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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成12ワ20801不正競争行為差止等請求事件 判例 不正競争防止法
平成17ワ7778不正競争防止法に基づく販売差止等請求事件 判例 不正競争防止法
平成11ワ22096不正競争防止法に基づく差止等請求事件 判例 不正競争防止法
平成12ワ26971損害賠償請求事件 判例 不正競争防止法
関連ワード 特段の事情 /  他人の商品 /  類似性(類似) /  外観 /  商品の形態(商品形態) /  模倣 /  意匠登録 /  差止請求(差止) /  逸失利益 /  因果関係 /  利益額(利益の額) /  弁護士費用 /  デザイン /  代理人 /  代表者 /  デッドコピー /  商品形態模倣行為(2条1項3号) /  損害賠償 /  推定 /  販売数量 / 
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事件 平成 16年 (ワ) 9869号 損害賠償請求事件
原告 株式会社トリオ
同訴訟代理人弁護士高橋誠一
同 辻本希世士
同補佐人弁理士 辻本一義
同 窪田雅也
同神吉出
同 上野康成
同 森田拓生
被告 株式会社アミューズ
同訴訟代理人弁護士 小野明
同 坂口英一
同 細井淳久
被告 ティーアイジー株式会社
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2006/04/26
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
被告らは,原告に対し,各自2538万0297円及びこれに対する被告株式会社アミューズについては平成16年5月16日から,被告ティーアイジー株式会社については同月18日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は,別紙原告商品目録記載の鞄(以下「原告商品」という )を販売し。
ていた原告が,別紙被告商品目録記載の鞄(以下「被告商品」という )を販。
売していた被告株式会社アミューズ(以下「被告アミューズ」という )及び。
被告商品を輸入していた被告ティーアイジー株式会社(以下「被告ティーアイジー」という )に対し,被告商品が原告商品の形態模倣したものであり, 。
被告らの行為は不正競争防止法2条1項3号の不正競争に該当するとして,同号及び同法4条に基づき,不正競争による損害(遅延損害金を含む )の賠償。
を求めた事案である。
1 前提となる事実(括弧内に証拠を掲示したもの以外は,当事者間に争いがない)。
(1) 当事者原告は,スーツケース,メイクボックス,ファイバートランク等の鞄の販売等を業とする株式会社である。
被告アミューズは,アミューズメント関連他社へのゲームセンター景品の販売,ぬいぐるみ等ゲームセンター景品の企画・開発,ゲーム機器用・イベント関連用景品の企画・開発・製造・販売,アミューズメント施設の運営・管理等を業とする株式会社である。
被告ティーアイジーは,皮革製品の輸出入等を業とする株式会社である。
(2) 原告商品の販売原告は,平成14年6月,原告商品の販売を開始した。
(3) 被告商品の輸入及び販売被告ティーアイジーは,中華人民共和国(以下「中国」という )で製造。
された被告商品を,平成15年4月15日までに60個,同月21日ころ5,,(,, 700個 同年5月6日ころ300個それぞれ輸入した 甲8の4 10弁論の全趣旨 。)また,被告ティーアイジーは,被告アミューズに対し,被告製品を,平成15年4月15日に60個,同年5月12日に6000個,それぞれ販売した(甲6の3,9 。)被告アミューズは,平成15年5月から同年10月までの間,被告商品を6060個販売した(甲6の1・2 。)2争点(1) 不正競争防止法2条1項3号該当性(2) 損害の発生の有無及びその額3 争点に関する当事者の主張(1) 争点(1 (不正競争防止法2条1項3号該当性)について )(原告の主張)ア 被告商品が原告商品を模倣したものであること( ) 実質的同一性ア,。, 原告商品と被告商品は 全く同一の基本的形態をしている とりわけ原告商品は 「本体前面を覆うように2つ並設され,それぞれが上部テ ,ント状布で閉蓋された縦長スコップ形状からなる硬質製前面ポケット」を有するウエスト固定用あるいは肩掛け用の兼用バッグであるという点が,形態における特徴となっているところ,被告商品は,これと全く同一の特徴を有している。
また,被告商品は,別紙原告商品目録記載3(2)イからコまで及び別紙被告商品目録記載3(2)イからコまでの点で,原告商品と全く同一の細部形態をしている。そして,被告商品は,別紙原告商品目録記載3(2)ア及び別紙被告商品目録記載3(2)アの前面ポケットの前面に並設される縦方向凸条についても 「ポケット前面下方から上方に亘 ,る複数本」である点及び「各ポケットの前面に左右対称に並設される縦方向凸条」である点において共通の形態をしており,原告商品が「ポケット前面下方から中央付近までに亘る5本」であるのに対し 「ポケッ,ト前面下方から上方付近までに亘る4本」であるという点で,若干相違しているにすぎない。このように,相違点もわずかな改変に基づくものでしかないため,原告商品と被告商品との相違点が全体的形態に与える変化は乏しく,商品全体から見て些細な相違にとどまる。
したがって,原告商品と被告商品の形態は,基本的形態及び細部形態の共通点により実質的に同一である。
( ) 被告商品が原告商品に依拠して作られたことイ被告商品が原告商品の販売開始後に販売されたこと,原告商品と被告商品の基本的形態が上記( )の特徴を含めて全く同一であること,原告ア商品と被告商品の細部形態の大部分が共通することなどにかんがみれば,被告商品は,他にもある選択肢の中からことさら原告商品に依拠して作られたものである。
( ) したがって,被告商品は,原告商品を模倣したものである。
ウ(「 」 。) イ 原告商品は別紙?陽社商品目録記載の鞄 以下 ?陽社商品 というを模倣したものであるとの主張(後記「 被告らの主張 」イ)について ()( ) 後記「 被告らの主張 」イの主張は,否認する。
ア()( ) ?陽社商品は原告商品の販売開始後に開発されたものであることイ被告らは,原告商品は?陽社商品を模倣したものであると主張する。
しかし,?陽社商品には,原告商品を改良したとしか考えられない点が複数見られるのであるから,?陽社商品も,被告商品と同様,原告商品の販売開始後に開発されたデッドコピーにすぎない。
( ) 被告ティーアイジーが提出した書証についてウ( ,,, , 被告ティーアイジーが提出した書証 丙1 3 5 6の1ないし57,9,11)は,以下のとおり,いずれも内容的に矛盾があり,不可解かつ不自然なものであって,信用性がない。
a 丙1について丙1は,会社の記名があるのみで,代表者や担当者の自署は一切ない。中国においても,記名の上に押印者の自署がされるのが常識である。
b 丙3について( ) 丙3は,丙1と同様,会社の記名があるのみで,代表者や担a当者の自署は一切ない。中国においても,記名の上に押印者の自署がされるのが常識である。丙3のような契約書の体裁では,輸出に必要な手続を行うことはできない。
( ) 丙3の「買主」欄に記載された会社名と,下部署名欄に記載bされた会社名が異なる。
( ) 丙3には,契約条件として,次の記載がある。c「? 船積する港 上海港? 目的地 ニューヨーク港? 決済方法 L/C」丙4は,?陽市対外貿易公司(以下「?陽社」という )が深?。
時淳工芸礼品有限公司(以下「深?社」という )から?陽社商品。
を購入したことを示すものである。深?社は,その名称からして,中国広東省の深?市に所在するものと思われ,深?市は香港に近い場所に位置する。?陽社商品を輸出するのであれば,香港の港から輸出されるのが自然であり,遠く離れた上海から輸出する必然性はない。
また,丙3には,輸出額が8万7069米ドルと記載されているところ,この程度の金額の輸出の決済にアメリカ合衆国(以下「米国」という )の銀行でL/Cが使用されることは,その手数料等 。
を考慮すれば,あり得ないことである。
c 丙5について丙5は,丙1と同様,会社の記名があるのみで,代表者や担当者の自署は一切ない。中国においても,記名の上に押印者の自署がされるのが常識である。
d 丙6の1ないし5について丙6の「客戸名称 (宛先)欄には何も記載されていない。このよ 」うな文書は,?陽社内部で,いつでも,何通でも発行できるものである。また,丙6の1ないし5を比較すれば,作成日付は違うのに,字体がほぼ同一で,全くぶれがない。一気に,あわてて書き上げた様子がよく伝わってくる外観である。
e 丙7について丙7の1枚目に記されたバッグの図は,見本品ではなく,完成品である。サンプルの作成を依頼するのに,いきなりこのような図面が登場するはずがない。鞄を作る場合には,甲15ないし33のように,鞄のおおまかな全体像から始まり,チャック等の部品の選択や縫製についての段階的な打合せを経て,徐々に作成されていくものである。
丙7は,書き込みのない完全な指示書であるから,丙7が作成された時期には,既に,完成品(モデル品)が存在していたことを示すものである。
さらに,丙7,丙8及び丙4を併せて見ると,平成12年1月7日付けでFAXによるサンプル指示があり,同月10日付けで深?社による打様要求書が発せられ,同年2月23日付けで米国に輸出されたことになる。
しかし,通常,一から鞄造りを企画し,サンプルを指示してから約1か月という短い期間で製造を完了し,輸出することはない。金型を作るだけでも,通常,約1か月を要する。
f 丙9について(a) ?陽社商品を展示したとされる写真(丙9,以下「本件写真」という )が平成12年4月に撮影されたことを示す客観的証拠は 。
ない。
( ) 本件写真に写された展示欄の大半には,いわゆる生地物,袋b物,ナイロン素地による鞄が展示されている。価格的に極めて低額な部類に属する製品ばかりである。この展示は,?陽社がこのような素材を使用した商品を主に取り扱っていることを示すものである。
本件写真の写真左肩のごく一部には,ABS樹脂を使った特殊な原告商品類似の商品が展示されているが,樹脂素材を使用した鞄の作成は,ナイロン素地による鞄の作成に比して,技術的に高度であり,樹脂素材を使用した鞄を取り扱うことができるのであれば,そのような商品が主な展示商品となるのが自然である。
なお,仮に本件写真が真正だったとすると,?陽社は,樹脂素材を使用した製品を主として扱える会社でないことは明らかであり,丙7のような指示書を出せるはずがない。
?陽社が出展したという広州交易会は,中国最大の総合輸出商 (c)品商談会で,世界百数十か国の業者が参加する非常に大規模な展示会である。そのような大がかりな会の会場としては,それ相応の設備が整っているのが通常である。
しかし,本件写真に写された場景は,@柱がむき出しの状態にあること,Aカーテンが極めて安価な様子のものであること,B窓が木枠のむき出しのものであること,C白を基調とした展示枠の一部の覆いがなく,赤色の什器が露出していること,D空調の設備がむき出しとなっていることから,不自然である。
また,平成17年に開催された広州交易会の会場内部の場景と比較しても,質感の違いが歴然としている。
したがって,本件写真に写された場景それ自体が捏造されたものである疑いが強い。
g 丙11について被告ティーアイジー代表取締役Rの陳述書 丙11 以下 R () ( 。 「a陳述書」という )には,原告商品に類似する鞄が,平成12年こ 。
,。 ろには 中国や香港の市場において販売されていた旨の記載があるしかし,原告が平成14年に原告商品の販売を開始した際,香港も原告商品の市場に入っており,香港所在の業者に対して原告商品を販売している。
,( ) (. ) そして 原告商品 11米ドル と?陽社商品 4 35米ドルとでは,価格に大きな差があり,原告商品の方が3倍近い高額であるから,?陽社商品が販売された後に,原告商品が販売されるはずがない。
したがって,R陳述書の上記記載は,不合理である。
( ) R陳述書には,同人が,平成12年当時,原告商品に類似すbる鞄が中国や香港の市場において販売されていたことを知っていた旨の記載がある。
しかし,原告が,平成15年11月ころ,被告商品が流通していることを知り,被告らに対し,販売の停止及び金型の廃棄を要求したところ,被告アミューズから被告ティーアイジーを通じて金型が廃棄され,被告らが謝罪するに至った。
平成12年から原告商品と類似の商品が販売されていたことを知っていたのであれば,金型の廃棄及び謝罪にまで至るはずがない。
したがって,R陳述書の上記記載は,上記のような原告の要求に対する被告らの対応と矛盾する。
また,被告アミューズは,原告に対する平成15年12月10日「」 (。「 」 付け 商品クレームについての回答書 甲3 以下 甲3回答書という )において,被告商品の企画に当たって,原告商品に酷似 。
しているかどうかの判断をしなかったと記載しており,R陳述書の上記記載は,甲3回答書の上記記載とも矛盾する。
( ) 被告らは,被告らが金型の廃棄を約束したのは,被告商品がc一過性のものであり,既に需要がないため,以後の生産や販売の予定がなく,また,素材のABS樹脂が環境問題のためポリプロピレンに変わる時期であったからであると主張する。
しかし,中国において金型を作成するには,約32万円は必要である。被告ティーアイジーが販売した被告商品の数量は6060個であり,販売代金は約230万円であるから,被告商品の販売により被告ティーアイジーが得た利益は,利益率を1割としても,金型の作成費用にも満たない。
このように,被告商品の販売による利益が上がっていない段階において,生産及び販売の予定が終了していたとは考えられず,金型を廃棄したのは,原告からの警告を受けたからにほかならない。
また,素材のABS樹脂をポリプロピレンに変更することが環境問題への対処となることの合理的な理由はない。
( ) ?陽社商品が販売されていたことを示す客観的書類の不存在エ米国の (以下「ドニー社」という ,?陽社Dony International Group。)及び被告らは,取引先関係にあり,いわゆる内輪の関係にある。?陽社商品が販売されていたことについて被告ティーアイジーが提出した書証(丙1,4)は,ドニー社と通謀すれば作成が可能な書類である。
?陽社が?陽社商品を米国に輸出したのであれば,輸出会社として,輸出申告書及び同許可書が残っているはずであり,重要な証券である船荷証券(B/L)が存在して当然である。また,被告らによれば,?陽社は,ドニー社との取引において,L/Cによる決済をしたというのであるから,L/Cによる決済をしたことの金融機関からの報告書が残っていることも当然である。
,,, このような書類は 第三者が作成の過程に関与した書類であり またその提出に特別困難な事情も見当たらないから,?陽社商品が販売されていたとの被告ら主張の事実は,認められない。
( ) 写真等の偽造が容易であることオ被告ティーアイジーは,?陽社商品が市場に存在したことを示すものとして,写真(丙2,9,12の1,13の1)及びネガの写し(丙1,) ,, 。 2の2 13の2 を提出するが これらは 極めて偽造が容易である( ) ?陽社商品の存在は本件と無関係であることカ,, 不正競争防止法が形態の模倣を禁止する趣旨は 先行者が多くの時間費用を投下して開発した商品の形態を保護することにあるから,先行者が独自に開発したと評価される形態は,不正競争防止法上保護されるのであり,仮に,同一の形態を備える商品が過去に存在したという特異な場合を想定するとしても,当該過去の商品を参考にせずに独自の労力を投じて開発された商品の形態は,不正競争防止法上保護される。
したがって,原告商品が独自に開発されたことが明らかである以上,原告商品が不正競争防止法上保護されることに変わりはない。
ウ 原告商品は原告が開発したものであること( ) 原告商品の開発の流れア原告商品の開発の流れは,概要次のとおりである。
a ラフ案の作成(甲15,20)b 生産委託先である中国の会社による3D図面の作成(イメージの確認)及び細かいデザインの確認,改良(甲16ないし35)c 最終のデザインの決定及び金型の製造d 商品の製造( ) メタリック調ボディーの開発イ原告商品の最大の外見的特徴の1つであるメタリック調ボディー(素材はプラスチック)は,原告が従前から行ってきたスーツケースの開発の一環として開発されたものである。
原告は,甲37及び38記載の鞄を最初に開発し,平成13年6月,これらについて意匠登録出願をし,平成14年5月,意匠登録された。
原告は,続いて,甲39ないし41記載の鞄を開発し,平成14年9月ころ,原告商品を開発した。
( ) 流線型のデザインの開発ウスーツケースの大手であるサムソナイト社の商品に代表されるように,スーツケースの外観は,通常,箱形をしている。これに対し,原告が開発したスーツケースは,流線型をしている点に最大の特徴がある。
原告商品の前部のポケット部分は,このデザインの特徴を継承している。
( ) リベットの打ち付けエ原告商品の前面ポケットの外側上方及び下方には,左右それぞれ2箇所ずつ銀色のリベットが打ち付けられている。
ヒップバッグ用鞄として,このような形態をしているのは極めて特殊である。なぜなら,同様の商品では,ウエスト部分のベルトは,通常,鞄側部の布部分に縫製されており,上記の場所にリベットを打ち付ける必要がないからである。
原告商品では,デザイン面及び機能面を考慮して,従前から開発して。, いたスーツケースのリベットが応用された スーツケースのリベットはスーツケースの開発の際,プラスチック部分の傷を防止する等のため,スーツケース本体の前面にネットを引っかけるフックとして開発されたものである。
このリベットの外側への打ち付けこそ,原告商品が,原告が独自に開発した商品であることを示すものである。
( ) リベットの形状オ原告商品のリベットの形状は,原告の強い独自性が出たものである。
一般に,鞄に付けられるリベットやフックは,真ん中の突出する首部が長く,頭部が扁平でないのが通常である。
これに対し,原告商品にも採用され,もともとスーツケースの前部に取り付けるために開発されたリベットの形状は,デザイン性の観点及び引っかからないようにとの機能性の観点から,首部を短くし,頭部を扁平球冠状にしたデザインとなっており,甲37及び38記載のスーツケースと同時に開発されたものである。
このようなリベットを施した鞄は,原告商品やそのデッドコピーである被告商品及び?陽社商品以外には見られない。
( ) このように,原告商品は,原告が,その費用,労力を投下して開発カし,市場に置いたものである。
( ) 原告商品は中山皇冠皮件有限公司(以下「クラウン社」という )キ。
が開発した商品に修正を加えたものであるとの主張(後記「 被告らの(主張 」エ( ))について )ア被告らは,原告商品がクラウン社が開発した商品を模倣したものであると主張する。
しかし,原告商品がクラウン社の商品を模倣したことはなく,このことは,クラウン社自身が述べるとおりである。そして,クラウン社が中国で最大手の鞄製造業者であることは被告らが主張するとおりであるところ,中国全土における鞄の流通状況を完全に把握しているはずのクラウン社は,原告商品の販売前に原告商品と類似する形態を有するバッグが中国で販売されたことはないと断言している。
( ) 原告が開発したスーツケースと同様の特徴を有すると被告らが指摘クする商品についてa 被告らは,流線型の硬質樹脂製甲羅が平成9年に考案され,丙14記載のリュックサック及び丙15記載のヒップバッグに採用されていたと主張する。
しかし,丙14記載のリュックサック及び丙15記載のヒップバッグは,滑らかに湾曲した後,下方に向かって極端にえぐれた窪みが形成されており,およそ流線型などと呼べる形態を備えていないし,その形態は,原告商品や原告が開発したスーツケースが備えている形態とは全く異なる。また,丙14記載のリュックサックと,原告商品のようなヒップバッグやスーツケースとは,用途が全く異なる。
したがって,丙14記載のリュックサック及び丙15記載のヒップバッグは,原告商品や原告が開発したスーツケースが原告の独自開発によるものであることを否定する根拠とはなり得ない。
b 被告らは,中国において,流線型の硬質樹脂製甲羅について,実用新型権利 丙16 が授権され その中で ベルトを固定する鉚釘 リ () , , (ベット)も採用されていたと主張する。
しかし,上記実用新型権利に係る形態は,上部が細く絞られ下方に向かって滑らかにふくらむ滴状の球冠形状をしており,原告商品の形態とは全く異なる。また,上記実用新型権利に係るリベットは,リュック底表面と固定するために固定板に設けた必然的固定手段を示すものであり,原告商品の二段丸鋲とは全く異なる。さらに,上記実用新型権利に係るリュックサックと,原告商品のようなヒップバッグやスーツケースとは,用途が全く異なる。
したがって,上記実用新型権利は,原告商品や原告が開発したスーツケースが原告の独自開発によるものであることを否定する根拠とはなり得ない。
c 被告らは,クラウン社の商品に流線型の硬質樹脂製甲羅が採用されていたと主張する。
しかし,クラウン社は,原告の指示の下に原告商品や原告が開発したスーツケースの創作に携わった業者であるから,クラウン社の商品が存在することは,原告商品や原告が開発したスーツケースが原告の独自開発によるものであることを否定する根拠とはなり得ない。
(被告らの主張)ア 「被告商品が原告商品を模倣したものであること (上記「 原告の主 」(張 」ア)について)上記「 原告の主張 」アの主張は,否認する。 ()イ 原告商品は?陽社商品を模倣したものであること?陽社は,平成11年5月から,?陽社商品を開発し,同年10月に一定数量を製造して,平成12年3月に米国に輸出し,他にも大量に販売した。
原告商品の形態は,別紙原告商品目録記載のとおりであり,?陽社商品の形態は,別紙?陽社商品目録記載のとおりであるところ,原告商品の形態は,?陽社商品の形態と客観的に酷似しているから,?陽社商品を模倣したものというほかはない。
そして,不正競争防止法2条1項3号所定の不正競争について,同法4条に基づき損害賠償を請求することができる者は,自ら費用,労力を投下して,当該商品を開発して市場に置いた者に限られる。原告商品は,?陽社商品を模倣したものであるから,原告は,自ら費用,労力を投下して,当該商品を開発して市場に置いた者には該当しない。
したがって,原告は,不正競争防止法4条に基づいて損害賠償を請求することはできない。
「」 (「()」 ウ 被告ティーアイジーが提出した書証について 上記 原告の主張イ( ))についてウ( ) 署名がないとの指摘についてア原告は,丙1,3及び5に署名がないことを指摘するが,中国においては,書面の成立には捺印が不可欠であり,会社の証明書や契約書は,捺印のみであっても有効と認める慣行があるから,署名がある場合もない場合もある。
( ) 丙3についてイa 原告は,署名がない丙3の体裁では輸出に必要な手続を行うことができないと主張するが,輸出の通関手続においては,契約書は不要である。
b 原告は,丙3の「買主」欄と下部署名欄の会社名が異なると主張する。
しかし,買主欄の名称は,米国における正式名称であり,捺印の名称は,それを中国語に翻訳した正式名称( 東尼国際貿易集團公司 ) 「」であるから,その間に何ら矛盾はない。
c 原告は,?陽社商品を輸出するのであれば香港の港から輸出されるのが自然であり,遠く離れた上海から輸出する必然性はないと主張する。
しかし,輸出商品は,製造会社が貿易会社に納入し,貿易会社が責任を持って検査し,買主に納入するものであり,本件においては,上海に近い?陽社が検品をして,ドニー社の上海事務所に納品をするから,船積港が上海と定められたものと推測される。
( ) 丙6の1ないし5についてウa 原告は,丙6の1ないし5の「客戸名称」欄が空欄であることを指,「 」, 。 摘するが 領収書の 客戸名称 欄は必ず記載されるとは限らない日本でも 「上様」と記載することがあるのと同様である。 ,b 原告は,丙6の1ないし5の字体がほぼ同一で,全くぶれがないことから,一気に,あわてて書き上げたものであると主張する。
しかし,字体がほぼ同一であるのは,同一人の筆跡である以上当然であり,全くぶれがないのは,一気にあわてて書き上げたものではないからである。
( ) 丙7についてエ原告は,?陽社商品のサンプルを指示してから輸出までの期間が約1か月と短く,通常は,このような短い期間で製造を完了し,輸出することはないと主張する。
しかし,原告は,丙7の「様品 (見本品)の意味を誤解したもので 」ある。?陽社は,平成11年5月から?陽社商品の開発を始め,同年10月に第1回の製作をしたのであるから,丙7の作成時には,既に完成品が存在していた。
丙7の「様品 (見本品)は 「量産見本」であり,その図面はまさ 」,に「完成品」であり,?陽社が原告主張のように「一から鞄造りを企画し,サンプルを指示」することはあり得ない。
?陽社は,平成12年1月7日に「量産見本」の製作を指示し,深?社は,現品を確認して,同月10日から,量産見本の製作を開始し,これが合格した後,量産を開始したものである。
( ) 丙9についてオ原告は,本件写真の撮影時期を示す客観的証拠がないと主張するが,?陽社の出展場所の番号と,平成12年春の第87回広州交易会の名簿(甲10)とを対照すれば,本件写真は,同年4月ころに撮影されたものとしか考えられない。本件写真のネガフィルムも存在する。
原告は,?陽社が樹脂素材を使用した鞄を取り扱うことができるのであれば,そのような商品が主な展示商品となるのが自然であると主張するところ,本件写真の商品展示状態を客観的に見れば,?陽社商品は,「前進立体陳列法 (商品が目立つように,手に取りやすいように,店 」舗や陳列台の前面に立体的に陳列する方法)に従い,展示場所の前面通路側の最上段に陳列されており,主な展示商品といえる位置に展示されている。
( ) 丙11についてカa 原告は,?陽社商品が販売された後になって,?陽社商品よりも高額な原告商品が販売されるはずがないから,原告商品に類似する鞄が平成12年ころに中国や香港の市場において販売されていた旨のR陳述書の記載は不合理であると主張する。
?陽社商品が販売された後になって,?陽社商品よりも高額な原告商品が販売されるはずがないことは,原告が主張するとおりであるから,原告が香港所在の業者に対して原告商品を販売しているとの主張は,真実ではない。また,仮に,原告が香港所在の業者に対して原告商品を販売しているとの主張が真実であったとしても,?陽社商品をはじめとする原告商品に類似する鞄が,平成12年ころに中国や香港の市場において販売されていた事実を否定する理由とはならない。
b 原告は,被告アミューズが謝罪したことがR陳述書の記載と矛盾すると主張するが,被告アミューズは,事態を収拾するために謝罪したにすぎないし,原告商品に類似する鞄が平成12年ころに販売されていたことを知っていたのは,被告アミューズではない。
また,被告らが金型の廃棄を約束したのは,被告商品が一過性のものであり,既に需要がないため,以後の生産や販売の予定がなく,また,素材のABS樹脂が環境問題のためポリプロピレンに変わる時期であったからである。
エ 「原告商品は原告が開発したものであること (上記「 原告の主張 」 」( )ウ)について( ) 原告商品がクラウン社が開発した商品に修正を加えたものであるこアと原告商品は,クラウン社が開発した商品に対してわずかな修正を加えたものにすぎない。
クラウン社は,中国では最大手の鞄製造・販売会社であり,単なる製造の下請け工場ではないから,原告商品が,クラウン社が開発した商品に修正を加えたものであれば,クラウン社の知的財産権に対する対価の支払を要するから,原告商品が?陽社商品より高額のものとなることはあり得るところである。
( ) 原告が開発したと原告が主張するスーツケースの特徴についてイ原告が開発したスーツケースの最大の特徴とされる流線型の硬質樹脂製甲羅は 平成9年 スウェーデンのグローバル・アクト社により A ,, ,「BS樹脂製ハードシェル」として考案されたものであり,平成10年に発売されたリュックサック(丙14)に採用され,ほぼ同時期に,ヒップバッグ(丙15)にも採用されていた。
中国においても,平成13年5月30日,同様の甲羅に対して,実用新型権利(丙16)が授権され,その中で,ベルトを固定する鉚釘(リベット)も採用されていた。
また,平成4年から平成13年までの間にクラウン社の企業グループが製造・販売した製品にも,同様の甲羅が採用されており,これらの商品は,原告のスーツケースに極めて近似している。
さらに,クラウン社が販売する多種の「系列」の商品にも,同様の甲羅が採用され 「オリンピック長城系列」のスーツケースは,平成10 ,年当時から販売されていた。そして,ほぼ同時期に発売されたと推定される「チューリッヒ系列」のスーツケースと比較すると,ほとんど同一と見えるほどに酷似している。
よって,原告のスーツケースは,流線型の硬質樹脂製甲羅,二段丸鋲を含めて,クラウン社が開発したものとはいえても,原告が開発したものとはいえない。そうすると,原告商品も,スーツケースから派生したものであるとすれば,原告が開発したものとはいえない。
( ) 開発の期間が極めて短いことウ原告商品の開発は,平成14年1月18日の時点では,企画前か,せいぜい企画当初であったが,同年3月26日の時点では,開発過程をほとんど完了していた。
このように,開発の期間が極めて短いことからすれば,原告商品は,原告が独自に開発したものとは認められない。
( ) 独自開発であるとすれば当然あるべき書類が存在しないことエ上記平成14年1月18日から同年3月26日までの開発期間において,独自開発であるとすれば当然あるべき設計図書や縫製指示書等の具体的な書類は,全く存在しない。
このことからすれば,原告商品は,原告が独自に開発したものとは認められない。
(2) 争点(2 (損害の発生の有無及びその額)について )(原告の主張)ア 平成15年10月(被告商品販売終了時)までの逸失利益 1309万5660円原告は,被告らが被告商品を販売していた平成15年7月時点で,原告商品を1個当たり平均1634円で輸入していた。そして,原告は,原告() , 商品を1個当たり少なくとも3795円 消費税別 で販売しているから原告は,原告商品1個当たり2161円の利益を得ていた。
したがって,被告商品の販売が開始された平成15年5月から同商品の販売が終了した同年10月までの間の原告の逸失利益は,不正競争防止法5条1項により,次の計算式のとおり,1309万5660円となる。
,( ), , 2 161円 原告商品1個当たりの利益の額 ×6 060個=13095,660円() イ 平成15年11月から平成17年5月 原告商品販売開始後3年経過時までの逸失利益 997万7337円原告は,原告商品を通算3796個製造・輸入したが,原告商品の販売を開始した平成14年6月から被告商品が販売される直前の平成15年4月までの間に,合計2676個を販売した。すなわち,原告は,この間,1か月平均243個の原告商品を販売できたことになる。
これに対し,被告商品の販売開始時である平成15年5月以降,原告商,, 品の販売個数は激減し 原告が被告商品の存在に気付いた同年11月以降原告商品の販売個数は全くないに等しい状況となっている。
したがって,平成15年11月から平成17年5月までの間の原告の逸失利益は,次の計算式のとおり,997万7337円となる。
2,161円(原告商品1個当たりの利益の額)×243個(1か月当たりの原告商品の販売個数)×19か月=9,977,337円なお,被告らは,被告商品が流通した後も原告商品の輸入数量が増加していたことを指摘するが,その理由は,当時,原告は,被告商品の存在を,。 知らず 将来においても従前と同様の販売数量を見込んでいたからであるウ 弁護士費用原告は,被告らの不正競争行為のため,本件訴訟の提起を余儀なくされた。そのための弁護士費用は,上記ア及びイの合計額である2307万2997円の1割に相当する230万7300円と見積もられる。
因果関係の不存在の主張について被告らは,原告商品と被告商品とは,販売先及び消費者が全く異なるから,被告商品の販売により原告商品の販売が阻害されることはないと主張する。
しかし,鞄の製造販売業界では,高級感のある商品であればあるほど,廉価な模倣品が流通したことを受けて,その存在価値が失われ,場合によっては製造販売会社のイメージダウンにもつながる。
原告は,被告商品という模倣品が流通したことにより,原告商品の製造販売の中止を余儀なくされたのであり,他に理由はない。
(被告らの主張)ア 平成15年10月(被告商品販売終了時)までの逸失利益について不正競争防止法5条1項は,平成15年法律第46号により新設された規定であり,平成16年1月1日に施行されたものである。そして,遡及効の規定は設けられていない。
したがって,平成15年10月までの逸失利益については,不正競争防止法5条1項は適用されない。
() イ 平成15年11月から平成17年5月 原告商品販売開始後3年経過時までの逸失利益について( ) 原告商品の販売数量は,平成15年11月までに漸次逓減しているア,,, が この種のヒット商品の販売傾向としては 極めて自然な推移であり常識的なものである。
原告商品についても,販売期間の前半(平成15年4月まで)の最盛期に限って算定した1か月当たり243個の平均販売数量が後半まで維持できる可能性はない。
しかも,被告商品が販売された平成15年5月から同年9月までは,むしろ漸増傾向にある。原告が,原告商品を平成15年7月及び同年10月に大量に輸入していることは,被告商品の影響がなかったことを示している。
よって,原告に逸失利益は存在しない。
( ) 原告商品の輸入は,平成15年10月限りで終了し,販売数量は同イ年12月から激減し,平成16年3月限り,販売が中止されたが,これには,被告商品とは無関係の相応の理由があるものと推認できる。
すなわち,一般に,旧商品から新商品に移行する場合には,旧商品の,。 出荷を抑制し 又は中止した後に新商品を出荷するのが常套手段であるそして,原告は,平成16年3月ころ,主として原告商品の前面ポケットの蓋を改良した新商品の発売を開始した。
,, , そうすると 平成15年12月ころ 新商品の企画が開始されたため,, , 旧商品の出荷を抑制 中止し ほぼ3か月の間に新商品を製造・輸入し発売したものと推認することができる。
よって,原告に逸失利益は存在しない。
弁護士費用について上記「 原告の主張 」ウの主張は,争う。 ()エ 因果関係の不存在原告は,主として鞄及び袋物の製造及び販売を業とし,東急ハンズ,東京デリカ,丸井,JTBトラベランド等を得意先としている。
原告商品の利点は,別紙原告商品目録記載3(2)キのファスナー開閉式収納ポケットの内側下部に底がないことから明らかなとおり,ここに把手・車付旅行鞄の把手を差し込み,これと組み合わせて使用できることにある。
このように,原告商品の販売先は,主として把手・車付旅行鞄等の高級感のある鞄の小売店であり,原告商品の小売価格からすれば,原告商品の消費者は,主として高級志向の消費者層である。
これに対し,被告アミューズは,主として娯楽遊戯機の景品の企画及び販売並びに娯楽遊戯施設の運営を業としているため,商品の販売先は,娯楽遊戯関係の景品の取扱業者に限られ,鞄や袋物の小売店は,販売先ではない。
被告商品は,娯楽遊戯機の景品として販売したものであり,別紙被告商品目録記載3(2)キのファスナー開閉式収納ポケットの内側下部に底があるため,原告商品と異なり,把手・車付旅行鞄と組み合わせて使用できるものではなく,娯楽遊戯施設を利用する青少年が,自転車やバイクに乗る際に着用する程度の廉価品である。
したがって,原告商品と被告商品とは,販売先及び消費者が全く異なるのであるから,被告商品がいかに販売されたとしても,原告商品の販売を阻害するものではなく,原告に損害を発生させることはない。
争点に対する当裁判所の判断
1 争点(1 (不正競争防止法2条1項3号該当性)について )被告らは,原告において,自ら費用,労力を投下して,原告商品を開発して市場に置いたとはいえず,原告は,不正競争防止法4条に基づく損害賠償を請求することはできない旨主張するので,まず,この点について検討する。
(1) 不正競争防止法2条1項3号の趣旨不正競争防止法2条1項3号が,他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡する等の行為を不正競争とした趣旨は,次のとおりである。
すなわち,他人が資金・労力を投下して開発・商品化した成果に対して,その模倣が行われた場合には,模倣者が商品化のためのコストやリスクを大幅に軽減することができる一方で,先行者の市場先行のメリットは著しく減少することとなるから,模倣者と先行者との間に,競争上著しい不公正が生じるとともに,個性的な商品開発や市場開拓への意欲が阻害されることになる。そこで,不正競争防止法2条1項3号は,他人が資金・労力を投下して開発・商品化した商品の形態につき,他に選択肢があるにもかかわらずことさらにこれを模倣し,自らの商品として市場に置くことを,競争上不正な行為として位置付け,先行者の開発利益を模倣者から保護することとしたものである。
そうすると,不正競争防止法2条1項3号の不正競争につき,差止め又は損害賠償を請求することができる者は,模倣されたと主張する形態に係る商品を自ら開発・商品化して市場に置いた者に限られるものと解すべきである。
(2) 事実認定(,,,,, 証拠 甲15ないし34 57ないし59 丙1 3ないし10 検甲1検丙1 ,弁論の全趣旨及び上記前提となる事実によれば,次の各事実が認 )められる。
ア ?陽社商品の開発及び販売?陽社は,平成11年5月,?陽社商品の開発を開始し,同年10月,1回目の製作を行った(丙1 。)?陽社は,平成12年1月7日,?陽社商品の見本品要求書(丙7)を作成し,深?社に対し,量産見本の製作を依頼した。深?社は,同月10日,見本品製造要求書(丙8)を作成し,?陽社商品の量産見本の製造を開始した。上記見本品要求書及び上記見本製造要求書は,鞄の細かい部分ごとに,その材質及び色を定め,前面ポケット部分については,各部分ごとの寸法を含む詳細な図面を示したものであった(丙7,8,弁論の全趣旨。)?陽社は,深?社との間で,平成12年2月23日,?陽社商品2万0016個の製造を深?社に委託する旨の契約を締結した。同契約においては,製造委託の単価は32.50元,総額は65万0520元とされ,納期は同年3月25日とされていた(丙4,8 。)?陽社は,米国のドニー社との間で,平成12年2月下旬,?陽社商品2万0016個をドニー社に販売する旨の売買契約を締結した。同契約においては,売買単価は4.35米ドル,売買代金総額は8万7069.60米ドルとされ,船積時期は遅くとも同年3月30日,積出港は上海港,揚港はニューヨークとされていた(丙3 。)深?社は,平成12年2月25日,?陽社商品20016個の製造について,生地,ファスナー等の材料及びその数量を示した「生産任務表」と題する書面,製造工程を順番に示した「工程表」と題する書面,裁断,縫製及び包装の詳細を示した「製品技術表」と題する書面並びに製品の製造「」 , 後の検査方法及び管理方法を示した検査包装表 と題する書面を作成し同月26日,材料,裁断,縫製及び包装に関する品質の基準,誤差の許容範囲並びに注意事項を記載した「品質標準」と題する書面並びに細部の縫製に関する拡大図を作成して,製造を開始した(丙8 。)?陽社は,平成12年3月,?陽社商品の米国への輸出を開始するとともに,中国国内における販売も開始した(丙1,5,6 。)?陽社は,平成12年4月,第87回中国輸出商品交易会に出展し,?陽社商品を展示した(丙9,10 。)イ 原告商品の開発の経緯(甲15ないし34,57ないし59,弁論の全趣旨)原告は,平成11年から,中国では最大手の鞄の製造販売業者であるクラウン社との商品の共同開発を始め,原告及びクラウン社は,同年,スーツケースを共同で開発した。
,, 原告及びクラウン社は 平成14年1月ころから同年6月ころにかけて原告商品を共同で開発した。
ウ ?陽社商品と原告商品との対比(検甲1,検丙1,弁論の全趣旨)?陽社商品の形態は,別紙?陽社商品目録記載のとおりであり,原告商品の形態は,別紙原告商品目録記載のとおりである。
?陽社商品と原告商品とを対比すると,原告商品の基本的形態として原告が主張する別紙原告商品目録記載3(1)の形態において,前面ポケットを閉蓋する上部布が,?陽社商品はメッシュ布であるのに対し,原告商品はテント状布である点で異なる以外は,全く同一である。そして,原告商品の細部形態として原告が主張する別紙原告商品目録記載3(2)の形態において,次の点を除き,同一である。
( ) 別紙原告商品目録記載3(2)アの形態において,前面ポケットにア並設される縦方向凸条が,?陽社商品は,ポケット前面下方から上方付近まで2本並設されているのに対し,原告商品は,ポケット前面下方から中央付近まで5本並設されている点( ) 別紙原告商品目録記載3(2)イ及びエの形態において,前面ポケイットの上部布が,?陽社商品はメッシュ布であるのに対し,原告商品はテント状布である点(上記基本的形態の相違点と同一である )。
( ) 別紙原告商品目録記載3(2)ウの形態において,前面ポケットのウ二段丸鋲が,?陽社商品は各前面ポケットの正面中央付近,両側上方付近及び両側下方付近の5箇所に設けられているのに対し,原告商品は各前面ポケットの正面中央付近,外側上方付近及び外側下方付近の3箇所に設けられている点( ) ウエスト固定ベルトの雌雄型連結具(バックル)が,?陽社商品はエ略長方形の両長側部を内側に押すことによって脱着することができる形状の雌雄型連結具であるのに対し,原告商品は雌体及び雄体がいずれも略三角形であり,雄体の該三角形の中央円形部を下方に押すことによって脱着することができる形状の雌雄型連結具である点( ) 原告商品のウエスト固定ベルトには,三角布とDカンとの間にベルオトを固定するピンが左右各1個あるのに対し,?陽社商品にはない点( ) ?陽社商品の本体背面のファスナー開口式の収納ポケットの内側下カ部には底があるのに対し,原告商品には底がない点( ) 肩掛けベルトと本体の両側部とが,?陽社商品はDカン及びナスカキンで接続されているのに対し,原告商品は雌雄型連結具で接続されている点( ) ファスナー用スライダー引手部分が,?陽社商品は黒色で,固くてク,, 薄く ファスナーから最も遠い部分の中央には穴が開いているのに対し原告商品は黒色の柔らかい樹脂製で,やや厚みがあり,ファスナーから最も遠い部分は穴が開いておらず 「BM」という文字が形取られてい ,る点( ) 原告商品には,本体の片側の側辺に,カラビナを介して携帯電話ホケルダーが連結されているのに対し,?陽社商品には携帯電話ホルダーがない点(3) 事実認定に関する原告の主張について原告は,上記認定に反し,被告ティーアイジーが?陽社商品が販売されていたことを示す書証として提出した?陽社作成の回答書(丙1 ,販売確認)書(丙3 ,証明書(丙5 ,領収証控え(丙6の1ないし5 ,見本品要求 )) )書(丙7 ,本件写真(丙9)及びR陳述書(丙11)は,いずれも信用性 )がなく,?陽社商品は原告商品の販売開始後に開発された原告の模倣品である等と主張し,Q作成の陳述書(甲57 ,同人作成の写真撮影報告書(甲 )47)及びクラウン社作成の報告書(甲58,59)にもこれに沿う記載があるので,以下検討する。
ア ?陽社作成の回答書(丙1 ,販売確認書(丙3)及び証明書(丙5) )に署名がないとの指摘について原告は,?陽社作成の回答書(丙1 ,販売確認書(丙3)及び証明書 )(丙5)には会社の記名しかなく,代表者や担当者の署名がないことを指摘し,中国においても,記名の上に押印者の自署がされるのが常識であると主張するが,そのような常識が存する旨を認めるに足りる証拠は何ら提出されていないし,同様に会社の記名のみが表示されている他の証拠(丙4,6ないし10)に照らしても,当該書面に当該代表者等の署名がないことをもって,丙1,3及び5の信用性がないということはできない。
また,原告は,署名がない販売確認書(丙3)の体裁では輸出に必要な手続を行うことはできないと主張するが,その事実を認めるに足りる証拠もない。
イ 販売確認書(丙3)について( ) 原告は,販売確認書(丙3)の「買主」欄に記載された会社名と下ア部署名欄に記載された会社名が異なると指摘する。
販売確認書は 販売確認 と題する書面であり 買主 欄には ド ,「」 ,「」 ,「DONY INTERNATIONAL GROUPニー国際貿易集団公司 (原文は「」」),「」 ,「」 ,U.S.A.との記載があり 買主 欄の次の行には 住所 欄として「74-16 グランド通りエルムハーストNY市〒11373NY州合衆国」との記載があり,その次の行には 「TEL」欄及び「FA ,X」欄として,米国の電話番号及びFAX番号が記載されている。そして,下部買主署名欄には,横長の長方形の枠で囲まれた捺印がされ,枠内の上段には「東尼国際貿易集団公司」との記載があり,下段には「東DONY INTERNATIONAL CORP.尼国際貿易集団公司」の英訳として「」との記載がある。SHANGHAI OFFICEそうすると,販売確認書の下部買主署名欄の捺印は,ドニー社の上海事務所の印章によるものであり,上段の記載は,ドニー社の中国における名称を記載したものであって,下段の記載は,ドニー社の上海事務所である旨を注記したものにすぎないと理解することができるから 「買,主」欄の記載と,下部買主署名欄の捺印に英訳として付記されたドニー社の上海事務所である旨の注記とが 「 」の部分と「 」の ,GROUP CORP.部分とで相違するとしても,その程度の相違をもって,販売確認書全体の信用性が左右されるものでないことは明らかである。
( ) 原告は,販売確認書には販売商品の積出港が上海港である旨の記載イがあるが,?陽社は広東省深?市所在の深?社から?陽社商品を購入したものであるから,香港の港から輸出されるのが自然であり,遠く離れた上海から輸出する必然性はないと主張する。
しかし,?陽社商品を深?社から購入して米国に輸出する?陽社は,中国の江蘇省に所在するのであり(丙1 ,上海市は江蘇省の南東部に )隣接すると認められる(甲48)から,?陽社が上海港から輸出することが不合理とはいえず,原告の上記主張は,採用することができない。
( ) 原告は,8万7069米ドル程度の金額の輸出の決済に米国の銀行ウでL/C(信用状)が使用されることはあり得ないと主張するが,その事実を認めるに足りる証拠は何ら提出されていない。また,証拠(甲14の2ないし5・7ないし11・13・14)によれば,原告が,中国から我が国に輸入した原告商品の取引において 2万6846米ドル 甲 ,(14の2 ,4万8072米ドル(甲14の3 ,2万9537米ドル ))(甲14の4 ,2万4525米ドル(甲14の5 ,2万7701米 ))ドル(甲14の7 ,2万6550米ドル(甲14の8 ,11万69 )).( ),(), 08 55米ドル 甲14の9 2万1395米ドル 甲14の104万6622.70米ドル(甲14の11 ,9万6971米ドル(甲 )14の13)及び7万5801.05米ドル(甲14の14)の各金額の決済に,米国の銀行の信用状ではないものの,我が国の銀行の信用状を用いているのであるから,米国へ輸出する際の8万7069米ドルの金額の決済に米国の銀行の信用状を使用することはあり得ないとの原告の上記主張は,合理的根拠を欠くものである(なお,上記各証拠によれば,甲14の2ないし5のインボイス,甲14の7ないし10のインボイス,甲14の11・13のインボイスに係る各輸入の決済には,それぞれ同一の信用状が使用されたことが認められ,甲14の2ないし5のインボイスに係る金額は合計12万8980米ドル,甲14の7ないし10のインボイスに係る金額は合計19万2554.55米ドル,甲14の11・13のインボイスに係る金額は合計14万3593.70米ドルであり,これらはいずれも8万7069米ドルを上回る。しかし,同様に,丙3の取引と同一の信用状が使用される取引が丙3の取引以外に存在した可能性は否定できないから,8万7069米ドルの取引のみのために信用状を使用したと認めるに足りる証拠もない 。。)したがって,販売確認書の取引金額が8万7069米ドルであり,その決済に信用状が使用されたことをもって,販売確認書の信用性がないということはできない。
ウ 領収証控え(丙6の1ないし5)について原告は,領収証控え(丙6の1ないし5)の「客戸名称」欄が空欄となっていることを指摘して,上記領収証控えのような文書は,?陽社内部でいつでも何通でも発行できると主張し,また,これらの文書は,作成日付は違うのに,字体がほぼ同一で,全くぶれがないから,一気にあわてて書き上げたものであると主張する。
しかし,これらの領収証は,それぞれ1個を販売した際のものであると理解できる記載内容であり,小売り販売に係るものと解されるところ,そのような販売形態の場合に,領収証の宛名欄が空欄であることが,中国における商取引において不合理であると断定する根拠は見出すことができな。, , , い また 上記領収証控えの字体がほぼ同一で 全くぶれがないとしてもそのことのみをもって,一気にあわてて書き上げたと推認することは困難であるし,各領収証控えの通し番号が,作成日付の相違に対応して,20「」,「 」 , 00年3月28日が 298230同月30日が 298235同年4月2日が「298241」及び「298243 ,同月3日が」「298248」と連続せずに推移していることも考慮すれば,上記領収証控えがすべて信用性を欠くということはできない。
エ 見本品要求書(丙7)について原告は,見本品要求書(丙7)の作成日付が平成12年1月7日であること及び製品売買契約書(丙4)の作成日付が同年2月23日であることを指摘し,?陽社商品の企画から輸出までの期間が約1か月という短期間であって不合理であると主張する。
しかし,見本品要求書(丙7)は,鞄の細かい部分ごとに,その材質,規格及び色を定め,前面ポケット部分については,各部分ごとの寸法を含む詳細な図面を示したものであるから,?陽社商品の企画の詳細がほぼ確定した段階において,量産のための見本品を要求したものであると推認することができる。
したがって,?陽社商品の企画から輸出までの期間が約1か月であると,,,() の原告の上記主張は その前提において誤りがあり かえって 上記 2ア認定のとおり,?陽社商品の当初の開発は,平成11年5月に開始されたものと認めるのが相当である。
オ 本件写真(丙9)について( ) 原告は,本件写真が平成12年4月に撮影されたことを示す客観的ア証拠はないと主張する。
しかし,?陽社は,本件写真が平成12年4月に行われた第87回広州交易会の展示会の写真であると述べており(丙9 ,本件写真には,)「6.3G15」の番号及び?陽社の社名が表示された展示区画の表示が写っている。そして,平成12年春開催の中国輸出商品交易会会報・名簿編(丙10)には,?陽社の展示区画の番号が「6.3G15」であることが記載されており,第87回広州交易会と平成12年春開催の中国輸出商品交易会とは同一である(丙11,弁論の全趣旨)ことからすれば,本件写真は,平成12年4月に撮影されたものと認められる。
( ) 原告は,樹脂素材を使用した鞄の作成は,ナイロン素地による鞄のイ作成に比して,技術的に高度であるから,樹脂素材を使用した鞄を取り扱うことができるのであれば,そのような商品が主な展示商品となるはずであり,展示品の中で,?陽社商品が唯一の樹脂素材を使用した鞄である様子が写された本件写真は不自然であると主張する。
しかし,樹脂素材を使用した鞄が主な展示商品となるはずであるとする原告の上記主張は,合理的な根拠が示されない憶測である上,本件写真に写された商品のみを前提とすれば,?陽社の展示において,樹脂素材を使用した鞄の商品数よりも,その他の商品の商品数が圧倒的に多いから,品揃えの少ない樹脂素材を使用した鞄が,主な展示商品となるとは必ずしも認めることができない。しかも,原告の主張によれば技術的に高度であるという樹脂素材を使用した?陽社商品は,通路に面した壁面の最上部という比較的人目をひく位置に展示されている。
また,原告は,本件写真によれば,?陽社が,樹脂素材を使用した製品を主として扱える会社でないことは明らかであるから,同社が見本品要求書(丙7)のような指示書を出せるはずがないと主張する。
しかし,本件写真のみから,?陽社が樹脂素材を使用した製品を主として扱える会社ではないと断定することはできず,仮にそうであるとしても,樹脂素材を使用した製品を主として扱える会社であるか否かと,樹脂製品の製作や製作のための指示書作成の可能性とは,別個の問題であり,樹脂素材を使用した製品を主として扱っていない場合には見本品要求書のような指示書を作成できないとする合理的な根拠もない。
( ) 原告は,広州交易会が中国最大の総合輸出商品商談会であるにもかウかわらず,本件写真に写された場景は,設備が整っておらず,不自然に粗末な箇所があり,捏造の疑いが強いと主張する。
しかし,本件写真に写された場景の設備は,中国最大の総合輸出商品商談会の一展示区画として,特段不自然であるとは認められないし,平成17年10月に開催された第98回広州交易会の会場を写した写真(丙21)と比較しても不自然な点は認めることができない。
,, , なお 原告は 平成17年4月に開催された広州交易会の写真として甲50の1ないし5を提出し,本件写真における交易会の様子との差異を強調して,本件写真の不自然さを指摘するところ,撮影の場所及び対象等が大きく異なるこれらの写真から原告主張のように交易会の様子の差異が明確に判断できるものか否かはおくとしても,展示会において,,, 広い展示区画を確保し 大規模で派手な設備を使用する出展者もあれば狭い展示区画で,簡易な設備を使用する出展者もあることは,容易に推察できるところであり,甲50の1ないし5の写真と本件写真とにおける交易会の様子に差異があることをもって,本件写真が不自然で捏造であるとは到底認められない。
カ R陳述書(丙11)について( ) 原告は,香港所在の業者に対して原告商品を販売しており,原告商ア品と?陽社商品とでは価格に大きな差があり,原告商品の方が3倍近い高額であるから,?陽社商品が販売された後になって,原告商品が販売されるはずがないと主張する。
しかし,原告が,?陽社商品が販売された後に,原告商品を香港所在の業者に販売していたことを認めるに足りる証拠はない。また,原告商品が?陽社商品の3倍近い高額であるとすれば,?陽社商品が販売された後に,同一の市場で原告商品を多数販売することは,一般的には困難,, な面があることは否定し難いが その品質や付加価値の程度によっては原告商品が販売されることがあり得ないとはいえないから,原告の上記主張には理由がない。
( ) 原告は,Rが,平成12年当時,原告商品に類似する鞄が中国や香イ港の市場において販売されていたことを知っていた旨のR陳述書(丙11)の記載が,被告らが原告の要求に応じて金型を廃棄するとともに謝罪したことと矛盾すると主張する。
しかし,証拠(甲2の1・2,3)によれば,被告アミューズが原告からの警告書を受領した平成15年12月10日現在,被告商品の在庫はなく,以後の生産の予定もなかったことが認められるから,Rが,平成12年当時,原告商品に類似する鞄が中国や香港の市場において販売されていたことを知っていたとしても,被告らが謝罪及び金型の廃棄によって紛争の早期解決を図ろうとすることは十分考えられるところである。
原告は,被告商品の販売による利益が上がっていない段階において,生産及び販売の予定が終了していたとは考えられないと主張する。
しかし,被告アミューズは,原告からの平成15年12月8日付けの警告書(甲2の1)を同月10日に受領し(甲2の2 ,同日付けの甲)3回答書に「2003年5月に開発し12月10日現在,在庫はございません。またこの商品はスポット商品のため現在開発予定はありません 」との記載をしているのであり,被告アミューズが,この時点で, 。
被告商品の以後の生産及び販売の予定について,甲3回答書に虚偽の記載をしたと考えるべき合理的な理由はない。
したがって,R陳述書の上記記載が,原告の要求に対する被告らの対応と矛盾するとはいえない。
( ) 原告は,Rが,平成12年当時,原告商品に類似する鞄が中国や香ウ港の市場において販売されていたことを知っていた旨のR陳述書(丙11)の記載が,被告商品の企画に当たって,原告商品に酷似しているかどうかの判断をしなかった旨の被告アミューズの原告に対する甲3回答書の記載と矛盾すると主張する。
しかし,被告アミューズが,甲3回答書を作成した平成15年12月10日当時に,R陳述書に記載された,平成12年当時に原告商品に類似する鞄が中国や香港の市場において販売されていた事実を知っていたと認めるに足りる証拠はないから,R陳述書の記載内容を被告アミューズが知っていたことを前提とする原告の上記主張は,その前提において誤りがある。
キ ?陽社商品が販売されていたことを示す客観的書類が存在しないとの主張について原告は,?陽社が?陽社商品を米国に輸出した際の客観的書類であって第三者が作成の過程に関与したものが証拠として提出されていないことを指摘し,その提出に特別困難な事情はないから,?陽社商品が平成12年当時に販売されていたとの事実はないと主張する。
しかし,?陽社は,本件訴訟の当事者ではない中国所在の会社であり,?陽社と被告らとを同一視すべき特段の事情を認めるに足りる証拠はな, , く 被告らとの間に取引関係があることを認めるに足りる証拠もないから?陽社作成の書証が客観的書類でないと断言する根拠はなく,また,原告が指摘する書類を被告らが?陽社から取得することが容易であるとも,証拠上認められない。
ク 写真等の偽造が容易であるとの主張について原告は,被告ティーアイジーが提出した写真(丙2,9,12の1,13の1)及びネガの写し(丙12の2,13の2)について,その偽造が極めて容易であると主張するが,これらが偽造されたものであると認めるに足りる証拠はなく,原告の上記主張は,一般的な憶測を述べたものにすぎない。
ケ ?陽社商品は原告商品の販売開始後に開発されたものであるとの主張について原告は,?陽社商品には原告商品を改良したとしか考えられない点が複数みられるから,?陽社商品は原告商品の販売開始後に開発されたものであると主張する。
しかし,原告商品及び?陽社商品自体からその販売開始時期の先後を判別できることを認めるに足りる証拠はなく,上記 ア認定のとおり,? (2)陽社商品は,原告商品の販売開始前に中国等の市場において販売されていたのであるから,?陽社商品が原告商品を改良したものであるとは認められない。
コ 上記アないしケのとおりであるから,?陽社商品が原告商品の販売前に販売されていたことを示す書証として提出された丙1,3,5,6の1ないし5,7,9及び11の信用性に疑問を呈し,?陽社商品は原告商品の販売開始後に開発された原告の模倣品であるとする等の原告の上記主張並びにこれと同旨のQ作成の陳述書(甲57 ,同人作成の写真撮影報告書 )(甲47)及びクラウン社作成の報告書(甲58,59)の記載は,いずれも採用することができない。
?判断上記 ア認定の各事実によれば,?陽社商品は,平成12年3月ころか (2)ら,中国及び米国の市場において販売されていたと認めるのが相当である。
そして,上記 ウ認定の各事実によれば,?陽社商品の形態と原告商品の (2)形態とは,その細部において若干の相違点は認められるものの,基本的形態及び細部形態の重要な点において実質的に同一であるということができる(原告も,?陽社商品は原告商品のデッドコピーであると主張しており,?陽社商品の形態と原告商品の形態が同一又は実質的に同一であることを認めている 。加えて,クラウン社は広東省中山市に所在するのであり(甲6 。)0,61 ,深?社が所在する深?市も広東省内であって,両市とも香港か )ら近い距離に位置する(甲48,弁論の全趣旨)のであるから,中国で最大手の鞄の製造販売業者であるクラウン社(弁論の全趣旨)は,深?社の製造する?陽社商品の存在を当然認識していたものと推認することができる。
そうすると,クラウン社は,原告商品の基本的形態及び細部形態の重要な点を独自に開発・商品化したものということはできないから,原告商品をクラウン社と共同して開発した原告(争いがない )も,同様に原告商品を自 。
ら開発・商品化したものということはできない。
したがって,原告は,不正競争防止法2条1項3号の不正競争に当たるとして,損害賠償を請求することができない。
? 原告は,原告商品の開発過程において甲15ないし35の書面が作成されていることを根拠として,原告商品は原告が自ら開発・商品化したものであると主張する。
これらの書面によれば,原告において,原告商品の完成までに,クラウン社との間で交渉及び調整を行い,全体の構成から細部の仕様までの確定をしていく作業が行われたことが認められるが,前記の事情にかんがみれば,これらの書面によっても,前記認定を覆すには足りないというべきである。
すなわち,甲15ないし35の書面の中には,原告商品のファスナー用スライダー引手の形状(甲18ないし20 ,ウエスト固定ベルトの形状(甲 )23,25 ,別紙原告商品目録3(2)エのシャーリング紐及び携帯電話 )(,),(, ホルダーの前面ネットの色 甲24 32 原告商品の本体の色 甲2527 ,商品タグ(甲25,29,30 ,原告商品の本体と携帯電話ホル ))ダーとを連結するカラビナ(甲29)といった原告商品の細部の形態について,決定し,検討の材料を示し,又は修正を依頼するといったものも含まれている。そして,ファスナー用スライダー引手の形状,シャーリング紐及び携帯電話ホルダーの前面ネットの色,原告商品の本体の色,商品タグ並びにカラビナは,原告が模倣されたと主張する原告商品の基本的形態及び細部形態に含まれないものであるし,ウエスト固定ベルト及びベルトを固定するピンの形状も,その細部は,原告が模倣されたと主張する原告商品の形態に含まれないものであるから,上記各書面は,原告商品の細部形態の一部を原告が開発したことを示すとしても,原告が模倣されたと主張する形態について原告が開発したことを示すものということはできない。
また,甲15及び16は原告商品全体の形態を,甲17は前面ポケットの形態を,それぞれ図案化したものであると認められるところ,これらの書面によっても,書面に記載された形態を開発するに至るまでの具体的経緯が明らかになるものではなく,前記認定事実に照らせば,原告が原告商品をすべて独自に開発したとまでの評価を導き出すことは困難である。
その余の書面の多くは,見本品を依頼する旨の書面(甲26,33)や,品質管理の改善を要求する旨の書面(甲21)など,開発が終了し,量産体制に入った段階の書面であって,原告がクラウン社と共同で原告商品を独自に開発・商品化したことを基礎付けるものではなく,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
したがって,甲15ないし35の書面は,原告が原告商品の基本的形態及び細部形態の重要な点を自ら開発・商品化したことの根拠となるものではなく,上記?の認定を左右するものではないから,原告の上記主張は採用することができない。
2 上記1のとおりであるから,その余の点について判断するまでもなく,原告,。 の不正競争防止法2条1項3号及び4条に基づく請求は いずれも理由がない
結論
以上によれば,原告の請求は,その余の点を判断するまでもなく,いずれも理由がないからこれらを棄却することとし,主文のとおり判決する。
追加
清水節裁判長裁判官山田真紀裁判官裁判官東崎賢治は,転補のため,署名押印することができない。
清水節裁判長裁判官原告商品目録1物品名ショルダー・ヒップバッグ兼用鞄2品番BM-083構成原告商品は,別添の写真に示す形態からなるもので,肩に掛けるショルダー式又は腰に巻き付けるヒップバッグ式のいずれかを選択して携帯できる鞄であり,次の(1)の基本的形態及び(2)の細部形態の構成からなる。
(1)基本的形態原告商品は,次の@ないしCからなる基本的形態を有している。
@上部ファスナー開口を有した横長薄型の合成繊維(ナイロン)製本体と,A本体前面を覆うように2つ並設され,それぞれが上部テント状布で閉蓋された縦長スコップ形状からなる硬質製前面ポケットと,B本体背面の両側辺にそれぞれ固定された三角布同士を亘るウエスト固定ベルトと,C本体の両側部上方に着脱自在に設けられた一本の肩掛けベルト(2)細部形態原告商品は,次のような細部形態を有している。
ア各前面ポケットは,ポケット前面下方から中央付近までに亘る縦方向凸条が5本並設される。
イ各前面ポケットの上部テント状布は,前面ポケットの正面中央において,テント状布の下端を絞るシャーリング紐の調節用割れ口を有する。
ウ各前面ポケットの正面中央付近,外側上方付近及び外側下方付近の3箇所に,二段丸鋲が浮くように設けられている。
エ各前面ポケットの中央付近の二段丸鋲には,閉蓋状態にした上部テント状布のシャーリング紐を引っかけることができる。
オ各前面ポケットの一方外側上方及び下方付近の二段丸鋲は,三角布の表面先端付近を一端として伸びる二股ベルトの他端をそれぞれ挟着してなる。
カウエスト固定ベルトの三角布は,装着時に体に接する裏面がメッシュ布で覆われる。
キ本体背面には,背面全体を覆うファスナー開口式の収納ポケットが,その上下辺のみで固定されている。その左右側辺は,本体に固定されない開放部分となっており,ウエスト固定ベルトの左右の三角布をそれぞれ収納することができる。
ク本体上部ファスナー開口は,左右両方向に開口する一対のファスナー操作箆を有している。
ケ本体内部の背面側には,内側面の約3分の2を覆う大きさのメッシュポケットを,中央上部をホック紐で止めることができるようにして1つ設けている。
コ本体内部の正面側には,内側面の約3分の2を覆うメッシュポケットを2つ併設してある。
4写真の簡単な説明正面図,背面図,平面図,底面図及び右側面図を示す。各図面の上部に図面名を表示する。平面図においては,本体上部ファスナーを開蓋した状態を示す。また,平面図,底面図及び右側面図においては,ウエスト固定ベルトを,本体背面と上部開口ポケットとの間に収納した状態を示す。
被告商品目録1物品名ショルダー・ヒップバッグ兼用鞄2商品名ミリタリーメタリックショルダー3構成被告商品は,別添の写真に示す形態からなるもので,肩に掛けるショルダー式又は腰に巻き付けるヒップバッグ式のいずれかを選択して携帯できる鞄であり,次の(1)の基本的形態及び(2)の細部形態の構成からなる。
(1)基本的形態被告商品は,次の@ないしCからなる基本的形態を有している。
@上部ファスナー開口を有した横長薄型の合成繊維(ポリエステル)製本体と,A本体前面を覆うように2つ並設され,それぞれが上部テント状布で閉蓋された縦長スコップ形状からなる硬質製前面ポケットと,B本体背面の両側辺にそれぞれ固定された三角布同士を亘るウエスト固定ベルトと,C本体の両側部上方に着脱自在に設けられた一本の肩掛けベルト(2)細部形態原告商品は,次のような細部形態を有している。
ア各前面ポケットは,ポケット前面下方から上方付近までに亘る縦方向凸条が4本並設される。
イ各前面ポケットの上部テント状布は,前面ポケットの正面中央において,テント状布の下端を絞るシャーリング紐の調節用割れ口を有する。
ウ各前面ポケットの正面中央付近,外側上方付近及び外側下方付近の3箇所に,二段丸鋲が浮くように設けられている。
エ各前面ポケットの中央付近の二段丸鋲には,閉蓋状態にした上部テント状布のシャーリング紐を引っかけることができる。
オ各前面ポケットの一方外側上方及び下方付近の二段丸鋲は,三角布の表面先端付近を一端として伸びる二股ベルトの他端をそれぞれ挟着してなる。
カウエスト固定ベルトの三角布は,装着時に体に接する裏面がメッシュ布で覆われる。
キ本体背面には,背面全体を覆うファスナー開口式の収納ポケットが,その上下辺で固定されている。その左右側辺は,本体に固定されない開放部分となっており,ウエスト固定ベルトの左右の三角布をそれぞれ収納することができる。
ク本体上部ファスナー開口は,左右両方向に開口する一対のファスナー操作箆を有している。
ケ本体内部の背面側には,内側面の約3分の2を覆う大きさのメッシュポケットを,中央上部をホック紐で止めることができるようにして1つ設けている。
コ本体内部の正面側には,内側面の約3分の2を覆うメッシュポケットを2つ併設してある。
4写真の簡単な説明正面図,背面図,平面図,底面図及び右側面図を示す。各図面の上部に図面名を表示する。平面図においては,本体上部ファスナーを開蓋した状態を示す。また,平面図,底面図及び右側面図においては,ウエスト固定ベルトを,本体背面と上部開口ポケットとの間に収納した状態を示す。
?陽社商品目録1物品名ショルダー・ヒップバッグ兼用鞄(2000型両用包)「」2構成?陽社商品は,別添の写真に示す形態からなるもので,肩に掛けるショルダー式又は腰に巻き付けるヒップバッグ式のいずれかを選択して携帯できる鞄であり,次の(1)の基本的形態及び(2)の細部形態の構成からなる。
(1)基本的形態?陽社商品は,次の@ないしCからなる基本的形態を有している。
@上部ファスナー開口を有した横長薄型の合成繊維(ナイロン)製本体と,A本体前面を覆うように2つ並設され,それぞれが上部メッシュ布で閉蓋された縦長スコップ形状からなる硬質製前面ポケットと,B本体背面の両側辺にそれぞれ固定された三角布同士を亘るウエスト固定ベルトと,C本体の両側部上方に着脱自在に設けられた一本の肩掛けベルト(2)細部形態?陽社商品は,次のような細部形態を有している。
ア各前面ポケットは,ポケット前面下方から上方付近までに亘る縦方向凸条が2本並設される。
イ各前面ポケットの上部メッシュ布は,前面ポケットの正面中央において,メッシュ布の下端を絞るシャーリング紐の調節用割れ口を有する。
ウ各前面ポケットの正面中央付近,両側上方付近及び両側下方付近の5箇所に,二段丸鋲が浮くように設けられている。
エ各前面ポケットの中央付近の二段丸鋲には,閉蓋状態にした上部メッシュ布のシャーリング紐を引っかけることができる。
オ各前面ポケットの一方外側上方及び下方付近の二段丸鋲は,三角布の表面先端付近を一端として伸びる二股ベルトの他端をそれぞれ挟着してなる。
カウエスト固定ベルトの三角布は,装着時に体に接する裏面がメッシュ布で覆われる。
キ本体背面には,背面全体を覆うファスナー開口式の収納ポケットが,その上下辺のみで固定されている。その左右側辺は,本体に固定されない開放部分となっており,ウエスト固定ベルトの左右の三角布をそれぞれ収納することができる。
ク本体上部ファスナー開口は,左右両方向に開口する一対のファスナー操作箆を有している。
ケ本体内部の背面側には,内側面の約3分の2を覆う大きさのメッシュポケットを,中央上部をホック紐で止めることができるようにして1つ設けている。
コ本体内部の正面側には,内側面の約3分の2を覆うメッシュポケットを2つ併設してある。
3写真の簡単な説明正面図,背面図,平面図,底面図及び右側面図を示す。各図面の上部に図面名を表示する。平面図においては,本体上部ファスナーを開蓋した状態を示す。また,平面図,底面図及び右側面図においては,ウエスト固定ベルトを,本体背面と上部開口ポケットとの間に収納した状態を示す。