関連ワード | 需要者 / 差止請求(差止) / 営業上の利益 / 共同不法行為 / 侵害 / 競業関係 / 代理人 / 代表者 / 秘密管理(秘密管理性) / 秘密として管理 / 秘密保持義務 / 有用性 / 非公知性 / 営業秘密 / 2条1項4号 / 2条1項5号 / 不正取得行為 / 不正の利益を得る目的(図利目的) / 損害賠償 / 損害額 / 推定 / |
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事件 |
平成
16年
(ワ)
24950号
不正競争行為差止等請求事件
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原告 三成サービス有限会社 訴訟代理人弁護士 小林十 四雄佐藤水暁 小林大介 補佐人弁理士 西村雅子 被告 有限会社七徳通商 被告Y |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2005/06/27 |
権利種別 | 不正競争 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 被告らは,別紙輸入先目録記載の生産者から別紙物件目録記載の野菜を輸入してはならない。 2 被告らは,別紙顧客目録記載の顧客に対し,別紙物件目録記載の野菜の販売又は卸売りをしてはならない。 3 被告らは,原告に対し,連帯して,金1000万円及びこれに対する平成16年12月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 訴訟費用は被告らの負担とする。 5 この判決は,第3項に限り,仮に執行することができる。 |
事実及び理由 | |
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請求
主文同旨 |
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当事者の主張
1 原告の主張 (1) 当事者 ア 原告 原告は,飲食店業並びに飲料水及び食料品の輸入,輸出及び販売等を目的として,平成9年3月5日に設立された有限会社であり,香菜,豆苗,カイラン,広東白菜及び菜心等の中華料理に使用する生鮮野菜(以下「中国野菜」という。また,別紙物件目録記載の野菜(以下「本件野菜」という。)は,いずれも中国野菜に含まれる。)の生産,輸入,販売及び卸売り等を行っている。 イ 被告ら 被告Yは,平成13年5月ころから,アルバイトとして原告に勤務し,平成14年4月1日,原告の正社員に採用されて,主に日本国内の顧客に対する営業を担当していたが,同年9月1日,原告を退職した。 被告有限会社七徳通商(以下「被告七徳通商」という。)は,飲料水,食料品及び野菜の輸入,輸出及び販売等を目的として,平成14年7月22日に設立された有限会社であり,設立以来被告Yが唯一の取締役であって,中国野菜の輸入,販売及び卸売り等を行っている。 (2) 営業秘密 ア 本件営業秘密 本件野菜の輸入販売等に関する,別紙輸入先目録記載の生産者の名称,住所及び連絡先その他の情報(以下「仕入先関連情報」という。)並びに別紙顧客目録記載の顧客の名称,住所,連絡先,過去の取引実績及び支払状況(信用度)その他の情報(以下「顧客関連情報」といい,仕入先関連情報と併せて「本件営業秘密」という。)は,不正競争防止法2条4項所定の営業秘密に該当する。その理由は,以下のとおりである。 イ 秘密管理性 原告は,本件営業秘密が記載された書面を,「秘」の印を押印した上で秘密書類保管用書庫に保管して施錠しており,秘密書類保管用書庫の鍵は原告代表者が管理している。そのため,原告従業員であっても,原告代表者の許可がなければ上記書面を閲覧することはできず,閲覧した場合にも原則として上記書面を謄写することはできない。 また,本件営業秘密は,原告代表者用のコンピュータに保存されて管理されているところ,当該コンピュータは,原告代表者のみが使用することができることとされている上,原告の保有する他のコンピュータやインターネットに接続されていない。そして,原告代表者用のコンピュータは,原告代表者が管理するパスワードを入力しなければ起動しない上,本件営業秘密が保存されているファイルにアクセスする場合には改めてパスワードの入力が必要とされる仕組になっている。 さらに,原告は,本件営業秘密に接する機会のあるすべての従業員に対し,本件営業秘密の範囲を具体的に示して,本件営業秘密を保持する旨の誓約書を提出させることにより,秘密保持義務の存在を明確にしている。また,就業規則においても,本件営業秘密の範囲を具体的に示して,従業員全員が秘密保持義務を負うことを記載している。そして,原告は,原告の全従業員に対し,毎朝行っている朝礼において,随時,新聞等に掲載された営業秘密に関する事件を紹介するなどの教育を行っていた。 したがって,本件営業秘密は,秘密として管理されている。 ウ 有用性 本件営業秘密は,原告が独自に獲得した情報であり,原告が同業他社と競争していく上で多大な価値を有する。 エ 非公知性 本件営業秘密は,公然と知られていない。 被告らは,原告の仕入先や顧客の一部がインターネット上にホームページを開設していることから,本件営業秘密が公然と知られている旨主張する。しかし,本件営業秘密は,中国,台湾及びマレーシア等に存在する多数の生産者の中から原告が独自に開拓した仕入先であること,多数の潜在的な顧客の中から原告が営業活動によって独自に開拓した顧客であることが重要なのであって,連絡先等の一部の情報が入手可能であるからといって,本件営業秘密が公然と知られているとはいえない。 (3) 被告らによる不正競争行為 被告Yは,平成14年8月27日から同年9月4日の間に,原告に無断で本件営業秘密の記載された文書を謄写して持ち帰り,もって本件営業秘密を窃取した。 そして,被告七徳通商は,本件営業秘密を使用して,別紙輸入先目録記載の生産者を含む,原告の仕入先でもある中国野菜の生産者から,原告の取り扱っている中国野菜の中でも利益率のよい本件野菜を中心に輸入した。 また,被告七徳通商は,本件営業秘密を使用して,別紙顧客目録記載の顧客を含む,原告の主要な顧客に対し,本件野菜を販売及び卸売りした。すなわち,被告らは,本件営業秘密に基づいて,原告の顧客の中でも売上高の多い顧客に対し,原告の販売価格より約5ないし25%安い価格で見積書を作成し,原告よりも安くする旨を述べて,本件野菜を販売した。 被告らはこれらの事実を否認するが,潜在的な仕入先や顧客が多数存在する中で,被告らが実際に取引を行った仕入先や顧客が,偶然に原告の仕入先や顧客と合致することはあり得ない。 そして,被告Yが原告在職中に被告七徳通商を設立してその代表者となったこと,被告らが本件営業秘密を使用して本件野菜の輸入,販売及び卸売りをしていること,被告Yが,被告七徳通商の営業に関して,同被告従業員であったTに指示をして自らは表に出ないようにしていたこと,被告Yが本件営業秘密の記載された書類の隠ぺいを図っていたことからすれば,被告七徳通商は,本件営業秘密が被告Yによって窃取されたものであることを知りながら,不正の競業その他不正の利益を得る目的で本件営業秘密を使用している。 したがって,被告らの行為は,不正競争防止法2条1項4号,5号又は7号所定の不正競争行為に該当する。 (4) 競業避止義務違反 ア 誓約書 被告Yは,原告が税関や税務署による調査を受けた際の対応のために原告の営業秘密を取り扱った時と,平成14年4月に原告の正社員として採用された時の,2度にわたり,下記のような内容の誓約書を作成し,原告に提出した。 記 私は,下記事項を堅く守ります。万一これに違背して御社にご迷惑・ご損害をかけました節はその責めに任じますことをここに誓約します。 1 諸規則・規定等を遵守し,信義誠実を旨として勤務すること 2 会社の仕入先,顧客,仕入マニュアル,営業マニュアル等は会社の最も重要な営業秘密であること 3 業務上の機密に属することは在職中はもちろん,退職後も,これを会社の目的以外に使用しないこと及び他に漏洩しないこと 4 会社の内外を問わず従業員の面目を傷つけ,御社の名誉を汚損する言動はしないこと イ 従業員就業規則 原告の平成14年4月1日付けの従業員就業規則には,下記のとおりの条項が含まれている。 記 2 会社の仕入先リスト,顧客先リスト,仕入マニュアル,営業マニュアルなどは会社の最も重要な営業秘密であることを認識し,十分注意して社外に持ち出すことを禁止すること 3 業務上の機密に属することは在職中はもちろん,退職後も,これを会社の目的以外に使用しないこと及び他に漏洩しないこと 4 在職中,他の会社を設立することを禁止し,退職後,会社を設立する場合があるとしても,会社と同業会社を設立することを禁止すること 5 退社後2年以内,会社と同業会社及び会社の仕入先,顧客先に就職しないこと(ただし,飯店を除く。) ウ 被告Yの競業避止義務違反行為 上記ア及びイより,被告Yは,原告に対し,秘密保持義務及び競業避止義務を負う。 しかるに,被告Yは,原告在職中に,原告と競業関係に立つ被告七徳通商を設立し,その取締役に就任した上,原告退職後は,本件営業秘密を使用して,中国野菜の輸入,販売及び卸売り等の業務を行っている。 (5) 損害 ア 被告らによる上記(3)及び(4)記載の行為がなければ,原告の売上は,少なくとも,第6期(平成14年2月1日から平成15年1月31日まで)において3億1413万0941円,第7期(平成15年2月1日から平成16年1月31日まで)において4億5863万1174円,第8期(平成16年2月1日から平成17年1月31日まで)において6億6960万1514円に達していたと推定される。 また,原告の利益率(粗利)は,第5期(平成13年2月1日から平成14年1月31日まで)において51.82%であった。 イ しかるに,原告の現実の売上額は,第6期において2億4686万2668円,第7期において2億9985万1927円,第8期において2億7034万8467円であった。 ウ 原告が被告らの行為によって被った損害は,推定売上額と現実の売上額の差に上記利益率を乗じて得た積の額を下らないから,下記のとおり,少なくとも合計2億4723万8437円である。 記 @ 第6期分 3485万8419円 (314,130,941 - 246,862,668) × 0.5182 = 34,858,419 A 第7期分 8227万9406円 (458,631,174 - 299,851,927) × 0.5182 = 82,279,406 B 第8期分 1億3010万0612円 (521,411,015 - 270,348,467) × 0.5182 = 130,100,612 C @ないしBの合計 247,238,437 エ 原告は,上記損害のうち1000万円を損害として主張する。 (6) よって,原告は,被告らに対し,競業避止義務違反又は不正競争防止法2条1項4号,5号若しくは7号,3条及び4条に基づき,請求の趣旨第1項及び第2項記載の行為の差止めを求めるとともに,損害賠償金1000万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成16年12月11日)以降から民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 2 被告らの主張 (1) 原告の主張(1)について 認める。 (2) 原告の主張(2)について 否認し,争う。 原告が書類に「秘」の印を押印するようになったのは,被告Yが原告を退社した後のことであるし,被告Yは,秘密保持義務が記載された誓約書を見たことがなく,これにサインしたこともないから,本件営業秘密は秘密として管理されていなかった。 また,同業他社も,それぞれ独自の仕入先,販売先及び管理方法を有しているところ,原告が輸入している野菜は,年に何度も基準値を超える農薬が検出されるなど質が悪いものであるから,原告の情報には価値がない。 さらに,被告らの中国野菜の仕入先は,原告の仕入先とは異なる上,本件営業秘密に含まれる情報はインターネットで調べることができるから,本件営業秘密は公然と知られている。 (3) 原告の主張(3)について 否認し,争う。 本件営業秘密は,被告らにとって役に立たないものであるから,被告Yがこれを窃取したり,被告七徳通商がこれを使用したことはない。 また,被告らは,被告Yの友人,インターネット及び市場調査から,中国野菜の輸入及び販売に必要な情報を入手しており,本件営業秘密を使用していない。 (4) 原告の主張(4)について 否認し,争う。 被告Yは,就業規則や秘密保持義務が記載された誓約書を見たことがないから,原告に対する秘密保持義務ないし競業避止義務を負わない。 (5) 原告の主張(5)について 否認し,争う。 被告七徳通商の年間売上額は2000万円ないし3000万円であるし,被告七徳通商よりも安く中国野菜を販売している同業者も多数存在するから,原告主張の損害は被告らの行為によって生じたものではない。 (6) 原告の主張(6)について 争う。 |
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当裁判所の判断
1 被告らは,平成17年3月22日の本訴第2回弁論準備手続期日に出頭せず,同期日以降,主張及び立証を行わない。 2 原告の主張(1)について 原告の主張(1)の事実は,当事者間に争いがない。 3 原告の主張(2)について (1) 認定事実 証拠(甲9ないし23,43,48)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ,これを覆すに足りる証拠はない。 ア 平成9年当時,中国野菜を鮮度を保ったまま輸入することには,栽培方法や保管技術等における困難が伴っていたが,原告は,中国野菜の生産者に栽培方法や保管技術等を指導するなどして,仕入先を確保することにより,中国野菜の輸入業を安定的に営むことができるようになった。また,平成9年当時は,中国野菜を継続的に輸入する業者が少なかったことから,原告は,中国野菜の需要に関する情報を収集し,顧客との連絡方法や顧客毎の取引履歴等の情報を蓄積することにより,販路を確保してきた。 イ 原告は,平成14年6月ころ以降,自己の営業に関する情報を,購入先別人脈管理表(仕入先関連情報が含まれている。),得意先一覧表(顧客関連情報が含まれている。),仕入マニュアル,営業マニュアル(顧客関連情報が含まれている。),倉庫管理規則及び野菜の栽培技術等に整理して管理するようになった。 これらの情報が記載された書面は,「秘」の印が押印された上で,施錠可能な書類保管用書庫に保管されており,同書庫の鍵は,施錠可能な原告代表者の机に保管されている。 ウ また,原告は,平成14年6月ころ以降,本件営業秘密を含む自己の営業に関する情報を,原告代表者用のコンピュータに保存して管理しているところ,同コンピュータは,原告代表者のみが使用することができることとされている上,原告の保有する他のコンピュータ及びインターネットに接続されていない。そして,原告代表者用のコンピュータは,原告代表者が管理するパスワードを入力しなければ起動せず,本件営業秘密が保存されているファイルにアクセスするためには改めてパスワードの入力を要するように設定されている。 エ さらに,原告は,遅くとも平成13年4月ころ以降,本件営業秘密に接する機会のある従業員に対し,仕入先や顧客等の情報が営業秘密であって,これを原告の目的以外に使用しないこと等を記載した誓約書を提出させてきた。 また,原告は,平成14年4月1日付けで,「会社の仕入先リスト,顧客先リスト,仕入マニュアル,営業マニュアルなどは会社の最も重要な営業秘密であることを認識し,十分注意して社外に持ち出すことを禁止すること」,「業務上の機密に属することは在職中はもちろん,退職後も,これを会社の目的以外に使用しないこと及び他に漏洩しないこと」等を内容とする「従業員就業規則(その1)」と題する書面を作成し,これを原告の営業所内のホワイトボード上に掲示していた。そして,原告は,その従業員に対し,毎朝行っている朝礼において,随時,新聞等に掲載された営業秘密に関する事件を紹介するなどの教育を行っていた。 (2) 判断 ア 秘密管理性 上記(1)に認定したとおり,原告は,平成14年6月ころ以降,原告代表者以外の者が本件営業秘密に触れないように管理しており,原告従業員が本件営業秘密を使用する場合には,原告代表者のみが保有する書庫の鍵を使用するか,原告代表者が管理するパスワードを用いて原告代表者用のコンピュータを使用しなければならず,また,本件営業秘密が第三者に知られないよう,原告従業員に誓約書を提出させたり,就業規則を作成するなどしていたことからすると,本件営業秘密は,平成14年6月ころ以降,秘密として管理されていたと認められる。 イ 有用性 上記(1)に認定した事実によれば,仕入先関連情報は,原告が生産者に中国野菜の栽培方法等を指導するなどして確保してきたものであり,顧客関連情報は,原告が中国野菜の需要に関する情報を収拾するなどして獲得してきたものであって,いずれも効率的に営業をするために有用な情報といえる。 この点について,被告らは,原告が輸入販売する中国野菜の質が悪いとして,そのような中国野菜の生産者や需要者に関する情報には有用性がないと主張する。しかし,仮に原告の輸入する中国野菜の品質が悪いとしても,顧客関連情報のみならず,仕入先関連情報についても,生産者に関する情報がまとめられている点で,効率的な営業に資するという意義は失われないし,被告ら自身,原告の仕入先から中国野菜を仕入れようとしていたこと(甲25ないし27(枝番を含む。),弁論の全趣旨)も併せ考慮すると,被告らの主張を採用することはできない(なお,乙第18号証によれば,平成15年12月26日ころ,原告が輸入した台湾産タロイモから基準値を超えるクロルピリホスが検出され,厚生労働省食品安全部監視安全課から原告に対して,上記タロイモ全量につき廃棄又は積み戻し等を行うよう指示が出されたことが認められるが,この一事をもって,原告の輸入販売する中国野菜の品質が一般的に悪いということはできないし,他に,原告の輸入販売する中国野菜の品質が,本件営業秘密の有用性が否定される程に劣悪であることを示す事情は認められない。)。 ウ 非公知性 本件営業秘密が原告独自の活動によって得られた情報であること,上記(1)に認定した本件営業秘密の管理状況に鑑みると,本件営業秘密は,非公知であったと認めることができる。 被告らは,原告の仕入先や顧客の一部がインターネット上にホームページを開設するなどして連絡先を公開していることから,本件営業秘密が公然と知られている旨主張する。しかし,ホームページ等が存在するとしても,これらの仕入先や顧客が原告と取引関係を有していること,原告との取引の担当者やその連絡先,取引実績等の情報までがインターネット上において公開されていることを認めるに足りる証拠はない。また,他に本件営業秘密が公然と知られていることを認めるに足りる証拠もないから,被告らの主張は採用することができない。 エ したがって,本件営業秘密は,不正競争防止法2条4項にいう営業秘密に該当する。 4 原告の主張(3)について (1) 認定事実 証拠(各項末尾に掲げる。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ,これを覆すに足りる証拠はない。 ア 被告Yの退職(甲5,24,43) 原告代表者は,平成14年8月27日から同年9月4日までの間,中国に戻っていたところ,出発に際して,被告Yに原告代表者の机の鍵を預けており,また,被告Yは,このころ,原告の事務所のドアの鍵を所持していた。ところが,被告Yは,原告に対し,同年9月1日,同年8月31日付けの退職届をファックスで送信し,以後,原告に出勤しなくなった。 イ 被告らの営業活動等(甲3,25ないし27,29,30,43,50) (ア) Tは,平成14年11月20日から平成16年5月31日までの間,被告七徳通商に勤務し,中国野菜の営業等を行っていたが,被告七徳通商に雇われるまで中国野菜の輸入販売等をした経験がなかったため,被告Yが,Tに対して具体的な指示を与えて営業等を行わせていた。特に,日本国内における販路を確保するための営業については,被告Yが,Tに対し,相手方の名称,電話番号,担当者及び相手方がこれまでに原告からどのような中国野菜を購入してきたか等を教えた上,原告よりも安くする旨を述べて営業するように指示していた。 また,Tは,被告七徳通商内の被告Yの机上に,原告の営業マニュアルの一部の写しや,束になった原告の見積書の写しが置いてあるのを見たことがあった。 さらに,平成15年ころ,男性が被告七徳通商の事務所を訪れて見積書を要求したことがあったところ,被告Yが「もしかしたら,あの男は,三成サービスのスパイではないか。」と述べたり,「三成サービスがいつ来るかも分からないので,大事な書類は中国の実家に送ってある。だから,絶対に見つからない。」旨を述べたりしたことがあった。 (イ) 被告Yは,平成14年8月ころ,原告の仕入先の一つである北京所在の会社に電話をかけ,日本に野菜を輸出することができるか否かを尋ねた。 (ウ) 被告Yは,平成14年12月25日ころ,Tに対し,原告の仕入先の一つである台湾省農会の東京事務所主任であるKの携帯電話の番号を教え,同人に電話をかけるよう指示した。これを受けて,Tは,Kに電話をかけ,台湾省農会の扱う野菜の価格表を要求した。 (エ) 被告Yは,平成15年ころ,Tに対し,原告の仕入先の一つである美蘭高原蔬菜貿易有限公司の連絡先を教えて交渉させ,被告七徳通商は,同公司から5回にわたり中国野菜を輸入した。 (オ) Tは,被告Yの指示を受けて,平成15年9月22日ころ,株式会社大松の外商部長であるMを中国野菜の営業のために訪問し,その際,見積書を持参していたが,同見積書においては,いずれの中国野菜の値段も原告の価格より安く見積もられていた。 (2) 本件営業秘密の不正取得行為について 上記(1)に認定した事実に加え,前記3(1)に認定した,原告における本件営業秘密を含む営業に関する情報の管理方法を考慮すると,被告Yは,平成14年8月27日から同年9月1日までの間に,本件営業秘密を含む,原告の仕入先及び顧客に関する情報の記載された資料を複写するなどして持ち出し,もって本件営業秘密を窃取したと推認することができる。このような被告Yの行為は,不正競争防止法2条1項4号所定の不正競争行為に該当する。 (3) 本件営業秘密の不正使用行為について また,上記(1)に認定した事実及び被告七徳通商の代表者が被告Yであることからすれば,被告七徳通商は,本件営業秘密が被告Yによって原告から窃取されたものであることを知った上,本件営業秘密を利用して営業活動を行ったと認められる。このような被告七徳通商の行為は,不正競争防止法2条1項5号所定の不正競争行為に該当する。 (4) 被告らの責任等 被告七徳通商による本件営業秘密の使用行為は,被告Yが自ら持ち出した本件営業秘密を自らが代表者を務める会社の営業のために使用した行為なのであるから,被告らの不正競争行為は,両者が一体となって行われたものであって,共同不法行為に該当するというべきであり,被告らは,これによって生じた損害を連帯して支払うべき責任を負う。 また,被告Yが取締役を務める被告七徳通商により,本件営業秘密が使用されていることからすれば,被告らの不正競争行為によって,原告の営業上の利益が侵害されるおそれがあると認められる。 5 原告の主張(5)について (1) 認定事実 証拠(各項に掲げる。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ア 原告の売上高(甲40ないし42,51) 近年における原告の各年度の売上高は,下記のとおりである。 記 @ 平成12年2月1日から平成13年1月31日まで 合計1億4938万9383円 A 平成13年2月1日から平成14年1月31日まで 合計2億1515万8179円 B 平成14年2月1日から平成15年1月31日まで 合計2億4686万2668円 C 平成15年2月1日から平成16年1月31日まで 合計2億9985万1927円 イ 原告の各顧客毎の売上高(甲34,36) (ア) 原告の株式会社南国酒家原宿店に対する月間の売上高は,平成14年9月には30万円を超えていたが,その後減少し,平成14年11月から平成15年11月までの間,10万円を超えることはなかった。 (イ) 原告の木村商店に対する月間の売上高は,平成14年3月から同年12月までの間はいずれも100万円を超えていたが,平成15年1月以降は100万円を超える月がほとんど見られなくなった。 (2) 判断 上記(1)に認定した事実によれば,原告の売上高は,全体としては,平成14年以降も増加しているものの,各顧客毎の売上高に着目すると,平成14年ころから売上高の減少した顧客も見られ,これに被告七徳通商が原告の顧客を中心として中国野菜の販売活動を繰り返していたことを併せると,被告らによる不正競争行為により,原告が得られていたであろう利益を失ったと認められるところ,原告の売上高合計額の推移等,本件に現れた諸事情を総合考慮すれば,被告の不正競争行為により原告が被った損害額は,少なくとも金1000万円を下らないと認められる。 6 結論 以上により,原告の請求には理由があるから,これを認容することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 清水節 |
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裁判官 | 山田真紀 |
裁判官 | 田公輝 |