件審決と同様,刊行物3を主たる引用例として本件考案との対比を行い,前件審決が認定したのと同一内容の3点の相違点を認定した上,相違点2,3について,確定審決である前件審決の判断と相反する実体的な判断をした。しかし,一事不再理の原則を定める実用新案法41条,特許法167条の規定は,特許庁においても,「同一の事実及び同一の証拠」に基づく実体的な審決をすることを禁止するものであって,再度の無効審判請求において前件の確定審決の基礎とした証拠の外に他の証拠が提出されていたとしても,「同一の事実及び同一の証拠」に基づく判断であることに変わりはないから,本件審決の判断は,上記規定に違反する。しかも,本件無効審判で新たに提出された刊行物7,8は,前件無効審判及び本件無効審判において争点とされた相違点2,3に係る容易想到性の判断に関し,その理由付けとなる事実(周知技術)を認定するための証拠にすぎず,無効理由を構成する争点そのものに係る証拠ではないから,本件審決の上記判断は,前件審決の蒸し返しというべきである。
実用新案法41条において準用する特許法167条の「同一の事実及び同一の証拠」の意義に関し,最高裁昭和51年3月10日大法廷判決・民集30巻2号79頁は,同条を引用した上,「このような手続構造に照応して,確定審決に対し,そこにおいて現実に判断された事項につき対世的な一事不再理の効力を付与したものと考えられる」と判示しているが,これは,無効理由との関係において現実に判断された事項を基準とし,同一の無効理由について具体的に攻撃防御が尽くされたものについては一事不再理の効力が発生することをいうものと解される。そして,無効審判の判断の対象となる無効理由は,具体的に特定された公知事実との対比における無効理由の有無であるところ,周知技術は,異なった証拠に基づいて同一の周知技術を認定することが可能であり,また,無効審判請求人が無効理由を裏付ける周知技術を主張しなくとも,職権によってこれを認定することが当然許されるのであるから,特定の周知技術に係る事実及びその裏付けとなる証拠の追加は,「同一の事実及び同一の証拠」の範囲に影響を及ぼすものではないというべきである。無効審判において,特定の証拠に基づく容易想到性が争点となる場合には,対象となる発明と当該証拠に記載された発明との対比において生ずる相違点は創作性のない技術内容である周知技術であると主張又は認定されるのが通常であることからも,特定の証拠に基づく容易想到性をいう無効理由と,当該証拠及び特定の周知技術に基づく容易想到性をいう無効理由とが,同一の無効理由であることは明らかである。このように解さないと,同一の周知技術を裏付ける再度の無効審判請求による争点の蒸し返しを認める結果となり,上記規定の趣旨に反することとなる。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り) (1) 本件審決は,本件考案と刊行物3記載の考案との相違点1〜3(上記第2の3(1)ア〜ウ参照)について,いずれも当業者のきわめて容易に想到し得たことであると判断する(審決謄本9頁6の項)が,誤りである。
(2) 相違点1について,本件審決は,刊行物5,6に相違点1に係る本件考案の構成が記載されていることを前提に,刊行物3への適用の容易想到性を肯定するが,刊行物5,6(甲8,9)には,相違点1に係る構成である「配線経路の交差部においてカバー板の裏側を支える支持部材」は記載されていない。
(3) 相違点2について,本件審決は,刊行物1(甲4)の第2図には「セパレータ4の高さと下部タイル2の高さがほぼ等しい」との記載があると認定する(審決謄本10頁(6-2)の項の7行目以下)が,同図からそのような事実を認定することはできず,他にそのような記載もない。さらに,本件審決は,「配線用の床構成部材において,異種配線の混触防止,配線付設経路の変更容易を図るため,配線経路を区分する衝立状の支持部材に切欠を設けることは周知である」として周知技術Aを認定する(審決謄本11頁8行目以下)が,本件審決が周知例として引用する刊行物4,7,8は,上記技術を示すものとはいえない。すなわち,刊行物4(甲7),は,電力ケーブルをダクト10から配線ビット21に引き込むための開口部15を開示したものにすぎず,刊行物7(甲10)は,配線経路そのものに切り込み(間隙5)を設けて配線6を他の経路に引き込む構成が開示されているにすぎず,いずれも配線経路を区分する切欠きを有する衝立状支持部材に該当せず,使用目的も異なる。刊行物8(甲11)は,配線用床パネルに係るものではなく,配線経路を区分する支持部材も記載されていない。
(4) 相違点3について,本件審決は,刊行物1(甲4)のセパレータ4が「カバー体の裏側を支える略平坦面に形成されている」との認定(審決謄本11頁(6-3)の項の9行目以下)を前提に容易想到性の判断をするところ,刊行物1にそのような記載はないから,本件審決の上記判断は誤りである。
被告の反論
審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。
1 取消事由1(一事不再理の原則の違反)について 本件無効審判においては,相違点2,3についての容易想到性が争点となったところ,その判断に関して,本件審決と前件審決とでは,それぞれ引用する証拠が異なっており,請求人である被告の主張した事実も一致するものではない。したがって,本件審決の相違点2,3についての判断は,前件審決と「同一の事実及び同一の証拠」に基づく判断であるとはいえず,一事不再理の原則に反するものではない。
本件審決の判断が,実質的にも,前件審決と「同一の事実及び同一の証拠」に基づくものでないことは,以下の点からも明らかである。すなわち,前件審決は,相違点2,3の容易想到性の判断の前提となる刊行物記載の考案の認定について事実誤認があるから,本件審決の判断がたとえ同一の証拠に基づくものであるとしても,前件審決との抵触はないと解することができる。また,本件無効審判においては,新証拠である刊行物7,8が追加され,これによって本件考案の容易想到性がより確実に立証されたのであるから,「同一の事実及び同一の証拠」に基づく判断でないことは明らかである。さらに,本件審決においては,前件審決の判断の対象となっていない新たな特定の周知技術である周知技術A,Bが審理の対象とされている。本件審決は周知技術Aを周知であると認定したが,公知と認めても実質的に変わりはなく,また,たとえ周知技術であっても,審判手続において審理判断の基礎となっていない技術的事項は,審決取消訴訟において主張することが許されない(東京高判昭和56年9月30日判決・無体集13巻2号640頁)のであるから,再度の審判請求によりこれを主張し得ることは当然である。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について 原告の主張はすべて争う。本件考案と刊行物3記載の考案との相違点1〜3が,各刊行物に示される公知技術及び周知技術に基づいて当業者のきわめて容易に想到し得たものであることは,審決が正当に認定判断するとおりである。
当裁判所の判断
1 取消事由1(一事不再理の原則の違反)について (1) 特許庁が,原告を実用新案権者とする本件実用新案登録に関して,被告のした前件無効審判請求について請求不成立の前件審決をし,その確定登録の後に被告のした再度の本件無効審判請求について,前件審決と相反する請求認容の本件審決(無効審決)をしたことは,第2の1の経緯から明らかである。実用新案法41条において準用する特許法167条は,「何人も,第123条第1項・・・の審判の確定審決の登録があったときは,同一の事実及び同一の証拠に基づいてその審判を請求することができない」と規定し,直接には再度の審判請求自体が許されない場合を定めているが,それとともに,特許庁自体も,審判請求却下という形式的審決はともかくとして,前件の確定審決と「同一の事実及び同一の証拠」に基づいて実体的な審決をすることが許されないことも定めるものであり,原告の取消事由1の主張は,本件審決の相違点2,3の判断について,この趣旨の上記規定に違反した違法をいうものである。
(2) そこで,まず,本件審決の相違点2についての判断が,前件審決の判断と「同一の事実及び同一の証拠」に基づいて行われたといえるかどうかについて検討する。
ア 前件無効審判において,請求人である被告は,その審判請求書(乙1)に記載されているとおり,相違点2に係る構成を開示するものとして,刊行物1,6を引用したにとどまり,周知技術Aに関する主張及び立証をしておらず,このような主張立証を受けて,前件審決は,前記のとおり,刊行物1その他の各証拠を検討しても,相違点2については何ら記載及び示唆がないとして,その容易想到性を否定したものと認められる。なお,前件無効審判で提出された証拠に限って見た場合,前件審決の上記判断のとおりの帰結とならざるを得ないことは,後記2(2)イのとおりである。
これに対し,本件無効審判において,請求人である被告は,その無効審判請求書(乙2)に記載されているとおり,相違点2に係る構成を開示する新証拠として,刊行物7,8及び同審判甲9以下を引用するとともに,刊行物7,8には,「配線経路を二分して衝立状の中間壁に,配線横切り可能な一定間隔をあけている」技術が開示されているとの主張(上記無効審判請求書15頁参照)をしたところ,本件審決は,同審判甲9以下については判断を示さなかったものの,刊行物7,8に係る開示事項については,請求人(被告)の上記主張を容れる形で,刊行物7,8及び同4によれば,「配線用の床構成部材において,異種配線の混触防止,配線付設経路の変更容易を図るため,配線経路を区分する衝立状の支持部材に切欠を設けること」(周知技術A)は周知であるとして,刊行物3記載の考案に,刊行物1記載の考案及び周知技術Aとを組み合わせて,相違点2に係る容易想到性を肯定したものと認められる。
イ 上記認定によれば,前件無効審判においては,相違点2に係る構成に関し,周知技術Aについては,請求人(被告)からの主張立証がなく,現に審理判断の対象ともならなかったことが明らかであり,他方,本件無効審判においては,争点の容易想到性そのものを基礎付ける新証拠として刊行物7,8が提出されたのみならず,相違点2に係る無効理由として,「刊行物3記載の考案と刊行物1記載の考案及び周知技術Aとの組合せによる容易想到性」という,前件審決の審理判断の対象となっていない新たな無効理由が審理され,当該新たな無効理由が採用されたものというべきである。原告は,刊行物7,8は,相違点2に係る容易想到性の判断に関し,その理由付けとなる事実(周知技術)を認定するための証拠にすぎず,無効理由を構成する争点そのものに係る証拠ではないと主張するが,その理由のないことは上記のとおりである。そして,特許法167条の趣旨とするところが,無効審判の手続においては,特定された無効理由をめぐって攻撃防御が行われ,かつ,審判官による審理判断もこの争点に限定してされるという手続構造に照応して,確定審決に対し,そこにおいて現に審理判断の対象とされた事項につき対世的な一事不再理の効力を付与したものであること(最高裁昭和51年3月10日大法廷判決・民集30巻2号79頁参照)にかんがみると,本件審決は,相違点2につき,前件審決と「同一の事実及び同一の証拠」に基づく判断をしたものということはできない。
ウ この点について,原告は,無効審判の対象となる無効理由は具体的に特定された公知技術との対比における無効理由の有無であるところ,周知技術は,異なった証拠に基づいて同一の周知技術を認定することが可能であり,また,無効審判請求人が無効理由を裏付ける周知技術を主張しなくとも職権によってこれを認定することが許され,さらに,無効審判において,特定の証拠に基づく容易想到性が争点となる場合には,対象となる発明と当該証拠に記載された発明との対比において生ずる相違点は創作性のない技術内容である周知技術であると主張又は認定されるのが通常であるから,特定の周知技術に係る事実及びその裏付けとなる証拠の追加は「同一の事実及び同一の証拠」の範囲に影響を及ぼさない旨主張する。しかし,無効審判において審理判断の対象となる無効理由は,特定の公知文献をもって特定される公知技術のみによって構成されるものではなく,公知技術と周知技術との組合せや,場合によっては周知技術のみによっても構成し得るものであるから,再度の無効審判請求において,特定の周知技術(及びその証拠)を新たに追加することにより,前件の確定審決で審理判断された無効理由と別個の無効理由を構成することは可能であり,その場合に,確定審決における判断と結論において相反する判断がされたとしても,「同一の事実及び同一の証拠」に基づく判断ということはできない。原告は,また,同一の周知技術を裏付ける再度の無効審判請求による争点の蒸し返しを主張するが,前件の確定審決において審理判断された特定の周知技術について,その認定根拠となる証拠を追加したにとどまるような場合は格別,確定審決において何ら主張立証されていない特定の周知技術自体を新たに主張立証する再度の無効審判請求をしている本件にあっては,これを許容したとしても,争点の蒸し返しを認める結果になるとはいえない。
したがって,本件審決の相違点2についての判断は,前件審決と「同一の事実及び同一の証拠」に基づくものとはいえず,実用新案法41条において準用する特許法167条に違反するものではない。
(3) 次に,本件審決の相違点3についての判断を見るに,前件審決(甲3の1)は,相違点3について,「上記相違点2については,各証拠方法何れにおいても何ら記載されてなく,示唆するところもない。してみると,第1の支持部の頂部についての断片的な開示はあるものの,各証拠方法何れにおいても,上記相違点3における点は何ら記載されてなく,示唆するところもない」(審決謄本11頁1行目以下)と判断しており,相違点3に係る構成は,相違点2に係る構成の存在を前提とする従属的なものであるとの位置付けに基づいて,その容易想到性を否定していることが明らかである。そうすると,相違点2に係る容易想到性が肯定される以上,これに伴って,相違点3について前件の確定審決と異なった判断に至ることはむしろ当然であり,このこと自体,一事不再理の効力に抵触するものとはいえない。
(4) 以上によれば,本件審決が,相違点2,3について前件審決と結論において相反する実体判断をしたことが,実用新案法41条において準用する特許法167条に違反するものとはいえず,原告の取消事由1の主張は理由がない。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について (1) 相違点1について 原告は,相違点1に係る本件考案の構成(「交差部カバー板(4B)の裏側を支える第1の支持部(7)を配線経路の交差部分の底に有」すること)は,刊行物5,6(甲8,9)に記載されていない旨主張する。しかし,刊行物5(甲8)の「符号13は,内周枠部8の各角部と枝枠部9との連接個所の底板10から上向きに突設する支柱で,前記連接個所に集まるカバー体2の端部下面を支持するようにするものである」(明細書7頁第2段落)との記載及び第1,第2,第4図の図示によれば,支柱13は,配線コードを挿通するための溝通路の交差部分に配設され,その上部に載置されるカバー体2の裏側を支えていることが明らかに認められる。また,刊行物6(甲9)の突起部1bは,第10図の図示によれば,コード挿通溝の交差部分に配設され,その上部に載置されたカバー体14の裏側を支えていることが明らかに認められるものである。そうすると,前者の支柱13,後者の突起部1bは,本件考案の第1の支持部(7)に相当するものであって,相違点1に係る本件考案の構成を開示するものにほかならず,これらの構成を,同一の技術分野に属する刊行物3記載の考案に適用することに格別の困難性は見いだせないから,相違点1について容易想到性を肯定した審決の判断に誤りはない。
(2) 相違点2について ア 原告は,刊行物1(甲4)には,「セパレータ4の高さと下部タイル2の高さがほぼ等しい」(審決謄本10頁(6-2)の項の7行目以下)との記載がない旨主張するところ,確かに,刊行物1には,明細書上,その旨の明示の記載はないものの,第2図において,下部タイル2とセパレータ4とが,明らかに同一平面を構成する同じ高さを有する構成部分として図示されていると認められる。加えて,配線経路を区分する衝立状の部材に,配線経路を覆う板状部材を裏側から支える支持部材としても機能させる技術は,刊行物7(甲10)の凸条部4,刊行物8(甲11)の脚部78にも見られる周知慣用の技術にすぎないというべきであるから,これも勘案すれば,刊行物1記載の考案のセパレータ4を,下部タイル2と同じ高さとして,上部タイルを裏側から支える支持部材として機能させていることは,刊行物1に接した当業者の当然に理解,把握することというべきである。
したがって,原告の上記主張は理由がなく,刊行物1(甲4)には,上部タイル(本件考案の「直線部カバー板(4)」に相当)の裏側を支えるセパレータ4(同「第2の支持部(7)」に相当)を,配線経路幅方向略中央近傍であって,配線経路を二経路に略区分するように,衝立状に配置する構成を備えた配線用床タイルが記載されているものと認められる。
イ 刊行物1記載の上記配線用床タイルは,相違点2に係る本件考案の構成中,衝立状のセパレータ4(第2の支持部(7))を「配線横切り可能な一定間隔をあけて複数個連続配置」する構成を備えるものとはいえないので,この点について更に検討する。
まず,前件無効審判と本件無効審判とで共通する証拠に限って見た場合,上記構成について一応の示唆があると考えられるのは,刊行物4(甲7)の「第7〜第9図に示すように,配線用床材(20)に形成された配線ビット(21)に対応する箇所で各壁(12)(17)を折り取ることにより,配線ビット(21)の側面開口(22)に面する開口部(15)が形成され,この開口部(15)を介してケーブル(W1)(W2)をダクト(10)から配線ビット(21)に引き込めるようになっている」(4頁右上欄下から2行目以下)との記載及び関係図面の図示だけであるが,その記載に係る構成は,配線用床パネル(配線用床材20)自体に関するものではなく,これに併設される床配線用ダクトに関するものである上,他にこれと同様の構成を備える配線用の床構成部材を開示する証拠は前件無効審判では提出されていないから,刊行物3記載の考案に刊行物1記載の構成を適用するに当たり,「配線横切り可能な一定間隔をあけて複数個連続配置」するように構成することが,刊行物4の上記記載のみから,当業者のきわめて容易に想到し得たものとはいえない。
しかしながら,本件無効審判で新たに提出された刊行物7,8を併せて見た場合,刊行物7(甲10)には,「この考案は・・・床基盤上に,下面または上面のどちらか一方に所望間隔をおいて任意の位置で切除可能な凸条部が複数設けられた床下地板を載置し,その上に中間板材を介するかまたは介さずに床仕上材を敷設してなるOA用床構造,をその要旨とする」(明細書2頁第2段落),「実際の配線は凸条部と凸条部の間の溝と凸条部を任意の位置で切除して形成した間隙5(第3図)とを用いて縦横自在に行なわれる」(同3頁4行目以下),「本考案は以上のごとく,従来のフリーアクセスフロアに比べ,極めて単純な構成で施工も迅速に行なえる。また床下地板も安価に提供できるし,配線も縦横自在に実施でき,後からの配線変更も容易である」(同4頁第3段落)との記載が,刊行物8(甲11)には,「とくに電気配線に適したフロアパネル」(2頁左欄「技術分野」欄)に関して,「第13A図に示されるように,中央の脚部78を除いて,配線を通過させるための切り欠き78aが形成されている。同図に示されるように,形成された通路は2つずつに分離され,それぞれ電力線用,電話線用として使用されている。・・・分離された電力幹線66は切り欠き78aを通して端部側の通路へ導かれ,端部側の通路において床面に固定された配線器具86により電力分岐線58に配線される,右側の2つの通路部分においては,中央側の通路に電話幹線64が配置され,分離された電話幹線64は切り欠き78aを通して端部側の通路へ導かれ,端部側の通路において床面に固定された配線器具86によりさらに分岐され,電話分岐線56に配線される」(8頁左上欄6行目以下)との記載がそれぞれ認められ,これらの記載及び関係図面の図示によれば,刊行物7,8には,複数の配線経路を有する配線用床パネルにおいて,配線経路を区分する衝立状の部材(前者の「凸条部4」,後者の「脚部78」)を,配線横切り可能に切除可能としたものが開示されていることが明らかである。そして,これに刊行物4の上記記載を総合すれば,配線用の床構成部材において,異種配線の混触防止,配線付設経路の変更容易を図るため,配線経路を区分する衝立状の支持部材に切欠を設けること(周知技術A)は,本件出願前当業者に周知な技術事項であったものと認められる。この点に関する原告の主張は,上記認定に照らして採用することができない。
ウ 以上のとおり,刊行物1(甲4)には,上部タイルの裏側を支えるセパレータ4を,配線経路幅方向略中央近傍であって,配線経路を二経路に略区分するように,衝立状に配置する構成を備えた配線用床タイルが記載されており,かつ,周知技術Aが本件出願前において当業者に周知な技術事項であることが認められる以上,刊行物1記載の上記構成を刊行物3記載の考案に適用するに当たり,周知技術Aを考慮して,相違点2に係る本件考案の構成に至ることは,当業者のきわめて容易に想到することができたものというべきであり,これと同旨をいう本件審決の判断に誤りはない。なお,このような認定判断が,本件無効審判における新証拠である刊行物7,8を参酌することで初めて可能となったことは,上記イで述べたところから明らかである。
(3) 相違点3について 本件考案と刊行物3記載の考案との相違点3(「第1および第2の支持部(7)の頂部(7B)は,前記直線部カバー板(4A)および交差部カバー板(4B)の裏側を一定の面積で支える略平坦面に形成されている」構成の有無)について,原告は,刊行物1のセパレータ4が「カバー体の裏側を支える略平坦面に形成されている」とはいえないから,この認定を前提にする本件審決の容易想到性の判断は誤りである旨主張する。
しかし,刊行物1(甲4)記載の考案のセパレータ4が略平坦面に形成されているとの構成については,明細書上の明示的な記載はないものの,第2図の図示から明らかに認識,把握し得るものであり,しかも,刊行物1記載の考案のセパレータ4が,上部タイルを裏側から支える支持部材として機能しているとの前示認定((2)ア参照)を併せ考慮すれば,刊行物1のセパレータ4が「カバー体の裏側を支える略平坦面に形成されている」ことを優に認めることができる。したがって,上記認定に基づいて周知技術Bを認定し,相違点3に係る容易想到性を肯定した本件審決の判断に誤りはなく,原告の上記主張は理由がない。
3 以上のとおり,原告主張の審決取消事由は理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 長沢幸男
裁判官 宮坂昌利