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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成12ネ3780損害賠償等請求各控訴事件 平成12ネ3781損害賠償等請求各控訴事件 平成12ネ3810損害賠償等請求各控訴事件 判例 不正競争防止法
平成14ネ6311不正競争行為差止等請求控訴事件 判例 不正競争防止法
平成15ワ2351不正競争行為差止等請求事件 判例 不正競争防止法
平成14ワ1943営業誹謗行為差止等請求事件 判例 不正競争防止法
平成18ワ13013不正競争行為差止請求事件 判例 不正競争防止法
関連ワード 周知表示混同惹起行為(2条1項1号) /  顧客吸引力(グッドウィル) /  周知性 /  広く認識 /  需要者 /  商品等表示 /  出所識別機能 /  出所表示性(出所表示) /  品質保証機能 /  類似性(類似) /  外観 /  呼称 /  印象 /  混同のおそれ(混同) /  表示の使用 /  自他商品識別力 /  商品の形態(商品形態) /  模倣 /  技術的機能 /  識別表示 /  差止請求(差止) /  営業上の利益 /  過失 /  利益額(利益の額) /  権利濫用(権利の濫用) /  弁護士費用 /  消滅時効 /  ライセンス /  デザイン /  侵害 /  競業関係 /  著名表示(著名性) /  著名表示冒用行為(2条1項2号) /  代理人 /  代表者 /  識別力 /  混同のおそれ(混同) /  著名表示冒用行為(2条1項2号) /  品質等誤認表示(誤認) /  損害賠償 /  損害額 /  販売数量 / 
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事件 平成 12年 (ネ) 3811号 不正競争行為差止等請求各控訴事件
平成 12年 (ネ) 3812号 不正競争行為差止等請求各控訴事件
平成 12年 (ネ) 3874号 不正競争行為差止等請求各控訴事件
平成12年(ネ)第3811号,同第3812号,同第3874号事件控訴人 ファブリカ・ダルミ・ピエトロ・ベレッタ・エス・ピ ー・エー 平成12年(ネ)第3811号,同第3812号,同第3874号事件控訴人 株式会社ウエスタン・アームス
両名訴訟代理人弁護士 北新居 良雄
同 中島敏
同 牧野利秋
同 青木裕史平成12年(ネ)第3811号事件被控訴人 株式会社東京マルイ
訴訟代理人弁護士 湊谷秀光
同 中島茂
同 栗原正一
同 浅見隆行
同 原正雄
補佐人弁理士 井澤洵
同 井澤幹平成12年(ネ)第3812号事件被控訴人 株式会社ケーエスシープロショップ (旧商号) ケーエスシー株式会社 (旧々商号)株式会社ケーエスシー 平成12年(ネ)第3812号事件被控訴人 株式会社ケーエスシー (旧商号)株式会社島 平成12年(ネ)第3874号事件被控訴人 有限会社マルゼン 平成12年(ネ)第3874号事件被控訴人 有限会社丸前商店 4名訴訟代理人弁護士 安原正之
同 佐藤治隆
同 鷹見雅和4名補佐人弁理士 安原正義
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/10/29
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 控訴人らの本件各控訴並びに当審での追加請求及び拡張請求をいずれも棄却する。
当審における訴訟費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨
(A事件について) 1 原判決を取り消す。
2 A事件被控訴人は,玩具銃に別紙「A事件被控訴人商品形態目録」(以下「A事件被控訴人商品形態目録」という。)記載の商品形態を使用し,又はそのパッケージ,広告,カタログ及び取扱説明書に同目録記載の商品形態を表示してはならない。
3 A事件被控訴人は,A事件被控訴人商品形態目録記載の商品形態を使用した玩具銃,又は同目録記載の商品形態を表示したパッケージ,広告,カタログ及び取扱説明書を譲渡し,引き渡してはならない。
4 A事件被控訴人は,A事件被控訴人商品形態目録記載の商品形態を使用した玩具銃,そのパッケージ,広告,カタログ及び取扱説明書,並びにその製作に用いる金型及び印刷用原版を廃棄せよ。
5 A事件被控訴人は,控訴人ベレッタに対し,9340万9140円及びうち6408万円に対する平成10年10月24日から,うち2932万9140円に対する平成13年6月26日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え(6408万円及びこれに対する附帯金員を超える部分は当審での拡張請求)。
6 A事件被控訴人は,控訴人ウエスタンアームスに対し,8億6266万2020円及びうち6696万円に対する平成10年10月24日から,うち7億9570万2020円に対する平成13年6月26日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え(6696万円及びこれに対する附帯金員を超える部分は当審での拡張請求)。
7 A事件被控訴人は,控訴人らに対し,1000万円を支払え(当審での追加請求)。
8 訴訟費用は,第1,2審ともA事件被控訴人の負担とする。
(B事件について) 1 原判決を取り消す。
2 B事件被控訴人らは,玩具銃に別紙「B事件被控訴人商品形態目録」(以下「B事件被控訴人商品形態目録」という。)一ないし六記載の商品形態を使用し,又はそのパッケージ,広告,カタログ及び取扱説明書に同目録一ないし六記載の商品形態を表示してはならない。
3 B事件被控訴人らは,B事件被控訴人商品形態目録一ないし六記載の商品形態を使用した玩具銃,又は同目録一ないし六記載の商品形態を表示したパッケージ,広告,カタログ及び取扱説明書を譲渡し,引き渡してはならない。
4 B事件被控訴人らは,B事件被控訴人商品形態目録一ないし六記載の商品形態を使用した玩具銃,そのパッケージ,広告,カタログ及び取扱説明書,並びにその製作に用いる金型及び印刷用原版を廃棄せよ。
5 B事件被控訴人らは,控訴人ベレッタに対し,各自,5091万9000円及びこれに対する平成10年10月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6 B事件被控訴人らは,控訴人ウエスタンアームスに対し,各自,3億1470万円及びうち4270万円に対する平成10年10月24日から,うち2億7200万円に対する平成13年6月20日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え(4270万0500円及びこれに対する附帯金員を超える部分は当審での拡張請求)。
7 B事件被控訴人らは,控訴人らに対し,各自,500万円を支払え(当審での追加請求)。
8 訴訟費用は,第1,2審ともB事件被控訴人らの負担とする。
(C事件について) 1 原判決を取り消す。
2 C事件被控訴人らは,玩具銃に別紙「C事件被控訴人商品形態目録」(以下「C事件被控訴人商品形態目録」という。)記載の商品形態を使用し,又はそのパッケージ,広告,カタログ及び取扱説明書に同目録記載の商品形態を表示してはならない。
3 C事件被控訴人らは,C事件被控訴人商品形態目録記載の商品形態を使用した玩具銃,又は同目録記載の商品形態を表示したパッケージ,広告,カタログ及び取扱説明書を譲渡し,引き渡してはならない。
4 C事件被控訴人らは,C事件被控訴人商品形態目録記載の商品形態を使用した玩具銃,そのパッケージ,広告,カタログ及び取扱説明書,並びにその製作に用いる金型及び印刷用原版を廃棄せよ。
5 C事件被控訴人らは,控訴人ベレッタに対し,各自,4441万6000円及びこれに対する平成14年11月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6 C事件被控訴人らは,控訴人ウエスタンアームスに対し,各自,1176万円及びうち882万円に対する平成10年10月24日から,うち294万円に対する平成13年6月20日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え(882万円及びこれに対する附帯金員を超える部分は当審での拡張請求)。
7 C事件被控訴人らは,控訴人らに対し,各自,250万円を支払え(当審での追加請求)。
8 訴訟費用は,第1,2審ともC事件被控訴人らの負担とする。
事案の概要
控訴人ベレッタは,イタリア共和国の銃器メーカーであり,控訴人ウエスタンアームスは,我が国の玩具銃の製造・販売業者であって,両者間には,控訴人ウエスタンアームスが,控訴人ベレッタの業務に係る各種商品等表示を玩具銃に付して使用すること等に関して全世界的な独占使用権を取得する旨のライセンス契約が存在している。本件は,控訴人らが,別紙「控訴人商品形態目録」(以下「控訴人商品形態目録」という。)一ないし三記載の各商品形態(以下,これらの各商品形態をその番号に従い「控訴人商品形態一」〜「控訴人商品形態三」といい,併せて「控訴人各商品形態」という。)が,控訴人らの業務に係る著名な商品等表示又は需要者の間に広く認識されている商品等表示に該当し,被控訴人らが不正競争防止法2条1項2号又は1号所定の不正競争を行っていると主張(ただし,2号所定の不正競争は,A事件被控訴人及びB事件被控訴人らに対してのみ主張)して,玩具銃やそのパッケージ等にA〜C事件被控訴人商品形態目録記載の各商品形態(以下,これらの各商品形態を目録の表題及び番号に従い「A事件被控訴人商品形態」,「B事件被控訴人商品形態一」〜「B事件被控訴人商品形態六」〔これらを併せて「B事件被控訴人各商品形態」〕,「C事件被控訴人商品形態」といい,これらを総称して「被控訴人各商品形態」という。)を使用して譲渡等をしている被控訴人らに対し,その使用差止め,金型等の廃棄及び損害賠償を求めている事案である。
原判決は,被控訴人らの不正競争の成立を否定して,控訴人らの請求をいずれも棄却した。これに対して控訴した控訴人らは,当審において,A〜C事件の損害賠償請求について請求を拡張,追加及び一部減縮した。
(以下,A〜C事件の書証を,それぞれ「A甲」「A乙」〜「C甲」「C乙」のように略して引用し,重複する書証については,アルファベット順に先の事件の書証番号により引用する。) 1 前提となる事実 (1) 控訴人ベレッタは,イタリア共和国ブレシア市に本拠を置く銃器メーカーであり,その製造,販売に係る実銃(以下「控訴人実銃」という。)M92SB-Fないし同M92F(以下,これらを併せて「控訴人実銃M92F」という。)は,控訴人商品形態一の形態を有し,控訴人実銃M93Rは,控訴人商品形態二の形態を有し,控訴人実銃M8000 COUGARは,控訴人商品形態三の形態を有している。
(2) 控訴人ウエスタンアームスは,玩具銃の製造・販売業者であり,平成9年6月17日,控訴人ベレッタとの間で,控訴人ベレッタの業務に係る各種商品等表示を玩具銃に付して使用することなどに関して,全世界的な独占的使用権を取得する旨のライセンス契約(以下「本件ライセンス契約」という。)を締結し,同月20日,その効力が発生した。
(3) A事件被控訴人は,玩具銃の製造・販売業者である。
A事件被控訴人は,@平成2年6月ころから,「ベレッタ92F」という商品名の玩具銃(エアーソフトガン。以下「A事件被控訴人商品一」という。)を,A遅くとも平成5年1月ころから,「ステンレスタイプ・ベレッタ92F」という商品名の玩具銃(エアーソフトガン。以下「A事件被控訴人商品二」という。)を,B平成9年12月ころから現在まで,「M92Fミリタリーモデル」という商品名の玩具銃(エアーソフトガン。以下「A事件被控訴人商品三」といい,A事件被控訴人商品一ないし三を併せて「A事件被控訴人各商品」という。)を,製造,販売し,そのパッケージ,広告,商品カタログ及び取扱説明書(以下,これらを総称して「パッケージ等」という。)と共に,譲渡し,引き渡していた。
(4) 被控訴人プロショップ及び被控訴人ケーエスシー(以下,両者を併せた営業主体を「ケーエスシー」ともいう。)は,いずれも玩具銃の製造・販売業者である。
B事件被控訴人らは,@平成7年5月ころから平成9年10月ころまで,「ベレッタM93Rファーストバージョン」という商品名の玩具銃(エアーソフトガン。以下「B事件被控訴人商品一」という。)を,A平成7年7月ころから平成9年10月ころまで,「ベレッタM93Rオート9」という商品名の玩具銃(エアーソフトガン。以下「B事件被控訴人商品二」という。)を,B平成7年8月ころから平成9年10月ころまで,「ベレッタM93Rスーパーカスタム」という商品名の玩具銃(エアーソフトガン。以下「B事件被控訴人商品三」という。)を,C平成7年8月ころから平成9年10月ころまで,「ベレッタM93Rロングコンプカスタム」という商品名の玩具銃(エアーソフトガン。以下「B事件被控訴人商品四」という。)を,D平成7年12月ころから平成9年10月ころまで,「ベレッタM93Rセカンドバージョン」という商品名の玩具銃(エアーソフトガン。以下「B事件被控訴人商品五」という。)を,E遅くとも平成9年8月ころから現在まで,「ベレッタM8000クーガー」という商品名の玩具銃(エアーソフトガン。以下「B事件被控訴人商品六」といい,B事件被控訴人商品一ないし六を併せて「B事件被控訴人各商品」という。)を製造,販売し,そのパッケージ等と共に,譲渡し,引き渡していた。
(5) 被控訴人マルゼンは,玩具銃の製造・販売業者であり,その製造に係る玩具銃をすべて被控訴人丸前商店(以下,両者を併せた営業主体を「マルゼン」ともいう。)に売り渡し,被控訴人丸前商店は,玩具銃を被控訴人マルゼンから買い受けて,国内で販売している。
C事件被控訴人らは,平成2年12月ころから,「ベレッタM93R」という商品名の玩具銃(エアーソフトガン。以下「C事件被控訴人商品」という。)を製造又は販売し,そのパッケージ等と共に,譲渡し,引き渡していた。
2 控訴人らの主張 2-1 控訴人ベレッタとの関係における不正競争の成否について (1) 控訴人各商品形態周知性又は著名性 以下のとおり,我が国において,控訴人商品形態一及び二は,遅くとも昭和60年ころまでには,控訴人商品形態三は,遅くとも平成7年ころまでには,いずれも控訴人ベレッタの業務に係る商品であることを表示する商品等表示として著名なもの又は需要者の間に広く認識されているものとなり,現在に至っている。
ア 控訴人ベレッタは,世界で最も古く,かつ,最も著名な銃器メーカーであり,その武器製造の歴史は15世紀後半にさかのぼる。狩猟用銃,高級ライフル,護身用ピストルなどの小型銃器を民間向けに製造,販売し,20世紀初頭には政府調達用銃器の分野に参入して飛躍的発展を遂げ,最近では控訴人実銃がイタリア政府のみならずアメリカ政府やフランス政府の制式けん銃として採用されるなど,輝かしい歴史と実績を誇っており,今日,控訴人実銃は,ヨーロッパや北米大陸諸国ばかりでなく,我が国を含め広く世界中に広まっている。
イ 控訴人商品形態一は,控訴人商品形態目録一記載のとおりであり,その基本的な特徴は,次のとおりである。バレル1(末尾の数字は,控訴人商品形態目録一記載の符号である。この項において,以下同じ。)を覆うスライド2が,先端の橋渡し部分3と後部約4分の1の部分を除いて大きくカットされ,その結果バレルの上部及び左右両側面が直接露出し,フロント・サイト4は,スライドの橋渡し部分上に位置し,バレル先端5は,約8ミリメートル突出している。ハンマー6は,リングタイプであって,その外周は突起を有さず円滑であり,また,グリップ7上部後方には,セフティ・レバー8の操作を容易にする三角状の肉薄部分9が設けられている。トリガー・ガード10は,内周が卵形状であるとともに,その外周の前方下部は,角形に折曲して,発射時における指の把持を確実にしている。
また,その細部は,次のとおりである。スライド2の断面形状は,基部が長方形で,その上部を山状にした形状となっており,山の頂はなだらかで広く,稜線は凹面形にえぐられている。トリガー11の上部に位置するフレーム12右側面には,トリガー・バー13が露出しており,トリガー・バーは,角を丸めた横長長方形状となっている。フレーム12左側面中央部には,フレームとスライドを分解するためのディスアセンブリー・レバー14とディスアセンブリー・ボタン15が付設され,ディスアセンブリー・ボタンは,ディスアセンブリー・レバーの下部前方に位置し,小円状である。フレーム左側面のディスアセンブリー・レバーの後部には,略長方形のスライド・ストップ16が全体を露出して外装されており,その後方下部には,グリップの角部がかぶっている。グリップ・パネル17には,略中央部の円形部分を除いて網状の規則的模様が付されている。フレーム12の後部は,握りを安定させるエンドテール18が突出している。スライド後部両側面には,指かけ用の溝19が斜めに20本刻まれている。
控訴人商品形態一の形態を有する控訴人実銃M92Fは,控訴人ベレッタの主力商品の一つであり,1985年(昭和60年)にアメリカ軍制式けん銃として採用されたのを皮切りに,フランス警察,空軍でも制式けん銃として採用され,現在では,世界50か国以上の国々で軍,警察等によって使用されている。同控訴人実銃は,ダブル・カラム・シングルフィードマガジンが組み込まれ,弾倉の長さを長くせずに弾倉容量を大きくするなどの工夫が加えられた上に,より高い安全性が確保されている。同控訴人実銃は,ベースとなった控訴人実銃M92から10年近くの研究開発の歳月が費やされた結果完成されるに至ったものであり,その原型である控訴人実銃M951からは35年余りの歳月を経て発表されたもので,その独特の優美な形態は,控訴人実銃M92が発表された1975(昭和50年)年以降,マイナーチェンジが行われたものの,ほとんど変更はない。
ウ 控訴人商品形態二は,控訴人商品形態目録二記載のとおりであり,その基本的な特徴は,次のとおりである。バレル1(末尾の数字は,控訴人商品形態目録二記載の符号である。この項において,以下同じ。)を覆うスライド2が,先端の橋渡し部分3と後部約4分の1の部分を除いて大きくカットされ,その結果バレルの上部及び左右両側面が直接露出し,フロント・サイト4は,スライドの橋渡し部分上に位置し,バレル先端5は,約40ミリメートル突出しており,突出部分にはガス抜きのスロット21が切られている。ハンマー6はリングタイプであって,その外周は突起を有さず円滑である。トリガー・ガード10の内周は,前方に延伸して扁平楕円状であるとともに,トリガー・ガード10の前方には,折りたたみ式のフォア・グリップ22が取り付けられている。
また,その細部は,次のとおりである。スライド2の断面形状は,左右非対称の台形となっている。トリガー11の上部に位置するフレーム12右側面には,トリガー・バー13が露出しており,トリガー・バーは,角を丸めた横長長方形状となっている。フレーム12左側面中央部には,フレームとスライドを分解するためのディスアセンブリー・レバー14とディスアセンブリー・ボタン15が付設され,ディスアセンブリー・ボタンは,ディスアセンブリー・レバーの下部前方に位置し,小円状である。フレーム左側面のディスアセンブリー・レバーの後部には,略長方形のスライド・ストップ16が全体を露出して外装されており,その後方下部は,グリップの角部に接するようにえぐられている。グリップ・パネル17には,網状の規則的模様が付されている。フレーム左側面のグリップ上方には,セレクター・レバー23のフル・オートマチック(バースト)の位置を示すため三つの白点24が三角形状に配置され,その上方のスライド側面には単発発射を示す一つの白点25が印されている。スライド後部両側面には,指かけ用の溝19が16本刻まれている。ショルダー・ストック取付け用に,グリップ下部に,前方左側面に孔26が開けられ,後方には貫通孔を有する筒状体27が取り付けられ,グリップ背面にはロック用溝28が掘られている。
控訴人商品形態二の形態を有する控訴人実銃M93Rは,控訴人ベレッタを代表する商品の一つであり,控訴人実銃M92をベースに,イタリア内務省からの要請によってテロ対策用として1982年(昭和57年)に開発,発表された携帯用自動小型火器である。控訴人実銃M93Rは,外観上は,銃口部に溝を設け,発射ガスの拡散を図り,弾丸発射時の跳ね上げを防止するよう工夫されている。また,より安定的な発射を可能にするため,折り畳み式のホールディング・グリップも付属している。さらには,トリガーガードとホールディング・グリップ双方を支持のために使用するという全く新しい発想によって,銃口部の跳ね上がりを防止し,安定的な撃弾を可能とする設計になっている。加えて,銃の操作機能を銃の左側に集中させるなど,取扱性を重視したアイデアととともに,一瞬にして単射から連射へ切替えが容易にできるように工夫もされ,緊急時にはセレクターを下方に押し下げることによって連射を可能にしている。その他,折り畳み可能かつ脱着可能なショルダー・ストックやショルダー・ストックの小型軽量化,その脱着方法の工夫,控訴人実銃M92の弾倉(マガジン)の流用が可能であること,弾倉部分の防錆のためのプラスチック加工等,アイデアが随所に盛られている。このように,控訴人実銃M93Rは,開発開始から約30年間にわたり,細部にまでわたる工夫と多額の開発費を投下したことにより,準サブマシンガンとして完成され,イタリア警察等に採用されるに至ったものである。そして,対テロ対策のため十分に威力を発揮するなどして,安定した銃器としての性能を有しながら,安全性や機能性,取扱いの簡易性が認められ,優れた銃としての評価が確立し,このことは,各種の実銃及び玩具銃関係雑誌に繰り返し紹介されている。
エ 控訴人商品形態三は,控訴人商品形態目録三記載のとおりであり,その基本的な特徴は,次のとおりである。バレル1(末尾の数字は,控訴人商品形態目録三記載の符号である。この項において,以下同じ。)のほとんど全面をスライド2が覆うフルカバータイプであって,バレル先端は,約2ミリメートル突出している。ハンマー6は,リングタイプであって,その外周は突起を有さず円滑であり,またグリップ7上部後方には,セフティ・レバー8の操作を容易にする三角状の肉薄部分9が設けられている。トリガー・ガード10は,内周が卵形状であるとともに,その外周の前方下部は角形に折曲して,発射時における指の把持を確実にしている。フレーム12の後部にはエンドテールの突出部分を有さず,グリップ背面のえぐりが深く,かつ,銃身に近いハイグリップ形状を採ることにより,握りを安定させている。
また,その細部は,次のとおりである。スライド2の断面形状は,基部が長方形で,その上部を山状にした形状となっており,山の頂にはリブ状部分31が形成されている。トリガー11の上部に位置するフレーム12右側面には,トリガー・バー13が露出しており,トリガー・バーは,横長長方形状となっている。
フレーム12左側面中央部には,フレームとスライドを分解するためのディスアセンブリー・レバー14とディスアセンブリー・ボタン15が付設され,ディスアセンブリー・ボタンは,ディスアセンブリー・レバーの下部に位置し,小円状である。フレーム左側面のディスアセンブリー・レバーの後部には,変形やじり状のスライド・ストップ16が全体を露出して外装されており,その後方下部には,グリップの角部がかぶっている。グリップ7の幅は,下部において拡大せず,上,下部ほぼ同一であって,手の比較的小さい射手が把握するのにも適している。グリップ・パネル17には,略中央部の円形部分を除いて網状の規則的模様が付されている。スライド後部両側面に指かけ用の溝19が斜めに17本刻まれている。
控訴人商品形態三の形態を有する控訴人実銃M8000 COUGARは,控訴人実銃M92の高い命中精度を維持しながら,新しいロッキング方式(ロータリー・バレル・ロッキング・システム)を採用し,1995年(平成7年)に発表されたセミコンパクト・オートマチック・ピストルである。控訴人実銃M8000 COUGARは,控訴人実銃M92Fと異なり,控訴人ベレッタ製けん銃の一大特徴とまでいわれるバレル上部の露出がないという点において形態的特徴を有している。しかしながら,外観の一部の変更にもかかわらず,控訴人実銃M92Fの操作性を重視した設計思想に変更はなく,より信頼性を高める外観を呈している。すなわち,ロータリー・バレル・ロッキングシステムは,強度があるデザインであるといわれており,特にハイプレッシャーのカートリッジ(弾薬筒)に適しており,ハンマーやトリガーは,控訴人実銃M92Fとほぼ同一のデザインを採用し,グリップのバックストラップをストレートにすることによって,握った感じ(グリップしたときの感じ)の安定感を高めている。また,セイフティは,ダブルアクション及びシングルアクションモデル(Fタイプ)で,控訴人実銃M92Fと同様にスライド上にあり,ディスアセンブリー・レバーなどの操作系も,控訴人実銃M92Fとほぼ同様であり,同控訴人実銃に親しんでいる者にとっては操作性が高く,バレルが露出していないこと及び小型化されていることを除けば,同控訴人実銃の設計思想がその商品形態にも生かされているということができる。控訴人実銃M8000 COUGARは,その発売とともに話題となり,各種の雑誌その他の書物などを通じて紹介され,現に米国で広く使用された。
オ 前記の控訴人ベレッタの実銃製造,販売における輝かしい歴史と実績,控訴人各商品形態の使用の継続性,控訴人各商品形態自体の特徴に加え,我が国において,控訴人実銃が種々の報道や玩具銃関係の各雑誌の記事等によって広く紹介されたり,小説や映画(「007」シリーズ等)などで取り上げられた結果,控訴人商品形態一及び二は,遅くとも昭和60年ころまでには,控訴人商品形態三は,遅くとも平成7年ころまでには,控訴人ベレッタの業務に係る実銃であることを示す商品等表示として,我が国において著名なもの又は実銃需要者及び玩具銃愛好者の間において広く認識されているものとなって,現在に至っている。
カ 被控訴人らは,我が国において,実銃の取引,所持,使用が原則として禁止されており,その市場が存在しないことを理由に,実銃の形態が商品等表示として周知性を具備し得るものではないと主張するが,ある形態がある者の商品等表示として周知であることを認定するためには,我が国においてその商品が実際に販売され,あるいは多数販売されていることを要するものではない。
(2) 商品等表示としての使用 ア A事件被控訴人各商品について A事件被控訴人商品一ないし三は,いずれもA事件被控訴人商品形態を有し,そのパッケージ等にはA事件被控訴人商品形態が表示されている。
A事件被控訴人商品形態は,控訴人商品形態一と同一又は類似商品等表示である(なお,控訴人らは,不正競争防止法附則3条の規定に照らし,A事件被控訴人商品一及び二に被控訴人商品形態を使用する行為が同法2条1項2号所定の不正競争に該当する旨の主張はしない。)。
イ B事件被控訴人各商品について B事件被控訴人商品一ないし六は,それぞれB事件被控訴人形態一ないし六の形態を有し,これらのパッケージ等には,それぞれ上記各商品形態が表示されている。
B事件被控訴人商品形態一ないし五は,控訴人商品形態二と同一又は類似商品等表示であり,B事件被控訴人商品形態六は,控訴人商品形態三と同一又は類似商品等表示である。
ウ C事件被控訴人商品について C事件被控訴人商品は,C事件被控訴人商品形態を有し,そのパッケージ等にはC事件被控訴人商品形態が表示されている。
C事件被控訴人商品形態は,控訴人商品形態二と同一又は類似商品等表示である。
エ 被控訴人らの製造,販売に係る玩具銃(以下「被控訴人商品」という。)及びそのパッケージ等に被控訴人各商品形態を使用することは,「商品等表示」としての「使用」に当たる(なお,控訴人らは,C事件被控訴人らの行為が不正競争防止法2条1項2号所定の不正競争に該当する旨の主張はしない。)。
被控訴人らは,被控訴人商品に被控訴人各商品形態を使用するのは,どの実銃をモデル化したかを示しているにすぎないと主張する。しかし,控訴人実銃において,控訴人各商品形態は,いずれも控訴人ベレッタの商品であることを示す表示として機能している。そして,被控訴人商品は,プラモデルやミニチュアカーとは異なり,控訴人実銃を実物大でそのまま模したものであり,被控訴人らは,控訴人各商品形態と同一又は類似の形態を,被控訴人商品に使用しているのであって,実物を参考にしつつも,縮小,変形,誇張,省略を適宜加えて,新たな商品の外観形状を創作したものとは異なる。このような場合にまで,被控訴人商品に被控訴人各商品形態を使用することが,商品等表示としての使用に当たらないということはできない。
玩具の商品分野においては,実物を模した玩具を製造,販売するに当たり,実物の形態やそれに付された表示の使用について,実物メーカーの許諾を得る慣行が既に確立しており,被控訴人商品及びそのパッケージ等に被控訴人各商品形態を使用することが,商品等表示としての使用に当たることは明らかである。
(3) 混同 被控訴人商品及びそのパッケージ等に被控訴人各商品形態を使用する行為は,控訴人ベレッタの業務に係る商品と混同を生じさせるものである。
不正競争防止法2条1項1号所定の「混同」とは,取引者,需要者をして,商品の出所が同一であると誤信させること(いわゆる狭義の混同)のみならず,ある商品等表示と同一又は類似の表示が商品に使用された結果,その商品が当該商品等表示の主体と組織上,営業上関連のある者の業務に係る商品であると誤認させること(いわゆる広義の混同)をも含むものである。
上記のとおり,玩具の商品分野においては,実物を模した玩具を製造,販売するに当たり,実物の形態やそれに付された表示の使用について,実物メーカーの許諾を得る慣行が既に確立し,実銃と玩具銃の需要者層は,重複,共通しており,実銃に対して最も密接な関連性を有する商品は玩具銃である。そして,控訴人ベレッタは,実銃のみならず,衣服類,くつ類,かばん類,帽子,ナイフ,ライター,装飾品等にまで商品分野を拡大し,これらの商品を自ら販売し,又は他社にライセンスを付与して販売している。玩具銃についても,1985年(昭和60年)から1987年(昭和62年)までイタリア企業に,1986年(昭和61年)から1991年(平成3年)までアメリカ企業にそれぞれライセンスを付与して製造,販売させ,最近では,控訴人ウエスタンアームスと共同して世界的なライセンス活動を開始している。平成5年及び平成6年には,実銃から稼働機構を除去した模型銃(以下「控訴人模型銃」という。)を製造し,日本で販売したこともある。
このような事情の下においては,被控訴人商品及びそのパッケージ等に被控訴人各商品形態を使用した場合には,需要者は,控訴人らの許諾を得て当該形態が使用されているものと認識し,その結果,被控訴人商品が,控訴人らと組織上,営業上関連のある者の業務に係る商品であるとの誤認を,需要者に生じさせることは明らかである。
実銃は,我が国において,狩猟用のものを除き店頭販売されることはなく,また,通常,玩具銃と並べて販売されることもないが,それらの事実は,混同の認定の妨げとなるものではない。
(4) 以上のとおり,被控訴人商品及びそのパッケージ等に被控訴人各商品形態を使用する行為,並びに被控訴人各商品形態が使用されたこれらの商品等を譲渡し,引き渡す行為は,いずれも不正競争防止法2条1項2号又は1号所定の不正競争に該当する。
2-2 控訴人ウエスタンアームスとの関係における不正競争の成否について (1) 不正競争防止法2条1項1号所定の「他人」には,特定の表示に関する商品化契約によって結束した商品等表示の使用許諾者,使用権者及び再使用権者のグループのように,当該表示の持つ出所識別機能,品質保証機能及び顧客吸引力を保護発展させるという共通の目的の下に結束しているものと評価することのできるようなグループも含まれる(最高裁昭和59年5月29日第三小法廷判決・民集38巻7号920頁参照)。
控訴人ウエスタンアームスは,本件ライセンス契約が発効した平成9年6月20日以降,同契約に基づき,玩具銃の分野で,全世界において控訴人ベレッタの業務に係る各種商品等表示を使用し,かつ,第三者にサブライセンスを付与する権限を有し,控訴人ベレッタと共に当該商品等表示の商品化事業を共同で遂行する立場にある。したがって,控訴人ウエスタンアームスは,控訴人ベレッタと共に,上記商品等表示の持つ出所識別機能,品質保証機能及び顧客吸引力を保護発展させるという共通の目的の下に結束した,使用許諾者及び許諾を受けた使用権者のグループを形成している。
(2) 控訴人各商品形態は,控訴人ベレッタと控訴人ウエスタンアームスとで構成される控訴人らグループの商品であることを表示する商品等表示に当たる。そして,控訴人商品形態一及び二は,遅くとも昭和60年ころまでには,控訴人商品形態三は,遅くとも平成7年ころまでには,いずれも控訴人ベレッタの業務に係る実銃であることを示す商品等表示として,我が国において著名なもの又は需要者の間に広く認識されているものとなっていること,被控訴人商品及びそのパッケージ等に被控訴人各商品形態を使用することが「商品等表示」としての「使用」に当たり,控訴人らグループの商品と混同を生じさせるものであることは,上記2-1と同様である。
(3) したがって,本件ライセンス契約発効の日である平成9年6月20日以降,被控訴人各商品形態を被控訴人商品に使用する行為は,控訴人らグループの商品等表示と同一又は類似商品等表示を使用するものとして,控訴人ウエスタンアームスとの関係においても,不正競争防止法2条1項2号又は1号所定の不正競争に当たるというべきである。
2-3 控訴人らの差止請求権の有無について 被控訴人らは,被控訴人商品に被控訴人各商品形態を使用してこれを販売し,そのパッケージ等に被控訴人各商品形態を表示してこれらを譲渡し,引き渡して,不正競争を行っている。そして,さらに今後,上記行為以外にも,被控訴人玩具銃及びそのパッケージ等について被控訴人各商品形態を使用し,これらを譲渡し,引き渡して,同様の不正競争を行うおそれがある。
控訴人らは,被控訴人らの上記不正競争により,控訴人各商品形態の持つ出所識別機能,品質保証機能を害され,控訴人各商品形態についての商品化事業の展開が妨げられるものであって,営業上の利益を現に侵害され,又は将来侵害されるおそれがある。
よって,控訴人らは,不正競争防止法3条1項に基づき,被控訴人らに対し,玩具銃及びパッケージ等について被控訴人各商品形態を使用し,被控訴人各商品形態を使用した玩具銃及びパッケージ等を譲渡し,引き渡すことの差止めを求めるとともに,同条2項に基づき,被控訴人各商品形態を使用した玩具銃及びパッケージ等並びにその製作に用いる金型及び印刷用原版の廃棄を求める。
2-4 控訴人らの損害 (1) 被控訴人らは,控訴人各商品形態が有する著名性とこれによる強力な顧客吸引力に専ら便乗したものであり,上記不正競争によって利益を得ていたものにほかならない。
(2) 控訴人ベレッタは,実銃メーカーであり,若干の玩具としての銃の輸出実績があったとはいえ,殊に我が国において自ら設備投資や従業員などの雇用を新たに必要としない状態で,玩具としての銃を製造,販売していたとはいい難いから,その被った損害については,控訴人各商品形態の使用に対して受けるべき金銭の額とするのが相当である。この場合,控訴人ベレッタが受けるべき金銭の額は,被控訴人らが販売した商品の販売価格(卸売価格)の12パーセントに当たる金額が相当である。
(3) 控訴人ウエスタンアームスが被った損害の算定に当たっては,被控訴人らが得た利益の額を,その損害額とすることが相当である。そして,控訴人ウエスタンアームスと被控訴人マルゼン及び同丸前商店との間の別訴東京地裁平成9年(ワ)第5741号特許権侵害差止等請求事件における公認会計士a作成の平成12年7月7日付け計算鑑定報告書(A甲236)によれば,製造メーカー(被控訴人マルゼン)及び一次問屋(被控訴人丸前商店)の限界利益率は,平均値で48.2%と算出されている。したがって,本件においても,その卸売価額に対する製造原価ないし直接経費を控除したいわゆる利益率は,40%を下らないと認めるのが相当である。
2-4-1 A事件被控訴人について (1) 平成9年6月20日までに製造,販売されたA事件被控訴人各商品の販売価額は合計17億9094万3000円であり,控訴人ベレッタが使用料として受けるべき金額は,その12%に当たる2億1491万3160円である。
(2) 平成9年6月20日以降製造,販売されたA事件被控訴人各商品の販売価額は合計51億6088万3200円であり,その40%に当たる20億6435万3280円が控訴人ウエスタンアームスが被った損害である。
(3) 控訴人らは,被控訴人らに対し,標章の侵害による損害賠償請求と形態の侵害による損害賠償請求を別訴として提起した関係から,形態の侵害による損害賠償を請求する本訴においては,控訴人ベレッタが被った損害としてその一部である9340万9140円を,控訴人ウエスタンアームスが被った損害としてその一部である8億6266万2020円を請求する。
(4) さらに,控訴人らは,A事件被控訴人の不正競争によって,これを阻止するために弁護士を依頼し,訴訟遂行をせざるを得なかったものであるから,控訴人らにおいて支出を免れなかった弁護士費用相当額1000万円は,同被控訴人によって負担されるべきものであり,これを請求する。
2-4-2 B事件被控訴人らについて (1) 平成9年6月20日までに製造,販売されたB事件被控訴人商品一ないし五の販売価額は合計7億3765万円であり,控訴人ベレッタが使用料として受けるべき金額は,その12%に当たる8851万8000円である。
(2) 平成9年6月20日以降製造,販売されたB事件被控訴人商品一ないし五の販売価額は合計7億5710万円であり,その40%に当たる3億0284万円が控訴人ウエスタンアームスが被った損害である。
(3) 平成9年6月20日までに製造,販売されたB事件被控訴人商品六の販売価額は合計1億1100万円であり,控訴人ベレッタが使用料として受けるべき金額は,その12%に当たる1332万円である。
(4) 平成9年6月20日以降製造,販売されたB事件被控訴人商品六の販売価額は合計8億1640万円であり,その40%に当たる3億2656万円が控訴人ウエスタンアームスが被った損害である。
(5) 以上のとおり,控訴人ベレッタが被った損害額は合計1億0183万8000円であり,控訴人ウエスタンアームスが被った損害額は合計6億2940万円であるところ,上記2-4-1の(3)と同様の理由により,本訴においては,控訴人ベレッタが被った損害として,上記1億0183万8000円の2分の1に当たる5091万9000円(原審における請求額7449万4800円を減縮するが,一部請求として請求する。)を,控訴人ウエスタンアームスが被った損害として,上記6億2940万円の2分の1に当たる3億1470万円(原審における請求金額4270万0500円から拡張するが,一部請求として請求する。)を請求する。
(6) さらに,控訴人らは,B事件被控訴人らの不正競争によって,これを阻止するために弁護士を依頼し,訴訟遂行をせざるを得なかったものであるから,控訴人らにおいて支出を免れなかった弁護士費用相当額500万円は,同被控訴人らによって負担されるべきものであり,これを請求する。
2-4-3 C事件被控訴人らについて (1) 平成9年6月20日までに製造,販売されたC事件被控訴人商品の販売価額は合計7億4028万円であり,控訴人ベレッタが使用料として受けるべき金額は,その12%に当たる8883万2000円である。
(2) 平成9年6月20日以降製造,販売されたC事件被控訴人商品の販売価額は合計5880万円であり,その40%に当たる2352万円が控訴人ウエスタンアームスが被った損害である。
(3) 上記2-4-1の(3)と同様の理由により,本訴においては,控訴人ベレッタが被った損害として,上記8883万2000円の2分の1に当たる4441万6000円(原審における請求額5292万円を減縮するが,一部請求として請求する。)を,控訴人ウエスタンアームスが被った損害として,上記2352万円の2分の1に当たる1176万円(原審における請求額882万円から拡張するが,一部請求として請求する。)を請求する。
(4) さらに,控訴人らは,C事件被控訴人らの不正競争によって,これを阻止するために弁護士を依頼し,訴訟遂行をせざるを得なかったものであるから,控訴人らにおいて支出を免れなかった弁護士費用相当額250万円は,同被控訴人らによって負担されるべきものであり,これを請求する。
2-5 権利濫用の主張について 控訴人ウエスタンアームスは,実際に玩具銃業界において実銃の形態やそれに付された表示の使用についてのライセンス契約が締結されるのが慣例になっているという認識の下,これまでの玩具銃業界の悪弊を断つべく,控訴人ベレッタと交渉を重ねた末,本件ライセンス契約を締結したものであり,また,日本遊戯銃協同組合においても,控訴人ウエスタンアームス代表者が玩具銃業界全体として対応すべき旨を主張したところ,専ら被控訴人らの代表者らによる反対によって業界としての結束に至らず,玩具銃メーカー各社が個別的に控訴人ベレッタと折衝するようになったものであり,控訴人ウエスタンアームスが他の玩具銃メーカーを出し抜いたものではない。被控訴人らは,控訴人ベレッタに対し,控訴人各商品形態等の無断使用の事実を認め,今後無断で使用しない旨を通知しながら,控訴人ベレッタの要求に応ずることなく,旧態依然として控訴人各商品形態等の無断使用を継続したものである。このように,何らの努力も対価の支払もなく無許諾で他人の信用を利用する者が,誠実な努力と正当な対価も支払い,様々な負担の上で知的財産権の保護,保全を図ろうとしている控訴人ウエスタンアームスを非難する資格はなく,控訴人らの本訴請求は権利濫用に当たらない。
2-6 A事件被控訴人の過失相殺の主張について A事件被控訴人は,控訴人ベレッタから警告があった後も,継続して模倣製品を製造,販売している。控訴人ベレッタは,A事件被控訴人あるいは日本の業界全体に対して免責を与えたことはなく,むしろ,平成8年には具体的に警告を発し,平成9年には控訴人ウエスタンアームスと契約交渉の結果独占権を付与している。
したがって,控訴人ベレッタが得べかりし使用許諾料相当額について,過失相殺による減額をすべき事情はない。
2-7 A事件被控訴人の消滅時効の主張について 控訴人らが明らかにした玩具銃の機種は,いずれも,控訴人実銃M92Fを模した玩具銃の色彩の違いや,玩具銃としての呼称の違いにすぎず,控訴人ベレッタの標章を侵害した一連の不正競争の数量的内訳にすぎないものであるから,その請求権が各別に時効にかかることはない。
3 被控訴人らの主張 3-1 控訴人ベレッタとの関係における不正競争の成否について (1) 控訴人各商品形態周知性又は著名性について ア ある者の商品等表示広く認識されるためには,当該表示が使用された商品が取引市場に普及し,営業活動が地域に実在することが前提となるから,当該表示を使用した商品がなく,あるいは容易に手に入らず,その商品についての営業活動も行われていない地域においては,間接的な媒体によって当該表示が周知となることは相当困難である。我が国では,実銃の取引,所持,使用が一部の例外を除いて禁じられており,その市場及び需要者層は存在しない。そして,控訴人ベレッタは,我が国において控訴人実銃につき何ら営業活動及び宣伝活動をしたことがなく,我が国で控訴人実銃の形態を目にすることができた機会としては,控訴人実銃の紹介記事の掲載された外国の出版物やカタログが日本に持ち込まれてこれを見るか,あるいは,外国で控訴人実銃の紹介文献に接触した人によって日本国内で出版された控訴人実銃を紹介した出版物を見るといった,極めて限られた例があるにすぎない。小説や映画の中でたまたま控訴人実銃が使用されたとしても,それによってその形態が周知な商品等表示となるものではないこと,控訴人が指摘する控訴人実銃の形態の特徴は,後記イのとおり,控訴人実銃固有の特徴ということはできないこと等をも併せ考えれば,控訴人各商品形態が控訴人ベレッタの業務に係る実銃であることを示す商品等表示として著名性又は周知性を具備しているとは到底いえない。
商品の形態が不正競争防止法2条1項1号又は2号所定の商品等表示に該当し得る場合があるとしても,そのためには,当該商品形態技術的機能から必然的に導き出される形態を超えた独自の形態を有し,出所表示機能を取得するに至ることが必要であるというべきである。
控訴人各商品形態は,いずれも技術的機能上の要請からの必然的形態に由来するものであり,技術的機能から必然的に導き出される形態を超えた独自の形態を有するとはいえない。そして,全体の形態が控訴人各商品形態と酷似する実銃が多数存在し,我が国において,控訴人各商品形態と同様の形態の玩具銃も多数販売されていたのであるから,控訴人各商品形態は,出所表示機能を取得し得るものではなく,商品等表示とはなり得ない。
ウ 仮に,控訴人各商品形態が控訴人ベレッタの業務に係る実銃であることを示す商品等表示として周知となった時期があったとしても,我が国においては,十数社に及ぶ多数の玩具銃メーカーが古くから控訴人各商品形態を模し,自社の名称を併せて付した玩具銃を製造,販売してきたことにより希釈化され,控訴人各商品形態は,玩具銃の需要者の間で,特定の商品の出所を表示するものではなくなったというべきである。
(2) 商品等表示としての使用について 被控訴人商品及びそのパッケージ等に被控訴人各商品形態を使用することは,自他商品の識別力を持つ態様で用いるものではなく,商品等表示としての使用に当たらない。
玩具銃(モデルガン,エアーソフトガン)は,その性質上,実銃と同一の外形,表示を有することが必要な商品である。玩具銃が実銃と同一の形態を有することがあっても,それはモデルとされた実銃の種類,品質を示しているにすぎず,玩具銃の出所表示の機能を有する商品等表示としての使用には当たらない。控訴人実銃をモデルとした玩具銃を製造,販売する業者は,いずれもその商品の本体又はパッケージ等に,自らの名称を示す表示を必ず付している。そして,玩具銃の需要者は,その商品形態に基づいて玩具銃を選択,購入するのではなく,玩具銃メーカー名ごとに玩具銃の性能,威力,品質についての評価をして,これを選択,購入している。このように,玩具銃の分野においては,玩具銃メーカー名の表示こそが,自他商品識別力を有する商品等表示として機能しているものであって,玩具銃の商品形態は,被控訴人らの製品と他社の製品とを識別する商品等表示としての機能を有しているわけではない。控訴人ウエスタンアームス自身,控訴人ベレッタからその各種商品等表示の使用許諾を得たといいながら,自らの商品について,従来どおり「ウエスタンアームス」やその略号である「WA」等の表示を併せて付しており,これが控訴人ウエスタンアームスの製造,販売に係る玩具銃の自他商品識別表示となっている。玩具銃の需要者も,玩具銃の形態が控訴人ベレッタの商品を表示するものとは考えていない。これは,戦後,控訴人実銃その他の各種実銃をモデルとしたモデルガン,エアーソフトガンが国内に製造,販売されて,既に30年以上の実績を積み重ねて,取引者,需要者間に定着した慣行となっている事実である。控訴人らは,玩具の商品分野においては,実物を模した玩具を製造,販売する際,実物の形態やそれに付された表示の使用について,実物メーカーの許諾を得る慣行が既に確立していると主張するが,実物メーカーが玩具についての意匠権や商標権を有していない場合にもその許諾を得るような慣行はなく,逆に,玩具銃業界においては,実銃メーカーの許諾を得ることなく実銃を模した玩具銃を製造,販売するのが慣行であった。また,我が国の自動車メーカーが模型メーカーに許諾をした例があったとしても,それは我が国で認められていない「物についての商品化権(パブリシティ権)」の許諾契約であり,模型メーカー側も自動車メーカーから当該自動車に関する情報を入手するために契約をしたものであって,このような例をもって,直ちに被控訴人商品及びそのパッケージ等に被控訴人各商品形態を使用することが商品等表示としての使用に当たるということはできない。
(3) 混同について 被控訴人商品及びそのパッケージ等に被控訴人各商品形態を使用する行為は,控訴人ベレッタの業務に係る商品と混同を生じさせるものではない。
被控訴人商品は,我が国において流通せず,所持することができない控訴人実銃をモデルとした玩具銃であるが,控訴人ベレッタは,玩具銃を製造,販売しておらず,他方,我が国においては,十数社に及ぶ多数の玩具銃メーカーによって,控訴人実銃をモデルとしてその形態を模し,それに付されている表示をも付した玩具銃を製造,販売することが,従前から広く行われてきた。そして,被控訴人らは,控訴人実銃を模した玩具銃の製造,販売に当たり,その本体やパッケージ等に必ず自らの名称を付しており,玩具銃の需要者も,玩具銃の形態が控訴人ベレッタの業務に係る商品を表示するものとは考えていない。控訴人ベレッタの業務内容に実銃以外の製品の製造,販売又はライセンス付与が加わったとしても,それは比較的最近のことであり,その数量も少ない。控訴人ベレッタの最近の商品カタログには,射撃の際に着用するウェア,銃を収容するケース,ベルト等の商品も掲載されているが,これらは,一般的な衣服,雑貨として販売されているものではない。
控訴人ベレッタが日本で販売した控訴人模型銃についても,発射機構は取り除いてあるものの,実銃の部材そのものを使用し,価格も20万円以上するものであって,玩具銃(モデルガン,エアーソフトガン)とは別異の商品として取引者,需要者間に取引されており,その販売数量も極めてわずかである。
したがって,被控訴人商品及びそのパッケージ等に被控訴人各商品形態が使用されているからといって,その玩具銃が控訴人ベレッタ若しくはその子会社又はそのライセンシーの製造したものと誤認されるおそれはなく,また,そのように誤認された事実もないから,いわゆる広義の混同を生じさせるものではない。
3-2 控訴人ウエスタンアームスとの関係における不正競争の成否について 控訴人ウエスタンアームスは,控訴人ベレッタと競業関係にあるコルト社やストレイヤー・ヴォルト社等の実銃メーカーから,そのマークの使用についてのライセンスを受け,これを玩具銃に使用しており,控訴人ベレッタと共にその各種商品等表示の持つ出所識別機能,品質保証機能及び顧客吸引力を保護発展させるという共通の目的の下に結束しているという関係にあるとはいえない。
また,控訴人ウエスタンアームスが,本件ライセンス契約によって控訴人ベレッタから許諾を受けたのは標章の使用であり,控訴人各商品形態の使用についてではないから,控訴人各商品形態侵害を理由とする控訴人ウエスタンアームスの請求は失当である。
3-3 控訴人らの差止請求権の有無について 我が国において,控訴人実銃の需要者層がないにもかかわらず,控訴人各商品形態が玩具銃の需要者に知られるようになったのは,控訴人ベレッタの営業活動とは無関係に,被控訴人らを含めた玩具銃製造・販売業者が控訴人実銃をモデルに玩具銃として開発し,普及させたからにほかならず,控訴人ベレッタには,これによって侵害され得る営業上の利益は存在しない。
3-4 控訴人らの損害について 控訴人らの損害の主張は争う。
3-5 権利濫用の主張 仮に,控訴人各商品形態が,我が国の玩具銃の取引者,需要者間に著名又は周知になっているとすれば,これは,20年以上にもわたって控訴人実銃の形態やそれに付された表示を模した玩具銃を製造,販売した我が国の玩具銃メーカーの営業努力によるものである。控訴人ベレッタは,我が国の玩具銃メーカーが控訴人実銃の形態やそれに付された表示を使用していた状態を,平成8年3月ないし4月ころに警告するまで長年にわたって放置したものであり,自ら控訴人各商品形態についての権利の保全に何ら努力することなく,玩具銃メーカーの営業努力により控訴人実銃の形態が玩具銃の取引者,需要者にある程度知られるようになってから,その玩具銃メーカーに対して権利を行使しようとするものであって,到底容認し得るものではない。控訴人ベレッタの本訴請求は,権利の濫用に当たるか,あるいは,長年の権利不行使によりその権利が失効するに至っているものというべきである。
また,控訴人ウエスタンアームスは,我が国の玩具銃の製造・販売業者で組織する日本遊戯銃協同組合の組合員で,同控訴人の代表者は平成7年10月から平成9年10月まで同組合の代表者理事長の職にあった者であるが,同組合あてに控訴人ベレッタから控訴人実銃の形態等の使用の許諾について打診があった際,他の玩具銃メーカーを出し抜いて控訴人ベレッタから許諾を得たものであり,それまでは他の玩具銃メーカーと同様,控訴人ベレッタの許諾を得ることなく控訴人実銃の形態を模した玩具銃を製造,販売していたものである。控訴人ウエスタンアームスは,玩具銃の製造・販売業者が実銃の製造業者から実銃の形態等の使用の許諾を受けることなく,長年にわたり特段の争いもなく実銃をモデルとした玩具銃の製造,販売を続けてきた業界の実情を熟知しながら,控訴人ベレッタからのクレームに乗じて他の玩具銃メーカーによる使用を差し止めるために控訴人ベレッタから許諾を受けたものであって,控訴人ウエスタンアームスの本訴請求は,クリーンハンドの原則に反するばかりでなく,不正競争防止の名の下に公正な競業秩序を破壊し,自らの利益の独占を図ろうとするものであり,権利の濫用に当たる。
3-6 A事件被控訴人の過失相殺の主張 仮に,控訴人ベレッタがA事件被控訴人に対して損害賠償請求ができるとしても,長くA事件被控訴人の行為を容認し,その損害発生に寄与したというべきであるから,損害額の算定においては,過失相殺により減額されるべきである。また,控訴人ウエスタンアームスも,控訴人ベレッタから許諾を受けた者にすぎないから,控訴人ベレッタと同様に過失相殺の適用を受けるべきである。
3-7 A事件被控訴人の消滅時効の主張 仮に,A事件被控訴人に不正競争が成立するとしても,控訴人ベレッタは,遅くとも平成6年4月ころには,A事件被控訴人各商品の存在を知り,その損害及び加害者を知ったものである。したがって,平成7年9月22日までに生じた損害については,A事件の訴え提起がされた平成10年9月22日までに3年の消滅時効期間が経過した。
また,平成13年6月21日付け「請求の変更申立書」により追加された請求(A事件被控訴人商品一のうち「ベレッタ92Fブラックメタル」に係る損害)については,同「請求の変更申立書」が提出された同日までに3年の消滅時効期間が経過した。
A事件被控訴人は,本訴において,控訴人らに対し,上記各消滅時効を援用する旨の意思表示をした。
当裁判所の判断
1 控訴人各商品形態周知性又は著名性について (1) 上記第2の1の前提となる事実と,平成6年6月15日徳間書店発行の床井雅美著「ベレッタ・ストーリー」(以下「ベレッタ・ストーリー」という。A甲1),控訴人ベレッタ作成の1996年(平成8年)版会社案内(A甲9),国際出版発行の「GUN」(以下「GUN」という。)昭和56年12月号(A甲13),昭和57年5月号(A甲18),昭和60年4月号(A甲14),同年8月号(A甲15),平成2年6月号(A甲17),平成7年10月号(A甲20),平成8年8月号(A甲23),ワールドフォトプレス発行の「月刊コンバットマガジン」(以下「コンバットマガジン」という。)昭和60年11月号(A甲16),平成8年3月号(A甲22),ジョージ・マーカム著,床井雅美翻訳・監修の「月刊モデルグラフィックス別冊ガンズ・オブ・ジ・エリート 特殊部隊の最新ウェポン」(以下「特殊部隊の最新ウェポン」という。A甲19),ホビージャパン発行の「月刊アームズ・マガジン」(以下「アームズマガジン」という。)平成7年4月号(A甲21),平成9年5月号(A甲24),同年6月号(A甲26),控訴人ベレッタ代表者作成の陳述書(A甲11),控訴人ベレッタ作成のカタログ(A甲31),商業送り状(A甲39-1,2),控訴人ウエスタンアームス代表者作成の平成13年3月15日付け報告書(A甲158)並びに弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。
ア 控訴人ベレッタは,イタリアで古くから銃器を製造していたベレッタ・ファミリーを継承したイタリア共和国ブレシア市に本拠を置く銃器メーカーである。
控訴人ベレッタは,1903年(明治36年)に社長に就任したピエトロ・ベレッタの下で工場を拡大し,イタリア政府調達用銃器の分野に参入し,1930年代には,我が国から発注を受けたライフル銃の一部を製造した。
第2次世界大戦後,控訴人ベレッタの大型セミ・オートマチック・ピストルがイタリア軍及び警察の制式けん銃として採用され,1975年(昭和50年)に発表された控訴人実銃M92は,ブラジル軍制式けん銃として採用された。控訴人実銃M92の改良型として,1977年(昭和52年)に発表され,イタリア警察の制式けん銃として採用された控訴人実銃M92S,1983年(昭和58年)に発表された控訴人実銃M92F及びその軍用型でありアメリカ陸軍制式けん銃に採用された控訴人実銃M92SB-F,準サブマシンガンとして機能を有する控訴人実銃M93Rなどがある。また,控訴人は,1995年(平成7年),セミコンパクト・オートマチック・ピストルである控訴人実銃M8000 COUGARを発表した。
イ 控訴人ベレッタ代表者作成の陳述書(A甲11)によれば,平成10年において,控訴人ベレッタの売上高は,全世界において2211億5100万伊リラであり,我が国への輸出額は,実銃,衣類,アクセサリー,靴,皮革製鞄,眼鏡,時計,ナイフ等を含め,平成元年が15億0900万伊リラ,平成2年が21億0900万伊リラ,平成3年が33億5700万伊リラ,平成4年が22億1800万伊リラ,平成5年が41億8800万伊リラ,平成6年が34億7300万伊リラ,平成7年が24億1600万伊リラ,平成8年が46億8100万伊リラ,平成9年が52億5000万伊リラ,平成10年が44億7900万伊リラである。
控訴人ベレッタは,観賞用に控訴人実銃から発砲機能及び稼働機能を除去して商品化した高価な控訴人模型銃を製造し,平成5年に21丁,平成6年に11丁を我が国に輸出したが,これまで玩具銃を製造,販売したことはない。また,控訴人ベレッタが実銃のほかに販売している商品は,いずれも実銃の関連商品としてのいわゆるシューティング・アクセサリーのたぐいであって,主に実銃所持者を販売対象とするものであり,一般的な衣服,雑貨として販売されているわけではなく,その販売数量も多くはない。
ウ 控訴人商品形態一は,控訴人商品形態目録一記載のとおりであり,控訴人実銃M92Fの有する形態である。控訴人商品形態二は,控訴人商品形態目録二記載のとおりであり,控訴人実銃M93Rの有する形態である。また,控訴人商品形態三は,控訴人商品形態目録三記載のとおりであり,控訴人実銃M8000 COUGARの有する形態である。
(2) 控訴人実銃に係る控訴人各商品形態について,まず,書籍の記載を見ると,「ベレッタ・ストーリー」(A甲1)は,控訴人ベレッタの歴史及びその製造,販売に係るセミ・オートマチック・ピストルについて解説した文庫本であり,同書籍には,控訴人実銃M92F,同M93R及び同M8000 COUGARの写真が随所に掲載されている。また,雑誌の記載を見ると,「GUN」昭和56年12月号(A甲13)には,「米軍次期制式拳銃最新情報」との表題の下,控訴人実銃M92Sの写真が掲載され(52頁),「以上,気の狂いそうな要求性能。まさに米軍はスーパー・ピストルの採用をめざしているわけだ。・・・希望メーカーはS&W,ベレッタ,H&K,SIG/Sauer,コルトの5社で,トライアル・テストのスタートは9月15日と決められた。・・・おもしろいことに要求性能をほぼ満たせたのはS&Wとベレッタだけで」(53頁中上欄〜右上欄)と記載され,昭和60年4月号(A甲14)には,「特報!ベレッタM92SB-F米軍制式となる!」との表題の下,控訴人実銃M92SBの写真が掲載され,「1月14日朝,U.S.アーミー報道官・・・は1981年以来,えんえんと続けられていたU.S.サイドアーム・トライアルの最終結果を発表した。選ばれたのはベレッタM92SB-Fである。・・・ベレッタM92SBシリーズはトップ・クラスのミリタリー・オート・ピストル。米軍用として十分期待に応えてくれるはずだ」(頁不明左上欄〜右下欄)と記載され,昭和60年8月号(A甲15)には,表紙に,控訴人実銃M92SB-Fの写真が掲載され,「米軍新制式拳銃ベレッタM92SB-F」との表題の下,同実銃の写真及びそのデータが掲載され(21頁),平成2年6月号(A甲17)には,「アメリカ軍制式拳銃のすべて」との表題の下,控訴人実銃M92F等の多数の写真と共に,同実銃に関するレポート記事が記載され(10頁〜21頁),「コンバットマガジン」昭和60年11月号(A甲16)にも,控訴人実銃M92SB-Fに関する同様の記事が掲載され(8頁〜12頁),「GUN」昭和57年5月号(A甲18)には,「BERETTA・M93R」との表題の下,控訴人実銃M93Rの多数の写真と共に,同実銃に関するレポート記事が記載され(56頁〜72頁),平成7年10月号(A甲20)にも,「BERETTA M93R ベレッタ社製小型マシン・ピストル」との表題の下,控訴人実銃M93Rに関する同様の記事が掲載され(46頁〜59頁),「特殊部隊の最新ウェポン」(A甲19)には,上記同様の控訴人実銃M93Rの写真と共に,同実銃を紹介する記載がされ(92頁),「アームズマガジン」平成7年4月号(A甲21)には,控訴人実銃M8000 COUGARの写真と共に,「ベレッタの新シリーズとして登場したモデル8000クーガー。ベレッタの象徴であったスライドの切り欠きがなくなっている」との記載がされ(26頁最上段中央),平成9年5月号(A甲24)には,控訴人実銃M8000 COUGAR及び控訴人実銃M8040D等の写真と共に,「まだ発売されてそれほど日のたっていないベレッタ社のM8000クーガーに新バリエーションが登場。・・・9mmモデルがM8000F,.40S&WモデルがM8040Fだ。ダブルアクションオンリーのDタイプも発売された」との記載がされ(10頁),同年6月号(A甲26)には,「BERETTA M8000F COUGAR」の表題の下,控訴人実銃M8000 COUGARの多数の写真と共に,同実銃に関するレポート記事が記載され(10頁〜15頁),「GUN」平成8年8月号(A甲23)(46頁〜59頁),平成9年6月号(A甲25)(52頁〜61頁),「コンバットマガジン」平成8年3月号(A甲22)(6頁〜19頁)及び「アームズマガジン」平成9年6月号(A甲26)(10頁〜15頁)にも,控訴人実銃M8000 COUGARに関する同様の記事が掲載されている。そのほか,「GUN」平成2年6月号(A甲161-1),同年12月号(A甲164-1),平成3年6月号(A甲168),平成4年6月号(A甲174),同年9月号(A甲177-1〜3),平成5年6月号(A甲180-1),同年8月号(A甲181),同年9月号(A甲182-1,2),平成6年6月号(A甲186),同年10月号(A甲187-1〜3),平成8年5月号(A甲193-1,2),同年6月号(A甲194),同年10月号(A甲195-1,2),平成9年1月号(A甲197),同年3月号(A甲198-1,2),同年5月号(A甲199-1),同年6月号(A甲200-1),平成10年4月号(A甲203-1,2),同年6月号(A甲205-1),同年9月号(A甲206-1),同年10月号(A甲207-1,2),平成11年1月号(A甲208-1,2),同年3月号(A甲210-1),同年8月号(A甲214-1,2),平成12年4月号(A甲222-1),平成12年6月号(A甲223-1),平成13年1月号(A甲227-1,2)及び同年4月号(A甲228-1)等にも,控訴人実銃を紹介する記事,写真等が掲載されている。
さらに,控訴人ベレッタの製造,販売に係るけん銃を模した玩具銃についての記事が,「GUN」平成2年4月号(A甲159-1,2),同年5月号(A甲160),同年9月号(A甲162),同年11月号(A甲163),平成3年2月号(A甲165-2,3),同年3月号(A甲166),同年4月号(A甲167),同年9月号(A甲169),同年12月号(A甲170),平成4年1月号〜3月号(A甲171〜173),同年7月号(A甲175),同年8月号(A甲176),平成6年1月号(A甲183),同年4月号(A甲184),平成7年8月号(A甲189),同年9月号(A甲190-1),同年10月号(A甲191-1,2),平成8年2月号(A甲192),平成9年6月号(A甲200-2),平成10年2月号(A甲201-2),同年3月号(A甲202-2),同年6月号(A甲205-2),平成11年2月号(A甲209),同年3月号(A甲210-2),同年4月号(A甲211-1),同年6月号(A甲212-1),同年7月号(A甲213),同年9月号〜12月号(A甲215〜218),平成12年1月号(A甲219-1〜4),同年2月号(A甲220),同年3月号(A甲221),同年6月号(A甲223-2),同年7月号(A甲224),同年9月号(A甲225)及び同年12月号(A甲226)等に掲載されている。
(3) 平成5年6月12日付け産経新聞夕刊(A甲41)には,「P・ベレッタ氏死去」との表題の下,「イタリアの武器製造会社ベレッタ社のピエールジュゼッペ・ベレッタ氏が10日夜・・・死去した。・・・同氏は短銃などを米軍をはじめ世界各国の軍に売り込み,販路を拡大し,15世紀創業のベレッタ社を国際的企業に育て上げた」との記事が掲載された。また,朝日新聞記事データベース/G-Searchによる新聞記事の要約(A甲42)によれば,朝日新聞昭和63年3月19日付け朝刊には,「リビアへの武器密輸で『ベレッタ』社の社長聴取 イタリア」との記事が掲載され,平成4年9月16日付け朝刊,同年10月1日付け夕刊,平成5年1月20日付け夕刊,同年2月24日付け朝刊,同年6月4日付け朝刊,平成6年5月10日付け朝刊,同年11月25日付け朝刊,平成7年4月7日付け朝刊,同年10月13日付け朝刊,平成8年10月8日付け朝刊,平成9年1月11日付け夕刊,同年5月17日付け朝刊及び平成10年11月19日付け朝刊には,控訴人実銃が使用された犯罪及び事故の記事が掲載されたことが認められる。
控訴人ら訴訟代理人弁護士北新居良雄作成の平成11年9月1日付け報告書(A甲40)並びに「GUN」平成2年6月号(A甲161-2),同年12月号(A甲164-2.3),平成4年10月号(A甲178),平成5年1月号(A甲179),同年6月号(A甲180-2),平成6年10月号(A甲187-4),平成8年12月号(A甲196-1,2),平成10年2月号(A甲201-1)及び同年3月号(A甲202-1)によれば,東京創元社発行イアン・フレミング著井上一夫訳の小説「007」シリーズでは,主人公ジェームズ・ボンドが使用するけん銃を「ベレッタ」として,光文社発行門田泰明著の小説「黒豹」シリーズでは,主人公黒木豹介が使用するけん銃を「ベレッタ・ダブルアクションM92」として引用されるなど,いくつかの小説で引用された。
また,我が国で上映された映画「ダイハード」,同「ベレッタM92F 凶弾」,同「スーパー・コップ'90」,同「いつかギラギラする日」,同「8マン」,同「極東黒社会」,同「XX 美しき狩人」,同「GANGSTER 東京魔悲夜-外伝」,同「XX 美しき機能」,同「ピースメーカー」,同「蘇る金狼」,同「ドーベルマン」,同「ゼロ・ウーマン」,同「リーサル・ウェポン4」,同「スネーク・アイズ」,同「鉄と鉛」,同「黒の天使vol.1」,同「シュリ」,同「NYPD15分署」及び同「ユリョン」には,控訴人実銃ないしこれを模した模型銃(実銃か模型銃かは証拠上明らかではない。)又は控訴人実銃を模した玩具銃(以下,控訴人実銃並びにこれを模した模型銃及び玩具銃を総称して,「ベレッタ銃」という。)が使用され,このことを紹介する記事が「GUN」誌上に掲載されているが,これらの映画には,ベレッタ銃以外の銃が共に使用されることも多く,また,これらの映画の画面自体から使用されている銃がベレッタ銃であると識別することは困難である。
(4) 「GUN」平成10年6月号に掲載されたA事件被控訴人の広告(A甲152)には,玩具銃の写真と共に「生まれ変わった92F!!・・・M92Fミリタリーモデル新発売\2,900」と記載され,同年11月号に掲載された同被控訴人の広告(A甲153)には,玩具銃の写真と共に「M8000 COUGAR G・・・M8000クーガーG新発売\2,900」と記載され,平成11年12月号に掲載されたケーエスシーの広告(A甲155)には,玩具銃の写真と共に「M8000クーガーF・・・\18,500」と記載され,平成12年9月号に掲載されたケーエスシーの広告(A甲156)には,玩具銃の写真と共に「洗練のプロフィールM92ELITE・・・\19,500」と記載され,同年12月号に掲載されたケーエスシーの広告(A甲157)には,玩具銃の写真と共に「ステンレスシルバーフィニッシュ新登場!!M92FS INOX・・・\21,000」と記載され,また,控訴人ウエスタンアームス代表者作成の平成13年3月15日付け報告書(甲158)によれば,玩具銃メーカーによる控訴人実銃を模した玩具銃の広告が,「GUN」,「コンバットマガジン」及び「アームズマガジン」に多数回にわたり掲載されたことが認められる。
(5) 平成9年12月6日ネスコ第10刷発行の田宮俊作著「田宮模型の仕事 木製モデルからミニ四駆まで」(A甲30),「GUN」平成2年11月号(C乙1-1〜3),同年12月号(C乙2-1〜3),平成3年2月号(C乙4-1〜3),平成6年1月号臨時増刊「エアーソフトガン&モデルガンオール・カタログ'94」(C乙17-1〜3),平成8年1月号臨時増刊「エアーソフトガン&モデルガンオール・カタログ'96」(C乙19-1〜3),平成9年9月号(C乙20-1〜3),平成10年1月号臨時増刊「エアーソフトガン&モデルガン・オール・カタログ'98」(C乙21-1〜3),同年1月10日成美堂出版発行の「最新エアガンカタログ'98」(C乙7-1〜5),平成9年7月20日同発行の「最新エアガンカタログ'97-'98」(B乙8-1〜6),平成7年8月10日同発行の「最新エアガンカタログ'95-'96」(C乙14-1〜3),「コンバットマガジン」同年2月号(C乙18-1〜3),同年4月号(C乙13-1〜3),B事件被控訴人ケーエスシー企画室長b作成の平成14年8月25日付け「外観変更製品および玩具銃の形態について」(A乙131),同年9月12日付け「報告書 ベレッタ社とMGC社,および玩具銃との関連」(A乙132),同年11月1日付け「報告書 玩具銃の著名性(実像)と実銃の著名性(虚像)」(A乙136-1),同「乙第136号証の1(注,A乙136-1)の,添付資料1の報告内容の礎となった集計内容及び証拠資料一式」(A乙136-2),A事件被控訴人訴訟代理人弁護士原正雄作成の平成15年3月13日付け「実銃許可数報告書」(A乙139),A事件被控訴人作成の平成15年3月27日付け「アンケートはがき分析結果に関する報告書」(A乙140-1),アンケートはがき(A乙140-4)及びA事件被控訴人取締役c作成の「猟銃関係専門誌報告書」(A乙143)によれば,次の事実を認めることができる。
ア 我が国においては,銃砲刀剣類所持等取締法により,実銃の所持が一部の例外を除いて禁止されており,控訴人実銃は,いずれも合法的には一般に流通することがなく,所持することもできないものであり,平成13年末において,各都道府県公安委員会から所持の許可を受けた銃砲の数は,総数が43万5645丁,うち猟銃が35万7571丁であり,上記許可を受けた銃砲のうちけん銃の数は,試験・研究用が53丁,競技用が47丁の合計100丁にすぎず,けん銃の一般市場はほとんど存在しない。なお,我が国には猟銃関係専門誌として,月刊発行部数約7万部の「狩猟界」,同1万部の「全猟」があるが,控訴人ベレッタは,両誌に広告を掲載したことはない。
イ 玩具銃には,実銃の外観を模しただけで,弾丸を発射する機能を有しないモデルガンと,空気やガスの圧力によって実際にプラスチック製の弾丸を発射できる機能が付加されたエアーソフトガンがあり,我が国では,昭和35年10月創業の日本MGC協会(昭和56年に株式会社エムジーシーとなる。以下,併せて「エムジーシー」という。)が,おもちゃの銃を超える模型銃という意味合いを込めた「モデルガン」の名称で販売を開始した。その後,エアーソフトガンが製造,販売され,昭和60年ころからは,エアーソフトガンの占める割合が多くなるようになり,平成3年及び平成4年において,モデルガンの製造台数はエアーソフトガンの1%以下である。
我が国における玩具銃市場は,昭和48年には生産台数約35万丁,愛好者数100万人,昭和53年には国内メーカー7社,生産台数約60万丁であり,その後,生産台数は平成元年の約365万台をピークに,平成2年約303万台,平成3年約288万台,平成4年は約209万台と減少し,愛好者数も,平成元年の250万人〜300万人から,現在は150万人程度に減少したと推測されている。国内の玩具銃メーカーは,平成3年から平成12年までの間において,控訴人ウエスタンアームス及び被控訴人ら,エムジーシーなど合計57社が営業活動を行った。各玩具銃メーカーは,各実銃メーカーの製造,販売に係る各種実銃をモデルとして各種各様のモデルガン,エアーソフトガンをそれぞれ製造,販売しているが,これらは,いずれも現実に存在する実銃を基に,実物大でその形態や実銃本体に刻印された表示まで忠実に再現したものも多いが,同じ実銃をモデルにしたものであっても,材質,重量,リアルさの程度及び玩具としての対象年齢,更にエアーソフトガンの場合は射弾性能等において種々の違いがあり,それに応じて販売価格も様々である。
玩具銃の商品名については,ほとんどの場合,商品名の全部又は一部に基になった実銃の名称が単独で,あるいはその製造者名と併せて用いられ,それによってモデルとされた実銃が特定されている。そのため,メーカーは異なるが商品名は同じというものも数多く存在する。
玩具銃には,その本体に当該玩具銃を製造したメーカーを示す表示が付されていないものと本体にメーカーを示す表示が併せて付されているものとがあるが,玩具銃本体にメーカーを示す表示がなくても,そのパッケージ等には,基になった実銃を特定する表示と共に当該モデルガンを製造したメーカーを示す表示が付されている。
ウ 「GUN」,「コンバットマガジン」及び「アームズマガジン」等の銃関係の専門雑誌には,控訴人実銃を始めとする実銃や射撃に関する記事,写真のほか,玩具銃の紹介記事や宣伝広告が当該玩具銃の写真と共に掲載されているが,玩具銃に関する記事や広告においては,まず,その玩具銃を製造したメーカー名のほか,それがどの実銃をモデルにしたものかが玩具銃の商品名や当該実銃自体の名称をもって明示された上,当該実銃の外観,質感,射弾動作メカニズムがいかにリアルに再現されているかという点や,装弾数,命中精度等の射弾性能の点が主に記述されている。我が国で製造,販売されている玩具銃についての情報を一覧できるような形で編集したカタログも出版されているが,これにも当該玩具銃を製造したメーカー名,商品名等が掲載されている。
控訴人実銃をモデルとしてその外観を実物大で模した玩具銃についても,控訴人ウエスタンアームスを始め,多数の玩具銃メーカーによってかなり以前から製造,販売され,これらの玩具銃の多くは,他の玩具銃と同様,基になった控訴人実銃の形態や実銃本体に刻印された表示も再現されている。
エ 玩具銃の需要者は,上記イのとおり現在約150万人程度と推測されるが,そのうち上記銃関係の専門雑誌の購読者は,雑誌の販売部数から推計すると10%に満たず,また,A事件被控訴人作成の平成15年3月27日付け「アンケートはがき分析結果に関する報告書」(A乙140-1)及び平成11年12月ないし平成15年2月までの間にA事件被控訴人が購入者から回収したアンケートはがき(A乙140-4)によれば,「お買い上げ載いた商品を何で知りましたか?」との質問欄について,「雑誌」の外,「店頭で見て」と回答する者も多く,「お買い上げ載いた商品の・・・好きなところ」との質問欄について,約30%が連射機能,電動機能などの玩具銃としての作動のおもしろさを挙げ,約14%が重量感,表面仕上げ等の銃らしさが表現されていることを挙げ,実銃が好きであることを挙げたものは回答1000件中7件であり1%に満たない。
(6) 以上認定した事実に基づき,控訴人各商品形態周知性又は著名性について判断する。
商品の形態は,一次的には商品の特性そのものであるが,二次的には商品の出所を表示する機能をも併有し得るというべきであり,商品の形態が他の同種商品と識別し得る独特の形態である場合には,商品出所表示機能を有し不正競争防止法2条1項2号又は1号所定の商品等表示に該当する場合がある。そして,商品等表示に該当する商品形態が長年使用され又は強力に広告宣伝等がされたことにより,商品等表示として周知性又は著名性を獲得した場合には,当該商品形態は同号による保護を受けることができるが,他方,当該商品形態が他の同種商品と比べてありふれたものである場合には,長年使用され又は強力に宣伝広告等がされたとしても,商品等表示として周知性,著名性を獲得することはできない。
イ 控訴人商品形態一は,控訴人商品形態目録一記載のとおりであって,控訴人実銃M92Fの有する形態であり,その基本的な形態的特徴は,次のとおりである。
@ バレル1(末尾の数字は,別紙「控訴人商品形態目録一」記載の符号である。この項において,以下同じ。)を覆うスライド2が,先端の橋渡し部分3と後部約4分の1の部分を除いて大きくカットされ,バレルの上部及び左右両側面が直接露出し,フロント・サイト4は,スライドの橋渡し部分上に位置し,バレル先端5は,やや突出している。
A ハンマー6は,リングタイプであって,その外周は突起を有さず円滑であり,また,グリップ7上部後方には,セフティ・レバー8の操作を容易にする三角状の肉薄部分9が設けられている。
B トリガー・ガード10は,内周が卵形状であるとともに,その外周の前方下部は,角形に折曲している。
しかしながら,上記@のスライド2が大きくカットされ,バレル1の上部及び左右両側面が直接露出している点は,デザート・イーグル(A乙120の19頁),ワルサーP38(同20頁)等も備える形状であり,控訴人実銃M92Fに独特のものではなく,フロント・サイト及びバレル先端の形状も,独特の印象を与えるものとは認められない。また,上記Aのハンマー6の形状及びグリップ7上部後方の三角状の肉薄部分9の形状並びに上記Bのトリガー・ガード10の形状も,何ら独特の印象を与えるものとは認められない。さらに,控訴人ら主張の控訴人商品形態一の細部の形状は,いずれも正に細部の形状にすぎず,何ら独特の印象を与えるものとは認められない。
ウ 控訴人商品形態二は,控訴人商品形態目録二記載のとおりであって,控訴人実銃M93Rの有する形態であり,その基本的な形態的特徴は,次のとおりである。
@ バレル1(末尾の数字は,別紙「控訴人商品形態目録二」記載の符号である。この項において,以下同じ。)を覆うスライド2が,先端の橋渡し部分3と後部約4分の1の部分を除いて大きくカットされ,バレルの上部及び左右両側面が直接露出し,フロント・サイト4は,スライドの橋渡し部分上に位置し,バレル先端5は,スライド全長の約5分の1の長さ突出しており,突出部分にはガス抜きのスロット21が切られている。
A ハンマー6はリングタイプであって,その外周は突起を有さず円滑である。トリガー・ガード10の内周は,前方に延伸して扁平楕円状であるとともに,トリガー・ガード10の前方には,折りたたみ式のフォア・グリップ22が取り付けられている。
しかしながら上記@のスライド2が大きくカットされ,バレル1の上部及び左右両側面が直接露出している点は,上記イのとおり控訴人実銃M93Rに独特のものではなく,フロント・サイト4,バレル先端5及びスロット21の形状も,独特の印象を与えるものとは認められない。また,上記Aのハンマー6及びトリガー・ガード10の形状も何ら独特の印象を与えるものとは認められず,フォア・グリップ22が取り付けられている点は,MP5A5ミニ(A乙120の40頁),マイクロUZI BLK(同39頁)等も備える形状であり,独特のものとは認められない。さらに,控訴人ら主張の控訴人商品形態二の細部の形状は,上記イと同様の理由により,何ら独特の印象を与えるものとは認められない。
エ 控訴人商品形態三は,控訴人商品形態目録三記載のとおりであって,控訴人実銃M8000 COUGARの有する形態であり,その基本的な形態的特徴は,次のとおりである。
@ バレル1(末尾の数字は,別紙「控訴人商品形態目録三」記載の符号である。この項において,以下同じ。)のほとんど全面をスライド2が覆うフルカバータイプであって,バレル先端は,やや突出している。
A ハンマー6は,リングタイプであって,その外周は突起を有さず円滑であり,またグリップ7上部後方には,セフティ・レバー8の操作を容易にする三角状の肉薄部分9が設けられている。
B トリガー・ガード10は,内周が卵形状であるとともに,その外周の前方下部は角形に折曲し,フレーム12の後部にはエンドテールの突出部分を有さず,グリップ背面のえぐりが深く,かつ,銃身に近いハイグリップ形状となっている。
しかしながら,上記@のバレル1全面をスライド2が覆うフルカバータイプであること,バレル先端がやや突出していること,上記Aのハンマー6の形状及びグリップ7上部後方の三角状の肉薄部分9の形状並びに上記Bのトリガー・ガード10,エンドグリップ及びグリップ背面の形状は,何ら独特の印象を与えるものとは認められない。さらに,控訴人ら主張の控訴人商品形態三の細部の形状は,上記イと同様の理由により,何ら独特の印象を与えるものとは認められない。
オ ところで,「ベレッタ・ストーリー」(A甲1)には,控訴人実銃の写真が掲載され,また,雑誌「GUN」,「コンバットマガジン」及び「アームズマガジン」には,控訴人実銃M92F,同M93R及び同M8000 COUGARの多数の写真と共に,同実銃に関するレポート記事が記載され,控訴人実銃の多数の写真と共に,これら控訴人実銃に関するレポート記事が多数回にわたって掲載されたほか,上記控訴人実銃を模した玩具銃について掲載された多数の記事や玩具銃メーカーによる控訴人実銃を模した玩具銃の広告中にも,控訴人実銃の写真が掲載された。しかしながら,これらの雑誌の購読者は,玩具銃の需要者の10%に満たない上,その記事及び広告には,ベレッタ銃のほか,スミス・アンド・ウェソン・コープ,コルト社,ワルサー社,ルガー社,ラーマ(ガビロンド社),タンホグリオ社等,多数の実銃メーカー及びその製造,販売に係るけん銃やこれを模した玩具銃について記載され,その写真が多数掲載されている。そして,我が国において,多数の実銃メーカーの製造,販売に係る多数のけん銃が紹介されている中で,控訴人実銃M92F,同M93R及び同M8000 COUGARについて,書籍,雑誌等に上記の記載がされていても,このことは,他の実銃メーカーの製造,販売に係る多数のけん銃についても同様であったことが推認されるところ,上記控訴人実銃のみが,書籍,雑誌に取り上げられた回数やその宣伝広告の量などにおいて,他の多数のけん銃と比較して,歴然とした差異があったことを認めるに足りる証拠はない。そうすると,上記控訴人実銃の有する形態である控訴人各商品形態は,いずれもけん銃の形態として,独特の形態であるとは認められない上,他の実銃メーカーに係る多数のけん銃と比較して書籍,雑誌に取り上げられた回数やその宣伝広告の量に歴然とした差異が認められないのであるから,控訴人各商品形態が,控訴人ベレッタの業務に係る実銃であることを示す商品等表示として玩具銃の取引者,需要者の間に広く認識されていたものとは認め難い。そして,そうである以上,これらの控訴人各商品形態は,いずれも控訴人ベレッタの業務に係る実銃であることを示す商品等表示として玩具銃の取引者,需要者の間に著名なものとなっていたと認めることはできず,また,実銃の取引者,需要者の間に著名なものであったとしても,我が国における実銃の上記特殊性に照らすと,その取引者,需要者は,極めて少数の者に限定されるから,不正競争防止法2条1項2号にいう「著名な商品等表示」に当たるということはできない。
(7) そうすると,控訴人各商品形態は,いずれも控訴人らの業務に係る商品等表示として,著名なものとも,需要者の間に広く認識されているものとも認められないから,控訴人らの被控訴人らに対する請求は,いずれも,その余の点について判断するまでもなく,理由がないというべきである。
2 結論 以上のとおり,その余の点について判断するまでもなく,控訴人らの被控訴人らに対する請求をいずれも棄却した原判決は相当であって,控訴人らの本件各控訴は理由がなく,また,控訴人らの当審での追加請求及び拡張請求も理由がないから,いずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 岡本岳
裁判官 長沢幸男