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関連ワード 周知表示混同惹起行為(2条1項1号) /  周知性 /  広く認識 /  登録商標 /  需要者 /  商品等表示 /  普通名称 /  出所表示性(出所表示) /  品質保証機能 /  他人の商品 /  類似性(類似) /  外観 /  印象 /  記憶 /  混同のおそれ(混同) /  誤認混同 /  商品の形態(商品形態) /  差止請求(差止) /  営業上の利益 /  過失 /  共同不法行為 /  逸失利益 /  因果関係 /  弁護士費用 /  デザイン /  侵害 /  代理人 /  代表者 /  商品表示性 /  識別力 /  混同のおそれ(混同) /  品質等誤認表示(誤認) /  損害賠償 /  損害額 /  販売数量 / 
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事件 平成 13年 (ワ) 1059号 不正競争行為差止等請求事件
原告 二和貿易株式会社
訴訟代理人弁護士 川村和久
訴訟復代理人弁護士 内藤裕史
被告 有栖川商事株式会社
被告 株式会社巴商事
被告両名訴訟代理人弁護士 大久保 理
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2002/12/19
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告らは、別紙被告商品目録1表示の箱容器(中トレー・商品包装紙を含む。)に詰められた、同目録2表示の「天津甘栗チョコレート」を輸入し、販売し、又は販売のために展示してはならない。
2 被告らは、その占有する別紙被告商品目録1表示の箱容器(中トレー・商品包装紙を含む。)に詰められた同目録2表示の「天津甘栗チョコレート」を廃棄せよ。
3 被告らは、原告に対し、各自金2000万円及びこれに対する平成13年2月16日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は、原告が、被告らに対し、被告らが、原告の商品表示として商品形態需要者の間に広く認識されている「天津甘栗チョコレート」と類似する商品形態の「天津甘栗チョコレート」を輸入、販売し、原告の商品と混同を生じさせる行為(不正競争防止法2条1項1号)を行ったとして、同法3条に基づき被告商品の輸入、販売又は販売のための展示の差止め等を求めるとともに、同法4条に基づき損害賠償を請求した事案である。
1 争いのない事実等(末尾に証拠の掲記のない事実は当事者間に争いがない。) (1) 当事者 ア 原告は、食料品・日用品雑貨等の貿易業を目的とする株式会社である。
イ 被告有栖川商事株式会社(以下「被告有栖川商事」という。)は、農産物、畜産物、水産物、清涼飲料、加工食品の輸出入及び販売等を目的とする株式会社であり、被告株式会社巴商事(以下「被告巴商事」という。)は、食料品、日用雑貨、装身具及び室内装飾品の輸出入並びに販売等を目的とする株式会社である。
(2) 原告商品 ア 原告は、平成8年2月から、「海外旅行者向けおみやげ宅配カタログ販売」を行う業者(以下「カタログ販売業者」という。)が中国方面旅行者向けに販売するおみやげ宅配用商品として、別紙原告商品目録1(1)及び(2)表示の各外箱及び中トレーに同目録2表示の商品単体を詰めた「天津甘栗チョコレート」の名称を有する菓子(以下、別紙原告商品目録1(1)記載のものを「原告商品(1)」、同目録1(2)記載のものを「原告商品(2)」、両者を併せて「原告商品」という。)を輸入し、宝商事株式会社(以下「宝商事」という。)又はアオキインターナショナル株式会社(以下「アオキ」という。)を通じて、カタログ販売業者に販売している。
イ 「海外旅行者向けおみやげ宅配カタログ販売」とは、旅行者が、予めカタログ販売業者発行の宅配カタログ(世界各国毎又は各地域毎に、雑貨・食品・酒・高級ブランド品等の土産好適品が掲載されている。)に基づき商品の購入申込み(原則的には旅行出発前)をすると、カタログ販売業者が、申込者の希望する日に、自宅又は指定した場所に商品を直接納品するというシステムであり、海外旅行者にとっては、旅行先で土産物の選択に時間を費やしたり、旅行中大量の荷物を持ち運ぶ手間を省くことができるメリットがある。カタログ販売業者は、旅行会社の子会社等のツーリスト系、独立の非ツーリスト系、航空会社の子会社の商社など約12社が存在し、いずれも同様のシステムを採用している(甲41)。
ウ 原告商品は、「海外旅行者向けおみやげ宅配カタログ販売」用の商品であり、上記販路以外に一般のスーパー、小売店等では販売していない。
(3) 原告商品形態 ア 原告商品の形態は、次のとおりである(検甲2、3。以下「原告商品形態」という。) (ア) 商品単体は、別紙原告商品目録2表示のとおりであり、外形が栗の形をしたチョコレートである。
(イ) 外箱容器は、
a 大きさが縦約14p、横約32p、高さ約2.5pであり、
b 全体が赤地であり、
c 外箱容器の上表面に、@天然の毬栗の写真、A商品単体3個と、商品単体1個を真中から半分に切断して中身の状態が分かるようにしたものの写真、
B商品名「天津甘栗巧克力(英語表記TIANJIN CHESTNUT CHOCOLATE)」の文字を表示している。
(ウ) 外箱容器の中に、プラスチック製の茶色中トレーが配置されている。
(エ) 中トレーには、別紙平面図のとおり、横40o、縦35oの栗形状の窪みが、上下列に各7個、中列に6個の計20個設けられている。
(オ) 商品単体は、金色の包装紙に包まれて、中トレーの窪みに載置されている。
イ 原告商品の上表面のデザインには、販路の違いにより、原告商品(1)と(2)の2種類がある。原告商品(1)は、原告が平成12年2月末までカタログ販売業者最大手であるトラベラー株式会社(以下「トラベラー」という。)に販売していた商品であり、原告商品(2)は、原告がその他のカタログ販売業者向けに販売している商品であるが、どちらの外箱容器の上表面も、上記ア(イ)の特徴を有している(なお、原告商品(2)の外箱容器上表面には、前記ア(イ)cのほかに多数の天然の栗の写真が表示されている。)。
(4) 被告商品 被告巴商事は、平成12年3月1日から、別紙被告商品目録1表示の箱容器に同目録2表示の商品単体を詰めた「天津甘栗チョコレート」の名称を有する菓子(以下「被告商品」という。)を輸入し、被告有栖川商事は、被告商品を被告巴商事から仕入れてトラベラーに販売している。被告製品は、トラベラーの2000年3月版カタログに掲載された。
2 争点 (1) 原告商品形態は、原告の商品表示として周知性を獲得しているか。
(2) 被告商品の商品形態は、原告商品形態類似し、原告商品との混同のおそれを生じさせているか。
(3) 仮に(1)、(2)が認められる場合、原告は営業上の利益侵害され、又は侵害されるおそれがあるか。
(4) 被告商品の輸入、販売は、真正商品の並行輸入に当たるか。
(5) 原告の損害額
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(原告商品形態は、原告の商品表示として周知性を獲得しているか)について 【原告の主張】 原告商品形態は、次のとおり、遅くとも平成12年2月末までには、原告商品を表示するものとして、取引者であるカタログ販売業者及び一般需要者である中国旅行者の間で広く認識され、周知性を獲得していた。
(1) 「天津甘栗チョコレート」という商品は、原告商品が現れるまで日本国内はもちろん中国にも全く存在しなかった商品であり、原告代表者が平成7年1月ころから商品自体及びパッケージデザイン等について企画開発し、日本国内における「中国旅行者向けおみやげ宅配カタログ市場」向けの専用商品として、中国国内にある原告の製造委託先(平成8年までは上海申豊食品有限公司〔以下「申豊食品」という。〕、その後は蒙特莎(モントレッサ)食品有限公司〔以下「蒙特莎」という。〕)に厳格な指導の上で製造を委託し、平成8年2月から日本国内で販売している原告のオリジナル商品である。
(2) 原告は、原告商品の外観、形状の全体を通じて、それまでなかった「天津甘栗チョコレート」という独創的な新商品を、需要者・取引者に一目で印象付けるようなインパクトのある斬新なデザインを案出したものである。原告商品は、全体に有機的に一体となって商品コンセプトを具現しているもので、自他商品の識別機能を有しており、商品表示性を具備している。なお、原告商品の商品表示は、いわゆる商品形態そのものではなく、不正競争防止法2条1項1号に例示されている「容器、包装」のカテゴリーに該当するものと捉えれば足りる。
(3) 原告商品は、発売開始後、中国方面旅行者等の間で瞬く間に高い人気を博し、シーズン毎に発行される各カタログ販売業者の宅配カタログに必ず掲載される定番ヒット商品になり、数年前からは人気商品であることを示す「ヒット商品」「人気商品」「おすすめ商品」「売れてます」等の表示も付されるようになった。
また、宅配カタログには、原告商品の商品単体写真とともに、外箱容器の上蓋を開け、金色の包装紙に包まれた商品単体が茶色の中トレー上に載置された状態の写真が掲載されており、包装紙・中トレーを含む原告商品形態全体が原告の商品を表すものとして取引者・需要者に強く印象付けられている。原告商品(1)と(2)の外箱のデザインの相違も、同一コンセプト・イメージの枠組み内における実質的類似性を損なわない程度のバリエーションにすぎない。原告商品形態は、全体に有機的に一体となって原告商品のコンセプトを具現し、どこか特定の出所より出たことを弁別せしめる程度の商品表示性を有している。
(4) 原告商品は、平成12年2月末現在、海外旅行者向けおみやげ宅配商品カタログ市場でシェア100パーセントを占め、年間販売個数20ないし26万個、
累積販売個数77万個という販売実績を上げた。中国旅行者は、高齢のリピーターが3割程度と多く、それらの人が前回の好印象や中国旅行リピーターの友人の評判などから、原告商品を最初から指定することも多い。また、平成11年度の中国旅行者のうち、おみやげ購入層である純粋な観光客は、年間40万人強であると見られるのに対し、同年度の原告商品の年間販売個数は26万個強であることによれば、原告商品がいかに中国旅行者の多くに購入されているかがわかる。
【被告らの主張】 (1) 原告商品は、原告を出所源とする原告のオリジナル商品などではなく、外箱の裏面に印刷表示された製造メーカーである蒙特莎を出所源とする商品である。
そもそも、原告商品と同じデザインの天津甘栗チョコレートは、原告商品に先立ち、申豊食品が製造販売していたものであり、原告商品はこの類似品にすぎない。
(2) 原告商品形態は、自他識別力が欠如しており、不正競争防止法2条1項1号にいう商品表示性がない。原告は、同一商品である原告商品について、原告商品(1)と(2)の2種類の外箱を使用しており、原告商品形態の外箱に出所表示機能・品質保証機能を有する部分があるとしても、それは両者に共通する部分に限られる。両者の共通部分は、@箱のサイズ、A中央の毬栗の写真、B商品単体3個の前に、商品単体を真中から半分に切断して中身の状態が分かるようにした写真、C商品名(ただし、色・字体・大きさ・配置は全く異なる。)の4点であるが、@箱は、普通に土産物に使用されている長方形の薄箱であり、縦、横、高さのサイズに何ら差別化、個性化は認められず、A毬栗の写真及びB商品の輪切りの写真も、土産品のチョコレートで一般的に使用される手法で自他識別力はない。C「天津甘栗巧克力」の名称は、平成8年から中国の土産物市場で広く使用され、現在では普通名称化しており自他識別力はない。
原告商品形態は、全体としてみても斬新なところのないデザインである。
(3) 原告商品形態は、取引者であるカタログ販売業者の間でも、原告の商品表示としての周知性を獲得していない。カタログ販売業者への商品説明は、年1回行われるカタログ掲載商品入れ替えに伴うプレゼンテーションの時のみである。この時に納入業者が提出する「商品提案書」には、提案商品の製造者名その他商品の出所を記載する欄はなく、周知の商品を除いては商品の出所は問題にされていない。
原告は、蒙特莎から輸入した原告商品を宝商事及びアオキに卸販売するだけで、カタログ販売業者とは直接の取引関係にない。また、宝商事がトラベラーに販売した商品から虫が出るという問題が発生した際、宝商事等がトラベラーに提出した詫び状には、メーカー名が申豊食品であることを明らかにする記載がある一方で、商品の出所が原告である旨の記載はなく、輸入者が原告、販売者が宝商事と記載されていたにすぎない。そうすると、カタログ販売業者の従業員の多くが、原告商品を見て、その出所源が原告であるとの認識を持つことはあり得ない。
(4) 原告商品形態が、一般需要者である中国旅行者の間において、原告の商品表示として周知性を獲得する余地はない。
ア 原告商品は、原告→有限会社三絹(以下「三絹」という。)→宝商事又はアオキ→神戸タカラフーズ有限会社、株式会社優光→カタログ販売業者→海外旅行者という販路で販売されている。原告が一般需要者である海外旅行者と直接接触することはない。
イ 「海外旅行者向けおみやげ宅配カタログ販売」では、旅行者は、ほとんどが出発前に予めカタログを見て注文を出すが、宅配カタログには原告の名称は印刷されていないので、需要者は、注文時に原告の存在を知る可能性すらない。カタログ販売業者から原告商品が配達された段階でも、原告商品には、表面に代理店であるアルファスター社の登録商標が、裏面には製造者として蒙特莎の商号及び住所、代理店としてアルファスター社の商号及び住所がそれぞれ印刷されているのに対し、原告の商号は、裏面に貼付された輸入者シールに輸入業者として印刷されているだけである。しかも、カタログ販売業者から宅配を受けた海外旅行者のほとんどは、カタログ販売で購入した輸入品であることを隠すため、輸入者シールを剥がしてから土産品を配るのが一般的であり、その結果、海外旅行者から土産品として原告商品を受け取った日本人が原告の名称を知る可能性はない。
ウ カタログ販売業者は、商品表示が需要者の間で周知性を獲得している商品については、宅配カタログに出所を表示し、需要者を誘引している。チョコレートについても、著名なベルギーの「ゴディバ」、「ノイハウス」、「ギリアン」や、フランスの「ラ・トゥール・ダルジャン」などには、出所としてブランド名の記載がある。ハワイのマカデミアンナッツチョコレートについても、需要者の中で周知性を獲得している「ホースト社」のものには同社の商品であることが記載されている。これに対し、原告商品は、カタログ上出所の表示がなく、単に自社の取扱商品として、商品ナンバーとともに商品リストに掲載されている一商品にすぎないから、周知性を獲得しているとはいえない。このような商品が宅配カタログに掲載されることによって周知になることもない。
2 争点(2)(被告商品の商品形態は、原告商品形態類似し、原告商品との混同のおそれを生じさせているか)について 【原告の主張】 (1) 被告商品の形態は、一般需要者レベルにおいても、原告商品との誤認混同を生じさせるおそれがある。
ア 被告商品の形態は、原告商品形態と酷似しており、商品単体や中トレーの形状等は、原告商品のそれをそのまま型取りしたものと見られる。また、被告商品の箱容器上表面の商品単体断面写真は、原告商品形態中のそれ(上記第2、
1、(3)ア(イ)cA)を画像スキャナでスキャンして冒用したものである。
イ 加えて、原告商品及び被告商品の販売態様には、次の特徴がある。
(ア) 同一のカタログ業者の宅配カタログに掲載される商品は、原則として1種類である。
(イ) トラベラーの2000年3月版カタログには、前年度まで掲載されていた原告商品と入れ替わりに被告商品が掲載され、販売実績のないはずの被告商品に「お買い得人気商品」の表示が付され、他の商品と比べて広い掲載スペースが割かれている。
(ウ) 原告商品は、1996年から1999年までの4年間トラベラーの宅配カタログに掲載され、97年版及び98年版では「おすすめ」、99年版では「売れてます」の記載がされた。
(エ) 原告商品は、他のカタログ業者の宅配カタログでも「人気商品です」等の記載がされ、平成12年(2000年)当時のカタログにも引き続き同様の記載がされていた。
ウ 上記各事情を前提とすると、需要者である中国旅行者は、トラベラーの2000年3月版カタログを見た場合、次のような認識を有することになる。
(ア) 2、3年前に中国ツアーに参加し、宅配カタログで土産品を選んだ旅行者は、前回の記憶から、「前の旅行の際に配られていた宅配カタログ(トラベラーのものとは限らない。)に載っていた、人気商品を意味するマークが付いている、赤っぽい地色に栗の写真が写っている長方形のパッケージで、茶色っぽいトレーに金色の包み紙で包まれた丸っぽいチョコレートが入っていた天津甘栗チョコレート」程度には、原告商品を認識している可能性が高く、被告商品を原告商品と誤認混同するおそれがある。
(イ) 中国旅行は初めてであるが、ツアー業者を検討する際に複数の宅配カタログを入手した旅行者は、他のカタログ業者の宅配カタログで人気商品を意味する記載がされた原告商品と、トラベラーのカタログに「人気商品です」と記載されている被告商品とを、その商品表示の類似性により同一の出所の商品と誤認混同するおそれがある。
(ウ) トラベラーの2000年3月版カタログで被告の「天津甘栗チョコレート」を初めて目にした旅行者も、そこに「人気商品です」との記載があることから、当該商品が過去にかなりの売れ行きを示したものと誤解し、実際に過去に好調な販売実績のある商品(原告商品)と誤認混同するおそれがある。
エ 以上のとおり、本件では、一般需要者レベルでの混同が問題となり得るのであり、被告らは、まさにそれを利用しようとしたのである。
(2) 取引者レベルでも、事情を熟知しない新規参入者に狭義の誤認混同のおそれが存在することはもとより、被告らが被告商品を販売することにより、原告と特殊な取引関係を締結したのではないかなどの広義の誤認混同のおそれが生じる。実際に、被告商品がトラベラーの2000年3月版カタログに掲載された際、原告が原告商品を納入していた複数の取引業者は、被告商品を原告商品と誤認し、原告がトラベラーの要求を受け入れて上代の3掛けの価格で納入することにしたものと誤解し、自社へも同様の原価で納入するように要請するなどしたのである。なお、被告らは、被告商品の取引者であるトラベラーが被告商品と原告商品を誤認混同するおそれは皆無であると主張するが、トラベラーは、被告らと共謀して不正競争行為を行った共同不法行為者であり、このような者が原告商品と被告ら商品を誤認混同するはずがないのは当然のことであるから、被告らの主張は無意味である。
【被告らの主張】 (1) 一般需要者については混同のおそれは問題にならない。
周知性の判断の人的範囲と混同のおそれの人的範囲は一致するのが当然である。需要者である海外旅行者については、前記1【被告らの主張】(4)のとおり、原告商品形態が原告を出所源とする商品として周知性を獲得していることはあり得ない。
需要者は、カタログ業者が異なれば取扱商品も異なると考えるのが普通である。複数のカタログを比較検討する需要者であれば、トラベラーのカタログに掲載されている被告商品と、その他の業者のカタログに掲載されている原告商品を比較すれば、外箱デザインが異なることに容易に気が付くから、誤認混同することはない。また、トラベラーのカタログで初めて被告商品を見た需要者には、そもそも混同を起こす前提としての原告商品の認識がない。「人気商品です」との表示によっても、原告商品と被告商品を誤認混同する余地はない。
(2) 取引者であるカタログ販売業者においても、混同のおそれは皆無である。
ア カタログ販売業者は、前記1【被告らの主張】(3)のとおり、年1回のプレゼンテーションを経て1年間カタログに掲載する商品を採用するのであり、この審査過程において、原告商品と被告商品が誤認混同されるおそれは全くない。
イ 被告商品は、トラベラー以外のカタログ販売業者に販売されることはない。トラベラーは、従前、原告商品を宝商事から購入していたが、仕入値の交渉決裂から2000年3月版カタログへの原告商品の掲載を中止した。トラベラーは原告商品に替えて被告商品の購入を決定し、その際、中国に蒙特莎を訪ね、商品の確認をした上で被告商品の購入を決定したのであるから、トラベラーが原告商品と被告商品を誤認混同するおそれは皆無である。
ウ 被告らは、原告と何らかの特別の関係にあるかのような表示を用いて営業活動を行った事実はないから、原告が主張するような広義の混同は生じない。
3 争点(3)(仮に(1)、(2)が認められる場合、原告は営業上の利益侵害され、
又は侵害されるおそれがあるか)について 【原告の主張】 (1) 原告は、トラベラー以外にも複数のカタログ販売業者に原告商品を納入しており、トラベラーが原告商品のコピー商品である被告商品を販売していることで、市場において、直接的に原告商品の売上減少という多大な損害を被っている。
(2) 被告らは、トラベラーが2000年3月版カタログへの原告商品の掲載中止を決定していた以上、原告は営業上の利益侵害されるおそれがないと主張するが、トラベラーが原告商品の取扱中止を決定した理由は、トラベラーが、粗悪な品質とはいえ、安価で原告商品の全くのコピー商品である被告商品を確保できる見通しが立ったからである。
【被告らの主張】 被告らが蒙特莎と交渉を開始したのは、トラベラーが原告商品の取扱中止を決定した後であり、被告らがトラベラーに被告商品を販売してもしなくても、原告商品がトラベラーの2000年3月版カタログに掲載されることはなく、カタログに掲載されない以上、原告が宝商事を経由してトラベラーに原告商品を販売することはできなかった。よって、原告が営業上の利益侵害されたことはなく、侵害されるおそれもない。
4 争点(4)(被告商品の輸入、販売は、真正商品の並行輸入に当たるか)について 【被告らの主張】 (1) 被告商品は、蒙特莎の製造に係る商品であり、原告商品とは商品の出所及び品質が同一であるから、被告商品の輸入販売は真正商品の並行輸入であり、不正競争行為としての違法性を有しない。
仮に、原告商品が蒙特莎を出所源としない商品であったとしても、原告は、蒙特莎が原告商品の出所源であるとの外観を自ら作出したものであり、被告らは、同外観を信じて、善意無過失で蒙特莎から原告商品と同じ「天津甘栗チョコレート」(被告商品)を輸入販売したのであるから、原告が、被告らの並行輸入の抗弁に対し、原告商品の出所が原告であって蒙特莎でないと主張することは許されない。
(2) 原告は、被告商品が原告商品と比較して品質が劣ると主張するが、蒙特莎が香港のキャメイズ・ファー・イースト・リミテッドを経由して被告巴商事に販売した被告商品は、原告商品と同じものであり、被告商品に平成12年5月中旬以降使用されている「マロンオイル」というフレーバーも、原告商品に使用されている「マロンフレーバー」と同等品である。
【原告の主張】 原告商品形態は、原告の商品表示として周知性を獲得しており、原告の製造委託先にすぎない蒙特莎の商品表示として認識されているものではないから、被告らの主張は、真正商品の並行輸入を論ずるための前提を欠くもので失当である。
被告商品は、原告が蒙特莎に正規に製造販売を許諾した商品とは異なり、品質も原告商品より極めて劣るから、原告商品形態品質保証機能を著しく害するものである。
5 争点(5)(原告の損害額)について 【原告の主張】 被告らは、本件不正競争行為を行うにつき故意又は過失があり、次のとおり、原告が被った損害を連帯して賠償する義務がある。
(1) 逸失利益 被告らは、平成12年3月1日から平成13年2月末日現在まで、少なくとも15万個の被告製品の輸入を行い、これをトラベラーに上代(1200円又は1300円)の30パーセントで納入している。被告らの被告商品の販売による利益は1個当たり120円を下らないから、これにより被告らが得た利益は1800万円を下らない。
(2) 弁護士費用 本件訴訟提起にかかる弁護士費用は金200万円を下らない。
【被告らの主張】 被告有栖川商事が被告商品をトラベラーに販売したことと、原告商品(1)及び(2)の売上の増減との間には、因果関係が存しない。
トラベラー向けデザインである原告商品(1)の販売経路は、原告→三絹→宝商事→トラベラー→海外旅行者であり、その他のカタログ販売業者向けデザインである原告商品(2)の販売経路は、原告→三絹→アオキ→(神戸タカラフーズ有限会社、
株式会社優光)→カタログ販売業者→海外旅行者である。このうち、原告商品(1)については、前記2【被告らの主張】のとおり、被告商品の販売が開始される前に、
トラベラーの2000年3月版カタログへの掲載中止が決定していたから、被告らが被告商品をトラベラーに販売したことと、原告が上記販路を通じて海外旅行者に原告商品を販売できなかったこととの間には因果関係がない。他方、原告商品(2)については、「海外旅行者向けおみやげ宅配カタログ販売」では、予めツアーを企画した旅行会社から指名を受けたカタログ販売業者だけがツアー参加者にカタログを配布する権利を取得できることから、原告商品(2)が海外旅行者に販売されるか否かは、原告商品(2)をカタログに掲載している業者が、旅行会社から海外旅行者へのカタログ配布権を取れるか否かにかかっており、トラベラーのカタログに被告商品が掲載されているか否かとは因果関係がない。
当裁判所の判断
1 争点(1)(原告商品形態は、原告の商品表示として周知性を獲得しているか)について (1) 証拠(甲4〜17、甲42の1〜3、甲43、44の各1〜4、甲45の1〜3、甲46、甲47の1・2、甲48の1〜3、甲49の1〜5、甲62、64、69〜73、乙34、被告ら代表者本人及び後掲各証拠)並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
ア 「海外旅行者向けおみやげカタログ販売」について (ア) 「海外旅行者向けおみやげ宅配カタログ」には、現地の特産品として周知の商品も多数掲載されているが、日本の業者が企画開発し、現地の製造業者に製造委託して輸入した商品も相当数含まれており、そのことは、カタログ販売業者及び納入業者の間では常識である。このような輸入土産品は、日本人に好まれるよう、予め日本の納入業者においてパッケージデザインや原材料の配合割合を開発するが、商品自体は現地で製造されなければ土産物にならないため、日本の業者が現地の製造業者にパッケージを提供し、製造方法を詳細に指示した上で製造を委託し、これを当該製造業者から独占的に輸入してカタログ販売業者に供給する。もっとも、納入業者は、ある商品が他の納入業者の取扱商品であることを認識しているときには、同一の商品の取扱いを差し控えるのが業界の一般的な慣習である。
(イ) カタログ販売業者は、毎年8月か9月ころに年1回、次期カタログ掲載商品を決定するためプレゼンテーションを行う。納入業者は、各カタログ販売業者の定型の商品提案リスト(乙31の1〜5、乙33の1・2)に指定事項を記入する形で商品を提案する。商品提案リストには、各社とも、商品名、生産国、販売価格(上代)、納入価格(下代)、掛け率、包装形態、商品サイズ、商品説明などを記載する欄が設けられ、商品の写真も貼付されるが、最も重視されるのは上代と下代であって、現地製造業者や輸入者等の名称を記載する欄はなく、プレゼンテーションの際に、納入業者の担当者が、カタログ販売業者に対し、当該商品の企画者や現地製造業者について説明することもない。なお、カタログ販売業者に商品を納入する納入業者は、カタログ掲載商品が多岐にわたることもあり、700〜800社存在する。
(ウ) 宅配カタログは、有名ブランドを出所表示とする商品については、
顧客誘引のため製造業者の名称を表示しており、ハワイ方面カタログでは、ホースト社(乙3の2)、アイランド社(乙3の1)のマカデミアンナッツチョコレートに社名が表示され、東南アジア方面カタログでも、ベルギーのギリアン、ゴディバ、ノイハウス、フランスのラ・トゥール・ダルジャンのように、チョコレートのブランドとして著名なものには、宅配カタログに社名及び社標が表示されている(乙24)。これに対し、中国方面カタログに掲載されたチョコレート、クッキー等の菓子類には、原告商品を含めて、製造業者の名を冠したものはない。
(エ) 各社が発行する中国方面カタログの食品のページには、1ページ当たりに概ね6種類、多いものでは10種類程度の茶、菓子等が掲載されている。菓子類は、外箱の写真と中トレーに商品単体が並べられた状態の写真を併せて掲載されているが、これらの外箱は、多くが長方形であり、中国色を出すため、赤を基調とした地色に黄色又は金色の文字を表示し、パンダ、万里の長城、唐三彩など、中国を象徴するものとして日本人に認識されている図柄があしらわれている。中トレーは黒色又は茶色が一般的であり、茶色の中トレー上に15〜20粒の商品単体を載せた商品も相当数存在する。
(オ) 宅配カタログでは、顧客の人気が高い商品には、「おすすめ」「売れてます」「ヒット商品」「人気商品」などの標識が付されるが、これらの標識は複数の商品に付けられており、多いときには、1ページに掲載された商品の3分の1から半数に付されることもある。また、特に人気のある商品は、他の掲載商品と比較して広い掲載スペースが与えられ、枠囲みに入れて掲載されることもあるが、
このような商品も1種類とは限られず、複数存在するのが通常である。
イ 原告製品の企画開発、製造委託の経緯について (ア) 原告代表者は、平成7年1月ころ、中国に旅行する日本人観光客向けの新商品として、天津甘栗のペーストを栗形状のチョコレートで包んだ「天津甘栗チョコレート」の開発に着手した。原告は、当初、1991年(平成3年)から業務委託関係にあった申豊食品にサンプル製造を委託したが、品質に不満があったことから、日本の取引業者複数に、センター部分(栗バター/ペースト)の配合、
基本のチョコレート型の製作、フレーバー(香料)の提供をそれぞれ依頼し、申豊食品に対し、これらを用いてサンプルを製造するよう再度依頼した。また、原告は、取引先の日本のデザイン会社に、@中国色を出来るだけ出す、A商品単体を切った写真を表に入れるなどの要望をして、チョコレート型見本20粒及びトレー見本1個のデザインを依頼し、同社に発注した原告商品(1)及び(2)の外箱を申豊食品に渡して原告商品を製造させた(甲32、33、58〜61)。
(イ) 原告商品は、平成8年2月から、トラベラー外数社の「中国旅行者向けおみやげ宅配カタログ」に掲載され、カタログ販売業者を経由して中国旅行者に販売された。しかし、同年9月から12月にかけて、原告が申豊食品に製造委託の上輸入していた「中国八景チョコレート」に虫の混入した商品があったことから、原告は、原告商品の製造委託先を申豊食品から蒙特莎に変更し、蒙特莎に商品パッケージのフィルム及び基本配合、チョコレート型、フレーバーを提供して、原告商品の製造を委託した。その際、原告は、1997年(平成9年)3月26日、
三絹、蒙特莎の三者間で@委託生産する製品は日本市場における海外おみやげ品市場で販売する製品である(第1条)、Aすべての製品の版権は原告及び三絹に属し、蒙特莎はこれらの製品を第三者に販売してはならない(第3条)、B今後蒙特莎が中国現地マーケットで販売を希望する場合、必ず原告及び三絹の同意を得なければならず、販売方式及び価格についても協議の上決定しなければならない(第4条)との条項を入れた協議書を作成した(甲36の1・2)。
(ウ) 申豊食品は、原告が製造委託先を変更した後も、原告から提供されたチョコレート型及び原告商品(1)及び(2)の包装材料を返還せず、1998年(平成10年)ころから、中国国内で原告商品と同一形態の天津甘栗チョコレートの販売を開始した。数社がこれに追随し、中国国内で天津甘栗チョコレートを販売するようになった(乙1のA、B)。原告は、対抗策として、蒙特莎が中国国内の空港免税店等で天津甘栗チョコレートを販売することを認め、蒙特莎は、赤地に毬栗と栗及び商品単体を記載した略正方形の外箱及び茶色の中トレーを用い、外箱の表面及び裏面に自社名及び商標を明記した天津甘栗チョコレート(乙2のO)を販売した(甲24、甲68の1・2)。
(エ) 原告は、1999年(平成11年)1月5日、申豊食品を相手に、
中国八景チョコレートの返品による損害賠償を求めて中国国際経済貿易仲裁委員会上海分会に仲裁を申請し、同年3月18日、協議が成立した。同協議の中で、申豊食品は、原告商品(1)及び(2)の包材在庫を同年12月までに使い切った後、この2種のデザインと同じ規格の商品の製造を中止し、同時に、原告商品のチョコレート型を原告に返還する旨約した(甲22、23)。しかし、平成12年8月時点でも、同社は原告商品(1)と同一形態のものを市場で販売している(乙2のL)。その他、蒙特莎が販売する原告商品(1)、被告商品を含めて数種類の天津甘栗チョコレートが販売されている。
ウ 原告商品の販売、宅配カタログへの掲載状況等について (ア) 原告商品は、平成8年2月から、トラベラー外数社の「中国旅行者向けおみやげ宅配カタログ」に掲載され(トラベラーは原告商品(1)、他社は原告商品(2))、平成8年2月から12月までに8万4644個の売上げを達成した。平成9年以降、原告商品(2)を宅配カタログに掲載するカタログ販売業者が増えたこともあり、原告商品は、平成9年には20万2641個、平成10年には20万4874個、平成11年には26万7097個という売上げを達成し、平成12年2月までに累計で77万7979個が販売された。平成11年版カタログ発行の時点では、ほぼすべてのカタログ販売業者のカタログに掲載された(甲18)。
(イ) 原告商品(2)は、株式会社三洋堂(以下「三洋堂」という。)の平成11年中国旅行者向けお土産品カタログ販売では全31種類中1位の実績を上げた(甲29の2)。また、原告商品(1)は、トラベラーの中国方面販売実績において、
平成8年には7万1556個、平成9年には9万8712個、平成10年には8万9994個、平成11年には10万3164個の売上げを上げた。この平成11年の販売数量は、原告がトラベラーに納入した商品の中で販売実績2位の烏龍茶クッキーの約2.5倍、3位の中国八景チョコレートの約4.4倍であった(甲50、
78)。
(ウ) 原告商品(1)は、トラベラーの平成9年から平成11年までの中国向け宅配カタログに、「おすすめ」「売れてます」の標識を付し、外箱及び中トレー入りの状態を示した上で掲載された(甲5〜7)。原告商品(2)は、平成9年ないし10年から、株式会社ジェイ企画、株式会社ツーリストサービス、株式会社日旅産業、東急観光サービス西日本株式会社、株式会社ヱムパイヤエアポートサービス、
三洋堂、JR西日本グループ・ウエンズタウン(株式会社ジェイアール西日本デイリーサービスネット)、株式会社ジェイティービートラベランドの中国向け宅配カタログに、「ヒット商品」「人気商品」「売れてます」等の標識を付し、外箱の形状及び中トレー入りの状態を示した上で掲載された。また、原告商品(2)は、三洋堂(甲72)、株式会社ジェイティービートラベランド(甲73)の平成13年4月版のカタログでは、一般の商品より大きな枠で掲載されているが、セサミロシェチョコレート(甲72)、中国パンダアーモンドチョコ(甲73)も同様の扱いを受けている。
(2) 周知性について ア 原告商品は、「海外旅行者向けおみやげ宅配カタログ販売」という販売方式で販売される中国土産品であるところ、上記(1)で認定した「海外旅行者向けおみやげ宅配カタログ販売」におけるカタログ掲載商品選定及び旅行者への販売システムによれば、原告商品の需要者は、主として中国への海外旅行者及び潜在的旅行者(一般需要者ないし消費者)並びにカタログ販売業者及び納入業者(取引者)であると認めるのが相当である。
不正競争防止法2条1項1号は、他人の商品等表示として需要者の間に広く認識されている(周知性のある)ものと同一若しくは類似商品等表示を使用して需要者混同を生じさせることにより、表示に化体した他人の信用にフリー・ライドして顧客を獲得しようとするような行為を不正競争の一つとしたものである。したがって、同号にいう商品表示(商品を表示するもの)は、その商品が特定の者の商品であること(出所)を他から区別して認識できるものであることを要する(もっとも、出所の正式名称等を想起させるものであることまで必要とされるものではない。)。
原告は、原告商品の商品形態が商品表示として識別性を有し、周知性を獲得した旨主張するところ、原告のいう原告商品形態には、不正競争防止法2条1項1号に商品表示の例として列挙されている「商品の容器若しくは包装」を含むものであるが、それらを含む商品の外観、形状の全体を指すものと解される。しかるところ、商品の形態は、通常、主として商品の機能を発揮させ、又は美感を高めるなどの目的から適宜選択されるものであって、本来商品の出所を表示することを目的として選択されるものではない。しかし、商品の形態が他の業者の商品と識別し得る独特の特徴を有し、かつ、商品形態が長期間継続的かつ独占的に使用されるか、又は、短期間でも商品の形態について強力な宣伝広告がされるなどにより大量に販売されたような場合には、商品の形態が特定の者の商品であることを示す商品表示として需要者の間で広く認識されることがあり得、そのような場合には、商品の形態が、不正競争防止法2条1項1号にいう商品表示として保護されることがあると解される。
イ そこで、本件について検討すると、上記(1)で認定した事実によれば、原告商品は、平成7年ころ、「海外旅行者向けおみやげ宅配カタログ販売」で販売する輸入土産物として原告が開発した商品であり、平成8年2月から、「海外旅行者向けおみやげ宅配カタログ販売」を通じて中国旅行者に販売されたこと、それまで「天津甘栗チョコレート」という商品は、宅配カタログにも一般市場にも存在しなかったこと、原告商品は、「海外旅行者向けおみやげ宅配カタログ販売」において、平成9年以降、常に年間20万個以上の販売数量を上げ、平成8年2月から平成12年2月までの4年間に累計で77万個以上販売されたこと、平成11年度には三洋堂の中国向け商品で販売数1位を獲得し、業界最大手のトラベラーを含むほぼすべての宅配カタログに人気商品を表す標識を付して掲載されていたことが認められる。
したがって、「天津甘栗チョコレート」という原告商品そのものは、
「海外旅行者向けおみやげ宅配カタログ販売」の一般需要者である中国方面旅行者等の間で従来なかった新規な商品として人気を博し、カタログ販売業者においても人気商品として一般需要者に推奨してきたものであり、「天津甘栗チョコレート」という商品自体は、一般需要者の間で相当の知名度を得たものと推認することができる。
しかしながら、「海外旅行者向けおみやげ宅配カタログ販売」は、その販売システムの性質(前記第2、1(2)イ)上、あくまで海外旅行の土産物として一般需要者に販売されるものであるから、日本国内でその商品を開発した者や輸入業者は、海外旅行者向けのカタログ販売の段階で表面に現れることはないのである。
実際、原告商品が掲載されたカタログにも、輸入業者が原告であること等原告の名称は全く記載されておらず(甲4〜17)、原告商品自体にも原告の名称が印刷されているということもない(検甲2、3)。また、原告商品(2)には、外箱の表面に販売代理店である香港アルファスター社の商標が付され、裏面に「MANUFACTURER : SINO BELGIUM : ZHANGJIANG MONTRESOR FOOD CO , LTD P R CHINA」「DISTRIBUTOR : ALPHA STAR INDUSTRIES LTD HONG KONG」という、製造者が蒙特莎、販売者がアルファスター社である旨の表示があるのに対し(乙10の1・2)、原告の名は、外箱を包んだフィルムに貼付された輸入者シール(甲28の1・2)に「輸入元(又は輸入者):二和貿易株式会社」と記載されているにすぎない。しかも、カタログ販売で土産物を購入した旅行者は、土産品がカタログ販売で購入した輸入品であることを知られないよう、土産物を相手に渡す前に輸入者シールを剥がす場合が一般的である(乙34)。
以上によれば、原告商品は、仮にその商品形態が他の業者の商品と区別して特定の業者の商品であると認識されるだけの特徴を有するとしても、一般需要者の間では、その出所は中国における製造業者である蒙特莎であると認識されるものと解され、原告の商品として認識される可能性は皆無に近く、原告商品形態が原告の商品の商品表示として周知性を獲得し得る状況にあったとは認めることができない。
ところで、上記(1)で認定した事実によれば、原告は、現地製造業者である蒙特莎との間で、同社が製造する原告商品の独占的輸入販売契約を締結し、その中で、中国市場における原告商品の販売も統制できる旨の条項を設けていることが認められるところ、輸入業者も当該商品を独占的に輸入し、販売しているような場合には、当該商品の出所として需要者の間で周知性を獲得することもあり得ると解される。しかし、本件においては、原告が原告商品を中国から独占的に輸入している業者であることをカタログ販売において表面に出すこともなく、そのような宣伝広告をしてきた事実も認められないから、輸入業者である原告が原告商品の商品表示の出所として周知性を獲得したとは認められない。
ウ 次に、原告商品形態が取引者の間で原告の商品表示として周知性を獲得するに至ったといえるか検討するに、上記(1)で認定した事実及び上記第2、
1、(2)の事実によれば、原告商品は、宝商事及びアオキという複数の商社を通じてカタログ販売業者に納入され、原告がカタログ販売業者と直接の取引関係に立つことはないこと、宅配カタログの掲載商品はおびただしい数に及ぶことから、納入業者からカタログ販売業者への商品説明は、年1回のプレゼンテーションにおいて、
商品提案リストにより行われるだけであり、通常、商品の企画開発者、現地製造業者、輸入者等の説明がされることはないことが認められる。
以上のような販売形態に照らすと、カタログ販売業者及び納入業者の間においても、原告商品形態が原告の商品であることを示す商品表示として周知性を獲得するに至ったとは認め難いといわざるを得ない。
この点について、カタログ販売業者のうち、三洋堂、株式会社ヱムパイヤエアポートサービス、株式会社ツーリストサービス、株式会社ジェイ企画、株式会社日旅産業及び株式会社アイランドキングの担当部課長等が作成した陳述書には、「天津甘栗チョコレート」は、原告が開発し、中国の工場に製造させて輸入販売している商品であるとの認識を有している旨の記載がある(甲29の1、甲30、37〜39、51、甲79の1〜5)。これに対し、カタログ販売業者である株式会社シィーユーの代表取締役作成の陳述書には、「弊社も含めカタログ販売業者は、菓子類に限定しただけでも相当数の商品をカタログに掲載しておりますので、特に製造者名が周知となっているような商品でない限りは、カタログ掲載商品の製造者名を気に掛けて見ることもありません。そのため、ほとんどの社員は、当社が取り扱っている天津甘栗チョコレートの製造者が蒙特莎食品有限公司であることも特に認識はしていないと思います。況や、それが二和貿易鰍ェ開発し、中国で委託生産させて日本に輸入している商品であるとの認識をもっている社員はいないと思います。」との記載がある(乙34)。「天津甘栗チョコレート」が原告が開発して輸入販売している商品であることを認識しているとのカタログ販売業者の担当者が提出した陳述書の中には、原告側で作成したと推認される同じ文章の末尾に署名したものがあること(甲37〜39、51)のほか、乙34とも対比すると、
上記の原告提出の陳述書の内容を採用することはできない。
なお、原告は、原告商品形態が原告の商品表示として取引者の間で周知性を獲得していることを前提として、現実に原告商品と被告商品との間で誤認混同が生じた旨主張する(第3、2の【原告の主張】(2))が、そのような事実の存在を認めるに足りる的確な証拠もない。
エ 以上によれば、原告商品形態が原告商品を表示するものとして需要者(中国方面の旅行者である一般需要者及び取引者)の間で広く認識され、周知性を獲得するに至ったと認めることはできない。
2 以上の次第で、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないので、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 阿多麻子
裁判官 前田郁勝