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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成14ワ162売買代金等請求事件 判例 不正競争防止法
平成19ワ4916不正競争行為差止等請求事件 平成20ワ3404不正競争行為差止等請求事件 判例 不正競争防止法
平成17ワ23171損害賠償等請求事件 判例 不正競争防止法
平成13ワ10308営業秘密侵害行為差止等請求事件 平成14ワ2833同請求事件 判例 不正競争防止法
平成11ワ25395損害賠償等請求事件 判例 不正競争防止法
関連ワード 信義則 /  混同のおそれ(混同) /  模倣 /  差止請求(差止) /  過失 /  権利濫用(権利の濫用) /  原状回復 /  侵害 /  代理人 /  代表者 /  得べかりし利益 /  秘密管理(秘密管理性) /  秘密として管理 /  秘密保持義務 /  有用性 /  非公知性 /  混同のおそれ(混同) /  営業秘密 /  不正取得行為 /  不正開示行為 /  他人に損害を加える目的(加害目的) /  損害賠償 / 
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事件 平成 5年 (ワ) 8314号
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 1998/12/22
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 一被告【Y1】株式会社は、別紙目録一記載の技術を使用して、フッ素樹脂ライニングを施した容器を製造、販売してはならない。
二被告【Y1】株式会社、同【A】、同【B】及び同【C】は、原告に対し、連帯して金三〇〇万円及びこれに対する被告【Y1】株式会社、同【B】及び同【C】は平成五年九月一一日から、被告【A】は平成五年九月一二日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三原告の被告岩城硝子株式会社に対する請求並びに被告【Y1】株式会社、同【A】、同【B】及び同【C】に対するその余の請求をいずれも棄却する。
四訴訟費用は、原告と被告岩城硝子株式会社との間においては全部原告の負担とし、原告と被告【Y1】株式会社、同【A】、同【B】及び同【C】との間においては、原告に生じた費用と右被告ら四名に生じた費用をそれぞれ二分し、その各一を原告の負担とし、その余を右被告ら四名の負担とする。
五この判決の第二項は仮に執行することができる。
事実及び理由
全容
第一請求一被告【Y1】株式会社、同【A】、同【B】、同【C】及び同岩城硝子株式会社は、別紙目録記載の技術を使用して、フッ素樹脂ライニングを施した容器を製造、
販売してはならない。
二被告【A】、同【B】及び同【C】は、フッ素樹脂ライニングを施した容器の製造、販売その他タンクローリー及びタンクコンテナの設計、製作及び販売、熱交換器の設計、製作及び販売、これらにおける設置、取付工事及び付帯する一切の事業に従事してはならない。
三被告らは、原告に対し、連帯して金一〇〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要一基礎となる事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認定できる。)1承継前原告日進ケミカル工業株式会社は、昭和五〇年八月一三日に設立された株式会社であり、産業機器及び設備の耐食加工並びに耐食タンク及び配管、熱交換器の製造、販売等を業としている。同会社は、本件訴訟提起後の平成七年一〇月六日原告に合併された(以下、承継前原告日進ケミカル工業株式会社を「原告」という。)。
2被告岩城硝子株式会社(以下「被告岩城硝子」という。)は、ガラス製品、耐火材料その他の窯業製品、合成樹脂製品、ガラス製造用機器等の各製品及び複合製品の製造、加工並びに売買等を業とする株式会社である。
3被告【Y1】株式会社(以下「被告【Y1】」という。)は、タンクローリー及びタンクコンテナの設計、製作及び販売、熱交換器の設計、製作及び販売等を目的として平成四年一一月五日に設立された株式会社である。
4被告【Y1】の代表取締役である被告【A】(以下「被告【A】」という。)は、もと原告の専務取締役であったが、平成四年一〇月五日付辞職願い(甲二の1)を原告に提出し、その後原告を退職した。
被告【B】(以下「被告【B】」という。)及び被告【C】(以下「被告【C】」という。)は、いずれも、もと原告の従業員(被告【B】は営業課長、被告【C】は製造課長)であったところ、被告【B】は平成四年一〇月二日に、被告【C】は同月二三日に、それぞれ原告に辞職願い(甲二の2・3)を提出して、その後原告を退職し、現在は被告【Y1】の取締役をしている。
5平成四年一〇月以降、原告から被告【A】、同【B】及び同【C】(以下、右被告ら三名を合わせて「被告【A】ら」という。)のほかに八名の従業員が退職し、
右八名中六名が被告【Y1】に勤務している。
6原告は、平成四年五月頃から、内面にフッ素樹脂であるテフロンをライニング(貼り付け)した化学薬品用の五立方メートル・タンクコンテナー(以下「原告タンク」という。)を大阪府豊中市所在の訴外株式会社高岡化学工業所(以下「高岡化学」という。)に対して販売すべく、同社と交渉を続けてきた。右取引の原告側の主たる営業担当者は被告【B】であった。ところが、被告【B】は、同年一〇月一日、右タンクの製作を中止するよう指示する旨記載した略図指示書(甲六)を作成して原告内部の製造部門等に回覧し、右取引は中止状態になった。
7被告【Y1】は、設立後間もない時期に、原告タンクと同じ五立方メートル・タンクコンテナー(以下「本件タンク」という。)を製造し、被告岩城硝子を経由して高岡化学に販売した。
8被告【A】らは、いずれも原告に在職中の昭和五八年四月一日付誓約書(甲八の1〜3、以下「本件誓約書」という。)を原告に差し入れているが、右誓約書の第五項には「勤務に際して知り得た会社の技術、情報等及び会社が秘密保持義務を負う第三者の技術、情報等を他に漏らさないようにし、会社に損害を及ぼしたときは、弁償の責に任じること。なお、会社を退職した後もこれを遵守すること。」と、
第六項には「会社を退職した後五年間は、会社の営業の部類に属する事業を営む他企業への勤務又は自家営業を行わず、その他会社の技術、情報等を利用して会社に損害を及ぼす行為を一切行わないこと」と記載されていた。
9被告【Y1】は、本件タンクのほかにも、フッ素樹脂ライニングを施した容器の製造、販売を行っている。
二原告の請求の骨子1請求原因の要旨(一)原告は、フッ素樹脂ライニングを施したタンクの製造について、別紙目録記載の技術をノウハウ(以下「本件ノウハウ」という。)として保有しており、右は不正競争防止法上の営業秘密に当たる。
(二)被告【A】らは、本件誓約書及び信義則により、原告退職後の営業秘密保持義務及び競業行為禁止義務を負っている。
(三)被告【A】らは、本件ノウハウにつき不正取得行為をし、又は不正取得行為が介在したことを知って取得し、本件ノウハウを使用している。さらに、被告【C】は、原告から開示された本件ノウハウを図利加害目的で使用する行為もしている。被告【Y1】は、不正開示行為が介在したことを知って、本件ノウハウを取得し、これを使用している。被告岩城硝子も、本件タンクの製造に関して、本件ノウハウにつき不正開示行為があることを知って、その使用又は開示をした。
(四)被告【A】らは、競業避止義務に違反して原告との競業行為をし、原告から原告タンクの受注を奪い、原告の取引先から相当の取引を奪った。
(五)被告【A】らは、原告従業員の被告【Y1】ヘの大量集団移籍を行った。
右集団移籍は、社会的相当性を欠く違法な行為である。被告【A】らの右行為は、
取締役としての忠実義務又は重要な立場にある被用者としての雇用契約上の付随義務に違反し、不法行為も構成する。
(六)被告【A】らによる本件タンクの受注及び原告取引先の奪取並びに原告従業員の大量集団移籍について、被告岩城硝子の従業員である訴外【D】(以下「【D】」という。)は、加担し、幇助した。
(七)原告は、被告らの前記(三)ないし(六)の行為により損害を被った。
2原告の請求(一)被告【Y1】に対し、不正競争防止法3条に基づく本件ノウハウ使用の差止めと不法行為(不正競争防止法4条、民法709条715条)に基づく損害賠償の請求。
(二)被告【A】らに対し、不正競争防止法3条に基づく本件ノウハウの使用の差止め、契約ないし信義則上の義務違反に基づく競業行為の差止めと不法行為(不正競争防止法4条、民法709条719条)又は雇用契約上の債務不履行に基づく損害賠償の請求。
(三)被告岩城硝子に対し、不正競争防止法3条基づく本件ノウハウ使用の差止めと不法行為(不正競争防止法4条、民法715条719条)に基づく損害賠償の請求三争点1原告による本件ノウハウの主張は時機に後れたもので、却下されるべきか。
2本件ノウハウは、不正競争防止法2条4項にいう「営業秘密」に当たるか。
3本件ノウハウについて、被告【Y1】及び同【A】ら(以下、これらの被告を合わせて「被告【Y1】ら」という。)による不正取得行為不正開示行為又は図利加害目的使用行為があるか。右被告らは本件ノウハウを使用しているか。
(一)被告【Y1】は、本件ノウハウについて、不正開示行為があったことを知って取得し、使用しているか。
(二)被告【A】らは、本件ノウハウを不正取得行為又は不正開示行為によって取得し、使用しているか。あるいは、本件ノウハウについて不正取得行為が介在したことを知りながら本件ノウハウを取得し、使用しているか。また、被告【C】は、
原告から開示された本件ノウハウを図利加害目的で使用しているか。
4被告岩城硝子は、本件ノウハウについて不正開示行為があったことを知って本件ノウハウを使用し、開示したか。
5被告【A】らは、原告に対して本件誓約書により退職後の競業避止義務を負うか。被告【A】らは右義務に違反したか。競業避止義務を理由とする原告の請求は権利の濫用か。
6原告の従業員が被告【Y1】に移籍した行為が、被告【A】らの勧誘によるもので、被告【A】らの右行為は雇用契約上の誠実義務に違反し、又は不法行為を構成するか。被告岩城硝子の従業員が右行為に加担したか。
7被告らが原告に対して損害賠償義務を負う場合に支払うべき金銭の額。
第三争点に関する当事者の主張一争点1(原告による本件ノウハウの主張は時機に後れたもので、却下されるべきか。)について【被告【Y1】らの主張】本件訴訟では、被告【Y1】らが原告に対し、本件ノウハウの内容を具体的に特定するように再三の求釈明をしたにもかかわらず、当初より、ことに口金ノズルに関して全く特定されないまま審理が続けられ、平成八年六月三〇日以降ようやく特定の主張がされ始めたものの、その内容はその後も変遷を重ね、平成九年五月になって別紙目録に記載されているように一応具体的に主張されるに至った。被告【Y1】らは、訴えられている本件ノウハウの具体的内容が何なのかもわからないまま応訴してきたのである。原告は、原告が本件ノウハウの内容を具体的に主張しなくても被告【Y1】らは知っていたはずであると主張するが、被告【Y1】らは、どう考えても原告が特殊な加工をしてノズル等を使用しているとは思えないので、
営業秘密」であるという主張自体を争ってきたのである。「考えたらわかるはずである」というのでは、反論のすべもなく、被告らの防御権の侵害である。しかも、
本件ノウハウの内容として原告が平成九年五月に至って具体的に主張するに至った別紙目録に記載されている程度のものは、訴訟提起の時から主張することが十分に可能であり、また、そうでなければそもそも本件訴えを提起することができなかったはずである。そして、別紙目録記載のような具体的内容が訴訟の当初から示されておれば、被告【Y1】らとしても当然それに焦点を合わせた応訴方法をとることができ、各証人らの尋問や書類の提出方法も異なったものとなっていたはずである。
したがって、本件ノウハウの内容に関する原告の主張は、時機に後れた攻撃方法として却下されるべきである。
【原告の主張】原告は、既に訴状に本件ノウハウの内容を記載していたところ、訴状での特定は被告の防御権の行使に必要最低限のものであれば足りるのであるから、本件ノウハウは訴状の記載で十分に特定されていた。しかも、被告【C】は原告の元従業員で製造課長であったから、本件ノウハウの内容を被告【Y1】らは把握しており、同被告らにおいて防御権の行使ができないということはなかった。
したがって、本件ノウハウの内容を別紙目録記載のとおりに主張することは、時機に後れた攻撃方法には当たらない。
二争点2(本件ノウハウは、不正競争防止法2条4項にいう「営業秘密」に当たるか。)について【原告の主張】1原告が行っている耐食タンクの製造に際しては、タンクの内面に耐食用のフッ素樹脂であるテフロンシートをライニング(貼り付け)するのであるが、そのために使用する治工具である、熱風を出し素材を溶融するホットガンの先端に装備する口金ノズル等は、原告が長年にわたって工夫を重ねて改造したものである。また、
溶接用の触媒であるディスパージョンとして何を使うかもノウハウである。原告が使用してきたこれらのノウハウ(本件ノウハウ)の内容を特定すると、別紙目録記載のとおりである。
2(一)ホットガンの先端に取り付けられる口金ノズルで別紙目録一記載のように加工されたものは、市場には存在しておらず、一般的に入手することはできない。
被告らは、右ノズルにつき、その一部あるいは加工前のものが市場に存在すると主張する。しかしながら、市販品のノズルに固有の加工をすること自体技術上の情報であるし、また、公知の情報の組み合わせであってもその組み合わせが知られていなければ、やはり非公知性の要件を充足する。
(二)〔省略〕右のとおり、それぞれ有用性がある。そもそも、極めて危険な化学薬品等を貯蔵・搬送等するためのタンクコンテナーの内部等にフッ素樹脂シートを溶接するのに使用するという目的自体からして、特殊な技術に関するものであり、有用性に疑問はない。
3ディスパージョン(溶接補助剤)についても、それを使用することにより溶接効果が格段に向上するという有用性がある。別紙目録二記載のディスパージョンは、
その化学組成等も不明であり、市場で誰でも一般的に購入できるものでもない。
4原告は、本件ノウハウに関して、昭和五八年四月以降、従業員に誓約書を提出させ、各ノズル等や図面の保管場所を特定し、ノズル等について製造課長が在庫管理を行い、製造担当者は作業ワゴンの引き出しにノズルを保管する等社内における秘密保持を徹底してきた。したがって、本件ノウハウは十分に管理されていたというべきである。被告らは、溶接現場に取引先を近寄らせたこともあったと主張するが、一般的に公開していたものではないし、有毒ガスの発生する現場であるから、
秘密管理性あるいは非公知性を否定するものとはならない。
仮に原告が他社に本件ノウハウを開示することがあっても、それはその取引先との技術提携契約等に基づくものであり、ノウハウ保持条項が当然に存在するのであるから、非公知であることに変わりはない。
【被告らの主張】1原告が「営業秘密」として主張する本件ノウハウには、次のとおり何ら秘密性、
有用性がない。
(一)口金ノズルについて(1)総論?@原告が主張する本件ノウハウのうち、ノズルの形状は市販品に同形状のものがあるし、市販品に加えた加工というのも特に珍しいものではない。本件ノウハウは、
単に物を貼り付ける道具であるノズルの形態に関するもので、貼り付ける物の材質がフッ素樹脂であるというにすぎない。原告は、公知の情報の組み合わせであっても、組み合わせ自体が知られていなければ非公知性を充足すると主張するが、公知の情報の組み合わせでも営業秘密になるというのは、それらの各情報が相互に必然的に補完し合って一体となり、全体として新たな有用性が創造される場合であって、
公知の有用な情報がたまたま同時にいくつか存在し、それぞれ便利であるという程度では当てはまらない。そして、本件において、ノズルにつき原告が営業秘密として主張する個々の点は、組み合わせによって新たな有用性を生じさせるようなものではない。
?A原告では、口金ノズルを溶接作業員が各自で保管し、取引先の工場での現地加工や、納品先での製品の手直しの際、各作業員はそれぞれが口金ノズルを現地に持参し、作業をしていた。その際には、納品先の一般社員がノズルを見ることができたし、特にノズルを隠すようなこともなかった。また、原告工場内においても、作業終了時には、ノズルはそのままワゴンの上に置かれたり、横に吊り下げられたりしており、保管場所も決まっていなかった。さらに、原告は、得意先に工場内の見学をさせ、ノズルを使ったライニング作業を間近で見せ、その際、見学者がノズルを手に取って眺めるということもあった。
(2)各論?@〔省略〕?A〔省略〕?B〔省略〕?C〔省略〕(二)ディスパージョンについて別紙目録二の三井デュポンフロロケミカル株式会社(以下「三井デュポン」という。)製のディスパージョンについてみると、もともと同社自体がそれをロッド溶接、テープ溶接に使用することを目的に各社に教授しており、現に原告以外の各社でも同社製のディスパージョンがそのように使用されている。
三争点3(本件ノウハウについて、被告【Y1】らによる不正取得行為不正開示行為又は図利加害目的使用行為があるか。右被告らは本件ノウハウを使用しているか。)について【原告の主張】1以下の各事情を総合すれば、
被告【Y1】らが本件ノウハウを使用して本件タンクを製造したことは明らかである。
(一)原告は、被告【B】が担当となって、原告タンクを高岡化学に平成四年一二月末日納入する予定で同年五月頃から同社と交渉し、被告【B】は、同年五月二五日、原告製造部門に対し製作依頼書を発行し、同年六月二九日、製造図面が完成したので、同年八月一日見積書を発行した。一方、原告は、同年八月二五日、訴外尾浜プレス株式会社に鏡板(タンクの左右球面板)を発注し、右鏡板は同年九月二八日、原告の下請先の訴外株式会社昭和鉄工に納入されるなど、準備が進んでいた。
(二)被吉【B】は、平成四年一〇月一日、原告代表者の了解を得ないまま、突然、本件タンクの製造を中止するよう指示する旨記載した略図指示書を作成して回覧し、原告タンクの製造を中止させた上、翌二日、辞表を提出して原告を退職した。
(三)原告が原告タンクの製造に取りかかることができない状態の中で、被告【A】及び被告【B】は、平成四年一〇月一二日、高岡化学に出向いて同じ内容の本件タンクの注文を受け、同月二〇日に被告岩城硝子に見積書を提出し、高岡化学に被告岩城硝子作成名義の本件タンクの図面を提出した。右図面は、同年一〇月一日には製図されており、原告が高岡化学に原告タンクを納入するために作成していた図面とほぼ同一で、右図面には被告【B】のものと思われる筆跡がある。しかも、
本件タンクの缶体の主材料である鏡板四枚は、被告【B】らが原告を退職する前に既に原告の缶体の主仕入先のメー力ーに注文されていた。
(四)被告【Y1】らは、フッ素樹脂シートの溶接に当たり、ディスパージョンのノウハウや原告が使用していたロッド用ノズルと同じものあるいはよく似たテープ用ノズルを使用していたし、しかも、テープ用ノズルは、被告【A】らが原告を退職してから間もなくの平成四年一一月二〇日頃には既に加工が仕上がっていた。
被告【A】らの退職後、本件ノウハウに基づく加工をした原告の口金ノズルが紛失していることが判明した。被告【A】らは、共謀の上、本件ノウハウに基づき加工した口金ノズルやディスパージョン、タンク製造図面等を原告を退職する前後に不正に持ち出して使用したと考えられる。
(五)〔省略〕営業秘密が複数の技術上の情報からなる場合、その侵害であるといい得るためには、特許権の侵害のようにその構成要素のすべての技術が模倣されている必要はない。当該技術上の情報の有用性をもたらす技術的要素を一つでも使用すれば、全部を使用していないからといって営業秘密侵害していないとはいえないのである。
2そして、被告【A】は原告の専務取締役、被告【B】は営業課長、被告【C】は製造課長であったこと、被告【C】は本件ノウハウを職務上の必要性に基づき原告から開示を受けていたこと、被告【C】のほか、被告【A】及び被告【B】も本件ノウハウの秘密性、有用性を認識していたこと、被告【A】らは本件誓約書に基づき原告退職後の秘密保持義務があること、被告【A】は被告【Y1】の代表取締役、被告【B】及び被告【C】は被告【Y1】の取締役にそれぞれ就任していることからすると、被告【Y1】は本件ノウハウにつき不正開示行為があったことを知りながら本件ノウハウを使用し、また、被告【A】及び被告【B】は本件ノウハウを不正取得し、さらに、被告【C】は図利加害目的で本件ノウハウを使用しているものというべきである。
3被告【Y1】らは、被告【C】が本件ノウハウを独自に開発した旨主張するが、
一連のフッ素樹脂加工技術は被告【C】が原告に入社した昭和五四年以前に技術開発されているし、被告【C】以外にも原告の関連会社の【E】や原告従業員の【F】が関係しているのであるから、被告【C】が独自に開発したことにはならない。
【被告【Y1】らの主張】1原告は、被告【Y1】らが本件ノウハウを使用したことを裏付ける事情として、
原告と高岡化学との間で進んでいた原告タンクの商談を横取りした趣旨の主張をするが、高岡化学から原吉に対し、平成四年五月半ば過ぎ、同年の年末にかけてタンクが入り用になるという話があっただけで、具体的な注文があったわけではない。
すなわち、タンクの大きさ自体決まっておらず、八月、九月の段階で仕様も未定で、
被告【B】が原告を退職する時点でも、高岡化学からの話はいわば打診の段階であったにすぎない。高岡化学は、被告【A】及び被告【B】が、高岡化学と従来から顔見知りで親しかったことから、被告【A】及び被告【B】が原告を退職して新しい仕事をするという話を聞いて、被告【Y1】に本件タンクを注文したのである。
さらに、被告【Y1】らは、フッ素樹脂のライニングに当たって原告が主張する形状のノズルを使用していない。
2原告が主張する本件ノウハウには秘密性はないが、仮に法的保護に値する秘密性があったとしても、本件ノウハウは、当時原告の製造課長兼工場長であった被告【C】が一人で考案し、実用化したものである。すなわち、原告が現在のようなフッ素樹脂加工の方法を行うようになったのは、被告【C】が三井デュポンに見学に行き、ディスパージョンの使用を教えられてからであり、それまでは、原告は全く違うルーズライニング方式を採用していたのである。したがって、本件ノウハウに法的保護に値する秘密性があったとしても、それを考案したのは被告【C】自身であるから、その権利は被告【C】に帰属するのであって、被告【C】が使用を認めている以上、被告【Y1】らが本件ノウハウを使用することには何の問題もない。
四争点4(被告岩城硝子は、本件ノウハウについて不正開示行為があったことを知って本件ノウハウを使用し、開示したか。)について【原告の主張】次の事実からすれば、被告岩城硝子は、被告【Y1】が製造した本件タンクを高岡化学に販売するに際し、本件ノウハウについて、不正開示行為があったことを知って、本件ノウハウを使用又は開示したものである。
1被告岩城硝子の理化・装置事業部プラントグループの責任者である【D】は、
被告【A】らと親密な関係にあったこと、本件タンクの契約や図面はいずれも被告岩城硝子名義となっていることからすると、【D】は、本件タンクの製造に本件ノウハウが使用されていることを当然知っていたというべきである。
2被告【Y1】は、被告岩城硝子に平成四年一〇月二〇日に本件タンクの見積書を提出しているが、【D】の指示で被告【Y1】に本件タンクの図面が送られたのは同月二五日頃であり、図面の提出なしに見積書が提出されることはあり得ないから、【D】は、被告【A】らが原告を退職する前から相談を受けて原告タンクの取引の奪取に加担していたというべきである。
3【D】は、被告【A】が原告を退職した理由を一切聞いておらず、化学薬品の貯蔵等をするという危険で精度の要求されるタンクの製造を依頼するに当たって、
被告【A】以外のスタッフの有無について聞いていないし、この種分野には多くのノウハウがあることを認識していながら、被告【A】らに秘密保持義務の有無の確認もしていない。これは、本件タンクの製造を依頼した際に既に本件ノウハウを被告【A】らから得ていたためである。
【被告岩城硝子の主張】本件ノウハウは、もともと法的保護に値する「営業秘密」ではないが、この点は措くとしても、【D】は本件タンクの製造につき営業秘密があるとは知らなかった。
被告岩城硝子は、平成四年一〇月中頃、被告【Y1】に被告岩城硝子の下期売上増加の協力を依頼したところ、これに対して、被告【Y1】から高岡化学に納入予定の物件があり、その窓口を被告岩城硝子にしてもよいとの話があったので、本件タンクの製造を被告【Y1】に依頼し、これを高岡化学に販売したものであって、あくまでも通常の取引をしたにすぎない。
五争点5(被告【A】らは、原告に対して本件誓約書により退職後の競業避止義務を負うか。被告【A】らは右義務に違反したか。競業避止義務を理由とする原告の請求は権利の濫用か。)について【原告の主張】1被告【A】らは、昭和五八年四月一日付の本件誓約書を原告に差し入れている。
それによれば、前記のとおり、六項で「会社を退職した後五年間は、会社の営業の部類に属する事業を営む他企業への勤務又は自家営業を行わず、その他会社の技術、
情報等を利用して会社に損害を及ぼす行為を一切行わないこと」と定められている。
しかも、被告【A】は原告の専務取締役、被告【B】は営業課長、被告【C】は製造課長であったのであるから、信義則上、退職後も競業避止義務を負う。
したがって、被告【A】らは、原告に対し、競業避止義務を負っている。
2次のような事情からしても、被告【A】らの原告に対する競業避止義務が肯定される。
(一)本件ノウハウは、フッ素樹脂ライニングに使用されるものであるところ、
フッ素樹脂ライニングの事業は極めて限定された事業分野で、国内業者は原告を入れて四社程度であり、特殊な分野におけるものであるから、競業避止義務を課すことにつき合理性がある。
(二)被告【A】らは、いずれも、何ら強制されることなく、自らの意思で本件誓約書に署名捺印した。しかも、被告【A】は、当時、営業部長で、自ら発案して原告の顧問弁護士と相談の上本件誓約書を作成し、社員に署名捺印を求めたのである。
(三)右競業避止義務の内容は、本件ノウハウがその主要部分を占めているところ、原告は、本件ノウハウを使用することによって、技術力が高いと世間で評価を得ていたのであるから、このような競争力のある地位を維持する必要性がある。
(四)被告【A】らが、原告を退職しなければならなかった事情は全くない。被告【A】らは、原告に不正行為があったとか、乱脈経営、恣意的な人事管理、公私混同等があったと主張するが、いずれも全く根拠がないものであるし、このような事情が退職後の競業避止義務を免除する理由とはならないことも明らかである。
(五)原告は、被告【A】に七〇〇万円、被告【B】に四七万二一四六円、被告【C】に一一八万〇三六四円の退職金を支給しており、本件誓約書の内容を遵守させるに十分な代償措置を講じている。しかも、被告【A】は、右退職金を受領した平成四年一二月二二日、新たに「私が貴社在職中に知り得た貴社……に関する……製品情報……を他に一切口外しないことを誓約致します。」という誓約書(甲一二)を原告に差し入れている。
(六)被告【B】は、高岡化学向けの原告タンクの製造を勝手に中止した上、翌日には原告を退職し、退職直後に今度は被告【Y1】で高岡化学向けの本件タンクの製造の注文を受けたこと、被告【A】らは、短期間の間に相次いで原告を退職し、
しかも、原告従業員九名を集団で移籍させたこと、被告岩城硝子と共謀の上、原告の取引先を奪取したこと、という背信的な行為をしている。
3そして、前記三(争点3)【原告の主張】1のとおり、被告【A】が代表取締役、被告【B】及び被告【C】が取締役である被告【Y1】は本件ノウハウを使用して本件タンクを製造したのであるから、被告【A】らが右競業避止義務に反したことは明らかである。
4本件誓約書による競業避止義務の期間は、誓約書上は五年間とされているが、
これは、退職後五年間内に競業行為を始めてはならないことを定めているので、本件のように、退職後ただちに競業行為を始めた場合には、退職後五年を経過してもなお不作為義務が存続するというべきである。
【被告【Y1】らの主張】1以下のとおり、本件誓約書の競業避止条項は、無効であり、被告【A】らは競業避止義務を負わない。
(一)本件誓約書は、もともと被告【A】らのいずれについても原告に入社する時に入社の条件として作成されたものではなく、既に何年も勤めた後に、署名押印しなければ昇進面等で不利益があるとの明示あるいは黙示の圧力をかけて作成されたものである。確かに、誓約書が作成された当時被告【A】は原告の役員であったが、もともと原告は代表者のオーナー会社であるから、代表者に逆らって行動できるはずもなく、被告【A】も被告【B】及び同【C】と同様に弱い立場にあった。
(二)退職後の競業避止義務や営業秘密保持義務等を課すためには、そもそも使用者のみが有する特殊な知識すなわち営業秘密を有することが前提である。従業員が他の使用者の下でも同様に習得できるであろう一般的知識技能は、その従業員の一種の主観的財産を構成するのであって、当該従業員が雇用関係の終了後にこれを活用することを禁止することは、単純な競争の制限であって、職業選択の自由を不当に制限するものとして公序良俗に反するというべきだからである。本件の場合、
原告が行っているフッ素樹脂ライニングの作業は、塩化ビニールの溶接と似ており、
ごくありふれたものであり、秘密の技術として教えられるものではなく、一人一人の作業員が職人として現場で樹脂を貼り付ける作業を通じて自ら学ぶというものであるから、そもそも法的保護に値する技術ではない。
(三)退職後の競業避止義務が認められるためには、使用者側にもそれを元従業員に要求するだけの正当な利益がなければならない。本件の場合、原告代表者による電話の盗聴、アメリカの子会社を利用した不正な利得行為、ニュージーランドのゴルフ場開発による巨額損失などの乱脈経営、恣意的な人事管理、代表者父子の公私混同など、会社の私物化が目に余る状態であったことや、被告【A】の電話機に盗聴器を仕掛けるといった陰湿な管理体制に嫌気をさしたことから、被告【A】らは原告を退職したのであり、右のような原告が被告【A】らに対して競業避止を求めることは正当な利益を欠く。
(四)退職後の競業避止義務が認められるには、それに見合う対価(補償)が与えられなければならないところ、本件の場合、被告【A】らはいずれも退職後の競業避止を補償するために特別に高い給料や手当を支給されていたわけではない。また、被告【A】らは、退職当時の原告の退職金規程に基づく退職金を受領しておらず、中小企業退職金共済からの退職金を受け取ったのみである。
このような場合に、原告が一方的に被告【A】らに退職後の競業避止義務を課すことは信義則に反する。
(五)退職後の競業避止条項は、それが認められる場合でも合理的、最小限のものでなければならないところ、本件誓約書では、従業員に一律に退職後五年間という長期にわたり、地域も限定せず、競業避止義務を課すもので、従業員の職業選択の自由を害する。
2原告は、被告【A】らが原告の取引を奪取したり、原告従業員を集団で移籍させた背信的な行為をしている旨主張するが、右主張が理由がないことは、前記三(争点3)や後記六(争点6)の【被告【Y1】らの主張】で述べているとおりである。
3仮に被告【A】らの競業避止義務が認められるとしても、右1、2で主張した事実からすれば、競業避止義務を理由とする原告の請求は権利の濫用として許されない。
4仮に本件誓約書の競業避止条項が有効であり、被告【A】らにその違反があったとしても、被告【A】らが原告を退職して既に五年以上を経過しているので、右条項は効力を失っている。
六争点6(原告の従業員が被告【Y1】に移籍した行為が、被告【A】らの勧誘によるもので、被告【A】らの右行為は雇用契約上の誠実義務に違反し、又は不法行為を構成するか。被告岩城硝子の従業員が右行為に加担したか。)について【原告の主張】1被告【A】らが原告を退職した当時、原告の従業員は五一名であったが、平成四年一〇月から平成五年二月までの間に九名が相次いで退職しており、特に最初の二か月間に七名が退職している。そして、これら九名が全員原告の事業と競合する被告【Y1】に就職している。右のような事実が偶然に生じることは社会通念上あり得ず、専務取締役であった被告【A】や営業課長であった被告【B】が先発して原告を退社し、その直後に被告【Y1】が設立されていることからみても、被告【A】らが原告在職中から共謀して集団移籍を企図し、実行したものと推認できる。
右のような集団移籍行為によって、原告は、本件ノウハウを使用した製品の製造等に大きな支障を生じ、売上減少も生じた。被告【A】らによる集団移籍は、明らかに社会的相当性を欠く、違法行為である。
2被告岩城硝子の従業員である【D】は、被告【A】らによる集団移籍行為を容易ならしめ、幇助した。
【被告【Y1】らの主張】被告【A】らが、原告の従業員を勧誘して集団で原告を退職させて、被告【Y1】に就職させたということはない。原告を退職したこれらの者は、原告内における立場、職種、経歴が全く異なるし、もともと互いに親しかったわけでもない。また、被告【Y1】は、平成四年一一月五日に設立されたばかりであって、大した仕事があろうはずもなく、仮に被告【A】らが勧誘したとしても何人もが転職するはずがない。平成四年の終わり頃に原告を退職した従業員の中には、被告【Y1】に就職せず、別に会社を設立して、フッ素樹脂ライニングの事業をしている者もいる。
これらの者は、原告代表者による乱脈経営、恣意的な人事管理、公私混同など、会社の私物化に不満をもっていたところ、同僚が退職するのを見て櫛の歯が抜けるように自らの意思で退職し、結果的にその一部が被告【Y1】に就職したにすぎないのである。
【被告岩城硝子の主張】【D】は、原告主張の集団移籍行為の事実すら知らず、これを容易ならしめて幇助した事実はない。
七争点7(被告らが原告に対し損害賠償義務を負う場合に支払うべき金銭の額)について【原告の主張】1被告らは、原告と高岡化学との間で具体的な商談が進み、既に原告が鏡板を注文し、それが下請に納品されていた原告タンクの取引を違法に奪取したところ、右取引は少なくとも一〇五〇万円の取引であった。
そのほかにも、被告【Y1】代表者である被告【A】は、原告の取引を奪取することにより、ISOコンテナー損金一〇社分、ダイキン工業株式会社向け五m3タンクローリー一台分、日産化学工業株式会社向け混合層クーラーの修理一台分、日産輸送株式会社向け八m3コンテナー一台分、日産化学工業株式会社向け一m3コンテナー一七台分、日産化学工業株式会社向け一〇m3タンク一台分、同四m3タンク一台分、同調合槽一台分の合計六四五八万○〇七八円分の売上減、損金を原告に生じさせた。これらの粗利益は三〇%であるから、原告は少なくとも一九〇〇万円の損害を被った。
2また、前記六(争点6)の【原告の主張】のとおり、原告は従業員を集団で被告【Y1】に移籍されたことにより、急きょ求人等を行う必要が生じ、会杜経歴書の作成、被告【Y1】についての調査費の支出を余儀なくされた。それらの費用額は合計四四三万六九一一円である。
3従業員の集団移籍と被告らの競業行為により、生じた売上の減少は一か月当たり七五〇〇万円であり、その粗利益は三〇%であるところ、原状回復のために少なくとも三か月分の損害の補填が認められるべきである。原告は、右損害を、前記1、
2の損害と選択的に主張する。
4よって、原告は、右損害の内金一〇〇〇万円の賠償を求める。
第四争点に対する当裁判所の判断一争点1(原告による本件ノウハウの主張は時機に後れたもので、却下されるべきか。)について1本件記録によれば、次の事実が明らかである。
本件訴訟は平成五年九月六日に提起されたが、訴状の請求の趣旨及び原因において営業秘密として原告が特定した訴状添付の目録には「フッ素樹脂シートの溶接技術に関して、左記の技術のすべて又は一部を使用すること。一ホットガンの先端に加工口金を取り付けること。二三井デュポンフロロケミカル株式会社製のディスパージョン(溶接用の触媒)を使用してロッド溶接及びテープ溶接をすること。」と記載されていた。被告【Y1】らは、答弁書において訴状添付目録一の技術内容のどこに意味があるのか不明であるとして、具体的内容の詳細を明らかにするよう求めた。原告は、同年一一月二二日付準備書面において、訴状添付目録記載の営業秘密をより具体的に特定すれば、「原告が平成四年五月二五日に納品した、
契約先興銀リース株式会社、納入先有限会社東田鉄工(最終納入先は日産輸送株式会社富山支店)の、七・二キロリットルEL硝酸タンクローリー内面のフッ素樹脂シートのライニングに際して使用した加工口金ノズル及びディスパージョン並びにこれらを使用したロッド溶接及びテープ溶接」であり、この工程については被告【C】が行い、内容を知悉していると主張した。被告【Y1】らは、同年一二月二二日付準備書面において、原告はその主張する営業秘密の内容をより詳細に、少なくとも同被告らが反論可能な程度に特定すべきであると主張した。その後、原告と被告【Y1】らとの間で、営業秘密の内容が原告主張の程度で特定されているといえるかが争われたが、平成六年五月二六日の第五回口頭弁論期日から人証調べが開始された。原告は、平成八年六月二〇日付準備書面及び平成九年二月二七日付準備書面において、逐次目録の変更を行い、その主張する営業秘密の内容をより具体的に特定し、最終的に、平成一〇年四月二二日付準備書面において、本判決別紙目録記載のとおりに営業秘密の内容を特定した。被告【Y1】らは、右目録の訂正に対し、時機に後れたものであるから却下されるべきであると主張した。
2右訴状添付の目録の記載と別紙目録の記載とを対比すると、フッ素樹脂シートの溶接技術に関し、ホットガンの先端に取り付ける口金ノズルの加工とディスパージョンについての技術情報であることでは変わりがないが、特に口金ノズルについては、訴状添付目録では、単に「ホットガンの先端に加工口金を取り付けること」とされていて、加工の内容は全く特定されていなかったのに対して、平成一〇年四月二二日付準備書面添付目録では、〔省略〕が具体的に記載されている。そして、
被告【Y1】らは、一貰して、同被告らが原告主張の技術情報を取得し、使用したことを争うとともに、原告主張の技術情報の営業秘密性を争い、原告の特定では不十分であると主張してきたものであるところ、確かに、被告【Y1】らの防御権の観点からは、本件訴訟提起当初の原告の営業秘密の特定は不十分であり、その内容がより具体的に特定されたのは、訴訟が相当進行してからであったことは否定できない。しかし、原告が本訴で営業秘密として主張しているのは、広くフッ素樹脂シートの溶接技術一般ではなく、口金ノズルの加工とディスパージョンに限定していることは訴訟提起当初から一貫しているところであり、後記のとおり、被告【A】らはいずれも、原告在職中にこれらの技術情報に接する立場にあり(特に被告【C】は、右技術の開発に直接かかわってきたものである。)、原告が営業秘密として主張する技術方法の内容や価値等について十分に理解できる立場にあったものということができる。しかも、技術情報にかかわる営業秘密は、原告においても、
その内容を具体的に特定するのはその性質上必ずしも容易なことではないし、不用意に開示することによって秘密性が失われるおそれもないとはいえず(ちなみに、
原告は、本訴において営業秘密の保護に配慮した訴訟指揮を裁判所に対して求め、
新民事訴訟法施行後は、同法に基づき記録の閲覧制限の申立てもしている。)、被告の応訴態度をみながら営業秘密の内容をより具体的に特定するということも、原告の立場からするとやむを得ない面がある。右のような原告と被告【Y1】らの営業秘密の特定をめぐる攻撃防御の利害関係を前提にして、本件訴訟の経過をみると、
原告が故意又は重大な過失によって営業秘密の特定を時機に後れて行い、あるいは、
そのために被告【Y1】の防御に著しい支障を生じたものとは認められない。
したがって、被告【Y1】らの前記主張は採用できない。
二争点2(本件ノウハウが不正競争防止法2条4項にいう「営業秘密」に当たるか)について1前記第二の一の基礎となる事実に、後記(一)(二)に掲記する各証拠と証人【G】、同【H】の各証言、原告代表者、被告【Y1】株式会社代表者兼被告本人【A】、被告【C】、同【B】の各本人尋問の結果(これらのうち、後記認定に反する部分は採用しない。)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実を認めることができる。
(一)原告及び被告【Y1】は、現在、フッ素樹脂シートライニングを主な事業としている。フッ素樹脂シートライニングとは、耐薬品性、耐熱性、耐候性、電気的特性、非粘着性、低摩擦係数、純粋性等で優れた諸特性を有する樹脂であるフッ素樹脂のシートを、耐食性等を要求される箇所(缶体内面)に貼り付ける(ライニング)技術である。本件で問題になっているタンクコンテナーに関していえば、化学プラントや半導体設備で使用される腐食性の強い薬品(硫酸、過酸化水素、フッ化水素酸、硝酸、塩酸等)を貯蔵するタンクにおいて、薬品からタンク本体(缶体)を保護するために、前記のような優れた諸特性を有するフッ素樹脂の中でも特に優れた四フッ化エチレン樹脂(PTFE)あるいはパーフルオロアルコキシ樹脂(PFA)の厚さ二ないし三mm程度のシートをタンク等の缶体内面に貼り付けるものであるが、右貼り付けの後に、シートとシートとの継ぎ目を溶接する必要がある。右溶接が不完全な場合、薬品がタンクの缶体内面に浸潤して危険であることから、完全、確実に溶接することが必要であり、相当の熟練した技術を要する。
右の溶接に当たっては、まず、シートとシートとの継ぎ目に特殊な薬品を塗布してロッド溶接を行い、次にリボンテープによる溶接を行う。この溶接は、ロッド及びテープを熱風で融和接着させる方法で行うが、微妙な条件を必要とするため、長時間にわたり恒温を維持することができる熱風溶接機(ホットガン)を使用し、その先端にロッド溶接用口金ノズルあるいはテープ溶接用口金ノズルを取り付けて行う。フッ素樹脂シートライニングは、昭和五三年頃に三井デュポンが、フッ素樹脂シートライニング用としてPTFEシートの片面にガラスクロスをラミネートする技術及びPTFEの溶接前処理剤(ディスパージョン)を開発した(なお、同社は、
PTFE成形体用の溶接前処理剤及び溶接方法について昭和五六年に特許出願をし、
その内容は公開されている。)ことから、品質的に安定した溶接を行うことが可能となり、現在、原告、被告【Y1】以外にもニチアス株式会社等数社がフッ素樹脂シートライニング事業を行っている。
右のようにフッ素樹脂ライニング技術の歴史は比較的新しいことから、薬品のライニング面への透過、負圧によるライニングシートの剥離、高温時の熱膨張、溶接強度の信頼性等、技術的に改善しなければならない課題も多く、各社で改善の努力をしている。(甲一の1〜3、一三、乙五、一○、一二、二四、二五)(二)フッ素樹脂シートライニングに使用される器具には、スイスのライスター社製品のほか、米国のグッドバーン社製品、カムウェルド社製品等がある。各社のロッド溶接用及びテープ溶接用口金ノズルは、いずれもロッドあるいはテープを挿入して溶接箇所に当てる挿入口とホットガンからの熱風が吹き出す次き出し口とを有するという基本的形状をしている。原告は、ロッド溶接用口金ノズルについてはライスター社製品を株式会社パーカーコーポレーションから購入しており、テープ溶接用口金ノズルについて、原告のアメリカ現地法人で入手した塩化ビニールの溶接用のカムウェルド社製ノズルを改造するなどして使用していた。また、ディスパージョンについては、三井デュポン製のディスパージョンを日本バルカー工業株式会社から購入している。ディスパージョンについては、三井デュポンが自社の製造するフッ素樹脂原料の用途拡大のために開発したものを市販しており、フッ素樹脂シートライニングの事業を実施している各社に対し技術指導もしており、三井デュポン社製のディスパージョンが使用されていることは、これらの業者の間で知られている。(甲一三、二五、二六の1・6〜9、乙三の1・2、一三、一四の1〜3、
一五、四一、四二)(三)原告は、フッ素樹脂シートライニングの際の溶接に関して、長年にわたる試行錯誤、改善を重ねて、ホットガンの先端に取り付けられる口金ノズルについては、購入したノズルの口金を、熱のバランスが良く使いやすいように独自に改良し、
別紙目録一記載のような技術を使用している。また、ロッド溶接及びテープ溶接に当たって、ディスパージョンとして、三井デュポン製の特定の一種類のものを使用している。原告のフッ素樹脂シートライニングの技術は、業界でも高く評価されている。原告においては、役員、従業員から誓約書を徴して営業秘密の保持義務を課し、在庫管理を製造課長が行い、製造課の部室のロッカーにノズル等の治工具やディスパージョンを保管し、右の技術を管理していた。(甲一三、一四、三六)2右1で認定したとおり、フッ素樹脂シートライニングにおいては、その目的、
技術的な意義、内容、危険性等からして、完全、確実に溶接することが求められる。
そして、完全、確実な溶接のためには、溶接に使用する材質や器具が重要であり、
これらに何らかの工夫が施された場合には、そのような工夫は時間をかけて試行錯誤を繰り返した結果得られることが多いのが通常であると考えられるから、本件ノウハウのうち、少なくとも原告が前記のとおり保有する別紙目録一記載の内容の技術は、不正競争防止法2条4項にいう「営業秘密」として保護の対象とするに足りる有用性があると認めるのが相当であり、かつ、前記認定によれば、右技術は原告において秘密として管理され、公然と知られていない情報であると認められる。
しかし、別紙目録二記載のディスパージョンについては、その製品を特定することもなく、単に三井デュポン製というだけでは、いまだ営業秘密に当たるものとはいえない。フッ素樹脂シートライニングに関して使用するPTFEの溶接前処理剤(ディスパージョン)は、関連技術とともに三井デュポンが開発したものであり、
昭和五七年に同社出願にかかるPTFE成形体用の溶接前処理剤及び溶接方法の発明が公開されている(乙一〇)が、製品のディスパージョンの具体的な成分等については企業秘密として公開されていない(弁論の全趣旨)。しかし、前記認定のとおり、三井デュポン製の溶接用ディスパージョンは市販品であり、原告以外のフッ素樹脂ライニングを実施している各社も使用しており、三井デュポンでも技術指導をしており、同社製ディスパージョンがフッ素樹脂シートライニングの溶接で使用されていることはこれら各社の間で知られているものであるから、三井デュポン製のディスパージョンを、複数の製品中から具体的な製品を特定することもなく、溶接補助剤として使用するということ自体を営業秘密と認めることは困難である。ディスパージョンの使用方法、量その他の使用態様においてノウハウに値する技術があるかもしれないが、原告の主張する別紙目録二の程度では、法的保護に値する営業秘密とはいえないとみるのが相当である。
3被告らは、前記第三の二の【被告らの主張】2記載のとおり、本件ノウハウには何ら技術的有用性はなく、また、これらは何ら秘密として管理されていなかったと主張するが、以下のとおり、被告らの主張はいずれも失当である。
(一)まず、被告らは、口金ノズルの形状につき、市販品に同型の形状のものがあると主張する。
確かに、ライスター社、グッドバーン社あるいはカムウェルド社の製品カタログ(甲二六の6〜9、乙三の1・2、一三、一四の1〜3、一五、四一、四二)によれば、別紙目録添付の参考図面1あるいは参考図面2に記載されているものと基本的形状が同じノズルを右各社が製造販売していることが認められ、原告自身、ロッド溶接用ノズルについては市販のライスター社製品を利用して加工している。しかしながら、右ライスター社等の製品カタログには、ノズル等の簡単なスケッチあるいは実物の使用例の写真が掲載されていて、ノズルのおおよその形状、適応するテープ等の幅、ノズルの直径等に種別があり、それを具体的に把握することができるものの、〔省略〕、具体的にどの部分をどのように加工したかは、結局加工された実物によって初めて明らかになるというべきであるから、市販品を利用して加工しているからといって直ちに非公知性が否定されるわけではない。
(二)被告らは、ノズルをネジで嵌合する形態のものをライスター社、カムウェルド社等が製造販売しているとも主張するところ、確かに、ライスター社のカタログ(乙四二)、グッドバーン社のカタログ(乙一四の1〜3)及びカムウェルド社のカタログ(乙一五)によれば、ロッド溶接用ノズルをネジで嵌合する形態のものをライスター社が、また、プラスチック溶接機器のノズルについてはネジで嵌合する形態のものをグッドバーン社やカムウェルド社が、それぞれ製造販売していることが認められる。
〔省略〕(三)〔省略〕(四)〔省略〕(五)被告らは、原告においてはノズルを作業員各自が管理し、作業が終了していても特に定められた保管場所に収納していたわけではなく、しかも、当該ノズルを使用して原告工場内あるいは納品先で作業をする際、工場見学者や納品先社員が作業を見学し、ノズルを間近に見たりすることもできたと主張し、被告【A】らはこれに沿う供述をする(被告【A】、同【B】、同【C】各本人)。しかしながら、
前記認定のとおり、原告はノズルの保管ロッカーを定めていたし、溶接作業を原告工場の見学者や納品先の社員に見せていたとしても、ノズル自体さほど大きいものではないのであるから、これら部外者においては、市販品を加工していること自体は理解できても、具体的にどの部分にどのような加工をしたかを知ることは困難であったと推認される。
4以上のとおり、別紙目録一記載の技術については、原告の保有する不正競争防止法上の「営業秘密」であるということができるが、同二記載のディスパージョンに関しては、営業秘密性を認めることができない。
三争点3(本件ノウハウについて、被告【Y1】らによる不正取得行為不正開示行為又は不正目的使用行為があるか。右被告らは本件ノウハウを使用しているか。)について1前記基礎となる事実に、後掲各証拠のほか、甲第一六号証の1、第二二号証、
証人【G】、同【H】、同【D】の各証言、原告代表者、被告【A】、同【C】、
同【B】の各本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実を認めることができる。
(一)原告は、前記のとおり昭和五〇年八月一三日に設立されたが、被告【A】は、原告設立時に営業課長として入社した。その後、被告【A】は、営業部長等の職を経て昭和六〇年頃に専務取締役に就任し、後記のとおり原告を退職するまで専務取締役を務めた。
被告【C】は、昭和五三年一一月に原告に入社し、後記のとおり原告を退職したときは製造課長であった。被告【C】は、原告に入社した後、従来のルーズライニング方式に代えて、三井デュポンが開発したPTFEにガラスクロスを裏貼りしたシートを使用した接着ライニング方式による溶接の技術指導を受けるため、同社清水研究所に出向いて技術を習得した。
被告【B】は、昭和五八年三月に原告に入社し、後記のとおり原告を退職したときは営業課長であった(甲一五、三六、乙二四、三五)。
(二)被告【A】らは、原告から、昭和五八年四月一日付で本件誓約書を提出するよう求められ、いずれも署名押印の上提出した。本件誓約書には、冒頭に「私は、
次のことを固く守り、かつ、履行することを、誓約します」、第五項には「勤務に際して知り得た会杜の技術、情報等及び会社が秘密保持義務を負う第三者の技術、
情報等を他に漏らさないようにし、会社に損害を及ぼしたときは、弁償の責に任じること。なお、会社を退職した後もこれを厳守すること」、第六項には「会社を退職した後五年間は、会社の営業の部類に属する事業を営む他企業への勤務又は自家営業を行わず、その他会社の技術、情報等を利用して会社に損害を及ぼす行為を一切行わないこと」と記載されている(甲八の1〜3、三六)。
(三)平成四年五月頃、原告は、高岡化学から化学薬品用五立方メートル・タンクコンテナー(原告タンク)の製造を受注した。右取引の原告側の主たる営業担当者は営業課長の被告【B】であり、同月二五日、被告【B】は、受注先を高岡化学、
納期を同年一二月末とする原告タンクの製作依頼書を作成して原告の製造部門に対し発行した。同年六月二九日、原告タンクの製造図面が完成した。同年八月一日、
原告は、高岡化学に対して本件タンクの製造の見積書を発行した。同月二五日、原告は、尾浜プレス株式会社に対して本件タンクの製造に使用するための鏡板四枚の製造を発注した。同年九月二八日、右鏡板が原告の下請である株式会社昭和鉄工に納入された(甲三ないし五、一六の5)。
(四)同年一〇月一日、被告【B】は、原告タンクについて略図指示書を作成した。同文書には「納期短縮の為(現在の12/E〔エンドの意味〕が11/中)とり合えず輸送方法変更いずれ再オーダーされると思うが、とり合えず現状にて中止下さい」と記載されており、同日、原告タンクの製造は中止された(甲六、一六の5)。
(五)同月二日には被告【B】が、同月五日には被告【A】が、同月二三日には被告【C】が、それぞれ一身上の都合を理由に原告に対し辞表を提出した(甲二の1ないし3)。
(六)同月一二日、被告【A】及び被告【B】は、高岡化学を訪問し、原告を退職して被告【Y1】を設立する旨伝えた。その際、高岡化学に被告【Y1】が本件タンクを製造して納入する話がまとまった。これを受けて、被告【Y1】の名前で、
洋和化工機株式会社に本件タンクの缶体の製作が依頼された。そして、同じ頃、本件タンクを被告【Y1】が被告岩城硝子に販売し、被告岩城硝子が高岡化学に納入するという商談がまとまった(乙二四)。
また、同日から、被告【A】らは、被告【Y1】設立の準備等のために、サン技研工業株式会社の一室を利用するようになり、これは同年一一月末日まで続いた(乙六)。同年一〇月二〇日、被告【Y1】作成名義の本件タンクの見積書が被告岩城硝子に対して提出された。右見積書には、「合計金額一〇〇〇万円、御照会・【D】部長、受渡場所・高岡化学小野工場、御支払条件・御打合わせ」と記載されている(丙一の1)。同年一一月一日、被告岩城硝子作成名義の本件タンクの図面が高岡化学に提出された(甲七、乙二)。
(七)平成四年一一月一〇日、原告は、被告【B】に対し、退職日を平成四年一〇月二日として退職金四七万二一四六円を支払った。同年一二月一五日、原告は、
退職日を同年一一月一五日として、被告【C】に退職金一一八万〇三六四円を支払った。同年一二月二二日、原告は被告【A】に対して、退職日を同月一日として退職金七〇〇万円を支払った。その際、原告代表者は、被告【A】に対して、本件誓約書以外にあらためて誓約書を提出するよう求め、被告【A】はこれに応じて誓約書に署名押印して提出した。右誓約書には「私が貴社在職中に知り得た貴社及び貴社に関連した会社事業所等に関する一、製品情報二、経理内容三、役員及び従業員に関する情報を他に一切口外しない事を誓約致します」と記載されている(甲一二、一六の1・4)。
(八)一方、同年一一月五日、被告【A】を代表取締役、被告【B】及び被告【C】を取締役として、被告【Y1】が設立された。
同月二〇日、被告【Y1】は、株式会社パーカーコーポレーションに対して、ライスター社製スピード溶接ノズル・丸型溶接棒用(品名二七-四)を二つ注文した(甲二六の1・2・7)。被告【Y1】は缶体内面にフッ素樹脂シートライニングを施した本件タンクを製造したが、右ライニングの作業は被告【C】が中心になって担当した。同年一二月九日、被告岩城硝子は、被告【Y1】が製造した本件タンクを高岡化学に、同社の小野工場において引き渡した。高岡化学は、被告岩城硝子から引渡しを受けた本件タンクにつき各種試験稼働を実施したが、異常が発見されなかったことから、平成五年一月三一日をもって検収を完了する旨被告岩城硝子に通知した(丙六)。
(九)また、平成四年一〇月から平成五年二月までの間に、次のとおり原告の全従業員五一名中被告【A】ら三名のほかに従業員六名(かっこ内は原告での所属)が順次原告に退職(辞職)願いを提出して退職していき、右六名は原告退職後、被告【Y1】に就職した(甲二の4〜8、一五、一六の4)。
平成四年一〇月一九日【I】(製造課員)同年一〇月二一日【J】(設計課長)同年一〇月二六日【K】(製造課員)同日【L】(営業事務)平成五年一月八日【M】(製造課員)同年二月八日【N】(製造課員)(一〇)平成五年四月五日、被告岩城硝子は、高岡化学に対して、本件タンクの納入日を平成五年一月三一日とする納品書を発行した。右納品書の金額欄には、一〇五〇万円と記載されていた(丙二)。同月八日、被告岩城硝子は、高岡化学に対して、本件タンクの請求書を発行した。右請求書の金額欄には一〇五〇万円(消費税を含めて一〇八一万五〇〇〇円)と記載されていた(丙三)。
(一一)平成五年七月九日、原告代理人小松陽一郎弁護士と原告従業員の【G】が公証人立会の下に兵庫県小野市所在の高岡化学小野工場に臨み、被告【Y1】が製造して被告岩城硝子から高岡化学に納入された本件タンクを確認し、タンク内部のライニングシートの貼付状況や継ぎ目部分の溶接状況を見分したが、外見上は、
原告が行っている方法による仕上げと差が見られなかった(甲二四)。2右1で認定した事実に基づき検討する。
(一)右1で認定したとおり、原告は、高岡化学から原告タンクの製造の発注を受け、これを平成四年一二月末に納入するために約四か月前の同年八月二五日に尾浜プレス株式会社に鏡板の製造を発注していたのに、同年一〇月一日に突然被告【B】の指示により製造が中止されているところ、右中止に至った事情について合理的な理由があったことを裏付けるに足りる証拠はない。そして、右中止の翌日以降被告【A】らが相次いで原告に辞表を提出して退職しており、被告【Y1】は、
その設立された同年一一月一五日から一か月も経過しておらず、被告【B】が原告を退職した平成四年一〇月二日から起算しても約二か月しか経っていない同年一二月九日、被告岩城硝子を通じて高岡化学に本件タンクを納入しており、原告タンクと本件タンクはほとんど同じ仕様であり、後日原告の側で本件タンクの内部のライニングシートの貼付状況や継ぎ目部分の溶接状況を見分した結果でも、外見上原告が行っている方法による仕上げと差が認められなかったものである。被告【Y1】らは、原告と高岡化学との原告タンクの取引については、具体的な注文があったわけではなく、被告【B】が原告を退職する時点でも、打診の段階であったにすぎないと主張するが、右のような原告内部でのタンク製造に向けての準備状況や、右中止後すぐに被告【Y1】が高岡化学との間で商談を成立させて、本件タンクを製造し納入している事実に照らすと、被告【Y1】らの右弁解は到底採用できない。
右のようなタンクの場合、見積書作成あるいは注文があってから完成まで最低二か月以上必要であることが認められ(証人【G】、被告【B】本人)、フッ素樹脂シートライニング及びそれに伴う溶接の技術的意義、内容は前記のとおり(前記一1)であること、被告【Y1】においてフッ素樹脂シートライニングの作業を中心的に担当したのは、原告在職中に本件ノウハウを知悉していた被告【C】であったこと、被告【A】ら三名以外に原告の従業員六名が相次いで原告を退職して被告【Y1】に就職している事実も併せ考えると、被告【A】らは、原告から独立して被告【Y1】を設立して事業を行うことを企て、原告が高岡化学から受注していた原告タンクの製造の取引を奪ったものとみるのが相当である。そして、右のような短期間には、本件ノウハウとは別個の技術を考案して原告が本件タンクを製造した場合と同程度の品質のタンクを製造できる程度の技術的レベルに達するのは通常困難というべきであり、むしろ、従前原告において行っていて被告【C】が知悉していた本件ノウハウの全部ないし少なくとも一部を使用して本件タンクを製造し、被告岩城硝子を通じて高岡化学に納入したものと推認するのが合理的である。
(二)被告【Y1】らは、本件ノウハウに秘密性が認められたとしても、本件ノウハウは被告【C】が一人で考案し、実用化したものであるから、その権利は被告【C】に帰属するのであって、被告【C】が使用を認めている以上、被告【Y1】らが本件ノウハウを使用することには何の問題もない旨主張する。
確かに、前記認定のとおり、被告【C】は、三井デュポン清水研究所に出向き、
同社が開発したPTFEにガラスクロスを裏貼りしたシートを使用して、従来のルーズライニング方式に代わる接着ライニング方式の技術指導を受けて技術を習得し、
原告において自らノズル等溶接用の器具の加工をしていたのであるが、これは、被告【C】が原告に入社した後のことであるから、被告【C】はその業務の内容として三井デュポンから技術指導を受けたものと認められる。したがって、その後、被告【C】が原告を退職するまで溶接用ノズルの加工等をしており(証人【G】)、
本件ノウハウの確立等に当たって被告【C】の役割が大きかったとしても、それは原告における業務の一環としてなされたものであり、しかも、同被告が一人で考案したものとまで認めるに足りる証拠はないから、本件ノウハウ自体は原告に帰属するものというべきであり、被告【C】個人に帰属するものとは認められない。
よって、被告【Y1】らの主張は採用できない。
(三)前記認定事実によれば、被告【A】らは、本件誓約書に基づき秘密保持義務を原告に対して負っていたところ、被告【C】は、原告から開示された不正競争防止法2条4項にいう「営業秘密」に当たる別紙目録一記載の技術情報を、不正の競業の目的ないし原告に損害を加える目的で、被告【A】、被告【B】及び被告【Y1】に開示し、被告【Y1】は、右の被告【C】による本件ノウハウ(ただし、
別紙目録一記載の部分に限る。以下同じ。)の開示が不正開示行為であることを知りながら本件ノウハウを取得し、これを使用して高岡化学に納入した本件タンクを製造したというべきである。
(四)以上によれば、被告【Y1】が高岡化学に対して被告岩城硝子を通して納入する本件タンクを製造したことは、不正競争防止法2条1項8号の「不正競争」に、被告【C】が被告【Y1】に別紙目録一記載の技術情報を開示したことは同条同項七号の「不正競争」にそれぞれ該当するというべきである。また、被告【Y1】が現在も本件ノウハウを使用してタンクを製造していることを認めるに足りる的確な証拠はないが、右のように現実に右技術情報を使用した事実が存在することと本件訴訟の経過を併せ考えると、将来もそのおそれを認めることができる。
また、被告【A】及び被告【B】が、本件ノウハウの使用に必要な口金ノズル、
ディスパージョン、タンク製造図面等を持ち出して、本件ノウハウを不正取得した(同条項四号)、あるいは本件ノウハウにつき不正取得行為が介在したことを知りながら(同条項五号)本件ノウハウを使用あるいは開示したことを認めるに足りる証拠はない。しかし、被告【A】及び被告【B】は、前記のとおり、共謀して原告から原告タンクの取引を奪い、本件タンクの製造にかかわったものであり、右製造に際しては被告【C】から本件ノウハウを不正開示行為であることを知って開示され、その使用に関与したものというべきである。
以上によれば、原告は、被告【Y1】に対して、本件ノウハウの使用の差止めを求めることができ、しかも、被告【A】は被告【Y1】の代表者、被告【B】及び被告【C】は被告【Y1】の取締役であって、被告【Y1】らはそれぞれ不正競争行為につき少なくとも過失があると認められるから、後記のとおりの損害賠償義務を負うものというべきである。
しかし、被告【A】ら三名は、被告【Y1】の設立後はその役員ないし従業員の立場で本件ノウハウを使用し、本件タンクを製造したものであり、その後においても、被告【Y1】とは別に個人の立場で本件ノウハウを使用し、フッ素樹脂ライニングを施した容器を製造、販売した事実は認められないし、将来そのおそれがあることの立証もない。したがって、原告の被告【A】らに対する本件ノウハウの使用差止めを求める請求は、理由がないものといわざるを得ない。
四争点4(被告岩城硝子は、本件ノウハウについて不正開示行為があったことを知って本件ノウハウを使用し、開示したか。)について原告は、【D】が被告【Y1】が被告岩城硝子を通して高岡化学に納入する本件タンクを製造するに当たって、本件ノウハウを使用したことにつき、【D】は知っていたばかりでなく、そもそも、【D】は被告【A】ら原告を退職する前から相談を受けていて被告【A】らが本件タンクの取引を原告から奪取することに加担したと主張する。
確かに、前記三1のとおり、平成四年一〇月一二日ごろ、被告岩城硝子と被告【Y1】の間で、本件タンクを被告【Y1】が製造し、これを被告岩城硝子を通して高岡化学に納入する商談がまとまったこと、同月二〇日、被告【Y1】作成名義の本件タンクの見積書が被告岩城硝子に提出されたこと、同年一一月一日、被告岩城硝子作成名義の本件タンクの図面が高岡化学に提出されたこと、同年一二月九日、
被告岩城硝子は、被告【Y1】が製造した本件タンクを高岡化学に同社の小野工場において引き渡したこと、そして、右一連の被告岩城硝子と被告【Y1】の取引について被告岩城硝子の側の担当者は【D】であったこと、【D】は被告【A】及び被告【B】が原告に在職中から面識があったこと(証人【D】)が認められる。
しかしながら、本件ノウハウは、フッ素樹脂シートライニングに使用するホットガンの先端に取り付けて使用する口金ノズルの加工に関するものであるところ、
【D】は当時被告岩城硝子のプラントグループの部長で、プラントグループでは、
半導体向け薬品を製造するプラントの設計、建設、営業を行っており、プラントの構成材料の一つとしてタンクを購入してプラントに組み込んで販売するという形の営業をしていた(証人【D】)のであって、原告あるいは被告【Y1】のようにフッ素樹脂シートライニングを事業としている同業者ではないのであり、このため、
【D】が、本件タンクのようなフッ素樹脂ライニングを施した容器の製造に当たって使用する口金ノズルに関して原告がノウハウを保有していることを具体的に認識し得たか疑問であるし、被告【A】らからこの点について情報を提供されたことを認めるに足りる証拠もない。【D】が、被告【A】に原告を退職した理由を聞かなかったり、タンクの製造依頼に当たって、スタッフについて聞かなかったり、被告【A】らに秘密保持義務の有無を確認しなかったからといって(争点4の【原告の主張】3参照)、右のような本件ノウハウの分野についての【D】の認識を前提にすると、格別不自然なことともいえない。また、被告岩城硝子は被告【Y1】が製造した本件タンクを高岡化学に納入したことによって二〇万円の利益を得たにすぎない(丙一、二、証人【D】)のであって、被告岩城硝子にとってそれほど意味のある取引であったとはいえないし、一方、【D】と被告【A】及び被告【B】は以前から面識があったとはいえ、被告【Y1】の製造した本件タンクを被告岩城硝子が高岡化学に納入する取引をしなければならない義理があったとか、【D】個人が何らかの恩恵を受けたとか認めるに足りる証拠もない。
以上によれば、被告岩城硝子の担当者であった【D】が、被告【A】らによる原告タンクの取引の奪取に加担したものと認めることはできないし、被告【Y1】が本件タンクを製造するに当たって本件ノウハウを使用したこと、本件ノウハウは不正に開示されたものであることを知っていたとも認められない。
したがって、争点4についての原告の主張は理由がない。
五争点5(被告【A】らは、原告に対して本件誓約書により退職後の競業避止義務を負うか。また、被告【A】らは右義務に違反したか。
競業避止義務を理由とする原告の請求は権利の濫用か。)について1前記三で認定したとおり、被告【A】らは、昭和五八年四月一日付で原告に対して自ら署名押印した本件誓約書を提出しており、右誓約書第六項には「会社を退職した後五年間は、会社の営業の部類に属する事業を営む他企業への勤務又は自家営業を行わず、その他会社の技術、情報等を利用して会社に損害を及ぼす行為を一切行わないこと」と記載されていることからすると、被告【A】らは、原告を退職後五年間の競業避止を原告に約したものということができる。
ところで、被告【A】らは、競業避止義務の存在自体を争っているが、仮に当該義務の存在が認められるとしても、本件の場合、被告【A】は平成四年一〇月五日、
被告【B】は同月二日、被告【C】は同月二三日に原告を退職したのであり、本件口頭弁論終結時においては、既に五年間が経過していることが明らかであるから、
右競業避止の合意の効力を検討するまでもなく、もはや競業避止義務に基づく差止めを求めることはできないといわざるを得ない。この点について、原告は、退職後ただちに競業行為を始めた場合には、退職後五年を経過してもなお本件誓約書による競業避止の不作為義務が存続する旨主張するが、そのように解すべき根拠はなく、
右主張は失当である。
2そこで、本件誓約書による競業避止義の約定の効力について検討するに、被告【A】らは、前記第三の五の【被告【Y1】らの主張】記載のとおり、本件誓約書の競業避止条項は無効である旨主張する。
まず、被告【Y1】らは、本件誓約書は、署名押印しなければ昇進等の面で不利益があるとの明示若しくは黙示の圧力を原告がかけて作成されたものである旨主張するが、そのような事実を認めるに足りる証拠はないし、本件誓約書が被告【A】らの入社時ではなく、入社後何年か勤めた後に作成されたことも、それ自体では問題になるような事柄ではない。
しかしながら、会社の役員や従業員に退職後の競業避止義務を課すことは、職業選択の自由を制限するものであるから、無制限に認められるものではなく、合理的な範囲内ものでなければならない。これを本件についてみると、確かに、原告の事業は特殊な技術分野に属するものであり、特に本件ノウハウが問題になるフッ素樹脂シートライニングの技術を用いた耐食容器の製造は、業者の数も多くはなく、しかも、原告はこれまで認定したとおり営業秘密として法的保護に値するノウハウを保有し、その技術力は業界でも高く評価されていたものであるから、原告としては、
その保有する営業秘密を保護するために、また、業界での優位性を維持するためにも、その役員や従業員に対し競業避止義務を課す必要があることは、肯定できないわけではない。しかも、被告【A】らについていえば、いずれも、原告の保有しているノウハウに直接かかわっているか、そうでなくとも、原告の中枢の業務に関与していた者たちであるから、原告の立場からは競業避止義務を課す必要性は一般の従業員に比べて大きかったことも否定できない。しかし、本件誓約書の競業避止の条項の内容を検討すると、本件ノウハウにかかわるフッ素樹脂シートライニングの技術に関係する職種に限定されるようなものでないことはもちろんのこと、原告の「会社の営業の部類に属する事業を営む他企業への勤務又は自家営業を行わず」とあって、極めて広範囲なものになっており、地域的な限定もなく、その期間も五年間と相当長くなっている。ところで、原告【A】らは、原告を退職するに際して原告から前記のとおり退職金を支給されている。この点についてみると、原告では従業員の退職金について退職金規程(乙八)を置いているところ、右規程によれば、
従業員が自己都合で退職した場合、退職時における基本給の月額に勤続年数に応じて同規程別表の支給基準率のB欄に定める率を乗じて算出した退職金を支給するものとされている(同規程3条)ことが認められる。そして、被告【B】及び同【C】の各勤続年数に応じて右被告らの退職金を算定すると、被告【B】(勤続九年)については一四二万一二〇〇円、被告【C】(勤続一四年)については三三四万二二四〇円の退職金が支給されるべきところ(乙三〇)、実際には、被告【B】につき四七万二一四六円、被告【C】につき一一八万三六四円が支払われており(甲一六の4)、本来支給されるはずの金額より相当少ない額しか支給されていない。また、被告【A】は原告の専務取締役であったところ、取締役の退職金規程はないが、従業員の場合に準じるとすると、同被告の場合、一三四七万五〇〇〇円になるが(乙三〇)、実際に支給されたのは七〇〇万円にすぎない。退職後の競業避止義務の約定の合理性を考えるに際しては、しかるべき代償措置を会社がとっているかどうかも考慮する必要があるが、被告【B】及び同【C】については、原告の退職金規程より相当少ない額の退職金の支給しか受けていないし、もともと、右の退職金規程に基づく退職金は、勤務中の労働の対価としての意味を有するものであって、そもそも退職後の競業避止義務に対する代償措置としての性質を有するものともいえない。被告【A】については、原告の退職時専務取締役であったものであり、必ずしも退職金規程がそのまま適用になるわけではなく、原告の側では退職に当たって新たな秘密保持の誓約書を徴していることからみると、退職後の競業避止義務に対する代償的な意味合いも含めて被告【A】に退職金を支給したものとみる余地もあるが、その金額の七〇〇万円は、同被告の勤務年数、地位、退職当時の年収(甲一五によれば一八二〇万円)、従業員の退職金規程による金額に照らしても、
競業避止義務の代償措置として十分な額とは到底いえない。
原告は、被告【A】らに退職しなければならなかった事情は全くなく、逆に退職時に背信的な行為があった旨主張するところ、証拠(乙二四、三四、三五、被告【A】ら各本人)によれば、被告【A】らは、原告代表者父子の専横や、原告代表者父子におもねる社内の風潮を嫌い、自分たちの業績が正当に評価されないと感じ、
さらに、退職前に原告社内で被告【A】と同【B】の電話に盗聴器が仕掛けられていた事実が発覚したことなどから、それぞれ原告を退職したことが認められ(もっとも、被告【A】らは、電話盗聴以外にも、原告代表者らの不正行為、乱脈経営等が存在したことをあれこれ主張し、同被告ら本人はそれに沿う供述もするが、それら個々の事実関係については、必ずしも的確な裏付けがなく、採用できるものではない。)、被告【A】らが原告を退職するに至った経緯については、同被告らの立場としてはそれなりの理由があったものということができる。しかし、被告【A】らが原告退職の前後にとった行動は、前記のとおり退職前から計画的に原告が受注していた原告タンクの取引を奪取したものというべきであるから、右の限度では、
本件誓約書による競業避止の約束の効力如何にかかわらず、会社取締役の競業避止義務ないし従業員の雇用契約上の附随義務に基づく競業避止義務に反する行為であることは明らかである。
以上を要するに、本件誓約書による競業避止の約定は、その対象について非常に広範であること、場所的限定がないこと、期間が長期に過ぎること、代償措置がないか不十分であることを考慮すると、営業秘密の開示、使用の禁止以上に競業避止を認める合理性に欠け、公序良俗に反し無効であると認めるのが相当である。
3以上のとおりであるから、原告は被告【A】らに対して、本件タンクの製造による損害賠償は別として、本件誓約書又は信義則に基づく競業避止義務に違反したことを理由に差止め及び損害賠償を請求することはできないというべきである。
六争点6(原告の従業員が被告【Y1】に移籍した行為が、被告【A】らの勧誘によるもので、被告【A】らの右行為は雇用契約上の誠実義務に違反し、又は不法行為を構成するか。被告岩城硝子の従業員が右行為に加担したか。)について前記認定のとおり、被告【A】らが原告を退職して被告【Y1】を設立した時期に前後して、被告【A】ら以外に原告の従業員六名が原告を退職し被告【Y1】に就職していることが認められる。しかしながら、これらの従業員が原告を退職するに至った理由や経過は必ずしも明らかでなく、これらの者についても、前示したところに照らして、退職後の競業避止義務をたやすく認め難いし、原告の営業秘密を知る立場にあったかどうかも不明であり、被告【A】らがこれらの者に対して、原告を退職し、被告【Y1】に就職するように勧誘したような事実があったとしても、
その具体的な態様も明らかではなく、ただちに、雇用契約上の誠実義務に違反したとか、不法行為を構成するような行為であるとは認めることができない。また、被告岩城硝子の従業員が右移籍に加担した事実を認めるに足りる証拠もない。
したがって、争点6に関する原告の主張は採用することができない。
七争点7(被告らが原告に対し損害賠償義務を負う場合に支払うべき金銭の額)について1(一)原告は、被告【Y1】らの不法行為によって被った損害として、まず、
被告らが原告が高岡化学に対して原告タンクを納入するはずであった取引を奪取したことを挙げるところ、前記二1で認定したとおり、被告【A】らは、原告在職中から原告と高岡化学との間の原告タンクの取引の奪取を企て、会社役員ないし従業員としての競業避止義務に反して右取引を奪取し、かつ、被告【Y1】において営業秘密である本件ノウハウを使用して原告タンクと同内容の本件タンクを製造したものであるから、被告【Y1】らは、右行為によって原告が被った損害を賠償する義務がある。
しかるところ、右取引につき、丙第二、三号証によれば、被告岩城硝子から高岡化学に対して発行した納品書及び請求書では本件タンクの金額は一〇五〇万円(消費税を含まない。)であること、丙第一号証の1・2によれば、被告【Y1】が被告岩城硝子に提出した見積書には本件タンク本体につき七三〇万円、付属品も含めて一〇〇〇万円、別に設計費が三〇万円とされていることが認められ、一方、当初、
原告が高岡化学から原告タンク製造の発注を受けた際には、甲第三号証によれば、
製作依頼書の金額欄に約六〇〇万円と記載されていること、その後、被告【B】は高岡化学に対して価額約一〇〇〇万円の見積書を提出していること(被告【B】本人)が認められる。
右事実によれば、原告は原告タンクを製造して高岡化学に納入することにより、
一〇〇〇万円の売上が得られるはずであったということができ、一方、原告ではその売上の三〇%程度が粗利益であると認められる(証人【G】)から(右以外に控除すべき費用についての主張立証はない。)、原告は、被告【Y1】らの右行為により三〇〇万円(10,000,000円30%)の得べかりし利益を失ったものと認められる。
(二)次に、原告は、被告【A】が原告の取引先を奪取した行為により、?@ISOコンテナー損金一〇社分、?Aダイキン工業株式会社向け五m3タンクローリー一台分、?B日産化学工業株式会社向け混合槽クーラーの修理一台分、?C日産輸送株式会社向け八m3コンテナー一台分、?D日産化学工業株式会社向け一m3コンテナー一七台分、?E日産化学工業株式会社向け一〇m3タンク一台分、?F同四m3タンク一台分、?G同調合槽一台分の合計六四五八万○〇七八円分の売上減、損金を原告に生じさせたと主張する。
しかしながら、前記のとおり、被告【A】らの原告退職後の競業避止義務を認めることはできないから、右競業避止義務の存在を前提とする損害賠償の主張は失当である。右損害の主張を個別にみると、?@ISOコンテナー損金一〇社分というのは、被告【A】が原告を退職する際に作成した引継事項どおりに支払請求をしたところ、支払を拒否されたというのであって、被告【A】個人あるいは被告【Y1】として、これら会社と取引を開始したというのではないから、そもそも原告を退職した後の不正競争行為や競業避止義務違反の行為によって生じた損害として請求できるものではない。?Aダイキン工業株式会社向け五m3タンクローリー一台分、?E日産化学工業株式会社向け一〇m3タンク一台分、?F同四m3タンク一台分、?G同調合槽一台分については、そもそも被告【A】あるいは被告【Y1】がダイキン工業株式会社あるいは日産化学工業株式会社に原告が主張する各製品を納入したことを認めるに足りる証拠はない。?B日産化学工業株式会社向け混合槽クーラーの修理一台分、?C日産輸送株式会社向け八m3コンテナー一台分については、被告【Y1】が日産化学工業株式会社あるいは日産輸送株式会社に対して原告が主張する金額を見積として提出したと認めるに足りる証拠はない(むしろ、乙第二八号証に添付の資料1及び資料2によれば、原告が主張する金額よりも高額である。)上、被告【Y1】が受注しなければ原告が受注することができたと認めるに足りる証拠もない。?D日産化学工業株式会社向け一m3コンテナー一七台分については、甲第二〇号証添付の資料10及び11によれば、原告が日産化学工業株式会社に対し見積書を提出したのは平成六年三月一一日であり、被告【Y1】も同じ頃見積書を提出したものと考えられるところ、平成六年三月は被告【Y1】が設立されてから既に一年以上が経過しているから、当然に被告【Y1】が本件ノウハウを使用して製造したと推認することはできず、このことを認めるに足りる証拠もない。
したがって、原告の前記損害の主張は、いずれも採用することができない。
2原告は、従業員の集団移籍により費用の支出を余儀なくされたことや、集団移籍及び被告らの競業行為により売上の減少を生じたことも損害として主張する。しかし、前記六で判断したとおり、原告の従業員の被告【Y1】ヘの移籍については被告らに損害賠償義務があるとは認められず、競業行為についても、被告【A】らに原告退職後の競業避止義務を認められないことも、前記五で判示したとりであるから、原告の右損害の主張は理由がない。
3以上のとおりであるから、原告の損害賠償請求は、前記1のとおり、三〇〇万円の限度で理由がある。
第五結論よって、原告の請求は、主文第一、二項掲記の限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却することとする。
(裁判官小松一雄高松宏之小出啓子)目録フッ素樹脂シートの溶接技術に関して、左記の技術のすべて又は一部を使用すること。
一〔省略〕1〔省略〕2〔省略〕3〔省略〕4〔省略〕二三井デュポンフロロケミカル株式会社製のディスパージョン(溶接用の触媒)を使用してロッド溶接及びテープ溶接をすること。
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