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事件 平成 11年 (ネ) 2847号 不正競争行為差止等請求控訴,同附帯控訴事件
平成 11年 (ネ) 3293号 不正競争行為差止等請求控訴,同附帯控訴事件
控訴人、附帯被控訴人(一審被告) 武蔵ホルト株式会社 右代表者代表取締役 【A】 右訴訟代理人弁護士 又市義男
被控訴人、附帯控訴人(一審原告) 株式会社ソフト九九コーポレー ション 右代表者代表取締役 【B】 右訴訟代理人弁護士 松村信夫
同 和田宏徳
裁判所 大阪高等裁判所
判決言渡日 2001/02/08
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 一審被告の本件控訴を棄却する。
二 一審原告の本件附帯控訴に基づき原判決を次のとおり変更する。
1 一審被告は、自動車補修用スプレー塗料「ホルツアンチラストペイント一八〇ml入り」、「ホルツミニミックススプレー三二〇ml入り」、筆付自動車補修用塗料「カラータッチ」の各商品並びにそれらの広告及び取引書類につき、原判決別紙目録(一)の(1)ないし(13)記載の表示を行い、又はこの表示を付した右商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出若しくは輸入してはならない。
2 一審被告は、前項記載の商品を販売するに当たり、原判決別紙目録(二)の(1)ないし(3)記載の広告又は表示をしてはならない。
3 一審被告は、1項記載の各商品につき、同項記載の表示を記載した容器、
広告及び取引書類等の表示物件、2項記載の広告又は表示を記載した表示物件をいずれも廃棄せよ。
4 一審被告は、一審原告に対し、金一五〇万円及びこれに対する平成八年八月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
5 一審原告のその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用(控訴費用を含む)は、第一、二審を通じ、これを四分し、その一を一審被告の、その余を一審原告の負担とする。
四 この判決は、二4項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 一審原告 1 一審被告の控訴を棄却する。
2 原判決を次のとおり変更する。
(一) 主文二1ないし3項と同旨 (二) 一審被告は、一審原告に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する平成八年八月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(三) 一審被告は、原判決別紙目録(三)記載の謝罪広告を同目録(四)記載の方法で掲載せよ。
3 訴訟費用(控訴費用を含む。)は、第一、二審とも、一審被告の負担とする。
二 一審被告 1 一審原告の附帯控訴を棄却する。
2 原判決の一審被告敗訴部分を取り消す。
3 一審原告の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用(附帯控訴費用を含む。)は、第一、二審とも、一審原告の負担とする。
(以下、一審原告を「原告」、一審被告を「被告」という。)
事案の概要
一 基礎となる事実(証拠の引用のない事実は、当事者に争いがないか弁論の全趣旨により認められる。) 1 当事者 (一) 原告は、ボディワックス類、クリーナー類、自動車補修用ペイント類、各種自動車専用ケミカル・用品を製造・販売する会社である。
(二) 被告は、自動車補修用ペイント類、補修ケミカル類の製造販売を業とする会社である。
2 被告の行為1 (一) 被告は、次のとおり、原判決別紙目録(一)の(1)ないし(9)記載の表示をした(以下「本件表示1」という。) (1) 平成五年八月ころから、自動車補修用スプレー塗料「ホルツアンチラストペイント一八〇ml入り」の容器本体に、原判決別紙目録(一)(1)ないし(3)の表示をした。
(2) 平成三年三月ころから、筆付自動車補修用塗料「カラータッチ」の容器本体に右目録(一)(3)の表示をした。
(3) 右(1)及び(2)の商品のカタログ(甲1)に右目録(一)(4)及び(5)の表示をした(なお、(4)については正確には「高級ウレタン塗料使用」である。)。
(4) 販促紙の「ホルツニュース」(平成七年一〇月発行、平成八年三月発行)において、右目録(一)(6)及び(7)の表示をした(甲2)。
(5) 自動車の販売業者、修理業者及び一般ユーザー向け雑誌である「A・M NETWORK」(平成八年四月号)及び「Auto Route」(平成八年六月号)に掲載した広告において、右目録(一)(8)及び(9)の表示を行った(甲3、4)。
(二) また被告は、平成八年五月ころから前記(一)(1)及び(2)の商品に、平成九年三月ころから「ホルツミニミックススプレー三二〇ml入り」(以下これらを併せて「被告製品」という。)に、右目録(一)の(10)ないし(12)記載の表示をし、
その広告において同(13)の表示を行っている(以下「本件表示2」といい、本件表示1と併せて「本件表示」という。)。
3 被告の行為2 被告は、被告製品を販売するに当たり、小売店の店頭に原判決別紙目録(二)の(1)ないし(3)記載のパネル式広告(以下「本件パネル」という。)を設置した。
二 原告の請求 原告は、@ 本件表示は、被告製品の品質・内容について誤認させる表示であるから、それを表示する行為は不正競争防止法2条1項12号の不正競争行為に該当する、A 本件パネルの広告は、原告の営業上の信用を害する虚偽の表示であるから、その展示は同法2条1項13号の不正競争行為に該当するとして、被告に対し、同法3条1項に基づき右行為の差止め、同条二項に基づき被告製品等の廃棄、
同法4条に基づき被告の行為によって被った損害の賠償及び同法7条に基づき謝罪広告を求めた。
三 争 点 1 本件表示における各表示は品質誤認表示に該当するか 2 本件パネルにおける表示は原告の営業上の信用を害する虚偽の表示か 2の2(当審で付加された争点) 本件パネルにおける表示は品質誤認表示に該当するか 3 被告が将来本件表示の表示をするおそれがあるか 4 損害額及び謝罪広告の要否 四 原審の判断 原審は、争点1につき、被告製品が微量のウレタンを含有しているに過ぎず、ウレタンによる効果を有しているとは認められないのに、本件表示を行うことは不正競争防止法2条1項12号の不正競争に当たると判断したが、争点2、3については、本件パネルが虚偽の内容を表示するものとはいえないし、被告が本件表示1を今後使用するとは認められないと判断した。そして、争点4について、被告の不正競争行為により原告の営業上の信用が害されたと認められないとして、謝罪広告を求める理由がないと判断し、損害賠償については、被告が不正競争行為によって得た利益は不明であるとして、被告の行為に基づき原告の要した弁護士費用として一〇〇万円の損害を認めた。
そこで、被告は、自己の敗訴部分について控訴を提起し、原告も、自己の敗訴部分について附帯控訴を提起した。
争点に関する当事者の主張
一 争点に関する当事者の主張は、後記二以下を付加するほか、原判決八頁九行目から一八頁八行目までに記載されたとおりであるから、これを引用する。
二 当審における原告主張の要旨 1 争点1(品質誤認表示性)について (一) 本件表示2の品質誤認表示性について(後記被告の主張三1(一)に対する反論) 仮に、被告主張のように「フォーミュラ」が「方式」という意味を含有していても、「ウレタン方式」なる用語には何ら具体的意味内容がなく、被告自身「ウレタンフォーミュラ塗料」と表示された自動車補修用塗料の背面の上段には、
異文字で「最高級の自動車ウレタン補修用塗料です。」と表示しており、被告自身が「ウレタンフォーミュラ」を「ウレタン塗料」と認識している。
(二) 品質及びその相違について(後記被告の主張三1(二)に対する反論) (1) 米国材料試験協会規格は、二液性ウレタン塗料だけではなく、一液性ウレタン塗料についても適用されるものである(甲50の1、2)。
(2) 原告製品と被告製品の品質上の優劣の問題ではなく、仮に被告製品が原告製品より品質において優れているとしても、それが、本件表示において表示されているように、ウレタンを含有していることによる効果でなければ品質誤認行為となる。
2 争点2(比較広告に関する主張ー本件パネルにおける表示についての主位的主張)について (一) 不正競争防止法2条1項13号の「虚偽の事実」については、客観的事実に反することを相当程度立証すれば足りると解すべきであり、原判決が、虚偽の事実を認めなかったことは誤っている。
(二) 本件パネルに記載された事実は、原告製品と被告製品との品質、性能等に関するいわゆる比較広告であり、最終的な比較評価のみを表示する比較広告においては、広告主体がいかなる方法で比較を行い、いかなる試験結果を得てそのような比較評価に至ったかを第三者が知ることができない。したがって、比較広告をなす者は、比較評価のみならず、比較方法や比較結果について明確にすべきである。公正取引委員会が定めた「比較広告に関する景品表示法上の考え方」(比較広告ガイドライン)も、右のような観点から比較広告が景品表示法上の不当表示に該当しないための要件として、
@ 比較広告で主張する内容が客観的に実証されていること A 実証されている数値や事実を正確かつ適正に引用すること B 比較の方法が公正であること の三要件を満たす必要があるとしている。
したがって、右比較評価の前提となる付着性、耐塩水噴霧性、促進耐候性、耐揮発油性、耐酸性において、他社製品より優れているとはいえないにもかかわらず、常に優れているかのごとき評価事実を陳述、流布していることが「虚偽の事実」の陳述、流布に当たる。
3 争点2の2(本件パネルの表示の品質誤認性)について(当審で付加された予備的主張) 本件パネルにおける表示は、次に述べる理由により、不正競争防止法2条1項12号の不正競争行為(商品の品質誤認行為)にも該当する。
(一) 本件パネルの表示の記載をみると、ホルツペイント(被告製品)はウレタン入りであるから、他社のアクリル塗料より、付着性、耐塩水噴霧性、促進耐候性、耐揮発油性、耐酸性等に優れ、その結果バンパー等に塗布してもアクリル塗料より、剥がれにくく光沢があるとの品質上の優位性を主張する内容となっている。
しかし、被告製品には付着性その他右各記載性能において、他のアクリル塗料(スプレー式アクリル塗料)に比べて品質、性能上の優位性はない(甲16、17)。
(二) また、被告製品中のウレタン樹脂量は多くても一二五〇PPM(〇・一二五%)以下と認められ、米国材料試験協会規格等に照らしても、著しく微量であり、かかる程度のウレタン樹脂の含有量であれば、仮に被告商品が原告商品等の他のアクリル塗料と比較して品質が優れているとしても、それが被告製品中にウレタンを含有していることによる効果であるとは認めがたい。
(三) したがって、このような被告製品について、ウレタンが含有されている旨を表示し、前記のごとき品質上の優位性がある旨を表示する本件パネルの表示は、不正競争防止法2条1項12号に該当する。
4 争点3(被告が同種行為をするおそれ)について (一) 本件表示1の使用について 被告は、原判決後も、被告製品に「一液性ウレタン塗料」「最高級の自動車用ウレタン塗料」等の表示を付した商品を販売し、又は販売のため展示し、あるいは被告製品の広告にも表示を使用している。
(二) ウルトラ・フォーミュラへの表示の変更について(後記被告の主張三3(二)に対する反論) 被告は、本件表示2だけでなく、前記(一)のとおり、本件表示1ですら、これを継続して使用している。したがって、今後も右各表示を継続して使用するおそれがある。
5 争点4(損害)について 原判決は、被告製品の売れ行きは、宣伝や品質のほかに、価格、新色への対応の速さ、色数の多さなどの要因が組み合わさった結果であるとした上で、本件表示によって得た被告の利益額の全体に占める割合の主張、立証がないとして棄却しているが、知的財産権訴訟において、被告の得た利益中の侵害行為による寄与割合を、被侵害者たる原告において主張、立証する必要はないというべきである。
一方、被告は、自己の利益中に他の寄与要因(ウレタンの表示以外)の存することの立証をしていないのであるから、右の理由により、原告の損害賠償請求を棄却することはできない。
三 当審における被告主張の要旨 1 争点1(品質誤認表示性)について (一) 本件表示2の品質誤認表示性について 被告は本件表示2において、「ウレタン・フォーミュラ」という表現を用いているが、「フォーミュラ」とは「公式」または「方式」を意味するものであり、「ウレタン塗料」と同一のものを意味するとはいえない。
本件表示2におけるそれ以外の表示は、ごく一般的な表現であり、ウレタンを含有するという認識を生じさせるものではない。
(二) 品質の相違について(品質誤認の有無に関連して) (1) 被告製品におけるウレタン含有量について(「ウレタン」という言葉の使用の可否について) ポリウレタン樹脂塗料についての米国の定義及び日本工業規格(JIS)での規格は、いずれも二液性のポリオール型に関するものであって、一液性のラッカー型に適用すべきではなく、一液性のラッカー型塗料においては、その用途分野において求められる特徴がポリイソシアネートによるものであれば、その含有量の多寡にかかわらず、ポリイソシアネートに由来するウレタン結合を有する塗料としてポリウレタン樹脂塗料の名称を使用しても差し支えない(乙19)。
被告製品は、アクリル樹脂の一部をウレタンに変性させた一液性ウレタン塗料であり、塗料に含まれるウレタン結合が多いと塗料がゲル化してしまい製品たり得ないものとなってしまう。
(2) 甲16、17の試験対象とされている製品は、いずれもエアゾールタイプのものであり、同1条件下で(したがって、塗料を実際に吹き付ける方法により)比較テストをすべきであるのに、原告製品は、塗料の原液がそのまま資料として使用され、被告製品は、エアゾール缶に穴を開け、液化ガスを蒸発させたものが資料として使用されている。
しかし、エアゾール缶に穴を開け、液化ガスを蒸発させる場合には、
多量の気化熱が奪われるため、エアゾール缶の周囲に霜がつくほどに温度が下がり、中身の塗料も急激に温度が低下する。そして、塗料の温度が低下すると、空気中の水分が塗料表面に結露し、かつ塗料の中に入り込み、塗料の性能の劣化を引き起こすこととなる。塗料中に水分が入り込むと、光沢性、密着性、その他種々の性能の劣化をもたらせることになるのである。
被告が、塗料を実際に吹き付ける方法で、原告製品、被告製品、第三者製品の性能実験をしたところ、被告製品が、他の競合製品に比較して、格段に優れた性能を有することが判明した(乙16)。
2 争点2(本件パネルの虚偽表示性)、同2の2(本件パネルの品質誤認表示性)について 原告は、本件パネルの内容は、被告のカーペイントが他社のアクリル塗料より「耐塩水噴霧性、促進耐候性、耐揮発油性、耐酸性等に優れ」という表示内容となっていると主張するが、そのような表示はない。
その他、本件表示における品質誤認表示性に対する反論と同旨である。
3 争点3(被告が同種行為をするおそれ)について (一) 本件表示1の使用について(前記原告の主張二4(一)に対する反論) 原告が、被告の本件表示1の使用の根拠として提出する甲65のカタログは、古いカタログであり、現在のカタログ(乙22)には「ウレタン」という言葉は一切使用されていない。また、甲66についても、被告が平成八年一月ころ作成した文書であり、現在、被告が本件表示1を使用している根拠とはならない。
(二) 「ウルトラフォーミュラ」への表示の変更 被告は、被告製品について、「ウレタン・フォーミュラ」、「ウレタン」という言葉の使用を中止し、新しく「ウルトラ・フォーミュラ」という表示を使用することを決定し、新しいラベル(乙17の1、2)を作成し、在庫品についても新しいラベルを貼りなおして出荷している。
当裁判所の判断
一 争点1(品質誤認性)について 当裁判所も、本件表示をする行為は、いずれも、不正競争防止法2条1項12号の不正競争行為に該当すると考える。その理由は、次に付加、訂正するほか、
原判決一八頁末行から四〇頁八行目までに記載されたとおりであるから、これを引用する。
1(原判決の訂正等) (一) 原判決一九頁八行目の「甲1のカタログで」を「被告製品広告用パンフレット(甲1)において」と改める。
(二) 原判決二〇頁三行目の「広告として」を「広告(「ホルツニュース」と題する冊子)において」と改める。
(三) 原判決二〇頁一〇行目の「掲載されている」を「掲載された被告製品の広告中の記載である」と改める。
(四) 原判決二一頁四行目の「甲36によれば」から次行末尾までを「甲34ないし36によれば、『フォーミュラ』という語が『配合』の意味にも使用されていることがあり、ウレタンを配合した塗料という意味を表示するものであることが認められる。」 (五) 原判決二四頁四、五行目の「このウレタン塗料」から八行目末尾までを削る。
(六) 原判決三三頁三、四行目の「少なくとも」を「せいぜい」と改める。
(七) 原判決三四頁二行目の「その検体」から四行目末尾までを「被告製品用の原料樹脂と被告製品を同一視することはできず、乙5については、被告製品についての測定が行われたものの、通常の測定方法では測定できず、SIM法によって、微量のHDI成分が含まれると推定されるというに過ぎず、これらの実験結果によって、右の認定事実が左右されるとは考えられない。」と改める。
(八) 原判決三六頁一〇行目の「全体の一六・四ないし三三・八」とあるのを「少なくとも全体の一六・四」と改める。
(九) 原判決三七頁一行目の「一・六四ないし三・三八」とあるのを「少なくとも一・六四」と改める。
(一〇) 原判決三八頁一行目の「少なくとも」を「せいぜい」と改める。
(一一) 原判決三八頁二行目の「ないし三・三八」を削る。
(一二) 原判決三九頁六、七行目の「『画期的』というだけでは」を削る。
(一三) 原判決四〇頁七行目の「一〇号」を「一二号」と改める。
2 本件表示2の品質誤認表示性について 被告は、本件表示2中の「フォーミュラ」とは「公式」または「方式」を意味するものであり、「ウレタン塗料」と同一のものを意味するとはいえないと主張する。
仮に、被告主張のように「フォーミュラ」が一般的には「公式」や「方式」という意味を認識させるものであり、「配合」という意味が一般的に知られていないとしても、「ウレタン」という語と「公式」又は「方式」という語を組み合わせることによって、新たな具体的意味を有するとは考えられず、被告自身「ウレタンフォーミュラ塗料」と表示された自動車補修用塗料の背面の上段に、「最高級の自動車ウレタン補修用塗料です。」と表示していると認められること(弁論の全趣旨)に照らしても、自動車補修用塗料に「ウレタンフォーミュラ」という表示を用いた場合、一般消費者をして、ウレタンを含有した塗料という認識を得させるものと認めることができ、被告もそのことを認識していると解するのが相当である。
3 品質及びその相違について (一) 被告は、米国材料試験協会規格は、二液性のポリオール型に関するものであって、被告製品のような一般消費者用の一液性のラッカー型に適用する規格ではないと主張し、乙19を提出するが、甲50の1、2に照らすと、右規格について被告主張のような限定が付されているとは認められず、また、一液性ウレタン塗料において、ビヒクル不揮発分あたり10%(重合)以上のウレタンを含むことによって、被告が主張するように、塗料がゲル化してしまい製品たり得なくなることを認めるに足る証拠もない。
よって、被告の主張を採用することはできない。
(二) なお、乙19には、「ポリオール硬化型ポリウレタン樹脂塗料とラッカー型ポリウレタン樹脂塗料を比べた場合、前者は、硬化剤と主剤とが反応して三次元構造を有する塗膜を形成し、ポリウレタン樹脂塗料たる特徴を十分に備えるが、
ラッカー型は硬化乾燥の過程において三次元構造にはならないので、耐候性等において、ポリオール型に劣る傾向がある。したがって、必須成分(ポリイソシアネート)の量的な問題に関しては、本塗料の塗膜性能が必須成分の量の多寡よりも塗膜構造(二次元構造か三次元構造か)の違いが大きく影響するので、特に二次元構造をとるラッカー型においてポリイソシアネート量と塗膜性能との間で明確な関係が見られない限り、規定しても意味がない。」旨の記載がある。
しかし、前述したとおり、ウレタン塗料というためには一定量のウレタンが必要であると考えられ、乙19が述べるように、ポリイソシアネート量と塗膜性能との間で明確な関係がないとは言いがたく、仮に、一液性ラッカー型が二液性ポリオール型のものより性能が劣るとしても、ウレタンを含有した塗料と表示するためには、その効果を有することが必要であるところ、ウレタン含有量が極めて微量であるとき、その効果を期待できないことはいうまでもなく、被告製品から検出された程度の極微量のウレタン組成成分(ヘキサメチレンイソシアネート成分)であれば、通常のアクリル塗料以上の性能アップは認められないとの意見(甲23)に照らしても、右乙19に述べられた内容を採用することはできない。
(三) また、被告は、エアゾールタイプの被告製品と原告製品とを同1条件下において、実際に吹き付ける方法によって比較テストをすべきであると主張した上、乙16(試験結果報告書)を提出する。
しかし、仮に、被告製品の方が優れていたとしても、本件表示において表示されているように、それがウレタンを含有していることによる効果とは考えられない以上、本件表示をすることにより、一般消費者に対して、被告製品の品質について、誤認を生じさせているというべきである。
二 争点2(営業誹謗行為)について 1 当裁判所も、本件パネルにおける表示が、原告製品の品質に関して虚偽の内容を表示するものであるとまでは認めることができないと考える。その理由は、
原判決四〇頁一〇行目から四四頁一〇行目までに記載されたとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決四〇頁末行の「ホディー」を「ボディー」と改める。)。
2 原告は、不正競争防止法2条1項13号の「虚偽の事実」については、客観的事実に反することを相当程度立証すれば足りると解するべきであると主張するが、前記1に引用した原判決に記載されたとおり、客観的事実に反することを相当程度立証するに至っていないというべきである。
また、原告は、比較広告において不当表示とならないための要件を挙げるが、虚偽の事実を表示したと認めることができない以上、少なくとも、不正競争防止法2条1項13号に該当するといえないというべきである。
三 争点2の2(本件パネルの表示の品質誤認性)について 甲20及び弁論の全趣旨によると、本件パネルにおいては、「ホルツカーペイントはウレタン入りだから ボディーはもちろんバンパーにも最適!」と記載した横に被告製品の写真を掲載し、その他、「ウレタン塗装(ホルツペイント)とアクリル塗装(他社ペイント)との違いは?」「ホルツカーペイント(ウレタン入)は光沢が良く剥がれにくい。」と記載されていることが認められる。
これによると、本件パネルの表示は、被告製品の塗料としてウレタンが含有されていることを意味するものであることが明らかである。
そうすると、前記一において引用した原判決に記載されたとおり、本件パネルの表示内容及びウレタン塗料の性質からすれば、被告製品にはプロが使う塗料の成分と同じウレタンが含有されていること、そのために他の一般消費者用の自動車補修用塗料に比べて品質が良いとの認識が生じるが、被告製品のウレタン含有量は極めて低く、ウレタンの含有による効果が得られているとは考えられないことから、右本件パネルを表示する行為は、不正競争防止法2条1項12号の不正競争に当たり、原告はこれによって営業上の利益を害されるおそれがあるものというべきである。
また、甲20及び弁論の全趣旨によると、被告は、本件パネルを表示していたことが認められ、その後、本件パネルの使用が中止されたと認めるに足る証拠はなく、被告が同種行為をするおそれも否定できない。
四 争点3(被告が同種行為をするおそれ)について 1 本件表示1の使用について 証拠(甲51ないし55)及び弁論の全趣旨によれば、市場では、現在も本件表示1を用いた被告製品が販売されていることが認められる。
被告は、被告製品について本件表示1から本件表示2に切り替えたと主張するところ、確かに、新たな製造分については、本件表示1を使用した製品を製造していないことが推測されるものの、被告製品の在庫などは不明であって、本件表示1を用いた製品が回収されたことを認めるに足りる証拠はないから、被告はなお本件表示1の使用を継続するおそれがあるというべきである。
2 本件表示2の使用について また、本件表示2については、証拠(甲65、67の1、2)及び弁論の全趣旨によれば、被告は現に本件表示2を使用しており、今後も使用するおそれがあると認められる。
3 なお、被告は、当審において、本件表示2も使用を中止し、「ウルトラ・フォーミュラ」という表示を使用することを決定し、その新しいラベルの作成を完了したと主張し、乙17の1、2を提出する。
しかし、前記1で認定したとおり、本件表示2の使用の一方で、本件表示1が使用されている事実に照らすと、被告が、「ウルトラ・フォーミュラ」の表示の使用を開始したからといって、本件表示の使用が中止されたとはいいがたい。
以上によると、原告が、被告に対し、本件表示の使用差止めと右表示を使用した容器等の廃棄を求める請求は理由がある。
五 争点4(損害額・謝罪広告の必要性)について 1 謝罪広告の要否について 原告が求める謝罪広告は、不正競争防止法7条に基づくものであって、同条では「不正競争を行って他人の営業上の信用を害した」ことが要件とされているところ、被告が本件表示をしたことによって、原告の営業上の信用が現に害されたと認めるに足る証拠はないから、原告の謝罪広告請求は理由がない。
2 損害賠償について (一) 当裁判所も、被告の不正競争行為によって、被告が得た利益の額、原告の信用が毀損されたことに基づく損害の額は、いずれも、これを算定することはできないと考える。
また、原告は、本件訴訟の提起、追行を弁護士に依頼したと認められるところ、被告の不正競争行為と相当因果関係を有する弁護士費用は、一五〇万円とするのが相当である。
以上の理由は、原判決四六頁一〇行目から四九頁一行目までに記載されたとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決四九頁一行目の「一〇〇万円」を「一五〇万円」と改める。)。
(二) 原告は、知的財産権訴訟において、被告の得た利益中の侵害行為による寄与割合を、被侵害者たる原告において主張、立証する必要はないと主張するが、本件では、前記引用した原判決に記載されたとおり、そもそも、被告が被告製品の販売によって得た利益の額自体について、これを認めるに足りる証拠がないのであって、主張の前提を欠くというべきである(なお、被告としては、右利益の立証があった場合に、はじめて自己の利益中の他の寄与要因の立証をすれば足りる。)。
六 結 論 以上によると、原告の請求は、本件表示及び本件パネルの使用の差止めと損害賠償として一五〇万円の支払を求める限度で認容すべく、その余は失当として棄却すべきである。したがって、原判決は、右と符合する限度で相当であり、その余は不当であるから、被告の本件控訴を棄却し、原告の本件附帯控訴に基づき、原判決を本判決主文二項のとおり変更し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法67条
61条64条を、仮執行の宣言につき同法259条1項を適用して、主文のとおり判決する。
(当審口頭弁論終結日 平成一二年一〇月二七日)
裁判官 若林諒
裁判官 山田陽三
裁判長裁判官 鳥越健治