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事件 平成 6年 (ネ) 1470号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1996/01/25
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 本件控訴を棄却する。
二 控訴人の当審における新たな請求(著作権に基づく請求)を棄却する。
三 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 控訴の趣旨1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、その営業表示として別紙(二)の(1)ないし(3)に示す表示(英文字)の使用をしてはならない。
3 被控訴人は、次の物件に使用している表示(英文字)を抹消しなければならない。
(一) 本店所在建物二階部分窓ガラスにおける別紙(二)の(1)の写真に示す表示(二) 事務所封筒における別紙(二)の(2)の表示(三) 社員に使用させる名刺における別紙(二)の(3)の表示4 被控訴人は、別紙(二)に示す形状構成の標章を、1酒類(薬用酒を除く)、
2清涼飲料、3食用水産物、野菜、果実、4穀物(米穀及び雑穀)、5家畜用飼料の各商品について、@被控訴人本店所在建物二階部分窓ガラスの表面、A営業用チラシ、B事務用封筒、C社員用名刺及びD前記各商品の包装袋に使用してはならない。
5 被控訴人は、右標章にかかる表示を抹消し、表示ある包装を廃棄しなければならない。
6 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
7 仮執行宣言二 控訴の趣旨に対する答弁 主文と同旨
当事者の主張
一 請求原因1 不正競争防止法に基づく請求(一) 控訴人は、ビールその他の酒類、清涼飲料その他の飲料、肥料等の製造、
販売の業を営んでいるが、その営業表示として、昭和六一年から別紙(一)(1)、(2)記載の標章(以下、それぞれ「控訴人標章(1)」、「控訴人標章(2)」といい、控訴人標章(1)、(2)を「控訴人標章」と総称する。)を使用している。
控訴人標章は、右使用開始後数年を経ずして、控訴人の営業表示として需要者
取引者間に広く認識されるに至っている。
(二) 被控訴人は、米穀及び雑穀を販売しているが、平成三年七月二〇日、その商号を「物産コックス株式会社」から現商号である「アサックス株式会社」に変更した後、別紙(二)(1)ないし(3)記載の標章(以下「被控訴人標章」と総称する。)をその営業活動の一環として、営業用施設(被控訴人本店所在建物二階部分窓ガラス)あるいはチラシ、封筒、名刺又は包装袋などの取引先へ交付又は配付するものに営業表示として使用している。
被控訴人の右行為からみて、被控訴人は、米穀、雑穀以外にも、会社の目的としている酒類(薬用酒を除く)、清涼飲料、食用水産物、野菜、果実、家畜用飼料の販売の営業についての営業表示として、被控訴人標章を使用するおそれがある。
(三) 控訴人標章と被控訴人標章とは、次のとおり類似している。
(1)@ 被控訴人標章における「h」は、文字の高さにおいて一字目の「A」と全く同一の高さを有しており、かつ左側の縦線がしっかりとした太い線で表されているため、外観認識上、前半部「Asa」と後半部「hi」とを区切る視覚的効果を有していることや、前半部「Asa」と後半部「hi」との間には、「A」、
「s」、「a」それぞれの文字間のスペースの二倍以上のスペースが設けられていることから、前半部「Asa」の外観が一つの塊として認識され、後半部「hi」と分離して要部と認識される可能性が高いと考えるのが相当である。さらに、一般的に標章の語頭部は、標章の外観認識上重要な役割を果たす部分であって、語尾部に比べ取引者、需要者に強い印象を与え、その記憶に強く残ることは経験則上明らかであり、控訴人標章の前半部「Asa」は後半部「hi」に比べ、取引者、需要者印象記憶に強い影響を与えるものであるということができる。しかも、文字としての認識が困難な程度にまで図案化された「A」が控訴人標章の前半部に属しているので、この前半部が文字として認識容易な「h」「i」からなる後半部と分離して認識され、要部として抽出されるべきことは明らかである。
右のとおりであって、控訴人標章の前半部「Asa」を要部と認めるべきである。
さらに言えば、控訴人標章は「A」を要部とするということもできる。すなわち、控訴人標章は、最初の一字目が大きく、二字目から五字目までが小さく表示されていることから、一字目の「A」が外観上最も目立つ存在であることは明らかである。また、一般的に標章の語頭部が、標章の外観認識上、取引者、需要者に強い印象を与える最も重要な部分であり、しかも、この語頭部には、「A」がきわめて特殊な手法でデザイン化された独創的な図形標章が配置されているのであるから、
この図形標章が文字標章「sahi」から分離認識されるべきことは明らかである。
したがって、控訴人標章の語頭部「A」を要部と認めるべきである。
A 被控訴人標章の最後尾は「X」であるが、新しい営業表示を採用しようとするとき、造語手段として最後尾に「X」をつけることはきわめて常套な手段である。
被控訴人標章は、最初の一字目が大きく、二字目、三字目が小さく、そして末尾の四字目が再び大きく表記されているが、このように最後の四字目を再び大きく表記するのは、欧文字表記としてはきわめて異例で不自然である。また、標章の表記において、末尾に欧文字一字を大きくあるいは分離して表記することが頻繁に行われるが、このような場合、末尾の欧文字は商品の品番・記号・規格等の表示として一般的に理解されるものであり、標章の要部とはなり得ない部分である。さらに、一般的に標章の語頭部は、標章の外観認識上重要な役割を果たす部分であるから、前半部「Asa」が後半部「X」に比べ、取引者、需要者印象記憶に強い影響を与えるものであることは経験則上明らかであり、しかも、文字としての認識が困難な程度にまで図案化された「A」が被控訴人標章の前半部に属しているから、この前半部が文字として認識容易な「X」からなる後半部と分離して認識され、要部として抽出される可能性があることは明らかである。
右のとおりであって、被控訴人標章については、「Asa」の部分を要部と認めるべきである。
さらに言えば、被控訴人標章は「A」を要部とするということもできる。すなわち、被控訴人標章は、最初の一字目が大きく、二字目、三字目が小さく表示されていることから、一字目の「A」が外観上最も目立つ存在であることは明らかである。
また、一般的に標章の語頭部が、標章の外観認識上、取引者、需要者に強い印象を与える最も重要な部分であり、しかも、この語頭部には、「A」がきわめて特殊な手法でデザイン化された独創的な図形標章が配置されているのであるから、この図形標章が文字標章「saX」から分離認識されるべきことは明らかである。
したがって、被控訴人標章の語頭部「A」を要部と認めるべきである。
B 控訴人標章を構成する書体は比類のないきわめて独創的なデザインのものであるが、控訴人標章と被控訴人標章の外観について時と所を異にして離隔的に観察した場合、控訴人標章(1)と被控訴人標章は、要部である前半部又は語頭部において、被控訴人標章の付記的部分である縁取りを除けば、外観上全く同一であり、控訴人標章(2)と被控訴人標章は、要部である前半部又は語頭部において、外観上全く同一であるから、控訴人標章と被控訴人標章とは類似しているものというべきである。
(2) 呼称についても「アサ」の部分の称呼が共通している。
(3) 観念についても、要部はいずれも前半の三文字であるから、生じる観念は共通である。
(四) 控訴人標章とその語頭に位置する「A」とは、控訴人標章の比類稀なる著名性から、取引者、需要者が「A」を見れば直ちに控訴人標章を想起する関係にある。そして、取引者、需要者が被控訴人標章に接した場合、その語頭の「A」をとらえて、控訴人標章を直ちに想起することになることは容易に想像できる。まして、被控訴人標章は、語頭から三字目までを講成する「Asa」において控訴人標章と全く同一なのであるから、取引者、需要者が被控訴人標章を見れば直ちに控訴人標章を想起することになることは明らかである。
したがって、被控訴人標章の使用により、控訴人の営業と被控訴人の営業との間には混同を生じ、控訴人の営業上の利益が害されるおそれがあることは明らかである。
2 商標権に基づく請求(その一)(一) 控訴人は、別紙商標権目録(一)(1)、(2)記載の各商標権を有している(以下、右各商標権を総称して「控訴人商標権(一)」といい、その商標を「控訴人商標(一)」という。)。
(二) 被控訴人は、控訴人商標権(一)の指定商品に属する酒類、清涼飲料を販売し、又は販売するおそれがある。
被控訴人は、前記のとおり、その営業活動の一環として、営業用施設あるいはチラシ、封筒、名刺又は穀物の包装袋などの取引先へ交付又は配付するものに、商品の広告又は商品の包装の表示として被控訴人標章を使用している以上、酒類又は清涼飲料にこれを付して使用するおそれがある。
(三) 控訴人商標(一)と被控訴人標章とは次のとおり類似している。
(1) 控訴人商標(一)の要部が前半部「Asa」にあることは、前記控訴人標章について述べたところと同一である。
被控訴人標章の要部が「Asa」の部分にあることも前記のとおりである。
しかして、控訴人商標(一)と被控訴人標章の外観について時と所を異にして離隔的に観察した場合、両者の要部である前半部において、被控訴人標章の付記的部分である縁取りを除けば、外観上全く同一であるから、両者は類似するものというべきである。
(2) 称呼についても「アサ」の部分の称呼が共通している。
(3) 観念についても、要部はいずれも前半の三文字であるから、生じる観念は共通である。
3 商標権に基づく請求(その二)(一) 控訴人は、別紙商標権目録(二)(1)ないし(4)記載の各商標権を有している(以下、右各商標権を総称して「控訴人商標権(二)」といい、その商標を「控訴人商標(二)」という。)。
(二) 被控訴人は、控訴人商標権(二)の指定商品に属する酒類、清涼飲料、果実、野菜、魚貝類、穀物(米穀、雑穀)、家畜用飼料を販売し、又は販売するおそれがある。
被控訴人は、前記のとおり、その営業活動の一環として、営業用施設あるいはチラシ、封筒、名刺又は穀物の包装袋などの取引先へ交付又は配付するものに、商品の広告又は商品の包装の表示として被控訴人標章を使用している以上、米穀、雑穀以外の右各商品の広告又は包装にもこれを付して使用するおそれがある。
(三) 控訴人商標(一)と被控訴人標章とは次のとおり類似している。
被控訴人標章の要部が語頭部「A」の部分に存することは、前記のとおりである。
しかして、控訴人商標(二)と被控訴人標章の外観について時と所を異にして離隔的に観察した場合、控訴人商標(二)と被控訴人標章の要部「A」とは、被控訴人標章の付記的部分である縁取りを除けば、外観上全く同一であるから、両者は類似するものというべきである。
また、称呼「エー」、観念は共通である。
4 著作権に基づく請求(当審における新たな請求)(一) 控訴人は、別紙控訴人商標(一)、(二)に記載のものと同一のロゴマークを株式会社日本デザインセンターに委託して創作させたが、右ロゴマークを構成する各文字の書体は、他に比類のない独創的なデザインのものであって、@垂直をなす縦線は太くて力強い線で表され、その上下の辺は「右上がり四四度の傾斜」をなしていること、Aはねが三角形状をなしており、この三角形状の一辺が「右上がり四四度の傾斜」をなしていること、B細い傾斜線はいずれも「右上がり四四度の傾斜」をなしていること、という特徴を有している。
ところで、右二件のロゴマークは、控訴人の商号の略称である「Asahi」を素材とし、@力強さにあふれ、いきいきとした躍動感、A自然で本物だけがもつ風格、B積極的で活発な挑戦姿勢等をデザインの基本コンセプトとして創作されたものであって、知的・文化的精神活動の所産というべきものであるから、著作物に該当することは明らかである。
なお、文字と書体とは峻別可能であるから、特殊なデザインの書体の場合には独占権を認めても文字の情報伝達機能を阻害するということはないのであって、控訴人の右二件のロゴマークについて著作権による保護を否定すべき理由はない。
(二) 被控訴人の使用する別紙(二)記載のロゴマークの前半部「Asa」及び「A」を構成する各文字の書体は、いずれも細い輪郭線に囲まれているが、このように文字の書体を輪郭線で囲む手法はありふれたデザインの付加であって、あえて書体の特徴というに値しないことは明らかである。
しかして、被控訴人使用の右ロゴマーク「AsaX」及び「A」は、「Asa」及び「A」の部分において、控訴人のロゴマークのうちの「Asa」及び「A」の書体の特徴と細部にわたって一致している。
したがって、被控訴人のロゴマーク「AsaX」及び「A」は、控訴人のロゴマーク「Asahi」のうちの「Asa」及び「A」の書体の複製というべきであって、控訴人の前記著作権を侵害するものである。
5 結論 よって、控訴人は被控訴人に対し、不正競争防止法1条1項2号に基づいて控訴の趣旨2、3掲記の請求を、控訴人商標権(一)、(二)に基づいて控訴の趣旨4、5掲記の請求を、著作権に基づいて控訴の趣旨2ないし5掲記の請求をそれぞれなすものである。
二 請求原因に対する認否1 請求原因1(一)の事実のうち、控訴人標章が控訴人の営業表示として広く認識されていることは否認する。その余の事実は知らない。同(二)のうち、被控訴人の商号変更の事実及びその時期、被控訴人が米を販売していること、被控訴人が米の販売の営業について、その営業用施設、封筒、名刺及び包装袋に被控訴人標章を使用していることは認めるが、その余の事実は否認する。同(三)、(四)はいずれも争う。
2 請求原因2(一)の事実は認める。同(二)のうち、被控訴人が米の販売の営業について、その営業用施設あるいはチラシ、封筒、名刺又は包装袋など取引先へ交付又は配付するものに被控訴人標章を使用していることは認めるが、その余の事実は否認する。同(三)は争う。被控訴人標章は、全体的に「X」の文字が強調されており、外観も明らかに控訴人商標(一)と相違する。
3 請求原因3(一)の事実は認める。同(二)のうち、被控訴人が米の販売の営業について、その営業用施設あるいはチラシ、封筒、名刺又は包装袋など取引先へ交付又は配付するものに被控訴人標章を使用していることは認めるが、その余の事実は否認する。同(三)は争う。被控訴人標章は、A、s、a、Xの四文字の組合せで表示され、Xの文字の強調の度合いが高いから、四文字のうちのAの文字のみの類似性により控訴人商標(二)と被控訴人標章とが混同されるものとは考えられない。
4 請求原因4は争う。「A」、「Asa」の書体にデザイン的な工夫を加えたとしても、著作権が発生する余地はない。
証拠(省略)
理 由一 不正競争防止法に基づく請求について1 成立に争いのない甲第一号証、第四号証の一及びニの各一・ニ、第四号証の三・四、第一一号証、第一ニ号証の一ないし三、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第三号証の一・ニ、第六号証、第一○号証によれば、控訴人は、ビールその他の酒類、清涼飲料その他の飲料、肥料等の製造、販売の業を営むものであるが、昭和六一年一月頃、従来使用していた営業表示に代えて、控訴人標章を使用することとし、以後、その営業表示に控訴人標章を使用していることが認められる。そして、控訴人標章が控訴人の営業表示として、現在全国的に需要者
取引者間に広く認識されるに至っていることは当裁判所に顕著である。
2 被控訴人が、米を販売していること、平成三年七月二〇日、その商号を「物産コックス株式会社」から現商号である「アサックス株式会社」に変更したこと、右商号変更の後、米の販売の営業について、その営業用施設(被控訴人本店所在建物二階部分窓ガラス)あるいはチラシ、封筒、名刺又は包装袋など取引先へ交付又は配付するものに被控訴人標章を使用していることは当事者間に争いがない。
3 そこで、被控訴人標章が控訴人標章に類似しているか否かについて検討する。
(一) 控訴人標章は、別紙(一)の(1)、(2)のとおりの構成からなるもので、欧文字の「Asahi」をデザインしたものである。
被控訴人標章は、別紙(二)の(1)ないし(3)のとおりの構成からなるもので、「AsaX」の文字をデザインしたものである。
(二)(1) 控訴人標章と被控訴人標章の外観を対比すると、最初の三文字「Asa」の部分は、各文字の形態、配置がきわめて類似しているものと認められる。
もっとも、被控訴人標章においては各文字の周囲に細い輪郭線が表されているのに対し、控訴人標章(1)にはこのような輪郭線が存しない点で相違するが、文字の周囲に細い輪郭線を表すことはありふれたデザインであって、その印象は格別のものではないから、右相違によって右各文字の類似性を否定することはできない。
しかし、控訴人標章は五文字から、被控訴人標章は四文字からそれぞれ構成されているものであり、控訴人標章の四字目、五字目の「hi」の部分と被控訴人標章の四字目の「X」の部分は、文字が、二文字か一文字か、その前にある「sa」と同じ大きさか、それよりも大きく表されているかという違いがある上、控訴人標章の「hi」の部分は、太い三本の縦方向の平行線とその上下の辺を右上がりの傾斜とした点が目立つのに対し、被控訴人標章の「X」の部分は、左上から右下への太い斜線と、右上から左下への細い斜線の交差が目立ち、その印象は大きく異なるものであって、控訴人標章と被控訴人標章とは、最初の三文字の類似性を考慮しても、その全体の外観において類似するものとは認められない。
(2) 控訴人標章からは「あさひ」の称呼を生じ、これに対し、被控訴人標章からは「あさっくす」の称呼を生じる。
右のとおり、両者の称呼は前半の「あさ」の部分においては共通であるけれども、「あさひ」は三音節、「あさっくす」は五音節(促音を一音節と数えて)からなる短い称呼の中で、後半の「ひ」の部分と「っくす」の部分において異なり、しかも、被控訴人標章の後半の「っくす」の部分は促音を含み強い印象を与えるから、全体としては両者の称呼は異なる印象を与えるものと認められ、したがって、
控訴人標章から生ずる称呼と被控訴人標章から生ずる称呼は類似するものとは認められない。
(3) 控訴人標章からは「朝日」、「旭」等の観念を生じるのに対して、被控訴人標章は造語と認められ、特段の観念を生じない。したがって、両者の観念類似するものとは認められない。
(4) 以上のとおり、控訴人標章と被控訴人標章とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても類似するものではないから、控訴人標章と被控訴人標章とは類似しているとはいえない。
(三) 控訴人は、請求原因1(三)(1)@、A掲記の理由により、控訴人標章及び被控訴人標章ともに「Asa」、「A」の部分が要部である旨主張する。
しかし、控訴人標章における「h」は文字の高さにおいて一字目の「A」と同一であり、「h」の左側の縦線は太い線によって表されているが(もっとも、他の文字の縦線と比べて特に太いというものではない。)、これらのことが、前半部「Asa」と後半部「hi」とを区切る視覚的効果を有しているとは認め難いこと、控訴人標章(1)の「a」と「h」との間のスペースは、「A」と「s」との間のスペースや「s」と「a」との間のスペースより若干広く、また、控訴人標章(2)の「A」、「s」、「a」の各文字の細い輪郭線は、互いに隣接する部分において重なり合っているのに対し、「a」と「h」の各文字の輪郭線間にはスペースが設けられているけれども、これらのことが、前半部「Asa」の外観を一つの塊として、後半部「hi」の外観と分離して認識させるほどのものとは認められないこと、一般的に標章の語頭部が外観認識上重要な役割を果たす部分であることを認めるべき証拠はなく、控訴人標章についても、その全体が控訴人の営業識別標識として取引者、需要者間に広く認識されているものと推認され、前半部「Asa」が後半部「hi」に比べて特に、取引者、需要者印象記憶に強い影響を与えているとは認められないこと、控訴人標章の「A」は他の文字に比較してよりデザイン化されているものと認められるが、そのことによって、控訴人標章が「Asa」と「hi」に分離して認識されるとは認め難いこと、同様に、被控訴人標章においても、その構成からいって、前半部「Asa」が後半部「X」に比べて、特に取引者、需要者印象記憶に強い影響を与えるものとは認められないことからして、
「Asa」に控訴人標章及び被控訴人標章の要部がある旨の控訴人の主張は採用できない。
また、控訴人標章は、最初の一字目が大きく、二字目から五字目までが小さく表示されており、また、被控訴人標章は、最初の一字目が大きく、二字目、三字目が小さく表示されており、一字目の「A」は他の文字に比較してよりデサイン化されているものと認められるが、前記のとおり、控訴人標章は、その全体が控訴人の営業識別標識として取引者、需要者間に広く認識されているものと推認されるし、被控訴人標章においては、「X」も大きく表されていることからしても、控訴人標章が「A」と「sahi」に、被控訴人標章が「A」と「saX」にそれぞれ分離して認識されるものとは認められず、「A」に控訴人標章及び被控訴人標章の要部がある旨の控訴人の主張は採用できない。
なお、甲第二三号証には、不正競争防止法における表示の類似要件は混同要件にいわば従属する要件にすぎないという観点等から、被控訴人標章は控訴人標章に類似するものと認めるべきであるという趣旨の記載があるが、採用できない。
4 よって、その余の点について判断するまでもなく、不正競争防止法に基づく請求は理由がない。
二 控訴人商標権(一)に基づく請求について1 控訴人が控訴人商標権(一)を有していること、被控訴人が米の販売の営業について、その営業用施設あるいはチラシ、封筒、名刺又は包装袋など取引先へ交付又は配付するものに被控訴人標章を使用していることは当事者間に争いがない。
2(一) 控訴人商標(一)の構成は控訴人標章(1)の構成と同一であるから、
控訴人商標(一)と被控訴人標章との類否の判断は前記一3(二)と同一であって、両者は類似するものとは認められない。
(二) 控訴人は、控訴人商標(一)及び被控訴人標章の要部は前半部「Asa」にある旨主張するが、前記一3(三)に説示したとおり採用できない。
3 よって、その余の点について判断するまでもなく、控訴人商標権(一)に基づく請求は理由がない。
三 控訴人商標権(二)に基づく請求について1 控訴人が控訴人商標権(二)を有していること、被控訴人が米の販売の営業について、その営業用施設あるいはチラシ、封筒、名刺又は包装袋など取引先へ交付又は配付するものに被控訴人標章を使用していることは当事者間に争いがない。
2 そこで、控訴人商標(二)と被控訴人標章との類否について検討する。
(一) 控訴人商標(二)は別紙控訴人商標(二)のとおりの構成からなるものである。
(二) 控訴人商標(二)と被控訴人標章とを対比すると、控訴人商標(二)と被控訴人標章の一文字目の部分とは、外観においてきわめて類似するが、被控訴人標章は四文字からなるのに対して、控訴人商標(二)は「A」をデザイン化した一文字からなるものであって、両者の全体の外観類似しないことは明らかである。
控訴人商標(二)からは、「えー」、「えい」又は「あ」の称呼を生じ、被控訴人標章からは、「あさっくす」の称呼を生ずるので、両者は称呼において類似するものとは認められない。また、被控訴人標章からは特段の観念を生じないから、観念において両者が類似するということもない。
右のとおり、控訴人商標(二)と被控訴人標章とは外観、称呼及び観念のいずれにおいても類似するものではないから、控訴人商標(二)と被控訴人標章とは類似しているとはいえない。
(三) 控訴人は、被控訴人標章の要部が語頭部の「A」に存する旨主張するが、
前記一3(三)に説示したとおり採用できない。
3 よって、その余の点について判断するまでもなく、控訴人商標権(二)に基づく請求も理由がない。
四 著作権に基づく請求について1 著作権法は、著作物について、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」(2条1項1号)と規定している。
ところで、言語を表記するのに用いる符号である文字は、他の文字と区別される特徴的な字体をそれぞれ有しているが、書体は、この字体を基礎として一定の様式、特徴等により形成された文字の表現形態である。いわゆるデザイン書体も文字の字体を基礎として、これにデザインを施したものであるところ、文字は万人共有の文化的財産ともいうべきものであり、また、本来的には情報伝達という実用的機能を有するものであるから、文字の字体を基礎として含むデザイン書体の表現形態に著作権としての保護を与えるべき創作性を認めることは、一般的には困難であると考えられる。仮に、デザイン書体に著作物性を認め得る場合があるとしても、それは、当該書体のデザイン的要素が「美術」の著作物と同視し得るような美的創作性を感得できる場合に限られることは当然である。
2 前掲甲第三号証の二、第一〇号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第二一号証によれば、控訴人は、株式会社日本デザインセンターに委託して、別紙(一)の(1)、(2)記載の書体からなるロゴマークを創作させたことが認められる。
ところで、右ロゴマークは欧文字「Asahi」について、「A」、「a」、
「h」、「i」の各文字における垂直の縦線を太い線で表し、その上下の辺を右上がり四四度の傾斜とし、「A」、「s」、「a」、「h」の各文字における傾斜線を細い線で表し、その傾斜を右上がり四四度とし、「A」、「s」の各文字の細い傾斜の先端にあるはねを三角形状となし、その右上がり傾斜辺を四四度とするといったデザインを施した点に特徴があり(別紙(一)の(2)記載の文字は細い輪郭線に囲まれているが、このような手法はありふれたものであって、デザイン的特徴とまではいえない。)、また、「A」の書体は他の文字に比べてデザイン的な工夫が凝らされたものとは認められるが、右程度のデザイン的要素の付加によって美的創作性を感得することはできず、右ロゴマークを著作物と認めることはできない。
3 よって、その余の点について判断するまでもなく、著作権に基づく請求も理由がない。
五 以上によれば、控訴人の不正競争防止法に基づく請求、控訴人商標権(一)及び(二)に基づく請求をいずれも棄却した原判決は正当であって、本件控訴は理由がない。そして、当審における新たな請求である著作権に基づく請求は理由がない。
よって、民事訴訟法384条95条89条を適用して、主文のとおり判決する。
追加
別紙(一)<30691-001>別紙(二)<30691-002>商標権目録(一)(1)登録番号第二〇五五一四三号出願日昭和六〇年一二月四日公告日昭和六二年一一月一三日登録日昭和六三年六月二四日商品の区分第二八類(平成三年政令第二九九号による改正前の商標法施行令第1条別表による区分。以下同様。)指定商品ビール、洋酒、果実酒、中国酒構成は別紙控訴人商標(一)記載のとおり(2)登録番号第二〇六三八三七号出願日昭和六〇年一二月四日公告日昭和六二年一一月一三日登録日昭和六三年七月二二日商品の区分第二九類指定商品清涼飲料、果実飲料、氷構成は別紙控訴人商標(一)記載のとおり(二)(1)登録番号第二〇四五七九五号出願日昭和六〇年一二月四日公告日昭和六二年一〇月九日登録日昭和六三年五月二六日商品の区分第二八類指定商品酒類(薬用酒を除く)構成は別紙控訴人商標(二)記載のとおり(2)登録番号第二〇六三八三八号出願日昭和六〇年一二月四日公告日昭和六二年一一月一三日登録日昭和六三年七月二二日商品の区分第二九類指定商品茶、コーヒー、ココア、清涼飲料、果実飲料、氷構成は別紙控訴人商標(二)記載のとおり(3)登録番号第二〇三二七五二号出願日昭和六〇年一二月四日公告日昭和六二年九月一日登録日昭和六三年三月三〇日商品の区分第三二類指定商品食肉、卵、食用水産物、野菜、果実、加工食料品構成は別紙控訴人商標(二)記載のとおり(4)登録番号第二〇六三八四一号出願日昭和六〇年一二月六日公告日昭和六二年一一月一九日登録日昭和六三年七月二二日商品の区分第三三類指定商品穀物、豆、粉類、飼料、種子類、その他の植物および動物で他の類に属しないもの構成は別紙控訴人商標(二)記載のとおり<30691-003>
裁判官 伊藤博
裁判官 濱崎浩一
裁判官 市川正巳