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関連ワード 他人の営業 /  記憶 /  過失 /  因果関係 /  信用回復措置 /  侵害 /  代理人 /  品質誤認惹起表示(2条1項13号) /  虚偽の事実 /  損害賠償 /  推定 /  営業上の信用 / 
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事件 平成 12年 (ネ) 4023号 損害賠償請求控訴事件
平成 12年 (ネ) 4024号 損害賠償請求控訴事件
平成12年(ネ)第4023号被控訴人,同第4024号控訴人 株式会社 梅谷製作所(以下「1審原告」という。)
同訴訟代理人弁護士 本渡諒一
同 伊藤孝江
同 木島喜一
同補佐人弁理士 丸山敏之 平成12年(ネ)第4023号控訴人,同第4024号被控訴人 株式会社 イソワ(以下「1審被告」という。)
同訴訟代理人弁護士 中村稔
同 富岡英次
同 渡辺光
裁判所 大阪高等裁判所
判決言渡日 2001/09/06
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 1審原告の控訴に基づき,原判決を次のとおり変更する。
(1) 1審被告は,1審原告に対し,100万円及び内80万円に対する平成10年6月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 1審原告のその余の請求を棄却する。
2 1審被告の控訴を棄却する。
3 訴訟費用は,第1,2審を通じ,これを20分し,うち1を1審被告の,その余を1審原告の負担とする。
4 この判決は,1(1)に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 1審原告 (1) 原判決を次のとおり変更する。
1審被告は,1審原告に対し,7071万3585円及び内6111万3585円に対する平成10年6月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
1審被告は,日刊板紙段ボール新聞社(本社 東京都文京区)が発行する板紙段ボール新聞の紙上に原判決別紙謝罪広告目録(一)の謝罪広告を,包装ニュース社(本社東京都千代田区 )が発行する週刊包装ニュースの紙上に原判決別紙謝罪広告目録(二)の謝罪広告を,それぞれ本判決日から2か月以内に各2回掲載せよ。
(2) 1審被告の控訴を棄却する。
(3) 訴訟費用は,第1,2審とも1審被告の負担とする。
2 1審被告 (1) 原判決中,1審被告敗訴部分を取り消す。
1審原告の請求を棄却する。
(2) 1審原告の控訴を棄却する。
(3) 訴訟費用は,第1,2審とも1審原告の負担とする。
(以下,1審原告を「原告」,1審被告を「被告」という。また、略称については原判決のそれによる。)
事案の概要
1 本件は,原告が被告に対し, (1) 被告が,原告の取引先に対し,原告の営業上の信用を害する虚偽の事実が記載された本件対比表を提示ないし交付して説明した行為は,不正競争防止法2条1項13号の不正競争行為に当たるとして,同法4条に基づき損害賠償を, (2) 被告が,本件侵害訴訟の提起及び本件仮処分の申立てを行い,虚偽の事実が記載された本件広告@ないしB,本件記事@,Aを掲載し,本件広告Aをファックス送信し,口頭で原告の取引先に対し「裁判していて,すぐに原告の機械は製造できなくなる。」などと流布して,本件実用新案権を行使し,又はその警告をしたが,後に本件実用新案登録を無効にすべき旨の審決が確定したとして,実用新案法29条の3に基づき損害賠償を, (3) 被告が,本件広告@ないしB,本件記事@,Aを掲載し,本件広告Aをファックス送信し,原告の取引先に対して口頭で流布した各行為が,不正競争防止法2条1項13号に当たるとして,同法4条に基づき損害賠償を, (4) 被告が,本件広告@ないしB,本件記事@,Aを掲載したことにつき,謝罪広告の掲載を それぞれ求めている事案である。
原判決は,上記(1)のうち,本件対比表の一部に営業上の信用を害する虚偽の事実が含まれるとし,45万円と内40万円に対する平成10年6月3日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で損害賠償請求を認容したが,その余の請求については,理由がないとして棄却した。
2 争いのない事実等 争いのない事実等は,原判決「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」一に記載のとおりであるから,これを引用する。(ただし,原判決14頁3〜4行目の「インキ供給回収装置台5」を「インキ供給回収装置台15」と,同18頁10行目の「被告は、再度、」を「原告は,」と各改め,同21頁5行目の「甲一五」の次に「,16」を加え,原判決別紙広告・記事目録(一)の本文4行目の「実用新案構侵害」を「実用新案権侵害」と改める。)。
3 争 点 争点は,原判決「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」三に記載のとおりであるから,これを引用する。
4 争点に関する当事者の主張 争点に関する当事者の主張は,原判決「事実及び理由」中の「第三 争点に関する当事者の主張」に記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,原判決47頁1行目の「原告の主張は、」を「原告は,」と,同2行目の「基づくものであり、」を「基づく主張をするが,」と各改める。)。
争点に対する判断
(以下,原判決を引用する場合,検甲1は検甲1,2,検乙1は検乙1,2とそれぞれ読み替えることとする。) 1 争点1(本件対比表の内容が虚偽か否か。)について (1) 項目「ゴムロールの絞り調整はできるか?」における記載について 本件対比表中,上記項目における記載が虚偽とはいえないことについては,原判決「事実及び理由」中の「第四 争点に対する判断」一1に記載のとおりであるから,これを引用する。
ただし,原判決76頁末行から次頁2行目までを次のとおり改める。
「 以上によれば,同項目における『ミューの機構は?』の欄の『微妙な絞り調整はできない。』との記載部分は虚偽とはいえない。
そして,『ミュー』の欄の『調整不可』との記載は,文字どおり読めば,調整が一切不可能と読め,事実に反するといわざるをえないが,上記『ミューの機構は?』の欄と併せ読めば,上記の限度で調整が困難であることを意味することは明らかであり,虚偽とはいえない。」 (2) 項目「洗浄中に印版交換できるか?」における記載について ア 検甲1,2,甲43,検乙1,2及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(ア) 原告印刷機は,通紙完了時に,インキ転移ロール(アニロックスロール)と版胴との間隔は,自動的に印版の厚さに1.5oを加えた間隔となるように設計されているから,印版とインキ転移ロールとの間隔は1.5oとなり,印版が厚さ約0.2oのフィルム上に設置されていることを考慮に入れれば,上記間隔は1.3oとなる。
もっとも,上記間隔は,インキ転移ロールの最下点を通過する水平線と版胴の最上点を通過する水平線間の間隔であるところ,上記ロールと版胴の中心は,ずれているため(同一垂線上にない。),実際のロールの間隔は,1.3oより広くなる。
(イ) 被告印刷機は,通紙完了時に,インキ転移ロールと版胴との間隔は約10ないし15oに離間するように設計されている。
イ 以上によると,本件対比表記載の数値が虚偽とはいえず,また,これを前提とした「ミューの機構は?」の欄の「印版がこすれる可能性があり」との記載部分が虚偽とはいえない。
しかし,だからといって「印版がはずせない」とは限らず,甲43,検甲1,2によると,原告印刷機のインキ転移ロール回転時に印版交換作業をしている状況が撮影されているが,被告製品における印版交換作業状況と大きな違いは窺えない。
確かに,インキ転移ロールと版胴との間隔が狭ければ,それだけ,被告が指摘するような,印版がインキ転移ロールに接触する事故の発生確率は高くなると考えられるが,そのことによって,印版の交換作業に従事する者が,これをためらうほどに印版を傷つける可能性が高いと認めることはできない。
ウ そうすると,原告印刷機の方が被告印刷機よりも,印版の交換の際,印版を傷つける可能性が高いとしても,「ミューの機構は?」の欄の「印版がはずせない。」との記載部分とか,「ミュー」の欄の「できない」との記載は虚偽といわざるを得ない。
(3) 項目「洗浄は自動か?」における記載について ア 本件対比表中,上記項目における記載が虚偽とはいえないことについては,次のとおり付加するほか,原判決「事実及び理由」中の「第四 争点に対する判断」一3に記載のとおりであるから,これを引用する。
イ 原告は,「付きっきり」と記載するのは虚偽の表現であると主張するところ,その表現にはいささか誇張といわれてもやむを得ない面を有するが,そのように表現するに至った理由が本件対比表に記載されており,「付きっきり」という意味やその程度は,おのずと理解することができることを併せ考えると,虚偽とまではいえないと考える。
ウ また,原告は,インキ垂下の問題があるので,原告印刷機では意図的に半自動としたと主張するところ,確かに,意図的に半自動とする意図はあり得るが,洗浄についての自動化という観点から比較する限りにおいて,本件対比表における評価は可能であり,上記記載を虚偽ということはできない。
(4) 項目「セット替え時間」における記載について ア 上記項目における「ミューの機構は?」の欄の「洗浄中に印版交換ができない。」,「洗浄時はオペレーターが付きっきり」との記載部分は,本件対比表における「洗浄中に印版交換できるか?」,「洗浄は自動か?」の各欄の記載を引用したものである。前者は,前記(2)で述べたとおり,虚偽といわざるをえないが,後者は,前記(3)で述べたとおり,虚偽とまではいえないというべきである。
イ そうすると,同項目における「ミュー」の欄の「遅い」との記載,「ミューの機構は?」の欄の「セット替え遅い」との記載部分は,前記(2)の記載を理由とすることはできないが,前記(3)の結論を理由とする限りにおいて,虚偽の事実とはいえない。
(5) 項目「インキの粘度変化は?」における記載について ア 本件対比表中,上記項目における記載が虚偽とはいえないことについては,次のとおり付加するほか,原判決「事実及び理由」中の「第四 争点に対する判断」一5に記載のとおりであるから,これを引用する。
イ 原告は,当審になって,原告印刷機のインキ粘度調整機構は,水分を直接補給するものではなく,インキ貯留部の上方30pの位置に設置されたパイプに設けられた直径0.5oという微少な多数の噴霧孔から噴霧されるのであって,この方法により噴霧された水分は,インキ貯留部上方の空間部の湿度を高めてインキ中の水分の蒸発を抑えることを目的としており,インキ中に水分として吸収されるとしても微量であり,その速度も極めて緩やかであると主張する。
しかし,原告の上記主張を裏付けるに足りる証拠はなく,原告が,水分を直接補給するものではないとの主張を原審ではしていなかったことも併せ考えると,本件対比表の上記項目の記載が虚偽であるとまで認めることはできない。
(6) 項目「インキの使用量は?」における記載について ア 本件対比表の記載によると,上記項目にいう「インキの使用量」とは,印刷の終了後(その後,別の色のインキを使用して印刷を続行する場合もあり,その場合は「色替え前」となる。),インキの全てを回収することができず,捨てざるを得ないインキの量を意味するものであることが認められる。
ところで,甲40,乙30によると,原告作成の原告印刷機のカタログに,原告印刷機における色替え前の1回のインキ使用量(廃棄量)は約50tであると記載されていることが認められる。
被告は,上記数値について,あらゆる条件をベストにした場合のテストにおける極小値であると考えられると主張するが,これを裏付けるものはなく,上記認定を左右しない。
また,乙44によると,平成8年4月24日付板紙段ボール新聞に発表された原告印刷機の改良型に関する記事として,旧式のインキ使用量は200tであったが,新式では40tとなったことが記載されていることが認められる。しかし,弁論の全趣旨によると,乙30のカタログは,本件対比表作成(平成6年4月)の前に作成されたものであると認められること,測定方法や旧式の意味が明らかとはいえないことに照らすと,乙44をもって,上記認定を左右するに足りない。
一方,被告印刷機のインキ使用量(廃棄量)については,甲49によると,100tであることが認められ,原告印刷機のインキの使用量が被告印刷機より多いということはできない。
イ 被告印刷機との比較において,原告印刷機のインキの粘度調整機構はインキの粘度変化が大きいことは前記のとおりであり,そうすると,被告が主張するように,原告印刷機においては,インキの貯留量を多くして水分の蒸発率を低くする必要があり,インキ貯留量が増えることは容易に推認でき,これを前提とすると,インキの交換の際にインキを捨てる量が多くなることも推認できる。
しかし,上記項目にいう「インキの使用量」は,既述のとおり,印刷終了後(色替え前),インキを回収した後の廃棄しなければならないインキの残量をいうところ,その残量については,前記アで検討したとおりであり,本件対比表作成時点において,原告印刷機の方が被告印刷機よりインキの廃棄量が多いと認めることはできない。
ウ そうすると,上記項目における「ミューの機構は?」の欄の「インクの粘度が上がりやすい」,「ロール間のインクの溜め量を多くする必要がある」との記載は虚偽とはいえないが,その余の「回収が不十分」,「インクの捨てる量が多い」との記載部分及び「ミュー」の欄の「多い」との記載は,いずれも虚偽であるというべきである。
(7) 項目「アニロックスロールの駆動ギヤの幅」における記載について ア 本件対比表中,上記項目における記載に虚偽が存すると認めるべきことについては,次のとおり付加するほか,原判決「事実及び理由」中の「第四 争点に対する判断」一7に記載のとおりであるから,これを引用する。
イ 被告は,アニロックスロールの駆動ギヤの部品図(甲42の1・2)について,ヤマゲンパッケージ(本件対比表の対象となった原告印刷機が納入された工場)に,上記の部品図に記載されたとおりのものが納入されたという裏付けがなく,甲45,46についても,その記載内容を裏付けるものがないと主張する。
しかし,原告において,甲42の1・2と異なるギヤを使用して原告印刷機を製造したと疑うべき事情も存しない以上,上記裏付けがないというだけでは,甲42の1・2に記載された内容のギヤが使用されたとの推測を否定することはできない。
また,甲45については,書面作成時には,書面作成者の手元に原告印刷機がなかったというのであるから(弁論の全趣旨),書面作成者が,アニロックスロールの駆動ギヤの幅を具体的に記憶していたかどうかについては,疑問の余地がないではない。しかし,だからといって,上記の認定を左右するには足りず,甲46については,その信用性を疑うべき事情は見当たらない。
ウ また,被告は,平成6年8月ころ,愛知県安城市の十條段ボール株式会社名古屋工場において原告印刷機を見学した被告担当者C作成の報告書(乙41)を提出し,これによると,アニロックスロールの駆動ギヤの幅は目視距離で20o前後であったというが,その裏付けはなく,作成者の記憶に基づいたものであり,報告書の作成された時期が平成13年3月2日であることに照らすと,乙41中の上記部分を容易に採用することはできない。
エ 被告は,原告が標準タイプについても30o幅の駆動ギヤを使用していることを認めているとも指摘する。しかし,仮に,原告が30o幅のものを標準タイプに使用することがあったとしても,甲42の1・2の存在も総合すると,原告が,被告が主張するような幅の狭いギヤしか使用していなかったのを,途中から,幅の広いギヤを使用するものに変更したというような事情は窺えず,上記事実をもって前記認定を左右するには足りない。
(8) 項目「生産管理装置について」,同「ユニットの開閉について」,同「スロッタ部NO2ヨークについて」,同「給紙部の紙粉の処理について」及び同「Wスロッタユニットの下ヨークのねじ軸について」における各記載について 本件対比表中,上記各項目における記載が,いずれも虚偽とはいえないことについては,原判決「事実及び理由」中の「第四 争点に対する判断」一8ないし12に記載のとおりであるから,これを引用する。
(9) 以上によれば,本件対比表の各記載のうち,上記(2),(6)及び(7)に関する各記載は,営業上の信用を害する虚偽の事実であると認められるが,その余の記載部分は虚偽とはいえない。
なお,原告は,ユーザーに本件対比表の記載が正しいか否かを問う形式のアンケート結果7通(甲51ないし57)を提出するが,同アンケートは,本件対比表における原告印刷機に関する結論の部分のみを取り出して尋ねるというもので,対比すべき被告製品の内容は全く示されておらず,何を基準に正しいか否かを回答すべきかという視点が欠けていること,しかも,アンケートの回答者は,今後もメンテナンスを通じて原告との取引関係を有するユーザーであることを考えると,上記回答結果を直ちに信用することはできない。
また,被告は,本件対比表を作成したDの作成した報告書(乙43)を提出するが,前記認定を左右するには足りないと考える。
2 争点2(被告は,本件対比表の内容を告知又は流布したか。)について 当裁判所も,被告は,本件対比表の内容を告知ないし流布したと判断する。その理由は,原判決「事実及び理由」中の「第四 争点に対する判断」二に記載のとおりであるから,これを引用する。
3 争点3(不正競争防止法2条1項13号の虚偽事実の告知,流布,又は実用新案法29条の3第1項の権利行使,警告の該当性)について 当裁判所も,本件広告@ないしBのうち,本件実用新案権の有効無効に係る記載部分は,いずれも虚偽の内容というべきであり,本件広告@ないしBを掲載することだけでなく,本件広告Aのファックス送信も不正競争防止法2条1項13号の告知ないし流布に当たると認めることができるが,本件記事@,Aは被告の行為とは認め難い上,これらの記事には虚偽の事実が含まれているとは認められないと判断する。
その理由は,次に付加,訂正するほか,原判決「事実及び理由」中の「第四 争点に対する判断」三に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決の訂正等 ア 原判決109頁5行目の次に改行した上,次の文を加える。
「また,本件広告@,Aを業界紙に掲載したことが不正競争防止法2条1項13号の告知ないし流布に該当することは明らかである。」 イ 同109頁6行目の「本件記事A」を「本件広告A」と改める。
(2) なお,原告は,本件記事@,Aが本件広告@,Bを引用していることをもって,同記事の掲載は被告の行為であると主張するが,本件記事@,Aが本件広告@,Bを引用したとしても,本件記事@,Aを作成して,これを掲載するか否かは,出版社の判断に委ねられるものであり,これを被告の行為と評することはできない。
4 争点4(口頭での流布)について 被告が,平成8年7月ころ原告の取引先に虚偽の事実を口頭で流布したと認めることができないことは,原判決「事実及び理由」中の「第四 争点に対する判断」四に記載のとおりであるから,これを引用する。
なお,甲47(契約書)によると,原告と株式会社大村紙工(以下「大村紙工」という。)との間において締結された原告印刷機の売買契約に際し,契約書の第2条末尾に「但し訴訟の結果に関すること及び機械セット時間3分に関してウメタニが責任を持つ」との記載がなされており,被告から大村紙工に対し,原告印刷機について何らかの情報が提供されたことが窺える。しかし,上記記載のみから,被告が述べた内容を具体的に知ることはできず,原告が主張するような虚偽の事実を述べたと認めることはできない。
5 争点5(過失及び権利行使に際しての相当の注意の存否)について 当裁判所も,本件広告@ないしBの掲載中,虚偽の事実を掲載した点等について,被告の過失を認めることはできず,したがって,不正競争防止法2条1項13号の不正競争を理由とする同法4条に基づく損害賠償請求,謝罪広告の掲載請求(同法2条1項13号の不正競争を理由とする同法7条に基づく信用回復措置を求めているものと解される。)にはいずれも理由がなく,また,実用新案法29条の3に基づく損害賠償請求については,同条の3第1項ただし書きの相当な注意をもってその権利を行使し,又はその警告をしたことが認められると判断する。
その理由は,次に付加,訂正等するほか,原判決「事実及び理由」中の「第四 争点に対する判断」五に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決の訂正等 ア 原判決114頁2行目の「一五、」及び同末行の「、本件考案と」から次頁1行目の「得たこと」までをいずれも削る。
イ 同115頁3行目の「本件評価書@、A」を「本件評価書@」と,同9行目の「本件評価書@、A」を「前記本件評価書@,原告の請求により得た本件評価書A」と各改める。
ウ 同116頁3行目の「実開昭五五-一〇二三九号」を「実開昭55-110239号」と,同10行目の「本件文献@ないしB」を「本件文献@,A」と各改める。
エ 同117頁5行目の「容易に容易に」を「容易に」と改める。
オ 同118頁8行目の「本件文献@ないしC」を「本件文献@,A及びC」と,同9〜10行目の「平成一〇年五月二日」を「平成10年5月29日」と各改める。
カ 同119頁9行目及び同120頁1行目の各「本件評価書@、A」をいずれも「本件評価書@」と改める。
キ 同121頁1行目の冒頭から同6行目末尾までを次のとおり改める。
「6 被告が本件実用新案権が有効なものであるとして,本件警告,本件侵害訴訟の提起及び本件仮処分の申立てを行ったことについては,本件実用新案登録を無効にすべき旨の審判が確定したのであるから,実用新案法29条の3により,過失推定されるところ,前記の事実を総合考慮すれば,同条の3第1項ただし書の相当の注意を払ったものと認めるのが相当である。
したがって,上記各行為を理由とする不正競争防止法2条1項13号に基づく請求についても,同法4条,7条過失を認めることはできないというべきである。
また,被告が本件広告@ないしBを掲載ないしファックス送信したことについては,虚偽となる部分が存していたが,同行為が実用新案法29条の3の「権利の行使又は警告」に該当しないことは前述したとおりである上(したがって,同条の3に基づき過失推定されることはない。),前述したのと同様の理由から,被告が本件実用新案権について有効であると考えたことに過失があるとはいい難く,上記各行為を理由とする不正競争防止法2条1項13号に基づく請求についても,同法4条,7条過失を認めることはできないというべきである。」 (2) なお,原告は,実用新案法29条の3第1項ただし書きの適用が認められたからといって,不正競争防止法上の過失が認められないとは限らないとして,原判決が不正競争防止法上の過失を否定したことを非難する。
しかし,本件において,被告が,本件実用新案権が有効であると考えて,その権利を行使したことについて,相当の注意を払ったものと認められる以上,不正競争防止法2条1項13号の不正競争行為において,過失があったとはいえないというべきである。
6 争点6(損害)について (1) これまで認定,判断したところによれば,結局,被告が,前記1(2),(6)及び(7)に関する虚偽の記載を含む本件対比表の内容を告知ないし流布したことが不正競争防止法2条1項13号の他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知ないし流布する行為に該当するところ,前記認定の事実関係に照らせば,被告が上記虚偽事実を告知ないし流布したことについて,被告には過失があったものと認められる。
そこで,上記の被告の行為について,原告の損害の内容及び額,被告の行為と原告の損害との因果関係の存否が問題となる。
(2) 主位的主張について 当裁判所も,原告の主位的主張は理由がないと判断する。その理由は,原判決「事実及び理由」中の「第四 争点に対する判断」六2に記載のとおりであるから,これを引用する。
(3) 予備的主張について 本件虚偽部分が,上記(2)のとおり,機械の選定の判断への影響が認められないとしても,虚偽と考えられる記載内容自体は,前記1(2),(6)及び(7)のとおりであり,ロール洗浄中における印版の交換の可否についてや,インキの使用量,印刷機の重要な部品の強度に関する,いずれも重要な事項に関する事実であり,原告の取引先に対しこれを告知ないし流布したことにより,原告の営業上の信用が傷つけられたものというべきである。
これに伴う原告の損害は,本件虚偽部分の内容,告知の態様等を総合考慮すると,80万円が相当である。
また,原告は,本件訴訟の提起,遂行を弁護士及び弁理士に依頼したが,本件の一切の事情を考慮すれば,弁護士及び弁理士費用相当損害金としては,20万円が相当である。
7 その他,原審及び当審における原告及び被告各提出の準備書面記載の主張に照らして,原審及び当審で提出,援用された全証拠を改めて精査しても,当審の認定判断を覆すほどのものはない。
結論
以上によると,原告の本訴請求は100万円及び内80万円に対する平成10年6月3日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は失当であるからこれを棄却すべきところ,これと異なる原判決を変更し,主文のとおり判決する。
(当審口頭弁論終結日 平成13年7月10日)
裁判長裁判官 竹原俊一
裁判官 小野洋一
裁判官 山田陽三