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事件 昭和 59年 (ワ) 94号
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裁判所 神戸地方裁判所
判決言渡日 1987/03/25
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 被告は原告に対し、金一二〇万円及びこれに対する昭和五九年二月八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを八分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
四 この判決は原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨1 被告は原告に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する昭和五九年二月八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行の宣言二 請求の趣旨に対する答弁1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
当事者の主張
一 請求原因1 原告は、香料類、高級婦人服、ハンドバツク、靴、宝飾品等の製造、販売を業とするスイス国に本店を置く株式会社であるが、一九二一年に販売を開始した香水「シヤネル五番」は世界的に有名であり、その服飾品も「シヤネルルツク」「シヤネルスーツ」等の造語を生み出している程であつて、原告の商号及び商標である「シヤネル」(なお、ソシエテ・アノニームはフランス語で株式会社の謂である。)は、いわゆるパリモードの旗手として世界的に周知、著名である。そして日本においては、昭和八年ころから営業活動を始め、商標登録をした昭和一〇年から一四年ころにかけて、「シヤネル」は原告の営業たることを示す表示として周知となつた。仮にそうでないとしても、昭和二九年二月にアメリカの女優【A】が来日し、記者団から寝るときの服装を質問されて、「シヤネル五番を着るだけよ」と答えて以来、我が国では「シヤネル五番」といえば直ちに【A】の右の言葉が出る程有名になつたのであり、したがつて、同表示は昭和二九年ころには周知となつたというべきであり、遅くとも、被告が設立された昭和四三年九月までには周知となつた。
2 被告は、神戸市に本店を置き、ホテルの経営、飲食業、不動産の仲介・管理・売買等の業務を主たる目的として昭和四三年九月二四日に設立された株式会社であるが、昭和四四年四月ころから昭和六〇年八月ころまでの間、神戸市<以下略>において、「ホテルシヤネル」という名称で、いわゆるラブホテル(以下「本件ホテル」という。)を経営した。
3 本件ホテルの名称の主要部分である「シヤネル」は、原告の商号及び商標と同一であり、全体としても類似しているところ、これを使用してホテルの経営をした被告の行為は、企業の活動が多角化している状況下にあつて、一般消費者に対し、
本件ホテルを原告が営業するものと誤認させ、あるいは少なくとも本件ホテルが原告と業務上、経営上又は組織上何らかの連携関係のある企業の経営に係るものと誤認させ又はその虞を招来させ、もつて原告の営業上の施設又は活動と混同を生じさせるものである。
4 被告は、「ホテルシヤネル」の名称を使用して本件ホテルの経営をするに際し、「シヤネル」が原告の営業たることを示す周知の表示であることを知り、又は過失により知らなかつた。
5(一) 原告は、長年にわたり厳選された高級品のみの製造、販売を手がけてきたことから、「シヤネル」の表示は、その高級品のイメージと結び付き、一般消費者に心理的に肯定的に受け容れられてきたところ、これが低俗ないわゆるラブホテルの名称として本件ホテルに使用されたことにより原告が長年にわたつて培つてきたイメージ、プレステージが汚染、毀損され、もつて原告の信用が毀損された。
(二) のみならず、原告は、シヤネル製品とブランドの宣伝のために莫大な費用を費やしているが、被告の行為は、「シヤネル」の表示が有している原告の商品及び営業を喚起させる力を阻害、侵害するものであり、その結果、同表示の重要な機能である宣伝的機能が著しく減殺されて、原告が「シヤネル」の表示を広めるために傾注した営業努力を無為にされ、かつ、宣伝のために投下した資本を集中的に回収することができなくなり、もつて希釈化されるに至つた。
また、原告は、右のような本来の宣伝広告費のほかに、工業所有権及び著作権の国際的保護を目的とするフランス公益社団法人「ユニオン・デ・フアブリカン」に早くから加盟し、同法人に会費を納めるなど「シヤネル」の表示を不正使用する者から守るためにも莫大な費用を費やしている。
(三) 以上のとおり、原告は被告の行為により信用を毀損され営業上の利益を害せられるに至つたが、その損害額は金八〇〇万円を下らない。さらに、原告は原告訴訟代理人に本件訴訟の提起、追行を委任したが、その弁護士費用の内金二〇〇万円は、被告の行為と因果関係のある損害として、被告において負担すべきである。
6 よつて、原告は被告に対し、不正競争防止法1条ノ二又は民法709条の規定に基づき、右損害金合計金一〇〇〇万円及びこれに対する不法行為の日の後である昭和五九年二月八日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否1 請求原因1のうち、原告が香料類、高級婦人服、ハンドバツグ、靴、宝飾品等の製造、販売を業とする株式会社であることは認めるが、その余の事実は不知。
「シヤネル」が原告の営業たることを示す表示として周知であるとの主張は争う。
原告は、我が国においては従来から宣伝広告活動が低調であり、取扱商品が特別高級で高価なため顧客層が狭少なうえ商品の高級性を誇示する昔ながらの殿様商法的営業方法から脱皮せず、企業内容の公開に消極的な企業体質等にもより、「シヤネル」の表示は、一部の愛顧者を除いて、未だ一般大衆に広く認識されているとはいい難く、我が国においては未だ周知性を取得していない。
2 同2の事実は認める。
3 同3のうち、本件ホテルの名称の主要部分である「シヤネル」が原告の商号、
商標と同一であることは認めるが、その余の主張は争う。
原告と被告とはその業種を全く異にし、取引先、需要者層も相異なること、原告の主張に従えば、原告の営業表示である「シヤネル」は高級なイメージを有するのに対し、被告の本件ホテルの営業はいわゆるラブホテルで低俗なイメージを与えるというものであること、被告の営業活動の地域は神戸市内のみであるが、原告の場合、わが国で昭和五五年にシヤネル株式会社が設立されるまでは営業主体としての「シヤネル」の名称を有する営業施設は本邦内に存在せず、特に神戸市内においては、昭和五七年三月に漸く二つの百貨店内の化粧品売場のコーナーに同社名義の架設電話が設置された程度で、未だ「シヤネル」の名称を表示した独立の建物等の営業施設は存在しないこと、その他原、被告間に緊密な営業上の関係があると誤信させるに足るような具体的事情が見当たらないことからすれば、被告が「ホテルシヤネル」の名称を使用して本件ホテルの経営をしたことをもつて、原告の営業上の施設又は活動と混同を生じさせるものとはいえない。
4 同4及び5の事実はいずれも否認する。
三 抗弁(不正競争防止法2条1項4号) 被告代表者の【B】は、昭和四一年一〇月、善意で「ホテルシヤネル」の名称を使用して、個人で旅館営業を始め、被告は昭和四四年四月、同人から右旅館営業とともに「ホテルシヤネル」の名称の使用を承継した。
四 抗弁に対する認否 抗弁のうち、被告代表者が「ホテルシヤネル」の名称の使用につき善意であつたとの点は否認し、その余の事実は不知。
証拠(省略)
理 由一 請求原因1の主張について検討するに、原告が香料類、高級婦人服、ハンドバツク、靴、宝飾品等の製造、販売を業とする株式会社であることは、当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一ないし第五号証、第六ないし第八号証の各一ないし三、第九号証の一ないし六、第一〇及び第一一号証の各一ないし五、第一二、
第一三号証、第一六、第一七号証、第二二号証、第二九号証、第六八ないし第七四号証、第七七号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第七六号証、証人【C】同【D】の各証言によれば、次の事実が認められる。
(一) 原告の属するいわゆるシヤネルグループと称される企業の起源は、ファツシヨンデザイナーの【E】が一九一〇年代にフランスのパリ市においてオートクチユール(高級婦人服装店)を開店したことに始まる。同女は、一九二〇年代に入つて香水を製造、販売する権利を取得し、これに「シヤネル五番」と命名した上、
レ・パルフアム・シヤネルという会社を設立して、同社においてこれを製造、販売したところ、やがて「シヤネル五番」は世界的なベストセラーとなり、シヤネルは、ゲラン及びクリスチヤン・デイオールとともに香水の御三家と並び称されるまでに至つた。現在シヤネルグループは、持株会社であるシヤネル・インターナシヨナル・ビーヴイ(本店所在地オランダ国ロツテルダム市)を頂点に、商標その他無体財産権の管理等の法的事項を管轄する原告(一九五九年一二月スイス国グラルス州において設立)のほか、前記のレ・パルフアム・シヤネルが一九五四年に商号を変更したフランスのシヤネル・エスアーをはじめシヤネル製品の製造、販売を目的とする会社が世界の各地に一〇以上存在している。その取扱商品は、香水などの香料類、化粧品と婦人服、ハンドバツクや靴などの皮革製品、アクセサリー等ブテイツク商品と総称されるものとの二群に大別される。「シヤネル五番」に代表される香料類が全世界的にその名をよく知られているほか、服飾品についても「シヤネルルツク」「シヤネルスーツ」等の造語を生み出している程であつて、今世紀のいわゆるパリモードを代表するフアツシヨンとして世界的に有名である。
(二) 我が国においては、昭和八年(一九三三年)に初めてシヤネル製の香水が輸入されて発売されたが、昭和一〇年には別紙商標(一)記載の商標について、また、昭和一四年には同(二)記載の商標について、いずれも「第三類香料及他類ニ属セサル化粧品」を指定商品として登録の出願公告がされたのを皮切りに、今日に至るまで「CHANEL」又は「シヤネル」を主要部分とする数多くの商標が、シヤネルグループを構成する会社の出願により相次いで登録されている。シヤネル製品の我が国での輸入、販売は、昭和三五、六年ころ【F】の主宰するアーニー商会が総代理店となつて一手にこれを行うようになつたが、昭和四四年六月にリーベルマン・ウエルシユリー社がこれを引継ぎ、次第に販売網を拡大していつた。そして、昭和五五年一〇月、同社の一部門であるシヤネル営業本部が独立する形で、シヤネル株式会社(本店所在地東京都新宿区)が設立されるに至つた。かくして、現在我が国において流通しているシヤネル製品は、香料類、化粧品とブテイツク商品とを問わず、一部の並行輸入品を除いて、すべて同社の手を経てもたらされたものである。
(三) 昭和二九年二月、アメリカの女優【A】が来日したが、その際、記者団から寝るときの服装を質問されて、「シヤネル五番を着るだけよ」と答えたという話がまことしやかに宣伝され、当時の同女の映画スターとしての人気と相まつて、我が国では「シヤネル五番」といえば直ちに【A】の右の言葉が出る程一躍有名になつた。
以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。右に認定した事実によれば、シヤネル製の香水は昭和八年に初めて我が国に輸入、販売され、昭和一〇年から一四年ころにかけてその商標について登録の出願公告がされたというのであるが、当時の我が国の社会、経済情勢、一般国民の生活様式等に照らして、香水や高級婦人服を取扱う「シヤネル」の名称が広く一般国民の間に知られるに至つたとは到底認め難いところである。しかし、昭和二九年二月に【A】が来日した際、寝るときは「シヤネル五番を着るだけよ」と答えたという話は、同女が真実そう答えたかどうか真偽の程はとも角として、いわゆる戦後の舶来崇拝の風潮が蔓延していた当時の時代背景の下で、同女の映画スターとしての人気と相まつて我が国民の間に一躍有名になつたのであり、ここに香水「シヤネル五番」は周知の商品となり、
これに伴つて「シヤネル」は、その製造販売元であるシヤネルグループの営業たることを示す表示としてそのころから昭和三〇年代の始めにかけて我が国においても周知となつたと認められる。
なお、被告は、原告の取扱商品は特別高級で高価なため顧客層が狭少なうえ、その営業方法や企業体質等にもより、「シヤネル」の表示は未だ一般大衆に広く認識されているとはいい難い旨主張するけれども、一般大衆が容易に入手でき、身の回りに多く存在する商品でなければ周知ではないと必ずしも断定することはできないから、かかる事情があるからといつて周知性に関する前記判断を左右するものではない。
また、被告の抗弁(不正競争防止法2条1項4号)は、前記のとおり「シヤネル」の表示が昭和三〇年代始めころには周知となつたと認められる以上、昭和四一年一〇月以降の名称使用を内容とする同主張はそれ自体失当である。
二 請求原因2の事実は、当事者間に争いがない。
三 次いで、同3のうち、本件ホテルの名称の主要部分である「シヤネル」が原告の商号、商標と同一であることは、当事者間に争いがないところ、両者を対比観察すれば、被告が使用した本件ホテルの名称「ホテルシヤネル」が原告の営業表示である「シヤネル」と類似することは、明らかであるといわなければならない。
そして、成立に争いのない甲第二一号証、第二三、第二四号証並びに前掲証人【C】、同【D】の各証言によれば、フアツシヨン関連企業の取扱う商品が服飾品にとどまらず他品目に及び、著名なデザイナーの名を冠した商品が、タオル、毛布、スリツパ等の類まで多数売り出されたり、我が国の代表的フアツシヨンデザイナーである【G】がホテルの客室のインテリアをデザインするなど、原告の属する業界においても経営が多角化する傾向にあることが認められる。もつとも、先に認定したとおり、原告の属するシヤネルグループの取扱商品は、香料類、化粧品と婦人服、ハンドバツグ等のいわゆるブテイツク商品に限られており、右各証言によれば、シヤネルグループは、現在までのところこれ以外の分野に進出したことはなく、目下ホテルの経営に乗り出す計画もないというのであるから、原告と被告とはその業種を全く異にし、当面競業関係に立つことはないものと認められる。しかしながら、原告の属するフアツシヨン関連業界においても経営が多角化する傾向にあり、著名なデザイナーの名を冠したいわゆるブランド商品が多数出回つている現状に思いを致すとき、少なくとも一般消費者において本件ホテルが原告らシヤネルグループと業務上、経済上又は組織上何らかの連携関係のある企業の経営に係るものと誤認する虞を否定することはできず、したがつて、「ホテルシヤネル」の名称を使用して本件ホテルの経営をした被告の行為は、原告の営業上の施設又は活動と混同を生じさせるものと認められる。
四 請求原因4の主張について判断するに、被告代表者尋問の結果によれば、まず被告代表者の【B】は、昭和四一年一〇月個人営業としていわゆるラブホテル様式のホテル経営をすることになり、ホテルを建てたところ、ホテルの名称につき、当時同ホテルの建築の設計を依頼した設計士の挙げる二、三〇の名称の中から同設計士の勧めもあつて自ら「シヤネル」の名称を選定したものであるが、その際、被告代表者がその意味を尋ねたところ、同設計士から「シヤネル五番」という香水がある旨教えられ、しやれた名称が気に入り、本件ホテルの名称に「ホテルシヤネル」が使用されたこと、そして、その後被告の設立をみて、昭和四四年一〇月個人営業のホテルから被告が本件ホテルを経営することになつたが、被告は「ホテルシヤネル」の名称をそのまま引継いで使用したことが認められる。右認定の事実によれば、被告代表者の【B】は個人営業として本件ホテルの営業を開始した当時から、
さらに続いて被告が営業するに至つて、被告自身「ホテルシヤネル」の名称の使用を開始した当時、すでに「シヤネル五番」の存在を知つていたのであるから、被告がその時点で調査検討すれば、「シヤネル」が同香水の製造販売元である原告らシヤネルグループの営業たることを示す周知の表示であることを容易に知ることができたものというべく、その調査検討をしなかつた被告に過失があるといわなければならない。
五 同5の主張について検討するに、成立に争いのない甲第二八号証、第三二ないし第三六号証、証人【D】の証言により真正に成立したと認められる甲第三〇号証、第三九号証、証人【C】、同【D】及び同【H】の各証言によれば、原告らシヤネルグループは、一九一〇年代の創始以来長年にわたり厳選された高級品のみの製造、販売を手がけており、その取扱商品と結び付いた「シヤネル」の表示のもつ高級なイメージの保持、防衛に相当の努力を払つてきたこと、シヤネルグループ全体の数字は明らかでないが、我が国におけるシヤネル製品の販売を担当しているシヤネル株式会社が支出した最近三年間の宣伝広告費は、昭和五八年度約八億七〇〇〇万円、昭和五九年度約一〇億三八〇〇万円、昭和六〇年度約一二億二四〇〇万円で、昭和六〇年度のそれは同年度の総売上高六六億六四〇〇万円の一八パーセント以上に当たること、また、シヤネル株式会社は、シヤネル製品とブランドの宣伝を目的とする右の本来の宣伝広告費のほかに、「シヤネル」の名称を不正使用しないように警告する広告を新聞紙上に掲載したり、工業所有権及び著作権の国際的保護を目的とするフランス公益社団法人「ユニオン・デ・フアブリカン」にシヤネルグループを構成する他の会社ともども加盟し、同法人に所定の会費を納めるなど、
「シヤネル」の表示を不正使用する者から守るためにも相当の費用を費やしていることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
右に認定した事実によれば、原告は、長年にわたつて培つてきた「シヤネル」の表示のもつ高級なイメージを、一般に低俗なイメージを与えるいわゆるラブホテルの名称として使用されたことにより、侵害されたと認められるのみならず、他人が「シヤネル」の名称を使用するときは、「シヤネル」の表示が有している原告らシヤネルグループの商品及び営業を喚起させる力を阻害し、その結果、同表示の宣伝的機能を減殺することになる(いわゆる希釈化)といわざるを得ない。よつて、原告は、被告の行為により営業上の利益を害せられたと認められるが、その損害はいずれも無形の損害であつて、性質上一義的にその数額が算出されるものではないけれども、原告の営業内容、宣伝広告費等の支出状況、被告の営業内容、「ホテルシヤネル」の名称使用期間等、本件に顕れた諸般の事情を斟酌すれば、同損害額は金一〇〇万円をもつて相当と認める。また、原告が原告訴訟代理人の弁護士に本件訴訟の提起、追行を委任したことは、本件記録上明らかであるところ、本件事案の内容、本件訴訟の経過、認容額等に鑑み、被告の行為と相当因果関係のある損害として被告に賠償を求めるべき弁護士費用の額は、金二〇万円が相当であると認められる。
六 よつて、原告の請求は、不正競争防止法1条ノ二の規定に基づき、右の損害金合計金一二〇万円及びこれに対する不法行為の日の後である昭和五九年二月八日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるから、その範囲でこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法89条92条を、仮執行の宣言について同法196条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 坂詰幸次郎
裁判官 萩尾保繁
裁判官 石原稚也