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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成11ワ903販売差止等請求事件 判例 不正競争防止法
平成14ネ1837損害賠償等請求控訴事件 判例 不正競争防止法
関連ワード 特段の事情 /  信義則 /  模倣 /  差止請求(差止) /  デザイン /  代理人 /  代表者 /  秘密管理(秘密管理性) /  秘密として管理 /  秘密保持義務 /  非公知性 /  営業秘密 /  保有者 /  損害賠償 / 
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事件 平成 12年 (ネ) 4119号 秘密保持義務存在確認等請求控訴事件
控訴人 ケービーエイ・ジオリ・エス・アー (旧商号) ド・ラ・リュー・ジオリ・エス・アー
訴訟代理人弁護士 花水征一
同 深井俊至
同 木村 耕太郎
訴訟復代理人弁護士 毛利峰子
補佐人弁理士 青木朗
同 鶴田準一
被控訴人 国代表者法務大臣 森山眞弓
指定代理人 小野寺 雅之
同 中園 浩一郎
同 飯田幸司
同 中川勝弘
同 中村博幸
同 杉悟
同 三澤勝久
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/05/29
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 控訴人 (1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人と控訴人との間に、原判決別紙目録(二)記載の技術情報につき、
秘密保持義務が存在することを確認する。
(3) 被控訴人は、原判決別紙目録(二)記載の技術情報を「自己の為にのみ利用し」、これを将来にわたって第三者に開示してはならない。
(4) 被控訴人は、訴外株式会社小森コーポレーション及びその他の第三者をして、訴外株式会社小森コーポレーションが「マルチ」、「カレンシーL832」及び「カレンシーI332」との名称で製造している銀行券及び証券印刷機、並びにその他訴外株式会社小森コーポレーション及びその他の第三者が日本国外において販売する銀行券及び証券印刷機に、原判決別紙目録(二)記載の技術情報を利用せしめてはならない。
(5) 被控訴人は、控訴人に対し、226万9059.67スイスフラン及びこれに対する平成元年4月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(6) 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人 主文第1、2項と同旨 (なお、被控訴人は、原審において、本件訴えの却下を求める本案前の答弁をしたが、当審においては上記のとおりの答弁をするにとどまるから、本案前の主張は撤回したものと解される。)
事案の概要
本件は、控訴人が、控訴人又はその前身(オルガニザシオン及びエンジニアリング社)において被控訴人(印刷局)に対して提供、開示した紙幣印刷機等に関する秘密技術情報(本件技術情報)につき、契約、不正競争防止法の趣旨、信義則又は覚書に基づいて、被控訴人が秘密保持義務を負担している旨主張し、被控訴人に対し、その旨の確認及び本件技術情報の開示等の差止めを求めるとともに、当該秘密保持義務違反を理由とする損害賠償を求めた事案であり、控訴人の請求をいずれも棄却した原判決に対し、控訴人が取消しを求めている。
本件の前提となる事実及び争点は、次のとおり訂正、付加するほかは、原判決「事実及び理由」欄の「第二 事案の概要」のとおりである(ただし、前記本案前の主張に係る59頁8行目〜60頁3行目を除く。)から、これを引用する。
1 原判決の訂正 原判決9頁6行目及び7行目の「大蔵省」を「財務省」に、10頁1行目の「ジオリ機構」を「ケーバウ社」に、41頁3行目の「甲一二」を「甲112」に、53頁2行目及び3行目の「スーパーシミュルタン」を「スーパーシムルタン」に、それぞれ改める。
2 控訴人の主張 (1) 被控訴人の秘密保持義務 被控訴人が控訴人に対し本件技術情報につき秘密保持義務を負担していることは、以下の点から明らかである。
ア 契約に基づく義務 被控訴人が、「シムルタン型」紙幣印刷機、「インタリオカラー型」紙幣印刷機、「ニューメロータ型」印刷機及び「ド・ラ・リュー・インタリオ・プレス型」紙幣印刷機を購入するに当たり、契約書上は、契約の相手方を、原告又はその前身であるオルガニザシオン若しくはエンジニアリング社とせずに、レイボルド機工及び東西商事とされたことは原判決の認定のとおりであるが、両者が、控訴人の日本における販売代理店であることは明らかであり、被控訴人(印刷局)もそのことは十分に承知していた。一般に政府機関が契約をする場合、契約書に日本語が用いられること等の理由から、外国の実質上の売主と直接契約することなく、日本の代理店等を介在させることは、政府調達契約の慣行にすぎない。このような場合に、実質上の売主が、自ら又は日本の代理店に代位して、当該契約上の権利を行使し得ることは当然である。
また、原判決は、売買契約に伴い秘密保持義務を負わせるにはその旨の特約が必要であるとするが、転売を前提としないような特殊な取引にあっては、明示の特約がなくとも、当事者の意思解釈として、買主は秘密保持義務を負うと解するべきである。そして、本件における売買契約の目的物は紙幣印刷機という特殊なものであることを考えると、売買の時点でその対象物に保護される技術情報が存在していれば、買主に秘密保持義務を負わせるに十分である。
イ 不正競争防止法に基づく義務 原判決は、平成2年改正法の施行前日(平成3年6月14日)までに取得された営業秘密には、不正競争防止法の下で秘密保持義務を負担することはないとするが、平成2年改正法の附則2条は、同改正法の施行前に取得された営業秘密の開示行為について、継続的な使用を除き、同施行後の開示行為を禁止しているから、原判決の法令解釈には明白な誤りがある。
信義則に基づく義務 原判決は、控訴人と被控訴人とが「共通の技術情報を保有し、第三者に開示しないことが有利であると相互に認識し、信頼することもあり得なくはない」(104頁4行目〜5行目)と、両者の特殊な関係を認定しながら、控訴人が被控訴人に提供した技術情報が「秘密として管理し、秘密として保護される技術情報」ということができないことを主たる理由として、信義則上の秘密保持義務の存在を否定する。この判断は、不正競争防止法上の営業秘密の要件としての秘密管理性に引きずられたものと考えられるが、信義則上の秘密保持義務を検討するに当たって、このような概念を持ち出す必要はない。なお、控訴人において秘密として保護される技術情報の提供がなかったとの点においても誤りがあることは後述する。
エ 本件覚書に基づく義務 本件覚書は、印刷局が研修のため派遣した技術者を控訴人において受け入れる際に作成されたものであるが、その対象とする秘密情報は、控訴人が印刷局に提供し又は将来提供される秘密技術情報のすべてを含むものであり、上記研修に関連した秘密技術情報に限定されるものではない。すなわち、本件覚書が交わされたのは、小森が控訴人の製品である印刷機の模造品を製造するとの事件が昭和39年(1964年)に発覚し、当該模造品の製造には、控訴人が印刷局に提供した秘密技術情報の流出が関わっているとしか考えられなかったことから、今後そのようなことがないことを確認する趣旨でされたものであり、その趣旨は印刷局も認めていたところである。本件覚書の文言解釈としても、対象とする秘密技術情報を限定するものとはいえないし、秘密として管理する技術情報に限定するものでもない。
(2) 本件技術情報の秘密性 控訴人が被控訴人に開示した本件技術情報の秘密性を判断するに当たっては、当該技術情報を個々の要素に分断するのではなく、各要素を組み合わせた総体を一体不可分の技術情報として取り扱わなければならない。技術というものは、細かく分断して見れば一つ一つは公知ということになってしまうものであるが、そうした技術を組み合わせることによって新しい技術が生まれるのであり、その創意工夫こそが秘密の技術情報として保護されるべきものであるからである。以下、個別の技術項目ごとに述べる(下記@以下の符号は、原判決別紙目録(二)の(一)以下の数字に対応するものであり、欠番がある。以下、同目録(一)〜(三二)記載の各技術情報を、その数字に対応して「本件技術情報@〜」などと表記する。)。
@ シムルタン印刷方式 シムルタン印刷機に関して、控訴人が秘密保持義務の対象とするのは、
甲70の1〜4の記載内容である技術情報及びシムルタン印刷機自体に含まれる技術情報であって、控訴人は、これを特定するために甲70の1〜4(同印刷機の図面及び説明書)、甲70の5、6(同印刷機の写真)等を提出した。これに対し、
原判決は、甲70の1〜6等が被控訴人に交付されたことは認めつつ、同印刷機の構造等が定期刊行物(乙19の1〜3)や宣伝用カタログ(乙74)に掲載されていることから、その技術情報が秘密として管理され、秘密として保護される技術情報ということはできない旨認定する。しかし、この認定は、印刷機の製作用図面と一般の書籍やカタログの略図とを同一視するもので誤っている。
また、改良型シムルタン印刷機に関して、控訴人が秘密保持義務の対象とするのは、甲74の記載内容である技術情報であって、控訴人は、これを特定するために甲73(同印刷機の写真)、甲74(同印刷機の図面)等を提出した。これに対し、原判決は、甲74と同様の図面が宣伝用カタログ(乙74)に掲載されていることを理由に、その技術情報が秘密として管理し、秘密として保護される技術情報ということはできない旨認定する。しかし、この認定は、印刷機の製作用図面とカタログの略図とを同一視するもので誤っている。
A 2枚の刷版により印刷する凹版カラー印刷機 控訴人が秘密保持義務の対象とするのは、凹版カラー印刷機自体に含まれる技術情報及び甲84の記載内容である技術情報であって、控訴人は、これを特定するために甲84(技術文書及び付属図面)を提出した。これに対し、原判決は、被控訴人が甲84と同様の図面(乙76)を受領したこと及び同図面には複写等を禁ずる旨の記載があることを認めながら、雑誌(乙40の1、2、乙19の1〜3)に掲載された図面等に基づいて、本件技術情報Aが秘密として管理し、秘密として保護される技術情報ということはできない旨認定する。しかし、この認定は、印刷機の製作用図面と雑誌に掲載された略図とを同一視するもので誤っている。
B 4枚の刷版により印刷する凹版カラー印刷機 控訴人が秘密保持義務の対象とするのは、凹版カラー印刷機自体に含まれる技術情報及び甲85、86の記載内容である技術情報であって、控訴人は、これを特定するために甲85(同印刷機の図面)、86(スーパーインタリオカラーの図面)を提出した。これに対し、原判決は、被控訴人が甲85ないしはこれに類する図面の交付を受けたことを認めつつ、カタログ(乙77)に掲載された図面等に基づいて、本件技術情報Bが秘密として管理し、秘密として保護される技術情報ということはできない旨認定する。しかし、この認定は、印刷機の製作用図面とカタログに掲載された略図とを同一視するもので誤っている。
D ドライオフセット用真鍮製刷版の製造方法 控訴人が秘密保持義務の対象とするのは、原判決別紙目録(二)の(五)に記載の技術情報であって、控訴人は、これを特定するために甲87(技術文書)を提出した。これに対し、原判決は、被控訴人に対し当該技術情報が開示されたと認めるに足りる証拠はないとした上で、上記技術情報と甲87記載の技術情報は相互に相違し、また、米国特許2331772号(乙79)に照らせば、本件技術情報Dが秘密として管理し、秘密として保護される技術情報ということはできない旨認定する。しかし、上記技術情報と甲87記載の技術情報は相違するものではなく、また、乙79記載の製造方法は、画線部を形成する突出部の根本部に生じたくびれ部分にインキがたまり易く、本件技術情報Dの意図する良好な印刷を可能にするものではないから、これを無視した原判決の上記認定は不当である。
F 硫酸ニッケル電着についての新たに開発された技術 控訴人が秘密保持義務の対象とするのは、原判決別紙目録(二)の(七)に記載の技術情報であって、控訴人は、これを特定するために甲88(技術文書)を提出した。これに対し、原判決は、控訴人又はオルガニザシオンが被控訴人に対し、本件技術情報Fを提供したことを認めるに足りる証拠はないとするのみで、その秘密性について何ら判示しない。この認定は、控訴人と被控訴人が本件技術情報の秘密性について攻撃防御を尽くしてきた事実を無視するものであって、不当である。
G ガラス及び金属上に機械的に彫刻を行う技術 控訴人が秘密保持義務の対象とするのは、原判決別紙目録(二)の(八)に記載の技術情報であって、控訴人は、これを特定するために甲89(技術文書)を提出した。これに対し、原判決は、控訴人又はオルガニザシオンが被控訴人に対し、本件技術情報Gを提供したことを認めるに足りる証拠はないとした上で、カタログ(乙23)の記載等に照らせば、本件技術情報Gが秘密として管理し、秘密として保護される技術情報ということはできない旨認定する。しかし、乙23には、甲89の第4〜第7段落に該当する部分の記載が欠落しているから、これを無視した原判決の認定は不当である。
H 硫酸ニッケル槽を浄化することによってニッケル銅製凹版印刷刷版のピッチングを防止する方法 控訴人が秘密保持義務の対象とするのは、原判決別紙目録(二)の(九)に記載の技術情報である。これに対し、原判決は、控訴人又はオルガニザシオンが被控訴人に対し、本件技術情報Hを提供したことを認めるに足りる証拠はないとするのみで、その秘密性について何ら判示しない。この認定は、控訴人と被控訴人が本件技術情報の秘密性について攻撃防御を尽くしてきた事実を無視するものであって、不当である。
J 刷版クリーニング・シリンダーの洗浄方法(第一段階) 控訴人が秘密保持義務の対象とするのは、原判決別紙目録(二)の(一一)に記載の技術情報であって、控訴人は、これを特定するために甲64(図面)を提出した。これに対し、原判決は、控訴人又はオルガニザシオンが被控訴人に対し、本件技術情報Jを提供したことを認めるに足りる証拠はないとした上で、当該技術情報のうち、クリーニング・シリンダーのコーティング剤に関してジオリにより特許出願(乙202)されていることに照らせば、本件技術情報Jが秘密として管理し、秘密として保護される技術情報ということはできない旨認定する。しかし、乙202は、本件技術情報Jのすべての要件を満たしたものではなく、その秘密性を否定する根拠たり得ないから、これを無視した原判決の認定は不当である。
K 刷版クリーニング・シリンダーの洗浄方法(第二段階) 控訴人が秘密保持義務の対象とするのは、原判決別紙目録(二)の(一二)に記載の技術情報であって、控訴人は、これを特定するために甲65の1〜5、甲66(図面)を提出した。これに対し、原判決は、控訴人が被控訴人に対し、本件技術情報Kを提供したことを認めるに足りる証拠はないとするのみで、その秘密性について何ら判示しない。この認定は、控訴人と被控訴人が本件技術情報の秘密性について攻撃防御を尽くしてきた事実を無視するものであって、不当である。
L プレワイピング 控訴人が秘密保持義務の対象とするのは、原判決別紙目録(二)の(一三)に記載の技術情報であって、控訴人は、これを特定するために甲79(図面)、80(プレワイピング・ローラーに関する技術仕様及び取扱説明書)を提出した。これに対し、原判決は、控訴人又はオルガニザシオンが被控訴人に対し、本件技術情報Lを提供したことを認めるに足りる証拠はないとした上で、当該技術情報のうち、同目録(一三)2に記載の技術がジオリの特許出願に係る明細書(乙49)に従来技術として記載されていることに照らせば、本件技術情報Lが秘密として管理し、秘密として保護される技術情報ということはできない旨認定する。しかし、乙49は、本件技術情報Lのすべての要件を満たしたものではなく、その秘密性を否定する根拠たり得ないから、これを無視した原判決の認定は不当である。
N ショート・インキング 控訴人が秘密保持義務の対象とするのは、甲69の1〜14の記載内容たる技術情報であって、控訴人は、これを特定するために甲69の1〜14(図面)を提出した。これに対し、原判決は、控訴人が被控訴人に対し、本件技術情報Nを提供したことを認めるに足りる証拠はないとした上で、印刷局においてショート・インキングの実用化を図っていたこと及び控訴人の特許出願に係る明細書(乙55)に当該技術情報がほとんど開示されていることに照らせば、本件技術情報Nが秘密として管理し、秘密として保護される技術情報ということはできない旨認定する。しかし、インキの速乾性に基礎をおく被控訴人の技術と、インキング装置の機構上に特徴を有する本件技術情報Nとは全く異なる技術であり、また、乙55は、本件技術情報Nのすべての要件を満たしたものではなく、その秘密性を否定する根拠たり得ないから、これを無視した原判決の認定は不当である。
O 刷版クリーニング・シリンダーの洗浄方法(第三段階) 控訴人が秘密保持義務の対象とするのは、原判決別紙目録(二)の(一六)に記載の技術情報である。これに対し、原判決は、控訴人が被控訴人に対し、
本件技術情報Oを提供したことを認めるに足りる証拠はないとするのみで、その秘密性について何ら判示しない。この認定は、控訴人と被控訴人が本件技術情報の秘密性について攻撃防御を尽くしてきた事実を無視するものであって、不当である。
Q 機械的強度の優れた凹版印刷用刷版を作成するための電鋳方法 控訴人が秘密保持義務の対象とするのは、原判決別紙目録(二)の(一八)に記載の技術情報であって、控訴人は、これを特定するために甲90〜92(図面)、93(技術文書)を提出した。これに対し、原判決は、控訴人が被控訴人に対し甲92と同様の図面を交付したことを認めつつ、控訴人から被控訴人に甲90、91、93が開示されたこと及びこれらに本件技術情報Qが記載されていることは認めることができないと認定するのみで、本件技術情報Qの秘密性について何ら判示しない。この認定は、控訴人と被控訴人が本件技術情報の秘密性について攻撃防御を尽くしてきた事実を無視するものであるばかりでなく、甲92と同様の図面の交付を認めながら、その記載の技術情報の秘密性について何ら検討しないのは、不当である。
R 高い耐熱性と耐久性を有するワイピング・シリンダコーティング用新配合に関する情報 控訴人が秘密保持義務の対象とするのは、原判決別紙目録(二)の(一九)に記載の技術情報であって、控訴人は、これを特定するために甲80(技術文書)を提出した。これに対し、原判決は、控訴人が被控訴人に対し、本件技術情報Rを提供したことを認めるに足りる証拠はないとするのみで、その秘密性について何ら判示しない。この認定は、控訴人と被控訴人が本件技術情報の秘密性について攻撃防御を尽くしてきた事実を無視するものであって、不当である。
S 印刷のすべての段階において、各シートの端に印刷されたバーコードにより機械的に各シートを追跡するシステム 控訴人が秘密保持義務の対象とするのは、原判決別紙目録(二)の(二〇)に記載の技術情報であって、控訴人は、これを特定するために甲94(控訴人の被控訴人宛書簡)、95(同)、96(被控訴人の控訴人宛書簡)を提出した。
これに対し、原判決は、甲95の開示の事実を認めつつ、本件技術情報Sのほとんどは控訴人の特許出願に係る明細書(乙235の1、2)に開示されているとして、本件技術情報Sが秘密として管理され、秘密として保護される技術情報ということはできない旨認定する。しかし、乙235の1、2は、本件技術情報Sのすべての要件を満たしたものではなく、その秘密性を否定する根拠たり得ないから、これを無視した原判決の認定は不当である。
残余ワイピング液の処理に関する方法並びにそれに関連する装置の設置方法 控訴人が秘密保持義務の対象とするのは、原判決別紙目録(二)の(二一)に記載の技術情報であって、控訴人は、これを特定するために甲97(技術文書及び付属図面)を提出した。これに対し、原判決は、控訴人が被控訴人に対し、
本件技術情報を提供したことを認めるに足りる証拠はないとするのみで、その秘密性について何ら判示しない。この認定は、控訴人と被控訴人が本件技術情報の秘密性について攻撃防御を尽くしてきた事実を無視するものであって、不当である。
真鍮製オフセット刷版の製作方法 控訴人が秘密保持義務の対象とするのは、原判決別紙目録(二)の(二二)に記載の技術情報であって、控訴人は、これを特定するために甲112(技術文書の表紙)を提出した。これに対し、原判決は、控訴人が被控訴人に対し、本件技術情報を提供したことを認めるに足りる証拠はないとした上、上記Dのとおり、本件技術情報 が秘密として管理され、秘密として保護される技術情報ということはできない旨認定する。しかし、この認定が不当なことは、上記Dで述べたとおりである。
銅を用いることなく凹版印刷用のマスタープレートを製作する方法 控訴人が秘密保持義務の対象とするのは、原判決別紙目録(二)の(二三)に記載の技術情報である。これに対し、原判決は、控訴人が被控訴人に対し、
本件技術情報を提供したことを認めるに足りる証拠はないとするのみで、その秘密性について何ら判示しない。この認定は、控訴人と被控訴人が本件技術情報の秘密性について攻撃防御を尽くしてきた事実を無視するものであって、不当である。
刷版クリーニング・シリンダーの洗浄方法(第四段階) 控訴人が秘密保持義務の対象とするのは、原判決別紙目録(二)の(二五)に記載の技術情報であって、控訴人は、これを特定するために甲67(技術文書)を提出した。これに対し、原判決は、控訴人が被控訴人に対し本件技術情報を開示したことを認めるに足りる証拠はないした上で、控訴人の特許出願に係る明細書(乙234)に本件技術情報が開示されているとして、本件技術情報 が秘密として管理され、秘密として保護される技術情報ということはできない旨認定する。しかし、乙234は、本件技術情報のすべての要件を満たしたものではなく、その秘密性を否定する根拠たり得ないから、これを無視した原判決の認定は不当である。
インタリオセット方式 控訴人が秘密保持義務の対象とするのは、原判決別紙目録(二)の(二八)に記載の技術情報であって、控訴人は、これを特定するため甲74(図面)、
76(技術文書)を提出した。これに対し、原判決は、控訴人が被控訴人に対し、
本件技術情報を提供したことを認めるに足りる証拠はないとするのみで、その秘密性について何ら判示しない。この認定は、控訴人と被控訴人が本件技術情報の秘密性について攻撃防御を尽くしてきた事実を無視するものであって、不当である。
物理的な接触を伴わず電子的なプリントコントロールによってナンバリングヘッド及びナンバリングホイールの連続的な切換えを検査するシステム 控訴人が秘密保持義務の対象とするのは、原判決別紙目録(二)の(三〇)に記載の技術情報であって、控訴人は、これを特定するために甲106〜108(図面)を提出した。これに対し、原判決は、被控訴人がレイボルド機工から甲106の交付を受けたことを推認することができるとしながら、同号証には「ホール素子を用いて」番号の切換えが行われたことを検出する技術が記載されていないとして、控訴人が被控訴人に対し本件技術情報を開示したことを認めるに足りる証拠はないとした。しかし、ナンバリング・シリンダーの一部品にすぎない「ホール素子」が全体図である甲106に表示されていないのは、図面の性格上当然であるから、進んで本件技術情報の秘密性について何ら判示しない原判決は不当である。
凹版印刷用プラスチック製型を高周波溶接によって組み立てる方法 控訴人が秘密保持義務の対象とするのは、原判決別紙目録(二)の(三一)に記載の技術情報であって、控訴人は、これを特定するため甲109(技術文書及び付属図面)を提出した。これに対し、原判決は、控訴人が被控訴人に対し、
甲109を提供したことを認めるに足りる証拠はなく、また、同号証には本件技術情報の記載はない旨認定する。しかし、甲109記載の高周波溶接プレス装置は、単なる高周波溶接装置ではなく、紙幣のプレートまで製造できるような高い溶接精度を備えたものであるから、原判決は不当である。
銅メッキされた凹版印刷用スリーブに画像を移すための自動トランスファ装置の構造 控訴人が秘密保持義務の対象とするのは、原判決別紙目録(二)の(三二)に記載の技術情報であって、控訴人は、これを特定するために甲110、111(技術文書及び図面)を提出した。これに対し、原判決は、控訴人が被控訴人に対し本件技術情報を開示したことを認めるに足りる証拠はないとした上で、甲111と同一の図面が論文(乙131)に掲載されていることに照らして、本件技術情報 が秘密として管理され、秘密として保護される技術情報ということはできない旨認定する。しかし、甲111は、操作説明書(甲110)と一体のものであり、他方、乙131の図面は、甲111の図面の一部にすぎないものであるから、
乙131は、本件技術情報の秘密性を否定する根拠たり得ず、これを無視した原判決の認定は不当である。
(3) 本件技術情報の提供、開示 被控訴人が当審で提出した乙284〜293(ジオリと市川の間でやり取りされた書簡等)は、控訴人と市川ら印刷局関係者との通信が、私的な交流に関するものではなく、印刷局の職務に関するものであることを示すとともに、本件技術情報の被控訴人への提供、開示を基礎付けるものである。すなわち、乙287は本件技術情報L、S、
、 に、乙288は同 に、乙290は同Lに、乙291は同に、乙292は同K、 にそれぞれ関連するものであり、被控訴人において、
これらに関する技術情報の提供、開示を受けていたことを裏付けるものである。
3 被控訴人の主張 (1) 被控訴人の秘密保持義務について ア 契約に基づく義務について 控訴人は、本件印刷機の調達に係る実質的な売主は控訴人又はその前身であるオルガニザシオン若しくはエンジニアリング社である旨主張するが、その調達契約書の文言を離れて、契約の実質的な当事者がオルガニザシオン若しくはエンジニアリング社であるとか、契約書に記載されていない合意が存在するというような控訴人の主張は、会計法等法令に定める手続遵守の厳格性が要求される同契約の形式的明確性から考えて、理由のないことは明らかである。控訴人は、レイボルド機工及び東西商事が控訴人の販売代理店であるとも主張するが、販売代理店の取引の実体の大部分は自己名義の売買であるから、販売代理店であることが控訴人の主張を何ら基礎付けるものでないし、そもそも販売代理店関係の存在自体、控訴人において立証しているものでもない。
さらに、控訴人は、本件印刷機が紙幣印刷機という特殊なものであることを理由として秘密保持義務が発生する旨主張するが、本件印刷機は、技術的には本来のオフセットないし凹版印刷の域を出ない印刷機であって、紙幣専用印刷機ではなく、その用途が紙幣印刷機であるにすぎないのであるから、本件印刷機の調達契約の性格自体は、通常の私法上の契約と変わるところはない。
イ 不正競争防止法に基づく義務について 控訴人は、平成2年改正法の適用に関する原判決の誤りを主張するが、
同法の施行前日までに保有者から示された営業秘密や、これを開示する行為について、同法による改正後の不正競争防止法が適用になる余地のないことは、その旨の特別規定のない限り当然である。
信義則に基づく義務について 信義則により秘密保持義務を負うのは、契約等の法律関係が存在し、かつ、秘密保持義務を負担させることが公正で合理的といえる特段の事情の存在することが前提となる。ところが、本件においては、控訴人ないしオルガニザシオンは本件印刷機の調達契約の当事者でないばかりか、印刷局は、控訴人の申込みに係る共同事業ないし技術提携を拒否しており、信義則が作用するような関係はない。
また、控訴人は、信義則上の秘密保持義務については秘密管理性の要件を考える必要はない旨主張するが、秘密保持義務を負担する要件として、秘密管理の存在が前提となることは当然である。
エ 本件覚書に基づく義務について 本件覚書は、印刷局の小林製造部長及び岡田製造部印刷課課長補佐の欧米における印刷事情視察に際して、印刷局の大澤業務部長が作成したものであるが、大澤業務部長が上記両名の視察について一般的、抽象的な秘密保持義務の負担を内容とする命令ないし指示を行う権限はなかったし、印刷局長を代理してこれを行う権限もなかった。印刷局の職員の法令に定める権限及び手続に違反した行為により被控訴人が秘密保持義務を負担することを認めることは、法治行政の原則等から多大の問題が生ずるというべきであり、被控訴人は本件覚書に基づいて何らの秘密保持義務も負担するものではないと解すべきである。
(2) 本件技術情報の提供、開示及び秘密性について ア ある技術情報につき秘密保持義務の発生を主張するには、当該秘密保持義務を発生させる法的根拠が存在しなければならないのは当然であるが、それとともに、対象となる技術情報の提供(相手方が利用できる状態にすること)、開示(相手方に分かるように示すこと)と、当該技術情報が法的に保護に値する秘密であること、すなわち秘密として管理されていることを要する。そして、原判決は、
本件技術情報中、本件技術情報@〜B及びSを除くその余の各技術情報については、その提供、開示を否定したものであり、秘密管理に関する判示は付加説示にすぎないところ、控訴人の当審における主張立証は、上記各技術情報の提供、開示自体を何ら基礎付けるものではない。すなわち、控訴人は、被控訴人が当審で提出した控訴人と市川ら印刷局関係者との通信(上記2(3))は上記各技術情報の提供、開示を裏付けるものである旨主張するが、根拠を欠く単なる憶測にすぎない。
イ 本件技術情報@〜B及びSは、控訴人において秘密として管理していた技術情報であるとはいえない。控訴人は、本件技術情報の秘密性を判断するに当たっては、当該技術情報を個々の要素に分断するのではなく、各要素を組み合わせた総体を一体不可分の技術情報として取り扱わなければならない旨主張するが、特定の技術情報全部の要件が満たされないような個々の公知資料に表れた技術情報であっても、これにより当該技術情報の要部を認識し得るものであれば、その秘密性が失われることは当然である。被控訴人は、そのような意味において本件技術情報の公知性を主張するものであり、控訴人の批判は当たらない。
具体的には、まず、本件技術情報@(シムルタン印刷方式)について、
控訴人は、甲70の1〜6をもって特定される旨主張するが、当該技術情報中、シムルタン印刷機(型式3/2TOV)に関する部分は、その構造及び配列については乙19の1〜3により、各構成部分の技術は乙19の4、乙21、24〜37、74により、それぞれ公表されている周知の技術であるし、改良型シムルタン印刷機に関する部分は、その開示、提供の事実及び秘密管理性を否定した原判決の判断に何ら不合理な点はない。
次に、本件技術情報A(2枚の刷版により印刷する凹版カラー印刷機)について、控訴人は、甲84をもって特定される旨主張するが、同号証記載の技術情報は、乙19の1〜3、乙21、29、33、39、40の1、2、乙41〜57によって公知となっている技術情報にすぎない。
また、本件技術情報B(4枚の刷版により印刷する凹版カラー印刷機)について、控訴人は、甲85、86をもって特定される旨主張するが、同号証記載の技術情報が公知の技術情報であることは、乙19の1〜3、乙21、29〜31、39〜57、77から明白である。
さらに、本件技術情報S(印刷のすべての段階において各シートの端に印刷されたバーコードにより機械的に各シートを追跡するシステム)は、そのほとんどが乙235の1、2に開示されている。この点について、控訴人は、乙235の1、2は当該技術情報の秘密性を否定する根拠たり得ない旨主張するが、これにより当該技術情報の要部を認識し得るから、その秘密性が失われることは上記のとおりである。
以上の詳細及びその余の本件技術情報についての被控訴人の主張は、原判決別紙「被告の反論」のとおりである。
当裁判所の判断
1 前提事実 本件印刷機を購入した前後の経緯については、原判決「事実及び理由」欄の「第三 争点に対する判断」の二1(61頁末行〜74頁10行目)のとおりである(ただし、63頁5行目の「ジオリ機構」を「オルガニザシオン」に、66頁9行目の「印刷局局長」を「印刷局長」に、73頁9行目の「大蔵省」を「財務省」に、それぞれ改める。)から、これを引用する。これに、前記引用に係る原判決の「前提となる事実」(5頁10行目〜10頁末行)及び証拠(甲63、71、163、168、177、乙63〜65)を総合すれば、以下の事実を認めることができる。
(1) オルガニザシオンは、銀行券及び証券の印刷に関する技術開発及び技術指導等を目的としてジオリの設立したスイス法上の一人法人であり、ケーバウ社は世界で最も古い歴史を有する印刷機械メーカーといわれるドイツ法人であるところ、
両社は、昭和27年(1952年)以降、業務提携関係を結び、オルガニザシオンがケーバウ社に印刷機の製造を委託するようになった。この両社の業務提携に基づいて製造された印刷機には、「KOEBAU-GIORI」との標章が使用されていた。
(2) その後、ジオリは、当時、世界最大の銀行券及び証券印刷所を所有していた企業集団であるド・ラ・リューグループとの提携を図るため、昭和40年(1965年)3月30日、同グループ傘下のインターナショナル社との折半出資により、スイス法人として、控訴人(当時の商号はド・ラ・リュー・ジオリ・エス・アー、代表者ジオリ)及びテクニーク社の合弁会社2社を設立した。その際、ジオリとインターナショナル社は、インターナショナル社において、エンジニアリング社がそれまで行ってきたすべての種類の商業的取引を上記合弁会社2社に譲渡することを約束すること、ジオリ及びインターナショナル社において、自己の名義(ジオリ個人のほかオルガニザシオン名義のものを含む。)で行ってきた紙幣印刷機の製造販売等の業務を中止し、同日以後、現存する又は進行中のすべてのプロセス、図面、特許、発明等は、テクニーク社の独占的な権利となること等を合意した。その後、テクニーク社が昭和42年(1967年)7月1日に控訴人に吸収合併された結果、控訴人が、オルガニザシオン、インターナショナル社及びエンジニアリング社の有していた上記の権利を承継した。
(3) 印刷局は、昭和32年(1957年)から昭和41年(1966年)までの間に、レイボルド機工との間の「印刷局機械製造請負契約」に基づき、5色のオフセット印刷用のシムルタン印刷機(型式3/2TOV、以下「本件シムルタン印刷機」という。)計11台、3色の凹版印刷用のインタリオカラー双プレート印刷機(型式3/OLgV、以下「本件2P凹版印刷機」という。)1台、3色の凹版印刷用のインタリオカラー4プレート印刷機(型式3/OLgV/4、以下「本件4P凹版印刷機」という。)12台及び2色の番号付け用のニューメロータ印刷機12台を購入した。上記各印刷機は、いずれも、前記の業務提携関係に基づいて、ケーバウ社が、オルガニザシオンの技術供与を受けて製造したものであり、「KOEBAU-GIORI」との標章のプレートが付されている。
また、印刷局は、昭和36年(1961年)ころから昭和39年(1964年)ころまでの間に、東西商事との間の「印刷局機械製造請負契約」に基づき、
エンジニアリング社製の紙幣印刷機27台を購入した。
(4) 印刷局が本件印刷機の導入を進めている間、印刷局と控訴人ないしオルガニザシオンとは、技術的な交流を深めるようになり、例えば、昭和39年(1964年)1月以降、数回にわたり印刷局の職員がオルガニザシオン又は控訴人を訪れてその施設を視察したり、また、ジオリらが来日して印刷局を視察したり、印刷局技術部長であった小林や市川においてジオリらと書簡を交換したり、その他技術情報の提供、意見交換等を行うなどした。なお、その間の昭和41年(1966年)3月ころ行われた印刷局の小林製造部長らの視察に先だって、印刷局の大澤業務部長は、昭和40年(1965年)9月27日付けで本件覚書を作成し、控訴人に送付した。
(5) 小森は、レイボルド機工からの調達に係る上記各印刷機の点検及び修理等を行っていたところ、昭和39年ころ、小森印刷機(L-832、I-332及びマルチT)を製造し、昭和40年ころにはラテンアメリカ諸国に対して紙幣印刷機として輸出することを計画した。これに対し、ケーバウ社及び原告は、小森印刷機は本件印刷機の模倣品であるとして、それぞれ小森及び印刷局長に対し、その輸出を禁止するよう求めるという事態が発生し、これを受けて、小森は、印刷局からの指導に基づいて、上記輸出はせず、当面問題の印刷機の製造もしないことを回答した。
(6) 控訴人は、昭和44年(1969年)及び昭和48年(1973年)ころ、印刷局に対し、技術提携の申入れをしたが、印刷局はこれをいずれも拒否しており、結局、昭和42年(1967年)以降、被控訴人が控訴人から印刷機を購入したことはなかった。また、控訴人は、昭和48年(1973年)ころ、印刷局に対し、現在又は将来にわたって提供したすべての情報、デザイン、ノウハウ等は印刷局のみで使用し、控訴人の承諾を得ることなく他に利用しないことの確認を求めようとしたが、その旨の書面は作成されなかった。
2 本件技術情報の提供、開示について (1) 控訴人は、被控訴人が本件技術情報について秘密保持義務を負担する根拠として、契約、不正競争防止法の趣旨、信義則及び覚書を挙げるところ、本件における控訴人の主張が、これらのいずれにおいても、控訴人又はその前身であると主張するオルガニザシオンから、被控訴人に対する本件技術情報の提供、開示がされたことを前提とするものであるから、まず、本件技術情報の被控訴人への提供、開示の有無について検討する。
(2) 本件技術情報@について ア 本件技術情報@は、本件シムルタン印刷機に関する部分(原判決別紙目録(二)の(一)1項)と、その改良型であるスーパーシムルタン印刷機に関する部分(原判決別紙目録(二)の(一)2項)の両者を含み、その特徴的な構成として、同目録記載のイ〜ホの構成をもって特定されているものであるところ、控訴人の主張による本件技術情報@の提供の具体的な態様は、本件シムルタン印刷機に関する部分については、本件シムルタン印刷機の販売時にこれに関する資料として提供したものであるというのに対し、スーパーシムルタン印刷機に関する部分については、昭和45年(1970年)11月26日に印刷局製造部長の市川にG-06.006号図面(甲74)を提出したというものである。
イ そこで、控訴人の主張する上記の技術情報の提供、開示がされたかどうかを見るに、前者の本件シムルタン印刷機に関する部分については、本件シムルタン印刷機がオルガニザシオンの技術供与を受けてケーバウ社において製造されたものであり、印刷局が、これをレイボルド機工を通じて購入したことは上記のとおりであるから、当該印刷機自体により、又はこれに関連した資料等を通じて、本件シムルタン印刷機に関する技術情報が、控訴人又はオルガニザシオンから被控訴人に対し、直接又は間接に提供、開示がされたこと自体は認められるというべきである。
しかし、後者のスーパーシムルタン印刷機に関する部分については、甲74の図面が市川に交付されたことを認めるに足りる証拠はなく、その記載内容である技術情報が被控訴人に提供、開示されたことを認めるに足りない。すなわち、
印刷局の職員川合淳郎が昭和53年に「印刷雑誌1978(Vol.61).11」(甲75)に寄稿した論文に、同図面とほぼ同一の図面を「スーパーシムルタン印刷機」として掲載されていることが認められるが、顧客に頒布された同印刷機の宣伝用のカタログ(乙74)にもこれとほぼ同一の図面が掲載されていることからすれば、上記論文掲載の事実をもって、控訴人から被控訴人に甲74の図面が提供、開示されたことを推認することはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
ウ 次に、本件技術情報@のうちの本件シムルタン印刷機に関する部分について、その特徴的な構成とされる上記イ〜ホの構成のすべてが開示されたかどうかを見るに、イ〜ニの構成については、本件シムルタン印刷機と同じ型式の記載されている図面である甲70の1〜4からその提供、開示を認めることはできるものの、ホの構成「インタリオセット方式を前記オフセット印刷機に組込むこと」に関しては、被控訴人も主張するとおり(原判決369頁10行目以下参照)、そもそも「インタリオセット方式」の技術的意義が明確でない上、控訴人が本件技術情報@(本件シムルタン印刷機に関する部分)を特定するものであると主張する甲70の1〜4からもその記載を読み取ることができない。そうすると、上記ホの構成については、被控訴人に対して提供、開示された技術情報に含まれないものといわざるを得ない。
エ したがって、本件技術情報@については、本件シムルタン印刷機に関する部分で、その特徴的な構成とされるイ〜ニに限り、被控訴人に対する提供、開示を認めることができ、その余の部分は、これを認めることができない。
(3) 本件技術情報Aについて 本件技術情報Aは本件2P凹版印刷機に関する技術情報であるところ、本件2P凹版印刷機がオルガニザシオンの技術供与を受けてケーバウ社において製造されたものであり、印刷局が、これをレイボルド機工を通じて購入したことは上記のとおりであるから、当該印刷機自体により、又はこれに関連した資料等を通じて、本件2P凹版印刷機に関する技術情報が、控訴人又はオルガニザシオンから被控訴人に対し、直接又は間接に提供、開示されたこと自体は認められるというべきである。
そこで、その特徴とされる構成が甲84に開示されているかどうかを見るに、ハの構成「版胴に取付けられた刷版表面から残りの余分なインキを取除くために版胴と接触しつつ回転するクリーニングシリンダの外周表面上にゼラチンをコーティングし、このクリーニングシリンダを版胴の周速度よりも速い周速度で版胴と同一方向に回転させ、このクリーニングローラをトリクロロエチレンで洗浄すること」のうち、「クリーニングシリンダを版胴の周速度よりも速い周速度で・・・回転させ」る構成については、その開示を認めることはできないが、その余の構成に関しては、甲84から開示を認めることができる。
(4) 本件技術情報Bについて 本件技術情報Bは本件4P凹版印刷機に関する技術情報であるところ、本件4P凹版印刷機がオルガニザシオンの技術供与を受けてケーバウ社において製造されたものであり、印刷局が、これをレイボルド機工を通じて購入したことは上記のとおりであるから、当該印刷機自体により、又はこれに関連した資料等を通じて、本件4P凹版印刷機に関する技術情報が、控訴人又はオルガニザシオンから被控訴人に対し、直接又は間接に提供、開示されたこと自体は認められるというべきである。
そして、その特徴とされる構成についても、甲85、86からその開示を認めることができるから、本件技術情報Bについては、その被控訴人に対する提供、開示を認めることができる。
(5) 本件技術情報D以下について ア 控訴人は、本件技術情報D以下について、同Dは甲87、同Fは甲88、同Gは甲89、同Jは甲64、同Kは甲65の1〜5、甲66、同Lは甲79、80、同Nは甲69の1〜14、同Qは甲90〜93、同Rは甲80、同Sは甲94〜96、同は甲97、同 は甲112、同 は甲67、同 は甲74、76、同は甲106〜108、同 は甲109、同 は甲110、111を被控訴人に提供するなどして、これを被控訴人に提供、開示した旨主張する。
イ そして、上記甲号各証中、本件技術情報Qに関する図面(甲92)については、これとほぼ同一と認められる図面(乙72)が、印刷局製造部長であった市川の保管していたものとして被控訴人から提出されていること、本件技術情報Sに関するジオリから市川宛の昭和52年(1977年)3月12日付け書簡(甲94)及び同じく同年5月4日付け書簡(甲95)については、甲94と同一の書簡(乙287)がやはり市川の保管していたものとして被控訴人から提出されていることから、これらが控訴人から被控訴人側に提供、開示されたこと自体は認められる(ただし、当該技術情報の開示として十分かどうかは後述する。)が、これらを除き、上記アの甲号各証の書面が、控訴人から被控訴人に対して交付されたことを認めるに足りる証拠はなく、また、当該書面を交付する以外の方法で、その記載内容である技術情報が提供、開示されたとも認めることはできない。
なお、本件技術情報に関し、控訴人から市川宛の昭和52年(1977年)2月15日付けの書簡(甲40)には、インタリオセットのプレートの製造方法に関する記述を別送する旨の記載があるが、この記載と本件技術情報との関連性を明らかにするに足りる証拠はないから、これをもって、本件技術情報の提供、開示を認めることはできない。同様に、本件技術情報に関し、控訴人から印刷局製造部長の川合淳郎宛の昭和57年(1982年)11月11日付け書簡(甲33)には、ハイ・フリークエンシー溶接の装置に関する書面を同封する旨の記載があるが、同封された書面の記載内容は明らかでなく、これをもって、本件技術情報の提供、開示を認めることはできない。
また、本件技術情報は、ナンバリング機械に関する技術情報であることから、被控訴人が購入した2色の番号付け用のニューメロータ印刷機との関連性が問題となり得るが、その関連性を具体的に明らかにする証拠がない上、かえって、控訴人の主張によれば、本件技術情報は、昭和54年(1979年)に被控訴人に開示したとされるものであるから、昭和41年(1966年)までに購入された上記ニューメロータ印刷機の導入に伴って同印刷機に関して提供、開示されたものとも認められない。
さらに、控訴人は、乙284〜293(控訴人と市川との間でやり取りされた書簡等)は、本件技術情報の被控訴人への提供、開示を基礎付けるものである旨主張する。確かに、ジオリから市川宛の昭和52年(1977年)3月21日付け書簡(乙287)中には、「ワイピング・システム」、「放流に関する問題」、「インタリオセット方式」等に、同じく昭和50年(1975年)4月2日付け書簡(乙288)中には「スーパーインタリオ機用のウォーターワイピング槽の図面」に、市川からジオリ宛の昭和51年(1976年)10月20日付け書簡(乙290)中には、「PVC・ワイピング・ローラ」に、同じく同年6月30日付け書簡(乙292)中には、「水性ワイピング」に、それぞれ言及されていることは認められるものの、その具体的な技術的内容は、これを知る手掛かりさえないものであって、本件技術情報に関連するものと認めることはできず、したがって、
その被控訴人に対する提供、開示を裏付けるものということはできない。
ウ 控訴人は、当審において、本件技術情報の提供、開示を立証するため、
文書提出命令の申立てをし、当審における主要な攻撃防御の訴訟活動が同申立ての採否をめぐって行われた経緯にかんがみ、この点について付言する。
上記文書提出命令の申立ては、昭和51年(1976年)10月から昭和57年(1982年)11月までの間の控訴人又はジオリから市川ら宛の書簡(甲27、31、33、40、44、95)(その背景については上記1参照)中で言及されている会合記録その他の資料及び本件印刷機に関する包括的な資料をその対象文書とし、文書の所持者を被控訴人又は市川とするものである。しかし、そもそも上記の対象文書の主要なものは、控訴人の主張に従えば、控訴人が秘密性のある本件技術情報に関するものとして特に被控訴人に提供したとされるものであって、本来的には控訴人側で作成され、保管されているべき資料にほかならない。上記申立ては、そのような秘密技術情報の開示に係る資料を、本訴の提起から16年余りを経過した当審において、自らが保管、所持していないからとの理由で被控訴人又は市川に対してその提出を求めるものであるから、そのこと自体からしても、
当該対象文書に秘密として管理されている情報が記載されていることは期待し難く、また、証拠の偏在を是正するという文書提出命令の本来の機能にはそぐわない申立てといわざるを得ない。換言すれば、控訴人において、当該文書を保管していないという事実自体、その記載内容が秘密として管理されている情報でないことを強く推認させるものというべきである。当裁判所は、念のため、被控訴人に対し、当該申立てに係る文書中被控訴人又は市川において現に所持している文書の任意提出を促し、被控訴人より、これが乙290〜292として提出されたが(その余の文書については、甲184にも照らすと、被控訴人又は市川において所持していることを認めるに足りない。)、本件技術情報の提供、開示を何ら裏付けるようなものではなかったことは、上記イのとおりである。
以上のような審理経過の下で、当裁判所は、上記文書提出命令の申立てにつき、証拠調べの必要性を欠くことを理由として却下したものであるが、このような経過に照らしても、上記イの認定はやむを得ないというほかない。
エ 以上のとおり、本件技術情報D以下については、同Qに関する甲92、
同Sに関する甲94、95が被控訴人に提供されたことが認められるが、その余の各技術情報の被控訴人に対する提供、開示の事実を認めることはできない。
そこで、甲92、94、95からそれぞれ本件技術情報Q、Sの提供、
開示が認められるかどうかを見るに、本件技術情報Sについては、甲95に記載されていることが認められるが、本件技術情報Qについては、甲92のみによっては、その提供、開示を認めることができない。すなわち、甲92は、何の説明記載もない図面であって、控訴人の主張によっても、甲90、93の技術文書及び甲91の図面と併せて本件技術情報Qが特定されるものとされているところ、甲90、
91、93が被控訴人に提供、開示されたことを認めるに足りる証拠がないことは上記のとおりであるから、結局、甲92が被控訴人に提供されたという事実のみから本件技術情報Qの提供、開示がされたことを認めるに足りず、他にその的確な証拠はない。
したがって、本件技術情報Sについては被控訴人に対する提供、開示は認められるものの、本件技術情報D〜R、
〜 については、そもそも、被控訴人に対するその提供、開示が認められない以上、その余の点について判断するまでもなく、その秘密保持義務の確認、差止め等及び同秘密保持義務違反を理由とする損害賠償請求のいずれも理由がないというべきである。
3 本件技術情報の秘密性について (1) 進んで、被控訴人に対する提供、開示が認められる本件技術情報@(ただし、本件シムルタン印刷機に関する部分で、特徴的構成イ〜ニの部分に限る。)、
A(ただし、クリーニングシリンダの周速度に関する構成を除く。)、B及びSの秘密性について判断する。
ア 本件技術情報@について 本件技術情報@は本件シムルタン印刷機に関する技術情報であるところ、控訴人は、その特徴とする構成として、「イ 互いに圧接されつつ互いに反対方向に回転する同一の径を有する一対のゴム胴を使用すること、ロ 紙幣の表面および裏面の背景を構成する全ての色を夫々対応するゴム胴上に集めること、ハ シートを一対のゴム胴間を通過させることによりシートの両面に前記背景を一度で印刷すること、ニ ゴム胴に向けてシートを送り込むために揺動するスインググリッパ装置を使用すること、又はゴム胴に向けてシートを送り込むために急速な回転と停止とを交互に繰り返すストップドラムを使用すること」との各点を挙げる(インタリオセット方式に係るホの構成を除く。)。
しかし、ニの構成(スインググリッパ装置又はストップドラム)については、昭和29年(1954年)1月印刷学会出版部発行の「印刷雑誌1954年1月号」(乙40の1、2)、昭和34年(1959年)10月10日印刷学会出版部発行の「印刷機械」(乙21の1、7)、昭和39年(1964年)2月にドイツ国内で発行された定期刊行物「フォルム ウント テヒニク」(乙19の4)及び同年3月に同様に発行された定期刊行物「フォルム ウント テヒニク」(乙19の1〜3)の各記載から、遅くとも昭和39年(1964年)以前に、給紙装置に関する周知慣用の技術とされていたことが認められる。そして、本件シムルタン印刷機自体については、前掲乙19の2において、その構造を示す略図とともに紹介されており、その記載によれば、本件技術情報@のその余の構成についても、これを看取することができる。
そうすると、本件技術情報@のうちの被控訴人に提供、開示された技術情報は、昭和39年(1964年)ころまでには刊行物によって公知となった技術情報にすぎないというべきであるし、また、前掲乙19の2中の本件シムルタン印刷機の紹介記事が、控訴人の意思に反してその秘密として管理する技術情報を漏泄したものであることをうかがわせる事情は見いだせないから、上記技術情報については、控訴人が秘密として管理していた情報であるということもできず、いずれにせよ、その秘密性を認めることはできない。
イ 本件技術情報Aについて 本件技術情報Aは本件2P凹版印刷機に関する技術情報であるところ、
控訴人は、その特徴とする構成として、「イ 圧胴と版胴間に向けてシートを送り込むために揺動するスインググリッパ装置を使用すること、ロ 版胴に取付けられた刷版表面から余分なインキを取除くために版胴と接触しつつ回転するプレワイピング装置を使用すること、ハ 版胴に取付けられた刷版表面から残りの余分なインキを取除くために版胴と接触しつつ回転するクリーニングシリンダの外周表面上にゼラチンをコーティングし、このクリーニングシリンダを版胴と同一方向に回転させ、このクリーニングローラをトリクロロエチレンで洗浄すること、ニ 版胴にインキを供給するための複数のインキローラ列を夫々別個の駆動モータにより駆動すること、ホ 印刷されたシートをシートスタッカーに搬送するためにチェーン搬送装置を使用すること、ヘ 印刷を完了したシート間に中間紙を挿入するために中間紙供給装置を設けること」との各点を挙げる(ハの構成中のクリーニングシリンダの周速度に関する部分を除く。)。
しかし、イの構成(スインググリッパ装置)が周知慣用の技術にすぎないことは、上記アで述べたとおりであるし、その余の構成については、ジオリの特許出願に係る特許公報(特公昭39-5116号公報、乙48)、前掲乙19の2中の「ケーバウ枚葉凹版輪転印刷機」を紹介、説明する記載及び前掲乙40の2の「ケーバウ・ジオリ3色凹版印刷機」の略図に開示されていることが認められる。
なお、これらの本件2P凹版印刷機の紹介記事等が、控訴人の意思に反してその秘密として管理する技術情報を漏泄したものであることをうかがわせる事情を見いだせないことは、上記アと同様である。
そうすると、本件2P凹版印刷機に関する技術情報である本件技術情報A(クリーニングシリンダの周速度に関する部分を除く。)は、その一部に、周知慣用の技術(イの構成)を含むほか、ジオリ自身の特許出願に係るものとして特許出願公告され、あるいは、本件2P凹版印刷機を紹介する刊行物において、その特徴的な構成として理解し得る内容で公表されているのであるから、これを全体として見た場合、控訴人が秘密として管理していた技術情報であるということはできず、その秘密性を認めることはできない。仮に、控訴人において上記技術情報を秘密として管理していた時期があったとしても、遅くとも、上記各刊行物の発行された昭和39年(1964年)ころまでにはその秘密管理性は失われていたというべきである。
ウ 本件技術情報Bについて 本件技術情報Bは本件4P凹版印刷機に関する技術情報であるところ、
控訴人は、その特徴とする構成として、「イ シートを圧胴に移送して圧胴と版胴間で印刷を行うために急速な回転と停止とを交互に繰返すストップドラムを使用すること、ロ 版胴に取付けられた刷版表面から余分なインキを取除くために、版胴と接触しつつ回転するクリーニングシリンダと、版胴と接触しつつ回転するプレワイピングシリンダとを使用すること、ニ 版胴にインキを供給するインキローラ列において、ダクトローラを具えたインキダクトを用いると共に、一つの硬質ローラにインキを交互に移送する二つの振動体を用い、この硬質ローラがインキを二つのゴムローラに移送し、次いでこれら二つのゴムローラが刷版と接触する着肉ローラにインキを移送し、インキングキャリッジがこのような型式の三群のローラ列を具えていること、ホ 印刷されたシートを重ねておくために一対のシートスタッカを使用すること」との各点を挙げる。
しかし、上記の構成中、ニの二つの振動体による硬質ローラへのインキの交互移送に関する部分を除くほか、そのほとんどは、被控訴人に提供、開示された本件技術情報Aと共通するものであり、周知慣用の技術(イの構成)以外の構成は、前掲乙19の2、乙40の2及び乙48に開示されていることが認められる。
そして、本件2P凹版印刷機とは異なる構成である、ニの構成中の二つの振動体による硬質ローラへのインキの交互移送に関する部分に関しては、控訴人の特許出願に係る特開昭60-42044号公報(乙54)に開示されていることが認められるから、結局、本件4P凹版印刷機に関する技術情報である本件技術情報Bは、これを全体として見ても、控訴人が秘密として管理していた技術情報であるとはいえず、その秘密性を認めることはできない。仮に、控訴人において上記技術情報を秘密として管理していた時期があったとしても、遅くとも、前掲乙54の公報の公開された昭和60年(1985年)ころ(ニの構成中の二つの振動体による硬質ローラへのインキの交互移送に関する部分を除くと、昭和39年(1964年)ころ)までにはその秘密管理性は失われていたというべきである。
エ 本件技術情報Sについて 本件技術情報Sは、控訴人の特許出願に係る特開昭58-107341号公報(乙235の1)及び特公平2-54225号公報(乙235の2)に実質的に開示されていると認められるから、控訴人が秘密として管理していた技術情報であるとも、非公知の技術情報であるともいえず、その秘密性を認めることはできない。なお、控訴人は、乙235の1、2は本件技術情報Sのすべての要件を満たしたものではなく、その秘密性を否定する根拠たり得ない旨主張するところ、確かに、同号証の公報には、「シートに付されたコード」としてバーコードを使用することは明記されていないが、バーコードを使用する技術自体は周知慣用のものにすぎないから(平成6年6月30日日本工業出版株式会社発行の「知っておきたいバーコードの知識」〔乙236〕、平成8年10月25日財団法人日本規格協会発行の「バーコードのおはなし」〔乙237〕)、上記の認定判断を左右するものとはいえない。
(2) 控訴人は、信義則上の秘密保持義務を検討するに当たって、不正競争防止法上の営業秘密の要件としての秘密管理性を持ち出す必要はない旨主張するが、本件において、控訴人が秘密として管理するとはいえないものや公知となった技術情報についてまで、その保持義務を被控訴人に負わせるべき信義則上の根拠は見いだせないから、上記主張は採用することができない。なお、控訴人の主張する契約に基づく義務及び本件覚書に基づく義務に関しても、実質的な秘密か否かを問うことなく特定の技術情報について保持義務を課するといった合意があるような場合であれば格別、本件において、そのような合意を認めるに足りる証拠はない上、そもそも控訴人の主張自体において、契約に基づく義務の根拠とするのは、本件印刷機等の売買契約における当事者の意思解釈による黙示的な合意であるし、本件覚書に基づく義務の根拠とするのは、本件覚書(甲8)中の「秘密として扱われるべきもの」ないし「秘密情報」との抽象的、包括的な条項であるから、その主張を前提としても、秘密として管理されている技術情報とはいえないものや公知の技術情報までがその対象となると解することはできない。また、控訴人主張の不正競争防止法に基づく義務については、平成2年改正法の施行前日(平成3年6月14日)までに保有者から示された営業秘密を、その施行後に使用、開示する場合にも、同法による改正後の旧不正競争防止法(昭和9年法律第14号)の適用はあるが(平成2年改正法附則2条)、上記のとおり秘密性を欠く情報までその対象となるものでないことは当然である。
さらに、控訴人は、本件技術情報の秘密性を判断するに当たり、当該技術情報を個々の要素に分断することなく、各要素を組み合わせた総体を一体不可分の技術情報として取り扱う必要があり、公知技術の組合せに係る秘密技術情報も保護されるべきである旨主張する。確かに、秘密性の要件としての非公知性に関する限り、個別には公知の要素の組合せに係る技術情報であっても、これを全体として見た場合に、当然には非公知性を失うものでないということはできるが、自ら又は第三者を通じて公開している技術と周知技術のみから成るような技術情報が、全体として秘密管理性を認めることのできないことは当然である。本件において、被控訴人に対する提供、開示が認められるもの、すなわち、本件技術情報@(ただし、本件シムルタン印刷機に関する部分で、特徴的構成イ〜ニの部分に限る。)、A(ただし、クリーニングシリンダの周速度に関する構成を除く。)、B及びSは、いずれも、その構成中に周知慣用の技術にすぎないものが含まれているほか、控訴人又はジオリにおいて特許出願の上公開され、あるいは本件印刷機自体の構成として雑誌等に紹介されるなどして控訴人が秘密として管理するとはいえないものであるから、これを総合的に検討した場合に、全体としての当該技術情報の秘密管理性を否定せざるを得ないのであって、控訴人の上記主張は、上記の認定判断を左右するものではない。
(3) 以上のとおり、本件技術情報@(ただし、本件シムルタン印刷機に関する部分で、特徴的構成イ〜ニの部分に限る。)、A(ただし、クリーニングシリンダの周速度に関する構成を除く。)、B及びSは、いずれも刊行物等によって公知となった技術情報であるか、又は控訴人が秘密として管理する技術情報とはいえないものであるから、その余の点について判断するまでもなく、当該技術情報についての秘密保持義務の確認及びその開示等の差止めを求める控訴人の請求は理由がない。
4 損害賠償請求について (1) 控訴人は、損害賠償請求の原因となる本件技術情報に係る秘密保持義務違反の具体的な内容として、昭和39年以降に行われたという被控訴人から小森に対する本件技術情報の開示、漏泄を主張する(原判決51頁末行〜53頁1行目参照)ので、本件技術情報@(ただし、本件シムルタン印刷機に関する部分で、特徴的構成イ〜ニの部分に限る。)、A(ただし、クリーニングシリンダの周速度に関する構成を除く。)、B及びSに関して、刊行物等によって公知となり、又は秘密管理性を失う以前に、上記主張に係る本件技術情報の開示、漏泄がされたかどうかを、以下検討する。
(2) まず、本件技術情報@、Aについては、本件技術情報の開示、漏泄がされたという昭和39年ころまでには、被控訴人に提供、開示された技術情報が公知となり、又は秘密管理性を失っていたことは上記3のとおりであるから、その小森に対する開示、漏泄を原因とする損害賠償請求は理由がない。
また、本件技術情報Bについては、ニの構成中の二つの振動体による硬質ローラへのインキの交互移送に関する部分を除き、昭和39年ころまでには、控訴人においてその秘密管理性を失っていたことは上記3のとおりである。そして、ニの構成中の二つの振動体による硬質ローラへのインキの交互移送に関する部分に関しては、小森印刷機の構成を示す原判決別紙図面一(甲150)、三(甲152)、五(甲60の2)によっても、その構成を読み取ることはできず、他に小森印刷機が上記構成を備えていたことを認めるに足りる証拠はない。そうすると、上記二つの振動体による硬質ローラへのインキの交互移送に関する構成に係る技術情報が、小森に対して開示、漏泄されたことを認めることはできず、その余の構成については、本件技術情報の開示、漏泄がされたという昭和39年ころまでには、秘密管理性を失っていたのであるから、結局、本件技術情報Bについても、その小森への開示、漏泄を原因とする損害賠償請求は理由がない。
さらに、本件技術情報Sについては、そもそも小森に対する開示、漏泄を認めるに足りる証拠がないから、その開示、漏泄を原因とする損害賠償請求も理由がない。
5 結論 以上のとおり、控訴人の被控訴人に対する請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないから、これを棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がない。
よって、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担並びに上告及び上告受理申立てのための付加期間の指定につき民事訴訟法67条1項本文、61条96条2項を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 長沢幸男
裁判官 宮坂昌利
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