関連ワード | 周知性 / 商標登録 / 需要者 / 特段の事情 / 信義則 / 出所表示性(出所表示) / 他人の商品 / 類似性(類似) / 外観 / 印象 / 混同のおそれ(混同) / 適用除外 / 誤認混同 / 商品の形態(商品形態) / 模倣 / 類似商品 / 差止請求(差止) / 営業上の利益 / 過失 / 単位数量 / 利益額(利益の額) / 権利濫用(権利の濫用) / ライセンス / 侵害 / 著名表示冒用行為(2条1項2号) / 代理人 / 善意無重過失 / 商品表示性 / 混同のおそれ(混同) / 著名表示冒用行為(2条1項2号) / 商品形態模倣行為(2条1項3号) / 2条1項5号 / 品質等誤認表示(誤認) / 損害賠償 / |
---|
元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
---|---|
元本PDF | 裁判所収録の別紙1PDFを見る |
事件 |
平成
16年
(ワ)
1671号
不正競争行為差止等請求事件
|
---|---|
原告 ゴールドフラッグ株式会社 訴訟代理人弁護士 松本司 同 緒方雅子 同 田上洋平 補佐人弁理士 森義明 被告 清川株式会社 訴訟代理人弁護士 吉田清悟 |
|
裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 2006/03/30 |
権利種別 | 不正競争 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 被告は、原告に対し、2010万4128円及びこれに対する平成17年9月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は、これを5分し、その1を原告の、その余を被告の各負担とする。 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 |
事実及び理由 | |
---|---|
請求
1 被告は、別紙イ号物件目録記載の商品を輸入、販売してはならない。 2 被告は、別紙イ号物件目録記載の商品を廃棄せよ。 3 被告は、原告に対し、2374万5624円及びこれに対する平成17年9月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 |
|
事案の概要
本件は、原告が、ブラジャーを輸入、販売している被告に対し、(1)原告が輸入、販売しているブラジャーの形態は新規のものであり、かつ、被告が輸入、販売しているブラジャーの形態は、原告が輸入、販売しているブラジャーの形態を模倣したものであるから、被告による当該ブラジャーの輸入、販売は、 不正競争防止法2条1項3号所定の不正競争行為であり、また、(2)原告が輸入、販売しているブラジャーの形態は、原告の商品表示として著名ないし周知であり、かつ、被告が輸入、販売しているブラジャーの形態は、原告が輸入、 販売しているブラジャーの形態と類似し、これと混同させるおそれがあるから、 被告による当該ブラジャーの輸入、販売は、同法2条1項2号又は1号の不正競争行為であると主張して、@同法2条1項2号又は1号及び同法3条に基づいて、被告による当該ブラジャーの輸入、販売の差止め及び廃棄を求めるとともに、A主位的に同法2条1項3号、予備的に同法2条1項2号又は1号及び同法4条に基づいて、損害賠償を請求した事案である。 1 前提となる事実(当事者間に争いがない。)(1) 原告は、商品名を「ヌーブラ」(NuBra)といい、別紙原告商品目録第1ないし第3図に記載の商品(以下「原告商品」という。検甲1)を、 販売している。 (2) 被告は、商品名を「Leaf Bra」といい、別紙イ号物件目録記載第1ないし第3図に記載の商品(以下「イ号物件」という。検甲2)を輸入し、平成15年7月から平成17年8月にかけて販売した。 2争点(1) 不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為の成否ア 原告商品とイ号物件の形態イ 形態の新規性及び模倣性ウ 原告商品の販売開始時期エ 原告の権利主体性(2) 不正競争防止法2条1項2号ないし1号の不正競争行為の成否ア 原告商品の形態の著名・周知商品表示性イ 誤認混同及びそのおそれの有無(3) 損害の額3 争点に関する当事者の主張(1) 不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為の成否(なお、本項において、不正競争防止法というときは、平成17年法律第75号による改正前のものを指す。)ア 原告商品とイ号物件の形態〔原告の主張〕(ア) 原告商品は、以下の形態を備える。 (主位的主張)使用者の左右乳房上に独立して置かれる2個のカップよりなり、肩ひも(ショルダーストラップ)、横ベルト等の身体に装着する部材がなく、各カップの内側には粘着層を備えており、使用者が装着した際に2個のカップを連結するフロントホックが、各カップに設けられている。 (予備的主張)通常のブラジャーのカップと同様の形状を有し、使用者の左右乳房上に独立して置かれる2個のカップよりなり、肩ひも(ショルダーストラップ)、横ベルト等の身体に装着する部材がなく、各カップの内側全面が粘着層を備えており、この粘着層には、シリコンを特殊加工して粘着性を持たせた材質が用いられており、外観上の質感はゲル状であり、カップ内側は材質に起因する光沢を有しており、使用者が装着した際に2個のカップを連結するフロントホックが、各カップに設けられている。 (イ) イ号物件は、以下の形態を備える。 (主位的主張)使用者の左右乳房上に独立して置かれる2個のカップよりなり、肩ひも(ショルダーストラップ)、横ベルト等の身体に装着する部材がなく、各カップの内側には粘着層を備えており、使用者が装着した際に2個のカップを連結するフロントホックが、各カップに設けられている。 (予備的主張)通常のブラジャーのカップと同様の形状を有し、使用者の左右乳房上に独立して置かれる2個のカップよりなり、肩ひも(ショルダーストラップ)、横ベルト等の身体に装着する部材がなく、各カップの内側全面が粘着層を備えており、この粘着層には、シリコンを特殊加工して粘着性を持たせた材質が用いられており、外観上の質感はゲル状であり、カップ内側は材質に起因する光沢を有しており、使用者が装着した際に2個のカップを連結するフロントホックが、各カップに設けられている。 〔被告の主張〕原告が原告商品及びイ号物件の形態として主張する、各カップの内側全体が粘着層を備えるという点は、形態の特徴たり得ず、外観上の質感がゲル状であるという点も、形態とは関係がない。 イ 形態の新規性及び模倣性〔原告の主張〕(ア) 原告商品は、米国法人であるBragel International Inc.社(以下「BII社」という。)が考案したものであり、平成14年10月から米国内及び台湾に輸出されて同国内で販売され、ヒットしたものである。 原告商品の上記ア(ア)記載の形態は、通常のブラジャーが有しない新規な形態であった。 上記アのとおり、イ号物件の形態は、原告商品の形態と同一であり、 イ号物件は原告商品の形態を模倣したものである。 なお、イ号物件は、原告商品より軽量で色も白色であることから、原告商品のように本物の乳房に近い肉厚感はないが、この相違は、商品全体から見れば些細な相違にすぎず、原告商品との基本的形態の同一性を打ち消すほどのものではない。 (イ) 原告商品の販売前から、これと同様の形態のブラジャーが公開特許公報等により公開されていても、これらは現実に商品化されて販売されていないから、その商品の形態は、同種の商品が通常有する形態にはならず、したがって、原告商品の形態は、同種の商品が通常有する形態にはあたらない。 肩ひもや横ベルト等の部材を用いず、各カップの内側に粘着層を備えるという形態は、ブラジャーという商品の機能・効用のため不可避な商品形態ではないから、原告商品の形態は、機能・効用のため回避できない商品形態でもない。 (ウ) BII社の「Gel Bra」は、ブラジャーに縫いつけられたゲル状のパッドであり、粘着性はなく、これ自体をブラジャーの代わりに使用することは不可能であるから、原告商品と異なりフロントホックを有していない。したがって、原告商品と「Gel Bra」は、形態を異にする。 ブラザブラ社の「Magicups」は、専用シールで肌に貼り付けるカップにすぎず、ブラジャーではない。しかも、下記の各点で原告商品と「Magicups」は形態を異にする。 @ 原告商品には、平坦部分がなく、カップ本体の部分しか構成せず、 カップ内側前面が粘着性を有しているのに対し、「Magicups」は、カップ本体と下側平坦部分の構成に分けられ、下側平坦部分のみが粘着性を有する点A 原告商品は、カップ自体の内側全体に粘着層を備えているのに対し、 「Magicups」は、カップ自体に粘着層がなく、カップ下側の平坦部分に専用シールを塗着することによって、その部分のみ粘着性を有するにすぎない点B 原告商品は、各カップを結合するホックを有しており、これによって、いわゆる「胸を寄せて上げる」効果を奏することができるのに対し、「Magicups」は各カップを結合する部材はなく、単に乳房を覆う機能を有するのみである点C 原告商品は、シリコン製であって、人間の皮膚を思わせるような外観、質感及び印象を呈し、皮膚に粘着したときに違和感がない形態のカップであるのに対し、「Magicups」は、ポリエステル素材であるため、皮膚に粘着した際にごわごわした感触を払拭することができず、非常に軽量で、人間の乳房を彷彿させる光沢感、質量感を有しない点しかも、「Magicups」は、日本国内で一時的に販売されたことはあるが、需要者にほとんど認識されることすらなかったのであるから、この形態がブラジャーの一般的な形態になったとはいえない。 ブラザブラ社の「Swivelift」は、「Magicups」に各カップを結合するホックを付けたものであるから、上記@、A及びCと同様に原告商品とは形態を異にする。 しかも、「Swivelift」は、日本国内で販売されたこともなく、「Magicups」以上に需要者に認識されなかったのであるから、この形態がブラジャーの一般的な形態になったともいえない。 〔被告の主張〕(ア) 原告商品の形態は、通常のブラジャーが有していない新規な形態ではない。 従来のブラジャーから紐を取り外せたのは自動接着性を付与したからであり、これは機能や考案の問題であって形態の問題ではなく、ブラジャー自体の形態に変化をもたらしたということはできない。 縦紐・横紐とも存在しないブラジャーで、シリコンによる粘着性を利用したものは、十数年前からフランス、イタリア等ヨーロッパ諸国で売り出されていたし、米国でも、平成2年ないし平成3年ころから、43種類を超える縦紐・横紐とも存在しないブラジャーが、多数社によって商品化されており、紐なしブラジャーの通常形態はそのころから変化はない。 また、平成14年より以前から、特許公報等に、縦紐・横紐とも存在しないブラジャーが掲載されている。 原告商品の形態も、これらと差異はなく、同種の商品が通常有する形態ないしこれに些細な変更を加えたものにすぎない。 (イ) 原告商品自体、中国や台湾の他社製品を模倣したものにすぎず、 中国において製造されたものを、原告に転売しているものである。 イ号物件は、平成12年にはメーカーにおいて開発済みであったものであり、原告商品を模倣したものではなく、むしろ先発メーカーであった。 (ウ) 原告商品は、「Gel Bra」の基本的形態を変えないで、米国法人であるブラザブラ社が平成9年から販売した「Magicups」の形態を模倣し、同社が平成14年4月から販売した「Swivelift」にあるコネクターを付けただけのものであり、「Swivelift」の形態を模倣したものともいうべきである。 原告商品は、カバーに薄いポリウレタンなどを使用しているが、これは機能的な改良にすぎず、形態とは関係がない。 (エ) 原告商品の中身はシリコンゴムであり、イ号物件の中身はシリコンフォームであることにより、その包皮に視覚的相違がある。 ウ 原告商品の販売開始時期〔被告の主張〕(ア) 原告商品は、米国において、平成9年から(米国特許商標庁の記録によれば、平成12年3月1日から)販売されており、既に3年が経過している。 なお、上記米国特許商標庁の記録は、BII社による出願書類に基づくものであるところ、これが虚偽であったとの主張は、禁反言の原則に照らして許されない。 また、イ号物件を被告に輸出した台湾法人であるト亨達有限公司(以下「ト亨達社」という。)は、上記米国特許商標庁の記録を信じ、その3年の経過後を目指して日本での大々的な見本市出店を企画して、イ号物件を平成15年3月1日の経過後に販売したものである。したがって、 ト亨達社及び被告は、不正競争防止法2条1項3号による保護期間が存続していることにつき善意無過失であり、このような被告に対しては同法12条1項5号により権利行使はできず、また、このような被告に対して権利行使をするのは権利濫用かつ信義則違反である。 (イ) また、BII社は、遅くとも、平成11年(米国特許商標庁の記録によれば、平成10年)には「GelBra」という商品を販売しているが、これは原告商品と基本的なブラジャーの形態は同一であって、 ただ2つのカップをつなぐ接続パーツがないものにすぎないところ、これについても既に3年が経過している。 〔原告の主張〕原告商品の販売開始時期は、米国内において平成14年10月である。 米国特許商標庁への商標出願の際、BII社が「NuBra」という名称の商品を平成12年3月1日から販売しているとしたが、この記載は事実と異なる。 エ 原告の権利主体性〔原告の主張〕原告は、平成15年1月30日、BII社との間で、原告を原告商品の日本国内における独占的販売権者とする旨の契約(以下「本件契約」という。甲2)を締結し、同年2月1日から同商品の輸入及び販売を開始した。 このように、原告は、日本国内における独占的販売権を有するから、不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為について、同法3条及び4条の差止請求権及び廃棄請求権並びに損害賠償請求権の主体となり得る。 〔被告の主張〕原告は、単なる輸入、販売者であって、その形態の考案者ではないから、 不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為について、同法3条及び4条の差止請求権及び損害賠償請求権の主体とはなり得ない。 そもそも、BII社が法人として存在すること自体を争う。米国の信用情報にはBragel Inc.しかない。 仮に、BII社が存在するとしても、原告が主張する本件契約について、 そのBII社側で契約締結に当たった、Alice Chenなる者が、BII社を代表する権限を有していたことも争う。 さらに、原告とBII社との本件契約には、排他条件付取引条項も、一手販売権条項も存在しないから、原告が、日本国内における独占的販売権を有するとはいえない。 したがって、原告は、不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為について、同法3条及び4条の差止請求権及び廃棄請求権並びに損害賠償請求権の主体となり得ない。 また、被告は、不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為について、 その商品形態の考案者ではない販売者には同法3条及び4条の差止請求権や損害賠償請求権は認めないとの東京地方裁判所及び東京高等裁判所の裁判例を信じ、これに従っていたのであるから、善意無過失であり、このような被告に対しては同法12条1項5号により権利行使はできない。 (2) 不正競争防止法2条1項2号ないし1号の不正競争行為の成否ア 原告商品の形態の著名・周知商品表示性〔原告の主張〕前記(1)の原告の主張のとおり、原告商品の形態は、通常のブラジャーが有しない新規な形態であった。 原告は、原告商品を、平成15年2月1日から日本国内で販売開始し、 大ヒットした。 そして、原告商品は、全国のデパートや下着店で話題の商品として売り場の最前列に陳列され、テレビの情報番組、女性誌、情報誌、新聞等で頻繁に取り上げられ、平成15年のヒット商品となった。 これらの事情に照らせば、遅くとも平成15年3月には、原告商品がその形態とともに著名ないし周知となったといえ、原告商品の形態は出所表示として著名ないし周知のものとなった。 〔被告の主張〕否認ないし争う。 前記(1)の被告の主張のとおり、原告商品の形態は、新規なものではない。 イ 誤認混同及びそのおそれの有無〔原告の主張〕イ号物件の形態は、原告商品の形態と同一である。 したがって、イ号物件は、その形態から、原告商品と混同を生じさせるものであり、その出所にも誤認混同を生じさせるものである。 〔被告の主張〕原告商品とイ号物件を、包装箱や商品説明を含めて比べてみれば、需要者による出所の誤認混同は起こり得ない。 (3) 損害の額〔原告の主張〕平成15年1月から平成16年12月までの期間について計算される、原告商品の1個当たりの利益の額は、下記のとおり、2012円である。 被告は、イ号物件を、2万3604個販売した。 したがって、被告によるイ号物件の販売個数である2万3604個に、上記2012円を乗じて得られる額である4749万1248円が、原告が受けた損害の額である(不正競争防止法5条1項)。 記@ 原告商品の平均売上単価 4558円根拠 売上高 17億9404万8915円売上個数 39万3589個1,794,048,915÷393,589=4,558A 原告商品の平均経費単価 2546円根拠 合計経費 10億7731万7670円内訳 仕入金額 8億9677万5210円輸入経費 1億4212万0479円販売促進費 2587万9875円その他経費 1254万2146円※※ その他経費とは、運送経費、取扱説明書印刷代(販売促進費に含まれないもの)、倉庫保管料、シリアルナンバー貼付費用、 送金手数料である。 仕入個数 42万2987個1,077,317,670÷422,987=2,546B 原告商品の平均利益単価 @-A=2012円〔被告の主張〕ア 被告によるイ号物件の販売個数は、1万1802個である。 イ 甲第14号証の1ないし7に関し、有限会社エイム・アドシステムなる法人はその肩書地に登記されてもいない。 ウ 原告の売上げに占める純利益率は8.65パーセントであるから、売上高17億9404万8915円に対する純利益は1億5518万5231円となり、平均利益単価は394円にしかならない。 正確に計算するためには、すべて帳簿類を提出した上、公認会計士など専門家の鑑定が必要である。 エ 平成15年中の原告による原告商品の仕入販売が21万個、原告を除く他社の仕入販売や並行輸入品が29万個であった。 原告の平成15年2月の仕入れ個数を100とすると3月は200、4月は500、5月ないし8月は2000となっていて仕入れの限界に達しており、イ号物件の販売によって原告の売上げは減少しない。 |
|
当裁判所の判断
1 争点(1)(不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為の成否)について(なお、本項において、不正競争防止法というときは、特に記載のない限り、 平成17年法律第75号による改正前のものを指す。)(1) 原告商品とイ号物件の形態についてア 検甲第1号証によれば、原告商品の形態は次のとおりであると認められる。 (ア) 基本的形態a 独立した左右2個のカップから成るブラジャーである。 b 肩ひも、横ベルト等の身体に装着する部材が全くない。 c 2個のカップの相対する部分に両カップを連結するフロントホックが設けられている。 d 左右2個のカップは、いずれも眼鏡のレンズを逆さにしたような形状をしている。 (イ) 具体的形態a 全体に肉厚で、ブヨブヨして、すぐに形が崩れる柔らかい質感を有している。 b カップは、表面及び裏面とも全体に肌色のシリコンを薄いビニールで包んだような半透明上の膜で覆われ、周辺部ほど肌色が薄くなり、 表面には細かな皺が寄る。 c カップの裏面には、粘着層に由来する光沢がある。 イ 検甲第2号証によれば、イ号物件の形態は次のとおりであると認められる。 (ア) 基本的形態a 独立した左右2個のカップから成るブラジャーである。 b 肩ひも、横ベルト等の身体に装着する部材が全くない。 c 2個のカップの相対する部分に両カップを連結するフロントホックが設けられている。 d 左右2個のカップは、いずれも眼鏡のレンズを逆さにしたような形状をしている。 (イ) 具体的形態a 全体に肉厚で、ブヨブヨして、すぐに形が崩れる柔らかい質感を有している。 b カップは、表面及び裏面とも全体に乳白色で不透明の膜で覆われ、 表面には細かな皺が寄る。 c カップの裏面には、粘着層に由来する光沢がある。 ウ 上記のとおり、原告商品の形態とイ号物件の形態は、(イ)具体的形態のbにおいて、カップの表面の色及び透明性について相違するが、その余は一致する。 (2) 形態の新規性及び模倣性についてア 原告商品が、BII社から、遅くとも平成14年10月には米国で販売されていたことは、甲第7号証によって認められる。 そして、本件で提出された全証拠によっても、BII社が原告商品を販売した平成14年10月以前に、原告商品の上記(1)アの形態と同一ないし類似の形態を有したブラジャーが販売されていたことを認めるには至らない。 すなわち、乙第7、第19号証に記載された「ストラップレス・ブラ」は、単に吊り紐がないというだけで、上記(1)ア(ア)bや(イ)の形態を備えているとはいえない。また、乙第8号証の1に記載された「ストラップレス・ブラジャー」も、その前段に記載されたものはこれと同様であり、後段に記載され、図に記されているものは、フロントホックが存在しないから、上記(1)ア(ア)cの形態を備えているとはいえず、上記(1)ア(イ)の形態を備えているか否かは明らかでない。乙第8号証の2、第31号証の1に記載された「Swivelift」は、上記(1)ア(ア)の形態は有しているものの、(イ)の形態はいずれも有していない。乙第8号証の2に記載された「Magicups」及び「BrazaBra」は、(その販売開始時期は証拠上明らかではないが)いずれもフロントホックが存在しないから、上記(1)ア(ア)cの形態を有しているとはいえず、さらに、「Magicups」は、上記(1)ア(イ)の形態も有していない。乙第11号証の2に記載された「Gel Bra」は、フロントホックが存在しないから、上記(1)ア(ア)cの形態を有していない。 また、乙第15号証に記載された「Invisible Bra」は、 その形態の詳細は別として、同号証の出版時期は平成15年4月頃であると認められるから、同号証によっては、これが平成14年10月以前に販売されていたと認めることはできず、他にこれが同月以前に販売されていたと認めるに足りる証拠はない。 そして、他に、平成14年10月以前に、原告商品の上記(1)アの形態と同一ないし類似の形態を有したブラジャーが販売されていたことを認めるに足りる証拠はない。また、原告商品の上記(1)アの形態の商品を、 BII社以外の者が開発したことを窺わせる証拠もない。 したがって、原告商品の上記(1)アの形態は、新規のものであり、BII社によって開発されたものと推認するのが相当である。 イ この点につき、被告は、縦紐・横紐とも存在しないブラジャーで、シリコンによる粘着性を利用したものは、十数年前からフランス、イタリア等ヨーロッパ諸国で売り出されていたし、米国でも、平成2年ないし平成3年ころから、43種類を超える縦紐・横紐とも存在しないブラジャーが、 多数社によって商品化されており、紐なしブラジャーの通常形態はそのころから変化はないと主張するが、上記(1)アの形態あるいはこれに類似した形態を備えた商品が、平成14年10月以前に販売されていたことを認めるに足りる証拠がないことは、上記アのとおりである。 また、被告は、平成14年より以前から、特許公報等に、縦紐・横紐とも存在しないブラジャーが掲載されていると主張する。確かに、乙第31号証の4に記載されているブラジャーは、上記(1)ア(ア)の形態を備えているように見えるが、同(イ)の形態を備えているとは認められないから、これをもって原告商品の形態が、同種商品の有する通常の形態であるとはいえない。また、乙第31号証の4に記載されているブラジャーは、 上記(1)ア(ア)dの形態を備えておらず、また、同(イ)の形態を備えているとも認められないから、これをもっても、原告商品の形態が、同種商品の有する通常の形態であるとはいえない。そして、平成14年10月以前に刊行された他の公報(乙1の2、2、3)に記載された物品には、 いずれも、フロントホックが存在しないから、上記(1)ア(ア)cの形態を有しているとはいえない。 被告は、フロントホックの有無は微差である旨主張する。しかしながら、 フロントホック自体は小さな部材ではあるが、これが存在する場合には、 両カップが連結された状態で乳房に装着される形態となり、このことからブラジャーとしていわゆる「寄せて上げる」効果が生じるのに対し、これが存在しない場合には、両カップが連結されない状態でばらばらに乳房に装着される形態となるのであり、両者はその基本的形態において異なるというべきである。 さらに、被告は、原告商品自体、中国や台湾の他社製品を模倣したものにすぎないと主張するが、このような事実を窺わせるに足りる証拠もない。 したがって、これらの被告の主張はいずれも採用することができない。 ウ そして、原告商品は、上記アのとおり、平成14年10月頃から、米国において販売され、雑誌にも掲載されていたこと、上記(1)のとおり、 イ号物件の形態は、原告商品の形態と、カップの表面の色及び透明性において相違するが、それ以外は同一といえるほどに酷似していることに照らせば、イ号物件の形態は、原告商品の形態に依拠して作られたものと推認することができる。 なお、この点につき、被告は、原告商品の中身はシリコンゴムであり、 イ号物件の中身はシリコンフォームであることにより、その包皮に視覚的相違があると主張するが、検甲第1、第2号証によれば、包皮の色は格別、 それ以外の色彩や光沢、質感には大きな視覚的相違はなく、原告商品の形態とイ号物件の形態は実質的に同一であるというべきである。 また、被告は、イ号物件は、平成12年にはメーカーにおいて開発済みであったものであり、原告商品を模倣したものではなく、むしろ先発メーカーであったと主張するが、被告がイ号物件の輸出元として主張するト亨達社の広告が掲載された乙第15号証は、上記アのとおり平成15年4月頃に出版されたものであり、他に、被告の主張を裏付ける証拠はないから、 被告の上記主張は採用することができない。 エ 以上のとおり、イ号物件の商品形態は、新規の商品形態であった原告商品の形態を模倣して作られたものであると認めることができる。 (3) 原告商品の販売開始時期についてア 被告は、原告商品が、米国において、平成9年から販売されていたと主張する。 そこで、被告がその主張の根拠として援用する乙第10号証の2について検討するに、同号証は、インターネット上の通信販売サイトにおける原告商品の紹介・販売ページのハードコピーであるが、そのページ下端に「 1997-2004」と記載されていることが認められる。しかし、 c上記「 1997-」の部分は、当該ページが1997年に記載されたこ cとを示すものではなく、当該ページを含めた当該サイトが1997年に開設されたことを示すものとして用いられると解釈できるものである。とりわけ、同号証の当該表示は、ページ下端に記載された当該サイト内の他のページへのインデックスの更に下に記載されているのであるから、尚更このことが妥当する。 したがって、同号証の当該記載をもって、原告商品が、平成9年から販売されていたと認めることはできず、他に、このことを認めるに足りる証拠はない。 したがって、被告の上記主張は採用することができない。 イ(ア) 被告は、米国特許商標庁の記録によれば、原告商品が、平成12年3月1日から販売されていたと主張する。 そして、米国特許商標庁への商標出願の際、BII社が、出願書類に、 「NuBra」という名称の商品を平成12年3月1日から販売していると記載したこと自体は、当事者間に争いがない。 なお、原告は、上記記載は事実に反すると主張し、これに沿う甲第5、 第6号証を提出する。しかし、甲第8号証によれば、上記出願書類には、 その内容が真実であることを宣誓した上で、BII社副社長であるDavid E.Chenが署名したことが認められるところ、上記甲第5、第6号証の内容は、このような宣誓の上で記載された上記出願書類の記載内容に反するものであって、信用することができず、原告の上記主張も採用することができない。 したがって、BII社は、「NuBra」という名称の商品を、平成12年3月1日から販売していたものと認められる。 (イ) ところで、甲第8号証によれば、BII社は、平成13年12月3日の上記商標出願の際、商標の使用見本として、バストアップするために「NuBra」を着用しているモデルの写真(甲11と左右が逆なだけで同じものと認められる。以下「写真@」という。)を提出したこと、その後、平成14年11月14日、上記出願の手続過程において、 使用見本の追加として、「NuBra」の商品パッケージと内容物の写真(甲6に添付されている写真と同一と認められる。以下「写真A」という。)を提出したことが認められる。 したがって、BII社が平成12年3月1日から販売していた「NuBra」という名称の商品は、写真@及びAに写っている商品であると認められる。 そこで、写真@及びAを検討するに、写真Aでは、商品に2個のカップを連結するフロントホック(原告商品の基本的形態c)が設けられているかどうか定かではないものの、写真@では、フロントホックが設けられていないことが明瞭に見て取れる。 そして、上記(2)イのとおり、フロントホックがある物とない物とでは、その基本的形態を異にするというべきである。 そうすると、BII社が平成12年3月1日に販売したと認められる「NuBra」という名称の商品は、原告商品の基本的形態cを備えないものであって、原告商品と同一の形態であるとはいえない。 したがって、原告商品が、平成12年3月1日から販売されていたと認めることはできない。 ウ 被告は、遅くとも、平成11年(米国特許商標庁の記録によれば、平成10年)には、「Gel Bra」という商品が販売されており、これは、 原告商品と比べて、ただ2つのカップをつなぐ接続パーツがないものにすぎず、基本的なブラジャーの形態は同一であると主張する。 しかし、「Gel Bra」という商品に、2つのカップを連結するフロントホックが存在しないことは、被告も自認するところであり、フロントホックが存在しない商品は、原告商品と同一の形態であるとはいえないことは、上記イ(イ)で述べたとおりである。 したがって、「Gel Bra」という商品の存在をもって、原告商品と同一の形態の商品が、平成11年ないし平成10年から販売されていたと認めることはできない。 エ 以上のとおりであるから、被告によるイ号物件の販売開始以前に、原告商品ないしこれと同一形態の商品が最初に販売されてから3年が経過していたとする被告の主張は、採用することができない。 また、被告は、イ号物件を被告に輸出したト亨達社は、上記米国特許商標庁の記録を信じたものであるから、ト亨達社及び被告は、不正競争防止法2条1項3号による保護期間が存続していることにつき善意無過失であり、このような被告に対しては同法12条1項5号により権利行使はできず、また、このような被告に対して権利行使をするのは権利濫用かつ信義則違反であると主張する。しかし、前記イのとおり、米国特許商標庁に商標出願した際の「NuBra」という名称の商品は、原告商品と同一の形態ということはできない。そして、同一名称の商品であっても、例えばモデルチェンジ等により形態が変更されていることもままあることであるから、形態の確認や販売先に対する問い合わせもせずに、過去に同一名称の商品が販売されていたことから、それが現在の商品と同一形態であったと信じたとしても、そのことから直ちに過失がないとすることはできない。 被告の上記主張は採用することができない。 (4) 原告の権利主体性についてア 不正競争防止法2条1項3号が、他人の商品形態を模倣した商品の販売行為等を不正競争行為とする趣旨は、先行者の商品形態を模倣する後行者は、先行者が商品開発に要した時間、費用や労力を節約でき、しかも商品開発に伴うビジネスリスクを負うことも回避できることから、後行者と先行者との間に競争上著しい不公平が生じるが、このような後行者の行為は、 他人が資金や労力を投下した成果を盗用するものとして、競争上不正な行為であるという点にある。この趣旨からすると、同号によりまず保護の対象とされるべきは、形態を模倣された商品を開発、商品化して市場に置くに当たり、自ら費用や労力やリスクを負担した者(すなわち、開発者)である。そして同号は、開発者が、一定期間、当該商品形態を用いた市場利益を独占することを保護し、それによって、開発者が商品開発に要した種々の負担を回収することを可能にしようとするものであるということができる。 ところで、開発者が開発に係る商品を市場展開する形態は、自己の手において販売を行うものに限られず、様々な形態があり得るのであって、その中には、一定地域について、当該商品の独占的販売契約を締結し、同時に、開発者自身は当該地域において当該開発商品の取引活動を行わないという義務を負うことにする場合がある。このような場合、独占的販売権を認められた者は、結果として、当該地域における当該開発商品の市場利益を独占できる地位を得ることになるが、独占的販売権者が有するこのような独占的地位ないし利益は、後行者が模倣行為を行うことによってその円満な享受を妨げられる性質を有するものである。そして、この独占的地位ないし利益は、上記のような同号が保護しようとした開発者の独占的地位に基礎を有し、いわばその一部が分与されたものということができるから、 第三者との関係でも法的に保護されるべきものというべきである。 また、独占的販売権者は、独占権を得るために、開発者に対し、当該開発商品を流通段階で取り扱う単なる販売者には課されない相応の負担(最低購入量の定めなど)を負っているのが通常であり、開発者は商品化のための資金、労力及びリスクを、商品の独占の対価の形で回収し、独占的販売権者はそれらの一部を肩代わりしていることになるから、独占的販売権者を保護の主体として、これに独占を維持させることは、商品化するための資金、労力を投下した成果を保護するという点でも、同号の立法趣旨に適合するものである。 さらに、法文を見ても、不正競争防止法は、その2条1項において「不正競争」を定義し、同項3号では、他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡等する行為を不正競争とし、差止請求の主体について、3条1項において、「不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者」としており、損害賠償請求の主体については、4条において、 不正競争により「営業上の利益を侵害」された者を損害賠償請求の主体として予定しているものと解され、例えば特許法100条1項が差止請求の主体を「特許権者又は専用実施権者」としているのとは異なった規定の仕方をしている。したがって、独占的販売権者も、不正競争防止法2条1項3号所定の不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者に該当すると解したとしても、法文の文言上の妨げはないというべきである。 以上の点を考慮すると、独占的販売権者の有する独占的地位ないし利益は、同号によって保護されるべき利益であると解するのが相当であり、独占的販売権者も同号により保護される主体たり得るものと解するのが相当である。 もっとも同号は、その主要な要件が、「形態の模倣」という比較的簡易な要件であり、安易に適用を拡大すると、かえって自由な市場活動が妨げられるおそれがあるとも考えられる。しかし、まず3号の保護を受け得る者は、商品化を行った開発者のほかには、独占的販売権者のように独占的地位を有する者に限られ、開発者が商品化した形態の商品を単に販売する者のように独占的地位を与えられない者については、他にも同列の販売者が存することから、模倣行為によって直ちに自己の営業上の利益が害されたとはいえないため、同号の保護を受け得ないと解するべきである。そうすると、このように限定した範囲で同号の保護の主体を考えるならば、上記のような弊害を生ずることはないというべきである。 また、独占的販売権者も同号の保護主体となると解したとしても、独占的販売権者が訴訟において同号に基づく権利を行使するためには、先行者が商品化したこと及びそのような先行者から独占的販売権を与えられたことを主張立証しなければならず、先行者が訴訟において同号に基づく権利を行使する場合に比べて、商品化の点について主張立証責任が軽減されるわけではないから、この点からも、同号の適用範囲が安易に拡大されることはないといえる。 イ これを本件についてみるに、本件契約の契約書(甲2)によれば、@表題は「独占販売権契約書」(被告の訳では、「独占的販売店契約書」)とされ、A契約期間は2年間とされ、B各年ごとに年間購買量が定められ、 これに満たない場合にはBII社は契約を解除することができ、C同契約は、契約期限内にすべての条件を満たした場合のみ、自動的に2年間延長されることとされ、D地域は日本とされ、EBII社は並行輸入を防ぐ最大の努力(被告の訳では、最善の努力)をするものとする、とされていることが認められる。 これらのうち、D及びEの各条項からすると、本件契約においては、単に原告が原告商品の日本における独占的販売権を有する以外に、BII社自身も日本における販売活動をしないことが前提とされ、加えてBII社は並行輸入を防ぐための最大(最善)の努力をすることまで約定しているのであるから、原告の日本における独占的地位が最大限保障されているといえる。また、AないしCの各条項からすると、原告は、年間購買量を定めることにより、独占権を得るために販売不振のリスクを負担しているものということができる。 これらの契約内容からすると、原告は、原告商品の独占的販売権者として、不正競争防止法2条1項3号の保護を受け得るものというべきである。 なお、本件では、後記3(3)ウのとおり、上記Eの契約条項にもかかわらず、一定の並行輸入が行われたものと認められるが、上記Eの条項や並行輸入というものの性質からして、原告の独占的地位を否定するほどのものであったとは考え難いから、並行輸入が行われたことは、上記判断を左右しない。 ウ(ア) この点につき、被告は、BII社が法人として存在すること自体を争う。 しかし、上記(3)イのとおり、BII社名義で米国商標特許庁に「NuBra」の商標登録出願がされたことがあるばかりでなく、証拠(甲7)によれば、米国の雑誌「COSMOPOLITAN」2002年10月号には、原告商品がBII社の製品として紹介されていることが認められ、以上の事実によれば、BII社が存在することを認めることができる。 被告は、米国の信用情報にはBragel Inc.しかないと主張するが(なお、これを裏付ける証拠は提出されていない。)、仮に原告の入手した信用情報がそのとおりだとしても、そのことは、直ちにBII社が存在しないことを意味するものとはいえないから、上記認定を左右するものとはならない。 (イ) また、被告は、本件契約について、そのBII社側で契約締結に当たった、Alice Chenなる者が、BII社を代表する権限を有していたことと争う。 しかしながら、現に原告がBII社から原告商品を仕入れていること及び本件訴訟において証拠として提出するために、BII社が原告に対して資料の提供や事情の説明といった便宜を図っていること(甲5、6、 7、9の1ないし3、11)によれば、本件契約は原告とBII社との間で有効に成立し、効力を発生させていたものと認めることができるから、被告の上記主張は採用することができない。 なお、被告は、原告がBII社から原告商品を仕入れている事実も否認するようである。しかし、原告は、本件契約の上記条項Bのとおり原告商品を年間購買量に達するまでBII社から購入する義務を負っているのであって、この義務を履行しないでBII社以外の者から原告商品を仕入れているとは考え難いから、原告はBII社から原告商品を仕入れているものと認められる。また、弁論の全趣旨によれば、原告商品の輸入に際しての船積み港は米国内ではないことが認められるが、原告商品を、BII社が米国外で製造し、又はライセンス先ないし下請業者に製造させ、これを原告に販売することも十分あり得るところであるから、 この事実も上記認定を左右するものではない。そして、このような場合は、原告商品の商品形態の開発者であるBII社が、その管理下で製造された原告商品を、原告に販売したものということができるから、このことは前記イの認定に反するものでもない。 (ウ) さらに、被告は、本件契約には、排他条件付取引条項も、一手販売権条項も存在しないから、原告が、日本国内における独占的販売権を有するとはいえないと主張する。 しかしながら、本件契約の契約書(甲2)の表題は「独占販売権契約書」(原文は、「EXCLUSIVE DISTRIBUTOR CONTRACT」であり、被告の訳によれば、「独占的販売店契約」となる。)であり、その契約内容に、上記イのDEの条項が含まれていることからすれば、原告が、日本国内における原告商品の独占的販売権を有することを認めるに十分であり、これを覆すに足りる証拠はない。 被告は、本件契約に、排他条件付取引条項も、一手販売権条項も存在しないなどと主張するが、このような条項が存在しないときには、独占的販売権が付与されないという帰結に至ることを認めるに足りる事情も証拠もないから、被告の上記主張は採用することができない。 エ 以上によれば、本件における被告によるイ号物件の販売行為は、不正競争防止法2条1項3号所定の不正競争行為を構成するというべきである。 そして、前記(1)ないし(3)認定の事実からすれば、被告には上記不正競争について過失があり、原告は、この不正競争行為によって生じた損害について、被告に対し、損害賠償請求権を有するというべきである。 オ ところで、被告は、不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為について、その商品形態の考案者ではない販売者には同法3条及び4条の差止請求権や損害賠償請求権は認めないとの東京地方裁判所及び東京高等裁判所の裁判例を信じ、これに従っていたのであるから、善意無過失であり、このような被告に対しては同法12条1項5号により権利行使はできないと主張する。 しかし、同号により保護されるのは、その商品が他人の商品を模倣した商品であることについて善意無重過失である者に限られる。しかし、不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為について、その商品形態の開発者ではない独占的販売者に損害賠償請求権が認められるか否かは、「他人の商品を模倣した商品であるか否か」に関する問題ではなく、「模倣した商品を譲渡等する不正競争行為について、誰が損害賠償請求権等を行使できるか」に関する問題であるから、これを否定する過去の下級審の裁判例があるからといって、同法12条1項5号による適用除外の対象となるものではない。 したがって、被告の上記主張は採用の限りでない。 2 争点(2)(不正競争防止法2条1項2号ないし1号の不正競争行為の成否)について(1) 原告商品の形態の周知商品表示性についてア 各項中に掲記した証拠によれば、以下の事実が認められる。 (ア) 原告商品の新聞及び雑誌での紹介についてa 原告商品は、平成15年1月から日本国内で販売されたが、本格的な販売は同年2月に開始された(甲1、12)。 b 雑誌「女性セブン」平成15年6月12日号において、「噂のブラでなんちゃって谷間作ってみました」との見出しの下、3頁にわたり原告商品を紹介する記事が掲載され、そこでは、「どんなにセクシーな服を着ても絶対に見えず、しっかり谷間をメイクする 究極のブラ"として、主婦、OLから銀座のホステスまで、世の女性に話題沸騰 "中の ヌーブラ 」と記載され、原告の代表取締役の「現在は月に5 ""万個売れています」との発言が掲載された(甲3の1)。 c 雑誌「CAZ」平成15年6月23日号において、原告商品は、1頁の中に、他の8種類の商品と共に紹介された(ただし、うち4種類は雑誌のプレゼント商品としての紹介である。甲3の2)。 d 雑誌「DIME」平成15年7月3日号において、「真夏のオンナは磨きこんだ 背中 が眩い」との見出しの下、原告商品は、1頁の ""中に、他の7種類の商品ないしサービスと共に紹介された(甲3の3)。 e 雑誌「bea s up」平成15年7月号において、原告商品は、 '6個のプレゼント商品の1つとして掲載された(甲3の4)。 f 雑誌「MISS」平成15年7月号において、原告商品は、「肌見せNG立ち直りGOODS」として、通信販売の商品として、他の3種類の商品と共に紹介された(甲3の5)。 g 毎日新聞(大阪本社版)平成15年8月12日付夕刊1面の「 0'3夏写 かんさい経済」欄において、原告商品が紹介され、「この夏の大ヒットは、米国生まれの『ヌーブラ』。」、「輸入代理店の『ゴールドフラッグ』(東大阪市)は『3月の輸入開始以来、全国で売り切れ続出』。高島屋大阪店では、7月末までの4カ月で3250着が売れた。今は予約販売。類似品も出回るほどの人気だ。」との記載がある(甲3の6)。 h 雑誌「AERA」平成15年8月18日25日合併号において、 「ヌーブラどこにもなし」との見出しの下、原告商品に関する1頁の記事が掲載され、そこには、「あまりの人気にどこでも品切れ。まるっきり手に入らないブラジャーがある。その名は『ヌーブラ』。今年2月の発売以来、10万本以上売れた。」との記載がある(甲3の7)。 i 「繊研新聞」平成15年9月24日付において、「03年春夏百貨店レディスバイヤーズ賞」の話題賞として、原告商品が他の1種類の商品と共に選ばれて掲載された(甲3の8)。 j 雑誌「日経トレンディ」平成15年10月号において、原告商品が、 他の3種類の女性向け商品と共に紹介された(甲3の9)。 k 雑誌「DIME」平成15年10月2日号において、原告商品が、 他の6種類の女性向け商品と共に紹介され、そこには、「大人気となった『ヌーブラ』は、…アメリカでの製造が追いつかず、都内大手百貨店では、約1000人が予約待ちとなる騒ぎとなった。いずれの高級品にも、今はより低価格な類似品が現われている。しかし、それを寄せつけないだけの高機能が支持され、ヒットを続けている。」との記載がある(甲3の10)。 l 雑誌「Can Cam」平成15年12月号において、原告商品が、 他の6種類の女性向け商品と共に紹介され、そこには、「半年で10万枚の大ヒット!」、「今は少し落ち着いたけど、一時はニセモノまで出回るほどの品薄状態で日本列島をパニック状態に陥らせた」と記載されている(甲3の11)。 m 雑誌「日経トレンディ」平成15年12月号において、原告商品が「Best 30 for 2003」の17位として紹介され、そこには、「ユニークなブラジャーとしてテレビ番組が報じたところ、 あっという間にヒット。8月までに10万本以上が売れた。」、「ピーク時には百貨店で購入の予約待ちをする客が100人に及び、多数の類似品が出回った。」との記載がある(甲3の12)。 n 「日経MJ」平成15年12月4日付において、原告商品が「2003年ヒット商品番付」の東前頭6枚目に位置付けられて紹介された(甲3の13)。 o 雑誌「TOKYO 1週間」平成15年12月23日号において、 「流行りモノ グッズ部門」の1位として、原告商品が紹介され、そこには、「現在までの販売数は21万個」との記載がある(甲3の13)。 p 雑誌「日経ビジネス」平成15年12月15日号において、「あなたの知らないヒット商品」総合ランキングの4位、ドラッグストアのランキングの1位として、原告商品が紹介され、そこには、「今春登場し、国内では正規輸入品…だけで21万個、並行輸入品や類似商品も合わせると50万個以上が売れたと見られる。」との記載がある(甲3の15)。 q 雑誌「女性セブン」平成15年12月18日号において、原告商品が他の商品と共に紹介された(甲3の16)。 (イ) 日本国内で販売された原告商品の類似品についてa 平成15年5月ころには、マリン商事株式会社が「アクトレスブラ」を取り扱っていた(乙39の1)。 b 原告の代表取締役の報告書(甲1)には、「当社が『ヌーブラ』の販売を開始してから2ケ月経過した平成15年4月ころから、このようなヒットに目を付けた債務者を含む10数社が、『ヌーブラ』の類似品の販売を開始しましたが、その多くは中国よりの輸入品です。」との記載があり、上記事実から、平成15年4月ころから十数社が原告商品の類似品の販売を開始したことが認められる。 c 上記(ア)g、k、l、m、pのとおり、新聞及び雑誌における原告商品の紹介においても、その類似品が販売されたことが記されており、そこに記載されたとおりの事実があったものと認められる。 d 原告商品を販売するインターネット上の通信販売サイトである「ヘルシーラボ」では、平成16年5月時点で、原告が販売した原告商品については、シリアルナンバーが添付されること、この添付は、「横行する海賊版や、類似商品、個人輸入による商品等と差別化を計るため」であるとの表示がされている(乙13)。 (ウ) 並行輸入品について平成16年3月の時点で、インターネット上の通信販売サイトである「おみせがドットコム」(UNIX Co.LTD運営)において、 原告商品の並行輸入品が販売されていた(乙33)。 イ 以上を前提として、原告商品の形態の周知商品表示性について検討する。 (ア) 原告商品は、平成15年2月の日本国内での販売開始後、同年6月ころまでには話題となり、何度もマスメディアに取り上げられ、同年8月ころには製造が追いつかず、大手百貨店では予約待ちの状態となったことからすると、原告商品は短期間に集中的に需要者の間に浸透していったものといえる。 (イ) 他方、原告商品が話題になるに伴い、よく似た類似品が販売されるようになり、8月に入ると、類似品が出回っていることも新聞で記載されるようになったこと(前記ア(ア)g)からすると、類似品の数も増大したものと推認される上、同時に並行輸入品も出回るようになり、 平成15年末時点では、原告を通して販売された原告商品の売上げが約21万個であるのに対し、類似品と並行輸入品を合わせた売上げが約29万個と(前記ア(ア)p)、類似品と並行輸入品の売上量が原告を通じて販売された原告商品の売上量を上回る事態となり、これら類似品や並行輸入品の販売は、平成16年以降も行われていると認められる。 そして、これらの類似品の形態は、原告商品とよく似ており、商品形態のみでは容易に識別することができないものが非常に多かったものと推認される。そうすると、上記のような類似品の流通量も併せ考慮すると、原告商品の形態が、特定の出所を示す商品表示として周知性を獲得したとは認められない。 また、並行輸入品については、この流通には原告は介在していないから、これが原告の商品であるとはいえず、この商品形態が原告の出所を表示するものとはいえないところ、並行輸入品の商品形態は、当然ながら原告商品のものと同一である。そして、上記のように並行輸入品の流通量もある程度のものがあったと考えられることからすると、原告商品の形態が、原告の出所を示す商品表示としての周知性を獲得したとも認められない。 先に認定した雑誌の記事の中には、平成15年10月ころの時点で、 原告商品は、低価格の類似品が出回る中でもそれを寄せ付けないだけの高機能が支持されてヒットを続けているとの記載があるが(前記ア(ア)k)、類似品の形態が原告商品の形態とよく似ている以上、このような消費者からの支持の差は、商品性能の差に基づくものであると考えられる。したがって、その識別は、商品形態ではなく、商品名によって行われているものと考えるのが相当である。 (ウ) したがって、原告商品の商品形態が、原告の出所を表示する周知な商品表示であるとは認められない。 (2) 上記(1)で述べたところからすると、原告商品の商品形態が、原告の出所を表示する著名な商品表示であると認めることもできない。 (3) 以上のとおり、原告商品の商品形態は、原告の出所を表示する著名ないし周知の商品形態であるとは認められないから、原告の不正競争防止法2条1項2号ないし1号に基づく請求は、理由がない。 3 争点(3)(損害の額)について(1) 原告商品の単位数量当たりの利益の額について前記「前提となる事実」(2)のとおり、被告がイ号物件を販売したのは、 平成15年7月から平成17年8月までの間である。 原告は、平成15年1月から平成16年12月までの期間についての原告商品の売上げと、同期間に要した経費から、原告商品の1個当たりの利益の額を算出すべき旨主張するところ、この期間は、被告によるイ号物件の販売期間とは全く同一ではないものの、それらの相当部分が重複していることに照らせば、この算出方法は不合理なものではない。 したがって、以下、原告が被った損害の額を算定するための「原告商品の単位数量当たりの利益の額」について、平成15年1月から平成16年12月までの期間についての原告商品の売上げと、同期間に要した平均的経費の額から、これを算出することとする。 ア 原告商品の1個当たりの売上額甲第12号証及び弁論の全趣旨によれば、原告商品の平成15年1月から平成16年12月までの販売個数は、39万3589個であり、売上高は、合計17億9404万8915円であったと認められる。 したがって、原告商品の1個当たりの売上額は、4558.17円(1銭未満切捨。以下、特に記載のない限り同様)となる。 イ 原告商品の販売1個当たりに要する経費額(ア) 仕入れに要する費用についてa仕入金額甲第13号証及び弁論の全趣旨によれば、原告商品の平成15年1月から平成16年12月までの仕入金額は、合計789万6233.25ドル(1ドル=113.57円の為替レートで、8億9677万5210.20円)であったと認められる。 b輸入経費甲第13号証及び弁論の全趣旨によれば、原告商品の平成15年1月から平成16年12月までの輸入に要した経費は、合計1億4212万0479円であったと認められる。 c 送金手数料甲第19号証の1・2によれば、原告が、平成16年5月20日に、 りそな銀行を通じてBII社に22万9425ドルを送金した際に要した手数料は、7000円であったことが認められる。 また、甲第13号証及び弁論の全趣旨によれば、原告商品の平成15年1月から平成16年12月までの輸入にかかるインボイスは、75枚あったと認められるから、それぞれに対応した送金がされたものと推認することができる。 したがって、仕入金額の送金に要した費用は、合計52万5000円であったと認められる。 d 小計 10億3942万0689.20円e仕入個数甲第13号証及び弁論の全趣旨によれば、原告商品の平成15年1月から平成16年12月までの仕入個数は、42万2987個であったと認められる。 f 仕入れ1個当たりに要する費用(d÷e) 2457.33円(イ) 販売そのものに要する費用についてa 販売促進費(取扱説明書の印刷費用を除く)甲第14号証の1ないし7によれば、平成15年1月から平成16年12月までの間に、原告商品の販売企画、プロモーション、カタログ、ポスター等の宣伝、事務局の設置運営、休日の通信販売受付業務、 開封防止シールの作成といった、原告商品の販売のための諸活動(ただし、取扱説明書の印刷を除く。)を、有限会社エイムアドシステムに発注し、合計2414万7375円を支払ったことが認められる。 平成15年1月から平成16年12月までの間の原告商品の販売個数は39万3589個であるから、原告商品1個当たりの販売促進費は、61.35円となる。 b 取扱説明書の印刷費用甲第14号証の1・3・4・6・7によれば、平成15年3月から同年8月までの間に、原告商品の取扱説明書は、19万5000部が印刷作成され、それに要した費用は173万2500円であったことが認められる。 したがって、原告商品の取扱説明書1部当たりの平均印刷費用は、 8.88円となる。 c運送経費原告は、原告商品の販売開始前1年間(平成14年)と販売開始後1年間(平成15年)にそれぞれ原告が支出した運送経費を比較し、 その増加分を原告商品にかかる運送経費として算定すべきと主張する。 他に特段の主張も証拠もない本件においては、上記の算定方法は合理性のあるものということができるから、これによって運送経費を算定することとする。 甲第15号証及び弁論の全趣旨によれば、平成15年に原告が支出した運送経費は813万7742円、平成14年に原告が支出した運送経費は537万0592円であると認められるから、その差額は276万7150円となる。 そして、甲第12号証及び弁論の全趣旨によれば、平成15年中の原告商品の販売個数は24万2049個であるから、原告商品1個当たりの運送経費は、11.43円となる。 d 倉庫保管料弁論の全趣旨によれば、原告は、当初、発送のための倉庫保管、梱包作業等を原告において行っていたが、平成15年10月以降は外部に委託したこと、その単価は30円であることが認められる。 甲第12号証及び弁論の全趣旨によれば、平成15年10月から平成16年12月までの原告商品の販売個数は18万2063個であるから、 平成15年1月から平成16年12月までの間に原告商品の販売のために要した倉庫保管料は、546万1890円となる。そして、この期間中の原告商品の販売個数は39万3589個であるから、この期間を平均すると、原告商品1個当たりの倉庫保管料は、13.87円となる。 e シリアルナンバー貼付費用弁論の全趣旨によれば、原告は、平成16年2月以降、原告商品にシリアルナンバーを貼付していることが認められ、甲第16号証によれば、その単価は3円であることが認められる。 甲第12号証及び弁論の全趣旨によれば、平成16年2月から同年12月までの原告商品の販売個数は13万3385個であるから、平成15年1月から平成16年12月までの間に原告商品の販売のために要したシリアルナンバー貼付費用は、40万0155円となる。そして、 この期間中の原告商品の販売個数は39万3589個であるから、この期間を平均すると、原告商品1個当たりのシリアルナンバー貼付費用は、1.01円となる。 f 販売1個当たりに要する費用(a〜e小計) 96.54円(ウ) 原告商品の販売1個当たりに要する経費額((ア)f+(イ)f)2553.87円ウ 原告商品の1個当たりの利益額(ア-イ(ウ))2004円(1円未満切捨)エ(ア) この点につき、被告は、有限会社エイム・アドシステムなる法人はその肩書地に登記されてもいないと主張する。 しかし、甲第14号証の2ないし7は、有限会社エイムアドシステムの請求書であって、住所、電話、ファクス番号まで記載されたものであるところ、この記載からすれば、同社の有無を確認することはさほど困難とは思えないが、被告は上記のとおり主張するだけで、これを裏付ける証拠も提出していない。そして、請求書に記載する会社事務所の住所と、登記簿上の本店住所は、これらが一致しないこともあり得るから、 被告の上記主張は、上記認定を左右するものではない。 (イ) また、被告は、原告の売上げに占める純利益率は8.65パーセントであるから、売上高17億9404万8915円に対する純利益は1億5518万5231円となり、平均利益単価は394円にしかならない旨主張する。 しかしながら、原告の損害算定にあたって基礎とすべきは原告商品について受けることができる利益の額であり、原告全体の売上げに占める純利益率が仮に被告主張のとおりであったとしても、上記認定を左右するものとはならない。 (ウ) さらに、被告は、正確に計算するためには、すべて帳簿類を提出した上、公認会計士など専門家の鑑定が必要であるとも主張する。 しかしながら、被告は、原告の主張立証に対し、上記以外には何ら具体的な反論反証や、問題点の指摘をしていないのであるから、他に特段の事情のない本件においては、原告から提出されている証拠と弁論の全趣旨に基づいて、上記のとおり認定すべきものである。 (2) 乙第43ないし第45号証の各1によれば、被告によるイ号物件の販売数は、平成15年7月から平成17年8月までの間に、1万1802個である(ただし、販売先から返品された数を控除した個数である。)であることが認められ、これ以上の販売個数を認めるに足りる証拠はない。 (3) 原告の原告商品を販売する能力の限界及びイ号物件の販売数の全部又は一部に相当する数量を原告が販売することができない事情についてア 被告は、平成15年中の原告による原告商品の仕入販売が21万個、原告を除く他社の仕入販売や並行輸入品が29万個に達しており、原告の平成15年2月の仕入れ個数を100とすると3月は200、4月は500、 5月ないし8月は2000となっていて仕入れの限界に達していたから、 イ号物件の販売によって原告の売上げは減少しないと主張するので、検討する。 イ 原告商品を販売する能力の限界について(ア) 各項中に掲記した証拠によれば、原告商品について、新聞及び雑誌に以下のとおりの記載がされたことが認められる。 a 雑誌「MISS」7月号において、原告商品について、「爆発的な人気で、ランジェリーショップではすでに入手困難」との記載がされた(甲3の5)。 b 毎日新聞(大阪本社版)平成15年8月12日夕刊において、原告商品について、「輸入代理店の『ゴールドフラッグ』(東大阪市)は『3月の輸入開始以来、全国で売り切れ続出』。高島屋大阪店では、 7月末までの4カ月で3250着が売れた。今は予約販売。」との記載がされた(甲3の6)。 c 雑誌「AERA」平成15年8月18日25日合併号において、原告商品について、「あまりの人気にどこでも品切れ。まるっきり手に入らないブラジャーがある。その名は『ヌーブラ』。」との記載がされた(甲3の7)。 d 雑誌「DIME」平成15年10月2日号において、原告商品について、「大人気となった『ヌーブラ』は、…アメリカでの製造が追いつかず、都内大手百貨店では、約1000人が予約待ちとなる騒ぎとなった。」いずれの高級品にも、今はより低価格な類似品が現われている。しかし、それを寄せつけないだけの高機能が支持され、ヒットを続けている。」との記載がされ、また、同年5月ころには輸入限界に達し、これが続いていることを示すグラフが掲載された(甲3の10)。 e 雑誌「Can Cam」平成15年12月号において、原告商品について、「今は少し落ち着いたけど、一時はニセモノまで出回るほどの品薄状態で日本列島をパニック状態に陥らせた」、「夏頃はどこに行っても拝めなかった『ヌーブラ』も今はだいぶ入手しやすくなりました。」と記載されている(甲3の11)。 (イ) 上記(ア)の各事実によれば、原告商品は、平成15年7月ころから、BII社からの輸入が追いつかずに欠品状態となり、夏の間はその状態が続いていたが、遅くとも同年12月ころには欠品状態は解消されたことが認められる。 この事実からすると、確かにイ号物件の販売が開始された平成15年7月の時点において、原告がイ号物件と同数の原告商品を追加的に販売することは、不可能な状態であったといえる。 しかし、原告商品は、締め付け感がないとか、肩や背中の露出した衣服の下にも着用できるとか、バストアップ効果があるという機能ないし効用の面で消費者から好評を得ていたこと(甲3の1ないし16)、また、上記(ア)dのように、類似品が出回っても、原告商品への需要が続いていたことに照らせば、消費者の需要は、少なくとも欠品状態が解消した後である同年12月末ころまでは存続したと考えられる。換言すれば、イ号物件を購入した消費者は、もしイ号物件が販売されていなかった場合には、同年12月末ころまで待って、原告商品を購入した可能性を否定できない。そして、そのころ以降、原告はイ号物件の販売数程度の原告商品を追加的に販売することが可能であったと考えられるから、 イ号物件の販売数には、原告の原告商品の販売能力を超えているため販売することができなかったものがあると認めることはできない。 ウ イ号物件の販売数の全部又は一部に相当する数量を販売することができない事情について(ア) 甲第3号証の15によれば、雑誌「日経ビジネス」平成15年12月15日号において、原告商品について、「今春登場し、国内では正規輸入品…だけで21万個、並行輸入品や類似商品も合わせると50万個以上が売れたと見られる。」との記載があることが認められる。 (イ) そこで検討するに、原告商品の類似品については、例えば乙第39号証の1に掲載されている「アクトレスブラ」の写真を見る限り、原告商品の形態を模倣した商品である疑いが濃厚なものであり、仮にそれらが原告商品の形態模倣商品である場合には、それらの商品は市場で販売することが許されないものであるから、それらの類似品が存在することをもって、原告がイ号物件の販売量の全部又は一部を販売することができなかった事情とすることは相当ではない。 したがって、被告は、それらの類似品の存在をもって、原告がイ号物件の販売量の全部又は一部を販売することができなかった事情であるとするためには、それらの類似品が原告商品の形態模倣品ではないことを主張立証する必要があるが、本件ではこのことを認めるに足りる証拠はない。 したがって、本件において、類似品の存在を理由として、イ号物件の販売数の全部又は一部に相当する数量を販売することができない事情があるとすることはできない。 (ウ) 次に、並行輸入品について検討するに、これについては、先に認定したとおり、原告とBII社との間の本件契約では、BII社は並行輸入を極力防止する義務を負っているが、実際に並行輸入された場合に、 その販売が違法であるということはできない。そして、原告商品と並行輸入品とは、同じBII社が供給した同一商標・同一品質のものなのであるから、イ号物件が販売されなかった場合には、その需要の一部は並行輸入品の購入へと向かうと考えるのが合理的である。したがって、並行輸入品の存在は、原告がイ号物件の販売量の全部を販売することができなかった事情であるということができる。 そして、現実にどれくらいの数量の並行輸入品が販売されていたのかは証拠上明らかではないが、上記甲第3号証の15によれば、並行輸入品と類似品の合計で、原告商品を上回る販売量があったとされており、 並行輸入品は正規ルートである原告商品に較べて一般に廉価である(例えば、インターネット上の通信販売においても、原告商品は1万2600円で販売されている〔乙13〕のに対し、並行輸入品は7700円で販売されている例がある〔乙33〕。)から、決して無視し得ないものであったとはいえる。 しかし他方、・並行輸入品は真正品ではあるものの、輸入としては非正規のルートを通じて販売されるものであることから、日本での販売ルートもインターネットを通じたようなものに限られ、また、原告商品については、原告に問い合わせを行ったり、原告のサポートを受けることができるが、並行輸入品についてはそのようなサポートは期待し難いこと、・上記のとおり、BII社は日本への並行輸入を防ぐ最大の努力をする義務を負っていることからして、さほど大きな販売力があったとは考えられない。 これらを勘案すると、本件においては、原告は、イ号物件の販売数(1万1802個)のうち、15パーセントに相当する数量である、1770個(1個未満切捨)を販売することができなかったと認めるのが相当である。 (4) まとめ以上によれば、原告は、原告商品の単位数量当たりの利益額である2004円に、被告によるイ号物件の販売数である1万1802個から上記ウのとおり原告において販売することができなかった事情があると認められる1770個を控除した1万0032個を乗じて得られる額である、2010万4128円を、損害の額としてその賠償を請求することができる。 なお、上記のとおり控除した1770個については、不正競争防止法5条3項2号に基づき、原告がイ号物件の形態の使用に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を請求することができるか、一応問題となる。しかしながら、同号は、形態模倣行為によって営業上の利益を侵害された者の、得べかりし形態使用の許諾料を損害として把握するものであるから、同号が適用されるためには、営業上の利益を侵害された者が第三者に対して商品形態の使用を許諾する権限を有していることが前提となると解される。本件では、 BII社と原告との間の独占的販売権契約(甲2)によっても、原告に原告商品の商品形態を第三者に使用許諾する権限が与えられていたとは認められず、他にこのことを認めるに足りる証拠もない。したがって、本件では、原告は、上記1770個について、同号に基づく損害賠償を請求することはできない。 4結論以上のとおりであるから、原告によるイ号物件の輸入、販売の差止め及び廃棄の請求はいずれも理由がなく、損害賠償の請求は、2010万4128円及びこれに対する不正競争行為が行われた後の日である平成17年9月1日から法定の年5分の遅延損害金を求める限度で理由がある。 よって、主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 山田知司 |
---|---|
裁判官 | 高松宏之 |
裁判官 | 守山修生 |