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事件 平成 3年 (ワ) 16402号
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裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 1993/12/22
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
一 被告三菱樹脂株式会社(以下「被告三菱樹脂」という。)は、別紙第二目録及び第二目録説明書記載の折りたたみコンテナ(以下「被告製品」という。)を製造、販売してはならない。
二 被告天昇電気工業株式会社(以下「被告天昇」という。)は、被告製品を製造、販売してはならない。
事案の概要
本件は、原告が被告らに対し、不正競争防止法1条1項1号に基づき、別紙第一目録及び第一目録説明書記載の原告の折りたたみコンテナ(以下「原告製品」という。)の形態が周知であるとして、被告製品の製造販売の差止を求めている事案である。
一 争いのない事実1 原告は、総合化学会社として、有機、無機化学原料及び同原料を素材とする工業化学製品の製造、販売を業とする会社であるが、原告製品を「オリコン」という登録商標を付して製造販売している。
2 被告三菱樹脂は、平成三年四月ころから、被告製品のうち「0-55」「0-75」を、被告天昇は、同年六月ころから、被告製品のうち「0-40」「0-50」をそれぞれ製造し、被告らは、それぞれ右四種類のタイプの被告製品を販売している。
3 原告製品は、プラスチック製の反復使用可能の物納運搬用容器であって、組立状態において、箱形の容器となり、不使用時にはこれを折りたたんで、その容積を縮小し、かつ、使用時、折りたたみ時においても積重ね可能としたものである。原告製品は、フレーム、側板、あおり板及び底板から構成されているが、容器としての形態的特徴は、次のとおりである。
A 側板は、長手方向にわたり、中央部で内側に折れ曲り、あおり板は、フレームを支軸として内側に回動するようにした折りたたみ形式を有する。
B 底板の外面には、フレームの内周面の寸法に合せた段部があり、フレームの上面四隅に凹溝部を設けてあって、コンテナの積重ねに当たり、上段コンテナの底板段部が下段コンテナのフレーム内に没入し、両コンテナが嵌合するようにした形式を有する。なお、底板の外面四隅に補強のため突出部を設けることがある。
C 折りたたみ時の高さが組立時の約四分の一である容積縮小率を有する。
原告製品は、右特徴によって、容器に内容物を充填したときの整理及び空き容器の整理を極めて合理的にかつ最小容積の使用で足りるようにしたものであり、また、空き容器輸送の運賃も大幅に軽減されるものである。
4 被告製品は、前記四種類のいずれのタイプもその有効内容量、有効内寸、外寸及び折りたたみ後の高さが、原告製品の「40-B」「50-B」「55-B」「75-B」とそれぞれ実質的に同じであって、原告製品の上に積み重ねることが可能であり、また、色彩も、原告製品と同一の色彩を採用している。
二 争点1 原告製品の形態は、周知商品表示といえるか。
2 原告製品と被告製品については、商品主体の混同があるか。
三 争点に関する当事者の出張1 争点1について(一) 原告 原告製品の前記ABCの形態的特徴は、次に述べるとおり、遅くとも昭和五八年には、原告の商品であることを示す表示として、わが国において周知になったものである。
(1) 昭和油化株式会社(昭和五四年に原告に吸収合併)は、昭和五〇年にプラスチック製の折りたたみ可能のコンテナ(原告製品)をわが国において初めて製造販売したものであり、原告製品は、発売以来、商品あるいは部品の仕分け保管及び運搬用容器として各種製造業、多種物品取扱業者及び流通業界等で広く利用されてきた。原告による原告製品の販売高は、昭和五五年には年間二〇万個、同五六年には年間二五万ないし三〇万個であり、同五八年までの累積販売高は、一〇〇万個であった。原告製品の年間の販売高は、昭和六一年には四〇万個、同六二年には五〇万個、同六三年には六〇万個、平成元年には七〇万個、同二年には一一〇万個、同三年には一二〇万個になり、発売以来同三年までの累積販売高は六三〇万個であった。また、原告製品の販売先は、最近の五年間だけでも約五二〇〇社であり、通算では全国で九〇〇〇社以上に及んでいる。
(2) 折りたたみコンテナは、その用法上多数個が使用されるから、折りたたみが容易でかつ取扱が簡単で一気に折りたたみのできることが肝要である。したがって、前記Aの折りたたみの形式は、需要者が最も関心を惹くところである。また、
前記Bの積重ねが可能である点は、多数の容器の整理統合による占有容積の縮小及び大量輸送に欠かせないものであり、積み重ねた各容器が上下間で十分固定されることが必要である。更に、前記Cの折りたたみによる空容器の容積縮小率は、需要者が大きな関心を寄せるところである。よって、原告製品の右ABCの構成は、これらが一体となって原告製品の出所を表示する機能を果たしているものである。
(3) 被告らは、商品の技術的機能を不正競争防止法で保護すれば、特定人に半永久的に独占を許す結果を招来し、工業所有権制度を設けた趣旨に反する旨主張するが、不正競争防止法と工業所有権法は、その保護法益、保護要件等が異なっており、不正競争止法による保護を受けるには、広告、宣伝及び品質管理などの企業努力が継続し、販売実績をあげることが必要とされるから、これらが充足されていれば、仮に、商品の形態技術的機能に由来する必然的な形態であっても、工業所有権の存続期間の満了の有無に関係なく、不正競争防止法の保護が受けられるものである。また、原告製品の前記ABCの形態は、工業所有権により保護されていたわけではない。原告が有していた二つの実用新案権(実用新案出願公告昭五五-三六三五〇、同昭五八-一六五〇一。以下「本件実用新案権」という。)は、側板やあおり板の係合に関係する細部についてのものであったから、被告らは、これらを回避すれば、前記ABCの形態を備えた製品の製造がもっと前から可能であったのに、原告製品の形態が周知になった後に、原告の本件実用新案権の期間の満了をまって、被告製品の製造、販売を開始したものである。
(4) 被告らは、原告製品の前記ABCの特徴は、折りたたみコンテナとしての機能をそのまま形態に反映させたものであり、このほかに、需要者の購買意欲をかきたて、また、同種の製品と識別されるべく工夫を凝らした点も何ら存しないのであり、当該製品(折りたたみコンテナ)としては極めて特徴的であるとは到底いえないのであるから、何ら出所表示機能を有しないものである旨主張するが、原告製品の機能は、すべてその形態に依拠していて、組み立てた状態、折りたたんだ状態、その途中の状態もすべて形態に由来するものとして把握され認識することができ、原告製品の特徴的な機能を発現させるために特徴的な形態が形成されることは、極めて当然のことである。例えば、折りたたみコンテナについて最も需要者の関心が寄せられるところは、折りたたみ時の形態であるところ、原告製品の折りたたみ時の形態が特異であり、これが広く製造、販売されて周知のものとなれば、原告製品の形態が出所表示機能を有することになるのは、当然である。また、折りたたみコンテナの形態においては、コンテナを折りたたんで容積を縮小するということ自体は、特に目新しいことではないが、その折りたたみ方法は、別紙図面のとおり何種類もあり、原告製品の折りたたみ方法は、他の製品とは明確な相違があり、
容易に識別できるものである。原告製品の前記Aの折りたたみ形態は、公開特許公報等に記載されていた程度で、原告製品が世に出るまでは存在していなかったものであり、原告が広範な広告宣伝のもとに販売を行なった結果、周知の形態となったものである。
(5) 被告らは、岐阜プラスチック工業株式会社(以下「岐阜プラスチック」という。)及び三甲株式会社(以下「三甲」という。)が前記ABCの形態的特徴をもった製品を製造販売していた旨主張するが、原告は、原告製品が周知となった昭和五八年以後に、岐阜プラスチックに対し、右製品の製造販売のライセンスをしたのであり、かつ、このライセンスの事実は、業界紙に広く報ぜられたものである。
なお、岐阜プラスチックの右製品は、原告製品とは嵌合しないように製造されていたため、ユーザーの間で原告製品とは明確に識別されていた。
また、三甲は、原告の委託により、原告の代理店として原告製品の販売の一翼を担っていたのであり、原告製品の周知性を高めていたものである。なお、原告は、
三甲について極めて自己本意な行動が目立ったため、平成三年六月末日、三甲との契約を解約した。したがって、三甲は、右契約期間中は、原告のライセンスの下にオリコンの商標を使用して、原告製品を販売していたものであり、また、右契約終了後における三甲の原告製品と同一の形状の製品の販売行為は、明らかに違法な行為である。右によれば、岐阜プラスチックの前記製品及び三甲の原告製品の製造販売行為は、原告のライセンスの下における同一のグループの製品ということができ、かつ、右ライセンスの事実は、客観的に明らかになっていたものである。
更に、右二社による昭和五八年以降平成三年六月三〇日までの間の前記製品の販売高は、原告による原告製品の販売高と比べると圧倒的に少ないものである。
(二) 被告ら(1) 原告が前記ABCで主張しているものは、商品の形態ではなく、技術的機能であり、商品の技術的機能は、不正競争防止法にいう商品表示となることはできない。すなわち、商品の技術的機能は、万人共有の財産であり、ただ、そのうち、
新規独創的なものに限って、特許権、実用新案権が付与され、特定人に期間を限って独占が認められることがあるにすぎず、右期間が満了すれば、誰でも自由にその技術的機能を利用することができるのである。仮に、この技術的機能も商品表示たりうるとして、不正競争防止法の下で保護を与えるとすれば、その技術的機能を特許権、実用新案権以上の一種の永久権として、特定人に半永久的に独占を許す結果を招来し、工業所有権制度を設けた趣旨に反する結果が生ずる。したがって、商品の技術的機能は、商品表示たりえないものといわなければならない。原告の主張は、例えば、自動車の基本的構造の特許権があったとして、その期間が満了した後に、その基本的構造の物の生産者として周知であるとの理由で他の競争参入を排除するのと全く同じである。市場経済においては、元来、特許権等が存在しない限り、同一機能、構造の商品は、複数あってしかるべきものであり、たまたまある時点においてその商品の供給者が一名であるということによって、当該機能、構造を有するということ自体が商品主体の表示として認められるということは、不当である。
(2) 商品の形態は、一般には当該商品の出所表示機能を営むことはないが、商品の形状が、当該商品としては極めて特徴的であって、一見して直ちに、それが特定の営業主の商品であることを看取することができる程度の識別力を備えたものであるときは、当該商品の形状自体が、商品表示に当たるものであり、商品の形態は、その使用目的ないし機能の評価の観点を離れて、なおかつ、需要者の感覚、購買心理、選択意欲、消費行動により端的に訴える表示としての素朴な統一的把握を可能とする表現能力・吸引力を具備すべきことは、その商品表示としての性質上当然といわなければならない。原告製品の前記ABCの形態は、折りたたみコンテナとしての機能(ワンタッチで容易に折りたたみ、組立ができ、耐荷重性が強く、積重ねることができること)をそのまま形態に反映させたものであり、このほかに、
需要者の購買意欲をかきたて、また、同種の製品と識別されるべく工夫を凝らした点も何ら存しないのであり、当該商品(折りたたみコンテナ)としては極めて特徴的であるとは到底いえないのであるから、何ら出所表示機能を有せず、商品表示たりえない。すなわち、原告製品の右形態は、原告製品に原告主張のとおりの折りたたみ機能をもたせたことによる必然的結果であるし、需要者は、端的にその技術的機能に着目して原告製品を購入しているのであって、機能の面を離れた特異な形態に着目して商品の出所を認識して購入しているわけではない。原告が前記ABCの特徴を備えた製品を販売していることが周知であるということと、前記ABCの特徴が原告製品の出所表示として周知であるということとは、全く別のことであり、
本件においては、後者の周知性が主張立証されるべきである。
なお、原告の原告製品の宣伝広告において、前記ABCの特徴がすべて記載されているものは皆無である。仮に、原告が前記ABCが原告製品の商品表示であると考えていたのであれば、その宣伝広告において、前記ABCの特徴的形態が明らかになっていたはずである。
(3) 岐阜プラスチックは、昭和五八年ころから、三甲は、同五九年ころから、
原告製品と同じ形態の製品を製造販売しているのであるから、原告が主張する原告製品の特徴ABCは、原告製品の特徴ということはできない。仮に、原告が主張するように、原告と右二社との間にライセンス契約ないし代理店契約が存在していたとしても、右二社の製品のパンフレット等には、いずれもライセンス契約ないし代理店契約についての記載がないのであるから、右パンフレット等を見た需要者は、
前記ABCの特徴を備えた折りたたみコンテナが原告以外の会社でも製造販売されているとの認識を持つに至るのである。また、原告は、右二社の販売高は、原告の原告製品の販売高に比べると圧倒的に少ない旨主張するが、右二社は、原告が資生堂などの大口に販売していたのと異なり、全国的に営業所網をもって広く販売していたものである。特に、岐阜プラスチックの販売数は、昭和五八年から平成三年までの間に合計二〇五万個であり、原告の同期間における販売数は、五三〇万個であるから、岐阜プラスチックの販売シェアは、原告の約四〇%にも相当する。
(4) 原告は、折りたたみコンテナの折りたたみ方法は、別紙図面のとおり何種類もある旨主張するが、住友化学のパタコン以外は、性能が悪く市場にほとんど流通しておらず、また、パタコンは、原告製品に比べ、折りたたみ、組立てとも一工程多く必要であり、耐荷重性も七〇〇キログラムないし一トンと、原告製品の二・五トンに比べはるかに劣っているため、軽量物を扱うアパレル業者等で主に使用されているものである。すなわち、折りたたみコンテナの折りたたみ方法は、いくつか考えられるが、操作性を良くし、荷重性も高めるためには、原告製品の折りたたみ方式(前記A)を採用せざるをえないのであり、原告製品の特徴Aに商品表示としての機能を認める余地はない。
2 争点2について(一) 原告(1) 原告製品と被告製品の形態は、前記ABCの特徴において全く同一であり、しかも容器の着色においても同一である。また、被告らが原告製品との積重ね嵌合ができることを強調して販売しているところからしても、両者の誤認混同は、
避けられない。
(2) 折りたたみコンテナの購入者は、製造業者、流通業者、輸送担当者というように、多業種の営業分野に分れているが、新規のユーザーは極めて少なく、大部分が原告製品をこれまでに購入してきているユーザーである。被告が寸法及び嵌合形態まで原告製品と同一の被告製品を販売しているのは、原告製品の形態を了知しているユーザーに被告製品を販売するためである。
また、折りたたみコンテナの需要者は、前記ABCの特徴を中心として商品を選択するものであり、原告製品も被告製品も、製造者の名称は、コンテナの片隅に小さく表示されるだけで、コンテナに大きく表示されるのはコンテナのユーザーの名称である。
(3) 折りたたみコンテナの代理店は、複数のメーカーの製品を取り扱っているのが普通である。そして、原告製品の需要者は、これまでに原告製品を購入したことがある者が主流であるところ、これらのユーザーは、原告製品の折りたたみ形態及び従来購入した製品との嵌合性並びに価格に着目してコンテナを求めるが、コンテナのメーカーについては、あまり関心を示さない場合が多い。したがって、代理店は、需要者に対し、各メーカーの製品を区別なく提供するのが実態であり、原告製品と被告製品との誤認混同が避けられないのは、当然である。
(4) 被告らは、被告製品はリブがない点で原告製品と異なる旨主張するが、コンテナのリブは、単なる補強手段であるから、リブの有無は、商品の識別力としては極めて弱い。現に、原告製品でも、容量の小さいコンテナ(25B)ではリブを設けていない。
(二) 被告ら(1) 原告製品の側板、あおり板には、縦のリブが付けられているが、被告製品には、それがない。また、被告製品の底板には、リブが縦三本横三本等間隔に付けられているが、原告製品は、そうではない。したがって、需要者が原告製品と被告製品を誤認混同するおそれはない。
(2) 被告らの商品の需要者は、自動車部品会社、電気部品会社、日用品雑貨メーカー、日用雑貨卸商、薬品メーカー、薬品卸商、食品業者、運送業者、銀行等の業者である。被告らは、右需要者に対し、直接販売したり、代理店又は販売店(二次店)を通して販売したりするが、いずれの場合も、営業マンが右のような需要者の購買担当者を訪問し、その際、被告ら製造にかかるものであることが明示されたパンフレットを渡し、その旨の説明をするとともに、需要者が原告製品を既に使用している場合には、原告製品と被告製品とを比較しながら説明をして(例えば、被告製品の方がリブもなく、見た目もすっきりしていて、洗いやすい等の説明をする。)、売込みをするのであり、一般向けに店頭販売を行なっているわけではない。このように、被告らの販売方法は、原告を初めとする他社の製品との違いを強調するいわゆる差別化によって行なわれているものであり、被告製品が被告ら製造にかかるものであることは、需要者にとって明らかであり、誤認混同のおそれはない。
また、折りたたみコンテナの購入を担当するのは、企業の物流担当者や購買担当者であるため、複数のメーカーが前記ABCの特徴を有する折りたたみコンテナを製造販売していることは当然知っていて、複数メーカーに対して並行的に購買仕様を交付し、並行的に見積りを出させることが多くなっており、折りたたみコンテナの各メーカーは、同一の機能構造を有する折りたたみコンテナにつき、強度、表面構造、意匠、価格等の相違によって競争をしているのが市場の実情であるから、直接販売の場合も代理店経由で販売する場合も、誤認混同が生じるおそれはない。
(3) 被告三菱樹脂は、被告製品の製造販売を企図し、検討を重ねたところ、前記ABCの基本的構造については、公知技術であり、何の問題もなかったが、耐荷重性に優れた業務用の折りたたみコンテナを製造するためには、原告が当時有していた二つの本件実用新案権の利用が不可欠であり、原告に対し本件実用新案権のライセンスを要請したが、これを拒否されたため、同実用新案権の期間が満了するまで、被告製品の製造販売を見合せることにし、右期間満了後である平成三年四月になって初めて、被告天昇とともに、被告製品の製造販売を開始したものである。被告らは、原告が有する権利の期間満了後に、被告製品の製造販売を開始するに当たっては、原告製品を初めとする他社製品と被告製品との相違点を強調して販売しているのであり、原告製品と混同を生じさせようとの意図は全く有していないし、客観的にも誤認混同は、生じえない。
なお、被告らは、被告製品の販売の際、被告製品は、原告製品と積重ね嵌合ができる旨述べて販売しているが、これは、被告製品が原告製品ではなく、被告ら製造の製品であることを前提とするものであり、むしろ、商品の出所の誤認混同がありえないことを示すものである。
(4) 被告製品の寸法、色は、原告製品と同じであるが、寸法は、JIS規格のT一一型パレットに適合するように製作したり、ニチメン実業のパブコンという商品の寸法にならったものにすぎない。また、色についても、青や黄色は、プラスチック製コンテナとしては、ありふれた色であり、被告らも基本色として採用しただけである。
判断
一 争点1について1 商品の形態は、商品がその具有すべき機能を合理的に発揮させるようにするため、あるいは、商品の生産を効率的に行なうようにするため、更には、商品の美観を高めるために適宜選択されるものであり、本来商品の出所を表示することを目的とするものではないが、副次的に出所表示機能を持つに至ることがある。不正競争防止法1条1項1号は、「商品ノ容器包装其ノ他他人ノ商品タルコトヲ示ス表示」が商品表示となる旨規定しているため、商品の形態出所表示機能を持つに至った場合は、商品の形態自体も同条項にいう商品表示となりうるものであるが、商品の形態出所表示機能を有し同条項における周知商品表示となるためには、同条項の趣旨に照らし、第一に、商品の形態が、他の類似商品と比べ、需要者の感覚に端的に訴える独自な意匠的特徴を有し、需要者が一見して特定の営業主体の商品であることを理解することができる程度の識別力を備えたものであることが必要であり、
第二に、当該商品の形態が長期間特定の営業主体の商品に排他的に使用され、又は、当該商品が短期間でも強力に宣伝広告されたものであることが必要というべきである。そして、右第一の要件について補足すれば、商品の形態は、どのような商品であっても意匠的な特徴を全く有しないものはなく、他の類似商品と比べた形態の独自性といっても相対的なものではあるが、不正競争防止法における周知商品表示と認められるためには、前記のように需要者が一見して特定の営業主体の商品であることを理解することができる程度の識別力を備えた独自な意匠的特徴を有する形態であることが必要というべきである。
2 この観点から原告製品についてみてみるに、後記の括弧内の各証拠によれば、
次の事実が認められる。
(一) 原告製品は、プラスチック製の物納運搬用容器であり、化粧品、自動車、
電気製品、食品及び医療分野における工場内の製品ないしは部品の仕分け又は製品ないしは部品の需要者への配送、並びに、物流業、スーパー、生協、大型小売店等の分野における製品の配送等に使用されるものである。
原告製品は、別紙第一目録及び第一目録説明書記載の構造を具備し、原告主張の前記ABCの構造、機能を有するものであり、折りたたみが容易で耐荷重性もよく、コンテナ相互の嵌合性もあること、及び、ダンボール箱に比べ耐久性があるため結局経済的であることから、需要者に好評を博し、昭和油化株式会社(昭和五四年に原告に吸収合併)が昭和五〇年に販売を開始してから同五八年までに累積販売数量が一〇〇万個、同六三年までに累積販売数量が三〇〇万個に達し、その後平成元年には七〇万個、同二年には一一〇万個、同三年には一二〇万個、同四年には九〇万個の年間販売実績を挙げ、その販売先は、昭和六三年から平成四年までの五年間でも五二〇〇社、通算で九〇〇〇社以上に及んでいる。(甲一、五二、証人【A】)(二) 原告製品は、その外見的特徴によりこれをいくつかのタイプに分類すると、通常のプラスチック製の不透明な形状のもの、メッシュタイプのもの、内容物が見える透明なタイプのもの、また、保冷用のタイプのものに分けることができ、
それぞれに青又は黄色の配色がなされている。(甲一、一七) また、原告製品については、主として業界紙等においてときどきその宣伝広告がなされているだけであり、また、右宣伝広告においては、単に原告製品の外見的形状を写真等で示しているにすぎないものや、折りたたみコンテナとしての折りたたみの容易性、折りたたみにより容積が三分の一ないし四分の一に縮小すること、軽量で耐荷重性に優れていること、コンテナ相互の嵌合性があり積重ねが容易であることなど物納運搬用容器としての機能的な特徴を説明しているものはあるが、前記Aの折りたたみ方法や前記Bの嵌合の方法について説明しているものはほとんどない。更に、業界紙の記事で原告製品が取り上げられたことも数回あるが、前記A、
Bの特徴を述べたものは少ない。(甲三ないし九、一一ないし一四、一八の2ないし4、一九の1ないし5、二〇の1ないし4、二一ないし二四、二五の1・2、二七)(三) 原告は、昭和五八年八月には、プラスチック成型加工品の大手メーカーである岐阜プラスチックとの間で同社のプラスチックシート成型加工技術と原告の原告製品に関する実用新案権とのクロスライセンス契約を締結し、岐阜プラスチックは、同年八月から原告が主張する前記ABCの特徴を具備する折りたたみコンテナの製造販売を開始した。岐阜プラスチックの平成三年度までの右コンテナの累積販売個数は、二〇四万九〇〇〇個以上に達しており、被告らが市場に参入する前の平成二年度における折りたたみコンテナにおけるシエアは、原告が約六三パーセント、岐阜プラスチックが約三一パーセントであった。そして岐阜プラスチックが原告とクロスライセンス契約を締結して折りたたみコンテナを製造販売することは、
昭和五八年八月当時の業界紙において報道されたが、その後、岐阜プラスチックの折りたたみコンテナの宣伝用パンフレット等においては右クロスライセンス契約については何ら触れられておらず、また、同社は、原告の登録商標である「オリコン」も使用していないため、一般の折りたたみコンテナの需要者の立場からは、岐阜プラスチックが原告とは無関係に前記ABCの機能的特徴を具備する折りたたみコンテナを製造販売しているのか、原告のライセンスの下に右製品を製造販売しているのかは、必ずしも明確ではなかった。(甲一、一〇の1ないし5、四五、五二、乙三)(四) 被告三菱樹脂は、昭和五七年ころから同五九年にかけて、折りたたみコンテナの商品化の検討を行ない、原告が有していた本件実用新案権について、ライセンスの申込をし断わられたため、その商品化を一時断念していたが、本件実用新案権がいずれも期間満了により消滅する平成二年四月以降に折りたたみコンテナの製造販売を開始するため、同元年八月に被告天昇と業務提携をし、同三年から被告製品の製造販売を開始した。被告製品は、別紙第二目録及び第二目録説明書記載の構造であり、原告主張の前記ABCの構造、機能を有し、また、原告製品との嵌合性を確保するために、原告製品とほぼ同一のサイズとしているが、原告製品と異なる点は、内容物に傷を付けず、洗浄作業も容易にするために原告製品にあるようなリブを取り除き、側板やあおり板の内外面を平滑にした点であり、その分耐荷重性が低下しないように成型法等に工夫をしている。(乙一五、一六、一八、証人【B】) なお、原告製品の折りたたみ方式以外のプラスチック性の折りたたみコンテナとしては、住友化学が昭和六〇年ころから「パタコン」との商標の下に製造販売を開始し、現在に至っている製品があるが、右製品は、原告製品と比べると、軽量で安価であるとの利点を有するが、折りたたみ及び組み立て工程が原告製品と比べ一工程多く、また、耐荷重性も原告製品と比べ劣っているため、比較的軽量物を取扱う業種において採用される傾向がある。したがって、原告製品と同様の折りたたみの容易性、耐荷重性、容積縮小率を実現しようとすると、原告製品の前記Aの折りたたみ方式とは別な構造の折りたたみコンテナは考えにくい状況にある。(甲四二、
四三、証人【A】)(五) 折りたたみコンテナは、大手のユーザーに対しては原告及び被告らメーカーが直接売込みを行ない、各メーカーが並行的に見積書を提出して、販売することもあるが、それ以外のユーザーに対しては代理店(一次ないし二〜三次店)を通して販売し、一般の消費者に対して店頭で販売することはない。折りたたみコンテナの需要者は、前記(一)のとおり化粧品、自動車、電気製品、食品、医薬、運輸流通関係の企業であり、現在は既存ユーザーからのリピートオーダーが多い。
また、原告の実用新案権が期間満了により消滅したため、現在は被告らをはじめとする数社が、前記ABCの構造、機能を有し、原告製品と嵌合性がある折りたたみコンテナを製造販売しているが、原告ないし被告らメーカーやその代理店の営業担当者は、各企業の購買担当者を相手に、メーカー名が明示されたパンフレット等を示したりして原告製品や被告製品あるいは他のメーカーの折りたたみコンテナの機能、特徴、価格等の説明をして原告製品や被告製品を販売しており、また、需要者である右各企業の購買担当者も原告及び被告ら複数のメーカーが前記ABCの構造、特徴を有する折りたたみコンテナを製造販売していることを知っているため、
複数のメーカーの製品の中から、各メーカーの信用度、製品の特徴、価格等を考慮して、各企業の需要に見合ったメーカーの製品を選択して購入している。(甲五二、乙一八、証人【A】、同【B】)3 以上によれば、原告製品は、折りたたみコンテナとして、右に述べた折りたたみの容易性、耐荷重性、コンテナ相互の嵌合性等の機能的側面及び経済性で優れているため、多くの企業に採用され、多数販売されるようになっていったものであるが、前記認定の折りたたみコンテナ業界の状況及び取引の実情並びに原告製品の外見的形状に鑑みれば、原告が主張する前記ABCの特徴は、原告製品が有している構造的、機能的な特徴を列記したものにすぎず、独自な意匠的特徴を有し、需要者が一見して特定の営業主体の商品であることを理解することができる程度の識別力を備えたものであると認めることはできないものであり、また、そのため、原告製品と同一の機能を有する製品が複数の企業から販売されている現在においては、需要者は、折りたたみコンテナを選択するにあたって、各メーカーの信用度、製品の特徴、価格等の経済的なコストに注目して、原告製品又は被告製品ないしはその余のメーカーの製品のいずれかを購入しているものであることが認められる。
原告は、「原告製品の特徴的な機能を発現させるために特徴的な形態が形成されることは、極めて当然のことである。例えば、折りたたみコンテナについて最も需要者の関心が寄せられるところは、折りたたみ時の形態であるところ、原告製品の折りたたみ時の形態が特異であり、これが広く製造、販売されて周知のものとなれば、原告製品の形態が出所表示機能を有することになるのは、当然である。」と主張するが、別紙第一目録及び第一目録説明書によれば、原告製品の折りたたみ時の形態は、原告製品の折りたたみ方法及び約四分の一の容積縮小率という機能をそのまま反映した形態であり、それ以上に独自な意匠的特徴を有しているものと認めることはできない。また、原告は、「折りたたみコンテナの折りたたみ方法は、別紙図面のとおり何種類もあり、原告製品の折りたたみ方法は、他の製品とは明確な相違があり、容易に識別できるものである。」と主張するが、原告製品の折りたたみ方法は、折りたたみコンテナにおいていくつかある公知の折りたたみ方法のうちの一つにすぎず、その折りたたみ方法自体は、機能的なものであり、独自な意匠的特徴を備え、出所表示機能を有するものであるとまでいうことはできない。
よって、原告が主張する前記ABCの原告製品の特徴は、不正競争防止法における周知商品表示ということはできない。
二 争点2について1 原告製品及び被告製品の取引の実情について 折りたたみコンテナは、大手のユーザーに対しては原告及び被告らメーカーが直接売込みを行ない、各メーカーが並行的に見積書を提出して、販売することもあるが、それ以外のユーザーに対しては代理店(一次ないし二、三次店)を通して販売し、一般の消費者に対して店頭で販売することはなく、また、折りたたみコンテナの需要者は、化粧品、自動車、電気製品、食品、医薬、運輸流通関係の企業であり、更に、現在は既存ユーザーからのリピートオーダーが多いこと、及び、現在は被告らをはじめとする数社が、前記ABCの構造、機能を有し、原告製品と嵌合性がある折りたたみコンテナを製造販売しているが、原告ないし被告らメーカーやその代理店の営業担当者は、各企業の購買担当者を相手に、メーカー名が明示されたパンフレット等を示したりして原告製品や被告製品あるいは他のメーカーの折りたたみコンテナの機能、特徴、価格等の説明をして原告製品や被告製品を販売しており、また、需要者である右各企業の購買担当者も原告及び被告ら複数のメーカーが前記ABCの構造、特徴を有する折りたたみコンテナを製造販売していることを知っているため、複数のメーカーの製品の中から、各メーカーの信用度、製品の特徴、価格等を考慮して、各企業の需要に見合ったメーカーの製品を選択して購入していることは、前記認定のとおりである。
2 右のような折りたたみコンテナの業界の状況及び取引の実情を見ると、原告製品の既存のユーザーが原告製品と嵌合性のある前記ABCの構造、機能を具備する折りたたみコンテナを購入しようとする場合は、まさに各メーカーの製品の特徴、
価格等から、各企業の需要に見合ったいずれかのメーカーの折りたたみコンテナを選択し購入するものであり、また、新規に折りたたみコンテナを購入する者も、原告及び被告らを含む複数のメーカーの折りたたみコンテナの構造、機能、特徴、価格をそれぞれ考慮、検討のうえ、いずれかのメーカーの折りたたみコンテナを選択し、購入するものであると認められ、このような取引の実情に鑑みれば、原告製品と被告製品について、原告が主張する前記ABCの構造的特徴、機能が同一であることによっては、商品主体の誤認混同は、生じないものと認められる。
また、原告は、原告製品と被告製品の着色が同一であること、被告らが被告製品が原告製品と嵌合できることを強調して販売していることを原告製品と被告製品との誤認混同が生じる理由として主張しているが、青又は黄色の着色が折りたたみコンナナにおいてごく一般的な着色であること(甲四二、四八、五〇の1、五三、乙七)、及び、被告製品が原告製品と嵌合できることを強調することは、被告製品が原告製品と異なるメーカーの製品であることがその前提にあるのであって、むしろ、異なるメーカーの商品であるから原告製品との嵌合性を強調する必要があることからすれば、原告の右主張もまた採用することはできない。
更に、原告は、原告製品と被告製品の需要者が競合していること、及び、折りたたみコンテナにおいては、メーカー名が小さく表示されることから、誤認混同が生じる旨主張するが、前記認定の折りたたみコンテナの取引の実情に鑑みれば、右のような事実があったとしても、商品主体の誤認混同が生じるものと認めることはできない。
更にまた、原告は、原告製品のユーザーは、製品の機能、価格に着目するが、折りたたみコンテナのメーカーについては関心を示さないことが多いので、原告製品と被告製品とが混同されることが多い旨主張するが、前記認定の折りたたみコンテナの取引の実情に鑑みれば、右の原告主張事実を認めることはできない。
なお、甲四七の1・2は、乙二四、二五に照し、採用しえない。
三 以上によれば、原告の請求はその余の点について判断するまでもなく、理由がない。
追加
別紙図面(省略)第一目録<26901-001><26901-002><26901-003><26901-004><26901-005><26901-006><26901-007>(別紙)第一目録説明書第1図〜第5図は組立てた状態で、第1図は斜視図、第1´図は同コピー、第2図は底面店、第2´図は同コピー、第3図は正面図(背面も同じ)、第4図は平面図、第5図は側面図(左右同じ)、第6図〜第9図は折りたたんだ状態で、第6図は正面図(背面も同じ)、第7図は側面図(左右同じ)、第8図は平面図、第9図は斜視図、第10図〜第11図は折りたたむ途中の状態の斜視図である。
図面中、1はフレーム、2はフレームに軸支されたあおり板で、フレーム軸を中心に内側上方に回動可能になっている(第10図参照)。3は下側板、4は上側板で両者は内側に折れ曲るように連結されている(第11図参照)。5はフレームの四隅に設けられた凹溝、7は底板6の四隅を補強するために設けられた突出部である。8は底板の周辺段部で前記突出部と同じ高さを有する。
折りたたんだ状態(第9図参照)から組み立てるにはフレームを上方に持ち上げ、側板を伸ばし、次いであおり板を回動して底板の下面縁部に固定すればよい。
折りたたむ場合はこの逆の操作をする。
折りたたみコンテナを複数個積重ねたとき、下段のコンテナのフレーム内に上段のコンテナの周辺段部8が嵌合し、さらに凹溝5と突出部7が嵌合するようになっている。
(別紙)第二目録<26901-008><26901-009><26901-010><26901-011><26901-012><26901-013><26901-014>(別紙)第二目録説明書第1図〜第5図は組立てた状態で、第1図は斜視図、第1´図は同コピー、第2図は底面図、第2´は同コピー、第3図は正面図(背面も同じ)、第4図は平面図、第5図は側面図(左右同じ)、第6図〜第9図は折りたたんだ状態で、第6図は正面図(背面も同じ)、第7図は側面図(左右同じ)、第8図は平面図、第9図は斜視図、第10図〜第11図は折りたたむ途中の状態の斜視図である。
図面中、1はフレーム、2はフレームに軸支されたあおり板で、フレーム軸を中心に内側上方に回動可能になっている(第10図参照)。3は下側板、4は上側板で両者は内側に折れ曲るように連結されている(第11図参照)。5はフレームの四隅に設けられた凹溝、7は底板6の四隅を補強するために設けられた突出部である。8は底板の周辺段部で前記突出部と同じ高さを有する。
折りたたんだ状態(第9図参照)から組立てるにはフレームを上方に持ち上げ、
側板を伸ばし、次いであおり板を回動して底板の下面縁部に固定すればよい。折りたたむ場合はこの逆の操作をする。
折りたたみコンテナを複数個積重ねたとき、下段のコンテナのフレーム内に上段のコンテナの周辺段部8が嵌合し、さらに凹溝5と突出部7が嵌合するようになっている。
裁判官 一宮和夫
裁判官 設樂隆一
裁判官 足立謙三