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事件 昭和 49年 (ワ) 924号
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裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 1976/07/21
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 原告(一) 被告らは、その製造販売に係る商品ハンバーガーの容器、包装、広告及び自動販売機に別紙第一目録(1)ないし(4)記載の各表示を使用し、又はこれを使用した商品ハンバーガーを販売してはならない。
(二) 被告マツク産業株式会社は、その本店に存在する同被告所有の商品ハンバーガーの容器及び包装から、被告株式会社マルシンフーズは、その所有に係る商品ハンバーガーの自動販売機からそれぞれ別紙第一目録(1)ないし(4)記載の各表示を抹消せよ。
(三) 被告らは、別紙第二目録記載の謝罪広告を、見出しをゴシツク体二倍活字その他をゴシツク体一倍活字をもつて、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞及び日本経済新聞の各全国版広告欄に二段五センチで各一回掲載せよ。
(四) 被告らは、原告に対し、連帯して金三、〇〇〇万円及びこれに対する昭和四九年二月二三日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
(五) 訴訟費用は、被告らの負担とする。
との判決並びに第三項を除いて仮執行の宣言を求める。
二 被告ら主文同旨の判決を求める。
請求原因
一 不正競争防止法第1条第1項第1号及び第二号に基づく請求(一) 原告の営業及び商品 原告は、資本の五〇パーセントを米国のマクドナルド・コーポレーシヨン、残りの五〇パーセントを日本法人が出資して、昭和四六年五月一日設立された資本金三億二、四〇〇万円の合弁会社であつて、ハンバーガーを主力商品とし、そのほかミルクシエイク、フライポテトなど原告会社又はマクドナルド・コーポレーシヨンが製造した食品(以下「マクドナルド食品」という。)の販売を主たる営業目的とする株式会社である。
原告は、昭和四六年七月二〇日にマクドナルド食品の製造販売を開始したが、その販売方法は、米国内でマクドナルド食品の販売に確固たる実績を持つマクドナルド・コーポレーシヨンの技術指導の下に採用した同会社の販売方法と全く同じものである。
すなわち、原告は、日本の主な都市の繁華街に直営店を設置し、その各直営店の店舗の形態、看板、従業員の制服、商品の包装紙及び容器のコツプなどの形状、模様をすべて統一し、そうすることによつて主力商品ハンバーガーを中心とする各種マクドナルド食品の周知徹底を行つた。原告の店舗は、昭和四六年七月二〇日銀座一丁目角の三越銀座店の一角に最初に開設された店舗のほか、昭和四九年一月三一日までに関東、関西地区の主要都市の繁華街に設置された店舗を併せ合計四〇店に及んだ。そして、原告のマクドナルド食品の販売実績は、創業から一か年に満たない昭和四七年五月三一日現在には月商金一億円、昭和四九年一月三一日現在には月商金四億円を突破し、この売上高の急上昇は、食品業界のみならず、一般事業者の注目の的となつている。
(二) 原告の商品及び営業の表示とその周知性1 原告は、マクドナルド食品の販売に当たり、商品の包装、コツプ、宣伝パンフレツト、広告、看板などの様式及び表示について、すべてマクドナルド・コーポレーシヨンのそれを踏襲しているが、更に日本の特殊性に鑑み片仮名で表示するなどの工夫をも加味した。
原告は、昭和四六年七月二〇日銀座の第一号店を開設以来、マクドナルド食品の販売に当たり別紙第三目録(イ)ないし(ニ)記載の標章(以下「原告標章」という。なお、個々の標章を指す場合には、(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)の符号を付することとする。)を表示している。すなわち、原告は、その全商品について原告標章(イ)を、商品二段重ねの大きなハンバーガーについて原告標章(ロ)を、
商品フライポテトについて原告標章(ハ)を、商品ミルクシエイクについて原告標章(ニ)をそれぞれ使用している。
なお、原告標章(ロ)、(ハ)及び(ニ)では、「マツク」なる文字が使用されているが、これは、米国においてマクドナルド食品が通常マツクと呼ばれていることに由来するもので、原告がマクドナルド食品の販売を開始して以来、原告会社従業員は同食品を一様にマツクと称しているものである。
2 飲食業の資本がわが国において昭和四四年三月一日自由化され、それ以来外国資本のわが国における食堂業への進出が話題となつたのであるが、マクドナルド・コーポレーシヨンは、いち早く日本進出を決定し、このニユースは大々的に発表され、昭和四四年四月以降業界誌・紙及び日刊紙などに、マクドナルド食品及びマクドナルド・コーポレーシヨンの店舗などが、原告標章と同一の同社の標章と共に広く一般に報道され、その故にマクドナルド食品は、原告の銀座三越の第一号店の開店と同時に爆発的な人気を呼び、このことも広く報道された。このような報道とマクドナルド食品の特殊な販売方法のため、同食品の評判は、口から口へと伝達され、昭和四六年末には東京都内一円において老若男女を問わずこれを知らない者はいないほどとなつた。このことは、第一号店開店以来のマクドナルド食品の売上げの急上昇の事実からも裏付けられる。これに伴い、原告標章も、広く一般に認識されるようになり、昭和四六年一二月末日には東京都内一円で、現在では関東、関西地区はもとより全国一円に広く認識されるに至つた。
右のとおり、原告標章は、原告の商品及び営業を示す表示として、広く認識されているものである。
(三) 被告らの表示及び使用態様1 被告マツク産業株式会社(以下「被告マツク産業」という。)は、昭和四六年九月二二日設立され、当初株式会社マツクという商号であつたが、昭和四七年七月五日現商号に変更されたもので、ハンバーガーの販売を主たる業務としているものであり、被告株式会社マルシンフーズ(以下「被告マルシンフーズ」という。)は、昭和四〇年一二月二一日設立され、当初株式会社マルシンという商号であつたが、昭和四七年七月五日現商号に変更されたもので、ハンバーグの製造販売を主たる業務としているものである。
2 被告マルシンフーズは、昭和四七年五月初旬ころからハンバーガーを製造し、
これを被告マツク産業をして販売せしめている。すなわち、被告マルシンフーズは、その所有に係るハンバーガーの自動販売機に別紙第一目録(1)及び(2)記載の標章を表示し、且つ被告マツク産業にハンバーガーを販売し、被告マツク産業は、被告マルシンフーズから購入したハンバーガーを別紙第一目録(1)ないし(4)記載の標章(以下「被告標章」という。なお、個々の標章を指す場合には、
番号を付するものとする。)が付された容器及び包装に納めて商品とし、右自動販売機により販売し、又は一部店頭販売しているものである。更に、被告らは、右ハンバーガーの販売のためのパンフレツト及び広告にも被告標章を表示して広く宣伝している。
(四) 原告標章と被告標章との類似性並びに商品及び営業活動の混同1 被告標章(1)は、原告標章(イ)と極めて類似している。すなわち、両者とも図形とローマ字との結合により、構成されており、且つ図形に配置されたローマ字の位置も共通である。ところで、原告標章(イ)の図形は、ローマ字の大文字Mに円味を加えて図案化したものであるが、このM字状はマクドナルドの頭文字に由来するもので、マクドナルド・コーポレーシヨンが創作し、原告が同社の許諾の下に使用しているものである。被告らは、この図形をそのまま模倣して被告標章(1)に用いているのである。両標章は、ローマ字の綴りに違いがあるが、図形とローマ字の位置関係・大きさのバランスからみて通常人に両者の違いの見極めを期待することは不可能に近い。両者が類似することは明らかである。
また、原告がマクドナルド食品を「マツク」と略称していること及び実際に同食品について「マツク」の文字をその構成部分とする原告標章(ロ)、(ハ)及び(ニ)を使用していることによつて、食品について「マツク」といえば、原告の販売するマクドナルド食品を指すことは顕著なことであるところ、被告標章(2)ないし(4)は、その全体又は一部に「マツク」の称呼を生ずる文字が用いられているから、原告の表示である「マツク」との同一性は免れ得ない。
被告マルシンフーズは、指定商品第三二類についての登録商標「マツク」及び「バーガー」の商標権者であるが、右商標権はいずれも第三者から譲り受けたものであり、その譲受けの時期からみて、右譲受けは、原告のマクドナルド食品を意識し、これに追従するか又はその販売を妨害するか、いずれかの意図から出たものであることは明らかである。従つて、被告らが「マツク」又は「バーガー」の商標を使用することは、不正競争防止法第6条にいう商標権の正当な権利の行使には該当しない権利濫用の行為である。
2 被告らが製造販売する商品も、原告が販売する商品の中心となるものも共にハンバーガーである。
なお、原告は直営店方式により、被告らは自動販売機によりそれぞれハンバーガーを販売しているが、今後原告が自動販売機による販売を行わないとはいい切れないし、他方今後被告らが店頭販売を全く行わないという保証もない。また、消費者の立場からすれば、ハンバーガーが販売されているということだけが注目され、従つてその商品の包装、容器が類似していれば、その出所が同一であると誤認されるのであつて、販売方式自体の相違は混同を妨げる理由とはならない。
結局、原告と被告らの商品及び営業活動の混同は免れ難い。
(五) 被告らの行為による原告の営業上の利益侵害 被告らが被告標章をハンバーガーの販売について使用することが、原告の商品及び営業活動と被告らの商品及び営業活動とを混同させるものであることは、前述のとおりであり、このため原告が営業上の利益を害されるおそれのあることはいうまでもない。加工食料品は、その味と販売者の信用によつて販売量が左右されるものであるから、被告らの商品を原告の商品であると誤認して購入した者は、その味が期待に反したものであれば、それ以後ハンバーガーを購入しなくなるのであつて、
それが原告の商品であつても同様である。また、原告の商品の知名度が高くなればなるほど、これを利用し又はこれに追従する被告らの販売行為によつて一層一般人を誤認させ、それだけ被告らは利益を得、反面それだけ原告は本来得ることができたはずの利益を害されることにもなる。
(六) 差止請求 よつて、原告は、被告らに対し、不正競争防止法第1条第1項第1号及び第二号に基づき、被告らがその製造販売する商品ハンバーガーの容器、包装、広告及び自動販売機に被告標章を使用し、又はこれを使用した商品ハンバーガーを販売することの差止め、
並びに、被告マツク産業がその本店に存在する同被告所有の商品ハンバーガーの容器及び包装から、被告マルシンフーズがその所有に係る商品ハンバーガーの自動販売機からそれぞれ被告標章を抹消することを求める。
二 不正競争防止法第1条の2第1項及び第三項に基づく請求(一) 損害賠償請求 被告らの行為が不正競争防止法第1条第1項第1号及び第二号に該当するものであること、並びに原告のマクドナルド食品の販売に追従せんとし、あるいはこれを妨害しようとする故意による行為であることは前述のとおりである。
ところで、被告マルシンフーズはハンバーグを一日八〇万個の割合で製造しているところ、少なくともそのうちの五パーセントに当たる四万個がハンバーガーの製造に振り向けられていることは想像に難くない。そうであるとすれば、被告マルシンフーズのハンバーガーの製造量は一か月当たり一二〇万個となるから、被告らは、昭和四七年六月一日から昭和四九年一月三一日までの間に、少なくとも合計二、四〇〇万個のハンバーガーを販売したことになる。そして、ハンバーガーの一個当たりの販売価格は金一〇〇円であり、一個当たりの純利益は低く見積つても金五円を下らないから、被告らは右期間内に右金五円に右販売個数二、四〇〇万を乗じた金一億二、〇〇〇万円の利益を前述の侵害行為によつて取得し、原告は同額の損害を被つた。
よつて、原告は、被告らに対し、不正競争防止法第1条の2第1項に基づき、連帯して右損害金の内金三、〇〇〇万円及びこれに対する被告らの不法行為の後である昭和四九年二月二三日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
(二) 謝罪広告請求 被告らは、主としてハンバーガーを自動販売機によつて販売したわけであるが、
同ハンバーガーの味は原告のそれに比べはるかに劣る。そのためハンバーガーの評価が減殺され、原告は折角定着させることのできたハンバーガーの販路を被告らの行為によつて妨害された。その損害は金銭をもつてしては償い難いものであり、更に被告らの自動販売機に生じた作動事故で子供に傷害を与えた事実が報道され、その事故があたかも原告の商品販売における事故であると一般人に誤認を与えたことがあるが、このこともまた失われた原告の信用を回復するのに金銭をもつてすることは不可能である。
よつて、原告は、被告らに対し、不正競争防止法第1条の2第3項に基づき、別紙第二目録記載の謝罪広告を、見出しをゴシツク体二倍活字その他をゴシツク体一倍活字をもつて、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞及び日本経済新聞の各全国版広告欄に二段五センチで各一回掲載することを求める。
被告らの答弁及び主張
一(一) 請求原因一、(一)の項は知らない。
(二) 同一、(二)、1の項は知らない。
同一、(二)、2の項のうち、昭和四四年四月以降業界誌・紙及び日刊紙などにマクドナルド食品及びマクドナルド・コーポレーシヨンの店舗などが原告標章と同一の同社の標章と共に広く一般に報道されたこと、昭和四六年末には東京都内一円において老若男女を問わずマクドナルド食品を知らない者はないほどとなつたこと及び原告標章が広く一般に認識されるようになり、昭和四六年一二月末日には東京都内一円で、現在では関東、関西地区はもとより広く全国一円に広く認識されていることは否認し、その余の事実は知らない。昭和四四年四月以降業界紙などに掲載されたのは原告標章(イ)のみであり、原告標章(ロ)、(ハ)及び(ニ)が流布されたのは昭和四六年七月二〇日原告の銀座三越の第一号店開設の後のことである。
(三) 同一、(三)、1の項は認める。但し、被告マルシンフーズは、その前身を新有明商店といい、同被告の現代表者【A】が右屋号で昭和三〇年ころから食品加工業を個人経営していたもので、同人が昭和三九年九月一日有限会社有明商店を設立し、次いで同会社が昭和四〇年一二月二一日株式会社マルシンに組織変更され、更に昭和四七年七月五日現商号に商号変更され現在に至つているものである。
同一、(三)、2の項のうち、被告らが被告標章(1)を使用していることを否認し、その余の事実は認める。
(四) 同一、(四)、1の項のうち、被告標章(2)ないし(4)にはその全体又は一部に「マツク」の称呼を生ずる文字が用いられていること、及び、被告マルシンフーズが指定商品第三二類についての登録商標「マツク」及び「バーガー」の商標権者であり、右商標権がいずれも第三者から譲り受けたものであることは認めるが、その余の点は争う。被告らは、被告標章(1)を使用していない。
同一、(四)、2の項のうち、被告マツク産業の販売する商品がハンバーガーであること及びこれを自動販売機で販売していることは認めるが、その余の点は争う。
(五)同一、(五)の項は争う。
二(一) 同二、(一)の項のうち、被告マルシンフーズが一日八〇万個の割合でハンバーグを製造していることは認めるが、その余の事実は否認する。右ハンバーグのうちハンバーガーに利用されるのは、現在一日当たり一万二、〇〇〇個ないし一万五、〇〇〇個である。
(二) 同二、(二)の項は争う。
三 被告らは、従前被告標章(1)をも使用していたが、本件の仮処分事件の審理の際、紛争の早期解決の見地からこれの使用を中止することとし、現在これを使用していないし、将来再び使用する意思もない。
四 被告らの被告標章(2)ないし(4)の使用は、正当な商標権の行使である。
すなわち、右標章のうち、「マツク」の称呼を生ずる部分は、被告マルシンフーズが商標権者である登録第八一九〇号三六の二の登録商標の範囲に、また「バーガー」の称呼を生ずる部分は、同被告が商標権者である登録第七六六三二三号の二の登録商標の範囲にそれぞれ属するものである。
原告は、被告らが右各登録商標を使用することは不正競争防止法第6条にいう商標権の正当な権利の行使に該当しない権利濫用の行為であるとし、その前提となる事実として、「マツク」といえば原告の販売するマクドナルド食品を指すことは顕著なことであるというが、右前提自体事実に反している。原告の原告標章(ロ)、
(ハ)及び(ニ)の使用の方こそ、被告マルシンフーズの登録商標「マツク」に係る右商標権を侵害するものである。
五 原告標章は広く認識されていない。
原告がマクドナルド・コーポレーシヨンから使用を許諾されたのは原告標章(イ)であるところ、その標章が米国内で周知であつたとしても、そのことから日本国内においても周知であるとはいえないし、また原告標章(ロ)、(ハ)及び(ニ)は原告が日本の実情に合わすため造語したものと解され、従つてその使用開始は昭和四六年七月二〇日の銀座三越の第一号店開設以後のことであることは前述のとおりであり、それらが昭和四四年四月以降業界誌などで広く一般に報道されたということもなく、周知性を取得するはずがない。
なお、原告標章(ロ)、(ハ)及び(ニ)は、いずれも商品を示す表示であつて、営業を示す表示ではない。
六 被告らが被告標章(2)ないし(4)を使用する行為は、原告の商品と混同を生ぜしめる行為に該当せず、従つてまた原告がこれにより営業上の利益を害されるおそれもない。
被告標章(2)ないし(4)と対比されるべきものは原告標章(ロ)、(ハ)及び(ニ)であると解されるところ、原告標章(ロ)は商品ハンバーガーについて、
原告標章(ハ)は商品フライポテトについて、原告標章(ニ)は商品ミルクシエイクについてそれぞれ使用されているのに対し、被告標章(2)、(3)及び(4)はいずれも商品ハンバーガーに使用されているものであるから、商品を共通にするのは原告標章(ロ)と被告標章(2)、(3)及び(4)だけである。ハンバーガーとフライポテト、又はハンバーガーとミルクシエイクとが混同するとは考えられないから、原告標章(ロ)と被告標章(2)、(3)及び(4)との類否だけが問題となるに過ぎない。ところが、原告は、ハンバーガーの添物としてマツクフライポテトが、また飲物としてマツクシエイクがあり、これらの結び付きはこの種商品では切り離し難い関係にあると主張して原告標章(ハ)及び(ニ)と被告標章との類否をも問題とする。ところで、原告の主張によれば、原告標章(ハ)及び(ニ)も周知商標のはずであるから、これら標章が使用される商品もまた周知になつていると考えなければならず、殊に原告標章(ハ)には「フライポテト」という馬鈴薯を油で揚げたものを意味する普通名詞が、原告標章(ニ)には「シエイク」という一読すれば直ちにミルクシエイクを連想せしめる語がそれぞれ付されているから、
これら標章が周知であればなおさらこれら商品も周知であると考えなければならない。そこで、原告の商品マツクシエイクやマツクフライポテトを飲食しようと欲する者が、ハンバーガーの自動販売機であることが歴然としている被告らの自動販売機に足を運ぶということは全く考えられない。それでもなお、誤認混同が起るというのであれば、原告標章(ハ)及び(ニ)は特定商品を表示する機能を有しないものというほかはない。原告標章(ハ)及び(ニ)から、一般消費者がフライポテトやミルクシエイクではなくハンバーガーを連想するとしたら、たとえそれが原告の商品ハンバーガーであつても、原告としては不本意なはずである。原告標章(ハ)及び(ニ)が被告標章と類似し商品が混同するということは、原告の主張自体からもあり得ないことである。
そこで、本件で取り上げるとすれば、原告標章(ロ)のみであり、仮に同標章に周知性があるとしても、その周知性の取得は善意でされなければならないのに、善意でその状態が招来されたとは考えられない。何故ならば、既に指定商品菓子及び麺麭の類に「MACK マツク」の商標登録がされているところ(乙第一号証)、
原告ほどの資力と調査能力を有する者が右商標の存在に気付かなかつたということは考えられないから、原告標章(ロ)が周知性を取得したとすれば、悪意で右商標権侵害を重ねてきた結果にほかならないからである。
また、ハンバーガーの味の良否はどこの製品であれ大差はなく、一個金一〇〇円前後で販売するとすれば、技術的に品質を高めるとしても当然限界がある。原告が今日無数のハンバーガー・メーカーを圧倒しているらしく見えるのは、別に原告のハンバーガーの品質が優良であるとか、特に味が好ましいとかいうことによるのではなく、若者の集まる一流繁華街の店頭や歩行者天国などで紙コップ片手にハンバーガーを立食いでほおばるという風俗が若者にはいわゆるナウなフイーリングを起こさせ、年配の者には珍らしさを感じさせるということによるだけの話である。原告の成功が、この独得の販売方式が現代的で特に若者にアピールした結果であることは、雑誌などで力説されているところである。仮に、原告が繁華街でもない街角に自動販売機を設置してビツグマツクを売り出したとしても、おそらくだれも見向きもしないであろう。「ビツグマツク」が周知標章であるとした場合、それによつて顧客が起すイメージは、単にハンバーガーという商品だけではなく、それ以上にそれを食べるときの場所的、時間的その他諸々の状況であるはずである。そのようなイメージを求める顧客が、単に機能一点ばりでムードも何もない自動販売機のハンバーガーを単に標章の類似の故に誤認して買い求めるとは考えられない。更に、
表示自体が「ビツグマツク」と「Mac Burger」又は「マツクバーガー」若しくは「マツク」ほどの違いがあればなおさらのことである。
原告は、消費者の立場からすれば、ハンバーガーが販売されているということだけが注目され、従つてその商品の包装・容器が類似していれば、その出所が同一であると誤認されるのであつて、販売方式自体の相違は混同を妨げる理由とはならないと主張する。しかし、自動販売機による被告らの販売方式は、原告のそれとは販売の時期、場所及び方法等が全く異なるのであるから、原告の商品と被告らの商品との間に誤認混同が起るはずがない。誤認混同が生じないからこそ、原告の商品は驚異的売上げを記録しているのである。
七 原告は、被告らが被告標章を使用することによつて損害を受けてはいない。原告の商品と被告らの商品との間には前述のとおり混同が起る余地がなく、被告らの行為によつて原告の売上げが減少しあるいは低迷していること、すなわち原告に損害が発生していることを示す痕跡はどこにもない。原告の売上げは、原告の予想以上の急増をしているのである。
なお、原告は、損害額の算定について、商標法第38条第1項あるいは特許法第102条第1項の定めと同一発想に立つて、被告らの得た利益が原告の被つた損害と推定されるとするようであるが、右定めは、損害の発生が認められたときの損害額の推定規定であつて、損害の発生そのものを推定するものではない。右のような明文の規定のない不正競争防止法による損害賠償請求に右法条の類推適用を求めるものであるならば、なおさら原告は損害の発生そのものの立証をすべきであるのに、その立証をしない。かえつて、前述のとおり、原告の売上げ、従つて利益は目を見張るほど急激に増加しているのであつて、被告らの行為によつて原告に何らかの損害が発生したとは到底考えられない。
八 原告は、被告らに対し、謝罪広告の掲載を求め、その理由として、被告らが味の劣るハンバーガーを販売して原告の販路を妨害したこと、及び、被告らの自動販売機による傷害事故が原告の商品販売における事故と一般に誤認されたことが、原告の営業上の信用を害したものである旨主張する。しかし、被告らが原告の商品の販売を妨害した事実は全くなく、原告の商品の売上げは異常なほどの上昇を見せており、自動販売機の事故も警察の調査の結果顧客の明らかな操作ミスにのみよるものであることが判明し、被告らは刑事上あるいは行政取締法規上何らの責任も追求されず、被告らの商品のイメージを低下させるということもなかつた。そのうえ、
右事故が、自動販売方式による販売でないことを誇つている原告側に発生した事故であると一般人を誤認させたとは到底考えられないことである。
被告らの主張に対する原告の反論
一 被告らは、被告標章(1)の使用を中止したというが、同標章が原告標章(イ)に類似することを認めたうえで中止するというのではなく、その理由は極めて便宜的なものであつて、後述の被告らの商標登録出願の態様に照らせば、中止したといつても信用することはできないし、被告らが被告標章(1)を使用するおそれは依然として存する。
二 被告らは、被告標章(2)、(3)及び(4)の使用は正当な商標権の行使であると主張する。しかし、被告マルシンフーズが「マツク」の商標権の分割譲渡を受けたのが昭和四六年四月六日、その登録をしたのが同年七月二三日であり、「バーガー」の商標権の分割譲渡を受けたのが昭和四四年五月八日、その登録をしたのが同年七月七日であるところ、原告会社が設立されたのは昭和四六年五月一日、銀座三越第一号店が開設されたのは同年七月であるが、それ以前の昭和四四年四月以降マクドナルド・コーポレーシヨンが日本に進出すること、マクドナルド食品の紹介及びこれに使用する一連の商標についての報道が数多くされ、被告らを含む業者において右事実は極めて顕著であつた状況の下において、前述の商標権の譲受けが行われたのである。右事実によれば、被告らが、既に米国で著名であり、且つ原告がマクドナルド食品の販売のために使用する表示に被告らの表示を似せ、原告の販売力に便乗し、しかし原告からの追及は何とかして免れようとする意図を有することが客観的に明らかである。このような意図を有することは、被告マルシンフーズが原告の使用する商標を真似た商標について、マクドナルド食品の日本上陸が報道されるやいち早く数多く登録出願したこと、出願した商標の中に「マクドナルドハンバーガー」、「ハンバーガー大学」、「マツク」、「ビツグマツク」など原告が現実に使用していたものあるいはマクドナルド食品の紹介で報道された文字とそつくり同じものが含まれていることからも明らかである。
被告らが被告標章を使用する行為は、被告マルシンフーズが分割譲渡を受けた商標権の正当な権利行使であるとはいえない。
三 被告らは、被告らの被告標章を使用する行為は原告の商品と混同を生ぜしめる行為に該当しないとし、その理由として、マツクシエイク及びマツクフライポテトはハンバーガーとは商品が異なること及び販売方式が相違することを挙げる。しかし、原告の商品の主体がハンバーガーであることは周知の事実で、その商品に「ビツグマツク」の標章が付されて販売されており、このハンバーガーの添物としてマツクフライポテトが、また飲物としてマツクシエイクがあり、これらの結び付きはこの種食品では切り離し難い関係にあることはだれしも熟知していることであり、
このことは店頭における販売状況を見れば直ちに納得できることであるところ、これら商品に共通して「マツク」の表示がされていることから、一般にマクドナルド食品が通称「マツク」といわれていること、及び「マツク」の略称がマクドナルドの英字の発音からその略称として使用されていることに注目すれば、「マツクバーガー」又は「マツク」という標章をハンバーガーについて使用する被告らの行為は、まさに原告の商品と混同を生ぜしめる行為であるというほかはない。また、数多くの商品、特に各種の食品が自動販売機で販売されている昨今では、自動販売機で販売されているということによつて商品の出所の混同を避け得るということはあり得ない。原告の商品が自動販売機で販売することが不可能なものである場合、又は自動販売機に原告の商品と異なる商品を販売するものであることが明示されている場合ならばまだしも、そうでない以上、原告の商品が著名であればあるほど、一般大衆は表示の類似する被告らのハンバーガーを原告の商品と誤認混同して購入することは極めて当然のことである。
また、被告らは、混同のおそれがないとする主張の中で、原告標章(ハ)中の「フライポテト」は普通名詞であり、原告標章(ニ)中の「シエイク」はミルクシエイクを指すことが一読すれば直ちに明らかであるという。そうであるならば、原告標章(ロ)の「ビツグマツク」のビツグは普通の形容詞であるから、原告標章(ロ)の特徴は「マツク」であることが争いないことになる。そうすると、商品ハンバーガーの標章として、原告標章(ロ)と被告標章(2)、(3)及び(4)とはそれぞれ極めて類似するものであることが明らかであるから、原告標章(ハ)及び(ニ)を持ち出すまでもなく、被告らの行為が不正競争防止法第1条第1項第1号に該当することは明らかであるというべきである。
更に、被告らが主張するように、自動販売機で販売することに意味があり、また「マツクフライポテト」及び「マツクシエイク」の周知性によつて、「ビツグマツク」の周知性が問題になるとしても、そのことから被告らの行為が不正競争防止法第1条第1項第2号に該当することを免れることはできない。
なお、被告らは、「ビツグマツク」の標章が不正使用の結果周知になつたと主張し、乙第一号証を援用する。しかし、乙第一号証の商標は、指定商品旧分類第四三類の菓子及び麺麭に係るものであつて、ハンバーガーがこれに属しない商品であることは明らかである。従つて、原告の「ビツグマツク」の標章の使用は、何ら不正ではないし、もとより乙第一号証の商標権を侵害するものではない。
四 被告らは、原告は順調に利益を挙げてきたから、被告らの行為によつて損害を被つているはずがないと主張する。しかし、原告が順調に売上げを上昇し得たのは、原告の営業活動、宣伝、商品の品質の良さなど多くの原因があるからであつて、被告らの行為がなければ、それだけより多くの利益を更に容易に挙げ得たはずのものである。被告らの主張によれば、被告らは自動販売機でのみ販売しているというのであるから、その販売は専ら被告標章に依存していることは明らかであり、
従つてこれにより得た利益は、原告が被告らの行為により少なくとも同額の得べかりし利益を喪失し営業上の利益を害された結果もたらされたものであるというべきである。
五 被告らは、被告らが原告の営業上の信用を害したことはないと主張する。しかし、自動販売機の事故により子供に傷害を与えた事実が広く著名日刊紙上に報道され、この報道写真には被告標章が写つており、且つマツクバーガー社製であるとの記事もあり、あたかも原告の商品販売における事故であるかのような印象を世間一般に与えたのであり、このため原告は、右事故は他社によるものであることの説明を余儀なくされ、多大の迷惑を被つたものである。
証拠関係(省略)
理 由
不正競争防止法第一条第一項第一号第二号に基づく請求について
一 被告標章(1)の使用の差止請求について 原告は、被告らは被告標章(1)を使用するおそれがあると主張し、被告らは、
これを争い、被告らは被告標章(1)の使用を中止し、将来使用する意思もないと主張するので、この点について検討するに、被告らが将来被告標章(1)を使用するおそれがあることを認めるに足りる証拠がない。かえつて、証人【B】の証言によれば、被告らは本件訴訟の係属前の本件の仮処分事件の審理中、紛争の円満な解決を希望し、自らの意思で被告標章(1)の使用を中止することとし、昭和四八年六月以降被告標章(1)を使用しておらず、また今後使用する意思もないことが認められる。
そうすると、原告の被告らに対する被告標章(1)の使用の差止請求は、その余の点について検討するまでもなく、理由がない。
二 被告標章(2)、(3)及び(4)の使用の差止請求について(一) 原告標章及びその周知性について1 原告標章は原告の商品及び原告の営業を示す表示として広く認識されているか。
成立について争いがない甲第一号証ないし第二一号証、第二七号証ないし第四七号証、第四八号証の一ないし四、第四九号証ないし第五四号証、第五五号証の一、
二、第五六号証ないし第六三号証、第六四号証の一ないし三、第六五号証ないし第七二号証、第七四号証の一、二、証人【C】の証言により真正に成立したことが認められる甲第二二号証、第二四号証ないし第二六号証、第七三号証、原告の店舗を撮影した写真であることが認められる甲第二三号証の一ないし七、証人【C】の証言を総合すると、次の事実がみとめられる。
(1) 原告は、昭和四六年五月一日、米国のマクドナルド・コーポレーシヨンが五〇パーセント、株式会社藤田商店及び第一屋製パン株式会社が各二五パーセント出資して設立された会社で、昭和四六年七月二〇日銀座三越第一号店、同月二四日代々木第二号店、同月二五日大井第三号店、同年九月二三日新宿二幸第四号店、同年一一月二九日お茶の水第五号店、昭和四七年二月二五日横浜松屋第六号店、同年三月二三日川崎こみや第七号店、同月三〇日東京都駅八重洲口地下街第八号店をそれぞれ開設し、現在では全国で合計約六五店の直営店を繁華街中心に開設し、ハンバーガー、フライポテト、ミルクシエイクなどを販売している。
(2) 原告会社の出資者の一人であるマクドナルド・コーポレーシヨンは、世界最大のハンバーガー・チエーンを有する会社で、その発展状況や経営形態などがわが国でも注目され、昭和四四年四月以降月刊誌などで取り上げられた。また、同年一〇月には、資本の自由化に伴い、マクドナルド・コーポレーシヨンが日本進出を企図しているとの新聞報道がされた。これらの報道記事や写真の中には、「マクドナルド」や「McDonald’s」の文字、マクドナルド・コーポレーシヨンの店舗の写真(この中には、看板「<11955-001>」が写つている。)、マクドナルド・コーポレーシヨンの、メニユーの記載(この中にはBIGMAC 四九セント」の記載がみられる。)、制服・制帽の店員の勤務状況の写真、マクドナルド・コーポレーシヨンの原告標章(イ)と同一標章が付された包装袋及びコップの写真などが掲載されている。
(3) 昭和四五年一二月には、マクドナルド・コーポレーシヨン、藤田商店及び第一屋製パンの間に、日本に合弁会社を設立することの合意が成立した旨の新聞報道がされ、その後昭和四六年五月一日の原告会社設立に至るまでの間には、原告会社が設立されることになつた事情、原告会社の資本構成、原告会社々員の育成方法、原告会社の開店予定、同年四月二一日原告会社設立の認可がさたことなどが月刊誌、日刊紙などで多数報道された。また、昭和四六年五月一日原告会社設立後同年七月二〇日の銀座三越第一号店の開設に至るまでの間には、原告会社が設立されたこと、原告会社が設立されるに至つた事情、マクドナルド・コーポレーシヨンや原告会社々長の紹介などが日刊紙、業界紙などで広く取り上げられた。その報道写真の中には、マクドナルド・コーポレーシヨンの店舗の写真(その中には、看板「McDonald′s」、<11955-002>が写つている。)が掲載されている。
(4) 昭和四六年七月二〇日銀座三越第一号店の開店後には、直ぐに、開店時の状況、爆発的な売上げを示したこと、店舗の様子、商品メニユーなどが、日刊紙、
業界紙などで広く取り上げられた。その報道記事や写真の中には、見え易い所に掲げられた店舗の看板「<11955-003>」やメニユーの紹介として「ハンバーガー八〇円、ビツクマツク二〇〇円、マツクフライ七〇円、マークセーキ一三〇円」の記事がみられる。
(5) 第一号店開店後も、第二号店以下の開店予定、開店後の店舗の状況などが週刊誌、月刊誌などで多数取り上げられた。また、原告会社は宣伝パンフレツトを作成頒布したり、クリスマスの商品券を発行したりした。これらの報道記事、写真、パンフレツトなどには、見え易い場所に色彩も鮮やかに大きく揚げられた原告会社の店舗の看板「<11955-004>」、「<11955-005>」、
「<11955-006>」(原告標章(イ))、「<11955-007>」などの写真、原告会社のメニユー、「普通の大きさのハンバーガーの写真とその右にハンバーガー八〇円という左横書きの文字」、「二段重ねの大きなハンバーガーの写真とその右にビツクマツク二〇〇円という左横書きの文字」(「ビツクマツク」は原告標章(ロ))、「包装袋に入れられたフライポテトの写真とマツクフライポテト七〇円という左横書きの文字」(包装袋には原告標章(イ)が表示されており、「マツクフライポテト」は原告標章(ハ))、「紙コップに入つているミルクシエイクの写真とマツクシエイク一二〇円という左横書きの文字」(紙コツプには原告標章(イ)が表示されており、「マツクシエイク」は原告標章(ニ))の全部又は一部若しくは商品の写真のないメニユー等の店頭表示の写真、メニユーの紹介記事、マツクシエイクのコツプ及びマツクフライポテトの包装袋の写真(これらには、原告標章(イ)が表示されている。)、原告標章(イ)が表示された制服、制帽を着用した店員が仕事をしている様子の写真、顧客が原告標章(イ)が表示されたコツプを手に持つてマツクシエイクを飲んでいる様子の写真などが掲載されている。
また、右報道記事及びパンフレツトには、原告はマクドナルド・コーポレーシヨンと同一の経営方針の下に、多くの特許発明、ノウ・ハウに基づく製造装置、製造方法により全店同品質のハンバーガー、ミルクシエイク、フライポテトなどを短時間で客に提供していること、前述の原告標章(イ)が表示された原告独自の包装紙、紙コツプなどを使用していること、店員がそろいの制服、商帽を着用していること、こうして全店が統一された販売方針、販売方法の下に商品を販売しているものである旨の記載がある。
(6) 原告の売上げは、例えば昭和四九年一月一日から三一日までの間が約四億一、四〇〇万円、昨年五月一日から三一日までの間が約五億四、三〇〇万円であつた。
以上の事実が認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
右認定の事実によれば、原告標章(イ)は原告の全商品を示す表示及び原告の営業を示す表示として、原告標章(ロ)は原告の商品である三段重ねの大きなハンバーガーを示す表示として、原告標章(ハ)は原告の商品であるフライポテトを示す表示として、原告標章(ニ)は原告の商品であるミルクシエイクを示す表示として日本全国において広く認識されているものと認められる。
原告は、原告標章(ロ)、(ハ)及び(ニ)も、原告の営業を示す表示として広く認識されている旨主張するけれども、右各標章が原告の営業を示す表示として使用されてきたことを認めるべき証拠はなく、かえつて前認定の事実によれば、原告標章(ロ)は二段重ねの大きなハンバーガーを、原告標章(ハ)はフライポテトを、原告標章(ニ)はミルクシエイクをそれぞれ表示するものとしてのみ使用されてきたことが認められるところであつて、原告標章(ロ)、(ハ)及び(ニ)が原告の営業を示す表示として広く認識されているとは認められない。
そうすると、原告の被告らに対する原告標章(ロ)、(ハ)及び(ニ)が原告の営業を示す表示として広く認識されていることを前提とする被告標章(2)、
(3)及び(4)の使用の差止請求は、その余の点について検討するまでもなく、
理由がない。
(二) 原告標章(イ)と被告標章(2)、(3)及び(4)との類否について1 被告マルシンフーズがその所有に係るハンバーガーの自動販売機に被告標章(2)を表示し、被告マツク産業が被告マルシンフーズから購入したハンバーガーを被告標章(2)、(3)及び(4)が付された容器、包装に納めて商品とし、右自動販売機により販売していることは当事者間に争いがない。
2 原告標章(イ)は、別紙第三目録(イ)記載のとおり、ローマ字の大文字Mを図案化したものと認められる「<11955-008>」の図形と、右Mの図形の下部に、「McDonald′s」の文字が、Mの左右の縦の線が下部で左右にやや開いているほか、他の文字は普通の書体、MとDが大文字、他の文字が小文字で、「<11955-008>」図形の左の縦の線の内側から左横書きで「<11955-008>」図形の中央及び右の縦の線を割るように配された構成であり、
被告標章(2)は、別紙第一目録(2)記載のとおり、上部にローマ字の大文字Mの左右の縦の線を左右にやや開き、右の縦の線の下端を右に長く延ばした変形のM字とローマ字の小文字の「a」と「c」とからなる左横書きの「Mac」と、その下部にローマ字の大文字の「B」と小文字の「u」、「r」、「g」、「e」、
「r」とからなる左横書きの「Burger」が配された構成である。
そこで原告標章(イ)と被告標章(2)とを比較してみると、原告標章(イ)のうちの「McDonald’s」の文字部分の「Mc」からは「マツク」の称呼が生じ、またそれが息子の観念を有することが明らかであるところ、被告標章(2)のうちの「Mac」の文字部分から「マツク」の称呼が生じ、またそれが「Mac」と同様に息子の観念を有することが明らかであるから、両標章はそれぞれ前記の部分において、観念及び称呼を同じくするものということができ、その限りにおいては両標章は互いに類似するものということができる。しかしながら、両標章は、右類似にもかかわらず、これを全体的に観察するときは、原告標章(イ)においては「<11955-008>」の図形が極めて特殊な形をしていて人の目を引き易く、また「Mc」の文字に続いて「Donalds’」の文字が表示されているのに対し、被告標章(2)では「<11955-008>」の図形がなく、前説明のような形をした「Mac」の文字の下に前説明のような形をした「Burger」の文字が表示されていて、互いに類似しているとはいい難いものと認められる。
右のとおりであるから、原告の被告らに対する原告標章(イ)が被告標章(2)と類似することを前提とする被告標章(2)の差止請求は、その余の点について検討を加えるまでもなく、理由がない。
3 被告標章(3)は、別紙第一目録(3)記載のとおり、丸味を帯びた書体の片仮名「マツクバーガー」が左横書きされた構成であるところ、右のうち「マツク」の部分が原告標章(イ)のうちの「Mac」の部分と観念及び称呼において類似し、また被告標章(4)は同第一目録(4)記載のとおり、丸味を帯びた書体の片仮名「マツク」が左横書きされた構成であり、それが原告標章(イ)のうちの「Mac」の部分と観念及び称呼において類似するが、右被告標章(3)及び(4)を原告標章(イ)と対比してこれをおのおの全体的に観察するときは、右被告標章はいずれも原告標章(イ)と類似しないものといわざるを得ない。
そうすると、原告の被告らに対する原告標章(イ)が被告標章(3)及び(4)と類似することを前提とする被告標章(3)及び(4)の使用の差止請求も、その余の点について検討するまでもなく、理由がない。
(三) 原告標章(ロ)、(ハ)及び(ニ)と被告標章(2)、(3)及び(4)との類否について1 原告標章(ロ)は、別紙第三目録(ロ)記載のとおり、普通の書体の片仮名「ビツクマツク」の文字が左横書きされた構成、原告標章(ハ)は、同第三目録(ハ)記載のとおり、普通の書体の片仮名「マツクフライポテト」の文字が左横書きされた構成、原告標章(ニ)は、同第三目録(ニ)記載のとおり、普通の書体の片仮名「マツクシエイク」の文字が左横書きされた構成であるところ、被告標章(2)は前説明の構成からなる原告標章(ロ)、(ハ)及び(ニ)と「まつく」の称呼及び観念において、被告標章(3)及び(4)は原告標章(ロ)、(ハ)及び(ニ)と「マツク」の外観、「まつく」の称呼及び観念において、それぞれ類似し、結局被告標章(2)、(3)及び(4)は原告標章(ロ)、(ハ)及び(ニ)とそれぞれ類似するものというべきである。
(四) 原告の商品と被告らの商品との混同について1 原告標章(ロ)、(ハ)及び(ニ)と被告標章(2)、(3)及び(4)がそれぞれ類似することは前説明のとおりである。しかしながら、前認定のとおり、原告標章(ロ)は商品ハンバーガー、原告標章(ハ)は商品フライポテト、原告標章(ニ)は商品ミルクシエイクについて使用され、それぞれの商品を示す表示として広く認識されている標章であるのに対し、被告標章(2)、(3)及び(4)はいずれも商品ハンバーガーについて使用されている標章であり、しかも原告標章(ハ)及び(ニ)にはその商品を示す文字が標章の一部を構成しているのである。
従つて、原告の商品フライポテト又はミルクシエイクを購入しようとする者が誤つて被告の商品ハンバーガーを購入するということはおよそ考えられないことであるし、そのように誤つて購入するおそれがあることを認めるべき証拠もなく、かえつて後に説明するとおり原告と被告らとの販売方式の相違から原告の商品と被告らの商品との混同のおそれは存しないものというべきである。次に、原告の商品ハンバーガーを購入しようとする者が誤つて被告らの商品ハンバーガーを購入するおそれがあるか否かについて考えるに、前説明のとおり商品について使用されている標章が類似し、且つ商品も同一であるけれども、この場合も次に説明する原告と被告らとの販売方式の相違から商品の混同のおそれは存しないというべきである。
2 原告の販売方式は、すなわち、前認定の事実によれば、原告の商品はすべて原告の直営店で販売され、どの店舗も、原告の店舗であることが容易に判るような色彩鮮やかな大きな看板掲げられ、また各商品の写真及びその商品名、すらわち原告標章(ロ)、(ハ)及び(ニ)が記載されたメユーが掲示されており、店員はそろいの制服・制帽を着用し、商品の包装・容器も原告独自のものに統一されており、
しかもこの販売方式が広く報道され、この販売方式が原告の爆発的な売上げの増加の一つの原因であり、従つてまた原告標章(ロ)、(ハ)及び(ニ)がそれぞれの商品を示す表示として広く認識されることにもなつたのである。
ところで、成立について争いがない甲第七八号証、証人【B】の証言によれば、
被告マツク産業のハンバーガーの販売は、昭和四六年六月以降すべて被告マルシンフーズの所有に係る自動販売機を全国の大都市の誤楽場、百貨店、スーパーマーケツト、工場、病院などに設置して行われ、自動販売機には当初被告標章(1)が表示されていたが、昭和四八年六月以降その表示はされておらず、被告標章(2)が表示され、その自動販売機にコインを入れて三種類のハンバーガーの好みのもののプツシユボタンを押すと、被告標章(2)、(3)及び(4)が付された容器及び包装に納められたハンバーガーがコイン挿入後約一分の後に受口に出てくるものであることが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
右認定の事実によれば、被告マツク産業は自動販売機のみによりハンバーガーのみを販売しているもので、その販売方式は前説明の原告会社の販売方式とは全く異なる。この販売方式の相違は顕著であつて、このため原告の商品と被告らの商品とが混同するおそれは存しないものと認められる。
原告は、販売方式の違いは商品の混同のおそれを否定する事実たり得ないと主張し、商人【C】は、原告の商品と被告マツク産業の商品とが混同したことがあつた旨供述するが、同証人のその余の供述部分によると、混同があつたというのは被告マツク産業が自動販売機でハンバーガーを販売し始めた当初のことで、被告標章(1)が自動販売機に表示されていた当時のことであると認められ、他に現に商品の混同が生じていること及び将来生ずるおそれがあることを認めるに足りる証拠は存しない。原告の主張は理由がない。
また、原告は、原告において将来自動販売機による販売方式を採用することがないとはいえないし、他方被告らが今後店頭販売を行わないとの保証もないから、混同のおそれがないとはいえないと主張する。しかしながら、
証人【C】の証言によれば、原告が将来自動販売機によつて商品を販売するかどうかは現在全く未定であることが認められるし、また被告らが将来店頭販売することを認めるべき証拠はないから、原告の右主張は全くの仮定的事実を前提とするものであつて、この仮定的事実から原告の商品と被告マツク産業の商品とが混同するおそれがあるものと認定することはできない。原告の主張は理由がない。
そうすると、原告の被告らに対する原告標章(ロ)、(ハ)及び(ニ)と類似する被告標章(2)、(3)及び(4)を使用した被告らの商品ハンバーガーを販売して原告の商品と混同を生ぜしめるおそれがあることを前提とする被告標章(2)、(3)及び(4)の使用の差止請求も、その余の点について検討することまでもなく、理由がない。
三 以上のとおりであるから、原告の被告らに対する不正競争防止法第1条第1項第1号及び第二号に基づく請求は、理由がないので、棄却すべきである。
不正競争防止法第一条の二に基づく請求について
損害賠償請求について 被告らの被告標章(2)、(3)及び(4)を使用する行為が不正競争防止法第1条第1項第1号及び第二号に該当するものと認められないことは前説明のとおりであるから、原告の被告らに対する被告らが被告標章(2)、(3)及び(4)を使用したことを理由とする損害賠償請求は、既にこの点において理由がない。
また、被告らが以前被告標章(1)を使用したことは被告らの自認するところ、
仮に被告らの被告標章(1)の使用が右法条に該当するものであるとしても、被告らが被告標章(1)を使用したことによつて原告が被つた損害についての立証がない。更に、本件が仮に、被告らが挙げた利益額をもつて原告が被つた損害額であると推認することが許される場合であるとしても、被告らが被告標章(1)を使用して混同を生ぜしめたことによつて挙げた被告らの利益の額を認めるに足りる証拠がない。
右のとりであるから、原告の被告らに対する不正競争防止法第1条の2第1項に基づく損害賠償請求は、理由がないので、棄却すべきである。
二 謝罪広告請求について 被告らの被告標章(2)、(3)及び(4)を使用する行為が不正競争防止法第1条第1項第1号及び第二号に該当するものと認められないことは前述のとおりである。
ところで、被告らが以前被告標章(1)を使用したことは被告らの自認するところ、仮に被告らの被告標章(1)の使用が右法案条に該当するものであるとしても、被告らが被告標章(1)を使用して味が劣るハンバーガーを販売したため、原告のハンバーガーの販路が妨害され、原告が金銭をもつては償い難い営業上の信用を害されたことを認めるに足りる証拠はない。また、成立について争いがない甲第七九号証ないし第八一号証、証人【C】の証言によれば、昭和四八年五月二七日子供が被告らのハンバーガーの自動販売機の取出口に手をはさまれた事故があり、これが同月二八日の日刊紙に報道され、そのため右事故が原告会社の商品販売に関する事故ではないかと原告会社に二、三電話で問い合わせがあり、原告会社が迷惑を受けたことが認められるところ、仮に自動販売機に当時被告標章(1)が表示されていたことによつて原告が右認定のとおりの迷惑を受けたものであるとしても、その程度のことによつて原告が謝罪広告をもつてしなければ回復することができないほどの営業上の信用を害されたものとは認められない。
その他、原告の謝罪広告請求を理由あらしめるにたる立証はない。
右のとおりであるから、原告の被告らに対する不正競争防止法第1条の2第3項に基づく謝罪広告請求も理由がないので、棄却すべきである。
よつて、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとお
り判決する。
裁判官 高林克巳
裁判官 小酒禮
裁判官 清永利亮