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事件 平成 15年 (ワ) 13028号 実用新案権侵害差止等請求事件
原告 ジェイディジャパン株式会社
訴訟代理人弁護士 松村信夫
同 塩田千恵子
同 坂本優
補佐人弁理士 板垣孝夫
同 笹原敏司
同 原田洋平
被告 株式会社古川
訴訟代理人弁護士 高橋浩文
補佐人弁理士 加藤久
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2005/03/31
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は、別紙物件目録(2)、(3)記載の商品を輸入し、譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示してはならない。
2 被告は、その所有に係る前項記載の物件を廃棄せよ。
3 被告は、原告に対し、金717万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成15年12月20日から支払済みまで、年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は、被告の、いわゆるキックスケーターの輸入販売行為について、原告が、原告の周知商品等表示である商品形態に関する不正競争防止法2条1項1号所定の混同行為であることを理由として差止及び損害賠償請求をする訴訟である。なお、本訴と併合して、久鼎金屬實業股?有限公司(以下「訴外久鼎」という。)が被告に対し、被告の、同一ないし同種商品の輸入販売行為が、同訴外人の有する実用新案権を侵害するものであることを理由とする差止及び損害賠償が提起されていたが、同請求事件は分離されている。
1 基礎となる事実(証拠等によって認定した事実は末尾に証拠を掲げた。それ以外は争いのない事実である。) (1) 原告は、平成12年から、訴外久鼎が製造した別紙物件目録(1)記載の商品(以下「原告商品」という。)を輸入し、「RAZOR」又は「JDRAZOR」という商品名で販売している。(甲6(枝番を掲げない限り枝番は全部含む。
以下同じ。)) なお、原告は、輸入販売開始月を平成12年4月と主張している。
(2) 被告は、平成15年4月ころから、別紙物件目録(2)、(3)記載の構成からなる商品(商品名「SCOOTER」。以下、別紙物件目録(2)記載の物を「被告商品1」、同目録(3)記載の物を「被告商品2」といい、両者をまとめて「被告商品」という。)を輸入、販売している。(輸入販売開始月については、乙25の1) なお、被告商品2は、被告商品1から「定位体」(ハンドルホルダーも含む。)を取り外した物である。被告は、被告商品1は、遅くとも平成15年7月1日より新規販売をしておらず、同年9月以降は被告を通じて店頭販売されている被告商品1は基本的に存在しないと主張している。(弁論の全趣旨) 2 争点 (1) 被告商品の輸入販売は、原告の周知商品等表示に対する不正競争防止法2条1項1号所定の混同行為に該当するか。
(原告の主張) ア 原告商品の形態(訴外久鼎の有する実用新案に係る「二輪車の取り外し可能ハンドル」部分を除いたもの。以下同じ。)の商品等表示性 原告商品は、以下のとおりの形態的特徴を有し、そのこれまでのスケートボードにはない新規特異な形態の特徴によって、強い自他識別力を有しているため、原告商品が市場に登場した直後に商品等表示性を有していた。特に、@そのスポーティーでコンパクトな全体的な構成と、A黒いハンドル部分を除き全体的にアルミ合金素材のため銀色であり、金属的でシャープな印象を与えている外観、及び、B2つに簡単に折り畳め、携行が容易である点を特徴とし、特に自他識別性の強い点は、以下の形態のうち、(ア)a(b)(アルミ合金で塗装のない点)、b(a)B(ボード部の形状)、(b)B(ハンドルから前輪部にかけてのジョイントパイプなど)、C、D(ハンドルポスト)、E(把手取付部分と把手)、(b)Fと(c)@(前輪部と後輪部の素材や色彩)、(イ)(折畳み携帯時の形状、折畳み収納装置の形態)である。
また、仮にそうでないとしても、原告商品の形態は、これまでのスケートボードにはない新規特異なものであったがゆえに、平成11年4月ころの日本における発売以来、青少年を中心に注目され、平成12年3月、4月ころには一大ブームになった。これに加えて、原告は、莫大な費用を投入して精力的に広告宣伝を行い、その際、必ず商品の写真を掲載していたことからすれば、少なくとも平成12年秋には、原告商品の形態は、二次的出所表示機能を取得し、原告の商品等表示になっていた。
(ア) 使用時の形態 原告商品の使用時の商品形態は、別紙物件目録(1)添付写真(A)の形態のとおりである。原告商品の形態の具体的な構成態様は、概略以下のとおりである。
a 全体的構成(基本的構成態様) (a) 原告商品は@長さ約40センチメートル、幅約10センチメートルの矩形をした踏み板(ボード)と、A上記踏み板(ボード)の前端に(折畳み収納装置を介して)高さ約50センチメートル弱の円筒形部分と、円柱部に垂直にチューブにより折畳み自在に装着された約35センチメートル強のハンドル及び直径約10センチメートルの前輪部と、B上記踏み板(ボード)の後端に接合した二本のホークによって支持された直径約10センチメートルの後輪部と、C同じく上記踏み板後端に弾力性部品と固定ねじによって接合された車輪カバーを兼ねる後輪ブレーキ装置より構成されている。
(b) 商品の主要部分がアルミ合金(一部スティール)を素材とし、
塗装が施されていないため、全体的に金属的でシャープな印象を与えている上記のような特徴を備えたスケートボード(キックスケー夕ー)である。
b 個別的構成(具体的構成態様) (a) 踏み板(ボード)部は、
@ 上部中央部分に、前後に長い長楕円形の形状をした着色されたすべり止めテープが存在し、その上には白色で商品名が記載されている。
A 前後端部には、着色された成型プラスチックで作成された保護カバーが装着されている。
B 矩形の踏み板(ボード)の左右両端が下部内側に向かって傾斜している。
(b) ハンドル及び前輪部 @ ハンドル部下方には、折畳み収納装置によって踏み板(ボード)前端と接合された円筒形へッドチューブが存在する。
A その下端が左右一対のホークで前輪と接合する円筒形で中空の定位チューブが上記へッドチューブ内に嵌合している。
B 定位チューブの上部には、下部の内径が上部の内径よりやや太い円筒形で中空のジョイントパイプが存在し、定位チューブの上部がジョイントパイプの下部(内径が上部よりやや太く作られている部分)に嵌合し、ジョイントパイプ下部に設けられた固定バンドにより、両者は一体に回動するよう固定されている。
C ジョイントパイプの上部には、上端にT字形の把手取付部分を有する円筒形のハンドルポストが上下に伸縮自在に嵌合されている。
D 上記ハンドルポストは、使用者の身長等にあわせて上下に伸縮することができ、伸縮によって定位置が決定されると、ジョイントパイプ上端にある偏心レバー付固定バンドを操作することによって定位置に固定することができる。
E ハンドルポスト上端には、上記ハンドルポストと一体をなすT字形の把手取付部分が存在し、上記パイプの左右には、各々一本のパイプからなる左右一対の把手が着脱自在に嵌合されている。
上記把手には発泡ウレタンで作成された両端がやや太く、両端からやや中央部よりの位置に各々絞りがあり、中央部に向かってややふくらみを持たせた着色された把手カバー一対が装着されている。
F 前輪部は、定位ポスト下端から下方に伸びた一対のホークによって支持され、直径約10センチメートルの半透明の硬質ポリウレタン製車輪とスポークから成っている。
G 使用者がハンドルポスト上端のT字把手を左右に操作することによって、上記ハンドルポスト及びこれと偏心レバー付固定バンドや固定バンドでそれぞれ固定されたジョイントパイプ及び定位ポストが左右に回動をなし、これに伴って定位ポストの下端にある前輪が左右に回動して、スケートボードの進行方向を左右に変えることができる。
(c) 後輪部は、
@ 前記のように、ボード後端に接着された二本のホークによって支持され、前輪と同じく、直径10センチメートルの半透明の硬質ポリウレタン製の車輪とスポークから成っている。
(d) 後輪ブレーキ部は、
@ 全体として、半円弧状の後輪の車輪カバーのごとき形状を成し、その一端が、後端部に弾力性部品と固定ねじをもって接合され、かつ上記弾力性部品がボード部で車輪カバーを押し上げ、常態時には後輪と適当な距離を保つよう配慮されている。
A 使用者が片足のかかと部分を上記ブレーキの円弧上部に乗せ、
スケートボードを減速又は停止する場合には上記片足かかと部を強く下方に踏み込むことにより、ボード後輪との接合部に位置する弾力性部品が圧縮され、半円弧状のブレーキ部分の下側にあるブレーキカーブ面が後端と接触し、上記接触による摩擦の大小によりスケートボードの走行を減速、又は停止することができる構造になっている。
(イ) 折畳み携帯時の状態 使用者が原告商品を使用しない時には、
a 前記(ア)b(b)において説明したジョイントパイプに対して上下に伸縮自在に嵌合されたハンドルポストを、ジョイントパイプに嵌合された定位チューブの筒内に存在するポスト受けチューブに接着する位置まで下方に押し下げ、偏心レバー付固定バンドで定置し、
b 次に、ボード前端部分に存在する折畳み収納装置の偏心レバーを開放し、へッドチューブ、定位チューブ、ジョイントパイプ及びハンドルポストを前記後端ブレーキ部上端に接着するまで押し倒して、これを簡易に携行することができる。
上記折畳み時の原告商品の形態は、別紙物件目録(1)添付写真(B)のとおりである。
周知性 原告商品は、成人向けの遊技・スポーツ用具として若者を中心とする一般消費者を需要者として、全国的に販売されたが、発売直後からその特異な形態と利便性から人気を集め、平成12年3月、4月ころには一大ブームになり、売上は本訴提起時の平成15年12月までに約100億円にも上った。これに加えて、原告は、莫大な費用を投入して精力的に広告宣伝を行い、その際、必ず商品の写真を掲載していた。それにより、原告商品の形態は、少なくとも平成12年秋には、原告の商品等表示として周知となっていた。
ウ 被告商品の類似及び混同 被告商品の形態は、原告商品の形態と酷似している。被告がこのような極めて類似した被告商品を販売することは、販売店等の取引業者及び若者等の需要者をして、被告商品と原告商品との出所を混同するか、あるいは両商品の提供主体に法律上・経済上何らかの関連があるのではないかとの混同を生じるおそれがある。
技術的形態除外論について 被告は、@ハンドル操作により方向調節が可能((ア)b(b)G)、Aハンドル部分の高さを一定限度調節できる((ア)b(b)D)、B折り畳むことによって簡易に携行できる((イ))、C車輪カバーを兼ねる後輪ブレーキ装置で減速停止できる((ア)a(a)C、(ア)b(d)A)、Dハンドルについて左右一対の把手が着脱自在に嵌合されている((ア)b(b)E)について、技術的形態なので、商品等表示性を欠くと主張する。
しかし、その余の形態、例えば、@T字型を形成したハンドルの把手や把手の両端に発泡ウレタンで作成された把手カバーが装置されていること、Aについてはハンドル部分の高さを調整するためのジョイントパイプの素材や下端部の内径が上部の内径より太く構成されているため全体が緩やかに外側に膨出した形状、
Bについては半円弧状に形成された折畳み収納装置の形態、Cについては後輪ブレーキ装置が半円弧状の形状を有し、車輪カバーとしての形態・機能を併存していること、Dについては着脱自在の把手がT字型のハンドルポストに嵌合されている形状や把手に装着された把手カバーの形状などは技術的機能に由来することがない商品形態である。
また、原告商品の形態において技術的機能に由来する点があったとしても、原告商品の自他商品識別力が強い場合等には商品等表示として保護されるべきである。そして、原告商品は、その斬新で独創的な形態や原告による広告宣伝により周知性を獲得し、その自他商品識別力は非常に強いものであるから、出所表示機能が認められるべきである。
(被告の主張) ア 商品等表示性及び周知性について (ア) 原告商品の形態とその構成が概ね原告主張のとおりであることは認める。
(イ) しかし、過去及び現在流通している他社の関連類似商品は、その求める機能上従前よりどれも似たり寄ったりの形態になっている。
要するに、「運転するときハンドル付の細身のスクーターバイクのような形になることはもちろん、ハンドル操作によって方向が調節でき、ハンドルの高さを調節でき、さらに折り畳むことによって持ち運びができる」という特色と形を有するキックスケーターは、半透明のタイヤのものも含め、平成11年冬から平成12年春にかけて各メーカーがこぞって販売していた。例えば、「キックスケートボード街乗りテクニック&カスタム入門」(平成12年5月1日発行。乙37号証)に記載されているとおり、原告が強調している形態を備えている「タミ・タロス」「マイクロ・ロングスケートスクーター」が、同日以前に、違う出所から販売されている。
(ウ) 原告が、原告の主張アにおいて主張する形態のうち、ハンドル操作により方向調節が可能((ア)b(b)G)、ハンドル部分の高さを一定限度調節できる((ア)b(b)D)、折り畳むことによって簡易に携行できる((イ))、車輪カバーを兼ねる後輪ブレーキ装置で減速停止できる((ア)a(a)C、(ア)b(d)A)、
ハンドルについて左右一対の把手が着脱自在に嵌合されている((ア)b(b)E)などは、いずれも特定の技術的機能自体が強調されているか、その技術的機能を発揮させるための構造が主張されているにすぎない。このような技術的形態に関する特徴は、そもそも商品表示性を基礎付けるための材料となり得ない。
また、そもそも技術的機能自体の模倣は許容される状況下において、
同一の技術的機能を有する形態が多数出回ってきた現状においては、それらが出所表示機能を取得する要素にはなり得ない。
(エ) このような技術的に関連する基本的形態及びそれより生ずる全体的特徴を前にしては、原告が差異を強調しようとする形態「@そのスポーティーでコンパクトな全体的な構成と、A黒いハンドル部分を除き全体的にアルミ合金素材のため銀色であり、金属的でシャープな印象を与えている外観」というものは、そもそも曖昧模糊とした評価であり、また、アルミという素材の選択やメタリックな色合い、「シャープ」な外観といった特徴も、メーカーであれば誰でも選択し得るようなもので、それ自体、もともと独立して商品等表示性を取得しがたい。
仮に、原告商品の形態を個別的に見て何らかの特徴的な点が存するとしても、それは結局のところ、従前より市場に広く出回っている多くのキックスケーター等の全体的な外観ないし普遍的な形態を前にしては、独立して個性を発揮しているとまではいえず、その主張する商品形態は周知商品等表示にまで至り得ない。
(オ) 原告商品販売開始後の間もない時期に違う出所が表示された同種商品の流通によって、原告商品の形態が有していたもともと弱かった新規性、特徴性もさらに弱まり、ついにはその商品形態自体の斬新性がなくなり、その形態が出所表示機能を有するに至らないまま現在を迎えているのである。
類似性及び混同について 被告商品は、原告商品より一回り小さく、材質でもアルミ合金は踏み板部分にしか使っておらず、決して「全体的にアルミ合金素材のための銀色であり、
金属的でシャープな印象を与えている外観」などを有しているものではない。被告商品は、原告商品の持つ重量感や高級感からは格段に劣るものであり、値段的にも外形的にも機能的にも、誤認混同のおそれは生じない。
(2) 原告の損害 (原告の主張) ア 不正競争防止法5条1項による損害 600万円 被告の被告商品1台当たりの利益額は200円であり、被告は、平成15年4月ころから被告商品を少なくとも3万台販売している。したがって、被告が被告商品の販売により得た利益は、600万円(200円×3万台)を下らない。
イ 本訴弁護士費用 117万円
当裁判所の判断
1 争点(1)(混同行為)について (1) 商品の形態は、商品の機能を発揮したり、商品の美感を高めたりするために適宜選択されるものであり、本来的にはその商品の出所を表示する機能を有するものではないが、特定の商品形態が同種の商品と識別し得る独自の特徴を有し、かつ、それが長期間にわたり継続的にかつ独占的に使用されたり又は短期間であっても強力に宣伝されるなどして使用されたような場合には、結果として、商品の形態が、商品自体の機能や美観等の観点から選択されたという意味を超えて、自他識別機能又は出所表示機能を有するに至り、その出所表示機能が需要者の間で広く認識されることがあり得るというべきである。
(2) 証拠(甲14、19ないし24、乙1ないし9、37(枝番のあるものは枝番も含む。)によれば、次の事実が認められる(重要な証拠については認定の末尾に再掲する。)。
ア 運転するときL字型でハンドル付の細身のスクーターバイクのような形になり、ハンドル操作によって方向が調節できるというキックスケーターは、子供用の玩具としては古くからあったが、成人用としては、昭和50〜60年代に、3輪でペダル式のもの(ローラースルーGOGO7)、折り畳むことによって持ち運びができる3輪のもの(ジョイスケート)が販売されていた。(甲14) イ 平成11年末から平成12年初めにかけては、2輪でT字型ハンドル付きで踏み板が矩形で、大型の折畳みができない「ROLLERBORD」、ハンドルではなくスティック付で3輪であるが、スティックの高さをクイックリリース機構で調節でき、2つに簡単に折畳みができて携行が容易で、車輪が直径10p程度の半透明の樹脂製で車輪カバーを兼ねる後輪ブレーキ装置を備え、スティック及び踏み板の前後が金属製で銀色の「キックボード」、4輪でT字型ハンドル付きで踏み板が矩形の「チロ・スケーター」、一本だけ突き出したハンドルの高さを調整でき、踏み板が梯子状になっており、後輪が二輪になっている「IZボード」、原告製品とは、ほぼ同じである「マイクロ」、及び原告商品などが市場に存在した。また、平成12年初めには、2輪で折畳みができる「MP-10ダックス」が発売された。(甲14、19ないし24) このうち、「キックボード」は、ブームの火付け役とされ、その商標がキックスケーターの総称のように使われていたものである。(甲14の8頁・75頁、乙10、乙37の26頁) また、「マイクロ」は、マイクロ社が訴外久鼎の承諾の下に、原告製品と同じ工場で製造してヨーロッパ向けに販売したのが日本に輸入されたもので、日本国内でも相当数販売されていた。(甲14の16頁・78ないし80頁、乙37の16頁) もっとも、平成12年4月ころには、「キックスケートといえば「レーザー」というのは昔の話。2000年4月を境に続々と新ブランドが登場」「おなじみのレーザー」とキックスケーターを紹介する本に書かれるほど、キックスケーターの中では原告商品が人気がありよく売れていた。(乙37の10頁・11頁) ウ 平成12年4月から6月にかけては、キックスケーターにおいて、T字型ハンドル操作によって方向が調節でき、2つに簡単に折畳みができて携行が容易で、ハンドルの高さ調節ができ、後輪カバーがブレーキとなっているものとして、
半透明の車輪でハンドル部は持ち手以外が銀色で、踏み板は「メタリックでクールな質感」と評される「ストーム」、半透明の車輪でハンドルの一部と踏み板が銀色の「タミ・タロス」、踏み板とハンドルの一部以外が銀色の「フェザー」、ハンドル(U字型)の縦棒が銀色の「キックホップ」、「マックスウエル」、アルミ製ボディでU字型ハンドルの「ピッコロ」のほか、「ノーペッド」、「ストリートボード」も販売されるようになった(ただし、「タミ・タロス」は、平成12年8月ころ、訴外久鼎が模倣品であるとして申立てた仮処分によって販売が差し止められた。)。(乙37) エ 平成16年2月ころには、キックスケーターにおいて、T字型ハンドル操作によって方向が調節でき、2つに簡単に折畳みができて携行が容易で、ハンドルの高さ調節ができ、後輪カバーがブレーキとなっているものとして、車輪が半透明の、「ラビット」、「ジャストスタート」、「ピラニア」や、上記特徴に加えて多くの部分が銀色の「キックスケーター」、「スタースティック」、「ズーム」、
「スクーターズ」、「スクーター・プロ5181」が存在し、前記「キックボード」も二輪でW字型ハンドル付きとなっていた。(乙1ないし9) (3) 原告のした宣伝、広告は次の内容である(甲7ないし13)。
ア 平成12年7月に一度、読売新聞のスポーツ欄又はテレビ・ラジオ欄の下部に三段抜きで全国的に原告商品を広告した。また、原告は、同月、西日本新聞にも一度、同様の広告をした。
イ 平成12年7月から同年10月にかけて、雑誌「Ollie」に3回、
同年9月に雑誌「Hoo」に1回、同年10月から平成14年4月にかけて雑誌「Lightning」に5回、各1頁の広告をした。
自転車業界の業界紙に、平成12年9月から平成13年12月にかけて、9回にわたり半頁の広告をした。
ウ 平成13年11月に東京ビッグサイトで行われた東京国際自転車展に原告商品を出展し、これを得意先に通知した。
(4) 以上の事実によれば、原告商品の形態商品等表示性については、次のとおりと認められる。
ア 原告商品は、キックスケーターとして、T字型ハンドル付きの2輪で、
小型でかつ2つに簡単に折り畳めることを兼ね備えている点に係る形態においては特徴を有するものであったということができるかもしれない。しかし、上記特徴を有するキックスケーターは、平成12年4月ないし6月ころには多くの商品が販売され、そのまま現在に至っているものであるところ、原告の主張によっても、原告が原告商品の販売を開始したのは平成12年5月ころというのであるから、原告のした前記(3)の宣伝を前提にしても、原告商品の上記特徴が、原告の商品等表示となったとは考え難い。
なお、訴外久鼎の商品等表示となる可能性について検討しても、原告の主張によっても、訴外久鼎が「RAZOR」又は「JDRAZOR」の製造輸出を開始したのは平成11年4月ころというのである。そして、上記特徴は、小型である点と2つに簡単に折りたためる点は「キックボード」において、ハンドル付きの2輪である点は「ROLLERBORD」において、それぞれ既に備えていたところであるから、この両商品の存在を考慮すれば、それから平成12年4月ないし6月ころまでの期間において原告商品がよく売れていたとしても、その具体的な販売状況、宣伝状況が明らかではない本件においては、この1年余の期間内に、原告商品の上記特徴が、訴外久鼎の商品等表示となっていたと認める余地もない。
イ 原告は、原告商品の形態の特徴として、A黒いハンドル部分を除き全体的にアルミ合金素材のため銀色であり、金属的でシャープな印象を与えている外観、ないしアルミ合金で塗装のない点をあげる。しかし、素材としてアルミ合金を使用することや銀色にすることは、特に意表をつくものではない素材や色合いの選択の域を出ず、需要者においてそれほど特異なものと認識されるとは認められない。のみならず、前認定のとおり、平成11年ころから販売されていた「キックボード」は、一部に銀色が採用されているものであるうえ、平成12年4月から6月にかけて、ハンドル付きの2輪で、小型でかつ2つに簡単に折り畳めるキックスケーターの中にも、一部が銀色のものが販売されるようになっている。このことからすれば、原告商品における黒いハンドル部分を除き全体的にアルミ合金素材のため銀色であるとの点は、他の商品との相違は、一部が銀色か全部が銀色かという程度の相違であって、同種の商品と識別し得る独自の特徴というほど需要者に認識されるとは認められない。
また、「金属的でシャープな印象」というのは、見る者の主観であって、形態ということはできない。
ウ 原告は、原告商品の形態の特徴として、第2(事案の概要)2(1)(原告の主張)アのうち、@スポーティーでコンパクトな全体的な構成、B2つに簡単に折り畳め、携行が容易である点、(ア)b(a)B(ボード部の傾斜)、(b)B(ハンドルから前輪部にかけてのジョイントパイプなど)、C、D(ハンドルポスト)、
E(把手取付部分と把手)、(b)Fと(c)@(前輪部と後輪部の素材や色彩)、
(イ)(折畳み携帯時の形状、折畳み収納装置の形態)をあげる。
しかし、上記主張に係る点のうち、ハンドル付きの2輪で、小型でかつ2つに簡単に折り畳めるという点に係る形態を除いたものは、矩形の踏み板、T字型で高さが調整できるハンドル、半透明の車輪など、特に意表をつくような素材、
色彩、形状の選択ということができないものか、又は商品全体から見れば細部の違いというべきものであって、いずれも、一般消費者が商品を見るにあたってさほど独自の特徴とはいえない。
エ そして、原告商品の上記イ、ウの点に係る形態がさほど際だつものといえないことに照らせば、平成12年4月ころにはキックスケーターの中では原告商品が人気がありよく売れていたこと、原告のした前記(3)の宣伝を前提にし、平成15年12月ころまでの売上高が約100億円であったとしても、それらが原告の商品等表示となっていたと認めることはできない。この他、原告商品について、商品等表示性が取得されたと認めるに足りる証拠はない。
(5) また、平成11年ころから、原告製品とほぼ同じである「マイクロ」が日本国内でも相当数販売されていたことは前示のとおりである。そして、「マイクロ」は、出所が原告ではないのであるから、この点だけをとってみても、原告商品の形態が、原告の商品等表示となったとは認め難いところである。
(6) 小括 以上のとおり、原告商品の形態が、原告の商品等表示となったと認めることはできないから、技術的形態商品等表示に該当するか否かや、混同の有無等その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がない。
2 結論 以上の次第であって、原告の請求は、いずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山田知司
裁判官 中平健
裁判官 守山修生