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事件 |
平成
23年
(ワ)
7924号
不正競争行為差止請求事件
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2012/07/19 |
権利種別 | 不正競争 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
判例全文 | |
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判例全文
平 成24年7月19日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 平成23年(ワ)第7924号 不正競争行為差止請求事件 口頭弁論終結日 平成24年5月29日 判 決 名古屋市<以下略> 原 告 日本車輌製造株式会社 同訴訟代理人弁護士 佐 尾 重 久 富山市<以下略> 被 告 日本車両リサイクル株式会社 同訴訟代理人弁護士 佐 藤 治 隆 同訴訟代理人弁理士 花 村 太 主 文 原告の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事 実 及 び 理 由 第1 請求 1 被告は,日本車両リサイクル株式会社の商号を使用してはならない。 2 被告は,富山地方法務局平成21年6月25日付けでした,被告の設立登記 のうち,「日本車両リサイクル株式会社」の商号の抹消登記手続をせよ。 第2 事案の概要 本件は,原告が,被告に対し,被告の商号が,@ 原告の著名な営業表示と 類似し,又は,A 原告の周知の営業表示と類似し,原告の営業と混同を生じ させると主張して,不正競争防止法3条1項に基づき同商号の使用の差止めを 求めるとともに,同条2項に基づき同商号の抹消登記手続を求める事案である。 1 前提となる事実(当事者間に争いのない事実) (1) 原告は,各種鉄道車両の製造等を目的として,明治29年8月18日に 1 設 立された株式会社であり,会社案内冊子やウェブサイトにおいて,「日本 車両」(以下「原告表示」という。)との営業表示を使用している。 (2) 被告は,鉄道車両の解体,リサイクル等を目的として平成21年6月2 5日に設立された株式会社であり,現在,富山県内に鉄道車両のリサイクル 専門の工場を建設していて,平成24年8月から,同工場において鉄道車両 のリサイクル業を開始する予定である。 2 争点 (1) 原告表示が,原告 の営業表示 として 著名又 は周知 であるか 否か( 争 点 1)。 (原告の主張) ア 原告表示の著名性 (ア) 原告は,日本における民間最初の鉄道車両メーカーで,国内のシェ アをほぼ独占する大手5社の中でも売上げがトップであり,新幹線車両 や通勤型車両等極めて多岐にわたる鉄道車両を製造して,全国の鉄道会 社に販売し,海外へも輸出していることに加え,鉄道事業者等の鉄道関 連会社が加入する社団法人日本鉄道車輌工業会の正会員で,現在,原告 の代表取締役会長が同会の会長を務めていることを考え併せると,原告 表示が鉄道関連業界において著名であることは明らかである。さらに, 極めて多数の者が,原告が製造した鉄道車両を利用しているところ,原 告が製造した鉄道車両内には原告表示を記載した銘板が設置されている から,鉄道利用者においても原告表示が著名であること,原告表示は, 鉄道愛好家向けの雑誌などにより,鉄道愛好家においても著名であるこ と,平成元年に開催された世界デザイン博覧会における原告パビリオン の来訪者のうち76.4%が原告を認知していたこと,原告が製造した 鉄道車両は,多数の来場者を記録する各地の鉄道博物館に展示されてお り,原告が製造した旨の説明板が設置されていること,原告が製造した 2 鉄 道車両が平成22年度のグッドデザイン賞を受賞したこと,原告に関 する記事が何度も雑誌や全国紙等に掲載されたり,原告を取材したテレ ビ番組が放送されたこと,原告は,鉄道車両製造の分野以外でもプロパ ンガス供給装置や三点式杭打機のシェアが国内トップであること,原告 が運営する「日車夢工房」という鉄道模型等の販売店舗における利用客 層が高齢者から子供までと広いことなどに照らせば,原告表示は,鉄道 関連業界のみならず鉄道利用者や一般消費者において全国的に認識され ている著名な表示であることは明らかである。 (イ) また,著名性の程度については,相手方が同業種の場合には,同業 者に対して著名であれば足りると解せられるところ,原告と被告は,と もに鉄道車両を扱う同業種であり,上記(ア)のとおり,原告表示は,少 なくとも同業者である鉄道車両業界において著名であることは明らかで ある。 イ 原告表示の周知性 上記アのとおり,原告表示は著名であるから,周知であることも明らか である。仮に原告表示が著名であると認められないとしても,原告と被告 に共通する需要者は,鉄道会社,鉄道部品会社及び鉄スクラップ引取業者 であるところ,上記アの事情に加えて,原告は,鉄道車両を製造するに当 たって部品会社や運送会社など全国の幅広い企業と取引をしていること, 鉄道車両の解体業者にとっては,取り扱っている鉄道車両のメーカーが大 手5社であることは常識であること,電子百科事典のウィキペディアで 「日本車両」を検索すると,197件中193件は原告関連の記事である こと,原告は,かつて自動車を製造していたことから,中部経済新聞の自 動車王国前史という連載記事中に数度紹介されていることも考え併せると, 原告表示は,原被告の共通の需要者である鉄道会社,鉄道部品会社,鉄ス クラップ引取業者等において広く認識されていることは明らかである。 3 ( 被告の主張) ア そもそも,原告の商号は「日本車輌製造」であって,「日本車両」とい う原告表示は原告の社名でないことが明らかであるから,原告表示は,原 告の営業表示として著名又は需要者の間に広く認識されているとはいえな い。 イ 原告表示の著名性 (ア) また,商品等表示が著名であるというためには,表示主体の特別な 努力等により,表示主体の営業等の本来の需要者や,本来の営業地域等 の枠を超えて,全国的にその商号の主体を表示するものとして広くかつ 強固に知られているだけでなく,その範囲で一定以上の信用,名声,評 判が確立されている特別な場合であることが必要である。 しかしながら,原告表示は,取引に関与する者が極めて限られている 鉄道車両製造業界で特定の者に知られているに過ぎないから,本来の需 要者や,本来の営業地域等の枠を超えて,全国的に原告を表示するもの として広くかつ強固に知られていたり,その範囲で一定以上の信用,名 声,評判が確立されているとはいえない。 (イ) なお,原告は,原告と被告は同業者であるから,原告表示が鉄道車 両業界において著名であれば足りると主張するが,原告は鉄道車両製造 業者であり,被告はリサイクル業者であるから,原告と被告は異業種で ある。 (ウ) よって,原告表示は,原告を表示するものとして著名であるとはい えない。 ウ 原告表示の周知性 (ア) 原告の需要者は鉄道会社である。一方,被告は,解体する鉄道車両 を鉄道会社から購入し,リサイクルして販売することを業務としている から,鉄道会社は被告の需要者ではなく,原告と被告の需要者は共通し 4 な い。 なお,原告は,鉄スクラップの引取業者が原被告の共通の需要者であ ると主張するが,被告は,業者に廃棄物を引き取ってもらうのではなく, 廃棄物を選別,加工処理した上で販売するのであるから,原告と被告の 需要者は共通しない。また,鉄道部品会社は原告の需要者とはいえない。 (イ) さらに,原告が主たる業務とする鉄道車両製造の分野は,極めて限 られた企業と限られた需要者からなる業界であり,このような極めて閉 鎖的な業界で互いに相手方の名称を知っていたとしても,需要者の間に 広く認識されているとはいえない。 エ 加えて,原告表示は,国名を表す「日本」と,鉄道車両に限られない車 両全般を表す「車両」という普通名称を組み合わせたものであり,識別性 がないから,原告表示は,原告の営業表示として著名又は需要者の間に広 く認識されているとはいえない。 (原告の反論) 普通名称であっても,長年特定の者に使用された結果,その者の営業を表 示するものとして識別力を備えるに至った場合には,保護されるべき営業表 示に当たると解されるところ,原告は,明治29年の創業以来110年以上 にわたり営業している,日本で最も古く,売上げトップの鉄道車両製造会社 であり,「日本車両」と称呼され,原告表示を商標登録しているから,仮に 原告表示が普通名称の組合せであるとしても,原告表示は,識別力を有して いることが明らかである。 (2) 被告の商号は,原告表示と同一又は類似の営業表示であるか否か(争点 2)。 (原告の主張) 被告の商号のうち,「株式会社」は会社の組織形態を,「リサイクル」は 業種を,それぞれ表しているものであり,いずれも識別力が認められないか 5 ら ,被告の商号のうち識別力が認められるのは「日本車両」の部分であると ころ,これは,原告表示と外観及び「ニッポンシャリョウ」との称呼におい て同一であるから,被告の商号は,原告表示と類似することは明らかである。 (被告の主張) ア 被告の商号から会社組織である「株式会社」の語を除外した部分である 「日本車両リサイクル」との表示は,原告表示と外観,語の長さが大きく 異なる上,原告表示は,「日本の車両」や「日本で作られた車両」の観念 を生ずるところ,「日本車両リサイクル」との表示は「日本にある」又は 「日本で行う」「車両のリサイクル」の観念を生ずるものであり,観念も 異なるから,被告の商号は,原告表示に類似しない。 以上のとおり,被告の商号は,原告表示と同一又は類似の営業表示では ない。 イ なお,原告は,被告の商号を,「日本車両」と「リサイクル」に分けた 上,「日本車両」の部分のみから原告表示と被告の商号の類似性を判断し ようとするが,「日本」及び「車両」の語は識別力が弱いこと,「リサイ クル」の部分は,被告の事業内容を示すもので省略することはできないこ と,被告の取引相手も「リサイクル」の部分に着目すること等に照らせば, 被告の商号は,「日本車両リサイクル」という一連一体のまとまりのある 営業表示であるから,原告の主張は誤りである。 (3) 被告の行為は,原告の営業と混同を生じさせるものであるか否か(争点 3)。 (原告の主張) そもそも,混同とは,実際に混同されるか否かは問題ではなく,混同のお それがあれば足りるものであるが,被告は,原告の著名な営業表示である 「日本車両」との原告表示を商号に入れて使用していることや,多くのメー カーが,「三井金属」と「三井金属リサイクル」のように,親会社の社名に 6 リ サイクルの文字を付加した名称の子会社を設立してリサイクルも行ってい ること,製造とリサイクルは全く別の業種ではなく,極めて密接に関係する 業務であることや,原告も産業廃棄物及び一般廃棄物の処理に関する事業を 目的の一つとしていることに照らせば,社会通念において,被告の商号を見 れば,原告の子会社であると誤認混同されることは必至である。また,第三 者が,被告の商号の使用によって,実際に原告と被告の営業を混同した事例 も生じている。 さらに,周知表示の主体の営業が不正競争行為者の行っている営業に及ん でいないという認識が需要者にない場合には,不正競争行為者が周知表示の 主体の営業と異なる分野において同一又は類似の表示を使用した場合にも, なお混同のおそれがあるというべきであるところ,本件では,需要者には, 原告の営業が被告の営業に及んでいないという認識がない以上,被告が原告 の営業と異なる分野において同一又は類似の表示を使用した場合にも,なお 混同のおそれがあるといえる。 よって,被告の行為は,原告の営業と混同を生じさせるものであることが 明らかである。 (被告の主張) 原告と被告とは,事業分野,需要者及び取引態様等が全く異なっている上, 原告の需要者である鉄道会社は,車両製造会社を熟知しているため,被告の 商号の使用によって,原告の営業と混同することは考えられない上,混同し た事例も存在しない。また,被告の商号は原告表示と類似しないから,需要 者に誤認混同されることはない。 よって,被告が被告の商号を使用することは,原告の営業と混同を生じさ せるものではない。 (4) 原告は営業上の利益を害されるおそれがあるか否か(争点4)。 (原告の主張) 7 混 同の事実が認められる場合には特段の事情がない限り営業上の利益を侵 害されるおそれがあると言うべきである。 (被告の主張) 上記(3)主張のとおり,混同のおそれがあるとは認められないから,被告 の商号の使用によって,原告の営業上の利益が害されるおそれはない。 第3 当裁判所の判断 1 前記前提となる事実に後掲証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が 認められる。 (1) 原告は,明治29年に設立された,日本における民間最初の鉄道車両製 造会社(資本金約118億円)であり,名古屋市に本店がある。 日本における鉄道車両製造業界は,原告を含む5社がほぼ独占していると ころ,原告は,その中でも最大手の鉄道車両製造会社である。原告は,新幹 線車両,リニアモーターカーのほか,特急型車両,通勤型車両,地下鉄型車 両及び新交通システムの車両等の多様な鉄道車両を製造し,関東,東海,関 西,九州等の全国各地の鉄道会社に販売している上,海外へ海外向車両を輸 出している。(甲3,4,10,25) また,原告は,鉄道車両メーカー並びに鉄道車両に搭載される電気機器メ ーカー及び電気以外の機器,部品メーカーを正会員とし,鉄道関連メーカー 等を賛助会員,鉄道事業者を特別会員とする社団法人日本鉄道車輌工業会の 正会員で,同法人のウェブサイトには,正会員として,「日本車輌製造 (株)」との記載がある。(甲14の1ないし4) (2) 原告が製造した鉄道車両の多くには,その内部の前部又は後部の壁の上 段に,原告表示を記載した銘板が設置されているが,新幹線車両など,鉄道 会社の意向により,銘板が設置されていない車両も存在する。(甲15) (3) 原告に関する記事が掲載された新聞や雑誌としては,以下のものがある。 ア 原告表示は,昭和37年4月26日付け朝日新聞に使用されている(甲 8 7 の3)。 イ 他方,以下のとおり,原告表示とその他の表示が併用されているものが ある。 (ア) 昭和37年4月27日付けの交通新報には,原告表示及び「日車」 との表示が使用されている。(甲7の5) (イ) 昭和39年2月9日付け中部経済新聞には,原告表示及び「日本車 両製造会社」との表示が使用されている。(甲7の9) (ウ) 平成14年2月23日付け中日新聞,東海日日新聞及び東愛知新聞, 平成20年8月16日付け日本経済新聞,平成22年9月18日付け中 日新聞,朝日新聞及びフジサンケイビジネスアイ,平成23年7月8日 発行の週刊東洋経済の「鉄道完全解明 2011」と題する臨時増刊号 には,原告表示及び「日本車両製造」との表示が使用されている。(甲 8の1ないし3,9の5,6,18,25,35) (エ) 平成20年8月19日付け日本証券新聞には,原告表示及び「日車 両」との表示が使用されている。(甲26の1) (オ) 平成22年9月18日付け日本経済新聞には,原告表示,「日本車 両製造」及び「日車両」との表示が使用されている。(甲9の4) (カ) 平成23年8月4日付け中日新聞には,原告表示,「日本車両製 造」及び「日車」との表示が使用されている。(甲29) ウ また,「日本車輌」との表示が,昭和37年4月26日付け日本経済 新聞,毎日新聞及び日刊工業新聞のほか,平成23年11月7日,同月 9日,平成24年2月17日,18日,20日,21日,22日,23 日付けの中部経済新聞の「自動車王国前史」という連載記事中に使用さ れている。(甲7の1,2,4,44の1ないし8) 加えて,原告は,平成8年1月1日発行の雑誌「鉄道ピクトリアル」の 裏表紙に,「日本車輌」との表示を使用して広告を掲載している。(甲1 9 6) エ さらに,「日本車輌」又は「日本車輛」との表示とその他の表示が併 用されているものがある。 (ア) 昭和38年8月30日付け日刊工業新聞には,「日本車輌」及び 「日車輌」との表示が使用されている。(甲7の6) (イ) 昭和39年1月6日付け朝日新聞夕刊及び平成20年8月16日付 け毎日新聞には,「日本車輌」及び「日本車輌製造」との表示が使用さ れている。(甲7の7,26の3) (ウ) 昭和39年2月1日付け日刊工業新聞には,「日本車輌」,「日車 輛」及び「日車」との表示が使用されている。(甲7の8) (エ) 昭和39年8月27日付け株式新聞には,「日本車輌」,「日本車 輛」及び「日本」との表示が使用されている。(甲10) (オ) 前記ウ記載の平成8年1月1日発行の雑誌「鉄道ピクトリアル」の 原告の紹介記事には,「日本車輌製造(以下日車という)」として「日 車」との表示のほか,「日本車輌製造」,「日本車輛製造」及び「日本 車輛」との表示が使用されている。(甲16) オ なお,以下は,原告表示が全く使用されていないものである。 (ア) 昭和39年2月10日付け産業経済新聞には,「日本車輌製造会 社」との表示のみが使用されている。(甲7の10) また,平成14年2月23日付け朝日新聞,同月25日付け日刊工業 新聞及び平成22年9月20日付け日刊工業新聞には,「日本車両製 造」との表示が使用されている。さらに,平成22年8月24日付け読 売新聞,同年9月18日付け読売新聞及び中部経済新聞には「日本車輌 製造」との表示が,同日付け毎日新聞には「日本車輛製造」との表示が, 平成24年2月29日付け中部経済新聞の「自動車王国前史」という連 載記事中には「日本車輌製造(株)」との表示がそれぞれ使用されてい 10 る 。(甲9の1ないし3,7,8,33の1,2,44の10) (イ) 平成8年5月1日発行の鉄道情報誌「鉄道ダイヤ情報」には,「日 本車輌製造」及び「日車」との表示が使用されている。(甲17) (ウ) 平成20年8月19日付けの株式新聞には,「日車輌」及び「日本 車輌製造」との表示が使用されている。(甲26の2) (4) 原告は,平成22年8月1日にNHK総合テレビで放送された「めざせ 会社の星」という番組内で,「日本車輌」として紹介された。同番組は,被 告の本店所在地である富山県でも放映された。(甲27,36の1) 他方,原告は,平成23年3月22日に日本テレビの「火曜サプライズ特 大版すごいぞニッポンSP」という番組内で,「日本車輌製造株式会社」と して紹介された。同番組は,被告の本店所在地である富山県でも放映された。 (甲28,36の2) (5) 原告は,平成元年に開催された世界デザイン博覧会(総入場者数約15 18万人)に「日本車輌館」というパビリオンを出展し,同パビリオン来館 者を対象に原告の認知度やイメージ等についてのアンケートを実施したとこ ろ,有効回答数220のうち,原告を「知っていた」との回答は76.4% であった。(甲19の1,2) また,原告が製造した鉄道車両は,平成22年に入館者数が400万人を 突破したさいたま市所在の鉄道博物館や平成23年に入館者数が50万人を 突破した名古屋市所在のリニア・鉄道館に展示されており,両館のガイドブ ックには,製造会社として「日本車輌製造」との記載があるが,原告表示は 使用されていない。(甲20ないし23) さらに,原告は,平成22年度のグッドデザイン賞を受賞した鉄道車両の 製作に携わったほか,少なくとも20件の同賞受賞車両の製作に携わった。 (甲24) なお,原告は,日車夢工房という名称の店舗で,鉄道模型や鉄道グッズの 11 販 売等を行っているが,その際,原告表示を使用していない。(甲31) (6) 平成24年3月8日に,電子百科事典であるウィキペディアで「日本車 両」を検索したところ,検索結果のうちの多くが原告に関する記事であり, さらに,原告表示の検索結果数(197件)は,東急車両(28件)や近畿 車両(13件)の検索結果数よりも多かった。(甲43の1〜3) (7) なお,原告及び被告以外に,商号中に「日本車両」又は「日本車輌」を 含む法人として,株式会社日本車輌,財団法人日本車両検査協会,日本車輌 洗滌機株式会社,新日本車輌整備株式会社,日本車輌保障,株式会社日本車 輌機器販売,新日本車輌有限会社,新日本車輌株式会社,東日本車輌株式会 社,西日本車輌有限会社,北日本車両株式会社,北日本車輌株式会社,株式 会社北日本車輌工業所が存在している。(甲47,乙1ないし3,17ない し21,23,25ないし27) 2 争点1(原告表示が,原告の営業表示として著名又は周知であるか否か。) について (1) 原告表示の著名性 前記1の認定事実によれば,原告の営業であることを示す表示として,原 告表示のみが使用された全国紙の全国版は,昭和37年4月26日付け朝日 新聞にとどまり,「日本車輌」との表示についてみても,同日付け日本経済 新聞及び毎日新聞に使用されたにとどまる。そして,新聞,雑誌の記事やテ レビ番組の中では,原告表示が,例えば,「日本車両製造」,「日車」及び 「日車両」等の原告表示以外の表示と併用するものがあるほか,「日本車両 製造会社」,「日本車両製造」,「日本車輌製造」及び「日本車輛製造」な どの表示を使用して,原告表示を使用しないものがある。このことに加えて, 原告は,現在は会社案内冊子やウェブサイトにおいて原告表示を使用してい るものの,これまでに原告が,その営業であることを示す表示として原告表 示を使用ないし宣伝していたことは格別窺えない。 12 以 上に照らせば,原告表示が原告の営業であることを示す表示として著名 であると認めることはできない。 なお,原告は,原告と被告はともに鉄道車両を扱う同業種であり,同業者 に対して原告表示が著名であれば著名といえると主張する。しかしながら, 原告の主たる業務は鉄道車両の製造であるのに対し,被告の主たる業務は鉄 道車両のリサイクルであり,主たる業務が異なるのであるから,原告と被告 とが同業者であるということはできない。したがって,原告の主張は,その 前提を欠きこれを採用することができない。 (2) 原告表示の周知性 前記前提となる事実に,証拠(甲2,乙11ないし15)及び弁論の全趣 旨を総合すれば,被告は,平成21年6月25日,鉄道車両の解体,リサイ クル,鉄,非鉄金属のリサイクル,リサイクル関連機器の開発,仕入,販売 等を目的として設立され,平成22年1月12日,上記のほか,大型バス, トラックの解体処理及び部品の輸出,船舶の解体処理,コンクリート廃材の 再生処理,木屑の破砕処理,固形燃料の製造,プラスチック類の破砕処理を 目的に加えたこと,被告は,富山県高岡市に鉄道車両リサイクル専門工場を 建設していて,平成24年8月から,同工場を拠点として,鉄道車両のリサ イクルを開始すること,被告は,鉄道車両のリサイクルのほか,大型バスや トラック,FRP漁船,コンテナなどのリサイクルや解体した鉄,銅及びア ルミニウムの輸出を予定していること,以上の事実が認められ,これらの事 実によれば,被告の需要者は,解体するための鉄道車両等の購入相手である 鉄道会社等やリサイクルした製品,解体した鉄等の販売先であると認められ る。 前記(1)に判示したように,新聞,雑誌の記事やテレビ番組において,原 告の営業であることを示す表示として種々のものが使用され,原告表示のみ が使用された事例が極めて乏しいものである上,原告がこれまでにその営業 13 で あることを示す表示として原告表示を使用ないし宣伝していたことも格別 窺えないから,鉄道会社についてはともかくとしても,少なくともリサイク ルした製品や解体した鉄等の販売先については,原告表示が原告の営業であ ることを示す表示として広く認識されているとは考えがたいところである。 そして,原告表示が,原告の営業であることを示す表示としてリサイクルし た製品や解体した鉄等の販売先の間に広く認識されていることを認めるに足 りる的確な証拠はない。 そうであるから,原告表示が原告の営業であることを示す表示として需要 者の間に広く認識されているとは認められない。 3 以上によれば,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,い ずれも理由がない。 4 よって,原告の請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官 高 野 輝 久 裁判官 小 川 卓 逸 裁判官 棚 橋 知 子 14 |