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事件 令和 2年 (ワ) 4530号 不正競争行為差止等請求事件
5
原告 有限会社トオヤ
同代表者取締役
同訴訟代理人弁護士 水野健司 10 被告 有限会社財津釣具
同代表者取締役
同訴訟代理人弁護士 千葉康博
同 遠藤光太郎
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2022/08/25
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 15 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は、別紙被告商品目録記載1〜5の商品を譲渡し、引き渡し、譲渡又は20 引渡しのために展示し、輸出し、輸入してはならない。
2 被告は、前項記載の商品を廃棄せよ。
3 被告は、原告に対し、386万円及びこれに対する令和2年3月6日から支 払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
25 1 本件は、別紙原告商品目録記載1〜14の釣り用のうき(以下、それぞれ 「原告商品1」〜「原告商品14」とい い、これらを総称して「原告商品」とい う。)を販売する原告が、別紙被告商品目録記載1〜5の釣り用のうき(以下、そ れぞれ「被告商品1」〜「被告商品5」といい、これらを総称して「被告商品」と いう。)を販売する被告に対し、次の各請求をする事案である。
(1) 被告商品1及び被告商品3〜5が原告の周知の商品等表示である原告商品 5 1〜9の形態に類似する形態の商品であり、被告商品2が原告の周知の商品等表示 である原告商品10及び11の形態に類似する形態の商品であり、被告による被告 商品の販売が、それぞれ原告の商品と混同を生じさせ、不正競争防止法(以下「法」 ともいう。)2条1項1号の不正競争に該当するとする、法3条 1 項に基づき、被 告商品の譲渡、引渡し、譲渡又は引渡しのための展示、輸出及び輸入の差止め並び10 に同条2項に基づき、被告商品の廃棄請求 (2) 前記(1)の不正競争について、法4条に基づき、損害賠償金386万円及び これに対する当該行為の後である令和2年3月6日から支払済みまでの平成29年 法律第44号による改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求 2 前提事実(証拠を掲げていない事実は争いのない事実及び弁論の全趣旨によ15 り容易に認定できる事実である。なお、以下において枝番号のある証拠で枝番号の 記載のないものは全ての枝番号を含む。) (1) 当事者 原告は、釣り具としてのうきの製造及び販売等を業とする特例有限会社である。
被告は、釣り具としてのうきの製造及び販売等を業とする特例有限会社である。
20 (2) 原告商品 原告商品の外観は、別紙原告商品目録記載1〜14のとおりであり、原告は、平 成16年3月から、原告商品1〜3を、同年9月から、原告商品4〜6を、平成1 7年4月から、原告商品9を、同年9月から、原告商品7及び8を、平成18年1 0月から、原告商品10〜12を、平成22年10月から、原告商品14を、平成25 28年7月から、原告商品13を、それぞれ釣具店やインターネット上のウェブサ イトを通じて販売している。
原告商品1〜9は、海釣りにおいて釣り人から近く浅い位置にいるグレ(メジナ) を主たる対象とした釣り用のうきであり、「遠矢グレ」と称し、ZF180、ZF15 0、ZF120の各大、中、小の9種からなる。原告商品10〜12も同様にグレを 対象とする釣り用のうきであり、「遠矢グレスペシャル」と称し、SP230、SP1 5 00、SP80の3種からなる。原告商品13及び14は、海釣りにおいて釣り人か ら遠く浅い位置にいるクロダイ(チヌ)やグレを主たる対象とした釣り用のうきで あり、「遠矢ダイレクトポイント」と称し、DP300及び DP230の2種からな る。(甲2、3) 原告商品は、上下方向の長さと水平方向の長さに大きな違いがない形状の「円錐10 うき」に対して、上下方向に細長いことから「棒うき」と一般に称されるうきの一 種であり、浮力を発生させるうき本体(ボディ)と、その上部に使用時に水面から 突出するトップ(魚信部材)を接続するためのゴム管、下部に釣り糸と接続するた めの金具等を取り付けるための金属製の環から構成されている。(甲3の3) (3) 被告商品15 被告商品の外観は、別紙被告商品目録記載1〜5のとおりであり、被告は、平成 25年6月から、被告商品1を、平成26年1月から、被告商品2を、平成27年 9月から、被告商品3を、平成28年1月から、被告商品4を、平成31年1月か ら、被告商品5を、それぞれ釣具卸売業者やインターネット上のウェブサイトを通 じて販売している。
20 被告商品は、海釣り用の棒うきであり、「Sai」と称する被告商品1と、やや遠 距離用の「遠投 Sai」と称する被告商品2、昼夜兼用のため LED ライトを搭載した 「Sai night」と称する被告商品3、高感度近距離用の「Sai mini」と称する被告 商品4、遠距離用の「Direct Sai」と称する被告商品5の5種からなる。その余 の被告の「Sai」シリーズには、「Sai Super LONG」や「Sai matte」がある。(甲25 83) 3 争点 (1) 原告商品1〜11の形態の商品等表示該当性(争点1) (2) 原告商品1〜11の形態の周知性(争点2) (3) 原告商品1〜11の形態と被告商品の形態の類否(争点3) (4) 混同の有無(争点4) 5 (5) 損害の発生及び額(争点5) (6) 差止め・廃棄の必要性(争点6) 4 当事者の主張 (1) 原告商品1〜11の形態の商品等表示該当性(争点1) (原告の主張)10 ア 原告商品1〜11の形態の特別顕著性 (ア) 原告商品1〜9の形態 原告商品1〜9の形態は、以下の特徴(以下「ZF 形態」という。)を有する。
A ボディ全長(ゴム管及び環を含めた上端から下端までの長さをいう。以下同 じ。)が約15.5p〜22pであって、
15 B 木製黒色のボディ下部に最太部の直径が約10o〜14oとなる膨らみがあ り、
C そのボディ上部に黄白色の樹脂塗装がなされ、
D そのボディ上部に上方向に黒色のゴム管が突き出ている。
(イ) 原告商品10及び11の形態20 原告商品10及び11の形態は、以下の特徴(以下「SP 形態」という。)を有 する。
A ボディ全長が約11.5p〜13.5pであって、
B 木製黒色のボディ下部に最太部の直径が約16o〜18oとなる膨らみがあ り、
25 C そのボディ上部に黄白色の樹脂塗装がなされ、
D そのボディ上部に上方向に黒色のゴム管が突き出ている。
(ウ) 特別顕著性 原告は、釣り人から遠く深い位置にいるクロダイを対象とした全長の長い棒うき のうち、特に本体下部に重りを入れて重りとうきを一体にした立ちうきの製造者と して古くから知られていたところ、平成16年に、従来の原告のうき(遠矢うき) 5 の特徴である木製黒色本体の下部の膨らみと本体上部のゴム管の形態を踏襲しつつ、
グレを対象とする短い棒うきを開発するに際して、本体上部に黄白色の樹脂塗装を 加えた。
原告商品1〜3が販売開始された平成16年当時、ZF 形態は他社製のうきと比 較して極めて独自性の強いものであり、他社製品と識別を可能にする顕著な特徴が10 あった。被告商品5が発売された平成31年1月頃までは、ZF 形態の特徴を備え た商品はなく、5年を超える長期にわたって原告が独占的に使用しており、被告商 品5の販売開始時には、客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴として識別力 を有するに至っていた。
原告 SP 形態は、伝統的な「遠矢うき」の特徴を踏襲しつつ先行する ZF シリーズ15 に続いて、全長が最短の部類の棒うきとして発売されたものであり、発売された平 成18年10月当時、一般にうきの形態は、原告のうきを除けば、本体上部が大き く下部が小さい円錐形であり、本体上部の色はオレンジ色などの明るい色で、下部 は黒色が主流であり、一時的な模倣品を除き、原告のうき以外に本体上部にゴム管 が突き出ているものはなかった。そのため、SP 形態は、客観的に他の同種商品と20 は異なる顕著な特徴を有していた。被告商品1が発売された平成25年6月頃まで に SP 形態を備えた他社商品はなく、5年を超える長期間独占して使用しており、
被告商品1の販売開始時には、客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴として 識別力を有するに至っていた。
その後も現在に至るまで、被告商品と一部の模倣品を除けば、ZF 形態及び SP 形25 態は、原告が独占して使用してきた形態であり、特別顕著性を有している。
(エ) 被告の主張について 被告は他社も同様の特徴を有する棒うきを多数販売している旨、ボディ上部の色 やゴム管は機能的形態である旨を主張する。しかし、被告が指摘する他社製のうき のうち、キザクラ製の「自立チヌ」(平成5年、平成7年、平成11年)は、本体 上部が黄白色ではなく、また、短期間で市場から消えており、「みえとび波止」は、
5 上部にゴム管がなく、ZF 形態及び SP 形態と全長が異なり、「黒魂 BS 自立」は、ZF 形態及び SP 形態と全長が異なり、「黒魂 Joker」は、平成29年1月頃発売の模倣 品であり、ソルブレ製の「G-ARROW(アロー)」及び YOU☆SHI JAPAN 製の「ヴィピ ーステック800」は、被告商品より後に発売された模倣品であるから、これらの 商品の存在によって ZF 形態及び SP 形態の特別顕著性が否定されるものではない。
10 また、ボディの黒色やボディ上部の黄色や白色の配色、上部のゴム管は、それぞ れ他社商品に採用されている場合があるとしても、黒色ボディ及びゴム管について は昭和50年代から原告代表者が採用し、原告の商品であることを示す重要な特徴 的部分であったものであり、ボディ上部の黄白色に視認性を上げる機能があるとい っても、ボディ下部の色との組み合わせは無限にあるのであって、機能を発揮させ15 るために不可欠な構成ではない。原告は、ボディの色やゴム管といった個別の特徴 のみを主張しているのではなく、ZF 形態及び SP 形態は、原告独自のものであって 特別顕著性を有する。
被告が昭和48年から販売してきたと主張する「黒潮」は、正確な販売時期が不 明であり、ZF 形態及び SP 形態とはボディ全長が異なる上、やや中膨れ形状であり、
20 ボディとトップが一体となっている点でうきの種類が異なる。
イ 原告商品1〜11の形態の周知性 (ア) 原告商品1〜11は、原告商品1〜3が発売された平成16年3月から現 在に至るまで、グレを対象とした棒うきとして、16年以上に及ぶヒット商品とな り、累積で売上数量9万1692個、売上高1億4512万3190円に及んでい25 る。原告商品1〜11は、多数の雑誌、ウェブサイト、刊行物で繰り返し取り上げ られ、需要者である釣り愛好家の間で広く知れ渡っており、ZF 形態については被 告商品5の販売開始時までに、SP 形態については被告商品1の販売開始時までに、
それぞれ周知になっていた。
(イ) SP 形態の周知性 原告商品10及び11は、平成19年に、「最強のウキ釣り2007」、「P1 5 のクロダイ釣り【極意直伝】」、「磯釣マガジン」で、平成21年〜平成26年に、
「釣春秋」、「南のつり」、「P1のクロダイ365日」、「釣ファン」、「クロ チヌウキ釣り仕掛け全集U」、「黒鯛ちぬ徹底攻略ガイド」、「週刊 日本の魚釣 り」、「攻めまくりグレ釣り最前線」、「グレ釣り最新最強 EX」で、それぞれ雑 誌記事や広告において写真付きで掲載された。また、原告の運営するブログにおい10 ても、平成23年及び平成24年に、原告商品10及び11が人気で売れており、
在庫が少なくなったあるいは在庫がなくなったことを紹介している。
被告商品2の発売後である平成27年〜令和2年においても、原告商品10及び 11は、「磯釣り秘伝2015黒鯛」、「釣春秋」、「グレ遠投釣りのすべて」の 雑誌記事や、株式会社ワールドスポーツ、つり具の天狗堂、株式会社植村漁具、か15 めや釣具株式会社、アングルグループ、有限会社第一フィッシング、岡林釣具株式 会社、B.Creation 株式会社の各サイト、個人のブログ、ヤフーオークションで、
写真付きで掲載された。
SP 形態は、これらの記事や広告によって需要者である釣り愛好家に知れ渡って おり、被告商品や最近の模倣品は、記事、広告の数、販売数量が限定的であり、SP20 形態には周知性がある。
(ウ) P1及び遠矢うきの著名性 原告代表者であるP1は、昭和55年頃から「つり人」等の雑誌で継続的にクロ ダイ等の釣りの技法を紹介される著名な釣り名人であり、昭和59年にはマルキュ ー株式会社とともに配合餌を開発し、その広告塔として全国的に知られるようにな25 っていた。昭和60年以降、P1は、書籍や雑誌において、釣りの技法とともに、
自ら製作した下膨れの形態を有するうきを紹介するようになり、P1の製作する下 膨れ形状のうきは「遠矢うき」として知られるようになった。平成26年〜平成2 7年頃においても、P1の製作する「遠矢うき」が「自立棒ウキの代表格」などと して雑誌に紹介されている。
これらの事情からすると、原告及びP1は、うき業界のみならず釣り業界で広く 5 知られており、伝統的な「遠矢うき」の形態を承継する ZF 形態及び SP 形態は、P 1の高いブランド力と相まって需要者に広く知られたものになっている。
商品等表示該当性 以上によれば、ZF 形態及び SP 形態は、いずれも特別顕著性及び周知性を備えて いるから、原告商品1〜11の形態は、法2条1項1号商品等表示に該当する。
10 (被告の主張) ア 原告商品1〜11の形態の特別顕著性 (ア) 原告商品1〜11の形態 原告は、ボディの全長によって ZF 形態と SP 形態を区別しているところ、そのサ イズの設定は恣意的であり、特に合理的な理由がない。原告自身が、ボディ全長が15 短くかつ太い特徴を有するのが SP 形態であり、比較的長く細いのが ZF 形態である と主張していることからすれば、ボディ全長を一定の範囲に限定することが形態上 の特徴となるとはいえない。
(イ) 特別顕著性 原告が主張する形態上の特徴 B のうち木製黒色ボディである点については、色彩20 は古来存在するものであって、本来何人も自由に使用し得るものであり、黒色とい うありふれた色彩について独占的使用を認めると業界における競争を不当に阻害す ることになるから、法2条1項1号の保護の対象となり得ない。また、本体が黒色 である棒うきは、遅くとも昭和61年以降、多数の釣り具メーカーによって広く販 売されている。
25 特徴 B のうちボディ下部に膨らみがある点については、棒うきの形状として上部 に重心を持つ上膨れ、下部に重心を持つ下膨れ、重心を均一にするストレートの3 種類しか選択の余地がなく、下膨れの形状を原告しか使用できないとすれば、事業 者間の公正な競争を確保するという不正競争防止法の目的に反する。また、下膨れ 形状の棒うきは、原告の意匠登録以前にも存在し、原告以外の者によって意匠登録 もされており、遅くとも昭和61年以降、多数の釣り具メーカーによって広く販売 5 されている。
特徴 C は、ボディが黒色である(特徴 B)ことと同様に、黄白色というありふれ た色彩であるから、法2条1項1号の保護の対象とならない。また、うきは、魚が 餌をくわえたのを知るための目印として使用される釣り用具であるから、遠方から でも視認しやすい黄系統を採用しているうきが多く、黒色と黄色の組み合わせを含10 め、黄系統の色が含まれる棒うきは、原告商品1〜11の発売以前から、多数の釣 り具メーカーで販売されている。
特徴 D は、商品の機能性向上に関する機構であって、技術的機能と必然的に結び つく形態であるから、法2条1項1号にいう商品等表示に該当しないというべきで ある。また、平成5年には、原告以外の者の登録意匠や他社商品において本体上 部15 にゴム管が設置されている棒うきが存在しており、原告商品1〜11が販売される 以前から、本体上部にゴム管が設置されている形態は、ありふれた特徴であった。
ZF 形態及び SP 形態の特徴は、上記のとおりそれぞれありふれた特徴に過ぎず、
2条1項1号の保護の対象となり得ない上、以下のとおり、ZF 形態及び SP 形態 の全部又は一部の特徴を備えた商品は、原告商品1〜11が販売を開始する以前か20 ら現在まで多数販売されていることからすれば、ZF 形態及び SP 形態に特別顕著性 がないことが明らかである。
@株式会社キザクラ「自立チヌ」、 「ツインシグナル」、「みえとび波止」、
「黒魂 Joker」、「玄秀自立」、「遠投チヌ」、「黒魂 BS 自立」 Aヒロミ産業株式会社「桐チヌ」25 B被告「チヌ立うき」、「黒潮」 C株式会社デュエル「黒鯛」、「チヌウキ」、「チヌ浮木」、「チヌスリム」 Dソルト・ブレイク・ジャパン株式会社(ソルブレ)「シルバーアロー200」、
「G-ARROW(アロー)」 Eグローブライド株式会社(ダイワ)「ベガスティックタフ」、「ベガスティッ クタフ遠投」 5 FYOU☆SHI JAPAN「ヴィピーステック800」 G株式会社洋釣漁具「ちぬ磯」 H株式会社釣研「黒鳳 ST」、「スリムグレ自立」、「T-LANCER」 I釣武者「鬼馬棒」 (ウ) 原告の主張について10 原告は、原告商品1〜11と同様の特徴を有する他社商品について、一時的な模 倣品であると主張するが、各メーカーは、商品の改良やマイナーチェンジを繰り返 しており、現在販売されている他社商品は、過去に継続的に販売されていた商品の 形状を引き継いだ改良品であって、一時的な模倣品ではない。また、棒うきに関し ては、キザクラ及び釣研が製造する商品が市場の半分近くのシェアを獲得しており、
15 他社商品の販売規模は原告商品1〜11より大きいものである。
イ 原告商品1〜11の形態の周知性 原告商品1〜11の販売開始前から、原告の主張する特徴を備えた棒うきが販売 されていたから、その形態が原告の商品の特徴として需要者に認識されていたこと はない。釣り具メーカーとしては、原告より被告の方が知名度や影響力が大きい し、
20 うき市場においては、上位5社で3割程度のシェアを占めているが、原告は上位5 社ではなく、シェアは数%であって、影響力は極めて限定的である。
原告が周知性の証拠として挙げる雑誌は、ほとんどが九州南部で販売されていた ローカル雑誌にすぎず、「釣春秋」や「釣恋人」は既に休廃刊したもので、影響力 は限定的である。また、原告代表者が業界で有名な人物であるとしても、原告商品25 1〜11の形態が周知であるとはいえない。
(2) 原告商品1〜11の形態の周知性(争点2) (原告の主張) 前記(1)(原告の主張)で主張した事情によれば、ZF 形態は被告商品5の販売開 始時までに、SP 形態は被告商品1の販売開始時までに、需要者の間で原告の商品 等表示としてそれぞれ周知となっており、その状況は、現在まで継続している。
5 (被告の主張) 前記(1)(被告の主張)で主張した事情によれば、ZF 形態及び SP 形態は、いずれ も需要者の間で原告の商品等表示として周知であるとはいえない。
(3) 原告商品1〜11の形態と被告商品の形態の類否(争点3) (原告の主張)10 ア 被告商品の形態 ボディ全長は、被告商品1は、約10pであり、被告商品2は、約13.5pで あり、被告商品3は、約8pであり、被告商品4は、約9pであり、被告商品5は、
約20pである。
被告商品は、いずれも、木製黒色の本体下部に膨らみがある。
15 被告商品1、3〜5は、いずれもその本体上部に白色の樹脂塗装がされており、
被告商品2は、本体上部に黄白色の樹脂塗装がされている。
被告商品1、2、4、5は、いずれもその本体上部に黒色のゴム管が突き出てい る。
類似性20 被告商品2は、SP 形態の特徴の全てを備えており、SP 形態と同一である。
被告商品1、4、5は、SP 形態又は ZF 形態のうち、本体上部の黄白色を除いて すべて備えており、被告商品3は、上部のゴム管を備えないとしても、本体上部の 黄白色及び上部のゴム管を除いてすべて備えており、需要者から見れば、その違い は極めて小さなものであるから、類似する。
25 (被告の主張) 被告商品は、以下のとおり、原告商品1〜11と異なっており、一般消費者から 見て異なる商品であることは一目瞭然であるから、類似しない。
ア 被告商品は、ボディ下端に丸みがあるのに対し、原告商品1〜11のボディ 下端は尖っている。
イ 原告商品1〜11のボディには、「遠矢うき」、「遠矢グレ」などと金色の 5 文字で記載されたシールが貼られているのに対し、被告商品のボディには、
「shokunin katagi 彩 Sai」などと金色(被告商品2及び5)又は銀色(被告商 品1、3、4)の文字で印字されている。
ウ 原告商品1〜11は、いずれも本体上部が黄白色であるが、被告商品1、3 〜5は、白色である。
10 エ 原告商品1〜11のボディには、金色の二重線が、上部、中央部、下部に3 組あるが、被告商品にはない。
オ 原告商品1〜11のボディ上部には、重りの重量を表す号数表記が記載され たシールが貼られているが、被告商品では、ボディ上部に直接印字されている。
カ 被告商品3は、ボディ上部にゴム管が突き出しておらず、赤色の LED ライト15 が取り付けられている。
(4) 混同の有無(争点4) (原告の主張) 原告商品1〜11及び被告商品は、色及び形態がわかるように透明のセロファン で包装されて展示販売されているところ、前記(3)(原告の主張)のとおり、形態20 が類似しているから、需要者である釣り愛好家が混同する。
原告が実施したアンケート結果によれば、特に被告商品2を原告の商品と混同す る需要者が多く、被告商品1、3〜5についても同様の傾向がみられたのであり、
混同が生じている。
(被告の主張)25 被告商品には、「shokunin katagi 彩 Sai」と被告商品シリーズの名称が表示さ れているところ、原告商品1〜11には、原告代表者であるP1の「遠矢」を冠し た商品名が表示されているから、一般消費者が混同することはない。 また、前記 (3)(被告の主張)のとおりの差異があるから、全体として見た場合の印象が相当 異なり、一般消費者が混同することはない。消費者が誤って購入した事実はなく、
被告が消費者等からクレームを受けたことはない。
5 被告商品は、販売時には黒地に白色の文字で被告のブランド名である「ZAXIS」 と記載されたタグの付された透明なセロファン包装に入れられており、白色の文字 で商品名を記載した黒色の台紙も入っているのに対し、原告商品1〜11は、紫地 に白色の文字で「立ちうきの王様 遠矢うき」又は「立ちうきの王様 遠矢チヌ」 などと記載された透明なセロファン包装に入っており、台紙は入っていないから、
10 販売時の包装を見れば両者を混同することはない。また、釣具店や釣り雑誌におい ても、原告商品1〜11と被告商品が別のメーカーの商品として紹介されており、
一般消費者が購入時に混同することはない。
原告は、顧客を対象にアンケートを実施しているが、無作為に抽出した一般消費 者からの回答ではない上、質問内容が誘導的であり、露骨な利益誘導がされている15 から、客観性がない。
(5) 損害の発生及び額(争点5) (原告の主張) ア 法5条1項により推定される損害額 被告商品の譲渡数量は、合計2100個(年間300個×7年間)を下らない。
20 原告商品1〜11の1個当たりの利益は1600円を下らない。
したがって、原告の損害は、336万円を下らない。
弁護士費用 原告は、本件訴訟に関し、弁護士に訴訟追行を委任しており、その費用は50万 円を下らない。
25 ウ 総額 被告が被告商品を販売したことによる原告の損害額は、386万円である。
(被告の主張) 争う。
(6) 差止め・廃棄の必要性(争点6) (原告の主張) 5 被告は被告商品の製造販売を行っており、原告の営業上の利益侵害され又はそ のおそれがあるから、販売等の行為の差止め、及び、被告商品の廃棄が必要である。
(被告の主張) 争う。
当裁判所の判断
10 1 原告商品の形態(甲3、84、128) (1) 共通する形態 B 木製黒色のボディ下部に膨らみがあり、
C そのボディ上部に黄白色(写真では黄緑色に見えることがある。以下、写真 において黄緑色に見える色も黄白色として扱う。)の樹脂塗装がされ、
15 D そのボディ上部に上方向に黒色のゴム管が突き出ており、
E ボディ最太部からボディ下端にかけて円錐状に窄まっており、
F ボディ下端に金属製の環が突き出ており、
G 黄白色の塗装部の下方、ボディの長手方向中央付近及びボディの最太部の下 方にそれぞれ金色の二重線が引かれている棒うきである。
20 (2) 商品により相違する形態(甲1、3、128) A ボディ全長が 約11.5p(原告商品11)、
約13.5p(原告商品10)、
約15.5p(原告商品7〜9)、
25 約18.5p(原告商品4〜6)、
約22p(原告商品1〜3)、
約26.5p(原告商品12、13)、
約34p(原告商品14)であって、
B 最太部の直径が 約10o(原告商品3、6、9、13、14) 5 約12o(原告商品2、5、8) 約14o(原告商品1、4、7) 約16o(原告商品10、12) 約18o(原告商品11)であり、
H ボディ最太部に、金色の文字で10 遠矢グレ ZF(原告商品1〜9)、
遠矢グレ SP(原告商品10〜12)、
遠矢 DP(原告商品13、14)と記載されたシールが貼られている。
2 認定事実 前記前提事実、後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ15 る。
(1) 原告商品1〜3の発売前の原告及び原告代表者の製作に係るうきの形態 ア 原告代表者は、自らの釣りの経験から、従来から主に川釣りで一般的に使用 されてきたヘラブナ釣り用の棒うき(ヘラウキ)をグレ(メジナ)、クロダイ(チ ヌ)等の海釣り用に改良して、水中での安定性を高めるためにボディ下部に重りを20 装着した棒うきを自作し、昭和50年頃から「メジナヘラウキ」と称して販売する ようになった(甲14、70、134、135、143、148、156、原告代 表者)。
原告代表者は、従来の棒うきが魚信部材(トップ)とボディが固定されていた点 について、トップが折れるのを防止するためにボディとトップを、上部体を折曲可25 能にゴム管で接続する改良を加えて、昭和54年9月26日、意匠に係る物品を 「釣り用うき」とし、「下部に重りを一体に取付け、上部体を折曲可能にゴム管で 連結したもの」の意匠について登録出願し、昭和57年7月30日、登録(意匠登 録第587174号)された。当該意匠公報には、「B ボディ下部に膨らみがあ り 」、「 D そのボディ上部にトッ プを折り曲げ可能とするゴム管が突き出てお り」、「E ボディ最太部からボディ下端にかけて円錐状に窄まった部分に重りが 5 一体に取り付けられ」、「F ボディ下端に金属製の環が突き出ており」、「G ボ ディ上部、ボディの長手方向中央付近及びボディの最太部の下方にそれぞれ二重線 が引かれている棒うき」が図示されている。また、原告代表者は、同 年12月9 日、意匠に係る物品を「釣り用うき」とし、「下部におもりを一体に取付けた本体 の上部に魚信部を折曲可能にゴム管で連結したもの」の意匠につき、登録出願し、
10 昭和59年9月26日、登録 (意匠登録第641105号) された(甲4、15 6、原告代表者)。当該意匠公報には、前記と同様の形状であるがボディ下端の環 の形状やボディの模様が異なる棒うきが図示されている。さらに、その頃、原告代 表者は、ボディとトップをゴム管で連結した構造について実用新案登録出願をし、
登録(実用新案登録第1476614号)された(甲151の4、156)。
15 イ 原告代表者は、遅くとも昭和55年頃には、ZF 形態と共通する「A ボディ 全長が21pであって」、「B 木製(バルサ)黒色のボディ下部に最太部の直径 が10oないし12oとなる膨らみがあり」、「D そのボディ上部に上方向に黒 色のゴム管が突き出ている」形態を有する棒うきを「遠矢うき」と称して浜市釣具 店を通じて一般に販売するようになった(甲1、14、134、135、148、
20 156)。
原告代表者は、「遠矢うき」が好評を博したことから、当初の「遠矢うき」とは ボディ全長及び最太部の直径の異なるバリエーションを多数製造販売するようにな り、昭和63年には原告を設立して、法人として各種「遠矢うき」の製造販売を行 うようになった(甲1、14、148、155)。
25 原告は、昭和63年頃〜平成2年頃において、当初の「遠矢うき」である「2号 (中)、(小)」のほか、ボディ全長が17p〜20p、最太部の直径が10o〜1 2oである「1号」、「2号(中)、(小)」とボディ全長は同じで最太部の直径 が14oである「2号(大)」、ボディ全長が26p〜28p、最太部の直径が1 0o〜14oである「B」、ボディ全長が29p〜35p、最太部の直径が10o 〜14oである「LB」、ボディ全長が17p〜41p、最太部の直径が8oである 5 「0号」、トップを含めた全長が45p、最太部の直径が16oである「離島」な どを販売していた(甲1、6、148、151の4)。
原告は、平成10年頃には、ボディ全長が11p〜12p、最太部の直径が16 o〜20oであり、ボディ上部に膨らみがある形態を有する「磯専」も販売してい た(甲1、149)。
10 ウ 原告は、平成15年11月頃、「2号」、「B」、「LB」をそれぞれ代替す る商品として、ボディ全長が18p、最太部の直径が10o〜14oである「18 0s」、ボディ全長が23p、最太部の直径が10o〜14oである「230s」、
ボディ全長が30p、最太部の直径が10o〜14oである「300 s」の販売を 開始した(甲1、3の2、原告代表者)。
15 原告は、原告商品1〜3を発売した平成16年3月頃において、「遠矢うき」の バリエーションとして、 「180 s」、「230s」、「300 s」、「0号」、
「磯専」のほか、ボディ全長が42p、最太部の直径が10o〜12oである「日 本海」、ボディ全長が48p〜54p、最太部の直径が8o〜10oである「超遠 投」、ボディが白色で上部に膨らみがある「チビ」 などを販売していた(甲1、
20 3)。
(2) 原告商品1〜3の発売前の同種商品の形状 ア 登録意匠等 棒うきは、ヘラウキとしては昭和40年代以前から一般的な形状であったとこ ろ、昭和42年8月23日には、第三者により、ボディ下部に膨らみがある棒うき25 の意匠が登録出願され、昭和44年3月12日に登録 (意匠登録第295750 号)を受けていた(甲156、乙2の1)。
株式会社ヨーヅリ(後に株式会社デュエル。以前の商号は株式会社洋釣漁具であ った。以下、時期を問わず「デュエル」という。)は、平成3年2月15日、ボデ ィ下部に膨らみがあり、トップが折り曲げ可能である形状の棒うきの意匠登録を出 願し、平成5年7月26日に登録 (意匠登録第880678号)された(乙2の 5 2)。
イ 競合他社の商品 (ア) デュエルは、昭和61年頃、鉛内蔵立ちうきであり、「B 木製黒色のボデ ィ下部に膨らみがある」「チヌ磯」を販売しており、平成2年頃には、同様の形態 を備え、トップを含めた全長が44p〜61p(トップが約15p〜約25pとす10 れば、ボディ全長が約29p〜約36p)である「ちぬ磯」を販売していた (乙 6)。
デュエルは、平成12年頃、いずれもボディが黒色の棒うきであり、トップを含 めた全長が25p〜44pである「黒鯛」、37p〜49pである「黒鯛鉛入」、
25p〜43pである「チヌウキ」、44p〜48pである「チヌスリム」を販売15 しており、「黒鯛」及び「黒鯛鉛入」は、「C そのボディ上部に黄白色の樹脂塗 装」を備え、「チヌスリム」は、「B ボディ下部に膨らみ」を備えていた(乙5 の1)。
(イ) ヒロミ産業株式会社は、昭和62年及び昭和63年頃、トップを含めた全 長が31p〜50pであり、「B 木製黒色のボディ下部に膨らみ」がある棒うき20 である「桐チヌ」を販売しており、平成10年頃には、同様の形状で重りを内蔵 し、外径が12o〜17oである「桐チヌ(鉛入)」を販売していた(乙4)。
(ウ) 株式会社キザクラ(以下「キザクラ」という。)は、平成3年頃、トップ を含めた全長が52p〜62pであり、木製ボディに鉛を内蔵し、「B ボディ下 部に膨らみがあり」、「C その上部に黄白色の樹脂塗装」を備えた棒うきである25 「遠投チヌ」を販売しており、平成5年及び平成7年頃、「遠投チヌ」に加えて、
全長が27p〜43pであり、「B 木製黒色のボディ下部に膨らみがあり」、「D そのボディ上部にゴム管が突き出ている」形状の「自立チヌ」 も販売していた (乙3の1〜3)。
キザクラは、平成10年頃、全長が40pであり、「B 木製黒色のボディ下部 の一部が青色で、ボディ下部に膨らみがあり」、「D そのボディ上部にゴム管が 5 突き出ている」形状の「玄秀自立」を販売し、平成11年頃、「自立チヌ」、「玄 秀自立」に加えて、黒色ボディとなった 「遠投チヌ」、全長が41p〜56pで 「B 黒色のボディ下部に膨らみがあり」、「C そのボディ上部に黄白色の樹脂塗 装」を備えた「スーパースリムチヌ」、全長が16p〜22pで「B 黒色ボディ の下部に膨らみがあり」、「 C そのボディ上部に黄白色の樹脂塗装」を備えた10 「キザクラ万能」を販売していた(乙3の4、5)。
キザクラは、平成16年頃、「遠投チヌ」、「玄秀自立」に加えて、トップを含 めた全長が26.5p〜34.5pであり、「B 黒色のボディ下部に膨らみ」を 備えた「ツインシグナル」を販売していた(乙3の6)。
(エ) 株式会社釣研(以下「釣研」という。)は、平成4年頃、「B 黒色のボデ15 ィ下部に膨らみ」を備えた「釣研・立ちウキ」を販売していた(甲73)。
ウ 被告の商品 被告は、昭和48年頃から、ボディ全長が24p〜45pの棒うきである「黒 潮」を販売しており、遅くとも昭和63年頃までには、「黒潮」は、ZF 形態及び S P 形態と共通する「B 木製黒色のボディ」と「C ボディ上部の黄白色の樹脂塗20 装」を備えていた(乙27、28)。
昭和63年頃に被告が販売していた自立タイプの棒うきである「ちぬ立 うき」 は、「B 木製一部黒色のボディ下部に膨らみがあり」、「グレフカセ」は、「B 木製黒色のボディ下部に膨らみがあり」、「C そのボディ上部に黄白色の樹脂塗 装がなされ」ていた(乙27、28)。
25 被告は、平成8年頃において、同様の形態の「黒潮」、「チヌ立 うき」に加え て、紫がかった黒色のボディ上部に黄白色の樹脂塗装を備えた「SUPER ちぬ」を販 売していた(乙7)。
エ 同種商品の販売状況 昭和50年代〜昭和60年代頃の5年間程度、「遠矢うき」に類似する「京葉立 ちうき」が大量に販売された(甲14、156)。
5 平成2年6月1日発行の「海づりガイド」に掲載された原告の広告において、
「模造品やまぎらわしい類似品が大量に出回っています。遠矢の名入りとご指定く ださい。」と記載されている(甲151の4)。
(3) 被告商品の販売以前の原告商品1〜12及び同種商品の販売状況等 ア ZF 形態10 原告は、平成16年 3月頃、昭和50年代以来の「遠矢うき」の形状を備えた 「2号」を代替する「180s」をグレ用として販売するため、内蔵の重りを調整 した原告商品1〜3を「遠矢グレ ZF180」として発売した(甲3の1、2、甲 156、原告代表者)。原告商品1〜3は、形状において従来品と区別がつきにく いことから、原告は、製造工程において従来品と区別するため、ボディ上部を黄白15 色に樹脂塗装して区別することとした(甲155、原告代表者)。
原告は、平成16年9月頃、原告商品1〜3をより感度を高めた商品として、原 告商品4〜6を「遠矢グレ ZF150」として発売し、平成17年4月頃、さらに 感度を高めた商品として、原告商品9、同年9月頃、原告商品7及び8を、「遠矢 グレ ZF120」として発売した(甲3の3〜6)。
20 イ SP 形態 原告は、平成18年10月頃、円錐うきに慣れた需要者にも違和感なく棒うきを 受け入れられるように、「究極のグレウキ」、「遠矢グレスペシャル」として、原 告商品1〜9よりもボディ最太部の直径が太く、原告商品1〜3よりもボディ全長 が長い原告商品12を「遠矢グレスペシャル SP230」、原告商品7〜9よりボ25 ディ全長が短い原告商品10及び11を「遠矢グレスペシャル SP80」及び「遠 矢グレスペシャル SP100」として発売した(甲3の7、甲155)。
ウ 原告商品1〜11の販売数量 原告商品1〜11は、平成16年6月30日までに2637個、同年7月1日〜 平成17年6月30日間に1万3140個、同年7月1日〜平成18年6月30日 間に1万3908個、同年7月1日〜平成19年6月30日間に1万1845個が 5 販売されたが、同年7月1日〜平成20年6月30日間に7240個、同年7月1 日〜平成21年6月30日間に7613個、同年7月1日〜平成22年6月30日 間に7114個となり、同年7月1日〜平成23年6月30日間に4284個、同 年7月1日〜平成24年6月30日間に4386個に減少し、同年7月1日〜平成 25年6月30日間には3442個を販売するにとどまった(甲2)。
10 エ 原告の宣伝広告 ZF 形態及び SP 形態を備えた原告商品1〜11は、平成16年7月〜平成18年 2月発行の「釣恋人」(甲38、43)、平成16年10月〜平成24年8月発行 の「南のつり」(甲18〜20、23〜26、30、39、40、47〜54)、
平成17年6月〜平成26年3月発行の「釣春秋」(甲17、21、22、27、
15 41、42、44、45、55、56)、平成19年2月15日発行の「最強のウ キ釣り2007」(甲14)、同年6月5日発行の「P1のクロダイ釣り【極意直 伝】」(甲16)、同月25日発行の「磯釣マガジン」(甲46)、平成21年6 月5日発行の「P1のクロダイ365日」(甲81)、平成22年8月25日発行 の「釣ファン」(甲57)、平成24年1月4日発売の「週刊 日本の魚釣り」、
20 同年2月5日発行の「攻めまくりグレ釣り最前線」(甲29)、平成25年10月 21日発行の「クロチヌウキ釣り仕掛け全集U」(甲58)、平成26年2月20 日発行の「黒鯛ちぬ徹底攻略ガイド」(甲59)、同年4月27日発行の「グレ釣 り最新最強 EX」(甲31)等の書籍又は雑誌において、記事又は広告として写真 やイラストが掲載された。
25 また、原告は、原告の管理するウェブサイトやブログにおいて、原告商品1〜1 1の写真を掲載して宣伝していた(甲3、67、68)。
オ 同種商品の販売状況 (ア) キザクラは、平成17年頃、前年と同様に、「遠投チヌ」及びボディ全体 が黒色となった「玄秀自立」を販売していたほか、トップを含めた全長が36.5 pで、「B 黒色のボディ下部に膨らみ」があり、「C その上部に黄白色の樹脂塗 5 装」を備えた「釣堀達人」を販売しており、平成21年頃には、従前の「遠投チ ヌ」、「自立チヌ」、「玄秀自立」、「スーパースリムチヌ」、「キザクラ万 能」、「ツインシグナル」、「釣堀達人」を販売していたほか、トップを含めた全 長が24.5p〜30pで、「B 黒色のボディ下部に膨らみ」があり、「C その 上部に黄白色の樹脂塗装」を備えた「みえとび波止」を販売していた(乙3の7、
10 8)。
(イ) デュエルは、平成21年頃、従前と同様の「黒鯛」、「黒鯛鉛入」、「チ ヌ浮木」、「チヌスリム」を販売していた(乙5の2)。
(ウ) 原告は、平成19年6月25日発行の「磯釣マガジン」、平成22年1月 25日〜同年8月25日発行の「南のつり」、「釣春秋」、「釣ファン」、平成215 5年10月21日発行の「クロチヌウキ釣り仕掛け全集U」、平成26年2月20 日発行の「黒鯛ちぬ徹底攻略ガイド」に掲載した広告において、「旧商品(「遠矢 グレ ZF」)の類似品が出回っています〔グレックス社製品は除く〕。」と記載し ていた(甲46〜59)。
原告は、原告が運営するブログにおいて、平成22年12月1日及び平成24年20 3月23日、類似品が出回っているので注意するよう呼び掛けていた(甲68の 1、16)。
(4) 現在の原告商品及び同種商品の販売状況等 ア 原告の商品 原告は、原告商品のほか、「180s」、「230s」、「300s」、「磯25 専」、「日本海」、「超遠投」、「0号」、「遠矢チヌスペシャル」などを販売し ている(甲3の8)。原告商品1〜11の販売数量は、平成28年7月1日〜平成 29年6月30日間に3355個(希望小売価格での販売額608万6490 円)、同年7月1日〜平成30年6月30日間に3219個(希望小売価格での販 売額584万7300円)、同年7月1日〜令和元年6月30日間に815個(希 望小売価格での販売額148万0090円)であった(甲2)。
5 イ 同種商品 (ア) キザクラは、「自立チヌ」、「玄秀自立」、「スーパースリムチヌ」のほ か、「A ボディ全長が17.2pであって」、「B 黒色ボディ下部に最太部の直 径が17.1oとなる膨らみがあり」、「C そのボディ上部に黄白色の樹脂塗装 がなされ」、「D そのボディ上部に上方向に黒色のゴム管が突き出ている」形態10 を備えた「黒魂 Joker」を販売している(乙8、13、15、16)。
(イ) ソルト・ブレイク・ジャパン株式会社は、「A ボディ全長が9p〜17p であって」、「B 黒色ボディ下部に膨らみがあり」、「C そのボディ上部に黄白 色の樹脂塗装がなされ」、「D そのボディ上部に上方向に黒色のゴム管が突き出 ている」形態を備えた「G-ARROW」を販売している(乙8、18)。
15 (ウ) 釣研は、「A ボディ全長が20p(全長32p、トップ12p)であっ て」、「B 黒色ボディ下部に最太部の直径が19oとなる膨らみがあり」、「C そのボディ上部に黄白色の樹脂塗装がなされ」、「D そのボディ上部に上方向に 黒色のゴム管が突き出ている」形態を備えた「スリムグレ自立」及び「A トップ を含めた全長が15.3p〜17.1pであって」、「B 黒色ボディ下部に最太20 部の直径が19o〜22oとなる膨らみがあり」、「C そのボディ上部に黄白色 の樹脂塗装がなされ」、「D そのボディ上部に上方向に黒色のゴム管が突き出て いる」形態を備えた「T-LANCER」を販売している(乙19、20)。
(エ) グローブライド株式会社は、黒色ボディ下部に膨らみがあり、上部にゴム 管を備えた「ベガスティックタフ」を、釣武者は、黒色ボディ下部に膨らみがあ25 り、上部の一部に黄白色の樹脂塗装がされ、上部にゴム管を備えた「鬼馬棒」を、
YOU☆SHI JAPAN は、黒色ボディ下部に膨らみがあり、上部に黄白色の樹脂塗装が され、上部にゴム管を備えた「ヴィピーステック800」を、それぞれ販売してい る(乙11、21、22)。
(オ) 被告は、被告商品を販売している。
ウ うき市場(甲2、乙23) 5 国内のうきの総出荷金額は、平成25年〜令和2年において、年間約12億円〜 13億円であり、海用うきについては、平成28年〜令和2年において、年間約7 億円である。国内のうきの小売市場規模は、平成25年〜令和2年において、年間 約16億円〜18億円である。うきメーカーのシェア上位5社の市場占有率は、平 成28年〜令和2年において、約35%である。
10 3 商品等表示該当性について (1) 法2条1項1号は、他人の周知な商品等表示と同一又は類似商品等表示 を使用等することをもって不正競争に該当すると規定しており、これは、周知な商 品等表示の有する出所表示機能を保護する観点から、周知な商品等表示に化体され た他人の営業上の信用を自己のものと誤認混同させて顧客を獲得する行為を防止15 し、事業者間の公正な競争等を確保する趣旨と解される。そして、色彩を含む商品 の形態は、特定の出所を表示する二次的意味を有する場合があるものの、商標等と は異なり、本来的には商品の出所表示機能を有するものではないから、その形態が 商標等と同程度に不正競争防止法による保護に値する出所表示機能を発揮するよう な特段の事情がない限り、商品等表示には該当しないというべきである。そうする20 と、商品の形態は、@客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴(特別顕著性) を有しており、かつ、A特定の事業者によって長期間にわたり独占的に利用され、
又は短期間であっても極めて強力な宣伝広告がされるなど、その形態を有する商品 が特定の事業者の出所を表示するものとして周知である(周知性)と認められる特 段の事情がない限り、法2条1項1号にいう商品等表示に該当しないと解するのが25 相当である。
(2) 特別顕著性 ア これを本件についてみると、まず、原告商品1〜11は、釣り用のうきとし て、もっぱら釣果を得るための実用品であり、その性能を発揮するために形態が工 夫されているものであって、基本的には、需要者が形状や色彩等のデザインを鑑賞 するためのものではない。また、使用時にはそのボディの大半が水中に隠れている 5 状態であり、実際の性能は外観のみでは判断し難いから、釣りをする一般的な需要 者においては、購入時に、釣果に関する自らの経験や評判ないし価格を参考に選択 しているものと考えられ、少なくともボディの色や形状を主に観察して違いを見極 めるような商品ではないから、ボディの形態をもって特別顕著性があるというため には、他のうきとはかけ離れた特異な形態を備えている必要がある。
10 そして、前記認定事実によれば、昭和50年代に原告代表者が開発した「遠矢う き」の形態であり、原告商品に共通する形態でもある「B ボディ下部に膨らみが あり」、「D そのボディ上部に上方向にゴム管が突き出ており」、「E ボディ最 太部からボディ下端にかけて円錐状に窄まっており」、「F ボディ下端に金属製 の環が突き出ており」、「G ボディ上部、ボディの長手方向中央付近及びボディ15 の最太部の下方にそれぞれ二重線が引かれている」形態は、昭和57年7月30日 に登録された意匠であり、平成9年7月30日に意匠権の存続期間が満了し、それ 以降は当該形態について意匠権による独占は認められなくなっていたことが明らか である(なお、前記実用新案権についてはそれ以前に存続期間が満了していること が明らかである。)ところ、ZF 形態に係る原告商品1〜3の発売以前から、「B20 木製黒色のボディ下部に膨らみがあり」、「C そのボディ上部に黄白色の樹脂塗 装がなされ」、「D そのボディ上部に上方向に黒色のゴム管が突き出ている」各 特徴の1つ又は2つを備えた棒うきが各メーカーから複数種類販売されていたこと が認められる。また、ボディの大きさについても、ボディ全長が10p台〜20p 台のものが存在し、ボディ最太部の直径も10o台のものが存在したことが認めら25 れる。そうすると、ZF 形態は、その発売以前に存在した他のうきとかけ離れた特 異な形態を備えているとはいえず、特別顕著性が認められない。
また、SP 形態は、前記認定事実のとおり、従前の「2号」や「180 s」等の 「遠矢うき」の形態を引き継いだ ZF 形態の特徴を維持しつつ、円錐うきに慣れた 需要者にも受け入れやすくするために開発されたものであって、原告商品12を含 めて「遠矢グレスペシャル」として販売されているものであり、客観的な形態も、
5 原告商品1〜9のボディ全長を数p短く(原告商品10、11)又は長く(原告商 品12)、最太部の直径を2o程度太くしたにすぎないから、ZF 形態のバリエー ションの一種というべきであって、ZF 形態と同様に特別顕著性があるとは認めら れない。
イ 原告は、ZF 形態及び SP 形態を備えた商品は、被告商品の登場まで他に存在10 せず、被告商品以外の模倣品は短期間で市場から消えたと主張する。
しかしながら、原告において原告商品1〜3のボディ上部に黄白色の樹脂塗装を し始めたのは、原告の従来の遠矢うきと製造工程において区別するためであったと いうのであるから、ZF 形態のうち、「C ボディ上部の樹脂塗装」以外は従来から 存在した形態であることが明らかである。そして、前記認定事実のとおり、ボディ15 上部に黄白色の樹脂塗装をしたうきが原告商品1〜12の発売以前から複数存在し ており、ボディ上部に黄白色の樹脂塗装をすることは何ら特異な配色とはいえない から、従来から存在する形態に黄白色の樹脂塗装を加えたからといって、特別顕著 性が備わるとはいえない。
また、前記認定事実のとおり、ZF 形態及び SP 形態と共通する特徴を備えた商品20 は、原告商品1〜3の発売以前から複数存在し、商品カタログに掲載されているに もかかわらず全く販売されなかったとは考え難い上、原告代表者において、「遠矢 うき」の模倣品が大量に出回った時期があったことを認めており、平成2年頃にお いてもなお、原告が類似品と認識するような商品が大量に出回っていることを前提 に、遠矢の名入りの有無で区別するよう注意を呼び掛ける広告をし、平成19年以25 降も継続的に類似品が出回っている旨の広告をしていたのであるから、被告商品以 外の ZF 形態及び SP 形態を備えた商品が全て短期間で市場から消えたとは到底考え られない。
そうであれば、被告商品販売開始時において、ZF 形態ないし SP 形態と同一又 は類似する特徴を備えた商品は複数存在し、これらの形態はありふれたものとなっ ていたというべきである。
5 なお、原告は、個別の同種商品について、ZF 形態及び SP 形態と一部共通する特 徴を備えているとしても、特徴の全部が同一ではない旨主張するが、前記のよう に、うきの形態に特別顕著性があるというためには、他のうきとはかけ離れた特異 な形態であるといえる必要があり、形態上の特徴が同一又は類似の同種商品が存在 すれば、特別顕著性は認められないというべきである。
10 ウ 以上によれば、ZF 形態及び SP 形態は、他の同種商品との関係で顕著な特徴 を有しているとはいえず、原告商品1〜11のその余の特徴も特異なものとはいえ ないから、原告商品1〜11の形態には特別顕著性が認められない。
(3) 周知性 ア 前記前提事実によれば、原告は、原告商品1〜11を平成18年頃までは年15 間1万3000個程度販売していたものの、平成22年頃には年間7000個程度 に減少し、被告商品1が販売開始された平成25年頃には年間3500個程度にま で減少し、最盛期の3分の1以下に激減していたのであるから、およそ ZF 形態及 び SP 形態を備えた原告商品1〜11が同年以前において長期にわたって市場を独 占していたとはいえない。また、同年以降も、原告商品1〜11の販売数は30020 0個程度であり、販売額も、平成30年頃まで年間600万円程度に過ぎず、令和 元年頃には年間150万円程度にとどまっているところ、出荷金額ベースの海用う きの市場規模が年間約7億円であり、現在も複数の同種商品が販売されていること からすれば、平成25年頃から現在までの間においても原告が ZF 形態及び SP 形態 を独占的に利用し続けていたとはいえない。
25 さらに、前記前提事実によれば、原告は、釣りの専門雑誌や書籍等に広告や記事 を掲載していたものの、それらの発行部数は明らかではなく、新聞やテレビ等の全 国的なマスメディアを通じて繰り返し継続的に広告するなどの方法は採っていない から、極めて強力な宣伝広告が行われたともいえない。
そうすると、ZF 形態及び SP 形態を含む原告商品1〜11の形態に周知性がある とも認められない。
5 イ 原告は、原告代表者であるP1及び遠矢うきは、需要者の間で著名であり、
ZF 形態及び SP 形態も需要者に広く知られていると主張する。
しかしながら、これらの形態の周知性を認めるに足りる証拠はない。かえって、
P1が有名な釣り人あるいはうき製作者であるゆえにその製作に係る原告の商品が 周知であるとすれば、原告の商品は、その形態のいかんにかかわらず、P1が製作10 した「遠矢うき」としてその名称において識別されることになるはずである。そし て、前記認定事実のとおり、ZF 形態及び SP 形態と共通する特徴を備えた同種商品 が存在し、原告が販売する「遠矢うき」は、長年ボディ上部が黄白色ではなかった (「2号」、「180s」等)上、「遠矢うき」には、ボディ下部の膨らみを備え ず(「磯専」等)、ボディが黒色でないもの(「チビ」)も存在する以上は、遠矢15 の名入りの有無によって需要者が原告の商品を識別しているものというほかなく、
ZF 形態及び SP 形態自体が周知性を有しているということはできない。
ウ なお、原告は、原告商品1〜11の形態に関する周知性などを立証するた め、需要者に対するアンケートを実施した(甲152)が、回答数が400名程度 にとどまり、回答の内容からすると回答者の多くは「遠矢うき」を愛用する顧客で20 あることがうかがえ、需要者一般の認識が正確に調査できているとはいい難い上、
類似品に対する訴訟において証拠とすることを明示した上で、回答用紙に「遠矢グ レの類似品が多く出回っております。」と記載して、回答者全員にステッカー、1 0名以上分の回答をまとめて出した者にワッペン、さらに抽選で「遠矢うき」をプ レゼントするというものであり(乙25)、回答の中立性に大いに疑義があり、そ25 の結果に基づいて認定判断することはできないといわざるを得ない。
(4) 以上によれば、ZF 形態及び SP 形態を含む原告商品1〜11の形態が商品等 表示に当たるということはできない。
結論
以上によれば、その余の点を検討するまでもなく、原告の請求は、理由がないか らこれを棄却することし、主文のとおり判決する。
5