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事件 平成 28年 (ワ) 43757号 信用棄損行為等差止等請求事件
5
原告株式会社フォクシー
同訴訟代理人弁護士 右崎大輔
同 義経百合子
同訴訟代理人弁理士 中山健一 10
被告 株式会社ローブデコルテ (以下「被告会社」という。)
被告A 15 (以下「被告A」という。)
上記2名訴訟代理人弁護士 園高明
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2018/03/13
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
20 事 実 及 び 理 由第1 請求1 被告会社は,自ら又は第三者をして,第三者に対し,次の告知又は流布をしてはならない。
(1) 別紙告知された虚偽事実目録記載1ないし16の告知25 (2) 別紙被告A略歴目録記載1ないし3の経歴(下線箇所を除く)2 被告会社は,自らの商品を販売するに当たり,「FOXEY」及び「フォクシー」の1表示を使用してはならない。
3 被告会社は,別紙謝罪広告等目録記載1の謝罪文を,同目録記載2の掲載箇所に,同目録記載3の掲載条件で掲載せよ。
4 被告らは,原告に対し,連帯して1億8500万円及びこれに対する平成295 年1月26日から支払済みまで年5分の割合による金員,並びに平成29年7月2日から本判決確定日まで毎月1日限り300万円の割合による金員及びこれに対する各月支払日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要本件は,原告が,(1)被告会社において,原告の顧客に対し,その代表者である10 被告Aが原告の元デザイナーであるとか,被告会社の商品が原告の商品と同等である等の虚偽であり,かつ,品質等の誤認を惹起させる事実を告知・流布して,原告の顧客をその旨誤信させたことが不正競争防止法2条1項15号ないし14号所定の不正競争に該当し,(2)被告会社において,原告の周知ないし著名な商品等表示である「FOXEY」ないし「フォクシー」との表示を使用して営業活動を15 行い,あたかも被告会社が原告の姉妹ブランドであるかのような混同を生じさせたことが同項1号ないし2号所定の不正競争に該当し,(3)仮に,被告会社の上記(1)ないし(2)の各行為が不正競争に当たらないとしても,これらはいずれも民法709条所定の不法行為に該当し,(4)被告Aは,被告会社の上記各行為について,同社の代表取締役として会社法429条に基づく責任を負うほか,一般不20 法行為上の責任も負う旨主張して,被告会社に対し,@不正競争防止法3条1項2条1項15号,14号に基づき,自ら又は第三者をして,別紙「告知された虚偽事実目録」(以下「別紙告知事実目録」という。)及び別紙「被告A略歴目録」(以下「別紙略歴目録」という。)記載の各事実(ただし別紙略歴目録の下線部分を除く。)を告知することの差止め,A同法3条1項2条1項1号,2号に基づ25 き,同社の商品販売に当たり,「FOXEY」及び「フォクシー」の表示を用いることの差止め,B同法14条に基づき,原告に対する別紙謝罪広告等目録記載の謝罪2広告の掲載を求めると共に,被告らに対し,主位的に,被告会社に対しては不正競争防止法4条,被告Aに対しては会社法429条に基づき,予備的に,被告らに対して民法709条に基づき,損害賠償金1億8500万円(平成29年7月1日までに発生済みの損害に係るもの)及びこれに対する同年1月26日(被告5 らに対する訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金,並びに,同年7月2日から本判決確定日まで毎月1日限り月額300万円の割合による損害賠償金及びこれに対する各月支払日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の各連帯支払を求める事案である。
10 1 前提事実(当事者間に争いがない。)(1) 当事者等ア 原告は,昭和57年2月1日に設立され,高級婦人衣料品,毛皮及び宝飾品等の雑貨等の企画,デザイン,製作及び販売等を主たる業とする会社である。
15 原告は,創業者であるB(以下「B」という。 がデザインを統括する) 「FOXEY」及び同人の長女であるCがデザインを統括する「ADEAM」を自社ブランドとして展開している。
イ 被告Aは,平成12年11月6日から平成14年10月31日まで,原告の企画部に在籍したが,自己都合により退職した。その後,被告Aは,平成20 25年5月2日,被告会社を設立し,ブランド「ローブデコルテ」を立ち上げて営業活動を開始した。
ウ 被告会社は,平成25年5月2日,被告Aが自らを代表取締役として設立した会社であり,高級婦人衣料品,毛皮及び宝飾品等の雑貨等の企画,デザイン,製作及び販売等を業とする。
25 エ D(以下「D」という。)は,「D’ちゃんのブログ」と題するブログ(以下「Dブログ」ともいう。)を開設し,執筆する者である。
3(2) 被告会社のウェブサイト上の記載等ア 被告会社は,平成28年9月26日当時,自らのウェブサイト(甲4の1)において,その代表者である被告Aの「略歴」として「…帰国後,国内ブランド・フォクシーFOXEY のデザイナーとして FOXEY INTERNATIONAL に入社。
5 FOXEY BOUTIQUE ラインのデザインを担当。ドラマタイアップ<やまとなでしこ>,フォクシー伊勢丹店出店,名古屋店リニューアル,青山店リニューアルなどの企画に従事。」と記載していた。
イ 原告は,平成28年9月26日付けで,原告のホームページ上に,「注意喚起」として,“FOXEY の元デザイナー”を騙り,FOXEY のブランド名や信用を「10 利用してコピー商品やデザインが酷似した類似品を販売する業者が確認されておりますが,これらは法令に違反する行為であり,当社とは一切関係ありませんのでご注意ください。 などと記載された警告文」 (甲21の1)を掲載した。
ウ 同日中に,被告会社のウェブサイトにおける被告Aの略歴の記載は,「…15 帰国後,国内ブランド・FOXEY INTERNATIONAL に入社。企画・デザインを担当。」と変更され(甲4の2),同年12月8日には,「…帰国後,国内ブランド・FOXEY INTERNATIONAL に入社。FOXEY BOUTIQUE ラインの商品企画・デザインを担当。」と変更された(甲4の3)。
2 争点20 (1) 被告会社についてア 不正競争防止法2条1項15号所定の不正競争行為(信用毀損行為)の有無(争点1)(ア) 原告・被告会社間の競争関係の有無(イ) 被告会社が行った告知・流布の内容25 (ウ) 被告会社が告知・流布した事実が虚偽であるか(エ) 被告会社の告知・流布により原告の営業上の信用が害されたか4イ 同法2条1項14号所定の不正競争行為(誤認惹起行為)の有無(争点2)ウ 同法2条1項1号所定の不正競争行為(混同惹起行為)の有無(争点3)エ 同法2条1項2号所定の不正競争行為(著名表示冒用行為)の有無(争点4)5 オ 不正競争に基づく謝罪広告掲載の必要性の有無(争点5)カ 不正競争に基づく損害賠償責任の有無等(争点6)キ 一般不法行為に基づく損害賠償責任の有無等(争点7)(2) 被告Aについて損害賠償責任の有無等(争点8)10 3 争点に対する当事者の主張(1) 争点1(不正競争防止法2条1項15号所定の不正競争行為(信用毀損行為)の有無)について【原告の主張】ア 被告会社は,原告の商品に酷似する模倣品を中心とした同種類似の婦人衣15 料品及び宝飾品等の雑貨等の企画,デザイン,製作及び販売等を業とする。
また,被告会社は,原告顧客らを主要な対象顧客として,販売勧誘を行うものであり,その需要者もまた共通する。
よって,原告と被告会社とは競争関係にある。
イ 被告会社は,被告A自ら及び業務従事者(Dを含む。)をして,以下のとお20 り,別紙告知事実目録記載1ないし16及び別紙略歴目録記載1ないし3の各事実を告知・流布した。なお,被告ら及びDが,Dブログを利用するなどして,原告顧客,原告担当者及び原告取引先の実名を示して非難や攻撃を行うなど,新たな営業妨害行為が行われる具体的蓋然性が高いため,原告は,原告従業員,原告顧客及び取引先が特定される箇所については,マスキング25 した上で証拠を提出する。
原告では,従業員に対し,顧客メールについて直ちに報告するよう義務付5けており,不正確な報告は絶対に許されない。原告従業員が作成した顧客供述聴取報告書(甲16)は,上記の報告義務に基づき聴取直後に作成されたものであり,実際に,上記義務に沿うように具体的かつ詳細に記載されている。また,顧客メール(甲16)に記載された内容も,具体的かつ詳細であ5 り,信用できる。
(ア) 被告会社は,同社設立以降現在まで,平成28年5月4日から同月10日まで実施された阪急百貨店店舗西宮阪急における限定ショップ販売イベント(以下「西宮阪急販売イベント」という。 を含む営業活動において,)原告顧客らに対し,別紙告知事実目録記載1ないし7, 13の事実を,9,10 単独又は併せて,口頭による告知のほか,書簡,メール,LINE 等の方法により繰り返し告知した。
(イ) 被告会社は,平成28年7月から10月頃,原告顧客らに対し,被告会社の商品(以下「被告商品」という。)の説明等として,別紙告知事実目録記載11の事実を,口頭による告知のほか,書簡,メール,LINE 等の方法15 により繰り返し告知した。
(ウ) 被告会社は,平成28年冬から春にかけて,原告顧客らに対し,平成28年春物として販売されたカーディガンの商品説明として,別紙告知事実目録記載12の事実を,口頭による告知のほか,書簡,メール,LINE 等の方法により繰り返し告知した。
20 (エ) 被告会社は,同社設立以降現在まで,西宮阪急販売イベントを含む営業活動において,原告顧客らに対し,別紙告知事実目録記載8,10の事実を,口頭による告知等の方法により繰り返し告知した。
(オ) 被告会社は,同社設立以降現在まで,不特定多数の者に対し,被告A自ら,自社ホームページに掲載する方法により,別紙略歴目録記載1ないし25 3の事実を流布した。
(カ) 被告らは,本件訴訟提起以降現在まで,従業員Dをして,Dブログ(甲631の1ないし16)に掲載する方法により,別紙告知事実目録記載14ないし16の事実を流布した。
Dは,被告会社の名刺を保有し,被告会社において商談に同席するなどし,Dブログを利用して継続的に被告会社の宣伝活動を行っていることか5 らして,被告会社の従業員であり,履行補助者である。また,Dブログは,Dの個人的なブログにとどまらず,被告らの指示に基づいて被告会社の宣伝広告機能を営むものであり,Dブログの利用は民法715条所定の「事業の執行について」に該当する。
そして,被告会社は,Dの活動により事業活動を拡張し,新規受注を受10 け,新規顧客を獲得するなどの利益を得るものであり,被用者がその事業の執行について他人に損害を加えたときにこれを賠償する責任を負うのが公平とする報償責任の法理が妥当する。
以上によれば,Dの行為は,被告らの指揮命令に基づき,被告会社の行為を構成するとともに,被告会社は,Dの行為について民法715条所定15 の使用者責任を負う。
ウ 別紙告知事実目録記載1ないし16及び別紙略歴目録記載1ないし3の各事実は,以下のとおり,いずれも虚偽である。
(ア) 原告が被告Aをデザイナー(アシスタント・デザイナーを含む。)として採用したことはなく,被告Aが,原告在籍期間中,別紙略歴目録記載120 ないし3の職務を担当したこともない(詳細は後記エのとおり)(別紙略歴目録記載1ないし3,別紙告知事実目録記載1ないし3)。
(イ) 被告Aが原告の商品デザイン及び商品企画に従事した事実もなく,同人が「ミラネーゼ」をデザインした事実もない(詳細は後記エのとおり)(別紙告知事実目録記載2,3)。
25 (ウ) 平成28年9月実施のベロア商品フェアで原告が販売したベロア商品の生地工場を含め,原告が生地生産を委託する各工場が,被告会社に対し,7原告の生地と同種同等の生地を生産・販売した事実はない(別紙告知事実目録記載4,11)。
(エ) 有限会社波塚メリヤスを含む原告商品の生産工場が,被告会社から商品生産を受託した事実はない(別紙告知事実目録記載5,12)。
5 (オ) 被告商品が,原告と同じ生地を使用し,原告と同じ工場で生産された事実はない。また,現に,被告商品は,品質及び仕立技術ともに到底原告の水準に及ぶものではない。(別紙告知事実目録記載6)(カ) 被告Aは,平成14年10月末日退職以降,現在まで,Bに面会した事実はなく,Bが被告Aに対して,被告商品を称賛する発言をしたこともな10 い(別紙告知事実目録記載7,13)。
(キ) 原告が,別紙告知事実目録記載8の,早期に製品劣化に至る製法を採用した事実はない。逆に,原告の毛皮商品は,ヨーロッパから輸入された特級クラスの毛皮を中心に利用するため,極めて耐久性が高く,毛皮が美しいまま保たれ,長期間の使用が可能であり,経年劣化として不可避に生じ15 る表革部分(肌に触れる部分)のお直しをすれば半永久的に使用可能であるため,原告の毛皮商品購入者は,メンテナンスを繰り返し長期に愛用している(別紙告知事実目録記載8)。
(ク) 原告商品のデザイン方針及び着用感はいずれも虚偽である。また,Bに対する侮辱的発言については,その真偽を評するに値しない(別紙告知事20 実目録記載9)。
(ケ) 原告は,Cが手掛けるブランド「ADEAM」により順調に収益を得ている(別紙告知事実目録記載10)。
(コ) 原告が,原告顧客以外の第三者に対し,何らの理由もなく当該顧客の購入履歴一覧を送り付けた事実はない。そもそも,原告において,顧客の購25 買情報は最も守秘性が高く厳格に管理される個人情報であり,個人情報保護法等の法令遵守の観点からも第三者に開示提供することはあり得ない8(別紙告知事実目録記載14)。
(サ) Bについて「人間の形をした悪魔」「男性らしい女性は残虐」「60代の女性は怖くて残虐」「エレガントとは程遠い」「ヤクザみたいだ」との事実はない(別紙告知事実目録記載15)。
5 (シ) 原告による本件訴訟活動等が「やり方が汚い」「口封じ」「強迫」「圧力をかける」「被告会社に対する妨害」「いじめ」「古巣からの酷い(むごい)仕打ち」 犬鍋にされる」「 といった事実はない(別紙告知事実目録記載16)。
エ 以下のとおり,「被告Aが原告の元デザイナーであった」「原告においてデザインを担当していた」との事実は虚偽である。
10 (ア) いわゆる「デザイナーズ・ブランド」とは,特定デザイナーが「デザイン」に関する一切の責任を担い製品を製造販売するブランドであり,当該特定デザイナーを当該ブランドの象徴としてブランド展開がされる。他方で,いわゆる「企業ブランド」とは,「デザイン」について特定デザイナーが対外的責任を負うことなく,企業的意思決定に基づき展開されるブラン15 ドである。原告は,原告創立者(オーナー)であるBが FOXEY ブランドを立ち上げて以来現在に至るまで,創業35年超にわたり唯一の「デザイナー」として自ら「デザイン」に関する一切の責任を担い,原告製品を製造販売するものであり,Bを FOXEY ブランドの象徴としてブランド展開するデザイナーズ・ブランドである。
20 デザイナーとしてBが担う職務内容は,まさに「デザイン」(意匠計画。
製品の材質・機能及び美的造形性などの諸要素と,技術・生産・消費面からの各種要求を検討・調整する総合的造形計画。 の考案である。
) 原告はデザイナーズ・ブランドであるため,全商品についてB自らが監修し承認したものに限り製造販売(商品化)を許可決定するものであり,Bは原告製25 品の「デザイン」に関する一切の責任と権限を保有する。
他方で,アシスタント職は,Bの最終監修及び製造販売の許可決定を得9る「前段階」までの作業について,高度専門知識,経験及び技術に基づき,デザインに関する事項を判断し決定することを職務内容とする。
しかし,デザイナーズ・ブランドにおいては,特定デザイナーのみが,デザインコンセプトの着想採択,その被服等の製品へのあてはめ,具現化5 等の決定権限を持ち,デザインに関する一切の責任を担うため,原告アシスタント職は,高度専門的知識,経験及び技術を用いて「デザイン」を考案する「デザイナー」ではない。
さらに,生産管理の従業員は,アシスタント職による指示命令を受けて単純事務作業を主たる職務内容とする。生産管理には,職務内容として高10 度専門的知識,経験及び技術等が要求されず,アシスタント職の手足として補助する単純事務作業に従事するものであり,いわんや「デザイナー」ではない。
原告は,B及び ADEAM ブランドを担うC以外にデザイナー呼称を許容した事実はなく,被告Aが原告の元デザイナーである旨の事実は虚偽である。
15 (イ) 原告においては,デザイナー志望で入社した場合でも,相当年数の職務経験があり即戦力として採用されるものでない限り「アシスタント職」に登用されるまでに数年を要する。
募集広告は,あくまで採用に至る前の入口の位置付けにあり,採用試験を経た結果,応募人材の技量や適性等に応じて募集広告と異なる職種及び20 処遇で採用することは当然にあり,応募者にもその旨を十分に説明して同意を得た上で採用している。
そして,被告Aは,専門学校卒で留学経験しかなく,職務経歴及び職務実績は皆無であり,採用時の技能評価としても特段みるべきものはなかったため,原告が被告Aをデザイナー又は高度専門職であるアシスタント職25 として採用した事実はない。原告は,被告Aを,新卒相当の研修社員(日給1万円)として期間3か月の有期契約にて採用し,生産管理の職務に従10事させた。
被告Aの職務内容は,@素材等の調査,Aトアル(仮布品)製作,Bパターン(型紙)製作,Cサンプル製作,D付属品及び生地等の手配,Eサンプルの検品,Fサンプル説明会説明資料の作成,G量産仕様書の作成,5 工場への指示,納期管理,量産品の検品であり,そのいずれもが「デザイン」の考案には該当せず,高度専門的知識,経験及び技術を必要とせず,アシスタント職の指示命令に従い手足として遂行する単純事務作業にすぎない。
また,原告においてデザイナー業務に従事するアシスタント・デザイナ10 ーと被告Aの報酬には著しい格差があった。
(ウ) 被告Aが提出した名刺(乙19)についてであるが,@原告は,いったん名刺のデザインを確立した後は,フォント等を変更していないところ,上記名刺(乙19)は,原告が作成する名刺と,フォントや「ボディ」マーク横の文字 「FOXEY」( ではなく「DESIGNER」となっていること)など種々15 の点で異なっており,A乙19には企画部直通番号や個人メールアドレスの記載がなく,B原告において被告Aの名刺は保管されておらず,C被告らが本訴において上記名刺を提出した時期が不合理であること等からすれば,上記名刺は偽造されたものである。
なお,被告Aは,原告在籍中から,原告に無断で偽造名刺を作成・利用20 していたものである。
(エ) 原告が自ら行う広報活動において,アシスタント職について「デザイナー」表記を認めることはある。新聞記事(乙4)も「FOXEY MAGAZINE」(乙36,37)も原告自ら行う広報活動であり,在籍中の従業員について,当該広報活動の目的やイメージづくりなどの広報上の効果も勘案し,厳密25 な職位を示す必要がない場合に「デザイナー」表記を認めるにすぎない。
同事実と,原告における「デザイナー」がBのみであり,直属するアシス11タント職とは別格の存在である旨の主張は何ら矛盾しない。もっとも,雑務を職務内容とする「生産管理」に「デザイナー」の表記を認めることはあり得ない。
(オ) 原告が,平成28年9月26日午後4時頃,原告ホームページに注意喚5 起を促す文書を掲載したところ,わずか数分後には,それまで掲載されていた別紙略歴目録記載1の略歴が削除され,同目録記載2の内容に訂正され,後に,同目録記載3の内容に再度修正された。これは,被告Aが,自らがデザイナーとして採用されたものでない旨を自認する極めて明白な証左である。
10 オ 被告会社は,上記の不正競争により,原告顧客らをして,@被告Aに原告の人気定番商品をデザインする技能及び商品企画力があり,A被告会社の商品及び役務提供に原告と同等かそれ以上の水準及び価値があり,B原告が被告会社の営業活動及び商品を公認し,C被告会社ブランドが原告からあたかも「のれん分け」を受けた姉妹ブランドとして展開されており(以上につき,15 別紙告知事実目録記載1ないし3,7及び13(ただし,7及び13については上記AないしCのみ),別紙略歴目録記載1ないし3),D上記Aのとおり,被告商品には原告商品と素材の品質において同等の価値があり,また被告商品は原告商品と仕立技術等において同等の水準であるにもかかわらず,原告の価格よりも安価で購入でき(別紙告知事実目録記載4,5,11,120 2),E原告商品と同じ(同種同等を含む)又はそれ以上の商品が,既製品ではなく自分の体型に合わせた1点ごとのオーダーメイドで仕立てられるにもかかわらず,原告の価格よりも安価であり(別紙告知事実目録記載6) F,被告会社の毛皮は,原告商品の模倣品であり,後発で製造販売されたにもかかわらず,被告商品が原告商品に比して優良であり,原告が被告商品を模倣25 したかのように,それぞれ誤信させるとともに(別紙告知事実目録記載13),G被告商品の販売促進のため,原告商品の評価を著しく貶め(別紙告知事実12目録記載8,9),H原告オーナーデザイナーであるBに対する指摘や侮辱的発言により,同人個人を侮辱し名誉を毀損するにとどまらず,原告のブランドイメージを低下させ,原告の営業上の信用を著しく毀損し(別紙告知事実目録記載9,15) ICに関する事実無根の噂話により,, 原告のブランド5 イメージを著しく低下させ,また原告に有能なデザイナー(アシスタント・デザイナーを含む。)が所属しないかのような誤信を与え(別紙告知事実目録記載10) J原告が,, 個人情報保護法に違反し,顧客の重要な個人情報を理由もなく第三者に送り付ける旨示し(別紙告知事実目録記載14),K原告が代理人弁護士により行う適法な訴訟活動について,原告の社名「FOXEY」10 を示すなどして虚偽事実を流布し(別紙告知事実目録記載16),これらによって原告の顧客に誤信を生じさせ,かかる誤信に乗じて販売勧誘し,現に被告商品を購入させ,原告の顧客及び販売機会を奪取して,原告の営業上の利益侵害した。
カ 以上のとおり,被告会社による上記告知・流布は,原告に対する信用毀損15 行為(不正競争防止法2条1項15号)に該当するため,同法3条1項に基づき,上記告知・流布行為の差止めを求める。
【被告らの主張】ア 被告会社の事業の主体は,顧客それぞれにカスタマイズされたオートクチュール商品の販売であり,原告のような量産する既製服は販売していない。
20 原告の事業の主体は既製服であり,その顧客層も,海外・国内ブランドの既製服を購入する層である。したがって,原告と被告会社とは競争関係にない。
イ 被告らが,別紙略歴目録記載1ないし3の事実を被告ウェブサイトに掲載したこと,別紙告知事実目録記載1の事実のうち「被告Aは原告の元デザイナーである」との部分,同目録記載2の事実を述べたことは認めるが,別紙25 告知事実目録記載3ないし13の事実を述べたことはない(ただし,同目録記載8の事実に関して,被告Aは,顧客からチンチラとミンクの取扱方法や13耐久性について質問を受けた際に,ミンクと違いチンチラに関しては耐久性が低いことを説明している。その説明の趣旨を誤解したか,原告又は被告Aに対する悪意で脚色したのが甲16の1と思われる。。
)また,別紙告知事実目録記載14ないし16について,被告らの行為は否5 認し,Dの行為は不知。Dのブログは全くの個人のブログであり,被告らは,Dのブログの記事,運用に関して全く関与していない。
Dが被告会社を顧客として訪れたのは,平成27年8月である。その後,Dは,通常の長期間勤務はできないが,社会復帰の機会を模索していることが判明し,被告Aは,Dが好きなファッションの仕事に携わることで社会復10 帰の道が見えてくるのではないかと考え,同年12月から被告会社の手伝いをしてもらうことにした。Dは,出勤は週2回程度,勤務時間は概ね11時から18時まで,業務内容は型紙にカット,荷受け,発送の手伝いなどであったが,企画の肩書を与えた名刺(甲11)を作った。
このように,Dは,被告会社の正式な社員ではなく,被告会社との関係は15 業務委託である。被告会社は,Dに雑用を手伝ってもらっていたにすぎず,Dのブログは個人的なものである。
もっとも,Dは,自らのブログ(乙38)で,原告の商品を現在も気に入ったブランドとして紹介しており,原告を特に取り上げるファッションブロガーは,D以外にも多く存在する(乙39)。
20 なお,匿名の情報には信用性がなく,被告らに反論の機会もなく,証拠価値は認められない。甲16の2〜13の匿名情報のほとんどは,原告のホームページ上に平成28年9月26日に掲載された注意喚起により寄せられたものであり,しかも同注意喚起は,被告Aが原告のデザイナーであることを否定した虚偽の内容であり,事実に反する記載でユーザーの不安をあおっ25 たもので,この面でも証拠の客観性は認められない。このほか,甲16の1も匿名であるから,その内容に信ぴょう性はない。
14ウ 以下のとおり,被告Aは原告の元デザイナーであったから,被告らが述べた事実は虚偽ではない。
(ア) 被告Aは,原告が募集していたデザイナー職の求人に応募したのがきっかけで,原告に入社した。被告Aは,応募の際に,経歴書とともに自らの5 デザインをまとめた書類を送付し,その後,一次試験を経て二次面接を受けた。被告Aは,二次面接では,Bら3名を前に自身のデザイン作品を5体ほど持参するとともに,自身のデザインをまとめたポートフォリオをプレゼンし,入社に至った。
被告Aの原告における業務は,以下のとおりであった。
10 @ Bの提示した製作シーズンの方向性,イメージ,テーマをもとにデザイン画を作成する。テーマ,素材,色,スタイルなどのコンセプトが提示される。
A コンセプトに基づいてデザイン画と生地を使って提案する。
B Bの承認がある場合,サンプルオーダーシートにデザインの詳細,仕様15 等を記入し,トアル(デザイン画から型を確認するために別の生地で組み立てたモデル)の製作を外部のパタンナーに指示する。
C サンプルの仕様書を作成し,付属,生地手配を指示し,パタンナーから納品された型紙を工場に投入し,サンプルの製作を依頼する。
D 実物サンプルをBにプレゼンテーションし,Bから承認が得られた場合,20 その製品は進行する。Bの承認が得られない場合は再度デザイナーが提案する。シーズンの展開デザインがある程度まとまったところで,各店の店長,副店長を招集し,同人らの前で各商品の説明を各デザイナーが行う。
被告Aが原告において行っていた上記業務こそが,社会が一般的に理解25 するデザイナーの仕事であり,被告Aは,原告においてデザイン業務を担当し,同業務について相当程度の裁量が付された職務権限を有し,複数の15デザインを手がけてきた原告のデザイナーであった。
被告Aは,報酬が少ないとしても,デザイナーとしての仕事をしていた事実に変わりはない。
(イ) 原告が主張する「デザイナーズ・ブランド」においても,デザイナーを5 募集しており,最終責任者のみを「デザイナー」と呼び,その他をデザイナーと呼ばないとする根拠はない。
原告においても,平成12年夏及び平成28年9月頃,「デザイナー」を募集しており,この「デザイナー」の意味が原告主張のデザイナーと異なることは明らかである。
10 また,原告のデザイナーがBのみであるとの認識が一般に流布している事実は認められない。原告自身が,B以外のスタッフデザイナーの存在を公にしているほか,B以外の者がフォクシーのデザイナーであると記載された記事(乙36,37)を認めている。
そして,被告Aが原告在籍時も,その後も,原告社内では,被告Aと同15 様の6階スタッフのことをデザイナーと呼んでいた。
被告Aは,原告から,自らを「デザイナー」と称してはならないなどと言われたこともない。被告Aが原告のデザイナーであったのは,社会一般用語により伝えられる経歴表示であり,「デザイナー」の意味内容は,社会通念に従って理解されるべきである。被告Aが原告においてデザイナーの20 仕事をし,原告のデザイナーであった事実は,疑念をはさむ余地のない事実である。
原告において,B以外のデザイナー7人は,いずれも「デザイナー」の名刺を原告から交付され,社内的にも,社外的にも,デザイナーとして活動していた。また,デザインに関しては,各人が独自にBに直接提案し,25 承認を得て業務を遂行することができた。
被告Aは,取引先からも「デザイナー」として対応され,E社長からも,16毛皮のブランドに関し,調査を指示されることもあり,前記業務内容からも,被告Aが原告のデザイナーであった事実に虚偽はない。
(ウ) 被告Aは,原告からデザイナーの肩書のある名刺(乙19)の使用を認められ,取引先にもデザイナーとして認識されていた。
5 乙19の名刺は,被告Aが原告在籍中に原告から渡されたものであり,原告が作成した真正なものである。甲44の名刺と,乙35の1の名刺(いずれも原告が作成したもの)を比較すると,両者は明らかに文字のフォントが異なっており,原告が偽造の根拠とする,原告の名刺は全て同一フォントであるとの主張は破たんしている。また,比較対象とされている名刺10 は,いずれも被告Aが原告に在籍した時代の名刺ではないところ,作成者,作成時期が異なれば,文字の詰まり方,大きさ,デザインが変更されても不自然ではない。
(エ) 被告らが,被告会社のホームページの記載を変更したことは認めるが,同変更前の記載が虚偽であったわけではない。被告Aは,原告在籍中に「や15 まとなでしこ」のドラマを見た記憶があり,原告が衣装を提供していたので,社内でも話題になっており,衣装の企画に関与した記憶であったが,ホームページ見直しの際に,具体的にどのような衣装に関与したか明確ではなかったため,この点に関する記載を削除した。また,被告Aはファッションデザイナーであり,店舗の企画に関与する立場にはなく,元の記載20 の趣旨は「リニューアルオープン」用の服のデザイン,企画に携わったというものである。しかし,店舗の企画に参加したように読めるので,見直しの際に削除した。
エ 以上によれば,被告らが,不正競争防止法2条1項15号所定の信用毀損行為を行ったことはない。
25 (2) 争点2(不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争行為(誤認惹起行為)の有無)について17【原告の主張】ア 被告会社は,被告A自ら及び業務従事者をして,別紙告知事実目録記載1ないし9,11ないし13及び別紙略歴目録記載1ないし3の各事実を表示し(別紙告知事実目録記載10に係る部分を除き,前記(1)【原告の主張】イ5 のとおりである。,当該表示に係る商品を販売したが,これらの表示は,い)ずれも被告商品の「品質」「内容」「製造方法」及び「役務提供の質」を誤, ,認させるものである(別紙告知事実目録記載10に係る部分を除き,前記(1)【原告の主張】オと同様である。。
)イ 被告会社は,上記の不正競争により,それぞれ,原告顧客らをして,被告10 商品の品質,内容,製造方法及び役務提供の質を誤認せしめ,かかる誤認に乗じて被告商品を販売し,原告の顧客及び販売機会を奪取するなどしたものであり,原告の営業上の利益侵害され,少なくともそのおそれが生じている。
ウ 以上のとおり,被告会社の上記行為は,品質等誤認惹起行為(不正競争防15 止法2条1項14号)に該当するため,原告は,被告会社に対し,同法3条1項に基づき,誤認を惹起する事実及び略歴の表示の差止めを求める。
【被告らの主張】ア 前記(1)【被告らの主張】イのとおり,被告らが,別紙略歴目録記載1ないし3の事実を被告ウェブサイトに掲載したこと,別紙告知事実目録記載1の20 事実のうち「被告Aは原告の元デザイナーである」との部分,同目録記載2の事実を述べたことは認めるが,別紙告知事実目録のその余の記載事実について述べたことはない。
イ 前記(1)【被告らの主張】ウのとおり,被告Aは原告の元デザイナーであったから,被告らが述べた事実は品質誤認等を惹起するものではなく,不正競25 争防止法2条1項14号所定の不正競争に当たらない。
(3) 争点3(不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為(混同惹起行為)18の有無)について【原告の主張】ア 「FOXEY」及び「フォクシー」との表示(以下「本件表示」と総称する。)は,原告の業務に係る商品又は営業を示す商品等表示である。
5 原告は,昭和57年2月の設立以降,35年余を超える期間,本件表示を原告の商品及び営業を示す表示として使用してきた。
また,原告は,直営店や大手有名百貨店への出店を併せ,全国19店舗で事業を行うとともに,全国販売される有名ファッション誌における商品広告等掲載,雑誌等における連載,書籍の出版等を行ってきた。
10 原告顧客らなど全国各地の消費者の認識,原告及びBが全国的にも著名な複数の出版社から出版する主要な出版物の発行部数だけをみても,本件表示(「FOXEY」の表示)には,十分に不正競争防止法2条1項1号周知性及び同項2号の著名性があり,本件表示は,原告愛好者を含む原告顧客らなどの原告商品消費者においては当然のこと,それ以外の者にも広く認識されてい15 る。
イ 被告会社は,同社設立以降現在まで,被告A自ら及び業務従事者をして,原告顧客らに対し,被告商品等の説明等として,その販売勧誘行為として,別紙告知事実目録記載1ないし7,11ないし13の虚偽事実を,口頭告知に加えて,Dブログ,LINE,メール及び書簡等により繰り返し告知した。被告20 会社は,かかる告知において,本件表示を繰り返し使用して,被告会社の商品等の説明等を行うものであり,被告会社の商品又は営業を用いるものとして使用し,かかる表示を使用した被告商品を販売している。
ウ 被告会社が本件表示を使用することにより,原告顧客らをして,原告と被告会社の間に一定の関係があり,被告商品及び営業が原告から公認され,被25 告会社ブランドが原告ブランドからあたかも「のれん分け」を受けた姉妹ブランドであるかのように誤信させるものであり,原告・被告会社間に混同を19生じさせ,そのおそれは継続している。
以上より,被告会社が,被告A自ら及び業務従事者をして,原告顧客らに対し,別紙告知事実目録記載1ないし7,11ないし13の虚偽事実を告知するに際し,本件表示を使用する行為は,それぞれ混同惹起行為として不正5 競争に該当する(不正競争防止法2条1項1号)。
また,被告会社は,上記の誤信に乗じて,原告が創業35年余にわたり構築した原告顧客らとの信頼関係及び社会的信用を自己のものと認識混同させて不正に利用し,いわゆる広義の混同を惹起し,原告顧客らに対して執拗に販売活動を行い,現に,被告商品を購入させ,もって,原告の営業上の利10 益を侵害したものであり,少なくともそのおそれがある。
よって,原告は,被告会社に対し,同社による表示使用等が「混同惹起行為」に該当するものとして,不正競争防止法3条1項に基づき,同表示使用の差止めを求める。
【被告らの主張】15 ア 原告の本件表示が,ファッションに敏感な女性にはよく知られた商品等表示であることは争わないが,原告商品の消費者以外の者にも全国的に広く認識されていること等は不知。
イ 被告らは,被告会社を営業主体と明示したホームページ上に,被告Aのデザイナーとしての経歴の中に原告名を記載したにすぎず,原告の名称に関し20 て,販売を勧誘する行為として告知したことはない。また,Dブログの記載内容は,同人が個人的な感想を記載しているもので,被告らは,その内容について指示していない。
被告らが本件表示を使用したのは,ホームページ上の経歴表示としてのものであり,このような経歴表示によって,原告・被告会社間に一定の関係が25 あり,被告会社の商品及び営業が原告から公認され,被告会社のブランドが原告ブランドからのれん分けを受けた姉妹ブランドであるかのような誤信20を与えるものではない。
(4) 争点4(不正競争防止法2条1項2号所定の不正競争行為(著名表示冒用行為)の有無)について【原告の主張】5 前記(3)【原告の主張】アのとおり,原告に係る商品又は営業を示す商品等表示である本件表示は,原告愛好者を含む原告顧客らなどの原告商品消費者においては当然,それ以外の者にも全国的に広く認識されており,著名である。
そして,被告会社は,被告A自ら及び業務従事者をして,原告の商品等表示10 (本件表示)を使用し,かかる表示を使用した被告商品を販売する。
被告会社が,被告A自ら及び業務従事者をして,原告顧客らに対し,別紙告知事実目録記載1ないし7,11ないし13までの虚偽事実を告知するに際し,本件表示を使用し,当該商品を販売する行為は,それぞれ著名表示冒用行為として不正競争に該当する(不正競争防止法2条1項2号)。
15 また,被告会社は,上記の不正競争により,原告が創業35年余にわたり構築した原告顧客らとの信頼関係及び社会的信用を自己のものとして不正に利用し,原告顧客らに対して,執拗に販売活動を行い,被告商品を購入させ,もって,原告の営業上の利益侵害し,少なくともそのおそれがある。
よって,原告は,被告会社に対し,同社による表示使用等が「著名表示冒用20 行為」に該当するものとして,不正競争防止法3条1項に基づき,同表示使用の差止めを求める。
【被告らの主張】本件表示がファッションに敏感な女性にはよく知られた商品等表示であることは争わないが,原告商品の消費者以外の者にも全国的に広く認識されて25 おり,著名であることは争う。
また,被告会社は,本件表示を,営業主体としての被告会社名を明示したホ21ームページ上に被告Aのデザイナーとしての経歴表示として記載しているにすぎず,販売活動に原告名を告知した事実は一切存在せず,原告の表示を冒用していることはない。
(5) 争点5(不正競争に基づく謝罪広告掲載の必要性の有無)について5 【原告の主張】被告会社による上記各不正競争には故意が認められるか,少なくとも過失がある。そして,被告会社による上記各不正競争により,原告の営業上の信用は著しく侵害された。
原告の顧客らは,被告会社により告知・流布された虚偽事実及び虚偽経歴10 について真実であると誤信しているため,原告の営業上の信用毀損は継続している。
よって,被告会社が告知・流布した事実が虚偽である旨を明らかにして,誤信を解消すべく,原告の信用を回復するための措置を講ずべき必要性は高いから,原告は被告会社に対し,不正競争防止法14条に基づき謝罪広告の掲15 載を求める。
【被告らの主張】否認ないし争う。
(6) 争点6(不正競争に基づく損害賠償責任の有無等)について【原告の主張】20 被告会社の上記各不正競争行為により原告の営業上の利益侵害されている。
また,被告会社による上記各不正競争は被告Aによる顧客奪取の意図に基づくものであって,故意又は過失がある。
そして,原告には,被告会社による上記各不正競争行為により,以下のアな25 いしエ記載の損害が発生したから,原告は,被告会社に対し,不正競争防止法4条に基づき,1億8500万円(平成29年7月1日までに発生済みの損22害に係るもの)及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成29年1月26日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金,並びに平成29年7月2日から本判決確定日まで毎月1日限り300万円の割合による金員及びこれに対する各月支払日の翌日から支払済みまで年5分の割合による遅延損5 害金の支払を求める。
ア 平成28年10月実施予定の梅田阪急原告販売会中止に伴う損害2000万円イ 不正競争防止法5条2項に基づく逸失利益月額400万円×0.5(利益率)=月額200万円10 (ア) 平成25年5月2日から平成29年7月1日まで(50か月分)=1億円(イ) 平成29年7月2日から判決確定まで各月200万円ウ 信用毀損による無形損害:月額100万円15 (ア) 平成25年5月2日から平成29年7月1日まで(50か月分)=5000万円(イ) 平成29年7月2日から判決確定まで各月100万円エ 弁護士・弁理士費用及び調査費用等 1500万円20 【被告らの主張】否認ないし争う。
(7) 争点7(一般不法行為に基づく損害賠償責任の有無等)について【原告の主張】仮に,被告会社の上記各行為が不正競争防止法2条1項各号所定の不正競25 争に該当しないとしても,同社の行為態様は極めて悪質であり,自由競争の範囲を著しく逸脱し反社会性が強いので,上記各行為は原告に対する一般不23法行為(民法709条)に該当する。
したがって,原告は,被告会社に対し,予備的に同条に基づき,上記(6)と同額の金員の支払を求める。
【被告らの主張】5 否認ないし争う。
(8) 争点8(被告Aの損害賠償責任の有無等)について【原告の主張】ア 被告Aは,被告会社の代表取締役として,職務遂行につき善管注意義務及び忠実義務を負い,法令等を遵守し,被告会社のために忠実に職務遂行をす10 る義務を負う(会社法330条,民法644条,会社法355条)。
しかるに,被告会社による不正競争行為は,被告Aによる原告顧客奪取の意図のもと,被告A自ら及びその指示を受けた業務従事者により行われたものであって,被告Aには,上記善管注意義務等に反する任務懈怠があり,かかる任務懈怠には悪意又は重過失がある。
15 したがって,原告は,被告Aに対し,取締役の第三者に対する損害賠償責任に基づき,被告会社と連帯して,原告に生じた上記(6)と同額の損害金の支払を求める(会社法429条)。
イ 被告会社による不正競争は,被告Aの行為及び故意過失に基づき原告に損害を生じさせるものであるため,原告は,被告Aに対し,不法行為に基づく20 損害賠償として,被告会社と連帯して,原告に生じた上記(6)と同額の損害金の支払を求める(民法709条)。
【被告らの主張】被告Aが被告会社のために善管注意義務及び忠実義務を負っていることは認めるが,その余は否認ないし争う。
25 第3 争点に対する判断1 認定事実(主として被告Aの職務内容等に関するもの)24証拠(甲2の1,5,6,10,14の1ないし6,27の1及び2,28の1ないし5,31の1ないし21,32の1ないし4,39の1ないし4,40,41,43,44の1ないし5,47ないし50,乙2ないし4,6,7,8の1及び2,19,21の1及び2,24の1ないし19,28ないし30,32,5 34,35の1,36の4及び5,37の1ないし3,38の1ないし4,証人F,被告A本人)(ただし,甲43,47,50,証人Fについては,後記認定に反する部分を除く。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。
(1) 原告は,平成12年夏頃,「とらばーゆ」という求人雑誌の平成12年7月12日号(乙24の1)及び同年8月2日号(乙24の2)に,デザイナーな10 いしアシスタント・デザイナーの募集広告を掲載した。
上記雑誌の同年7月12日号(乙24の1)における原告の広告には,「デザイナー募集」「あなたの感性とセンスを活かして新しい提案をして下さい」「専・短・大卒上33歳位迄」「※ファッションデザイナー経験3年以上ある方」「給与?年俸350万円以上」「※試用期間1〜3ヶ月間有」「試用期間中の給与/15 時給1000円以上」「応募?履歴書(写貼)・デザイン画(形式自由)を下記住所宛に郵送下さい。「※応募書類を第一次選考と考えていますので,自分をア」ピールする形でご応募下さい。」「※書類選考後,面接日を連絡します。 との記」載があった。
また,上記雑誌の同年8月2日号(乙24の2)における原告の広告には,20 「デザイナー募集」「アシスタントデザイナーも同時募集」(デザイナーにつ「いて)年俸350万円以上」(アシスタントデザイナーについて)99年4月「初任給実績(専・短卒)/月給19万円(下記参照)「専・短・大卒上33歳」位迄」(デザイナーについて)経験3年以上」(アシスタントデザイナーにつ「 「「給与?※経験・実力等を考慮の上,優遇します。「※試いて)未経験者歓迎」 」25 用期間1〜3ヶ月間有。試用期間中の給与/時給1000円以上」「フォクシーが求めているデザイナーとは?経験よりも,私たちが求めているのは感性で25す。例えば,「幼い頃からモノ作りに興味があった」「コーディネイトが上手だとほめられることがある」といった,今あなたに備わっている素質を伸ばして下さい。」「応募?履歴書(写貼)・デザイン画(形式自由)を下記住所宛に郵送。
※応募書類を第一次選考と考えていますので,自分をアピールする形でご応募5 下さい。書類選考後,面接日を連絡します。」との記載があった。
(2) 被告Aは,文化服装学院アパレル技術科を卒業後,英国に留学し,英国ノッティンガム芸術大学大学院の修士課程を修了し,日本に帰国後も株式会社オンワード樫山などで勤務していたが,上記の原告の広告等を見て,原告のデザイナー又はアシスタント・デザイナーに応募することにした。被告Aは,原告に10 履歴書とデザイン画を送り,その後,筆記試験を受け,さらに,Bなど3名による面接を受けた後,平成12年10月10日頃,原告から採用内定の通知を受けた。被告Aは,その際に,原告から「生産管理」(原告の企画部において,デザイナーやアシスタント・デザイナーの指揮下で,様々な雑務を担当する者)として採用されるなどとは告げられていない。
15 被告Aは,同年11月6日に採用されたが,採用当初,原告において「社員研修生」との立場であり,原告が作成した「雇用契約確認事項」と題する書面において,被告Aの仕事内容は,「企画事務」ではなく「企画」とされていた。
その後,原告は,「とらばーゆ」におけるデザイナーないしアシスタント・デザイナーの募集をやめた。
20 (3) 原告は,被告Aの入社当時,総務部,財務部,営業部,広報部,企画部といった組織を有しており,被告Aは,原告の企画部に所属していた。
被告Aは,平成13年春頃,原告から「企画部 デザイナー」と記載された名刺(乙19)を交付されており,これを利用していた。
同名刺と,原告が作成を認めている他の名刺(甲44の1ないし5)とでは,25 原告の会社名の文字の大きさや,「ボディ」のマークの横の文字(「DESIGNER」と「FOXEY」,)「URL」との表記の有無等で違いがあるが,上記各名刺の一部(甲2644の1及び2)と,原告の社員であったGの名刺(乙35の1,原告が作成したもの)においても会社名の文字の大きさが異なるなど,原告における名刺の体裁は必ずしも統一されていない。
また,被告Aは,原告において,入社当初,日給1万円の給料を受けていた5 が,試用期間が終了した後の平成13年4月からは,基本給として25万円(月額),賞与として50万円を受領していた。
(4) 被告Aは,原告の企画部において,Bや先輩であるHの指導を受けつつ,「FOXEY BOUTIQUE ライン」の布帛やファーアイテムを担当し,デザインに関する様々な業務(デザイン画の考案,描き出し,トアル(仮布品)製作の依頼,10 トアルのチェック,サンプルの納期設定や仕上がりの確認,絵型の作成,量産品の検品等)に従事していた。
このほか,被告Aは,平成13年頃,原告において,サンプル説明会等のための資料(乙6,7,8の1及び2)を作成していた。上記資料(乙6,7,8の1)には,毛皮について多くの言及があるほか,被告Aが作成した資料の15 うち「FOXEY BOUTIQUE」と題される書面(乙8の1) 原告のは, 「FOXEY BOUTIQUEライン」について記載されたものである。
なお,原告の銀座本店では,平成12年11月頃は,5階は布帛チーム,6階はニットとカットソーのチームに分けられていたが,平成13年初め頃以降,6階に企画デザイン室が配置され,同室では,Bのほか,アシスタント・デザ20 イナーらが勤務し,被告Aも同室で勤務していた。
(5) 被告Aは,平成14年10月31日,原告を退社し,平成15年5月11日には,株式会社ベイクルーズとの間で業務委託契約(乙30)を締結し,同社の特定ブランドにおける企画デザイン全般を受託した。被告Aは,その後も,様々なブランドのデザインに関与していたが,平成25年5月2日には,自ら25 が代表取締役となって被告会社を設立し,ブランド「ローブデコルテ」を立ち上げた。
27(6) Dは,原告の商品を大量に購入してきた者であり,「D’ちゃんのブログ」(Dブログ)を開設し,ここで,原告の商品が好きである旨繰り返し述べるとともに,ファッションに関する様々な記載をしてきた。
Dは,平成27年8月末ころ,被告会社に客として来店し,その後も,頻繁5 に同社に客として来店するようになった。
被告Aは,Dと話をするうちに,Dが不安性・対人恐怖症などを患ってきたが,金が必要であって社会復帰を望んでおり,また,同人はファッションが大好きであることを知ったので,平成27年12月頃から,週2回程度,出勤時間は午前11時から午後6時まで程度として,被告会社で,Dに型紙のカット10 や荷受け,発送の手伝いといった雑務をしてもらうことにした。
Dは,Dブログにおいて被告商品の宣伝をしたこともある(その際には,個人的な記載とは異なり,文体も固くなっている(甲32の1,3,4参照))。
が,基本的に,同ブログにおいては,Dが個人的に感じたことを記載していた。
(7) 原告が関与した平成16年6月5日発行の日本経済新聞夕刊の記事(乙4)15 において,B以外の原告の女性社員について「デザイナー」であるとの記載がされていた。また,原告自身が発行する「FOXEY MAGAZINE」という雑誌(乙36の4及び5,37の1ないし3)において,B以外の「I」なる者が「デザイナー」と記載されており,また企画部の者が「デザイナーをはじめ,企画部のスタッフはお客様がお召しになるシチュエーションやお手入れをイメージし20 ながら,品質向上に努めているの。」などと発言していた。
(8) Bは,個人名義で「われた魯山人」「美しい気配」「B’の凛と美しく生き抜くための50の言霊」など多くの書籍を出しており,FOXEY 創業30周年記念で発刊された「FOXEY’s History in 25ans」(甲40)においては,B個人について,私生活も含めて特集が組まれており,また,原告の「FOXEY MAGAZINE」25 には,(B’が)「アンケートにお答えします!」とのコーナーが設けられ(甲39の1ないし4),読者がBに対して様々な質問や意見を出して,Bがこれ28らに回答していた。このほか,Bは,「NEWS ポストセブン」とのホームページにおいて,「フォクシー社主&クリエイティブ・ディレクター」と紹介されていた。
(9) イッセイミヤケやラルフローレンといったブランドにおいても,デザイナー5 が募集されることがあった。
2 争点1(不正競争防止法2条1項15号所定の不正競争行為(信用毀損行為)の有無)について(1) 競争関係について不正競争防止法2条1項15号所定の「競争関係」とは,双方の営業につき,10 その需要者又は取引者を共通にする可能性があることで足りるところ,前記第2,1(1)のとおり,原告と被告会社は,いずれも,高級婦人衣料品,毛皮及び宝飾品等の雑貨等の企画,デザイン,製作及び販売等を業とする会社であるから,両者は「競争関係」にあるものと認められる。
被告らは,被告会社は主に顧客それぞれにカスタマイズされたオートクチュ15 ール商品を販売しており,原告のような既製服を量産していないとして,両者間に「競争関係」はないと主張するが,そのような相違があったとしても,双方の営業につき,その需要者又は取引者を共通にする可能性が否定されるものではないから,被告らの上記主張は採用できない。
(2) 被告会社が行った告知・流布行為20 ア 原告は,被告会社が別紙告知事実目録記載の各事実及び別紙略歴目録記載の各事実を告知・流布した旨主張する。このうち,被告会社が,別紙略歴目録記載の各事実,並びに別紙告知事実目録記載1のうち「被告Aは原告の元デザイナーである。」との部分と同記載2に係る事実について,それぞれ告知・流布した事実は争いがない。他方で,被告会社は,上記以外の事実を告25 知・流布したことを否認しており,これを認めるに足りる証拠はない。
イ この点に関し,原告は,甲15及び16(いずれも枝番を含む)によれば,29被告会社が告知・流布を否認した部分についても,被告会社による告知・流布の事実が認められると主張する。
しかし,まず甲16の1ないし13は,その作成者や発言者が黒塗りにされたメール(被告AやDの言動,被告らに対する不服などを述べた原告の顧5 客作成とされるメールや,同メールに対する原告従業員作成の回答メール)ないし報告書(顧客からの不服を報告する原告従業員作成の報告書)であるところ,作成者等が不明であってその記載内容の真実性を検証することができないため,原告の主張内容を考慮しても,なお信用性が高いとはいえず,このような証拠に基づいては被告会社による告知・流布行為を認めるに足り10 ない。
また,甲15の1及び2(原告の顧客が作成したとされるブログやインスタグラム)は,その記載事項(別途検討する「被告Aが原告の元デザイナーであった」ないし「同人が原告においてデザインを担当していた」との事実を除く,「被告Aがミラネーゼをデザインした」等の事実)は伝聞にすぎず,15 その内容の真実性を裏付けるに足りる客観的証拠もないから,これらの証拠に基づいては被告会社による告知・流布行為を認めるに足りない。
ウ また,原告は,Dが被告会社の従業員であり,同人が自らのブログ(甲31の1ないし16)において行った記載について被告会社が使用者責任(民法715条1項)を負うものであり,上記ブログの記載によれば,被告会社20 が告知・流布を否認した部分についても,被告会社による告知・流布の事実が認められると主張する。
しかし,まず,被告会社の使用者責任が成立するためには,被告会社とDとの間に指揮命令関係が存在することが必要であるところ,「株式会社ローブデコルテ 企画 D」と記載された名刺(甲11)の存在等によれば,D25 が被告会社の仕事に一定程度関与していたことは認められるものの,それ以上に,被告会社とDとの間の指揮命令関係の存在まで認めるに足りる証拠は30ない。
また,Dブログのうち虚偽事実が記載されているとして原告が主張する記載部分(甲31の1ないし16)の記載方法,記載内容をみても,Dの個人的な感情をつづったものとみるのが相当であり,Dが被告会社の事業の執行5 について従業員等の立場で上記記載を行ったものとみることはできない。
さらに,上記記載部分はその記載内容を見ても直ちに別紙告知事実目録14ないし16の事実を意味すると理解することはできないものであるところ,上記記載部分の一般的な読み手が上記のような理解をすることを認めるに足りる証拠もない。
10 以上によれば,Dブログ上の記載をもって,被告会社が不正競争防止法2条1項15号所定の虚偽事実告知を行ったとか使用者責任を負うということはできない。
(3) 「被告Aが原告の元デザイナーであった」「同人が原告においてデザインを担当していた」との事実が虚偽か否かについて15 ア 前記1で認定した事実,とりわけ,@被告Aが,原告における「デザイナー」ないし「アシスタント・デザイナー」の募集広告に応じて,原告に履歴書やデザイン画を送付し,筆記試験及び面接を受けた結果,原告に採用された(その際,原告から「生産管理」として採用するなどとは告げられていない。)こと,A被告Aは,原告の企画デザイン室において,他のデザイナーや20 アシスタント・デザイナーとともに稼働し,Bや先輩であるHの指導を受けながら見習い的な業務を行いつつ,自らも,デザイン画を描いたり,サンプル説明会の資料を作成するなど,一定の創作性を発揮してデザインに関する業務にも携わっており,募集広告においてデザイナーの給与として記載されていた程度の給与を受領していたこと,B原告が関与した新聞記事や原告自25 身が発行する雑誌においても,B以外の者がデザイナーとして扱われており,原告が実際にそのような取扱いを行っている事例があること,C被告Aが原31告から「デザイナー」との肩書入りの名刺(乙19)を交付されたこと等によれば,被告Aは,原告において「デザイナー」ないし「アシスタント・デザイナー」として,又は,少なくともその候補者として扱われ,実際にデザインに関する様々な業務に携わっていたものと認められるから,「被告Aが5 原告においてデザインを担当していた」との事実が虚偽であるとは認められないし,「被告Aが原告の元デザイナーであった」との事実についても虚偽であるとは未だ認めるに足りない。
イ この点に関し,原告は,原告のような「デザイナーズ・ブランド」における「デザイナー」は特別な存在であり,原告ではBのみ(又はBの娘である10 Cを含む。 が唯一のデザイナーであり,) その余の者はデザイナーではなく,被告Aが原告の「デザイナー」であったことはない旨主張する。しかし,前記1認定のとおり,原告が関与した新聞記事(乙4)や原告自身が発行する雑誌(乙36の4及び5,37の1ないし3)においても,B以外の者が「デザイナー」として扱われていること,また,一般的に「デザイナーズ・ブラ15 ンド」における「デザイナー」が一人しかいないことを認めるに足りる証拠はなく,逆に,前記1認定のとおり,「イッセイミヤケ」 「ラルフローレン」やといったブランドにおいても,デザイナーを募集している事実が認められること等に照らせば,原告の上記主張は採用できない。
ウ また,原告は,被告Aの給与の額が,他のアシスタント・デザイナーと比20 較して極めて低額であるとして,被告Aが原告のデザイナーではなかったとも主張する。しかし,給与の額によって特定の者がデザイナーであったかどうかを直ちに決定することは困難である上,前記1認定のとおり,被告Aが原告から受けていた給与の額は,試用期間を除き,原告の募集広告に記載されていた「デザイナー」としての給与額を下回らないものであるから,被告25 Aの給与に基づき同人が原告のデザイナーでなかったとする原告の主張は採用できない。
32エ さらに,原告は,募集広告上の「デザイナー」との記載にかかわらず,被告Aについては,原告のデザイナーないしアシスタント・デザイナーとしてではなく,「生産管理」として採用され,そのように同人にも伝えられている旨主張し,証人Fもその旨証言する。しかし,上記主張や証言内容は募集広5 告の様々な記載の内容と明らかに矛盾するから不合理なものといわざるを得ないし,そのような不合理な内容が事実であったことを裏付ける客観的証拠もないから,採用できない(そもそも同証人は,原告の企画・デザインには関与していないし,被告Aの採用時のやりとりや,同人の原告での活動内容についても直接知らないのであるから,これらの点に関する同証人の供述10 の証拠価値は低いといわざるを得ない。。
)オ また,原告は,被告Aの名刺(乙19)は原告が作成した他の名刺(甲44の1ないし5)と文字のフォント等が異なること等から偽造されたものである旨主張する。しかし,同じ会社の名刺であっても,作成時期等が異なれば,文字のフォントや体裁が異なることは一般にあり得ることである(他に15 も体裁が異なる原告の名刺が存在する(乙35の1))から,原告がるる主。
張するところを考慮しても,被告Aの名刺(乙19)と,作成時期が異なる原告の他の名刺(甲44の1ないし5)における会社名の文字の大きさや「ボディ」のマークの横の文字,「URL」との表記の有無等の些細な違いをもって,直ちに被告Aの名刺(乙19)が偽造されたものであるとは認められず,20 そのほか同事実を認めるに足りる証拠はないから,原告の上記主張は採用できない。
なお,原告は,被告Aが原告在籍中から原告に無断で偽造名刺を作成・使用していたものであるとも主張する。しかし,原告の主張によれば,被告Aはデザイナーという肩書の使用が許されていないにもかかわらず,わざわざ25 原告在籍中にそのような肩書の名刺を作成して取引先等に対して使用したということになるが,そのように不正な肩書使用が発覚する危険性が高い行33為をあえて行うというようなことは不自然といわざるを得ないから,原告の上記主張は不合理な内容であって採用できない。
カ その他,原告がるる主張する内容や本件全証拠を検討しても,上記認定説示を左右しない。
5 キ 以上のとおり,別紙略歴目録記載1ないし3(ただし,後記(4)で検討する部分を除く。 や,) 別紙告知事実目録記載1の「被告Aが原告の元デザイナーであった」との部分,同目録記載2の事実が虚偽であるとは認めるに足りない。
(4) 被告会社が自身のホームページにおいて行った記載について10 別紙略歴目録記載1の事実のうち,原告の指摘を受けて被告会社が任意に削除した部分(被告Aが「ドラマタイアップ<やまとなでしこ>,フォクシー伊勢丹店出店,名古屋店リニューアル,青山店リニューアルなどの企画に従事」したとの点)については,虚偽性の立証が十分であるか否かはともかく,被告らの主張によっても,裏付けが十分ではない,又は紛らわしい内容であったと15 いえる。
しかし,被告Aが,原告においてドラマタイアップや新規出店,店舗リニューアルなどの企画に従事したかは,「被告Aが原告の元デザイナーであった」などの事実とは異なり,高級婦人服の購入を検討する者の意思決定にとってさほど意味のある事実とは認められないから,仮にこれらが虚偽の事実であった20 としても,現在それらの事実の告知・流布が行われていないことも考慮すれば,過去における告知・流布のみにより原告の営業上の信用が害されたとまでは認めるに足りない。
(5) 以上のとおりであるから,被告会社による不正競争防止法2条1項15号所定の不正競争行為があったとは認められない。
25 3 争点2(不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争行為(誤認惹起行為)の有無)について34原告は,被告らが,別紙告知事実目録記載1ないし9,11ないし13及び別紙略歴目録記載1ないし3の各事実を表示し,当該表示に係る商品を販売したが,これらの表示は,いずれも被告商品の「品質」「内容」「製造方法」及び「役務, ,提供の質」を誤認させる旨主張する。
5 しかし,前記2(2)で検討したとおり,被告会社の行為として認められるのは,別紙略歴目録記載の各事実及び別紙告知事実目録記載1のうち「被告Aは原告の元デザイナーである」との事実,同記載2の事実を表示した点にとどまる。
そして,「被告Aが原告の元デザイナーであった」「同人が原告においてデザインを担当していた」との表示については,前記2(3)で検討したとおり,少なくと10 も,被告Aは,原告において「デザイナー」又は「アシスタント・デザイナー」の候補者として,デザインに関する様々な業務に携わっていたものと認められるから,上記表示が,被告商品の品質等を誤認させる表示であるとは認めるに足りない。
また,被告Aの経歴のうち前記2(4)で検討した部分(被告Aが,原告において15 ドラマタイアップや新規出店,店舗リニューアルなどの企画に従事したとする点)については,前記のとおり,これらの事実は高級婦人服の購入を検討する者の意思決定にとってさほど意味のある事実とは認められないから,これらが裏付けの十分ではない,又は紛らわしい内容のものであっても,現在それらの事実の告知・流布が行われていないことも考慮すれば,過去における告知・流布のみにより商20 品の品質等について誤認を惹起させる表示であるとまではいえない。
以上のとおり,被告会社が,品質等の誤認を惹起する表示をしたとは認められず,被告会社による不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争行為があったとは認められない。
4 争点3及び4(不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為(混同惹起行25 為)ないし同項2号所定の不正競争行為(著名表示冒用行為)の有無)について原告は,被告会社が別紙告知事実目録記載1ないし7,11ないし13の告知35をする際に本件表示を使用したことが,不正競争防止法2条1項1号ないし2号所定の周知ないし著名な商品等表示の使用に当たる旨主張する。
しかし,そもそも被告会社が行ったと認められる行為は,別紙告知事実目録記載1のうち「被告Aは原告の元デザイナーである」との部分の告知,及び同目録5 記載2の事実の告知にとどまり,その余の事実の告知は認められないから,その余の事実の告知に伴う本件表示の使用も認められない。
そして,上記認定できる告知について検討すると,不正競争防止法2条1項1号ないし2号は,周知ないし著名な商品等表示が有する出所表示機能や自他商品識別機能の保護を目的とするものであるから,上記各号所定の不正競争行為が成10 立するためには,単に他人の周知ないし著名な商品等表示と同一又は類似の表示を商品に付したり広告に用いるだけでなく,それが商品の出所を表示し,自他商品を識別する機能を果たす態様で用いられることを要するというべきである。
しかるに,上記認定できる告知は,「被告Aが原告の元デザイナーであった」とか「同人が原告においてデザインを担当していた」旨の被告Aの経歴を説明する15 際に原告名を用いたものにすぎず,被告会社の商品の出所を表示し,自他商品を識別する機能を果たす態様で用いたものではないから,被告会社の上記行為によって,「FOXEY」ないし「フォクシー」との表示(本件表示)が有する出所表示機能や自他商品識別機能は何ら害されておらず,被告会社が本件表示を「使用」(不正競争防止法2条1項1号ないし2号)したものとは認められない。よって,そ20 の余について検討するまでもなく,被告会社が同号所定の不正競争行為を行ったとはいえない。
(なお,同項2号所定の「著名」とは,混同の有無を問わずに保護に値するものとして,全国的に広く知られているようなものを意味すると解すべきところ,原告が指摘する甲1,2,39ないし41を始め,本件全証拠によってもなお本件25 表示が同号所定の「著名」な商品等表示に該当するとは認めるに足りないから,同号に係る原告の主張はこの点からも理由がない。。
)365 争点7(一般不法行為の成否)について原告は,仮に被告会社の上記各行為が不正競争行為に該当しないとしても,その行為態様は極めて悪質であり,自由競争の範囲を著しく逸脱し,反社会性が強い行為であるので,民法上の一般不法行為が成立する旨主張する。
5 しかし,既に検討したとおり,本件において被告会社の行為として認定できるのは,同社のホームページ上に被告Aの経歴を掲載したことや,被告Aが原告の元デザイナーであったと述べたことのみであり,これらが虚偽であるとか,被告商品の品質等の誤認を惹起させるとは未だ認めるに足りず,また,被告会社による「FOXEY」「フォクシー」との表示(本件表示)の使用は,被告Aの経歴を説明10 するものにすぎず,本件表示が有する出所表示機能や自他商品識別機能を害するものでもない。以上によれば,被告会社の上記各行為が,全体として,公正な競争秩序を破壊する著しく不公正な方法で行われたとか,被告会社において害意が存在したとは認められない。
したがって,被告会社による上記各行為について,民法709条所定の一般不15 法行為が成立するとは認められない。
6 争点8(被告Aの責任の有無)について原告は,被告会社が原告に対して不正競争防止法や民法709条に基づく責任を負うことを前提として,被告Aも,原告に対し,被告会社と連帯して会社法429条や民法709条に基づく責任を負うべきである旨主張する。しかし,前記20 のとおり,そもそも被告会社は原告に対して不正競争防止法や民法709条に基づく責任を負わないから,そのような責任を前提とする被告Aの原告に対する会社法429条ないし民法709条に基づく責任も認められない。
7 結論以上によれば,その余の点について検討するまでもなく,原告の請求はいずれ25 も理由がないから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。
(なお,原告は,新たに証拠として提出予定の甲57の1ないし7(量産仕様書)37は同人が「生産管理」であったことを示すとして,弁論再開の申立てをする。しかし,上記証拠は原告が当初から所持していたものと解されるところ,原告がこれまでに同証拠を提出しなかった(時機に後れた)点について少なくとも重過失があるといえるし,同証拠の提出により,訴訟の完結が遅延することとなるから,5 同証拠の提出は,民事訴訟法157条1項所定の「時機に後れた攻撃防御方法の提出」に当たるというべきである。また,前記2で検討したとおり,被告Aは,原告において「生産管理」ではなく「デザイナー」ないし「アシスタント・デザイナー」として,又は,少なくともその候補者として扱われ,実際にデザインに関する様々な業務に携わっていたものと認められるところ,上記証拠(甲57の10 1ないし7)の提出によっても,当裁判所の上記認定判断を左右しない。したがって,当裁判所は,本件について弁論を再開しないこととした。)東京地方裁判所民事第47部裁判長裁判官 沖 中 康 人15裁判官 矢 口 俊 哉20 裁判官 櫻 慎 平38
事実及び理由
全容