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事件 令和 3年 (ネ) 10045号 不正競争行為差止等請求控訴事件

控訴人兼被控訴人 株式会社タカギ (以下「一審原告」という。)
同訴訟代理人弁護士 酒迎明洋
被控訴人兼控訴人 株式会社水環境電池 (以下「一審被告」という。)
同訴訟代理人弁護士 左高健一 鈴川大路
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2021/09/30
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 一審原告の控訴及び一審被告の控訴をいずれも棄却する。
2 一審原告に生じた控訴費用は一審原告の負担とし,一審被告に生じた控訴費用は一審被告の負担とする。
3 なお,原判決主文1項及び2項は,一審原告の訴えの取下げにより,失効している。
事実及び理由
一審原告の控訴の趣旨
1 原判決を次のとおり変更する。
(1) 一審被告は,原判決別紙被告ウェブサイト目録記載1の被告ウェブサイト 1に原判決別紙被告表示目録記載9の表示を,原判決別紙被告ウェブサイト目録記載2の被告ウェブサイト2に原判決別紙被告表示目録記載4及び9の各表示を,原判決別紙被告ウェブサイト目録記載3の被告ウェブサイト3に原判決別紙被告表示目録記載4及び9の各表示を,原判決別紙被告ウェブサイト目録記載4の被告ウェブサイト4に原判決別紙被告表示目録9の表示を,原判決別紙被告ウェブサイト目録記載5の被告ウェブサイト5に原判決別紙被告表示目録記載4及び9の各表示を,それぞれ表示してはならない。
(2) 一審被告は,原判決別紙被告ウェブサイト目録記載1の被告ウェブサイト1を表示するための電子ファイルから原判決別紙被告表示目録記載9の表示を,原判決別紙被告ウェブサイト目録記載2の被告ウェブサイト2を表示するための電子ファイルから原判決別紙被告表示目録記載4及び9の各表示を,原判決別紙被告ウェブサイト目録記載3の被告ウェブサイト3を表示するための電子ファイルから原判決別紙被告表示目録記載4及び9の各表示を,原判決別紙被告ウェブサイト目録記載4の被告ウェブサイト4を表示するための電子ファイルから原判決別紙被告表示目録記載9の表示を,原判決別紙被告ウェブサイト目録記載5の被告ウェブサイト5を表示するための電子ファイルから原判決別紙被告表示目録記載4及び9の各表示を,それぞれ除去せよ。
(3) 一審被告は,原判決別紙被告表示目録9の表示を付した原判決別紙被告商品目録記載の各商品を譲渡し,又は引き渡してはならない。
(4) 一審被告は,原判決別紙被告商品目録記載の各被告商品の取扱説明書に原判決別紙被告表示目録記載9の表示を表示してはならない。
(5) 一審被告は,原判決別紙被告表示目録記載9の表示を付した原判決別紙被告商品目録記載の各商品の取扱説明書を除去又は廃棄せよ。
(6) 一審被告は,一審原告に対し,1596万6720円及びこれに対する平成31年2月6日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は,第1,2審とも,一審被告の負担とする。
3 1項(6)について仮執行宣言
一審被告の控訴の趣旨
1 原判決中,一審被告敗訴部分を取り消す。
2 上記の部分につき,一審原告の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,第1,2審とも,一審原告の負担とする。
事案の概要
1 一審原告は,蛇口一体型浄水器及びその交換用カートリッジ等の製造,販売等を業とする会社であり,一審被告は,蛇口一体型浄水器用の浄水カートリッジの製造,販売等を業とする会社である。
本件は,一審原告が,一審被告は一審原告製の蛇口一体型浄水器に装着することができる各浄水カートリッジ(原判決別紙被告商品目録記載の各商品(以下,これらの個々の商品を同目録の番号に対応させて「被告商品1」などといい,これらを総称して「被告商品」という。))に係る各ウェブサイト(原判決別紙被告ウェブサイト目録記載の各ウェブサイト(以下,これらの個々のウェブサイトを同目録の番号に対応させて「被告ウェブサイト1」などといい,これらを総称して「被告ウェブサイト」という。))並びに被告商品のパッケージ及び取扱説明書に各表示(原判決別紙被告表示目録記載の各表示(以下,これらの個々の表示を同目録の番号に対応させて「被告表示1」などといい,これらを総称して「被告表示」という。))を付しているところ,被告表示は被告商品の品質を誤認させるものであって,そのような被告表示をすることは不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項20号の不正競争に該当すると主張し,一審被告に対して,同法3条1項及び2項に基づき,@原判決の「事実及び理由」欄の第1の1,2,4及び5の各請求(被告ウェブサイト並びに被告商品のパッケージ及び取扱説明書に付された被告表示の差止め及び除去等を求めるもの),A同3の請求(被告商品の譲渡及び引渡しの差止めを求めるもの)をするとともに,同法4条及び民法709条に基づき,B同6の請求(損害賠償金及び遅延損害金の支払を求めるもの)をした事案である。
原審は,上記@の請求を,被告表示1,23,34及び36に係る差止め及び除去を求める限度で認容し,その余をいずれも棄却し,上記Aの請求を棄却し,上記Bの請求を270万8535円及びこれに対する一審原告の請求に係る訴状送達の日の翌日である平成31年2月6日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し,その余を棄却したところ,一審原告及び一審被告は,いずれも自己の敗訴部分を不服として本件各控訴を提起した。
なお,一審原告は,当審において,上記@の請求に係る訴えのうち,被告表示1,23,34及び36に係る部分を取り下げた。
2 前提事実 次の点を改めるほかは,原判決の「事実及び理由」欄の第2の2に摘示のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決7頁22行目から23行目にかけての「乙21ないし乙24-2」を「枝番を含む乙21〜24(以下,特に断らない場合は枝番を含む。)」と改める。
(2) 原判決7頁26行目末尾に改行して次のとおり加える。
「(11) 一審被告は,令和3年4月23日,被告ウェブサイト及びこれに係る電子ファイルから被告表示1,23,34及び36を除去した(弁論の全趣旨)。」 3 争点 原判決8頁9行目の「被告表示」から10行目の「36」までを「被告表示4及び9」と改めるほかは,原判決の「事実及び理由」欄の第2の3に摘示のとおりであるから,これを引用する。
4 争点に関する当事者の主張 次の点を改めるほかは,原判決の「事実及び理由」欄の第2の4に摘示のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決21頁9行目の「被告表示」から10行目の「36」までを「被告 表示4及び9」と改める。
(2) 原判決21頁12行目から23行目までを削る。
(3) 原判決21頁24行目の「被告表示」を「一審被告は,被告表示」に改める。
(4) 原判決22頁12行目から16行目までを削る。
(5) 原判決22頁18行目から23頁1行目までを削る。
(6) 原判決23頁10行目から12行目までを削る。
(7) 原判決29頁5行目の「上記期間」を「平成28年2月1日から平成31年1月31日までの期間」に改める。
(8) 原判決30頁20行目の「被告ウェブページ及びウェブページ」を「被告ウェブサイト及び被告ウェブページ」に改める。
当裁判所の判断
1 当裁判所も,一審原告の請求は,原判決が認容した限度(ただし,当審において訴えが取り下げられた部分を除く。)で理由があり,その余はいずれも理由がないものと判断する。その理由は,次のとおり改め,当事者双方の当審における主張に鑑み後記2及び3を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の第3に説示のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決33頁1行目の「(水が甦る)」の次に「(被告表示5)」を加える。
(2) 原判決33頁2行目の「摂取でき」の次に「(被告表示6)」を加える。
(3) 原判決36頁20行目の「(被告表示28)」」の次に「,「通水中瞬時に除菌・消臭(被告表示40)」,「電池を形成(被告表示41)」」を加える。
(4) 原判決40頁26行目の「“浄水カートリッジ”」の次に「(被告表示49)」を加える。
(5) 原判決42頁26行目の「購入直後の」を「購入直後,」に改める。
(6) 原判決44頁1行目の「ステンレス合金」を「ステンレス鋼」に改める。
(7) 原判決44頁24行目から25行目にかけての「被告商品を互換すること」を「被告商品との互換」に改める。
(8) 原判決48頁16行目の「閲覧して」を「閲覧するなどして」に改める。
(9) 原判決51頁15行目の「閲覧して」を「閲覧するなどして」に改める。
(10) 原判決52頁8行目の「亜鉛について」から9行目の「認められるほか,」までを削除する。
(11) 原判決52頁10行目の「増加していない」を「増加しておらず,亜鉛についても,有意な増加はない」に改める。
(12) 原判決52頁16行目の「濃度は増加しない」を「濃度は増加しないし,亜鉛の濃度にも有意な増加はみられない」に改める。
(13) 原判決54頁11行目の「差がない」を「差がなく,黄色ブドウ球菌数では増加がみられる」に改める。
(14) 原判決55頁14行目の「記載があり」の次に「(甲2の1〜7,甲3の2〜8,甲5の2)」を加える。
(15) 原判決56頁4行目の「ATP量」の次に「(発光量(RLU))」を加える。
(16) 原判決56頁4行目から5行目にかけての「シャワーに」を「シャワーで」に改める。
(17) 原判決57頁24行目の「被告ウェブページ」を「被告ウェブページ等」に改める。
(18) 原判決57頁25行目の「閲覧して」を「閲覧するなどして」に改める。
(19) 原判決58頁4行目の「カルキ臭」から5行目の「ジェオスミンである」までを「カルキ臭の原因となるのは遊離残留塩素,カビ臭の素となる物質は2-MIB及びジェオスミンであり,クロロホルムも水道水の臭いの原因となる」に改める。
(20) 原判決60頁7行目の「活性炭中空糸膜処理水」を「水道水」に改める。
(21) 原判決61頁6行目の「被告表示9は」を削る。
(22) 原判決62頁7行目の「被告表示」から8行目の「36」までを「被告表示4及び9」に改める。
(23) 原判決62頁9行目から63頁5行目までを削る。
(24) 原判決63頁15行目から64頁2行目までを削る。
(25) 原判決66頁5行目の「わかりませんね」を「分かりませんね」に改める。
(26) 原判決66頁18行目から19行目にかけての「品質誤認等表示」を「品質等誤認表示」に改める。
(27) 原判決66頁20行目から21行目にかけての「品質誤認表示」を「品質等誤認表示」に改める。
(28) 原判決67頁11行目の「金額である」の次に「(乙35〜37)」を加える。
(29) 原判決67頁26行目から68頁1行目にかけての「各種調査」を「各種試験」に改める。
(30) 原判決68頁6行目の「売上原価」の次に「(乙36,37)」を加える。
(31) 原判決68頁18行目末尾に「(乙35〜37)」を加える。
(32) 原判決72頁14行目の「10年以上」を「少なくとも10年間は」に改める。
(33) 原判決72頁23行目の「記載」を「記載等」に改め,同行目の「強調されているのであって」の次に「(甲2,3)」を加える。
(34) 原判決73頁2行目の「被告商品の紹介の冒頭」を「被告商品の紹介」に改める。
(35) 原判決73頁3行目の「取得し日本」の次に「2件」を加える。
(36) 原判決73頁5行目の「記載がある」を「記載等がある(甲2,3,乙1〜5)」に改める。
(37) 原判決73頁5行目の「また,被告ウェブページ」から7行目の「記載が ある。」までを削る。
(38) 原判決73頁14行目の「利用」を「利用者」に改める。
(39) 原判決73頁20行目の「品質誤認表示」を「品質等誤認表示」に改める。
2 一審原告の当審における主張について (1) 一審原告は,汚染物質の除去性能に係る被告表示(20ないし22)に関し,試験(甲30)によれば被告商品にATP量を減少させる効果はないと認めるべきであるから,同各被告表示は品質等誤認表示に該当する旨主張する。
しかしながら,同試験の結果は,引用に係る原判決第3の2(5)イのとおりであり,少なくとも1回目と2回目の試験においては,同じく活性炭中空糸膜処理水を通水する場合において,被告商品2を用いない場合(対照試験@)と比較して,被告商品2を用いた場合のATP量(発光量)の方が小さくなっているし,3回の試験を平均すれば,後者に係るATP量(発光量58RLU)が前者に係るATP量(発光量138RLU)を大きく下回っている。そうすると,同試験の結果をもって,被告商品に通した水にATP量を減少させる効果があるとの表示が虚偽であると断ずることはできず,その他,そのような事実を認めるに足りる証拠はない。
したがって,一審原告の上記主張は,採用することができない。
(2) 一審原告は,「電池」との表記が含まれる被告表示(2,4,9,25,41,46及び47)に関し,需用者は「被告商品には回路に電気を流す電池が備わっている」と認識するものであるところ,被告商品にはそのような電池は備わっていないから,上記各被告表示は品質等誤認表示に該当する旨主張する。
しかし,引用に係る原判決第3の2(8)において認定したとおり,被告ウェブページには,上記の「電池」に関し,「Hybrid浄水カートリッジは「水の中で異なった金属」を組み合わせることで電池が形成されるイオン化傾向を応用した,外部電力を必要としない起電力構造の,どこへでも持ち運ぶことができる水の中で働く電池です」との記載がみられ,その内容にも照らすと,この説明及び上記各被告表示に接した普通の需用者の多くは,被告商品に乾電池等の外部電源が取り付け られているわけではないことは認識し得るものの,「水の中で電池が形成される」などの概念,仕組み等については十分に理解し得ないものと認めるのが相当である。
そうすると,原判決の上記部分において説示したとおり,上記各被告表示が被告商品につき品質の誤認を問題とすべき程度にまで具体的な品質,内容等を想起させるものとは認められない。
この点に関し,一審原告は,アンケートの結果(甲60,69)によれば,上記各被告表示に接した需用者の多くは被告商品に「回路に電気を流すという一般的な理解における電池」が備わっており,その働きによって浄水カートリッジとしての効果が得られるものと認識する旨主張する。しかしながら,同アンケートの回答者らの多くが小さな文字で記載された被告商品の「電池」に係る上記説明を注意深く読んだ上で,上記各被告表示にいう「電池」が何を意味するのかについてよく考えて回答したと認めるに足りる証拠はなく(現に,甲60によれば,上記各被告表示に触れた回答者が被告商品に乾電池や充電式電池が内蔵されているとの回答をした例も少なからずみられる。),同回答者らが上記各被告表示中の「電池」などの表記から受ける印象により深く考えずに回答をした可能性も払拭できない。したがって,同アンケートによっても,上記各被告表示に接した需用者の多くが被告商品に「回路に電気を流す電池が備わっている」と認識すると認めることはできない。
以上のとおりであるから,一審原告の上記主張は,採用することができない。
(3) 一審原告は,損害額の推定の覆滅に関し,@節水,除菌等の効果が認められない被告商品の購入に当たっては,品質等誤認表示に該当する被告表示の存在が決定的な要因となる,A節水,除菌等の効果が認められない被告商品には経済性や効率性における優位性は認められないのに対し,定期購入ができる原告製カートリッジには効率性が認められる,B節水,除菌等の効果が認められない被告商品は特許発明等の実施品であったとしても信用力はなく,この点を損害額の推定の覆滅の判断に当たって考慮すべきではない,C原告製浄水器がマンション等にあらかじめ設置されていることがあるとしても,このことを損害額の推定の覆滅の事情として 考慮すべきではないとして,損害額の推定の覆滅の割合を90%とするのは誤りである旨主張する。
しかしながら,上記@及びAについては,引用に係る原判決第3の4(2)及び(4)アにおいて説示したとおり,品質等誤認表示に該当する被告表示は,被告商品の品質が優れていることを示す効果を有するものの,商品の性質や誤認に係る品質の内容に照らし,上記各被告表示が持つ訴求力は相当に限定的なものである一方,被告商品は,その価格及び交換の手間において,原告製カートリッジに対して大きな優位性を持つものである(一審原告は,定期購入を理由に原告製カートリッジも効率性において優れている旨主張するが,交換の手間がかかることに変わりはない。)。
上記Bについては,被告商品が特許発明等の実施品であることにつき,これが虚偽であると認めるに足りる証拠はないところ,商品に関し各国において特許権等を取得していることが当該商品の顧客吸引力を高める効果があることを否定することはできないから,これらの事実は,損害額の推定の覆滅につき検討するに当たって適宜考慮するのが相当である。上記Cについては,引用に係る原判決第3の4(4)ウにおいて説示したとおり,原告製浄水器があらかじめ設置されていたマンション等の居住者の中には,元々浄水器やそのカートリッジに対して強いこだわりや関心を抱いていない者もおり,交換用の浄水カートリッジを選択するに当たっても,被告商品の品質より被告商品が有する価格や交換の手間における優位性を重視する者が一定程度存在すると考えられる。したがって,これらの居住者の中には,品質等誤認表示に該当する被告表示の存在が被告商品の購入に当たっての決定的な要因とならなかった者が一定程度存在すると考えられるから,損害額の推定の覆滅の判断に当たり,原告製浄水器がマンション等にあらかじめ設置されていることがあるとの事情を考慮するのは誤りではない。
そして,引用に係る原判決第3の4(4)において検討した諸事情を考慮すると,損害額の推定を覆滅する割合は,これを90%と認めるのが相当である。
以上のとおりであるから,一審原告の上記主張は,採用することができない。
3 一審被告の当審における主張について (1) 一審被告は,@一審原告は新築マンション等の物件に最初から原告製浄水器を設置し,原告製カートリッジを継続的かつ定期的に購入させるという独特の販売方法をとっている,A需用者は「原告製浄水器の使用継続見直しありき」という前提で交換用カートリッジの検討を進めるものである,B原告製浄水器の交換用カートリッジとしては被告商品以外にもグレイスランド商品等が存在する,C原告製カートリッジと被告商品は競合関係にない,D被告表示は需用者が被告商品を購入する際の決定的な要因とはならないなどとして,品質等誤認表示に該当する被告表示と一審原告が被った損害との間に因果関係はないから,本件につき不競法5条2項を適用する余地はない旨主張する。
しかしながら,上記@及びAについては,原告製浄水器に係る交換用カートリッジの購入を検討する者の全部又は相当数が,原告製カートリッジを装着した原告製浄水器があらかじめ設置されたマンション等を購入し,賃借するなどした居住者であって,「原告製浄水器の使用継続見直しありき」との判断をした者であると認めるに足りる証拠はなく,当該交換用カートリッジを購入しようとする者の中には,原告製カートリッジ,被告商品等の品質,価格等を比較した上で購入すべき商品を選択する者も相当数存在すると考えられる。また,原告製浄水器の使用継続の見直しの検討に着手する者であっても,検討の際に品質等誤認表示に該当する被告表示を参考にすることは十分に考えられるところである。上記B及びCについては,引用に係る原判決第3の4(1)エにおいて認定したとおり,平成29年2月1日から平成30年1月31日までの売上高を基準とした原告製カートリッジとグレイスランド商品の売上高の比率は,99.88対0.12であり,実質的には,原告製浄水器の交換用カートリッジは,原告製カートリッジと被告商品であって,両者は,競合関係にあるといえる(なお,一審被告は,原告製浄水器用の互換品ではないカートリッジを加工して用いる例もあると主張するが,それらの商品が原告製カートリッジや被告商品と競合関係にあると認めるに足りる証拠はない。)。上記Dにつ いては,引用に係る原判決第3の4(2)において説示したとおり,品質等誤認表示に該当する被告表示は,被告商品の品質が優れていることを示すものであり,これに顧客吸引力がないとはいえないから,需用者が被告商品を購入するに当たり,これが要因とならないとはいえない。
このように,品質等誤認表示に該当する被告表示と一審原告が被った損害との間には因果関係が認められるから,本件については,不競法5条2項を適用して一審原告が被った損害額推定するのが相当である。
なお,一審被告は,上記@ないしDの事情等に照らせば,仮に本件について不競法5条2項を適用するとしても,損害額の推定を覆滅する割合を90%超とすべきである旨主張するが,これを90%とするのが相当であることは,前記2(3)のとおりである。
以上のとおりであるから,一審被告の上記主張は,採用することができない。
(2) 一審被告は,容器包装費に関し,一審被告は●●●●●●に対し@商品に取扱い上の注意事項を記したタグを付ける,A商品を小箱に梱包する,B取扱説明書やスコッチブライト(購入後のメンテナンス用の布たわし)を小箱に同梱するとの作業等を委託しており,これらに要する費用(●●●●●●●●円)を損害額から差し引くべきである旨主張する。
しかし,一審被告が援用する「在庫単価一覧」と題する書面(乙62)によっても,一審被告が●●●●●●に対し被告商品に関して上記@ないしBの作業に要する費用を支払っており,これが被告商品を製造,販売するために追加的に必要となった費用であると認めるには不十分であり,その他,そのような事実を認めるに足りる証拠はない。
したがって,一審被告の上記主張は,採用することができない。
4 結論 そうすると,当裁判所の上記判断と同旨の原判決(ただし,当審において訴えが取り下げられた部分を除く。)は相当であって,本件各控訴はいずれも理由がない から棄却すべきである。なお,一審原告は,当審において,前記第3の1のとおり訴えの一部を取り下げたので,原判決主文1項及び2項は,当然にその効力を失っているから,その旨を明らかにすることとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 本多知成
裁判官 浅井憲
裁判官 中島朋宏