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事件 平成 25年 (ネ) 10047号 損害賠償請求控訴事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2013/11/14
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
判例全文
判例全文
平成25年11月14日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

平成25年(ネ)第10047号 損害賠償請求控訴事件

原審・東京地方裁判所平成23年(ワ)第29260号

口頭弁論終結日 平成25年9月12日

判 決

控 訴 人 日 本 ミ ユ ウ 株 式 会 社

訴訟代理人弁護士 井 澤 光 朗

同 渕 上 隆

被 控 訴 人 株式会社エクセノヤマミズ

被 控 訴 人 株 式 会 社 中 一

上記両名訴訟代理人弁護士 鹿 内 徳 行

同 高 松 政 裕

主 文

1 本件控訴を棄却する。

2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1 控訴の趣旨

1 原判決を次のとおり変更する。

被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して431万5000円及びこれに対す

る平成23年9月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。

3 仮執行宣言

第2 事案の概要

本件は,控訴人が,被控訴人らに対し,@被控訴人らによる船舶用油槽洗浄

機「MBT−30型機」の製造販売が,控訴人と被控訴人株式会社エクセノヤ

マミズ(以下「被控訴人ヤマミズ」という。)ほか1社間の昭和46年4月1


1
日付け契約及び控訴人と被控訴人株式会社中一(以下「被控訴人中一」という。)

間の同日付け契約の各債務不履行に当たる旨主張し,債務不履行に基づく損害

賠償(平成19年10月27日から平成23年6月30日までの損害分)とし

て454万7840円及び遅延損害金の連帯支払を,A被控訴人らによる船舶

用油槽洗浄機「MST−30XL型機」の製造販売が,第2契約の債務不履行

に当たり,また,控訴人ないし控訴人代表者が開発した船舶用油槽洗浄機の設

計を盗用する違法な行為として共同不法行為を構成する旨主張し,債務不履行

又は共同不法行為に基づく損害賠償(上記期間の損害に係る分)として,45

06万7000円の一部請求である100万円及び遅延損害金の連帯支払を,

さらに,上記Aとの選択的請求として,B被控訴人らが控訴人の周知の商品等

表示である「MST−30」の名称を使用してMST−30XL型機を販売す

る行為が不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争に該当する旨主張し,同

4条に基づく損害賠償(平成8年11月1日から平成23年6月30日まで

の損害分)として,1億8029万7920円(同法5条3項)の一部請求で

ある100万円及び遅延損害金の連帯支払を求めた事案である。

原判決は,控訴人の@の請求について,被控訴人らに対し,331万500

0円及びこれに対する平成23年9月13日から支払済みまで年5分の割合に

よる遅延損害金の連帯支払を命じる限度で一部認容し,@のその余の請求並び

にA及びBの各請求をいずれも棄却した。

これに対し控訴人が,原判決中,A及びBの各請求(以下,これらを併せて「M

ST−30XL型機に関する損害賠償請求」という。)を棄却した部分のみを

不服として控訴した。

1 前提事実(証拠の摘示のない事実は,争いのない事実又は弁論の全趣旨によ

り認められる事実である。)

(1) 当事者

ア 控訴人は,船舶用洗浄機の設計,製造等を業とする株式会社である。


2
イ 被控訴人ヤマミズ(旧商号「山水商事株式会社」)は,船舶及び陸上向

け燃料添加剤の販売,船舶油槽工事及び船舶関連機器類の開発及び販売等

を業とする株式会社である。

ウ 被控訴人中一(旧商号「株式会社中一内燃機工業所」)は,船舶用機器

の製作等を業とする株式会社である。

(2) 控訴人と被控訴人ら間の各契約

ア 控訴人は,昭和46年4月1日,被控訴人ヤマミズ及び日本カッパー工

業株式会社(以下「カッパー工業」という。)との間で,「特殊油槽洗浄

器」の生産及び販売に関し,次のような条項を含む契約(以下「第1契約」

という。)を締結した(甲3)。

第1条 被控訴人ヤマミズ及びカッパー工業は控訴人に対し,控訴人の

考案設計したマシンの生産を依頼する。

第2条 被控訴人ヤマミズ及びカッパー工業は控訴人よりマシンを購入

し,国内において販売するものとす。

第4条 被控訴人ヤマミズ及びカッパー工業は控訴人の考案したマシン

を控訴人以外のものに製造を依頼してはならない。

第5条 控訴人はマシンを被控訴人ヤマミズ及びカッパー工業以外のも

のに直接売渡すか,又は賃貸してはならない。

第7条 被控訴人ヤマミズ,カッパー工業及び控訴人はマシンの構造上

の内容及び営業上の秘密を第三者に漏洩してはならないし,相互相手

方に不利益又は損害を与えた場合は計算した額を弁済するものとす。

第8条 本契約の第4条及び第7条は,契約の終了した日より起算して,

10年間は更に継続して有効とする。

第10条 本契約は締結日より向う1年とし,期間満了の1カ月前に双

方異議の申出ない場合は更に1カ年自動的に延長し,以後もその例に

準ずる。


3
イ 控訴人は,昭和46年4月1日,被控訴人中一との間で,次のような条

項を含む契約(以下「第2契約」という。)を締結した(甲4)。

第1条 控訴人は控訴人の考案した機械の製作を被控訴人中一に依頼す

る。

第2条 被控訴人中一は控訴人に依頼された機械の製作を控訴人と協議

打合わせにより製作し,かつ指示された納期までに納入しなければな

らない。

第3条 控訴人・被控訴人中一は製作及び営業内容を第三者に漏洩して

はならない。

第4条 被控訴人中一は控訴人の考えに基づく機械の製作上,機構,性

能上の秘密を第三者に漏洩してはならない。また同じ目的に使用する

類似した機械を控訴人以外の第三者から依頼され製作販売してはなら

ない。

第5条 控訴人及び被控訴人中一は本契約に背いて相手側に損害を与え

また営業の妨げとなる行為を行なった場合は相手側に与えた損害額

弁済しなければならない。

第7条 本契約は契約の日より5ケ年とし契約終了日より6ケ月前に控

訴人・被控訴人中一の両者が文書に依る契約延長の意志のないことを

通知しなければ自動的に5ケ年延長されるものとする。

第9条 本契約期日が終了又は破棄された場合でも控訴人・被控訴人中

一両者の利益を守るため本契約文の第3条第4条第5条は契約期

日が終了また破棄された日から起算して向こう10ケ年間は有効とす

る。

ウ 控訴人は,昭和54年6月29日,被控訴人ヤマミズとの間で,控訴人

が考案し,かつ,控訴人及び被控訴人ヤマミズが共同開発した「油槽洗浄

機MST−30型」の製造及び販売に関し,次のような条項を含む協定(以


4
下,この協定に係る合意を「第3契約」という。)をした(甲5)。

第1条 本機械の特許権並びに営業権は,被控訴人ヤマミズが控訴人よ

第3条を条件に取得する。

第2条 本機械は被控訴人ヤマミズ・控訴人が協議し,合意した製造所

に於いて製作するものとし,被控訴人ヤマミズはその製造所に対し直

接発註,購入し販売出来るものとする。

第3条 被控訴人ヤマミズは第1条による本機械の営業権及び特許権の

取得の代償として控訴人に対し2500万円を支払うものとする。…

第4条 被控訴人ヤマミズ及び控訴人は,本機械の機構図2部を作成し,

各自署名の上一部ずつ保管するものとする。

第6条 本機械以外のミユウマシンについて被控訴人ヤマミズが控訴人

に断りなく製造販売し控訴人に損害を与えた場合,又は控訴人が本機

械を直接販売し被控訴人ヤマミズに損害を与えた場合に生ずる一切の

損害をそれぞれ相手方に支払わなければならない。

(3) 従前の訴訟経過

ア 控訴人は,平成16年,被控訴人らを被告として,被控訴人らが平成1

2年6月16日から平成15年8月27日までの間に控訴人に無断でMB

T−30型機を製造販売したことが,第1契約及び第2契約に違反し,控

訴人に対する共同不法行為を構成する旨主張し,共同不法行為に基づく損

害賠償として528万7000円及び遅延損害金の連帯支払を求める訴

訟(東京地方裁判所平成16年(ワ)第12178号。以下,審級を問わ

ず,「前々訴事件」という。)を提起した。

東京地方裁判所は,平成18年2月17日,控訴人の請求を全部認容す

る旨の判決(甲7。以下「前々訴地裁判決」という。)を言い渡し,これ

に対し被控訴人らが,控訴(東京高等裁判所平成18年(ネ)第1559

号)を提起した。


5
控訴人と被控訴人らは,平成18年7月21日,東京高等裁判所におい

て,被控訴人らが控訴人に対し,被控訴人ヤマミズが平成12年6月16

日から平成15年8月27日までの間控訴人にMBT−30型機の製造を

依頼せず,被控訴人中一に311台製造させた上,これを第三者に販売し

た件についての和解金として528万7000円を連帯して支払うことな

どを内容とする和解をした(甲8)。

イ 控訴人は,平成19年,被控訴人らを被告として,被控訴人らが控訴人

に無断で平成15年8月27日から平成19年10月26日までの間にM

BT−30型機を,平成8年11月1日から平成19年10月26日まで

の間にMST−30XL型機を製造販売したことが,第1契約ないし第3

契約の債務不履行又は共同不法行為を構成する旨主張し,債務不履行又は

共同不法行為に基づく損害賠償請求として合計1億4221万3500

円(MBT−30型機に係る損害689万3500円及びMST−30X

L型機に係る損害1億3532万円の合計額)及び遅延損害金の連帯支払

を求める訴訟(東京地方裁判所平成19年(ワ)第32096号。以下,

審級を問わず,「前訴事件」という。)を提起した。

東京地方裁判所は,平成22年1月29日,控訴人の請求のうち,MB

T−30型機に関する損害賠償に係る部分については,被控訴人らの債務

不履行責任を認めた上で,被控訴人らに対し,平成15年8月27日から

平成19年10月26日までの損害分として516万8000円及び遅延

損害金の連帯支払を命じる限度で一部認容し,MST−30XL型機に関

する損害賠償部分に係る部分については,被控訴人らの債務不履行及び共

同不法行為の成立をいずれも否定し,全部棄却する旨の判決(甲1。 「前
以下

訴地裁判決」という。)を言い渡した。これに対し控訴人は,不服申立て

の範囲をMST−30XL型機に関する損害賠償請求を棄却した部分に限

定して控訴(東京高等裁判所平成22年(ネ)第1402号)を提起し,


6
被控訴人らは,MBT−30型機に関する損害賠償請求を一部認容した部

分を不服として附帯控訴(同第3777号)を提起した。

東京高等裁判所は,平成22年10月28日,控訴及び附帯控訴をいず

れも棄却する旨の判決(甲2。以下「前訴高裁判決」という。)を言い渡

し,同判決は,同年11月12日の経過により確定した(乙45)。

2 争点

本件の当審における争点は,次のとおりである。

(1) MST−30XL型機に関する債務不履行又は共同不法行為の成否(争点

1)

(2) MST−30XL型機に関する不正競争の成否(争点2)

(3) MST−30XL型機に関する債務不履行又は共同不法行為による損害

額(争点3)

(4) MST−30XL型機に関する不正競争による損害額(争点4)

第3 当事者の主張

1 争点1(MST−30XL型機に関する債務不履行又は共同不法行為の成否)

(控訴人の主張)

(1) 第2契約第4条の解釈

ア 第2契約第4条後段は,控訴人中一について,「同じ目的に使用する類

似した機械」を控訴人以外の第三者から依頼され製作販売してはならない

旨を規定している。

控訴人及び被控訴人中一との間で第2契約が成立した経緯及び第4条

文言に鑑みれば,第2契約第4条後段の規定は,控訴人が考案した機械を

模倣して船舶用洗浄機を製造販売することを禁じたものであり,同条後段

の「同じ目的に使用する類似した機械」とは,「控訴人ないし控訴人代表

者が開発した船舶用油槽洗浄機の設計を盗用した類似品」を指すと解すべ

きである。


7
そして,第2契約第4条後段に違反するか否かは,前訴高裁判決が判示

したように,「控訴人ないし控訴人代表者が開発した船舶用輸送洗浄機の

設計を盗用した類似品」の製造販売を行ったといえるかどうかによって判

断すべきである。

イ この点に関し,原判決は,第4条は,控訴人の考案に係る船舶用油槽洗

浄機そのものを控訴人に無断で製造した上,控訴人以外の者に納入するこ

と及び控訴人の考案に係る船舶用油槽洗浄機に関する控訴人の保有する技

術上の秘密と評価できる範囲の設計や構造上の技術的事項を控訴人に無断

で利用し,船舶用油槽洗浄機を製作することを禁じたものと解されるとし

た上で,同条後段に違反するか否かは,「控訴人の保有する技術上の秘密

と評価できる範囲の設計・構造上の技術的事項を利用」したといえるかど

うかによって判断すべきものと解釈している。

しかしながら,このような解釈は,前訴地裁判決及び前訴高裁判決と異

なるものである上,原審において被控訴人らからも主張されていなかった

解釈であるから,控訴人にとって不意打ちであり,弁論主義ないしその趣

旨に反する。また,第4条前段は,被控訴人中一は控訴人の考えに基づく

機械の製作上,機構,性能上の秘密を第三者に漏洩してはならない旨規定

し,「秘密」という文言を用いて秘密漏洩それ自体を禁じているのに対し

て,同条後段は,「秘密」という文言を用いることなく,「同じ目的に使

用する類似した機械」の製作を禁じているのであって,両条項の趣旨及び

目的は必ずしも同一ではない。それにもかかわらず,前段の「秘密」とい

う文言を後段の解釈にも導入し,盗用した技術が公知であったか否かによ

り,同条に違反するか否かを判断することは,契約の文言解釈の限度を超

えた不合理な限定解釈である。

したがって,原判決における第4条の上記解釈は誤りである。

(2) MST−30XL型機が「同じ目的に使用する類似した機械」に該当する


8
こと

ア 控訴人ないし控訴人代表者が開発したTMU−33型機は,「完全なオ

フセット」を実現するために,洗浄ノズルの回転軸を洗浄機ボディ(洗浄

機ボディの垂直中心軸)の正面前方の3次元の位置に配置し,「オフセッ

トした真っ直ぐノズル」と「リンク機構」を組み合わせた世界で最初の船

舶用輸送洗浄機である。ここに「オフセット」とは,ノズルからの洗浄液

の噴出による噴出反力(洗浄液の噴出方向と反対方向に働く力)がノズル

ボディ(洗浄機ボディ)の回転に影響を及ぼさず安定した洗浄が確保でき

ている状態,又はそのための措置を意味する。油槽洗浄機は,ノズルから

洗浄液を噴出して油槽を洗浄するものであり,ノズルボディを水平回転さ

せることにより,洗浄機の周囲360度の洗浄を行い,その際にノズルを

ノズルの回転軸を軸に上下動(回動)させているが,この噴出反力がノズ

ルボディに対し洗浄の正常な作動を妨げる起動力(回転力)として伝わる

と,ノズルボディの回転に悪影響を及ぼし,安定した洗浄を確保すること

ができなくなるので,「オフセット」が必要となる。

そして,TMU−33型機の設計上の核心部分は,「(従前のようにノ

ズルボディに接合された)曲線ノズルを採用せずに(完全に)オフセット

すること」を目的とし,この目的を実現するために,「リンク方式を採用

することにより洗浄ノズルをギアやシャフトなどでノズルボディと接合せ

ず,ノズルボディと離れた3次元の位置に,真っ直ぐノズルを配置」する

という手段を採用したことにある。

イ 控訴人代表者が開発したTMU−33型機に係る発明について,控訴人

がした特許出願の公開特許公報である特開昭55−165179号公

報(甲24)には,従前の洗浄機との対比において,TMU−33型機の

設計上の核心部分が説明されている(甲24の第1図ないし第9図は別紙

1参照)。


9
別紙1の第6図及び第7図は,従来の真っ直ぐノズル(1本ノズル)の

洗浄機,第8図及び第9図は,曲線ノズル(1本ノズル)の洗浄機であり,

これらの洗浄機は,いずれもノズルボディ(第6図ないし第9図の「c」)

の側面にノズル(同「e」)が接合されている。

従来の真っ直ぐノズルの洗浄機においては,噴出反力が,「Ad」(第

7図)の方向に働いて,ノズルボディの回転に影響を及ぼし,しかも,こ

の影響はノズルの上下動に伴って増減することになるので,あらかじめ決

められている回転速度を変化させ,洗浄パターンを乱してしまうことにな

り,オフセットしていない。

一方,曲線ノズルの洗浄機においては,噴出反力の延長線(ノズルの中

心線の延長線)とノズルボディの中心線(垂直中心軸)が交差するよう屈

曲させることにより(第9図),噴出反力をノズルボディの垂直中心軸で

相殺させて噴出反力がノズルボディの回転に影響を及ぼさず安定した洗浄

が確保できるようオフセットしている。しかしながら,曲線ノズルの洗浄

機では,ノズルボディの側面にノズルが接合されていることから,ここを

軸(第9図の「d」)にノズルの上下動が可能なように接合部分に遊びを

設ける必要があるためオフセットが不完全なものとならざるを得ない。加

えて,曲線ノズルの洗浄機では,ノズルが上下動したときに,ノズルの曲

がった部分とノズルボディの上方の部材が干渉することによってノズルの

可動範囲が制限されることや,ノズルを曲げることによってノズルの噴出

口をノズルボディの中心線に近づける形状のためにノズル長及びノズル重

量の増大による加工コストの増加という問題点がある。

これに対し,TMU−33型機は,別紙1の第1図ないし第5図のとお

り,ノズルの回転軸(第1図及び第2図の「4」 を,
) ノズルボディ 「2」
(同 )

の前方にノズルボディの垂直中心軸(同「3」)から距離を隔てた3次元

の位置に設けることによって,噴出反力の延長線とノズルボディの垂直中


10
心軸を交差させてオフセットしたものであり,これにより,ノズルを屈曲

させる必要がなくなり,真っ直ぐノズルを採用することを可能とし,その

結果,曲線ノズルの洗浄機の上記問題点を克服したものである。

加えて,TMU−33型機は,ノズルの回転軸を上記の3次元の位置に

設けた上で,メインシャフト(別紙1の第1図ないし第3図,第5図の「3」,

甲10の5頁(別紙2参照)の部品番号「9」)を上下に可動させ,そこ

に接続したレバー(別紙1の第3図の「12」 別紙2の部品番号
, 「30」)

及びリンク(別紙1の第3図の「16」,別紙2の部品番号「31」)を

介してノズルを上下動させるリンク方式を採用したため,従来の真っ直ぐ

ノズルの洗浄機及び曲線ノズルの洗浄機のように,ノズルボディの内部に

ギアなどの駆動機構を収納する必要がなくなり,軽量化,機構のシンプル

化,整備性の向上を図ることができたものである。

ウ 被控訴人らが製造販売するMST−30XL型機は,真っ直ぐノズル(甲

25(乙40の1枚目と同じ)(別紙3参照)の部品番号「15」)をノ

ズルボディ(別紙3の部品番号「13」)の前方の3次元の位置に設置す

ることにより,曲線ノズルを採用せずに,噴出反力の延長線とノズルボデ

ィの垂直中心軸を交差させて完全なオフセットを実現する構造としてい

る。

そして,MST−30XL型機では,ノズルを上下動させる機構として,

メインシャフト(別紙3の部品番号「10」)を上下動させ,そこに接続

したリンク(別紙3の部品番号「16」)を介してノズルを上下動させる

リンク方式を採用している。

このようにMST−30XL型機は,TMU−33型機と同様に,曲線

ノズルを採用せずに,完全なオフセットを実現するために,「リンク方式

を採用することにより洗浄ノズルをギアやシャフトなどでノズルボディと

接合せず,ノズルボディと離れた3次元の位置に,真っ直ぐノズルを配置」


11
するという手段を採用したものであるから,TMU−33型機の設計上の

核心部分(前記ア)を盗用(利用)して製造されたものであることは明ら

かである。

したがって,MST−30XL型機は,控訴人代表者が開発したTMU

−33型機の設計を盗用した類似品であるといえるから,「同じ目的に使

用する類似した機械」(第2契約第4条後段)に該当する。

エ これに対し被控訴人らは,MST−30XL型機は,控訴人代表者が開

発したTMU−33型機の設計を盗用した類似品に当たらない旨主張する

が,被控訴人らの主張は,「オフセットを解消」などの表現を用いる点で,

控訴人とは異なる意味で「オフセット」の語を用いるものであり,適切な

反論となっていない。

また,被控訴人らは,オフセットの方法の違いとして,MST−30X

L型機が二又支持構造であることを挙げ,かつ,リンク機構の場所が相違

する旨主張するが,MST−30XL型機は,噴出反力の延長線とノズル

ボディの垂直中心軸を交差させている点でTMU−33型機と同一であ

り,二又支持構造であるか片側支持構造であるか,リンク機構の場所がど

こであるかはオフセットとは無関係である。

さらに,被控訴人らは,リンク機構におけるクランク使用の有無を相違

点として挙げるが,TMU−33型機は,オフセットした真っ直ぐノズル

を採用し,かつ,リンク方式を採用した最初の洗浄機であり,リンク方式

の採用自体が意味を持つのであり,クランク使用の有無は問題とならない。

(3) 第2契約の債務不履行及び共同不法行為の成立

ア 被控訴人中一は,控訴人代表者が開発したTMU−33型機の設計を盗

用した類似品であるMST−30XL型機を控訴人以外の第三者である被

控訴人ヤマミズから依頼されて製作し,被控訴人ヤマミズに対し販売し,

さらに,被控訴人ヤマミズはこれを他に販売したものである。


12
被控訴人中一の上記行為は,第2契約第4条後段に違反するものとして

控訴人に対する債務不履行を構成し,また,被控訴人らの上記行為は,T

MU−33型機の設計を盗用する違法な行為として控訴人に対する共同不

法行為を構成する。

イ この点に関し,原判決は,控訴人が述べるTMU−33型機の設計上の

特徴は公開特許公報である甲24に記載のものであり,仮にMST−30

XL型機において甲24記載の技術を利用しているとしても,甲24記載

の技術は上記利用の時点で公知のものであったから,上記利用行為が,控

訴人の保有する秘密に係る技術的事項を利用したものと評価されることは

なく,また,TMU−33型機の技術的特徴に照らして検討しても,MS

T−30XL型機はTMU−33型機の技術を利用したものに当たらない

として,被控訴人中一がMST−30XL型機を製造し,被控訴人ヤマミ

ズに納入したことが第2契約第4条に違反するものとは認められない旨判

断した。

しかしながら,原判決の判断は,以下のとおり誤りである。

(ア) 前記(1)アで述べたとおり,第2契約第4条後段に違反するか否か

は,「控訴人ないし控訴人代表者が開発した船舶用輸送洗浄機の設計を

盗用した類似品」の製造販売を行ったといえるかどうかによって判断す

べきであり,「控訴人の保有する技術上の秘密と評価できる範囲の設計

・構造上の技術的事項を利用」したといえるかどうかによって判断すべ

きものではない。

また,特許申請は,それ自体の独自の目的をもって行われるものであ

り,合意した当事者間を律するためにされる契約締結行為とはその目的

を異にするものであるにもかかわらず,甲24に記載された技術は公知

のものであり,その技術を盗用(利用)しても第2契約第4条に違反す

る余地はないとする原判決の解釈は,著しく合理性を欠くというべきで


13
ある。

(イ) 原判決は,控訴人は,TMU−33型機が「(従来のノズルボディ

に接合された)曲線ノズルを採用せずに(完全に)オフセットすること」

を目的とし,そのために「リンク方式を採用することにより洗浄ノズル

をギアやシャフトなどでノズルボディと接合せず,ノズルボディと離れ

た3次元の位置に真っ直ぐノズルを配置」するという手段を採用したこ

とに技術的特徴があると主張するが,「オフセット」(洗浄液の噴射に

よる反力の問題の解消)は,屈曲ノズルを用いることにより解決した問

題であって,「従来技術」に係る事項であるから,MST−30XL型

機において洗浄液の噴出による反力がノズルボディの回動に影響を及ぼ

すことを避けるという効果を得ることができるとしても,MST−30

XL型機がTMU−33型機における控訴人代表者の考案に係る技術を

利用したものとみることはできない旨判断した。

しかしながら,「オフセット」は,あくまで効果であり,これをいか

なる構成により実現させるかという点が,控訴人代表者の考案に係る技

術部分である。そして,従来の屈曲ノズルでは,ノズルボディの側面に

屈曲ノズルが接合され,ノズルの回転軸を軸に上下動(回動)する形状

であるため,ノズルの上下動が可能なように接合部分に遊びを設ける必

要があり,そのため「オフセット」は不完全なものとならざるを得なか

ったのに対し,TMU−33型機は,このような問題点を解消し,「完

全なオフセット」を実現したのであるから,原判決の上記判断は,失当

である。

(ウ) 原判決は,@MST−30XL型機が,「洗浄機の流路がノズルボ

ディの先端付近から一旦二方向に分かれた上,中央のノズルにおいて合

流する構成」,すなわち,「二又支持構造」を採用している点において,

TMU−33型機の技術的特徴と異なる,AMST−30XL型機が,


14
そのノズルの回動範囲が130度に限られ,TMU−33型機のノズル

の回動範囲よりも狭い点において,TMU−33型機の技術的特徴を利

用したものとはいえない,BTMU−33型機における「オフセットし

た真っ直ぐノズル」と「リンク機構」との組合せにより,前者に係る作

用効果(反力の問題の解消)と後者に係る作用効果(軽量化,機構のシ

ンプル化等)とは別の新たな作用効果を生じるものではなく,その組合

せに新たな技術的意味を見出すことはできないし,また,仮にTMU−

33型機のリンク機構の具体的構造に技術的意義があるとしても,MS

T−30XL型機のリンク機構の具体的構造はTMU−33型機とは異

なるとして,MST−30XL型機はTMU−33型機の技術を利用し

たものに当たらない旨判断した。

しかしながら,上記@の点については,TMU−33型機の構造にお

いて,片側支持であるか,二又支持であるかは本質的な問題ではない。

片側で支持するよりも二又で支持する方が強度において優れていること

は確かであり,そのことは控訴人代表者もTMU−33型機を設計した

当時から認識していたが,材料費節約のために片側支持構造としたにす

ぎない。しかも,控訴人代表者がその後二又支持構造を採用することを

検討していたことは,控訴人からTMU−33型機の開発試験用のノズ

ルを受注していた被控訴人中一も認識していたものであり,被控訴人ら

は,このような控訴人の次期構想を取り入れてMST−30XL型機を

二又支持構造としたにすぎない。

次に,上記Aの点については,洗浄機メーカーとしては,洗浄範囲を

広くすべく,ノズルの回動範囲を広げようと努めるものであり,他に特

別の理由もなく,あえて回動範囲が狭くなるよう設計をするはずもない

から,MST−30XL型機のノズルの回動範囲がTMU−33型機の

それよりも狭いのは,単に被控訴人中一の技術力が劣っていたにすぎな


15
い。

さらに,上記Bの点については,本件では,MST−30XL型機が「同

じ目的に使用する類似した機械」(第2契約第4条後段)といえるか否

かが問題であり,「オフセットした真っ直ぐノズル」と「リンク機構」

との組合せについて「新たな技術的意味」がないとして,これを否定す

る理由などない。また,リンク機構それ自体には必ずしも独自の技術的

意義はないから,原判決がリンク機構の具体的構造の差異を強調するの

は失当である。

したがって,MST−30XL型機はTMU−33型機の技術を利用

したものに当たらないとした原判決の判断は,理由がない。

(エ) 以上によれば,被控訴人中一がMST−30XL型機を製造し,被

控訴人ヤマミズに納入したことが第2契約第4条に違反するものとは認

められないとした原判決の判断は,誤りである。

(4) 被控訴人らの既判力の抵触又は信義則違反の主張について

最高裁昭和37年8月10日第二小法廷判決(以下「昭和37年最高裁判

決」という。)は,1個の金銭債権の数量的一部請求の判決確定後の残部請

求について,前訴において一部である旨を明示した場合には,訴訟物は当該

一部であり,既判力は残部請求に及ばないとして,残部請求を適法としたも

のである。また,最高裁平成10年6月12日第二小法廷判決・民集52巻

4号1147頁(以下「平成10年最高裁判決」という。)は,1個の金銭

債権の数量的一部請求がされた後の残部請求に関し,昭和37年最高裁判決

を前提としつつ,信義則を根拠に残部請求が許されないとしたものであり,

その理由とするところは,前訴において債権の全部について審理が行われた

ことにある。

しかるに,控訴人は,前訴事件において,被控訴人らが継続的に行ってい

る債務不履行又は不法行為(共同不法行為)に関し,時期を特定して損害賠


16
償請求をしたものであり,1個の金銭債権の数量的一部請求をしたものでは

ないから,昭和37年最高裁判決を引くまでもなく,前訴事件の判決の既判

力が本訴請求に及ぶことはない。また,本訴においては,前訴事件で対象と

ならなかった時期における債務不履行又は不法行為に関し損害賠償を請求す

るものであり,これを信義則違反とすることは,控訴人の裁判を受ける権利

を不当に侵害するものである。

したがって,本訴におけるMST−30XL型機に関する債務不履行又は

共同不法行為に基づく損害賠償請求(以下「本件請求」という。)が,既判

力又は信義則違反により排斥されることはない。

(被控訴人らの主張)

(1) MST−30XL型機に関する本件請求の既判力の抵触又は信義則違反

MST−30XL型機に関する控訴人の本件請求と前訴事件の請求(以

下「前訴請求」という。)とを対比すると,両請求は,いずれも,被控訴人

らが控訴人に無断でMST−30XL型機を製造販売した行為について債務

不履行又は共同不法行為が成立することを理由に,それぞれ別の時期に発生

した損害(前訴請求は平成8年11月1日から平成19年10月26日まで

の損害分,本件請求は同月27日から平成23年6月30日までの損害分)

について一部請求であることを明示して損害賠償を請求するものである。

前訴事件において,被控訴人らがMST−30XL型機を製造販売した行

為について債務不履行及び共同不法行為がいずれも成立しないと明確に判断

され,損害論に立ち入るまでもなく,控訴人の前訴請求を棄却する判決がさ

れ,確定した。

前訴事件においては,第1審で,合計15回もの期日(判決言渡期日を除

く。 が開かれ,
) 2年以上もの審理が行われ,控訴審でも合計4回の期日(判

決言渡期日を除く。)が開かれ,十二分に審理が尽くされたものである。特

に,控訴審では,控訴人代表者本人に対し,その独自の技術的主張を裁判官


17
に説明をする機会まで設けられ,控訴人代表者は,弁論準備手続期日におい

て,自ら作成したと思われる模型を使用し,自らの主張を十二分に披露する

機会が与えられたものである。

このように前訴事件においては,控訴人に対し,主張立証を十二分に尽く

させた上で,被控訴人らによるMST−30XL型機の製造販売が債務不履

行及び共同不法行為が成立するとの控訴人の主張がいずれも排斥された。そ

して,明示的一部請求であっても,前訴で敗訴した控訴人が残部請求訴訟を

提起することは,特段の事情がない限り,信義則に反し許されない(平成1

0年最高裁判決参照)。

そうすると,控訴人が,被控訴人らによるMST−30XL型機の製造販

売という同じ行為につき債務不履行又は共同不法行為が成立することを理由

に,平成19年10月27日から平成23年6月30日までの損害分の損害

賠償を求める本件請求は,前訴事件の蒸し返しにすぎず,前訴事件の確定判

決の既判力に抵触し,又は権利の濫用に当たり,信義則に反し,許されない

というべきである。

(2) 第2契約第4条の解釈に関する控訴人の主張について

控訴人が原判決が弁論主義に反すると指摘する点は,第2契約第4条後段

の文言の解釈についての判断であって,法的評価にすぎず,弁論主義違反は

問題とならない。第2契約第4条後段の解釈については,原審では勿論,前

訴事件の第1審時より,主要な争点の一つとして当事者間で主張立証がされ

ており,控訴人にとって不意打ちを与えるものではない。

原判決の解釈は,前訴地裁判決及び前訴高裁判決の解釈と同趣旨のもので

あり,これらの判決の解釈よりも明確性を加えた分,より合理性が高まった

ものといえる。

(3) MST−30XL型機が「同じ目的に使用する類似した機械」に該当する

との控訴人の主張について


18
ア TMU−33型機は,リンク機構がノズルボディの横に位置し,メイン

シャフト(センターシャフト)の上下動をノズルに伝達するためにリンク

の一部を横に曲げ,ノズルにつなげる機構で元に戻し,「オフセット(中

心線からのずれ)」を解消し,噴出反力をノズルボディの中心線上で受け

る機構になっている。これに対し,MST−30XL型機は,流体の流れ

の芯(パイプセンター,ノズルアクションシャフト,リンク機構,ノズル

ボディセンター,ノズル)と力の伝達経路を同一線上に位置させるという

設計思想から,リンク方式の採用及び二又機構のノズルボディを実現させ,

直線ノズルを採用することができたものであり,基本となる設計思想にお

いて,TMU−33型機とは全く異なるものである。

また,TMU−33型機のノズルボディは片側支持であり,センターシ

ャフトからノズルに至る部分をS字管状に曲げることにより「オフセッ

ト(中心線からのずれ)」を解消する構造であるのに対し,MST−30

XL型機は,初めから「オフセット(中心線からのずれ)」のない構造を

目指し,二又機構のノズルボディを採用し,これを実現したものであり,

両者はその目的の実現方法において決定的に異なる。

さらに,TMU−33型機は,リンクに,センターシャフトの上下動に

従って回転運動するクランクバー(乙33の部品番号「205」,別紙2

の部品番号「30」参照)を使用しているが,その回転運動の移動により

半径距離が変化し,リンク作動が成り立たなくなることを避けるため,こ

れに長円形の穴(以下「長円穴」という。)を開け,この部分で連結点(乙

33の部品番号「210」がはまっている場所)がスライドして距離の変

化に追随し,シャフトの上下動に合わせられるような構造が採用されてい

る。これに対し,MST−30XL型機では,シャフトの上下動をシャフ

トの下部でリンクに直接連結してノズルを動かす仕組みを採用してお

り(乙40の2枚目の部品番号「L22」。別紙3の部品番号「16」参


19
照),リンク機構の使い方においてTMU−33型機とは全く異なる。ま

た,TMU−33型機がノズルの裏にリンクを位置させてクランクと連結

しているのに対し,MST−30XL型機は,シャフトの真下にリンクを

位置させており,この点においても両者は全く異なる。

そもそも,被控訴人らは,前訴事件の提起時までTMU−33型機の構

造を知らなかったばかりか,TMU−33型機は,ノズル部分に流路に貫

通して直径14ミリのピン(乙33の部品番号「212」)が存在するこ

とにより乱流が発生し,有効射程距離を確保できず,激しい振動と衝撃を

伴い,部品等を損傷させるおそれも高い劣悪な性能のものであり,被控訴

人らがその技術を盗用する理由がない。

したがって,MST−30XL型機は,TMU−33型機の設計を盗用

した類似品に当たらないから,「同じ目的に使用する類似した機械」(第

2契約第4条後段)に該当するとの控訴人の主張は,理由がない。

イ なお,控訴人は,「3次元の位置にノズルを配置」することがTMU−

33型機の設計上の核心部分である旨主張するが,これが,洗浄機本体の

垂直中心軸より3次元の位置にあることを意味するとすれば,MST−3

0R型機やMST−30RF型機のノズル部(甲6の6枚目。N−4ノズ

ルホルダーへのN−5ノズルローターアッセンブリーの固定位置はノズル

ボディ中心軸であるN−15アクションラックから離れた位置にある。)

においても同様であり,上記構成はTMU−33型機固有の技術的特徴に

当たらない。

(4) 第2契約の債務不履行及び共同不法行為の成立に関する控訴人の主張に

ついて

ア 前記(3)アのとおり,MST−30XL型機はTMU−33型機の設計を

盗用した類似品に当たらないから,被控訴人らによるMST−30XL型

機の製造及び販売が第2契約の債務不履行及び共同不法行為を構成すると


20
の控訴人の主張は,理由がない。

イ この点に関する原判決の判断の誤りをいう控訴人の主張は,以下のとお

り,失当である。

(ア) 控訴人は,MST−30XL型機が二又支持構造を採用しているこ

とは本質的な問題ではない旨主張するが,この点がTMU−33型機と

MST−30XL型機の設計思想の相違の現れの一つであり,前訴地裁

判決,前訴高裁判決及び原判決は,いずれもこの点の相違を強調してい

る。

(イ) 控訴人は,洗浄機メーカーとしては,洗浄範囲を広くすべく,ノズ

ルの回動範囲を広げようと努めるものであり,他に特別の理由もなく,

あえて回動範囲が狭くなるよう設計をするはずもないなどと主張する。

しかしながら,油槽洗浄機の場合,製品に必要な機能や性能のほかに,

適用法令や規則に沿う形で製品化されるが,国際海事機関(IMO)は,

油槽洗浄機の洗浄範囲について上甲板の洗浄を要求していない。MST

−30XL型機は,総合的な設計の結果として洗浄範囲を130度とし,

余計な時間を費やして不必要な場所を洗浄することをやめて洗浄効率を

上げ,限られた作業時間内で洗浄することにしたものである。要するに,

TMU−33型機とMST−30XL型機の回動範囲の相違は,設計思

想が全く異なることの証左であり,控訴人の上記主張は失当である。

(ウ) 控訴人は,TMU−33型機は,「オフセットした真っ直ぐノズル」

と「リンク機構」を組み合わせた世界で最初の洗浄機であり,被控訴人

中一がこれを模倣したなどと主張する。

しかしながら,原判決は,この組合せ自体を「新たな技術的意味を見

出すことができない」として,模倣の前提を欠く旨判示した上で,更

に,「リンク機構」についても被控訴人らが述べるように具体的構造が

そもそも異なり,模倣ではないと判断している。


21
したがって,控訴人の上記主張は,原判決に対する反論になっておら

ず,失当である。

2 争点2(MST−30XL型機に関する不正競争の成否)

当事者双方の主張は,原判決18頁20行目から22頁11行目に記載のと

おりであるから,これを引用する。

3 争点3(MST−30XL型機に関する債務不履行又は共同不法行為による

損害額

当事者双方の主張は,原判決22頁14行目から23頁3行目に記載のとお

りであるから,これを引用する。

4 争点4(MST−30XL型機に関する不正競争による損害額

当事者双方の主張は,原判決23頁5行目から19行目に記載のとおりであ

るから,これを引用する。

第4 当裁判所の判断

当裁判所も,控訴人のMST−30XL型機に関する損害賠償請求は,いず

れも理由がないものと判断する。その理由は,以下のとおりである。

1 争点1(MST−30XL型機に関する債務不履行又は共同不法行為の成否)

について

(1) 事実経過等

前記第2の1の前提事実と証拠(甲1ない10,12,13,20ないし

22,30,32ないし39,41,45,乙2ないし8,10ないし13,

16ないし18,27ないし31,33,35,40,43,46(枝番の

あるものは枝番を含む。))及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認

められる。

ア 控訴人代表者(A)は,昭和30年代中ころ,被控訴人ヤマミズに入社

した後,船舶用油槽洗浄機の開発等の業務に従事し,外国法人のバタワー

ス社製の船舶用油槽洗浄機をモデルにした可搬式船舶用油槽洗浄機「カッ


22
パーマシンN−2型機」の開発等に関与したが,独立して新型の船舶用油

槽洗浄機の開発等の事業を行うことを企図し,昭和45年3月31日付け

で被控訴人ヤマミズを退社した。

その間,被控訴人ヤマミズは,カッパーマシンN−2型機の製造を東光

精機に依頼し,被控訴人ヤマミズの関連会社のカッパー工業を介してこれ

を船会社にリースする取引等を行っていた。

一方,被控訴人中一は,カッパーマシンN−2型機の製造を被控訴人ヤ

マミズから受注することを希望し,被控訴人ヤマミズ側の控訴人代表者

交渉を行った。その結果,被控訴人ヤマミズは,当時被控訴人中一が船舶

用油槽洗浄機の製造を行った実績が全くなかったことなどから,船舶用油

槽洗浄機の修理の取引から始めるのが妥当である旨の控訴人代表者の意見

を踏まえて,被控訴人中一に対し,カッパーマシンN−2型機の修理を依

頼するようになった。

イ 控訴人代表者は,昭和45年4月1日,被控訴人ヤマミズ及びカッパー

工業との間で,「控訴人代表者の考案した新型タンククリーニングマシン」

の製造販売に関し,「新型マシン及びその改良点」の考案は控訴人代表者

に帰属し,その実施権は被控訴人ヤマミズ及びカッパー工業に帰属するこ

とを相互に確認すること,被控訴人ヤマミズ及びカッパー工業が控訴人代

表者の製造する「マシン」を購入すること,被控訴人ヤマミズ及びカッパ

ー工業が控訴人代表者以外の者に「マシン」の製造を発注するときは,控

訴人代表者に設計製造に関する指導を依頼し,控訴人代表者は,責任をも

ってこれを引き受け,その指導の対価の支払を受けることなどを内容とす

る契約(甲30)を締結した。

また,控訴人代表者が被控訴人中一から新型の船舶用油槽洗浄機の製造

を受注したいとの要請を受けていたことから,控訴人代表者が代表取締役

に就任した控訴人(日本ミユウ株式会社)と被控訴人中一は,同月6日,「控


23
訴人が考案した新型洗滌機」の製造に関し,控訴人は控訴人が考案した「機

械」の製造を被控訴人中一に一手に依頼すること,控訴人及び被控訴人中

一は生産上,営業上の秘密を第三者に漏らしてならないことなどを内容と

する契約(甲20)を締結した。

その後,控訴人は,控訴人代表者が設計した新型の可搬式船舶用油槽洗

浄機「MU−30型機」の製造を被控訴人中一に依頼し,被控訴人中一に

よって製造されたMU−30型機を被控訴人ヤマミズ等に販売するように

なった。MU−30型機は,被控訴人中一が,控訴人代表者の具体的な指

示を受けて,試作品の製造及び作動試験を行い,その試作品を基に完成品

を製造したものである。

他方で,控訴人は,昭和45年ころから,MU−30型機とは異なる新

型の固定式船舶用油槽洗浄機の開発を開始した後,同年9月1日,東光精

機との間で,「固定式洗滌機」の設計,製作及び営業に関し,「機械」の

設計は控訴人が行い,製作は控訴人の指示に基づいて東光精機が行うこと

などを内容とする契約(甲21)を締結した。

ウ(ア) 控訴人と被控訴人らは,控訴人ないし控訴人代表者が考案設計した

船舶用油槽洗浄機について,被控訴人ヤマミズが控訴人から購入して国

内で販売を行い,控訴人が被控訴人ヤマミズから受注する上記油槽洗浄

機の製造を被控訴人中一に発注し,被控訴人中一がこれを製造する旨の

継続的取引を行うことを目的として,昭和46年4月1日,次のような

各契約(第1契約及び第2契約)を締結した。これに伴い,控訴人は,

そのころ,東光精機との間で昭和45年9月1日に締結した前記イの契

約を解消した。

a 第1契約

控訴人は,昭和46年4月1日,被控訴人ヤマミズ及びカッパー工

業との間で,「特殊油槽洗浄器」の生産及び販売に関し,第1契約(甲


24
3)を締結した。第1契約には,下記のような条項がある。



第1条 被控訴人ヤマミズ及びカッパー工業は控訴人に対し,控訴人

の考案設計したマシンの生産を依頼する。

第2条 被控訴人ヤマミズ及びカッパー工業は控訴人よりマシンを購

入し,国内において販売するものとす。

第4条 被控訴人ヤマミズ及びカッパー工業は控訴人の考案したマシ

ンを控訴人以外のものに製造を依頼してはならない。

第5条 控訴人はマシンを被控訴人ヤマミズ及びカッパー工業以外の

ものに直接売渡すか,又は賃貸してはならない。

第7条 被控訴人ヤマミズ,カッパー工業及び控訴人はマシンの構造

上の内容及び営業上の秘密を第三者に漏洩してはならないし,相互

相手方に不利益又は損害を与えた場合は計算した額を弁済するもの

とす。

第8条 本契約の第4条及び第7条は,契約の終了した日より起算し

て,10年間は更に継続して有効とする。

第10条 本契約は締結日より向う1年とし,期間満了の1カ月前に

双方異議の申出ない場合は更に1カ年自動的に延長し,以後もその

例に準ずる。

b 第2契約

控訴人は,昭和46年4月1日,被控訴人中一との間で,第2契約(甲

4)を締結した。第2契約には,下記のような条項がある。



第1条 控訴人は控訴人の考案した機械の製作を被控訴人中一に依頼

する。

第2条 被控訴人中一は控訴人に依頼された機械の製作を控訴人と協


25
議打合わせにより製作し,かつ指示された納期までに納入しなけれ

ばならない。

第3条 控訴人・被控訴人中一は製作及び営業内容を第三者に漏洩し

てはならない。

第4条 被控訴人中一は控訴人の考えに基づく機械の製作上,機構,

性能上の秘密を第三者に漏洩してはならない。また同じ目的に使用

する類似した機械を控訴人以外の第三者から依頼され製作販売して

はならない。

第5条 控訴人及び被控訴人中一は本契約に背いて相手側に損害を与

えまた営業の妨げとなる行為を行なった場合は相手側に与えた損害

額を弁済しなければならない。

第7条 本契約は契約の日より5ケ年とし契約終了日より6ケ月前に

控訴人・被控訴人中一の両者が文書に依る契約延長の意志のないこ

とを通知しなければ自動的に5ケ年延長されるものとする。

第9条 本契約期日が終了又は破棄された場合でも控訴人・被控訴人

中一両者の利益を守るため本契約文の第3条第4条第5条は契

約期日が終了また破棄された日から起算して向こう10ケ年間は有

効とする。

(イ) 控訴人は,第1契約及び第2契約の締結当時,新型の固定式船舶用

油槽洗浄機を開発中であったが,その後,控訴人代表者が新型の固定式

船舶用油槽洗浄機「MBT−30型機」の設計を完了した。

そして,控訴人は,昭和和46年ころから,MU−30型機のほかに,

MBT−30型機についても,被控訴人ヤマミズから発注を受けて被控

訴人中一に製造を依頼し,被控訴人中一から納入されたこれらの油槽洗

浄機を被控訴人ヤマミズに販売するようになった。MBT−30型機は,

MU−30型機と同様に,被控訴人中一が,控訴人代表者の具体的な指


26
示を受けて,試作品を製造した上で,その試作品を基に完成品を製造し

たものである。

エ 控訴人は,昭和53年12月ころ,被控訴人ヤマミズが控訴人を通さず

に被控訴人中一にMBT−30型機の製造を直接発注してこれを顧客に販

売しているのではないかとの疑念を抱き,同月21日,内容証明郵便で,

被控訴人ヤマミズに対し,第1契約の契約書各条項の違背がないよう注意

するよう述べるとともに,第1契約第10条に基づいて第1契約を昭和5

4年3月31日限り終了させる旨の通知(乙13)をした。これを受けた

被控訴人ヤマミズは,昭和54年1月16日付け書簡(甲32)をもって,

控訴人に対し,控訴人の指摘する「契約書違背事項」については更に詳し

く調査することはいとわないが,話合いによる円満解決を希望する旨述べ

た。

その後,控訴人と被控訴人らは,話合いをした後,平成12年6月ころ

までの間,MU−30型機及びMBT−30型機について,従来どおり,

控訴人が被控訴人ヤマミズから発注を受けて被控訴人中一に製造を依頼

し,被控訴人中一から納入された油槽洗浄機を被控訴人ヤマミズに販売す

る取引を継続的に行った。

オ(ア) MU−30型機及びMBT−30型機は,洗浄液を噴出するノズル

を2本有する,2本ノズルの船舶用油槽洗浄機(甲13の1,2)であ

った。控訴人は,油槽洗浄機における洗浄液の使用量を減少させること

などを目的として,MBT−30型機の開発後,1本ノズルの船舶用油

槽洗浄機の開発を進めていた。

控訴人は,昭和54年6月9日,1本ノズルの船舶用油槽洗浄機に関

する発明として,発明の名称を「洗浄機」とする発明の特許出願(特願

昭54−72755号。以下「本件出願」という。)をした。本件出願

は,昭和55年12月23日,特開昭55−165179号公報(甲2


27
4)の掲載により出願公開されたが(甲24の第1図ないし第9図は別

紙1参照),その後,昭和58年2月8日付けで拒絶査定がされ,その

拒絶査定が確定した。

(イ) 控訴人は,昭和54年6月29日,被控訴人ヤマミズとの間で,控

訴人が考案し,かつ,控訴人及び被控訴人ヤマミズが共同開発した「油

槽洗浄機MST−30型」の製造及び販売に関し,第3契約に係る協

定(甲5)をした。第3契約には,下記のような条項がある。



第1条 本機械の特許権並びに営業権は,被控訴人ヤマミズが控訴人よ

第3条を条件に取得する。

第2条 本機械は被控訴人ヤマミズ・控訴人が協議し,合意した製造所

に於いて製作するものとし,被控訴人ヤマミズはその製造所に対し直

接発註,購入し販売出来るものとする。

第3条 被控訴人ヤマミズは第1条による本機械の営業権及び特許権の

取得の代償として控訴人に対し2500万円を支払うものとする。…

第4条 被控訴人ヤマミズ及び控訴人は,本機械の機構図2部を作成し,

各自署名の上一部ずつ保管するものとする。

第6条 本機械以外のミユウマシンについて被控訴人ヤマミズが控訴人

に断りなく製造販売し控訴人に損害を与えた場合,又は控訴人が本機

械を直接販売し被控訴人ヤマミズに損害を与えた場合に生ずる一切の

損害をそれぞれ相手方に支払わなければならない。

(ウ) 控訴人は,昭和55年3月ころ,立野製作所に対し,控訴人代表者

が設計した1本ノズルの船舶用油槽洗浄機「TMU−33型機」の製造

を依頼した。立野製作所は,同年5月8日,製造したTMU−33型機

の公開実験テストを実施した。なお,控訴人は,TMU−33型機の開

発試験用ノズル(甲38)の製作を被控訴人中一に依頼したことがあっ


28
た。

TMU−33型機(甲10,乙33)は,別紙2に示すような構造を

有する1本ノズルの船舶用油槽洗浄機であり,洗浄機本体を貫通するセ

ンターシャフト(メインシャフト)の上下動をリンク機構によりノズル

の回動軸に伝達し,これによりノズルを上下に回動させ,また,センタ

ーシャフトの回転によりノズルを水平に回動させるようにしている。M

BT−30型機のノズルの形状は,別紙1の第1図及び第2図(本件出

願の実施例)に示すような直線ノズルであり,ノズルを上下に回動させ

るリンク機構の構造等は,別紙1の第3図ないし第5図(本件出願の実

施例)に示すとおりである。

その後,控訴人は,同年10月ころ,TMU−33型機の販売を開始

した。

(エ) 控訴人代表者及び被控訴人ヤマミズの担当者は,昭和55年10月

13日,第3契約第4条所定の「本機械の機構図」であることを確認す

る趣旨で,「MST−30R型機」及び「MST−30RF型機」の機

構図(甲6)に署名した。

MST−30R型機及びMST−30RF型機は,1本ノズルの船舶

用油槽洗浄機(乙16)であり,そのノズルの形状は,別紙1の第8図

及び第9図(本件出願の従来例)記載の曲線ノズルと同様のものである。

被控訴人ヤマミズは,同年10月ころ,MST−30R型機及びMS

T−30RF型機の販売を開始した。

カ 被控訴人らは,平成8年ころ,船舶用油槽洗浄機「MST−30XL型

機」を共同開発し,その製造及び販売を開始した。

MST−30XL型機(甲9,乙40)は,別紙3に示すような構造を

有する1本ノズルの船舶用油槽洗浄機であり,洗浄機本体を貫通するセン

ターシャフトの上下動をリンク機構によりノズルの回動軸に伝達し,これ


29
によりノズルを上下に回動させ,また,センターシャフトの回転によりノ

ズルを水平に回動させるようにしている。MST−30XL型機のノズル

の形状は,別紙1の第1図及び第2図記載の直線ノズルと同様のものであ

るが,一方で,ノズルを上下に回動させるリンク機構等の具体的な構造は,

別紙1の第3図ないし第5図に示す構造とは異なるものである。

被控訴人らは,MST−30XL型機を開発及び製造するに当たり,控

訴人代表者ないし控訴人から具体的な指示を受けることはなかった。

キ(ア) 控訴人は,平成16年,被控訴人らを被告として,被控訴人らが平

成12年6月16日から平成15年8月27日までの間に控訴人に無断

でMBT−30型機を製造販売したことが,第1契約及び第2契約に違

反し,控訴人に対する共同不法行為を構成する旨主張し,共同不法行為

に基づく損害賠償として528万7000円及び遅延損害金の連帯支払

を求める訴訟(前々訴事件)を提起した。

東京地方裁判所は,平成18年2月17日,控訴人の請求を全部認容

する旨の判決(前々訴地裁判決)を言い渡し,これに対し被控訴人らが,

控訴を提起した。

控訴人と被控訴人らは,平成18年7月21日,東京高等裁判所にお

いて,被控訴人らが控訴人に対し,被控訴人ヤマミズが平成12年6月

16日から平成15年8月27日までの間控訴人にMBT−30型機の

製造を依頼せず,被控訴人中一に311台製造させた上,これを第三者

に販売した件についての和解金として528万7000円を連帯して支

払うことなどを内容とする和解をした。

(イ) 控訴人は,平成19年,被控訴人らを被告として,被控訴人らが控

訴人に無断で平成15年8月27日から平成19年10月26日までの

間にMBT−30型機を,平成8年11月1日から平成19年10月2

6日までの間にMST−30XL型機を製造販売したことが,第1契約


30
ないし第3契約の債務不履行又は共同不法行為を構成する旨主張し,債

務不履行又は共同不法行為に基づく損害賠償請求として合計1億422

1万3500円(MBT−30型機に係る損害689万3500円及び

MST−30XL型機に係る損害1億3532万円の合計額)及び遅延

損害金の連帯支払を求める訴訟(前訴事件)を提起した。

東京地方裁判所は,平成22年1月29日,控訴人の請求のうち,M

BT−30型機に関する損害賠償に係る部分については,被控訴人らの

債務不履行責任を認めた上で,被控訴人らに対し,平成15年8月27

日から平成19年10月26日までの損害分として516万8000円

及び遅延損害金の連帯支払を命じる限度で一部認容し,MST−30X

L型機に関する損害賠償部分に係る部分については,被控訴人らの債務

不履行及び共同不法行為の成立をいずれも否定し,全部棄却する旨の判

決(前訴地裁判決)を言い渡した。これに対し控訴人は,不服申立ての

範囲をMST−30XL型機に関する損害賠償請求を棄却した部分に限

定して控訴を提起し,被控訴人らは,MBT−30型機に関する損害賠

償請求を一部認容した部分を不服として附帯控訴を提起した。

東京高等裁判所は,平成22年10月28日,控訴及び附帯控訴をい

ずれも棄却する旨の判決(前訴高裁判決)を言い渡し,同判決は,同年

11月12日の経過により確定した。

(ウ) 控訴人は,平成23年9月5日,本件訴訟を提起した。

(2) MST−30XL型機に関する本件請求の既判力の抵触又は信義則違反

の有無

被控訴人らは,控訴人は,被控訴人らが控訴人に無断でMST−30XL

型機を製造販売した行為について債務不履行又は共同不法行為が成立するこ

とを理由に損害賠償を求めた前訴事件において控訴人の請求を棄却する旨の

判決が確定したにもかかわらず,被控訴人らによるMST−30XL型機の


31
製造販売という同じ行為につき債務不履行又は共同不法行為が成立すること

を理由に,平成19年10月27日から平成23年6月30日までの損害分

損害賠償を求める本件請求は,前訴事件の蒸し返しにすぎず,前訴事件の

確定判決の既判力に抵触し,又は権利の濫用に当たり,信義則に反し,許さ

れない旨主張する。

そこで検討するに,MST−30XL型機に関する控訴人の本件請求と前

訴請求は,いずれも,被控訴人らが控訴人に無断でMST−30XL型機を

製造販売した行為について債務不履行又は共同不法行為が成立することを理

由とするものではあるが,前訴請求は平成8年11月1日から平成19年1

0月26日までの損害分についての損害賠償を,本件請求は同月27日から

平成23年6月30日までの損害分についての損害賠償を請求するものであ

って,対象とする具体的な行為,損害の発生時期及び期間が異なり,両請求

は訴訟物を異にするものであるから,本件請求は前訴事件の確定判決の既判

力に抵触するものとはいえない。

また,前訴事件において,本件請求に係る対象期間の損害賠償債権の存否

について審理されたことを認めるに足りる証拠はなく,本件請求が,前訴事

件の不当な蒸し返しとして信義則に反するということもできない。なお,被

控訴人らの指摘する平成10年最高裁判決は,本件と事案を異にし,本件に

は適切ではない。

したがって,被控訴人らの上記主張は,理由がない。

(3) MST−30XL型機に関する債務不履行の成否

ア 控訴人は,MST−30XL型機は,控訴人代表者が開発したTMU−

33型機の設計を盗用した類似品であり,第2契約第4条後段所定の「同

じ目的に使用する類似した機械」に該当するから,被控訴人中一が控訴人

以外の第三者である被控訴人ヤマミズから依頼されてMST−30XL型

機を製造販売する行為は,同条項に違反する債務不履行を構成する旨主張


32
する。

(ア) そこで検討するに,前記(1)ウ(ア)bのとおり,第2契約第1条は,

控訴人は「控訴人の考案した機械」の製作を被控訴人中一に依頼する旨

を,第2条は,被控訴人中一は,「控訴人に依頼された機械」の製作を

控訴人と協議打合せにより製作する旨を,第3条は,控訴人及び被控訴

人中一は,製作及び営業内容を第三者に漏洩してはならない旨を,第4

条前段は,被控訴人中一は,「控訴人の考えに基づく機械」の製作上,

機構,性能上の秘密を第三者に漏洩してはならない旨を,同条後段は,

控訴人中一は,「同じ目的に使用する類似した機械」を控訴人以外の第

三者から依頼され製作販売してはならない旨を,第9条は,第2契約が

終了又は破棄された場合でも,控訴人及び被控訴人中一の両者の利益を

守るため,第3条ないし第5条は,終了又は破棄された日から起算して

10年は有効とする旨をそれぞれ規定している。

これらの規定の各文言及び位置関係によれば,第4条後段は,被控訴

人中一に対し,同条前段の「控訴人の考えに基づく機械」と「同じ目的

に使用する類似した機械」を控訴人以外の第三者から依頼されて製作販

売することを禁止する不作為義務を課したものであり,この「控訴人の

考えに基づく機械」は,「控訴人の考案した機械」(第1条)と同義で

あり,被控訴人中一がその製作を「控訴人に依頼された機械」(第2条

であると解される。

また,第2契約は,控訴人が,「控訴人の考案した機械」の製作を被

控訴人中一に依頼し(第1条),被控訴人中一が控訴人との協議打合せ

によりその製作を行うに当たり(第2条),当該機械の「製作上,機構,

性能上の秘密」を被控訴人中一に開示することを想定し,第4条前段に

おいて,被控訴人中一に対し,上記「製作上,機構,性能上の秘密」の

第三者への漏洩を禁止する秘密保持義務を課し,さらに,第9条におい


33
て,控訴人の利益を守るため,第4条前段及び後段の規定の効力を第2

契約の終了又は破棄の日から10年間存続させることとしたものと解さ

れる。

一方で,控訴人と被控訴人中一が昭和45年4月6日に「控訴人が考

案した新型洗滌機」の製造に関し締結した契約の契約書(甲20)中に

は,控訴人は控訴人が考案した機械の製造を被控訴人中一に「一手に」

依頼する旨の条項(第1条)が存在していたのに対し(前記(1)イ),そ

の後締結した第2契約(甲4)には,第1条に,控訴人は控訴人の考案

した機械の製作を被控訴人中一に依頼する旨の規定があるが,「一手に」

との文言が存在しないことに照らすと,第2契約は,「控訴人の考案し

た機械」の製作を独占的に被控訴人中一に依頼することを前提とするも

のではなく,また,第2契約上の「控訴人の考案した機械」は,控訴人

が考案し,又は考案する機械の全てを対象とするものではないものと解

される。

以上によれば,第2契約第4条後段所定の「同じ目的に使用する類似

した機械」は,控訴人が考案し,その製作を被控訴人中一に依頼した機

械と同じ用途に使用し,かつ,当該機械の設計及び製作上の秘密に係る

技術的事項を利用した点において類似する機械(当該機械と同一の機械

を含む。)であることを要するものと解すべきである。

そして,前記(1)の認定事実によれば,控訴人と被控訴人らは,控訴人

ないし控訴人代表者が考案設計した船舶用油槽洗浄機について,被控訴

人ヤマミズが控訴人から購入して国内で販売を行い,控訴人が被控訴人

ヤマミズから受注する上記油槽洗浄機の製造を被控訴人中一に発注し,

被控訴人中一がこれを製造する旨の継続的取引を行うことを目的とし

て,昭和46年4月1日に第1契約及び第2契約を締結したものであり,

その締結当時,第1契約及び第2契約の対象となる製品として具体的に


34
想定していたのは,既に控訴人と被控訴人ら間で上記と同じ態様の取引

をしていた可搬式船舶用油槽洗浄機「MU−30型機」及び控訴人が開

発中の固定式船舶用油槽洗浄機(後の「MBT−30型機」)であった

ことが認められる。加えて,MU−30型機及びMBT−30型機は,

いずれも控訴人代表者が考案した機械であって,被控訴人中一が,控訴

代表者の具体的な指示を受けて,試作品を製造した上で,完成品を製

造したものであること(前記(1)イ,ウ(イ))を併せ考慮すると,第2契

第4条後段所定の「同じ目的に使用する類似した機械」とは,MU−

30型機又はMBT−30型機と同一の機械及びこれらの機械の設計及

び製作上の秘密に係る技術的事項を利用して製作された船舶用油槽洗浄

機をいうものと解すべきである。

(イ) しかるところ,@控訴人主張のMST−30XL型機は,被控訴人

らが平成8年ころ共同開発した船舶用油槽洗浄機であって,控訴人から

製作を依頼されたものではなく,その開発及び製造に当たり,被控訴人

らが控訴人代表者ないし控訴人から具体的な指示を受けたことはなかっ

たこと(前記(1)カ),AMU−30型機及びMBT−30型機は,いず

れも2本ノズルの船舶用油槽洗浄機であり,2本のノズルをノズルの回

動軸に対して半径方向に点対象の位置に設けて各ノズルの噴出口を互い

に逆方向に配置することによって,それぞれのノズルから噴出される洗

浄液の噴出反力(洗浄液の噴出により洗浄液の噴出方向と反対方向に働

く力)を互いに受け止める構造に設計されているのに対し(甲13の1,

2),MST−30XL型機は,1本ノズルの船舶用油槽洗浄機であり,

ノズルの回動軸をノズルボディと接合せずにその前方に設け,ノズルが

上下回動する平面と洗浄機本体を貫通するセンターシャフト(垂直中心

軸)の中心線が同一平面上になるように配置することによって,噴出反

力をセンターシャフトの中心線上で受け止められるような構造に設計さ


35
れている点(甲9,乙40)などにおいて,MU−30型機及びMBT

−30型機と構造が明らかに異なること,BMST−30XL型機にお

いて,MU−30型機及びMBT−30型機の設計及び製作上の秘密に

係る技術的事項が利用されていることをうかがわせる証拠はないことに

鑑みると,MST−30XL型機は,第2契約第4条後段所定の「同じ

目的に使用する類似した機械」に該当するものと認められない。

(ウ) これに対し控訴人は,MST−30XL型機は,控訴人代表者が開

発したTMU−33型機の設計を盗用した類似品であることを理由に,

第2契約第4条後段所定の「同じ目的に使用する類似した機械」に該当

する旨主張する。

しかしながら,TMU−33型機は,控訴人が昭和55年10月ころ

立野製作所に製造を依頼して販売を開始した1本ノズルの船舶用油槽洗

浄機であり(前記(1)オ(ウ)),控訴人が被控訴人中一にその製作を依頼

した機械ではないこと(なお,控訴人は,TMU−33型機の開発中に,

その試験用ノズルの製作を被控訴人中一に依頼したことがあったが(前

記(1)オ(ウ)),その依頼に係る図面(甲38)に照らすと,控訴人が被

控訴人中一に依頼したのは試験用ノズルの部品の一部であり,被控訴人

中一がTMU−33型機の製作を行ったものと評価することはできない

し,また,この依頼によって被控訴人中一が控訴人からTMU−33型

機の設計及び製作上の秘密に係る技術的事項の開示を受けたものともい

えない。)に鑑みると,TMU−33型機は,控訴人が考案し,その製

作を被控訴人中一に依頼した機械に該当せず,MST−30XL型機は,

そもそもTMU−33型機の類似品であるからといって第2契約第4条

後段所定の「同じ目的に使用する類似した機械」に該当するものといえ

ないから,控訴人の上記主張は,その前提において採用することができ

ない。


36
イ したがって,被控訴人中一が控訴人以外の第三者である被控訴人ヤマミ

ズから依頼されてMST−30XL型機を製造販売する行為が,第2契約

第4条に違反する債務不履行を構成するとの控訴人の主張は,理由がない。

(4) MST−30XL型機に関する共同不法行為の成否

ア 控訴人は,控訴人ないし控訴人代表者が開発したTMU−33型機

は,「完全なオフセット」を実現するために,洗浄ノズルの回転軸を洗浄

機ボディ(洗浄機ボディの垂直中心軸)の正面前方の3次元の位置に配置

し,「オフセットした真っ直ぐノズル」と「リンク機構」を組み合わせた

世界で最初の船舶用輸送洗浄機であり,その設計上の核心部分は,「(従

前のようにノズルボディに接合された)曲線ノズルを採用せずに(完全に)

オフセットすること」を目的とし,この目的を実現するために,「リンク

方式を採用することにより洗浄ノズルをギアやシャフトなどでノズルボデ

ィと接合せず,ノズルボディと離れた3次元の位置に,真っ直ぐノズルを

配置」するという手段を採用したことにあるところ,MST−30XL型

機は控訴人代表者が開発したTMU−33型機の設計を盗用した類似品で

あるから,被控訴人らがMST−30XL型機を製造販売する行為は,T

MU−33型機の設計を盗用する違法な行為として控訴人に対する共同不

法行為を構成する旨主張する。

(ア) そこで検討するに,控訴人がTMU−33型機の設計上の核心部分

であると主張する技術的事項は,1本ノズルの船舶用油槽洗浄機におい

て,曲線ノズルを採用せずに,直線ノズルを採用し,当該ノズルの回動

軸をノズルボディと接合せずにその前方(控訴人のいう「3次元の位置」)

に設け,ノズルが上下回動する平面と洗浄機本体を貫通するセンターシ

ャフト(垂直中心軸)の中心線が同一平面上になるように配置すること

によって,噴出反力をセンターシャフトの中心線上で受け止められるよ

うな構造とし,そのためノズルボディに対して回転モーメントが生じる


37
ことなく,ノズルからの洗浄液の噴射方向を制御しやすくしている点,

ノズルを上下に回動する機構について,ノズルボディの内部に収納した

ギアなどの駆動機構を用いずに,センターシャフトの上下動をリンク機

構によりノズルの回動軸に伝える構造とした点にあるものと解される。

これらの技術的事項は,控訴人が昭和54年6月9日にした本件出願に

係る明細書(甲24)に記載された技術的事項であり(別紙1の第1図

ないし第5図),本件出願が昭和55年12月23日に甲24の掲載に

より出願公開されたことにより,遅くとも,その出願公開の時点で上記

技術的事項の技術思想は公知となったものと認められる。また,控訴人

は,昭和55年10月ころから立野製作所に依頼して製造したTMU−

33型機の販売を開始したところ(前記(1)オ(ウ)),立野製作所が同年

ころ作成したTMU−33型機のパンフレット(甲10)には,上記技

術的事項に係るノズル,ノズルボディ,リンク機構等が記載されており,

そのころから上記パンフレットが広告等に使用されることによってTM

U−33型機に採用された上記技術的事項が公知となったものとうかが

われる。

そして,本件出願は,昭和58年2月8日付けで拒絶査定がされ,そ

の拒絶査定が確定したのであるから,控訴人は,本件出願に係る発明の

実施を排他的に独占し得る地位を有するものではなく,また,公知とな

った上記技術的事項の使用を排他的に独占することができるものでもな

い。

そうすると,第三者が上記技術的事項を使用して船舶用油槽洗浄機を

製造し,これを販売することがそれ自体で違法な行為に該当するという

ことはできない。

(イ) MST−30XL型機は,1本ノズルの船舶用油槽洗浄機であり,

曲線ノズルを採用せずに,直線ノズルを採用し,当該ノズルの回動軸を


38
ノズルボディと接合せずにその前方に設け,ノズルが上下回動する平面

と洗浄機本体を貫通するセンターシャフト(垂直中心軸)の中心線が同

一平面上になるように配置することによって,噴出反力をセンターシャ

フトの中心線上で受け止められるような構造とした点,ノズルを上下に

回動する機構についてリンク機構を採用している点において,控訴人が

TMU−33型機の設計上の核心部分であると主張する技術的事項を使

用しているものといえるが,前記(ア)で述べたとおり,上記技術的事項

は既に公知となっていたのであるから,そのことから直ちに被控訴人ら

によるMST−30XL型機の製造販売が違法な行為に該当するという

ことはできない。

また,MST−30XL型機は,本件出願が出願公開されて,上記技

術的事項が公知となった昭和55年12月23日から約16年が経過し

た平成8年ころ被控訴人らが共同開発してその製造販売を開始したもの

であるところ,MST−30XL型機において,TMU−33型機の設

計及び製作上の秘密に係る技術的事項が使用されていることをうかがわ

せる証拠はない。

さらに,MST―30XL型機とTMU−33型機とは,TMU−3

3型機(乙33)が,センターシャフトからノズルに至る部分を1本の

S字状に曲げた管で接続し,このS字状に曲げた管の端部にノズルを接

続する構成,すなわち片側支持構造を採用しているのに対し,MST−

30XL(乙40)は,洗浄機の流路がノズルボディ先端付近から一旦

二方向に分かれた上,中央のノズルにおいて合流する構成すなわち,二

又支持構造を採用している点において異なり,また,リンク機構につい

ても,センターシャフトの上下動をリンクの回動に変換する点では共通

するものの,その回動に伴って,リンクの回動中心からセンターシャフ

トの連結点までの半径距離が変化し,リンク作動が成り立たなくなると


39
いう問題を避けるために,TMU−33型機は,上下回動するリンクに

長円穴を設け,この長円穴にセンターシャフトの端部を移動可能に接続

しているのに対し(乙33の左側の図面,別紙2の部品番号「30」参

照),MST−30XL型機は,回動するリンクが他のリンクに接続さ

れ,回動の中心位置を変えられようにして,長円穴を設けることなく,

センターシャフトの上下動をリンクの回動に変換できるようにしている

点(乙40の2枚目の左側の図面,別紙3の部品番号「16」参照)で

異なることなどを勘案すると,MST−30XL型機は,TMU−33

型機と実質的に同一な模倣品であるということもできない。

以上によれば,MST−30XL型機はTMU−33型機の設計を盗

用した類似品であると認めることはできず,被控訴人らがMST−30

XL型機を製造販売する行為が,TMU−33型機の設計を盗用する違

法な行為であるとの控訴人の主張は,採用することができない。

イ したがって,被控訴人らがMST−30XL型機を製造販売する行為が

控訴人に対する共同不法行為を構成するとの控訴人の主張は,理由がない。

2 争点2(MST−30XL型機に関する不正競争の成否)について

争点2についての判断は,原判決39頁23行目から42頁末行に記載のと

おりであるから,これを引用する。

3 小括

以上によれば,控訴人のMST−30XL型機に関する損害賠償請求は,そ

の余の点について判断するまでもなく,理由がない。

第5 結論

以上の次第であるから,控訴人のMST−30XL型機に関する損害賠償

求はいずれも理由がなく,本件控訴は,理由がないからこれを棄却することと

し,主文のとおり判決する。




40
知的財産高等裁判所第4部



裁判長裁判官 富 田 善 範




裁判官 大 鷹 一 郎




裁判官 齋 藤 巌




41
(別紙1)




42
(別紙2)




43
(別紙3)




44