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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成17ワ8362不正競争行為差止等請求事件 判例 不正競争防止法
平成15ネ1010損害賠償請求控訴事件 判例 不正競争防止法
平成17ワ23171損害賠償等請求事件 判例 不正競争防止法
平成16ワ25297営業行為差止請求事件 判例 不正競争防止法
平成18ワ5172損害賠償請求事件 判例 不正競争防止法
関連ワード 信義則 /  類似性(類似) /  外観 /  呼称 /  記憶 /  模倣 /  技術的思想 /  差止請求(差止) /  過失 /  デザイン /  汚染(ポリューション) /  代理人 /  代表者 /  秘密管理(秘密管理性) /  秘密として管理 /  秘密保持義務 /  有用性 /  非公知性 /  営業秘密 /  保有者 /  プログラム /  競争関係 /  損害賠償 /  損害額 /  推定 / 
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事件 昭和 60年 (ワ) 4131号 秘密保持義務存在確認等請求事件
原告 ド・ラ・リュー・ジオリ・エス・アー 右代表者 【P1】
同 【P2】 右訴訟代理人弁護士 土屋泰
同 櫻木武
同 花水征一
同 滝井乾右訴訟復代理人弁護士 木村 耕太郎右補佐人弁理士 【P3】
同 【P4】
被告国右代表者 法務大臣 【P5】 右指定代理人 【P6】
同 【P7】
同 【P8】
同 【P9】
同 【P10】
同 【P11】
同 【P12】
同 【P13】
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2000/04/26
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
一 被告と原告との間に、別紙目録(二)記載の技術情報につき、秘密保持義務が存在することを確認する。
二 被告は、別紙目録(二)記載の技術情報を「自己の為にのみ利用し」、これを将来にわたって第三者に開示してはならない。
三 被告は、訴外株式会社小森コーポレーション及びその他の第三者をして、訴外株式会社小森コーポレーションが「マルチ」、「カレンシーL832」及び「カレンシーI332」との名称で製造している銀行券及び証券印刷機、並びにその他訴外株式会社小森コーポレーション及びその他の第三者が日本国外において販売する銀行券及び証券印刷機に、別紙目録(二)記載の技術情報を利用せしめてはならない。
四 被告は、原告に対し、二二六万九〇五九・六七スイスフラン及びこれに対する平成元年四月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は、原告(ないし原告の前身)が被告に紙幣印刷機を販売したが、右販売契約に付随して秘密保持契約を締結したなどと主張して、原告が被告に対して、
別紙目録(二)記載の技術情報(以下「本件技術情報」という。)の秘密保持義務の存在確認、本件技術情報の第三者への開示の差止め及び損害賠償等を求めた事案である。
なお、別紙目録(一)は欠番とした。また、別紙目録(二)の各秘密技術情報項目にも、欠番としたものがある。
一 前提となる事実(証拠を挙げた事実以外は争いがない。) 1 原告 原告は、スイス法に基づいて設立され、その事業目的を、銀行券等の製造に関する研究・開発、設計・製造、販売等とする、ド・ラ・リューグループに属する株式会社である(原告がスイス法に基づいて設立された株式会社であることは争いがない。その余については、甲一五四ないし一五七及び弁論の全趣旨。)。
ド・ラ・リューグループは、ド・ラ・リュー・ピー・エル・シーの傘下にある企業集団をいう。英国法人であるトーマス・ド・ラ・リュー・インターナショナル・リミテッド(以下「インターナショナル社」という。)並びに銀行券及び有価証券の印刷機の製造会社であるトーマス・ド・ラ・リュー・エンジニアリング・リミテッド(以下「エンジニアリング社」という。)は、ド・ラ・リューグループに属する(甲一五八ないし一六二、弁論の全趣旨)。
原告代表者であった【P14】(以下「【P14】」という。)は、昭和二〇年(一九四五年)ころから銀行券と証券の製造装置の設計・製作及び技術指導を行い、昭和二六年(一九五一年)に、営業の拠点をスイス国ローザンヌ市に移転し、オルガニザシオン・ジオリ(以下「オルガニザシオン」という。)を設立した(甲一七七、弁論の全趣旨)。
西独のケーニッヒ・ウンド・バウエル・アーゲー(以下「ケーバウ社」という。)は、一八一七年に設立された。同社は、世界で最も古い印刷機械メーカーであり、世界最大のグラフィック印刷機械のメーカーのひとつである(甲一六八、
弁論の全趣旨)。
【P14】は、ヨーロッパにおける証券印刷及び印刷機製造界の権威を集めて、昭和二七年(一九五二年)、ジオリ機構を組織した。ケーバウ社はジオリ機構に参加している(甲一六八、乙四〇)。
【P14】とインターナショナル社は、昭和四〇年(一九六五年)三月三〇日、折半の出資をして、スイス法に基づき、ソシエテ・テクニーク・ジオリ・ド・ラ・リュー・エス・アー(以下「テクニーク社」という。)及びド・ラ・リュー・ジオリ・エス・アー(原告)の二社を設立し、その設立に際し、以下のとおり合意した(甲一六三)。
@ インターナショナル社は、エンジニアリング社が、同社がそれまで行ってきたすべての種類の商業的取引をテクニーク社と原告に譲渡することを約束する。
A 【P14】及びインターナショナル社は、テクニーク社に、現存する又は進行中の特許、発明等につき、無償で使用権限を与える。
B 右同日以降、すべての特許、発明等はテクニーク社の独占的な権利となる。
次いで、原告は、昭和四二年(一九六七年)七月一日、テクニーク社を吸収して合併し、右法的地位に基づき、原告は、紙幣及び有価証券印刷機の製造、販売を行っている(甲一六八、一七七)。
2 被告 被告は、国家行政組織法第3条第2項の規定に基づき大蔵省を設置し、大蔵省内に印刷局を置き、日本銀行券・紙幣等を製造している(以下被告を便宜「印刷局」という場合がある。) 3 被告の印刷機の購入 被告は、昭和三二年(一九五七年)六月から昭和四一年(一九六六年)にかけて、以下のとおり、レイボルド機工株式会社(以下「レイボルド機工」という。)から、ジオリ機構製の銀行券製造用印刷機を購入した。
@ 五色のオフセット印刷用のシムルタン印刷機 一一台 A 三色の凹版印刷用のインタリオカラー双プレート印刷機 一台 B 三色の凹版印刷用のインタリオカラー四プレート印刷機 一二台 C 二色の番号付け用のニューメロータ印刷機 一二台 被告は、昭和三六年(一九六一年)ころから昭和三九年(一九六四年)ころにかけて、東西商事株式会社(以下「東西商事」という。)を通じて、エンジニアリング社製の銀行券印刷機二七台を購入した(以下、レイボルド機工及び東西商事から購入した印刷機すべてをあわせて「本件印刷機」という。)(甲六三、乙六三、六四。枝番号は省略することがある。以下同様である。)(なお、被告が印刷機の購入契約をした相手については争いがある。)。
二 争点 1 被告は原告に対し、秘密保持義務を負担したか。
(原告の主張) 被告は、原告に対し、以下の理由により、原告が保有し、原告、オルガニザシオン又はエンジニアリング社から被告に開示された、紙幣印刷機の製造、使用に関する秘密情報の一切につき、秘密保持義務を負担するに至った。
なお、原告の保有する紙幣印刷機に関する特許、ノウハウ等の権利には、
自己が開発したものと、オルガニザシオン又はエンジニアリング社から承継取得したものとがある。
(一) 契約に基づく義務 被告は、原告の前身に対し、契約によって秘密保持義務を負担した。すなわち、被告は、原告の前身との間において、本件印刷機等の売買契約に付随して秘密保持契約を締結した。
原告の前身であるオルガニザシオン及びエンジニアリング社は、昭和三三年(一九五八年)及び昭和三四年(一九五九年)に、それぞれ「シムルタン型」紙幣印刷機、「インタリオカラー型」紙幣印刷機、「ニューメロータ型」印刷機及び「ド・ラ・リュー・インタリオ・プレス型」紙幣印刷機を、それぞれの日本国内の代理店を通じて、被告に販売した。なお、各印刷機の売買契約の相手方は、契約書上は、オルガニザシオン開発に係る印刷機についてはレイボルド機工と、エンジニアリング社製造に係る印刷機については東西商事と、それぞれ記載されている。
しかし、売買に関する交渉は、すべて被告とオルガニザシオン又はエンジニアリング社との間で直接行われており、また、契約成立後の印刷機の設置、試運転、技術指導やその後の継続的な情報技術の提供等も、すべてオルガニザシオン又はエンジニアリング社が直接行ってきた。これに対し、レイボルド機工と東西商事は、いずれもオルガニザシオンないしはエンジニアリング社の日本における販売代理店であり、交渉の立会いや事務的な連絡等をしたに過ぎない。したがって、被告と契約を締結した実質的な当事者は、オルガニザシオン又はエンジニアリング社である。
オルガニザシオン及びエンジニアリング社と被告との間には、以下のとおりの本件売買契約の特殊性から、被告が購入した印刷機に関する秘密の技術情報につき守秘義務を負い、これら印刷機の模造品又は類似品の製造をしない旨の合意がされたと解すべきである。
すなわち、@銀行券印刷機の購入者は、各国の大蔵省ないし中央銀行といった、当該国の通貨を発行する権限のある当局に限定されること、A購入者は、
技術的に優れた印刷機を調達することが不可欠であるのみならず、その操作・保守について、メーカーから技術情報の継続的な提供を受けることが不可欠であること、B銀行券発行当局は、偽造防止の見地から、印刷機に関する技術情報の秘密を保持する必要があり、メーカーとしても、印刷機の購入者に多くの貴重な技術情報を提供する以上、購入者がその秘密を保持するとの了解が必要であること等の特殊性から、契約書が作成されなくても当然に、被告が購入した印刷機に関する秘密の技術情報につき守秘義務を負い、これら印刷機の模造品又は類似品の製造をしない旨の合意がされたと解すべきである。
さらに、右売買契約に伴う秘密保持義務は、購入した印刷機のみではなく、後日これに関連して原告から被告に提供された秘密技術情報にも及ぶものと解すべきである。
(二) 不正競争防止法に基づく義務 被告は、原告に対し、不正競争防止法等の趣旨から当然に秘密保持義務を負担する。すなわち、売買の目的物に売主のトレード・シークレットが含まれる場合、知的財産権法上当然に、当該売買契約に付随して、買主は、売主に対し、右トレード・シークレットの秘密保持義務を負担する。我が国においても、平成二年六月二九日法律第六六号「不正競争防止法の一部を改正する法律」(以下「平成二年改正法」という。)によって、営業秘密をその保有者から開示された者が、不正の競争又は利益を得る目的で営業秘密を開示することを禁止する規定が定められたが、その趣旨に照らすと、平成二年改正法が適用される前においても、原告から被告に開示された技術情報は、営業秘密として保護され、被告は、当然に、右技術情報の秘密保持義務を負うと解すべきである。
(三) 信義則に基づく義務 被告は、原告に対し、信義則により秘密保持義務を負担するに至った。
すなわち、印刷機械製造業者は、販売の機会の獲得、拡大を図るため、各国の紙幣印刷機関に対し、無償で、秘密情報を開示する必要が生じる。他方、印刷機関としても、偽造されにくい紙幣類を作り出すため自己固有の技術を開発することが極めて有益であり、少なくとも、日常のメンテナンス等のため自己の購入する機械の技術的側面をある程度把握しておく必要があることから、このような技術情報の供与を受けることが必要となる。
企業が、現に秘密としている情報を、相手方に開示しなければならない場合、相手方が当該秘密情報を漏泄しないとの保証が必要であり、紙幣印刷機の製造業者と紙幣の印刷機関との間には、そのような信頼関係が成立していた。
以上のとおり、紙幣印刷機の製造業者と紙幣の印刷機関という原、被告間の特殊な関係に照らすならば、被告は、信義則上、原告から開示された秘密について、秘密保持義務を負担すると解すべきである。
(四) 覚書に基づく義務 被告は、原告に対し、以下の覚書に基づいて、秘密保持義務を負担した。すなわち、被告の印刷局の職員が欧米視察旅行をするに際して、被告は、原告に対し、昭和四〇年(一九六五年)九月二七日付の覚書(甲八、以下「本件覚書」という。)を交付した。右覚書の第一項には、印刷局の局員が視察旅行に当たって得た知識を印刷局のためにのみ用い、原告の事前の同意なく第三者に開示しないこと、第二項及び第三項には、被告は、原告に対し秘密保持義務を負うことが記載されている。右第二項及び第三項は、長期的視野に立ち、紙幣印刷機等の製造、運転に関し、過去及び将来にわたって原告から被告に与えられた原告所有の秘密全般につき、秘密保持義務を規定したものであり、被告は、右覚書に基づき、原告に対し、原告から開示された秘密について、秘密保持義務を負担した。
本件覚書は、業務部長である【P15】(以下「【P15】」という。)が、「印刷局長のために」と表示して作成したものであり、【P15】は、
印刷局長から秘密保持義務を負担する権限を与えられていた。仮にそうでないとしても、【P15】が印刷局長からそのような権限を与えられた旨の表示がされていることになる。印刷局長に、本件のような被告の秘密保持義務を負担する権限がなかったとしても、原告が日本国の行政機関に精通しない外国の一企業であることに鑑みれば、原告が印刷局長が被告を代表して原告に対し秘密保持義務を負担したと信じたことに過失はない。したがって、民法110条、又は同法109条及び110条の重畳適用により、被告は、秘密保持義務を負っていることを否定することはできない。
(被告の反論) (一) 契約に基づく義務について (1) 原告は、事業目的を、昭和四〇年(一九六五年)三月三一日設立当時は、「紙幣・硬貨製造用の印刷機械、補助設備、原材料、技術サービス、ノウハウ、組見本、製版、銘板など、全般的に銀行券、信用紙幣、受託印刷/鋳造に使用される紙幣と硬貨の生産を行うすべての製品の販売及び不動産取引」、同年一二月二〇日以降は「貨幣、有価証券印刷・製造機械の販売」とする会社であり、製造会社ではなく、販売会社である。
原告は、オルガニザシオン又はエンジニアリング社は、原告の前身である旨主張する。しかし、右二社と原告との間の、本件技術情報に関する承継関係は明確でないので、原告が本件技術情報の保有者であるとはいえない。なお、被告が印刷機を購入した当時、ド・ラ・リュー・グループとオルガニザシオンとは利害相反する競争関係にあったのみならず、製品の調達経路等も異なった。
さらに、別紙目録(二)記載の技術情報は、【P14】、オルガニザシオン又は原告が正当に保有するものではなく、第三者が開発した技術情報である。また、同目録の(一一)ハ、(一二)ハ、(一五)記載の技術情報は、基本的には被告(印刷局)が開発した技術に関する情報である。
以上のとおり、原告が、本件技術情報を、何時、どのように開発又は取得したのか不明であることなどから、原告が本件技術情報の保有者であるとはいえない。
(2) 被告は、印刷機の購入に関し、レイボルド機工ないしは東西商事と契約書を作成した。また、被告が印刷機の購入に際して交渉を行った相手はレイボルド機工と東西商事であり、その交渉や実施にオルガニザシオンやエンジニアリング社が関与したことはない。したがって、被告が印刷機調達の契約を締結した相手方はレイボルド機工及び東西商事であり、オルガニザシオン及びエンジニアリング社ではない。
(二) 不正競争防止法に基づく義務について 原告は、不正競争防止法の趣旨により、当然秘密保持義務を負担する旨主張するが、その根拠は不明であり、主張自体失当である。
営業秘密の保護に関しては、平成二年改正法によって、不正競争防止法上初めて規定が設けられたのであり、その結果、直接契約関係にない当事者間においても、営業上の秘密保護を目的として、差止請求損害賠償請求等をすることができるようになった。営業秘密保護の規定は、その後の改正を経て、現在の不正競争防止法(以下「現行法」という。)に承継されている。平成二年改正法の施行前日(平成三年六月一四日)までに保有者から営業秘密を示され、それを開示する行為については、平成二年改正法ないしは現行法の適用はない。したがって、平成三年六月一四日以前に取得され、開示された秘密技術情報につき、契約に基づかずに秘密保持義務を負わせたり、これを前提とする差止め及び損害賠償を請求することはできない。
原告は、被告が平成三年六月一四日以前である昭和三九年ころ、株式会社コモリコーポレーション(昭和三九年当時の商号は、小森印刷機械株式会社。以下「小森」という。)に秘密技術情報を開示したことを前提として主張するが、平成二年改正法ないしは現行法の適用がない以上、原告は被告に対し、本件各差止請求及び損害賠償請求をすることはできない。
仮に、本件技術情報について、現行法が適用されるとしても、営業秘密として保護されるためには、秘密管理有用性非公知性の三要件が必要である。
ところで、@原告は、本件印刷機調達の際、レイボルド機工及び東西商事に対して秘密に関する指示等をしたことはなく、秘密保持義務に関する合意をしたこともないなど、本件技術情報につき、適切な秘密管理がされていたとはいえず、秘密管理の要件が欠如している。A原告は、シムルタン印刷機及びインタリオカラー印刷機には、秘密技術情報が含まれていると主張するが、右各印刷機の発売開始以来数十年が経過していることからすると、経験則上、右技術情報は陳腐化及び技術常識化していると考えるのが妥当であり、非公知性の要件も欠けている。したがって、本件技術情報は営業秘密には該当しない。
(三) 信義則に基づく義務について 契約に基づかずに、信義則上当然に秘密保持義務が発生することはない。
(四) 覚書に基づく義務について 我が国において、通貨の製造は政府の独占的権限であり、通貨の製造は、高度の政治的判断を要する重要な行政活動の一部である。したがって、通貨の製造に係る事項について、特定の民間業者に対し秘密保持義務を負うような、将来の通貨政策を物質的・技術的・調達手続的に制約するおそれのある行為をすることは、あり得ない。
行政庁において、所掌事務並びに権限及びその権限に属する契約締結の職務権限を有する者は、法令により厳格に定められている。印刷局は、被告の意思決定を行うことのできるいわゆる行政官庁ではなく、印刷、製紙に関する事業を専門に行う現業の行政機関であり、国全体が秘密保持義務を負うことになる契約締結は、印刷局の所掌事務ではないので、その権限はない。また、当時、印刷局の所掌事務に関し、外形的に契約締結の職務権限を有していたのは、印刷局長であり、印刷局の製造部長及び業務部長は、契約を締結する対外的な職務権限を有しない。
以上のとおり、印刷局には、秘密保持義務を負う契約を締結する権限はなく、仮に印刷機の調達の権限に付随するものと考えても、本件覚書の作成名義人である業務部長にはそれを締結する職務権限がない。したがって、本件覚書は、公務員が職務上作成したいわゆる公文書ではなく、私的な文書というべきである。
また、本件覚書は、文書の方式、体裁の面からも、被告に法的な効力が及ぶ公文書として作成されていない。すなわち、印刷局の局印・部印又は作成者の官職印等の公印が押印されていないこと、所定の割印がないこと、印刷局の発信文書番号がないこと、日本語を用いていないこと、用紙が海外向け通信用箋でないこと等、印刷局文書及び印刷局契約書の方式及び体裁を備えていないことに照らして、公文書でないことは明らかである。なお、本件覚書については、実質的にも、
決裁文書の起案・決裁・発信の所定の手続が履践されていない。
さらに、本件覚書の内容からしても、昭和三九年までに印刷局に納入された印刷機に関する技術情報は、本件覚書の対象となっていない。
なお、本件覚書は、印刷局の職員が、局長に代わり又は大蔵省印刷局を代理して作成した文書と解することもできない。印刷機の調達行為に関する権限は公法上のものであり、表見代理の規定は適用されない。仮に、表見代理の規定が類推適用されると解しても、行政庁の所掌事務並びに権限及びその権限に属する契約締結の職務権限を有する者が法令により厳格に定められているので、相手方には過失がある。
以上のとおり、本件覚書は、印刷局の職員が海外出張する際の秘密保持に関する文書であり、作成者たる【P15】業務部長独自の判断において作成された私的な文書とみるべきであるから、本件覚書により、被告が原告主張の秘密保持義務を負担すると解することはできない。
2 原告は、被告に対し、秘密保持義務の対象となる技術情報を提供したか。
(原告の主張) 原告又はオルガニザシオンは、被告に、別紙目録(二)記載のとおりの内容の各技術情報を開示、提供した。各技術情報は秘密技術情報に当たり、被告は、
右技術情報につき秘密保持義務を負っている。
原告又はオルガニザシオンが被告に各技術情報を開示、提供した時期、方法、内容等は、以下のとおりである。
(一)シムルタン印刷方式 原告又はオルガニザシオンは、被告に対し、昭和三三年(一九五八年)以降に、シムルタン印刷方式に関する以下の情報を開示した。
オルガニザシオンは、被告に対し、昭和三三年(一九五八年)、「シムルタン印刷機」という名称のドライ・オフセット印刷機(Type:3/2 TOV)を販売し、同社は、被告に対し、右販売時に、これに関する資料として、@「Type:3/2 TOV SIMULTAN Operating Instractions」と題する取扱説明書及び付属図面であるB.-05.101号図面、B.05.-121.5号図面(甲七〇の一)、A同機の構造図である「Simultan 3/2 TOV Blatt:150」と題する図面(甲七〇の二)、B同機の側面図であるG.-05.174.1号図面(甲七〇の三)、C同機の刷板のXX図であるB.-05.186.1号図面(甲七〇の四)を、提供した。右シムルタン印刷機(Type:3/2 TOV)自体に存在する技術情報並びに右取扱説明書及び右各図面に記載されている技術情報は、その性質上秘密技術情報に当たる(以上、シムルタン印刷機関係)。
また、原告は、印刷局の製造部長である【P16】(以下「【P16】」という。)に対し、昭和四五年(一九七〇年)一一月二六日スーパーシムルタン印刷機の構造図面であるG-06.006号図面(甲七四)を提出した。右図面には、
スーパーシムルタン印刷機の機能的特徴が明瞭に示してあり、右技術情報は、秘密技術情報に当たる(以上、改良型シムルタン印刷機関係)。
(二)二枚の刷版により印刷する凹版カラー印刷機 被告は、オルガニザシオンから、凹版カラー印刷機(インタリオカラー印刷機3/OLgV)を購入した。同社は、昭和三六年(一九六一年)、同社の工場を訪れた被告の技術者に対し、「Type:3/OLgV Operating Instrustions」 と題する取扱説明書、G-05.149.0号図面、G-05.164.0号図面、B-05.190号図面、B.-05.149.0号図面、B.-05.215.0号図面(甲八四)を開示、提供した。凹版カラー印刷機(インタリオカラー印刷機3/OLgV)自体に含まれる技術情報、及び右取扱説明書及び右各図面に記載された技術情報は、秘密技術情報に当たる。
(三)四枚の刷版により印刷する凹版カラー印刷機 被告は、昭和三六年(一九六一年)、オルガニザシオンから、凹版カラー印刷機(インタリオカラー印刷機3/OLgV/4)を購入した。同社は、被告に対し、
そのころ、構造図であるG-05.182.0号図面(甲八五)を開示、提供した。さらに、
原告は、被告に対し、昭和五二年(一九七七年)、スーパーインタリオカラーに関するG-08.401号図面(甲八六)を開示、提供した。右凹版カラー印刷機(インタリオカラー印刷機3/OLgV/4)自体に含まれる技術情報、並びに右各図面に記載された技術情報は、秘密技術情報に当たる。
(五)ドライオフセット用真鍮製刷版の製造方法 オルガニザシオンは、被告に対し、昭和三八年(一九六三年)、ドライオフセット印刷に関する説明書(甲八七)を開示、提供した。右説明書に記載された、別紙目録(二)の(五)記載のドライオフセット用刷版の製造方法に関する情報は、秘密技術情報に当たる。
(七)ニッケルサルファメイト電着についての新たに開発された技術 オルガニザシオンは、被告に対し、昭和三九年(一九六四年)、説明書(甲八八)を交付した。右説明書に記載された別紙目録(二)の(七)記載の情報は、秘密技術情報に当たる。
(八)ガラス及び金属上に機械的に彫刻を行う技術 オルガニザシオンは、被告に対し、昭和三九年(一九六四年)、技術文書(甲八九)を開示、提供した。右技術文書に記載された別紙目録(二)の(八)記載のガラス及び金属上に機械的に彫刻を行う技術情報は、秘密技術情報に当たる。
(九)ニッケルサルフェート又はニッケルサルファメイト浴を浄化することによってニッケル銅製凹版印刷刷版のピットを防止する方法 オルガニザシオンは、被告に対し、印刷局の局員が同社のミラノセンタで研修した際、及び昭和三九年(一九六四年)に東京において、波形形状のカソード及び別紙目録(二)の(九)記載のピットの防止方法の技術に関する情報を開示した。右情報は、秘密技術情報に当たる。
(一一)刷版クリーニング・シリンダーの洗浄方法(第一段階) オルガニザシオンは、被告に対し、昭和三九年(一九六四年)、図面(甲六四と同じ内容のもの)を提出するなどして、別紙目録(二)の(一一)記載の刷版クリーニング・シリンダーの洗浄方法に関する情報(第一段階)を開示した。右情報は、秘密技術情報に当たる。
(一二)刷版クリーニング・シリンダーの洗浄方法(第二段階) 昭和四五年(一九七〇年)に、刷版クリーニング・シリンダーの洗浄方法の改良が行われた。ところで、原告は、被告に対し、同年から翌昭和四六年(一九七一年)にかけて、「Rakel u Bursten Blatt:108 Teilbl.:1,2」(昭和四五年(一九七〇年)九月二九日付け)と題する各図面、「同Teilbl.:3」(昭和四五年(一九七〇年)九月三〇日付け)と題する図面、Gummirakel u. Burste Blatt:108 Teilbl.:4」(昭和四四年(一九六九年)一一月九日付け)と題する図面、「Rakel und Bursten Blatt:108 Teilbl.:5」(昭和四五年(一九七〇年)一〇月二日付け)と題する図面(甲六五の一ないし五)を開示した。
さらに、原告は、被告に対し、スクレーパに対する接触圧力調整機構とインキを掻き落とすためのスクレーパ機構を販売し、「Stahlrakel Blatt:111」(昭和四五年(一九七〇年)九月三〇日付け)と題する図面(甲六六)を開示、提供した。右各図面及び機構に示された別紙目録(二)の(一二)記載の技術情報は、秘密技術情報に当たる。
(一三)プレワイピング オルガニザシオン及び原告は、被告に対し、昭和三六年(一九六一年)以降のプレワイピングの発展段階の各過程において、技術仕様及び取扱マニュアル(甲八〇)を提供、開示した。別紙目録(二)の(一三)記載の情報は、秘密技術情報に当たる。
(一五)ショート・インキング 原告は、被告に対し、昭和四八年(一九七三年)から昭和五一年(一九七六年)にかけて、「Hydraulik-Farbwerk Versorgung der Hyd. zylinder Bl. 206 Blatt:209 Teilbl.:4」と題する図面、「Duktor heizung bzw.-kuhlung Blatt:211 Teilbl.:1」と題する図面、「Duktorgestelle mit Fuhrung Blatt:201 Teilbl.:1」と題する図面、「Duktor u. Vorwischwalze mit Lagerung Blatt:204」と題する図面、「Farbkasten mit Verstellung ink box with adjusting Blatt:205 Teilbl.:2」と題する図面、「Einzel-Farbwerkabstellung Blatt:202 Teilbl.:2」と題する図面、「Einzelfarbwerk-Abstellung Blatt:202」と題する図面、「Duktorgestelle mit Fuhrung Blatt:201 Teilbl.:2」と題する図面、「Einzelfarbwerk-Blockierung Blatt:203」と題する図面、「Farbkasten mit Verstellung ink box with adjustment Blatt:205 Teilbl.:1」と題する図面、「Reibwalze mit Lagerung u. Antrieb der seitl. Verreibung Blatt:207」と題する図面、「Seitl. Farbkastenabdichtung Blatt:206」と題する図面、「Hydraulik-Farbwerk Druckreduzierung u. -onzeige Blatt:209 Teilbl.:2」と題する図面、及び「Hydraulik-Farbwerk Blatt:209 Teilbl.:1」と題する図面(甲六九の一ないし一四)を提供、開示した。右各図面に記載された別紙目録(二)の(一五)記載のショート・インキングに関する情報は、秘密技術情報に当たる。
(一六)刷版クリーニング・シリンダーの洗浄方法(第三段階) 被告が、昭和五〇年(一九七五年)に、ショート・インキング装置を導入した際、原告は、刷版クリーニング・シリンダーのコーティング剤の配合を変更した。ところで、原告は、被告に対し、東京において、右配合についての別紙目録(二)の(一六)記載の情報を提供し、サンプルを渡した。右情報は、秘密技術情報に当たる。
(一八)機械的強度の優れた凹版印刷用刷版を作成するための電着方法 原告は、被告に対し、昭和五〇年(一九七五年)、技術文書(甲九〇、
九三)及び図面(甲九一、九二)を交付した。右各技術文書及び各図面に記載された別紙目録(二)の(一八)記載の情報は、秘密技術情報に当たる。
(一九)高い耐熱性と耐久性を有するワイピング・シリンダコーティング用新配合に関する情報 原告は、被告に対し、昭和五一年(一九七六年)、ワイピング・シリンダコーティング用新配合に関する技術情報についての最終書類である技術仕様書・取扱説明書(甲八〇)を提供、開示した。右書類に記載された別紙目録(二)の(一九)記載の情報は、秘密技術情報に当たる。
(二〇)印刷のすべての段階において、各シートの端に印刷されたバーコードにより機械的に各シートを追跡するシステム 原告は、被告に対し、昭和五二年(一九七七年)五月、追跡システムに関する報告書(甲九五)を送付した。なお、被告からは、同年九月二五日、原告にあてて、右報告書は有用であり、右システムに極めて興味がある旨の返書が出されている(甲九六)。右報告書に記載された別紙目録(二)の(二〇)記載の情報は、秘密技術情報に当たる。
(二一)残余ワイピング液の処理に関する方法並びにそれに関連する装置の設置方法 原告は、被告に対し、昭和五二年(一九七七年)、技術仕様書(甲九七)を送付、開示した。右技術仕様書に記載された別紙目録(二)の(二一)記載の情報は、秘密技術情報に当たる。
(二二)真鍮製オフセット刷版の製作方法 原告は、被告に対し、昭和五二年(一九七七年)、説明書(甲一二はその表紙である。)を交付、開示した。右説明書に記載された別紙目録(二)の(二二)記載の情報は、秘密技術情報に当たる。
(二三)銅を用いることなく凹版印刷用のマスタプレートを製作する方法 原告は、被告に対し、昭和五二年(一九七七年)一〇月、原告のリサーチセンタにおいて、銅を用いることなく凹版印刷用のマスタプレートを製作する方法に関する情報を開示した。別紙目録(二)の(二三)記載の情報は、秘密技術情報に当たる。
(二五)刷版クリーニング・シリンダーの洗浄方法(第四段階) 原告は、被告に対し、昭和五一年(一九七六年)、説明書(甲六七)を提出し、ジェット・スプレーを用いた刷版クリーニング・シリンダーの洗浄方法に関する情報を提供した。右説明書に記載された別紙目録(二)の(二五)記載の情報は、秘密技術情報に当たる。
(二八)インタリオセット方式 原告は、被告に対し、昭和五〇年(一九七五年)から昭和五四年(一九七九年)にわたり、図面及び最終刷り上がり見本(甲七四)及び説明書(甲七六)等を提出し、インタリオセット方式に関する情報を提供、開示した。別紙目録(二)の(二八)記載の情報は、秘密技術情報に当たる。
(三〇)物理的な接触を伴わず電子的なプリコントロールによってナンバリングヘッド及びナンバリングホイールの連続的な切換えを検査するシステム 原告は、被告に対し、昭和五四年(一九七九年)、システムに関する情報を開示した。別紙目録(二)の(三〇)記載の情報は、秘密技術情報に当たる。
(三一)凹版印刷用プラスチック製型を高周波溶接によって組立てる方法 原告は、被告に対し、昭和五七年(一九八二年)、技術資料(甲一〇九)を提示し、組立方法に関する情報を提供、開示した。別紙目録(二)の(三一)記載の情報は、秘密技術情報に当たる。
(三二)銅メッキされた凹版印刷用スリーブに画像を移すための自動トランスファ装置の構造 原告は、被告に対し、昭和五七年(一九八二年)、説明書(甲一一〇、
一一一)を開示した。右説明書に記載された別紙目録(二)の(三二)記載の情報は、秘密技術情報に当たる。
(被告の反論) 原告が、被告に対し、秘密技術情報を開示したとの主張に対する被告の反論は、別紙「被告の反論」記載のとおりである。被告の反論を要約すると、以下のとおりである。
(一)シムルタン印刷方式 オルガニザシオンが被告に対し、シムルタン印刷機の販売時に、同印刷機に関する資料の一部(甲七〇)を提供、開示したこと、シムルタン印刷機(Type:3/2 TOV)自体に存在する技術情報並びに説明書及び図面(甲七〇の一ないし四)に記載された技術情報が秘密技術情報に当たることは否認する。印刷局は、説明書及び図面(甲七〇)を誰からも受領したことはない(シムルタン印刷機関係)。
原告が、印刷局製造部長である【P16】に対し、図面(甲七四)を提供、開示したこと、図面(甲七四)に記載された技術情報が秘密技術情報に当たることは否認する(改良型シムルタン印刷機関係)。
(二)二枚の刷版により印刷する凹版カラー印刷機 オルガニザシオンが、被告に対し、凹版カラー印刷機に関する技術情報を提供したこと、凹版カラー印刷機(インタリオカラー印刷機3/OLgV)自体に含まれる技術情報及び図面(甲八四)に記載された技術情報が秘密技術情報であることは否認する。
(三)四枚の刷版により印刷する凹版カラー印刷機 オルガニザシオンが、被告に対し、図面(甲八五)を提供したことは否認する。被告は、図面(甲八六)を全く知らず、その開示を受けたことはない。右凹版カラー印刷機自体に含まれる技術情報並びに図面(甲八五、八六)に記載された技術情報が秘密技術情報に当たることは否認する。
(五)ドライオフセット用真鍮製刷版の製造方法 オルガニザシオンが、被告に対し、昭和三八年に、ドライオフセット用刷版の製造方法に関する説明書(甲八七)を開示したこと、別紙目録(二)の(五)記載の技術情報が秘密技術情報に当たることは否認する。
(七)ニッケルサルファメイト電着についての新たに開発された技術 原告の主張はすべて否認する。甲八八の説明書に硫酸ニッケルの電着についての新たに開発された技術が記載されているとはいえない。
(八)ガラス及び金属上に機械的に彫刻を行う技術 原告の主張はすべて否認する。
(九)ニッケルサルフェート又はニッケルサルファメイト浴を浄化することによってニッケル銅製凹版印刷刷版のピットを防止する方法 原告の主張はすべて否認する。
(一一)刷版クリーニング・シリンダーの洗浄方法(第一段階) 原告の主張はすべて否認する。
(一二)刷版クリーニング・シリンダーの洗浄方法(第二段階) 原告の主張はすべて否認する。
(一三)プレワイピング 原告の主張はすべて否認する。
(一五)ショート・インキング 原告の主張はすべて否認する。ショート・インキングの技術は、むしろ、印刷局が開発し、【P17】(以下「【P17】」という。)、【P16】が、原告に対し、教示した技術である。
(一六)刷版クリーニング・シリンダーの洗浄方法(第三段階) 原告の主張はすべて否認する。
(一八)機械的強度の優れた凹版印刷用刷版を作成するための電着方法 原告の主張はすべて否認する。
(一九)高い耐熱性と耐久性を有するワイピング・シリンダコーティング用新配合に関する情報 原告の主張はすべて否認する。
(二〇)印刷のすべての段階において、各シートの端に印刷されたバーコードにより機械的に各シートを追跡するシステム 原告の主張はすべて否認する。印刷局は書簡(甲九五)に添付された報告書を受領していない。なお、各書簡(甲九四ないし九六)は、【P16】と原告ないしは【P14】との間の個人的な書簡である。
(二一)残余ワイピング液の処理に関する方法並びにそれに関連する装置の設置方法 原告の主張はすべて否認する。
(二二)真鍮製オフセット刷版の製作方法 原告の主張はすべて否認する。
(二三)銅を用いることなく凹版印刷用のマスタプレートを製作する方法 印刷局製造部長であった【P16】が、昭和五二年一〇月、原告のリサーチセンタを訪問したことは認める。原告が、別紙目録(二)の(二三)記載の技術情報を開示したこと、右情報が秘密技術情報に当たることは、いずれも否認する。
(二五)刷版クリーニング・シリンダーの洗浄方法(第四段階) 原告の主張はすべて否認する。
(二八)インタリオセット方式 原告の主張はすべて否認する。
(三〇)物理的な接触を伴わず電子的なプリコントロールによってナンバリングヘッド及びナンバリングホイールの連続的な切換えを検査するシステム 原告の主張はすべて否認する。
(三一)凹版印刷用プラスチック製型を高周波溶接によって組立てる方法 原告の主張はすべて否認する。被告は、技術資料(甲一〇九)を受領していない。
(三二)銅メッキされた凹版印刷用スリーブに画像を移すための自動トランスファ装置の構造 被告は、右装置を購入したことも、使用したこともない。また、別紙目録(二)の(三二)記載の情報の開示を受けたこともない。
3 被告は、秘密保持義務に反する行為をしたか。
(原告の主張) 印刷局は、昭和三九年、小森をして、オルガニザシオンから納品されたシムルタン印刷機及びインタリオカラー紙幣印刷機を分解させ、シムルタン及びインタリオカラー印刷機を模倣した紙幣印刷機を製造させた。小森は、昭和四〇年以降、南米、極東等において、原告の紙幣印刷機を模倣した印刷機である「CURRENCY Lー832」(以下「Lー832」という。)、「CURRENCY Iー332」(以下「Iー332」という。)及び「マルチT」(以下、これらをあわせて「小森印刷機」という。)を販売しようとした。
小森印刷機は、以下のとおり、構成や全体的な配置において、原告が被告に情報提供した「スーパーシムルタンU」、「スーパーインタリオカラー」ないし「AS121」と類似している。このような類似性に照らすと、被告は、原告から開示された秘密技術情報を小森に開示、漏泄して、前記秘密保持義務に反する行為をしたことが明らかである。
(一) Lー832とスーパーシミュルタンUとの類似性 Lー832は、別紙図面一のとおりであり、スーパーシミュルタンUは、別紙図面二のとおりである。
両者は、技術上の重要な点について、以下のとおり、共通の特徴を備えている。
@ 同一径のゴム胴が用いられ、シートがゴム胴間を通過する際にシートの両面に多色印刷される。
A 各ゴム胴に関して複数個の版胴が設けられている。各ゴム胴に対して四個のドライオフセット又はウェットオフセット用版胴が設けられ、三個の版胴は夫々二つのインキダクトを備えた三個のインキング装置と接触し、四番目の版胴(図面上で上方)は一個のインキングを備えた一つのインキング装置と接触している。
B スインググリッパーが用いられている。
C 一対のシートスタッカーを備え、また、シート検査用シートサンプリング装置を備えている。
D チェーングリッパー装置が一方のゴム胴の下方からシートスタッカーの上方まで延びている。
E 給紙トランスファシリンダにナンバリング装置が配置されている。
F 給紙トランスファシリンダに一対のシートクリーナが設けられている。
G 八個の各インキング装置が加湿装置(ウェットオフセット印刷の場合)を備えている。
(二) Iー332とスーパーインタリオカラーとの類似性 Iー332は、別紙図面三のとおりであり、スーパーインタリオカラーは、別紙図面四のとおりである。
両者は、技術的に重要な点において、以下のとおり、共通する特徴を備えている。
@ 版胴の刷版を拭くためのワイピング装置が設けられている。
A 版胴の刷版に着肉するための複数個のショート・インキング装置が設けられている。
B スインググリッパーが用いられている。
C 一対のショートスタッカーが備えられ、また、シート検査用シートサンプリング装置が備えられている。
D チェーングリッパー装置が圧胴の側方からシートスタッカーの上方まで延びている。
E 排紙中にシートを支持するための空気吹出し装置が備えられている。
F シートスタッカーの自動切換が備えられている。
(三) マルチTとAS121との類似性 マルチTは、別紙図面五のとおりであり、AS121は、別紙図面六のとおりである。
両者は、技術上重要な次の点について、以下のとおり、共通の特徴を備えている。
@ オフセット印刷用ゴム胴と凹版印刷用版胴に対して夫々別個の圧胴が設けられている。
A オフセット印刷用圧胴と凹版印刷用圧胴間に渡し胴が挿入されている。
B 凹版印刷用版胴の刷版に対してワイピング装置が設けられている。
C 凹版印刷用版胴の刷版に対して複数個のショート・インキング装置が設けられている。
D オフセット印刷用の四個のインキング装置が夫々一個のインキダクトを備えている。
(被告の反論) 印刷局が、小森に対し、レイボルド機工から納品された各印刷機の点検・修理等を実施させたことは認める。印刷局は、レイボルド機工、オルガニザシオン及び各メーカーの何れからも、点検・修理先等を制限されていなかったので、通常の入札手続に従って、小森その他の複数業者に修理をさせた。その余の主張は否認する。小森は、いずれも公知の技術を使用して、小森印刷機を製造した。
4 損害額はいくらか。
(原告の主張) 原告は、被告の秘密保持義務違反により本件訴訟を提起せざるを得なくなり、以下のとおりの損害を被った。
@ スイス、ドイツ、日本において発生した弁護士・法律顧問の費用及び報酬 一一八万九五一五・二四スイスフラン A スイス及び日本において発生した弁理士・技術士費用及び報酬 一六万二二〇五・〇八スイスフラン B 通訳費用及び報酬 二六万四二二二・五五スイスフラン C 原告の役員、従業員による準備等に関して発生した経費 六五万三一一六・八〇スイスフラン (被告の反論) 原告の主張は争う。
5 本件訴えは、不適法か。
(被告の主張) 請求の趣旨第一項ないし第三項に係る本件訴えは、被告が秘密保持義務を負う秘密技術情報につき、具体的な特定がされておらず、訴訟物の特定が欠けているので、不適法な訴えである。
請求の趣旨第四項の損害賠償を求める訴えは、我が国において強制通用力のない外貨の支払を求めるものであるから不適法である。
争点に対する判断
一 はじめに 原告は、被告が本件技術情報について秘密保持義務を負担する根拠として、(1)契約、(2)不正競争防止法の趣旨、(3)信義則、(4)覚書を挙げる。
それぞれの根拠が、独立した請求原因としての主張であるのか、他の請求原因を補強するための主張であるのかは必ずしも明らかでない。しかし、その点はさておき、以下、「被告が原告その他から本件印刷機を購入した前後の経緯」、及び「原告が被告に秘密技術情報を開示したか否か、開示したとした場合の技術内容、
性質等」を認定、判断し、右認定事実を基礎に、原告の主張する四つの根拠によって被告が秘密保持義務を負担するに至ったかを検討する。
そして、後に詳細に判断するとおり、(1)については、原告(原告が地位を承継したとする者)及び被告との間において、秘密保持契約を締結した事実はない等、(2)については、平成二年改正前の不正競争防止法を根拠に、被告が秘密保持義務を負うことはない、(3)及び(4)については、原告が開示した技術情報の性質、内容に照らして、被告が秘密保持義務を負うとはいえない等の理由から、原告の主張は、いずれも採用の限りでない。
二 事実経緯 1 本件印刷機を購入した前後の経緯について 前記第二、一の事実、証拠(甲一、三ないし八、一〇ないし二七、二九ないし三八、四〇ないし四二、四四、四五、六三、七一、九四ないし九六、一七〇ないし一七六、乙五七、六五、六七、七〇、七一、七三、一〇七、一九三ないし一九五、二六六ないし二六八、二七〇、二七一)及び弁論の全趣旨によると、以下の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない(証拠を各箇所で重ねて摘示する場合がある)。
(一) 印刷局は、昭和三二年(一九五七年)六月に、レイボルド機工から、
五色のオフセット印刷用のシムルタン印刷機一台を(昭和三三年納入)、また、日本銀行券等の需要の増大に伴う五か年長期事業計画に基づいて、昭和三五年(一九六〇年)から昭和四一年(一九六六年)の間に、レイボルド機工から、右シムルタン印刷機一〇台、三色の凹版印刷用のインタリオカラー双プレート印刷機一台及びインタリオカラー四プレート印刷機一二台、二色の番号付け用のニューメロータ印刷機一二台の紙幣印刷機を、さらに、昭和三六年(一九六一年)から昭和三九年(一九六四年)の間に、東西商事から、エンジニアリング社の紙幣印刷機二七台を、それぞれ購入した。
印刷局がレイボルド機工から購入した印刷機は、いずれも、ジオリ機構が開発し、ケーバウ社が製造した印刷機であり(甲六三、七一)、このうち、「シムルタン印刷機」には、レイボルド機工及びケーバウ社の会社名のプレートが貼付されるとともに、「KOEBAUーGIORI SIMULTAN」と表示され、
「インタリオカラー印刷機」には、右二社の会社名のプレートが貼付されるとともに、「KOEBAU/GIORI」と表示されていた(乙六五)。
印刷局がレイボルド機工から購入したインタリオカラー印刷機には、レイボルド機工がシモン、エバース アンド カンパニー有限会社から調達したものが含まれており、作業文書も同社からレイボルド機工を経由して印刷局へ引き渡された(乙六七)。
なお、本件印刷機に関する契約書には、秘密保持義務を明示した条項がないのみならず、これを窺わせる条項も存在しない。
(二) ところで、ケーバウ社は、ドイツ政府に、日本の印刷局が小森をして、KOEBAUーGIORIシムルタン印刷機の模造品を製造させていると申し立てた。これを受けて、ドイツの在日大使館は、被告に対し、昭和三九年(一九六四年)六月三日付書面によって、抗議をした(甲一六)。
被告は、ドイツ在日大使館に対して、印刷局は、長期計画に沿って、ケーバウ社製のシムルタン印刷機を毎年購入しているが、昭和三六年(一九六一年)は、四台納入されるべきところ一台も納入されなかったため、やむを得ず、小森に対して印刷機の発注をしたこと、小森の製造に係るドライオフセット印刷機は、小森独自の設計によるものであり、シムルタン印刷機の模倣でない旨を回答した(乙七一)。
(三) さらに、ケーバウ社は、昭和四〇年(一九六五年)七月一日付電報で、小森に対し、同社が製造する紙幣印刷機がKOEBAU/GIORI紙幣印刷機の模倣であるとして、その販売の差止め等を求め、同日付けで、印刷局の製造部長である【P17】に対しても、被告(印刷局)が小森をして模倣品を輸出させないように求めた(甲一、一七)。
印刷局は、ケーバウ社からの抗議を受けて、小森に対して、ケーバウ社の印刷機の模倣(偽造)であるとの誤解を与える印刷機の製造を禁止した。また、
【P17】は、同月五日付書面で、ケーバウ社に対し、その旨伝えるとともに、右抗議の前に、既にラテンアメリカ諸国への輸出を禁止する指導措置を採った旨を回答した(甲三)。小森も、ケーバウ社からの抗議、印刷局からの指導を受けて、同月一二日付電報で、ケーバウ社に対し、ラテンアメリカ向けの紙幣印刷機の国際公開入札には応札しないこと、小森の紙幣印刷機のどの部分が模倣であるのかという問題点が明らかになるまで、その印刷機を製造しない旨を回答した(甲四、六)。
(四) 原告は、印刷局局長に対し、同月一五日付けの書面で、小森が印刷機を日本国外で販売することを禁止するように申入れをし、右書面中に、「最初の契約の話し合いの場において、オルガニザシオン及びエンジニアリング社から、日本において当該印刷機のコピー又は類似品の製造を禁止する趣旨の条項を入れたい旨の意向を示したところ、印刷局の局員が、そのような心配は無用であると保証した」あるいは「昭和四〇年の初めころ、【P17】は、原告に対し、小森が原告によって供給された印刷機をすべて検査して、小森の旧印刷機を更新しているが、これらの印刷機は、印刷局の指示によって、印刷局のためにのみ製造させ、海外において販売されることはない旨説明した」という趣旨を記載した(甲五)。小森は、
被告の指導を受けて、原告に対し、同年七月二六日付書面で、右ケーバウ社あての電報と同趣旨の回答をした(甲七)。
なお、ケーバウ社は、小森に対し、同年八月二日付書面で、右同年七月一二日付電報による回答は、ケーバウ社の要求を充たしていない旨抗議している(甲一八)。
(五) 印刷局と原告ないしオルガニザシオンとは、紙幣印刷機の取引を契機として、人的ないし技術的な交流を続けるようになった。例えば、昭和三九年(一九六四年)一月、印刷局の局員二名が、オルガニザシオンの招待により、ヨーロッパのオルガニザシオンの研修センターを訪問するなどした(甲二〇)。また、【P14】らが来日して印刷局を視察したり、原告と製造部長であった【P17】や【P16】とは、書簡を交換したり、印刷技術についての情報提供や意見交換、プロジェクトに関する協議を行ったりした(甲二一、二三、二四、二七、二九ないし三六、三八、四〇ないし四二、四四、四五、九四ないし九六、一七〇ないし一七六、乙五九、七〇、七三、一〇七、一九三ないし一九五)。
(六) 原告は、印刷局に対し、昭和四〇年(一九六五年)八月三一日付で、
【P17】ら二名の局員を、欧米における有価証券等の印刷技術についての研修に招待した(甲一九)。印刷局は、右招待に応じ、職員を派遣することにしたが、これに関連して、業務部長である【P15】は、原告に対し、同年九月二七日付けの本件覚書を送付した。本件覚書の記載内容は、次のとおりである。(甲八) 「スイス国ド・ラ・リュー・ジオリ・エス・アーあて 日本国大蔵省印刷局発 覚書 @ 公用で外国を訪問する当局の職員は誰でも、その行動を当局の任務に寄与すると考えられるものだけに制限することが要求されます。したがって、このようにして当該職員が取得した知識や情報は、当局内部に限って使用されます。
A 当該職員が、機密扱いされるべき貴社の印刷機及び装置に関して取得した情報は、いずれも、当局自身によって既に開発されたものを除いて、貴社の事前の同意なしに開示されることはありません。
B 貴社と当局との間の協力の下に開発された機械及び装置に関する機密情報は、いずれも、自分自身のために使われる場合を除いて、いずれの側からも、相互の同意なく第三者に開示されることはありません。
局長に代わり: (署名)【P15】 【P15】、業務部長」 (七) 原告は、【P17】に対し、昭和四一年(一九六六年)二月四日付書面において、海外研修において【P17】らが取得した知識は、秘密として守り、
原告の競争相手に開示してはならないことの確認を求めた(甲一〇)。これに対して、【P17】らは、原告に、同月一六日付書面で、本件覚書の精神に従って右要求を承認すると回答した(甲一一)。
【P17】らは、同年三月ころ、アメリカとヨーロッパへ赴き、ミラノ所在の原告の研修所等を視察したり、原告代表者であった【P14】から新しい印刷機、印刷技術等について説明を受けるなどした(甲一二、二二)。
(八) 原告は、【P17】にあてた同年六月二八日付書面で、小森が再度、
極東及びラテン・アメリカ諸国において、シムルタン及びインタリオカラー印刷機に依拠した紙幣印刷機の販売活動を開始したため、印刷局がこれを制止するよう求めた(甲一三)。これに対し、【P17】は、同年七月一七日付書面で、原告に対し、印刷局は本件覚書に従って行動しており、小森はそのような活動を企図していない旨回答した(甲一四)。
また、ケーバウ社は、日本の企業がフィリピンで、銀行券印刷機を販売しようとしているので制止するようにと警告した。これに対し、【P17】は、昭和四二年(一九六七年)一月二七日付書面で、ケーバウ社に、印刷局は本件覚書に従って行動しており、小森はそのような活動を企図していない旨回答した(甲一五)。
(九) 原告は、昭和四四年(一九六九年)及び昭和四八年(一九七三年)ころ、印刷局に対し、技術提携の申入れをしたが、印刷局はいずれも拒否した(乙二六六ないし二六八、二七〇、二七一)。
原告は、昭和四八年(一九七三年)二月、印刷局を訪れ、製造部長である【P16】に対し、無償でノウハウの提供、技術者の派遣等を行うことを申し出た。また、原告は、印刷局に対して、現在又は将来にわたって提供したすべての情報、デザイン、ノウハウ等は印刷局内のみで使用し、原告の承諾を得ることなく他に利用しないことの確認を求めようとしたが、その旨の書面は作成されていない(甲二五)。
なお、昭和四二年以降、被告が原告から印刷機を購入したことはなかった(弁論の全趣旨)。
(一〇) 印刷局は大蔵省に設置された印刷業務を行う機関である。その所掌事務には、@日本銀行券、紙幣、国債、印紙、郵便切手、郵便はがきその他証券類及び印刷物を製造すること、A官報、法令全書、広報宣伝資料等の政府刊行物を編集、製造及び発行すること、B印刷局の業務上必要な用紙を製造すること、Cすき入紙の製造の取締を行うことが挙げられる。印刷局は、所掌事務の遂行に直接必要な業務資材、事務用品、研究用資材等を調達すること等の権限を有する(昭和四〇年当時施行に係る大蔵省設置法16条1項、二項、4条4号(乙三の一及び二、四の一及び二))。また、印刷局の所掌に係る支出負担行為に関する事務を管理するのは、昭和二二年以降昭和五二年六月三〇日までは印刷局長であり、その所掌に係る売買、賃貸、請負その他の契約に関する事務を管理するのは、昭和三六年以降昭和五二年六月三〇日までは印刷局長であった。なお、現在、右権限は印刷局総務部長が有する(乙七、九の一ないし三、六一の三)。
2 原告の被告への秘密技術情報開示の有無、技術の内容、性質等 証拠(各箇所で摘示する。)によれば、以下の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない(なお、各認定事項に付した番号には、欠番としたものがある。)。
(一) シムルタン印刷方法 まず、シムルタン印刷機について、被告は、シムルタン印刷機(Type:3/2 TOV)を購入した際、レイボルド機工から、右印刷機に関する取扱説明書及び各図面(甲七〇の一ないし六)ないしはこれに類する資料を交付されたことが認められる(乙七五)。
しかし、シムルタン印刷機は、昭和三九年(一九六四年)にドイツ国内で発行された定期刊行物に紹介され、その中には印刷機の構造を示す略図とその説明も掲載されているが、右略図は甲七〇の三の側面図に示された印刷機の構造とほぼ同一である(乙一九の一ないし三)。また、シムルタン印刷機とスーパーシムルタン印刷機及びスーパーシムルタンU印刷機とは基本的な構造がほぼ同じであるが、顧客に頒布されるカタログと窺われるスーパーシムルタン印刷機のカタログ及びスーパーシムルタンU印刷機のカタログには、その構造の概略を示す図面が掲載されている(甲七〇、一五一、乙七四)。右の事実に照らすならば、シムルタン印刷機(Type:3/2 TOV)自体に存在する技術情報並びに説明書及び各図面(甲七〇の一ないし四)に記載されている技術情報は、オルガニザシオンが秘密として管理し、秘密として保護される技術情報ということはできない。なお、被告は、右印刷機を購入するに当たり、オルガニザシオンやレイボルド機工と、秘密保持義務の合意をしていたと認定することはできない。
次に、改良型シムルタン印刷機について、印刷局の局員が昭和五三年に寄稿した論文に、甲七四の図面とほぼ同一の図面が掲載されていることが認められる(甲七五)。改良型シムルタン印刷機(スーパーシムルタン印刷機)は昭和四八年(一九七三年)には販売が開始され、顧客に頒布された右印刷機の宣伝用のカタログにもほぼ同一の図面が掲載されていることに照らすならば(甲一六四、乙七四)、右論文の掲載の事実をもって、原告から印刷局に、図面(甲七四)が開示、
提出されたと認定することはできない。また、右のとおり、甲七四と同様の図面がカタログに掲載されていることから、右図面に記載された技術情報が秘密として管理されていた技術情報であると認めることもできない。
(二) 二枚の刷版により印刷する凹版カラー印刷機 被告は、レイボルド機工から、凹版カラー印刷機(インタリオカラー印刷機3/OLgV)を購入し、右印刷機の取扱説明書及び図面として甲八四と同様の資料(乙七六)を受領したこと、右図面には、複写及び第三者への開示を禁じる旨記載されていることが認められる(乙六七)。
しかし、昭和二九年に日本国内で発行された雑誌には、「ケーバウ・ジオリ3色凹版印刷機」の構造の略図及び概要が掲載、説明され、その構造は、別紙(二)の(二)記載の凹版カラー印刷機の特徴ないし取扱説明書及び図面(甲八四)によって示される構造と、その主要部分において共通している(乙四〇の一及び二)。また、昭和三九年(一九六四年)にドイツ国内で発行された雑誌には、インタリオカラー印刷機の写真及び構造の略図が掲載され、その構造が説明されている(乙一九の一ないし三)。右事実に照らすならば、凹版カラー印刷機(インタリオカラー印刷機3/OLgV)自体に含まれる技術情報及び取扱説明書及び図面(乙七六)に記載された技術情報は、オルガニザシオンが秘密として管理し、秘密として保護される技術情報ということはできない。なお、被告は、右印刷機を購入するに当たり、オルガニザシオンやレイボルド機工と、秘密保持義務の合意をしていたと認定することはできない。
(三) 四枚の刷版により印刷する凹版カラー印刷機 被告は、凹版カラー印刷機(インタリオカラー印刷機3/0LgV/4)を購入した際、レイボルド機工から、右印刷機の図面(甲八五)ないしはこれに類する図面を交付されたことが認められる。なお、被告が、図面(甲八六)につき開示を受けたことを認めるに足る証拠はない。
しかし、二枚の刷版により印刷する凹版カラー印刷機と四枚の刷版により印刷する凹版カラー印刷機とは、基本的な構造において共通する部分が多い。また、スーパーインタリオカラーの販売促進用のカタログにその構造を示す図面が掲載され、右図面は甲八六の図面と共通する点が多い(甲一五三、乙七七)。右事実に照らすならば、凹版カラー印刷機(インタリオカラー印刷機3/0LgV/4)自体に含まれる技術情報及び各図面(甲八五、八六)に記載された技術情報は、オルガニザシオンが秘密として管理し、秘密として保護される技術情報ということはできない。なお、被告は、右印刷機を購入するに当たり、オルガニザシオンやレイボルド機工と、秘密保持義務の合意をしていたと認定することはできない。
(五) ドライオフセット用真鍮製刷版の製造方法 印刷局の技術者が、昭和三六年、シムルタン印刷機用の刷版の製造方法を調査等するためにヨーロッパへ派遣されたことが認められる(甲六三)。 しかし、オルガニザシオンから被告の技術者に対して、説明書(甲八七)ないし別紙目録(二)の(五)記載の技術情報が開示されたと認めるに足る証拠はない。また、
原告の主張に係る別紙目録(二)の(五)記載の技術情報は、プレート表面上に直接レジスト層を三層形成し、エッチング処理を行った後にレジスト層を除去するという工程を三回繰返す技術であるのに対し、説明書(甲八七)に記載されている製造方法は、プレート表面上にレジスト層を三層形成し、第一回のエッチングの後さらにレジスト層を形成し、その後エッチング処理を行ってからレジスト層を除去する工程を三回繰返す技術であり、それぞれの技術は相互に相違する。したがって、
原告から被告の技術者に対して説明書(甲八七)が開示されたという原告の主張を前提としても、なお別紙目録(二)の(五)記載の技術情報が提供されたということはできない。さらに、刷版の製造方法に関する特許(米国特許第二三三一七七二号)の明細書において、金属印刷プレートの表面に二つ又は三つ以上の異なる被覆材料からなる重ね焼き画像を形成し、その後エッチングを行う度に各画像を除去するという製造方法が開示されていること(乙七九)、金属の印刷プレートとしては真鍮が公知の材料であること(乙八一)に照らすと、同目録(五)記載の技術情報は、秘密として管理し、秘密として保護される技術情報ということはできない。
(七) ニッケルサルファメイト電着についての新たに開発された技術 原告又はオルガニザシオンが被告に対し、説明書(甲八八)を開示、提供し、別紙目録(二)の(七)記載の技術情報を提供したことを認めるに足る証拠はない。
(八) ガラス及び金属上に機械的に彫刻を行う技術 原告又はオルガニザシオンが被告に対し、技術文書(甲八九)を開示、
提供し、別紙目録(二)の(八)記載の技術情報を提供したことを認めるに足る証拠はない。
また、同目録(八)記載の技術情報の主要部分は、レリーフ彫刻機に一般的な技術であり(甲一四九の一)、また、技術文書(甲八九)はレリーフ彫刻機モデルCVに関する内容が記載されていること、他方、他の製造業者の発行に係るカタログにも、レリーフ彫刻機タイプCVの説明として、右技術文書における説明の大半が記載されていること(乙二三)が認められ、右事実に照らすと、右技術情報は、原告及びオルガニザシオンが秘密として管理し、秘密として保護される技術情報ということはできない。
(九) ニッケルサルフェート又はニッケルサルファメイト浴を浄化することによってニッケル銅製凹版印刷刷版のピットを防止する方法 原告又はオルガニザシオンが被告に対し、別紙目録(二)の(九)記載の技術情報を提供したことを認めるに足る証拠はない。
(一一) 刷版クリーニング・シリンダーの洗浄方法(第一段階) 原告又はオルガニザシオンが被告に対し、図面(甲六四)と同様の図面を開示、提出し、別紙目録(二)の(一一)記載の技術情報を提供したことを認めるに足る証拠はない。
また、別紙目録(二)の(一一)記載の技術情報のうち、クリーニングシリンダのコーティング剤に関しては、【P14】により特許出願されていることが認められる(特公昭五一ー四四四四二、乙二〇二)。右事実に照らすと、同目録の(一一)記載の技術は、原告及びオルガニザシオンが秘密として管理し、秘密として保護される技術情報ということはできない。
(一二) 刷版クリーニング・シリンダーの洗浄方法(第二段階) 原告が被告に対し、各図面(甲六五、六六)を開示し、別紙目録(二)の(一二)記載の技術情報を提供したことを認めるに足る証拠はない。
(一三) プレワイピング 原告又はオルガニザシオンが被告に対し、技術仕様書・取扱説明書(甲八〇)を提供し、別紙目録(二)の(一三)記載の技術情報を提供したことを認めるに足る証拠はない。
また、右技術情報のうち、別紙目録(二)の(一三)2記載の技術については、【P14】が出願した特許(特公昭四四ー二一一八)の明細書に従来技術として記載されていること(乙四九)からすると、同目録(一三)記載の技術は、
原告及びオルガニザシオンが秘密として管理し、秘密として保護される技術情報ということはできない。
(一五) ショート・インキング 原告が被告に対し、各図面(甲六九の一ないし一四)を提供、開示し、
別紙目録(二)の(一五)記載の技術情報を開示したことを認めるに足る証拠はない。
また、印刷局において、昭和三六年ころから、ノンオフセット凹版インキの研究とともにショート・インキングの研究を行い、昭和四七年ころからショート・インキングの実用化を図っていたこと(乙五七、一七七ないし一八三、一八六、一八七)、及び原告が行った特許出願(特開昭五〇ー九〇八)の明細書には、
別紙目録(二)の(一五)記載の技術情報がほとんど開示されていること(乙五五)が認められる。右事実に照らすならば、同目録の(一五)記載の技術は、原告が秘密として管理し、秘密として保護される技術情報ということはできない。
(一六) 刷版クリーニング・シリンダーの洗浄方法(第三段階) 原告が被告に対し、別紙目録(二)の(一六)記載の技術情報を提供したことを認めるに足る証拠はない。
(一八) 機械的強度の優れた凹版印刷用刷版を作成するための電着方法 原告は被告に対し、図面(甲九二)と同様の図面(乙七二)を交付したことが認められる。しかし、各技術説明書及び各図面(甲九〇、九一、九三)が開示され、別紙目録(二)の(一八)記載の技術情報が提供されたこと、右各技術説明書及び各図面に、同目録(一八)の技術情報が記載されていることを認めることはできない。
(一九) 高い耐熱性と耐久性を有するワイピング・シリンダコーティング用新配合に関する情報 原告が被告に対し、技術仕様書・取扱説明書(甲八〇)を開示、提供し、別紙目録(二)の(一九)記載の技術情報を提供したことを認めるに足る証拠はない。
(二〇) 印刷のすべての段階において、各シートの端に印刷されたバーコードにより機械的に各シートを追跡するシステム 原告から【P16】あての書簡には、別紙目録(二)の(二〇)記載の技術と同様の技術に関する情報が記載された報告書が添付されている(甲九五)。
しかし、原告の出願した特許(特開昭五八ー一〇七三四一、特公平二ー五四二二五)に係る各明細書には、右報告書に記載された技術情報及び別紙目録(二)の(二〇)記載の技術情報のほとんどが開示されていることが認められる(乙二三五の一及び二)。右事実に照らすならば、同目録の(二〇)記載の技術は、原告が秘密として管理し、秘密として保護される技術情報ということはできない。
(二一) 残余ワイピング液の処理に関する方法並びにそれに関連する装置の設置方法 原告が被告に対し、技術仕様書(甲九七)を送付し、別紙目録(二)の(二一)記載の技術情報を提供したことを認めるに足る証拠はない。
(二二) 真鍮製オフセット刷版の製作方法 原告が被告に対し、説明書(甲一一二をその表紙とする書面、内容は明らかでない。)を交付し、別紙目録(二)の(二二)記載の技術情報を開示したことを認めるに足る証拠はない。また、(五)に記載したとおり、金属印刷プレートを二層の被覆材料で覆い、その後エッチングを行う度に各画像を除去するという製造方法が既に公開されていること、金属の印刷プレートとして真鍮が公知の材料であることなどからすると、同目録の(二二)記載の技術は、原告が秘密として管理し、秘密として保護される技術情報ということはできない。
(二三) 銅を用いることなく凹版印刷用のマスタプレートを製作する方法 原告が被告に対し、別紙目録(二)の(二三)記載の技術情報を提供したことを認めるに足る証拠はない。
(二五) 刷版クリーニング・シリンダーの洗浄方法(第四段階) 原告が被告に対し、説明書(甲六七)を提供し、別紙目録(二)の(二五)記載の技術情報を開示したことを認めるに足る証拠はない。
また、原告の出願による特許(特公昭五七ー二五三八九)の明細書に右技術情報が開示されていることに照らすならば(乙二三四)、同目録の(二五)記載の技術は、原告が秘密として管理し、秘密として保護される技術情報ということはできない。
(二八) インタリオセット方式 原告が被告に対し、図面及び説明書(甲七四、七六)を提供し、別紙目録(二)の(二八)記載の技術情報を開示したことを認めるに足る証拠はない。原告から【P16】に対する昭和五二年(一九七七年)二月一五日付けの書簡に、インタリオセットのプレートの製造方法に関する記述を別送する旨の記載があるが(甲四〇)、これをもって原告主張の事実を認めることはできない。
(三〇) 物理的な接触を伴わず電子的なプリコントロールによってナンバリングヘッド及びナンバリングホイールの連続的な切換えを検査するシステム 被告は、レイボルド機工から、ニューメロータ印刷機を購入した際、右印刷機に関する図面(甲一〇六)の交付を受けたことを推認することができる。しかし、右図面には、「ホール素子を用いて」番号の切換えが行われたことを検出する技術について記載されていない。その他、原告が被告に対し、別紙目録(二)の(三〇)記載の技術情報を開示したことを認めるに足る証拠はない。
(三一) 凹版印刷用プラスチック製型を高周波溶接によって組立てる方法 原告が被告に対し、技術資料(甲一〇九)を提供し、別紙目録(二)の(三一)記載の技術情報を開示したことを認めるに足る証拠はない。原告から印刷局製造部部長【P18】あての昭和五七年(一九八二年)一一月一一日付書簡には、ハイ・フリークエンシー溶接の装置に関する書面を同封する旨の記載があるが(甲三三)、同封された書面の内容は明らかでない。のみならず、右技術資料(甲一〇九)は、高周波溶接プレスの説明書に過ぎず、原告主張に係る技術情報は記載がない。
(三二) 銅メッキされた凹版印刷用スリーブに画像を移すための自動トランスファ装置の構造 原告が被告に対し、自動トランスファ装置に関する説明書(甲一一〇、
一一一)を開示し、別紙目録(二)の(三二)記載の技術情報を提供したと認めるに足る証拠はない。
説明書(甲一一一)には、右装置による転写方法の概略を説明した図面が掲載されている。しかし、同一の図面が平成三年(一九九一年)五月に開催された欧州銀行券製造機関会議インキ製版委員会において発表された論文に掲載されていることに照らすと(乙一三一)、同目録の(三二)記載の技術は、原告が秘密として管理し、秘密として保護される技術情報ということはできない。
秘密保持義務発生の有無 前記認定した事実を前提として、被告が秘密保持義務を負担したとする原告の主張の当否について判断する。
1 契約に基づく義務について (一) 原告は、原告又はその前身から本件印刷機を購入したことにより、被告が、当然に秘密保持契約を締結したものと解すべきである旨主張する。
しかし、原告の右主張は、以下のとおり理由がない。すなわち、@本件印刷機に関して、被告が売買契約をした相手方は、レイボルド機工又は東西商事であって、(原告が地位を承継したとする)オルガニザシオン又はエンジニアリング社ではないので、被告とオルガニザシオン又はエンジニアリング社との間で、売買契約に付随する秘密保持契約を締結したと解することはできない。Aオルガニザシオンは被告に対し、本件印刷機や説明書等を引き渡すことに伴って、本件印刷機に含まれる何らかの技術情報を開示したことは推認されるが、本件印刷機の売買契約に当たって、特定の技術情報を秘密として保護すべきことを窺わせるに足りる交渉経緯、指示などはないので、本件において、売買契約に伴って当然に秘密保持契約を締結したと認めることはできない。
以下、この点を敷衍する。
(二) 先ず、被告が売買契約をした相手方は、オルガニザシオン又はエンジニアリング社ではないので、原告の主張は、その前提において失当である。
契約書上、本件印刷機に関する売買契約の当事者は、被告とレイボルド機工又は東西商事であって、オルガニザシオン又はエンジニアリング社ではない(甲六三、乙六三、六四)。確かに、被告がレイボルド機工から購入した「シムルタン印刷機」、「インタリオカラー印刷機」、「ニューメロータ印刷機」は、ジオリ機構が開発し、ケーバウ社が製造したものであり、また、被告が東西商事から購入した印刷機は、エンジニアリング社が製造したものであること、また、売買契約において、レイボルド機工又は東西商事は、右各製造業者から調達した本件印刷機を、被告の指定する工場内に設置、納品することとされ、印刷機の設置、納入のための協議にオルガニザシオン、エンジニアリング社の社員が同席したり、契約締結のための交渉に関与していたことが認められる(甲五)。しかし、右の事実をもって、被告が売買契約を締結した相手方が、契約書の記載と異なるオルガニザシオン又はエンジニアリング社であると認めることはできない。したがって、本件印刷機の契約当事者ではないオルガニザシオン又はエンジニアリング社(その承継者と主張する原告)に対して、被告が秘密保持義務を負担する旨の契約を締結したものと解することはできない。
(三) 次に、以下のとおりの理由から、被告が、本件印刷機の納入に当たり、オルガニザシオンらが開示した技術情報につき、黙示又は口頭で、秘密保持契約を締結したと認めることはできない。
一般に、売買の対象となる目的物に、売主のノウハウとして留保された秘密の技術情報が含まれている場合、売主がこれを買主に引き渡すと、その目的物に含まれている技術情報が漏泄されるおそれが生ずる。売主が、このような事態を回避するためには、目的物の引渡し等に先だって、包括的あるいは具体的に特定した技術情報を開示しないよう特約を締結することにより、買主に対して、その旨の義務を負担させることが必要であり、そのような特約を締結しない以上、売主は、
買主がその目的物に含まれる技術情報を第三者に開示することを防ぐことはできない。
ところで、前記認定のとおり、@本件印刷機に関する契約書には、秘密保持義務を明示した条項がないのみならず、これを窺わせる条項もないこと(乙六三)、A本件印刷機の販売に関して、販売者側(もっとも、被告と販売契約をした当事者がオルガニザシオン又はエンジニアリング社でないことは前記のとおりである。)の担当者と被告との間で、特定の技術情報について、販売者側に秘密の技術情報がノウハウとして留保されていることを前提として、交渉が進められたことを窺わせるに足りる事情は認められないこと、Bオルガニザシオンらが、本件印刷機の納入に当たって開示した技術情報は、オルガニザシオンが秘密として管理し、秘密として保護される技術情報ということはできないこと等、諸般の事実に照らすならば、被告が、黙示又は口頭で、秘密保持契約を締結したと解することはできない。
この点について、原告は、本件売買の目的物が銀行券等の印刷機械であること、購入者が国の通貨を発行する権限を有する機関であること、偽造防止の見地から技術情報の秘密を保持する必要性が強いこと等の特殊性から、契約書が作成されなくても当然に、被告が購入した印刷機に関する秘密の技術情報につき守秘義務を負う旨の契約が成立したとみるべきであると主張するが、そのような特殊性をもってしても、本件印刷機に包含されている技術情報が、オルガニザシオンが秘密として管理し、秘密として保護される技術情報ということはできないことからすれば、前記の認定を左右することにはならない。
2 不正競争防止法に基づく義務について 原告は、売買の目的物に売主のトレード・シークレットが含まれる場合、
不正競争防止法等の趣旨から当然に、買主である被告は、売主に対し右トレード・シークレットの秘密保持義務を負担すると解すべきであると主張する。
しかし、原告の右主張は、以下のとおり理由がない。
営業秘密に関しては、平成二年改正法によって、不正競争防止法上の保護規定がはじめて設けられ、平成二年改正法の施行前日(平成三年六月一四日)までに保有者から示された営業秘密や、これを開示する行為については、平成二年改正法の適用はない。原告主張に係る本件技術情報のうち、平成三年六月一四日以前に取得され、開示されたと主張されている技術情報については、被告が、改正前の不正競争防止法の下で、当然に、秘密保持義務を負担するということはない。また、
仮に、オルガニザシオン又はエンジニアリング社が、本件印刷機の製作に関与して、何らかのノウハウを保有していたとしても、@両社が、レイボルド機工及び東西商事に対して、本件印刷機に含まれる技術情報につき、秘密扱いとすべく指示等をしたり、秘密保持義務に関する書面を交わしたりするなどの秘密管理をしていたとの形跡は窺われないこと、Aオルガニザシオンらが、本件印刷機の納入に当たり開示した技術情報は、原告及びオルガニザシオンが秘密として管理し、秘密として保護される技術情報ということはできないこと等に照らすならば、原告主張に係る本件技術情報は、当然に保護されるべき営業秘密に該当するとはいえない。
3 信義則に基づく義務について 原告は、紙幣印刷機の製造業者と紙幣印刷機関という、原・被告間の特殊な関係に照らすならば、被告は、信義則上、原告から開示された秘密について、秘密保持義務を負担すると解すべきである旨主張する。
しかし、原告の右主張は、以下のとおり理由がない。
前記のとおり、印刷局が、レイボルド機工などから、本件印刷機数十台を継続的に購入して以来、印刷局と原告又はオルガニザシオンとの間には、人的ないし技術的交流が続いた。例えば、昭和三九年(一九六四年)一月、印刷局の職員二名が、オルガニザシオンの招待により、ヨーロッパの同社の研修センターを訪問したり、【P14】らが来日して印刷局を視察したり、直接ないしレイボルド機工を介して、原告と製造部長であった【P17】や【P16】との間で書簡の交換をしたりして、原告と印刷局又はその職員との間で、印刷技術についての情報提供や意見交換等が実施されたりした。確かに、印刷局とオルガニザシオン又は原告とは、
このような継続的な関係を保っていたこと、両者は、紙幣印刷機の製造又は販売業者と印刷機関という特殊な関係にあること等に照らすならば、両者が、共通の技術情報を保有し、第三者に開示しないことが有利であると相互に認識し、信頼することもあり得なくはない。しかし、そのような特殊な事情があったとしても、原告又はオルガニザシオンが被告に提供した技術情報は、原告及びオルガニザシオンが秘密として管理し、秘密として保護される技術情報ということはできないこと等の事実に照らすならば、原告と被告間で、書面による合意又は明示の合意がされなくても、信義則上当然に、被告が秘密保持義務を負担すると解すべきであるということはできない。
4 覚書に基づく義務について 原告は、被告の職員が欧米視察旅行をするに際して、被告業務部長が原告に対して送付した覚書により、被告は秘密保持義務を負担すると解すべきであると主張する。
しかし、原告の右主張は、以下のとおり理由がない。
前記のとおり、昭和四一年三月ころ、印刷局の職員である【P17】らは、有価証券等の印刷技術について研修するため、欧米に赴き、また、原告の研修施設を視察するなどした。そして、昭和四〇年九月二七日、業務部長である【P15】は、原告にあてて、右職員が原告の研修施設を視察することを前提として、印刷局の職員が研修で取得した原告の機密情報は、印刷局局内で使用し、事前の同意なく第三者に開示しないこと、原告と印刷局との共同開発に係る機密情報につき、
お互いの同意なく第三者に開示しないことを確認する旨の覚書を送付した(なお、
右研修は、印刷局及びその職員の技術向上に資するためのもので、正に業務の一環であるというべきであるから、印刷局長は、研修に関連して職員が得た秘密情報についてその保持義務を確認する権限を有するものというべきであり、さらに、業務部長である【P15】は、右印刷局長の権限を代理する権限を有するものと解するのが相当である。)そうすると、被告は、本件覚書により、@右研修に派遣された印刷局職員が取得した原告の機密情報、及びA原告と印刷局との共同開発に係る機密情報については、その限りにおいて、秘密保持義務を負担したとみるのが相当である。しかし、本件全記録によっても、原告が、右研修に関連した機密情報ないし共同開発に係る機密情報を、開示したことを認めることはできず、また、原告が被告に対して、何らかの技術情報を開示したことがあったとしても、その技術情報は、原告及びオルガニザシオンが秘密として管理し、秘密として保護される技術情報ということはできないことに照らすならば、原告主張に係る技術情報について、
被告が、本件覚書によって秘密保持義務を負担するものとはいえない。
四 結論 以上のとおり、本件技術情報はいずれも被告に提供、開示されたことが認められないか、あるいは、秘密として保護されるような内容を含んでいることが認められないので、原告主張に係る技術情報について、被告が秘密保持義務を負うということはできない。
また、原告は、印刷局が、小森をして、シムルタン印刷機及びインタリオカラー型紙幣印刷機を分解させ、シムルタン及びインタリオカラー印刷機を模倣した紙幣印刷機を製造させたことが不法行為に当たる旨主張するが、原告主張に係る技術情報について、被告が秘密保持義務を負担するといえない以上、原告の右主張は理由がないことになる。なお、被告は、請求の趣旨第一項ないし第三項に係る本件訴えは、訴訟物の特定が欠けていること、及び請求の趣旨第四項の損害賠償を求める訴えは、外貨の支払を求めるものであるから不適法である旨主張するが、いずれも採用しない。
以上のとおり、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がない。主文のとおり判決する。
追加
別紙目録(二)(一)シムルタン印刷方式に関する技術紙幣を印刷するためのドライ及び又はウェットオフセット印刷機において、
イ.互いに圧接されつつ互いに反対方向に回転する同一の径を有する一対のゴム胴を使用することロ.紙幣の表面および裏面の背景を構成する全ての色を夫々対応するゴム胴上に集めることハ.シートを一対のゴム胴間を通過させることによりシートの両面に前記背景を一度で印刷することニ.ゴム胴に向けてシートを送り込むために揺動するスインググリッパ装置を使用すること、又はゴム胴に向けてシートを送り込むために急速な回転と停止とを交互に繰り返すストップドラムを使用することホ.インタリオセット方式を前記オフセット印刷機に組込むことを特徴とする印刷方式(シムルタン印刷方式)に関して、
1.一九五八年原告が被告に提供したシムルタン印刷機(3/2TOV)に存する技術情報、並びにこの際に提供された「Type:3/2TOVSIMULTANOperatingInstructions」と題する取扱説明書、B.-05.101号図面、B.-05.121.5号図面、「Simultan3/2TOVBlatt:150」と題する図面、G.-05.174.1号図面及びB.-05.186.1号図面の記載内容たる技術情報2.一九七〇年、原告が被告に提供したG-06.006号図面の記載内容たる技術情報(二)二枚の刷版により印刷する凹版カラー印刷機(インタリオカラー印刷機)に関する技術圧胴に向けてシートを供給し圧胴と版胴間にシートを送り込んでシートの片面を凹版多色カラー印刷するようにした凹版カラー印刷機においてイ.圧胴と版胴間に向けてシートを送り込むために揺動するスインググリッパ装置を使用することロ.版胴に取付けられた刷版表面から余分なインキを取除くために版胴と接触しつつ回転するプレワイピング装置を使用することハ.版胴に取付けられた刷版表面から残りの余分なインキを取除くために版胴と接触しつつ回転するクリーニングシリンダの外周表面上にゼラチンをコーティングし、このクリーニングシリンダを版胴の周速度よりも速い周速度で版胴と同一方向に回転させ、このクリーニングローラをトリクロロエチレンで洗浄することニ.版胴にインキを供給するための複数のインキローラ列を夫々別個の駆動モータにより駆動することホ.印刷されたシートをシートスタッカーに搬送するためにチェーン搬送装置を使用することヘ.印刷を完了したシート間に中間紙を挿入するために中間紙供給装置を設けることを特徴とする印刷機(二段の刷版により印刷する凹版カラー印刷機)に関して、
一九六〇年原告が被告に提供したインタリオカラー印刷機(3/OLgV)に存する技術情報並びにこの際に提供された「Type:3/OLgVOperatingInstructions」と題する取扱説明書、G-05.149.0号図面、G-05.164.0号図面、B-05.190号図面、B-05.149.0号図面、及びB-05.215号図面の記載内容たる技術情報(三)四枚の刷版により印刷する凹版カラー印刷機(インタリオカラー印刷機)に関する技術ストップドラムを介して圧胴に向けてシートを供給し、圧胴と版胴間にシートを送り込んでシートの片面を凹版カラー印刷するようにした凹版カラー印刷機においてイ.シートを圧胴に移送して圧胴と版胴間で印刷を行うために急速な回転と停止とを交互に繰返すストップドラムを使用することロ.版胴に取付けられた刷版表面から余分なインキを取除くために、版胴と接触しつつ回転するクリーニングシリンダと、版胴と接触しつつ回転するプレワイピングシリンダとを使用することニ.版胴にインキを供給するインキローラ列において、ダクトローラを具えたインキダクトを用いると共に、一つの硬質ローラにインキを交互に移送する二つの振動体を用い、この硬質ローラがインキを二つのゴムローラに移送し、次いでこれら二つのゴムローラが刷版と接触する着肉ローラにインキを移送し、インキングキャリッジがこのような型式の三群のローラ列を具えていることホ.印刷されたシートを重ねておくために一対のシートスタッカを使用することを特徴とする印刷機(四枚の刷版により印刷する凹版カラー印刷機)に関して、
1.一九六一年原告が被告に提供したインタリオカラー印刷機(3/OLgV/4)に存する技術情報並びにこの際に提供されたG.-05.182.0号図面の記載内容たる技術情報2.一九七七年原告から被告に提供されたG.08.401号図面の記載内容たる技術情報(五)ドライオフセット用真鍮刷版の製造方法に関する技術プレート表面上にまず第一のレジスト層を形成し、この第一レジスト層よりも面積の大きな第二のレジスト層によって第一レジスト層を覆い、この第二レジスト層よりも面積の大きな第三のレジスト層によって第二レジスト層を覆い、プレート表面をエッチング処理した後に第三レジスト層を除去し、次いで再びエッチング処理した後に第二レジスト層を除去し、次いで再びエッチング処理した後に第一レジスト層を除去することによって裾野の転がった突出部を形成し、これにより酸による画線の破損がなく極めて細かい線を印刷することができるようにすることを特徴とする製造方法に関する技術(七)ニッケルサルファメイト電着について新たに開発された技術ニッケルを電着するためにピット防止剤を用いたニッケルサルファメイト浴を準備をする際にイ.希硫酸および活性炭を用いてニッケルサルファメイト槽を加熱処理することロ.メッキ液の浄化中に硼酸を使用しないことハ.波形形状のカソードを用いてメッキ液を浄化することニ.ピット防止剤を用いる場合に空気撹拌しないことを特徴とする技術(八)ガラスおよび金属上に機械的に彫刻を行う技術溝又は隆起部を形成したレリーフ原型と、彫刻を施すべきエッチングガラス又は銅板とを水平に配置し、トレーサの尖端をレリーフ原型の表面に接触させつつレリーフ原型上を順次走査させてトレーサをレリーフ原画上の溝又は隆起部に沿って上下動せしめ、トレーサの上下運動を水平方向に変換させる機構を介してトレーサの上下運動を彫刻ダイアモンドの水平運動に変換し、この彫刻ダイアモンドをトレーサの上下運動に従って水平運動させつつトレーサの走査作用に同期させてエッチングガラス又は銅板上を一行ずつ順次走査させ、この彫刻ダイアモンドによってエッチングガラス又は銅板を彫刻することを特徴とする技術(九)ニッケルサルフェート又はニッケルサルファメイト浴を浄化することによってニッケル銅製凹版印刷刷版のピットを防止する方法に関する技術アノードとしてニッケルを、カソードとしてニッケル銅を用いてニッケル銅の表面上にニッケル層を電着するためのニッケルサルフェート又はニッケルサルファメイト浴において、ニッケルサルフェート又はニッケルサルファメイト溶液内の金属不純物を除去するために、浄化時に波形形状のカソードを用いることを特徴とする技術(一一)刷版クリーニングシリンダの洗浄方法(第一段階)に関する技術凹版印刷機の版胴から余分なインキを除去するクリーニングシリンダの洗浄方法(いわゆる浸漬洗浄システム)においてイ.クリーニングシリンダのコーティング剤として以下の部分からなるコーティング剤を用いること塩化ビニル(PVC)─┐トリクレジル燐酸│可塑剤燐酸トリオクチル─┘安定剤炭酸カルシウム─┐充填剤黒鉛─┘ロ.洗浄槽内の洗浄液内に浸漬されかつクリーニングシリンダからインキを掻き落としてクリーニングシリンダを洗浄するためにクリーニングシリンダと接触しつつ回転するブラシを用いることハ.洗浄槽内の洗浄液として以下の成分の水溶液を用いることスルホン化ひまし油二%苛性ソーダ二%燐酸ナトリウム五%軟水九一%を特徴とする技術(一二)刷版クリーニングシリンダの洗浄方法(第二段階)に関する技術凹版印刷機の版胴から余分なインキを除去するクリーニングシリンダの洗浄方法(浸漬洗浄システム)においてイ.前記(一一)の回転ブラシに代えて次の固定式ブラシ装置又はスクレーパ装置を用いること揺動可能なアームの一端にクリーニングシリンダと接触するブラシ又はスクレーバを取付け、アームの他端をクリーニングシリンダの軸線回りに揺動可能な湾曲ホルダにばねを介して連結し、このばねによって各ブラシ又はスクレーパをクリーニングシリンダに最良の接触圧で圧接させ、湾曲ホルダを揺動することによって全てのブラシ又はスクレーパの接触圧を同時に調整することができるブラシ装置又はスクレーパ装置ロ.クリーニングシリンダから最初に大部分のインキを掻き落とすために、クリーニングシリンダと接触可能でかつ揺動可能に配置された一つのスクレーパと、スクレーパを揺動せしめる駆動装置からなり、この駆動装置によって凹版印刷機の運転停止時にはスクレーパをクリーニングシリンダから引き離し、凹版印刷機の運転を開始するときにはスクレーパをクリーニングシリンダに接触させるスクレーパ機構を用いることハ.前記(一一)のハの洗浄槽内の洗浄槽と比較して成分が若干変更された以下の成分の水溶液を洗浄液として使用すること固形苛性ソーダ一%スルホン化ひまし油ナトリウム塩一%軟水九八%を特徴とする技術(一三)プレワイピング技術1.凹版印刷機の版胴に取付けられた刷版から余分なインキを取除くために、版胴と接触しつつ回転するクリーニングシリンダと、版胴の回転方向からみてクリーニングシリンダの前方において版胴と接触するプレワイピングシリンダとを使用することを特徴とする技術2.プレワイピングシリンダにおいてイ.プレワイピングシリンダのコーティング剤としてゼラチンを用いることロ.洗浄槽の洗浄液内に浸漬されたブラシおよびスクレーパによってプレワイピングシリンダからインキを掻き落とすことハ.洗浄槽の洗浄液としてトリクロロエチレンを使用することを特徴とする技術3.プレワイピングシリンダを洗浄するのに洗浄液を使用しない乾式プレワイピング装置においてイ.版胴から余分なインキの一部を取除くために版胴と接触しつつ回転するプレワイピングシリンダと、プレワイピングシリンダからインキを取り除くためにプレワイピングシリンダと接触しつつ回転するプレワイピング用クリーニングシリンダを用いることロ.プレワイピングシリンダとしてショア硬度四十〜五十のブタジエンから形成されたシリンダを使用することハ.プレワイピング用クリーニングシリンダとして鋼鉄製のシリンダを用いることニ.プレワイピングシリンダとプレワイピング用クリーニングシリンダとを互いに噛合する歯車を介して連結することホ.プレワイピングシリンダをその軸線方向に往復動せしめることヘ.プレワイピング用クリーニングシリンダと接触する一つのスクレーパを設けてこのスクレーパによりプレワイピング用クリーニングシリンダからインキを掻き削ることを特徴とする技術4.乾式プレワイピング装置においてイ.版胴から余分なインキの一部を取除くために版胴と接触しつつ回転するプレワイピングシリンダと、プレワイピングシリンダからインキを取り除くためにプレワイピングシリンダと接触しつつ回転するプレワイピング用クリーニングシリンダとを用いることロ.プレワイピングシリンダのコーティング剤として以下の成分のコーティング剤を使用すること塩化ビニルヴァチノール(ジオクチルフタレート商品名)パラプレックスG53(商品名)炭酸カルシウムプロスパーDBM(商品名)ヴィンラブ73(商品名)リガジルTPL(商品名)ハ.プレワイピング用クリーニングシリンダとしてセラミック製のシリンダを使用することニ.プレワイピング用クリーニングシリンダに取付けられた歯車とを直接噛合せしめると共にプレワイピングシリンダ用クリーニングシリンダの径とを同一にしてプレワイピングシリンダとプレワイピング用クリーニングシリンダの接触点を常に同じにすることホ.版胴に取付けられた刷版とプレワイピングシリンダの接触点を常に同じにすることを特徴とする技術(一五)ショート・インキング技術凹版印刷用の版胴に取付けられた刷版上に版胴と接触しつつ回転する着肉ローラーを介してインキを供給するためにイ.インキを溜めておくインキダクトから一個のダクトローラーのみを介してインキを着肉ローラーに供給することロ.ダクトローラーの径を着肉ローラーの径と等しくすることハ.ダクトローラー上のインキ膜厚を一様にするためにダクトローラーと接触しつつ回転するインキ分配ローラーを設け、このインキ分配ローラーをその軸線方向に往復動させることニ.ダクトローラーの全長に沿って延びかつダクトローラーに向けて下降する弾性板を設け、弾性板の下端縁をダクトローラーに近接配置してダクトローラーと弾性板間にインキダクトを形成することホ.弾性板の下端縁の位置を調節するために弾性板の下端縁に沿って等間隔で配置された多数の微動ねじを具備し、これらの微動ねじによって弾性板下端縁の各位置における弾性板下端縁とダクトローラー間の間隙を個別に微調整することヘ.弾性板と微動ねじを支持台により支持すると共に支持台を偏心軸により支持し、偏心軸を回転させることによって弾性板下端縁とダクトローラー間の間隙全体を同時に調整することを特徴とする技術(ショート・インキング技術)に関して、
一九七三年原告が被告に提供した「Hydraulik-FarbwerkVersorgungderHyd.zylinderBl.206Blatt:209Teilbl.:4」と題する図面、「Duktorheizungbzw.-kuhlungBlatt:211Teilbl.:1」と題する図面、「DuktorgestellemitFuhrungBlatt:201Teilbl.:1」と題する図面、「Duktoru.VorwischwalzemitLagerungBlatt:204」と題する図面、「FarbkastenmitVerstellunginkboxwithadjustingBlatt:205Teilbl.:2」と題する図面、「Einzel-FarbwerkabstellungBlatt:202Teilbl.:2」と題する図面、「Einzelfarbwerk-AbstellungBlatt:202」と題する図面、「DuktorgestellemitFuhrungBlatt:201Teilbl.:2」と題する図面、「Einzelfarbwerk-BlockierungBlatt:203」と題する図面、「FarbkastenmitVerstellunginkboxwithadjustmentBlatt:205Teilbl.:1」と題する図面、「ReibwalzemitLagerungu.Antriebderseitl.VerreibungBlatt:207」と題する図面、「Seitl.FarbkastenabdichtungBlatt:206」と題する図面、「Hydraulik-FarbwerkDruckreduzierungu.-onzeigeBlatt:209Teilbl.:2」と題する図面、及び「Hydraulik-FarbwerkBlatt:209Teilbl.:1」と題する図面の記載内容たる技術情報(一六)刷版クリーニングシリンダの洗浄方法(第三段階)に関する技術凹版印刷機の版胴から余分なインキを除去するクリーニングシリンダのコーティング剤として次の成分からなるコーティング剤を用いることを特徴とする技術塩化ビニルヴァチノールAH(ジオクチルフタレート商品名)モノマーX980(商品名)触媒TB、PB(商品名)プロスパーDBM(商品名)炭酸カルシウム黒鉛(一八)機械的強度の優れた凹版印刷用刷版を作成するための電着方法に関する技術凹版印刷用刷版を作成するための電着方法においてイ.ニッケルメッキ槽内におけるニッケルサルファメイト溶液の濃度を高め、ニッケルメッキ溶液の温度を高め、アノードとカソード間の電流を高めることロ.凹版用マスタープレートをプラスチック製の枠内に取付けてカソードとすることハ.プラスチック枠を具えたカソードを、電着作業時に、シールドされたアノード部屋の前方で横方向に往復動させることを特徴とする技術(一九)高い耐熱性と耐久性を有するクリーニングシリンダのコーティング技術凹版印刷機の版胴から余分なインキを取り除くクリーニングシリンダのコーティングを次のようにすることを特徴とする技術イ.クリーニングシリンダのコーティングを硬質底部層、軟質中間層、硬質上部層の三層構造とすることロ.硬質底部層および硬質上部層の成分を次のようにすること塩化ビニルヴァチノールAH(DOP)(商品名)モノマーX980(商品名)触媒TBPBプロスパーDBM(商品名)カルシウムカーボネートグラファイトハ.軟質中間層の成分を次のようにすること塩化ビニルヴァチノールAH(DOP)(商品名)パラプレックスG54(商品名)カルシウムカーボネートプロスパーDBM(商品名)ヴィンラブ73(商品名)リガジルTPL(商品名)(二〇)印刷の全ての段階において、各シートの端に印刷されたバーコードにより機械的に各シートを追跡するシステムに関する技術印刷の全ての段階において各シートを追跡するためにイ.シートの切断工場、又は印刷工程の最初の処理の最初の段階でシートの縁に特定のバーコード及びそのバーコードに対応した数字を印刷することロ.各生産段階の後で、例えばドライオフセット印刷完了後、あるいは凹版印刷完了後等にバーコードを検出して中央コンピュータに記憶させ、それによって各シートの履歴を追跡しうることハ.各生産段階のうちの一つの段階でシートが引き抜かれた場合には引き抜いた理由および時刻が表示されることニ.何の了承もなくシートが引き抜かれた場合には警告が発生せしめられることを特徴とする技術(二一)残余ワイピング液の処理に関する方法並びにそれに関連する装置の設置方法に関する技術凹版印刷用ワイピングシリンダから掻き落とされたインキで汚染されたアルカリ性浄化液を浄化した後に放流するために、フィルタを用いて浄化液からインキを取除き、硫酸を加えて浄化液を中性化し、次いで洗浄液から有機残留物を除去するために洗浄液を47℃〜50℃で一定時間加熱し続けることを特徴とする技術(二二)真鍮性オフセット刷版の製作方法に関する技術真鍮板を用いてオフセット刷版を製作するためにまず初めに真鍮板上をクロムにより覆い、クロムを第一レジスト層により覆い、画線部を除く第一レジスト部分を除去すると共に覆われていたクロムを取り除き、次いで真鍮板上を第二レジスト層により覆い、残っている第一レジスト部分よりも若干大きな面積部分を除く第二レジスト部分を除去して第一回のエッチングを行い、次いで残っている第二レジスト層を除去して第二回目のエッチングを行い、次いで残っている第一レジスト層およびクロムを取り除くことを特徴とする技術(二三)銅を用いることなく凹版印刷用のマスタプレートを製作する方法に関する技術凹版印刷用刷版を作成するためにまず初めに彫刻された原板からニッケルでもってポジ型をとり、次いでこのポジ型からプラスチックでもってネガ型を取る。次いで多数のこのプラスチック製ネガ型を互いに結合して大型の型組体を作る。次いでこの型組体からニッケルを用いて直接ポジ型のマスタプレートを作り、
次いでこのマスタプレートから凹版印刷用刷版を製作することを特徴とする技術(二五)スプレージェットによる刷版クリーニングシリンダの洗浄方法(第四段階)に関する技術凹版印刷機の版胴から余分なインキを除去するために版胴と接触しつつ回転するクリーニングシリンダの洗浄方法において、クリーニングシリンダからインキを除去するためにクリーニングシリンダと接触するスクレーパおよびブラシを設け、スクレーパ前方のクリーニングシリンダ上およびブラシ前方のクリーニングシリンダ上に洗浄液のジェットを散布することを特徴とする技術(二八)インタリオセット方式に関する技術イ.単色で凹版印刷と同様に木目が細かく、シャープで緻密であるが、凹版印刷による紙幣では触って感じることのできる盛り上がりを生じないインタリオセット方式を用いて紙幣の印刷を行うことロ.インタリオセット方式に用いる刷版を作成するためにまず初めに凹版の刷版に似ているがそれほど深くない彫刻を施した鋼鉄製又は銅製の凹版原版を作成し、次いでこの凹版原版からポジフィルムを作成し、次いでこのポジフィルムからネガガラスプレートを作成し、次いでこのネガガラスプレートからステップ・アンド・リピート法を用いて多数の同一のポジ画像を一枚のガラスプレート上に作成し、次いでこのポジガラスプレートの画像を写真製版の手法を用いて黄銅製刷版上に彫刻を施し、次いで刷版上の彫刻部分がインキを受け入れる性質を有するように刷版を加工すると共に、彫刻された部分以外の刷版の表面を湿潤性を保つ性質を有するように処理してインキを跳ね返す性質を持たせるようにすることハ.例えばシムルタン印刷機のゴム胴と接触しつつ回転する版胴の一つに対してインタリオセット刷版を用い、このインタリオセット刷版に対して湿潤を与えるために湿潤付与装置を設け、ドライオフセット印刷とインタリオセット方式による印刷とを一刷りで行えることを特徴とする技術(三〇)物理的な接触を伴わず電子的なプリコントロールによってナンバリングヘッド及びナンバリングホイールの連続的な切換えを検査するシステムに関する技術一個の圧胴と、この圧胴と接触しつつ回転する二個のナンバリングシリンダとを具備し、各ナンバリングシリンダに印章、サイン等を二色で印刷するためのクラッチ版と、番号を付すための多数のナンバリングボックスとを取付け、各ナンバリングボックス内のナンバリングホイールを回転させることにより連続した紙幣番号を紙幣に付すようにしたナンバリング機械において、ナンバリングホイールが回転して番号の切換えが行われたことをホール素子を用いて物理的な接触を伴うことなく検出することを特徴とする技術(三一)凹版印刷用プラスチック製型を高周波溶接によって組立てる方法に関する技術凹版印刷用刷版を作成するためのプラスチック製型を作成する際に、まず始めに彫刻原板から多数のプラスチック型を作成し、次いでこれら多数のプラスチック型を予め定められた位置に正確に整列配置し、各プラスチック同士を高周波溶接を用いて互いに結合することを特徴とする技術(三二)銅メッキされた凹版印刷用スリーブに画像を移すための自動トランスファ装置に関する技術リリーフを形成した樽状のトランスファローラダイと銅メッキされた円筒スリーブとをそれらの軸線がほぼ平行となるように配置してローラダイを円筒スリーブの表面上に圧接させる。このような状態でローラダイとスリーブとの接触点が常に同じになるよう円筒スリーブをその軸線回りに揺動しせめると共に、円筒スリーブの揺動方向と直角方向にローラダイを揺動せしめる。このときローラダイ上に形成されたレリーフによってスリーブ上に凹溝が形成され、ローラダイの揺動圧接作用が進行するにつれて凹溝の深さが次第に深くなる。凹溝の深さが深くなるにつれて凹溝部分以外のスリーブ表面が突出し、それによって凹版印刷用の凹溝がスリーブ表面上に形成されると共に、凹溝以外の突出したスリーブ表面部分を滑らかにする自動トランスファ機械を用いることを特徴とする技術被告の反論一別紙目録(二)の(一)記載の技術情報について1製品自身が秘密を含んでいて、販売により秘密を開示してしまう場合、製品の分解・分析等正当な手段に基づき秘密が解明される場合等には、秘密性が失われるとされており、シムルタン印刷機(3/2TOV)自体に含まれる技術情報及び印刷機全体は、秘密技術情報とはいえない。右印刷機自体に含まれる技術情報及び印刷機全体が乙一九号証の二により公知・公開の技術情報である。
2そこで、さらに、原告が主張するシムルタン印刷機の構成要素及び印刷機全体に関する技術情報が、実質的技術的に秘密情報として保護に値する技術情報かどうかを検討する。
(一)(1)【P19】著「ディーリトグラフィシェンフェアファーレンウントデアオフセットドゥルック」OTTOKRUGER:"DIELITHOGRAPHISCHENVERFAHRENUNDDEROFFSETDRUCK".U.VERMEHRTEAUFLAGE.LEIPZIG/F.A.BROCKHAUS/1929(一九二九年発行ライプツィヒF.A.ブロックハウス第二版)二三〇ページから二三三ページまで(乙第二四号証の二)には次の記載がある。
「印刷用紙は、このスインググリッパによって、版胴に導かれる。すなわち、前当て(フロントゲージ)に当たった用紙は、スインググリッパによって、版面シリンダの表面速度に次第に近づき、正確な位置合わせが行われる。不正給紙があると印刷は自動的に停止し、給紙が正常になると自動的に印刷が開始される。
用紙の排出は、テープでなく、チェーン排紙機構によってシートスタッカ台に排出する。
この会社は、最近四色両面印刷機の特許を出している。これは(第一二一図のように)四つのシリンダを直列した構造となっている。中央のブランケットシリンダは、表面がブランケットで覆われていて、その外側に二つの大型シリンダが配列されている。このシリンダは、版がそれぞれ二版取り付けられる構造になっている。この機械を用いて、二色または四色の両面印刷、一色または二色の片面印刷が必要に応じて可能である。片面印刷のみの場合、上部のインキング機構を切離し、図の左にある小型シリンダにゴムシートを張る。もう一つの小型シリンダは、
グリッパを具えており、印刷シリンダとして用いられる。図からも分かるように、
機械は単純で理解しやすいものである。
これは、印刷寸法85×117pに設計されている(第一二一図参照)。
第一二一図四色両面オフセット印刷機・ヨーネ・ベルク印刷機械株式会社(バウツェン・ザクセン)」(2)右記載には、四色枚葉両面ウエットオフセット印刷機が記載されており、同機は同一径を有する一対のゴム胴(ゴム胴の配列等については同書二四七ページ〔乙第二四号証の三〕、後掲【P20】著「印刷機械」の四三ページ2〔乙第二一号証の五〕及び七二ページ第92図〔乙第二一号証の六〕)が用いられ、シートの表面及び裏面の背景を構成するすべての色をそれぞれ対応するゴム胴上に集め、
シートがゴム胴間を通過する際にシートの両面に多色印刷される多色(四色)両面同時印刷のウェットオフセット方式の技術的事項が開示されており、さらに、ゴム胴に向けてシートを送り込むために揺動するスインググリッパ装置(第一二〇図に「Vorgreifer」として明示されている)及び排紙チェーングリッパ装置を使用するとされ、かつ、右各装置が第一二〇図に図示されているので、これらの技術的事項(別紙目録(二)の(一)イ・ロ・ハ・ニ)がシムルタン機の開発前に既に公知技術として開示されているのである。
なお、ウエットオフセットとドライオフセットとは製版方法(画線の形状により、湿し水が必要となり又は不要となる。)とインキにおいて相違するのみで、印刷機の構成には差異はない。また、給紙装置(フィーダ)には、常用手段としてスインググリッパ及びストップドラムなどが周知である(【P20】著「印刷機械」七三ページから七五ページに給紙胴の使用、スインググリッパとして記述されている〔乙第二一号証の七〕、ドイツ「産業労働組合〔印刷・製紙〕」発行「フォルムウントテヒニク」誌一五巻二号一九六四年二月号七五ページから七六ページにグリッパドラムとして記述されている〔乙第一九号証の四〕)。
(二)(1)一九六四年三月発行の「フォルムウントテヒニク」誌(一二六ページ、乙第一九号証の二)には次の記載がある。
「ケーバウージオリーシムルタンこの機械は間接凸版(ドライオフセット)枚葉輪転印刷機である。この機械では、まず、巻付版から二つのゴム胴に印刷が行われ、それらからすき入れ用紙に印刷が行われる。巻付版は、およそ0.6mmの厚さである。これらの版は、細い画線で構成された凸版レリーフを有している。第3図は、この機械の組立図を示したものである。
給紙台1から用紙が供給され、ゴム胴2及び3によって両面に同時に多色印刷が行われる。ゴム胴2は、版胴4と5によって二色の印刷が行われる。ゴム胴3は、版胴6、7、8から三色の印刷が行われる。各版胴には、それぞれインキ装置12、13、9、10及び11が付いている。これらは、位置を移動することができるようになっていて、版胴とちょうど良い接触を行う。すき入れ紙の上に多色集合印刷が非常に正確に行われるので、これの偽造を行うことは、全く不可能でないにしても極めて困難である。
ケーバウージオリーシムルタンの場合、細い線模様の印刷をしても見当の誤差は生じない。なぜならば、集められた各インキがただ1回の印刷で用紙に転移されるからである。ゴム胴間で両面同時印刷された用紙はチェングリッパで乾燥路に導かれ、排紙もしくは第3図のように番号印刷装置に導かれる。この番号印刷装置は圧胴15と17及び番号胴16と18からなっている。ここで用紙は両面に番号印刷される。回転ドラム19によって、用紙は更に排紙用チェングリッパに移される。
第2図ケーバウージオリーシムルタン・間接凸版(ドライオフセット)枚葉輪転印刷機(写真)第3図ケーバウージオリーシムルタンの組立図1給紙台2、3ゴム胴4、5、6、7、8版胴9、10、11、12、13インキ装置14チェングリッパ15、17圧胴16、18番号胴19回転ドラム20排紙用チェングリッパ21排紙台」なお、右文中の「細い線模様の印刷」とはいわゆる地紋印刷を指す。
(2)右解説記事、写真(甲第七〇号証の五の被写体機と同一形式のシムルタン機)及びシムルタン機の組立図並びに前記公知技術(乙第二四号証の二など)を総合すると、同誌に公開・開示されている機械はシムルタン印刷方式の機械であり、その構成が、
イ紙幣印刷を含む証券用枚葉ドライオフセット印刷機において、同一の径を有する一対のゴム胴(互いに圧接しつつ互いに反対方向に回転する両ゴム胴を同一の径とすることは当業者にとって自明の技術常識であり、当然のことである。
第3図2及び3参照。)を使用していることロ紙幣を含む証券の表面及び裏面の地紋を構成するすべての色をそれぞれ対応するゴム胴上に集めていることハシートを一対のゴム胴間を通過させることによりシートの両面に前記地紋を一度で(同時に)多色印刷していること(ロ及びハについて、右解説記事右欄一行目ないし四行目、同記事訳文二枚目の六行目「給紙台1から用紙が供給され、ゴム胴2及び3によって両面に同時に多色印刷が行われる。」参照。)ニゴム胴に向けてシートを送り込むために揺動するスインググリッパ装置を使用していること(第3図給紙板左端扇形図参照)ホ各ゴム胴に関して複数個の版胴(第3図4、5、6、7、8)が設けられていること図面上で上方のゴム胴に対して三個のドライオフセット用版胴が設けられており、図面上で下方のゴム胴に対して二個のドライオフセット用版胴が設けられていることしかも各版胴は各一個のインキング装置(第3図9、10、11、12、13)と接触していることヘチェーングリッパ装置(第3図14)が一方のゴム胴の下方からシートスタッカの上方まで延びていること(なお、「一対のシートスタッカー」の点は原告主張のシムルタン印刷方式の構成にはないが、Lー832との対比において主張しているところ、この点も公知・公開の技術であることは後記(七)参照)トナンバリング装置(別紙V15、16、17、18)が配置されていることが認められる。
これらの技術的事項、写真及び組立図によると、右記事記載のシムルタン機は、甲第七〇号証の一ないし六に示されたシムルタン機と同一のものであることは明らかである。
したがって、シムルタン印刷方式におけるこれらの各技術的事項及びその全体は公開された技術情報というべきである。また、前述のとおり印刷局がシムルタン機を調達する以前に秘密保持義務を負わない形でレイボルド社から提供されたシムルタン機に関する資料によって知得していた技術的知識でもある。さらに、
乙第二八号証の公開特許公報(第3欄六行目から第4欄二行目まで)に図面とともに「この種の従来公知にかかるオフセツト印刷機において、…あるいはまた、ゴムローラ上において直径上に向かい合いに2個の印刷セグメントを配置し、各原版ロールないしはシリンダ上に2個の印刷原版を配置するものであり、…したがつて、
この種の周知の印刷機においてはゴムロールが1回転するごとに1回あるいは2回の印刷しか行うことができない。」と記載されていることからも、秘密として保護するに値しないものである。ちなみに、乙第一九号証の二は、昭和三九年九月には翻訳されて印刷局発行の研究所時報第一六巻九号に掲載され、かつ部内に配付されている。
(三)ケーバウ社による昭和五七年三月一一日出願(優先権主張一九八一年三月一四日西ドイツ〔DE〕P3109963.7及び同P3109977.7)にかかる公開特許公報(A)特開昭五七ー一六〇六四〇(ドライオフセット)(乙第二五号証の一)及び同(A)特開昭五七ー一六三五七一(ウエットオフセット)(乙第二五号証の二)によると、同各公報中の各図面に、各ゴム胴に関して複数個の版胴が設けられている。そして、各ゴム胴に対して四個のドライオフセット又はウェットオフセット用版胴が設けられており、しかも三個の版胴はそれぞれ二つのインキダクトを具えた三個のインキング装置と接触しており、四番目の版胴は一個のインキダクトを具えた一つのインキング装置と接触している(各公報記載の「図面の簡単な説明」中の33、34、36及び37並びに43、44、46及び47がインキング装置とされ、甲第一五一号証〔スーパーシムルタンU〕のインキング装置と基本的に同一構成のインキング装置が図示されている。)。
さらに、同一径の一対のゴム胴については、「図面の簡単な説明」中の8、13がゴム胴とされ、更に「発明の詳細な説明」中「例えば枚葉紙2である印刷されるべき印刷担体は、ゴム胴8とゴム胴13との間でプレスされて例えば同時に両面印刷において印刷され得る。図示の例の場合、単数又は複数のゴムブランケット9、11、12で覆われたゴム胴13は、オフセット版胴14、16、17、18のオフセット版盤38、39、41、42からインキを受け取る。オフセット版盤38、39、41、42には、それぞれに配属されたインキ装置43、44、46、47によつてインキが塗布される。ゴム胴8と13とは同じ円周を有し、またオフセット版胴14、16、17、18も互いに同一円周を有する。ゴム胴8と13の円周は、オフセット版胴14、16、17、18の円周の整数倍である。」(乙第二五号証の二、三一一ページ右上欄下から一行目から左下欄一四行目まで。なお乙第二五号証の一、二〇五ページ左上欄下から二行目から右上欄一四行目までも同旨。)と記載されており、さらに、ストップドラム(図3)、一対のシートクリーナ、チェーングリッパ装置、8個のインキング装置及び「同時に両面刷りで印刷される。」(乙第二五号証の一、二〇五ページ左上欄下から一行目から右上欄一行目まで。なお乙第二五号証の二、三一一ページ左下欄二行目も同旨。)との記載がある。また、ゴム胴もスーパーシムルタンUと同じ一回転三枚刷りのものとなっている。
以上によれば、右乙第二五号証の一、二記載の印刷機は、スーパーシムルタンUにザンメル印刷機構を組み込んだものであり、スーパーシムルタンUを構成するすべての技術的事項が、ケーバウ社自身によって出願公開されていることが明らかである。
(四)また、原告は「シムルタン印刷方式」の構成として、「ホ、インタリオセット方式を前記オフセット印刷機に組込むこと」を主張している。
この構成は、当初のシムルタン印刷機(甲第七〇号証の一ないし六)には具有されておらず、スーパーシムルタン印刷機(甲第七四号証)において初めて具有されたものであるが、この構成(組み込むこと)の具体的実施方法については主張がないので、必ずしも明らかではない。
そこで、右構成についての技術的意義を、インタリオセット方式についての原告の主張に基づいて検討する。
(1)インタリオセット方式については、別紙目録(二)の(二八)に「イ.単色で凹版印刷と同様に木目が細かく、シャープで緻密であるが、
凹版印刷による紙幣では触って感じることのできる盛り上がりを生じないインタリオセット方式を用いて紙幣の印刷を行うこと」「ロ.インタリオセット方式に用いる刷版を作成するために」として次の記載がなされている。
@凹版原版の作成について「まず初めに凹版の刷版に似ているがそれほど深くない彫刻を施した鋼鉄製又は銅製の凹版原版を作成し、」Aポジフィルムの作成について「次いでこの凹版原版からポジフィルムを作成し、」Bネガガラスプレートの作成について「次いでこのポジフィルムからネガガラスプレートを作成し、」Cステップ・アンド・リピート法によるポジガラスプレートの作成について「次いでこのネガガラスプレートからステップ・アンド・リピート法を用いて多数の同一のポジ画像を一枚のガラスプレート上に作成し、」D写真製版による黄銅製刷版の彫刻について「次いでこのポジガラスプレートの画像を写真製版の手法を用いて黄銅製刷版上に彫刻を施し、」E彫刻凹版印刷手法による使用について「次いで刷版上の彫刻部分がインキを受け入れる性質を有するように刷版を加工すると共に、彫刻された部分以外の刷版の表面を湿潤性を保つ性質を有するように処理してインキを跳ね返す性質を持たせるようにすること」さらに、インタリオセット方式の用例として「ハ.例えばシムルタン印刷機のゴム胴と接触しつつ回転する版胴の一つに対してインタリオセット刷版を用い、このインタリオセット刷版に対して湿潤を与えるために湿潤付与装置を設け、ドライオフセット印刷とインタリオセット方式による印刷とを一刷りで行えること」との記載がされている。
また、同情報は特許出願の上公開されていることは後述のとおりである(乙第二六号証)。
(2)以上の記載に照らすと、インタリオセット方式の特徴は、ウエット・オフセット印刷機によって、紙幣に、いわゆる地紋印刷に対し、紙幣の主模様を構成している輪郭、人物、風景、文字及びこれと同等の模様を単色印刷するために、インタリオセット刷版を使用することにある。これをシムルタン印刷機について考察すると、前記インタリオセット方式を前記オフセット印刷機すなわちシムルタン印刷機に組み込むことは、右の(1)ハに記載されている意味すなわち、インタリオセット刷版一個につきドライオフセット版胴を(一色)減らすこと、換言すればシムルタン印刷機及びスーパーシムルタン印刷機において、いずれも表面三色機を単なる表面二色機にすることによって組み込むものと解される。
なお、印刷局においては、インタリオセット方式は凹版印刷の重厚さを欠くきらいがあり、刷版が傷みやすく耐久性が短い欠点を有するので、これを採用していない。
(3)次に、右に述べた意味における別紙目録(二)の(一)ホの構成と併せて、別紙目録(二)の(二八)の構成(インタリオセット方式)については、いずれも公知・公開の技術的知識であることは以下に述べるとおりである。
ア原告による昭和五〇年七月三〇日出願(優先権主張一九七四年七月三〇日スイス国10442/74。日本国出願放棄)にかかる公開特許公報特開昭五一ー四四〇〇一(発明の名称「凹刻印刷版およびその製造方法」乙第二六号証)によると、
@「本発明は、経済的に有利なオフセット印刷に使用することができる凹刻印刷版の製法を提案する」(二ページ左上欄一〇行目から一一行目まで)A「本発明による凹刻印刷版の製造方法は、銅版印刷のために板を彫り、」(二ページ左上欄下から六行目から五行目まで)「銅版印刷のためと同様に彫られた、たとえば銅、ニッケルまたは鉄で作られていて、非常に複雑な模様を現わす多様な深さの凹んだみぞ穴5を有する板1から出発する。」(二ページ右上欄下から一行目から左下欄三行目まで)B「このような版は湿式オフセット印刷機に使用することもできて、
ブランケット胴と共働する。従って本発明は、印刷機に関しては、オフセット印刷の利点と、また印刷の質に関しては、銅版印刷の利点とを結合させることができる。」(二ページ右上欄一三行目から一七行目まで)ちなみに、右にいう「銅版」の原語に相当する語は、仏語の「taille-douce」であることや、右公報の「3.発明の詳細な説明」の項の記載(一ページ右下欄一〇行目から一四行目の記載等参照)からみて、「凹版」の意味に解される。印刷業界でも、「銅版」は「凹版」の意味に使用されている。
C「これらの凹部の深さは最初のみぞ穴の深さよりも浅く、0.03ないし0.02o、すなわちオフセット印刷のために適当な、深さとすることができる」(二ページ右下欄一行目から四行目まで)D「上記のように作られた銅版と同様に正確で複雑な模様を有する版は、湿し装置を使用する通常のオフセット印刷で使用するのと同様な質のインキを使用し、かつ圧胴とブランケット胴との間に通常の比較的低い圧力をかけて、オフセット印刷機で有利に使用することができる。」(三ページ右下欄一〇行目から一五行目まで)E「非常に高級な証券用紙においては、二つの印刷方法、すなわちたとえば通常の乾式オフセットプロセスによってセキュリティ・バックグラウンド印刷し、その上に、たとえば銅版印刷によって主模様を印刷することが想起される。」(三ページ右下欄一八行目から四ページ左上欄二行目まで)F「前記の印刷版をオフセット印刷機に取り付けて、紙を1回通過させるのみで、セキュリティ・バックグラウンドを通常の乾式オフセット印刷で印刷し、主模様を前記版を使用する新規なオフセット装置によって印刷することができて有利である。このような印刷機は、少なくとも一つの通常のオフセット版と、前記のプロセスによって得られた少なくとも一つの版とが共働するブランケット胴を有する。前記ブランケット胴は、一つの圧胴とまたは、表面・裏面(recto-verso)同時印刷の場合には第一の同一の乾式および湿式オフセット系と協働する第二のブランケット胴と協働する。」(四ページ左上欄三行目から一五行目まで)(注)「セキュリティ・バックグラウンド」は「地紋」を指す。
G「また本発明は、インキ反撥剤となる湿潤剤を保持する少なくとも一つの第一の物質の表面層と、インキ受容性の第二の物質とを有し、前記第一の物質の表面層が、前記版の外部の非印刷表面と、銅板に彫られたみぞ穴の底とを規定し、前記第二の物質が、前記みぞ穴を部分的に満たして、版の表面の凹部を規定する凹刻印刷版に関する。」(二ページ右上欄六行目から一二行目まで)並びに同公報記載の第2図及び「図面の簡単な説明」(特に「第2図は完成した第1図の印刷版の略断面図である。2…表面層(湿潤剤受容性層)、3…インキ受容性層」)との記載がある。
イこの発明は、オフセット印刷に使用することができる凹刻印刷版に関するものであって、
@右凹刻印刷版をオフセット印刷機に取り付けて、紙を1回通過させるのみで、紙幣の地紋を通常のドライオフセット印刷で印刷し、その上に主模様を印刷することAさらに両面同時印刷の印刷機、例えばスーパーシムルタン印刷機の場合には、二つのゴム胴のうち第二のゴム胴と協働することB凹刻印刷版は凹版原版に似ているが、同刷版の凹部の深さはそれほど深くなく、オフセット印刷のために適当な深さであること、したがって、刷り上がったものは凹版の盛り上がりが出ない画像となることCこの凹刻印刷版は湿式オフセット印刷機に使用することができるので、オフセット印刷の利点と、また印刷の質に関しては、銅版印刷の利点とを結合させることができること、したがって、この発明による凹刻印刷版を使用した印刷法は、オフセット印刷と凹版印刷の混合組み合わせであることDこの凹刻印刷版は、刷版上の彫刻部分(印刷部分)がインキを受け容れる特性を持っている材料でインキを受け容れる性質を有するように刷版を加工するとともに、彫刻された部分以外(非印刷部分)の刷版の表面を湿潤性を保つ性質を有するように処理してインキを撥ね返す性質を持たせるようにすることがそれぞれ認められる。
なお、右公報では、凹刻印刷版をいわゆる凹版とは区別して使用している。仮に、凹版の意味とすれば、単なる公知技術にすぎない。
そうすると、前記発明にいわゆる「凹刻印刷版」とはインタリオセット刷版であることが明らかであり、さらに、右公開特許公報(乙第二六号証、前記(3)ア@及びDないしFの記載)に照らすと、同公報記載のオフセット印刷機なるものは、シムルタン印刷方式特にスーパーシムルタン印刷機の基本的概念及び構成を有することも明らかであるから、右インタリオセット方式をシムルタン印刷機に組み込むことが当業者において十分理解・実施し得る程度に示唆されている。
なお、原告は、インタリオセット方式について単色で紙幣の印刷を行うこともその構成に含めているが、「単色」であることについての技術的意味は必ずしも明らかでない。技術常識的にみてその技術的意義は乏しいが、シムルタン印刷機の能力の限界を示すものと思料される。
そして、右公報の(3)アFで引用した中に「前記のプロセスによって得られた少なくとも一つの版とが共働する」旨の記載があるが、これによれば、単色の印刷が想定されている。
ウさらに、原告による昭和五八年四月一一日出願(優先権主張一九八二年四月二二日スイス国〔CH〕2445/82-1)にかかる公開特許公報特開昭五九-九三三五〇記載の図面及びその説明(乙第二七号証)によると、「発明の概要」として「本発明の第1の目的は、上記の2つの方法による作動を単一の同一機械で行うことができかつ1つの方法を他の方法にできるだけ簡単な方法で転換することのできる機械を提供することにある。」(二五八ページ(5)九行目から一二行目まで)との記載があり、さらに、「圧胴シリンダ6」の周りを通過する紙シートは、本発明によれば、「「オーロフ」法による印刷の次に湿式オフセット印刷が行われるが、
これは紙が圧胴シリンダ6の周りを通過している唯一つの通過時に行われるもので、この印刷は紙の通貨の主要な単色模様を印刷するのに特によく適用できるものである。この湿式オフセット機構はインク付け装置15とそれ自体公知の湿り装置16とが設けられた凹版シリンダ14を用い、この凹版シリンダ14は紙面に模様を移すゴム胴シリンダ17と共働する。したがって、意図したように、完成された印刷が銀行紙幣の一側面に、例えば4色の安全裏面(これは、「セキュリティー・バックグラウンド」の訳であるところ、「証券の地紋」と訳すべきところを誤訳したものである。)が「オーロフ」法による印刷によって得られ、また単色の主要模様は湿式オフセット法による印刷によって得られる。」(二五九ページ(9)下から四行目から(10)一〇行目まで)、「「オーロフ」法(第1図)により又は間接活版法若しくはオフセット法(第2図)のどちらかの方法により、特に紙シートの一側面に安全裏面印刷をするために印刷される。」(二五九ページ(7)二行目から五行目まで)、
「このようにして、乾式オフセット4色印刷が、紙シートが圧胴シリンダ6とゴム胴シリンダ7との間を通過する間に得られる。この多色オフセット印刷はまた前記の凹版シリンダ14とゴム胴シリンダ17とによる単色湿式オフセット印刷によって完成させることができる。」(二六〇ページ(12)四行目から一〇行目まで)との記載がある。右の記載によれば、「この湿式オフセット機構は・・・・・凹版シリンダ14を用い」とあり、「また単色の主要模様は湿式オフセット法による印刷によって得られる。」とあるところ、右の「凹版シリンダ14」は単色の主要模様を湿式オフセット印刷するためのもので、単なる凹版胴とは異なるものフである。
そうすると、この記載は原告のインタリオセット方式に関する主張と、紙のシートの一側面に関して一致するものである。
エ右によると、乙第二七号証の記載と、乙第二六号証の記載とを併せ考えれば、乙第二七号証の発明は、基本的にはシムルタン方式にインタリオセット方式を組み込んだものの一例にかかるものである。
前記インタリオセット方式のその余の構成((1)ロのAないしD)は、
シムルタン印刷方式の構成とは直接関係がないので詳述を避けるが、刷版製作に関する単なる周知の技術的知識にすぎない。
(五)さらに、原告は、シムルタン印刷方式の構成の主張の中に入れていないものの、Lー832との対比においてナンバリング装置を掲げている。当該装置については、乙第二七号証の「好適な実施態様の説明」中の「図示の機械は、一枚一枚の紙(以下シートという)を供給して印刷する機械であって、この機械は、停止ドラム2と、移送シリンダ3とシートの縁に番号をつける装置4とシートの塵を払い除けかつ磁気を取り除く装置5とが設けられたシート供給又はシート搬入装置1を具備している。」(二五八ページ(6)一〇行目から一五行目まで)との記載及び図面第2図によれば、原告の要約準備書面第四、三、(一)、3の「ヘ、給紙トランスファシリンダにナンバリング装置が配置されている。」の構成が明示されており、これによって公知・公開の技術であることは明らかである。
(六)原告による昭和四六年五月一日出願(優先権主張一九七〇年五月二六日スイス国、審査未請求取下)にかかる公開特許公報特開昭四六-七一〇九記載の図面及びその説明(乙第二八号証)によれば、これは、ウエットオフセット及びドライオフセット併用の枚葉輪転式多色両面刷りオフセット印刷機にかかるものであるところ、その内容として、スーパーシムルタン機の基本的な概念を構成する技術的思想において全く同一のものが公開されている。特に同公報記載の図面に示された印刷部分の構成は、甲第七四号証及び甲第一五一号証に示されたものと全く同一である。
(七)スーパーシムルタンUが「一対のシートスタッカーを具備して」いる点については、「プリンティングイクイップメント」一九五〇年(昭和二五年)一月号に掲載された二色凸版輪転印刷機TRGがダブル・デリバリ・システムを装備しているとの記事(三三ページ、乙第二九号証の一)及び三月号に掲載された「ダブル・デリバリはハリス社の凸版輪転印刷機の特徴である」との記事(三〇ページから三一ページ、乙第二九号証の二)、研究所時報昭和二六年四月号に掲載された複式紙堆積装置の記事(二七ページから二九ページ、乙第二九号証の三。なお、右記事は右乙第二九号証の二を翻訳掲載したものである。)及びフォルムウントテヒニク一五巻三号(乙第一九号証の二)一二九ページ「ヌメロータの項」に排紙台10又は11と二台の記載があること、さらに、【P14】氏個人出願にかかる特許公報(特許出願公告特公昭三九ー五一一六、乙第四八号証第1及び第6図)には一対のシートスタッカーが図示されて出願公開されている事実、印刷局で作成した凸版輪転印刷機の設計図(昭和三九年五月作成、乙第三〇号証)及び研究所時報別冊「銀行券印刷機械」中の機械図面(昭和五八年六月発行、一二六ページ、乙第三一号証の二)等により、つとに公知・公開の技術となっている。
スーパーシムルタンUが「シート検査用サンプリング装置を備えている」点については、右設計図(乙第三〇号証)及び機械図面(乙第三一号証の二、一二六ページ)に既に採用されており、同様に公知・公開の技術である。
(八)ちなみに、シムルタン機による原告主張の、新しい地紋と称する空白の線と幾何学的模様から構成されている模様については、その内容はいわゆる技術情報(ノウ・ハウすなわち技術上の知識)には該当せず、秘密保持義務の対象として理解が困難であるのみならず、かかる模様が秘密性があるというのであれば、一般に広範な流通を前提とする銀行券に用いることでその秘密性は必然的に保持できなくなるものであり、かつ、印刷局が銀行券に使用することを特に原告が承認したという原告の主張と矛盾するものである。さらに、かかる模様は、古くから籠目模様又は網目模様として銀行券において使われてきたものの変形に属するものであるが、遅くとも昭和六年(一九三一年)頃から原告主張のような地紋も諸国において随時銀行券に使用されていたことが明らかであり、原告ないし【P21】の創作にかかるものではない。よって、原告のものとして独自性のあるものではなく、公知・公開のものというべきである(乙第三二号証の一ないし五参照)。
また、印刷局においても、昭和二八年(一九五三年)に独自に開発した三色凸版ザンメル輪転印刷機により、右地紋を含んだ旧壱万円日本銀行券(昭和三三年一二月一日発行、乙第三二号証の六)の印刷を可能にした。そして、その図案は、同年九月三日に新聞発表しているのみならず、その「刷り合わせ」(ただし、
原告主張の「刷り合わせ」の意味内容は明確ではないが、銀行券等の証券印刷において一般にいわれる「刷合せ」の良否は印刷機の構成のみにより可能なものではなく、印刷をめぐる各種技術(注参照)の複合的成果であることは、周知の事実であり、技術常識である。換言すれば、シムルタン印刷方式はもとより、シムルタン印刷機の構成がそのような作用効果を実現できる技術的根拠は全く存しない。)にはシムルタン機に比して遜色はない。
なお、シムルタン印刷方式の場合は、肖像・風景などの凹版印刷は、シムルタン機で地紋のオフセット印刷後、一度紙を離してまた二台の凹版機(インタリオ)で表裏別々に印刷することになるので、この意味における刷合せ誤差は避けられない。この点を解決したのは既述の印刷局が開発した「ドラ凹」機である。
(注)いわゆる「刷合せ」は、例えば製版技術の点では、製版技術すなわち本来刷版に形成する画線の精度及び通称トンボという見当合わせマークに由来する問題であり、その他印刷用紙の選択、紙の含有湿分、印刷圧、版面の湾曲の度合い(伸び)、版面取り付け時の引っ張り具合(伸び)、給紙グリッパの精度・胴及び胴仕立ての精度等の製造・加工技術ないしは調整技術、印刷室の温湿度そして最も基本的な要件として言われている印刷機を実際に操作する者の技倆等の複合的成果である(乙第三三号証の二及び乙第一九号証の二の「切り彫られたパタンローラ3、4、5から、正確に見当合わせをして」の記載、一二八ページ参照)ことは自明の理である。しかも、銀行券等の多色地紋印刷における色と色の間の正確な刷合せについては、一八九二年(明治二五年)のドイツ帝国特許第六二〇五三号明細書(乙第三四号証)及び同年のアメリカ合衆国特許第四八一七七〇号明細書(乙第三五号証)により既に公知技術として容易に実施可能となっており、さらに、これらには銀行券等の多色印刷において表裏が完全に重なるような印刷技術についても、
三色の色と色との間の刷合せが同時に表裏一致する印刷技術が既に公知である旨記載され、これを透過光で見たときに全体が単色で見える技術も記載されている。そして、以上の印刷について写真製版による方法も、一九二一年(大正一〇年)のドイツ国特許第三三八三三三号明細書(乙第三六号証)により開示されている。
右以外の刷合せに関する技術は公知・公開の技術であるオフセット印刷におけるゴム胴によるいわゆるザンメル(多色集合)印刷の技術の問題に過ぎない。
ちなみに、実際に表裏が完全に重なるように印刷され発行された銀行券の例としては次のようなものがある。
(1)昭和二〇年(一九四五年)発行フランス一万フラン紙幣(眼の部分、乙第三七号証の一)(2)昭和二三年(一九四八年)発行ドイツ百マルク紙幣(肖像部分、乙第三七号証の二)(3)昭和二三年(一九四八年)発行ドイツ五〇マルク紙幣(肖像部分、
乙第三七号証の三)(4)昭和二八年(一九五三年)発行フランス千フラン紙幣(肖像部分、
乙第三七号証の四)3以上の事実を総合すれば、シムルタン印刷機は、印刷機械及びこれに密着する関連・周辺機器・装置の比較的定評のある複数の製造業者の製造技術、材質等の集合した商品として、日本以外の国でも商業上の成功を得たかもしれないが、原告主張のシムルタン印刷機に関する技術情報の原形式である、甲第七〇号証記載のシムルタン印刷機は公知・公開された技術によるものであり、その部分的変更形式である甲第七四号証記載のスーパーシムルタン印刷機の変更部分もすべて公知・公開された技術によるものであることが明らかである。仮に原告主張のオフセット印刷機に何らかの特徴が認められるとしても、それは公知・公開技術の組み合わせに基づき当然予測・到達される技術的知識の範囲内に属するものである。したがって、
原告主張のシムルタン印刷機に関する技術情報及びLー832の使用技術は、いずれも公知・公開された技術的知識であるか、少なくとも右公知・公開の技術の総和の域を出ないものであって、この点からしても到底秘密に値するものではないことが明らかであり、さらに前記のように度重なる特許出願において公開されていることを併せ考えると、もともと秘密にする意図もなかったと推測され、原告の前記主張及び秘密保持義務の存在に関する主張は失当であるといわなければならない。なお、印刷機全体に関する主張も失当であること既に主張・立証しているとおりである。
二別紙目録(二)の(二)記載の技術情報について1原告が秘密保持義務の対象として主張する技術情報は、既述のシムルタン印刷機についての技術情報と同様に印刷機械の構成に関するものであるが、当該機械は特に遮蔽されておらず、その組立て・構成が露出し、外部から容易に現認できる外観・形態のものであって、当業者が使用中の製品を一見すればその構成を容易に認識・知得できるものであるから、秘密として管理されているとは到底いえない。
また、右技術情報は印刷技術分野における技術常識、すなわち、後記のとおり公知・公開のものである。
2別紙目録(二)の(二)に記載され、甲第八四号証に示された「二枚の刷版により印刷する凹版カラー印刷機」(以下「2P凹版機」という。)の構成要素及び印刷機全体に関する技術情報についての原告の主張自体、意味不明であるか、技術的意味のない特徴を含む技術的事項について秘密保持義務の確認を求めるものを含むとともに、その技術情報自体、当業者にとっては既に公知・公開の技術的知識に基づいた情報で、実質的技術的に秘密情報として保護に値しない技術情報であることは、以下に述べるとおりである。
(一)原告の「2P凹版機」の特徴に関する主張は、転々と変化し、現に別紙目録(二)の(二)と要約準備書面との各記載において食い違っており、その主張内容を正確に把握できないところがあるほか、要約準備書面の同機の特徴の記載は、甲第八四号証の記載と食い違っている。
すなわち、要約準備書面には、「従ってスタッカがシートでいっぱいになったら印刷機を停止する。」とあるのに対し、甲第八四号証(九ページ、Sheetdelivery訳文一二ページ)には、「所定の高さにシートが積み重ねられると、スタックが手動で下降され、新しいテーブルが挿入されます。この作業は、印刷作業中に容易に行うことができます。スタックを高く積み重ねることの出来ない凹版印刷では、手又は小さな台車によってスタックを取り出します。」(要するに、印刷作業中に積み重ねられたシートは手又は小さな台車によってスタッカから取り出されるから、スタッカがいっぱいになることはなく、印刷機を停止する必要がないというのであるが、一時間三〇〇〇枚の速度でほとんど絶え間なく落下する印刷紙の印刷画像のこすれ等の損傷することなく新しいテーブルを挿入することは事実上不可能なことに属し、当時、凹版機において技術的には実施不可能なことである。図面G-05.149.0号図面の部材番号12部分参照。)。ただし、印刷局調達の2P凹版機は、甲第八四号証の記載とは異なり、印刷機を停止しないと印刷部分が損傷するためこれを避け、また、そのままでは当然印刷機が稼働できなくなることから、印刷機を停止して取り出していた。
さらに別紙目録(二)の(二)ニの記載は、甲第八四号証(七ページ、Inkfountains訳文九ページ)と矛盾する。すなわち、該駆動モータは印刷時にはインキローラ列を駆動しないのに、右ニの記載では印刷時にも駆動させる記載になっている。
以上によれば、原告の主張する構造的特徴は把握困難であるばかりか、要約準備書面の同機の特徴の記載が同機の取扱説明書の記載に反するいわば弱点ないし欠陥にあたると見られるのに、これを技術的な特徴という原告の主張自体が意味不明である。したがって、かかる意味不明かつ技術的意味のない特徴を含む技術的事項について秘密保持義務の確認を求めることは許されない。
(二)(1)乙第四〇号証の二(印刷学会出版部発行「印刷雑誌」一九五四年(昭和二九年)一月号三七巻一号二〇ページ)によれば、「ケーバウ・ジオリ3色凹版印刷機」なる印刷機の略図として同機の構造等が理解できる組立図が開示され、かつ「そして【P14】氏の考案した新印刷機は、ドイツのケーニッヒ・バワー社の手で製作され“ケーバウ・ジオリ”と名乗ってヨーロッパに十数台が予約されていることは本誌昨年2月号(代理人注乙第六六号証の二(印刷学会出版部発行「印刷」一九五三年(昭和二八年)二月号三六巻二号二六ページ))にのった【P22】氏の談話で知ったところである。このジオリ印刷機の構造は上にその略図を示したように3色機である。左端のストリームフィーダー(1)から出る紙は差しつけの位置までくるとクワエ爪(2)にくわえられる。この爪は運動して圧胴(3)と同じ速度で圧胴の爪に紙を渡す。圧胴は凹版をとりつけた版胴(4)と接して印刷が行われ、刷紙はチェイン排紙によっておくり出されるが、この途中数組の空気吹出口を通り、
紙受台(11)の近くにくる。このとき間紙フィーダー(10)から間紙が差されて、1枚ずつ間紙が入って紙受台に積まれてゆく。さて、版胴に対して3組のインキ装置(6、7、8)があり、一つの凹版面に3色のインキがつけられるのだが、5組の着けローラ(合成樹脂)は、それぞれの色をつけるべき版模様の形に相応して、切りぬかれているので、一つの凹版上に3色のインキがつけられる。着肉された版胴は回転して、拭取りローラ(5)によって、表面のインキをふき取られると同時に、画線内におしこまれる。拭取りローラは溶剤を入れたタンクの中で回転している。この印刷機は版胴に2枚の版をかけるので、直径が大きく印圧が強大である。この方法で刷られた印刷物は、1本の画線が3色に変化しているというふしぎなもので、
どんな写真複写でも偽造はできないといわれている。なお、ジオリ機関では少量の証券印刷用として、凸版による4色印刷機を次いで世に送るべく計画しているという。」なる記載がある。
これによると、右印刷機は、フランス人【P23】が発明した多色凹版印刷法を採用して【P14】氏が考案し、ケーバウ社が製作した新印刷機であり、
同機に使用されている凹版印刷方式ないし技術的思想は、右【P23】が一九二八年(昭和三年)及び一九二九年(昭和四年)に発明ないし開発したセルジュ・ボーン方式(後記(2)参照)と呼ばれている、周知の多色ザンメル凹版印刷法及びワイピングローラ(後記(三)(2)の引用文冒頭部分参照)等をそのまま採用した公知の技術的知識であるといえる。乙第一九号証の二の本文一二八ページ及び一二九ページ第8図付記部分にも同趣旨の記載がある。また、右のケーバウ・ジオリ3色凹版印刷機は、プレワイピング装置が示されていないほかは、2P凹版機(甲第八四号証中の組立図)と全く同一の機種・構成・外形の印刷機の構造である。したがって、原告が一九六〇年(昭和三五年)に提供したと主張する別紙目録(二)の(二)記載の技術情報なるものは、プレワイピング装置を除くすべての構成・技術的事項(後記(四)参照)が遅くとも一九五四年(昭和二九年)一月には当業者にとって公知・公開の技術的知識となっていたことが明らかである。
(2)セルジュ・ボーン方式については、【P23】による、圧胴に向けてシートを供給し圧胴と版胴間にシートを送り込んでシートの片面を凹版多色カラー印刷するようにした凹版カラー印刷機において、パタンローラ(部分着肉ローラ若しくはシャブロンローラともいう。)によるインキ着け方法(フランス国特許第六五四九三四号明細書、特許庁受入れ年月日昭和四年一〇月一一日、乙第四一号証)並びにワイピングローラ及びその洗浄方法について(同国特許第六七〇三七六号明細書、特許庁受入れ年月日昭和五年五月一三日、乙第四二号証)の各フランス国特許明細書によりそれぞれ公開され、公知となっている。そして、このことは、原告も暗に認めているようである。
また、同方式における多色ザンメル凹版印刷法及びワイピングローラ等は、ランベール社により既に一九四二年(昭和一七年)以前にそれぞれ製品化され販売されていたこと、しかも別紙目録(二)の(三)に記載され、甲第八五号証に示された「四枚の刷版により印刷する凹版カラー印刷機」(以下「4P凹版機」という。)においても採用・使用されていることは、「アルヒーフフュールブーフゲヴェルベウントゲブラウスグラフィク」("ArchivfurBuchgewerbeundGebrauchsgraphik")誌一九四二年別冊八号の証券印刷機械の項・「四色枚葉凹版輪転印刷機」(一二ページ、第20図、乙第四三号証の一)、「テクニスクティードスクリフト」("TekniskTidskrift")誌一九五六年八月号(六五四ページ及び六五九ページ第11図、乙第四三号証の二、翻訳文は同号証の三)、甲第七五号証(四八ページ右欄下から一五行目から一二行目まで)から明らかである。また、乙第四三号証の一、二の両誌記載の第20図及び第11図がセルジュ・ボーン方式によるものであることは、【P24】編「印刷製版技術講座4平版及び凹版製版印刷技術」(一九三、一九四ページ、乙第三三号証の三)に明示されているところである。ちなみに、乙第四三号証の二は、昭和三二年一月には翻訳されて印刷局発行の研究所時報第九巻第一号に掲載され、かつ部内に配付された(乙第四三号証の三、一二ページ)。
(三)(1)プレワイピング装置とは、「凹版印刷機の版胴に取付けられた刷版から余分なインキを取除くために、版胴と接触しつつ回転するクリーニングシリンダと、版胴の回転方向からみてクリーニングシリンダの前方において版胴と接触しつつ回転するプリワイピングシリンダとを使用すること」(別紙目録(二)の(一三)1)であるとされる。しかし、この技術的思想は印刷局が昭和八年に開発した単色若しくは二色の旧局式凹版輪転印刷機において、版胴と接触しつつ作動するワイパー(ただし、拭布方式による。)とワイパーの前方において版胴と接触するインキかき取りローラ(当然インキを押し込む効果を有する)を使用していることと何ら変わりはないものであり(乙第四七号証の一、三及び乙第三一号証の三、六八ページから七五ページ第1図及び第4図。この発想はもともと印刷局が明治三五年に購入設置したアメリカ合衆国のアール・ホー社の凹版速刷機において仕上げ拭きの前に上拭きするという仕様になっていたことに基づくものである。)、その後、
前記ワイパーはローラも使うようになったものであって(乙第四三号証の一、八ページ第10図)、プレワイピング装置なるものも公知の技術的知識である。
プレワイピング装置は、【P14】氏自身が出願した、特許公報(特許出願公告特公昭三九ー五一一六、乙第四八号証)によると、同氏は、出願時(昭和三六年七月二七日)の認識において、「発明の詳細な説明」の項で「凹板(版の誤記と認められる。)印刷において(彫刻金属板)の掃拭(ワイピング)を紙または布片を該板に沿つて運動させるかまたは前掃拭(プレワイピング)および掃拭用シリンダーによつて行わせることは既知である。」(同項上から四行目から七行目まで)として、公知技術であることを肯認しているのである。また、同公報において「ある型式の印刷に極めて適切なインクが他の型式の印刷には適切でないことがあり、この結果版胴の前掃拭及び掃拭は使用されるインクの型式に適用させねばならない。」(同項上から一一行目から一四行目まで)と記載し、プレワイピング装置がインキの組成などに左右されるものであることも示唆している。その他、【P14】氏個人の出願にかかる特許公報(特公昭四四ー二一一八、乙第四九号証)にもプレワイピング装置に関する説明が繰り返されている。
なお、別紙目録(二)の(一三)記載のプリワイピング(プレワイピングのことと思われる。)は、一九六一年から一九七五年にわたって各発展段階において提供された技術情報とされているところ、当然、それは昭和三五年(一九六〇年)契約にかかる印刷局調達の2P凹版機に付属していたプレワイピング装置を指すことはあり得ない(乙第六三号証・同第六四号証の二)。しかも印刷局調達にかかる同機のプレワイピング装置の技術内容は、クリーニングシリンダと技術的に全く同一の方法・装置であって、従来一個のワイピングシリンダで行っていた作用(右プレワイピング装置は、印刷局が当初取得した資料の機械には付加されていなかったものである〔乙第四〇号証の二〕。)を使用インキの組成・製版法等の変化に対応し二個にせざるを得なくなっただけの変更で、必ずしも必要不可欠の技術構成ないしいわゆる進歩性のある技術的事項ではない。このことは、前記【P14】氏出願の特許公報の指摘するところであり、これを使用すると否とでそれ自体格別独自の効果を有するものではない。要するに使用インキの組成・製版法等の差異に対応し、適宜使用する補助的付加的機能を果たす装置にすぎない。現に印刷局においては、効果及び必要性がないためこれを調達機から取り外していた(乙第三一号証の四、八七ページ及び同号証の三、七一ページ)。
(2)ところで、一九六四年三月発行の「フォルムウントテヒニク」誌(一二八ページないし一二九ページ、乙第一九号証の二)には次の記載がある。
「インタリオカラー凹版印刷を拭き取り布で行う場合、布の洗浄が適時必要となる。この欠点を解決するために、パリのセルジュ・ボーン社は、拭き取り布を用いない手法を開発した。余剰インキを逆転シリンダを用いて非画線部から拭き取る方法で、そのシリンダのゴム表面はゼラチン又は合成樹脂材の層を有している。このいわゆる拭き取り胴(ワイピングシリンダ)は、凹画線部にインキを詰め込むと同時に、版表面を清浄にする。このワイピングシリンダは、トリクロルエチレンを充たした洗浄槽の中で回転しており、回転するブラシがその表面に付いたインキを洗い落とす。
最終段階で、ドクタがワイピングシリンダ表面の溶剤をかき取っているので、シリンダは清浄になり、乾燥して、次の版面に向かう。
この方法を利用して、ケーニヒバウア社は、ジオリ機構と共同して第8図に示すような多色凹版印刷機インタリオカラーを開発した。この機械は、56×74cmの寸法の三色枚葉印刷物を毎時3000枚の速度で印刷することができる。この略図を第9図に示す。
版胴1と圧胴2は同一径で、極めて大きな直径を有している。これらには、各々二つの印刷部分が付いている。版面としては、電胎法によるニッケル版又は銅版が用いられる。インキは、特殊な方法で、切り彫られたパタンローラ3、
4、5から、正確に見当合わせをして、版面に転移される。インキ装置は、後退することができるので、各胴に近づいて作業するのに都合が良い。版の非画線部の清浄には、シリンダ9が用いられる。このシリンダは版とは逆の方向に回転している。弾性体で覆われている表面が同時にインキを版の凹画線内に詰める働きをしている。局部的な磨耗を避けるために、ワイピングシリンダは、回転運動と同時に軸方向に往復運動を行っている。版面の非画線部から除かれたインキをもったワイピングシリンダは、洗浄槽の中に入り、インキは、ナイロンブラシ10及び11で洗い落とされる。これらブラシはトリクロルエチレンの中で回転している。ドクタ12が、
ワイピングシリンダ表面の残った溶剤をかき落とす。ワイピングシリンダが完全に乾燥して清浄になって、次の版面に出合うように、その表面に前もって送風パイプ13で空気を吹きつける。印刷用紙は、大きい給紙台14からスウィンググリッパ15に送られ、更に圧胴2に渡される。印刷された用紙は、排紙機構16のチェングリッパで運ばれ、温められた空気を吹き出すパイプ17の上を通過する。このエアクッションに乗って用紙は、右方向に移動する。これと同時に、(間紙)給紙台18から間紙が印刷されたばかりの印刷面に接触しないように、下に落ちてくる印刷物の下に導かれる。間紙と印刷用紙はチェングリッパで保持され、グリッパ装置19が二枚の紙をつかみ、排紙台20の上にそれらを置く。
インタリオカラーは、証券印刷機としては最も新しいものに属している。その同じ原理に基づいて、毎時6000枚の印刷速度を有する二番目の機械が開発された。この機械の版胴には4版の版面が取付けられている。印刷された用紙の排紙は、二つの排紙台の上に交互に行われる。インキ装置の版胴からの後退、圧力の加除、その他の機械各部の動作はすべて油圧で行われる。
第8図ケーバウージオリーインタリオカラー、セルジュ・ボーンーシステムを用いた凹版印刷機(写真)第9図ケーバウージオリーインタリオカラーの概略図1版胴2圧胴3、4、5パタンローラ6、7、8後退可能なインキ装置9版胴と逆方向に回転するワイピングシリンダ10、11ワイピングシリンダを清浄にするナイロンブラシ12ドクタ13送風パイプ14給紙台15スウィンググリッパ16チェングリッパ17送風パイプ18間紙19グリッパ装置20排紙台」(3)乙第一九号証の二、同第四〇号証の二及び前記公知技術資料を総合すると、以下の事実が認められる。
「インタリオカラー」なる標題のもとの凹版カラー印刷機の解説記事、
写真及び第9図(ケーバウージオリーインタリオカラー機の組立図)並びにケーバウ・ジオリ三色凹版印刷機の組立図及び解説記事(乙第四〇号証の二)によると、
両誌に開示されている機械は、ケーバウ社がジオリ機構と共同して開発した二枚の刷版により印刷する多色凹版印刷機インタリオカラーの機械であり、その構成は次のとおりであった。
イ(別紙目録(二)の(二)の構成イの部分)印刷用紙は、給紙台14(乙第四〇号証の二では1。以下括弧内の数字は同様とする。)から揺動するスウィンググリッパ15(2)に送られ、更に圧胴2(3)に渡される構成であることは公知の技術であった。
ロ(別紙目録(二)の(二)の構成ロの部分及び別紙目録(二)の(三)の構成ロの部分)前記乙第三一号証の三、同第四二号証、同第四三号証の一、同第四七号証、及び同第四八号証とを併せ考えれば、版胴に取り付けられた刷版表面から余分なインキを取り除くために版胴と接触しつつ回転するインキ拭き取りシリンダであるプレワイピングシリンダ及びクリーニングシリンダを使用することが公知の技術的知識であった(前記(三)(1)参照)。
ハ(別紙目録(二)の(二)の構成ハの部分)版の非画線部の清浄(Reinigung)には、シリンダ9(5)が用いられており、このシリンダは版とは逆の方向に回転して、弾性体で覆われている表面が同時にインキを版の凹画線内に詰める働きをしている。また、局部的な磨耗を避けるために、ワイピングシリンダは、回転運動と同時に軸方向に往復運動を行っている。シリンダのゴム表面はゼラチン又は合成樹脂材の層を有しており(後記(四)A参照)、また、このワイピングシリンダは、トリクロルエチレンを充たした洗浄槽の中で回転しており、回転するブラシがその表面に付いたインキを洗い落とす。
ところが、この点(ワイピングシリンダは、トリクロルエチレンを充たした洗浄槽の中で回転しており、回転するブラシがその表面に付いたインキを洗い落とすこと)に関する技術については印刷局出願(昭和三一年八月二三日)にかかる実用新案公報(実用新案出願公告昭三五ー二九八〇一、乙第五〇号証)並びにワイピングローラの洗浄剤としてトリクロルエチレンを使用することについては、
特許公報(特許出願公告昭三一ー二七一〇、乙第五一号証)及び実用新案公報(実用新案出願公告昭三〇ー七八〇一、乙第五二号証)においてもそれぞれ公開されており、右各技術内容は公知・公開のものであった。
ニ(別紙目録(二)の(二)の構成ニの部分)乙第四〇号証の二の組立図、乙第一九号証の二の一二六ページ写真部分及び一九八九年(平成元年)発行「ザマネーメーカーズインターナショナル」三四ページ(乙第五三号証)の写真にある機械には、三個のモータが設置されていることからすると、版胴にインキを供給するための複数のインキローラ列をそれぞれ別個の駆動モータにより駆動すること及び複数のインキローラ列を具えたインキングキャリッジを移動できることは公知・公開の技術であった(甲第七〇号証の二の該当部分参照)。
ホ(別紙目録(二)の(二)の構成ホの部分)乙第四五号証第1図(本号証の部材番号はゴシック体で示す。以下同様とする。)、乙第一九号証の二及び同第四〇号証の二によると、印刷された用紙が排紙機構87・16(9)のチェングリッパで運ばれ、温められた空気を吹き出すノズル17の上を通過すること、及びこのエアクッションに乗って、用紙が右方向に移動され、シートスタッカ10・20(11)まで搬送されることは、公知・公開の技術内容であった。
ヘ(別紙目録(二)の(二)の構成ヘの部分)乙第四五号証第1図及び第3図ないし第5図、乙第一九号証の二及び同第四〇号証の二によると、間紙給紙台91・18(10)から間紙(interleavingsheet)が印刷されたばかりの印刷面に接触しないように、印刷物の下に導かれること、及び間紙と印刷用紙はチェングリッパで保持され、グリッパ装置87・19が二枚の紙をつかみ、排紙台10・20(11)の上にそれらを置くことは、公知・公開の技術内容であった。
以上の事実を総合すれば、原告主張の2P凹版機の技術的事項は、単なる機械の構造ないし構成を主張しているもので、秘密の技術情報(ノウ・ハウ)とはいえないのみならず、すべて公知で、公開された技術といわざるを得ない。
(四)以下に示すようなその他の技術情報についても一般的に常用されていた公知・公開の技術によるものである。
@拭取りローラ(5)(クリーニングシリンダ)の洗浄槽の洗浄剤としてトリクロロエチレン(トリクレンと同じ。)を使用することは古く昭和一七年から周知の常用技術である(例えば乙第四三号証の一等参照)。
Aゼラチンコーティングローラに至っては、今より約二〇〇年前である一八〇〇年代の始めころに既に印刷用ゼラチンローラとして開発され、以後ゼラチン特有の柔軟性に加えて耐溶剤性及びインキに対する親和性(着き工合)と剥離性(離れ工合)のバランスの優れた性質があることが知られ、インキングローラ等としてごく最近まで一般的に利用されていた世界的に周知の常用技術である(例えば乙第四三号証の二、三及び乙第四四号証の二)。
【P23】がワイピングローラにゼラチンコーティングローラを使用していることは、乙第四二号証(一ページ右欄五八行目から六二行目まで、二ページ右欄五五行目から五九行目まで、訳文二枚目五行目から七行目まで、三枚目一行目から三行目まで)により明らかである。
Bスインググリッパ装置は周知の常用技術であり、乙第四三号証の一の三ページにスインググリッパの記載がある(右欄二一行目から二五行目まで)ことによっても明らかである。
Cチェーン搬送装置が周知の常用技術であることは、乙第二四号証の二の第一二〇図並びに乙第四三号証の一の三ページ(右欄下から五行目から一行目まで)、九ページ(右欄下から二行目から次ページ左欄上から三行目まで、第一三図)及び一〇ページ(左欄下から一二行目から一〇行目まで、第一四図)により明らかである。
D間紙挿入装置は、古くから多色輪転(凸版)印刷機において用いられてきた周知の常用技術であるが(昭和一三年一月一五日発行「英和印刷書誌百科事典」六五三ページ、travelingsetoffwebの項、乙第三九号証の三)、多色輪転凹版印刷においても印刷速度の高速化と共に不可欠となり、手差しに代わって給紙機を使用せざるを得なくなったものである。多色輪転凹版印刷機においてこれが公知技術であることは、例えば【P14】氏出願の「多色凹版、凸版及びオフセット輪転印刷機」にかかる米国特許第二六五九三〇五号明細書(一九五三年〔昭和二八年〕一一月一七日特許・特許庁受入れ年月日昭和二九年七月二三日)(乙第四五号証)により明らかである。
右によると、発明の説明中(第8欄一八行目から二五行目まで、訳文九枚目二行目から六行目まで)に「このエンドレス・コンベヤは印刷された紙を図1に示し、図3に図解したように配列された間紙挿入装置へと運ぶ。この装置は、斜面90とこれに連結する、すべての公知タイプのもので差し支えない自動給紙機91(図1)から構成される。図面では、この給紙機は給紙機39と同種である。」とあり、間紙挿入装置は印刷における通常のいわゆる給紙作業をすること、したがって、間紙挿入装置には自動給紙機を使用すれば足りるという当業者にとって極めて日常的な技術的知識も明らかにされている。なお、当時の公知の自動給紙機とは、
ストリームフィーダ型、ウニバーサル型、ケーニヒ型、デキスター型等があった(【P25】著「印刷術」(上)大正一四年一一月一五日発行三八八ページから三九五ページ〔乙第四六号証の二〕、英和印刷書誌百科事典六一二ページ及び一三一ページ〔乙第三九号証の四、五〕)。
なお、間紙挿入装置は、現在インキ等が改良された結果不要となり、一般的には使用されていない(甲第七一号証〔六三ページ下から七行目〕及び甲第七五号証〔四八ページ左欄下から一行目から右欄六行目まで〕)。
(五)したがって、原告主張の2P凹版機の構成要素及び印刷機全体に関する技術情報が公知・公開のものであって、技術上の秘密として保護するに値する技術的知識でないことが明らかである。
三別紙目録(二)の(三)記載の技術情報について1原告は、甲第八六号証について、同図面の凹版機が三つの刷版を具えている旨主張するが同図面にはそのような記載は全くないのみならず、そのように推測できる記載もない。
2また、原告が秘密保持義務の対象として主張する技術情報は、印刷機械の構成に関するものであるが、当該機械は特に遮蔽されておらず、その組立て・構成が露出し、外部から容易に現認できる外観・形態のものであって、当業者が使用中の製品を一見すればその構成を容易に認識・知得できるものであるから、秘密として管理されているとは到底いえない。
3次に、原告が主張する「4P凹版機」の構成要素及び印刷機全体に関する技術情報が、実質的技術的に秘密情報として保護に値する技術情報かどうかを検討する。
(一)4P凹版機と2P凹版機との相違点4P凹版機は、
ア二枚の刷版を四枚の刷版にしたことイ一つのチェーン搬送装置を三つにしたことウ一個のシートスタッカを一対のシートスタッカにしたことエスインググリッパ装置をストップドラム方式に変えたことオ中間紙供給装置を除去したこと(オプション装置にした)カインキダクトローラからインキ練り硬質ローラにインキを移送する一つの振動体(Vibratingroller)を二つにして交互に移送することにしたことキ複数のインキローラ列の駆動モータをそれぞれの別個の駆動モータから一個の駆動モータにしたことクその他(甲第八五号証によれば、インキ練りローラ(distributingroller)列の箇所に変更が示されているのが認められるが、その技術的内容は確認できない。)の各点を変更しているが、いずれも2P凹版機を構成する一般常用部分装置を他の一般常用部分装置に交換又は構成部品の数量の増減をしているにすぎないものである。
(二)別紙目録(二)の(三)2に記載され、甲第八六号証に示された「三枚の刷版により印刷する凹版カラー印刷機」(以下「スーパー3P凹版機A」という。)と2P凹版機との相違点スーパー3P凹版機A(甲第八六号証)と2P凹版機との差異については、原告の主張はないが、甲第八六号証と対比するとア2P凹版機を4P凹版機において変更した前記ウ、エ、オにしてあることイ二枚の刷版を三枚の刷版にしたことウ一つのチェーン搬送装置を二つにしたことエ「インキを溜めておくインキダクトから一個のダクトローラのみを介してインキを着肉ローラに供給すること」(印刷局で、ローラ列の短いインカー機構(oneinkingsystemofshorttrain)と称しているもの。以下「ショートインカー」という。)を採用したことオシート検査用シートサンプリング装置を付加したことカ別紙目録(二)の(三)ニ記載の振動体(2P凹版機では構造的特徴とされていないもの)及び着肉ローラに接する二つのゴムローラの使用を廃止したこと(右ショートインカーを採用したことにより不要構成要素となったもの)の各点の変更が認められ、2P凹版機を4P凹版機において変更した前記キの点は甲第八六号証では記載が省略されているので不明であるが、いずれも2P凹版機を構成する一般常用部分装置を他の一般常用部分装置に交換・付加したり、一般常用部分装置を除去したり又は構成部品の数量の増減をしているにすぎないものである。
(三)甲第一五三号証に示された「三枚の刷版により印刷する凹版カラー印刷機」(以下「スーパー3P凹版機B」という。)と2P凹版機との相違点スーパー3P凹版機B(甲第一五三号証)は、原告においてその構造的特徴については直接主張していないが、被告において2P凹版機と対比するとア2P凹版機を4P凹版機において変更した前記ウ、エ、オにしてあることイ2P凹版機をスーパー3P凹版機Aにおいて変更した前記イ、ウ、エ、
オ、カにしてあることの各点において変更が認められるが、その構造的特徴はスーパー3P凹版機Aと変わっていない。
(四)以上2P凹版機、4P凹版機、スーパー3P凹版機A、Bのいずれの機械も2P凹版機とセルジュ・ボーン方式という基本的構成は共通であり、その各変更点は、慣用ないし公知技術の範囲内の変更すなわち、いずれを採用するかは当業者が適宜取捨選択できる単なる設計事項であって、格別の技術的意義があるとは認められないので、結局いずれも同一の技術である。
(五)以上によれば、原告の主張は、凹版カラー印刷機に関するものではあるが、その内容は、凹版カラー印刷機の主要部である凹版印刷機構を除いたその余の部分に関するものである。すなわち、原告主張の凹版カラー印刷機開発前に既に当業者には従来周知・常用の凹版輪転カラー印刷機の凹版印刷の基本方式である、版を湾曲版として版胴に巻き付け、版のすべての画線が版材の表面よりもくぼんで凹溝状になっており、印刷に当たっては、初めに、画像を使用各色毎に分割された数個のインキ着けローラ(部分着肉ローラ)の部分着色により、全版面にインキを付着させ、次に種々の手段にて画線以外のインキを拭き去り(wiping)、この版胴に接触しつつ回転する圧胴による強押圧を加えて、凹線中のインキを紙に印刷する方式・構成(乙第三九号証の二)以外の部分に関するものであり、しかも印刷の前後に当然必要な給紙機構、インキ着け機構、排紙機構、場合により間紙挿入機構を具備している、周知・常用の凹版カラー印刷機における印刷機自体及びその各機構の部分的技術事項に関するものを、秘密の技術情報といっているにすぎない。
(六)別紙目録(二)の(三)の技術的検討(1)乙第四八号証(特許公報・特許出願公告特公昭三九ー五一一六、出願人【P14】氏、第1図)に4P凹版機の全体の組立の構造が示されている。なお、
二枚の刷版を四枚の刷版にした点については、単に版数を増加変更したもので、このような変更は、当業者が必要に応じ随時なしうる常用技術の範囲内に属するもので、技術的意義はない(乙第一九号証の二、一二九ページ「インタリオカラー」の項目中に「この機械の版胴には4版の版面が取付けられている。」の記載参照。)。
(2)同目録(三)の構成イの部分給紙装置(フィーダ)には、常用手段としてスインググリッパ及びストップドラムなどが周知である。乙第二一号証の七(【P20】著「印刷機械」七三ページ末行から七四ページ五行目)に給紙胴すなわちストップドラムの使用が示されているほか、乙第一九号証の四(ドイツ「産業労働組合〔印刷・製紙〕」発行「フォルムウントテヒニク」誌一五巻二号一九六四年二月号七五ページから七六ページ)にグリッパドラムが説明図面とともに記述されており、さらに乙第四八号証(特許公報一ページ右欄一八行目及び第一図部材番号3)に周知の常用技術として記載されている。
(3)同目録(三)の構成ロの部分前記二2(三)(3)ロと同一であるからこれを引用する。
(4)同目録(三)の構成ニの部分(同構成ハは欠除になっている)2P凹版機と異なる構成である、二つの振動体部分は、乙第二五号証の一、二及び乙第二七号証並びに原告出願の特許公報(公開特許公報特開昭六〇ー四二〇四四、乙第五四号証)において公開されている(この部分は、4P凹版機は凹版版面を2P凹版機の倍の四版としたため、印刷に必要となるインキが約二倍となるため、振動体を二個にしたものと思われるのであって、特別新しい技術を含むものとは認められない。)。
なお、二つのゴムローラ部分は、原告は、4P凹版機において主張しているが(別紙目録(二)の(三)のニ)、2P凹版機において既に使用されているものであり(甲第八四号証参照)、乙第四〇号証の二の組立図及び乙第一九号証の二(一二九ページ)第9図においてそれぞれ公開されている。
(5)同目録(三)の構成ホの部分自動切替が前提である一対のシートスタッカは乙第二九号証の一(写真)及び二(第1図)並びに前掲乙第四八号証の第1図及び第6図その他に開示され、公知・公開の技術である(なお、4P凹版機はいわゆる自動切替装置を具備しておらず、人的操作により切替えているので、原告の主張が、自動切替の意味を含むとすれば、明らかに失当である。)。
(6)同目録外で要約準備書面記載の構造的特徴(二七ページ)同特徴の(D)及び(F)は、乙第四八号証第1図に開示されている。
複数のインキローラ列の駆動モータをそれぞれ別個の駆動モータから一個の駆動モータにしたことは、原告は技術情報として主張していないものの、版胴にインキを供給するための複数のインキローラ列を駆動するに際し、当業者が適宜選択実施できる常用技術にすぎない。現に印刷局は、4P凹版機以前から一個にて駆動していた。4P凹版機も常用技術に従ったものにすぎない(乙第七八号証の一ないし六)。
(七)スーパー3P凹版機A及びBについて(1)原告は、スーパー3P凹版機A及びBについては、その構成の一部を4P凹版機の構成の一部として主張して技術情報として特定を欠いているが、甲第八六号証及び同第一五三号証を提出しているので、一応言及しておくと次のとおりである。
原告は、別紙目録(二)の(三)六ページの2において、一九七七年(昭和五二年)に被告に対し甲第八六号証を提供したと記述しているが、要約準備書面においては主張していない。また、同第一五三号証については要約準備書面及び別紙目録(二)では全く言及していないのである。そして、甲第八六号証の提供の具体的時期・直接当事者・場所・方法・内容等の具体的主張はなく、印刷局及び印刷局職員は、右書証を提供ないし開示されたことはない。
原告は、甲第八六号証に関連して甲第七五号証を提出しているが、これは【P18】氏の個人的寄稿にかかる印刷学会出版部一九七八年(昭和五三年)発行の「印刷雑誌」という市販の刊行物である。そして、甲第八六号証の図面記載にかかるスーパーインタリオカラー(凹版印刷機)は一九七七年(昭和五二年)三月に既に販売されていたところ(甲第一六四号証参照)、甲第七五号証「印刷雑誌」の【P18】氏が引用掲載した同機の図面は、同誌発行時には既に頒布されていた同機の宣伝広告ないし販売促進用のパンフレットの図面(乙第七七号証)を転写利用したものである。甲第七五号証中の構造図と乙第七七号証の構造図とは同一のものと認められ、このことは甲第七五号証中の図面を根拠に甲第八六号証の図面が印刷局に交付ないし開示されたことを暗示するような原告の主張にも根拠がないことを示すものである。さらに、乙第七七号証では同機に関する原告主張のような説明はなく不明であり、公開された右パンフレットの記載の範囲に止まっているのであるから、甲第七五号証の図面から見とることができる程度の技術的事項、したがってまた、別紙目録(二)の(三)2記載の技術的事項は秘密に属さないことを明らかにしている。
(2)スーパー3P凹版機Aにおいて変更している前記(二)エを除く他の技術的事項が、公知・公開の技術であることは既述のとおりであるので、エの点について検討するに、原告は、Iー332との対比において同機が「ロ、版胴の刷版に着肉するための複数個のショート・インキング装置が設けられている。」と主張している。しかし、原告のいうショート・インキング装置(別紙目録(二)の(一五))が使用されているか否かは不明であるばかりでなく、右技術情報は原告出願にかかる公開特許公報(特開昭五〇ー九〇八、乙第五五号証)において、「単色または多色銅版印刷機用インク装置」なる名称の下に詳細なる説明を付して原告自身が公開しているものである。
(3)原告主張のショート・インキング装置は、印刷局においてショートインカーとして長年実施経験を有する技術であった。すなわち、「インキを溜めておくインキダクトから一個のダクトローラのみを介してインキを着肉ローラに供給すること」が2P凹版機及び4P凹版機にも実施可能であることを印刷局は、実験的に確認していた。そして、この点がショート・インキング装置における特徴を構成する主要かつ中心的要部であって、原告がショート・インキング装置の内容(別紙目録(二)の(一五))として記載しているその余の部分は右要部を実施するに当たり、印刷目的及びインキの種類・性質に従い当業者が任意に採用できる一つの実施形態であり、印刷局製造部長であった【P16】が昭和四五年一一月の欧州各国への出張の途次【P14】氏と面談した際に、同氏にそのことを提案しているのであるから、結局印刷局の技術が原告に対し教示され、それが原告主張の技術にほかならないのである。
このことは、
・昭和八年製造・設置にかかる旧局式凹版輪転印刷機の設計図(乙第四七号証の一ないし三)・前出の乙第五〇号証、第五二号証・【P16】著「滝野川工場の技術の現状」(「5【P14】氏の錯覚ー凹版機インカー機構に関する疑問」七ページから一一ページ、乙第五六号証の二)・研究所時報昭和四六年八月号(三ページから四ページ、乙第五七号証)・昭和四八年七月二三日付け書面(二ページ、乙第五八号証)・一九七四年(昭和四九年)五月二九日付け書簡(乙第五九号証)等により明らかなところである。
原告は、右技術情報を昭和四八年に印刷局に開示したと主張するが、前記特許(乙第五五号証)を出願している。原告の主張によれば、秘密事項と称しながら印刷局に開示後、特許出願(少なくとも公開を前提とする行為)し、もって情報を公開しているということになるのであって、原告の主張は到底信用できない。
さらに、原告は、同出願について拒絶理由通知を受けると、直ちに取り下げをした。かかる事実を併せ考えると、原告のいうショート・インキング装置については、これが印刷局の技術からの教示技術であるのに、あたかも原告の技術であるかのように装うための手段として、特許出願をしたものと推測されても仕方がない。このようなことは、ショート・インキング装置に限らずAS一二一及び水性ワイピング等において見られたところである。
したがって、原告主張のスーパー3P凹版機Aに関する技術情報は、技術上の秘密として保護するに値するものでないことが明らかである。
スーパー3P凹版機Bは、前述のごとく、スーパー3P凹版機Aと同一の技術であるので、同様に公知・公開された技術にすぎず、技術上の秘密として保護するに値するものでないことが明らかである。
4以上の事実を総合すれば、インタリオカラーと称する凹版カラー印刷機は、
シムルタン印刷機とのセット販売で商業上の成功を得たかもしれないが、原告主張の凹版カラー印刷機に関する技術情報の原形式である甲第八四号証記載の凹版カラー印刷機の構成が、そもそも公知・公開の技術情報であり、全体としても少なくともそれらの単なる組み合わせの技術情報であり、その変更形式である甲第八五号証、甲第八六号証及び甲第一五三号証記載の各凹版カラー印刷機の変更部分も公知・公開の技術であることが明らかである。したがって、原告主張の凹版カラー印刷機に関する技術情報及びIー332の使用技術が公知・公開の技術、少なくとも当業者がその作用効果を予測できる公知・公開の技術的知識の組み合わせないしその総和の域を出ないものであって、当業者が容易に想到、設計可能な技術情報に属し、技術的に新規な印刷機の開発というよりむしろ公開技術の組み合わせに新たな名称を与えたにすぎない感を否定できないもので、到底秘密に値するものではないことは明らかである。
五別紙目録(二)の(五)記載の技術情報について1まず第一に、別紙目録(二)の(五)記載の技術と甲第八七号証記載の技術との技術的関係が主張上明らかでないのみならず、別紙目録(二)の(五)記載の技術を甲第八七号証によっては立証できないというべきである。
すなわち、別紙目録(二)の(五)記載の技術内容は、プレート表面上に塗布するレジスト層(耐腐食層)を三層に形成し、逐次段階的に三回エッチングすることを特徴とする方法であるのに対し、甲第八七号証記載の技術内容は右三層のレジスト層を作成するほかに第一回のエッチング後にさらにレジスト層を設け、都合四層のレジスト層を使用し、合計四回エッチングすることを特徴(甲第八七号証二〇ページ記載の図面及びその説明参照)とする方法である。
前者は真鍮板表面上に直接レジスト層を三層形成し、三回腐食するものであるのに対し、後者は真鍮板表面上にクロムメッキを施し、画線部の上にレジスト層を四層形成し、四回腐食を行うものである点で明らかに工程を異にし、直ちに同一技術と認めることは困難であるから、甲第八七号証は(五)の技術内容を立証する証拠とはなり得ないものである。
2また、別紙目録(二)の(五)記載の技術情報及び甲第八七号証記載の技術内容は公知・公開の技術であり、したがって、秘密保持義務の対象として保護するに値する技術知識に該当しないものである。
(一)乙第七九号証(一九四三年〔昭和一八年〕アメリカ合衆国特許第二三三一七七二号明細書、特許庁資料館昭和三一年一二月四日受入)によれば、その中に「私の発明は特に写真凸版及び類似の印刷プレートのエッチングに適用されるものである。」「私の方法の実施において、適切な材料、できれば亜鉛ないし銅又は他の金属の印刷プレートの上に印刷すべきものの正確な再現である写真画像を形成する。
それから、第1画像の頂部に、これと同様の画像が第1の画像の上に重ね焼きされるのであるが、画線やハーフトーン網点は原図と一致する画線やハーフトーン網点よりもわずかに大きくなっている第2の写真画像で覆う。
それから印刷プレートをエッチング液に入れ、第2画像の外側のすべての部分が深く腐食するよう十分な時間そこに放置する。その後第2画像を形成している被覆素材を除去して第1画像を残し、引き続きエッチング液の中でプレートの第1画像の外側部分を比較的浅く腐食する。連続した腐食の間に、プレートの印刷部分に耐酸性被覆を以下に詳述する方法で施す。」との記載があり、特許請求の範囲としては「第一、印刷プレートの表面に被覆材にて印刷すべき画像の正確な複製である第1画像を形成させること。第二、第1画像の上に被覆材にて第1画像と一致しているが、第1画像を形成している画線やマークより寸法が大きくなっており、第1画像を形成している画線やマークの上に重なっている第2画像を形成させること。第三、第1画像と第2画像を持ったプレートを第2画像の外側の部分について比較的深く腐食すること。第四、プレートから第1画像をそのまま残して第2画像を除去すること。そして最後に、プレートに対し各エッチング操作がプレートの非保護部分を比較的浅く腐食する連続的なエッチング操作をし、かつ右連続的エッチング操作の各合間に、第1画像を含むプレートの隆起した部分の頂部に耐酸性の液を用いて、隆起した部分の少なくともサイドエッジ部分に流下させること、を含む刷版の製造方法。」と明示され、さらには「ある場合には、印刷プレートの上に2つだけ重ね焼き画像を形成する代わりに、3つまたはそれ以上の重ね焼きされた画像を形成することが望ましい、その各重ねられた画像は別々に除去することができるように各々の画像が異なった被覆材料から形成され、また各々の引き続いてできる画像は先行の画像を形成する線やマークよりも大きく、かつ重なりあった線やマークで形成される。多数の重ね焼きされた画像がこのやり方で形成される場合には、比較的深く腐食するように、プレートは、まず、重ね焼きされた画像のすべてそのままで、エッチングされる。その後、各々の引き続いた画像が除去されるごとに、プレートはさらに深くエッチングされる。」との記載がある。
そして、「他の金属の印刷プレート」としては真鍮(黄銅)が周知公開の版材である(乙第八二号証の二の(イ)、(ロ)〔日本印刷學會編「英和印刷書誌百科辭典」昭和一三年一月一五日発行〕四〇ページ、六九〇ページ及び乙第八一号証の二〔共立出版株式会社発行「印刷製版技術講座4平版及び凹版製版印刷技術」昭和三八年七月一日発行〕一五二ページから一五三ページ)。さらに同特許は、乙第八〇号証(一九五四年〔昭和二九年〕アメリカ合衆国特許第二六九二八二八号明細書、特許庁資料館昭和三〇年三月二九日受入)において引用され、
「しかしながら、2種類の全く異なる物質からなる感光性材料を用いて金属プレートの上に2つの画像層を形成する方法も提案されている。金属材料に亜鉛ないし銅を用い、この上に耐腐食性の感光層を塗布する。この上にネガをおき露光する。これを現像して最初の画像をプレートの上に形成させる。その次に別の物質からなる第1の感光液をこの上に塗布し、同じネガをその上に第1画像と見当を合わせてのせ、露光・現像すれば、第2の画像が第1画像と異なった材料で、重なって形成され、第1画像の周辺の保護部分が形成される。現像後の状態は第6図のようになって、2は第1塗布層を、5は第2塗布層を示している。第1塗布層の外縁部に出ている第2塗布層がエッジを保護している。ここで、ディープエッチングを行って、第1塗布層の画線部の限界まで腐食する。この周知の方法においては、第2塗布層は、第1塗布層の上に形成されるが、このとき、ネガを第2塗布層から一定距離に保持して露光が行われる。しかしながら、第1塗布層の画像の外側のエッジを保護する巾bは、ネガと第2塗布層の間の距離や露光光源の入射角xによって左右される。このような要因によって、巾bは塗布層の場所によって異なってくる。
光源Lからの垂線とネガの上の点Nを結ぶ線のなす角xが小さければ、巾bはそれに応じて小さくなる(第6a図)。入射角をxとし、ネガと第2塗布層との距離をhとすると、bはhtanXとなる。入射角xが増加すると巾bも大きくなり、光源からおろした垂線と交わる点からの距離が大きくなる。その結果、塗布層の腐食は最も小さな巾bに許される程度の腐食しかできず、それ以外の場所では、
エッジ保護部分が残った状態となってしまう。この理由からこの方法は、実用的な方法と認められるに至らなかった。」と説明されるとともに第六図ないし第九図による図解がある。
(二)さらに乙第八三号証(ポリグラフ出版有限責任会社一九五五年〔昭和三〇年〕一二月二〇日発行「ポリグラフ」誌二四号所載「マルギナトールを用いた「オスロ」線画腐食法」)によれば、製版における腐食(エッチング)法として、
要旨プレート表面上にまず第一の画像(レジスト層)を形成し、第一の画像(レジスト層)の上に同じネガを用いて第一の画像より幅の広い第二の画像を焼き付けること。この第二の画像は第一の画像を腐食(サイドエッチ)から防止・保護すること。第二の画像幅の拡大は、ネガをプレートに接触させないで離して焼き付けること。画像を焼き付ける際にはプレートを真空吸引で密着・固定することが記載され、さらに「同様にして同じネガを用いて、第2回目あるいはさらに多くの保護層を重ねて深い腐食の肩の形成ができ、全体で三層の感光焼付層を重ねることができる。」「この方法の欠点は、主として3回の感光層塗布と時間のかかる焼付工程にある。」「第2、第3の焼付準備として、版面はクロムのこん跡を除くために、精製した白亜で注意深く洗浄しなくてはならない。また、当然のことながら、焼付層の洗い出し除去に際して、下にある層を損傷することもある。感光層は散粉の溶解したコロホニウムアスファルト層に比べると耐性が劣る。」との記載がある。
(三)以上によれば、別紙目録(五)記載の技術情報及び甲第八七号証記載の技術内容は公知・公開の技術であり、したがって、秘密保持義務の対象として保護するに値する技術知識に該当しないものであることは明らかで、この点においても(五)に関する原告の主張には理由がない。
七別紙目録(二)の(七)記載の技術情報について1スルファミン酸ニッケル浴において、電着を開始する前における準備の際の注意事項のうち、周知かつ公知・公開のものは、次のとおりである。
(一)槽の加熱については、古くは、槽自体にニクロム線の如き電熱線をめっき槽の低部とか側面に配置して電熱により加熱するほか、瓦斯、練炭等の直火を槽底にあてて加熱する方法等が行われていた(乙第八六号証三五ページ)。
(二)希硫酸による洗浄については、古くからめっきの前処理として酸洗いなる方法が提唱されており、酸洗用の槽・電解槽の陽極の洗浄に希硫酸等の酸が使われていた(乙第八六号証三四ページ・一二七ページ(8)・五二ページ三行目〜一八行目まで、同第九三号証五五八〜五五九ページ、五七二ページ及び後記(五)参照)。
(三)活性炭による浄化については、乙第八七号証に「ニツケル浴の濾過に對して活性炭を用いるのも、こまかく浮游している油とかコロイドとしての有機物を吸着させるためである。」(同号証一五ページ)、「膠のような有機コロイドは化學的分解あるいは吸着によつて除くのがよい。分解は一般には過酸化水素、過マンガン酸ナトリウム、あるいは鹽素ガスなどのようなもので酸化させることにより行われる。かかる處理の後に中和し、濾過を行い、メツキ槽をすつかりきれいにする。膠はメツキ浴を活性炭素によつて處理し、吸着させることによつても、また取り除くことができる。」(同号証二八一ページ)と記載されている。
(四)「ニッケルめっき液の作り方」については、乙第九二号証(初版発行が昭和三四年六月一日である日刊工業新聞社「めっき実務読本」第五版同三七年四月三〇日発行)に「@使用するタンクは十分に洗い、希塩酸を満たして数日間放置しておく。溶解する恐れのあるものを除いておく。A水を1/3〜1/2入れて、20〜40℃ぐらいに加温する。B硫酸ニッケルを上部からとかす。竹カゴの大きいものかステンレスのカゴがよい。C塩化ニッケルを上部からとかす。D活性炭を1リットル当り1〜3g入れて、十分に攪拌してから放置し、置換ろ過をする。E硼酸を別の容器で熱湯でとかしてから入れる。F水を規定量まで加えて、温度を上げる。
G十分に攪拌してから、液の比重、pHを測定する。」(同号証一二四〜一二五ページ)との記載がある。
(五)「現場における建浴及び浄化処理の方法」については、乙第九五号証に「まず、タンクのゴムライニング壁は界面活性剤を含む湯でブラシ洗浄し、その後水でゆすぐ。次に60℃に加熱した5%硫酸(0・1%の界面活性剤を含む)でタンクを満たす。次に、上のようにして洗浄の終ったタンクに、半分量の水と計算量のスルファミン酸ニッケル溶液を入れる。水質がめっき液に適さないほど悪い地方では、蒸留水または脱イオン水を使用する。この浴を60℃まで加熱したあとで、ホウ酸と塩化ニッケルを加える。予備槽としてゴムライニング槽が使えるとすれば、建浴と浄化処理を予備槽で行なってから、洗浄済みの本タンクポンプで濾過機を通して移送し、最後に所定量まで水を加えればよい。浄化処理としては、浴を60℃に加熱しておき、カクハンしながらまずペースト状の炭酸ニッケルを加えてpH5・5にする。次に、浴1,000リットルに対して1・2リットルの30%過酸化水素を加え、
さらに最低4時間60℃に加熱を続ける。次に、浴1,000リットルにつき0・5〜2sの活性炭を加える。同一温度でさらに一晩カクハンを続ける。静置ののち、本タンクに浴を濾過機を通してポンプ移送する‥pHはアミドスルフォン酸により調整する。重金属不純物は、鋼製の波形陰極を用いて0.5A/duで電解析出させる。この場合、陰極板はできるだけ大きいことが望ましく、電解は陰極の外観が正常で均一になるまで続ける。これではじめて、浴の準備は完了する。応力抑制剤を必要とするときには、この段階で添加する‥しかし、このあとで何らかの浄化処理を行なうときには、過酸化水素を加えてはならない。」(同号証三二六ページ、乙第九七号証・理工学社「メッキ技術入門」新増補第三版一九七八年五月二五日発行三ー一三〜三ー一四ページ)との記載がある。
(六)「電鋳の設備」については、乙第八九号証の二(潟Aグネ発行「金属」誌三〇巻第六号一九六〇年三月一五日発行)に、
(@)「電鋳の設備はだいたい普通のメッキ設備と同様なものであるが、ただ電鋳の場合は一般に電流密度が高くなるため、攪拌装置および濾過器は必ず取付けねばならない。ニッケル電鋳においては、不純物がひじょうに電着応力を増加させ事故の原因となるため、空電解用の補助槽を取り付け第1図のように濾過器、熱交換器を循環させることは、光沢ニッケルメッキの場合とまったく同じである。」とあり、第1図において「波型陰極式空電解槽」としてめっき液を浄化する波形形状のカソードが作業工程図と共に図示されている。
(A)「特に電鋳は普通のメッキと異なり、長時間電解する必要があるので、作業条件を一定にするための自動化が望まれ、最近種々の自動調節装置が電鋳工業にも取り入れられてきているが、中でも必要なものに電鋳の厚さを一定にする積算電流計をあげることができる。これは電気量が比例するところから(電流効率を考慮する)ある一定の厚みになるとブザーがなったり、パイロットランプが点火するようになったもので、さらに進んで、添加剤の減量や組成の変化が作業量すなわち電着量に関係があることから、積算電流計によってタイマーを作動させ、薬品および添加剤などの補給を自動的に行うようなことも考えられている。例としてニッケルメッキの場合の概略図を第2図に示す。」として、第2図において「ニッケルメッキ浴の自動添加装置」が工程図として掲載されている(同号証一六〜一七ページ及び乙第九九号証二三六〜二三七ページ)。
2「ニッケルサルファメイト浴」において「ニッケルを電着するためにピット防止剤を用い」ることについてそもそも、電気めっきにおいてピット防止剤を使用することについては、乙第八六号証に「酸化劑ニッケル鍍金に水素瓦斯が吸藏されると脆く且つ多孔性になり易い。それは水素が極めて細かい氣泡となつてニッケルと一緒に析出し、爲に表面が粗惡となるのである。遊離する水素と結合すべき物質即ち酸化劑を僅かに鍍金槽に添加して水素の吸藏される事を防止する手段が考へられる。酸化劑としては過マンガン酸鹽、過硫酸鹽、重クロム酸鹽、過硼酸鹽、鹽素酸鹽、過酸化水素、硝酸ニッケル、クロム酸等が試みられた。總て酸化劑の添加量は極めて少なく例へば過酸化水素を使用するとすれば次の如く・・」(同号証九四〜九五ページ)と、また、乙第八七号証に「3.表面張力近年、表面張力の測定と調節の必要なことが(a)アルカリ性脱脂液、(b)酸洗用液、および(c)メツキ浴、とくに光澤ニツケル用の浴に關連して提案された。かかる測定は表面張力を減じるところの特殊な物質、
すなわち濕潤劑(WettingAgent)をこれらの水溶液に添加するときにおける問題である。・・(中略)・・濕潤劑を光澤ニツケルメツキ浴に加える主なる目的は、凹孔(Pitting)を防ぐためである。凹孔を防ぐため普通のニツケルメツキ浴に一般に加えられている有機光澤劑(Organicbrightner)は過酸化水素のごとき酸化劑によつて變化しあるいは分解されてしまう。適當な濕潤劑をもつて浴の表面張力を減じることにより、金屬表面に水素(あるいは空氣)の氣泡が附着して凹孔をつくらせる原因が減じる。」(同号証三三ページ)と記載されており、さらに、乙第八九号証の一に「普通のワット浴などのニッケルメッキ浴により電鋳を行うと、亀裂、捲上りなどの現象を生じ、相当困難があったが、これらが電着層の内部応力によるためであることがわかり、さらに応力減少剤の発見と界面活性剤の応用により、ピットが防止できるようになり、その上スルファミン酸ニッケル浴という、ニッケル電鋳には理想的な浴が現れて、急激に実用化された。」「ニッケル浴の界面活性剤としては、ラウリル硫酸ソーダが最も優れたピット防止剤として使用される。ラウリル硫酸ソーダは電着応力ばかりでなく、電着の結晶、物理的性質にもまったく影響をあたえない。・・」「スルファミン酸浴の組成と条件を次に示す・・」(同号証二八〜二九ページ)と記載されているので、公知・公開の技術知識である。
3(一)「ニッケルサルファメイト浴を準備する際に」「ニッケルサルファメイト浴」において「希硫酸および活性炭を用い」ることについて希硫酸による洗浄については、前記1(二)及び(五)により公知・公開の技術知識である。
活性炭による浄化については、前記1(三)、(四)及び(五)により公知・公開の技術知識である。
(二)「ニッケルサルファメイト浴を準備する際に」「ニッケルサルファメイト槽を加熱処理すること」前記1(一)、(四)及び(五)により公知・公開の技術知識である。
(三)「ニッケルサルファメイト浴を準備する際に」「波形形状のカソードを用いてメッキ液を浄化すること」前記1(六)(@)の図示部分により公知・公開の技術知識である。
八別紙目録(二)の(八)記載の技術情報について1別紙目録(二)の(八)の技術的意味について(一)レリーフ彫刻機について本件においてレリーフ彫刻機とは、レリーフそのものを彫刻・複製することではなく「浮彫りの感じを印刷で表わす版面を彫刻する機械。彫塑の立体的の原型から平面に多数の平行線を彫刻し、平行線の間隔の局部的変化によって立体感を現わすのが特徴である。彫刻機のなぞり針で、原型面の一端から平行線を引き並べるようにして漸次他端に及び、全面をおおう。この針の動きは原型の凹凸に応じて上下するが、たくみな装置によって彫刻針を横振れさせて版材上の防食層に彫刻し、または鋼板に直刻する。この横振れによって生じた刻線は、ちょうど原型の凹凸によって生ずる感じを現わしている。一八二七年アメリカ、フィラデルフィアで【P26】(【P26】独)によって考案され、のち【P27】(仏)、【P28】(仏)その他によって改良された。」(昭和三三年〔一九五八年〕発行・日本印刷学会編「印刷事典」四五九ページ「レリーフちょうこくきreliefengravingmachine」の項・乙第一四四号証)を意味するものと解され、その技術的基本方式は大正三年〔一九一四年〕三月五日発行にかかる【P25】著「印刷術中巻」(一八三ページ・乙第一四五号証)において、「レリーフ彫刻機に於ては浮き彫り又は凹刻したる原型、例令ば彫塑物・メダル・貨幣などの如きものを取りて、之に傚へて運針すると、針が彫塑面の凸凹に從へて、少しづヽ昇降しながら一方に直進するが、他方にある金剛石の針頭は型板に於ける少しづヽの昇降の割合に、左右に振動して彎曲したる平行線が相併びて描かれ、之を注視すると丁度浮き彫りの如き観を呈せしむるのである。」と明らかにされており、その沿革についても「此機械は初めは一八二七年に米國費府に於て【P26】なる獨逸人が發明したものであるか、
その後佛國人【P28】なるもの之を改良し、猶ほ引き續いて種々の改良が試みられて、現今の如く確實なる機械となつたのである。」(【P25】前掲一八三〜一八四ページ、昭和四年〔一九二九年〕大日本印刷講習會発行「印刷術講座中巻」三八ページ〔乙第一四六号証〕、昭和一三年〔一九三八年〕発行・日本印刷學會編「印刷書誌百科辭典」四九七・八ページ「reliefengraving」及び「reliefengravingmachine」の項・乙第一四二号証)と明らかにされているものと推察される。
以上のとおり、別紙目録(二)の(八)におけるレリーフ彫刻機の基本的構成に関する部分が、周知の技術常識に関する技術事項にすぎないことは明らかである。
(二)印刷局備え付けのレリーフ彫刻機と乙第二三号証について(1)レリーフ彫刻について、印刷局は、昭和四年(一九二九年)にレリーフ彫刻機の専門メーカーであるミヒャエル・ケンプ合資会社(MICHAELKAMPFKG.FRANKFURT/MAIN・以下「ケンプ社」という。)からレリーフ彫刻機を調達しており(印刷局物品管理官〔業務部資材課長〕作成・印刷局物品管理簿〔機械器具〕設定番号九八・乙第一四七号証)、昭和三八年(一九六三年)に同機を若干部分的に補修しているが、基本的構造においては、何ら変更されていない。なお、銀行券においては、新券発行自体が極めて稀なことであるのみならず一度発行されると様式は長期間同一のままであることから、同彫刻機が銀行券に使用されることもはなはだ稀なことで、昭和二八年(一九五三年)一二月発行にかかるB百円券の裏面宝相華模様部分に使用されたほか、主として国債等の証券に使用されてきたものである(現行の昭和五九年一一月発行のD壱万円券の表面地紋の一部等のレリーフ模様は同券発行以前にあらかじめ作成・準備されていた印刷局所蔵の各種原版を適宜利用したものであって、同機により同券用に作成されたものではない。)。
同機は、すべての作動が電気的に駆動されており、同機の「作動は完全に自動化され、彫刻作業が完了すると機械は自動的に停止し、従って機械を常時監視している必要はない」ものであった。
なお、同機は、現在印刷局記念館に陳列されている(当該レリーフ彫刻機等の写真・乙一四八号証の一及び二)。
(2)右レリーフ彫刻機の構成は概ね次のとおりである(当該レリーフ彫刻機のビデオ及び同機によりレリーフ彫刻がなされた銅板の写真・乙一四九号証の一及び二)。
(ア)該機械は、金属板上(以下「銅板」という。印刷局では銅板にアスファルト耐食膜を塗布したものを使用している。)にいわゆるレリーフ彫刻を刻することを目的とするものであり、銀行券の原版製作用にも使用されたものである。
(イ)該機械には、レリーフ又は凹刻のある原型(以下「原型」という。)を固定する原型盤と彫刻される銅板を固定する版盤とが水平に配置されるとともに原型盤と版盤はそれぞれ原型及び版に応じて前後左右に移動可能に配置されて作動し、その下部には原型盤と版盤を同期的に作動させる連動装置がある。
(ウ)またその上部には、右原型盤と版盤との同期的移動に伴い原型の表面の凹凸を針(トレーサー)が最適の等間隔の平行線状に順次なぞり、その上下運動を相似形の回転原理により水平運動に変換し、銅板側のダイヤモンド針(彫刻針)が銅板を彫刻する装置がある。
(エ)金属板に替えてガラス板(正確にはガラス板に特殊な不透明ラッカー膜を塗布したもの。以下「ガラス板」という。)上に彫刻する場合は、ダイヤモンド針を鉄針に取り替え、必要あれば版盤側の版盤上に光照射箱(照明ボックス)を配置することになる。
(オ)彫刻が完了した際には、原型盤の移動に従い原型盤の下部の金属棒がリミットスイッチに接触して機械が自動的に停止する。
(カ)原型盤の移動量、彫刻線の間隔に最適なトレーサーの等間隔の平行なぞり間隔及び自動停止位置並びに版盤の縦横の移動量を調整・設定することにより、希望の縮小及び拡大が精密な減速歯車機構を介して可能となる。
(キ)機械の性能・データ・技術的特徴は次のとおりである(ただし、同機調達当時の取扱説明書等技術資料は現存しないので、同機の現況による。)。
最大彫刻面積四〇〇×四〇〇ミリメートル拡大率約七倍まで(ただし目盛上の推定可能限度)縮小率約七分の一まで(ただし目盛上の推定可能限度)彫刻線間の最小距離〇・〇五ミリメートル機械の長さ約一六八〇ミリメートル機械の幅約一〇五〇ミリメートル機械の高さ約一〇二〇ミリメートル甲第八九号証・乙第二三号証記載の彫刻機より性能的に適用範囲が広いと推測される。
(3)乙第二三号証は、ケンプ社発行にかかる彫刻機等のカタログであり、昭和二七年(一九五二年)から同四五年(一九七〇年)の間に印刷局職員が同社日本代理店リッカーマン(日本)株式会社から入手・所持していたものである[同号証の作成時期・頒布期間等については同社に資料等が無く確認できないが、同社の創立年は昭和二七年(「帝国データバンク会社年鑑」平成八年〔一九九六年〕株式会社帝国データバンク発行・乙第一五〇号証参照)であり、乙第二三号証表紙に押捺された右リッカーマン(日本)株式会社の社名印に本店所在地として表示されている「日活国際会館」なるビルは昭和四五年から「日比谷パークビル」に名称変更していることによる。]。
右ケンプ社は、明治一三年(一八八〇年)設立にかかるドイツ国フランクフルト・アム・マインに所在するレリーフ彫刻機等を含むガラス板及び銅板上への原画彫刻用彩紋彫刻機の世界的に著名な専門メーカーであったが、昭和五〇年(一九七五年)ころに彫刻機の生産を廃止しているとのことであり、現在では会社自体存在していないとも聞いている。
同号証は、同社の商品カタログの一部であり、同カタログにはレリーフ彫刻機CVについての説明が記載されているほか、各種の彫刻機等特殊精密機械が紹介されているものである。
(三)甲第八九号証と印刷局のレリーフ彫刻機及び乙第二三号証との比較(1)甲第八九号証と印刷局のレリーフ彫刻機及び乙第二三号証とを比較すると、次のとおりである(なお、印刷局は乙第二三号証記載のレリーフ彫刻機を調達していない。)。
すなわち、甲第八九号証の第一段落のうち、
第一文は乙第二三号証の第一段落の第一文と第二文は同号証の第一段落の第二文と第三文は同号証の第一段落の第三文と第四文は同号証の第一段落の第四文と第五文は同号証の第一段落の第五文とそれぞれほぼ同一内容であるし、甲第八九号証の第二段落のうち、
第一文は乙第二三号証の第一段落の第六文と第二文は同号証の第一段落の第七文と第三文は同号証の第一段落の第八文と甲第八九号証の第三段落は乙第二三号証の第三段落とそれぞれほぼ同一の内容であるが、甲第八九号証の第四段落の第一文記載の技術的事項は印刷局のレリーフ彫刻機に具備されているところであり、第二文は技術的意味が不明確であるので対比できない。
甲第八九号証の第五段落の第一文及び第二文はその技術的意味が必ずしも明確とはいえないが、印刷局のレリーフ彫刻機においていわゆる鏡像的反転等をなしうるものであることは印刷原版製作を目的とするレリーフ彫刻機としていうまでもないし、彫刻スライダを逆方向にセットする必要があれば、逆方向にセットすることも可能である。
甲第八九号証の第六段落は、要約準備書面第二、二、(八)1.第一段落によると、「この機械の作動は完全に自動化されている。・・・従って機械を常時監視している必要はない。」というのであり、常時監視の必要のない機械において、「彫刻されている間パターンを常時観察できるようになっている。」(同第五段落)光照射箱(照明ボックス)は、その技術的意味を有する余地はほとんどなく、実際上も有しないと考えられる。
なお、一般的にコーティングされたガラス板に彫刻する場合に光照射箱(照明ボックス)を使用することは技術常識に属することであり、光照射箱は、レリーフ彫刻機だけでなくパントグラフ及び彩紋彫刻機等にも用いられている汎用器具でもある。
甲第八九号証の第七段落については、前記のとおり、電気駆動手段・電気駆動機構の点は意味不明であり、その余の点は印刷局のレリーフ彫刻機と同一である。
甲第八九号証の第八段落については、乙第二三号証の第四段落の一部と同一内容となっている。
(2)右のように乙第二三号証のCV型機と甲第八九号証のCV型機とは細部における差異はともかく、主たる技術的特徴において同一であることが明らかであるから、甲第八九号証が原告作成及び原告が該情報の正当な保有者であるとの主張が極めて疑わしいのはもとより、甲第八九号証のCV型機がカタログに記載され頒布されるような全く秘密として取り扱われていない技術内容のものであったことも明らかで、もともと秘密性はなく、改めて開示する必要などありえないものといわざるをえない。
2公知・公開の技術との比較(一)別紙目録(二)の(八)記載の技術情報は、前記のとおり印刷局のレリーフ彫刻機、乙第二三号証、乙第一四二号証ないし乙第一五〇号証によれば、要約準備書面及び甲第八九号証の各記載を含めて公知・公開の技術のみによって構成された機械に関するものであることは明らかである。
なお、要約準備書面及び甲第八九号証には乙第二三号証に記載されていない事項も記述されているが、それらの事項(円周分割器具・光照射箱等)等は、具体的な内容は不明確であるが、いずれもレリーフ彫刻機の構成・機能とは直接関係のないもので、操作に必要な便宜的付加的作業に関する公知・公開の付属器具を単に組み合わせることにすぎない。
さらに、原告自体が販売業者であることを自認していることに加えて、原告主張のレリーフ彫刻機械が市販用の機械であることは、乙第二三号証が商品カタログであることにより明らかであり、さらに甲第八九号証の内容が厳密な意味の技術文書の内容ではなく、通常売り込み用に使用される説明書の程度・領域の文書であって、結局同機械を購入しない限り、同号証のみから原告主張のレリーフ彫刻機の技術内容及び実施方法を判断できないものであることから、同項の技術情報といわれるものは、単なる宣伝・販売活動のための情報というにすぎず秘密保持義務の対象となる秘密の技術情報又は同情報を含むものとなりうる余地はない。したがってまた、甲第八九号証の交付は秘密情報の開示となる余地はない。
(二)かつて、いわゆるレリーフ彫刻機によっておこなわれてきた作業は、コンピュータ画像処理技術の発達により、過去の技術となっているのであるから、現在有用性自体が失われているものである。
印刷局では、平成元年度から「コンピュータ画像処理技術の製版への応用」に関する研究に取り組み、平成四年度には、画像処理を応用したレリーフ模様作製法の開発・実用化に成功し、レリーフ彫刻による模様彫刻はもとよりその他の彫刻による模様彫刻もすべて専らコンピュータによって原版を作出している。
従来のレリーフ彫刻機を用いたレリーフ模様の作製に当たっては、原型を作製するためには極めて高度の熟練と長時間(一〜二カ月)を要し、また、レリーフ彫刻機による描画表現にも限界があるため、顧客から要求される見本品の早期提出や納期の短縮が困難であったが、画像処理技術及びコンピュータグラフィックス技術を応用したレリーフ模様の作製する方法によれば、原型作製が不要であるため、原型作製のための特殊技能や高度な熟練技術は必要とせず、誰が行っても、滑らかなレリーフ線を描くことが可能となり、その作製期間も、適当な白黒の下絵があれば二日間と短縮され、従来のレリーフ彫刻機では得られない特殊なレリーフ模様を得ることが可能となった上、他のコンピュータシステムとのデータ互換により、他の装置で作製した彩紋模様にレリーフ模様を組み込むことが可能となり、レリーフ模様の応用範囲が拡大した。
この方法により、見本品の早期提出や納期の短縮が可能となり、実製品に採用され、現在に至っている。
このようなコンピュータ化がレリーフ彫刻機による方法に代わる簡便有利な方法として既に一般的に普及・確立している現在においては、機械的レリーフ彫刻機による方法は過去の技術となっていて、その有用性を欠いている状況にある。
したがって、原告主張の技術情報は、いまや有用性を有しないものといわざるをえないものである。
九別紙目録(二)の(九)記載の技術情報についてニッケル電着において、ピット防止等のため波形形状のカソードを用いることは、乙第八九号証の二、同第九五号証三二六ページ、同第九三号証五〇七ページ及び同第一〇六号証・全国鍍金工業組合連合会「マンガめっき基礎技術入門書」平成四年一二月発行五九〜六〇ページに示されている公知・公開の技術知識である。
一一ないし一三別紙目録(二)の(一一)ないし(一三)記載の技術情報について1凹版は、印刷物のインキ付着層を厚くすること及びインキ付着層の厚さを変化させることによる印刷物の重厚性、すなわち版面にくぼんだ溝状の画線を設けて、平面である凸版・平版の版面よりも多くのインキを詰め、インキ付着層を厚くしかつ溝状の画線の幅と同時に深さを変化させて印刷物へのインキ付着層の厚さを変えて濃淡を表現することにより、他の版式では得られない重厚な印刷効果を表すことができるところに目的・特徴があるものである。
その印刷方法は、まず印刷前のいわゆる拭き取りないしワイピング(多色凹版印刷においてはローラワイピングを用いる。)により、インキを画線に押し込むと同時に非画線部の余剰・余分不要なインキを拭き去る(除去する)ものであることは既述のとおりである。
ワイピングは、その良否が印刷物の品質及び生産能力を大きく左右する極めて重要かつ不可欠な工程の一つであり(共立出版株式会社発行「平版及び凹版製版印刷技術」一九〇ページ、一九四ページ・乙第一九〇号証等)、凹版印刷法においては、その方法自体から印刷以前におけるいわゆる「拭き」(拭き取り)と「あがり」(インキの組成・特性による転移時のインキの転移性及び転移後の図形の鮮鋭度を維持する性質)が凹版印刷の死命を制するものである。しかも、この両者は、
容易に良く拭き取れるインキは逆に画線内のインキも拭き取ってしまい、印刷できなくなるし、その逆にインキの転移性・鮮鋭性を良くすれば、完全に拭き取れないで、印刷できないというように、相互に矛盾する関係にあり、そのため、研究・開発に当たっても一方のみを分離して行うことができない密接不可分の関係にある。
そして、印刷の核心はインキにあるから、ワイピングは当然インキを前提に研究・開発されることになる。
さらに、このような凹版印刷(特に多色凹版印刷)において、高品質・高生産能力を確保するには、まず印刷の核心であるインキについて、絶えず転移性・鮮鋭性等の優れたインキの開発に努めるとともに、その開発されたインキを印刷前のいわゆるワイピング(多色凹版においてはローラワイピングを用いる。)により、
画線に押し込むと同時に非画線部の余剰・余分不要なインキを容易かつ完全に拭き去る(除去する)ことを要するのである。そこで新たに開発・選択されたインキについて、インキを画線に押し込むため又は余剰・余分不要なインキを容易かつ完全に拭き取り去るためには、インキの性質によっては、主ワイピング装置に加えて附加的ないし補助的なワイピング装置としていわゆるプリワイピングその他の当該インキに適応する方法・手段が絶対的に不可欠なものとなる(なお、乙第二号証の一及び五記載の部材番号26「インキ調節ドラム」等のようなプリワイピング装置を装着することは、周知の技術知識であった。ただし、印刷局は、2P及び4P凹版印刷機を設置するに当たって、装着されていたプリワイピングは印刷局のインキには不要であったため、これを取り除いて使用していた。)。要するに、ワイピングとは、特定のインキを選択した以上は、凹版印刷の特質上、インキを画線に押し込むとともに、余剰・余分不要なインキは、これを容易かつ完全に拭き去らなければならないということに尽きる(これはワイピングローラの洗浄も含めたことであるから、ワイピングローラのコーティング剤及び洗浄液等の配合もインキによって決定される。)。換言すれば、ワイピング方法・装置は、基本的に特定のインキについて研究・開発される技術であって、インキの多種多様性及び組成等の秘密性に照らすとワイピング方法・装置に関する技術情報は、当業者が使用するインキを前提としない限り、一般的にその有用性においてほとんど意味がないものである。
しかも、ワイピングにおいて、インキを容易かつ完全に拭き去り、除去することに影響を及ぼす要素には、インキの種類・性質(組成・特性の多種多様性、特にレオロジカル特性)、版面の出来具合、用紙の調子あるいはむらとりその他洗浄液・溶剤の種類・温度、気温、室温、湿度、ローラの回転速度・温度変化など大きな要素が無数に存在することもよく知られているところであり(「凹版インキ拭き取りのポイント」研究所時報第一〇巻第八号昭和三三年八月号・乙第一九一号証等)、これらの問題をクリアする必要があることはもちろんである。特にローラワイピングにおいては、前記のように、とりわけ、インキの種類・組成・特性が大前提であることは当然であり、凹版インキ拭き取りのワイピングの開発は、これら特定のインキに対応してのみ機能を果たせるものにすぎない。
このように、ローラワイピングはインキに対する付随性したがってまたインキに伴う多様性を免れない。また、インキの研究は同時並行的かつ広範囲にわたることを要するが、実際に使用できるのは結局極めて特定的かつ個別具体的な印刷インキに限定されるから、そのワイピングの効果の適用もまたこれに限定されるものとなることを免れないのである。
しかも、特定のワイピング方法・装置は特定のインキのみを対象とするものであって、別異のインキには使えないものであることは、原告も明確に認めているところである(甲第三八号証一ページ(c)項・乙第四八号証一ページ左欄下から八行目〜五行目)。
そうすると原告も、インキの特定していないワイピング方法・装置は技術情報として無意味であることを認識していることは明らかである。
また、前記のような高品質・高生産能力を確保するにはワイピングローラがインキを容易かつ完全に拭き取る材質(使用インキに対する最適性が求められる)であるとともに、その洗浄装置が高い洗浄効果を極めて安定して保持でき、かつ交換作業等を軽減し得るものでなければならない。したがって、インキの研究・開発とともに当該インキに対応するワイピングローラの材質及び洗浄方法・装置の研究・開発も重要なこととなる。
ちなみに、ワイピングローラの洗浄については、印刷における一般常識として、ワイピングローラの洗浄液には有機溶剤のものとアルカリや界面活性剤などからなる水性のものとがあり、一般に水に界面活性剤と炭酸ナトリウム等を溶解したものを基本とする洗浄液を使用することを水性ワイピングと呼んでいる。そして、
有機溶剤ワイピング液を用いる場合にはポリビニルアルコール(PVA)ローラが、水性ワイピング液の場合にはポリ塩化ビニル(PVC)ローラが用いられることが知られている。
既述のように我が国の経済に直接影響のある銀行券の印刷において、ある技術、特に特定のインキ及びそのワイピングの変更を適用するには寸毫の失敗も許されないのであるから、慎重かつ広範囲な準備と緻密な計画の下に研究・開発をし、
しかも印刷における多くの各段階の多岐にわたる各種の基礎実験データの蓄積及び現実の銀行券印刷機において実施可能であることの確認等を要する(平成一一年四月二八日付け事務連絡票・乙第一九二号証参照)。のみならず例えばインキの変更により銀行券のインキ付着層の厚さに微細な変化があれば、印刷機械装置及び刷版等の改造を要するのが普通であるとともに、膨大な数量にかかる銀行券の梱包・搬送はもとより、金融機関等の銀行券取扱機械・装置にも計り知れない影響を及ぼすのであって、インキの変更は単に銀行券製造における多大の人的・物的・経済的負担をもたらすにとどまらず、一般社会にも多大の影響を及ぼすものであるから、インキは簡単に切替・変更できるようなものではない。
したがって、一般的に、ワイピングのような複雑な(複雑に物理化学的作用の絡まる)総合的技術に関しては、外部からの断片的・部分的技術情報などは、右経過、実績及び各種の検討を経由しない以上、ほとんど無価値に等しい情報としかいいようがない。
2開示について原告は、被告に対し別紙目録(二)の(一一)記載の洗浄方法に関する最初の情報を開示し、その時期は昭和三九年(一九六四年)であると主張するが、これは明らかに虚構の主張である。
(一)印刷局は、もともと我が国で長年にわたり多色凹版印刷を主体とする銀行券製造を担当してきており、凹版印刷について、しかもこのような極めて重要かつ不可欠なワイピング工程について、無為無策ではあり得ない。まして、多色凹版印刷を主体とする銀行券製造技術において世界的技術水準にあり、かつ九〇年の歴史と実績を有する研究所(明治四二年創設)及び各種広範囲の実験のできる七ヵ所の工場(印刷六工場、製紙一工場。ただし、小田原工場は製紙部門も含む。)を擁する印刷局は、この分野の研究・開発に不断の努力を行ってきているのであり、現に各国に先んじて新技術を手掛けるとともに開発に多大な実績・成果を保有する(例えば、印刷局は、ノンオフセット凹版インキという画期的なインキを開発し、
かつそのワイピングを開発し、さらにワイピングローラの洗浄概念から脱却して別紙目録(二)の(一三)とは全く別異の方法で洗浄不要の効果を達成している。)。
印刷局は、昭和三六年(一九六一年)に既にノンオフセット凹版インキという画期的なインキ及びワイピングを完成・実施しているのみならず、4P凹版機のワイピングの改良までも完成・実施し、原告から印刷局職員に対し教示を求めるまでになっている(例えば昭和三七年〔一九六二年〕七月一一日付けジオリ機構から【P17】氏あて書簡〔乙第一九五号証〕の返信控である【P17】氏から【P14】氏あて書簡・乙第一九三号証、同年一一月一三日付け【P14】氏から【P17】氏あて書簡・乙第一九四号証及び乙第一八二号証)。右インキ等を完成していない原告らがワイピングの技術情報を印刷局に開示したという原告の主張は筋違いというほかない。
さらに、ワイピングの技術分野において、しかも既述のワイピングの対象物インキの開発・実施等において既に技術的遅れが歴然としていた原告(ただし、
昭和三九年当時原告は未成立で、ジオリ機構が存在したのみであり、原告がこれを承継した旨の証拠もない。)が、技術的に先行している印刷局に対しインキを除去(専らインキの組成・特性に係わる。)等する有用なワイピング技術を印刷局に開示したものとは到底考えられないところである。
しかも、前記のとおり、ワイピング技術は、使用するインキによって異なるものであるから、具体的なワイピング技術は特定のインキにのみ使用できるものであるのが原則である。しかるに、原告は、その主張にかかるワイピング技術情報についてインキを特定していないのであるから、技術情報の開示としては意味がない。仮にインキを特定したワイピング技術の開示を受けたとしても、そのワイピング技術が使用できるインキに改めて変更しなければならないし、インキの変更は、
前記の煩雑極まる困難を伴うことになり、結局インキの新たな開発を行うことと同一であるから(原告がノンオフセット凹版インキの配合について【P17】氏から教示されても、なかなか実用化できなかったのと同様である。)、技術情報の開示として意味がないことには変わりはない。まして、印刷局は、既に述べてきたように長年にわたり開発し、現に通用している銀行券に使用してきた独自のインキ(ノンオフセット凹版インキもその主要な例である。)及び水性ワイピング方法を使用しているところ、国である被告が通貨である銀行券を一介の技術情報によって、その物的信用性(例えば新旧のインキの相違は偽造感を希薄にし、偽造防止を阻害する。)を損なうことの明らかな変更を軽々しくできるものではないことはいうまでもない。その間の事情は原告が知らないはずがない。右の技術的・通貨制度的意味において、原告主張の秘密の技術情報の提供など存する余地のないのはもとより、
原告が、前記のように技術情報として意味のないワイピングの技術情報をあえて印刷局に対し開示したと主張しても、原告の行動は、開示行為にも値しない技術情報の提供を装った単なる売り込み行為と解するほかはないといわざるを得ない。
(二)甲第三八号証は、昭和四二年(一九六七年)一月二〇日付けの原告からレイボルド社あての書簡であるところ(甲第四二号証の回答であり、同号証については後に触れる)、「すべての詳細な説明は顧客が彼らの機械にウォーター・ワイピング・システムを採用すると決定した場合で、且つこの新しい工程に関して厳格な守秘義務を負うことを公式に約束した場合に与えられるものである。」と記載されている。そして右に記載されている顧客とは印刷局のことであり、彼らの機械とは印刷局の調達した2P及び4P凹版機のことであり、印刷局は現在まで原告のいう発注も約束もしていない(インキ使用の関係上これが無意味なこと及び印刷局が開発し独自技術で改良したこと前記のとおりである。)。したがって、原告は、この時期はもとより、それ以後現在まで原告主張の技術情報を開示していないことになることは明らかである。
したがってまた、同号証は、印刷局が、少なくとも原告のウォーター・ワイピング・システムについて公式に守秘義務を何ら負担していないことを明らかにしている。そしてこれは、単にウォーター・ワイピング・システムに限られず、原告主張の本件秘密保持義務の存在自体と矛盾するものといえる。昭和三七年七月一一日付けジオリ機構から【P17】氏あての書簡(乙第一九五号証)は、「ワイピングローラ用プラスチック材料の配合を決めるのに成功したことをごく最近知って大変興味深かった。心からお祝い申し上げます。この件について詳細を教えてもらえれば幸いです。」と、また、「当機構は、あなたのすべての情報は極秘とし、印刷局には何ら掛かり合いはないと考えるものであることを保証します。」とそれぞれ記載され、右事実を裏付けている。
さらに、甲第九四号証は、昭和五二年(一九七七年)三月二一日付けの【P14】氏から【P16】氏あての書簡であるところ、「ワイピング・システム」の項に「ウォーター・ワイピングに関して印刷局の印刷プラントがまだ最高の技術レベルに達していないと勝手に解している非礼はお許しください。」とあり、
それに続けて「あなたがおいでになったときに、私はあなたに対し喜んで(その証として)印刷プラントをお見せし、そして作業方法、設計詳細図、処方、ノウハウ等を説明します。」としており、右時期になってもまだノウ・ハウ等を開示していないことを推測させる。
なお、原告が印刷局の開発したインキ・ワイピング等に関し、研究所の技術水準の具体的客観的認識も無いのに漫然印刷局のウォーター・ワイピング・システムは最高とはいえないなどの意見をあえて述べているのは、暗に印刷局の技術の高さを認めながらも、前述してきた両者の技術的経過に照らすと、原告がいかにも何かノウ・ハウを有するかのような言辞を弄して【P16】氏ひいては印刷局の関心を惹くことを意図しているにすぎないものであるといわざるを得ない。右の事実は、【P14】氏の一連の手紙にある同氏が資料を「送付」したという言の実態を示すものでもある。
これは、単に水性ワイピング技術に限らず、原告の開示したと主張する情報全般に通ずる認識不足と開示の虚構性に通ずるものである。
3印刷局の技術の独自性と原告技術の欠陥について多色凹版輪転印刷は、ワイピングローラ(ローラのゼラチン・洗浄方法としてのトリクロロエチレン・回転ブラシ等を含めて)を使用することによって初めて可能にされたものであること(乙第四三号証の三・一二ページ)及びそれは、昭和四年(一九二九年)一一月二八日に公告されたセルジュ・ボーン社(仏)のフランス国特許第六七〇,三七六号明細書の特許発明(乙第四二号証)及び一〇年後の昭和一四年(一九三九年)にエドワール・ランベール社(仏)により商品化された多色(四色)凹版輪転印刷機によって初めて実現されたことは世界的に周知されている事実である(乙第四三、第一九〇号証)。
そして、基本的にはほぼそのままの型を受け継いだのが、原告主張の凹版印刷機であることも世界的に周知のところである(乙第一九号証の「インタリオカラー」の項及び乙第二一号証の二・九六ページ等参照)。また、原告もこれを認めている。
これに対し、印刷局は、伝統的な独自の手法を前提に逐次独自の形で自らの技術を展開してきた。
これを本件に関連する範囲で概観する。
印刷局は、昭和二五年(一九五〇年)に米国におけるポリ塩化ビニル系の印刷用ローラの技術を取得し、第二次世界大戦後我が国でも急激に普及していた合成樹脂のポリ塩化ビニル(PVC)樹脂が印刷ローラ及びブランケットの材質として優秀であることを確認し、昭和二六年三月当時にはポリ塩化ビニルを使用した印刷ローラ等製造の研究実験に成功していた(【P16】「印刷技術者の為の合成ゴム状物質解説」研究所時報第二巻第一〇号〔昭和二五年〕一二ページ右欄・乙第一九六号証及び【P16】「印刷ローラー・ブランケットへの応用」研究所時報第三巻第三号合成樹脂特輯号〔昭和二六年三月〕七九ページ右欄・乙第一九七号証)。
そして、印刷局は、近い将来において凹版輪転印刷機のインキ拭き取りローラを含む各ローラにポリ塩化ビニルを採用する方向で検討を開始し、昭和三四年(一九五九年)に特許出願した特許公報(印刷局昭和三四年〔一九五九年〕五月一三日出願・特許公報昭和36ー13015「凹版版面上の余剰インキ拭き取りシート」・乙第一九八号証)において、表面の平滑なワイピングローラを逆転する拭き取り方法が既に行われていることを前提に含みながら、ポリ塩化ビニルがインキ拭き取りのワイピング材料として、版面との接触面が平滑であり、かつ適当な硬度と可撓性とを与えることができ、しかも附着したインキの洗浄が容易で、耐薬品性も強く、長期の繰り返し使用に適することを確認し、このポリ塩化ビニル拭き取り用シートは合成洗剤(合成によって製造された界面活性剤を主成分とする洗剤)の水溶液で洗浄可能であることも開発し(昭和三五年秋季研究発表会講演要旨・乙第一九九号証)、他方、同時に当時のインキに関するものであるが、多色凹版輪転印刷機のワイピングローラの洗浄について、水、界面活性剤に溶剤を分散させたエマルジョンの基本的研究・実験の成果によりいわゆる水性ワイピングの実用性を確認していた。このように、多色凹版輪転印刷機のローラワイピングを開発(PVCローラ・水性ワイピング等)するとともに、これを現実の銀行券印刷機において実施するべく切替えが逐次着々と進められていた。
しかし、当時、印刷局は、銀行券増刷の要請に対応するため、その主力とすべく調達した2P凹版機(昭和三六年調達)及び4P凹版機(昭和三七年二月から調達・設置)を増刷のために活用することを迫られた。ところが、ケーバウ社が公表していた印刷能力(四〇,〇〇〇枚〜五〇,〇〇〇枚)とは異なり、同機のゼラチンワイピングローラは、我が国の高温・高湿もさることながら、耐久性(例えばインキによる研磨・機械的強度に対する)がなく、一日に三ないし四回交換しなければならないため印刷効率が悪かったため(公表数の三分の一以下)、印刷局としては全くの苦境に立たされるに至った。そのため、国産機等の開発もさることながら、右2P凹版機及び4P凹版機の効率的使用に緊急優先的に主力を注がざるを得なくなった。そこで印刷局が開発した技術の実用化はまず右調達凹版機の改良を中心に行われることになった。例えば、4P凹版機については、昭和三七年七月以前に印刷局開発の技術により同機のワイピングローラについてのゼラチンローラをプラスチック化することにより耐薬品性、耐磨耗性、耐溶剤性、耐熱性の強化(そのころジオリ機構から右技術について教示を求める申し入れがあり、【P17】氏は情報を提供している。ジオリ機構から【P17】氏あて昭和三七年(一九六二年)七月一一日付け書簡・乙第一九五号証及び【P17】氏から【P14】氏あて書簡・乙第一九三号証)を成し遂げ、次いで同機のワイピングローラにポリビニルアルコール(PVA)を使用することにより、同機の印刷枚数の向上と安定化及び損紙率の低減に大きな成果をもたらし印刷関係者から絶大な好評を博した。さらに版胴とワイピングローラとの周速比を変更し、その結果拭き取り効果と耐刷力を更に増大させて4P凹版機の印刷能力の向上(ゼラチンワイピングローラの約一〇倍の耐刷力)を果たし、右通貨政策の要請に応えることができた。その後にポリ塩化ビニル(PVC)の塗布によるワイピングローラに切り替えた。
以上のような改良がなされたのは、同機のゼラチンローラは、耐久性の点を含め、材質自体インキ拭き取りに対する硬度においてプラスチックローラより著しく劣り、また、シートを巻き付けて成型するので、継ぎ目が凸状になるため、そのはがれによる廃棄原因もかなり多かったのみならず、駆動するに当たっても右継ぎ目の凸状部分を版胴の凹所に合わせなければならないことから両者を同一回転とせざるをえない(接触位置が常に一定となる)ため拭き取り効果が悪く、印刷能力が低く、印刷局としては前記の思わぬ厄介なはめに陥っていたことによるのである(昭和三八年一二月一六日付け【P17】氏から【P14】氏あて書簡・乙第二〇〇号証)。
せっかく増刷に備えて調達した2P及び4P凹版機について右のような事情を抱えて苦慮していた【P17】氏、そして次いで【P16】氏も、やむを得ず、
独自の研究・開発を進める一方、同機調達の相手方当事者であるレイボルド社に対して、右印刷機のワイピングの欠陥についての対応策の有無を当たってみたが(例えば甲第一二号証及び同第四二号証等)、印刷局において既に検討済みであり、原告自身未解決であり、かつ右印刷機には適用できないことの明らかな水性ワイピングを持ち出したのみで、全く無駄であった。
すなわち、原告は同社に対し、印刷局の有する水性ワイピングに関する技術水準の高さを無視し、内容はもとより印刷局の使用インキによる右印刷機への適用の可否も明かさないまま、水性ワイピングなる触れ込みの下に印刷局が発注するよう持ちかけたのみであった(甲第三八号証)。しかし、右水性ワイピングなる技術は、印刷局が使用しているインキが異なることから右印刷機に適用できないことが明らかであり、原告自身未解決であった印刷局のノンオフセット凹版インキに対しては当然のことながら全く無意味である。
以上のように、原告のいう水性ワイピングその他ワイピングに関する技術とは、要するに4P凹版機の改造しかも原告の前提とするインキに対しては有用であったかもしれない(ただし、4P凹版機のみならずその他の技術情報も、その実効性は明らかにされていない。例えば平成一一年四月一九日付け事務連絡票・乙第二〇一号証参照)が、当時及び将来において、インキを異にする印刷局には全く役に立たないことの明らかなものであった。したがって、右の事実を認識しながら、原告がワイピング等と称して一連の行動をとったことは、印刷局にとっては、【P17】氏及び【P16】氏に対する単なる売り込みのための見せ掛けの示威行動以上のものではなかったといわざるをえない。かえって、原告は、ノンオフセット凹版インキと共にその洗浄方法について右【P17】・【P16】両氏から教示を受けているのであり、原告主張のノウ・ハウ等の秘密技術情報の開示は存在しなかったのみならずその余地さえなかったものである。
4公知・公開の技術について原告は、水性ワイピングとか洗浄液の配合とかいうが、これは要するに前記セルジュ・ボーン社及びランベール社のワイピングについて、部分的に公知・公開の器具、材質、物質等を適用しているにすぎない。したがって、少なくとも、印刷局において既知の技術から容易に想到ないし実験的に知得できるものである。
別紙目録(二)の(一一)ないし(一三)記載の技術情報についての公知・公開資料は、被告準備書面(二一)添付の対比表(別紙七)のとおりである。
一五別紙目録(二)の(一五)記載の技術情報について1(一)原告主張の多色凹版輪転印刷機用のショート・インキングなる技術(以下「新しいショート・インカー」という。)は、単にインカーのローラ列の短いことをいうのではない。
すなわち、明治三五年(一九〇二年)に印刷局がアメリカから導入したアール・ホー社製の凹版速刷機、及び、印刷局がその後間もなく開発した凹版速刷機におけるインカーは、一個のダクトローラと一個の着肉ローラのみからなるインカー(乙第三一号証の三の六八ページ図11部材番号4参照)で、凹版輪転印刷機において、一個のダクトローラと一個の着肉ローラのみからなるローラ列の短いインカーは古くから存在している(印刷局の昭和八年〔一九三三年〕製造・設置にかかる旧局式凹版輪転印刷機・乙第三一号証の三、同機の設計図・乙第四七号証、デラルー凹版輪転印刷機パンフレット・乙第一七四号証及び【P16】著「滝野川工場の技術の現状」の「5.【P14】氏の錯覚ー凹版機インカー機構に関する疑問」・乙第五六号証、以下便宜上「古いショート・インカー」という。)。しかしながら原告が主張するショート・インキングは、このような古いショート・インカーを指すのではなく、一個のダクトローラと一個の着肉ローラからなるインカーで、かつ、裏移り防止のために使用されていた間紙(凹版印刷は、凸版印刷や平版印刷と比べて、印刷されたインキ皮膜が厚く、裏移りが起きやすいため、印刷用紙と印刷用紙の間に間紙を挿入するのが常識であった。)が不要となるようなインカーを指すのであり、このようなインカーを、【P16】氏が【P14】氏に対しインタリオカラー機のあまりにも長いローラ列に対し、短いインカー(ショート・インカー)と呼称したことから、原告もショート・インキングと呼称するようになったものであるにすぎない。被告は、この新しいショート・インカーについて、「インキを溜めておくインキダクトから一個のダクトローラのみを介してインキを着肉ローラに供給すること」とその構成を説明していたが、古いショート・インカーとの技術的差異を示せば、印刷局が開発した間紙不要を可能ならしめるために、開発された新規なインキであるノンオフセット凹版インキ(後記(二)参照)を使用するインカーのことをいうのである(【P16】作成昭和四八年〔一九七三年〕七月二三日付け書面・乙第五八号証参照)。
(二)この新しいショート・インカーの要部の概略は、次のとおりである。
印刷局が昭和三六年(一九六一年)六月、初めて2P凹版機一台を滝野川工場に導入した際、印刷局の技術者はその機械を見て、インカーのローラ列が異常に長くかつ複雑であることに深い技術的疑問及び不合理感を持った。すなわち、
既に主張したように、凹版印刷機の機構は、非画線が一つの平面内にあり画線がこの面より陥没している凹版を使用し、その凹版全面に対し色材が与えられ、次いで余剰の色材をふき取り又はかき落として画線内の色材を残す機構であり、右ふき取り又はかき落とし装置(通常ワイピングローラが使われている。)が色材をふき取り又はかき落とすとともに色材を画線に押し込む作用を有することは周知の事実に属するのである。したがって、凹版印刷においては、ふき取り等された後に残ったインキは刷版の凹溝内に断面くぼんだ凹面状に押し込まれた状態になることは技術常識であり(「印刷局研究所時報」第一〇巻第八号「凹版インキ拭き取りのポイント」・乙第一七五号証)、刷版の表面には練りならされたインキ皮膜を形成する必要はなく凹溝内のインキを転移させるだけのものであるので、オフセット印刷のように刷版のインキ皮膜を所望の厚み(通常一ミクロン程度の印刷されたインキの厚みに対応する)に練りならす必要は基本的にない(なお、原告主張のインキ分配ローラは右練りならすこととは関係がない。)。
しかし、右2P凹版機は、凹版印刷に比較すると軟らかいインキを使用し、かつ、一個のダクトローラと一個の着肉ローラのほかに多数の練りローラ(インキを所要のインキ皮膜の状態にする機構)を使用することとなるオフセット印刷のインカーを持ち込んでおり、右に示した凹版印刷機の基本的技術機構から逸脱する不合理性を有するものであった。したがってまた、同機は間紙挿入装置(甲第八四号証図面部材番号19参照)の使用廃止の発想からは程遠いものであった(乙第五六号証参照)。
これに対し印刷局の新しいショート・インカーは、凹版の印刷(印刷できるインキ等の状態を「セット」という。)において従来からの二個のローラのみを使用し、しかもいわゆる裏移り(「オフセット」という。)しない工夫をすることにより、間紙の挿入を不要にしたものであり、これは、インキのチキソトロピー(「ゲルが機械的衝動によって流動性のゾルに変り、放置すると再びゲルにもどる現象。」〔広辞苑〕)等の性質及びワニス・顔料・添加材の特性の総合的バランス調整の成功に基づく新しい独特のインキの開発により可能になったものすなわち印刷と同時に転移したインキの表面が空気に触れて冷却されて表面固化が行われることにより裏移りしないインキの開発によって初めて可能になったものである。この意味で右インキをノンオフセット凹版インキと称しており、これは一種のコールドセット方式である。また、この新しいショート・インカー及びそのインキは、インキの配合の調節により各種の凹版印刷機に利用できるものである(甲第六三号証「大蔵省印刷局百年史」四九二〜四九三ページ「印刷インキ製造体制への脱皮」参照)。ちなみに、原告主張の凹版印刷機は溶剤型のインキを使用するヒートセット方式である(図解印刷技術用語辞典第2版・乙第一七六号証)。
印刷局は、昭和三六年(一九六一年)にこの新しいショート・インカーにかかる技術を、凹版印刷機における一個のダクトローラと一個の着肉ローラのみからなるインカーに使用できるノンオフセット凹版インキとともに完成させ(「大蔵省印刷局第七八回年報昭和三六年度」二八四〜二八五ページ・乙第一七七号証)、同年には実施している。
(三)この印刷局の発明・考案にかかる新しいショート・インカーの技術は、
凹版印刷の常識を破り、凹版印刷における長年の夢とされた渇望の技術であり、これにより課題であった間紙挿入及び間紙抜取り(特に、世界各国の銀行券製造機関にとっては、凹版印刷を銀行券の表裏に用いるため、各二回の間紙挿入及び間紙抜取りの工程並びにこのための専用装置・設備及び作業人員・時間等を必要としていた。)の省略を実現し、凹版の印刷能力が飛躍的に増進するとともに印刷作業に計り知れない省力化をもたらすことになったもので(甲第六三号証六九二ページ参照)、世界に類を見ない画期的な発想に基づく独自の理論的背景の下に研究・開発したものであった(これは、後に各国の評価を受けることとなった〔「印刷局研究所時報」第二六巻第四号・乙第一七八号証及び同誌第二八巻第五号・乙第一九号証〕。)が、この技術に対する当時の印刷局自身の認識は、優れた技術ではあるものの通常の技術改良の範囲に属するものとの認識に止まっていたため、右開発において研究指導者として重要な役割を果たした【P16】氏は、英文の冊子(「ノンオフセット凹版インキの基本的事項」)を個人的に作成の上、外国関係者等に配付したり(乙第五七号証三ページ左欄一六行目〜一八行目)、あるいは印刷局に来訪した銀行券製造関係業者等に見学させたりしており(同号証一ページ左欄?エンスヘデ社の記事一行目〜六行目及び三ページ左欄三一行目〜三四行目)、特に【P14】氏に対しては、昭和三五年(一九六〇年)一二月に同氏が滝野川工場を訪れたとき、右印刷局の開発中の間紙なし凹版インキすなわちノンオフセット凹版インキを使用したショート・インカーについて見学させた。しかし、その時は同氏は【P16】氏を呆然とさせるばかりであった程ノンオフセット凹版インキの可能性について無知の状態であった(「印刷局研究所時報」第一三巻第五号「間紙なし凹版インキの基本的考えかた」九ページ左欄・乙第一八〇号証)。また、【P14】氏は実際に印刷局において2P凹版機でB百円券のノンオフセット凹版インキで印刷しているところを見ていたようである(元印刷局職員【P29】氏の電話聞き取り書・乙第一八一号証)。したがって、【P14】氏は「決してお世辞ではなく、私がなした実地の観察に基づいたものであるこれらの祝意の外にも、ノンオフセットインキの配合についてご教示いただいたことについて、貴殿に厚くお礼を申し上げます。当方はこの配合に基づいて、ミラノのシクパ(Sicpa)社に設置した当社の実験用直刷印刷機の一つで試験を行ってみるつもりです。」と【P17】氏あての昭和三七年(一九六二年)四月一〇日付け書簡(乙第一八二号証)に記載し、右技術の教示を受けたことを認めている。このような状況のもとに4P凹版機が市販され、同機のインキ装置におけるローラ列のローラ数は減少し、いわばセミショート・インカーの外観を示すに至ったが、【P14】氏ないし原告等の技術をもってしてはなお間紙挿入不要の新しいショート・インカーを製作できるには至らなかったものである。
これに対し印刷局は、昭和三七年(一九六二年)二月に滝野川工場に設置された4P凹版機の一号機につき試験的使用を経て、同三八年(一九六三年)四月には同機の間紙挿入装置を使用せず、印刷局開発の前記ノンオフセット凹版インキによるC千円券の本格的な間紙なし凹版印刷を開始していた(印刷局研究所時報別冊「銀行券印刷機械」・乙第一八三号証)。しかも、昭和四一年(一九六六年)三月一八日には、【P17】氏は、【P14】氏に頼まれてノンオフセット凹版インキの配合表までを同氏に渡しているのである(甲第二二号証。同号証三ページ第五段落の訳文には「エンスケデ、ウィーンなど銀行券印刷所は間紙抜きと日本の印刷局で実施している凹版インキの製法に関心を持っている。【P17】氏は【P14】氏に対しその凹版インキ配合表を渡し、【P14】氏の取引先に【P14】氏が適当と思う機会に渡してくれと要請した。現時点においては、これをインキのメーカーに開示することは望ましくないとのことである。これらのインキは、最大限六〇ミクロンまでの深さに使用できる。」とある。)。
さらにまた、【P16】氏は昭和四五年(一九七〇年)には直接【P14】氏にインタリオカラー機に使用できる技術を教示した(乙第五八号証の「(4)インカー」には「多色凹版用の短いインカーについては、私がヨーロッパ訪問の際行った提案を受け入れて頂いたことについて、感謝の意を表します。我々は現在まで、独特の性質を持つ当局の凹版インキに適合した装置について種々実験検討の結果、すでに一部の機械で実行しております。」なる記載がある。なお、【P16】氏のヨーロッパ訪問に伴い【P14】氏を訪問したのは、昭和四五年〔一九七〇年〕一一月二五、二六日である〔甲第二四号証参照〕。)。
印刷局は、昭和四九年(一九七四年)一〇月に2P凹版機のインカーを新しいショート・インカーに改造しているが、その間【P14】氏はたびたび自ら印刷局を訪問したり、原告社員ミュラー氏を代わりに派遣している事実もある。
このようにして、原告が本格的なショート・インカーを何とか開発できたのは、昭和五二年(一九七七年)頃に至ってのことであった(甲第一六四号証参照)。
(四)ちなみに、インカーは、一般にインキつぼ(インキダクト)、インキ出しローラ(ダクトローラ)、インキ付けローラ(着肉ローラ)等から構成されている(大正一四〔一九二五年〕一一月一五日発行にかかる【P25】著「印刷術上巻」三〇六〜三〇八ページ・乙第一八四号証)。これに対し、凹版印刷では、インキダクト(調整装置を含む。)、摺動ローラ(原告のいうインキ分配ローラ)、インキ(インキの乾燥機構も含む。)及び通常ワイピングローラを必要とするのが一般である。
インキつぼ(インキダクト)からインキ付けローラ(着肉ローラ)までインキを移す過程をインキ出しローラ(ダクトローラ)のみによるインカーは、印刷局その他一般の当業者において古くから使用されていたいわゆる速刷機(凹版速刷機)及び印刷局開発の旧局式凹版輪転印刷機(昭和八年製造)において既に実施されていた常套手段であった。そして、前述のとおり新しいショート・インカーは右凹版機及び印刷局独自のノンオフセット理論によって完成確立されたものである。
しかし、印刷局においては、多数の凹版機を急きょ調達する必要に迫られて、多数のインキ練りローラを必要としているケーバウ社製の2P凹版機を皮切りとして何台かの外国製凹版機を導入したため、右印刷局が確立したショート・インカーは一部印刷機に展開されるに止まったが、結局、印刷局のショート・インカーの方が優れていることが実証され、導入外国製凹版印刷機も印刷局独自のショート・インカーに改造された。
(五)以上のとおり、新しいショート・インカーに関する技術知識は、印刷局が研究・開発して所持するに至った印刷局固有の技術知識であり、印刷局と原告との技術格差、特にショート・インカーにおける歴然たる技術格差は極めて明確な事実である。
原告の主張は、【P17】・【P16】両氏に教示されて取得したかかる技術をあたかも自己の技術のごとく主張しているものである。そして原告は、そのための工作さえしているのも明らかである(甲第二二号証、同第二五号証及び原告出願にかかる公開特許公報〔特開昭五〇ー九〇八〕発明の名称「単色または多色銅版印刷機用インク装置」・乙第五五号証)。
原告の主張は、新しいショート・インカーにかかる技術情報の教示を受けた原告が、該技術を開発した印刷局に対し、開示したと主張するもので理由のない主張であることは明らかである。
2また、原告は、ショート・インキング装置の技術的特徴として、ダクトローラとインキ着けローラが同径であることを挙げており、「ダクトローラー(3)の同じ部分は常に着肉ローラー(2)の同じインキが着いている部分に接触し、実験が示している通り、刷版(1)への完璧で均一なインキ補給に基本的に寄与している。」というが、凹版印刷に関する限り、このような刷版へのインキ着けについての記載は、技術的意義を有しているとはいえない(乙第五六号証参照)。
3(一)原告は、「ノウハウは、その上位概念を具体化した現実の装置や図面のレベルに存在する。」と主張するが、甲第六九号証の一ないし一四の図面は、原告の証拠説明書の甲第六九号証の項に、「甲第六九号証の一から一四までは、いずれも項目(一五)の技術情報(ショート・インキング)に関する図面であり」、要約準備書面第二の二の(一五)1の注に「証拠甲六九に示されている通りに関連設計図は・・・印刷局に提出された。」とあるように、別紙目録(二)の(一五)の記載内容の一部しか読み取れず(上位概念を導き出すことができない)、要約準備書面記載のショート・インキング機構の構成及び作用効果との技術的関連性がないか又は不明であって、資料的に不完全で技術情報としては完結したものとはいえない上、甲第六九号証の一ないし一四の図面のいかなる部分に原告主張のノウハウが存するのか技術的に不明である。
(二)同号各証は、印刷局が各図面の表題及び各図面記載の理解しうる範囲においては、新しいショート・インカーの要部であるインキとの具体的関連性は見当たらない。
同号各証は、要するに公知・公開の凹版印刷におけるインカーないし乙第五五号証に開示されているインカーの実施態様の一つであり、いずれもインカーの製作に当たり当業者が公知技術に基づき任意に採用・設計することのできる程度のものと認められ、かつ新しいショート・インカーについての特有の効果も認められないから、各図面にノウハウが存在するとは到底考えられない。
4原告がショート・インキング装置を採用しているとする甲八六号証の図面ではダクトローラとインキ付けローラは同径には見えないのみならず、裏移りを防止するための長い排紙装置を用いているところから急速乾燥インキを使用したとの記載には疑問がある。
5別紙目録(二)の(一五)によって特定された技術情報は、前述のとおり、
印刷局が開発し、【P17】・【P16】両氏が原告に教示した技術であり、さらには、原告が特許出願し、自らが公知・公開の技術としているものである(乙第五五号証)ほか、もともと公知・公開の技術が記載されているものである。
(一)まず、別紙目録(二)の(一五)と乙第五五号証との用語の整理をすれば次のとおりである。
┌──────────────────┬──────────────────┐│別紙目録(二)の(一五)(要約準備書面)│乙第五五号証│├──────────────────┼──────────────────┤│インキダクト(4)│インク溝(1)││ダクトローラー(3)│インク溝シリンダ(3)││ローラー(インキ分配ローラー)(10)│ならしロール(5)││着肉ローラー(2)│インク付けローラ(4)││微動ねじ(8)│マイクロメータ(微調節)ネジ(25)││ブレード(弾性板)(5)│調節板(2)││間隙(7)│間隙(27)││支持台(6)│支持部材(9)││偏心軸(9)│偏心軸(10)│└──────────────────┴──────────────────┘(二)別紙目録(二)の(一五)と乙第五五号証との比較(1)前文は、乙第五五号証の「発明の詳細な説明」の項の第八欄に「この発明は単色または多色銅板印刷機用のインク付与装置、・・・印刷機の原板支持シリンダによつて保持した原板と共働するインク付けローラに上記インク溝シリンダから印刷インクを転送する印刷インク転送手段とを備えたインク装置に関する。」との記載がある。
(2)イは、同号証の「発明の詳細な説明」の項の第七欄に「本発明によるインク装置はインク付けロールと直接接触して連続的に回動する単一のインク溝シリンダ・・・を備えているだけの簡単な構成である。」との記載があり、同号証の第一図に図示がある。
なお、インカーの構造において、インキダクト(インキ溝)から着肉ローラ(インク付けロール)までインキを移すためにダクトローラ(インク溝シリンダ)のみによる方法・装置は、印刷局その他一般の当業者において古くから使用されていたことは前述のとおりである(乙第三一号証の三〔旧局式凹版輪転印刷機〕、乙第四七号証〔同機の設計図〕及び乙第一七四号証〔デラルー凹版輪転印刷機〕参照)。
(3)ロは、乙第五五号証の「特許請求の範囲」及び「発明の詳細な説明」の項の第八欄に「本発明によるインク装置はインク付けロールと直接接触して連続的に回動する単一のインク溝シリンダと・・・インク溝シリンダとインク付けローラとは原板支持シリンダの直径に基づいて決められる同じ直径を有する。実験によると良質の印刷を得るには多色印刷の場合インク付け部分ローラのインク付け個所にインク溝シリンダの同じ個所が常に接触するようにすると有利である。それは絶えずインク付けローラと接触しているインク溝シリンダの表面領域におけるインク層の厚さむら特性は常に同じであり、したがってその表面領域のインク転送能力も同じになるためである。そのため接触していない個所にインクが貯留されることがなくなる。」との記載がある。
(4)ハは、同号証の「発明の詳細な説明」の項の第七欄〜第八欄に「本発明によるインク装置はインク付けロールと直接接触して連続的に回動する単一のインク溝シリンダと好適には該インク溝シリンダと常時接触しインク付けローラ上のインク膜を平らにならすための軸方向に往復運動する少なくとも1つの公知のならしロールとを備えているだけの簡単な構成である。」及び第一〇欄に「インク付けローラ4、’4の印刷インクの膜はインク溝シリンダ3、’3と常時接触すると共にそれ自身の軸線の方向に軸方向に往復するようにしたならしロール5、’5によって一様にならされる。」との記載並びに同号証の第一図5、’5に図示がある(前記(一)の対照表参照)。
(5)ニは、同号証の「発明の詳細な説明」の項の第四欄〜第五欄に「またそのような装置においてインク溝から転送される印刷インクの量を微調節できるようにすることも公知である。そのような微調節を行なうために若干弾性を有する調節板に対してインク溝の内部で作用する調節ネジが使用される。」及び第一〇欄に「おのおののインキング装置は調節板2、’2によってその底面を形成したインク溝1、’1と、原板支持シリンダ6と接触するインク付け部分ローラ4、’4と常時直接共働する連続回動のインク溝シリンダ3、’3とを備えている。」との記載並びに同号証の第一図・第二図に図示がある。
なお、「インキダクトの底を構成しており、更に微動ねじで版胴の軸方向に調整できる弾性のあるブレード」なる構造は、乙第一八四号証(【P25】著「印刷術上巻」三一一〜三一二ページ・「インキ溝」の「インキーナイフ」の説明)に記載されている技術である。
(6)ホは、乙第五五号証の「発明の詳細な説明」の項の第四欄に「またそのような装置においてインク溝から転送される印刷インクの量を微調節できるようにすることも公知である。そのような微調節を行なうために若干弾性を有する調節板に対してインク溝の内部で作用する調節ネジが使用される。そのような調節ネジによってインク溝シリンダと調節板の間の間隙幅したがって転送されるインク層の厚さが調節される。間隙の両側の側面は互いに平行に保たれるので一定の厚さのインク膜がインク溝シリンダの周面に形成される。間隙の両側の側面を互いに平行に保つために多数の調節ネジ例えば25個ないし30個の調節ネジがインク溝シリンダの母線に沿って設置されており、それらの調節ネジを1つずつ調節してインク溝シリンダに対する調節板の位置を調整するようになっている。」との記載及び同号証の第二図・第三図・第四図に図示がある。
なお、「微動ねじによって弾性板下端縁の各位置における弾性板下端縁とダクトローラー間の間隙を個別に微調整すること」は、乙第一八四号証(三一一〜三一二ページ・「インキ溝」の「推し螺子」の説明)に記載されている技術である。
(7)ヘは、乙第五五号証の「特許請求の範囲」に「また偏心軸から成る調整手段を設け、該偏心軸上に上記調節板の支持部材を取付け、上記マイクロメータネジによつて設定した調整状態を変えることなく上記調節板の縁端をインク溝シリンダの軸に平行な位置に維持しつつ上記調整手段によつて上記の調節板の支持部材を移動させるようにしたこと」並びに「発明の詳細な説明」の項の第七欄の「本発明によるインク装置の他の利点は構造が簡単でしかも転送されるインク層の厚さを多数の調節ネジには手を触れることなくすみやかに調節できることにある。」及び同項の第一一欄に「フレーム8に取り付けたインク溝は軸10に固着した支持部材9を備えており、軸10の両端部には該軸10に対し偏心させたジャーナル11が設けられている。ジャーナル11はフレーム8の側壁に回動可能に取り付けてある。ジャーナル11の回動軸’11は軸10の回動軸’10に対して偏心している(第3図参照)。」との記載並びに同号証の第三図10、11・’10、’11、第二図及び第四図の図示がある。
なお、甲第六九号証の五記載の原告主張の偏心軸の構成と乙第五五号証記載の構成との間に格別の差異は認められない。
(8)その他、インキ溝の側壁及び油圧による調整についてインキ溝の側壁については、乙第五五号証の「発明の詳細な説明」の項の第一二欄に「インク溝はさらに2つの側壁15を備えており、それらの側壁15は調節板支持部材12の両側に突出している支持部材9の支持縁部22上に自由に、すなわちなんらの取り付け手段も用いずに載置されている。インク溝シリンダ3に接触する側壁15の部分は円弧状の縁部16となっており、(第6図参照)それらの縁部16はインク溝シリンダ3の側面カラー23と係合するようにそれらの側面カラー23と同じ直径の円弧状に形成されている。」との記載及び同号証の第一図ないし第八図の図示がある。
油圧装置については、同号証の「発明の詳細な説明」の項の第一二欄〜第一三欄に「側壁15はインク溝の使用時には2個の油圧シリンダ24およびピストン’24によって調節板支持部材12と平板2の側縁部に対して押附けられるようになっている。油圧シリンダ24はフレーム8の側壁に固定してあり、ピストン’24は側壁15の外面に当接する。」、同項の第一七欄〜第一八欄に「板体20は側壁15の上記円弧状部分と同一形状の円弧状縁端16を有し、上記のように積層体の上部を形成し、係合縁部18、21によってその側面が限定されている。インク溝シリンダ3が第2図の矢印の方向に回動するとカラー23は板体20の円弧状縁部16に摩擦係合し、板体20はインク溝の側壁15の係合溝18、21に圧着される。したがって油圧シリンダ24のピストン’24が側壁15の外面に加圧力を及ぼすと板体20はインク溝シリンダ3の側面に圧着される。上記の構成によって多色印刷の場合に特に有利なインク溝の完全な封止が達成され、摩耗が起きた時には板体20をすみやかに交換することが可能となる。」との記載並びに同号証の第二図、第四図及び第五図に図示がある。
(三)また、原告主張のショート・インキングなる技術のうち、「一個のインキダクト、一個のダクトローラー及びできれば、インキ膜を均一にならすための一本のローラー(インキ分配ローラー)のみよりなるインキング装置」なる構造は、
凹版印刷機械の原型であり、「インキダクトの底を構成しており、更に微動ねじで版胴の軸方向に調整できる弾性のあるブレード」なる構造は、乙第一八四号証(三一一〜三一二ページ)に記載されている技術であり、このことは、乙第五五号証の「発明の詳細な説明」の項の第七欄〜第八欄に「本発明によるインク装置はインク付けロールと直接接触して連続的に回動する単一のインク溝シリンダと好適には該インク溝シリンダと常時接触しインク付けローラ上のインク膜を平らにならすための軸方向に往復運動する少なくとも1つの公知のならしロールとを備えているだけの簡単な構成である。」との記載があり、同号証の第一図にも図示されている。その余の原告記載の構造・構成はショート・インカーの具体的設計に当たり当業者が任意に採用・決定する要素にすぎない。
(四)さらに、原告は、ショート・インキング技術について既述の乙第五五号証のほか以下の特許出願をなしており、同装置及び技術が公知・公開のものであることを自認している。
(1)原告主張のショート・インキング装置に関する出願・特開平二ー二一四六六〇・発明の名称「印刷機用インキダクト」(乙第一八八号証)・特開平五ー二二〇九三七・発明の名称「印刷機械用インク供給装置」(乙第一八九号証)(2)特許出願明細書中図面に原告主張のショート・インキング装置の記載がある出願・乙第二号証の五(複合輪転機)・乙第五四号証(特開昭六〇ー四二〇四四)第四図・特開昭六一ー三二七五五・第一図・特開平二ー七二九五二・第一図ないし第六図・特開平四ー三九〇八・第一図・特開平六ー三九九九〇一六別紙目録(二)の(一六)記載の技術情報について別紙目録(二)の(一六)記載の技術情報についての公知・公開資料は、被告準備書面(二一)添付の対比表(別紙七)のとおりである。その余の主張は、前記七と同様である。
一八別紙目録(二)の(一八)記載の技術情報について別紙目録(二)の(一八)記載の技術内容は、いずれも公知・公開の技術知識であり、むしろニッケル電鋳技術における常用手段にすぎないことは以下に述べるとおりである。
1「凹版印刷用刷版を作成するための電着方法」とあるので、いわゆる「電胎版」の製造方法に関するものであるところ、乙第八四号証一〜五九ページ及び同第八六号証三四〜四〇ページに電胎技術の基本的な組成及び作業条件、すなわち、めっき液の組成並びに攪拌、濃度、温度、電流密度等及びその調整に基づくものであること、特に乙第八六号証九五〜九六ページにおいて製品若しくは製法に応じて右基本的組成及び作業条件を調整することが示されている。
2「凹版印刷用刷版を作成するための電着方法」において原告主張の刷版の機械的強度の優れたという意味は必ずしも明らかでないが、機械的性質(硬さ、伸び率、引張強さ)については、乙第九三号証(四八一、
四九四〜四九六ページ)、同第九八号証(株式会社産業技術サービスセンター「最新表面処理技術総覧」昭和六二年一二月二一日初版発行・平成二年六月二五日重版発行)二九六ページ等において明らかなように、同一金属でも、浴の種類、組成、
電解条件によって機械的性質が変化することが一般的に知られている技術知識である。
3「凹版印刷用刷版を作成するための電鋳方法」において、「イ.ニッケルメッキ槽内におけるニッケルサルファメイト溶液の濃度を高め、ニッケルメッキ溶液の温度を高め、アノードとカソード間の電流を高めること」、すなわち、溶液の濃度・温度・電流密度を高めることによりめっき時間を短縮して厚いニッケルめっき層を得ることについては、乙第八六号証一一五ページに示されて公知・公開の技術である。
4「凹版印刷用刷版を作成するための電着方法」において、「ロ.凹版用マスタープレートをプラスチック製の枠内に取付けてカソードすること」に関しては、
電鋳不必要な部分の絶縁について、乙第八六号証三八〜三九ページ、同第八八号証二五ページ、同第九二号証九一ページ、同第九三号証二八八ページ及び四二七ページ、同第九四号証六五〜六六ページ、同第九六号証四六二〜四六三ページ、乙第九七号証五ー一一ページに示されており、いずれも公知・公開の技術である上、前記のとおり、プラスチック製枠を使用したとしても原告主張のような作用効果はない。
5「凹版印刷用刷版を作成するための電着方法」において、「ハ.プラスチック枠を具えたカソードを、電着作業時に、シールドされたアノード部屋の前方で横方向に往復運動させること」、すなわち、カソードを電着作業時に横方向に往復動させることは、乙第八四号証五五ページに「然るにハーバーの實驗によれば陰極を動揺せしむるときは電解液を加熱して電解を行ひて完全に堆積を行はしめ得べきを主張し、而して維也納の印刷局に於ては夙にこの方式に則りて電鋼版を調製して居る。」と記載されているほか、乙第八六号証三六ページ及び一〇四ページに示されており、公知・公開の技術である。
一九別紙目録(二)の(一九)記載の技術情報について別紙目録(二)の(一九)記載の技術情報についての公知・公開資料は、被告準備書面(二一)添付の対比表(別紙七)のとおりである。その余の主張は、前記七と同様である。
二〇別紙目録(二)の(二〇)記載の技術情報について1別紙目録(二)の(二〇)記載のバーコードにより機械的に各シートを追跡するシステムの技術内容は明確でなく、訴訟物として特定しているとはいえないが、広義の技術分野としてはコンピュータを利用したバーコードによる管理システムに関する技術情報の主張と認められる。
しかしながら、およそバーコードによる管理システムなるものは銀行券製造技術に関するものではなく、銀行券の保管事務の管理に関するものであり、かつ、
コンピュータにかかるシステム技術は極めて高度に専門化した技術分野であり、ユーザーにおいて取り扱うことのできない技術であることは公知であって、コンピュータにかかるシステム技術を導入しようとすれば、ユーザーは、専門業者であるコンピュータメーカーないし同メーカーを擁する印刷機メーカーに依存せざるをえないのである。このことは、印刷局においてばかりでなく、原告においても同様であることはいうまでもない。
したがって、原告のなしえたことは、せいぜいのところ、他の専門メーカーが開発したシステムの売り込み行為にすぎないことが明らかである。
2しかも、管理システムは、ユーザー特有の業務内容に従って設計・作成されるものでなければ意味がないものであるから、コンピュータによる管理システムと称する以上、ユーザーの業務内容に精通しかつコンピュータに深い知識を有するプログラマ(システムアドミニストレータを含む)によるシステム分析、システム設計、プログラム設計、プログラム作成、テスト、運用その他専門的作業・装置等が必要である。しかるに、原告主張の管理システムなるものは、甲第九五号証を参照しても単なるユーザーのシステム導入に関する希望事項ないしはアイデアの域を出るものでなく、到底管理システムの名に値しないものである。
3原告主張の開示時期におけるコンピュータは、いわゆる第三世代コンピュータ後期のもの(一九七一年から一九八〇年まで。ただし、年代については若干説を異にするものがある)に相当する、LSI、4ないし8ビットのCPU等を使用していたコンピュータ(ただし、原告主張の技術ではいわゆるマイクロコンピュータないしワークステーションといわれていたものが併用されていないものと解される。仮に使用されたとしても、極めて性能の低いものであった。)であり、その性能・速度はもとより大きさ・重さ及び分散方式・バーコードの利用等において現在のコンピュータに比較しその性能等は極めて劣っていて、当時の銀行券製造特に印刷局において確立された体系的かつ複合的な銀行券製造の管理システムには到底耐えられるものではなく、直ちに導入できるものでなかったことは明らかである(少なくとも被告は、銀行券製造において原告主張の管理システムの実例を知らないし、原告もその有用性を立証していない。)。
4その他原告主張の管理システムは、コンピュータの利用方法としては極めて原始的ないしポピュラーなものであり(コンピュータによるシステム管理の目的・用途には生産管理、材料管理、工程管理、品質管理、製品管理、保管管理、員数管理、履歴管理及びCIM〔コンピュータ統合生産〕等が実用化されている)、銀行券製造の数量計算においても極めて不十分なもので、リアルタイム性及びフィードバックに欠けており、印刷局の厳密な員数管理(例えば余剰部分管理)をまかなうことはできない。また、一般に、銀行券印刷においては、凹版印刷後、インキが乾燥するまでの間は次の工程に移行することができないから、原告主張の技術では二日(甲第九五号証、乙第二三五号証の二では二〜三日となっている。)後に次の工程に着手した際の読み取りによってはじめて員数不足を確認することができるにすぎない。これに対し、印刷局が採用している方式によれば、印刷局はノン・オフセット凹版インキを使用しているので、凹版印刷後四〜五時間で員数検査することができるのであり、原告主張の技術は特別有用なものとはいえないものである(乙第二三五号証の二の段階になっても同様である)。
5公知・公開技術との関係別紙目録(二)の(二〇)記載の技術情報についての公知・公開資料は被告準備書面(二二)添付の対比表(別紙三)のとおりである。
6印刷局の管理状況について印刷局においては、原告主張のような方式は、前記のとおり員数管理、リアルタイム性及びフィードバックの点において印刷局の業務に耐えられないものであるから、使用しておらず、これとは全く異なる工程ごとの管理番号によりリアルタイムに欠数やエラー等を認知する方式を採用している。すなわち、製紙段階で四回の員数確認がなされた後、印刷段階においてはまず用紙裏面に管理番号を付し、ドライオフセット凹版輪転印刷機によるオフセット及び凹版の印刷後右管理番号による員数確認をし、次に用紙表面に管理番号を付し、同印刷機によるオフセット及び凹版の印刷後右管理番号による員数確認をし、さらに記番号及び表印章を印刷後員数確認するとともに右各印刷工程移動間になされる保管権限者(印刷作業者とは別個に任命される者)による保管につきその都度保管権限者による員数確認が行われる。
なお、印刷局の銀行券印刷機は、印刷中におけるエラー等の各種事故の発生と同時に警報が発せられるとともに機械が停止する方式である(乙第二四〇号証参照。なお、シムルタン印刷機、4P凹版機も印刷局により同様に改造されている。)。これは、原告主張のようなバーコード方式によっては不可能である。右のとおり、印刷局は、前記独自の員数管理を徹底することにより散逸・亡失を完全に防止しており、原告主張のようなバーコード方式は何らの技術的意義もない。
二一別紙目録(二)の(二一)記載の技術情報について別紙目録(二)の(二一)記載の技術情報についての公知・公開資料は、被告準備書面(二一)添付の対比表(別紙七)のとおりである。その余の主張は、前記七と同様である。
二二別紙目録(二)の(二二)記載の技術情報について別紙目録(二)の(五)記載の技術内容はプレート表面上に塗布するレジスト層(耐腐食層)を三層に形成し、逐次段階的に三回エッチングすることを特徴とする方法であるのに対し、(二二)記載の技術内容は二層のレジスト層を使用し、二回エッチングすることを特徴とする方法であるが、乙第七九号証及び乙第八〇号証によって、公開されていることは明らかである。また、オフセット刷版として真鍮板を用いることについては、前記四2(一)のとおり周知の技術常識である。
さらに、真鍮板上をクロムにより覆い、クロムを第一レジスト層により覆い、
画線部を除く第一レジスト部分を除去すると共に覆われていたクロムを取り除くことについても、公知の技術常識である(乙第八一号証の二、一五三ページ)。なお、版面をクロムで覆うことは乙第八二号証の三及び乙第八一号証の二によっても公開されている公知の技術知識であることは明らかである。
二三別紙目録(二)の(二三)記載の技術情報について1開示の主張について(一)(1)原告は、印刷局の元職員であり、当時原告と取引関係等のない第三者の競業者である会社の幹部である【P17】氏の招待を利用して開示したように主張している。
しかし、秘密情報の開示をするにあたって競業会社の幹部の招待の際にこれを行うなどということは通常ありえないことである。
しかも、別紙目録(二)の(二三)記載のようなことは原告が掲記した【P16】氏との予定の技術的話題事項にも含まれていない(甲第九四号証参照)ことである。
仮にプラスチック集合版製作のための高周波溶接の話題が出ていたとしても、【P16】氏が来訪直前に知得したばかりの前記第三回環太平洋銀行券製造機関会議において議題として論議されかつ視察したプラスチック集合版製作のための高周波溶接に関する最新の情報を【P16】氏の方から話題としたにすぎないものと解するのが自然であり、原告の開示の主張は極めて不自然・不合理な主張である。
(2)当時、工程の中間において特別に銅電鋳版を作成・介在させるいわゆる銅電鋳版による修正の工程を省略する方法は、事業的には当面採用の余地のない不確実かつ未完成な技術との評価しか得られておらず、印刷局は、当時既にプラスチック製集合版の銅電鋳版による修正の工程を含むプラスチック製マスタープレートの製法システムを新たに開発・確立し、現に採用していて、現在も実施している。
このことは、前記会議においてオーストラリア準備銀行発券局は、プラスチック成型型版の集合版作成法について提出した前記論文(乙第一〇八号証)において、オーストラリア準備銀行発券局の開発・実施にかかる「プラスチック成型型版の集合版作成法」なる表題の下に「当局は、プラスチック型版、特に銀行券の複製のためのプラスチック型版の高周波溶接に対する好意的な支持への明白な動きに関心をもって注目している。
これまで、当該技術に関する情報及び目に見える実例が全くなかったため、当局は、実際の刷版を準備するための全体の時間の点から、その溶接方法から生じる真の有利点をどうしても決定付けることができなかった。資料に基づく限り、当局は実際の溶接に関して、当局が凹版刷版のために望ましいと考えている表面平滑性の基準にまでマスタープレートの仕上の際に、付加的な困難が生じるのではないかとの疑いを持っているのである。
当局は、プラスチック溶接の有用性にいくつかの疑問を抱いているので、取り急ぎ次のことを申し添えておくものである。当局は本件の技術を利用する者から不適性であると証明されることに満足であるし、そして、本件についてのコメント及び更に進んだ情報を歓迎するということである。(中略)当局は、プラスチック工法において結論を出していると主張するものではなく、ここに述べた技術で製造された見本版に対してのコメントを歓迎するものであり、併せて、他国メンバーからこの議題における何らかの類似する情報をいただければ幸甚です。」と記載していること及び同会議におけるディスカッションにおいてブリティッシュ・アメリカン社は「【P31】氏は、ブリティッシュ・アメリカン社が参加国中の何ヵ国かで使用されている薄いビニールプラスチックタイプに取りかかることを切望していると述べた。彼らは、薄い材料を使用するプログラムを推進することを計画した。それは、原料及び押圧力の変化に致命的リスクがはるかに少ないものであるが、調和のとれない継目に対処するという問題を未だかかえているものである。」と発表していることに照らし明らかである(乙第一〇九号証参照)。
(3)したがって、原告主張の情報は、第三回環太平洋銀行券製造機関会議の構成員にとっては、秘密技術情報にはもとより技術情報にも値しない全く意味のないものであったことは明らかである。このことは、昭和五六年一一月当時においても、イングランド銀行(印刷工場)は銅電鋳による修正を実施していることからも容易に認識できるところである(乙第一一一号証・印刷局発行「研究所時報」第三四巻第六号参照)。
(4)関連証拠としての甲第四五号証は、別紙目録(二)の(二三)記載の技術情報の開示の存在そのものを証するものではないのはもとより、【P16】氏を個人的立場で招待する旨を明らかにしているものである。したがって、同号証の招待は本来印刷局とは関係のないものであり、また、【P16】氏の行動は原告に対する関係でも全く個人的なものである。したがって、原告を訪問した事実については報告等の記録は一切なされていない。さらに、同号証では別紙目録(二)の(二三)の技術問題については全く触れられていない。甲第九四号証、同第三六号証も同様右開示の存在を証するものではない。
(5)なお、環太平洋銀行券製造機関会議とは、名称を「PacificRimBanknotePrinters'Conference」とし、一九七三年に設立され、オーストラリア、カナダ、日本、アメリカ合衆国を含む計一三ヵ国(第三回会議当時は八ヵ国)を構成員として、「銀行券のデザイン、製造方法、設備、科学的・技術的研究と開発、銀行券流通システム、偽造の防止及び一般的なマネジメントの実務に関する情報の交換を、相互信頼に基づいて行うこと」を目的とする二年ごとに開催される国際的な会議である。したがって、右会議において展開・発表された技術知識・情報はその範囲において構成員にとっては正当な技術知識の取得であって秘密に該当しない情報である。
(二)原告主張の開示の内容に関する技術は、その専門メーカーではない原告がなしうる能力範囲に属しないものであり(甲第一〇九号証の文書及び図面に「高周波溶接プレス」の製造者は同プレスの専門メーカーである「SAPIMS.P.A」及び「SAPIMElettr.Industr.」である旨の記載参照)、仮に原告がなしうることがあるとしても、それは単なるアイデアの提供か他社製作の関係機械・装置の販売活動の域を出ないものである。そのことは、プラスチック集合版製作のための高周波プラスチック溶接の問題点が原告主張の開示前に前記第三回環太平洋銀行券製造機関会議において議題にされており、かつ、その弱点が指摘されている技術に関するものであることからも明らかである。
(三)さらに、原告主張の技術自体が銀行券印刷分野において有用な技術として存在しているかどうかも確認できない。このことは、原告が「開示技術の内容」を証する資料すら甲号証として提出していないことが如実に示している。
(四)原告主張の開示時期の相当以前から原告主張のような利点をうたって銀行券用プラスチック高周波溶接機の製品が販売されていることは顕著な事実であるから、原告主張の技術情報に秘密性がないことは明らかである。
なお、銀行券印刷において市販機械が従来技術に勝るものとして技術的・事業的に成功しているとの情報は知られていない。
2公知・公開の技術との比較(一)原告は、要約準備書面第二の二の(二三)において、「特定すべき技術情報」として「中間段階の銅メッキプレートを用いることなくプラスチック型組体から直接マスタプレートを製作する方法。」とするので、まずこの点から述べることとする。
そもそもプラスチック材料からなる物を互いに結合することは、その一方法として高周波溶接を用いることを含めて、古くから公知・公開の常用手段に属する技術知識である(乙第一一二号証・産業図書株式会社「合成樹脂便覧」昭和二六年七月二五日発行三一〇〜三一一ページ参照)。しかも、銀行券用マスタープレートを作成する際の版の結合に高周波溶接機自体の方法・手段・構成を用いる目的は、銅電鋳版による修正工程を省くことにあったことはいうまでもない。
しかして、別紙目録(二)の(二三)の技術は、公知・公開の単なるアイデアの段階の情報に止まり、原告はもとより一般的にも問題が解決されていない着想にすぎない。
また、原告が出願した特許第二〇七八五八九号(優先権主張一九八八年三月二八日スイス国)にかかる公開特許公報(A)(乙第一一三号証の一・平1ー297246・平成一年一一月三〇日公開)及び特許公報(B2)(乙第一一三号証の二・特公平7ー110534)記載の技術内容は、「銅を用いることなく」、
「中間段階の銅メッキプレートを用いることなく」ということ自体には直接言及されていないが、技術内容が「銅を用いることなく」、「中間段階の銅メッキプレートを用いることなく」なされる技術であることは、同公報【発明の詳細な説明】の〔従来の技術及び発明の解決しようとする課題〕の項中に「プラスチック溶接機の中に入れられ、その中で隣り合う雄型間に結合線が溶接され、このようにして複数の刷りを有するプラスチック版の型が生産される。」及び「このポジ版は中間の銅板による既知法を以って最終的に凹版ニッケル版を再生するために用いられる。」等の記載並びにプラスチック高周波溶接機の存在(乙第一一四号証四ページ、一八ページ)に照らし極めて明瞭である。そして、原告主張の前記技術には右公開の技術内容を超える部分は見当たらず、いずれにしても公知・公開の技術であることは明らかである。
なお、レコード複製においては、既に実施されている技術である(乙第一一五号証・「金属表面技術便覧(新版)」五〇四〜五〇五ページ、乙第一一六号証・「工業用めっき」一九一ページ〜二二二ページ参照。)。
(二)その余の構成技術事項はすべて公知・公開の技術知識を記載しているにすぎないものである。
原告が別紙目録(二)の(二三)で主張する「銅を用いることなく凹版印刷用のマスタプレートを製作する方法に関する技術」の要素は次の五つに分けることが可能である。
@「まず初めに彫刻原板からニッケルでもってポジ型をとる」ことA「次いでこのポジ型からプラスチックでもってネガ型を取る」ことB「次いで多数のこのプラスチック製ネガ型を互いに結合して大型の型組体を作る」ことC「次いでこの型組体からニッケルを用いて直接ポジ型のマスタプレートを作」ることD「次いでこのマスタプレートから凹版印刷用刷版を製作すること」右の技術のうち、@ポジ型を取る工法は常用手段としてのニッケル電鋳によるものと解されるところ、ニッケル電鋳自体は周知の技術知識であることは既に述べたとおりである。しかして、紙幣印刷の場合のように大量印刷のための集合版作成の必要のない場合には彫刻原版から直接複製されたポジ型版をマスタープレートとされてきていることはマスタープレートの原初的形態として公知・公開の技術知識である(乙第一一七号証・日本印刷學會編「英和印刷書誌百科辭典」昭和一三年一月一五日発行、三五七ページ及び乙第一一八号証・「凸版製版印刷技術」一四六〜一四七ページ。なお、レコード製作については乙第一一六号証「工業用めっき」二一三〜二一四ページ参照)。
さらに、紙幣印刷については乙第一一九号証の一・「プレーティング」誌一九七〇年八月号(印刷局昭和四五年一〇月二一日受入れ、七七五〜七七八ページ「ザ・マネーメーカーズ」の項及び同号証の翻訳である乙第一一九号証の二・「研究所時報」第二三巻第六号)に詳述されている技術知識でもある。
AないしDについても乙第一一九号証に詳述されている技術知識でもある。
そして、「銅を用いることなく」、「中間段階の銅メッキプレートを用いることなく」との点については前記第二、二記載のとおり技術的に意味不明により不特定のため無意味な記載である。
なお、乙第一一九号証によれば、継目修正は銅電鋳プレートによらずにプラスチック型組版自体を修正している趣旨の記載ではないかと推測される部分がある。
二五別紙目録(二)の(二五)記載の技術情報について別紙目録(二)の(二五)記載の技術情報についての公知・公開資料は、被告準備書面(二一)添付の対比表(別紙七)のとおりである。その余の主張は、前記七と同様である。
二八別紙目録(二)の(二八)記載の技術情報について1(一)別紙目録(二)の(二八)記載の技術的意味についてまず、インタリオオフセット(intagliooffset)という技術的用語はあるようであるが(後掲乙第一五九号証の引用部分末尾参照)、インタリオセットなる用語は技術的用語としてはその内容が明らかでないところ、原告の各所に散在する説明的記述によると、「インタリオセットは、湿式オフセット印刷の一種である。
この工程に必要とされるものは、単に特別な印刷版のみである。」(原告の昭和六二年二月二日付け準備書面(三))、「インタリオセット印刷法はオフセット印刷と凹版印刷の混合組合せであり、・・・凹版で印刷した紙幣では触って感じることができる「凹版」の盛り上がりが出ない画像となる印刷法である。」、「刷版の加工により彫刻がインキを受け入れる特性をもっている材料で出来ているようにし、
更に刷版の表面の非印刷部分(彫刻した線の外側)が湿潤剤を保つ性質を持つようにして、刷版の表面の非印刷部分がインキを跳ね返す性質をもつようにするための処理を行う。」(要約準備書面第二、二、(二八)1ロ)とあること及びオフセット印刷とは「平版印刷の一種。版胴・ゴムーブランケット・圧胴の三つの円筒が接触しながら回転し、自動的に版面に水とインキをつけ、版面から一度ゴムーブランケットに印刷され、更に紙に転写される。」(広辞苑)のであり、また、オフセットは平版の一種として「平版は画線と非画線とが巨視的には同一平面上に構成されているもので、このような版面への色材の選択付着は、色材(例えば油脂性の印刷インキ)と、それに反撥する物質(たとえば水)とをそれぞれ画線と非画線とに与えることによってなされている。」(「印刷技術一般」二ページ・乙第一五四号証)ことに照らすと、原告主張のインタリオセット方式は総じてオフセット印刷に関連するものと思料される。
さらに、公知文献によれば、「平凹版はオフセット印刷版の耐刷力を向上する目的で考案せられたものである。」(「印刷製版技術講座4平版及び凹版製版印刷技術」六五ページ・乙第一五八号証)、「平凹版offsetdeep-process…397」(乙第一五九号証・「印刷書誌百科辭典」の邦語索引の平凹版の項)とあり、同ページの同語の項には「offsetdeep-process(Offsettiefverfahren)オフセット凹版。平版製版法に於て、印刷インキの附着すべき部分を凹刻し、これを平版式(事實はオフセット印刷のみ)に印刷するもの。線畫、寫眞の如き漸淡調のもの何れも製版し得べきも、本邦にては多くは後者に利用せらる。製版方法は種々あるも、要は透明網目ポジチブ(lineorhalftonediapositive)を作り、平版用亞鉛板上に置ける感光膜に燒付け、水洗現像して黒線部の膜を去り、腐蝕凹刻するにあり。(中略)intagliolitho(oroffset),deep-etchedlitho(oroffset)ともいふ。」(「印刷書誌百科辭典」三九七〜三九八ページ・乙第一五九号証)とあり、昭和三七年(一九六二年)に発行された「最新印刷便覧」(一一〇ページ・乙第一五六号証)には、平凹版について「版材にPVAなどの感光液を塗布し、写真操作で作られたポジ原版と密着焼付けしてから現像し、腐食して画線になるべき部分をくぼませ、ラッカー、チンクターを塗布して画線部に固着させてから、感光膜で被われている非画線部を剥膜処理してエッチ、アラビアゴムで非画線部を不感脂化して平凹版とする。耐刷力が強く画線が鮮明であり階調も豊富なので広く普及している。」と記載されて原版からポジ原版を作成し、これと密着焼付け・現像・腐食して画線になるべき部分をくぼませる工程等が開示されかつオフセット印刷の耐刷力が向上していること及び画線が鮮明であり階調も豊富である点で凹版印刷物の外観を帯びており、インキはオフセット印刷用のものが前提であることも明らかにされている。
しかも、オフセット製版方法においてポジフィルムを作ること及び版材としてクロムめっき真鍮を使用することも公知文献に記載されているところであり(「GATFオフセット便覧」10:3、10:49タイプUのバイメタルの項3及び同製版工程図・乙第一六〇号証及び「印刷製版技術講座4平版及び凹版製版印刷技術」二〜三ページ・乙第一五八号証等参照)、しかも、クロムめっき真鍮のPS多層平版は昭和四八年(一九七三年)当時既に市販されていたものである(「製版機材便覧」三四三〜三四五ページ7.6市販製版用感光材一覧表・乙第一六一号証)。
そうすると、右平凹版の工程等は、別紙目録(二)記載のうち、インタリオセット原版及びインタリオセット刷版作成の主たる工程等と一致する。したがって、インタリオセット方式なるものは平凹版自体か、少なくとも平凹版の一種ということが分かる。
次に、平凹版の具体的工程・作業方法は「印刷製版技術講座4平版及び凹版製版印刷技術」六五〜九一ページ・乙第一五八号証、「GATFオフセット便覧」10:40〜10:47・乙第一六〇号証及び「印刷技術一般(改訂版)」二二一〜二二二ページ・乙第一五四号証等に詳述されている。
(二)甲第七六号証の技術についてまず、同号証訳文及び原文における基本的用語については、
彫刻原板(anengravedoriginal)インタリオ原板の作製(PREPARATIONOFANINTAGLIOSETORIGINAL)インタリオセット原板(anintagliosetoriginal)インタリオセット刷版(INTAGLIOSETPRINTINGPLATES)とあるところ、原文に照らすとインタリオ原板とあるは、彫刻原板のことではなく、インタリオセット原板のことと認められる。
そして、インタリオセット原板以降の工程は通常の平凹版の刷版製造工程としてのステップアンドリピート(「印刷技術一般(改訂版)」二一〇〜二一二ページ・乙第一五四号証)及び写真製版法(写真技術を利用して印刷の版面を作ること。版材の上に感光層を設け、これに陰画あるいは陽画の原板を密着露光処理して版面を作る。凸版・凹版・平版・孔版の各版式について行われる。〔広辞苑〕)として周知の常套手段にすぎないこと(甲第七六号証訳文二ページ三行目・八ページ下から三行目、殖版機の各文献〔「印刷術講座中巻」四九〜五九ページ・乙第一六二号証、「印刷製版技術講座4平版及び凹版製版印刷技術」五七〜六四ページ・乙第一五八号証及び「印刷技術一般(改訂版)」二一〇〜二一三ページ・乙第一五四号証〕及び要約準備書面の「(B)この陽画ガラス・プレートの画像を写真製版の手法を用いて黄銅製の刷版の表面に移し変える。」等参照。)の記載によれば、甲第七六号証において考察すべき技術はインタリオセット原版の作製に限定されるものと認められる。
(三)甲第七六号証の技術と平凹版との比較(1)平凹版について平凹版の技術については、広辞苑にも登載されているような周知の技術であるが、さらに以下のことを付加する。
(ア)昭和三八年(一九六三年)現在までの技術的状態については「印刷製版技術講座4平版及び凹版製版印刷技術」六五〜九一ページ(乙第一五八号証)に詳述されており、同様の記載が「印刷技術一般(改訂版)」二一七〜二一九ページ(乙第一五四号証)にもある。
(イ)平凹版の画線の腐食の深さについて、「写真製版技術」四四九〜四五三ページ(乙第一六三号証)には「平凹版は、現在最も広く使用されている平版製版法であり、画像部が腐食によってわずかにくぼんでいるので平凹版(deepetchplate)の名がある。・・一般に腐食深さは5〜8μ(5/1,000〜8/1,000o)をこえず、平均的な砂目ほど深くない。初期においては、腐食深度が深ければ深いほどよいと考えられ、事実、70〜100μ(7/100〜10/100o)に腐食するようにいわれたこともあった。しかし、実際の経験によって、印刷で転移されるインキ皮膜より大きな画像深度は不必要であり、12〜13μ(12/1,000〜13/1,000o)以上では、かえって好結果は得られない。」、「画像の腐食深さに対する定説はなく、実際には5〜8μ(5/1,000〜8/1,000o)程度である。これより腐食深さが深くても、印刷では何の利益もなく、再研磨に余計な時間を要するだけである。必要なことは、版表面にラッカーが強固に接着するように、画像部から感光層を除去することである。事実、現像清浄が十分であれば、腐食を行なわなくても良好な版が得られる。しかし、ある程度の画像深度を与えるためには、腐食操作は必要である。画像深さは12〜13μ(12/1,000〜13/1,000o)をこえてはならない。」との記載もあり、同様の記載が「印刷製版技術講座4平版及び凹版製版印刷技術」六五〜六六ページ(乙第一五八号証)にもある。
(ウ)平凹版は多層平版といわれる平凹式多層平版が昭和二五(一九五〇年)ころから実用化されている(「印刷技術一般(改訂版)」二二一ページ・乙第一五四号証、「GATFオフセット便覧」10:49タイプUのバイメタルの項3及び同製版工程図・乙第一六〇号証)。
(エ)昭和五三年(一九七八年)当時になると平凹版はPS版に切り替わりつつあった(「平版印刷技術」八四ページ・乙第一六四号証)。
(2)原告が要約準備書面第二の二の(二八)において主張するインタリオセット方式なるものは少なくとも平凹版の一種であることは明らかであるが、さらに平凹版と甲第七六号証記載のインタリオセット方式とを比較するに、甲第七六号証の具体的内容を整理すると(ア)ないし(ケ)と認められるところ、(ア)ないし(ケ)の各項目記載の技術はもとよりその工程全体の組合せも平凹版に関する技術事項として公知・公開の事項であることは、既に述べたところから明らかであり、後に触れるところからも肯認できるもので、その内容は、むしろ平凹版そのものというべきであること以下のとおりである。
(ア)凹版彫刻された原版の使用(イ)同原版からポジティブ(ポジフィルム)の作成(ウ)ネガガラス板の作成(エ)ステップアンドリピートによるポジガラス板(多面画像)の作成(オ)写真製版(ポジガラス板から刷版の作成)(カ)版材としてクロムめっき真鍮の使用(キ)画線の深さ(ク)目的銀行券(低額券)の印刷(ケ)効果(利点)(コ)原告主張のその他の工程(オフセット印刷部分等)(注)@(イ)については甲第七六号証(訳文)において「直接」作成としての記載が強調されているが、同号証では機械的転写による複製の工程の介在が記載されている。これは、特徴としての意味のない周知の工程でもあるので、インタリオセット方式においても無視したものと解される。
A(ウ)及び(エ)は甲第七六号証において「同複製工程は、ステップアンドリピート機械で従来の方法により実施される(whichisperformedinaconventionalmanneronastep-and-repeatmachine.)」とされている。また、
(ウ)は(エ)の当然の工程である。
B(キ)については、インタリオセット刷版の画線の深さは、甲第七六号証においては指示その他の記載はなく、乙第二六号証によれば三〇〜一二〇μであり、平凹版と比べ深いことになるが、実際には、凹版においても強圧によってもすべてのインキを紙に転移できないのに、弱圧のオフセットで転移することは困難であり、深さは刷版の特徴としては無意味である(前記(1)参照)。この点、後記の第九回環太平洋銀行券製造機関会議においても、インドネシアが述べている(後記3(四)(2)・4(一)(2)参照)。したがって、深さにおいても平凹版との区別はない。
C甲第七六号証記載の?はインタリオセット方式特有の利点ではなく、使用材料・作業方法に基づく当然かつ周知の利点にすぎない。
しかも、製品の仕上がり効果は単に製版方法のみに基づくものではなく、その他の要素(例えば用紙・インキ・印刷機械・作業者の技倆等)の総合的効果に依存するところが多いこと印刷分野における技術常識である。
以上によれば、甲第七六号証記載のインタリオセット技術といわゆる平凹版の技術とは区別できない同一の技術の範疇に属するものであることが知られる。
2印刷局の技術について印刷局では「平凹版については昭和二二年秋ごろから基礎的な製版試験が実施されていたが、(中略)昭和二四年に至り平凹版の実用化に成功した。平凹版の実用化を機会に写真製版設備の充実が図られ、分殖焼付機(コバステップ)四六全版用が初めて設置され、これまで手工的で難点のあった多面版の精度向上及び能率化が図られると同時に、平凹版製版に必要な製版機器類の整備がなされ、平版製版の主流として平凹版によるA百円券、A一円券、A拾円券などの製版がなされ、昭和二五年の韓国銀行券緊急製造の際にもこの版式が使用された。」(研究所時報別冊「銀行券製版技術」七六〜七七ページ・乙第一六五号証)。そして、A一〇円券等の発行経緯は、「可及的速に必要量を製造する必要があるが、わが国の印刷能力は戦災により著しく低減しているため、最も容易に大量印刷をなし得る平版印刷により、…」というものであった(「大蔵省印刷局史」七五ページ・乙第一六六号証)。
その後、印刷局の銀行券印刷においては、平凹版は使用されたことはない。
また、昭和四三年に入り、PS版(presensitizedplate:あらかじめ感光液が塗布されていて、そのまま直ぐ原板を焼き付けられるようになっている版材。平版用として幅広く使用。〔広辞苑〕)を全面的に使用することに切り替わったため、平凹版は現在では銀行券以外の印刷物にも使用されなくなった。
(注)「ポジタイプPS版positiveworkingpre-sensitizedplateあらかじめ感光液を塗布した状態で販売されている版材をPS版と呼び、感光液に光可溶化型の感光性樹脂が使われているものがポジタイプPS版である。ポジタイプPS版の焼き付けには、ポジフィルムを使用し、露光されたところは感光性樹脂が光分解し現像され非画線部となり、遮光されたところは光分解せず現像され画像部となる。」(「図解印刷技術用語辞典第2版」三三九ページ・乙第一五七号証)印刷局は、昭和四一年にいわゆる「クロナプレス」(Cronapressconversionsystem)という市販装置(デュポン社製)を調達し(物品管理簿〔物品管理カード〕「デュポンクラリファイニングマシン」・乙第一六七号証及びクロナプレスの取扱説明書・乙第一六八号証)、以後、同装置を利用して彫刻原版(凹版原版)から平凹版用ポジフィルムを作成する工程において、従来の原版から溝埋め写真撮影方式(例えば甲第七六号証訳文七〜八ページ「3.インタリオセット原板用の成形されたコベックス・シートの複製」参照)を省略し、彫刻原版(凹版原版)から直接ポジフィルムを作成している(研究所時報別冊「銀行券製版技術」二五、二八ページ及び七六〜八〇ページ・乙第一六五号証、イタリア銀行からの回答書・乙第一六九号証及び「図解印刷技術用語事典第2版」一四二ページのコンバージョンプロセスの項・乙第一五七号証)。これは、甲第七六号証記載の「接触印刷機」による自動ポジフィルム上に接触プリントを作成する方法(溝埋め写真撮影方式)より忠実な画像の複製が得られるのみならず写真撮影方式の工程(甲第七六号証のベークライト・シート及びコベックス・シートの各複製工程)を省略し作業時間の短縮をすることができる極めて効率的なものである。この点、甲第七六号証記載の技術は、昭和四一年当時既に陳腐化した旧式な技術に属していたといえる。
また、右「クロナプレス」が、もともと各種版式(凸版・平版・凹版等の原版の様式)間における版式変換技術として新しく開発された装置であるから、彫刻原版からPS版用ポジフィルムを直接作成できることはいうまでもない。したがって、印刷局は、PS版導入後はポジフィルム作成に使用している(添付別紙対照表参照)。
3インタリオセット方式の技術的評価(有用性)原告主張のインタリオセット方式の技術内容自体は、不明確・不特定であるので、甲第七六号証及び公開されている資料等に基づいて同方式の技術的評価、特に有用性について検討する。
(一)インタリオセット方式は、凹版原版を用いて刷版を作成しウェットオフセット印刷するものであり、刷版の画線に溝があるもののオフセット印刷の性格上凹版製版における長時間を要する電鋳工程がなく、この点で製版時間が短縮されるという唯一の利点もあるが、凹版印刷ではないため、偽造防止、通貨としての威信及び通貨に対する国民感覚(例えば重厚性・美感等)の観点からすれば、紙幣等の印刷において確立されている凹版が使用されるべきところ、やむなく使用されるものである。
(二)インタリオセット方式は、銀行券印刷においてはその刷り上がり効果の点から主として低額の銀行券にしか使われないのが実情である。
(三)インタリオセット方式は、銀行券印刷特有の技術ではない。原告も甲第四〇号証には切手印刷、甲第九四号証には証券印刷とある。また、偽造防止ないし抑止に資する効果もなく、本来の銀行券印刷技術には属さない。
(四)環太平洋銀行券製造機関会議における各発表論文も次のようなことが公表されている。
(1)第五回メキシコ「低額券のインタリオセット印刷」(昭和五六年〔一九八一年〕発表・乙第一七〇号証)(2)第九回インドネシア「PERUMPERURIにおけるインタリオセット版面の作製法」(平成元年〔一九八九年〕発表・乙第一七一号証)細画線の再現性…インドネシアの発表に対する質問「残念ながら、細画線の再現性はよくない。」(3)第一〇回コロンビア「銀行券裏面に印刷された凹版印刷とインタリオセットとの耐久性に関する実験室的な比較」及び「低額券裏面における凹版印刷からインタリオセットへの移行」(平成三年〔一九九一年〕発表・乙第一七二号証)(五)PS版との比較についてPS版の基本的原理は昭和一九年(一九四四年)に発見され、昭和二二年(一九四七年)及び昭和二四年(一九四九年)に相次いで商品化されていたものであり、昭和三八年(一九六三年)には我が国にも導入されていた技術であり、印刷局は、前記三のように昭和四三年(一九六八年)から銀行券印刷以外の印刷をPS版による刷版に全面的に切り替えている。そして、印刷局がPS版に切り替えるに至った主たる技術的根拠は、以下述べる諸点においてインタリオセット方式より優れていることは一目瞭然であることにある。
(1)感光層を塗布するまでの工程を短縮・省力化できること(2)平凹版に比べ版の品質が一定していること(3)耐刷枚数が平凹版よりも優れたものが出てきたことなどが挙げられる(「写真製版技術」四五四〜四五五ページ・乙第一六三号証)。
さらに、PS版に切り替えることには次のような利点もあった。
a.処理が簡単で、迅速であるb.暗反応がなく、使用有効期限が長いc.温・湿度の影響がほとんどないd.シャープさが優れており、網点の再現性も非常によいe.湿し水が最少ですむf.標準化しやすいg.作業場が清潔で、スペースをとらないh.印刷において地汚れ、着肉不良がないi.耐刷性においても遜色がないj.材料費、設備費、工場スペース及び人件費等のコストにおいて著しく有利このように、品質、工程管理の容易性、コスト性等を勘案すると、PS版による製版方式は極めて優れた方式であることは明らかである。そして、インタリオセット方式と比較しても同様である。
特に、インタリオセット方式には、次のような到底使用に堪えない重大な欠陥もある。すなわち、インタリオセット方式におけるポジ・レジスト層板の台板としてのクロムめっき真鍮板は、製版工程の各所において本来有害物質である六価クロムガス等が発生し、作業者の人体に有害であるとの理由で(甲第七六号証訳文一三ページ?クロームエッチングの項参照)近時諸外国を始め我が国においても法的に使用が規制されている(環境基本法)。したがって、現在ではクロムめっき真鍮板の代わりにアルミ板が使用されている(「図解印刷技術用語辞典第2版」二九四〜二九五ページ・乙第一五七号証・PS版の項参照)。
さらに、イタリアではインタリオセット方式を実施したこともあったようであるが、現在はPS版に切り替えられている(イタリア銀行からの回答書・乙第一六九号証)。
(六)以上のように、インタリオセット方式及び平凹版による方法に代わる簡便有利かつインタリオセット方式と異なり人体に安全な方法としてPS版による製版方法が既に一般的に普及・確立している現在においては、インタリオセット方式及び平凹版による方法は過去の技術と化しているというべきであって、その技術的価値特にその有用性を欠いている状況にある(「印刷情報」第五二巻第七号平成四年(一九九二年)七月号一一四〜一一七ページ・乙第一七三号証)。
したがって、原告主張の技術情報は、いまや技術的価値及び有用性を有しないものといわざるをえないものである。
4公知・公開の技術との比較(一)環太平洋銀行券製造機関会議における発表論文(1)第五回メキシコ「低額券のインタリオセット印刷」(昭和五六年〔一九八一年〕発表・乙第一七〇号証)(2)第九回インドネシア「PERUMPERURIにおけるインタリオセット版面の作製法」(平成元年〔一九八九年〕発表・乙第一七一号証)(3)第一〇回コロンビア「銀行券裏面に印刷された凹版印刷とインタリオセットとの耐久性に関する実験室的な比較」及び「低額券裏面における凹版印刷からインタリオセットへの移行」(平成三年〔一九九一年〕発表・乙第一七二号証)(二)乙第二六号証・原告による昭和五〇年七月三〇日出願(優先権主張一九七四年七月三〇日スイス国10442/74。日本国出願放棄)にかかる公開特許公報特開昭五一ー四四〇〇一・発明の名称「凹刻印刷版およびその製造方法」及び乙第二七号証・原告による昭和五八年四月一一日出願(優先権主張一九八二年四月二二日スイス国〔CH〕2445/82-1)にかかる公開特許公報特開昭五九ー九三三五〇・発明の名称「多色印刷用回転印刷機」(被告準備書面(一一)三一〜四六ページ)なお、原告は乙第二六号証記載の技術がインタリオセットの基本的発想を公開するものであることは認めている。
三〇別紙目録(二)の(三〇)記載の技術情報について1銀行券製造等におけるいわゆる番号印刷機(原告主張のヌメロータ機に限定される趣旨かどうか明らかではない)において「ナンバリングホイールが回転して番号の切換えが行われたことをホール素子を用いて物理的な接触を伴うことなく検出することを特徴とする技術」として検討する。
右技術は、文献的に公知・公開の技術知識であるのみならず市販されている番号印刷機に使用されている技術にすぎない。例えば乙第二四五号証のカタログによれば、ドイツ国ツァイサー社がツァイサー・ナンバリングコンピュータ制御システムとして各種汎用番号印刷機を世界各国に販売しており、しかも、原告も右ツァイサー社の技術に依存していることも明らかであって(甲第三一号証二ページの6、訳文三ページの6)、原告の技術ではない。
2原告の主張する技術は、周知の技術である磁石による方法において、磁石の代わりに公知のホール素子を用いたものにすぎない(乙第二四一号証・【P14】氏出願にかかる特許出願公告・特公昭五〇ー一〇一七〇・発明の名称「有価証券類の番号付与を制御する方法と装置」参照。)。
3印刷局の新技術と原告主張の技術の欠点印刷局は、現在は、かねてから研究・開発した独自の番号器システムによる電子式番号印刷機を使用しているところ、同機は番号印刷機としては番号のすべての変換仕様、すべてのチェックデジット、自動的送りミスチェックのほかプレインキング及び番号プリセットがそれぞれ任意に可能でありかつ印刷機との完全連動も可能である最先端機として印刷局のみが使用しているものである。これに対し、原告主張の技術はこれらの利点を有しない不完全なものにすぎない。
4公知・公開の技術との比較別紙目録(二)の(三〇)記載の技術情報についての公知・公開技術は、被告準備書面(二二)添付の対比表(別紙四)のとおりである。
三一別紙目録(二)の(三一)記載の技術情報について1原告は、要約準備書面第二の二の(三一)において、「特定すべき技術情報」として「高周波溶接を用いて各プラスチック型を互いに結合すること。」とするので、まずこの点から述べることとする。
凹版印刷用刷版作成のためのプラスチック型組体(集合版)における個々のプラスチック型の結合に高周波溶接を用いることを「特定すべき技術情報」と主張しているが、そもそもプラスチック材料からなる物を互いに結合する場合にその一方法として高周波溶接を用いることは、古くから公知・公開の常用手段に属する技術知識である。しかも、その結合は、結合対象物のいかんにかかわらず、高周波溶接機自体の方法・手段・構成に変更の余地がないこともいうまでもないところである。
すなわち、高周波溶接(機)の基本的構成は上部電極(溶接電極)と下部電極(アース電極)との間に被溶接物を加圧密着するように挟み、高周波電流を通ずること以外の何ものでもない。したがって、具体的に実施する場合には単に被溶接物・溶接部分の大小・形状・厚さ・性質等に対応して電極の長さ・幅・形状及び使用周波数を設計・設定すればよいものであるから、プラスチック高周波溶接自体にはノウ・ハウ等の存在する余地はほとんどない極めて一般的な公知・公開の技術知識にすぎない。
ちなみに、プラスチック高周波溶接一般の文献を例示すれば次のとおりである。
・乙第一一二号証・産業図書株式会社「合成樹脂便覧」昭和二六年七月二五日発行(三一〇〜三一一ページ)・乙第一二三号証・日刊工業新聞社「プラスチック加工技術便覧」昭和三六年一二月二五日発行(五六〇〜五六五ページ)・乙第一二四号証・日刊工業新聞社「工業電子装置シリーズ22高周波加熱装置」昭和四一年六月二五日発行(一二七〜一二八ページ)・乙第一二五号証・日刊工業新聞社「プラスチック加工技術便覧新版」昭和五四年一〇月二〇日発行(七七五〜七七九ページ)・乙第一二六号証・公開特許公報(A)(昭55ー22904)の特許請求の範囲及び第一図並びにこれに関する説明高周波溶接用プラスチックの種類については乙第一二七号証・特許公報(B2)(昭60ー16349・公開昭和五三年四月二〇日)及び乙第一二三号証(五六〇ページ)等に詳述・列挙されている。
さらに、誘電力率の低いプラスチックの高周波溶接については、乙第一二八号証・日刊工業新聞社「接着用語辞典」七〇ページに記載されている。
したがって、銀行券製造用凹版印刷刷版製作におけるプラスチック型の結合のための高周波溶接機も古くから販売されていることは前述のとおりである。
しかして、銀行券製造用凹版印刷刷版製作における各プラスチック型を互いに結合する場合における重要な問題点は、凹版印刷用プラスチック製型組版の製作の全工程における溶接方法・手段に特有な多くの附加的困難性(特に継目跡をなくすこと等マスタープレートの非画線部の表面のほぼ完全な平滑性の保持に起因するもの)とこれに要する作業全時間の短縮その他作業速度・画線の再現性・接合精度等にあることは夙に指摘され、高周波溶接によってもこのような問題点が残ることは関係者に周知の弱点ないし欠点であるから(乙第一〇九号証及び同第一二一号証「時報」昭和五四年一二月号参照)、原告のいう「特定すべき技術情報」が技術的に無意味な主張であり、問題解決の資料は甲号証から知りうる余地もなく、原告の主張はこの点でも単なる取扱商品の宣伝の域を出ないものにすぎない。
以上のとおり、「高周波溶接を用いて各プラスチック型を互いに結合すること」などは右弱点ないし欠点を解決したものでない限り、全く無意味な技術的主張にすぎないし、公知・公開の技術知識の域に止まる主張にすぎないことが明らかである。
2その余の構成技術事項はすべて公知・公開の技術知識を記載しているにすぎないものである。
原告は別紙目録(二)の(三一)において、「凹版印刷用プラスチック製型を高周波溶接によって組立てる方法に関する技術」としてその技術内容を主張し、
その内容としては、「凹版印刷用刷版を作成するためのプラスチック製型を作成する際に」@「まず始めに彫刻原板から多数のプラスチック型を作成」し、A「次いでこれら多数のプラスチック型を予め定められた位置に正確に整列配置」し、「各プラスチック同士を高周波溶接を用いて互いに結合することを特徴とする技術」と主張する。
しかしながら、@及びAはもともとプラスチック型以前からマスタープレート製作において行われている当然の工程について単に材料を置換したにすぎず、公知・公開の技術の域を出るものではない。原告も要約準備書面第二の二の(四)において、これについて「第(四)項については、秘密保持義務の確認を求めるものはない。」とし、公知・公開の技術知識少なくとも秘密に値しない技術知識であることを認めているものである。また、乙第一〇八号証及び同第一一一号証(「研究所時報」第三四巻第六号)にも詳述されているところである。
三二別紙目録(二)の(三二)記載の技術情報について1原告主張の別紙目録(二)の(三二)記載の技術情報は、同項記載の構成の「自動トランスファ機械を用いること」というものである。
しかしながら、原告自体が販売業者であることを自認していることに加えて、原告主張の自動トランスファ機械が市販用の機械であることは、切手に関して言えば、乙第一三一号証により明らかであり、さらに甲第一一〇号証の内容が厳密な意味の技術文書の内容ではなく、通常売り込み用に使用される説明書の程度・領域の文書であって(樽状ローラダイの仕様及び使用方法が不明で、技術情報としての有用性を欠いていることは後記4記載のとおりである。)、結局同機械を購入しない限り、同号証のみから原告主張の転写機の実施可能性を判断できないものであることから同項の技術情報といわれるものは、宣伝・販売活動のための情報というにすぎず秘密保持義務の対象となる秘密の技術情報となりうる余地はない。
2(一)製版において彫刻原版から実用印刷版を作るのに転写法と電鋳法がある。転写法とは、転写機という古くはテコの原理、最近では油圧ジャッキ方式を利用した機械によって、多面版の実用版面を作る複製版法の一であって、大きくは平板用と円筒スリーブ用とに別れ、平板用は主に紙幣・銀行券・切手のように同一模様が多数並んだ多面版を複製するのに用いられてきているが、円筒スリーブ用の転写法は、電鋳法が紙幣・銀行券製造に使用されるのに対し、紙幣・銀行券製造に使用されることなく、主として切手製造の際に使用される。
また、一般に転写法は、電鋳法に比較し、原版から実用版製造までの期間の短縮ができるという利点があるが、凹版の要件である画像の再現性が低く、画線の深さの管理を特に必要とするのみならず、平面性の確保(ばりの平滑化等)に問題があるとされていることから、紙幣・銀行券ほどの厳密性が要求されず、しかも比較的短納期製造が要請される切手製造に適する簡易な方法として、画線(の厳密性)が崩れることを承知で印刷局及び欧米主要国が凹版切手製造に採用しているものである(乙第一三〇号証二四ページ表2「諸外国の使用版材金属の現状」及び二五ページ右欄下から八行目〜末行参照)。
(二)そして、本件で問題とされているのは、ローラダイから円筒スリーブに転写する凹版紙幣・銀行券製造用自動転写機に関するものであるが、前出の乙第一三一号証・【P32】博士作成の技術論文の冒頭部分にも「原版からシリンダーへ凹版彫刻を機械的に転写する技術は、古くからよく知られておりかつ切手印刷においては既に広く使用されているのである」とされており、本件で問題とされている転写技術に関する技術は古くから公知・公開の技術である。
なお、欧州銀行券製造機関会議とは、名称を「EuropeanBanknotePrinters'Conference」とし、一九五一年に設立され、イギリス、フランス、ドイツを含む計一八か国を構成員として、「銀行券の品質とセキュリティ及び銀行券の製造、取扱い、廃棄における経済性を向上させること」を目的とする二年ごとに開催される国際的な会議であり、下部機関として各種の委員会が設置されており、インキ・製版委員会もその一つである。欧州銀行券製造機関会議と環太平洋銀行券製造機関会議とは、相互交流を行っており、環太平洋銀行券製造機関会議の構成員は、欧州銀行券製造機関会議及び委員会に出席することができる。したがって、欧州銀行券製造機関会議及び委員会において展開・発表された技術知識・情報はその範囲において環太平洋銀行券製造機関会議の構成員にとっては正当な技術知識の取得であって秘密に該当しない情報である。
さらに、転写技術に関する公知・公開の技術については、次の文献によっても明らかなところである。
(文献)・印刷局発行「研究所時報」第九巻第八号二九五ページ「戦後におけるフランス政府の切手印刷」(昭和三二年〔一九五七年〕八月・乙第一三二号証)・「commentfabrique-t-onunTIMBRE-POST」昭和四二年(一九六七年)発行・乙第一三三号証・「CIBAREVIEW」昭和四五年(一九七〇年)発行・乙第一三四号証・「50thJUBILEEOFTHESWEDISHPOSTALADMINISTRATION'SPOSTOFFICESTAMPPRINTINGWORKS」昭和四五年(一九七〇年)発行・乙第一三五号証・「Astampismade」昭和五一年(一九七六年)発行・乙第一三六号証(三)その後(遅くとも昭和四八年〔一九七三年〕八月以前)、転写用鋼ロール(凸型=雄型・ローラダイ)の形状が凸面状(中央部が太く、両端が細い凸の曲率を有するもの・原告のいう樽状)のものを使用する技術も現れた。
(文献)・印刷局発行「研究所時報」第二六巻第三号「アメリカ政府印刷局における切手印刷について」(昭和四九年〔一九七四年〕三月・乙第一二九号証)・研究所時報第三〇巻第一号「版材用金属の現状と将来」(昭和五三年〔一九七八年〕一月・乙第一三〇号証)(四)そして、以下の文献から、転写機は専門メーカーにより製造販売されていたことも明らかである。
(文献)・「tiefdruck」増補版四一〜四三ページ(昭和四二年〔一九六七年〕発行・乙第一三七号証)・ゲーベル社(GOEBELGMBH)のカタロ及び図面(昭和四七年〔一九七二年〕二月作成。ただし、日本語部分はイリス商会株式会社作成・乙第一三八号証)(五)しかし、円筒状のローラダイももともと両端部は印刷面(模様面積)の縁から円弧状に面取りされているか画像印刷面部分のみを突出させているのみならず、最初に樽状を採用したアメリカ合衆国においても現在なお円筒状のローラダイを使用しているのは、樽状ローラダイに画像の再現性等について転写上の基本的問題が残されていることを示している。
前記のごとく、この転写法及び転写機は、電鋳法に比べて原版から実用版製造までの期間の短縮ができるという利点があるとされていること及び切手と紙幣・銀行券の製造は国営の印刷事業としての信頼性、効率的運営その他の要請上一体として製造することは不可欠であるという関連性から、二、三の国において紙幣・銀行券印刷に転用する努力がなされ、特種の分野(巻取紙式輪転印刷機)における可能性が期待されたようであるが(乙第一三一号証参照)、現在では、転写法固有の基本的弱点のため右分野の実用化の可能性も否定されている実情にある(アメリカ合衆国証券印刷局は実用化を断念・廃止していると聞いている。)。もともと、このことは、甲第一一〇号証六ページ(訳文一一ページ)において「ー前書き近代的なトランスファ方法」(訳文一ページ)の内容として「転写方法の適用転写は、それが既に広く使用されているインタリオ切手印刷機に適用される(被告注。「転写は、凹版郵便切手(の製造)に適用されており、凹版切手に対し転写は既に広く使用されている。」の意。)。表面が小さいことと、窪みが浅いことに伴う問題が解決されることになる(被告注。「現在は解決されている」の意。)。
証券用紙の場合のように、広い表面と深い窪みを有するものを扱う場合には、生じる問題は転写自体ではなく、moletteの幾何学的品質に起因する。強力な機械を使用する場合を除き、転写することは非常に困難である。
上記条件を考えると、転写方法は以下のものに適用することが出来る。ースリーブ上又は湾曲プレート上のいずれかに形成する切手。
ー特にD.P.彫刻部分(ビュラン彫刻部分、例えばポートレート)をエッチング部分に挿入した銀行券(被告注。「銀行券〔については〕エッチングしたものにD.P.彫刻した部分〔例えば肖像のように彫刻刀で彫刻した部分〕を特別に挿入すること〔ため〕」の意味と思料する。なお、挿入する対象物及び挿入工程並びに原告主張のトランスファ装置との技術的関係が不明のため具体的技術の説明に値しないのみならず具体的実施の困難性も推測され、その可能性少なくともその有用性については極めて疑問である。)。
ー部分的な像を集めることによって形成された株券。
ー連続的な回転ミリングにより形成される、又は個々の像を連結することによって形成される有価証券の背景。
ーブロックミルを方向決めすることにより形成される垂直又は水平方向のレタリング。
さらに該転写方法は、中実真鍮、鋼製スリーブへの電解銅、鋼(窒化鋼でも可)等あらゆる種類の金属に適用される。」と自認しているところであり(このことはモレットの仕様寸法及び圧力機構の具体的数値等からも推知されるところである。)、一九九一年(平成三年)当時にも明らかにされており、現在においても同様の状況にあるものであると聞いている(乙第一三一号証)ところである。
3レリーフを形成した樽状のトランスファローラダイと銅メッキされた円筒スリーブとをそれらの軸線がほぼ平行となるように配置して、銅メッキされた凹版印刷用円筒スリーブに該円筒スリーブを、その軸線回りに圧接・揺動(往復運動)させながら銅メッキされた円筒スリーブの面に所要版面数の凹版印刷用画像を機械的に転写し、印刷用凹版を複製する技術は鋼版ロール転写法(モレット法)及びシリンダー転写機(印刷局では「版胴転写機」と呼ばれている。)として、古くから周知であり、かつ既に切手印刷の製版技術では広く使用されていたものである(後記(一)ないし(四)参照)。
なお、右周知・公開技術と別紙目録(二)の(三二)との違いはローラダイが樽状(これの必然的操作法)であることにすぎないが、これも公知・公開の技術にすぎない(後記4参照)。
詳述すれば以下のとおりである。
(一)凹版印刷版複製法の一種である鋼版転写法は、アメリカ合衆国の【P33】氏が完成したものであり、同氏は、一七九九年(寛政一一年)に凹版印刷が施された銀行券の製造に係る特許を取得し、一八〇四年(享和四年)には、その方式に更に改善を加えた。以来、この方式は、アメリカ合衆国において紙幣その他証券類の凹版印刷に広く用いられ、「鋼凹版複製法」又は「アメリカ方式」として知られており、現在も転写法の基本的方式として広く利用されている(【P34】著「ザマネーメーカーズインターナショナル」平成元年〔一九八九年〕発行二九七ページ・乙第一三九号証)。
(二)印刷局においても、明治三九年(一九〇六年)、凹版原版の作成工程に転写方法を採り入れることが計画され、二年後の明治四一年(一九〇八年)に初めて転写機一台を輸入して試験研究が始められた。
大正一二年(一九二三年)、当時アメリカ合衆国などでは、既に実用転写版が採用されていたが、印刷局は、当時トランスファローラダイから軟鋼板(平板)に転写する鋼版転写機械の著名なメーカーであるアメリカ合衆国チャップマン社から同社の鋼版ロール転写機械三台を購入することとした。
その後、該転写機は、昭和二〇年(一九四五年)の太平洋戦争の終結まで、切手から軍票に至るまで凹版版面の多くに利用された(印刷局発行「研究所時報」第一五巻第四号「転写凹版について」昭和三八年〔一九六三年〕四月発行・乙第一四〇号証)。
(三)印刷局が購入したチャップマン社製転写機の転写方法は、軟鋼板に彫刻した原版を焼入れ硬化し、該転写機にこれを装着して、先ず右硬化原版に円鋼(ロール)を転圧して凸型(トランスファローラダイ)を作り、この円鋼を焼入れ硬化した上、次に右硬化原版に換えて別の軟鋼又は黄銅の版材を置き、その面に必要な面数を繰返し転圧して版形を複製し、表面にクロムめっきを施して印刷版とする方法である。
(四)「tiefdruck」昭和四二年(一九六七年)増補版(初版一九六二年・乙第一三七号証)には、銅メッキされた円筒スリーブに転写する前記モレット法が公開されている。
(五)しかして、印刷局は、昭和四八年(一九七三年)に開示を受けているほか、さらに昭和五二年(一九七七年)九月以前にアメリカ合衆国証券印刷局の局長代行(アクティングディレクター)作成の第三回環太平洋銀行券製造機関会議における技術文書「8色グラビア・凹版コンビネーション印刷機」(WEB8-COLORGRAVURE/INTAGLIOPRESS・乙第一四一号証)により、さらに同年九月アメリカ合衆国証券印刷局工場において切手製造専用ローラダイによるデスタッシュ社製円筒スリーブ用転写機の技術の開示を受けている。
なお、原告主張の開示当事者及び時期とは異なる。
(六)ちなみに、印刷局は、円筒状のローラダイを使用して、原告主張の樽状ローラダイによるばりの平滑化工程を要しない等原告主張の方法に優る方法をノウ・ハウとして有している。
4樽状ローラダイによる転写方法における技術的意味ローラダイの形状が樽状であることについては、別紙目録(二)の(三二)に記載されているが、要約準備書面第二の二の(三二)の「開示された内容」の主張では削除されている。したがって、ローラダイの形状が樽状であることは、開示事項として該当するか明確でないが、関連事項として言及しておく。
ローラダイ(樽状を含む)による転写方法(当然「ばり」の圧延までを言う)は公知・公開の技術であるが、さらにその技術的意味に付言すれば以下のとおりである。
樽状ローラダイの表現は比喩的表現であって技術的用語ではないのみならず、原告提出の甲第一一〇号証及び同第一一一号証等の資料によるも、樽状ローラダイの仕様及び使用方法(ローラダイの具体的な動きを含めて)の明細が不明でもっぱら転写機械の操作プログラムに任されているところ、その操作プログラムも不明であるから、結局原告主張の樽状ローラダイによる転写法は、技術情報としての有用性を欠いているものといわざるをえないものである。
なお、樽状ローラダイによる場合には切手製造用において既に最終的に余分な装置等の費用・時間のかかる研磨作業工程の必要があるということも紙幣・銀行券製造への転用において無視できない弱点とされている(甲第一一〇号証「第Z章中間研磨機械に設置する研磨装置」及び乙第一三一号証参照)。
別紙図面一から六
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 八木貴美子
裁判官 石村智
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