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事件 昭和 58年 (ネ) 2044号
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1984/11/29
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 控訴人 「原判決を取消す。被控訴人は、その製造するウイスキーの販売、拡布に際し、
「GOLDEN HORSE」及び「ゴールデンホース」という各表示並びに別紙第二目録記載の表示を使用してはならない。被控訴人は、右各表示を付したウイスキーのラベル、包装及び広告文書を廃棄せよ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言2 被控訴人 主文同旨の判決
当事者の主張
当事者双方の主張は、次のとおり付加するほか、原判決の事実摘示のとおりであるからここにこれを引用する。
1 控訴人(一)(1) 「ホワイト・ホース」は、「ホワイト」及び「ホース」の二つの言葉からなる結合商標である。この商標と「ゴールデン・ホース」との類否の判断は、B+Aという構成の商標とC+Aという構成の商標との類否の問題であり、B+A、及びC+Aが称呼、観念において一連不可分のものではなく、二つに分けて称呼され、また、観念としても二つに分れるという場合、特に、BとCとがAに比し、Aが本体であつて、B、CはAを修飾する言葉である場合、両者は類似する。
「ホワイト」と「ホース」、及び「ゴールデン」と「ホース」は称呼、観念において一連不可分のものではなく、截然と二つに分れるものであり、かつ、「ホース」がその本体をなしているものである。
したがつて、「ゴールデン・ホース」は、「ホワイト・ホース」と類似する。
(2) 更に、簡便を尊ぶ商取引においては、「ホワイト・ホース」なる二語の結合からなり、やや冗長な商標からは「ホース」なる略称が生ずるであろうことは経験則であり、事実「ホース」なる略称が生じているから、「ホワイト・ホース」と「ゴールデン・ホース」との類否の判断は、A商標とC+A商標との類否の問題である。
そして、「ゴールデン・ホース」なる商標は、その称呼が甚しく長いところからして、同じく「ホース」なる略称が生じるであろうことは必然的であるから、まずこの点において「ホワイト・ホース」の類似商標であり、また、「ゴールデン」なる部分は、一般に商品の品質を示し、自他識別力を有しない言葉であるから、「ホース」を「ゴールデン」と結びつけることによつて「ホワイト・ホース」との類似性が否定されることはありえない。
(3) 「ホワイト・ホース」も「ゴールデン・ホース」も二語からなる結合商標であり、結合商標にあつては、要部は複数ありうるから、「ホワイト」と並んで「ホース」が要部であつても、差支えない。しかも、「ホワイト」や「ゴールデン」は単に色彩を示す形容詞である(「ゴールデン」はしばしば品質のよいことを示す形容詞でもある)から、「ホース」の方が要部であるとみるのが自然である。
また、「要部」であるか否かは言葉の定義の問題であつて、必ずしも肝心なことではない。肝心なことは、「ホワイト・ホース」が「ホース」と略称され、「ホース」という言葉によつて商品の自他識別力を有しているということである。
(4) 「ホワイト・ホース」と「ゴールデン・ホース」とは、共にある色彩の馬である点において、観念類似している。ある色彩をもつ馬だという観念をもつて控訴人の商品を認識した者は、時と所を異にして被控訴人の商品を見て、混同を来さないとはいえない。
また、原判決のように、白馬が品格の高い馬だというのであれば、一般に品質のよいことを示すとされる「ゴールデン」という語をもつ「ゴールデン・ホース」は、他の語との組合せにもまして、「ホワイト・ホース」と観念的にも混同されるものである。
(二)(1) 色彩語をグレード表示としている酒類としては、原判決が挙げた六例の外、次のものがある。
ブレンデツド・スコツチウイスキー@ B&L・ゴールド・ラベルカナデイアンウイスキーA マツクギネス・ゴールドタツセル、マツクギネス・ホワイト・カナデイアン日本のウイスキーB ゴールド・ニツカ、ブラツク・ニツカC ゴールド・キング・デラツクスウオツカD ニコライ黒ラベル、ニコライ赤ラベルラムE バカルデイ・ホワイト、バカルデイ・ゴールドF ドン・Q・ホワイト、ドン・Q・ゴールドG ハバナ・クラブ・ホワイト、ハバナ・クラブ・ゴールドH オールド・ジヤマイカ・ホワイト、オールド・ジヤマイカ・ゴールデン・カラーリキユールI フリーゾミント・グリーン、フリーゾミント・ホワイトアルマニヤツクJ アルキ・ドウ・カサード・X・O・ゴールドアメリカンワインK ゴールデン・シヤブリ、ピンク・シヤブリL コンコード・ワイン、ゴールデン・コンコードオーストラリアワインM カイザー・スツール・シヤトー、カイザー・スツール・ゴールド・メダルN フルーテイー・ゴールド・モーゼル日本のワインO 余市ワイン・エルム・キヤツスル・余市ワイン・エルム・ゴールドP ボンナペテイ甲州ワイン、ボンナペテイ・ゴールドQ キヤネー・ゴールドR 五一わいんゴールドS 信州ワイン・ゴールドシヤンパン(21) ランソン・ホワイト・ラベル、ランソン・ブラツク・ラベル、ランソン・レツド・ラベルセクト(22) クツパーベルク・ゴールドポートワイン(23) サンデマン・ホワイトアペリテイフワイン(24) サン・ラフアエル・レツド、サン・ラフアエル・ゴールドヴエルモツト(25) ヤーゴ・サングリア・ホワイト、ヤーゴ・サングリア・レツド なお、原判決が挙げた(4) テキーラ・クエルボ・ゴールド、テキーラ・クエルボ・ホワイト、(5) エルトロ・テキーラ・ゴールド、エルトロ・テキーラ・シルバーについては、テキーラは、酒の名であるから、(4)の商品名は単に「クエルボ」、(5)の商品名は、単に「エルトロ」である。また、原判決が挙げた(3) ジヨニー・ウオーカー・レツド・ラベル、ジヨニー・ウオーカー・ブラツク・ラベルについては、取引の実際において「ジヨニ赤」「ジヨニ黒」と二語で呼ばれていることを無視すべきではない。
(2) 原判決は、色彩名が基本的商品名と別に付加されている場合にのみグレード表示となり、基本的商品名の一部である場合にはそうならないとしているが、この論法によれば、「色彩語A+他語B」という商品名がただ一つあつた場合には、
合わせて基本的商品名なのか、それともBの部分のみがそうなのか決めることができないことになり、これに「他の色彩語C+B」というものがあるとき初めてBが基本的商品名となる。このような見解は、何の根拠もなしに基本的商品名なる概念を自ら創作し、ほしいままにその内容を想定しているものであつて、誤りである。
「ホワイト・ホース」の外に「ゴールデン・ホース」が併存したならば、世人は後者をもつて前者のシリーズ商品とみるおそれがないかという問題提起に対し、「ホワイト・ホース」は現在のところ「ホワイト・ホース」しかないのであるから、その全体が基本的商品名であるというのは、全く答になつていないことが明らかである。
現に、消費者には、「ゴールデン・ホース」が「ホワイト・ホース」の系列商品であると誤認されている。
(三)(1) 控訴人商品は、取引業者間のみならず、一般消費者間においても、
「ホース(HORSE)」、「馬」といえば控訴人商品を意味するものになつている。
原判決は、少なくとも業者間においては、舶来品か国産品かを混同することはありえないから、被控訴人表示(一)、(二)が「HORSE」又は「ホース」という部分を有するからといつて、控訴人商品との出所の混同を生じるものとは認められないとしているが、消費者についての混同を放置してよいはずがない。消費者が舶来品と国産品とを確かに識別できる保証はない。現に、「ゴールデン・ホース」自体についても、外国産と考えている者が多いのである。しかも、取引の態様は何時変るかわからないものであるから、混同のおそれの有無は、現在の状況のみではなく、何十年かの時の流れを念頭に置き、その間にありうる取引態様において考察しなければならない。
(2) 原判決は、「ホワイト・ホース」が我国において広く認識されている著名商品表示であることを認めながら、「ゴールデン・ホース」との類否、混同の判断にあたつては、全くその点を考慮することなしに、むしろ「ホワイト・ホース」が著名であることをもつて、両商標が混同されないことの理由としている。しかしながら、一般には、著名な商標は、そうでもないものに比し、類似商標が使用されると混同の危険が大きいとされており、「ホワイト・ホース」は著名な商標であるが故に、類似の商標である「ゴールデン・ホース」が使用されることにより、控訴人商品と被控訴人商品とは混同のおそれが大きいというべきである。
(3) 不正競争防止法第1条第1項第1号における商品の「混同」とは、甲・乙商品の製造販売主体が同じか、あるいはその間に特別の関係があるとの印象を与えることでよいというのが既に確立された解釈である。
控訴人商品と被控訴人商品とは競業関係にあり、両者を同じものだと考えている者がいることは前述のとおりであるから、「ホワイト・ホース」を買おうという意識をもつている者が誤つて「ゴールデン・ホース」を買うという事態を否定できない。「ホワイト・ホース」が「ホース」と略称されるという経験則及び事実に、言葉だけによる取引の場合を合わせ考えれば、むしろそのおそれがあるというべきであり、いずれにせよ、原判決のように直接的取違えを否定しただけでは混同の否定にはならない。
(4) そして、同一又は酷似の表示により、商品が直接取違えられるときは、営業上の利益に対する被害についてはいうまでもないが、混同が「ゴールデン・ホース」を「ホワイト・ホース」のシリーズ商品であると誤認するところのみに存したとしても、「ゴールデン・ホース」が現われれば、「ホワイト・ホース」の語のもつ顕著性がそれだけ傷つくことは明らかであり、営業上の利益を害されるというべきである。
(四)(1) 控訴人商品は、そのブランドが「ホワイト・ホース」であることからして、その販売に当つて常に馬の絵、写真を用い、馬をモチーフとして宣伝、広告を行つていることは周知のとおりである。しかるに、被控訴人は、この控訴人商品の販売の該心たる馬の絵まで模倣している。
(2) 原判決は、被控訴人表示(三)中には、馬の図形の他、いろいろな模様があるから、全体としては控訴人表示(三)とは全く異なるとする。しかしながら、
現実に用いられる表示中に如何なる模様があろうとも、その要部をなす文字又は図形に基いて商標の類否を判断すべきことは、古くから確立している原則であり、この表示中、明らかに人目をひく部分が馬の図形である以上、それについて控訴人表示(三)の馬の図形との類否を論ずべきであり、それ以外の点を持出して類否を論ずべきではない。
また、原判決は、控訴人表示(三)中のものは白馬であり、被控訴人表示(三)中の馬の図形は金色又はレンガ色であつて、色彩において顕著な相違があるとする。しかしながら、控訴人の販売努力は「馬」というモチーフによつてなされているのであつて、色彩は、広告、宣伝において常に現われるものではなく、印刷次第で消えるのである。控訴人商品がしばしば単に「馬」と呼ばれるということも、控訴人の商品と営業を象徴するものは、「白馬」であると同時に、また、その上位概念である「馬」でもあることを物語るものである。他方、被控訴人商品の馬の図形は、金色に限つて用いられるものではなく、白馬印刷の広告においては、白馬と見まちがうものである。被控訴人表示(三)と控訴人表示(三)とは、馬の図形において共通である以上、色彩の差はその類似性を覆えすに足りず、しかも、色彩の差が広告において多く現われないことからすると、被控訴人表示(三)は控訴人表示(三)と類似するとみるべきものである。
2 被控訴人(一)(1) 控訴人の商標は、「WHITE HORSE」すなわち白い馬なる観念に限定された商標である。そして、「白馬」「WHITE HORSE」は白い毛の馬を指称する名詞であるので、控訴人の主張するように、「WHITE」と「HORSE」とを分割して考えることはできないものである。また、「WHITE HORSE」は、「ホワイト・ホース」と限定せられた称呼のみを生ずるものである。
これに対し、被控訴人の商標は、「ゴールデンホース」「Golden Horse」であるから、金色の馬であり、控訴人の商標とは称呼の上で相違し、また、
外観の上でも相違し、殊に観念の点においては、控訴人の商標が現実に存在し、具体的に他の色の馬と区別しうる「白色の馬」であるのに対し、自然界に存在しない空想上の「黄金の馬」「金色の馬」であるから、根本的に相違する。
(2) 控訴人の主張する結合商標は、文字等の結合によつて独立した一つの観念を生じさせるものである。これを本件事案についてみれば、「WHITE HORSE」は、「WHITE」すなわち「白」「雪のような色」と、「HORSE」すなわち「ほ乳動物の一種である馬」とが結合することによつて、「毛色の白い馬」なる現実にも存在し、他の色の馬とは異なる、限定した観念を有する「白馬」「WHITE HORSE」が構成されるものであり、一方、被控訴人の「Golden Horse」は、「GOLDEN」すなわち「黄金の」又は「金色の」と、
「HORSE」すなわち「ほ乳動物の一種である馬」とが結合し、「自然界に存在しない空想上の金色の馬」なる観念を有する「GOLDEN HORSE」が構成されているものである。
したがつて、控訴人の商標と被控訴人の商標とは、他の語との結合によつて単なる「ほ乳動物の一種である馬」とは別個独立の観念を生じさせる語を構成しており、いずれも前置語と後置語を分割することのできない一体不可分に結合した商標として構成されているものといわなければならない。
(二)(1) 控訴人は色彩語をグレード表示としている洋酒に該当するものとして二五件の例を挙げているが、そもそも、色彩語のグレード表示は、基本となるメイン商標が存在し、そのシリーズ商品の等級を区別するための一つの手段として色彩語を付することが行われている場合を指称するのである。
そこで、右の二五件を基本商標との関連においてみると、その基本商標は、@「B&L」、A「マツクギネス」、B「ニツカ」、C「キング」、D「ニコライ」、E「バカルデイ」、F「ドン・Q」、G「ハバナ・クラブ」、H「オールド・ジヤマイカ」、I「フリーゾミント」、J「マルキ・ドウ・カサード」、K「シヤブリ」、L「コンコード」、M「カイザー・スツール」、N「フルーテイー」、O「エルム」、P「ボンナベテイ」、Q「キヤネー」、R「五一わいん」、
S「信州ワイン」、(21)「ランソン」、(22)「クツパーベルグ」、(23)「サンデマン」、(24)「サン・ラフアエル」、(25)「ヤーゴ」である。
結局、色彩語がグレード表示とされる場合には、基本となるメイン商標が色彩すなわち色を前提としないものであることを基本としている。メイン商標の構成中に色彩語が既に含まれて使用されている「WHITE HORSE」商標については、シリーズ商品のグレード表示に色彩語は使用しえないところである。色彩語をメイン商標の構成中に使用するウイスキーのグレード表示を示すと、次のとおりである。
(a) 基本商標「ホワイト&マツケイ」 ホワイト&マツケイ・スペシヤル、ホワイト&マツケイ・スプリーム・デラツクス12年、ホワイト&マツケイ21年(b) 基本商標「ホワイト・ホース」 ホワイト・ホース、ホワイト・ホース・エクストラ・フアイン、ホワイト・ホース・ローガン、ホワイト・ホース・グレン・エルギン・12年(c) 基本商標「ホワイト・ヘザー」 ホワイト・ヘザー、ホワイト・ヘザー8年、ホワイト・ヘザー・バグパイパー(d) 基本商標「ゴールデン・ホース」 ゴールデンホース・スペシヤル、ゴールデンホース・エクセレント、ゴールデンホース・100(2) 控訴人は、「ホワイト・ホース」の外に「ゴールデン・ホース」が併存することにより世人が後者をもつて前者のシリーズ商品とみるおそれについて主張しているが、「WHITE HORSE」は、前述のとおり「白馬」なる名詞であり、一体不可分の言葉であるから、「WHITE HORSE」を「WHITE」と「HORSE」に分割して使用するときは全く別々の意味のものとなるものであり、「WHITE HORSE」なる名詞の中に「HORSE」の文字があるから馬の文字、図形を含む商標はすべて自己の商品名「WHITE HORSE」に抵触すると解するのは誤りである。「シリーズ」として控訴人が主張するところは、
「WHITE HORSE」の名称について「NEW WHITE HORSE」「OLD WHITE HORSE」として、「WHITE HORSE」を基準とし、これに何らかの文字、図形又は記号を付したような場合を指すものであり、
「GOLDEN HORSE」なる商標が「WHITE HORSE」なる商標のシリーズ物に該当すると主張することは、「シリーズ」の概念から外れた主張である。
(三)(1) 我国においては、日本酒、洋酒を問わず、その銘柄を確かめて愛飲することが古来よりの風習であることは、顕著な事実である。殊に、洋酒は輸入品と国産品とは明らかに区別せられて販売及び購入されている。
また、混同のおそれの有無について、予測できない何十年か先のことを念頭に置いて考察すべきであるとする控訴人の主張は、理由とならない。民事裁判における判断基準時は事実審の口頭弁論終結時であり、その時点における流通経路、販売態様を前提として判断すべきである。
(2) 「ホワイト・ホース」は、「白馬」なる一個の名詞として著名なのであるから、一体不可分の言葉である。したがつて、「ホワイト・ホース」は「白色の馬」と限定せられた商標として認識されているのであるから、「ホワイト・ホース」の文字の中に「ホース」すなわち「馬」の文字があるという理由で、他に「馬」の文字があれば、その「馬」まですべて「ホワイト・ホース」の権利範囲に属するかの如き控訴人の主張は、失当である。
(3) 原判決は、類否の点については、類似商標を挙げて類否の判断をし、結論として控訴人表示(一)、(二)と被控訴人表示(一)(二)とを対比し、文字の形、発音が相違している、外観及び称呼が類似していない、観念において別異であると判示しており、また、出所混同の点について、控訴人表示(一)、(三)と被控訴人表示(三)とを対比し、両者は類似しているものと認められず、被控訴人商品に被控訴人表示(三)を使用しても、控訴人商品との間に出所の混同を生じるものとは認められないとし、「類似」と「出所の混同」を区別して論じており、控訴人の主張は理由がない。
(4) 同一又は類似の標章について、競業関係にあれば、営業上の利益の喪失に結びつくことは当然であるが、本件のように、商標自体において非類似、非混同のケースにおいては、営業上の利益の喪失は、その可能性が全くない。
(四)(1) 控訴人商品の宣伝に使用されている馬は、すべて「白馬」すなわち「ホワイト・ホース」の表現であり、控訴人のラベルには、長方形の黒地の中に静止した横向きの馬を白抜きとした白馬の絵が表現されている。控訴人が新聞雑誌等に広告宣伝する馬の図形は全部白馬であり、白馬以外の表現はない。これは、控訴人の「馬」が「白馬」でなければならないからである。
(2) 控訴人は、あらゆる馬の図形をすべて自由に使用できるかの如く解釈しているが、不正競争防止法で保護される商標は、あくまでも社会的にみて何人に対しても保護を与えることを承認しうる商標であり、控訴人のための保護対象となるべき図形、商標は、「長方形の黒地の中に静止した馬を白抜きとした白馬」に限られると考えるのが当然である。
控訴人が使用するラベルは、別紙第三目録に示す如く、四角の黒地に白抜きにて頭を左に向けて静止した馬の図形の下部に細長の形状とした「WHITE」の文字を斜状に表現し、「HORSE」の文字を横書きして表現したものである。これに対し、被控訴人表示(三)は、楯型輪郭内に跳躍した馬の図形を表わし、かつ、楯型の左右には唐草模様を、楯型の上部には王冠を、楯型の下部内のリボン内には「GOLDEN HORSE」の文字をそれぞれ表わし、これらの図形はすべて金色としているものであり、その下部においては、別紙第四目録(一)では、「GOLDEN HORSE」の文字を上向きの孤状に白色にて同一書体をもつて表現し、同(二)では、「G」の文字を赤色、「OLDEN」の文字を黒色にし、次いで、「H」の文字を赤色、「ORSE」の文字を黒色にし、同一書体をもつて一連に横書してなるものであるから、控訴人のラベル、図形、文字と被控訴人のラベル、図形、文字とは、何ら類似するものではない。また、被控訴人が使用している図形は、王冠を載せた楯形の左右に唐草をからませ、その中に後足だけで立上がつた形の金色の馬を示し、いわば躍動の形であつて静止している姿を示すものではない。しかも、「GOLDEN HORSE」の文字は斜めに、はためいているリボンの中に記されている点も、全く異なる印象を与えるものである。
証拠関係(省略)
理 由一 当裁判所も、控訴人の本訴請求は理由がないから、これを棄却するのを相当と判断する。その理由は、次に訂正、付加するほか、原判決の理由一ないし三の説示と同一であるから、ここにこれを引用する。
1 原判決第一四丁表一〇行目「原告表示(一)と……」から第一五丁表第五行目「かである。」との部分までを、次のとおり訂正する。
ある商品表示が不正競争防止法第1条第1項第1号にいう他人の商品表示と類似しているか否かについては、当該商品に係る取引の実情に鑑み、取引者又は需要者が両表示の外観、称呼又は観念に基く印象記憶連想等から両表示を全体として類似のものとして受取るおそれがあるか否かを基準として判断すべきである。
そこで、控訴人表示(一)と被控訴人表示(一)、控訴人表示(二)と被控訴人表示(二)とを対比すると、両者は、いずれも二語の結合からなる表示であつて、
後半部分を「HORSE」又は「ホース」とする点において共通しているが、前半部分を、控訴人表示(一)が「WHITE」とし、被控訴人表示(一)が「GOLDEN」とする点、控訴人表示(二)が「ホワイト」とし、被控訴人表示(二)が「ゴールデン」とする点において相違している。そして、右の前半部分における「WHITE」は「白い」、「GOLDEN」は「金色の」という、色彩を表わす英語であり、「ホワイト」、「ゴールデン」はそれぞれの片仮名表記である点においては共通しているが、これらは、文字として書き表わした場合の形状、その文字の発音等において明らかに相違している。
控訴人は、「ホワイト」と「ホース」、及び「ゴールデン」と「ホース」は称呼、観念において一連不可分のものではなく、截然と二つに分れるものであり、かつ、「ホース」がその本体をなすものであると主張する。
しかしながら、「WHITE」、「ホワイト」なる語は、色彩の「白」を表わす英語又はその片仮名表記として、「GOLDEN」、「ゴールデン」なる語は、色彩の「金」を表わす英語又はその片仮名表記として、「HORSE」、「ホース」なる語は「馬」を表わす英語又は片仮名表記として、いずれも我国において一般に親しまれ、日常生活においても用いられている語であつて(このことは、当裁判所に顕著な事実である。)、それぞれの語自体に特異性があるとか特別に顕著な印象を与えるものではなく、かつ別紙第二ないし第五目録記載の各表示をみても「WHITE HORSE」、「ホワイト・ホース」及び「GOLDEN HORSE」、「ゴールデン・ホース」は、それぞれ各文字の書体、大きさ、形態に差異がなく、一連のものとして構成されており、特に「WHITE」、「GOLDEN」又は「ホワイト」、「ゴールデン」に対し、「HORSE」又は「ホース」を強調するような表示として構成されていないものであつて、これらの事実を総合するとそれぞれ二語を一連一体に結合した表示と認められる。
控訴人は、簡便を尊ぶ商取引においては、「ホワイト・ホース」なる二語の結合からなり、やや冗長な商標からは「ホース」なる略称が生ずるであろうことは経験則であり、事実「ホース」なる略称が生じており、「ホース」なる語によつて商品の自他識別力を有していると主張する。
しかしながら、「WHITE HORSE」は一〇文字、「ホワイト・ホース」は七文字であつて、これを文字として書き表わしても格別冗長とはいえないし、その称呼も六個の音からなるにすぎないからさほど長いものとはいえないのであつて、このような一連一体に結合した二語からなる表示から特に「HORSE」又は「ホース」という略称が生ずることが経験則であるとはいえない。
また、原審証人【A】の証言により真正に成立したものと認められる甲第三六号証ないし第四一号証、甲第四八号証、前記甲第五一号証の一、成立に争いのない甲第五一号証の二の一ないし三、五の一ないし五、甲第六五号証の一ないし一三及び原審証人【B】、同【A】、当審証人【C】の各証言によれば、一部の取引者及び需要者において控訴人商品を「ホース」又は「馬」と呼ぶことがあり、また、業務用酒販店又は問屋がバー、スナツク又は小売店に対し発行する納品書、受注書に「ホース」と略記されることもあることが認められるが、このことは、控訴人商品を「ホース」又は「馬」と呼ぶことがあるとしても、取引当事者間において相互の了解のもとに取引上の便宜のために(例えば、「サントリー・インペリアル」を「インペリアル」と、「キリンビール中瓶」を「K中」と略記するように)「ホース」を「ホワイト・ホース」の符号ないし符丁として用いることがあることを意味するにすぎず、むしろ、通常は、取引者によつても需要者によつても、「ホワイト・ホース」と呼ばれているものと認められ、取引者又は需要者間において「ホース」と呼べば、すべて「ホワイト・ホース」すなわち控訴人商品を表示するものと一般にひろく認識されているとは到底認めることはできない。一方、「GOLDEN HORSE」又は「ゴールデン・ホース」が「ホース」又は「馬」と略称されていることを認めるに足りる証拠も存しない。
したがつて、「WHITE HORSE」「ホワイト・ホース」、「GOLDEN HORSE」「ゴールデン・ホース」は、いずれも一連に称呼され一体的に認識されるものであり、控訴人表示(一)、(二)と被控訴人表示(一)、(二)とは、外観、称呼を異にするものであり、取引者又は需要者においてこれらの商品表示の外観、称呼に基く印象記憶等から両表示を類似のものとして受取るおそれがあるとはいえない。
2 原判決第一六丁表第九行目「……妥当するものである。」の後に、次のとおり付加する。
控訴人は、ある色彩をもつ馬だという観念をもつて控訴人商品を認識した者は、
時と所を異にして被控訴人商品を見て混同を来さないとはいえないし、また、白馬が品格の高い馬だというのであれば、一般に品質のよいことを示すとされる「ゴールデン」という語をもつ「ゴールデン・ホース」は、他の語との組合せにもまして、「ホワイト・ホース」と観念的に混同されると主張する。
しかしながら、取引者によつても需要者によつても、控訴人表示(一)、(二)は「ホワイト・ホース」すなわち「白い馬」と観念されるものであり、特定されないある色彩をもつ馬として観念されるものではないから、時と所を異にして、「ゴールデン・ホース」すなわち「金色の馬」として観念される被控訴人表示(一)、
(二)を付した被控訴人商品を見てもこれが控訴人が製造又は販売する商品であると連想するであろうとは認めることはできない。また、「ゴールデン」なる語が品質の優れていることを連想させるとしても、「ホワイト」なる語から連想される清廉潔白に通ずる品格の高さとは、観念的に異質のものであつて、このことから、両者が観念的に類似しているということはできない。
3 原判決第一八丁裏第一行目「これを認めるに足る証拠はない。」の後に、次のとおり付加する。
控訴人は、色彩語をグレード表示としている酒類として、前認定のもののほか、
二五例あるとして具体的に商品名を挙げているが、これらは、例えば、A マツクギネス・ゴールドタツセル、マツクギネス・ホワイト・カナデイアンは、基本的な商品名(商品表示)をマツクギネスとし、B ゴールド・ニツカ、ブラツク・ニツカは、基本的な商品名をニツカとするように、いずれも、色彩名が基本的な商品名とは別個にこれに付加されて使用されている事例であり、前記認定を左右するに足りるものではない。
また、控訴人は、色彩名が基本的な商品名と別に付加されている場合にのみグレード表示とすることは、「色彩語A+他語B」という商品名がただ一つあつた場合には、合わせて基本的な商品名なのか、それともBの部分のみがそうなのか決めることができなくなると主張するが、何が当該商品の基本的な商品名かは、何が当該商品表示の基本的でかつ重要な構成要素となつているかによつて判断できることであつて、「色彩語A+他語B」という商品名が一つしか存しないとしても、基本的な商品名を決めることができないものではない。
4 原判決第一九丁表第三行目「証人【A】の証言により……」から第二〇丁裏第六行目「……を認めるに足りる証拠はない。」との部分までを次のとおり訂正する。
控訴人は、控訴人商品は、取引業者間のみならず、一般消費者に「ホース」又は「馬」として知られており、「GOLDEN HORSE」又は「ゴールデン・ホース」の表示を付した被控訴人商品との間に出所の混同を生ずると主張する。
しかしながら、取引者又は需要者の一部において控訴人商品を「ホース」又は「馬」と呼ぶことがあり、また、業務用酒販店又は問屋がバー、スナツク又は小売店に対し発行する納品書、受注書に「ホース」と略記されることがあつても、控訴人商品は、通常「ホワイト・ホース」と呼ばれており、取引者又は需要者一般に「ホース」と呼べば、「ホワイト・ホース」を表示するものとして広く認識されていないことは、前述のとおりである。
そして、取引者間において、「ホワイト・ホース」を「ホース」と略称するとしても、それは取引当事者間において相互の了解のもとに取引上の便宜のために符号ないし符丁として用いることを意味するにすぎず、また、前掲各証拠に照らし、ウイスキー取扱業者が舶来品であるか国産品であるかを確認せず、単に「HORSE」又は「ホース」という部分が商品表示中で共通であるからといつて、スコツチウイスキーである控訴人商品と国産ウイスキーである被控訴人商品とを混同して取扱うおそれがあるとは到底認めることができない。
また、成立に争いのない甲第六六号証の一、二、当審証人【D】の証言によれば、エイエスアイ マーケツト リサーチ株式会社が無作為に抽出されたサントリー・オールド以上の品質のウイスキーを飲用する男性一〇〇〇名を対象として行つた調査結果によれば、「ゴールデン・ホース」が「ホワイト・ホース」の製造元からライセンスを受けてか、又は製造元自身により製造されているとした者は、面接前に「ゴールデン・ホース」を知つていた者(一五九名)中の三七%、面接時に「ゴールデン・ホース」を知つた者(八四一名)中の三六%であり、その理由として、右回答者三五八名中「ホース」という名称がついているからとした者五二%、
名称が「ホワイト・ホース」に似ているからとした者二一%等であることが認められる。しかしながら、右各証拠によれば、予め「ゴールデン・ホース」の銘柄を知つていた者は右調査対象者中の二%(質問者の手助けを得て漸く一六%に達した。)にすぎず、しかも、控訴人商品として新発売された「ホワイト・ホース・エクストラ・フアイン」について質問し予備知識を与えたうえ、「ゴールデン・ホース」という銘柄のウイスキーをご存知ですか、と質問し、更に、右質問に対する積極又は消極の回答に応じて、「ゴールデン・ホース」はどこのメーカーから発売されていると思われますか、又は、「ゴールデン・ホース」という銘柄名をお聞きになつた時、どこのメーカーから発売されているとお感じになりますかという設問に対し、予め@ 「ホワイト・ホース」と同じメーカー又は提携しているメーカーから発売されている、A 「ホワイト・ホース」とは全く関係のないメーカーから発売されている、B わからない、との回答を設定しておいて選択させる方式で行われたものであり、このことから直ちにウイスキーの需要者が店頭で多くの銘柄のウイスキーから購入する銘柄を選択する場合、あるいは被控訴人商品を宣伝広告等で知つた場合に、「ゴールデン・ホース」を「ホワイト・ホース」との関連で「ホワイト・ホース」の製造元からライセンスを受けてか、又はその製造元自身により製造されていると連想するであろうとすることはできない。前記甲第五一号証の一、
第五一号証の五の一ないし五によつて認められる調査結果についても同様であつて、この調査結果では、一般消費者の四一%、小売店、料理飲食店の各三二%が「ゴールデン・ホース」は「ホワイト・ホース」と同じもの又は姉妹品と答えているが、この調査も、「ホワイト・ホース」に関する質問をして予備知識を与えたうえで、「ゴールデン・ホース」と「ホワイト・ホース」との関係をどのように思われますか、との質問に対し、予め設定された@ 同じものだと思う、A 「ホワイト・ホース」を作つている会社が出している姉妹品だと思う、B 全く別のウイスキーだと思う、C その他、との回答から選択させる方式で行われており、これをもつて「ゴールデン・ホース」が「ホワイト・ホース」と混同されるおそれがあるものとすることはできない。かえつて、成立に争いのない乙第七五号証ないし第一〇七号証によれば、控訴人商品と被控訴人商品とのいずれをも取扱つている東京を始めとする全国各地の百貨店合計三三店の酒類売場において、被控訴人商品を「ホワイト・ホース」の上級品あるいは「ホワイト・ホース」関係の会社より発売されているウイスキーであると誤信して購入したために返品又は苦情を申し出た需要者は全くいないことが認められ、このことは、需要者一般の間においても、被控訴人商品がスコツチウイスキーとして我国において著名な「ホワイト・ホース」と関連した製品であると受取られていないことを示しているということができる。
そして、前記甲第三六号証、甲第五一号証の一、甲第五一号証の五の三ないし五、及び原審証人【A】の証言中、出所混同につきこれを肯定する趣旨の部分については、以上認定の諸事実に照らし措信することができず、ほかに、被控訴人商品が控訴人商品と出所の混同を生ずるであろうと認めるに足りる証拠はない。
(五)以上のとおりであるから、控訴人表示(一)、(二)と被控訴人表示(一)、(二)とは類似しているとは認められず、被控訴人商品に被控訴人表示(一)、(二)を使用しても、控訴人商品との間に出所の混同を生じるものとすることはできない。
5 原判決第二一丁裏第九行目「……と認めることはできない。」の後に、次のとおり付加する。
控訴人は、現実に用いられる表示中に如何なる模様があろうとも、その要部をなす文字又は図形、すなわち、被控訴人表示(三)の馬の図形について控訴人表示(三)の馬の図形との類否を判断すべきであると主張する。
しかしながら、前示のとおり、被控訴人表示(三)中の馬の図形は、楯形の中に左横向きにさお立ちした馬の図形であるのに対し、控訴人表示(三)中の馬の図形は、長方形の黒地の中に左横向きに静止した白馬の図形であつて、馬の図形のみを対比しても顕著な相違があり(前記甲第二〇号証、甲第四六号証の二に記載された被控訴人商品の宣伝に用いられている馬の図形も右認定を左右するものではない。)、控訴人表示(三)中にこのような白馬の図形があるからといつて、その上位概念である「馬」の図形すべてがこれに類似しているといえないことはもち論、
被控訴人表示(三)中の馬の図形が、これに類似しているとすることはできない。
二 よつて、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は正当であるから、本件控訴は棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法第95条第89条の規定を適用して主文のとおり判決する。
裁判官 荒木秀一
裁判官 竹田稔
裁判官 水野武
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