審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成11ワ22096不正競争防止法に基づく差止等請求事件 | 判例 | 不正競争防止法 |
平成12ワ20801不正競争行為差止等請求事件 | 判例 | 不正競争防止法 |
平成16ワ9869損害賠償請求事件 | 判例 | 不正競争防止法 |
平成12ワ26971損害賠償請求事件 | 判例 | 不正競争防止法 |
関連ワード | 需要者 / 他人の商品 / 外観 / 印象 / 商品の形態(商品形態) / 模倣 / 差止請求(差止) / デザイン / 代理人 / 商品形態模倣行為(2条1項3号) / 損害額 / 推定 / 販売数量 / |
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事件 |
平成
17年
(ワ)
7778号
不正競争防止法に基づく販売差止等請求事件
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原告株式会社キャロットカンパニー 訴訟代理人弁護士秋田真志 有馬純也 訴訟復代理人弁護士佐藤正子 被告アークネスジャパン株式会社 訴訟代理人弁護士林範夫 |
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裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 2006/11/16 |
権利種別 | 不正競争 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1原告の請求をいずれも棄却する。 2訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求の趣旨1被告は,別紙被告商品目録(1)ないし(4)記載の各商品を譲渡し,貸し渡し,譲渡若しくは貸渡しのために展示し,輸出し,若しくは輸入してはならない。 2被告は,前項記載の各商品を廃棄せよ。 3被告は,原告に対し,821万4278円及びこれに対する平成18年9月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,原告が,被告の販売する別紙被告商品目録(1)ないし(4)記載のリュック(以下,それぞれ「被告商品T」などといい,併せて「被告商品」と総称する )は原告の販売している別紙原告商品目録記載のリュック(以下「原告 。 商品」という )の形態を模倣したものであって,これを販売する被告の行為 。 は不正競争防止法〔不正競争防止法等の一部を改正する法律(平成17年法律第75号)の施行日である平成17年11月1日以降の行為については同法による改正後の不正競争防止法,同法施行前の行為については同法による改正前の不正競争防止法。以下同じ 〕2条1項3号に定める不正競争行為に該当す 。 ると主張して,被告に対し,@同法3条1項に基づき被告商品の譲渡等の差止め,A同法3条2項に基づき被告商品の廃棄,B同法4条に基づき被告による被告商品の販売によって平成16年11月から平成18年8月7日までの間に原告が被った損害の賠償及びこれに対する同年9月9日(同月8日付け請求の趣旨拡張の申立書送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求した事案である。 1前提事実(当事者間に争いがない事実及び末尾に掲記する証拠並びに弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)(1)当事者原告は,バッグ,袋物(特に,旅行・レジャー用バッグ)の製造及び輸出入販売等を業とする株式会社である。 被告は,鞄・袋物等の製造及び販売等を業とする株式会社である。 (2)原告商品及び被告商品の販売原告は,平成15年10月22日,原告商品を展示会において展示し,もって原告商品の販売のための広告活動を行い,同年12月18日ころから原告商品の販売を開始した(甲12,24の1の1ないし3,24の2の1・2,26 。原告商品の販売価格は1個3900円である(弁論の全趣旨 。 ) )被告は,平成16年9月ころから被告商品Tの製造を行い,同年11月中旬ころからその販売を開始した。被告商品の販売価格は1個1900円を予定していたが,販売店によっては,それを超える価格で販売している場合もあった(甲7,11,弁論の全趣旨 。)被告は,被告商品をデザインするに当たって,株式会社ハニーズ(以下,「ハニーズ」という )製の商品を参考にしたところ,ハニーズは,原告商 。 品を模倣して上記商品を製造したことを認めている(甲7ないし9 。)(3)原告商品の形態原告商品は背負いリュックであり,その形態は,次のとおりである。 ア形状前面は別紙原告商品図面1及び原告商品写真1,背面は別紙原告商品図面2及び原告商品写真2のとおりであり(甲3の1及び3。原告商品の形状が別紙原告商品図面1及び2のとおりであることは争いがない,そ。)の基本的形態は,荷物を入れる筒状のボディ(同図面1のうちAで示した部分。被告商品においても同じ,ボディの上にかぶせるフラップ(同 。)図面1のうちBで示した部分。被告商品においても同じ,肩にボディ。)を掛けるために用いる左右2本のストラップ,ボディ背面上部に接着されているボディの手提げを可能とするハンドル,上記2本のストラップを連結する連結ベルト及びチェストベルトから成る。 イ寸法全長53pボディ前面横幅23p奥行き20pウ付属部品以外の本体部の素材表面コットンリネン裏面TCコットン(注,化学繊維入りのコットン)(4)被告商品の形態被告商品も背負いリュックであり,その形態は,次のとおりである。 ア形状前面は別紙被告商品図面1及び被告商品写真1,背面は別紙被告商品図面2及び被告商品写真2のとおりであり(甲3の1及び3。被告商品の形状が別紙被告商品図面1及び2のとおりであることは争いがない,そ。)の基本的形態は,荷物を入れる筒状のボディと,ボディの上にかぶせるフラップ及び肩にボディを掛けるために用いる2本のストラップ,ボディ背面上部に接着されているボディの手提げを可能とするハンドルから成る。 イ寸法全長52pボディ前面横幅21p奥行き17.5pウ付属部品以外の本体部の素材表面コットンキャンバス(被告商品T。被告商品写真1及び2のとおり,コットン系ストライプ柄(被告商品U。被告商品写真3の 。)とおり。甲4の1 ,コットン系人物柄(被告商品V。被告商品写 )真4のとおり。甲13の1 ,コットン系どくろ模様を含んだチェ )ック柄(被告商品W。被告商品写真5のとおり。甲15の1 。)裏面一部ナイロン(5)原告商品と被告商品との形態の共通点と相違点被告商品の形態は,少なくとも@ボディの形状,Aフラップの形状,Bフラップの付属部品であるベロの存在,Cサイドベルトの存在(ただし,サイドベルトの絞る方向を除く,Dボディ前面のポケットの存在,Eボディ 。)底部分の形状,Fサイドファスナーの存在,Gストラップの形状,Hハンドルの形状において原告商品と共通する。なお,このうちG及びHの形状は,いずれも背負いリュックにおける普遍的特徴であり原告商品の特徴的部分ではない。 他方,被告商品の形態は,少なくとも@連結ベルトの有無,Aチェストベルトの有無,Bウィングの形状及び大小,Cサイドベルトの絞る方向,D柄物の有無,E内ポケットの有無において原告商品と相違する。 (6)被告による被告商品の販売数量及び売上高について被告による平成16年11月から平成18年8月7日までの間の被告商品の販売数量は5万7848個であり,その売上高は4640万8352円であった。 2争点(1)被告商品は原告商品の形態を模倣したものか。 (2)損害額第3争点に関する当事者の主張1争点(1)(被告商品は原告商品の形態を模倣したものか)について【原告の主張】(1)原告商品と被告商品との形態の共通点について原告は,従来見られなかったタウンユースの大型背負いリュックというアイディアに基づき,原告商品を開発した。 前提事実(5)の原告商品と被告商品の形態の共通点は,G,Hを除き,原告商品及び被告商品の形態の本質的な特徴となっている。 アボディの形状, 。 原告商品のボディは縦長直方体であり タウンユースの割に大型である被告商品のボディは,寸法も全長,横幅,奥行きとも原告商品をわずか1pから2.5p小さくしただけであって,その形態は同一である。 イフラップの形状原告商品は,フラップの両サイドにゴムを入れてフラップを袋状にし,ボディの蓋としている。このようにフラップにゴムを入れたのは,デザインとして立体性を持たせ,かつボディに沿う形にして蓋としての役割を持たせるためであり,原告商品の個別的特徴の一つとなっている。 被告商品も同様にフラップを袋状にしている。 被告は,背負いリュックにフラップがあることは普遍的特徴であると主張するが否認する。特にタウンユースのデイパックでは,フラップが付けられることはなかった。 ウフラップの付属部品であるベロの存在原告商品及び被告商品には,いずれもフラップから2本のベロが下りており,ベロには2つのいぶしたような金色のリングホックが2pの幅を置。, ,,, いて配置されている ベロの長さ 幅 リングホックの形状 台座の形状取付方も同一である。そのベロ,台座とも素材は白化合皮である。 , , このベロは 原告商品のボディ前面部において最も目立つ位置にある上フラップの開け閉めという機能を担うものであるため,原告商品の重要な特徴となっている。原告商品の販売前に,このようなベロが使われた例はなく,被告商品に同じベロが設けられていることは,被告商品が原告商品を模倣したものであることを象徴している。 エサイドベルトの存在(ただし,サイドベルトを絞る方向を除く )。 原告商品は,サイドベルトにボディと同じ素材を使っている。白化合皮等のベルト状のものを使用すれば,コストダウンも可能であったが,原告はタウンユースとしてファッション性を追求するため,あえてボディと同じ素材でベルトを使用したのであり,この点は原告商品の特徴的形態の一つである。 被告商品も,サイドベルトにボディと同じ素材を使用している。 オボディ前面のポケットの存在原告商品のボディ前面についているポケットは,縦24p,横17pと縦長である。被告商品のポケットは,縦23p,横16.5pとやはり縦。 , , 長である 1p程度の寸法の違いは 実質的同一性の判断に影響を与えず共通の形態である。 原告は,縦長直方体の背負いリュックにおいて,十分な大きさのポケットを確保しつつ,全体とのバランスを調和させる工夫として,縦長のポケットをデザインした。ポケットの形状及び大きさは,それが前面の目立つ部分であることともあいまって,原告商品の個別的特徴となっている。被告商品は,この特徴をそのまま模倣したのである。 カボディ底部分の形状原告商品及び被告商品の底部分は,いずれもかまぼこ型になっており,共通の形態である。このボディ底部分の形態は,低価格のタウンユースの背負いリュックとしては荷物が多く入るようになっている点で,特徴的形態といえる。 キサイドファスナーの存在原告商品も被告商品も,前面部から見て左側面の全く同じ位置にサイドファスナーがあり,上から下に開けるような形となっている。ファスナー部分の長さもほぼ同一であり,サイドファスナーの形状も,原告商品と被告商品は共通する。 サイドファスナー自体は,他に使用された例があるとしても,上記のような形状,取付け位置その他のデザインは,商品ごとに区々であって,原告商品の特徴的形態である。 クハンドル,ベロ,ストラップの素材原告商品及び被告商品のハンドルは,それぞれベロと同じ白化合皮の素材で製作されている点で共通点を有する。 , , そして ハンドルがベロやストラップの素材と同じであることによってデザインに統一感が出ており,その素材選択は原告商品の個別的特徴であるといえる。 さらに,原告商品及び被告商品のストラップは,いずれも繊維素材のベルトに,それぞれベロと同じ白化合皮を打ち付けて製作されている点で共通する。 原告商品のストラップ等に用いられるテープは綿テープ,被告商品のテープはナイロンテープであるが,いずれも厚みのあるざらざらとした感触の素材であり,素人目には見分けがつかない。したがって,改変の程度は低く,実質的に同一である。 また,ストラップに白化合皮を打ち付けることは珍しい上,ストラップにベロと同じ素材を用いることによって,デザインに統一感が生まれる。 ストラップは消費者が必ず手にする目立つ部分であることとあいまって,その素材選択・デザインは,原告商品の個別的特徴である。 ケ付属部品以外の本体部の素材原告商品の素材がコットンリネン,被告商品の素材がコットンキャンバスであることは認める。 原告は,タウンユースを意識して,原告商品に自然素材であるコットンリネンの生地を使用した。アウトドア用のリュックであれば,防水性等の観点から使うことのできない素材を使用している点で,素材も原告商品の個別的特徴の一つである。 , , 被告も 被告商品にコットンキャンバスという自然素材を利用しており素材も原告商品とほぼ同一である。被告がコットンリネンからコットンキャンバスに素材を変更したのは,素人目にはコットンリネンと見分けがつかず,かつ安価であるという理由のみであり,素材において共通であるというのを妨げない。 コ個別的特徴の組合せ以上のような個別的特徴そのものの共通性だけでなく,それら多くの個別的特徴の組合せが同一であることによって,原告商品と被告商品は完全に酷似した形態となっている。 (2)原告商品と被告商品の形態の相違点原告商品と被告商品との間には,下記の相違点が存するが,いずれもコストダウンのために原告商品の形態のうち本質的ではない部品を省略したにすぎず,その着想は安易であって,原告商品と被告商品の形態が実質的に同一であることを否定するものではない。 ア連結ベルトの有無原告商品に連結ベルトが存在し,被告商品に連結ベルトが存在しないこと自体は認めるが,連結ベルトが原告商品の個別的特徴であることは否認する。 若者の間では,リュック一般であえて「下げて」背負うスタイルが流行しており,原告はこのような流行を考慮して,連結ベルトを設けたものである。しかし,連結ベルトがなくとも,下げて背負うことは可能であり,連結ベルトは下げて背負うために必然的なものではない。被告は,上代を下げる目的で連結ベルトを省略したにすぎず,そのような改変をすることの着想は容易である。 ,,, , また 販売店では 通常 背負いリュックは前面を見せて売られており消費者もその前面の形状を重視して購入するのが通常である。連結ベルトのある背面の形状はおよそ本質的なものとはいえないのである。 さらに,原告商品の販売開始前から連結ベルトが付属されている商品はあったし,被告撮影の写真(甲44)には,連結ベルトのあるリュックが数多く撮影されている。したがって,連結ベルトは原告商品の個別的特徴ではなく,普遍的特徴だったのである。 イチェストベルトの有無原告商品にチェストベルトが存在し,被告商品にチェストベルトが存在しないこと自体は認めるが,チェストベルトが原告商品の個別的特徴であることは否認する。 チェストベルトは,原告商品の発売前から使用されている。 また,チェストベルトは,背面部分に存在するのであって,連結ベルト同様,その有無は本質的な相違とはいえない。 さらに,チェストベルトは,両肩のストラップを安定させる機能を持つが,決して必然的に必要となる存在ではなく,購入者がチェストベルトの有無を重視するとは到底考えられない。原告商品のチェストベルトは,容易に取り外し可能であり,むしろ使用しないまま背負っている方が通常であるし,使用しなくても十分に安定して背負うことができるのである。 被告が被告商品にチェストベルトを設けなかったのは,必要不可欠でない部品を省略することによって,上代を下げようとしたためである。 ウウィングの形状及び大小被告は,連結ベルトの存在が原告商品のウィングを大きくした原因であるかのように主張するが,ウィングの大きさは背負った際の安定感を決定的に左右するものとまではいえない(もちろん,原告商品の方が安定感があるのは当然である。また,ウィングは,背面部分にある上,ストラ 。)ップの下部末端のボディへの接続部分にすぎず,上記連結ベルトと同様,購入者が注目しにくいし,背負いリュックにおいておよそ本質的な部分とはいえない。しかも,原告商品のウィングの素材が白化合皮であるのに対し,被告商品のウィングは上代を下げるためにボディと同一の素材を用いているにすぎない。かかる低廉化のための細部の修正が,実質的同一性の判断を左右するものでないことは当然である。 , , また 原告商品のウィングの形状もリュックでは一般的なものであって個別的な特徴ということはできない。 エサイドベルトの絞る方向原告商品と被告商品とでサイドベルトの絞る方向が正反対であることは認める。 しかし,サイドベルトの存在自体がデザインとして重要なのであって,サイドベルトの絞る方向が逆であることは,些末な違いにすぎない。それが両商品の形態の本質的な差異とならないことは当然である。 オ柄物の有無被告が複数の柄の商品を出していることは事実であるが,商品開発や購入にとって重要なのはその形態であって,柄はあくまで二次的である。また,柄を変えること自体は極めて容易に着想可能であって,何ら独自の工夫ともいえない。 カ内ポケット商品の形態とは,商品の形状,模様,色彩,光沢等外観上認識することができるものである以上,外観上見分けることのできない内ポケットの形状は,商品の形態に当たらない。 (3)結論以上のとおり,被告商品と原告商品との形態の相違点は,いずれも値段を下げるために原告商品の非本質的部分に些細な改変を加えたものであるにす, 。 ぎないから 原告商品と被告商品が実質的に同一であることは明らかである【被告の主張】(1)原告商品と被告商品の共通形態において認められる原告商品の個別的特徴について前提事実(5)記載の原告商品と被告商品の形態上の共通点〔@ボディの形状,Aフラップの形状,Bフラップの付属部品であるベロの存在,Cサイドベルトの存在(ただし,サイドベルトの絞る方向を除く ,Dボディ前面の)ポケットの存在,Eボディ底部分の形状,Fサイドファスナーの存在,Gストラップの形状,Hハンドルの形状の各点〕は,フラップの付属部品である, (, ベロを除いては 原告商品の個別的特徴であるということはできず 原告もストラップ及びハンドルの存在が背負いリュックの普遍的特徴であることは認めている,被告商品がこれらの形態を備えるからといって,原告商品 。)を模倣したものであるということはできない。 アボディの形状不正競争防止法が保護しようとしているのは,商品の「形態」それ自体であり,原告が主張するような商品開発のもとになった「アイディア」などではない 「タウンユースの大型背負いリュックというアイディア」に 。 基づいた形態であればすべて個別的特徴となるという原告の主張はそれ自体失当である。 また,原告は,原告商品のボディの形状が背負いリュックの普遍的特徴であることを否定するが,原告の主張は,背負いリュックとデイパックを同種のものとする点で議論の前提を誤っている。 「背負いリュック」とは,リュックすなわちリュックサックであり,登山やハイキングなどで,食料や装備を入れて運ぶ背負い袋をいう。これに対し 「デイパック」とは,日帰りハイキングなどに用いる小型のナップ ,ザックをいう。このように「背負いリュック」と「デイパック」とは,異なる種類の鞄なのである。両者を総称するときは 「バックパック」の語 ,が用いられるのが一般である。 そして 「背負いリュック」は,縦長直方体の袋状のボディの上部に開 ,口部を有し,同開口部円周には紐が通され,この紐を絞って開口部を開閉でき,このボディ上部の開口部を覆い,開閉可能とするフラップが設けられているものなのである。 したがって,原告商品のボディの形状は,上記の背負いリュックが一般に備える形状であって,原告商品の個別的特徴たり得ない。 イフラップの形状, , フラップが設けられていることは 背負いリュックの普遍的特徴に属しこれを個別的特徴ということはできない。 フラップの両サイドのゴムが入っている点についても,そのようなフラップを持つ背負いリュックは,原告商品が販売される前から一般に販売されていたから,やはり個別的特徴とはいえない。 ウフラップの付属部品であるベロの存在原告商品のフラップに2本のベロが設けられ ここに着脱可能な器具 バ ,(ックルやボタン等)を備えてフラップとボディ前面上部とを接着している点については,背負いリュックの普遍的特徴に属する。 しかし,上記の着脱可能な器具が,原告商品ではベロの縦方向に2つのリングホックを2pの幅を置いて設けてあり,これで長さ調節をする仕組みとなっており,このようなベロを有する背負いリュックは原告商品の販売前にはありふれたものではなかったといえる。したがって,この点に限っては,原告商品の個別的特徴と認められる。 エサイドベルトの存在(ただし,サイドベルトを絞る方向を除く )。 サイドベルトを有する背負いリュックは,原告商品が販売される前から一般に販売されていたから,サイドベルトの存在自体を個別的特徴ということはできない。 オボディ前面のポケットの存在縦長ポケットがボディに設けられている背負いリュックは,原告商品が販売される前から一般に販売されていたから,縦長ポケットが設けてあることを個別的特徴ということはできない。 カボディ底部分の形状原告は,原告商品の底部分がかまぼこ型になっており,タウンユースとしては荷物が多く入るようになっている点で個別的特徴であると主張するが,これもやはり「タウンユース」というアイディアに基づいていればすべて個別的特徴と主張するものであって,根拠がない。 底部分がかまぼこ型になっていることは,背負いリュックではありふれたことである。 キサイドファスナーの存在原告は,ボディのサイドファスナーで容易に開閉できることは原告商品の個別的特徴であると主張するが,ボディにサイドファスナーが設けられた背負いリュックは,原告商品が販売される前から一般に販売されていたから,個別的特徴とはいえない。 クハンドル,ベロ,ストラップの素材及び付属部品以外の本体部の素材については,原告商品と被告商品の形態の相違点として主張する。 (2)原告商品と被告商品の形態の相違点について原告商品と被告商品の形態は,以下の点において相違しており,しかも,それらは原告商品の個別的特徴をなすものなのであって,これらの点において相違する以上,被告商品は原告商品の模倣には当たらない。 ア連結ベルトの有無連結ベルトを使用した商品が原告商品の発売前から存在していたこと,現在原告商品以外に連結ベルトを使用している商品があることは否認する。 原告商品には,左右のストラップを上部で結ぶ連結ベルトが固定的に接着して設けられている。連結ベルトが背負う者の頸部後方の両肩の高さの位置に接触して障害となるために,原告商品は,上部ストラップがボディの背面に接着された部分と連結ベルトが接着された約12pの長さだけ,両肩からずり下がった形でしか背負えなくなっている。 このような形で背負っても,なおボディが背負う者の背中に密着されるように,原告商品にはチェストベルトや大型で頑丈な素材のウィングが設けられている。すなわち,原告商品は,連結ベルト,チェストベルト及びウィングによって,両肩からずり下がった形を常にとりながら,ずれないよう工夫されており,これらが重大な個別的特徴の一つをなしているのである。 , , 被告は 被告商品を製造するに当たりハニーズの商品を参考にはしたが連結ベルトも含めたストラップ側をシンプルな構成にすることを企図して,被告商品には連結ベルトを設けなかったのである。 イチェストベルトの有無原告商品には,連結ベルトの下方に左右のストラップを結ぶチェストベルトが設けられている。 チェストベルトは,背負う者の背中にボディをしっかりと密着させる役割を果たしており,ボディが背中で不安定に前後左右に揺れ動くことを防止している。 被告は,上記アと同じ理由により,被告商品にチェストベルトを設けなかった。 なお,チェストベルトが設けられていることは一般的であっても,原告商品のように白化合皮を素材とし,パイプバックルやリングホックで脱着するようになっているチェストベルトは他では見られないものである。 ウウィングの形状及び大小原告商品のウィングの形状がリュックでは一般的なものであることは否認する。 原告商品のウィングは,合成皮革製で,台形と正方形を組み合わせた大型の形状をしており,上記のチェストベルトとあいまって,連結ベルトのために両肩からずり下がった形でしか背負えない原告商品のボディが,背負う者の背中で不安定に前後左右に揺れ動くことを防止している。 これに対し,被告商品のウィングは,ボディと同じ布地であるコットンキャンバスを用い,大きさも原告商品のウィングよりも相当小さな略二等辺三角形であるにすぎないが,このような構成にしたのは,デザイン上ウィングを目立たせなくするためと,上記のとおり,被告商品には連結ベルトが存在しないから,ウィングによってボディの揺れを防ぐ必要がないためである。 エサイドベルトの絞る方向サイドベルトが設けられていることはありふれたことであるが,通常,絞る方向は,被告商品と同様,ボディ背面側である。これに対して,原告商品では背負う者の背中から離す方向にサイドベルトを引っ張って絞るようになっている。 このサイドベルトの絞る方向に関する形態も,原告商品に特有の個別的特徴をなしているというべきである。 オ柄物の有無原告商品及び被告商品は,専ら街で持ち歩くカジュアルな背負いリュックとして開発された商品であり,それゆえそのファッション性が重要視される商品といえる。 原告商品は単色しかないが,被告商品には,被告商品UないしWのとおり柄物が存在する。単なる単色の色違いだけでは,取引者や需要者の商品選択に重要な差異をもたらすものとはいえないとしても,柄物である被告商品UないしWは,ファッション性に影響を与え,はっきりと見る者(取引者や需要者)をして,商品選択に重要な差異をもたらすものである。 カ内ポケットの有無内ポケットは,原告商品の内側に設けられたものであるが,背負いリュックにおいて収納のためのポケットがいくつ設けてあるかということは,機能上需要者が注目すべき箇所といえるから,その有無はやはり重要な個別的特徴といえる。 キ付属部品以外の本体部分の素材綿と麻の混紡であるコットンリネンにネップ・ヤーンを利用した原告商品と,綿100%のコットンキャンバスの平織りを利用した被告商品とでは,風合いがはっきりと異なり,取引者や需要者の商品選択に重要な差異をもたらしている。 クハンドル,ベロ,ストラップの素材原告商品は,白化合皮を前面ではベロとスライダーの持ち手に用い,背面ではハンドル,ストラップ,連結ベルト,チェストベルト,大型ウィングに用いている。ベロやスライダーの持ち手,ハンドルなどに白化合皮が,,, 用いられることは一般的なことであるが 原告商品のように ストラップ連結ベルト,チェストベルト,大型ウィングまで共通して白化合皮を多用している例は珍しい。特に,ボディ背面に付属される部品が,関連性を持ってひとまとまりに同一素材で統一されている結果,原告商品の背面部は堅牢で重厚な印象が与えられている点が,原告商品の個別的特徴であるといってよい。 これに対して,被告商品は,ベロ,ハンドル,ストラップの上部に白化合皮が用いられているにすぎず,原告商品のようなデザインの統一感もなければ堅牢で重厚な印象もない。したがって,この点は,被告商品が原告商品に酷似していないことを理由付ける一要素となる。 (3)結論ア原告商品のストラップには 「ボディが肩からずり下がるようにしなが ,ら,その状態で背負う者の背中や腰に密着させてボディが不安定に前後左右に揺れ動くことを防止する」とのアイディアのもと,連結ベルト,チェストベルト,大型ウィングが相互に関連を持って設けられている。これらが,原告商品の重要な個別的特徴の一つであることは明らかである。 原告は,連結ベルト,チェストベルト,大型ウィングはいずれもボディ背面に存在し,消費者も前面の形状を重視して購入するのが通常であるから,これらのボディ背面の形状は,いずれも本質的なものとはいえないとして,それらが個別的特徴であることを否定する。 しかし,販売店で,一般に,背負いリュックがボディ前面を見せる形で展示してあるとしても,その購入を検討する者は,これを手に取り,実際に背負ってみるのが通常である。実際にリュックを手に取ったり背負ったりするときには,ストラップも直接目に触れて観察の対象となるのであるから,ボディ背面側に存するという理由だけで,ストラップに接着ないし接続された連結ベルト,チェストベルト,大型ウィングが本質的なものでないということはできない。 これらは,いずれも原告商品の機能上,背負う者の背中や腰にボディを密着させてボディが揺れ動くことを防止するという重要な役割を与えられたものであり,また,それこそこれまで見たこともない珍しい仕様であっ,, 。 て 当然 購入を検討する需要者の関心に強くアピールする箇所といえるイ被告商品は,原告商品を広範囲にわたって,しかもその個別的特徴の部分を含めて大幅に改変するものであり,その改変がもたらす印象の違いは大きく,当業者や需要者の商品選択・購入の動機にアピールする際に,相当程度の差異をもたらしている。よって,原告商品と被告商品とは酷似していないといわなければならない。 2争点(2)(損害額)について【原告の主張】前提事実(6)のとおり,被告による平成16年11月から平成18年8月7日までの間の被告商品の販売数量は合計5万7848個であり,その売上高は合計4640万8352円である。 原告の原告商品販売による利益率は17.7%であるので,これを上記売上高に乗じた821万4278円の損害が原告に生じたと推定される(不正競争防止法5条1項 。)【被告の主張】争う。 第4争点に関する当裁判所の判断1争点(1)(被告商品は原告商品の形態を模倣したものか)について(1)原告商品及び被告商品の形態ア原告商品と被告商品の基本的形態について原告商品と被告商品の基本的形態は,前提事実(3)及び(4)に記載のとおりである。 イ原告商品の具体的形態前提事実(3),証拠(甲3の1ないし8・11・13・15・17・19・20,乙15ないし20の各1)及び弁論の全趣旨によれば,原告商品の具体的形態は以下のとおりであると認められる。 (ア)ボディの形状(原告商品図面1)ボディは,縦長直方体の袋状で,その上部に開口部を有し,同開口部周縁には紐が通され,この紐を絞って開口部を開閉できる。この紐には開口部が意図せず開くことを防止するためのストッパーがはめられている。 寸法は,ボディ前面横幅23p,ボディ奥行き20pである。ボディにフラップの高さも含めた全長が53pである。 (イ)ボディ前面のポケットの形状(原告商品図面1)ボディ前面には,ファスナーで開閉可能な縦24p,横17pの直方体形状のポケットが設けられている。このポケットの内側には2個の内ポケットが設けられている。 ポケットの開閉は,ファスナーで行うが,そのスライダーの持ち手はベロ等と同素材の白化合皮を長方形に加工したものである。 (ウ)フラップ部分の形状(原告商品図面1及び2)フラップ部分は,マチのある袋状であり,ボディに接続する背面側にファスナー付き開口部を設けることでポケットとなっている。フラップの後面側周縁にはゴムが入っており,伸縮性がある。 フラップ部分の寸法は,縦横それぞれ20pである。 (エ)フラップの付属部品であるベロの形状,素材(原告商品図面1)フラップの前面側にリングホック2個を持つ幅2pの白化合皮製ベロを左右各1個(合計2個)設けている。なお,ベロを縁取る縫い糸は白化合皮とは異なる白色である。同ベロは,ボディ上部左右に取り付けられたリングホックと連結することによって,フラップ部分によってボディに蓋を閉める機能を果たすことになる。 (オ)ストラップの形状,素材(原告商品図面2)ストラップの素材は,幅3.8pの綿テープにハンドル部分と同素材の幅2pの白化合皮を中心に縫いつけたものであり,ボディ背面上部に設けられたストラップと同素材のストラップ補強テープに,ストラップの一方の端が固定的に接着されている。ストラップの下端にハトメが6個設けられ,ウィングに取り付けられたパイプバックルによって長さの調節が可能となっている。 (カ)連結ベルトの形状,素材(原告商品図面2)ストラップの上部端から約11p下部に,2本のストラップを連結する幅2p,長さ20pの白化合皮素材の連結ベルトが設けられている。 この連結ベルトが背負う者の頸部後方の両肩の高さの位置に接触して障害になるため,原告商品は,背負う者の両肩からずり下がった状態で背負われることになる。 (キ)チェストベルトの形状(原告商品図面2)連結ベルトの下方に,2本のストラップを結ぶチェストベルトが設けられている。チェストベルトは,左右2本のベルトからなり,右側のベルトは,一方の端がリングホックによって着脱が可能となっており,連結時に輪を作って,この輪の中に右側ストラップを通すことで,チェストベルトの右側ベルトと右側ストラップが上下可動に連結されている。 右側ベルトには,ベルト孔が5個設けられ,左側ベルトに設けられたパイプバックルと着脱可能に嵌合されている。左側ベルトは輪状に縫い合わせられ,この輪の中に左側ストラップを通してチェストベルトの左側ベルトと左側ストラップが上下可動に連結されている。チェストベルトの高さや幅は調節が可能であるし,取外しも可能である。 (ク)ウィングの形状(原告商品図面2)ボディ背面下部には,2本のストラップの下部をそれぞれ固定するためのウィングが左右両側に各1つ設けられている。ウィングは,白化合皮製の台形部分及び長方形部分から成る。原告商品図面2のとおり,台形部分は,ボディ背面部との接着部分の長さが9.4p,長方形部分と接している辺の長さが4.5p,これらの辺と垂直をなす上辺の長さが9.5p,斜めになった下辺の長さが11pであり,台形部分と接している長方形部分の辺の長さは3.8p,その辺と垂直をなす辺の長さは4.4pである。長方形部分にはパイプバックルが設けられ,ストラップに設けられたハトメと組み合わせることによってストラップの長さの調整が可能になっている。 (ケ)サイドベルトの形状(原告商品図面1)ボディの左右側面中央のやや下部には幅2.5pのサイドベルトが設けられており,サイドベルトをボディ前面方向に引っ張ることによってボディを前後方向に絞るようになっている。 (コ)サイドファスナーの形状(原告商品図面2)ボディ背面の左側には,長さ30pのサイドファスナーが設けられており,背面からボディ本体内部への物の出入れが可能になっている。 (サ)ハンドルの形状,素材(原告商品図面2)ハンドルは幅2pの白化合皮製である。 (シ)ボディ底部分の形状ボディ本体の底部分は,かまぼこ型になっている。 (ス)内ポケットボディ内側背面部にファスナー付きの内ポケットが1個,設けられている。 (セ)付属部品以外の本体部分の素材表面がコットンリネン,裏面がTCコットンであり,これらはいずれも比較的張りのある素材である。 ウ被告商品の具体的形態前提事実(4),証拠(甲3の1ないし6・9・10・12・14・16・18・21・22,甲4の1ないし14,甲13ないし15の各1ないし14,乙15ないし20の各2,28)及び弁論の全趣旨によれば,被告商品の具体的形態は以下のとおりであると認められる。 なお,以下に認定する被告商品の形態のうち,下線が付されている部分は,上記イで認定した原告商品の形態と相違する点である。 (ア)ボディの形状(被告商品図面1)ボディは,縦長直方体の袋状で,その上部に開口部を有し,同開口部周縁には紐が通され,この紐を絞って開口部を開閉できる。この紐には開口部が意図せず開くことを防止するためのストッパーがはめられている。ただし,ボディ内側背面部の内ポケットはない。 , ,.。 寸法は ボディ前面横幅が21p ボディ奥行きが17 5pであるボディにフラップの高さも含めた全長が52pである。 (イ)ボディ前面のポケットの形状ボディ前面には,ファスナーで開閉可能な縦23p,横16.5pの直方体形状のポケットが設けられている。ただし,ポケット内部の内ポケットは設けられていない。 ポケットの開閉はファスナーで行うが,そのスライダーの持ち手はファスナーと同素材の金具である。 (ウ)フラップ部分の形状(被告商品図面1及び2)フラップ部分の形状は,寸法が縦横とも19pと若干小さいほかは,原告商品と同じである。 (エ)フラップの付属部品であるベロの形状,素材ベロの形状は,原告商品と同じであり,素材は原告商品よりは色の黒い白化合皮である。なお,ベロを縁取る縫い糸は,白化合皮とほぼ同じ黒色である。 (オ)ストラップの形状,素材(被告商品図面2)ストラップの素材は,幅3.8pのナイロンテープにハンドル部分と同素材の幅2pの白化合皮を中心に縫いつけたものであり,ボディ背面上部に設けられたストラップと同素材のストラップ補強テープに,上部ストラップの一方の端が固定的に接着されている。上部ストラップの下端は,アジャスターに固着され,ウィングに固定的に縫いつけられた下部ストラップによって,長さの調節が可能である。 (カ)連結ベルト(被告商品図面2)連結ベルトは存在しない。 (キ)チェストベルト(被告商品図面2)チェストベルトは存在しない。 (ク)ウィングの有無及び形状(被告商品図面2)ボディ背面下部には,2本のストラップの下部を固定するためのウィングが左右に各1つ設けられている。ウィングは,ボディと同素材のコットンキャンバスを用い,被告商品図面2のとおり,3辺の長さが5.5p,6.5p,8pの略2等辺三角形である。 ウィングには,ストラップの下部が縫いつけられ,アジャスターによって,ストラップの長さの調節が可能になっている。 (ケ)サイドベルトの形状(被告商品図面1)ボディの左右側面には幅2.5pのサイドベルトが設けられており,サイドベルトをボディ背面方向に引っ張ることによって,ボディを前後方向に絞る形態になっている。 (コ)サイドファスナーの形状(被告商品図面2)ボディ背面の左側には,長さ27pのサイドファスナーが設けられており,背面からのボディ本体内部への物の出入れが可能になっている。 (サ)ハンドルの形状,素材(被告商品図面2)ハンドルの形状は原告商品と同じであり,被告商品T及びUについては素材も同じである。ただし,被告商品V及びWには,白化合皮の表面に本体部分と同一の素材が縫い合わされている。 (シ)ボディ底部分の形状ボディ本体の底部分は,かまぼこ型になっている。 (ス)内ポケットボディ内側背面部に内ポケットは設けられていない。 (セ)付属部品以外の本体部分の素材付属部品以外の本体部分の素材は,表面は被告商品Tがコットンキャンバスの無地,被告商品Uがコットン系素材のストライプ柄,被告商品Vがコットン系素材の人物柄,被告商品Wがコットン系素材のどくろ模様を含んだチェック柄である。なお,被告商品Tは6色,被告商品Uは3色,被告商品Vは2色を展開している。 (2)被告商品は原告商品を模倣したものかア「模倣」の意義不正競争防止法2条1項3号の「模倣」とは,他人の商品の形態に依拠して,これと実質的に同一の商品の形態を作り出すことをいう(平成17年法律第75号による改正後の不正競争防止法2条5項参照ここで 実)。「質的に同一の商品の形態」とは,客観的に「他人の商品」と作り出された, 「」 商品を対比して観察した場合に 作り出された商品の形態が 他人の商品の形態と同一であるか実質的に同一といえる程に酷似していることをいう。そして,同号所定の行為を不正競争行為とした趣旨が,商品開発のために資金や労力を投下した先行者を保護することにあることにかんがみると,作り出された商品の形態に「他人の商品」の形態と相違する部分があるとしても,その相違がわずかな改変に基づくものであって,商品の全体的形態に与える変化が乏しく,商品全体から見て些細な相違にとどまると評価される場合には,当該商品は他人の商品と実質的に同一の形態と評価され得るのに対し,当該相違部分についての着想の難易,改変の内容・程度,改変が商品全体の形態に与える効果等を総合的に判断したときに,当該改変によって商品に相応の形態的特徴がもたらされていて,当該商品と他人の商品との相違が商品全体の形態の類否の上で無視できないような場合には,両者を実質的に同一の形態ということはできないというべきである。 イ原告商品と被告商品の対比(ア)原告商品と被告商品の形態の共通点について原告商品と被告商品は,@ボディの形状(縦長直方体の袋状で,その上部に開口部を有し,同開口部周縁には紐が通され,この紐を絞って開口部を開閉でき,この紐には開口部が意図せず開くことを防止するためのストッパーがはめられていること ,Aボディ前面のポケットの存在 )(ファスナーで開閉可能な直方体形状のポケットが設けられていること ,Bフラップの形状(寸法以外は共通 ,Cフラップの付属部品で ) )あるベロの存在(形状,素材がほぼ共通 ,Dサイドベルトの存在(た )だし,サイドベルトを絞る方向を除く,Eボディ底部分の形状,F 。)サイドファスナーの存在,Gストラップの形状,Hハンドルの形状において共通しており,その寸法も近似したものとなっていて,その結果,全体として似たような形態のものであるとの印象を受けるものであることは否定できない。 ところで,証拠(下記の各項末尾に掲記したもの)によれば,以下の形態は,原告商品が市場で販売されるより前に,市場で流通していたリュックも備えていたものであると認められる。 aボディ本体が縦長直方体であり,ゴム入りのフラップで蓋をするもの(乙9の2,10の2,10の5)bボディ底面部の形状がかまぼこ型であること(乙7の7)cリュック前面に,縦長直方形の大きなポケットが1個付いていること(乙7の6・7,10の3・5,13の2)d前面方向に絞るサイドベルトが設けられていること(乙7の7)eサイドファスナーが設けられていること(乙8の2)fフラップのベロがバックル形式で付いているもの(乙8の2,乙9の2,10の2・5,11の6,12の4・7,13の2)g綿素材を使用すること(乙7の8,10の3)h本体部分と同素材のサイドベルトを設けること(乙7の7)なお,原告は,原告商品販売前に連結ベルトを備えた各種リュックが存在していた証拠として,甲第44号証(被告撮影の写真)を提出するが,同号証への手書きの書き込みの内容によれば,同リュックはいずれも平成16年秋の新作のバッグであると認められ,いずれも原告商品が販売開始された後に市場に流通した商品であることが認められる。他に原告商品販売前に連結ベルトを備えたリュックが存在していたと認めるに足りる証拠はない。 以上によれば,原告商品と被告商品の形態を共通にする部分のうち,ボディの形状が縦長直方体であり,その前面に大きめのポケットを一つ設けていること,サイドファスナーが設けられていること,本体部分と同素材のサイドベルトを設けることというような形態は,原告商品販売前において同種のリュックに従来から見られたものであり,それぞれを個別的に見た場合にはありふれた形態であることが認められる。 (イ)原告商品と被告商品の形態の相違点について他方,原告商品と被告商品とは,@連結ベルトの有無,Aチェストベルトの有無,Bウィングの形状及び大小,Cサイドベルトの絞る方向,D柄物の有無,E内ポケットの有無等が相違している。 このうち,Cのサイドベルトの絞る方向が,原告商品では,ボディ前面方向に絞ることによってボディを前後方向に絞るようになっているのに対し,被告商品では,ボディ背面方向に絞ることによってボディを前後方向に絞るようになっている点で相違している。しかし,その寸法や設置されている場所を考慮すると,上記のような相違が商品の全体的形態に与える変化は著しく乏しいというべきである。また,Eの内ポケットが原告商品にはあり,被告商品にはないという相違点も,それが外観からは観察できない目立たない位置に設置されたものであって,商品の全体的形態に与える変化が乏しく,その機能もありふれたものであることを等を考慮すると,これらの相違点は,いずれも全体から見て些細な相違にとどまるものというべきである。 しかし,@,A,Bの相違点,すなわち連結ベルトとチェストベルトの有無並びにウィングの形状及び大小において相違する点についてみると,これらの点に関する原告商品の構成は,原告商品のうちで相当大きな部分を占める上,いずれも原告商品のデザイン上のアクセントとなっ, , ている白化合皮を用いており 統一感のある部品として構成されていて原告商品の全体の構成のうちで重要な要素を占めるものというべきである。また,原告商品は,これを背負った際,連結ベルトがあるため肩からずり下げた形で背負うことになるが,その場合にも連結ベルトは背負う者の頸部とリュックの間のアクセントとなり,かつストラップやベロに使用している白化合皮と同一素材を用いていることともあいまって,デザイン面においても重要な意味を持つことが認められる。そして,これらの構成を備えた原告商品は,あえてリュックを「下げて」背負うスタイルが近時若者層の間で流行していることに配慮し,連結ベルトを設けて背負う者の頸部後方の両肩の高さの位置に連結ベルトが接触して障害となるために,上部ストラップがボディの背面に接着した部分と連結ベルトが接着した約12pの長さだけ,両肩からずり下がった形でしかリュックを背負えなくするとともに,このような形でリュックを背負っても,なおそのボディが背負う者の背中に密着するように,チェストベルト及び大型で頑丈な素材のウィングを設け,この三者によって,リュックが両肩からずり下がった形を常にとりながら,ずれないよう工夫されているという機能上の特徴を有するものである(甲34の1,乙15ないし20の各1,弁論の全趣旨 。)これらの原告商品の形態上の特徴は,原告商品を他社商品から差別化する重要な要素として,需要者に対しても大きな訴求力を持つものになっているというべきであり,とりわけ,チェストベルト及びストラップ,, 下部に連結された大型で頑丈な素材のウィングの存在は 需要者をして背負った際の安定感を視覚的に感じさせるものというべきであるから,原告が主張するようにチェストベルトを使用しなくても十分に安定してリュックを背負うことができないことはないとしても,そのことは,原告商品が被告商品と比較した場合に視覚的に捉えられる原告商品を背負った際の安定感を否定するものということはできず,この点の相違を些細なものということはできない。 原告は,連結ベルト,ウィング及びチェストベルトは,リュックの背面部に設けられているものであるところ,販売店での販売形態ではリュックは前面を見せて売られており,需要者も前面の形状を重視して購入するのが通常であって,背面の形状は,およそ本質的なものとはいえないと主張する。しかし,連結ベルト及びチェストベルトは,ボディ背面に設けられた2本のストラップを連結するように設けられており,リュックの機能上重要で不可欠な構成要素である2本のストラップを連結して設けられている。2本のストラップは,着用時には着用者の正面に位置することになり,原告商品の2本のストラップを連結したチェストベルトも着用者の正面から観察することができるものであるから,需要者がそのデザインや背負った際のフィット感,安定感等の使い心地に注目することが容易に推認される。したがって,需要者は,リュックを購入するに際しては当然にリュックの背面に着目するものと考えられ,その際,連結ベルトやチェストベルトの有する上記機能やその設置位置及び大きさに着目すると考えられる。また,ストラップ下部に連結するウィングを大型で頑丈な素材のものとしたことも,同様に,背負った際の安定感等を視覚的に表したものとして,需要者が少なからず着目するところと考えられる。したがって,これらの需要者に対して原告商品を販売する小売業者等の当業者は,需要者が商品選別のために実際に商品を背負って,正面(つまり,リュックのストラップ部分の形状を見ることとなる )及びリュック前面方向を見ることとなることや,原告商品を背 。 負う際に通常の背負い方では連結ベルト及びチェストベルトが障害となるため,一層強く連結ベルト及びチェストベルトを観察するものであることが認められる。そうすると,これらの点に関する相違が本質的なものでなく,わずかな改変に基づくものであって,商品の全体的形態に与える変化が乏しく,商品全体から見て些細な相違にとどまると評価されるとはいい難いというべきであって,原告の上記主張は採用できない。 上記の点に加え,Dの相違点(柄物の有無)があることは,商品のファッション性の相違に結びつくものであり,被告商品の原告商品の形態との実質的同一性の判断に否定的に働く一要素となるものというべきである。 以上より,被告商品と原告商品との形態上の上記相違は,原告商品から被告商品への改変の内容・程度,その改変が商品全体の形態に与える効果等にかんがみ,決して些細なものということはできないというべきである。そうすると,被告商品は,原告商品との上記共通点を考慮しても,全体として原告商品の形態と同一であると解されないことはもとより,実質的に同一であるともいえないというべきである。 ウしたがって,被告商品を販売する被告の行為が不正競争防止法2条1項3号の不正競争に当たるということはできない。 2結論よって,原告の本件請求は,いずれも理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 田中俊次 |
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裁判官 | 西理香 |
裁判官 | 西森みゆき |