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関連ワード 周知性 /  需要者 /  出所識別機能 /  出所表示性(出所表示) /  他人の商品 /  混同のおそれ(混同) /  商品の形態(商品形態) /  技術的機能 /  技術的思想 /  デザイン /  特別顕著性 /  代表者 /  識別力 /  混同のおそれ(混同) / 
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事件 昭和 52年 (ネ) 3193号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1983/11/15
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 控訴人1 原判決を取消す。
2 被控訴人は別紙第二目録記載の伝票会計用伝票(ただし同目録添付の19、24、29、30、31の各伝票は除く。)を製造、販売、頒布してはならない。
3 被控訴人はその所有する右伝票及びその製造に使用する印刷用原版を廃棄せよ。
4 被控訴人は控訴人に対し、金五〇〇万円及びこれに対する昭和五〇年五月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。
5 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。との判決(なお、控訴人は、当審において、別紙第二目録添付の伝票会計用伝票のうち19、24、29、
30、31の各伝票に関する請求に係る訴を取下げた。)並びに仮執行の宣言二 被控訴人 主文同旨の判決
当事者の主張
当事者双方の事実上及び法律上の主張は、次の各項のとおり一部削除、付加、訂正するほか、原判決の事実摘示のとおりであるから、これをここに引用する。
(控訴人)1 原判決四丁裏二ないし四行の「別紙第二目録記載の伝票会計用伝票(以下原告の主張において「被告伝票」という。)」を「別紙第二目録記載の伝票会計用伝票(ただし、19、24、29、30、31の各伝票を除く。以下「被控訴人伝票」という。)」と改める。
2 原審判決三丁表一行目を「基本的特徴は次の点にある。」と改め、同丁表末尾に(三)、(四)として次のとおり付加する。
『(三)(1) 伝票はすべて横長であり、横幅は二一〇ミリメートルに統一され、縦幅は整理穴が四穴のものは三八ミリメートル、五穴のものは六四ミリメートル、六穴のものは五七ミリメートル、一〇穴のものは九五ミリメートルとなつている。ただし同目録18日計票簿のみは横幅一八七ミリメートル、縦幅三八ミリメートルの横長の伝票が縦に七個連続している。
(2) 伝票の左右両側に等間隔毎に設けられた整理穴は、伝票の大きさに応じ四、五、六又は一〇個である。
(3) 伝票の上辺の外下辺にも余白がなく、これら各上・下辺の側縁が最上段、
最下段の記入欄の枠線を兼ねている。
(4) 金額欄の横幅はすべて三一ミリメートルに統一され、伝票の左右又は右側に二個設けられ、金額欄の下段には集計欄が配されている。
(5) 第一行には、金額欄のほか、貸方科目、借方科目、月日、摘要又はその他必要欄が設けられ、第二行以下には予備の記入欄があり、伝票の下段にはタイトル欄、押印欄、伝票ナンバー欄等の各欄がまとめられている。
ただし、日計票簿(目録18及び32)は予備の記入欄を欠く。
(6) 伝票の色分けに使用される色彩は、伝票の一組を構成する枚数及び使用目的に応じ、紺、緑、橙、アサギ、黒、茶、灰、赤が用いられている。
(四) そして、本件伝票の基本的特徴のうち、その一部である「上辺に余白がないこと」及び「左右両側に等間隔毎に整理穴があること」の二点については、技術的機能に由来する必然の結果と見る余地があるとしても、右のほかに、伝票の大きさ及び形状(前記(1))、伝票の下辺にも余白がなく、各辺の側縁が最上段、最下段の記入欄の枠線を兼ねている点(同(3))、金額欄その他の欄の配置(同(4)、(5))、整理穴の数(同(2))、色彩(同(6))など、本件伝票がすべて統一的美感を有するよう工夫配慮され、これが本件伝票の商品価値を高める重要な要素となつているものである。
このように選択工夫された本件伝票の基本的特徴はいかなる意味においても、技術的機能に由来する必然の結果でないことは明白である。』3 原判決一七丁表五行の次に4の項として、次の主張を付加する。
いわゆる「技術形態除外説」は、技術的機能に由来する必然の結果として備える商品の形態を保護すれば、商品にかかる形態をとらせた技術そのものを一種の永久権として特定人に独占させるという結果を容認せざるをえず、技術的思想を保護するための特許権及び実用新案権に存続期間の制限を設けた法意を没却することとなり、不合理であるということにその根拠をおく。
しかしながら、不正競争防止法が保護しようとするのは、あくまでも商品の形態の識別機能であつて、技術的思想でないことは多言を要しない。
それゆえに、不正競争防止法と特許法や実用新案法などの工業所有権各法とはその立法趣旨、建前、保護法益、保護要件を異にしているのであるから、不正競争防止法適用の平面で本来別次元で考慮すべき技術的思想を考慮しようとする「技術形態除外説」はこれらの法の趣旨を誤つたものというべきである。一つの現象又は対象が多面的評価に親しむことは当然であり、これを一元的に評価しなければならない必然性はない。
「技術形態除外説」は不正競争防止法の解釈上、当然に導かれるものではない。
むしろ、同法6条に特許法、実用新案法による権利行使と認められる行為を不正競争行為から除外する規定がおかれていることからすれば、本来不正競争防止法により保護される表示の中には、特許法、実用新案法の対象となる技術に由来する表示も当然含まれているものというべきである。
技術形態除外説に立つならば、特許権や実用新案権の存続期間が終了し、あるいは何らかの理由で権利取得をしなかつた技術的機能に由来する形態は、いかに長期間法の保護のもとで排他的に商品に使用され、あるいは強力に普及宣伝され、またその形態自体が特殊独自なもので極めて勝れた出所表示機能を備えるに至つたとしても、不正競争防止法による保護は全く受けられないことになり、他人の商品による混同不正競業を座視するほかはないとする極めて不合理な結果となる。
また、当初は専ら技術的機能に由来する形態でも、それが排他的に使用されることによる周知性と相俟つて、その後二次的に自他識別力-出所表示力を取得することは明らかであり、かかる出所表示は当然不正競争防止法により保護されねばならない。特許権等の工業所有権の存否は右の事理に直接背馳するものではない。
(被控訴人)1 原判決六丁裏三行の「被告が現在も」から同八行末を「被控訴人が現在も被控訴人伝票を製造販売していることは否認する。被控訴人は被控訴人伝票を」と改める。
2 原判決一二丁表八、九行の「コンピユータター用」を「コンピユーター用」と、同一三丁表五行の「講入」を「購入」と各訂正する。
3 原判決一四丁裏一行の次に、4ないし6として次の主張を付加する。
『4 控訴人は、本件伝票は、「上辺に余白がないこと」及び「左右両側に等間隔毎に整理穴があること」の二点のほかに、伝票の大きさ及び形状、伝票の下辺にも余白がなく、各辺の側縁が最上段、最下段の記入欄の枠線を兼ねている点、金額欄その他の欄の配置、整理穴の数、色彩などの点において統一的美感を有するよう工夫配慮され、これが本件伝票の商品価値を高める重要な要素となつており、このように選択工夫された本件伝票の統一的形態はいかなる意味においても、技術的機能に由来する必然の結果でないことは明白であると主張する。
しかしながら、控訴人の右主張は極めて疑問である。
(一) 伝票の大きさ及び形状についてみると、横長の形状はイーザー式、COC式、アルフ式などの伝票も同様であり、横幅が二一〇ミリメートルに統一されているのは、A4サイズの紙を用いた結果にすぎない。通常、紙はA列又はB列の規格品しか入手できないから、もしAサイズの紙を用いて伝票を作成することが禁止されるならば、不当な結果を招来すること明らかである。縦幅については、各伝票において通常要求される必要最小限度の欄を設け無駄を省けば、自ずと本件伝票のごとき縦幅となるのは必定である。特に本件伝票においては、伝票を段落的にフアイルするため一穴のずれが一行のずれとなるように各行を設定しているが、とじ穴の間隔はJISで九・五ミリメートル又は一二・七ミリメートルと決められているから、各行の縦幅も自ずと九・五ミリメートル又は一二・七ミリメートル前後に定まつてしまうこともその一因である。したがつて、かかる縦幅の伝票を作成することが禁止されるならば、わざわざ無駄な大きさを有する伝票を作らざるをえなくなり不当な結果を招来するといわなければならない。
(二) 金額欄を伝票の左右に設けたこと、金額欄の下段には集計欄を配したこと、第一行には金額欄のほか、貸方科目、借方科目、月日、摘要欄を設けたこと、
第二行以下には予備の記入欄があること、伝票の下段には押印欄、伝票ナンバー欄等の各欄がまとめられていること等については、その基本となる技術的思想は、のちに詳述するとおり実用新案登録第五四六〇八〇号に係る考案の技術的内容(後記6(一)(3)の考案)をなすものであり、同権利が昭和三九年七月二八日、第四年分登録料未納により消滅した後は万人共有の財産となつたものであるから、何人もかかる基本的な技術的思想を自由に実施しうるものである。
したがつて、控訴人が選択工夫したのは、例えば、金額欄の横幅を三一ミリメートルにしたというようなデザインの点であるが、これらのデザインの面においても伝票の大きさからくる物理的制約や伝票の機能面からの制約があつて自ずと選択の余地が狭いということが指摘されねばならない。
伝票の大きさからくる制約についてみれば、例えば、金額欄の横幅であるが、通常必要とされる億の単位まで記載しうるように金額欄を構成すれば三〇ミリメートル前後になるのは当然であつて、これをより狭くすれば使用し難くなり、より広くすれば金額欄は使い易くとも摘要欄が狭くなつて使用し難くなるのである。
次に伝票の機能からくる制約についてみれば、例えば、第二目録の7、8の複合伝票では、7は三科目用の複合伝票であり、8は五科目用の複合伝票である。複合伝票の場合は、第一葉は複合伝票、第二葉は一行目科目票、第三葉は二行目科目票、第四葉は三行目科目票というように構成されているので、一組の伝票の枚数は三科目用では四葉、五科目用では六葉あり、各葉の記載欄のうち、金額、摘要等を書く欄は三科目用では三行、五科目用では五行から成つている。右の構成は伝票の目的、機能上から要請される構成であるが、この構成を、前記したように、段落的にフアイルするため一穴のずれが一行のずれとなるように各行を設定し、しかも、
とじ穴の間隔をJISに従い九・五ミリメートルにすれば必然的に第二目録の7、
8のような複合伝票にならざるをえないのである。したがつて、かかるデザインについてはほとんど選択工夫の余地がないから、技術的機能に由来する必然の結果であるといいうる。
(三) 整理穴(とじ穴)の数は、とじ穴の間隔をJISに従い九・五ミリメートル又は一二・七ミリメートルにすれば、伝票の縦幅に応じて自ずと定まつてしまう問題である。
(四) 伝票の色分に使用される色彩についても、伝票の性格上、使用しうる色彩は自ずと制限され、一般に用いられている色彩は、黒、青、赤、緑等であり、控訴人の本件伝票も一般に用いられている色彩を用いているにすぎない。
右のとおり控訴人が本件伝票の基本的特徴における統一的形態として主張するもののうち、重要な形態のほとんどのものは技術的機能に由来する必然的な結果であることが明らかであり、その他の形態もありふれたものであつたり、寸法のごとくその性質上特異性、周知性を取得しにくいものであつたり、あるいは複雑で細かすぎたりして、本件伝票の統一的形態が特異性、周知性を取得しているとは到底考えられない。
5 特許権、実用新案権等を実施した製品は、特許法、実用新案法等の保護の下に長期間に亘つて独占的に製造販売される。その結果、当初は専ら技術的機能に由来する形態でもその後二次的に自他識別機能ないしは出所識別機能を取得することがありうる。かかる場合に、控訴人が主張するごとく不正競争防止法による保護を認めることは、特許権、実用新案権等の存続期間の満了により万人の共有に帰し何人も自由に利用しうるはずの当該技術的思想を一種の永久権として特定人に独占させるという結果を容認せざるをえず、技術的思想を保護するための特許権及び実用新案権に存続期間の制限を設けた法意を没却することとなり、極めて不合理である。
もつとも、この点については、不正競争防止法が保護しようとするのは、あくまでも商品の形態であつて、技術的思想ではないという反論がありうる。確かに、技術的思想の中には、元来、物品の形態とは全く関係がないか又は関連の薄いものもあり、かかる場合には、同一技術的思想を種々の異なる商品形態の下で採用しうるであろうから、不正競争防止法による保護が技術的思想を一種の永久権として特定人に独占させることにはならないという反論もあながち理由がないとはいえない。
しかしながら、技術的思想が物品の形態そのものにそのまま表出されている場合等物品の形態と密接な関連を有し、当該技術的思想を実現するための形態の選択が不可能であるか又は選択の余地が極めて限られている場合には、かかる物品の形態を不正競争防止法の名の下に保護することは、結局のところ、技術的思想ないしそれを実施する権能を永久に特定人の独占に委ねることとなり、極めて不当な結果を招来することとなる。
本件についてこれをみると、先ず、すでに前述1の(一)で詳述したように、
「伝票の上辺に余白を置くことなく第一行欄が設けられている」形態は、伝票を一覧形式にフアイルしたとき伝票相互の行間に余白を生ぜず各行が連続して表示されるという技術的思想を実現するための唯一の形態である。したがつて、もし「伝票の上辺に余白を置くことなく第一行欄が設けられている」形態を不正競争防止法の名の下に保護するならば、それはとりもなおさず、「伝票を一覧形式にフアイルしたとき伝票相互の行間に余白を生ぜず各行が連続して表示される」という技術的思想ないしはそれを実施する権能を永久に控訴人の独占に委ねることとなり、極めて不当な結果を招来すること明らかである。
また、すでに前述1の(二)で詳述したように、「伝票の左右両側に等間隔の整理穴が設けられている」形態についてみると、右の形態は、伝票をバインダーの左右いずれにもフアイルすることができるという技術的思想及び記帳会計の帳簿と同様の形態を示し一覧性をもたせるため伝票をバインダーに段落的にフアイルするとの技術的思想を実現するための唯一の形態である。したがつて、もし、右の形態を不正競争防止法により保護するならば、それはとりもなおさず、右技術的思想ないしはそれを実施する権能を永久に控訴人の独占に委ねることとなり極めて不当な結果を招来することとなる。
技術的機能に由来する形態についても不正競争防止法による保護を認めようとする学説にあつてさえ本件のごとく形態の選択の可能性がない場合にまでなお不正競争防止法による保護を認めるべきであるとまで主張する趣旨ではないと解される。
右のとおり控訴人が本件伝票の形態の基本的特徴であるとして主張する点はいずれも前記した技術的機能からみて選択の余地のない唯一の形態であり、技術的機能に由来する必然的な結果であるものが大部分である。そして、本件伝票を購入する需要者もまた端的に本件伝票のかかる技術性に着目して購入しているといいうるのである。したがつて、本件伝票の形態は、技術的機能に由来し、技術的機能に密接に関連しているが故に、その性質上出所表示機能を取得することは極めて困難であり、現に出所表示機能を取得していないものといわなければならない。
6(一) 本件各伝票の技術的由来をみると、出願人考案者【A】(本名【B】)とする次の三つの実用新案登録がされていた。
(1) 考案の名称を「会計簿記帳」とする第五〇一六八〇号実用新案登録(昭和三一年一二月一四日出願、昭和三四年六月四日実公昭三四-八五二四号として出願公告、昭和三四年一〇月二六日登録、昭和四四年一〇月二六日存続期間満了により消滅)(登録請求の範囲)「図面に示すように左右に受及び払の二数字欄1及び2並に合計欄3及び4、累計欄5及び6を、又中央に摘要欄7を、又下部に日付欄8、勘定費目欄9、査印欄10を設けた票11を連続印刷した原紙12と、これに同一のものを色別した数枚の複写紙13とを組合せたものを一組として多数組重合縫綴せしめ、複写紙13の各票11間には横方向ミシン目14を設け、又票11の両側には縦方向に整理孔15及び16を穿設した会計簿記帳の構造」(図面(一)参照) 右の登録請求の範囲の記載から明らかなごとくこの考案は、「票11の両側には縦方向に整理孔15及び16を穿設した」ことを構成要件とし、「各票の両側に整理孔を設けてルーズ・リーフに綴込んだ際、票の何れの側でも自由に綴り込むことができる等の効果」(公報一頁右欄一七行ないし一九行)を奏するものである。また、「実用新案の説明」欄に「このようにして各種勘定費目別に仕訳せられた複写紙13をミシン目14より切取り各別の票11とし、各票11の摘要欄7に記入済のものの下位に他の票11の摘要欄7を順次配列せしめて整理孔15によりルーズ・リーフ式に集綴するものである。」(公報一頁左欄二四行ないし二八行)と記載されているところ、これがいわゆる上辺余白なしの構造の伝票を順次配列して一覧性をもたせる意味であることはいうまでもなく、明細書添付の第2図が記入済の伝票を順次配列せしめてルーズ・リーフに集綴したものを示している。
(2) 考案の名称を「会計原票」とする第五一四五九〇号実用新案登録(昭和三二年三月二五日出願、昭和三四年一二月二六日実公昭三四-二一五一二号として出願公告、昭和三五年六月二四日登録、昭和四五年六月二四日存続期間満了により消滅)(登録請求の範囲)「図面に示すように左方に受払又は借方の数字欄1と日附欄6及び右方に払方又は貸方の数字欄2と番号票7、下方にそれぞれ小計欄3、合計欄4、計欄5、又中央部に勘定科目欄8及び査印欄9、を設け左右の欄を色別けした票10を連続印刷し各票10の境界にミシン目12を施し票の両側には整理孔13を縦方向に等間隔に設けたものを適宜枚数重合縫綴した会計原票の構造」(図面(二)参照)。
右の登録請求の範囲の記載から明らかなごとくこの考案は、「票の両側には整理孔13を縦方向に等間隔に設け」ることを構成要件とし、「原票はミシン目から切離して第2図に示すようにルーズ・リーフ式に綴込めば従来の帳簿形態と変らなく使用することができる」(公報一頁右欄一一行ないし一三行)という作用効果を奏するものである。
(3) 考案の名称を「単一取引用票簿」とする第五四六〇八〇号実用新案登録(昭和三四年四月二一日出願、昭和三六年一月一七日実公昭三六-六一一号として出願公告、昭和三六年七月二八日登録、昭和三九年七月二八日第四年分登録料不納により消滅)(登録請求の範囲)「図面に示すように、左右に払方(借方)及び受方(貸方)の数字欄1及び2、計欄(小計又は累計欄)3及び4、合計欄5及び6、残高欄(差引残高欄)7及び8を、中央に日付欄を有する摘要欄9、その下部に番号欄10、勘定科目欄11及び12、補助科目欄13及び14、査印欄(検印欄)15を設けた票と、これと同一の票の左右の払方(借方)及び受方(貸方)の数字欄1′及び2″の部分に濃色、
淡色、線、絵画、写真、図案、広告及び記号等を施し、同票の中央右下の勘定科目欄12′と補助科目欄14″及び左下の勘定科目欄11″と補助科目欄13′の部分に太線及び点線等による枠或いは淡色、記号等で特別な性質を施した票とを、一取引において発生する勘定科目数に応じて複写枚数を考慮して組合わせたものを多数組重綴し、票の両側には整理孔16を縦方向に各行を基準にして等間隔に穿設した単一取引用票簿の構造」(図面(三)参照) そして、前記(1)(2)の考案が、一葉に複数の伝票を印刷してミシン目から切離す形式のものであるのに対し、この考案のものは、一葉に一つの伝票を印刷したものを複数枚重綴する点で、本件で問題となつている伝票と同一形式である。この考案の要旨は、第一葉目の下に重ね合わせた第二葉目、第三葉目に特殊設計を施し、それによつて、左右の各数字欄の場合には複写による記録の必然的消滅を期し、勘定科目欄及び補助科目欄の場合には主として右と左の各数字欄の記録との関連性を明示するものである。
(二) 前記(1)ないし(3)の実用新案権がいずれも消滅したのちは、これらの技術内容は万人共有の財産となり、何人もこれを自由に実施しうるものであり、
この自由に実施しうるという利益は、不正競争防止法の規定によつていささかたりとも害されることがあつてはならない。商品の形態出所表示の機能を有する場合にも、このような技術内容に由来する必然の結果たる形態は、保護される商品の形態から除外されるべきである。被控訴人の製造販売に係る被控訴人伝票のうち、3仕訳伝票、4応用票付仕訳伝票(仕訳応用票付)、5応用票付仕訳伝票(借方応用票付)、6応用票付仕訳伝票(本支店会計用)、9受取手形伝票(借方応用票付)、10受取手形伝票(貸方応用票付)、11支払手形伝票(貸方応用票付)、
12支払手形伝票(借方応用票付)、14入金伝票、15出金伝票、20応用票付仕訳伝票(貸方応用票付)、21応用票付仕訳伝票(貸借応用票付)、25振替伝票、26振替伝票(振替応用票付)、27振替伝票(借方細目票付)及び28振替伝票(貸方細目票付)は、前記(3)の考案における技術内容をそのまま実施したものということができる。ただ実施の態様としては、これらの伝票は裏カーボンを用いているので、第二葉目以下の各葉の数字欄の部分に線その他の記号を施す態様ではなく、複写しない部分には前の葉の裏にカーボンを施さないという態様を採用しているが、技術的思想としては前記(3)の考案と同一である。したがつて、被控訴人は、これらの伝票を自由に製造販売しうるものといわなければならない。』
証拠関係(省略)
理 由一 控訴人の本訴請求は、控訴人の製造販売する本件伝票の具体的形態が不正競争防止法第1条第1項第1号にいう「他人ノ商品タルコトヲ示ス表示」に当ることを前提とするものである。
そこで、まずその点について判断する。
1 不正競争防止法第1条第1項第1号は、「他人ノ氏名、商号、商標、商品ノ容器包装其ノ他他人ノ商品タルコトヲ示ス表示」と規定し、商品主体を直接認識させる意図で表示される氏名、商品等のほか、本来第一義的には商品の出所を識別させるためのものではない「商品ノ容器包装」をも例示しているところからすると、商品の形態自体をもつて「他人ノ商品タルコトヲ示ス表示」と認められる場合のあることは否定することができない。もつとも右にいう商品の形態は、本来、当該商品がめざす特定の使用目的ないし機能を果す上で、その客体的、外部的表現としての内容が、おのずから制約された態様の範囲内にとどまらざるをえないから、本来的に商品主体の識別を直接目的とする氏名、商号、商標等の表示と同様に出所表示機能、自他識別機能を備えるものとして評価されるためには、当該商品の使用目的ないし機能の評価自体の面と、切り離し難く関連するとしても、一応その観点を離れて、なおかつ需要者の感覚、購買心理、選択意欲、消費行動に、より端的に訴える、表示としての素朴な統一的把握を可能とする表現能力・吸引力を具備すべきことは、その商品表示としての性質上当然といわねばならない。
この点に関し、被控訴人は、商品の形態がその技術的機能に由来する必然的な結果であるときは不正競争防止法による保護を求めることは許されないと主張し、その根拠として、当該商品にその形態を選択せしめた技術そのものを一種の永久権として特定人に独占させる結果となり、特許権及び実用新案権に存続期間の制限を設けた法意を没却するという。
しかしながら、不正競争防止法上、その商品表示としての保護と、特許法、実用新案法をはじめとして、意匠法、商標法を含む所謂工業所有権四法に基づく保護との競合を排除する規定ないし根拠も見出せない。また特許権及び実用新案権の保護法益は、より抽象的な技術的思想の創作そのものであつて、たまたまその技術的思想に基づく特定の具体的実施形態が商品の表示として出所表示の機能を備えて不正競争防止法上の保護の対象となりうるとしても、本来その保護の対象とする実質的内容・保護法益、またその適用のための実体的要件を異にするものであるから、特許法・実用新案法の法理と矛盾するものではない。このことは、その実施形態が当該特許権・実用新案権の実施態様として唯一無二のものであり、また、その不正競争防止法上の保護が、当該特許権・実用新案権の存続期間はいうまでもなく、これを超えて与えられるものであつても変らない。けだし、この場合における不正競争防止法上の実質的な保護の対象は、動態的な営業活動における企業の信頼性ないし商品の需要吸引力であり、その保護を受けるためには、出所表示の機能の具備とこれに伴う周知性の獲得を裏付ける営業活動の具体的事実の存在が必要であるとともに、その保護の持続のためには、これらの要件を現実のものとして常時維持すべく、企業の信用性・商品の信頼性の確立と、表示機能としての特別顕著性の確保のために、極めて流動的な需要者の商品選択の動向を背景とする競争の激烈な流通過程における、広告・宣伝・品質管理・販売活動にいたるまでの絶えざる企業努力を継続していることが前提となるから、技術的思想に関する永久権の設定とはいえないものであつて、特許権・実用新案権に存続期間を設けた法意に何らもとるところはない。
2 そこで控訴人が不正競争防止法第1条第1項第1号にいう商品表示に当るものとして主張する本件伝票の形態について検討する。
本件伝票が、控訴人が請求の原因2の(一)、(二)及び(三)の(1)ないし(6)で主張する形態を備えていることは当事者間に争いがない。成立に争いのない甲第二号証、第四号証の一ないし四、第五号証、第六号証の一ないし五、第七号証の一ないし三、第八号証の一・二、第九・第一〇号証の各一・二・三、第一二号証の一・二、第一三号証、第一四号証の一ないし五、第一五号証の一ないし九、第三四号証、第四三号証、乙第一ないし第四号証、第七ないし第一三号証、証人【C】の証言によつて成立の認められる甲第三二号証、本件伝票であることについて争いのない検甲第一号証の一ないし二四、被控訴人が製造販売した伝票であることについて争いのない検甲第二号証の一ないし一八、証人【C】、同【D】の各証言、控訴人代表者【E】、被控訴人本人【F】の各尋問の結果(原・当審)及び弁論の全趣旨によつて、前記争いのない本件伝票の商品としての形態について検討してみる。本件伝票の形態は、伝票会計用複写伝票を起票したのち、各勘定科目別に段落的にバインダーにフアイルすることによつて記帳会計帳簿と同様の一覧性と正確性(転記不要)、迅速性を兼ね備えた伝票会計用伝票として、(イ)勘定科目別に一覧形式にフアイルしたとき、伝票相互の行間に余白を生ずることなく各行が連続して表示されるよう各伝票の上・下辺に記入用行欄の外、余白が設けられていないこと、(ロ)伝票を一覧形式にフアイルするため、そして一穴のずれが一行のずれとなるため、また伝票をバインダーの左右いずれにもフアイルすることができるように、伝票の左右両側に等間隔の整理穴が設けられていること(会計用伝票である本件伝票が、右(イ)(ロ)の要件のみで最終需要者の選択の対象となるような販売可能な、完成された形態を備えた商品として成立・存在しないことはいうまでもない。)、の外に、(ハ)納品票簿(六枚組)、仕入票簿(三枚組)、仕訳票簿(三枚組)、応用票付仕訳票簿(四枚組-仕訳応用票付・借方応用票付、六枚組-本支店会計用)、複合票簿(四枚組-三科目用、六枚組-五科目用)、受取手形仕訳票簿(五枚組-借方応用票付・貸付応用票付)支払手形仕訳票簿(五枚組-貸方応用票付・借方応用票付)、請求合計票簿(四枚組)、入金票簿(三枚組)、出金票簿(三枚組)、繰越票簿(一枚)、複合補助票簿(一枚)、日計票簿(二枚組)、指定納品票簿(六枚組)、応用票付仕訳票簿(四枚組-貸方応用票付、五枚組-貸借応用票付)、複合票簿(五枚組)、納品票簿(五枚組)、領収票簿(四枚組)、振替票簿(三枚組、四枚組-振替応用票付・借方細目票付・貸方細目票付)、納品票簿(六枚組)、請求合計票簿(三枚組)、領収票簿(三枚組)、日計票簿(二枚組)、仕訳票簿(三枚組)、仕訳・借方応用票付(四枚組)、仕訳・貸付応用票付(四枚組)、複合票簿(五枚組)、納品票簿(五枚組)、仕入票簿(三枚組)の三八種にわたる各種別毎に枚数の組合せを異にし、また例えば納品票簿(在庫管理票付・六枚組)についてみると、各業の第一行欄上部に、その行の記入・使用も妨げない程度の小文字で金額、月、日、品名、入庫、出庫、単価、金額と各区画に印刷して下部数行の空白欄と組合せている点では共通しているが、第一葉ないし第六葉の左側下部には、納品書、物品受領書、請求明細書、得意先元帳票簿、統計管理票簿A、統計管理票簿Bと各葉毎に異なる所要文字が印刷されているなど、所要印刷文字の種類が各種目別に異なるところがあるし、これと空白行との組合せ、各葉の組合せが伝票の使用目的に従つた各種別毎の性質に従つて極めて多岐にわたつている。そして控訴人の主張の範囲内において認定できる、完成された商品としてのこれら本件伝票の形態は、大規模な会計規模を持つ法人組織から個人営業の一般小商人にまで及ぶこの種商品の需要者にとつて、使用目的ないし機能の評価を一応離れて、商品表示として端的に商品選択、消費行動に訴える素朴な統一的把握を可能とするようなものでなく、表示そのものとして需要吸引力を左右するものとは到底認められない。却つて、前掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件伝票の販売方法も、一般店頭販売によらず、従業員ないし解説書により会計内容に従つた使用方法に関する実習を含めた技術的説明を行つて需要者に訴えた上で行つていること、また、需要者側においても、その事業内容の必要に応じた会計業務処理の繁簡、帳簿処理・検索の便・不便などの多角的な観点から、伝票の組合せ、記入方法、フアイルの方法などを事務的、技術的に検討し、これらの点を第一の主な前提として商品選択の対象としていることがたやすく認められる。以上によれば、
控訴人が主張する本件伝票の形態が不正競争防止法第1条第1項第1号にいういわゆる商品表示としての表現能力・吸引力を具備していたものとも、また、そうした表示として周知性を有していたものとも認めることはできない。
弁論の全趣旨によつて成立の認められる甲第四二号証の一ないし八は、記載の様式からしていずれも控訴人方で起案作成した定型印刷済文言の証明書を用い、本件伝票の購入者が控訴人の依頼に応じて作成したものと推認され、前記認定に反する実質的内容の趣旨を示す記載があるものとも認められず、前記判断を左右するものではなく、他に本件伝票の形態が控訴人の商品表示としての表現能力・吸引力あるいは周知性を備えていたことを示す証拠はない。
3 そうすると、控訴人の本訴請求は、その余の判断をまつまでもなく理由がないこととなる。
二 以上のとおり、控訴人の不正競争防止法第1条第1項第1号及び第1条の2第1項の各規定に基づく本訴請求は、失当として棄却すべきものであり、これと同旨の結論にでた原判決は結局相当であつて本件控訴は理由がないから、これを棄却しなければならない。よつて控訴費用の負担につき民事訴訟法第95条第89条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 舟本信光
裁判官 竹田稔
裁判官 水野武
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