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事件 平成 12年 (ワ) 12675号 不正競争行為差止等請求事件
原告 ヴィスタコンバータ株式会社代表者代表取締役 【A】
訴訟代理人弁護士 黒川辰男
補佐人弁理士 宮口聡
被告 株式会社内外代表者代表取締役 【B】
被告 株式会社ビボ・ジャパン代表者代表取締役 【B】
上記2名訴訟代理人弁護士 小林幸夫
同 中村 しん吾
被告 株式会社山元代表者代表取締役 【C】
訴訟代理人弁護士 石塚文彦
被告 株式会社大洋工芸代表者代表取締役 【D】
訴訟代理人弁護士 松村信夫
同 和田宏徳
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2001/03/27
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告株式会社内外及び同株式会社ビボ・ジャパンは,別紙商品目録記載の被告第1商品を販売等譲渡し,貸し渡し(リース,レンタルを含む。以下同じ。),譲渡又は貸渡しのために展示してはならない。
2 被告株式会社山元は,別紙商品目録記載の被告第2商品を販売等譲渡し,貸し渡し,譲渡又は貸渡しのために展示してはならない。
3 被告株式会社大洋工芸は,別紙商品目録記載の被告第3商品を販売等譲渡し,貸し渡し,譲渡又は貸渡しのために展示してはならない。
4 被告らは,上記各項に係る被告ら各商品を廃棄せよ。
5 被告株式会社内外は,原告に対し,金1150万円及びこれに対する平成12年6月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6 被告株式会社ビボ・ジャパンは,原告に対し,金3900万円及びこれに対する平成12年6月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
7 被告株式会社山元は,原告に対し,金2300万円及びこれに対する平成12年6月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
8 被告株式会社大洋工芸は,原告に対し,金1000万円及びこれに対する平成12年6月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
1 争いのない事実等 (1) 当事者 ア 原告は,店舗内装材並びに商品陳列用什器,器具及び備品の製造販売等を業務とする株式会社である。
なお,原告は,昭和52年9月28日設立され,平成5年8月17日,ヴイトラジャパン株式会社から現在の名称に商号変更した。
イ 被告株式会社内外(以下「被告内外」という。)は,インテリア器具,ディスプレイ器具の開発,販売,リース等を業務とする株式会社である。
被告株式会社ビボ・ジャパン(以下「被告ビボ」という。)は,インテリア器具,ディスプレイ器具の企画,製造,販売等を業とする株式会社である。
被告株式会社山元(以下「被告山元」という。)は,商品陳列用什器その他の物品のリース,レンタルを主たる業務とする株式会社である。
被告株式会社大洋工芸(以下「被告大洋工芸」という。)は,商品陳列什器の貸渡し(リース・レンタル)等を業務とする株式会社である。
(2) 原告の商品 原告は,昭和52年の設立時から,別紙商品目録記載の原告商品(以下「原告商品」という。)を「CONVERTA」(以下「コンバーター」という。)という商品名で製造販売している(検甲1,弁論の全趣旨)。
(3) 被告らの行為 ア 被告ビボは,平成6年ころから,別紙商品目録記載の被告第1商品(以下「被告第1商品」という。)を「VIVO」(以下「ビボ」という。)という商品名で販売している(乙2,検乙1,弁論の全趣旨)。
イ 被告内外は,平成6年ころから,被告第1商品及び別紙商品目録記載の被告第2商品(以下「被告第2商品」という。)を製造し,被告第1商品をビボという商品名で,第三者に対し,レンタルしている(検乙1,検丙1,弁論の全趣旨)。
ウ 被告山元は,平成6年ころから,被告第2商品を「REO」(以下「リオ」という。)という商品名で,第三者に対し,レンタルしている(丙1,検丙1,弁論の全趣旨)。
エ 被告大洋工芸は,平成8年ころから,別紙商品目録記載の被告第3商品(以下「被告第3商品」といい,被告第1,第2商品とまとめて「被告ら商品」という。)を,「ラックル」という商品名で,第三者に対し,レンタルしている(丁12,16,検丁1の1ないし4,弁論の全趣旨)。
2 本件は,原告が被告らに対し,「原告商品の形態は,原告の商品表示として周知であり,被告らが製造販売等している各商品は,原告商品と同一又は類似の形態を有し,誤認混同が生じている。」と主張して,不正競争防止法2条1項1号,3条,4条に基づいて,被告ら商品の製造販売等の差止め,廃棄及び損害賠償を請求する事案である。
3 本件の争点 (1) 原告商品の形態は,周知商品表示といえるかどうか (2) 被告ら商品は,原告商品の形態類似し,原告商品との間に混同を生じるおそれがあるかどうか (3) 被告らが損害賠償責任を負う場合に,被告らが原告に賠償すべき損害の額
争点に関する当事者の主張
(争点1について) 【原告の主張】 1 原告商品の形態の構成等 (1) 原告商品は,パイプとジョイントを使用して組み立てる商品陳列用及び展示用のシステム什器であって,その構成は,次のとおりである。
ア 原告商品は,断面四角形の縦柱(パイプ)と横桟(パイプ)と接続具(ジョイント)などが一体となり,縦柱と横桟はそれぞれ鉛直面及び水平面に対して,45度の傾斜面を現出させた什器のシステムである。形成するモデルは,利用目的,設置空間による制約を受けるが,形成の自由度は高い。
イ 什器の形態は,横幅,奥行き,高さなどの列数と段数をシステマティックにあらかじめ計画したモデル及びそのモデルの部分変更による選択が可能である。
ウ パイプは金属製角パイプを使用し,その周囲一辺のサイズは13ミリメートル又は18ミリメートルである。その長さは,別紙「コンバータの部品図」のとおり各種のものがある。また,パイプは,クロームメッキ,ゴールドメッキ,金色メッキ又は塗装されている。
エ ジョイントは,金属製(亜鉛ダイキャスト)であり,サイズ,形態は各種のものがある。
オ パイプとジョイントとの接続の形態は,横桟の四角が鉛直面に対して,時計文字盤の12時,3時,6時,9時の各位置にあり,縦柱の鉛直面における形状は,上記横桟がそのまま(X軸とY軸の0点を基点として)90度回転した形状である。これらの複数個のパイプとジョイントは,稜線を境に2つの傾斜面を隣接させ外側と内側が1組となった特色のある形態の枠桿を現出させる(別紙「枠桿の外側枠と内側枠」参照)。
カ パイプとジョイントが水平垂直に直角の接続をなすコーナーの形態である外側角隅部は,それぞれ外側をなす枠桿傾斜面上の交差部として120度をなす三角形の頂点の一点で相互に交わっている(別紙「外側角隅部三角形頂点の接点」参照)。また,水平,垂直に直角に交差する交差部の形態は,パイプとジョイントが相互に45度の傾斜面を直角に屈折あるいは直列させるものである。
(2) 原告商品の上記形態は,斬新特異な形態ということができる。角パイプを45度傾斜させたことによって,垂直方向の光は,水平方向に反射され,逆に水平方向の光は反射されて上方又は下方への光線となるのであり,このことによって,特別な美観が実現される。また,45度傾斜による稜線を境界として,極めて美しい明暗のコントラストが見られる。
原告が原告商品を販売するようになってから約20年間にわたってこれと類似する商品は存在せず,原告のみが上記形態を有する商品を独占的に販売してきた。
(3) 被告大洋工芸が主張する,存続期間が満了した特許権,実用新案権,意匠権は,それぞれ「パイプ接続具」,「支持台」,「支持具」に関するものであって,原告商品全体に関するものではない。原告商品の形態と組立て用ハンドルハンマーを使用して個々のパイプを45度回転させてジョイントを固定する「技術」とは明確に区別されるべきである。
なお,棚板を置くためであれば,角パイプの傾斜角度が45度でなくても,15度でも30度でも可能であり,0度から90度までのいかなる角度であっても,置くことができるから,角パイプを45度傾斜させたことは,原告商品の機能と必然的に結びついたものではない。
(4) したがって,原告商品の上記形態は,原告の商品表示であるというべきである。
2 原告商品の周知性 (1) 原告商品の需要者は,百貨店等を顧客とする店装業者,百貨店,量販店である。
(2) 原告は,昭和52年に販売を開始して以来,特約代理店である株式会社彩ユニオン(以下「彩ユニオン」という。)を通じて,原告商品を,上記需要者に販売してきたが,これまでの販売総額は,約20億円に上る。
その間,彩ユニオン及び原告は,我が国の店舗関連業界向けの専門雑誌で最大の発行部数(1か月3万5000部)を誇っている「商店建築」に合計135回にわたり広告を掲載し,また,カタログを多数作成配付した。
(3) 原告商品は,昭和53年,同54年に,日本最大の店舗関連見本市であるジャパンショップにおいて,システム開発賞,技術振興賞を受賞した。
(4) 以上の事実により,原告商品は,遅くとも平成4年ころには,需要者広く認識されるようになった。
【被告内外及び被告ビボの主張】 1 原告商品の製造販売前に,原告商品と機能において類似する商品が実用新案として公開されており,形態において類似する商品が製造販売されていたこと,原告商品は,パイプが水平方向に45度回転したこと以外に斬新特異な特徴がないこと,原告は,商品のパンフレット等に必ず商標を付していること,パイプが水平方向に45度回転した形態のシステム什器における原告商品のシェアはわずか5パーセント程度であることからすると,原告商品の形態は,自他識別力を有しない。
2 原告商品の形態は,パイプを45度回転させ傾斜面に棚板をそのまま置くことができるようにするといった機能や組立て再編を容易にするといった機能を合理的に発揮させるために,あるいは,メッキ加工等を効率的に行うことができるようにするために選択された形態であるところ,このような形態は,商品表示性を有しない。
【被告山元の主張】 原告の主張する原告商品の形態は,同商品の有している構造的,機能的な特徴を挙げているにすぎず,原告商品は,独自な意匠的特徴により需要者が一見して原告商品であると理解することができる程度の識別力を備えたものとはいえない。
また,原告商品と類似の機能を有する商品が複数の企業から販売されている。したがって,原告商品の形態が商品表示として周知性を有するということはない。
【被告大洋工芸の主張】 1 原告が商品表示であると主張する原告商品の形態は,既に存続期間が経過した実用新案,意匠,特許において開示されており,これらの考案,意匠,発明を実施したものにすぎないから,すでにパブリックドメインとして何人も自由に実施することができるものであって,商品表示性を有しない。
また,原告商品の形態は,以上のようなことからも明らかなように,システム什器の技術的機能に由来するものであるから,商品表示性を有しない。
2 原告商品の形態は,原告が同商品の製造販売を開始した昭和52年以前から,欧州のメーカーによって製造販売されてきた商品に同種の形態のものが存するほか,我が国でも,昭和40年代中頃から,ヨネミヤ等が同種形態のシステム什器を販売していた。したがって,原告商品の形態は,ありふれたものであり,自他識別力がない。
(争点2について) 【原告の主張】 被告ら商品は,いずれも原告商品と極めて類似しており,原告商品と混同するおそれがある。
【被告内外及び同ビボの主張】 1 原告商品と被告第1商品及び被告第2商品とは,以下のとおり,明確な違いがあり,類似していない。
(1) 原告商品は,折り畳むことができず,使用する店舗,展示場等において組み立てる作業が不可避となるが,被告第1商品及び被告第2商品は,いずれも折り畳みが可能であり,店舗,展示場等には,全部又は一部組立て済みで折り畳んだ状態で搬入される。これは,作業効率に極めて大きな差を生むから,折り畳むことができるかどうかという点は,商品選択の場面において重要な関心事である。
(2) 原告商品のジョイントのパイプとの接続部分は,丸い形状をしているのに対して,被告第1商品及び被告第2商品のそれは,四角形であるなど外観も異なる。
(3) 被告第1商品及び被告第2商品のジョイント金具には,すべて「VIVO」という標章が1カ所ないし数カ所刻印されている。
2 本件のようなシステム什器の場合,その需要者は什器のレンタル業者であり,エンドユーザーは,百貨店等である。また,購入に当たっては,通常パンフレットやカタログを用いた検討,打合せ,見積りが行われるところ,原告商品,被告第1商品及び被告第2商品のカタログやパンフレットには,それぞれ商号や商標が会社の所在地等と共に分かりやすく表示されており,当該商品を梱包して出荷する際には,包装紙や梱包用段ボールに商号や商標が明示される。したがって,本件のようなシステム什器の取引において,商品の形態によって商品が識別されることはおよそありえないから,需要者が両商品を混同するおそれはない。
【被告山元の主張】 被告第2商品は,折畳みのための機構としてヒンジがジョイント部分に設けられており,外観からも容易に原告商品の形態との相違を認識できるから,商品主体の誤認混同を生じる余地は全くない。
【被告大洋工芸の主張】 1 原告商品の形態と被告第3商品の形態は,以下のとおり,相違している。
(1) パイプの断面寸法は,原告商品が13ミリメートル及び18ミリメートルであるのに対して,被告第3商品は,19ミリメートルである。
(2) パイプ及びジョイントの表面処置は,原告商品がクロームメッキ等であるのに対して,被告第3商品は,グレー系の粉体塗装である。
(3) ジョイントの形態については,原告商品と被告第3商品とでは異なっている。
2 本件のような組立式システム什器の主要な需要者である百貨店,量販店,大型専門店の展示場設計者(インテリア担当者)は,システム什器のメーカーや商品名,形態の相違について,十分な知識を有しており,システム什器の中から設置場所,設置目的に応じて最も適当な商品を選択して使用していること,原告商品が,「コンバーター」の商品名を付して製造販売されているのに対し,被告第3商品は,「ラックル」なる商品名を付してレンタルされていることからすると,需要者が両商品を混同するおそれはない。
(争点3について) 【原告の主張】 被告らは,被告ら各商品を販売等することにより,次のとおりの利益を得た。
(1) 被告内外 1150万円 (2) 被告ビボ 3900万円 (3) 被告山元 2300万円 (4) 被告大洋工芸 1000万円 【被告らの主張】 原告の主張は,すべて争う。
争点に対する判断
1 争点1について (1) 商品の形態は,商品の機能を発揮したり商品の美感を高めたりするために適宜選択されるものであり,本来的には商品の出所を表示する機能を有するものではないが,ある商品の形態が他の商品に比べて顕著な特徴を有し,かつ,それが長期間にわたり特定の者の商品に排他的に使用され,又は短期間であっても強力な宣伝広告等により大量に販売されることにより,その形態が特定の者の商品であることを示す表示であると需要者の間で広く認識されるようになった場合には,商品の形態が不正競争防止法2条1項1号により保護されることがあると解するのが相当である。ただし,商品の形態が当該商品の機能ないし効果と必然的に結びつき,上記形態を保護することによってその機能ないし効果を奏し得る商品そのものの独占的・排他的支配を招来するような場合には,自由競争のもたらす公衆の利益を阻害することになるから,このような機能ないし効果に必然的に由来する形態については,上記条項による保護は及ばないと解すべきである。
(2) 以上を前提として,本件における原告商品について検討する。
争いのない事実並びに証拠(甲1ないし7,甲8の1ないし5,甲9の1ないし4,甲10ないし16,甲17の1,甲18ないし21,甲22の1ないし4,甲27ないし29,甲30の1ないし3,甲31の1ないし4,乙1,2,丁1ないし10の各1,2,丁11ないし16,検甲1)及び弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる。
ア 原告商品の形態 原告商品は,パイプとジョイントを使用して組み立てる商品陳列用及び展示用のシステム什器であって,その形態は,別紙商品目録中の原告商品欄記載のとおりであるが,その構成は,以下のとおりである。
(ア) 原告商品の組立て時の形態は,以下のとおりである。
a 断面四角形の縦柱(パイプ)と横桟(パイプ)と接続具(ジョイント)から構成されている。
b 縦柱と横桟は,それぞれ鉛直面及び水平面に対して45度の傾斜面を現出させるものである。
(イ) 原告商品は,上記(ア)の立方体及び直方体を基本的単位とし,これに接続具を介して,縦方向又は横方向に連増することが可能である。
(ウ) パイプは金属製角パイプを使用し,その周囲一辺のサイズは13ミリメートル又は18ミリメートルである。その長さは,各種のものがある。また,パイプは,クロームメッキ,ゴールドメッキ,金色メッキ又は塗装されている。
(エ) ジョイントは,金属製(亜鉛ダイキャスト)であり,サイズ,形態は各種のものがある。
(オ) パイプとジョイントとの接続の形態は,ジョイントの四角が鉛直面に対して時計文字盤の12時,3時,6時,9時の各位置にあり,パイプの鉛直面における形状が,上記横桟をそのまま(X軸とY軸の0点を基点として)90度回転したものである。
イ 原告商品に係る特許権等 (ア) ヨネミヤは,昭和45年に,パイプ接続具に関する特許を出願し,昭和49年に登録された。その特許請求の範囲は,「中継部の少なくとも二側面へ,被接続パイプの接続用角孔の内径より稍大なる軸経の接続軸を突設し,各接続軸の軸面には角孔の壁面に対応して角孔中へ挿脱可能とした平面部を軸方向に形成して成るパイプ接続具」というものであり,発明の詳細な説明には,実施例として,上記パイプ接続具の突出部に角パイプを水平(垂直)に差し込み,その角パイプを45度回転させて,水平(垂直)方向に対して角パイプを45度の角度で強固に固定するものが記載され,この場合,固定されたパイプの斜面を利用して,予め端面を45度に形成した陳列板等を上方から嵌装し,安定して支承することができる旨記載されていた。また,いま一つの実施例として,上記パイプ接続具の突出部に角パイプを水平(垂直)方向に対して45度に差し込み,その角パイプを45度回転させて,水平(垂直)に角パイプを固定するものが記載されていた。
(イ) ヨネミヤは,昭和47年に,支持台に関する実用新案を出願し,昭和57年に登録された。その実用新案登録請求の範囲は,「前後左右に垂直に配備した主柱間に断面四角形の少なくとも2本の杆を平行して架設し,両杆は,各面を垂平面に対し45度に傾けて固定すると共に,対向する傾斜面へ,端面を下方に向けて45度に傾斜する支え面を有する支持板を着脱可能に係止した支持台」というものであり,考案の詳細な説明には,本考案は,商品陳列等に使用する支持台に関するもので,簡単な構成により支持板を着脱可能かつ安定して支持できる支持台を提供することにあると記載されている。また,ヨネミヤは,昭和47年に,支持具に関する実用新案を出願し,昭和52年に登録された。その実用新案登録請求の範囲は,「垂直に配備した主柱間に断面四角形の杆を水平に取付け,杆の各面を水平面に対し45度に傾けて固定した支持具」というものであった。
(ウ) ヨネミヤは,昭和47年に6件のパイプ接続具に関する意匠を出願し,これらは,いずれも昭和50年に登録された。これらの意匠には,「本物品は,パイプ接続具の突出部に角パイプを差し込み,その角パイプを45度回転させ緊密に固定せしめ,それらを多数個組合わせて,陳列棚,整理棚等を造る」という説明がされている。
(エ) 原告商品は,以上の(ア)ないし(ウ)の各権利を実施したものである。原告が製造販売を開始する前には,ヨネミヤが以上の各権利を実施した原告商品と同様の商品を販売していたが,ヨネミヤが昭和52年に倒産したのちは,原告が原告商品を製造販売するようになった。
(オ) 以上の(ア)及び(イ)の特許権及び実用新案権は,ヨネミヤからオランダ法人に,(ウ)の意匠権は,ヨネミヤからスイス法人にそれぞれ譲渡されたが,上記特許権は昭和63年11月16日に,上記実用新案権は,昭和62年2月及び12月に,上記意匠権は,平成2年8月29日に,いずれも存続期間満了により消滅した。
ウ 原告商品の広告宣伝等 (ア) 昭和53年作成の原告商品のカタログ(甲1)は,原告商品を紹介した写真が主な内容であるところ,原告商品の特徴等に関しては,「スイス生まれのクリーンなデザインと精密なメカニズム。すっきりと組み上がり,商品の魅力をひきだします。売り場のスペース事情,商品の在庫量に連動させてあらゆる形態と多様な構成が自在。専用ハンマーでパイプを45度回転させるだけで,たやすく組み上がります。照り映えがして,新鮮で清潔感のある売り場は人気売り場の条件。
品ぞろえを魅力的に見せ,打ち出し商品を売りこむ力がバツグンの国際特許品をぜひご活用ください。」,「すぐ間にあい,短納期にも対応。特注什器より割安です。」と記載され,また,ロングセラーを支える特長ベスト9として,「●お客が,品さだめをしやすい楽しい売り場をつくります。●あらゆる業態で活用されます。●さまざまな商品の魅力をひきだします。●簡単な組み立てと組み替えで好評です。(精密加工のパイプと頑丈な一体成型のジョイント。追求されつくしたメカニズムは,いたってシンプルです。パイプを45度回転するだけでパイプとジョイントは,がっちり連結します。)●組立てる時に騒音がしないということは?(カンカンと叩き込む方式は,時にパイプやジョイントを傷つけることがあります。パイプの口径が広がってしまったり,ジョイントの頭部が損傷してしまったり・・・でも特許の45度回転固定方式なら心配無用。繰り返し使えますから,結局おトクです。)●使いすての安価品ではありません。●ユニークなメカニズムとデザインは,国際的に登録されています。●国際品ですが,日本のインテリアにもモジュールを合わせています。(お気づきのように,ごく一部を除いて,パイプとジョイントの長さを合算すると,伝統のサイズの尺単位に連動させています。売り場でおさまりがよく,無駄なスペースが生じません。)●長いサイズのパイプもたわまず,ねじれず,ぐらつきません。」と記載されている。
(イ) 昭和55年作成の原告商品のカタログ(甲4)には,「ヴィジュアルマーチャンダイジングの実現。品ぞろえをどう提示表現するか。いま,視覚的な提案の「考え方」と「技術」が意欲的に追究されています。陳列による選択の幅の保証,ディスプレイによるバリューの強調。楽しく買いやすい売り場は,ヴィジュアル・マーチャンダイジング視点により,方法論が体系づけられました。なかでもディスプレイは品ぞろえの意図の積極的な反映,魅惑の技術として的確な活用が期待されています。」,「商品と商品提示表現のバランスがポイント。靴,カバン。
ていねいに見せたい,伝えたい。更に商品価値を生活場面の中でどう表現するか。
品ぞろえの水準にふさわしい,ふん囲気づくりと什器選択をどのように実現するか。ステージ,中置台,壁面用棚に自由自在。コンバーターなら,イメージの統一があり不必要に目立たない。そしてまた,ハイクオリティな印象は定評のあるところです。陳列商品を引き立て,ディスプレイ商品をエキサイティングに盛り上げます。」,「システムが可能にしました。合理的な価格。明るさを求める。ふん囲気をつくる。インテリアの重要な要素,照明器具。その選び方にもコーディネートの目が注がれています。限られた空間を完成で整理して豊かな空間をつくりだす 商品を特定の分類で陳列する。打出し商品をディスプレイ・スペースで強調する。こうした積極的な働きかけは,もう不可欠なのです。働きかけの意図に応じて,組立て構成は自在。変形什器も,割高な特注価格になりません。」,「コーディネーションが生むエキサイツメンツ 清潔感があり,商品提示表現に連動自在なコンバーターは,最適の表現ツールです。」,「ディスプレイ,それは,いわば新聞の見出し。女性誌は,食器関連記事の連続。美しい食器も次々と生まれています。食器棚を眺めると,手持ちは既にいっぱい。でもテーストという美的尺度でストックを洗い直して,買い換えを提案しているようです。そこで食器の用途訴求と共に,コーディネーションの要あり,ですね。すなわち生活様式提案ディスプレイ。品ぞろえのすべても見て欲しい。誘導ディスプレイの力の発揮のしどころです。誘導の新手,斜め動線に対応した新ジョイントも登場です。」,「スリムなスリムな「スリムコンバーター」小さな商品,軽重・繊細な品ぞろえを引き立てる。こうしたご要望に応えて,細身で華麗なスリム・タイプを御届けします。
角パイプの外径12.8ミリ。スイスで,日本で,実験と検討が繰り返され決定しました。ルックスも強度もこれがベストです。輝きと,ときめきのある商品提示表現を実現し,表現の多様化を可能としたスリム・コンバーター」,「こうお使いください,ゴールドコンバーター 特選品,アンチックな商品。豪華でクラシックなテーストの品ぞろえの提示表現に最適です。特に商品のデザインポイントが金色なら,ゴールドコンバーターは,商品を一層引き立てます。精密に加工されたパイプとジョイントは,がっちり連結。重量商品でもたわんだり,ぐらついたりしません。パネルを装置すれば,箱型什器に早変わり。たやすく迅速に出来上がります。
頑丈で軽く,売場の管理活用も大変ラクです。」と記載されている。また,昭和53年に原告商品の販売代理店である彩ユニオン(当時の商号は「彩美工芸株式会社」)が作成したカタログにも同様の記載がある。
(ウ) 昭和59年作成の原告商品カタログ(甲6)には,「パイプの45度回転ロッキングで連結。固定されたパイプの斜面に特長と機能があります。」,「ジョイントに差し込んだパイプを45度回転で連結する方式はバイプロを広げたり,ジョイントを損傷しません。」と記載されている。
(エ) 平成6年作成の原告商品カタログ(甲7)には,「ハイグレード&シンプル コンバータは,世界で最高の技術水準を誇るスイス・ヴィトラ社で開発されたパイプジョイントシステムで,同社の製造基準によりライセンス生産した精密なデザイン製品です,追求されつくした結合機構はいたってシンプルです,専用組立てハンマーで角パイプを45度回転するだけでパイプとジョイントががっちり連結します。その固定された角パイプの斜面に機能とスタイルの特長があります。
斜面に棚板をのせたり,パネルを取りつけることができ,ワンタッチで着脱自在です。」,コンバーターの性状・性能については,「簡単な操作,確実な連結。組み上げるモデルを決定したら,まずジョイントにパイプを差し込むだけの仮組みをします。そして,組立てハンマーで45度回転するだけで堅く連結します。『角パイプの内側に挿入できるよう4点を削った丸パイプ状のジョイント』につないだ角パイプを組立てハンマーで45度回転させ,『角パイプの内寸より大きい丸パイプ状ジョイントの直径部の4点』が角パイプ内側に接合した部分を圧迫して連結するのです。がっちり組み上がり,ぐらつかずたわみません。」「精密加工のパイプ,ジョイント。ジョイントは亜鉛合金のダイカスト。角パイプの特別加工により精密につくられた30ミクロンの最高級クロームメッキ仕上げで,重要な役割をはたす内寸精度は15.98ミリの±0.05ミリという精密なものです,角パイプの外寸は17.98ミリです。」という記載がある。
(オ) 昭和57年に発行された商店界別冊(甲16)には,原告商品について,「ライトでシンプルなデザインは,ギフト商品の店頭ディスプレイやアイランドディスプレイにぴったりである。商品と什器が一体となって人目を引き,活気ある売り場を実現する。高品質なパイプとジョイントで組み立てる,イメージの良いスイス・デザイン」という記載がある。
(カ) 彩ユニオン(当時の商号は「彩美工芸株式会社」)が昭和53年(1978年)1,7,8,11月各発行の「商品建築」に掲載した原告商品に関する広告には,「精度の高いジョイント(亜鉛ダイキャスト)に,パイプを差し込み軽く45度回転させるだけで,がっちりと連結します。原理は簡単,ジョイントの゙ふくらみ”が回転によってパイプの最も狭い部分を内側から圧迫するのです。騒音もなく,また器具を傷つけることもありません。ガラス板などは傾斜面に置くだけで固定され,したがって一切の補助具を不要とし,すっきりとした構成になります。」等と記載されている。
エ 被告らの製造販売等 被告らは,前記イ記載の特許権,実用新案権,意匠権がすべて消滅した後である平成6年から平成8年ころ,被告ら商品の販売等を始めた。
(3)ア 以上認定した事実によると,原告商品の組立て時の形態のうち,最も特徴的な形態は,断面四角形の縦柱(パイプ)と横桟(パイプ)が,それぞれ鉛直面及び水平面に対して45度の傾斜面を現出させることにあると認められる。
しかし,以上認定した事実,殊に(2)イ(ア)記載の特許及び同(イ)記載の実用新案に関する事実によると,断面四角形の縦柱と横桟が,それぞれ鉛直面及び水平面に対して45度の傾斜面を現出させる形態を選択したことによって,@パイプ接続具の突出部に角パイプを水平(垂直)に差し込み,その角パイプを45度回転させて,水平(垂直)方向に対して角パイプを45度の角度で強固に固定することができるとともに,A固定されたパイプの斜面を利用して,予め端面を45度に形成した陳列板等を上方から嵌装し,補助具を用いることなく,安定して支承することができるものと認められる。したがって,原告商品における,断面四角形の縦柱と横桟が,それぞれ鉛直面及び水平面に対して45度の傾斜面を現出させる形態は,以上の@Aの原告商品の機能ないし効果と必然的に結びついているものであり,上記形態を保護することによってその機能ないし効果を奏し得る商品そのものの独占的・排他的支配を招来するものということができる。
確かに,パイプ接続具の突出部に角パイプを差し込み,その角パイプを45度回転させて,角パイプを強固に固定するだけであれば,前記(2)イ(ア)記載の特許の第2の実施例のように,パイプ接続具の突出部に角パイプを水平(垂直)方向に対して45度に差し込み,その角パイプを45度回転させて,水平(垂直)に角パイプを固定することによっても,達成することができる。しかし,この場合には,固定されたパイプの斜面を利用して,予め端面を45度に形成した陳列板等を上方から嵌装し,補助具を用いることなく,安定して支承することはできないから,以上の@Aの機能ないし効果を奏するためには,断面四角形の縦柱と横桟が,それぞれ鉛直面及び水平面に対して45度の傾斜面を現出させる形態が選択されなければならないというべきである。
なお,原告は,棚板を置くためであれば,45度でなくても,15度でも30度でも可能であり,0度から90度までのいかなる角度であっても,置くことができると主張するが,45度以外の場合に比べて45度の場合には,補助具を用いることなく棚板をより安定的に支承することができると考えられるから,45度という角度は,上記認定のとおり,原告商品の機能ないし効果と必然的に結びついているものと認められる。
そうすると,原告商品の組立て時の形態のうち,最も特徴的な,断面四角形の縦柱と横桟が,それぞれ鉛直面及び水平面に対して45度の傾斜面を現出させる形態は,それ自体が商品表示となることはないというべきである。
イ そして,この最も特徴的な形態以外の前記(2)ア認定の原告商品の組立て時の形態は,いずれも,パイプとジョイントを使用して組み立てる商品陳列用及び展示用のシステム什器としては,ありふれたものということができるから,それらが商品表示となることはないというべきである。
ウ ところで,原告は,原告商品においては,複数個のパイプとジョイントは,稜線を境に2つの傾斜面を隣接させ外側と内側が1組となった特色のある形態の枠桿を現出させるとか,水平,垂直に直角に交差する交差部の形態は,パイプとジョイントが相互に45度の傾斜面を直角に屈折あるいは直列させるものであると主張し,さらに,角パイプを45度傾斜させたことによって特別の美観が生じていると主張する。
しかし,これらの主張のうち,パイプに関するものは,断面四角形の縦柱と横桟が,それぞれ鉛直面及び水平面に対して45度の傾斜面を現出させる形態を有していることから必然的に生じるものであるから,この形態を商品表示と認めることができない以上,原告が主張する各点から原告商品の商品表示性を認めることはできないというべきである。また,角パイプを45度傾斜させた以上,ジョイントについても,鉛直面及び水平面に対して45度傾斜させたものを用いるのは自然なことであって,原告商品のジョイントが,パイプとは別に特に目を引く形態であるとはいい難いから,原告の上記主張のうち,ジョイントに関するものについても,原告が主張する各点から原告商品の商品表示性を認めることはできないというべきである。
さらに,原告は,原告商品について,パイプとジョイントが水平垂直に直角の接続をなすコーナーの形態である外側角隅部は,それぞれ外側をなす枠桿傾斜面上の交差部として120度をなす三角形の頂点の一点で相互に交わっていると主張するが,これは,原告商品の一部のコーナーに見られる特徴にすぎず,原告商品の中でこの部分が特に目を引くとはいい難いから,この点を商品表示と認めることはできないというべきである。
エ よって,原告商品の形態を原告の商品表示と認めることはできない。
2 結論 以上の次第で,原告の被告らに対する本訴各請求は,その余について判断するまでもなく,いずれも理由がないから,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 森義之
裁判官 内藤裕之
裁判官 杜下弘記