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事件 昭和 59年 (ワ) 5473号
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裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 1989/10/09
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 被告大昇物産株式会社は、その製造、販売に係る寿司(持ち帰り用)の包装袋、包装紙に別紙標章目録二の(一)、(二)記載の標章を付し、右寿司に関する広告に右標章を付して展示又は頒布してはならない。
二 被告大昇物産株式会社は、その製造、販売に係る寿司(持ち帰り用)を別紙包装標章目録記載の標章を付した包装袋に入れたり包装紙で包装して譲渡してはならない。
三 原告に対し、被告大昇物産株式会社及び同【A】は、各自、金三六七二万円、
被告【B】は金一三二六万円及び右各金員に対する昭和六三年八月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
五 訴訟費用は、これを三分し、その一を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。
六 この判決の第一ないし第三項は仮に執行することができる。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨A 不正競争防止法違反に基づく請求(昭和五九年(ワ)第五四七三号事件、昭和六一年(ワ)第二三六七号事件)1 被告大昇物産株式会社(以下「被告会社」という。)は、その製造、販売に係る寿司(持ち帰り用及び店内飲食用)の容器、包装、広告等に別紙表示目録二の(一)、(二)記載の表示を使用し、又は右表示を使用した寿司(同)を販売してはならない。
2 被告会社は、その所有に係る前項記載の表示を付した寿司(同)の容器及び包装を廃棄し、その所有に係る広告から右表示を抹消せよ。
3 原告に対し、被告会社及び同【A】は連帯して金三億〇六〇〇万円、被告【B】は右被告両名と連帯して右金員の内金一億一二〇〇万円、及び右各金員に対する昭和六三年八月一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は被告らの負担とする。
5 仮執行の宣言B 商標権侵害に基づく請求(昭和五九年(ワ)第五四七三号事件)1 被告会社は、その製造、販売に係る寿司(持ち帰り用)の容器、包装、広告等に別紙標章目録二の(一)、(二)記載の標章を使用してはならない。
2 被告会社は、
包装に前項記載の標章を付した寿司(持ち帰り用)を譲渡し、又は譲渡のために展示してはならない。
3 原告に対し、被告会社及び被告【A】は、連帯して、金三六七二万円、被告【B】は右両名と連帯して右金員の内一三二六万円及び右各金員に対する昭和六三年八月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は被告らの負担とする。
5 仮執行の宣言二 請求の趣旨に対する答弁1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
当事者の主張
一 請求原因A 不正競争防止法違反に基づく請求1 原告の営業と表示(一) 原告は、寿司飲食店の経営を業とする会社であり、「元禄寿司」又は「元禄寿し」なる文字を用いた表示(別紙表示目録一の(一)、(二)記載の各表示を含む。以下「本件表示」という。)を、原告の製造、販売に係る寿司の商品表示及び営業表示として使用して、寿司飲食店を営んでいる。
(二) 原告は、その代表者【C】(以下「【C】」という。)が個人営業として、昭和二二年九月に東大阪市2条通りに寿司飲食店を開店したのを最初として、
その後、昭和三〇年四月に布施本店、昭和三七年四月に道頓堀店、昭和三八年四月に梅田店、昭和四一年五月に布施駅前店と順次開店して承継、発展させ、現在では大阪府下に一一店舗を有している。
(三) 原告の右寿司飲食店は、原告代表者【C】の考案(昭和三五年二月二〇日実用新案登録出額、同三七年七月二四日公告、同三七年一二月六日登録、第五七九七七六号。以下「本件考案」という。)に係る回転式の「コンベヤ附調理食台」(以下単に「食台」という。)を設置して、出来上がった寿司がコンベヤーに載って客席の前のカウンターの上を移動していく販売方式によるものである。
2 被告会社の営業と表示 一方、被告会社も、別紙店舗一覧表記載の店舗において、食台を設置し、寿司の容器、包装、広告等に別紙表示目録二の(一)、(二)記載の表示(以下「被告表示」という。)を使用して、直営及びフランチヤイズ方式により寿司飲食及び持ち帰り寿司販売の営業を行つている。
3 本件表示の周知性 しかるところ、原告の営業は、前記のとおり新たに考案された食台を使用し、それによつて省力化と価格の引き下げを可能にし、寿司という伝統食の外食産業化を初めて可能にした画期的なものであつた。そこで、原告の右営業は、これを始めた直後から新聞、雑誌に取り上げられ、本件表示は、昭和三七年頃には、原告の商品と営業を表示するものとして全国的に広く認識されるに至つた。さらに、原告は、
昭和四五年には右寿司飲食店を日本万国博覧会(以下「万国博」と略す。)に出店し、これが新聞にも取り上げられ、本件表示は、周知を越えて著名になつた。
なお、北陸地方における本件表示の周知性が、被告会社の被告表示を用いた営業活動の結果に負うところがあるとしても、それは、被告会社が、原告から本件表示使用の再許諾権限を与えられていた訴外株式会社元禄(旧商号「株式会社教育用品センター」、以下「訴外元禄」という。)をフランチヤイザーとするフランチヤイズ契約により本件表示を使用することを許諾されていたことによるものであるから、右周知性は本件表示の本来の主体である原告に帰属する。
4 本件表示と被告表示の類似性 本件表示と被告表示は、いずれも前記各店舗で販売する持ち帰り寿司の容器、包装、広告等に使用されるときは、商品表示となり、右各店舗での営業のために使用されるときは、営業表示となるものである。そして、本件表示の要部は、いうまでもなく「元禄」の部分にあるところ、被告表示の構成中「寿司」の文字は特別顕著な部分ではない。また、被告表示のうち「廻る」の文字を付加しているものについても、右「廻る」の文字は「元禄寿司」の文字と切り離されており、被告表示の要部は「元禄」である。したがつて、本件表示と被告表示は、要部を共通にし類似する。
5 誤認混同営業上の利益を害されるおそれ 被告会社が前記店舗において本件表示に類似する被告表示を自ら使用し、又は第三者(フランチヤイズ店)に使用させて原告と同一の営業を行えば、原告の商品及び営業との間に商品主体及び営業主体の誤認混同を生じることは明らかである。
そして、右誤認混同によつて、原告の営業上の利益が害されるおそれがあることはいうまでもない。
6 被告らの責任(一) 被告会社は、前記不正競争行為をなすにつき、少なくとも過失があつたから、民法709条719条、不正競争防止法1条1項一、二号、1条ノ二第一項に基づき原告が右不正競争行為によつて被つた損害を賠償する義務がある。
(二) 被告【A】は、昭和五六年以前から被告会社の代表取締役として、被告【B】は昭和五八年六月二八日から被告会社の代表取締役として、それぞれその職務の執行に際し右不正競争行為をなしたものであり、右不正競争行為をなすにつき過失があり、又は代表取締役としての職務の執行につき重大な過失があつたから、
右被告両名は、民法709条719条、不正競争防止法1条1項一、二号、1条ノ二第一項又は商法266条ノ三第一項に基づき被告会社と連帯して原告が被つた損害を賠償する義務がある。
7 原告の損害 原告は、被告会社の右不正競争行為により次の損害を被つた。
(一) 主位的主張(被告の利益相当額の損害)(1) 被告会社は、昭和五六年八月一日から昭和六三年七月三一日までの間、前記直営店及びフランチヤイズ店において被告表示を使用して店内飲食寿司及び持ち帰り寿司を販売することにより利益を上げてきた。
(2) これを立証の便宜等のため、昭和五六年から昭和六一年までの間の直営店九店(別紙店舗一覧表(イ)ないし(リ))の現金売上に限つても合計四〇億八一二五万四一七五円に達し、被告会社は、その一五パーセント合計七億一七六七万〇三六一円を下らぬ利益を上げている(甲第五六号証)。
(3) そして、商標法38条1項の類推適用により、右利益の額が原告の被つた損害の額と推定される。原告は、本訴において、その内金三億〇六〇〇万円を請求する。
(二) 予備的主張(実施料相当額の損害)(1) 被告会社は、昭和五六年八月一日から昭和六三年七月三一日までの間に、
別紙店舗一覧表記載の直営店及びフランチヤイズ店合計二一店舗における現金売上に限つても合計一一八億六六三八万七四八四円の売上を上げた(なお、右は、直接資料のない昭和六二年と昭和六三年の売上については、昭和六一年分一甲第五六号証参照ーと同額とし、直営店九店の一店当り平均売上額を全店二一店舗の一店当り売上額として算出したものである。)。
(2) しかるところ、原告が本件表示の使用に対し通常受けるべき実施料は、売上の三パーセントを相当とする。
(3) したがつて、原告は、商標法38条2項の類推適用により右売上額の三パーセントに当たる三億五五九九万一六二五円を、原告の被つた損害の額として被告会社に対し賠償を求めることができる。原告は、右の内金三億〇六〇〇万円を請求する。
(三) 被告【B】就任後の損害 原告の前記請求損害額のうち、被告【B】が被告会社の代表取締役に就任した昭和五八年六月二八日以後の期間に対応する損害額は一億一二〇〇万円である。
8 本訴請求 よつて、原告は、被告会社に対し、不正競争防止法1条1項一、二号に基づき請求の趣旨1、2項記載のとおり被告表示の使用差止めを求めるとともに、被告らに対し連帯して請求の趣旨3項記載の損害金及びこれに対する不法行為の後である昭和六三年八月一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
B 商標権侵害に基づく請求1 原告の商標権(一) 原告は、訴外日本水産株式会社(以下「日本水産」という。)が有していた左記(一)の商標権について、日本水産から左記(二)の専用使用権の設定を受け、その旨の登録を経由して専用使用権を取得した。
記(一) 商標権登録番号 第四九五九二〇号出願日 昭和三〇年八月三日(商願昭三〇ー二〇八七五号)出願公告日 昭和三一年一〇月五日(商公昭三一一一八八八三七号)登録日 昭和三二年二月七日指定商品 旧第四五類 他類に属しない食料品の加味品(但し味噌及びその類似品を除く)登録商標 別紙標章目録一記載のとおり(二) 専用使用権原因 昭和五三年三月三〇日専用使用権設定契約範囲 地域 日本全国 内容 指定商品 寿司登録日 昭和五三年六月二一日(二) 次いで、原告は、昭和五四年一二月三日、
日本水産から左記のとおり前記商標権の分割譲渡を受け、昭和五五年一〇月六日その旨の登録を経由し、左記商標権(以下「本件商標権」といい、その登録商標を「本件登録商標」という。)を取得した。
記登録番号 第四九五九二〇号の二原因 昭和五四年一二月三日分割譲渡登録日 昭和五五年一〇月六日指定商品 旧第四五類 寿司、弁当及びその類似商品2 被告会社の標章使用 被告会社は、直営又はフランチヤイズ方式により営業している前記別紙店舗一覧表記載の店舗において、持ち帰り寿司を販売するに際し、その容器、包装紙、包装袋、広告、広告マツチ、定価表、領収証等に別紙標章目録二の(一)、(二)記載の標章(以下「被告標章」という。)を付し又はフランチヤイジーに付させ、右容器に入れた持ち帰り寿司を右包装紙で包装したり包装袋に入れて販売し、右広告、
広告マツチ、定価表、領収証等を展示又は頒布している。
3 本件登録商標と被告標章の類似性 被告会社の製造、販売する持ち帰り寿しが本件登録商標の指定商品「寿司」に該当することはいうまでもない。
被告標章の構成中「寿司」の文字は特別顕著な部分ではなく、また被告標章のうち「廻る」の文字を付加したものについても、「廻る」の文字は「元禄寿司」の文字と分離されており、被告標章の要部は「元禄」の部分である。したがつて、被告標章は、「元禄」の文字から成る本件登録商標と明らかに類似する。
4 被告らの責任(一) 被告会社は、前記商標権侵害行為をなすにつき過失があつたものと推定されるから、民法709条719条に基づき右商標権侵害行為によつて原告の被つた損害を賠償する義務がある。
(二) 被告【A】は、昭和五六年以前から被告会社の代表取締役として、被告【B】は昭和五八年六月二八日から被告会社の代表取締役として、それぞれ自らの職務の執行に当たり、前記の被告標章の使用が本件商標権の侵害になることを知つて、若しくは過失によりこれを知らずに前記商標権侵害行為をしたものであり、又は職務の執行をなすにつき重大な過失があつたから、民法709条719条又は商法第266条ノ三第一項に基づき被告会社と連帯して原告が被つた損害を賠償すべき義務がある。
5 原告の損害 原告は、前記A1に述べたとおり営業を行つているものであるが、被告会社の本件商標権侵害行為により次の損害を被つた。
(一) 主位的主張(被告会社の利益相当額の損害)(1) 被告会社は、昭和五六年八月一日から昭和六三年七月三一日までの間、前記直営店とフランチヤイズ店において被告商標を使用して持ち帰り寿司を販売することにより利益を得ている。これを被告会社の前記直営店九店の昭和五六年から昭和六一年までの間の現金売上に限つてみても、その合計は前記のとおり四〇億八一二五万四一七五円に達し、その利益は七億一七六七万〇三六一円になる。しかるところ、被告会社の売上に占める店内飲食寿司と持ち帰り寿司の割合は七対三であるから、被告会社が本件商標権侵害行為によつて得た利益の額は少なくとも二億一五三〇万一一〇八円を下らない。
(2) そして、商標法38条1項の規定により、右利益の額が原告の被つた損害の額と推定されるから、原告は、本訴において内金三六七二万円を請求する。
(二) 予備的主張(実施料相当額の損害)(1) 被告会社は、前記のとおり、昭和五六年八月一日から昭和六三年七月三一日までの間に直営店とフランチヤイズ店合計二一店における現金売上に限定しても一一八億六六三八万七四八四円の売上を上げ、その三割に当たる三五億五九九一万六二四五円が持ち帰り寿司の売上であるところ、本件登録商標の使用に対し通常受けるべき実施料は、売上の三パーセントを相当とする。そうすると、原告が支払いを受けるべき実施料額は、一億〇六七九万七四八七円となる。
(2) したがつて、原告は、商標法38条2項により、これを原告の被つた損害の額として被告会社に対し賠償請求できるが、本訴においては、右の内金三六七二万円を請求する。
(三) 被告【B】就任後の損害 原告の前記請求損害額のうち、被告【B】が被告会社の代表取締役に就任した昭和五八年六月二八日以後の期間に対応する損害額は一三二六万円である。
6 本訴請求 よつて、原告は、被告会社に対し、持ち帰り用寿司に関し前記Aの不正競争行為に基づく請求と択一的に、請求の趣旨1、2項記載のとおり本件商標権侵害行為の差止めを求めるとともに、被告らに対し、連帯して請求の趣旨3項記載の損害金及びこれに対する不法行為の後である昭和六三年八月一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否A1 請求原因A1(一)の事実のうち、原告が別紙表示目録一の(二)記載の表示を使用していることは不知。その余の事実は認める。同(二)の事実は不知。同(三)の事実は認める。
2 同2のうち、被告会社が別紙店舗一覧表記載の店舗(ただし、(ル)大聖寺店及び(ワ)山代店は昭和六二年六月に被告のフランチヤイズ店から離脱し、(ネ)婦中店は昭和六〇年五月頃、食台を用いた営業を廃止した。)において、食台を用いて直営及びフランチヤイズ方式により寿司飲食及び持ち帰り寿司販売の営業をしていることは認める。被告表示のうち、別紙表示目録二の(二)の1、5、6記載の表示を被告会社の製造、販売に係る寿司の包装、広告に使用していること、同目録二の(一)の3、同二の(二)の1ないし7の表示を営業表示として使用していることは認めるが、その余の事実は否認する。
3 同3のうち、原告の寿司飲食店が食台を用いた店舗であることは認めるが、その余の事実は否認する。北陸地方において「元禄寿司」又は「廻る元禄寿司」の表示が周知になつたのは、被告会社及びそのフランチヤイズ店の営業活動の結果であり、右表示の周知性は、被告会社及びそのフランチヤイズ店に帰属する。
4 同4のうち、被告表示の構成中「寿司」の文字が特別顕著な部分ではないこと、被告表示の要部が「元禄」の部分であること、被告会社が営業表示として一部の店舗で使用している「元禄寿司」の表示(別紙表示目録二の(一)の3)が本件表示と類似することは認めるが、その余の事実は否認する。
5 同5は争う。原告の営業は大阪府下において行われ、被告会社の営業は北陸地方において行われている。
両者は明瞭に営業活動の地域を異にしており、誤認混同を生じるおそれはない。
6 同6のうち、被告【A】、同【B】が原告主張のとおり被告会社の代表取締役であることは認めるが、その余は否認する。
7 同7は争う。原告と被告会社の営業活動の地域は、前記のとおり、明瞭に異つており、被告会社が得た利益を原告の損害と推定すべき理由はない。
B1 請求原因B1の事実は認める。
2 同2のうち、被告会社が別紙店舗一覧表記載の店舗(ただし、(ル)大聖寺店及び(ワ)山代店は昭和六二年六月に被告のフランチヤイズ店から離脱し、(ネ)婦中店は昭和六〇年五月頃、食台を用いた営業を廃止した。)において、直営及びフランチヤイズ方式により寿司、飲食、持ち帰り寿司販売の営業をしていること、
被告標章のうち、別紙標章目録二の(二)の1、5、6記載の標章を被告会社の製造、販売する持ち帰り寿司の包装紙、包装袋、広告に使用していることは認めるが、その余の事実は否認する。
右各標章の使用は、商標としての使用ではない。すなわち、右各標章は商標としての本質的機能を果す態様で使用されていない。被告会社はこれらの標章を、特殊な加工方法によつて製造する寿司ではなく、一般的な寿司に使用しており、しかもその製造と販売は同一店舗で行われている。したがつて、需要者は右標章によつて自己の求める商品と他の商品とを区別しているわけではなく、商標の出所、品質保障を判断しているわけでもない。生産者である被告会社としても右標章によつて需要者が商品を識別することを期待しているわけではない。
3 同3のうち、持ち帰り寿司が本件登録商標の指定商品「寿司」に該当すること、被告標章の構成中「寿司」の部分が特別顕著な部分ではないこと、被告標章の要部が「元禄」の部分であることは認めるが、その余は否認する。
4 同4のうち、被告【A】、同【B】が原告主張のとおり被告会社の代表取締役であることは認めるが、その余は否認する。
5 同5は争う。A7において述べたとおり、被告会社の利益相当額の損害に関する主張は失当である。
三 抗弁1 表示・標章使用の正当権限(一) 被告会社は、昭和四一年二月頃から寿司の小売業を始めたものであるが、
昭和四四年頃、コンベアー式食台を用いた寿司飲食店が東京で評判になつていることを知り、調査したところ、右飲食店は、仙台市に本店を有する訴外元禄の事業に関するものであることを知つた。
(二) そこで、被告会社の代表者である被告【A】が、昭和四四年春頃、東京都内において訴外元禄の代表者と面談したところ、右食台は原告代表者【C】の考案に係るものであり、大阪府においては原告が本件考案の食台を用い、「元禄寿司」又は「元禄寿し」の表示を使用して寿司飲食店を営業しているが、同府以外の地域については、訴外元禄が【C】及び原告の許諾を受けて本件考案の食台を用い「元禄寿司」ないし「廻る元禄寿司」の表示を使用して、東京及び仙台で寿司飲食店を営業しているものであること、訴外元禄は、【C】及び原告から、右考案と「元禄寿司」の表示の使用について再使用許諾の権限を与えられており、同社はこれに基づき食台の賃貸とその賃貸先を元禄チエーン店と称する事業を行つていることを知つた。
(三) そこで、被告会社は、昭和四四年六月二四日、訴外元禄との間で本件考案に係る食台と付属の冷蔵庫について賃貸借契約を締結したが、その際、訴外元禄より右食台を用いて行う寿司飲食店の営業については「元禄寿司」ないし「廻る元禄寿司」の表示を使用するよう指示され、その許諾を得た(以下、これを「本件再使用契約」という。)。そして、被告会社は、「元禄寿司」ないし「廻る元禄寿司」の表示を使用した店内飲食及び持ち帰り寿司販売の営業を開始した。
(四) その後、被告会社は、訴外元禄と交渉し、昭和四五年秋頃、被告会社は以後前記食台の賃借をやめてこれを訴外元禄から買い受け、北陸三県(富山県、石川県、福井県)においては、被告会社が直営又はフランチヤイザーとなつて食台を用い「元禄寿司」ないし「廻る元禄寿司」の表示を使用した寿司飲食店の営業を行うこと(訴外元禄は右地域において営業をしない)について訴外元禄の許諾を受けた。そして、被告会社は、以後、右新方式により営業を行うこととし、昭和四六年四月に片町店(直営店)を開設したが、その際従来から賃借していた食台も買い取り、右時点でそれまでの訴外元禄との間の食台の賃貸借契約は終了した。そして、
その後、被告会社は、昭和四八年中に、訴外元禄との間で富山県、岐阜県、三重県より以西(九州、四国を含む)の地域について右と同旨の合意をし、その許諾を受けた。
(五) その後、被告会社は、「コンベア付飲食カウンターに於ける給湯茶装置」を考案し(昭和四九年四月二四日に実用新案登録出願)、これを用いる食台を訴外株式会社石野製作所(以下「石野製作所」という。)に製作させていたところ、昭和五〇年に入り、訴外元禄の代表者が被告会社を訪れ、本件考案は消滅したが(昭和四七年七月二四日期間満了により消滅)、【C】の別の考案(「被覆を装備するコンベア附調理食台」、登録第八五一九五三号。以下「別考案」という。)があるので上記給湯茶装置付の食台の製作は許されない旨申し入れてきた。
そこで、被告会社、石野製作所、訴外元禄、訴外白石産業有限会社(代表者【C】。以下「白石産業」という。)が話し合つた結果、昭和五〇年八月二六日、
右別考案の実施に関し合意が成立し(乙第二号証)、被告会社は従来どおり寿司飲食及び持ち帰り寿司販売の営業を続けることになつたが、ここでも、訴外元禄は、
被告会社が前記地域において「元禄寿司西日本本部(全国チエーン)」の名称で営業を営むことを認めている。
(六) 以上のとおりであるから、被告会社は、被告表示・標章を使用して寿司飲食店の営業を行うことにつき正当な権限を有するものである。
2 商標権主張の信義則違反ないし権利濫用(一) 被告会社が昭和四四年に「元禄寿司」ないし「廻る元禄寿司」の表示を使用して寿司飲食店の営業を始めた時点では、本件登録商標は日本水産が所有していたものであり、原告や訴外元禄は、「元禄寿司」ないし「廻る元禄寿司」の表示について何ら権利を有しておらず、その使用を許諾する権限もなかつた。
(二) ところが、原告は、前記のとおり、訴外元禄に対し再使用許諾権付の使用許諾をし、右許諾を受けた訴外元禄は、被告会社に対し、前記寿司飲食店の営業をするについて右表示を使用するよう指示した。もちろん、いまになつて原告が自ら訴外元禄との前記使用許諾契約の無効を主張することは許されない。しかるところ、原告は、自ら主張するとおり昭和五三年六月二一日には日本水産から分割前の本件商標権について専用使用権の設定を受け、さらに昭和五五年一〇月六日には本件商標権の分割譲渡を受けたのであるから、被告会社が右表示を使用することを是認する義務があるとすらいえる。
(三) このような立場にある原告が本件商標権を取得したことを奇貨として、被告会社に対し被告標章の使用差止めや損害賠償を請求することは、信義に反し、権利の濫用であるから許されない。
3 失効の原則 原告は、右のとおり昭和五三年六月二一日に分割前の本件商標権について日本水産から指定商品「寿司」として専用使用権の設定を受け、さらに昭和五五年一〇月六日には本件商標権の分割譲渡を受けたものであるが、被告会社が被告標章を使用していることを知りながら、右専用使用権の設定から本訴昭和五九年(ワ)第五四七三号事件を提起した昭和五九年八月一日までの間六年以上にわたり専用使用権又は商標権に基づく差止請求権を行使しなかつた。したがつて、仮に原告が本件商標権に基づく差止請求権を有したとしても、失効の原則により消滅したものというべきである。
4 消滅時効(一) 原告は、本訴において、昭和五六年八月一日から昭和六三年七月三一日までの間の損害賠償を請求する。
(二) しかるところ、その請求の経過は、次のとおりである。
(1) 先ず、昭和五九年八月一日に提起した本訴昭和五九年(ワ)第五四七三号事件において、商標権の侵害を理由として昭和五六年八月一日から昭和五九年七月三一日までの持ち帰り寿司についての損害(被告会社との関係では三六七二万円)を請求(昭和六一年三月一九日付訴の変更申立書によりこれにつき不正競争防止法違反もあわせて主張。)、
(2) 次いで、昭和六一年三月一九日に提起した本訴昭和六一年(ワ)第二三六七号事件において、不正競争防止法違反を理由として店内飲食寿司、持ち帰り寿司双方について同期間中の損害(被告会社との関係では前記請求とは別に二億六九二八万円)を請求(結局、被告会社についていえば、不正競争防止法違反を理由として三億〇六〇〇万円、その内三六七二万円については商標権の侵害をあわせて主張)、
(3) その後、昭和六三年二月二六日付準備書面(同日受理)において、従来、
昭和五九年七月三一日までとしていた損害賠償算定期間の終期を昭和六三年七月三一日までに拡張(右は、店内飲食寿司、持ち帰り寿司双方についてのものである。
ただし、請求金額は前記のとおりで変更なし。)、
というものである。
(三) しかるところ、原告が店内飲食寿司について損害賠償を請求したのは、昭和六一年三月一九日に提起した昭和六一年(ワ)第二三六七号事件の訴状によつてであるから、昭和五八年三月一九日以前の店内飲食寿司に関する分は右訴状受理までに三年以上を経過していることになる。また、右拡張後の期間(昭和五九年八月一日から昭和六三年七月三一日まで)の損害のうち昭和五九年八月一日から昭和六〇年二月二六日までの分は、右昭和六三年二月二六日付準備書面の受理までに三年以上を経過していることになる。
(四) そして、原告は右期間中の損害についても当時既に被告会社が不正競争行為をなし、又は本件商標権の侵害行為をなして、原告に損害を与えたことを知つていた。
(五) したがつて、昭和五八年三月一九日以前の店内飲食寿司に関するもの、昭和五九年八月一日から昭和六〇年二月二六日までの店内飲食寿司及び持ち帰り寿司双方に関するものは、たとえ原告に損害賠償請求権があつたとしても、時効により消滅した。被告らは、本訴において右時効を援用する。
四 抗弁に対する認否1 抗弁1について 抗弁1(一)の事実は認める。同(二)は、地域についての合意の点を争い、その余は認める。同(三)の事実は認める。本件再実施契約は、フランチヤイズ契約であり、被告会社は右契約の存続中に限りそのフランチヤイジーとして「元禄寿司」ないし「廻る元禄寿司」の表示を使用することの許諾を受けたものである。同(四)の事実は否認する。
同(五)は、被告ら主張の別考案に関する合意(乙第二号証)が成立したことは認めるがその趣旨は争う。同(六)は争う。
2 抗弁2について(一) 同2(一)ないし(三)のうち、本件登録商標の権利帰属に関する事実は認めるが、その余は争う。
(二) 原告は、【C】が訴外元禄に本件考案の実施許諾をした際、本件登録商標については事実上その使用を許諾をしたことになるが、その後商標権者である日本水産から専用使用権の設定を受けて、事実上の許諾者としての義務を果たし、さらに現在では、訴外元禄に対し、地域を限定した専用使用権の設定をしている。しかるところ、被告会社は、後記のとおり、遅くとも昭和五二年八月一五日には訴外元禄との間のフランチヤイズ契約が終了したことにより、それ以後は原告との関係でも被告標章を使用する権限を失つた。原告は、右時期以降の被告会社による被告標章の使用が本件商標権侵害行為であると主張しているものであるから、原告の請求を信義則違反や権利の濫用といわれる筋合いはない。
3 抗弁3について(一) 同3のうち、原告の権利取得及び本訴提起に関する事実は認めるが、その余は争う。
(二) 失効の原則は、単なる権利の長期間にわたる不行使をもつて、侵害者は権利者の権利行使を受けないとするものではない。その適用のためには、さらに侵害者たる被告らにおいて、侵害行為が黙認され差止請求権の行使を受けることがないものと信頼すべき正当の事由を有するに至つたとの特段の事情の存することを要するところ、本件では被告らにそのような特段の事情はないから、被告らの右主張は失当である。
4 抗弁4について 時効の成立は争う。
五 再抗弁1 被告会社は、前記のとおり昭和四四年六月二四日、訴外元禄との間で本件再使用契約を締結したが、右はフランチヤイズ契約であり、被告会社は右契約の存続中に限りフランチヤイジーとしてその表示を使用することを許されていたものである。しかるところ、被告会社は、昭和四九年頃から訴外元禄に対して、食台の使用台数をごまかすなどして、フランチヤイジーとしての支払を約定どおり履行しなくなり、訴外元禄の再三の催告にもかかわらず、不足額の請求に応じなくなつた。
2 訴外元禄は、右の対応に苦慮し、被告会社や本件考案を改良した別考案(「被覆を装備するコンベヤ附調理食台」)を実施していた白石産業と話し合つた結果、
結局、訴外元禄と白石産業は、被告会社に対し、別考案の再実施を許諾し、被告会社は、昭和五〇年八月一二日以降、右別考案の再実施許諾料を直接白石産業に支払うものとする、訴外元禄は、右関係の存続する限り被告会社が従前どおりの表示を使用することを許可する旨の合意が被告会社、訴外元禄及び白石産業の三者間に成立した。
3 ところが、被告会社は、その後も、白石産業に対し食台の使用台数の報告を怠り、かえつて虚偽の食台の使用台数を申告して再実施許諾料の支払を怠つていることが判明した。そこで、白石産業は、昭和五二年八月五日付け内容証明郵便をもつて、被告会社に対し、使用台数の報告と不足再実施許諾料の支払を同月一五日までになすことの催告及び右期間内に履行しないときは右再実施許諾契約を解除する旨の意思表示をし、右郵便はその頃被告会社に到達した。しかるに、被告会社は、右催告に応じなかつたので、右契約は同月一五日の経過により解除された。右解除に伴い、被告会社が被告表示を使用する権限も当然消滅した。
六 再抗弁に対する認否1 再抗弁のうち、被告会社が昭和四四年六月二四日に本件再使用契約を締結したこと、白石産業から被告会社に対し原告主張の内容証明郵便が送付されたことは認めるが、その余は争う。
2 前記のとおり、本件再使用契約は食台の賃貸借を基本とする契約であつて、いわゆるフランチヤイズ契約ではない。しかも、右契約は、前記のとおり、昭和四五年秋頃、食台を訴外元禄から賃借するのではなく、買い受けることになつた時点で終了している。したがつて、以後、原告が主張するような実施料不払いの問題が生じる余地はなく、これを前提とする原告の主張は、理由がない。
証拠(省略)
理 由
不正競争防止法違反に基づく請求について
一 請求原因A1(一)の事実(原告の営業と表示)のうち、
原告が別紙表示目録一の(一)記載の表示を原告の製造、販売に係る寿司の商品表示及び原告の営業表示として使用して、寿司飲食店を営んでいることについては争いがなく(原告が同目録一の(二)記載の「廻る元禄寿司」の表示を自らの表示として使用していることについては、これを認めるに足る証拠がない。)、後掲甲第一三号証と弁論の全趣旨によれば、同(二)の事実(原告の店舗展開)を認めることができるというのが相当である。そして、同(三)の事実(原告の寿司飲食店がコンベヤー式調理台を用いた店舗であること)については、当事者間に争いがない。
二 また、同2の事実(被告会社の営業と表示)のうち、被告会社が別紙店舗一覧表記載の店舗(ただし、右一覧表記載の店舗のうち、(ル)大聖寺店、(ワ)山代店及び(ネ)婦中店を除く。)において食台を用いて直営及びフランチヤイズ方式により寿司飲食及び持ち帰り寿司販売の営業を行つていること、被告会社が、被告表示のうち、別紙表示目録二の(二)の1、5、6記載の表示をその製造、販売に係る寿司の包装、広告に使用し、同目録二の(一)の3、同二の(二)の1ないし7の表示を営業の表示として使用していることについては、当事者間に争いがない(右争いのある部分の確定はしばらく措く。)。
三 以下、同3(本件表示の周知性)について検討する。
1 いずれも成立に争いのない甲第一ないし三号証、乙第三、第四号証、第六号証、第一二号証、いずれも弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める甲第四ないし第一〇号証の各一、二、第一一ないし第一五号証、第一六号証の一、二、第一七号証、被告【A】本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができ、この認定を左右するに足りる証拠はない。
(一) 原告の代表取締役【C】は、かねてより大阪府東大阪市において寿司飲食店を経営していたものであるが、右営業に携るうち「コンベヤ附調理食台」を考案し(本件考案)、昭和三五年二月二〇日その実用新案登録出願をして、昭和三七年一二月六日、登録番号第五七九七七六号をもつて登録を受けた。
(二) そして、右【C】は、昭和三七年四月、東大阪市<以下略>に「料理すし飲食店経営」を目的とした会社すなわち原告を設立した。その後、原告は、東大阪市の店舗のほか昭和三七年四月に開設された道頓堀店、同三八年四月開設の梅田店、同四一年五月開設の布施駅前店等において本件考案によるコンベヤー式食台を使用し、寿司飲食店「元禄寿司」又は「元禄寿し」の営業を行い、その後も次第に店舗を増やし、現在では大阪府下に一一店舗を有するようになつた。
(三) その間、原告と【C】は、昭和四二年頃、訴外元禄(旧商号株式会社教育用品センター)に対し、同社が本件考案を実施した食台を用い、「元禄寿司」の表示を使用して寿司飲食店の営業を行うことにつき、再使用許諾付の使用許諾をした。
これを受けた訴外元禄は、本件考案に係る食台を使用した寿司飲食店経営の事業を展開することとし、まず、昭和四二年八月に仙台市に直営第一号店を開設したのを始め、同年一二月に東京・錦糸町にチエーン第一号店、仙台市に直営第二号店を開設し、さらに、昭和四三年四月、郡山駅前にチエーン第二号店を開設、同年六月には東京・大山に本社直営店を開設するというように積極的に店舗の増設を進めていつた。
ところで、訴外元禄が行う右事業は、直営店において本件考案に係る食台を用い「廻る元禄寿司」の表示を使用した営業をするほか、第三者(チエーン店)との間で、本件考案に係る食台及び付属の冷蔵庫について賃貸借契約を締結し、当該第三者には、その店舗に「廻る元禄寿司」と表示した「のれん」をかけさせ、その営業表示として「元禄寿司」ないし「廻る元禄寿司」の表示を使用させ、これを全国元禄チエーンと称するものであつた。
なお、訴外元禄の右事業は、主に東日本において進められ、昭和五三年現在、仙台市に本社、東京池袋に東京本部を置き、これに関する店舗数は、東京周辺の首都圏及び仙台市周辺を中心に、昭和四四年当時三〇数店であつたものが直営店とフランチヤイズ店を合わせて一三〇店舗を越える状態になつていた(甲第一三号証)。
また、原告が本件登録商標の商標権者となつた後の昭和五六年には、右商標権につき地域を「新潟県、長野県、愛知県を含み、これより以東以北の地域」とし、指定商品を「寿司」とする専用使用権の設定を受けている。
(四) ところで、本件考案によるコンベヤー式食台は、これが用いられ始めた当時は珍しいものであつたので世間の話題を集め、安価かつ簡便に握り寿司を食べられるということで大衆の人気を呼び、原告の営業が、昭和三七年頃から昭和四三、
四年頃までの間、折にふれて京阪神地方で発行される新聞に取り上げられることもあつた。
また、原告は、少なくとも昭和四三年ないし四五年頃には、訴外元禄と共同で(原告は「元禄産業株式会社」、訴外元禄は「(株)教育用品センター元禄産業」ないし「廻る元禄産業」の名称で)飲食業者向けの専門誌である雑誌・月刊「食堂」に「廻る元禄寿司」チエーンの宣伝広告を定期的に載せ、これを宣伝した。
さらに、原告は、昭和四五年大阪で開催された万国博の会場にも食台を用い「元禄」と表示した寿司店を出店し、その旨の新聞広告をしたこともあつた。
(五) こうした中で、被告会社は、昭和四四年六月二四日、訴外元禄との間に本件再使用契約を締結したのであるが、右契約締結に至る経緯及びその後の経過は、
被告らが、抗弁1(一)ないし(五)(表示・標章使用の正当権限)の項において主張するとおりである。
2 以下、右認定の事実に照らし、本件表示の周知性について検討する。
(一) まず、右事実によれば、原告は、昭和三七年四月頃から食台を用いた寿司飲食店を経営しているが、その営業地域は大阪府下に限られていること、また、原告及び【C】から使用許諾を受けた訴外元禄は、昭和四二年八月から食台を用い「廻る元禄寿司」の表示を使用した寿司飲食店のチエーン店事業を行つているが、
その営業地域は東京、仙台を中心にした東日本にあること、一方、被告会社は、昭和四四年六月頃から食台を用い「元禄寿司」ないし「廻る元禄寿司」の表示を使用した寿司飲食店の営業を行つているが、その営業地域は、富山、石川の北陸地方にあることが明らかである。
(二) 右事実と原告と被告会社の営業がいずれも一般消費者を対象とした寿司飲食店の営業であることに照らすと、本訴において、原告の不正競争防止違反の主張を肯認するためには、本件表示が、被告会社が右営業を始めた昭和四四年頃ないし現在において、少なくとも原告が営業を行つている大阪府下近辺のみならず被告会社の営業地域である北陸地方の一般消費者又は同業者の間にまで周知になつていたことが必要であると解される。
(三) しかるところ、原告が食台を用いて寿司飲食店の営業を始めた昭和三七年当時、それが珍しいものであつたことと、安価で簡便に寿司を食べられるということから人気を呼んだこと、その後、原告の営業が、昭和四三、四年頃までの間に折にふれて京阪神地方で発行される新聞に取り上げられたことがあつたことは前示のとおりであり、右事実からすれば、原告の店舗所在地周辺ないし大阪府下近辺において、原告の営業ないし「元禄寿司」又は「元禄寿し」の表示がある程度の知名度を得たであろうことは推認するに難くはない。しかし、原告が営業している寿司飲食店のような業種では、その営業の性質上、顧客層は店舗近隣地域の一般消費者が中心になり、これに興味と関心を持つ者も右の一般消費者ないし関連事業者等ある程度その範囲が限られたものになると考えられる。このような事情を参酌すると、
右摘示の事実があるからといつて、本件表示が大阪府下近辺を越えたその他の地域にまで周知になつたとはたやすく断じ難い。また、原告が昭和四三年ないし四五年頃訴外元禄と共同で飲食業者向けの専門雑誌・月刊「食堂」に「廻る元禄寿司」チエーンの宣伝広告を定期的に載せたことも前示のとおりであるが、その当時の発行部数、販売地域等も明らかでなく、これも原告主張の周知性を肯認させるに十分なものとはいえない。さらに、原告が昭和四五年に大阪府で開かれた万国博に食台を用い「元禄」と表示した寿司飲食店を出店し、その旨の新聞広告をしたことも事実であり、これにより原告の営業が大阪府以外の地域の一般消費者にもある程度知られたであろうことは考えられるが、万国博自体は開催期間が限られたものであるし、万国博に出店したというだけで原告がいうように本件表示が全国的に著名になつたとはたやすく認め難い。その他原告が特に大阪府下近辺以外の一般消費者又は同業者に向けて積極的に原告の営業の宣伝広告を行つてきたことを認めるに足る証拠はない。
結局、本件全証拠によつても、本件表示が原告主張の商品表示及び営業表示として全国的に、少くとも被告会社の営業地である北陸地方にまで広く認識されるようになつたと認めることはできないといわざるをえない。
(四) もつとも、訴外元禄が、直営及びフランチヤイズ方式により「廻る元禄寿司」の表示の下に寿司飲食店を多数経営していること及び同社が【C】及び原告から本件考案に係る食台と「元禄寿司」の表示使用につき再使用許諾の権限を与えられていたことは前示のとおりであり、現在では原告から本件登録商標について専用使用権の設定を受けているのであるから、原告と訴外元禄との間には一種の営業上のつながりがあるとみる余地はある。
しかし、原告と訴外元禄の間のそれ以上の具体的な関係は明らかではなく、それがいわゆるフランチヤイズ組織のような緊密な関係にあることを認めるに足りる証拠はない。その上、訴外元禄の営業地域は、元来が、東京、仙台を中心にした東日本にあり、右訴外元禄の活動や訴外元禄と原告の営業上のつながりが、被告会社の営業地である北陸地方にまで広く知られていたことを認めるに足りる証拠はない。
また、原告は、北陸地方における本件表示の周知性が、被告会社の営業活動に負うところがあるとしても、それは、被告会社が、原告から本件表示使用の再許諾の権限を与えられていた訴外元禄とのフランチヤイズ契約により本件表示を使用することを許諾されていたことによるものであるから、右周知性は原告に帰属する旨主張する。しかし、原告の右主張が肯認されるためには、少くとも原告と訴外元禄及び訴外元禄と被告会社の間にそれぞれいわゆるフランチヤイズ組織のような緊密な営業上の関係があり、結局、被告会社が原告を本件表示の主体とする営業組織の一員となつているとみられるような関係にあることが必要であると解されるが、かかる事実を認めるに足る証拠はない。原告の主張は、その基礎を欠くものといわざるを得ず、採用の限りでない。
(五) なお、前掲乙第六号証、成立に争いのない乙第九号証の一ないし六、第一〇号証の一ないし五によれば、【C】が有していた本件実用新案権は昭和四七年に存続期間満了により消滅しており、その後は多くの企業が外食ブームに乗つて、原告とは無関係にコンベヤー式食台を使用した寿司飲食店を各地で営業していることが認められる。
(六) 以上によれば、結局、原告の周知性に関する主張は認められないというほかはない。
四 よつて、原告の不正競争防止法に基づく請求は、その余の点につき判断するまでもなく、理由がない。
商標権の侵害を理由とする請求について
一 請求原因B1の事実(原告の商標権)については、当事者間に争いがない。
二 同2の事実(被告会社の標章使用)のうち、被告会社が別紙店舗一覧表記載の店舗(ただし、右一覧表記載の店舗のうち、(ル)大聖寺店、(ワ)山代店、
(ネ)婦中店を除く。)において、直営及びフランチヤイズ方式により寿司飲食、
持ち帰り寿司販売の営業をしていること、被告会社が被告標章のうち、別紙標章目録二の(二)の1、5、6記載の標章を被告会社の製造、販売する持ち帰り寿司の包装紙、包装袋、広告に使用していることは、当事者間に争いがない。
成立に争いのない甲第一八、第一九号証、第二一、第二二号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める甲第二〇号証、第二四号証、被告会社の直営店又はフランチヤイズ店を撮影した写真であることは争いがなく、弁論の全趣旨により撮影時期を昭和六一年四月頃と認める検甲第一ないし第三六号証、同様の撮影対象の写真であることは争いがなく、証人【D】の証言により撮影時期を昭和六二年五月頃と認める検甲第三七ないし第六三号証、同証人の証言により被告会社の直営店又はフランチヤイズ店で使用されている包装袋、包装紙、はし袋及びマツチ箱であると認める検甲第六四ないし第九二号証(このことは、右のうち検甲第八二号証、
第八八号証、第九〇号証、第九二号証を除いて争いがない。)、証人【E】、同【D】の各証言及び弁論の全趣旨によれば、別紙店舗一覧表記載の被告会社の直営店及びフランチヤイズ店においては、店舗の出入口、店舗及びその付近に設置した看板、店舗出入口の掛けのれん、持ち帰り寿司の包装袋、包装紙、はし袋、宣伝マツチ、定価表(お品書き)等に別紙標章目録二の(一)、(二)記載の各標章と同一又は類似といえる「元禄寿司」又は「廻る元禄寿司」の標章(ほとんどは「廻る」を付加したもの)を付し、その製造に係る持ち帰り寿司を右包装紙で包装したり、包装袋に入れたりして販売していることが認められる。右包装紙や包装袋に表示されている標章を特定して示すと別紙包装標章目録記載のとおりである。そして、これまでに判示した事実と弁論の全趣旨に照らすと、被告標章については、被告会社や被告会社のフランチヤイジーが現に使用しているか、使用されるおそれがあるものであると認めるのが相当である。
しかし、被告会社が、被告標章を持ち帰り寿司の容器に付していることや右包装紙で包装したり、包装袋に入れた持ち帰り寿司を譲渡のために展示していることについては、これを認めるに足る証拠がない。
被告らは、被告標章の使用は、商標としての使用ではない旨主張する。しかるところ、前掲各証拠によれば、右店舗出入り口、店舗及びその付近の看板、店舗出入り口の掛けのれんに表示されている各標章は、いずれもその表示態様と右各物件の使用形態からみて、被告会社又はフランチヤイジーが製造、販売する持ち帰り寿司を他業者のそれと識別するための標識として用いられているものではなく、持ち帰り寿司についての商標として使用されているものではないと認めるのが相当である。しかし、その他のものに表示されている各標章は、それらのものが持ち帰り寿司の製造、販売に関して用いられる限り、被告会社又はフランチヤイジーが製造、
販売する持ち帰り寿司を他業者のそれと識別するための標識としての機能を果すことになると認められるから、商標としての使用ではないとはいえないというのが相当である。
三 同3の事実(本件登録商標と被告標章の類似性)のうち、
被告会社の直営店又はフランチヤイズ店で販売されている持ち帰り寿司が本件登録商標権の指定商品「寿司」に該当すること、被告標章の構成中「寿司」の部分が特別顕著な部分でなく、被告標章の要部が「元禄」の部分にあることは被告らも争わないところであり、正当として是認できる。
そして、まず、被告標章のうち別紙標章目録二の(一)記載の各標章についてみるに、それらは、いずれも「元禄寿司」の文字から成る標章であり、その要部は、
右のとおり「元禄」の部分であるところ、右要部からは、「げんろく」の称呼と「元禄」(元禄時代の「元禄」)の観念を生じる。しかるところ、これは、本件登録商標の称呼、観念と同一であるから、右各標章は、本件登録商標類似するというべきである。
次に、別紙標章目録二の(二)記載の各標章は、同目録二の(一)記載の各標章にそれぞれ「廻る」又は「まわる」の文字を附加したものであるが、いずれも「廻る」又は「まわる」の部分を「元禄寿司」の部分より小さく記載し、字体を変え、
あるいは上下に分離するなどしているものである。そして、右部分は、意味の上からも「元禄寿司」の部分との結び付きが弱く、実際の取引の過程では単に「元禄寿司」と省略されることも稀れではないと解される。そして、右各標章の要部が「元禄」の部分にあることは前示のとおりであるから、これも前示同(一)の各標章と同じく、本件登録商標類似するというべきである。
四 そこで、被告ら主張の抗弁1(表示・標章使用の正当権限)について検討する。
1 被告ら主張の(一)ないし(五)の事実を肯認すべきことは前示のとおりである。
2 右事実によれば、被告会社が「元禄寿司」ないし「廻る元禄寿司」の表示を使用し始めたのは、原告から再使用許諾の権限を与えられていた訴外元禄の使用許諾に基づくものであつたということができる。しかしながら、昭和四六年四月以降は、被告会社が食台の賃貸を止め食台を買い取るようになつたことも前示のとおりであり、これによれば、昭和四六年四月以降は、被告会社と訴外元禄との間には営業地域についての合意はともかく、食台の売買取引以上の特別の関係はなくなつたものということができ、右時点以降の右表示の使用は、被告会社が訴外元禄とは別に独立した立場で行うものであるということができる。被告会社の右表示の使用は、使用開始の由来はともかく、昭和四六年四月以降のそれは、訴外元禄や原告との契約に基づくようなものではなく、いわば独自の立場のものになつたと認めるのが相当である。
3 しかるところ、既に判示してきたところと弁論の全趣旨に照らすと、原告が訴外元禄に使用許諾をした昭和四二年当時及び訴外元禄が被告会社に再使用許諾をした昭和四四年当時、いずれの時点においても、原告が本件登録商標に関し何らの権利を有しなかつたことは明らかである。しかも、右被告主張の事実からみても、原告及び訴外元禄が、その当時、日本水産が「元禄」なる登録商標の有することを認識して右使用許諾ないし再使用許諾をしたものかどうかは疑問である。むしろ、弁論の全趣旨に照らすと、右当時は、原告も訴外元禄も右登録商標の存することすら認識していなかつたのではないかと思料される(そうでなければ、あえてこれを無視したものと思料される。)。そうすると、右使用許諾ないし再使用許諾の事実があるからといつて、これにより原告が被告会社に対し本件登録商標の使用を許諾したことにはならず、許諾を約束したことにもならないというのが相当である。そして、これまでに、原告と被告会社との間に、本件登録商標の使用に関し直接の契約関係が成立したことないし原告が被告会社に対し本件登録商標の使用を承認したことを認めさせるに足る証拠はない。
4 そうすると、被告ら主張の事実は、原告の本件商標権の主張に対し、被告標章の使用を正当化するに十分なものとはいえず、理由がないというべきである。
五 次に、請求原因B4(被告らの責任)について検討する。
1 以上にみてきたところによれば、被告会社は、前記のとおり別紙店舗一覧表記載の店舗のうち直営店においては、自ら被告標章を持ち帰り寿司の商標として使用したことにより、本件商標権を侵害したものというべきであり、右侵害行為について過失があつたものと推定されるから、右侵害行為によつて原告が被つた損害を賠償する義務がある。また、別紙店舗一覧表のうちフランチヤイズ店については、直接的にはその営業主体である第三者(フランチヤイジー)が本件商標権を侵害したものであるとしても、被告会社はフランチヤイズ組織のフランチヤイザーとして当該第三者に被告標章を使用させたというべき関係にあるから、当該第三者のなした本件商標権侵害行為について、共同不法行為者としての責任を免れないものというのが相当である。
2 被告【A】、同【B】が原告主張のとおり被告会社の代表取締役であることについては、当事者間に争いがない。そして、被告【A】本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、被告【A】は、被告会社の代表取締役として終始本件商標権侵害行為を遂行したものであり、被告【B】は、昭和五八年六月二八日以降被告会社の代表取締役の地位にありながら、被告【A】の右行為を漫然と放置したものと認められ、それぞれの職務の執行をなすにつき重大な過失があつたものと認めるのが相当である。
したがつて、被告【A】及び同【B】は、それぞれ、原告主張の法条により、被告会社の前記本件商標権侵害行為により原告が被つた損害(ただし、被告【B】については、昭和五八年六月二八日以降に発生した損害のみ)を賠償する義務がある。
六 そして、右被告らの責任に関連して、被告らの抗弁についてみておくと次のとおりである。
1 抗弁2(商標権主張の信義則違反ないし権利濫用)について 抗弁2(一)ないし(三)のうち、本件登録商標の権利帰属に関する事実については、当事者間に争いがない。
しかし、右四に判示したところに照らすと、原告が本件商標権に基づいて被告会社に対し被告標章の使用差止めや損害賠償を求めることが信義則違反ないし権利濫用になるとは解し難い。被告らの右主張は採用できない。
2 抗弁3(失効の原則)について 抗弁3のうち、原告の権利取得及び本訴提起に関する事実については、当事者間に争いがない。
被告らは、原告が本件登録商標の専用使用権を取得してから本訴提起までの間、
被告会社が被告標章を使用していることを知りながら、六年以上にわたり差止請求権を行使しなかつたから、原告が本件商標権に基づく差止請求権等を有したとしても、失効の原則により消滅した旨主張する。しかし、失効の原則が適用されるためには、原告主張(抗弁に対する認否3)のような特段の事情が必要であると解すべきところ、右特段の事情を認めるに足りる証拠はない。したがつて、被告らの右主張は採用できない。
3 抗弁4(消滅時効)について 被告ら主張の消滅時効に関する事実のうち、原告の損害と加害者認知の事実は弁論の全趣旨によりこれを肯認するのが相当であり、その余の事実は、いずれも本件記録上明らかである。
右事実によれば、原告が主張する昭和五六年八月一日から昭和六三年七月三一日までの間の損害賠償請求権のうち、被告会社に対する昭和五九年八月一日から同六〇年二月二六日までの分は、時効により消滅したものと認められる。
しかし、被告【A】及び同【B】に対する商法266条ノ三第一項に基づく損害賠償請求権については、不法行為の場合の短期消滅時効を定めた民法724条の規定は適用にならないものと解するのが相当である。
七 そこで、以下、請求原因B5(原告の損害)について検討する。
1 主位的主張(被告会社の利益相当額の損害)について 原告がその主張のような営業を行つていること(ただし、別紙表示目録一の(二)の表示使用の点を除く。)は、前示のとおりである。
そして、仮に、そのことから、商標法38条1項適用の余地を認めるとしても、
原告と被告会社の営業活動の地域が明瞭に異つていることは前示のとおりであり、
両者の営業の間には場所的な競合関係がない。そうだとすると、被告会社の直営店又はフランチヤイズ店が被告標章を使用して持ち帰り寿司を販売したとしても、それにより原告の売上が減少するという関係にはないものと認めるのが相当である。
そうすると、被告らの主張は理由があり、原告の右主位的主張は失当というべきである。
2 予備的主張(実施料相当額の損害)について 被告会社は、本件商標権を侵害したものであるから、原告に対し、本件登録商標の使用料相当額を損害の額として賠償する義務がある(商標法38条2項)。
そこで、まず被告会社がその直営店又はフランチヤイズ店において被告標章を付して持ち帰り寿司を販売したことによる売上をみるに、いずれも成立に争いのない甲第五〇ないし第五二号証の各一ないし一〇、第五三号証の一ないし四、第五四号証の一ないし五、第五五号証の一ないし四、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める甲第五六号証及び弁論の全趣旨によれば、被告会社の別紙店舗一覧表記載の直営店九店における全売上額は、昭和五六年から同六一年まで次のとおりであると認められる(被告会社のフランチヤイズ店の売上については、その金額を認めるに足りる的確な証拠がなく、フランチヤイズ店一店舗当たりの売上高が直営店の一店舗当たりの平均売上高と同程度のものであることを認めるに足りる証拠もない。)。
昭和五六年 六億八六一五万二八六三円 昭和五七年 七億〇五七六万一八二五円 昭和五八年 七億一〇九三万一九五六円 昭和五九年 六億八三三三万二六六一円 昭和六〇年 六億六〇七八万三〇〇〇円 昭和六一年 六億三四二九万一八七〇円 昭和五六年八月一日から同年末までの売上は、同年一年間の売上高を月数で案分することによつて求めると、二億八五八九万七〇二六円になる(円未満四捨五入、
以下同じ。)。また、昭和六二年、六三年の売上を直接認めることのできる証拠はないが、右認定の昭和五六年ないし同六一年の売上高の推移に照らすと、昭和六二年、六三年も昭和六一年と同じ程度の年間売上があつたものと推定できるから、昭和六二年の売上高は六億三四二九万一八七〇円、昭和六三年一月から同年七月末日までの売上高は月数で案分して三億七〇〇〇万三五九一円と推認される。したがつて、被告会社の直営店九店における昭和五六年八月一日から同六三年七月末日までの売上高の合計は、四六億八五二九万三七九九円となる。
また、右のうち昭和五九年八月一日から同六〇年二月二六日までの売上高は、前記の昭和五九年及び同六〇年の各売上高を月数又は日数で案分して合計すると、三億八七九一万二七一二円であるから、昭和五六年八月一日から同六三年七月末日までの売上高からこれを控除すると四二億九七三八万一〇八七円となる。
一方、被告【B】が被告会社の代表取締役になつた日である昭和五八年六月二八日から同六三年七月末日までの売上高は、昭和五八年六月二八日から同年末までの売上高を同年の売上高を日数によつて案分することにより求めると、三三億四六九三万三八八五円になる。
そして、被告【A】本人尋問の結果によれば、被告会社の直営店の売上の三割程度が持ち帰り寿司の売上であると認められるから、持ち帰り寿司の売上高は、
(a)昭和五六年八月一日から同六三年七月三一日までの期間が一四億〇五五八万八一四〇円、(b)右(a)のうち昭和五九年八月一日から同六〇年二月二六日までの期間を除いたものが一二億八九二一万四三二六円、(c)昭和五八年六月二八日から同六三年七月三一日までの期間が一〇億〇四〇八万〇一六六円となる。
しかして、本件登録商標の使用許諾料としては、前示の事実関係によれば、売上高の三パーセントを相当とするところ、(a)ないし(c)の各売上高にそれぞれ〇・〇三を乗じると、(a)は四二一六万七六四四円、(b)は三八六七万六四三〇円、(c)は三〇一二万二四〇五円となる。
八 以上によれば、原告の請求は、本件商標権に基づき、被告会社に対しその製造、販売する持ち帰り寿司の包装袋、包装紙に被告標章を付し、右寿司に関する広告に右標章を付して展示又は頒布することと右寿司を別紙包装標章目録記載の標章を付した包装袋に入れたり包装紙で包装して譲渡することの差止めを求め損害賠償として被告会社及び同【A】に対し、各自、金三六七二万円、被告【B】に対し金一三二六万円、及び右各金員に対する不法行為の後(かつ催告の日の後)である昭和六三年八月一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
結論
以上の次第で、原告の本訴請求のうち商標権侵害に基づく請求は、上記の限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法89条92条本文、93条1項本文を、仮執行の宣言につき同法196条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 上野茂
裁判官 小松一雄
裁判官 青木亮