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事件 昭和 44年 (ネ) 1352号
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 大阪高等裁判所
判決言渡日 1974/06/05
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件控訴を棄却する。
控訴人の当審における新たな仮処分申請部分を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人は洋菓子を販売するについて別
紙第一ないし第六記載の表示を使用してはならない。(当審において、従前の申請の趣旨を右のとおり変更した。)訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文と同旨の判決を求めた。
当事者双方の事実上、法律上の主張並びに疎明の関係は、左記のとおり付加
訂正するほか、原判決の事実摘示と同一であるから、これをここに引用する。
一 控訴代理人の陳述(申請理由の訂正追加)(一) 控訴会社は、昭和二六年六月一四日、登録番号第三九九五八八号をもつて、指定商品第四三類(菓子及び麺麭)について「<11838-001>」(ドイツ人の名を図案化した花文字体、以下これを「花文字体ユーハイム」という)という商標の登録を得て使用していたが、右商標はその後昭和四六年六月二四日登録期間の満了により消滅し、同年七月八日抹消登録をした。しかし控訴会社は、昭和二九年一月一三日、登録番号第四三七六七四号をもつて、指定商品第四三類(菓子及び麺麭)について前記商標の連合商標として、「<11838-002>」(横に二段書き)という商標の登録を得て、現にこれを使用している。ところで、前記第三九九五八八号をもつてした商標登録は、右のように消滅したけれども、右商標は、登録以来既に取引界において一般周知の表示となつているのみならず、前記第四三七六七四号の連合商標の登録があり、右連合商標は第三九九五八八号と同一ないし類似の商品についての、そして同一ないし類似の商標について登録されており、その商標権の有する禁止権の範囲には、第三九九五八八号による商標権の有していた禁止権をも包含しているものと見るべきであるから、後記差止請求権を行使するについて支障はない。
(二) 被控訴会社は、原判決事実第二の一の2に摘示の裁判上の和解(以下、本件和解という)の成立後六ケ月を出ない頃より、その経営する洋菓子販売において、自己の商品表示及び営業表示に別紙第一ないし第六記載のような表示(以下、
本件表示という)を使用している。
(三) 被控訴会社の右のような商品表示及び営業表示の使用のため現在もなお、
控訴会社の商品及び営業に関して需要者混同誤認を生じさせており、原判決事実第二の一の五に挙示する事例のほか、その例は枚挙にいとまがなく、需要者に多大の迷惑をかけている。
加えて、昭和四六年九月三〇日には、被控訴会社製造にかかるシユークリームを食べた大阪、茨木、吹田各市内の顧客が腹痛、下痢症状を起すという事故が発生し、被控訴会社は神戸市衛生局より製造停止が命ぜられた。このことは新聞紙に報道されたが、需要者は控訴会社と被控訴会社とを混同して控訴会社の商品による事故と受け取つたものもあり、また控訴会社傘下の販売店からも苦情を寄せられ、信用を失墜させられた。そのため控訴会社は、その信用回復の措置を講ずるのやむなきに至り、営業上多大の損失を蒙つた。
(四) よつて、控訴会社は、被控訴会社に対し、次の各理由のいずれかにより(択一的に)、本件表示の使用差止めを求める権利を有する。
(1) 被控訴会社の使用している本件表示は、控訴会社の前記商標権を侵害するものである。
被控訴会社は、本件表示を自己の製造、販売する洋菓子の広告、包装紙、菓子箱のレツテルなどに商標として使用している。そして、被控訴会社は、「ユーハイムコンフエクト」という文字(「ユーハイム」と「コンフエクト」との間に、「・」のあるものと、「・」のないものとがある。)を現に使用するに当り、「ユーハイム」部分と「コンフエクト」部分を同等の比重で用いず、「コンフェクト」部分を「ユーハイム」部分に比べて小さく書き、あるいは「ユーハイム」部分の下部に二段書きにし、これを一連不可分的に表記していない。なお被控訴会社は、「コンフエクト」部分が「ユーハイム」部分と一体でないことを示すことによつて、「コンフエクト」という文字を、砂糖菓子あるいは洋菓子店を意味する普通名称として使用しているのであるから、「ユーハイムコンフエクト」の表示のうち商標として意義を有する部分は、「ユーハイム」部分だけである。
ところで、控訴会社は、後記のように、被控訴会社との本件和解において、被控訴会社に対し一連不可分の表示方式による「ユーハイム・コンフエクト」の商標の使用はこれを許諾したことがあるけれども、「ユーハイム」という商標の使用を許諾したことはない。したがつて、被控訴会社が自己の商標として「ユーハイム・コンフエクト」という文字を本件表示のように使用することは、控訴会社の商標「ユーハイム」と類似することになり、これとの間に混同を招来し、右商標権を侵害するものとなる。
よつて、控訴会社は、商標法第36条第1項により、被控訴会社に対し、前記商標権の侵害の停止またはその予防を請求する権利を有する。
(2) 被控訴会社は、本件表示を自己の商標として使用すると同時に、自己の営業を表示するものとして使用しているが、右は控訴会社の商号権を侵害するものである。
被控訴会社は、控訴会社の登記した商号である「株式会社ユーハイム」(商号変更前は、株式会社ユーハイム商店)と類似の本件表示を控訴会社所在地と同一市内である神戸市<以下略>において同一営業である洋菓子製造販売のためにこれを使用しているから、商法第20条第2項により被控訴会社が不正競争の目的をもつてこれを使用しているものと推定される。のみならず、被控訴会社は、控訴会社の右商号の存在を知悉しながら、前記のように殊更に「コンフエクト」の文字を小さく書いたり、二段書きにしているのであつて、これにより一般需要者に対し控訴会社の商号と混同を生じさせ、また両者の営業に関する誤認を招来させていることは明らかであるから、被控訴会社は、不正競争の目的をもつて類似商号を使用しているものといわねばならない。
よつて、控訴会社は、商法第20条第1項により、被控訴会社に対し、商号としての本件表示の使用差止を求める権利を有する。
(3) 被控訴会社は、不正競争行為をなしている。
控訴会社は、その製造販売にかかる洋菓子について広く認識された「ユーハイム」という表示を有するところ、被控訴会社は、控訴会社の右商品表示と類似する本件表示を使用して洋菓子を製造販売し、一般需要者に対し控訴会社の右洋菓子を生じさせている。
また、控訴会社は洋菓子営業について広く認識された「ユーハイム」という表示を有するところ、被控訴会社は、控訴会社の右営業表示と類似する本件表示を使用して前記の営業をし、一般需要者に対し控訴会社の営業活動と混同を生じさせている。
そして、控訴会社は、被控訴会社の右行為により、需要者混同による苦情についていちいち弁明をしなければならないとか、被控訴会社の製品による中毒事件(前記(三)のとおり)に関して混同を生じ、それによつて失墜した信用の回復措置をとらねばならなかつたとか、顧客の混同により売上を失つたため損失を生ずるとか、その他営業上多大の利益を害せられている。
よつて、控訴会社は、不正競争防止法第1条第1号及び第二号により、被控訴会社に対し、不正競争行為として本件表示の使用差止を求める権利を有する。
(被控訴人の主張に対する反論)(一) 被控訴会社は、本件表示の使用は、本件和解によつて控訴会社より許容されたものであり、かつ右許容の範囲内に属する旨主張するが、右主張は否認する。
(1) 被控訴会社は、本件和解は、当時における被控訴会社の商号及び商標としての「ユーハイムコンフエクト」の使用状態を当事者双方相互に承認した上でその使用を許容された旨主張するけれども、右主張は当らない。すなわち、本件和解当時における被控訴会社の商号及び商標の使用状況は、看板は勿論、包装紙に至るまで「株式会社ユーハイムコンフエクト」と表示していたのであるが、和解後は、
「株式会社」を付加せずに「ユーハイムコンフエクト」と表示するようになつたものであり、また和解成立前においては、被控訴会社は、「コンフエクト」をつけないで「ユーハイム」だけを使用していたこともあるが、和解後は、「ユーハイム」だけの使用は禁止され、「ユーハイムコンフエクト」でなくてはならないことになつたため、本件表示のような表示方法をとることになつたものである。したがつて、「和解当時あるいは従前の使用状態」のままで使用が許されたといつても、本件和解において被控訴会社が控訴会社から如何なる範囲の使用を許容されたことになるのか必ずしも明確でない。
(2) 本件和解は、和解条項(別紙記載)の全体より見て、「ユーハイムコンフエクト」の記載を一連不可分に表示すべきことを前提として、右表示による商号、
商標の使用を被控訴会社に許容した趣旨と解すべきである。すなわち、本件和解条項には別紙が添付され、それにはローマ字で「YUHAIMU CONFECT」と同一の大きさのもとに一段一行に記載されているのであるが、同一和解調書において、ローマ字では同一の大きさの文字をもつて一段一行に記さねばならないのに、日本字では文字の大きさは、同じでなくてもよく、また二段に書いてもよいということは不合理である。したがつて、本件和解は、「コンフエクト」部分を「ユーハイム」部分に比して小さく表示したり二段書きにするなど、一連不可分性を損う表示をしてはならないことを前提とする趣旨であることを明らかであるから、本件表示は、使用が許された範囲に属するものではない。
(3) 仮に、本件和解条項に右のような明示の約定がないとしても、商号ないし商標使用許容の法的性格上からみても、使用を許された商号、商標を使用するに当り、一連不可分性を損う表示をすることは許されないと解すべきである。
すなわち、本件において、「ユーハイムコンフエクト」が一連不可分に記載されている場合と、「コンフエクト」部分が「ユーハイム」部分より小さく書かれたり、その下部に二段書きにされた場合とにおいては、商号、商標の評価上大きな差異がある。また、「ユーハイムコンフエクト」は、「ユーハイム」部分と「コンフエクト」部分とが接続し、かつ両者が等価値に均衡を保たれていないと自他の識別性が弱まり、需要者混同誤認を招来する危険を増大させることになる。そして、
右のように「コンフエクト」部分を「ユーハイム」部分に比して小さくしたり、その下部に二段にして記載することが、表示における一連不可分性を損うことは明らかであつて、被控訴会社が商号、商標を使用するに当り、本件表示のような用い方をすることは許されないものである。
(4) 被控訴会社は、「コンフエクト」は、元来砂糖菓子を意味する語であつて、それ自体独立して商標登録の対象となるものではないと主張するけれども、
「ユーハイムコンフエクト」は、ユーハイム砂糖菓子という意味で用いられているわけではない。「コンフエクト」も商号、商標の要部であり、いわゆる結合商標であつて、「ユーハイム」部分と切り離して単独で意味を有するものではなく、これと一連不可分に表示されてはじめて意味を持つに至るものである。
(5) 被控訴会社は、その商号及び商標のうち「コンフエクト」の部分は、商標法第26条にいう「普通に用いられる方法」として使用しているから、商標法にも、また本件和解の趣旨にも反しないというが、同条の意義は、これを本件に適用すると、「コンフエクト」が普通名称であるとき、それを商標的でない方法で使用する限り控訴会社の登録商標の効力が及ばないということである。ところが本件表示は、前述のように「コンフエクト」部分を「ユーハイム」部分から切り離して大小書き、あるいは二段書きにし、またレタリングにおいて独特の図案化した文字を用いており、商標的に使用していることは明らかであるから、右にいう「普通に用いられる方法」として使用している場合に当らない。
(6) また、被控訴会社は、本件表示のような形態で「ユーハイムコンフエクト」を使用するについては、被控訴会社に先使用権があり、また自己商標の善意使用でもあり、本件和解は、これらの点を考慮してなされたものであるというが、被控訴会社の右使用は、いわゆる先使用権に当るものでもなく、善意使用でもない。
控訴会社が本件和解において使用を許容したのは、前述のように「株式会社ユーハイムコンフエクト」または「ユーハイム・コンフエクト」と一連不可分に表示する方法での商号、商標の使用であつて、本件表示のような形態を許したものではない。
(二) 被控訴会社の違法性阻却に関する主張は、これを争う。
本件表示は、需要者に対し控訴会社の商号、商標である「ユーハイム」と混同誤認を生ぜしめる危険が大であり、かつ本件和解における使用許容の範囲を逸脱しているのであるから、その主張のような違法性を阻却することはありえない。
(三) 被控訴会社のいわゆる権利失効の抗弁も、これを争う。
被控訴会社は、控訴会社の本件差止請求権は権利失効の原則により消滅したと主張するけれども、右抗弁が成立するためには、差止請求の対象である被控訴会社の商号及び商標に関する表示が一定し、かつ長期間継続することが必要である。ところが、被控訴会社の右表示方法は、一定の安定した状態に保たれていたものではなく、度々変更されて来たから、まずこの点において右権利失効の原則は適用し難い。のみならず、控訴会社は、本件和解成立後被控訴会社の前述のように「コンフエクト」部分を小さく書き、又は二段書きするなど本件表示と同様の表示をしていたので、これに対し口頭で右表示の修正方を申入れ、昭和三〇年一一月一七日には代理人川見弁護士名で警告の内容証明郵便を発し、その後右川見弁護士は被控訴会社代理人の谷弁護士との間に右問題に対する処理について話合つた。更に、昭和三四年一二月二一日には、被控訴会社が発行した電話の応待等に関する従業員教育用パンフレツト中に、「ユーハイム」と混同を生じさせるような記事があつたので、
これに対し内容証明郵便で警告をした。続いて、昭和三七年には、阪急百貨店内の被控訴会社売店の看板に「ユーハイム」とのみ表示されていたので、これが撤去を申入れ、「ユーハイム・コンフエクト」と変更させた。その他被控訴会社の数々の不正競争行為に対しては、控訴会社は、自衛措置として「ユーハイム」は、「ユーハイムコンフエクト」と何ら関係がない旨広告し、また神戸商工会議所を介して右問題の解決を図つたこともあつた。更に、昭和四二年には、控訴会社は被控訴会社の商標との混同、混乱を排除するため、代理人【A】弁理士名で、特許庁に対し、
控訴会社の有する第四三七六七四号登録商標の効力範囲の判定を求め、また被控訴会社の有する第四六七四八四号商標の登録取消の請求をした。そして昭和四三年に至つて、被控訴会社の不正競争の程度が耐え難い程になつたため、控訴会社はやむなく本件仮処分申請に及んだものであつて、本件和解成立後本件仮処分申請に至るまで被控訴会社の数々の不正競争表示行為を決して傍観していたものではない。したがつて、被控訴会社は、控訴会社の差止請求書の不行使を信頼できる状態にあつたものではない。
二 被控訴代理人の陳述(答弁) 被控訴人主張の申請理由の訂正追加(一)のうち、控訴会社の商標登録及び登録消滅に関する事実は認めるが、その余は争う。同(二)の事実は認める。同(三)のうち、被控訴会社製のシユークリームによる食中毒発生の事実は認めるが、その余は否認する。同(四)の主張はいずれも争う。
(主張)(一) 被控訴会社が現に使用している「ユーハイムコンフエクト」という商号並びに商標は、昭和三〇年四月二三日控訴会社との間に成立した本件和解により、その使用を許容されたものであり、かつ本件表示は右許容された使用範囲内に属するものである。そして本件和解に至るまでの経緯は、次のとおりである。
(1) 戦前神戸市内で有名であつたドイツ人【B】の経営していた「ユーハイム商会」は、戦災による工場の壊滅や同人の死亡により企業として解体消滅し、その使用商標「ユーハイム」(花文字を含む)も使用者がなく放置されたままであつたところ、戦後間もなくして右間隙に乗じ、「ニユー・ユーハイム」、「ユーハイム商店」あるいは「洋菓子ユーハイム」などと「ユーハイム」の名称を店名や商号の一部に使用する洋菓子店が神戸市内に乱立した。
(2) ところで、被控訴会社の代表取締役【C】は、当時神戸市<以下略>で「ドミノ・ベーカリー」の名称で洋菓子の製造販売業を営んでいたが、その後【D】が経営する「ニユーユーハイム」に共同事業者として参加し、商号を「ユーハイム洋菓子店」と改め、「ユーハイム」の商標で洋菓子の製造販売を継続して来たところ、更に昭和二六年四月二三日これを改組して商号を「株式会社ユーハイム・コンフエクト」とする会社、すなわち被控訴会社を設立して、その旨の登記を了した。
(3) 控訴会社もまた前記「ユーハイム商会」の解体後乱立した「ユーハイム」を使用する業者の一つであるユーハイム商店(個人経営)その前身とするものである。すなわち昭和二三年一二月頃、【E】(本件和解当時の控訴会社代表取締役)は、前記「ユーハイム商会」が放置したままとなつていた「花文字体ユーハイム」に着目し、当時自己が経営の実権を握つたビスケツト工場の商標としてこれを使用していたが、その後昭和二五年一月三一日、洋菓子の製造、販売を目的として、
「株式会社ユーハイム商店」すなわち控訴会社を設立、登記するや、その商標として「花文字体ユーハイム」を使用するようになつた。しかし、控訴会社が実際に開店したのは、同年九月一一日であつた。
(4) 被控訴会社は、前記設立以来、「ユーハイム・コンフエクト」という商標を使用して、その製造にかかる洋菓子の販売をして来たのであるが、右商標を表示するに当つては、控訴会社との混同を避けるため、看板、菓子箱のレツテル及びカード、ナフキン、セロフアン、マツチ、包装紙、プライスカード、案内状等に至るまで、すべて「ユーハイム」部分に比して「コンフエクト」部分をやや小さく記載し、あるいはこれを二段に分けて「ユーハイム」部分の下段に「コンフエクト」を添えて記載する方法を用いた。
(5) ところが、控訴会社は、「ユーハイム」という商号、商標を独占すべく、
前記のように会社設立登記及び商標登録が僅かに先んじたのを奇貨として、昭和二六年一〇月頃、被控訴会社を相手に、神戸地方裁判所に対し、「ユーハイム」という商標の使用禁止等の仮処分を申請し、続いて「ユーハイム」という商号及び商標の禁止を求める本訴を提起した。
右訴訟においては、控訴会社は、登録した商標権に基づいて被控訴会社に対し「ユーハイム」という名称の使用禁止を求め、殊にその登録商標である花文字の「ユーハイム」と類似する商標の使用、更に看板に「洋菓子ユーハイム」と書き、
それに小さく、「コンフエクト」と挿入したり、包装紙等に「ユーハイム・コンフエクト」と記載するに当り横書きに二段に大書する表示方法は違法であると主張していたのであるが、それに対し、被控訴会社は、前述のように「ユーハイム・コンフエクト」という商標を使用するに当り、「ユーハイム」を大きく書き、これに「コンフエクト」を小さく添えて、一行書き、あるいは二段書きにする表示方法をとつても、控訴会社の商標権の範囲に牴触しない、万一牴触するとしても、被控訴会社の右表示は控訴会社が前記商標を登録する以前よりの善意使用であり、いわゆる先使用権を有する旨主張して抗争した。
(6) ところが、その後、右本訴において、受訴裁判所の勧告により、昭和三〇年四月二三日当事者双方間に別紙記載のような和解条項により裁判上の和解(本件和解)が成立した。ところで、本件和解は、前記のような紛争状態を円満に解決することを目的とするものであることは勿論であつて、控訴会社は被控訴会社に対し「ユーハイム・コンフエクト」の商号及び商標の使用を認め、被控訴会社はこれに対し和解金一二〇万円を控訴会社に支払うことを骨子とするものである。そして、
商標については、控訴会社において、被控訴会社に対し控訴会社の登録商標である「花文字体ユーハイム」と同一又は類似の商標を禁ずるが、被控訴会社が当時「ユーハイム・コンフエクト」の商標を片仮名文字により表示するについて「ユーハイム」部分に比し「コンフエクト」部分の文字を小さくし、また両者を二段書きにして使用していた現状をそのまま承認し、その表示方法を限定することなく、ただローマ字による右商標の表示については、和解調書添付の別紙において指定した書体(当時被控訴会社が使用していた)のものに限定した上で、右商標の使用を承認する趣旨のものであつた。このことは、本件和解調書において、控訴会社の登録商標である「花文字体ユーハイム」や被控訴会社の商標をローマ字で表示する場合の書体については、特に別紙にこれを明記したのにかかわらず、片仮名文字による表示については、何ら制限条項の記載がないことによつて明らかである。
(7) 以上のような本件和解成立に至るまでの経緯、本件和解の趣旨に徴すると、被控訴会社の商標である前記「ユーハイム・コンフエクト」に関する本件表示は、本件和解以前の使用形態を継続踏襲しているに過ぎず、本件和解条項第一項による使用許容の範囲内に属するものであり、何ら和解条項に違反するところはない。
(8) もつとも、右のように和解によつて「ユーハイム・コンフエクト」の商号、商標の使用を許され、かつ片仮名文字による商標の表示方法についてこれを限定する明示の条項がないからといつて、これを表示するに当り、「コンフエクト」の文字部分をどのように記載してもよいというものではなく、社会通念に照らし自ら制約の存することは否定し難いところであるけれども、本件表示は、右の制約にも触れるものではない。
すなわち、商標については、表示上の美観の考慮がなされるべきであるところ、
「ユーハイム・コンフエクト」という商標は、「ユーハイム」部分は五字であり、
「コンフエクト」部分は六字であるから、これを一行に同じ大きさで表示するとすれば、著しくその均衡を失し、美観を損うことになる。更に「コンフエクト」は、
砂糖菓子ないし洋菓子店を意味する言葉であり、営業種目を表示する付加的部分であるに過ぎないのに、それが主要部分の「ユーハイム」よりも外観上大きくなるような表示方法は、それ自体不合理であり、またこれを表示する対象物件の如何によつては、とても同じ大きさで一行には書ききれない場合もあり、強いて一行に書けば字が小さくなつてその全体が何を表示しているのか明瞭に判読できない場合も生ずる。したがつて、「コンフエクト」部分を「ユーハイム」部分より小さく書くか、これを下段に別行書きすることはやむをえないところであり、むしろ世上一般に行われている自然な表示方法というべきである。
被控訴会社は、本件和解成立前より、前記のような表示方法をとつており、本件表示はこれを踏襲したものであるが、「コンフエクト」部分は、「ユーハイム」部分と全く同じ書体を用いており、色彩を異にするわけでもなく、特に図案化して使用しているわけでもない。被控訴会社の使用する本件表示は、旧商標法第8条及び商標法第26条にいう、普通に使用される方法をもつて自己の商号または商標を表示する場合にあたる。
なお本件表示は、一般人が通常一見して「コンフエクト」と記載されていることを判読できる程度の表示となつているから、本件表示は前記制約に触れるものではない。
(9) なお、控訴会社は、本件和解においては、商標について明白な使用制限があり、「ユーハイムコンフエクト」は、一連不可分に表示されるべきであると主張するけれども、和解条項第一項に記載された「ユーハイム・コンフエクト」という商標には、「ユーハイム」部分と「コンフエクト」部分の間に「・」が付されているのであり、これはハイフオンを挿入した場合と同様に両者の一連不可分性を遮断したものである。(これは商号と区別する趣旨である。) 本件和解当時、被控訴会社は、前述のように「ユーハイム」部分より「コンフエクト」部分を小さく書き、あるいは二段書きにして、いわば結合性の弱い、必ずしも一連不可分とはいえない態様で右商標を使用していたのであるが、本件和解は右使用態様を双方諒解の上で合意したものであつて、右の合意を明らかにする趣旨で、右のように「・」が付されるに至つたものである。したがつて、控訴会社の右主張は当らない。
(二) 被控訴会社が、「ユーハイム・コンフエクト」を商号あるいは商標として使用するに当り、本件表示のような表示方法をとつたとしても、それは違法性を欠くものである。
すなわち「コンフエクト」部分を表示するに当り、これを主要部分より小さく書き、または二段書きにする例は、往々にして世間によく見られる例であり、控訴会社は、前述のように商標表示における美観をも慮つてこのような方法をとつたのであり、右のような表示は、商標や商号の普通に用いられる方法として使用が許されるべきものである。被控訴会社は、控訴会社が「ユーハイム」という商号や商標において有する営業上の信用ないし経済的な価値を自己の営業に利用する意図のもとに本件のような表示の使用をしているものではなく、不正競争の目的を有するものではない。
そして、前述のように、本件和解において、「株式会社ユーハイムコンフエクト」の商号及び「ユーハイム・コンフエクト」の商標の使用が許容されており、本件表示も右使用許容の範囲内にあるから、仮に本件表示が商標法第36条、商法第20条、不正競争防止法第1条第1項第1号、第二号に該当するとしても、それはやむをえぬ結果というべく、違法性が阻却されるものである。
(三) 仮に、以上の主張が理由がないとしても、控訴会社の本件表示に対する差止請求権は、権利失効の原則により消滅している。
前述のように、被控訴会社は、本件和解成立以前から「ユーハイム・コンフエクト」を商号や商標として使用するに当り、「コンフエクト」部分を「ユーハイム」部分より小さく書き、あるいは二段書きをしており、和解後もこれを踏襲し、同様の表示方法を続けて本件表示に至つたのである。すなわち、被控訴会社は、神戸市内に本店を置き、支店、直売店及び販売店は、三宮センター店、生田店、さんちか店、堂島営業店、神戸デパート店、甲子園店、垂水店、元町店、芦屋店、梅田店、
大丸店(神戸)、阪急店(神戸及び大阪)、三越店(神戸)、丸栄店(名古屋)、
オリエンタル中村店(名古屋)、丸物店(豊橋)、姫路駅デパート、松菱店(津)、明石ステーシヨンセンター店、鉄道弘済会(神戸、三宮)、大阪国際空港とあり、名古屋市内に製造工場を設置するまでに発展し、この間これらの各店、工場においては、本件表示と同様の表示方法で前記商号や商標を使用して来た。にもかかわらず、控訴会社は、本件和解成立後より本件仮処分申請に至るまで実に一三年間もそのまま放置し、被控訴会社に対し右使用差止について何ら法的措置をとらなかつたのであるから、被控訴会社においては、もはや右差止請求権は行使せられないものと信頼していたのであり、右信頼は正当として保護されるべきである。したがつて、今日に至つて突如として本件差止の仮処分申請をするのは、著しく信義誠実の原則に反するものであり、控訴会社の右差止請求権は、権利失効の原則によつて消滅したものというべきである。
(四) 控訴会社の本件差止請求は、権利の濫用である。
控訴会社は、昭和二九年一月に登録番号第四三七六七四号をもつて、その主張のような連合商標を登録したのであるが、右商標を使用するに当つては、右登録どおりに「花文字体ユーハイム」と片仮名文字による「ユーハイム」とを併用することなく、専ら片仮名文字の「ユーハイム」のみを分離して使用していたため、被控訴会社の商標「ユーハイム・コンフエクト」と混同を来たすことになつた。すなわち、今日の両者間の商標の混同は、控訴会社の右のような使用状況に原因するものである。にもかかわらず、控訴会社は、本件和解調書の軽微な不備に藉口して和解条項の末端にとらわれた解釈をし、被控訴会社の使用する本件表示は、本件和解の趣旨に反する旨主張してその差止を求めるが、それは被控訴会社を困惑させることのみを目的とするものであつて、右差止請求権の主権は権利の濫用であり、とうてい許されるべきものではない。
(五) なお、本件仮処分は、保全の必要性を欠くものである。
被控訴会社は、前述のように、本件和解後十余年の長きにわたつて自己の商号、
商標を使用するに当つて本件表示のように表示して来たが、控訴会社はこの間何ら法的措置をとることなく放置してきた。ところが昭和四三年三月に至つて突如として本件仮処分申請をなすに至つたのであるが、そもそも仮処分の必要性は、他に方法がないため緊急やむをえない場合にのみ認められるべきものであるから、本件和解後十余年を経過した今日になつて仮処分を申請しても、もはやその必要性はないものというべきである。
また、仮処分は、法律関係が未確定のために生ずる著しい損害を避けるため、暫定的に法律状態を形成し、これを規制する必要のある場合でなければならない。しかも、仮処分によつて防止しようとする債権者の損害は、その仮処分によつて債務者の蒙る損害よりも著しく大なる場合であることを要するのである。ところが、債権者である控訴会社は、本件仮処分によつて防止しようとする損害については何も明らかにしていないのに反し、債務者である被控訴会社は、本件申請の趣旨の仮処分を受けると、看板、菓子箱のレツテル、カード、ナフキン、セロフアン、マツチ、包装紙、プライスカード、案内状その他社内のあらゆる印刷物について、商標、商号の表示を改めねばならず、その費用は莫大であり、また表示方法の変更による取引上の信用の低落も甚大なものがあり、その損害は極めて大きい。
(六) 以上要するに、控訴会社の本件仮処分申請は、被保全権利も、また保全の必要性も存在しないものであつて、失当であるから、直ちに棄却されるべきである。
三、疎明関係(省略) 理 由
争いのない事実
(一) 控訴会社は、昭和二五年一月三一日、本店を神戸市<以下略>におき、洋菓子等の製造、販売を目的とし、「株式会社ユーハイム商店」として設立されたが、その後商号を「株式会社ユーハイム」と、また本店を控訴会社肩書地に変更し、現に右「株式会社ユーハイム」を商号として使用していること、控訴会社は、
昭和二六年六月一四日登録番号第三九九五八八号をもつて、指定商品第四三類(菓子及麺麭、以下同じ)において、「<00838-003>」(ドイツ人の名を図案化した花文字体、以下「花文字体ユーハイム」という)という商標の登録を得て使用していたところ、右登録はその後昭和四六年六月二四日期間満了により消滅し、同年七月八日右抹消登録をしたこと(疎甲第七九、第八一号証参照)、また昭和二九年一月一三日登録番号第四三六七四号をもつて、指定商品第四三類において、「<00838-004> ユーハイム」(二段書き」という連合商標の登録を得ていること(疎甲第八〇、第八二号証参照)。
(二) 一方被控訴会社は、昭和二六年四月二三日、本店を神戸市<以下略>、支店を同町<以下略>におき、洋菓子の製造、販売を目的とし、「株式会社ユーハイム・コンフエクト」として設立登記されたが、その後本店を被控訴会社肩書地に移し、従前の本店を支店とし、現に右商号を使用していること、また被控訴会社は、
昭和三〇年六月二九日登録番号第四六七四八四号をもつて、指定商品第四三類において、「株式会社ユーハイムコンフエクト」という商標の登録を得ていること、
(三) ところで、控訴会社は、被控訴会社が昭和二六年四月右商標「ユーハイム・コンフエクト」を使用して洋菓子の製造、販売を開始するや、右商標に関する表示は控訴会社の登録商標に極めて類似するものであると主張して、同年一〇月五日神戸地方裁判所に対し被控訴会社を債務者として商標使用禁止の仮処分を申請し(同庁昭和二六年(ヨ)第三九八号)、更に被控訴会社に対し、その製造、販売にかかる菓子類及びその容器、包装紙等並びにその営業に用いる看板等に商標として「ユーハイム」という名称を使用してはならないとの趣旨の訴(同庁同年(ワ)第九五二号)、及び被控訴会社はその商号に「ユーハイム」という文字を使用してはならない。神戸地方法務局受付第八七一一三号をもつてした「株式会社ユーハイム・コンフエクト」という商号の抹消登記手続をせよとの訴(同庁同年(ワ)第九五三号)を提起し、当事者双方間に紛争が続いていたこと、その後右訴訟係属中(右昭和二六年(ワ)第九五二号、第九五三号の両事件は併合された)である昭和三〇年四月二三日、控訴会社と被控訴会社との間に、別紙和解条項を内容とする裁判上の和解(疎甲第三号証、以下本件和解という)が成立したこと、
(四) ところが、被控訴会社は、右和解成立後も自己の商号、商標として「ユーハイムコンフエクト」と表示するに当り、本店、支店及び販売店の看板、電柱広告をはじめ、菓子箱のレツテル及びカード、ナフキン、セロフアン、マツチ、包装紙、シール、パンフレツト、カツプケース、プライスカード、郵便はがき、チラシ、案内状、その他従業員の名刺に至るまで、「ユーハイム」部分と「コンフエクト」部分の文字の大きさの割合は別として、縦書きの場合は、一行にして「ユーハイム」と記載し、それに小さく「コンフエクト」と続け、横書きの場合は、横一行に「ユーハイム」と書き、それに小さく「コンフエクト」と続け、あるいは「ユーハイム」の下段に行をかえて小さく「コンフエクト」と記載するなどの方法をとつていること、すなわち被控訴会社は、自己の営業並びに商品を表示するものとして「ユーハイムコンフエクト」を使用するに当り、本件表示と同様な態様でこれを表示し、現在に至つていること。
以上の事実は、当事者間に争いがない。
第二、被保全権利に対する判断一、商標法第36条の主張について 前記第一の(一)の事実に照らし、控訴会社は、登録番号第三九九五八八号をもつて登録された商標「花文字体ユーハイム」については、存続期間が終了したことにより、その商標権が消滅し、したがつて登録番号第四三七六七四号をもつて登録された連合商標についても、そのうち原登録商標である「花文字体ユーハイム」については、その商標権が消滅したことになるけれども、当審における本件口頭弁論終結時において、右連合商標のうちの片仮名文字による「ユーハイム」については、なお商標権を有すること明らかである。
ところで、控訴会社は、被控訴会社が自己の商標として「ユーハイムコンフエクト」を使用するに当り、本件表示のような表示方法を用いることは、控訴会社の有する商標権を侵害するものであり、また本件和解の趣旨にも反する旨主張するのに対し、被控訴会社は、被控訴会社が本件表示を使用するのは、本件和解において、
商標として「ユーハイム・コンフエクト」を使用することを許容されたからであつて、商標権の侵害に当らない旨極力抗争するので、この点について以下検討する。
(一) 前記争いのない事実に、成立に争いのない疎甲第三号証、同第一六号証の一ないし八、同第二八号証の一、二、同第二九、第三〇号証、第四四号証、同第51条証の一、二、同第五三号証、同第56条証の一、疎乙第一、第二、第四、第一八号証、原審における被控訴会社代表者【C】尋問の結果により真正に成立したものと認められる疎乙第三号証、当審における控訴会社代表者【F】尋問の結果により真正に成立したと認められる疎甲第五八、第五九、第六〇、第六三号証、添付の包装紙が被控訴会社作成のものであることについて争いがなく、その余の部分について当審における控訴会社代表者【F】尋問の結果により真正に成立したと認められる疎甲第六四ないし第六六号証、当審証人谷賢次の証言により真正に成立したと認められる疎乙第一三号証の二に、原審証人川見公直の証言の一部(後記信用しない部分を除く)、当審証人谷賢次の証言、原審及び当審における被控訴会社代表者【C】尋問の結果、並びに当審における控訴会社代表者【F】尋問の結果の一部(後記信用しない部分を除く)を綜合すると、
(1) 戦前神戸市内でドイツ人【B】がその妻【G】と共に経営していた「ユーハイムズ・コンフエクシヨナリ」は、ドイツ風の洋菓子屋として有名であつたが、
戦災によつて工場の一部が焼失したり、右【B】が終戦直前死亡したりしたため、
営業は廃止され、その使用していた商標「ユーハイム」(花文字体を含む)も放置されたままであつたところ、戦後間もなくして右「ユーハイム」の名称を店名や商号の一部に使用する洋菓子屋が神戸市内に乱立するようになつたこと、
(2) 被控訴会社の代表取締役【C】は、戦後間もない頃より、神戸市生田区で「ドミノ・ベーカリー」の名称で洋菓子の製造、卸販売を営んでいたこと、一方【H】なる者が、昭和二四年一〇月頃から同区<以下略>(鯉川筋)で「ニユーユウハイム」という名称で洋菓子販売機を始めたが、間もなくその営業を【D】に譲渡し、右【D】は、「ユウハイム洋菓子店」と改称して右営業を行つていたこと、
前記【C】は右【D】の営業に共同事業者として加わることになり、両名共同で洋菓子の製造、販売業を継続していたが、前叙のように昭和二六年四月二三日に至り、商号を「株式会社ユーハイム・コンフエクト」とする被控訴会社を設立するに至つたこと(現在資本金四、七五〇万円、昭和四五年頃における売上高年間約一〇億円、売場約三〇個所)(3) 控訴会社は、もと前記「ユーハイムズ・コンフエクシヨナリ」の従業員であつた【I】及び【J】(後に控訴会社の取締役)が昭和二三年一二月頃開店した「ユーハイム商店「(個人経営)をその前身とするものであるが、間もなくして【E】(本件和解当時の控訴会社代表取締役)が右商店に経営者として参加し、前記「ユーハイムズ・コンフエクシヨナリ」が放置していた商標「花文字体ユーハイム」を採用して右商店の商標として使用し、洋菓子の製造、販売をしていたところ、その後前叙のように昭和二五年一月三一日商号を「株式会社ユーハイム商店」とする控訴会社を設立するに至つたこと(現在資本金二億四、〇〇〇万円、従業員約一、〇〇〇名、売場約二五〇個所、昭和四六年度における売上高約四二億円)、
(4) 被控訴会社は、設立と同時に昭和二六年四月二三日、兵庫県より食品衛生法による菓子製造業の許可を受けて以来、商標として「ユーハイムコンフエクト」を使用し、その製造にかかる洋菓子の販売をして来たのであるが、右商標を表示するに当つては、看板、広告板、紙容器、マツチ、包装紙などに、片仮名で縦あるいは横一行に、同じ大きさの字で「ユーハイムコンフエクト」(ユーハイムとコンフエクトの間に「・」のあるものとないものとがある)と書いたり、「コンフエクト」を「ユーハイム」よりやや小さい字で書いたり、片仮名で横に「ユーハイム」と記載し、その下段にこれと同じ大きさ、またはやや小さな字で「コンフエクト」と添えて二段書きにしたり、時には「ユーハイム」とだけ記載したり、あるいはドイツ文字で「<11838-005>」及び片仮名の花文字で「ユーハイム」と併記したり、「<11838-006>」の下段にやや小さく「<11838-007>」と書いたり、また片仮名花文字の「ユーハイム」の下段にやや少さく「コンフエクト」と記載したり、「<11838-008>」と記載したりなど、種々の表示方法をとつていたこと、
(5) ところが、控訴会社は、被控訴会社設立後である昭和二六年六月一四日、
前記のような商標「花文字体ユーハイム」の登録を得、同年七月一〇日兵庫県より食品衛生法による菓子製造業の許可を受けて、同年九月より洋菓子製造、販売を始めるや、被控訴会社が商号や商標として使用する前記のような表示は、控訴会社の右登録商標に牴触するとして、同年一〇月初頃、神戸地方裁判所に対し被控訴会社を債務者として商標使用禁止仮処分を申請し(同庁昭和二六年(ヨ)第三九八号事件)、同月一七日、「被申請人(被控訴会社、以下同じ)は、その製造又は販売にかかる洋菓子類及びその容器、包装紙等に国字の如何を問わず容易に「ユーハイム」と発音される文字を商標として使用してはならない。被申請人は、右の文字を商標として広告、看板等に使用してはならない。被申請人は、前各項にかかわらず前記「ユーハイム」と明らかに識別せられる方法で「ユーハイム・コンフエクト」なる文字を使用することを妨げない」との趣旨の仮処分決定(疎甲第二八号証の一)を受け、続いて同年一一月には、同裁判所に対し再び商標使用禁止の仮処分申請をなし(同庁同年(ヨ)第四六六号)、同年一二月二六日「被申請人は、その営業について使用する看板類並びに製造販売する洋菓子の包装紙、紙容器、挿入紙にはそれぞれ一個所に限り同一の黒色明朝体の書体を用いて「株式会社ユーハイムコンフエクト」と商号を表示するほかに、文字、色調、図柄を問わず「ユーハイム」なる称呼を含む表示を使用してはならない。」との趣旨の仮処分決定(疎甲第三〇号証)を得たこと、
(6) そして、控訴会社は、前記第一の(三)に記載したように、被控訴会社を被告として、神戸地方裁判所に対し、同庁昭和二六年(ワ)第九五二号、第九五三号の二個の本訴を提起したが、右第九五二号事件においては、控訴会社は、「花文字体ユーハイム」の登録商標を有しているところ、被控訴会社は、控訴会社の右商標を熟知しているにかかわらず、その販売にかかる洋菓子類の包装紙、紙箱等にドイツ文字で<11838-009>、日本文字で「ユーハイム」と印刷使用し、かつ営業所の広告、看板にも右商標をほしいままに表示使用しているのは商標権の侵害である、と主張し、また第九五三号事件においては、控訴会社は、「株式会社ユーハイム商店」なる商号を有するところ、被控訴会社は右商号、営業目的を知悉しながら、敢えて「洋菓子ユーハイム」という看板などを掲げて洋菓子の製造販売をなし、これについて控訴会社が右名称を使用しないよう警告するや、被控訴会社は右看板などに「コンフエクト」と小さく挿入するなどして使用を継続しているが、
右のような表示方法で「ユーハイムコンフエクト」を商号として使用することは、
不正競争の目的類似の商号を使用するものであつて違法である、と主張していたこと、これに対し、被控訴会社は、「ユーハイム・コンフエクト」を商標として使用するに当り、「ユーハイム」部分を大書し、これに「コンフエクト」部分を小さく添えて一行書き、あるいは二段書きにする表示方法をとつても、控訴会社の有する商標、商号の「ユーハイム」には牴触しない。仮に牴触するとしても、被控訴会社は、控訴会社が前記商標を登録する以前より、右のような表示方法で「ユーハイム・コンフエクト」を自己の商標として善意使用しており、いわゆる先使用権があると主張して争つていたものであること、
(7) ところで前記本訴(両事件併合審理)は、一たん結審となつたが、その後弁論再開となり、受訴裁判所の熱心な勧告により数回にわたり期日が重ねられた後、昭和三〇年四月二三日、別紙記載のような和解条項で、控訴会社(当時原告)と被控訴会社(当時被告)との間に裁判上の和解(本件和解)が成立したこと、
(8) 本件和解は、前記のように受訴裁判所の積極的な介入、勧告に負うところが大きいのであるが、控訴会社側は、当時の代表取締役【E】、代理人竹内岩男及び同川見公直各弁護士(もつとも川見代理人は和解成立時には欠席)、被控訴会社側は、代表取締役【C】及び代理人谷賢次弁護士が出席して話合いがなされたものであること、和解勧告の過程においては、紛争の円満解決のため大筋において三つの考え方、すなわち(第一案)控訴会社と被控訴会社とが企業合同すること、(第二案)双方のうちいずれかが商号及び商標を変更し、相手方が変更した側に対し補償金を支払うこと、(第三案)双方の商号、商標は、現状どおりに使用することとし、できるだけ双方の混同を抑制する方策を考慮すること、以上が和解案として検討された結果、当事者双方は、右第3条の方向で和解することになり、別紙記載のような和解条項が成立するに至つたこと、
(9) そして、本件和解においては、控訴会社は、前記ドイツ人ユーハイムの名を図案化した花文字「<11838-010>」という登録商標につき、それが前記「ユーハイムズ・コンフエクシヨナリ」以来使用されていたものであるからとして、特に強い愛着を示し、その表示態様を固執し、これと同一のものは勿論類似のものの使用を絶対に禁止するという強硬な意向を示したため、被控訴会社もこれを諒とし、特に別紙をもつて控訴会社の登録商標の右字体を明記するとともに、被控訴会社がその商標である「ユーハイム・コンフエクト」をローマ字で記載する場合について花文字などを使用することのないようその書体を別紙に限定したものであること、右のほか、控訴会社側は、被控訴会社に対し、その商号及び商標である「ユーハイムコンフェクト」を一体として表示することを要望したが、これを片仮名文字で表示する場合については、特にその具体的な表示方法(縦書、横書の別、
文字の大小、二行に分けることの可否など)まで、問題として論議しなかつたこと、なお和解期日が数回重ねられたのは、主として被控訴会社が控訴会社に支払う和解金の額につき双方の合意がまとまるのに手間取つたためであること、以上の事実が認められる。原審証人川見公直の証言並びに原審及び当審における控訴会社代表者【F】尋問の結果中、右認定に副わない供述部分は、前掲証拠と対比してにわかに信用し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
(二) そこで、以上認定のような本件当事者間における紛争の実情、訴訟提起より本件和解に至るまでの経緯並びに和解条項等を綜合して、本件和解の趣旨を考察すると、本件和解は、受訴裁判所の勧告により、長期間に亘る紛争を円満かつ抜本的に解決する目的でなされたものであり、その基本線は、前記(8)の第3条に従つたものであるところ、本件和解の骨子は、控訴会社が被控訴会社に対し、被控訴会社が(イ)「株式会社ユーハイムコンフエクト」という商号を使用することと、
(ロ)片仮名字の「ユーハイム・コンフエクト」並びにローマ字による商標(ローマ字については別紙にその書体を限定)を使用することを認める反面(以上和解条項第一項)、被控訴会社が右(ロ)記載以外商標、特に控訴会社の登録商標「花文字体ユーハイム」と同一又は類似の商標を使用することを禁ずるとともに(同第三項)、被控訴会社が控訴会社に対し和解金として金一二〇万円を支払うこと(同第四項)であつたこと、別紙和解条項に徴し明らかである。ところで、前記(一)の(9)に認定した事実に、本件和解条項において、被控訴会社がその商標「ユーハイム・コンフエクト」をローマ字で表示する場合についてのみ、特にその表示態様を別紙で限定し、また被控訴会社に対し使用を禁ずる控訴会社の登録商標「花文字体ユーハイム」についてもこれを別紙に明示しているにかかわらず、右以外には商号、商標の表示態様に言及した条項が存しないことから見ると、本件和解の趣旨は、被控訴会社が控訴会社の商標、特に「花文字体ユーハイム」と同一又は類似のものを使用することを厳禁するが、「ユーハイムコンフエクト」の名称については、これをその商号、商標として使用することを許容した点に主眼があり、被控訴会社が「ユーハイムコンフエクト」を商号及び商標として使用する場合、ローマ字で表示するには特に制限が付されたが、片仮名文字で表示する場合には、その書体、「ユーハイム」部分と「コンフエクト」部分の文字の大小、その組合せ等の表示態様について格別制限を付せられることなく、その使用を許容されたものと解するのが相当である。(本件和解以前において、既に被控訴会社は、その商標「ユーハイム・コンフエクト」を表示するに当つて、「コンフエクト」を「ユーハイム」より小さく書いたり、二段に分けて書いたりなどしていたことは、前記(一)の(4)に認定したとおりであるから、もし本件和解において、控訴会社が被控訴会社に対し、そのような表示態様を厳禁する趣旨であるならば、当然和解条項に明示されたものと考えられる。なお和解条項第一項に、「ユーハイム・コンフエクト」と縦一行に同じ大きさの片仮名文字で記載されているからといつて、「ユーハイム・コンフエクト」片仮名文字で表示する場合の表示態様を右のように限定したものと見ることはできない。) ところで、本件和解の法律的側面を考察するに、控訴会社は、当時前叙のような第三九九五八八号及び第四三七六七四号の登録した商標に基づきこれを専用する権利を有していたのであるから、被控訴会社が当時使用していた「ユーハイムコンフエクト」の表示が控訴会社の右商標権の類似範囲に属し右商標権を侵害する疑いがあるとすれば、控訴会社は被控訴会社の右使用を禁止し、またはこれを排除する権利を有しえたわけである。ところが、本件和解により、控訴会社は、和解条項によつて限定された範囲のものについては右商標権に基づく禁止権を留保するが、これを除くその余の類似範囲のものに属し、右商標に牴触するものについては禁止権(差止請求権)を放棄し、反面被控訴会社がその商標を使用し、あるいは本来は当然には使用することができない控訴会社の商標と類似範囲にあるものを使用することを許容したものと解するのが相当である。(被控訴会社に対する「ユーハイムコンフエクト」の名称ないし表示の使用の許容が、商標法第31条第1項にいう通常使用権の許諾に当るものでないことはいうまでもない。)(三) しかしながら、他人の商号や登録商標類似する商号及び商標を使用する者が商号権者や商標権者からその使用を許され、その表示態様について格別制限を付されなかつた場合においても、一般に商号及び商標が営業主体や商品について自他識別の機能を保有しなければならないという表示としての性格、また右使用を許される場合には、その当時における当該商号や商標の使用態様を基礎としている場合が多い点に鑑みると、使用を許容された者が当該商号、商標を使用するに当り、
どのような態様の表示を採ることも自由であるとすることはできず、自ら一定の制約が存するものと解すべきである。すなわち、使用を許された当時における当該商号、商標の使用態様からかけ離れ、自他識別の機能を著しく弱めるような表示態様を採用することは許されないものといわねばならない。(本件の場合についていえば、「コンフエクト」部分を「ユーハイム」部分に比して極端に小さく表示し、あるいは「コンフエクト」部分を「ユーハイム」部分より著しく離して表示するなどは許されないだろう。) ところで、被控訴会社が本件和解後において自己の商号、商標として「ユーハイムコンフエクト」を使用するに当り、本件表示と同様の表示態様をとつていることは、前叙第一の(四)のとおりである。そして、原審証人【K】の証言により被控訴会社の昭和四二年一二月当時におけるパンフレツト、菓子外箱、ラベル、ナフキン、シール、包装紙、マツチ、プライスカード、はがき、案内状などの写真であると認められる疎甲第七号証の一ないし二一、同【L】の証言により、被控訴会社の店舗の写真(昭和四二年一〇月か一一月頃撮影)と認められる同第八号証の一ないし八、同【M】の証言により被控訴会社の店舗の写真(昭和四二年一一月か一二月頃撮影)と認められる同号証の九ないし四一、右証人【K】の証言により被控訴会社の梅田阪急百貨店地下売店の写真(昭和三八年二月撮影)と認められる同第一八号証の一、二、原審証人【N】の証言により被控訴会社の店舗及び菓子類の写真(昭和四三年五、六月頃撮影)と認められる同第二〇号証の一ないし四、被控訴会社の包装紙であることに争いのない同第六七、第六八号証、被控訴会社のラベルであることに争いのない同第六九号証、当審における控訴会社代表者【F】尋問の結果により被控訴会社岡本店の写真(昭和四七年七月撮影)と認められる同第七〇号証に、当審における右控訴会社代表者尋問の結果を綜合すると、被控訴会社は、本件和解成立後昭和四二年頃までは、その商号、商標として片仮名文字による「ユーハイムコンフエクト」を使用するに際して、支店、営業所等の店舗における看板、
広告板には本件表示中、別紙第一及び第二記載のような表示(横又は縦に一行で「コンフエクト」を「ユーハイム」より小さく記載)によるものが多く、次に数はそれよりも少くなるが同第三及び第四記載のような表示(二段書きで「コンフエクト」を「ユーハイム」より小さく記載)を使用し、包装紙、ラベル、パンフレツト等には、専ら同第一及び第四記載のような表示によつていたが、同年頃より以降は、包装紙、ラベル、パンフレツト等には同第五及び第六記載のような表示(横又は半円形に一行で書き、いずれも「ユーハイム」部分と「コンフエクト」部分の間に「・」が存在する。)によるものが多くなり、また店舗の看板には、同第二記載のものに、更に「ユーハイム」部分と「コンフエクト」部分の間に「・」の存在する表示が少数ながらも増加して来たことが認められる。
そこで、右のような使用状況にある本件表示を前叙認定のような本件和解当時における被控訴会社の「ユーハイムコンフエクト」の表示態様と対比すると、本件和解後における片仮名文字による「ユーハイムコンフエクト」の表示方法として着目すべきは、一行の横書き、縦書き、二段書きを通じて、「コンフエクト」部分の文字を本件和解前に比し「ユーハイム」部分よりもさらに小さく記載するようになり、「ユーハイム」部分の二分の一から三分の一程度の大きさをもつて記載されるに至つたこと、及び「ユーハイム」部分と「コンフエクト」部分の間に「・」を挿入する表示方式のものが多くなつて来ているということである。
しかしながら、本件表示は、いずれも「ユーハイム」部分に比して「コンフエクト」部分が小さく記載され、いささか「ユーハイム」部分を強調しているきらいがあるとはいえ、一行の横書き(本件表示第一、第五)、縦書き(同第二)、半円書き(同第六)、横二行書き(同第三、第四のすべてを通じて、「コンフエクト」部分は「ユーハイム」部分に接着して表示されており、「コンフエクト」部分の文字の大きさも、一般需要者が通常一見して判読できない程度のものではなく、「ユーハイム」に「コンフエクト」を結合して記載されているものであること、換言すれば、「ユーハイム」と「コンフエクト」とが一体として表示されていることを容易に看取できる程度のものであると認められる。のみならず、本件表示は、「ユーハイムコンフエクト」として「ユーハイム」に「コンフエクト」を結合表示することの従前の意義(本件和解成立当時、「ユーハイムコンフエクト」中、専ら「コンフエクト」部分をして控訴会社の商標である「ユーハイム」との識別機能をになわせていたことは、前叙認定の本件和解成立の経過に徴し推認できるところである。)を著しく変化させ、あるいは甚だしく弱めさせるものとは未だ認め難い。
そして、以上の点を除いては、本件表示は、「コンフエクト」部分の書体を特異なものにしたり、色彩を施したり、または図案化したりしているわけでもないのであつて、本件和解当時における表示態様と大差はないものというべきである。
すなわち、本件表示は、本件和解当時における「ユーハイムコンフエクト」の使用態様からかけ離れ、自他の識別を著しく弱めさせるような表示態様とは未だ認め難いから、前記制約に触れるものではなく、本件和解によつて許容された使用範囲に属するものといわねばならない。
(四) なお、控訴会社は、本件「ユーハイム・コンフエクト」という商標は、いわゆる結合商標であつて、一連不可分に結合されてはじめて、その構成要素となつている「ユーハイム」との類似性を失うものである。したがつて、本件和解においても、控訴会社は、被控訴会社が「ユーハイム・コンフエクト」を商号、商標として使用するについては、これを一連不可分に結合して表示すべきことを当然の前提としてその使用を許容したものである。ところが、被控訴会社が現に使用する本件表示のような表示方法は、「ユーハイム」部分と「コンフエクト」部分とが一連不可分に結合して表示されているとはいえないから、構成要素の「ユーハイム」と類似することは明らかで、和解における使用許容の範囲を逸脱している旨主張する。
なるほど、複数の名詞を結合して一個の商標を作出する場合、すなわち結合商標の場合には、構成要素の文字の大小、着色の有無、優劣、アクセントの位置のとり方、その他結合方法の如何によつては、構成要素の名詞を商標とするものと、類似性を有し、あるいは全く類似性を有しなくなるものであり、これを一連不可分に結合すれば、構成要素である商標との類似性を失わせ、自他識別の機能を完全に保持するに至るであろうことは否定し難いところである。そして、本件においても、
「ユーハイムコンフエクト」を片仮名で表示するに当り、これを同じ大きさの文字で横又は縦に一行に表示すれば、構成要素となつている「ユーハイム」との類似性を失い、混同誤認を避けうる程度も増大するであろうと考えられるのに対し、「ユーハイム」部分と「コンフエクト」部分に文字の大小を設け、あるいはこれを二行に分けて書き、その上「・」を挿入するとすれば、「ユーハイム」との識別機能が低下し、混同誤認のおそれが増大するであろうことは、推論するに難くないところである(これらのことは、当審における控訴会社代表者【F】尋問の結果により真正に成立したと認められる疎甲第四七号証によつても、窺い知ることができる)。
しかしながら、本件和解においては、被控訴会社に対し片仮名文字による「ユーハイムコンフエクト」の表示方法について特段の制限を設けたものと認められないのみならず、本件表示のような表示方法も従前の使用態様からかけ離れて、従前の識別機能を著しく弱めさせる程のものでもなく、また必ずしも結合商標の一体性を害する程度のものとは認め難いことさきの説示により明らかであり、更にもともと或る程度の類似性を有する商号、商標の使用を許容すれば、その使用を許容した者の商号、商標が周知性を有すれば有する程一般需要者混同誤認を招きやすいことも免れ難いところである。(このことは、控訴会社代表者【F】自ら当審において供述するところである。) そうだとすれば、控訴会社は、本件和解において被控訴会社に対し、片仮名文字による「ユーハイム・コンフエクト」をその表示態様につき格別制限することなくその使用を許した以上、やむをえない程度の混同誤認の結果は、これを受忍せざるを得ないものというべきである。
(五) ところで、原審における控訴会社代表者【F】尋問の結果により真正に成立したと認められる疎甲第二一号証、同第二二号証の一、同第二三号証の一、二、
同第二四号証、同第二五号証の一、二、当審における右控訴会社代表者尋問の結果により真正に成立したと認められる疎甲第四五号証、同第四六号証の一、二、同第四九号証の一ないし四の各一、二、同号証の五、同号証の六ないし八の各一、二、
及び同号証の九、一〇(以上の書証のうち官署作成部分の存するものは、いずれもその成立は当事者間に争いがない。)に、原審及び当審における右控訴会社代表者尋問の結果を綜合すると、控訴会社が主張するように、被控訴会社がその商号、商標として「ユーハイムコンフエクト」を使用するに際し、本件表示のような表示方法をとつたため、日本割烹学校発行に係る料理雑誌「マイクツク」昭和四三年一二月号に被控訴会社の製品(デコレーシヨンケーキ)を控訴会社の製品と誤認した記事が掲載されたり、その他一般需要者に対し控訴会社の商号、商標である「ユーハイム」と混同誤認を生ぜしめた事実が少からずあることを認めることができるけれども、右混同誤認の程度も被控訴会社に対し「ユーハイムコンフエクト」の使用を許したことに伴う受忍の範囲を超えるものとは未だ認め難い。
以上認定判断のとおりとすれば、被控訴会社の使用している本件表示は、控訴会社が指定商品第四三類(菓子及び麺麭)について現在有する登録商標「ユーハイム」に類似しているとしても、控訴会社において本件和解により禁止権を放棄している以上、控訴会社の商標権を侵害するものとはいえないから、控訴会社は被控訴会社に対し商標法第36条に基づく差止請求権を有しないものといわなければならない。
二 商法第20条第1項の主張について 控訴会社は、被控訴会社は、本件表示を自己の商標として使用すると同時に自己の営業を表示するものとして使用しているが、右は控訴会社の商号権を侵害するものである旨主張する。
控訴会社は、現在「株式会社ユーハイム」という登記した商号を有し、洋菓子その他食料品の製造及び販売をその目的としていること、被控訴会社も控訴会社と同様に洋菓子の製造販売を営むものであつて競業関係にあること、被控訴会社の商号は、「株式会社ユーハイム・コンフエクト」であるが、これを使用するに際し、看板、広告、包装紙、ラベル、パンフレツト等に本件表示のような表示をしていること、その結果一般需要者をして控訴会社の商号である「ユーハイム」と若干の混同誤認を生じさせていることは、前叙のとおりである。
しかしながら、被控訴会社は、本件和解により「株式会社ユーハイム・コンフエクト」という商号の使用を許容され、右「ユーハイムコンフエクト」を片仮名文字で表示するについて何ら表示方法の制約を受けていなかつたこと、また商号として使用した場合の本件表示も、右使用許容の範囲内に属し、本件表示による需要者側の若干の混同誤認は、本件和解の結果としてやむを得ないものであること、さきに説示したとおりであるから、被控訴会社の商号が控訴会社の商号と類似しているとしても、被控訴会社が、商号として本件表示のような表示態様をとつたことが、ただちに不正競争の目的をもつて控訴会社の商号と類似の商号を使用したものとは言い難いのみならず、被控訴会社に不正競争の目的があつたことを肯認するに十分な疎明がない。したがつて、控訴会社は、被控訴会社に対し商法第20条第1項による差止請求を有しないものといわなければならない。
三、不正競争防止法第1条第1項第1号、第二号の主張について控訴会社は、その目的とする洋菓子製造販売の営業について、またその製造販売にかかる商品洋菓子について、広く認識された「ユーハイム」という表示を有するところ、被控訴会社は右営業及び商品表示と類似する本件表示を使用して洋菓子を製造販売し、一般需要者に対し控訴会社の営業及び商品と混同を生じさせ、これにより控訴会社は営業上の利益を害せられるおそれがあると主張するのに対し、被控訴会社は、被控訴会社が本件表示を使用しているのは、本件和解によつて使用を許容されたことに基づくものであつて、違法性が阻却される旨抗争するので、判断する。
およそ、不正競争防止法は、商業道徳に反するような不公正な手段によつて行われる競争行為を排除し、公正な競争秩序を維持し、もつて特定営業者の私益及び需要者一般の公益を保護しようとするものであるこというまでもないが、同法の個々の規定によつては保護の重点に軽重があるところ、同法中専ら特定営業者の私益保護の色彩の強い規定の場合においては、被害者の承諾は、不正競争行為の違法性を阻却するものと解するのが相当である。ところで、同法第1条第1号、第二号の各規定は、専ら周知表示の使用者である特定営業者を保護しようとするものと解されるから、或特定営業者の営業上の利益侵害するおそれのある営業及び商品についての類似表示であつても、右営業者がその使用を許容している場合には、右類似表示を使用して行う競争行為は、違法性を阻却するものというべきである。
そこで本件の場合につき考えるに、控訴会社は、被控訴会社に対し、前叙のように、本件和解によつて「ユーハイムコンフエクト」という商号及び商標の使用を許容し、その表示方法について格別制約を設けなかつたこと、そして本件表示は、右使用許容の範囲内にあり、被控訴会社が、本件表示を使用することによつて生ずる或程度の混同は、控訴会社において受忍せざるを得ないものであること前叙認定のとおりであるから、仮に控訴会社の「ユーハイム」という商号及び商標にいわゆる周知性があり、被控訴会社の「ユーハイムコンフエクト」という本件表示が控訴会社の右商号、商標と類似性があり被控訴会社が本件表示を使用することによつて、
控訴会社が主張するように、控訴会社の商品並びに営業上の施設及び営業活動と混同を生ぜしめ、控訴会社の営業上の利益を害せられるおそれがあるとしても、被控訴会社の本件表示を使用する行為は、違法性を阻却され、いわゆる不正競争行為を構成しないものといわなければならない。
したがつて、控訴会社の不正競争防止法第1条第1項第1号、第二号に基づく主張も理由がなく、控訴会社は、被控訴会社に対し、同条項による差止請求権を有しないものというべきである。
以上認定判断のとおりとすれば、控訴会社主張の被保全権利はいずれもこれ
を認めることができないから、本件仮処分申請(当審における新たな申請を含む)は、失当として棄却を免れない。
よつて、右と同旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第384条によりこれを棄却し、当審における新たな申請部分はこれを棄却することとし、控訴費用の負担について同法第95条第89条を適用して、主文のとおり判決する。
追加
<11838-011>別紙和解条項一、原告は被告が株式会社ユーハイムコンフエクトなる商号及び片仮名文字の「ユーハイム・コンフエクト」並びにローマ字による別紙記載書体の商標の使用を認めること。
二、原告は被告の「ユーハイム・コンフエクト」なる片仮名による商標の登録につき特許庁に対して申立てている異議は後記五十万円の支払いと同時に申立の取下書を被告に交付すること。
三、被告は第一項記載以外の商標、特に別紙表示の原告の商標と同一又は類似の商標を使用しないこと。
四、被告は原告に対し和解金として金百弐拾万円也の支払義務あることを認め昭和三十年四月末日に内金五拾万円也、同年五、六、七月の各末日に金弐拾万円也宛、
同年九月末日に残額十万円也を本件原告訴訟代理人弁護士竹内岩男事務所に持参又は送金して支払うこと。
五、被告において右前項の支払を一回でも一週間以上遅滞した時は残額を一時に請求されても異議ないこと。
六、原告は被告に対し右以外に従来の本件係争商号及び商標の使用に基く損害賠償の請求権なきことを確認すること。
七、原告は其の余の請求を抛棄すること。
八、訴訟費用は各自弁とすること。
原告の商標<11838-012>和解条項第1項記載の商標<11838-013>
裁判官 浮田茂男
裁判官 中島誠二
裁判官 諸富吉嗣
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