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事件 平成 7年 (モ) 51550号
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 1996/03/29
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事仮処分
主文 一 本件仮処分決定第一項を認可する。
二1 本件仮処分決定第二項を取り消す。
2 右取消部分につき債権者らの債務者大阪ケミカル工業株式会社に対する申立てを却下する。
三 債権者らと債務者大阪ケミカル工業株式会社との間の手続費用はこれを三分し、その二を債務者大阪ケミカル工業株式会社の、その余を債権者らの各負担とする。
事実及び理由
保全異議申立ての趣旨
一 本件仮処分決定第一項及び第二項を取り消す。
二 前項の部分につき債権者らの申立てを却下する。
との裁判を求める。
事案の概要
本件仮処分決定の該当欄記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、債務者株式会社レアールのみに関する部分は除く。)。
なお、債権者表示3は、現在、疎乙第三〇号証の1〜4のものに変更されている。
債権者ら主張の被保全権利及び本件仮処分の申立て
本件仮処分決定の第三記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、債務者株式会社レアールに関する部分は除く。)。
争点
次のとおり争点五を追加する外、本件仮処分決定の該当欄記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、債権者表示1については、本件仮処分決定は、これが周知商品表示に該当することを否定し、債務者表示1を使用したサンダルの製造、販売の差止めの仮処分申立てを却下しているので、債権者表示1に関する部分を除く。以下同様。)。
五 債務者ITCは現在差止請求権を喪失しているか。
争点に関する当事者の主張
次のとおり当事者の主張の補充を付加する外、本件仮処分決定の該当欄記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、二七頁三行目の「右混同のおそれに」を「右混同のおそれの」に、三〇頁九行目の「争点3」を「争点三」に、末行の「争点3」を「争点二」に、三一頁八行目の「債務者表示2」を「債務者表示3」に各改める。)。
一 争点一(債権者表示1ないし3は不正競争防止法2条1項1号のいわゆる周知商品表示に該当するか)についての主張の補充【債権者ら】1 債権者商品のサンダル自体に付された商品説明書(債権者表示2)は、他社の場合はともかく、表裏の一連のデザイン全体が商品の出所表示機能を有していることは明らかである。
2(一) 債権者商品は、サンダルが外箱とともに展示、販売されている(疎甲第七号証、疎乙第二九号証の5〜7)。
仮に、例外的に債権者商品が外箱を伴わないで展示されることがあるとしても、
顧客が債権者商品を購入した段階で外箱に入れられて顧客に渡されるのであるから、債権者商品の場合は、外箱は中身のサンダルと一体となって取引されるものである。
(二) 債務者大阪ケミカルは、第一次的には商品を入れたり包装することにより商品の流通を可能にし品質を保持するための機能を有するにすぎない「商品の容器若しくは包装」は、第一次的に出所表示のために商品等に付される「氏名、商号、
商標、標章」とはその商品表示性の検討において異なる考察が必要である旨主張するが、誤りである。商品表示とは、商品を個別化する認識手段たる形象であり、認識可能な表示としての全体的一体性と独立の個別化力を有するものである限り、その商品個別化手段が商標であるか商品の容器であるかなど、個別化の手段を問わないのである。
(三) 債務者大阪ケミカルは、債権者らが外箱の色彩、模様を変更したことから、債権者表示3が商標的意味を有することはない旨主張するが、債権者らは、債務者大阪ケミカルらによって外箱のデザイン類似した商品を販売されたため、市場での混乱を回避する趣旨で外箱のデザインを変更したものであって、そのことは債権者表示3が商品表示性を有することに何ら影響を与えるものではない。
【債務者大阪ケミカル】1 債権者表示2(商品説明書)は、単なる商品説明書であって、商品の出所表示機能を有するに至ってはいない。
本来、第一次的には商品の説明のためのものである商品説明書は、同一の形状及び模様のもとで多年にわたって継続的に使用されることにより特別顕著性を獲得し第二次的に商品の出所表示機能を有するに至る場合に初めて、不正競争防止法2条1項1号の「その他の商品表示」に該当するのである。
しかるに、債権者の商品説明書の字体、配色、裏面の説明図は、いずれも債権者独特のものではなく、第三者たる他のメーカーも使用しており、出所表示機能を有しない。
2(一) 債権者表示3に関して、本件仮処分決定の後である平成七年七月、大阪市<以下略>の天神橋筋商店街の五軒の履物店につき、サンダルの販売現場の状況を検分したところ(同商店街は、南北に日本一長い商店街であり、平均的な庶民的な商店街として、サンダル等の大衆向け商品の販売の具体的実情を検分するに適している。)、やはり、各サンダル等(もちろん、債権者らの販売するサンダルも)は箱に入れられず、サンダルそのものが店頭に陳列されていた(乙第二九号証の1〜16)。
(二) 同じく不正競争防止法2条1項1号にいう商品表示として列挙されているとはいえ、「商品の容器若しくは包装」は、第一次的に出所表示のために商品等に付される「氏名、商号、商標、標章」とは異なり、第一次的には商品を入れたり包装することにより商品の流通を可能にし品質を保持するための機能を有するにすぎないものであって、それ自体商品の出所表示としての機能を有するものではないから、その商品表示性の検討において異なる考察が必要であり、同一の形状及び模様のもとで多年継続的に使用されることにより特別顕著性を獲得し商標的意味を有するに至って初めて、不正競争防止法2条1項1号にいう商品表示に該当するに至るのである。
しかるに、債権者商品の外箱の色彩、模様は、平成七年夏、債権者表示3の色彩、模様のものから、別の色彩、模様のものに変更された(乙第三〇号証の1〜4)。このように色彩、模様の変遷があるのであるから、到底、債権者表示3が商標的意味を有することはないのである。
右変更につき、債権者らは、債務者大阪ケミカルらによって外箱のデザイン類似した商品を販売されたため、市場での混乱を回避する趣旨で外箱のデザインを変更したものである旨主張するが、債務者大阪ケミカルは、債権者らからの警告に従って、
遅くとも平成六年七月末日以降は債務者商品を販売しておらず、既に販売した商品も四、五〇〇足にすぎず、しかも季節商品であるため既に市場における販売もされていないから、債権者らが市場における混乱を懸念する必要はない。
(三)債権者らは、商品表示とは、商品を個別化する認識手段たる形象であり、認識可能な表示としての全体的一体性と独立の個別化力を有するものである限り、その商品個別化手段が商標であるか商品の容器であるかなど、個別化の手段を問わないと主張する。しかし、多くの商品の容器、包装は、それ自体としては商品を識別する機能を有せず、それが永年、特定の商品の容器として使用された結果セカンダリーミーニングを取得するに及んで初めて商品表示性を取得するのである。
二 争点二(債務者表示1ないし3は債権者表示1ないし3に類似するか。債務者らの行為により債務者商品と債権者商品の混同を生じるか。)についての主張の補充【債権者ら】 債務者大阪ケミカルは、ビルケンタイプの各商品の出所の識別は、文字商標自体によるしかない旨主張するが、商品の出所は、各商品がそれぞれ有する商品表示によって個々に定まるものであり、ビルケンタイプのサンダル一般につき一律に定まるものではないのであって、債権者商品の場合は、外箱のデザイン、商品説明書、
更にサンダルの底に刻まれた刻印とによって、商品の出所を表しているのである。
しかも、右の三種の表示は、それぞれ一連のデザインから構成されているのであって、その中に記載された文字商標のみを抽出して、他の商品表示と比較することは許されない。
【債務者大阪ケミカル】1 不正競争防止法にいう商品表示の類似性の判断基準については、最高裁昭和五八年一〇月七日判決・民集三七巻八号一〇八二頁が、「類似のものにあたるか否かについては、取引の実情のもとにおいて、取引者又は需要者が、両表示の外観、称呼又は観念に基づく印象記憶連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるか否かを基準として判断するのが相当である。」としている。
そして、商品表示の類否についての現実的判断手法は、商標法での類否判断より混同を重視しつつ、商標法の類否判断で発達した両表示の外観観念、称呼の類似を検討する手法を用いながら、取引の具体的実情において弾力的に全体的に判断するということになり、商標法におけるより類似の範囲が広くなる場合もあれば、狭くなる場合もある。
2 サンダルは、店頭では箱に入れられず、箱の展示がなく、サンダルそのものが陳列され、客が試し履きの上購入を決定して、代金を支払った後、小売店の都合でビニール袋に入れて渡されることもあり、また、箱に入れられることもあり、その箱も無地のものが用いられることもあり、区々である(本件仮処分決定第五の一【債務者大阪ケミカルの主張】3のとおり)。そして、足の大きさ、形状、足幅は各人各様であり、足に合わねば購入できない商品であるから、箱の外観やそこから想起する商品の出所に惹かれたからといって購入するものではない。
また、債権者商品、債務者商品のようなタイプのサンダルは、いわばその本家はドイツのビルケンシュトック社であり、債権者ら、債務者大阪ケミカルを含む多数のメーカーが製造販売しており、取引者も消費者も、このタイプのサンダルを「ビルケンタイプ」と総称している(例えば乙第三一号証)。
債権者表示2の商品説明書の字体、配色、裏面の説明図も、債権者独特のものではない(前記一【債務者大阪ケミカル】1のとおり。)。
結局、債権者表示2、3自体には自他商品の識別力はなく、ビルケンタイプの各商品の出所の識別は、「Hawkins」「Hunting」「Hallos」といった文字商標自体によるしかないといえる。
3 以上のような取引の具体的な実情において弾力的に全体的に類否判断をすれば、債務者表示2、3は債権者表示2、3と類似せず、その使用により債権者商品との混同を生ぜしめるおそれはない。
債務者表示2、3と債権者表示2、3の要部である「Hunting」と「Hawkins」は外観観念、称呼のいずれにおいても類似しないのであるから、目立たぬ記載として小さな字で添書されている「Footwear for Comfort and Reliability」なる文言が一致し、債務者表示2、
3と債権者表示2、3における、「NORTHANPTION」と「NORTHAMPTON」、「ESTABLISHED SINCE 1950」と「ESTABLISHED SINCE 1850」が一字違いであるからといって、両表示がそれぞれ類似しているとするのは誤りである。
三 争点三(債務者商品は債権者商品の形態模倣したものか)についての主張の補充【債権者ら】 不正競争防止法2条1項3号にいう「商品の形態」は、商品自体の形態のみならず、商品の容器、包装の形態も含むと解されており、債権者商品の場合は、外箱、
商品説明書もすべて「商品の形態」に含まれることは当然である。その結果、外箱を伴わないサンダルや商品説明書の添付されていないサンダルは、債権者商品と同一の形態とはいえないことになるのである。
右のとおり「商品の形態」にサンダルの外箱や商品説明書が含まれる以上、「商品の形態」の「模倣」の判断において、外箱や商品説明書の有する一連のデザインも考慮されるのは当然である。
その結果、仮に債権者商品のサンダル自体の形状が「ビルケンタイプ」に属するものであったとしても、そのことから当然に、債権者商品の形態が同種商品に広くみられる形態であるということにはならないのである。
【債務者大阪ケミカル】1 債権者商品に付された「Hawkins」「NORTHAMPTON」等の表記や商品説明書の記載、外箱の形状や記載は、不正競争防止法2条1項3号にいう「商品の形態」に含まれない。
(一) 不正競争防止法2条1項3号の立法趣旨は、市場先行者が資本・労力を投下して開発した成果としての商品の形態を保護することによって、商品開発のインセンティブを確保しようとすることにあるから、保護対象となる「商品の形態」の範囲も、このような立法趣旨に従って解釈されなければならない。
まず、「Hawkins」の表示は、債権者がその商品の出所を表示する目的で付したものであって、商品の模様ではなく、債権者商品の形態的特性を形成するために付したものではない。その証拠に、債権者は、右「Hawkins」の表示を、本件の債権者商品だけではなく、債権者が製造、販売するその他の靴類等にも付しているのである。
「NORTHAMPTON」等の表記も、その出所を表す表示であって、同じく商品の模様ではなく、商品の形態を構成するものではない。
次に、商品説明書は、極めてありふれたものであって、それ自体には何らの形態的特徴がない。右商品説明書の記載のうち、「Hawkins」の表示は、商品の出所を表示するための商品表示であって、商品の形態を構成するものではなく、英文の説明は、商品の特徴を記述した説明文であるから、債権者商品の形態の一部を構成することはない。
(二) 本来、容器、包装は、商品を保護するという機能を有するが、商品そのものではない。また、他の同種商品の容器、包装として使用される可能性があるという意味では汎用性、代替性があり、商品そのものの形態のように商品と不即不離の関係にあるわけではない。したがって、商品の開発者に対する資本、労力等の回収の機会を与え、商品開発に対するインセンティブを保護するという本号の趣旨からいえば、商品が特定の形態を有しているときに、その容器、包装の形態までを商品の形態に含めて保護する必要はない。
ただ、商品が液体、気体、粉体等であって、その形状に流動性がある場合には、
これを収納する容器、包装も含めて一体として商品の形態となることがあるにすぎない。
ところが、債権者商品のサンダル自体は、液体等の流動性のある商品ではなく、
しかも実際の取引では外箱とは別に店頭に陳列されて販売されているのが通常であり、外箱等の包装が常に一体となって取引対象となっているとはいい難い。
仮に容器、包装が例外的に商品の形態に含まれると解しても、債権者商品の外箱は「商品の形態」として保護されるような形態的特性を有しない。
けだし、債権者商品の外箱の大きさや形状及び側面部に設けられた指孔部等は、
一般に靴、サンダルの外箱として広く使用されているものと何ら異なるものではなく、債権者商品に特有の形態ではない。外箱の上部及び側部に記載された「Hawkins」の表示は、前記のとおり債権者商品の出所を表示するものであり、商品の模様ではない。商品表示や営業表示が商品形態に含まれないことは明らかである。仮に商品表示や営業表示についても隷属的模倣を想定することができたとしても、これらは不正競争防止法2条1項1号、二号等によって保護されており、その本質的価値は出所表示機能にあるのであるから、原則として同項三号によって保護する必要性はない。
また、「NORTHAMPTON」「ESTABLISHED SINCE 1850」等の表示は、単なる出所地や会社の設立時期を示す記述的表示であり、その他、外箱の色彩(白色)や「Hawkins」等の表示を囲む黒枠等も、一般にありふれた表記(色彩、模様)にすぎない。
したがって、債権者商品の外箱の形態(形状、表記等)は、債権者商品の形態とはいえず、これと債務者商品の外箱の形状、表記等が同一であるとしても、債権者商品の形態模倣したことにはならない。
2(一) 不正競争防止法2条1項3号の立法趣旨は、前記のとおりであって、商品の形態そのものやその出所表示機能を保護する趣旨でないことは明らかである。
したがって、本号によって保護される商品の形態は、その商品の販売者が自ら独自に開発した形態であることを要するのであり、既に存在する他人の商品の形態を模倣した者は、その商品の形態に関して本号の保護を受けることができない。
ところが、債権者商品(サンダル自体)は、ビルケンタイプのサンダルとして既に世上広く知られていたドイツのビルケンシュトック社の開発に係るサンダルとほとんど同一の形態であって、その模倣品であることが明らかであるから、本号の保護を受けることができない。
(二) 不正競争防止法2条1項3号が「同種の商品が通常有する形態」を保護対象から除外したのは、このような商品の形態は何人も自由に利用することができるのであって、特定人の独占的利用に適さないからである。
したがって、「同種の商品が通常有する形態」には、技術上、競争上不可避な商品の形態だけでなく、それなりの費用と時間をかけて努力した上に開発した成果であることが全く窺えないような、同種の商品が通常有するところのごくありふれていて特段これといった特徴のない形態もこれに含まれると解される。
ところが、債権者商品のサンダル自体の形態は、債権者ら及び債務者大阪ケミカル以外のサンダルメーカーが「ビルケンタイプ」のサンダルとして販売している「同種」サンダルに広く見られる形態であり、債権者らが独自の費用や時間をかけて開発したと認められる形態的特徴は存在しない。
ここでいう「同種商品」の範囲は、「通常有する形態」と一体の文脈において理解されなければならない。例えば、折畳み傘の形態の模倣が争いになる場合に、折畳み傘ではない通常の傘をも含めた「傘」という商品全体を「同種の商品」と考えれば、「折畳み傘」としては極めてありふれた商品の形態であっても、「同種の商品が通常有する形態」には当たらないことになり、本号の保護を受けられるという不都合を生ずる。商品の種類は、その開発競争に従って日々個別化、細分化されるものであるから、「同種の商品が通常有する形態」の範囲も、その程度に応じて限定して解釈されなければならない。
したがって、本件の場合も、サンダル全体が共通に有する形態的特徴ではなく、
世上「ビルケンタイプ」と呼ばれる、底の高いひもつきのサンダルが共通に有する形態的特徴をもって、「同種の商品が通常有する形態」と考えるべきである。
四 争点五(債権者ITCは差止請求権を喪失しているか)【債務者大阪ケミカルの主張】 債権者ITCは、本件登録商標につき商標権や専用使用権を有するものではなく、また、債権者ホーキンスから使用許諾等を受けたライセンシーでもなく、債権者ホーキンスの商品につき独占的販売権を有するのみである(なお、不正競争防止法2条1項1号3条の請求主体となる「営業上の利益侵害されるおそれがある者」について、債権者ITCのような単なる商品販売代理店が含まれるとする裁判例は存在しない。)。
また、債権者ホーキンスと債権者ITCとの間のライセンス契約書(疎甲第二号証)によれば、その契約期間は二年間とされ、一九九五年(平成七年)三月には再交渉を行うことになっているから、債権者ITCは、現在債権者商品について独占的販売権を有するかさえも不明である。
したがって、仮に債権者ITCが本件差止請求権を有していたとしても、現在は喪失している。
【債権者らの主張】 ライセンス契約書(疎甲第二号証)によれば、債権者ITCは、債権者ホーキンスより、ホーキンスの名称及びロゴを有する許諾製品を日本国内において独占的に販売するため、許諾製品をライセンス生産することが認められている。このようなライセンスの内容として、当然日本国内における本件登録商標の独占的使用権が含まれていることは、債権者らの間では明らかなことである。
ライセンス契約は、契約書上の契約期間としては、契約締結日から二年間であり、平成七年三月には再交渉することが約束されている。現在、債権者らの間において交渉中であるが、現時点でも債権者ITCが右ライセンス契約に基づき、引き続き日本国内において本件登録商標及び債権者表示について独占的使用権を有することは債権者らの間で争いがない。
争点に対する判断
一 争点一(債権者表示1ないし3は不正競争防止法2条1項1号のいわゆる周知商品表示に該当するか)1 債権者表示2 債権者表示2(商品説明書)が商品表示性及び周知性を取得したことにつき疎明があることは、本件仮処分決定第六の一1説示のとおりであるから、これを引用する。
債務者大阪ケミカルは、債権者表示2は単なる商品説明書であり、その字体、配色、裏面の説明図はいずれも債権者独特のものではなく、第三者たる他のメーカーも使用しており、出所表示機能を有しない旨主張するが、債権者表示2が商品表示性及び周知性を取得したことは右のとおりであり、これを覆すに足る疎明はない。
2 債権者表示3(一) 債権者表示3(外箱)が商品表示性及び周知性を取得したことにつき疎明があることは、本件仮処分決定の第六の一3(ただし、五一頁四行目から五三頁四行目まで)説示のとおりであるから、これを引用する。
(二) 債務者大阪ケミカルは、@サンダルは、安価な夏向き季節商品であり、店頭では箱に入れられず、箱の展示がなく、サンダルそのものが陳列され、客が試し履きの上購入を決定して、代金を支払った後、小売店の都合でビニール袋に入れて渡されることもあり、また、箱に入れられることもあり、その箱も無地のものが用いられることもあり、区々であること、Aビルケンタイプのサンダルの夏物の同種サンダルが、多数のメーカーにより製造販売されていることを消費者は承知しているので、それぞれのサンダルに付された標章の文言を注意して、これら商品を識別するのであること、Bサンダルは、履物という商品の性質上、必ず本人が試し履きをして足に合ったものを購入する性質の商品であることを理由に、箱などは第二次的にも商品表示性はなく、単に入れ物としての機能しかないものであると主張する。
確かに、疎乙第二九号証の1〜7によれば、債権者商品は外箱なしで陳列される場合もあることが一応認められるが、店頭で箱とともに陳列されることがあるのは前記のとおりであるし、ビルケンシュトック社や債権者らは、サンダルの箱にデザイン的にも工夫をこらして、独自性を示そうとしていることが一応認められるから(疎乙第一六、第一七、第二〇号証)、前記認定を覆すに足る疎明はない。
債務者大阪ケミカルは、「商品の容器若しくは包装」は、第一次的には商品を入れたり包装することにより商品の流通を可能にし品質を保持するための機能を有するにすぎないものであって、それ自体商品の出所表示としての機能を有するものではないから、その商品表示性の検討において第一次的に出所表示のために商品等に付される「氏名、商号、商標、標章」とは異なる考察が必要であり、同一の形状及び模様のもとで多年継続的に使用されることにより特別顕著性を獲得し商標的意味を有するに至って初めて、
不正競争防止法2条1項3号にいう商品表示に該当するに至るのである旨主張するところ、確かに、「商品の容器若しくは包装」は、本来商品の出所表示を目的とするものではないから、第一次的に出所表示のために付される「氏名、商号、商標、
標章」とは異なる考察が必要であるが、第二次的に商品表示性を取得することがありうることはいうまでもなく、本件の債権者表示3は前記認定の事実により、そのような商品表示性を取得したといえるのである。
また、疎乙第三〇号証の1〜4及び審尋の全趣旨によれば、債務者大阪ケミカル主張のように、債権者商品の外箱の色彩、模様は、平成七年夏、債権者表示3の色彩、模様のものから別の色彩、模様のもの(疎乙第三〇号証の1〜4のもの)に変更されたことが一応認められるが、審尋の全趣旨によれば、右の変更は後記二説示のとおり債務者らによって外箱のデザイン類似した商品を販売されたためであることが一応認められるから、右の程度の変更があるからといって、債権者表示3が商品表示性を取得したとの前記認定が左右されるとか、もはや債権者の商品であることを示す商品表示としての性質を失ったとかいうことはできない。この点について、債務者大阪ケミカルは、債権者らからの警告に従って遅くとも平成六年七月末日以降は債務者商品を販売しておらず、既に販売した商品も四、五〇〇足にすぎず、しかも季節商品であるため既に市場における販売もされていないから、債権者らが市場における混乱を懸念する必要はないと主張するが、債務者商品が債権者商品の形態模倣したものかどうかという点はともかく、債務者大阪ケミカルは、後記のとおり債権者表示2、3を模倣したものであることが明らかな債務者表示2、
3についてまで、その類似性を争い、本件保全異議の対象に加えているなど、その応訴態度に照らせば、債務者大阪ケミカルの主張はいささか身勝手な主張と断ぜざるをえない。
二 争点二(債務者表示1ないし3は債権者表示1ないし3に類似するか。債務者らの行為により債務者商品と債権者商品の混同を生じるか。)1 債務者表示2が債権者表示2と類似していることは、本件仮処分決定第六の二の1(ただし、五四頁末行から五八頁一一行目まで)説示のとおりであるから、これを引用する。
2 債務者表示3が債権者表示3と類似していることは、本件仮処分決定第六の二の2説示のとおりであるから、これを引用する。
3 債務者大阪ケミカルは、サンダルは、店頭では箱に入れられず、箱の展示がなく、サンダルそのものが陳列され、客が試し履きの上購入を決定して、代金を支払った後、小売店の都合でビニール袋に入れて渡されることもあり、また、箱に入れられることもあり、その箱も無地のものが用いられることもあり、区々であるとか、足の大きさ、形状、足幅は各人各様であり、足に合わねば購入できない商品であるから、箱の外観やそこから想起する商品の出所に惹かれたからといって購入するものではないなどと述べ、結局債権者表示2、3自体には自他商品の識別力はなく、取引の具体的な実情において弾力的に全体的に類否判断をすれば債務者表示2、3は債権者表示2、3と類似せず、その使用により債権者商品との混同を生ぜしめるおそれはないと主張するが、債権者表示2、3が商品表示性周知性を取得していることは前記説示のとおりであり、その使用により債権者商品との混同を生じることは後記のとおりである。
4 債務者大阪ケミカルはまた、債務者表示2、3と債権者表示2、3の要部である「Hunting」と「Hawkins」は外観観念、称呼のいずれにおいても類似しないのであるから、目立たぬ記載として小さな字で添書されている「Footwear for Comfort and Reliability」なる文言が一致し、債務者表示2、3と債権者表示2、3における「NORTHANPTION」と「NORTHAMPTON」、「ESTABLISHED SINCE 1950」と「ESTABLISHED SINCE 1850」が一字違いであるからといって、両表示がそれぞれ類似しているとするのは誤りであると主張するが、債務者大阪ケミカルが要部であると主張する「Hunting」と「Hawkins」は前記認定事実によれば外観において極めて類似していることが明らかであり、債務者表示2、3は全体としても債権者表示2、3と類似していることが明らかである。
そして、債務者表示2、3は前示のとおり債権者表示2、3と細部にわたって類似しているだけでなく、さらに、@債務者商品のサンダルの底の刻印、商品説明書(債務者表示2)、外箱(債務者表示3)にみられるNORTHANPTIONの語は全く意味を有しない語であり、債権者商品のサンダルの底、商品説明書、箱にみられるNORTHAMPTONの語(イギリスのNorthamptonshire〔ノーサンプトン州〕の州都であるNorthampton)を模倣し、かつ、意図的にそのスペリングの一部を変えたか又は不注意でスペリングを写し間違ったとしか考えられないこと、A債務者商品の商品説明書では「ESTABLISHED SINCE 1994」となっているのに対し、債務者商品の外箱では「ESTABLISHED SINCE 1950」となっているところ、設立年代についてこのようにまちまちな表示がされるのはいかにも不自然であり、後者については、債権者商品の外箱における「ESTABLISHED SINCE 1850」との表示を模倣し、かつ、意図的に一つの数字を変えたか不注意で数字を写し間違ったものと推認されること、B債務者商品の商品説明書の裏面のドイツ語による商品説明は、かつて債権者商品の商品説明書に付されていたドイツ語による商品説明をコピーしたものである疑いが強いこと(疎甲第八号証)を総合すると、
債務者大阪ケミカルは、債権者表示2、3と類似させる意図で債務者表示2、3を作出したことが明白である。
5 債務者商品と債権者商品とはサンダルという同じ商品、しかも同じビルケンタイプのサンダルであるから、前示のとおり、債務者表示2、3が債権者表示2、3と類似している以上、他に格別の事由の認められない本件においては、その使用により、債務者商品と債権者商品との間で混同を生じるおそれがあるものといわなければならない。
三 争点三(債務者商品は債権者商品の形態模倣したものか) 債権者らは、不正競争防止法2条1項3号による保護の対象として、債権者商品のサンダル自体の形状及び底の刻印、並びに商品説明書及び外箱を主張するので、
以下順次判断する。
1 まず、債権者商品のサンダル自体の形状が、同種の商品が通常有する形態に該当するかについて検討する。
疎明(疎乙第一号証の1・2、第二ないし第一〇号証、第一一号証の1〜3、第一二ないし第一五号証、第二一、第二二号証の各1・2、第二四ないし第二六号証、第二九号証の1〜16、第三一号証)及び審尋の全趣旨によれば、債権者商品、債務者商品のサンダルは、底の高いひも付きのサンダルで、その中底(足に直接当たる部分)が足の裏の凹凸の形状に沿う形状を有するものであるが、このような形状を有するサンダルは、ドイツのビルケンシュトック社が最初に製造販売したものであって、右の中底が足の裏を刺激するので健康によいとして、主に医師が診療の際の室内履きに利用しはじめ、これが一般消費者にも浸透してヒットしたため、多数のメーカーが製造、販売するに至っているものであり、取引者、需要者に「ビルケンタイプのサンダル」と呼ばれていることが一応認められる。そうすると、債権者商品のサンダル自体の形状は、取引者、需要者において一般に「ビルケンタイプのサンダル」と称されている商品が通常有する形態にすぎないというべきであるから、不正競争防止法2条1項3号による保護を受けるものとはいえない。
債権者商品のサンダルの底の刻印のうち、Hawkinsの部分は商標(商品表示)であり、本来、不正競争防止法2条1項1号、二号の保護対象であるし、その余の文字部分も、言語伝達手段という本来の機能を失った模様であるとは認められないから、いずれも不正競争防止法2条1項3号の保護対象とはいえないものである。
また、同じく底の刻印のうち足跡のマーク及び皮製品であることを示すマークについていえば、疎明(疎乙第一号証の1、2、第二号証、第四号証、第八号証、第一一号証の1、2、第一二ないし第一五号証)及び審尋の全趣旨によれば、ビルケンシュトック社のサンダルの底部分には、かかと側から順に、足跡のマーク、靴のサイズ、BIRKENSTOCKの語(その下にやや小さくMade in Germanyの語)、丸の中にR文字、皮革製品であることを示すマークが刻印されていること、ビルケンシュトック社は、同形のサンダルについて幅広の足用、普通形状の足用、幅細の足用と三種類を製造販売しており、これらを区別するためにサンダルの底に三種の足跡のマークを付していること、債権者ら、債務者大阪ケミカルを始めとするサンダルのメーカーは、足の形状に合わせて三種類のサンダルを製造販売しているわけではないが、単にこの種のサンダルの本家であるビルケンシュトック社が足跡のマークをサンダルの底に付しているので、これに因んで自社の製品の底に足跡のマークを付していること、皮製品であることを示すマークは、動物一頭の皮を丸ごと剥ぎ伸展した形状に由来しており、皮革を示すマークとして通常一般に用いられているものであることが一応認められるから、足跡のマーク及び皮製品であることを示すマークについては、仮にこれが債権者商品のサンダルの模様として、債権者商品の形態とみる余地があるとしても、取引者、需要者において一般に「ビルケンタイプのサンダル」と称されている商品が通常有する形態にすぎないというべきであるから、不正競争防止法2条1項3号による保護を受けるものとはいえない。
2 次に、債権者商品の商品説明書及び外箱について検討する。
不正競争防止法2条1項3号にいう「商品の形態」は、通常、商品自体の形状、
模様、色彩等を意味し、当該商品の容器、包装等や商品に付された商品説明書の類は当然には含まれないというべきであるが、商品の容器、包装等や商品説明書の類も、商品自体と一体となっていて、商品自体と容易には切り離しえない態様で結びついている場合には、右にいう「商品の形態」に含まれるというべきである。したがって、右「商品の形態」には商品の容器、包装の形態も当然に含まれるとするかのような債権者らの主張は、右の趣旨に反する限度で採用することができない。また、商品が液体、気体、粉体等であって、その形状に流動性がある場合には、これを収納する容器、包装も含めて一体として商品の形態となることがあるにすぎないとの債務者大阪ケミカルの主張が、およそ商品が流動性あるものである場合以外はその容器、包装が右「商品の形態」となることはありえないという趣旨であるとすれば、その限りでは採用しえない。
しかして、債権者商品の説明書及び外箱は、債権者商品たるサンダルと一体となっていてサンダルと容易には切り離しえない態様で結びついているとはいえないことが明らかであるから、右不正競争防止法2条1項3号による保護を受けることはできないというべきである。債権者らは、債権者商品の場合は、外箱、商品説明書もすべて「商品の形態」に含まれることは当然であり、その結果、外箱を伴わないサンダルや商品説明書の添付されていないサンダルは、債権者商品と同一の形態とはいえないことになると主張するが、右説示に照らし採用することができない。
四 争点五(債権者ITCは差止請求権を喪失しているか) 債務者大阪ケミカルは、債権者ITCは本件登録商標につき商標権や専用使用権を有するものではなく、また、債権者ホーキンスから使用許諾等を受けたライセンシーでもなく、債権者ホーキンスの商品につき独占的販売権を有するのみであると主張するが、債権者ホーキンスと債権者ITCが、平成五年一〇月六日、債権者ホーキンスが債権者ITCに対し、Hawkinsの名とロゴ(本件登録商標を含む。)を有する履物をライセンス生産し、日本国内において独占的に販売することを許諾する旨の契約を締結したことは、本件仮処分決定第二の一4認定のとおりである。
また、債務者大阪ケミカルは、債権者ホーキンスと債権者ITCとの間のライセンス契約書(疎甲第二号証)によれば、その契約期間は二年間とされ、一九九五年(平成七年)三月には再交渉を行うことになっているから、債権者ITCは、現在債権者商品について独占的販売権を有するかさえも不明であると主張するが、債権者ホーキンスから債権者ITC宛の一九九五年一一月二〇日付書面(疎甲第九号証の1・2)によれば、日本でのHAWKINSブランド名の使用についての債権者ホーキンスと債権者ITCとの間のライセンス契約は一九九五年三月に終了したところ、債権者ホーキンスと債権者ITCはいくつかの追加や補足を含むライセンス契約の更新に向けて交渉を継続中であり、債権者ITCは、新たなライセンス契約書の正式な署名まで、現在の契約書どおり「HAWKINSブランドのビジネスを実行する」権限を有することが一応認められるから、右主張は採用することができない。
そして、Hawkinsの名とロゴ(本件登録商標を含む。)を有する履物をライセンス生産し、日本国内において独占的に販売する権限を有する債権者ITCが、債務者大阪ケミカルの商品説明書(債務者表示2)及び外箱(債務者表示3)の使用によって営業上の利益を害されることは明らかであるから、債務者ITCは、現在も債務者大阪ケミカルによる右商品説明書及び外箱の使用につき差止請求権を有するというべきである。
五 争点四(保全の必要性があるか) 債務者大阪ケミカルによる債務者表示2の商品説明書及び債権者表示3の外箱を使用したサンダルの製造販売の差止めを求める債権者らの仮処分の申立てにつき、
保全の必要性があることは、本件仮処分決定第六の四説示のとおりであるから、これを引用する。
結論
以上によれば、本件仮処分の申立てのうち、債務者大阪ケミカルによる債務者表示2の商品説明書及び債権者表示3の外箱を使用したサンダルの製造販売の差止めを求める部分は、理由があり、これと同旨の本件仮処分決定第一項は相当であるからこれを認可し、債務者大阪ケミカルによる債務者商品の製造販売の差止めを求める部分は、理由がなく、右差止めを命じた本件仮処分決定第二項は相当でないから、これを取り消した上右部分の申立てを却下することとし、主文のとおり決定する。
裁判官 水野武
裁判官 田中俊次
裁判官 本吉弘行