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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成17ワ3056損害賠償等請求事件 判例 不正競争防止法
平成16ネ4205損害賠償請求控訴事件 判例 不正競争防止法
平成18ワ13013不正競争行為差止請求事件 判例 不正競争防止法
平成12ネ3811不正競争行為差止等請求各控訴事件 平成12ネ3812不正競争行為差止等請求各控訴事件 平成12ネ3874不正競争行為差止等請求各控訴事件 判例 不正競争防止法
平成15ワ2351不正競争行為差止等請求事件 判例 不正競争防止法
関連ワード 周知表示混同惹起行為(2条1項1号) /  周知性 /  広く認識 /  需要者 /  市場占有率 /  商品等表示 /  出所表示性(出所表示) /  類似性(類似) /  外観 /  印象 /  混同のおそれ(混同) /  誤認混同 /  商品の形態(商品形態) /  模倣 /  技術的機能 /  差止請求(差止) /  営業上の利益 /  過失 /  逸失利益 /  因果関係 /  損害額の推定(損害額と推定) /  利益額(利益の額) /  無形損害 /  弁護士費用 /  信用回復措置 /  侵害 /  代理人 /  代表者 /  得べかりし利益 /  秘密保持義務 /  混同のおそれ(混同) /  営業秘密 /  品質誤認惹起表示(2条1項13号) /  営業誹謗行為(2条1項14号) /  品質等誤認表示(誤認) /  営業誹謗 /  虚偽の事実 /  損害賠償 /  損害額 /  推定 /  営業上の信用 / 
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事件 平成 14年 (ワ) 22433号 損害賠償等請求事件
平成 15年 (ワ) 4564号 損害賠償等請求事件
甲事件原告兼乙事件被告 株式会社オビツ製作所(以下「原告とい う。)
訴訟代理人弁護士 田見高秀
同 上野格 甲事件被告兼乙事件原告 株式会社ボークス(以下「被告という。)
訴訟代理人弁護士 坂田均
同 草地邦晴
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2004/11/24
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は,原告に対し,金400万円及びこれに対する平成14年11月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 被告の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は,甲事件及び乙事件を通じてこれを5分し,その4を被告の負担とし,その余は原告の負担とする。
5 この判決は,主文1項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
〔甲事件〕 1 被告は,原告に対し,金7480万円及びこれに対する平成14年11月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は,「原告のなす別紙製品目録記載の製品の製造販売行為は不正競争行為である」旨を需要者その他の取引関係者に対して口頭又は文書により宣伝し陳述してはならない。
3 被告は,原告に対して,別紙陳述内容目録記載の陳述をしなければならない。
〔乙事件〕 1 原告は,被告に対し,金6696万円及びこれに対する平成14年12月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告は,別紙第1目録記載の女性ドール用素体を製造し,販売し,又は販売のために展示してはならない。
事案の概要
〔甲事件〕 原告は,被告に対し,被告の取締役が,業務の過程で,原告の取引先の社員に対して,後記原告商品は,後記被告商品に類似するので,原告及び原告と取引をしている者を訴えると告知した行為が,不正競争防止法2条1項14号所定の虚偽の事実を告知し,又は流布する行為に該当すると主張して,同号,3条1項,4条及び7条等に基づき,損害賠償,営業誹謗行為差止め及び信用回復措置を求めた。
〔乙事件〕 被告は,原告に対し,@後記被告商品に類似する後記原告スタンダード商品を製造,販売する被告の行為が,原告と被告との間で締結された契約上の秘密保持義務及び競業避止義務に違反する,A同被告商品の形態が被告の周知な商品等表示であり,これと類似する同原告スタンダード商品を被告が製造,販売する行為は,同被告商品と誤認混同を生じさせる,と主張して,民法415条,不正競争防止法2条1項1号,3条1項及び4条に基づき,損害賠償及び同原告商品の製造等の差止めを求めた。
1 争いのない事実 (1) 当事者 原告は,玩具,かつらの製造,販売及びリース業務等を目的とする株式会社であり,被告は各種模型及び玩具の製造,販売等を目的とする株式会社であり,いずれも,「ドール用素材部品」を製造,販売している。
なお,「ドール用素材部品」とは,購入者が,自ら,頭部に植毛,彩色をしたり,ボディの彩色,加工等をしたりすることにより,独自のドール(いわゆる「カスタマイズドール」)を製作するための素材部品であり,「ドール用素体(胴体及び四肢部分からなる。)」,「ドール用頭部」,その他の小物や洋服などの素材部品からなる。
(2) 被告商品 被告は,平成10年9月から,別紙第3目録記載の女性ドール用素体(以下「被告商品1」という。)を,平成12年6月から,別紙第4目録記載の女性ドール用素体(以下「被告商品2」という。)を,同年12月から,別紙第5目録記載の女性ドール用素体(以下「被告商品3」といい,被告商品1から3までを総称して「被告商品」という。)を,それぞれ製造,販売している。
(3) 原告商品 原告は,平成14年5月24日から,別紙製品目録記載の商品(以下総称して「原告商品」といい,別紙製品目録1記載の女性ドール用素体を「原告スタンダード商品」という。なお,これと別紙第1目録記載の女性ドール用素体は同一のものである。)を製造,販売している。
2 主要な争点 〔甲事件〕 (1) 被告による虚偽事実の告知流布行為の有無 (2) 原告の被った損害額等 〔乙事件〕 (1) 原告の契約に基づく秘密保持義務及び競業避止義務の有無 (2) 被告商品の形態商品等表示性の有無 (3) 被告商品の形態周知性の有無 (4) 被告商品と原告スタンダード商品の類似性及び混同のおそれの有無 (5) 被告の被った損害額等 3 争点に関する当事者の主張 〔甲事件〕 (1) 争点(1)(虚偽事実の告知流布行為)について (原告の主張) ア 虚偽事実の告知行為 被告の取締役であるSは,以下のとおり,電話により,原告の取引先に対して,原告商品が被告商品に類似するので,原告商品を製造,販売する原告の行為は,不正競争行為等に該当する旨を告知した。
しかし,後記乙事件の争点(2)から(4)まで記載のとおり,原告が原告商品を製造,販売する行為は,不正競争行為に該当するものではないから,被告が不正競争防止法に基づく権利行使をすることはできない。
したがって,Sの上記各告知行為は,いずれも,営業上の信用を害する虚偽事実の告知流布行為に該当する。
イ Sの株式会社三ツ星商店に対する電話 (ア) 有限会社ビート(以下「ビート」という。)は,玩具・模型の卸売販売,代理店販売等を行う会社であるが,平成14年3月13日,原告との間で,原告の商品を取り扱う商品基本取引契約を締結し,原告の製造に係る商品を販売していた。また,株式会社三ツ星商店(以下「三ツ星商店」という。)は,模型,ホビー商品を取り扱う卸問屋であり,被告と取引があった。
(イ) Sは,平成14年5月ころ,三ツ星商店の従業員であるMに対して,電話で,「原告に下請けをさせて仕事をしていたのに,今度,原告は,被告とそっくり同じ類似品の素体を売り出した。うちで作った女性のボディをそっくりそのままマネされた。しかるべきところに出て決着をつけるつもりだ。原告と,販売する会社に対して,訴訟に訴えなければ仕方がない。」,「原告とは裁判沙汰やなー。」等の内容を話した(以下「本件告知行為1」という。)。
(ウ) 三ツ星商店は,Sの上記発言を聞いて,上記発言の内容を,ビートの社長であるGに伝えた。ビートは,原告に対し,同年6月25日,Sの上記発言の内容を理由として,上記商品取引基本契約を解除した上,原告の商品についての取引を中止する旨を通知した。
ウ Sの株式会社トゥールズに対する電話 (ア) 株式会社トゥールズ(以下「トゥールズ」という。)は,平成14年ころ,原告との間で,原告商品に関するOEM契約を締結し,原告に対して,原告商品を発注するなどし,取引関係が継続していた。また,株式会社バニーコーポレーション(以下「バニーコーポレーション」という。)は,トゥールズの関連会社であるが,被告と取引関係があった。
(イ) Sは,平成14年8月20日午後3時,バニーコーポレーションの従業員であるKに対して,電話で,「被告は,ドール用素体を,原告に製造させて,被告の名で専属で販売していたところ,原告が,これと型は違うが似た物をフレックスモデルという名称でトゥールズ等を通じて販売した」という事実を告げた上で,「トゥールズと出荷元(原告)を訴えるつもりです。トゥールズに伝えておいてください。」と話した(以下「本件告知行為2」という。)。
(ウ) トゥールズは,バニーコーポレーションのKから,Sの話の内容を聞いて,翌21日,原告商品の販売を中止するとの決定をし,販売店より在庫品を全品回収した上で,原告に返品することとした。
(被告の反論) ア 虚偽告知事実の不存在について (ア) Sは,ビートのMに対して,@被告商品の製造等の下請けをまかせていた原告が被告商品に類似した商品を販売する予定であるが,下請けとしてはどうかと思ったこと,Aそのような原告のやり方は納得できず,原告とは裁判をするつもりであること,B平成14年5月中旬のホビーショーで原告と話合いのために会う予定であることを話したことはあるが,「販売する会社に対して,訴訟に提起しなければ仕方がない。」と言ったことはない。
(イ) Sが,バニーコーポレーションのKに対して,原告と被告との間の紛争について説明をし,原告に対して訴訟を提起するつもりであることを話したことはあるが,「トゥールズと出荷元(原告)を訴えるつもりです。トゥールズに伝えておいてください。」と言ったことはない。
(ウ) そして,Sが電話で,本件告知行為1及び2を話した当時,被告は原告に対する訴訟提起を検討しており,実際にも訴訟(乙事件)を提起したのであるから,本件告知行為1及び2におけるSの上記各発言の内容は,すべて真実である。
したがって,Sのした本件各告知行為は,いずれも,営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し,又は流布する行為に該当しない。
イ 告知内容の解釈について 仮に,Sが,原告の主張するとおりの内容の話をしたとしても,下記の事情を総合的に考慮すれば,Sの各発言の内容は,聞いた者に対して誤解を与えることはない。したがって,Sのした本件各告知行為は,いずれも,虚偽事実の告知流布行為には該当しない。
(ア) 本件告知行為1について a Sは,原告と取引関係のある三ツ星商店の従業員であって,Sと頻繁に連絡を取り合う関係にあったMに対して,被告と三ツ星商店との取引について話をしていた際に,雑談として,上記発言をしたにすぎない。
b 三ツ星商店は,原告商品と同種商品を扱う問屋という立場にあり,商品の内容や流通に関しての知識が十分にあるので,Sの発言内容について,事実の確認や調査を行うことができたはずである。
(イ) 本件告知行為2について a Sが,バニーコーポレーションのKに発言をしたのは,同社との契約書の作成を督促するためであって,その説明のために上記発言をしたにすぎない。
b トゥールズは,Sの発言内容について,事実確認や調査を行う能力を有していた。
過失の不存在について 被告には,以下のとおり,過失がない。すなわち,Sは,M又はKに対する雑談の中で上記発言をしたにすぎず,三ツ星商店とビート又はバニーコーポレーションとトゥールズとの関係等も知らなかったのであるから,その発言内容が被告の取引のあるビート又はトゥールズに伝えられることを予測することはできなかった。
(2) 争点(2)(損害額等)について (原告の主張) ア 損害額 (ア) 逸失利益 4865万5175円 原告商品における販売ルートとしては,通常の問屋を通じたルートと画材問屋ルートがある。
a 通常の問屋ルートを通じた販売額 (a) 現在,原告は,原告商品について,一次問屋である有限会社アゾン(以下「アゾン」という。)に販売し,アゾンは,二次問屋(以下「I社」という。)や取扱店に卸すほか,同社の直営店やテナント店にも販売している。そこで,現在のアゾンにおける原告商品の販売実績を基礎に,販売額を推計すると,以下のとおりとなる。
すなわち,原告は,被告の不正競争行為がなければ,下記のとおり,アゾンを通して,合計9821万9682円を売り上げることができた。
@ 被告の不正競争行為がなければ,アゾンは,少なくとも,二次問屋であるI社の他に,同等の取引実績がある問屋5社とも取引をすることができたはずである。この5社と取引をしていれば,3237万3000円を売り上げることができた。
A 被告の不正競争行為がなければ,アゾンは,十分な広告をすることができたはずで,十分な広告をしていれば,アゾンは,以下のとおり原告商品を販売することができた。
直営店及びテナント店分 1785万1767円 問屋分 4740万9611円 取扱店分 58万5304円 (b) 前記のとおり,原告は,ビートとの間で,商品基本取引契約を締結して,原告商品を販売していたが,被告の不正競争行為により,同契約が解消され,原告商品を販売することができなくなった。そこで,原告がビートを通じて原告商品の販売を継続していたと仮定した場合の逸失利益を推計すると,以下のとおりとなる。
すなわち,被告の不正競争行為がなければ,原告は,原告商品を,ビートを通じて,同社の取引先19社に対して,少なくとも,アゾンを通じて販売した場合の2倍である1億9643万9364円を売り上げることができたはずである。
(c) そして,被告の不正競争行為がなければ,販売できた額について,上記(a)と(b)を平均することによって推計すると,その販売額は,1億4732万9523円となる。
(9821万9682円+1億9643万9364円)÷2 =1億4732万9523円 b 画材問屋ルートを通じた販売額 原告は,被告の不正競争行為がなければ,下記のとおり,画材問屋を通して,合計6421万4721円を売り上げることができた。
(a) エスイー株式会社(以下「エスイー」という。)は,現在,原告商品を画材問屋として取り扱っている。仮に,被告の不正競争行為がなければ,エスイーは,原告と取引を開始した平成15年3月1日から平成16年1月15日までの間に,少なくとも,10店舗分,多く取引をすることができたはずである。
1店舗当たり1日1万円としてその売上額を算定すると合計3210万円となる。
(b) 被告の不正競争行為によって,原告は,画材問屋を通じて原告商品の販売をすることができなかった。その期間は,トゥールズとの間で取引を中止した平成14年8月20日から,エスイーとの間で取引を開始した平成15年3月1日までの192日間であった。この間,仮に,原告は,トゥールズと取引をしていれば,合計3211万4721円((エスイーの売上総額2159万1800円+上記(a)の売上額3210万円)÷(エスイーの販売日数321日)×(192日))を売り上げることができた。
c 逸失利益の額 以上のとおり,被告の不正競争行為がなければ,原告が得られた販売額は,1億4732万9523円と6421万4721円との合計である2億1154万4244円となる。
原告商品の利益率は,売上額の23%であるから,被告の不正競争行為がなかった場合に,原告が得られたであろう利益は,4865万5175円となる。
本件訴訟においては,その一部である損害金4800万円の支払を請求する。
(イ) 無形損害 ドール用素体の製造においては,創造性・オリジナリティーがすべてであり,原告は,創造性を発揮して,より良い商品を生み出すことにしのぎを削り,独自の商品の開発,製造により業界内での信用を築き上げてきた。しかるに,被告の不正競争行為により,原告の信用は,著しく毀損された。なお,被告の不正競争行為によって,業界誌「ホビージャパン」及び「電撃ホビーマガジン」から,原告商品の広告等掲載依頼が拒否された。
上記の損害は,少なくとも2000万円は下らない。
(ウ) 弁護士費用 被告の不正競争行為と因果関係のある弁護士費用は,680万円が相当である。
(エ) 合計 以上のとおり,原告は,被告の不正競争行為により,合計7545万5175円の損害を被ったが,本件訴訟においては,その一部である損害金7480万円の支払を請求する。
営業誹謗行為差止め及び信用回復措置の必要性 原告の取引先が原告商品の取扱いを中止し,又は取扱いを再開しないのは,被告が原告及び原告商品の取扱いをした業者に対し,損害賠償請求等の訴訟を提起すると公言しているからである。そうすると,被告の営業誹謗行為を差し止め,さらに被告をして原告の信用回復措置を講じさせなければ,原告が失った取引先が原告商品の取扱いを再開することはない。
よって,損害賠償に加えて,営業誹謗行為差止め及び信用回復措置が必要である。
(被告の反論) ア 損害額 (ア) 逸失利益 ビート及びトゥールズが原告との取引を中止したのは,下記のとおり,被告の不正競争行為によるものではないから,原告の損害との間の因果関係は存在しない。
a ビートの取引中止について ビートが原告との取引を中止したのは,原告代表者から,原告商品について原告が被告から抗議を受けていること,そのことについて原告と被告との話合いが決裂したことを聞かされ,また,被告の原告に対する通知書を見せられたためであり,本件告知行為1との間の因果関係は存在しない。
b トゥールズの取引中止について 本件告知行為2の後,原告代理人から,SがKに対して話した内容について事実確認の問い合わせがあったので,被告は,原告代理人に対し,平成14年8月22日,原告が主張しているような発言をSがしていないことを明らかにする内容のFAX(甲5)を送信した。原告代理人は,これを直ちにトゥールズに伝えているから,被告の不正競争行為とトゥールズが原告との取引を中止したことの間に,因果関係は存在しない。
(イ) 無形損害 ビート及びトゥールズが原告との取引を中止したのは,前記(ア)のとおり,被告の不正競争行為によるものではないし,原告に無形損害が生じているとすれば,それは,原告商品が模倣品として警告されていることを原告自身が流布しているからであって,被告の不正競争行為によるものではない。
(ウ) 弁護士費用 争う。
営業誹謗行為差止め及び信用回復措置の必要性 争う。
〔乙事件〕 (1) 争点(1)(契約に基づく原告の秘密保持義務及び競業避止義務の有無)について (被告の主張) ア 被告は,原告との間で,平成9年3月,被告が原告に対して,下記の業務を委託するとの契約(以下「本件業務委託契約」という。)を締結した。
@ 被告から交付された原型又はサンプル及び被告の指示に基づく女性ドール用頭部,洋服,小物等のドール素材部品の製造業務 A 出荷数に応じて被告から交付されたドール用素体と,原告が製造したドール素材部品をセットにして商品とし完成させるパッケージング業務 B 被告から依頼を受けた出荷先への商品の配送業務 イ 被告は,原告に対し,本件業務委託契約に基づき,継続的に上記各業務を委託し,被告の製造販売するドール製品の約98%を原告に下請けさせる関係を継続していた。また,被告は,本件業務委託契約及びこれに基づく継続的取引関係に伴って,原告に対し,ドール製品に関する形状・機構についてのノウハウ等の技術情報及び出荷量,販売先,販売価格,販売予測等の営業情報を逐次提供してきた。このように,被告と原告の間には本件業務委託契約及びこれに基づく継続的取引関係により,極めて緊密な依存関係が存在したことに照らすならば,原告は,被告に対し,本件業務委託契約に基づき,@被告のドール素材部品に類似する同種の製品を販売しないとの競業避止義務,及びA契約上知り得た被告が管理する技術情報及び営業情報等の営業秘密を保持し,これを契約の目的外に利用しない義務を負担するというべきである。
ウ 原告は,前記イの義務に反し,本件業務委託契約及びこれに基づく継続的取引関係において知り得た技術情報及び営業情報等を利用して,被告商品と類似する原告スタンダード商品を製造,販売した。
(原告の反論) ア 原告が,平成9年3月から,被告の主張アの業務を被告から受託していたことは認めるが,その余は争う。
イ 原告は,人形業界の複数の会社からの注文を受け,原告独自の技術力で各種の人形を製造していたのであって,被告のノウハウを利用して製造をしたのではない。また,原告スタンダード商品は,原告独自の技術力により開発した商品であり,被告商品とは類似していない。
(2) 争点(2)(被告商品の形態商品等表示性)について (被告の主張) ア 被告商品の特徴的形態と商品等表示性 被告商品は,以下の各要素に形態的特徴があり,被告が強力な宣伝を伴って継続的に販売したことにより,被告商品の形態は,27センチドールで,シームレスではない関節可動型のカスタマイズドール用の素体という商品カテゴリーにおいて,被告の出所に係る製品であることを示す出所表示機能を有するに至った。
(ア) 胴体部 胴体部は,女性らしい,上半身を反らせるポーズ,上半身をねじりながら反らせるポーズ及び上半身を折り曲げるポーズを表現するために,前後方向だけではなく,左右方向にも同時に可動するように分割された胸郭部,腹部及び骨盤部の3分割(ないし腹部をさらに分割した4分割)した形態を有する。
胸郭部は,各部位及びそのつながりが女性の人体と類似した形態が表現されるように,人間の肋骨の骨格と同じように前下部が凹んだ形態を有する。
腹部は,胸郭部や骨盤部よりも細く成型されており,骨盤部は,側部に骨盤の張りが表現され,前上部がやや凹んだ形態を有する(以下この項の形態を併せて「被告商品形態1」という。)。
(イ) 脚部 脚部は,女性らしい,下半身のふくらみと,足をそろえたときや曲げたときの脚線美を表現できるように,前面から見たときの,膝から下の脚部の中心線と,膝から上の脚部の中心線をあえてずらして設定(以下「オフセット設定」という。)し,股関節の支点と足首の支点を直線で結んだ場合に,膝関節の支点が内側に入り込んだ形態を有しているとともに,脚の付け根に切れ込みと太股の張りが表現された形態を有する(以下この項の形態を併せて「被告商品形態2」という。)。
(ウ) 肘関節及び膝関節 肘関節及び膝関節は,女性らしい,横座り,あひる座り,また椅子に座った状態で脚を組み,かつその状態をドール自体で維持しているポーズを表現できるように,二重関節(前後回転する2つの軸を有し,そのつなぎ目部分に肘の突起又は膝小僧を有する。)と,その上部に内転,外転が可能な回転構造を有する。
なお,膝は上記のオフセット設定された形態を有する(以下この項の形態を併せて「被告商品形態3」という。)。
イ 原告の反論に対して (ア) 原告は,被告商品形態1及び3は商品の機能に関する事項であるから,商品等表示にはなり得ないと主張する。
しかし,被告商品は,被告商品形態1及び3について,以下のとおり,所要の機能を実現するために生じる形態上の違和感を緩和しているものであるから,原告の主張は理由がない。
a 被告商品形態1について @胸郭部を人間の肋骨のように前下部が凹んだ形状とする,A腹部を細くする,B鎖骨部の水平的な張りを強調する,C臀部を含む骨盤部における張りを強調することにより,全体として実際の女性の肢体よりも各部位の形態を理想的に誇張している。これらにより,ボディラインの連続性を維持することが可能になり,胴体を分割することからくる形態上の違和感を緩和し,全体として理想的な女性の肢体を表現することを可能とした。
b 被告商品形態3について @大腿部,脚部,ふくらはぎ部の曲線を実際の女性の肢体よりも理想的に強調する,A膝部に二重関節の目隠しを設け,肘部に突起を付加することによって,ボディラインの連続性を表現し,形態上の違和感を緩和している。
(イ) 原告は,被告商品形態1及び3は,いずれも,被告商品が販売される以前から,他のドール用素体に採用されており,独自性を有するものではないと主張する。
しかし,以下の理由により,原告の主張は理由がない。
a 被告商品形態1について 被告商品の発売前である平成9年6月に,株式会社ノアドローム(以下「ノアドローム」という。)が,胴体部を分割したドール用素体を発売していたが,これは,胴体部を機械的に水平に2分割したものにすぎなかった。その他の胴体部を分割した他のドール用素体は,いずれも,いわゆるカスタマイズドール(顧客が,購入後に,自ら独自の彩色や加工等を加えることを前提として販売される,無頭髪,無彩色のドール用素体を指す。)に関するものではなく,いわゆるキャラクタードール(特定のキャラクターの描かれた頭部を有し,キャラクターの衣装を身にまとった状態で販売されている人形を指す。)に関するものであった。
b 被告商品形態3について 被告商品の販売される以前から販売されていたドール用素体は,形態上の違和感が緩和されているものではなかった。
(原告の反論) 被告商品形態1ないし3は,以下のとおり,他の同種の商品と識別し得る特徴ではないから,被告の商品であることを示す商品等表示にはならない。
需要者は,ドール用素体が販売される以前は,独自のドールを製作するために,キャラクタードールのドール用素体を利用していた。したがって,被告の主張する「カスタマイズドール」と「キャラクタードール」は,連続的な関係にある。
また,カスタマイズドールとキャラクタードールとは,使用されるドール用素体は共通であって,服装や頭部がセットになって販売されているか否かの違いにすぎないし,販売店等では,特に区別されることなく同じ場所で販売されている。
したがって,被告商品形態1ないし3の独自性を検討するに当たっては,キャラクタードール商品も含めて検討すべきである。
イ 販売店の店頭において,被告商品は,直立した状態で袋に入れられて陳列され,需要者が,被告商品形態1ないし3を認識することはできない。需要者は,被告商品を識別するに当たり,被告商品の形態ではなく,被告商品の商標,商品名,製作者名及び販売者名を基準としている。
ウ 被告商品形態2は,女性人体の通常の形態であるにすぎず,形態としての独自性を有していない。また,被告商品形態1及び3は,他の商品との区別ができるほどに形態としての独自性を有するものではない。
エ 被告商品形態1及び3は,いずれも,被告商品が販売される以前から,女性ドール用素体に限らず男性ドール用素体も含めた他のドール用素体に採用されており,独自性を有するものではない。
なお,被告商品形態1について,被告は,胴体部を2分割する形態は存在していたが,3分割ないし4分割する形態は,被告商品独自のものであると主張する。しかし,需要者にとって,分割の個数に意義はなく,3分割ないし4分割しているという点に独自性はない。
オ 被告商品形態1及び3は,人体に近い胴体部の可動や,肘・膝関節の可動を実現するために必然的に生ずる形態である。技術的機能に由来する形態は,その技術的機能が特許権や実用新案権によって保護されることはあっても,商品等表示として不正競争防止法により保護されるべきものではない。
(3) 争点(3)(被告商品の商品等表示周知性)について (被告の主張) 被告の製造販売活動及び広告宣伝活動により,被告商品の形態は,平成10年9月の販売以降現在に至るまでの間,カスタマイズドール市場の取引業者及びドール製作に関心を持つ需要者の間において,被告の商品等表示として広く認識されていた。
ア カスタマイズドールの販売状況 被告商品が発売された平成10年9月当時は,カスタマイズドールを製作してみたいという潜在的需要は存在したものの,その素材となるドール用素体は,ほとんど販売されていなかった。
被告商品は,このようにカスタマイズドール市場が未形成の中,被告商品の形態を有する画期的な商品として発売され,爆発的に売れた。
イ 被告による宣伝,雑誌への掲載 被告は,被告商品販売以降,月刊ホビージャパン等で被告商品の広告宣伝を強力に行い,その際に被告商品形態を強調してきた。
また,カスタマイズドールそのものを世間一般に知らしめるために,ホビー業界雑誌や出版物等で被告商品を使ったドール製作方法を紹介したり,ドール製作体験講座の開催,ドールズパーティと呼ばれる大規模イベントを年3回主催し,各回約1万人以上の来場者に対して,被告商品の形態の広告宣伝を行ってきた。
また,株式会社ワニブックス,株式会社講談社,株式会社婦人生活社,株式会社メディアワークス等が,被告商品を使用したドールを取り上げた本を出版したり,ホビー業界紙に被告商品が取り上げられた。
ウ 被告商品の総出荷台数 被告商品の総出荷台数は,平成15年6月30日時点で,50万体以上に及ぶ。
(原告の反論) 被告商品の形態は,以下のとおりの事実に照らすならば,需要者の間において,被告の商品等表示として,広く認識されていたとはいえない。
ア ノアドロームは,被告商品の発売前である平成9年6月,既に,胴体を2分割した形態を有するドール用素体を発売していた。
イ 被告商品が様々なポーズをとることができるとの広告はあるが,被告商品の形態を強調する広告・宣伝はない。
ウ 販売店の店頭において,被告商品は,直立した状態で袋に入って陳列され,需要者は,被告商品形態1ないし3を認識することはできない。
エ 被告商品は,被告の直営店のみで販売されており,一般的な小売店では販売されていない。
オ ドール用素体における被告商品の市場占有率は高くない。
(4) 争点(4)(被告商品と原告スタンダード商品の類似性及び混同のおそれの有無)について (被告の主張) ア 類似性 原告スタンダード商品は,27センチドールで,シームレスではない関節可動型のカスタマイズドール用の素体であり,被告商品と同種の商品である。
そして,原告スタンダード商品は,被告商品形態1ないし3を有しているから,被告商品と原告スタンダード商品は類似する。
なお,原告が主張する被告商品と原告スタンダード商品の差異は,需要者にとって重要なものではなく,類似性を否定するものではない。
混同のおそれ 原告スタンダード商品も被告商品も,カスタマイズドール製作に用いるドール用素体として,カスタマイズドール市場において販売され,相互に類似する。このため,原告スタンダード商品は,需要者をして,被告商品と誤認混同を生じさせるおそれがある。
(原告の反論) ア 類似性 下記の点からすると,被告商品と原告スタンダード商品は類似しない。
(ア) 背部のねじ穴 原告スタンダード商品の背部にはねじ穴がないのに対して,被告商品の背部にはねじ穴がある。
(イ) 足裏 原告スタンダード商品の足裏は,1パーツから構成され,磁石が付いており,足首関節が外れないのに対して,被告商品の足裏は,2パーツから構成され,磁石が付いておらず,足首から外れやすい。
(ウ) 膝関節の強度と自立 原告スタンダード商品は,補助スタンドなしで自立でき,足裏の磁石を利用すれば,さらに自由なポーズをとることができるのに対して,被告商品は,補助スタンドなしでは膝関節から倒れてしまう。両者は,機能もディスプレイ時の外観も異なる。
また,原告スタンダード商品は,膝関節を回転させた後に元に戻しても隙間ができないのに対して,被告商品は膝関節が外れながら回転するので元に戻したときに膝関節に隙間ができる。
(エ) 腰関節 原告スタンダード商品は,腰関節から上下に2分割して取り外すことが可能であるのに対し,被告商品は取り外すことができない。
(オ) 手の平 原告スタンダード商品の手の平は,塩化ビニール製の1パーツで構成されているのに対して,被告商品はそのような構成ではない。
(カ) 膝関節の機能及び外観 原告スタンダード商品は,膝関節部分裏側に隙間が少ない形態が採られているのに対して,被告商品はそのような形態が採られていない。
(キ) 胴体部分割機能及び外観 原告スタンダード商品は,胴体部分割部分に隙間が少ない形態が採られているのに対して,被告商品はそのような形態が採られていない。
(ク) 股関節機能及び外観 原告スタンダード商品は,股関節を可動させる構造である上,大腿部に隙間のない形態が採られているのに対して,被告商品はそのような構造又は形態は採用されていない。
(ケ) ボディ各部の寸法の違い 原告スタンダード商品と被告商品は,ボディ各部の寸法やプロポーションが違うので,同一性がない。
(コ) 部品の材質,個数,接着部の違い 原告スタンダード商品と被告商品は,部品の材質等が違うので,同一性がない。
混同のおそれ 以下の点からすると,原告スタンダード商品が,需要者をして,被告商品と誤認混同を生じさせるおそれがあるとはいえない。
(ア) 被告商品は,原則的に,被告の直営店で販売されており,一般的な小売店では販売されていないので,原告スタンダード商品と被告商品とが混同される具体的危険性はない。
(イ) 販売店の店頭においては,原告スタンダード商品,被告商品ともに,直立した状態で袋に入れられて陳列され,需要者は,被告商品形態1ないし3を認識することができないから,被告商品を識別するに当たり,被告商品形態1ないし3ではなく,被告商品の商標,商品名,製作者名及び販売者名を基準としている。
(5) 争点(5)(損害額等)について (被告の主張) ア 債務不履行による損害 原告の本件業務委託契約上の秘密保持義務及び競業避止義務違反行為により,被告と原告との間の信頼関係は根底から破壊され,被告は,平成14年5月から,原告に対して新規に注文をすることができなくなった。そこで,原告は,被告に対し,平成14年5月28日,債務不履行を理由として,本件業務委託契約を解除する旨の意思表示をした。
本件業務委託契約を解除してから,被告が原告に代わる下請先を選定するために約4か月を要した。被告は,在庫を保有しない販売形態を採っているため,被告商品の製造が停止された約4か月の間,被告商品を販売することができなかった。
被告が,平成13年に,本件業務委託契約に基づき原告に製作させた商品の売上額は,2億8000万円を下らない。売上額の約38%が被告の利益となるから,被告商品の製造が停止された約4か月の間に,被告が得ることができた利益は,3546万円(2億8000万円×0.38)を下らない。
したがって,原告の債務不履行により,被告が被った損害は,3546万円である。
イ 被告の不正競争行為による損害 原告は,平成14年9月から同年11月までの3か月間,原告スタンダード商品及び別紙第2目録記載のドール用頭部を,月2万体ずつ販売している。
そして,原告は,原告スタンダード商品を1体1300円で販売し,上記ドール用頭部の売上げも考慮すると,少なくとも,月3000万円以上の売上げを上げており,その35%が原告の利益となる。
したがって,平成14年9月から同年11月までの3か月間に原告が受けた利益の額は,3150万円を超えるものであり,これが,原告の不正競争行為により,被告が被った損害額と推定される。
(原告の反論) 争う。
争点に対する判断
〔乙事件〕 先に,乙事件について判断する。
1 争点(1)(契約に基づく原告の秘密保持義務及び競業避止義務の有無)について 被告は,本件業務委託契約が成立し,原告と被告の間に相互に緊密な依存関係が継続したことにより,原告が,被告に対して本件業務委託契約に基づく競業避止義務及び営業秘密保持義務を負担していたにもかかわらず,被告の技術情報及び営業情報等を利用して被告商品と類似する原告スタンダード商品を製造,販売したのは上記各義務違反を構成すると主張する。
原告は,被告から,継続的に前記3〔乙事件〕(1)(被告の主張)ア記載の業務を受託していたが(争いない),継続的に業務を受託しているからといって,直ちに委託者である被告と受託者である原告との間に競業避止義務や営業秘密保持義務を伴う本件業務委託契約が成立したと判断することはできない。
この点について敷衍すると,被告の主張する競業避止義務及び営業秘密義務は,その性質上,原告の事業活動を大きく制約するものであるから,原告,被告間において,原告が負担することになる不作為義務の具体的内容,範囲,制約を受ける期間,地域等について詳細に協議,検討,意思確認がされ,確認された意思を反映した書面が作成されることが一般であるといえる。しかるに,本件においては,原,被告間で本件業務委託契約が締結され,委託業務が継続する過程で,このような申し出や協議がされた形跡は全くなく,また,その旨を明記した書面が作成されたこともないのであるから,原告が,被告主張に係る各義務を負担したと認定することはできない。また,本件全証拠によるも,被告主張に係る合意がされたことを推認させる合理的な事情を認めることもできない。
したがって,被告の債務不履行に基づく請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。
2 争点(2)(被告商品の形態商品等表示性)について (1) 事実認定 前記争いのない事実等,証拠(甲20ないし24,28ないし38,109ないし111,乙104,106ないし108,110,115ないし130,133ないし171,検乙1ないし4)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。
ア 被告商品の各部分の形態等 被告商品の各部分の形態等は,以下のとおりである。
(ア) 胴体部 胴体部は,被告商品1及び2については胸郭部,腹部及び骨盤部の3つに,被告商品3については胸郭部,上腹部,下腹部及び骨盤部の4つに分割されている。これにより,被告商品に,上半身を反らせる,上半身をねじりながら反らせる,上半身を折り曲げる等の姿勢を取ることができる。
そして,上記各部は,以下の形態を有している。
a 胸郭部は,人間の肋骨の骨格と同じように,前下部が凹んだ形状である。
b 腹部(被告商品3においては上腹部及び下腹部)は,胸郭部や骨盤部よりも細く成型されている。
c 骨盤部は,側部に骨盤の張りが強調され,前上部がやや凹んだ形状である。
(イ) 脚部 脚部は,股関節の支点と膝関節の支点を直線で結んだ場合に,膝関節の支点がその内側に位置するように構成されている。脚部の付け根には凹部が設けられ,太股の張りが強調されている。
(ウ) 肘関節及び膝関節 肘関節及び膝関節は,前後に回転する2つの軸によって構成され,そのつなぎ目の部分に,それぞれ肘の突起及び膝小僧が設けられている(ただし,被告商品1及び2には肘の突起は設けられていない。)。肘関節及び膝関節の上部は,回転できる構造が採用されている。これにより,被告商品に,横座り,あひる座り,椅子に座った状態で足を組む等の姿勢を取ることができる。
イ 先行商品の形態及び販売態様等 (ア) 被告商品1が発売された平成10年9月以前から,関節部分が可動するドール用素体に頭部を付けた上,衣服を着せるなどした完成品の男性ドール又は女性ドールが販売されていた。需要者が独自のドールを製作しようとする場合には,これらの完成品を一旦購入した上で,そのドール用素体部分を使用して,独自のドールとすることが行われていた。
これらの完成品ドールを構成するドール用素体の中には,@胴体部を,胸郭部,腹部及び骨盤部の3つに分割した形態,A肘関節又は膝関節を前後に回転する2つの軸によって構成し,その上部は回転することが可能な構造となっている形態を有するものが存在した。
(イ) ノアドロームは,平成9年6月ころ,株式会社タカラが製造販売する「スーパーアクションジェニー」という完成品の女性ドールに使用されていたドール用素体を購入し,これを,需要者が独自のドールを製作するためだけに,「アクション・ボディ・フィギュア」(以下「ノアドローム商品」という。)という名称で発売した。
ノアドローム商品は,胴体部が,腰の部分で2つに分割されていた。
ウ 被告商品の販売,広告の状況 (ア) 被告は,平成10年9月に被告商品1を,平成12年6月に被告商品2を,同年12月に被告商品3を,それぞれ発売した。
(イ) 被告の商品は,販売店の店頭において,透明なパッケージに直立した状態で入れられた上,同種商品とともに陳列されて,販売されている。
(ウ) 被告は,被告商品発売以降,株式会社ホビージャパン発行の月刊ホビージャパン等に,継続的に被告商品の広告を掲載した。
また,被告は,月刊ホビージャパンや書籍において,被告商品を用いたドールの製作方法を紹介したり,ドール製作体験講座の開催,ドールズパーティと称するイベント(顧客が,被告商品等を使用して製作したドールを展示・販売したり,ドールの着せ替え用衣服の製造業者等が自社製品を来場者に販売する催しである。)を年3回主催してきた。
さらに,株式会社ワニブックス,株式会社講談社,株式会社婦人生活社,株式会社メディアワークス等が出版した書籍や月刊ホビージャパンに,被告商品を使用した完成品のドール等が取り上げられた。
(2) 商品等表示性についての判断 以上認定した事実を基礎として,被告商品の形態が不正競争防止法2条1項1号に定める商品等表示に該当するか否かについて検討する。
商品の形態は,必ずしも商品の出所を表示することを目的として選択されるものではないが,商品の形態が他の商品と識別し得る独特の特徴を有し,かつ,商品の形態が長期間継続的かつ独占的に使用され,又は,その使用が短期間であっても商品形態について強力な宣伝等が伴う場合には,商品の形態が,商品自体の機能や美観等の観点から選択されたという意味を超えて,自他識別機能又は出所表示機能を有するに至ることがあり得る。そこで,以下,これらの観点から,被告が特徴的形態であると主張する被告商品形態1ないし3について,判断する。
ア 被告が特徴的形態であると主張する被告商品形態1ないし3は,いずれも,女性の人体の形状又は動作を表現するという被告商品の目的に由来するものであって,需要者に強い印象を与える特徴的な形態ではなく,被告商品の広告や販売の状況等に照らしても,その形態が,自他識別機能又は出所表示機能を有する商品等表示であると認めることはできない。
以下,その理由を詳細に述べる。
(ア) 胴体部 胴体部を3つ又は4つに分割している点は,被告商品に,女性の人体と同様に,上半身を反らせる,上半身をねじりながら反らせる,上半身を折り曲げる等の姿勢を取らせることを可能にするための機能に由来するものであって,商品等表示として特徴的な形態ということはできない。
また,被告製品において,分割された胴体部の具体的な胸郭部,腹部及び骨盤部の前記(1)ア(ア)認定の形状については,いずれも,女性の体型を表現しようという観点から,選択し得る形状が大きく制約されることに加え,同種の商品における胴体部の分割された部分の形状(甲28,110,111)と対比しても特異なものではないから,特徴的な形態とはいえない。
(イ) 脚部 股関節の支点と膝関節の支点を直線で結んだ場合に,膝関節の支点がその内側に位置するように脚部を構成している点は,外観上,一見して分かるほど明確に表現されていないため,需要者が観察しても容易に気づかない点であって,このような微細な形状は商品等表示となり得る形態とはいえない。
また,脚の付け根及び太股を前記(1)ア(イ)認定の形態としている点は,いずれも,女性の体型を表現するという観点から,選択し得る形状が大きく制約されることに加え,他の同種商品においても,女性の体型を表現するために,同様の形態を備えており(甲28),特異なものであるとはいえないないから,特徴的な形態とはいえない。
(ウ) 肘関節及び膝関節 前後に回転する2つの軸により肘関節及び膝関節を構成し,その上部を回転することが可能な構造としている点は,被告商品に,横座り,あひる座り,椅子に座った状態で足を組む等の姿勢を取らせることを可能にするための機能に由来するものであり,選択し得る形状が制約されることに加え,被告商品が販売される前から,このような形状を有する商品が存在していることに照らせば,特徴的な形態とはいえない。
また,肘関節及び膝関節のつなぎ目の部分に,肘の突起及び膝小僧が設けられている点は,人体を表現するという目的に由来する当然の形態であることに加え,小さな部品であって,目立ちにくいことに照らせば,特徴的な形態とはいえない。
(エ) その他の部分 その他,本件全証拠によっても,被告商品において,需要者に強い印象を与える特徴的な形態を認めることはできない。
イ これに対し,被告は,@被告商品の形態は,所要の機能を実現するためばかりではなく,形態上の違和感を緩和するために選択されていること,A他のドール用素体は,所要の機能を実現するために生じる形態上の違和感が緩和されていないこと,Bキャラクタードールとカスタマイズドールとは異なるカテゴリーであることから,被告商品の商品等表示性の検討に当たって,被告商品が販売される前から存在していた商品を考慮すべきではないなどと主張する。しかし,@前記認定のとおり,被告が特徴的形態であると主張する被告商品形態1ないし3は,機能的な理由から採られた形態を超えた,需要者に訴える独自の特徴があるといえる部分はいえないこと,A他のドール用素体においても,被告が被告商品について主張するとの同様に,多少なりとも,形態上の違和感を緩和する措置が講じられていること,B需要者がドール用素体を用いて独自のドールを製作する際に,格別,キャラクタードールとカスタマイズドールとを区別しているとは認められないことに照らせば,被告の上記主張を採用することはできない。
(3) 小括 以上のとおり,被告商品の形態は,不正競争防止法2条1項1号に定める商品等表示に該当するとはいえないから,被告の不正競争防止法2条1項1号,3条1項及び4条に基づく請求は,その余の点(なお,仮に,被告商品のごく一部に特徴的な部分があったとしても,被告商品と原告スタンダード商品との形態上の相違点を超えて,両商品が類似し,出所に混同を来すと判断することはできない。)について具体的な判断をするまでもなく,理由がない。
〔甲事件〕 次に,甲事件について判断する。
3 争点(1)(虚偽事実の告知流布行為)について (1) 事実認定 前記争いのない事実等,証拠(甲1ないし13,16,17,19,39,乙6,7,9,証人S,同K,同T及び同M)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。
ア 本件告知行為1について (ア) 原告と被告との間の継続的取引の状況 被告と原告とは,平成9年3月から取引を開始し,被告が,原告に対し,ドール用素体等について,以下の業務を委託していた。しかし,被告商品に関しては,被告は,原告ではなく別の会社に金型の製作を委託した上,原告に対し,頭部の接着や箱詰め等の作業を委託していた。
@ 胴体,頭部,靴その他小物及びマスクの金型の製作,洋服及び靴の抜き型の製作 A ソフトビニールの金型の製作 B アクションフィギュアの金型の製作 C パッケージ用フィルムの製作 D 植毛,頭部の接着,洋服の縫製,着付け,箱詰め等の作業 (イ) 原告商品の製造販売の計画及び被告側からの中止要請 平成13年末ころ,被告は,原告が新しいドール用素体の開発を行っているという話を聞いた。そこで,Sは,原告の常務であったNに対し,原告がどのような素体を開発しているのかを問い合わせた。
平成14年4月のはじめになって,原告は,被告に対し,原告の製造する男性ドール用素体と原告商品の見本品を送付した。Sは,見本品を見て,原告商品が被告商品と極めて類似していると判断し,Nに対し,原告商品の販売中止方を求めた。しかし,Nは,金型の製造に多額の投資をしていること等もあり,製造中止の要請を拒否した。これに対して,Sは,Nに,再度,原告商品の販売中止を求め,さらに,被告において,原告商品の金型及び原告が製造した原告商品を買い取るとの提案をしたが,原告は拒否した。被告と原告は,同年5月に静岡で実施されるホビーショーにおいて,協議をすることとした。
(ウ) 原告と被告との本件業務委託契約の解消 原告代表者及びSと被告代表者とは,平成14年5月16日,静岡で行われたホビーショーにおいて,原告商品の販売について,話合いを行ったが,決裂した。
被告は,原告に対し,同月28日,@原告商品が,被告商品の商品等表示であるその形態と同一であるため,需要者をして,被告商品との誤認混同を生じさせるおそれが高いこと,A被告商品と競合する原告商品を販売する原告の行為は,被告の営業上の利益を著しく侵害することから,原告商品を販売する原告の行為は,債務不履行に当たるなどとして,被告と原告との間の製造委託契約を解除する等と記載した「契約解除通知書」と題する文書(以下「本件解除通知書」という。)を送付した。
(エ) Sの三ツ星商店に対する電話(本件告知行為1) このような経緯の中で,Sは,静岡のホビーショーの直前である平成14年5月半ばころ,三ツ星商店のMに対して,約1時間にわたって,電話で,原告が原告商品を発売することに関して,概要,@被告は,原告に下請けとして仕事をさせていたのに,原告は,被告商品と類似した原告商品を売り出した,Aしかるべきところに出て決着をつけるつもりだ,B原告及び原告商品を販売する会社に対して,訴訟に訴えなければ仕方がない,C今度,原告代表者と静岡のホビーショーで会うという内容の発言をした。
なお,三ツ星商店は,模型,ホビー等を取り扱っている卸問屋であり,関東地方では,被告の商品を卸売販売していた唯一の問屋であった。三ツ星商店は,原告との取引はなかった。
(オ) 本件告知行為1に対する三ツ星商店及びビートの対応 a ビートは,玩具・模型の卸売販売,代理店販売を行う会社である。
原告とビートとは,平成14年3月13日,原告がビートに対し,原告の商品を継続的に売り渡すとの商品基本取引契約を締結した。ビートは,同契約に基づいて,同月末ころ,原告の製造する男性ドール用素体を買い受けて販売を開始した。
そして,上記基本取引契約に沿って,ビートは,原告に対し,同年5月30日,電話により,@原告商品についての注文書を作成して,ビートの取引先にファクシミリ等で配布して注文をとる,A同年6月8日を注文の締切日にしているので,同月10日に注文数を集計して,原告に発注すると伝え,その注文書を,ファクシミリで原告に送付し,原告商品を買い受けて販売する等,販売に関する具体的・詳細な準備行為を実施していた。
b ところが,三ツ星商店のMは,同年5月末ころ,ビートの代表者であるGと商談をした際に,同人に対して,@被告のSから電話で,本件告知行為1のとおりの内容を伝えられたこと,被告が原告商品について訴えるという動きがあることを話し,さらに,A原告商品の取扱いは慎重にした方がいいとの助言をした。
c そこで,Gは,原告商品について被告から訴えられることを嫌悪して,原告との取引を中止することとし,同年6月13日,原告に対して,その旨を伝えた。そして,ビートは,原告に対し,同月25日,@原告商品について,被告から原告に対し,被告商品と類似しているとの抗議がされていることから,原告と被告との間の問題が解決するまでは,原告との取引を行わない,A原告から取引先を開示するように依頼されたが応じることはできない等と記載した「通知書」と題する文書を送付した。
これに対して,原告は,ビートに,ビートに原告商品を発注した取引先を開示してもらって,原告が直接その取引先に商品を供給する旨の代替案を提示したが,拒否された。原告は,やむなく,原告商品について,アゾンと取引をすることとした。
イ 本件告知行為2について (ア) 原告とトゥールズとの取引 トゥールズは,画材商品を販売する会社である。トゥールズの社員であるTは,平成14年5月ころ,ホビーショーにおいて,原告商品を見て,漫画制作の人物デッサン用のモデル人形として販売することを考え,同年8月初旬から,原告と取引関係を結び,原告商品の販売を開始した。
(イ) Sのバニーコーポレーションに対する電話(本件告知行為2) バニーコーポレーションは,トゥールズの関連会社であり,被告との間で取引があった。
Sとバニーコーポレーションの営業部係長であったKとは,平成14年8月20日午後3時ころ,契約書作成の件に関して,電話をしていた。その際,Sは,Kに対して,@被告の下請けをしていた原告が,被告商品に類似した原告商品を製造,販売したこと,A原告を訴えようと思っていること,Bさらに,同月16日から18日ころ,コミケというイベントで,トゥールズが,原告商品を販売していた事実を知るにいたったこと等を伝えた。
また,Sは,トゥールズに対して訴訟を提起することがあるかどうか,電話の内容をトゥールズに伝えるべきかとのKからの質問に対して,訴訟を提起することを示唆し,また,トゥールズに伝えて欲しい旨を回答した。
(ウ) 本件告知行為2に対するバニーコーポレーションの対応 Kは,直ちに,上司であるWに対し,@被告の下請けをしていた原告が,被告商品に類似した原告商品を製造したこと,A被告が原告を訴えるかもしれないこと,Bトゥールズも原告商品を販売しているので,被告に訴えられるかもしれないことを報告し,この件をトゥールズに伝えるべきである旨進言した。
これを受けて,Wは,平成14年8月20日午後5時30分ころ,トゥールズのTに対し,電話で,@KがSと商談中,原告商品の関係で被告が原告とトゥールズを訴えるという話が出たこと,AKが,トゥールズはバニーコーポレーションの関連会社であることを告げると,Sから,この件をトゥールズに知らせておいて欲しいと言われたことを伝えた。
(エ) 本件告知行為2に対するトゥールズの対応 a Wからの連絡を受けたTは,平成14年8月20日午後5時45分ころ,原告代表者に対し,電話で,Wから伝えられた本件告知行為2の内容を話し,トゥールズは,問題に巻き込まれたくない旨を伝えた。これに対し,原告代表者は,@被告が三ツ星商店に対しても訴えると言ったり,雑誌広告の妨害をしたため,被告に対し,後記「本件通知書」を送付したが返事がまだである,Aトゥールズからも,被告に対し,権利侵害の根拠を示した書面を要求して欲しい等を依頼した。
b Tは,翌21日午前10時35分ころ,バニーコーポレーションのKに対し,電話で,本件告知行為2におけるSの発言内容を再確認した。そして,Tは,同日午前10時55分ころ,原告代表者からの事実照会のための電話に対して,Kから再確認したとおりの内容を回答した。
c トゥールズは,訴訟に巻き込まれるおそれのある取引は避けるべきであるとして,原告との取引の中止を決定した。そして,トゥールズは,翌22日,原告に対して,以下の内容を記載したFAX書面を送信した。すなわち,@原告商品について,Sが,Kに対し,同月20日,トゥールズ及び原告を訴えるのでトゥールズに伝えて欲しいと発言したという連絡を受けたこと,A同連絡を受けて社内で協議した結果,トゥールズによる原告商品の販売を中止することを決定した等を記載した書面(以下「本件FAX書面1」という。)をFAX送信した。
(オ) 本件告知行為2に対する原告の事実確認 a 原告は,Kから連絡を受けた直後である平成14年8月20日午後6時50分ころ,被告に対して,事実を確認するため,以下の内容を記載したFAXを送信した。すなわち,Sがバニーコレーションに対して,トゥールズが取り扱っている原告商品は,被告の権利を侵害しているため,それを扱っている会社及び原告に対して訴訟をする予定であるので,その取扱いを止めた方がよいという話をしたとのことであるが,そのような事実があるか否かの確認を求める旨を記載したFAX書面(以下「本件FAX書面2」という。)を送信した。
b これに対して,被告は,同月22日,原告に,本件告知行為2における発言の内容について,Sに事実確認をした上,SがKに対して,@原告商品を販売している会社に対して訴訟をするつもりである,A原告商品の取扱いを止めた方がよい,Bトゥールズと原告を訴えるのでトゥールズに伝えて欲しい等の発言をしたことはない等と記載した「平成14年8月20日付FAXによるお問い合わせについて」と題する書面(以下「本件被告回答書1」という。)を送付した。
c 原告は,トゥールズに対し,本件被告回答書1を回送した。これに対して,Tは,同書面を見た上で,原告に対し,同月30日,@原告商品についての問題は,原告と被告との間の問題であり,その販売先を紛争に巻き込まないという原告と被告との間の覚書,A上記覚書の内容を原告が保証するとともに,原告商品の販売ができなくなったときは原告の負担で返品等の手続を行うという原告の覚書があれば,トゥールズと原告との間の取引を再開する等と記載した書面を送付した。しかし,原告は,トゥールズに対して,上記の覚書を作成,送付することはできなかった。なお,同社は,既に完成していた原告商品に限っては販売した。
ウ 本件各告知行為に対する原告の質問と被告の回答 (ア) 原告は,前記「本件FAX書面2」の他に,被告に対し,平成14年7月25日,原告代表者がこれまでの経緯等を記載した「契約解除通知書に対する反論と質問書」と題する書面とともに,@原告が原告商品を販売する行為が被告の権利を侵害するという被告の主張の法律的根拠等についての回答を求める,A原告商品の販売について警告すべき点があれば,原告の取引先に対してではなく,原告に対してすることを要望する等と記載した「御通知書」と題する書面(以下「本件通知書」という。)を送付した。
(イ) 被告は,原告に対し,同月27日,@原告が原告商品を販売する行為が,不正競争防止法2条1項1号又は3号に該当する上,被告と原告との間の継続的製造等委託契約上の秘密保持義務,競業避止義務等に違反する,A原告商品の販売について,被告が原告の取引先等に対して警告をした事実はない等を記載した「平成14年7月25日付通知書に対する回答書」と題する書面(以下「本件被告回答書2」という。)を送付した。
エ Sの証言について 被告は,Sが,@本件告知行為1において,原告商品を販売する会社に対して,訴訟に訴えなければ仕方がない,A本件告知行為2において,トゥールズを訴える予定であり,そのことをトゥールズに伝えておいて欲しいと言ったことはないと主張し,証人Sは,これに沿う証言をするとともに,Sの陳述書(乙7)にはこれに沿う記載がある。しかし,証人K,同T及び同Mの各証言,前記ア(オ)及びイ(ウ)で認定した,ビート及びトゥールズが,それぞれ原告との取引を中止するに至った経緯,理由,時期,本件FAX書面1及び2の記載内容等に照らせば,上記証言及び陳述書の記載を信用することは到底できない。被告の主張は理由がない。
(2) 判断 以上認定した事実を基礎として,本件告知行為1及び2が不正競争防止法2条1項13号に定める営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し,又は流布する行為に該当するか否か等について検討する。
ア 虚偽事実の告知行為の有無 当裁判所は,本件告知行為1及び2に係るSの発言内容が,いずれも営業上の信用を害する虚偽の事実を告知・流布する行為に該当すると判断する。その理由は,以下のとおりである。
すなわち,本件告知行為1及び2に係るSの発言内容は,被告の下請けをしていた原告が被告商品に類似した原告商品を製造,販売したことについて,原告及び原告商品を販売する者に対して訴訟を提起する意思があるというものである。そして,Sは,いかなる法的根拠に基づき,いかなる請求をするかは明言していないものの,Sが告知した際の諸般の事情を総合すれば,本件告知行為1及び2は,原告が被告商品に類似した原告商品を製造,販売する行為が被告の何らかの権利を侵害するため,被告が,原告及び原告商品を販売する者(本件告知行為2においてはトゥールズ)に対して,販売の差止め等を求める権利を有すること,権利行使の意思があることを告知したものと解される。
ところで,前記1及び2で判示したとおり,原告が原告商品を製造,販売する行為は,被告と原告との間の契約に反するものではないし,不正競争防止法2条1項1号に該当するものでもなく,その他,本件において,被告が原告に対して,原告商品の販売の差止め等を求める権利を有する法的根拠は認められない。そして,他人の有する権利を侵害し,そのため差止め等の対象となる商品を原告が製造し,販売しているとの事実は,当該商品を取り扱うものの営業上の信用に関わる,虚偽の事実であるから,本件告知行為1及び2は,いずれも,不正競争防止法2条1項13号所定の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し,又は流布する行為に該当する。
これに対し,被告は,原告の主張する事実が認められるとしても,本件告知行為1及び2におけるSの発言を聞いた者が真実に反する誤解をすることはあり得ないから,Sの各発言は,いずれも,営業上の信用を害する虚偽の事実を告知する行為に該当しないと主張する。しかし,前記判示したところに照らし,被告の上記主張は採用することはできない。
過失の有無 以下のとおりの経緯に照らして,本件告知行為1及び2をするに当たり,Sには過失がある。すなわち,Sは,本件告知行為1及び2に先だって,被告の取引先各社に対して,「被告商品と類似する商品を製造,販売しない旨の義務を負担することを内容とする業務提携契約書」の作成を求めていた経緯がある(証人S)ことに照らすならば,このような契約書が締結されていない本件においては,被告は原告に対して,原告商品の販売を差し止める権利などを有するものではないということを十分に認識していたものと推認できること,Sが被告の取締役であること,本件告知行為1及び2の相手は,原告,被告と同じ業界に属する会社の担当者であって,Sの発言内容が,直ちに伝わることは容易に推測できること,特に,本件告知行為2については,バニーコーポレーションとトゥールズとの関係を確認した上で,トゥールズに伝えるように示唆していること等の事情を総合考慮すれば,いずれの発言についても,Sに過失があるものと認められる。Sの行為は,被告の業務を執行する過程で行われたことも明らかである。
4 争点(2)(損害等)について そこで,被告の上記不正競争行為によって原告の被った損害等について,判断する。
(1) 損害額逸失利益 原告は,本件告知行為1及び2によって,通常の問屋ルート(アゾンルート,ビートルート),画材問屋ルートを通して,原告商品を販売することによる得べかりし利益を失ったとして,その損害額が4865万5175円であると主張する。
しかし,以下に詳細に述べるとおり,原告の主張する損害額について,本件告知行為1及び2と因果関係を有する損害の額を確定することができない。すなわち, (ア) 通常の問屋ルートで売上げられたはずの販売額 原告は,本件告知行為1及び2がなければ,アゾンが十分な広告をし,また,アゾン及びビートが現在よりも多くの取引先と取引をすることができたので,原告の売上げが増加していたと主張し,甲39(アゾン作成の「オビツボディ販売実績と予測数量」と題する文書)及び甲46(原告代表者の陳述書)には,これに沿う記載がある。なお,甲39によれば,アゾンにおける原告商品の売上げは,約18か月間の合計が2398万円である旨記載されている。
しかし,上記記載は,一方的な推測を述べたものにすぎず,具体的な裏付けを欠いているから,直ちにこれを採用することはできず,その他,原告の主張を認めるに足りる的確な証拠はない。
(イ) 画材問屋ルートで売上げられたはずの販売額 原告は,本件告知行為1及び2がなければ,現在原告商品を取り扱っているエスイーがより多くの問屋と取引をすることができ,また,トゥールズが原告との取引を中止してから原告がエスイーと取引を開始するまでの間,トゥールズと取引をすることができたので,原告の売上げが増加していたと主張し,甲42(エスイー作成の「デリータードール販売実績報告書」と題する文書)及び甲46には,これに沿う記載がある。
しかし,上記記載のうち,エスイーが現在よりも多くの問屋と取引をすることができたという部分は,一方的な推測を述べたものにすぎず,具体的な裏付けを欠いているから,直ちにこれを採用することはできず,その他,上記部分についての原告の主張を認めるに足りる的確な証拠はない。
無形損害 (ア) 前記詳細に認定したとおり,ビートは,平成14年6月13日ころに本件告知行為1を直接の理由として,また,トゥールズは,同年8月22日に本件告知行為2を直接の理由として,それぞれ,原告との取引を中止していること,原告が原告商品の製造,販売を開始した重要な時期において,原告の企画するとおりの販売ができなかったことに照らすならば,Sのした本件各告知行為によって,原告が被った財産上の損害は,必ずしも少なくないと推認される。
確かに,アで述べたとおり,本件各告知行為と因果関係を有する財産上の損害の額については,必ずしも確定的に,認定・判断することができないが,確定的に損害額を認定することができない点については,無形損害の算定に当たっての,その一事情として考慮することとする。
そうすると,本件告知行為1及び2における告知内容,相手方の状況,ビート及びトゥールズが取引を中止した状況,原告がその後に原告商品を販売することができた前記アの売上実績,原告商品等この種の商品の利益率(原告は,原告商品の利益率について35%と主張し,被告はこの種の商品の利益率を38%と主張する。)及び原告の受けた信用毀損の程度等,本件記録からうかがわれる諸事情を総合考慮すると,原告の被った損害は,有形,無形を含めて300万円と認めるのが相当である。
(イ) これに対し,原告は,被告の不正競争行為によって,業界誌「ホビージャパン」及び「電撃ホビーマガジン」から,原告商品の広告等掲載依頼が拒否されたと主張し,証拠(甲44ないし46)によれば,業界誌「ホビージャパン」及び「電撃ホビーマガジン」から,原告商品が被告商品に類似していることを理由として被告が原告に対して訴訟を提起するという情報があるため,原告による原告商品の広告等掲載依頼が拒否されたことが窺える。しかし,本件全証拠によっても,本件告知行為1及び2と上記事実との間に,因果関係の存在を認めることはできないから,原告の上記主張は採用することができない。
また,被告は,ビート及びトゥールズが原告との取引を中止したのは,被告の不正競争行為によるものではないし,原告に無形損害が生じているとすれば,それは,原告商品が模倣品として警告されていることを原告自身が流布したからである旨主張する。しかし,本件告知行為1及び2によりビート及びトゥールズが原告との取引を中止したことは,前記認定のとおりである上,本件全証拠によっても,原告商品が模倣品として警告されていることを原告自身が流布したことにより,原告の信用が毀損されたことを認めることはできないから,被告の上記主張は採用することができない。
弁護士費用 原告が本件訴訟の提起・遂行を原告代理人に委任したことは記録上明らかであるところ,本件訴訟の内容,認容額,難易度その他一切の事情を考慮すれば,本件告知行為1及び2と相当因果関係のある弁護士費用は100万円が相当である。
エ 小括 以上のとおり,原告が本件告知行為1及び2により被った損害額は,合計400万円となる。
(2) 営業誹謗行為差止め及び信用回復措置の必要性 被告は,自己の取引先の従業員に対して,口頭で営業誹謗行為を行ったにすぎないこと等に照らせば,被告が営業誹謗行為を現に反復継続して行い,又は行うおそれがあると認めることはできない。したがって,原告の被告に対する営業誹謗行為差止めを求める請求は理由がない。
また,上記判示したところに照らせば,原告の侵害回復措置を求める請求については,その必要性がない。
5 結論 よって,原告の請求は,損害金400万円及びこれに対する平成14年11月11日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余の請求は理由がないから棄却する。また,被告の請求は,いずれも理由がないから棄却する。
追加
(別紙)製品目録1オビツボディ女性バージョンスタンダード2オビツボディ女性バージョンソフトバスト-13オビツボディ女性バージョンソフトバスト-24その他株式会社オビツ製作所の製作した女性可動人形用素体5上記各製品のオプションパーツ類(頭部、靴、その他付属アクセサリー)(別紙)陳述内容目録「当社において、株式会社オビツ製作所の製作した可動人形用素体『オビツボディ女性バージョンスタンダード、オビツボディ女性バージョンソフトバスト-1、オビツボディ女性バージョンソフトバスト-2、その他オビツ製作所の製作した女性素体、上記各製品のオプションパーツ類(頭部、靴、その他付属アクセサリー)』が当社の製作した可動人形用素体『EBボディ、NEW-EBボディ、NEO-EBボディ、エレガント、ビューティーA、B、C』と類似しているかのような宣伝および陳述をし、貴社の商品の名声を傷つけ且つ貴社の信用を毀損し、その結果営業を妨害しましたことは誠に申し訳ありません。ここに謝罪するとともに、今後はこのような宣伝および陳述をしないことを誓います。」(別紙)別紙第1目録別紙第3目録別紙第4目録別紙第5目録
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 榎戸道也
裁判官 一場康宏