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事件 昭和 60年 (ネ) 39号
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 名古屋高等裁判所 金沢支部
判決言渡日 1987/12/07
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事仮処分
主文 一 第一審債務者の第一審債権者ポルシエ・アーゲーに対する控訴を棄却する。
二 原判決中、第一審債権者ポルシエ・デザインに関する部分を取り消す。
三 福井地方裁判所昭和五七年(ヨ)第五二号不正競争行為差止仮処分申請事件につき、同裁判所が昭和五七年一〇月三〇日になした仮処分決定中、第一審債権者ポルシエ・デザインの申請にかかる部分を認可する。
四 第一審債権者ポルシエ・アーゲーと第一審債務者との間の控訴費用及び第一審債権者ポルシエ・デザインと第一審債務者との間の訴訟費用(第一・二審とも)は、いずれも第一審債務者の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 第一審債務者1 昭和六〇年(ネ)第三九号事件につき(一)原判決中、第一審債権者ポルシエ・アーゲーに関する部分を取り消す。
(二)福井地方裁判所昭和五七年(ヨ)第五二号不正競争行為差止仮処分申請事件につき、同裁判所が昭和五七年一〇月三〇日になした仮処分決定中、右第一審債権者の申請にかかる部分を取り消す。
(三)右第一審債権者の右仮処分申請を却下する。
(四)訴訟費用は第一・二審とも右第一審債権者の負担とする。
2 昭和六〇年(ネ)第七二号事件につき(一)第一審債権者ポルシエ・デザインの控訴を棄却する。
(二)控訴費用は右第一審債権者の負担とする。
二 第一審債権者ポルシエ・デザイン1 主文第二、三項と同旨2 訴訟費用は第一・二審とも第一審債務者の負担とする。
三 第一審債権者ポルシエ・アーゲー1 主文第一項と同旨2 控訴費用は第一審債務者の負担とする。
当事者の主張
一 当事者双方の事実上の主張は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これをここに引用する。
二 第一審債権者ポルシエ・デザインの主張1 ポルシエ・デザインの標章について(一)原判決は、第一審債権者ポルシエ・デザインが第一審債権者ポルシエ・アーゲーとは独立して、【A】のデザインした作品を商品化し、カレラ・インターナシヨナル・ゲゼルシヤフト・ミツト・ベシユレンクテル・ハフツング(カレラ社)と共同事業を行つていると認定している。
しかし、【A】は、右ポルシエ・アーゲーの代表的商品の一つであり、不朽の名作といわれた「PORSCHE911」のデザイナーとして知られているのみでなく、右ポルシエ・アーゲーの他の車もデザインしたほか、五人の【A】家の兄弟の一人であり、右ポルシエ・アーゲーの一〇人の株主の一人であると同時に右ポルシエ・デザインの二人の株主の一人である。
そして、右ポルシエ・デザインは、カレラ社に対し「PORSCHE DESIGN」の標章をサングラスに使用することにつき独占的に許諾を与えているにすぎず、カレラ社は、右ポルシエ・デザインと関係のないサングラスについては、自己の商標の「CARRERA」のみを使用している。
他方、右ポルシエ・デザインもまたサングラス以外の種々の商品につき「PORSCHE DESIGN」の標章を使用しているのであつて、右ポルシエ・デザインはカレラ社との共同事業を営んでいるものではない。
かえつて、「PORSCHE DESIGN」中の「PORSCHE」は、「PORSCHE」の著名標章を有する右ポルシエ・アーゲーから使用の許諾を得ているのであり、「PORSCHE」を使用するデザインないし商品のイメージは名車ポルシエ車のイメージと共通するものを採用している。
すなわち、右ポルシエ・デザインの「PORSCHE DESIGN」の標章にかかる営業は、カレラ社よりも遥かに右ポルシエ・アーゲーと密接な関係を有しており、その原点を右ポルシエ・アーゲーの「PORSCHE」に置いているのである。
(二)「PORSCHE DESIGN」の標章(原判決別紙(一)(4))は、
第一審債権者ポルシエ・アーゲーの標章(同(一)の(1)ないし(3))とは別の標章であり、原判決別紙(三)の形態で使用されている。
しかし、第一審債権者ポルシエ・デザインの標章である「PORSCHE DESIGN」は、カレラ社の「CARRERA」又は「pd」の組み合わせからなる標章とは色彩や書体において異なり、これらとは分離して認識・把握することが可能である。「PORSCHE DESIGN」中の「PORSCHE」の書体は右ポルシエ・アーゲーが車に使用する「PORSCHE」の書体とは同一でないが、
両者とも容易に読むことのできるアルフアベツトから成り、発音も同一である。また、「PORSCHE DESIGN」中の「DESIGN」は、一般にデザインという外来語を直ちに想起させるものである。
このような場合、取引者・需要者において、「PORSCHE」の部分から右ポルシエ・アーゲーの著名標章を容易に想起するのが普通である。
2 周知性について(一)「PORSCHE DESIGN」の標章を付されたサングラスは昭和五〇年以前に第一審債権者ポルシエ・デザインの前身であるデザイン事務所によりデザインされ、スキーゴーグルで著名なカレラ社により製造され、アメリカやヨーロツパ各国に輸出されていた。
(二)カレラ社の製造にかかる原判決別紙(一)(4)の標章を付したサングラスが日本に輸入販売されたのは、当初二つのルートがあり、その一つは、第一審債権者ポルシエ・アーゲーの日本における代理店である訴外三和自動車株式会社であり、その数量は、当初の本数は明らかでないが、昭和五三年三七四本、昭和五四年一四三二本、昭和五五年九四本である。二つ目のルートは、リーベルマン ウエルシユリー エンド コンパニー エス エイ(リーベルマン社)であり、昭和五三年五月から輸入販売を開始し、その販売数量は、昭和五三年九四九五本、昭和五四年二万六二二七本、昭和五五年一万九三一一本、昭和五六年一万六七六五本である。
他方、第一審債務者の「PORSCHE」サングラスは、昭和五二年六五〇本、
昭和五三年一二六八本、昭和五四年六三四七本、昭和五五年三万七一四四本である。
(三)リーベルマン社は、その販売を開始すると同時に、宣伝広告を始めたのであるが、サングラスと関連の深い車の「PORSCHE」標章自体の著名性と第一審債権者ポルシエ・デザインの洗練したサングラスのデザイン並びにリーベルマン社の巧みな広告によつて、右ポルシエ・デザインの右標章は遅くとも昭和五三年中に周知性を取得したものである。
(四)仮に、売上数量や宣伝広告の量が相対的に少ないという理由で、第一審債権者ポルシエ・デザインの右標章が昭和五三年中に周知性を取得していなかつたとしても、引き続き宣伝広告並びに販売数量が拡大されていつた昭和五六年八月二七日(第一審債務者が無権限で原判決別紙(二)の標章を使用した日の前)までには、
周知性を取得したものとみるべきである。
(五)また、第一審債権者ポルシエ・デザインのサングラスのように輸入販売の数量の上昇中の商品については、その商品が国外において日本人の眼に触れている以上、国内の現実の商品の販売数量が多くなくても、周知性を獲得することは十分あり得ることである。
3 「他人」の認識について 不正競争防止法1条1項1号及び二号にいう「他人」は匿名であつても、複数人であつてもよく、また、取引者・需要者が名称まで知つている営業主体である必要はないから、需要者らが原判決別紙(一)(4)の標章の要部「PORSCHE」が第一審債権者ポルシエ・アーゲーと同一か否かの判断を行い、右ポルシエ・アーゲーと異なる第一審債権者ポルシエ・デザインである旨認識している必要はない。
即ち、「PORSCHE DESIGN」の標章の付されたサングラスの背後に、
その商品の出所又は営業の主体の存在を、その名称や法人格を正式に認識しないまま認めていれば足りるのであつて、この認識されたもの、すなわち本件では右ポルシエ・デザインがその標章にかかる正当な営業主体であれば「他人」に該当しうるのである。
4 混同及び営業上の利益を害されるおそれについて(一)本件において、第一審債権者らは、「PORSCHE」標章の持つ出所識別機能品質保証機能及び顧客吸引力を保護発展させるという共通の目的のもとに結束しているグループといいうるのであつて、第一審債権者ポルシエ・アーゲーは周知標章「PORSCHE」を使用して自動車の製造・販売を、同ポルシエ・デザインは「PORSCHE」を要部とする「PORSCHE DESIGN」の標章を使用して自動車以外の各種商品の製造・販売を行つているのである。右ポルシエ・デザインの使用する標章は、右ポルシエ・アーゲーの使用する標章と全く同一ではないが、容易に「PORSCHE」のデザインという観念を想起させるものであつて、「PORSCHE」標章の持つ出所識別機能品質保証機能及び顧客吸引力等を利用していることは明白である。
(二)第一審債権者ポルシエ・デザインは、このように周知標章「PORSCHE」の標章の商品化事業を行うものであつて、第一審債務者が「PORSCHE」の標章をサングラスに付して営業する行為により、取引者・需要者は、第一審債務者もまた、第一審債権者ポルシエ・アーゲーから正当に許諾されて「PORSCHE」の商品化事業を行うものであるか、あるいは、適法な権限を有する右ポルシエ・デザインから再使用許諾を得ているか、いずれにしても、「PORSCHE」の標章に関し、なんらかの正当な権限を有するものであるかのように、営業の主体につき誤認混同を起こし、かつ、第一審債務者の「PORSCHE」の標章を有するサングラスの出所が第一審債権者らと同一もしくは営業上の関係を有するものであるかのような混同を生じさせるおそれが大である。
(三)第一審債務者の本件行為により、第一審債権者ポルシエ・アーゲーだけでなく同ポルシエ・デザインも「PORSCHE」標章による商品の出所識別機能品質保証機能及び顧客吸引力を害されるおそれがある以上、不正競争防止法1条1項柱書所定の営業上の利益を害されるおそれある者として差止請求をなしうると解すべきである。
(四)仮に、第一審債権者ポルシエ・デザインの使用する「PORSCHE DESIGN」の標章が周知でないとしても、右ポルシエ・デザインは第一審債権者ポルシエ・アーゲーの使用する「PORSCHE」の標章が周知であることをもつて、
同法1条1項に基づき差止請求権を有すると解するのが相当である。
三 第一審債務者の主張1 周知性について(一)第一審債権者ポルシエ・アーゲーの取扱商品であるポルシエ車の営業活動は、主に東京、大阪、名古屋等の特定地域に限定され、一部の地方都市に代理店又はサブ代理店を設置しているものの輸入車の一種としてポルシエ車が取り扱われていることは看板等の表示を通じてかろうじて知りうるに過ぎない実情にある。
(二)昭和五四年当時、「PORSCHE」標章に関するわが国における知名度は乏しく、ポルシエ車の輸入総代理店であり、国内において唯一ポルシエ車の取扱を行つていた三和自動車株式会社の「三和」を「みつわ」と発音できる人はほとんどなく同社を含めて第一審債権者ポルシエ・アーゲーの知名度は皆無であった。
(三)このような実情のもとに、「PORSCHE」標章がわが国において周知性を取得するためには、伝播力の強度なマスメデイアであるテレビ放映等が効果的であり、国内の大手自動車メーカー等は連日のようにテレビ放映を行つているが、三和自動車株式会社の販売活動、広告宣伝を除いて第一審債権者らが独自に広告宣伝や営業活動を行つた事実はなく、三和自動車もテレビ放映すら行つていない。仮に、第一審債権者らが外国において著名であるとしても、わが国に支店、事務所、
営業所その他これに準ずる拠点を有しておらず、自己の名において営業ないし広告宣伝活動を行つていないのであるから到底周知性を認めることはできない。ことに第一審債権者ポルシエ・デザインは、わが国において業務執行社員、被用者その他の物的・人的施設は皆無であり、外国会社の登記も行われていない。
(四)三和自動車が定期的に広告を掲載しているのは、月刊誌「カー グラフイツク」のみであり、公表発行部数二〇万部の七〇パーセント程度の一四万部が現実に読者に配布されているものと推定しても、実際にポルシエ車の広告に接する人口は、その一〇ないし二〇パーセントと算定されるのが実情であり、極めて少数のカーマニアが認識しているに過ぎないものである。
(五)第一審債権者ポルシエ・アーゲーは、自動車レースの優勝によつてポルシエ車の著名性を獲得しているもののごとく主張しているが、ポルシエ車の優勝記録は過去一五年間に五回程度ばかりか、わが国におけるモーターレースの社会的評価は極めて低く、富士スピードウエーが閉鎖されるという話題が出る位に危険な遊びという観念が支配的である。カーレースに関して日本国内の新聞、雑誌に記事が掲載されることもほとんどなく、これによつて著名性を獲得することもありえない。
(六)第一審債権者らは、【B】の歌謡曲にポルシエの商品名が出ていること、スーパーカーブームによつて著名であることの論証を試みているが、これらに関心を持つた世代は昭和四〇年以降に出生した若年層に限定され、サングラスの需要者である一般成人を対象としているものではない。
(七)第一審債権者らのいう「PORSCHE」標章のようないわゆる人名標章は、ソニー、コダツク、ヤシカ等のいわゆる造語標章と異なり、大衆の心理的イメージの中に占める標章と商品とを結びつける商品識別力が大であり、品質保証機能について稀釈化が生ずることは少なく、保護範囲も限定されるべきものである。
2 混同について(一)第一審債務者は、サングラス製造販売のみを専業とするものであり、わが国サングラス業界のトツプメーカーとして国内市場の約二〇パーセントに達するシエアーを保有しているが、その商品の販売にあたつては、カタログにも「シーレツクス サングラス」の営業主体を明示し、商品自体にも家庭用品品質表示法による品質表示欄に第一審債務者の商号を表示し、代理店・卸売業者はもとより一般消費者に対しても商品の出所が第一審債務者であることを常時周知徹底させている。また、第一審債務者は、バイヤー等業界を対象とする展示会を催すほか、一般需要家を対象として昭和五三年以降各種雑誌、経済紙、業界誌紙、ニツポン放送全国ネツトラジオ、東京駅八重州口及び銀座地下鉄道路の電光掲示板等に継続的に広告宣伝を行つているが、これら広告宣伝に際しても、すべて「シーレツクス サングラス」の商号を併用明示している。
(二)他方、第一審債権者ポルシエ・アーゲーは、比較的小規模な自動車専業メーカーであり、多角経営を行つたり、「PORSCHE」標章の商品化事業をわが国において実施した実績は皆無であるばかりでなく、「PORSCHE」標章の商品表示又は営業表示に関する商品化契約によつて結束しているグループも存在しない現況であり、第一審債務者がポルシエサングラスを製造販売することにより、右ポルシエ・アーゲーとの間において営業主体の混同を生ずる余地はないばかりか、同第一審債権者はかつて一度もサングラスの製造並びに販売をした事実はないので、
商品主体の混同もありえない。
(三)わが国において「ポルシエ」の商号は、喫茶、飲食、パブ、スナツク、バー、ホテル、麻雀、中古車、自動車用品、ゲームセンター等に使用されているが、
光学機器については皆無であつて、ポルシエ車からサングラスを連想することは到底不可能である。また、第一審債務者の製品は、独自性を有し、品質管理が徹底した高級サングラスであつて、ポルノランドデイズニー事件等のごとく肯定的心理的連想作用を汚染するおそれもない。
(四)競争関係がなく、地域・業種について共通部分がない場合にも混同が認められる場合があるが、それは標章等の使用選択について信義則違反があることを前提とするものであり、第一審債務者のように、三和自動車との間において商標使用許諾契約を締結して「PORSCHE」標章の使用を開始し、以後継続的に巨額の宣伝広告費と企業努力を傾注してポルシエサングラスの販路を拡張してきた実績を有する事案には適用されるべきものではない。
(五)また、第一審債権者は、わが国においてサングラスの製造販売をした実績はなく、第一審債権者ポルシエ・デザインから眼鏡の製造につき使用許諾を受けたというリーベルマン社の製造にかかるサングラスと第一審債務者のサングラスとは、
その形態・価格・販売方法が異なる。すなわち、リーベルマン社の取扱商品には登録商標の「CARERA」が大きく表示され、その傍らに「PORSCHE DESIGN」と小さく付加されているのみであり、
第一審債務者の製造販売にかかるサングラスについては第一審債務者名の下げ札が付加されており、広告宣伝においても製造者の商号である「シーレツクス サングラス」を朱書きで大きく表示しており、商品識別力ないし顧客吸引力を損なう態様で「PORSCHE」標章を使用した事実はないから、この点からも広義の混同理論を適用するのは相当ではない。
証拠(省略)
理 由
被保全権利について
一 第一審債権者ポルシエ・アーゲーの本件商品並びに営業表示の周知性1 原判決挙示の証拠に当審で提出された成立に争いのない疎甲第一二九・一三〇号証の各一ないし三、第一三一号証の一ないし四、第一三二号証の一ないし三、第一三四号証の一ないし四、第一三五号証の一ないし三、第一三六号証の一ないし四、第一三七号証の一ないし三、第一三八号証の一ないし四、第一三九・一四〇・一四三号証の各一ないし三、第二〇一号証の五、六、第二〇七号証の一ないし三、
原本の存在及び成立に争いのない疎甲第一四五号証の一ないし三、第一四七号証の一ないし七、第一四九・一五〇号証の各一ないし五、第一五一号証の一ないし四、
第一五三・一五四号証の各一ないし七、第一五五・一五六号証の各一ないし五、第一六三号証の一ないし四、第一六五号証の一ないし一一、第一六六号証の各一ないし五、第一六七号証の一ないし六、第一六八・一六九号証の各一ないし八、第一七〇・一七一号証の各一ないし九、第一七二号証の一ないし一一、第一七三号証の一ないし七、第一七四号証の一ないし三、第一七五号証の一ないし五、第一七六号証の一ないし七、第一七七号証の一ないし五、第二〇五・二〇六号証の各一ないし三、第二〇八号証ないし第二二〇号証、第二二一号証の二、第二二二号証の二ないし四、第二二三・二二四号証の各二ないし三、第二二五号証の二ないし六、第二二六号証の二ないし五、第二二七号証の二ないし四、第二二八号証の二を加えると、
原判決二五枚目裏末行から二九枚目裏五行目までの記載のとおり、第一審債権者ポルシエ・アーゲーは、
世界的に著名な自動車の製造販売等を目的とするドイツ連邦共和国法上の株式会社であり、原判決別紙(一)の(1)、(2)は商号の略号でかつ商品表示であるとともに営業表示、(3)は商標(同社の製造販売するポルシエ車のシンボルマーク)であつて、これらは、わが国においても、遅くとも昭和五三年中には、広く一般に認識されていたことが疎明される。但し、原判決二六枚目裏二・三行目の「設立以来」の次に「(但し、(2)は昭和二八年以来)」を加える。
2 第一審債務者は、ポルシエ車の営業活動は主として都市部に限られており、わが国における同車の登録台数も極めて僅少であり、宣伝広告費も国内の大手自動車メーカーと比肩しうべくもない程小額であるなどと主張するが、その周知性は、販売店舗や宣伝広告費、販売台数に必ずしも比例するとは限らず、商品の個性によつて人に対する印象力は異なると考えられるから、これら事情は前認定に抵触するものではなく、原審及び当審における第一審債務者代表者本人尋問の結果は、採用し難い。
二 第一審債権者ポルシエ・デザインの商品並びに営業表示の周知性1 第一審債権者ポルシエ・デザインの設立の経緯、同ポルシエ・アーゲーとの関係、その業務内容、使用標章等については、次のとおり付加・訂正するほか、原判決二九枚目裏七行目から三二枚目表三行目までのとおりであるから、これをここに引用する。但し、原判決三〇枚目裏五行目の「阪売」を「販売」と、同三〇枚目裏九・一〇行目の「をカレラ社に製造させ、同社と共同して」を「に『PORSCHE DESIGN』の標章を付して製造することを独占的に許諾し、そのころ以降、カレラ社において右標章を付したサングラスを」とそれぞれ改め、同三一枚目表四・五行目の「二万六二二七本」の次に「、昭和五五年は一万九三一一本、昭和五六年は一万六七六五本」を加える。
2 右認定事実によると、
(一)第一審債権者ポルシエ・デザインは、第一審債権者ポルシエ・アーゲーの創立者である【C】の子孫でかつ現在の右ポルシエ・アーゲーの株主でもある【A】及びその弟によつて設立された会社であつて、第一審債権者ポルシエ・アーゲーと同ポルシエ・デザインは一部役員を共通にする関係にあり、
(二)また、第一審債権者ポルシエ・デザインは、【A】のデザインを商品化することを主たる目的とし、同ポルシエ・アーゲーの標章である原判決別紙(一)の(1)ないし(3)自体を商品化することを目的とするものではないが、【A】のデザインした商品及びその宣伝広告等には、原判決別紙(一)の(4)の「PORSCHE DESIGN」の標章を使用しており、商品ないしは営業表示に呼称を共通にする「PORSCHE」を使用しており、
(三)右第一審債権者ポルシエ・デザインは、【A】及び【D】によつて設立されてはいるが、第一審債権者ポルシエ・アーゲーが、それよりも遥か以前より「PORSCHE」標章を使用してきていたことに照らすと、設立者の姓であるからといつて、すでに周知性を取得した他人の表示を新たに設立した会社の商号に自由に使用し得るものとは到底解されず、新会社としては、先行の会社の営業表示の使用につき、先行会社の許諾を必要とする関係にあつたというべきである。そして、前認定によると、第一審債権者ポルシエ・デザインは、同ポルシエ・アーゲーから、
「PORSCHE」なる標章を使用することにつき許諾を得ていたと認められるから、第一審債権者ポルシエ・デザインの商号ないしは商品又は営業表示中の「PORSCHE」なる部分は、同社の創作にかかるものではなく、第一審債権者ポルシエ・アーゲーに由来するものと認められる。
(四)もつとも、第一審債権者ポルシエ・デザインの商品表示である原判決別紙(一)(4)の「PORSCHE DESIGN」の書体は、第一審債権者ポルシエ・アーゲーの表示である原判決別紙(一)(1)の「PORSCHE」の書体とはやや異なるが、要部は「PORSCHE」にあり、かつ「PORSCHE」のデザインという観念を想起させるものであると認められる。のみならず、第一審債権者ポルシエ・アーゲーは同別紙(一)(3)の標章も使用しており、その中で使用されている「PORSCHE」の書体は同別紙(一)(1)の書体と異なり、むしろ同別紙(一)(4)の「PORSCHE」と似ているというべきであるから、第一審債権者ポルシエ・アーゲーは、自己の営業表示「PORSCHE」については主として呼称に重きを置き、書体を最重要のものとまでは考えていなかつたと認めるのが相当である。すると、第一審債権者ポルシエ・アーゲーの表示である同別紙(一)(1)と第一審債権者ポルシエ・デザインの表示である同別紙(一)(4)とは主要部分を共通にする表示というべきである。
3 右2の(一)ないし(四)を総合すると、第一審債権者ポルシエ・アーゲーと同ポルシエ・デザインは、役員、商号、商品表示、営業表示の各主要部分を共通にし、両社は合意に基づきその関係を維持していると認められるから、両社は、「PORSCHE」という著名標章を共通に保有・使用し、これらが持つ出所識別機能品質保証機能及び顧客吸引力を保護発展させるという目的のもとに結束している系列会社と評価することができる。
もつとも、前認定によると、第一審債権者ポルシエ・デザインは「PORSCHE DESIGN」標章と合わせて頭文字の「p」と「d」を組み合わせてデザインした独自のシンボルマークを使用しており、また、同第一審債権者から右標章の使用許諾を得ているカレラ社も自己の商標である「CARRERA」をより大きく表示しているけれども、これによつて「PORSCHE」の商品ないしは営業表示としての機能が失われたとは認められないので、右判断は動かされない。
4 ところで、系列上位の会社が、自己の使用する特定の商品表示又は営業表示につき、同表示の持つ出所識別機能品質保証機能及び顧客吸引力を保護発展させ、
共通の利益のために使用する目的のもとに結束し、系列下位の会社にその表示の使用を許諾した場合、第三者において類似の表示を使用し、それによつて、その使用者も右系列に属するものと誤信させるおそれがあり、周知表示による商品又は営業の出所識別機能等を害されるおそれのあるときは、下位の会社は系列会社の一員として、上位の会社とは別に、自らも営業上の利益を害せられるおそれありとし、不正競争防止法1条1項1号又は二号により、右第三者に対し、類似表示差止請求権を有するものと解するのが相当である。
そして、右系列関係に照らせば、この場合、下位会社としては、第三者の表示使用前に、上位会社から使用を許された上位会社の表示が周知性を有していたことを立証すれば足り、上位会社と下位会社を識別するための下位会社の表示部分についてまで周知性があつたことを証明する必要はないと解するのが相当である。
本件についていえば、第一審債権者ポルシエ・デザインは、第一審債務者の「PORSCHE」等の標章の使用によつて、自己の営業上の利益を害されるおそれありとし、その使用の差止を請求するには、系列内の共通標章である「PORSCHE」の周知性を立証すれば足り、系列各会社間の識別機能を果たすに過ぎない「PORSCHE DESIGN」の「DESIGN」部分を切離してその周知性を問題としたり、「PORSCHE」と「DESIGN」を合体させ、「PORSCHE」単体とは別個の表示なりとしてその周知性を立証する必要はないというべきである。
そして、本件において「PORSCHE」その他原判決別紙(一)の(1)ないし(3)の標章がわが国において昭和五三年中には広く一般に認識されていたことは前記(第一、一、1)認定のとおりであるから、第一審債権者ポルシエ・デザインは、右標章のうち少なくとも(一)(1)の標章の周知性を系列内の共通標章として、自己の差止請求権の要件として援用することができるというべきである。
第一審債務者の、「PORSCHE DESIGN」なる表示については昭和五三年中には周知できなかった旨の主張は採用できない。
三 第一審債務者の行為1 当裁判所も、第一審債務者は、昭和五六年八月二八日以降なんらの権限もなく原判決別紙(二)の標章を使用しているものと認めるものであるが、その理由は、
原判決三四枚目裏末行から四〇枚目表九行目までの理由説示と同一であるから、これをここに引用する。
2 第一審債務者は、三和自動車との商標使用許諾契約の解約は、形の上だけのことであり、実体は解約されていないと主張し、原審及び当審における第一審債務者代表者本人尋問の結果は右主張に副うものであるが、そもそも三和自動車は第一審債務者に対し、本件商標の使用を許諾する権限を有しなかつたものであり、また、
右本人尋問の結果によつても、第一審債務者と三和自動車は、許諾契約の解約にあたり、在庫品の数量及び在庫品処分のための猶予期間について実質的な協議を重ねており、第一審債権者ポルシエ・アーゲーに対する関係で形式的に解約の書類を作成するためであれば、右のような行為をする必要性は全くないというべきであつて、当審における証人【E】の証言(第一回)に照らしても右第一審債務者代表者の供述は採用し難く、他に右主張を認めるに足りる証拠もない。
四 標章の類似性並びに混同及び営業上の利益を害されるおそれ1 当裁判所も、第一審債務者の使用する原判決別紙(二)の各標章は、第一審債権者らの標章と類似するものであり、第一審債務者が右(二)の標章を使用することにより第一審債権者らの商品又は営業と混同を生ぜしめ、原判決別紙(一)の標章のもつ出所識別機能品質保証機能顧客吸引力等を弱めるおそれがあり、したがつて、第一審債権者らの営業上の利益が害されるおそれがあるものと判断するものであるが、その理由は原判決四〇枚目表一〇行目から四三枚目裏九行目までの理由記載と同一であるから、これをここに引用する。
但し、原判決四〇枚目裏四行目の「相当である。」の次に「また、第一審債務者の使用する原判決別紙(二)の(1)及び(3)のうち「PORSCHE」の標章部分と第一審債権者ポルシエ・デザインの同別紙(一)(4)の標章とは類似すると認められる。」を加え、同四一枚目裏末行の「そうすると」を「さらに、第一審債権者ポルシエ・デザインは、昭和五一年以降【A】がデザインしたサングラスをカレラ社が製造すること、そしてそのサングラスに『PORSCHE DESIGN』の標章を使用することも許諾しているから」と改め、同行の「債権者ポルシエ・アーゲー」の次に「及び同ポルシエ・デザイン」を加え、同四二枚目表九行目の「相当である。」を「相当であり、このことは原告ポルシエ・アーゲーばかりでなく、同ポルシエ・デザインについてもいえることである。」を、同裏七行目の「債権者ポルシエ・アーゲー」の次に「及びポルシエ・デザイン」を加える。
2 なお、第一審債務者の使用する右標章と第一審債権者ポルシエ・デザインの使用する標章とは、「PORSCHE」のみをとつてもその書体に相違があるが、先に示したように「PORSCHE」のデザインという観念を容易に想起させるものであるから、両者はその要部において類似性を有するものと認めるのが相当である。そして、前認定によると、同第一審債権者の許諾によつてカレラ社が製造し、
リーベルマン社によつてわが国で販売されているサングラスと第一審債務者が「PORSCHE」標章を付して製造販売しているサングラスが、小売店等で同一場所に展示され、同第一審債権者のデイスプレー上に第一審債務者のサングラスが置かれるなど両者が混同して扱われていることが認められるから、現実の混同をも生じていることは明らかである。
3 第一審債務者は、第一審債権者ポルシエ・アーゲーの製造販売する自動車から第一審債務者の製造販売するサングラスを連想することは不可能であるから、混同はありえないと主張するが、第一審債務者自身ポルシエ車と関連づけてサングラスの広告宣伝活動を展開しているのであつて、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める疎甲第一八一号証(原本の存在も)、第一八二号証によれば、イタリアの自動車メーカーのフエラーリやアルフア・ロメオも自己の商標を使用したサングラスを製造販売していることが認められるから、自動車ことにスポーツカーとサングラスとは少なからず関連性があるものというべきであり、右主張は採用できない。
4 第一審債務者は、第一審債権者ポルシエ・アーゲーは自動車専業メーカーであつて、かつて一度もサングラスの製造販売を行つたことはないから、同第一審債権者の商品又は営業と第一審債務者のサングラスの製造販売とは競争関係もなく、第一審債務者はその商品の出所及び営業主体を明示していること等を挙げ、商品及び営業主体の混同はないと主張するが、両者間に競争関係が存在せず、また、営業主体を明示している場合でも、取引者又は需要者において、両表示の外観呼称印象連想等から両者を類似のものと受け取るおそれがあり、両者間に周知表示の商品化事業を営むグループに属する等緊密な営業上の関係が存在するものと誤信させるおそれがある場合には、その行為は不正競争防止法1条1項1号及び二号にいう「混同ヲ生ゼシムル行為」に該当するものと解するのが相当であるから、第一審債務者の右主張は前提を異にするものであつて採用できない。
5 なお、第一審債務者は、競争関係にない場合にも混同が認められるとしても、
それは標章等の使用選択について信義則違反があることを前提とすべきであり、三和自動車との間に商標使用許諾契約を締結したうえで本件標章の使用を開始し、巨額の宣伝広告費と企業努力を傾注してその販路を拡張してきた第一審債務者に対しては適用されるべきでないと主張するが、三和自動車が国内唯一のポルシエ車の総輸入代理店であつたことから、同社との使用許諾契約が善意でなされたことは十分理解できるとはいうものの、第一審債権者らがこれを問題視したことから、右契約を一年間の期間満了により終了させることに合意し、在庫品について期間満了後八か月間に限り、ロイヤリテイの支払を要することなく販売できることとしたものであり、右猶予期間後の使用が信義則に反するものであることは明らかであるから、
右主張も採用できない。
先使用の抗弁 第一審債務者の先使用の抗弁が認められないことは、原判決四二枚目裏一〇行目から四三枚目裏四行目までの理由のとおりであるから、これをここに引用する。
六 以上の認定判断によれば、第一審債権者らは、不正競争防止法1条1項1号及び二号により、第一審債務者に対し、原判決別紙(二)の各標章の使用の差止を求める権利があるものというべきである。
保全の必要性について
当裁判所も第一審債権者らの標章使用差止請求権を保全する必要性があり、第一審債務者が、原判決別紙(二)の(1)ないし(3)の標章をサングラス等の商品及び営業に使用すること並びにそのサングラスの販売等を禁じた本件仮処分決定を取り消すべき特別事情は認められないと判断するものであり、その理由は、原判決四四枚目表初行から同裏九行目まで及び四五枚目表三行目から同七行目までの記載と同一であるから、これをここに引用する(但し、同四四枚目表初行及び同一〇・一一行目の「債権者ポルシエ・アーゲー」をそれぞれ「第一審債権者ら」と改める。)。
結論
以上の次第であり、本件仮処分決定中、第一審債権者ポルシエ・アーゲーの申請にかかる部分を認可した原判決は相当であるから、第一審債務者の同第一審債権者に対する控訴はこれを棄却し、第一審債権者ポルシエ・デザインの敗訴部分を取り消し、右仮処分決定中、同債権者の申請にかかる部分を認可することとし、控訴費用及び訴訟費用の負担について民事訴訟法95条96条89条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 井上孝一
裁判官 井垣敏生
裁判官 紙浦健二