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事件 平成 5年 (ネ) 854号
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1995/02/22
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた判決
一 控訴人 原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。
被控訴人の請求を棄却する。
訴訟費用は、第一、二審を通じて被控訴人の負担とする。
二 被控訴人 主文と同旨
当事者の主張
一 原判決の引用 原判決事実摘示「第二 請求の原因」ないし「第四 被告の主張に対する原告の認否反論」記載のとおりであるから、これを引用する。
二 当審における当事者の主張の要点1 控訴人(一) 被控訴人営業表示の周知性の有無 被控訴人営業表示は、知られたしても衣服業界内にとどまり、今日に至るまで、
被控訴人を示すものとしての一般的周知性を獲得したことはない。このことは、以下の諸事情に照らし、明らかといわなければならない。
(1) 旧株式会社ワールドあるいはその権利義務を承継した被控訴人(以下、旧株式会社ワールドあるいはその権利義務を承継した被控訴人の意味で、単に「被控訴人」ということがある。)は、主に婦人服を外部より仕入れ、これを小売店に販売する卸売業者であり、直接一般消費者に販売することはない。したがって、もともと、周知性獲得のうえで決定的に重要な一般消費者との接点に欠ける面が大きい。
もっとも、被控訴人は、子会社の形で直営の販売店を有し、そこでは小売を行っているが、その販売店の営業表示としても「ワールド」(被控訴人営業表示を含む、「ワールド」の称呼、観念外観の少なくともいずれかを有する営業表示全般をいう。)は使用していない。
(2) 被控訴人は、営業表示としての「ワールド」を、その商品に使用していない。
すなわち、被控訴人は、その商品である婦人服等に、「ワールド」という営業表示を付さず、ブランド名を付して販売してきたから、「ワールド」は、一般人の目に触れず、ほとんど認識されることがない。
被控訴人は、その商品の商品タッグ(下げ札)及び洗濯ラベルに「ワールド」が付されていると主張するが、このようなことがなされるようになったのは最近のことであり、しかも一部についてであるにすぎず、また、このようなものに大きな効果を期待できないことは、明らかなことといわなければならない。
(3) 「ワールド」を広告宣伝するために被控訴人の行ったものとされる「広告塔」、「消火栓広告」、「FMラジオ番組の提供」、「東京ドームフェンス広告」、「ラグビーチーム」等は、いずれも、安価で粗末なものであったり(「広告塔」、「消火栓広告」)、その性質上、特定の女性を中心とする少数の者に対し、
わずかの効力を有するにすぎないものであったり(「FMラジオ番組の提供」)、
「ワールド」を認識させることさえ困難であったり(「東京ドームフェンス広告」)、一過性であったり(「ラグビーチーム」)などの理由により、周知性を生みだすほどの宣伝効果を期待することは到底できないものであり、しかも、これらのうち、「消火栓広告」、「FMラジオ番組の提供」、「東京ドームフェンス広告」は既に打ち切られている。
(二) 誤認混同の可能性の有無 仮に、被控訴人営業表示が周知性を有するとしても、これと控訴人営業表示との間に誤認混同の生ずる可能性を認めることはできないというべきである。
いわゆる広義の混同説の立場に立って、事業分野を異にする者の営業表示同士の間に誤認混同のおそれを認めるとしても、それは、差止めを求める当事者の営業表示が相手方の事業分野においても知られている場合に限られるというべきであるのに、被控訴人営業表示が消費者金融の分野で知られているという事実は全くないからである。
控訴人の顧客は、控訴人の店舗に自ら足を運び、金融の申込みに来る一般人であり、赤字に太い片仮名の「ローンズワールド」という看板を見て来店していたのであるから、このような者が、控訴人を婦人服の株式会社ワールドあるいはその関連会社と思うことはありえないことであり、現にそのような事態が発生したことはなかった。
被控訴人は、「ローンズワールド」から「ローンズ」を削除すれば誤認混同のおそれが増大すると主張するが、もともと「ローンズワールド」の識別力の根源は「ワールド」にあり、現に、例えば、控訴人の顧客にとって、控訴人は、「ローンズさん」ではなく、「ワールドさん」であったのであり、また、控訴人の最大の広告媒体であり大型屋上看板の位置、控訴人が営業を行う支店の位置は、従来のままであって、「ワールド」の字体、赤字に白文字という色使いは変更されていないから、これに接する者にとってこれと被控訴人営業表示とを識別することは容易であり、特に、それ以前から控訴人を知っていた者にとっては、「ワールド」が看板から「ローンズ」を外したと認識するだけであって、これによって誤認混同の可能性が増大することはありえない。
したがって、本件の場合、控訴人営業表示と被控訴人営業表示の間に誤認混同が生ずる可能性を認めることはできないものといわなければならない。
(三) 先使用の抗弁 控訴人は、昭和四一年から消費者金融業を営み、被控訴人が首都圏において営業活動を行う以前である昭和五一年七月から、その営業表示として「ローンズワールド」を使用するようになり、その後もこれを一貫して使用しつつ、営々として事業の発展に務め、その結果、被控訴人が被控訴人営業表示が周知性を取得したと主張する昭和五七年ころ以前に、「ローンズワールド」は控訴人の営業表示として広く一般人に知られるに至った。そして、この「ローンズワールド」の識別力の根源が「ワールド」にあることは、原審以来控訴人の強調してきているとおりである。
このように、控訴人は、被控訴人営業表示が周知性を獲得する以前から、それと同一又は類似のものを不正の目的でなく自己の営業表示として使用してきたのであるから、これに基づく先使用の抗弁を有し、控訴人営業表示の使用は、不正競争行為に当たらない。
2 被控訴人(一) 被控訴人営業表示の周知性の有無について 被控訴人が卸売業者であること、被控訴人が「ワールド」を冠した小売店を有していないこと、被控訴人の商品に「ワールド」を冠したものがないことは認めるが、これらの事実は、被控訴人営業表示の周知性の否定に何らつながるものではない。
被控訴人が販売する商品には、当初から、商品タッグ(下げ札)、襟ラベル、洗濯ラベルが三点セットとして付されてきており、これらのうち商品タッグ(下げ札)、洗濯ラベルには、「シャンタルトーマス」のブランドのもののように特別な事情のあるごく例外的なものを除き、「ワールド」の表示を付してきたから、購入者は、これにより被控訴人営業表示を知ることができたのである。
被控訴人が被控訴人営業表示による企業イメージを周知徹底させるよう種々努力してきたことは、原審において主張したとおりであり、その中のいくつかのみを取り出して論ずること自体無意味であるのみならず、取り出したものについての主張も、事実を無視した不当なものである。
被控訴人が、昭和五一年から続けてきたFMラジオ番組(ワールド・オブ・エレガンス)の提供を平成五年三月をもって打ち切り、後楽園球場フェンス広告の時代から通算して八年に及ぶ東京ドームフェンス広告を平成六年三月末をもって終了するなど、従来行ってきた広告宣伝の中のあるものを終了したのは事実であるが、このことは、被控訴人が広告宣伝を断念したことを意味するのではなく、新たな広告宣伝戦略に発展的に変更したことを物語るものである。
すなわち、当審における審理期間中に、被控訴人の経済活動の進展や新たな広告戦略の展開には、平成五年一一月一〇日の大阪証券取引所市場第二部への上場、平成六年七月開始されたテレビ番組(「アラウンド・ザ・ワールド」)、スポットCFの放映、ラグビーチームの活躍、これらの事項の新聞雑誌での報道など、見るべきものがあり、これらは、FMラジオ番組の打切りや東京ドームフェンス広告の終了等のマイナス効果を大きく上回るプラス効果をもたらし、被控訴人の存在と被控訴人営業表示は、これらの効果により、一層周知性著名性を高めるに至っている。
また、前記多様な宣伝広告によっていったん確立された被控訴人営業表示の周知性が、その中のいくつかが中止になることにより影響を受けると考えるのは、周知性の何たるかを理解しないものといわなければならない。
(二) 誤認混同の可能性の有無について 控訴人は、控訴人の営業表示が「ローンズワールド」から「ワールド」に変わっても、それと被控訴人営業表示との間には、広義のものであっても、誤認混同の生ずるおそれは認められないと主張する。
しかし、実際は、控訴人の営業表示が「ローンズワールド」であった段階でも、
被控訴人営業表示との間の誤認混同が全く問題とならなかったわけではなく、ただ、「ローンズ」の存在により、辛うじて両者の識別性が保たれていたにすぎない状態にあったものであるから、「ローンズ」が削られて「ワールド」だけになってしまえば、そこに誤認混同のおそれが生ずることは明白であり、現に、既に誤認混同の事例が少なからず発生している。
控訴人は、「ローンズワールド」を営業表示として使用している段階でも、「ローンズさん」ではなくて「ワールドさん」であったと主張するが、控訴人が「ワールドさん」であったのは業界内のことで、一般消費者は控訴人を「ローンズワールド」として認識していたのである。
(三) 先使用の抗弁について 控訴人は、控訴人が、被控訴人が首都圏において営業活動を行う以前から、その営業表示として「ローンズワールド」を使用するようになったと主張するが、被控訴人の関東進出は昭和三九年であり、控訴人が消費者金融業を営むようになったのは控訴人の主張によっても昭和四一年であるから、被控訴人が首都圏において営業活動を行うようになったときには、控訴人はまだ消費者金融業を始めてもいない。
控訴人が「ローンズワールド」の使用を始めたと主張する昭和五一年七月に着目すると、控訴人の店舗はせいぜい五店舗(証人平岡暉章の証言、乙第一〇二号証参照)にすぎない状態であったのに対し、被控訴人は、そのころ既に、昭和五一年の売上高は四二三億円で婦人服飾業界一位である(甲第一二〇号証)など、驚異的な増収増益を達成する高成長・高収益会社として、とりわけ経済人には業種を超えて著名な存在であった。控訴人が被控訴人の存在を驚嘆の目をもって見ていたことは、想像に難くないところであり、「ローンズワールド」という営業表示の選択そのものが、被控訴人営業表示を意識してなされたものであったことは、明白といわなければならない。
控訴人が使用したのはその後一貫して「ローンズワールド」であったのであるから、先使用に基づく抗弁を主張できるものがあるとしても、それはあくまで「ローンズワールド」についてであり、控訴人が、これとは異なる「ワールド」につき、
不正競争防止法の適用を逃れることはありえないことといわなければならない。
証拠(省略)
理 由
原判決の引用
当裁判所も、被控訴人の本訴請求は、控訴人営業表示(一)ないし(七)の使用の差止めを求める限度で理由があるものと判断する。
その理由は、第二に述べるところを付加するほかは、原判決の理由と同一であるから、その記載を引用する。ただし、原判決五九頁六行目の「トータファッション」を「トータルファッション」と改める。
当審における控訴人の主張について
一 被控訴人営業表示の周知性の有無について 控訴人は、被控訴人が卸売業者であること、被控訴人が「ワールド」を冠した小売店を有していないこと、被控訴人の商品に「ワールド」を冠したものがないこと、被控訴人による「ワールド」そのものに関する宣伝広告が規模、質ともに限られたものであったことなどを根拠に、被控訴人の宣伝活動を含む営業活動が、その営業表示である「ワールド」の周知性の獲得あるいは強化につながるものでなかった旨主張する。
しかし、被控訴人の営業のように、卸売りする商品の主力が服飾関係の製品であって、商品自体の品質を通じて取引者・需要者に与えるイメージ性が最も重視される営業においては、控訴人の主たる営業である消費者金融業における宣伝活動とはおのずから異なり、自己の商品やそのブランドあるいは自己の商品の小売店自体の評価を高めることに重点を置き、商品の流通を通じて、自己の営業表示が、取引者・需要者の間に徐々に浸透して認識され、周知性を獲得するに至ることが、むしろ本来的な周知性獲得の経路であると、経験則上認められる。
そして、成立に争いのない甲第九七、第一一一、第一一六、第一一八、第一二二、第一二四号証、弁論の全趣旨により被控訴人の製品の商品タッグ(下げ札)、
襟ラベル、洗濯ラベルであると認められる甲第九四ないし第九六号証、同じく弁論の全趣旨により成立の認められる甲第九八号証、第一〇八号証の一、二、第一〇九、一一〇号証によれば、被控訴人の製品には、例外的な「シャンタルトーマス」のブランド製品の場合を除き、当初から「ワールド」の表示のある商品タッグ(下げ札)、洗濯ラベルが付され、このように「ワールド」の表示のある商品タッグ(下げ札)、洗濯ラベルが付された商品の販売枚数は、「シャンタルトーマス」のブランド製品が販売開始された以降についてみても、昭和六一年四月から平成四年三月までにおいて、合計約一億枚であること、被控訴人は、平成四年度における売上高がアパレル関連メーカーの五位であり、平成五年一一月一〇日、大阪証券取引所市場第二部に上場され、同年四月から平成六年三月までの総売上高が一三二八億円余に達していることが認められ、この事実と原判決理由一ないし三に認定された事実によれば、前示のような商品の流通を主とし、これに各種広告媒体を利用した宣伝活動と新聞雑誌等の記事により、遅くとも旧株式会社ワールドの年間売上高が一〇〇〇億円を超えた昭和五七年末の時点において、旧株式会社ワールドの存在自体及び被控訴人営業表示が旧株式会社ワールドの営業表示であることが、全国的に広く認識されるに至ったもので、その後被控訴人が、旧株式会社ワールドと合併し、その権利義務、営業を承継し、被控訴人営業表示を引き続き使用し営業活動を行っているのであるから、被控訴人営業表示は、合併のときから、被控訴人の営業表示として全国的に広く認識され、現在では、その周知性の程度はより高度になっているものと認められる。
被控訴人が従前行っていた広告のうち、「消火栓広告」、「FMラジオ番組の提供」、「東京ドームフェンス広告」が既に打ち切られたことは、当事者間に争いがないが、主として商品の流通を通じて獲得された被控訴人営業表示の周知性が、このような広告宣伝活動におけるわずかの事情の変化で急に失われるものでないことは、明らかである。
控訴人の右主張は、採用できない。
誤認混同の可能性の有無について 控訴人営業表示と被控訴人営業表示との間に、いわゆる広義の混同を生じさせる関係が認められることは、原判決の説示するとおりである。
控訴人は、被控訴人営業表示が消費者金融の分野では知られていないこと、もともと「ローンズワールド」の識別力の根源は「ワールド」にあり、控訴人の最大の広告媒体である大型屋上看板の位置、控訴人が営業を行う支店の位置は、従来のままであって、「ワールド」の字体、赤字に白文字という色使いは、「ローンズワールド」を用いていたときと変更されていないから、これに接する者にとってこれと被控訴人営業表示とを識別することは容易であり、特に、それ以前から控訴人を知っていた者にとっては、「ワールド」が看板から「ローンズ」を外したと認識するだけであって、これによって誤認混同の可能性が増大することはありえない旨主張する。
確かに、原判決の認定するとおり(原判決六五頁)、被控訴人営業表示が被控訴人や関連会社の所有又は入居するビルの屋上、壁面、入口付近や近隣の街路、スポーツ施設等に掲示された場合には、青地又は緑地に白抜き、白地に青、設置場所の背景の色の地に白、図形は青、文字は白等の配色であるのに対し、控訴人営業表示は、ほとんどが赤地に白抜き文字であり、字体もある程度異なるという差異はあるが、被控訴人営業表示は、前示のように商品の流通を主とし、これに各種広告媒体を利用した宣伝活動と新聞雑誌等の記事により、周知性を獲得したものと認められるのであるから、右のような色彩や字体を離れた「ワールド」という文字自体による識別性を獲得していると認められ、控訴人営業表示と被控訴人営業表示における共通の要素である「ワールド」の称呼、観念の認識の容易さを考えると、右の色彩や字体の相違により、誤認混同の可能性が解消するものということはできない。
そして、広義の営業活動の混同については、営業分野や営業形態の相違を超えての混同を包含するものであるから、控訴人が右において主張するような営業分野の相違や一般消費者の控訴人営業への関わり方は、控訴人の従前の営業表示「ローンズワールド」から「ローンズ」を削除して「ワールド」としたことによって誤認混同の可能性が増大することはありえないとの右控訴人主張の根拠とはならないといわなければならない。
先使用に基づく抗弁について 控訴人は、控訴人が、首都圏においては、被控訴人が営業活動を行う以前から営業表示としての「ローンズワールド」の使用を続けてきたと主張し、控訴人営業表示はこの「ローンズワールド」と類似するものであるとして、これを根拠に、先使用の抗弁の主張をする。
しかし、まず、控訴人が「ローンズワールド」の営業表示を使用して消費者金融を営むようになったのが昭和五一年七月であり、その当時における控訴人の店舗数が五にすぎなかったのに対し、被控訴人は、昭和三九年には東京店を設け、昭和四六年に東京店第一ビルを、昭和四九年に東京店第二ビルをいずれも千代田区麹町に建設するなどして、一貫して首都圏においても営業活動を行ってきたことは、原判決の認定するとおりであり、さらに、成立に争いのない甲第二六号証及び弁論の全趣旨により成立の認められる甲第一二〇号証並びに証人今北雅章の証言によれば、
被控訴人の昭和五一年七月期決算において、売上高は前年同期に比して約五四パーセント増の約四二三億円(婦人服飾業界一位)、経常利益は同じく約六一パーセント増の約六四億円、税引き後利益は同じく約八三パーセント増の約三九億円であって、神戸支社と東京店の販売比率は五七対四三であり、東京店の売上の中に占める首都圏の売上はほぼ五〇パーセントであったことが認められることに照らせば、右昭和五一年七月当時、被控訴人の首都圏での営業活動が相当程度に達していたことは明らかなことといわなければならない。
このように、首都圏においても、「ワールド」をその営業表示の全部あるいは一部とする営業活動を開始したのは、被控訴人の方が一〇年以上早く、控訴人は、被控訴人が「ワールド」をその営業表示として相当期間営業を続けその規模も相当以上になってきているところに、「ローンズワールド」をその営業表示として営業活動を開始するに至ったものであることは明白であり、控訴人の右主張は、この明白な事実を無視するものといわなければならない。
もっとも、被控訴人営業表示が周知性を獲得するに至った時期は、昭和五七年末であり、控訴人が「ローンズワールド」をその営業表示として使用するようになったのがそれ以前であることは明らかであるから、その使用が不正の目的でない限り、控訴人はその使用を継続することが許される(不正競争防止法11条1項3号)。
しかし、原判決の説示するように、控訴人が元使用していた「ローンズワールド」との営業表示は、これが一体として独自の識別力を有するものであって、「ローンズ」を除いた「ワールド」のみが控訴人の営業表示として識別力を有していたとは認められず、現在の控訴人営業表示は、右「ローンズワールド」と同一の範囲に入るものでなく、控訴人営業表示の使用開始は、被控訴人営業表示が周知性を獲得するに至った後であり、かつ、「ローンズワールド」と比較して、被控訴人営業表示との関係において、より類似性が高く、誤認混同の可能性を増大させるものであることは明らかであるから、控訴人が「ローンズ」を削除した理由として主張するところ(原判決二二頁)が真実であったとしても、また、「ローンズワールド」が控訴人の営業表示としての周知性を取得していたとの事実も、これをもって、控訴人が、「ローンズワールド」の使用に基づき、控訴人営業表示の使用を正当化することはできないものといわなければならない。
また、控訴人営業表示が首都圏においてある程度一般的にかなり認識されていることは、原判決の認定するとおりであるが、現在においても被控訴人営業表示との間に誤認混同を生ずる余地がないほどに独自の識別力を有するものとして広く認識されるに至っていることは、本件全証拠によっても認められないから、この事実も、控訴人営業表示についての先使用の抗弁、その他控訴人営業表示を正当に使用できる権原を根拠づけるものではない。
四 控訴人のその余の主張について 控訴人の当審におけるその余の主張は、前示したところに照らし、採用できない。
以上のとおり、被控訴人の控訴人に対する本訴請求は、控訴人営業表示
(一)ないし(七)の使用の差止めを求める限度で理由があるからこれを認容し、
その余は失当として棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がない。
よって、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法95条89条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 牧野利秋
裁判官 山下和明
裁判官 芝田俊文